(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】建物の建築価格を予測する予測システムおよびその建設工期を予測する予測システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/08 20120101AFI20221102BHJP
G06N 3/08 20060101ALI20221102BHJP
G06N 3/04 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
G06Q50/08
G06N3/08
G06N3/04
(21)【出願番号】P 2018070411
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】曹 ▲ビョウ▼
(72)【発明者】
【氏名】吉田 文久
(72)【発明者】
【氏名】薮田 智裕
【審査官】谷川 智秀
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-261012(JP,A)
【文献】特開2004-030088(JP,A)
【文献】特開平05-165842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G06N 3/08
G06N 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設予定の建物の建築価格を予測する
予測システムであって、
前記予測システムは、過去に建設された複数の建物ごとに
、前記
建物の建設地域と、地域ごとの物価に依存した地域物価係数と、前記各建物が建設された建設年と、年ごとの物価に依存した年物価係数と、前記各建物の建設階数と、前記各建物の敷地面積と、前記各建物の地盤条件に応じた地盤パラメータと、前記各建物の用途に応じた用途パラメータと、前記各建物の建築価格と、を少なくとも含む
入力データ
が記憶された記憶装置と、
前記記憶装置に記憶された入力データを用いて、前記建築価格を予測する演算装置と、を備え、
前記
演算装置は、過去に建設された前記各建物の建設地域に対応した前記地域物価係数と、
過去に建設された前記各建物の建設年に対応した前記年物価係数と
を、
過去に建設された前記各建物の建築価格
に対して乗算することにより、過去に建設された前記各建物の建築価格を前記建設地域および前記建設された年の物価に依存しない標準建築価格に補正する第1補正
部と、
過去に建設された前記各建物に関
する、前記建設階数と、前記敷地面積と、前記地盤パラメータと、前記用途パラメータと、
を入力値とし、標準建築予測価格を出力値としたニューラルネットワークによる機械学習を行い、過去に建設された前記建物ごとに
前記出力値として出力された前記標準建築予測価格の値が、
過去に建設された前記各建物の前記標準建築価格の値に
対して所定の範囲に収束する
まで、
前記機械学習により、前記標準建築予測価格の算出
をニューラルネットワークで学習する学習
部と、
前記学習
部により学習した前記ニューラルネットワークに対して、
前記建設予定の建物の建設階数と、前記建設予定の建物の敷地面積と、前記建設予定の建物の地盤条件に応じた地盤パラメータと、前記建設予定の建物の用途に応じた用途パラメータと、を入力
値とし、
前記建設予定の建物の標準建築予測価格を算出する算出
部と、
前記建設予定の建物の前記建設地域に対応した前記地域物価係数
の逆数と、前記建設予定の前記建物の建設年に対応した前記年物価係数と
の逆数とを、前記算出
部で算出した前記建設予定の建物の標準建築予測価格
に乗算することにより、
当該標準建築予測価格を、前記建設予定の建物の前記建設地域および前記建設年の物価に依存した建築予測価格に補正する第2補正
部と、
を含
み、
前記演算装置は、前記第2補正部により補正した前記建築予測価格を、前記建設予定の建物の前記建築価格とすることを特徴とする建物の建築価格を予測する
予測システム。
【請求項2】
前記ニューラルネットワークは、
前記建設階数と、前記敷地面積と、前記地盤パラメータと、前記用途パラメータとが、それぞれ入力される少なくとも4つの入力層ニューロン素子を含む入力層と、
前記標準建築予測価格を出力する出力層ニューロン素子を含む出力層と、
前記少なくとも4つの入力層ニューロン素子と前記
出力層ニューロン素子との間に設けられ、複数の中間層ニューロン素子を含む複数の中間層とを有し、
前記各中間層の中間層ニューロン素子により算出したニューロンパラメータは、重み付け係数を乗算して、次の中間層の中間層ニューロン素子または前記出力層ニューロン素子に入力
される学習モデルであり、
前記学習
部は、
前記各建物の前記建設階数と、前記敷地面積と、前記地盤パラメータと、前記用途パラメータと、前記標準建築価格と、を教師データとして、前記標準建築予測価格の値が、前記各建物の前記標準建築価格の値に対して所定の範囲に収束するまで、前記重み付け係数を繰り返し補正することにより、前記機械学習による学習を行い、
前記算出
部は、前記機械学習後に前記重み付け係数が補正された前記ニューラルネットワークに、前記建設予定の建物の建設階数と、前記建設予定の建物の敷地面積と、前記建設予定の建物の地盤パラメータと、前記建設予定の建物の用途パラメータとを入力し、前記標準建築予測価格を算出することを特徴とする請求項1に記載の建物の建築価格を予測する予測
システム。
【請求項3】
前記入力データは、前記過去に建設された建物ごとに関して、前記各建物の建設工期をさらに入力
されたデータを含み、
前記学習
部は、過去に建設された前記各建物に関して、前記建設階数と、前記敷地面積と、前記地盤パラメータと、前記用途パラメータと、
を入力値とし、建設予測工期をさらに出力値としたニューラルネットワークによる機械学習を行い、前記建物ごとに前記出力値として出力された建設予測工期の値が、前記各建物の前記建設工期の値に
対して所定の範囲に収束する
まで、さらに学習し、
前記算出
部は、
前記建設予定の建物の建設階数と、前記建設予定の建物の敷地面積と、前記建設予定の建物の地盤パラメータと、前記建設予定の建物の用途パラメータと、
を入力値とし、前記建設予定の建物の建設予測工期をさらに算出することを特徴とする請求項1に記載の建物の建築価格を予測する予測
システム。
【請求項4】
前記ニューラルネットワークは、
前記建設階数と、前記敷地面積と、前記地盤パラメータと、前記用途パラメータとが、それぞれ入力される少なくとも4つの入力層ニューロン素子を含む入力層と、
前記標準建築予測価格と前記建設予測工期を出力する2つの出力層ニューロン素子を含む出力層と、
前記少なくとも4つの入力層ニューロン素子と前記2つの出力層ニューロン素子との間に設けられ、複数の中間層ニューロン素子を含む複数の中間層とを有し、
前記各中間層の中間層ニューロン素子により算出したニューロンパラメータは、重み付け係数を乗算して、次の中間層の中間層ニューロン素子または前記出力層ニューロン素子に入力される
学習モデルであり、
前記学習
部は、
過去に建設された前記各建物の前記建設階数と、前記敷地面積と、前記地盤パラメータと、前記用途パラメータと、前記建設工期と、を教師データとして、前記標準建築予測価格と前記建設予測工期との値が、前記各建物の前記標準建築価格と前記建設工期との値に対して所定の範囲に収束するまで、前記重み付け係数を繰り返し補正することにより、前記機械学習による学習を行い、
前記算出
部は、前記機械学習後に前記重み付け係数が補正された前記ニューラルネットワークに、前記建設予定の建物の建設階数と、前記建設予定の建物の敷地面積と、前記建設予定の建物の地盤パラメータと、前記建設予定の建物の用途パラメータとを入力し、前記標準建築予測価格および前記建設予測工期と、を算出することを特徴とする請求項3に記載の建物の建築価格を予測する予測
システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設予定の建物の建築価格を予測する予測方法およびその建設工期を予測する予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建設予定の建物の建築価格(見積価格)および建設工期を、建物の建設を計画する基本計画段階で把握することが必要であり、その建設工事を受注することが可能かどうかを判断するためには、重要な要素である。その初期の段階では、建設予定となる建物の資料不足などにより、建築価格および建設工期を正確に見積る(予測する)ことが困難であり、これらの結果が適切であるか判断し難い。
【0003】
このような場合、従来では、建物の類似物件の資料を参考にし、建築価格および建設工期を概算で予測することがある。その場合、類似物件を参考にしているため、これらの予測にかかる手間と費用は少ないが、設計者の経験や判断が必要であり、建築価格および建設工期を算出精度にもバラツキが生じてしまう。
【0004】
一方、建築価格および建設工期を精算で予測する場合には、基本設計書に基づき、仮の構造設計を行ったうえで、原材料の価格およびその手配等を含めて考慮されるが、この場合には、これらの予測に数週間かかることもある。
【0005】
このような点を鑑みて、たとえば、特許文献1には、以下の如き建築価格の予測方法が提案されている。この予測方法では、まず、単価データベースから合成単価データを抽出し、これと当該計画案の図面から読取可能な数量データとに基づいて当該計画案の確定コストを算出し、過去の建物の建物概要データ、実績金額データ、実績数量データを相互に関連付けて記憶する。次に、建物概要データを基に実績データベースから当該計画案に対応する建物の実績金額データ及び実績数量データを抽出し、この実績金額データ及び実績数量データに基づいて、計画案の図面から数量を読取不能な項目について計画案の類推コストを算出し、これに確定コストを加えて予測コストを算出している。このようにして、図面から数量が読み取り不可能な項目を類推コストとして算出するので、算出される予測コスト(建築価格)をより正確に見積ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示す予測方法では、計画案の図面や数量から精算により建築価格を予測するため、時間がかかってしまう。また、過去の建物の建物概要データ、実績金額データ、実績数量データを相互に関連付けて、建築価格を記憶しているが、過去の建設の年の物価と、その建物が建設された地域の物価とは、建設予定年の物価と、建設予定地域の物価とも異なるため、正確に建築価格を見積ることができない。また、特許文献1に示す予測方法では、建設工期を予測することができない。
【0008】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、本発明では、建設予定の建物の建築価格または建設工期を、より迅速かつ正確に予測することができる予測方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を鑑みて、本願の第1発明は、予測システムを用いて、建物の建築価格を予測する予測方法であって、過去に建設された複数の建物ごとに関して、前記各建物の建設地域と、地域ごとの物価に依存した地域物価係数と、前記各建物が建設された建設年と、年ごとの物価に依存した年物価係数と、前記各建物の建設階数と、前記各建物の敷地面積と、前記各建物の地盤条件に応じた地盤パラメータと、前記各建物の用途に応じた用途パラメータと、前記各建物の建築価格と、を少なくとも含むデータを前記予測システムに入力する入力工程と、前記予測システムにおいて、前記各建物の建設地域に対応した前記地域物価係数と、前記各建物の建設年に対応した前記年物価係数と、を用いて、前記各建物の建築価格を、前記建設地域および前記建設された年の物価に依存しない標準建築価格に補正する第1補正工程と、前記予測システムにおいて、前記各建物に関して、前記建設階数と、前記敷地面積と、前記地盤パラメータと、前記用途パラメータと、に基づいて、標準建築予測価格を算出し、前記各建物ごとに算出した前記標準建築予測価格の値が、前記各建物の前記標準建築価格の値に収束するように、機械学習により、前記標準建築予測価格の算出方法を学習する学習工程と、前記学習工程の後の前記予測システムに対して、建設予定の建物の建設地域と、前記建設予定の建物の建設年と、前記建設予定の建物の建設階数と、前記建設予定の建物の敷地面積と、前記建設予定の建物の地盤条件に応じた地盤パラメータと、前記建設予定の建物の用途に応じた用途パラメータと、を入力し、前記建設予定の建物の建設階数と、前記建設予定の建物の敷地面積と、前記建設予定の建物の地盤パラメータと、前記建設予定の建物の用途パラメータと、に基づいて前記学習工程の後の前記予測システムにより、前記建設予定の建物の標準建築予測価格を算出する算出工程と、前記建設予定の建物の前記建設地域に対応した前記地域物価係数と、前記建設予定の前記建物の建設年に対応した前記年物価係数とを用いて、前記算出工程で算出した前記建設予定の建物の標準建築予測価格を、前記建設予定の建物の前記建設地域および前記建設年の物価に依存した建築予測価格に補正する第2補正工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、学習工程において機械学習をする前に、入力工程において入力された地域物価係数と年物価係数により、各建物の建築価格を標準建築価格に補正する。これにより、得られた標準建築価格は、建設地域および建設された年の物価に依存しない価格となる。そして、学習工程において、建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータと、に基づいて、各建物に対して算出した標準建築予測価格が、各建物の標準建築価格の値に収束するまで、機械学習により、標準建築予測価格の算出方法を学習する。
【0011】
このようにして、算出工程において、機械学習により学習された標準建築予測価格の算出方法で、建設予定の建物に対応する、建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータと、を用いて、標準建築予測価格を算出すれば、標準建築予測価格をより正確に算出することができる。
【0012】
算出工程において、算出した標準建築予測価格に対して、建設予定の建物の建設地域に対応した地域物価係数と、建設予定の前記建物の建設年に対応した年物価係数とを用いて、標準建築予測価格を、建築予測価格に補正すれば、建設予定の建物の建設地域および建設年の物価に依存した建築予測価格を得ることができる。このようして、建設予定の建物の建築価格をより正確に予測することができる。
【0013】
より好ましい態様としては、前記学習工程における機械学習は、前記建設階数と、前記敷地面積と、前記地盤パラメータと、前記用途パラメータを入力値とし、前記標準建築予測価格を出力値とした、前記予測システムのニューラルネットワークを用いて行われるものであり、前記ニューラルネットワークは、前記建設階数と、前記敷地面積と、前記地盤パラメータと、前記用途パラメータとが、それぞれ入力される少なくとも4つの入力層ニューロン素子を含む入力層と、前記標準建築予測価格を出力する出力層ニューロン素子を含む出力層と、前記少なくとも4つの入力層ニューロン素子と前記2つの出力層ニューロン素子との間に設けられ、複数の中間層ニューロン素子を含む複数の中間層とを有し、前記各中間層の中間層ニューロン素子により算出したニューロンパラメータは、重み付け係数を乗算して、次の中間層の中間層ニューロン素子または前記出力層ニューロン素子に入力されるものであり、前記学習工程において、前記標準建築予測価格の値が、前記各建物の前記標準建築価格の値に対して所定の範囲に収束するまで、前記重み付け係数を繰り返し補正することにより、前記機械学習による学習を行い、前記算出工程において、前記機械学習後に前記重み付け係数が補正された前記ニューラルネットワークに、前記建設予定の建物の建設階数と、前記建設予定の建物の敷地面積と、前記建設予定の建物の地盤パラメータと、前記建設予定の建物の用途パラメータと、を入力し、前記標準建築予測価格を算出する。
【0014】
この態様によれば、ニューラルネットワークの中間層ニューロン素子により算出したニューロンパラメータに乗算される重み付け係数を、機械学習時に補正するので、より簡単かつ迅速に、各建物の標準建築予測価格の値を、各建物の標準建築価格の値に対して所定の範囲に収束させることができる。このようにして学習された標準建築予測価格の算出方法を実行するニューラルネットワークを用いて、算出工程において、建設予定の建物の建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータとを入力すれば、標準建築予測価格をより迅速かつ正確に算出することができる。
【0015】
より好ましい態様としては、建築価格に加え、建設工期も合わせて予測する。具体的な好ましい態様としては、前記予測方法は、前記予測システムを用いて、建物の建設工期をさらに予測するものであり、前記入力工程において、前記過去に建設された建物ごとに関して、前記各建物の建設工期をさらに入力し、前記学習工程において、過去に建設された前記各建物に関して、前記建設階数と、前記敷地面積と、前記地盤パラメータと、前記用途パラメータと、に基づいて、建設予測工期をさらに算出し、前記各建物ごとに算出した前記建設予測工期の値が、前記各建物の前記建設工期の値に収束するように、機械学習により、前記建設予測工期の算出方法をさらに学習し、前記算出工程において、前記学習工程の後の前記予測システムに対して、前記建設予定の建物の建設階数と、前記建設予定の建物の敷地面積と、前記建設予定の建物の地盤パラメータと、前記建設予定の建物の用途パラメータと、に基づいて前記学習工程の後の前記予測システムにより、前記建設予定の建物の建設予測工期をさらに算出する。
【0016】
この態様によれば、学習工程において、過去の建物の建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータと、に基づいて、建設予測工期が、各建物の建設工期の値に収束するまで、機械学習により、建設予測工期の算出方法をさらに学習する。このようにして、算出工程において、機械学習により学習された建設予測工期の算出方法で、建設予定の建物に対応する、建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータと、を用いて、建設予測工期を算出すれば、より正確な建設予測工期を算出することができる。
【0017】
より好ましい態様としては、前記学習工程における機械学習は、前記建設階数と、前記敷地面積と、前記地盤パラメータと、前記用途パラメータを入力値とし、前記標準建築予測価格と前記建設予測工期を出力値とした、前記予測システムのニューラルネットワークを用いて行われるものであり、前記ニューラルネットワークは、前記建設階数と、前記敷地面積と、前記地盤パラメータと、前記用途パラメータとが、それぞれ入力される少なくとも4つの入力層ニューロン素子を含む入力層と、前記標準建築予測価格と前記建設予測工期を出力する2つの出力層ニューロン素子を含む出力層と、前記少なくとも4つの入力層ニューロン素子と前記2つの出力層ニューロン素子との間に設けられ、複数の中間層ニューロン素子を含む複数の中間層とを有し、前記各中間層の中間層ニューロン素子により算出したニューロンパラメータは、重み付け係数を乗算して、次の中間層の中間層ニューロン素子または前記出力層ニューロン素子に入力されるものであり、前記学習工程において、前記標準建築予測価格と前記建設予測工期との値が、前記各建物の前記標準建築価格と前記建設工期との値に対して所定の範囲に収束するまで、前記重み付け係数を繰り返し補正することにより、前記機械学習による学習を行い、前記算出工程において、前記機械学習後に前記重み付け係数が補正された前記ニューラルネットワークに、前記建設予定の建物の建設階数と、前記建設予定の建物の敷地面積と、前記建設予定の建物の地盤パラメータと、前記建設予定の建物の用途パラメータとを入力し、前記標準建築予測価格および前記建設予測工期と、を算出する。
【0018】
この態様によれば、学習工程において、ニューラルネットワークの中間層ニューロン素子により算出したニューロンパラメータに乗算される重み付け係数を、機械学習時に補正するので、より簡単かつ迅速に、各建物の標準建築予測価格と建設予測工期との値を、各建物の標準建築価格と建設工期との値に対して、所定の範囲に収束させることができる。このようにして学習された標準建築予測価格と建設予測工期の算出を実行するニューラルネットワークを用いて、算出工程において、建設予定の建物の建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータとを入力すれば、標準建築予測価格および建設予測工期をより迅速かつ正確に算出することができる。特に、建築価格と建設工期との見えない相関関係を、これらの少なくとも4つのパラメータ(建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータ)を介して関連付けることができる。
【0019】
本願の第2発明は、予測システムを用いて、建物の建設工期を予測する予測方法であって、過去に建設された複数の建物ごとに関して、前記各建物の建設階数と、前記各建物の敷地面積と、前記各建物の地盤条件に応じた地盤パラメータと、前記各建物の用途に応じた用途パラメータと、前記各建物の建設工期と、を少なくとも含むデータを前記予測システムに入力する入力工程と、前記予測システムにおいて、前記各建物に関して、前記建設階数と、前記敷地面積と、前記地盤パラメータと、前記用途パラメータと、に基づいて、建設予測工期を算出し、前記各建物ごとに算出した前記建設予測工期の値が、前記各建物の建設工期の値に収束するように、機械学習により、前記建設予測工期の算出方法を学習する学習工程と、前記学習工程の後の前記予測システムに対して、建設予定の建物の建設階数と、前記建設予定の建物の敷地面積と、前記建設予定の建物の地盤条件に応じた地盤パラメータと、前記建設予定の建物の用途に応じた用途パラメータと、を入力し、前記建設予定の建物の建設階数と、前記建設予定の建物の敷地面積と、前記建設予定の建物の地盤パラメータと、前記建設予定の建物の用途パラメータと、に基づいて前記学習工程の後の前記予測システムにより、前記建設予定の建物の建設予測工期を算出する算出工程と、を含むことを特徴とする。
【0020】
この本発明によれば、学習工程において、過去の建物の建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータと、に基づいて、建設予測工期が、各建物の建設工期の値に収束するまで、機械学習により、建設予測工期の算出方法を学習する。このようにして、算出工程において、機械学習により学習された建設予測工期の算出方法で、建設予定の建物に対応する、建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータと、を用いて、建設予測工期を算出すれば、過去の建設工期に基づいて建設予測工期をより正確かつ迅速に算出することができる。
【0021】
より好ましい態様としては、前記学習工程における機械学習は、前記建設階数と、前記敷地面積と、前記地盤パラメータと、前記用途パラメータを入力値とし、前記建設予測工期を出力値とした、前記予測システムのニューラルネットワークを用いて行われるものであり、前記ニューラルネットワークは、前記建設階数と、前記敷地面積と、前記地盤パラメータと、前記用途パラメータとが、それぞれ入力される少なくとも4つの入力層ニューロン素子を含む入力層と、前記建設予測工期を出力する出力層ニューロン素子を含む出力層と、前記少なくとも4つの入力層ニューロン素子と前記2つの出力層ニューロン素子との間に設けられ、複数の中間層ニューロン素子を含む複数の中間層とを有し、前記各中間層の中間層ニューロン素子により算出したニューロンパラメータは、重み付け係数を乗算して、次の中間層の中間層ニューロン素子または前記出力層ニューロン素子に入力されるものであり、前記学習工程において、前記建設予測工期の値が、前記各建物の前記建設工期の値に対して所定の範囲に収束するまで、前記重み付け係数を繰り返し補正することにより、前記機械学習による学習を行い、前記算出工程において、前記機械学習後に前記重み付け係数が補正された前記ニューラルネットワークに、前記建設予定の建物の建設階数と、前記建設予定の建物の敷地面積と、前記建設予定の建物の地盤パラメータと、前記建設予定の建物の用途パラメータとを入力し、前記建設予測工期を算出する。
【0022】
この態様によれば、学習工程において、ニューラルネットワークの中間層ニューロン素子により算出したニューロンパラメータに乗算される重み付け係数を、機械学習時に補正するので、より簡単かつ迅速に、各建物の建設予測工期の値を、各建物の建設工期の値に対して、所定の範囲に収束させることができる。このようにして学習された建設予測工期の算出を実行するニューラルネットワークを用いて、算出工程において、建設予定の建物の建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータとを入力すれば、建設予測工期をより迅速かつ正確に算出することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、建設予定の建物の建築価格または建設工期を、より迅速かつ正確に予測することができる予測方法。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る建物の建築価格を予測する予測方法のフロー図である。
【
図2】
図1に示す予測方法を実行するための予測システムを説明するための模式的概念図である。
【
図3】
図2に示す予測システムの演算装置のブロック図である。
【
図4】
図3に示す演算装置の学習算出部のニューラルネットワークの模式的概念図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る予測方法を実行するための予測システムを説明するための模式的概念図である。
【
図6】
図5に示す予測システムの演算装置のブロック図である。
【
図7】
図6に示す演算装置の学習算出部のニューラルネットワークの模式的概念図である。
【
図8】本発明の第3実施形態に係る建物の建設工期を予測する予測方法のフロー図である。
【
図9】本発明の第3実施形態に係る予測方法を実行するための予測システムを説明するための模式的概念図である。
【
図10】
図9に示す予測システムの演算装置のブロック図である。
【
図11】
図10に示す演算装置の学習算出部のニューラルネットワークの模式的概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の第1~第3実施形態に係る建物の建築価格を予測する予測方法を、図面を参照しながら説明する。第1および第2実施形態が、第1発明に係る実施形態であり、第3実施形態が、第2発明に係る実施形態である。
【0026】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る建物の建築価格を予測する予測方法のフロー図である。
図2は、
図1に示す予測方法を実行するための予測システムを説明するための模式的概念図である。
図3は、
図2に示す予測システムの演算装置のブロック図である。
図4は、
図3に示す演算装置の学習算出部のニューラルネットワークの模式的概念図である。
【0027】
本実施形態に係る建物の建築価格の予測方法は、予測システム1及び端末6を用いて、
図1に示す一連の工程を経て、建設予定の建物の建築価格を予測するものである。以下に、予測システム1を説明するとともに
図1に示す一連の工程を説明する。
【0028】
1.第1入力工程S1について
まず、本実施形態に係る建物の建築価格を予測する予測方法では、第1入力工程(入力工程)S1を行う。この第1入力工程S1では、予測システム1のキーボードなどの入力装置2を介して、ROM、RAMなどの記憶装置3に入力する。入力されるデータは、過去に建設された複数の建物に関するデータである。
【0029】
具体的には、
図1に示すように、過去に建設された建物A、B、C…に関する以下のデータを入力する。より具体的には、
図2に示すように、入力装置2を用いて、各建物の建設地域、地域ごとの物価に依存した地域物価係数、各建物が建設された建設年、年ごとの物価に依存した年物価係数、各建物の建設階数、各建物の敷地面積、各建物の地盤条件に応じた地盤パラメータ、各建物の用途に応じた用途パラメータ、および各建物の建築価格を入力する。
【0030】
各建物の建設地域、地域ごとの物価に依存した地域物価係数、各建物が建設された建設年、および、年ごとの物価に依存した年物価係数は、後述する第1補正工程S2における補正係数を算出するために利用されるデータである。一方、各建物の建設階数、各建物の敷地面積、各建物の地盤条件に応じた地盤パラメータ、各建物の用途に応じた用途パラメータ、および各建物の建築価格のデータは、後述する学習工程S3において、利用されるデータである。なお、各建物の建築価格は、第1補正工程S2において、標準建築価格に補正され、学習工程S3において利用される。以下に、各データを、そのデータが用いられる各工程において、その詳細を説明する。
【0031】
2.第1補正工程S2について
第1補正工程S2では、予測システムにおいて、各建物の建設地域に対応した地域物価係数と、各建物の建設年に対応した年物価係数と、を用いて、各建物の建築価格を、建設地域および建設された年の物価に依存しない標準建築価格に補正する。
【0032】
「建設地域」は、各建物が建設された地域であり、例えば、日本国を例に挙げると、関東地域、東北地域、中部地域などに分類されており、この地域に該当するコードが記憶装置3に入力される。また、この地域の分類は、物価が近い地域ごとに分類されている。「地域物価係数」は、分類した地域ごとの物価に依存した係数である。「地域物価係数」は、たとえば、関東地域の地域物価係数を標準である1.0としたときに、東北地域の地域物価係数を0.8に、中部地域の地域物価係数を0.9などに設定される。したがって、「地域物価係数」は、地域ごとの物価を比率で表したものであり、「建設地域」のコードに関連付けられている。
【0033】
「建設年」は、各建物が建設された年であり、例えば、1989年、2009年などの西暦年であり、この西暦年のコードが記憶装置3に入力される。「年物価係数」は、その年ごとのその国(例えば日本国)における物価に依存した係数である。「年物価係数」は、たとえば、1989年の年物価係数を1.0としたときに、2009年の年物価係数を0.8、2018年の年物価係数を0.9などに設定される。したがって、「年物価係数」は、年ごとの物価を比率で表したものであり、「建設年」のコードに関連付けられている。なお、「年物価係数」に、現在から数年先まで、年ごとに予測される年物価係数が入力されてもよい。
【0034】
本実施形態において、例えば、第1補正工程S2では、ある建物Aに対して、建設地域に対応した(関連付けられた)その地域の地域物価係数と、建物Aの建設年に対応した(関連付けられた)その年の年物価係数とを、建物Aの建築価格に乗算し、「標準建築価格」を得る。この補正をすべての建物の建築価格に対して行う。「標準建築価格」は、その建設地域および建設された年の物価に依存しない各建物の建築価格である。これにより、建物を建設した地域間における物価の相違による価格の格差、および、建物を建設した年ごとにおける物価の変動による価格の格差を低減することができる。
【0035】
このような補正は、
図3に示すように、記憶装置3から、建物ごとに、建設地域(具体的にはコード)、地域物価係数、建設年(具体的にはコード)、年物価係数、建築価格を読み出して、演算装置4の第1補正部41においてすべての建物の建築価格に対して一括して行う。第1補正部41では、上述した補正を行う前に、各建物の建設地域に地域物価係数を関連付け、各建物の建設年に年物価係数を関連付ける。このようにして、各建物に関連付けた地域物価係数および年物価係数を、各建物の建築価格に乗じることにより、各建物の価格を標準化(正規化)することができる。なお、本実施形態では、第1入力工程S1において、地域物価係数および年物価係数を入力装置2を介して記憶装置3に直接入力したが、入力工程は、これに限定されるものではなく、例えば、これらの値を、外部のデータベースなどからネットワークを介して読み込んでもよく、第1補正工程S2および後述する第2補正工程S6の補正のタイミングで読み込まれてもよい。
【0036】
3.学習工程S3について
次に、学習工程S3を行う。この工程では、予測システム1の演算装置4において、各建物に対して、建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータと、に基づいて、標準建築予測価格を算出し、各建物ごとに算出した標準建築予測価格の値が、各建物の標準建築価格の値に収束するように、機械学習により、標準建築予測価格の算出方法を学習する。演算装置4は、CPUからなり、
図3および
図4に示すソフトウエアにより構成されている。
【0037】
「建物階数」は、建設された各建物の階数であり、その階数が、第1入力工程S1において数値で入力され、記憶装置3で記憶される。「敷地面積」は、建設された各建物の敷地の面積であり、この面積が、第1入力工程S1において数値で入力され、記憶装置3で記憶される。
【0038】
「地盤パラメータ」は、建物の地盤条件に応じたパラメータであり、基礎杭の打設のし易さ等を基準に設定されている。この地盤パラメータが高いほど、基礎杭が打設し難く、基礎工事の費用が高くなることを意味し、一方、この地盤パラメータが低いほど、基礎杭が打設し易く、基礎工事の費用が安くなることを意味している。第1入力工程S1において「地盤パラメータ」は、数値で入力され、記憶装置3で記憶される。
【0039】
「用途パラメータ」は、その建物の用途に応じたパラメータであり、その用途が、たとえば、病院、学校、またはオフィスビル等に合わせて、建築価格が変動することから、これらの用途に応じて設定されている。第1入力工程S1において「用途パラメータ」は、数値で入力され、記憶装置3で記憶される。
【0040】
本実施形態では、4つのパラメータにより後述する機械学習を行うが、例えば、この他にも、建物の構造種別、スパン割、または延床面積に対応したパラメータを用いて、これらのパラメータも加味して、後述する機械学習を行ってもよい。
【0041】
本実施形態では、
図3に示すように、学習工程S3において、演算装置4の学習算出部42が、過去に建設された建物ごとに、建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータとを記憶装置3から読み出す。次に、これらの読み出した建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータとを入力値として、標準建築予測価格を算出する。
【0042】
この学習工程S3では、算出した標準建築予測価格の値が、第1補正工程S2で算出した標準建築価格の値に対して、所定の範囲内で収束するように、その算出方法を学習する。
【0043】
この算出では、例えば、これらの建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータとの4つの入力値をパラメータとした非線形関数を用いて、標準建築予測価格を算出してもよい。この場合、算出方法の学習は、この関数のパラメータを補正することにより行うことができる。
【0044】
しかしながら、本実施形態では、
図4に示すディープニューラルネットワーク(DNN):以下「ニューラルネットワーク」という)43を用いて行う。ニューラルネットワーク43は、演算装置4の学習算出部42内において構築されているものである。
【0045】
ニューラルネットワーク43による機械学習は、建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータを入力値とし、標準建築予測価格を出力値としたものである。
【0046】
図4に示すように、ニューラルネットワーク43は、入力層43Aを有しており、入力層43Aは、建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータとが、それぞれ入力される4つの入力層ニューロン素子43aを含む。この入力層43Aの入力層ニューロン素子43aは、その他の入力されるパラメータの個数に応じて設定される。
【0047】
ニューラルネットワーク43は、出力層43Eを有している。出力層43Eは、標準建築予測価格を出力する1つの出力層ニューロン素子43eを含む。ニューラルネットワーク43は、3つの中間層43B、43C、43Dを有している。3つの中間層43B、43C、43Dは、4つの入力層ニューロン素子43aと1つの出力層ニューロン素子43eとの間に設けられている。各中間層43B、43C、43Dは、これらの素子に直接的または間接的に結合された複数の中間層ニューロン素子43b、43c、43dを含む。
【0048】
中間層43B、43C、43Dは、入力層43A側からのニューロン素子が演算したニューロンパラメータを出力層43E側のニューロン素子に出力するものである。具体的な演算を実行する中間層ニューロン素子43b、43c、43dと、出力層ニューロン素子43eは、それぞれ所定の活性化関数を有しており、入力されたデータ(パラメータ)をその活性化関数に代入することにより、ニューロンパラメータを算出する。
【0049】
この際、各中間層43B、43C、43Dの中間層ニューロン素子43d、43c、43dにより算出したニューロンパラメータは、その素子内において、重み付け係数が乗算され、次の中間層の中間層ニューロン素子または出力層ニューロン素子に入力される。
【0050】
本実施形態では、学習工程S3において、算出した標準建築予測価格の値が、各建物の標準建築価格の値に対して所定の範囲に収束するまで、各中間層ニューロン素子のニューロンパラメータに乗算される重み付け係数を繰り返し補正する。このようにして、本実施形態では、機械学習により、標準建築予測価格の算出方法を学習することができる。
【0051】
上述した第1入力工程S1~学習工程S3までにおいて、過去の建物の情報から、建設地域および建設年に依らない標準建築予測価格を算出する方法を学習した。後述する第2入力工程S4~出力工程S7までは、学習した予測システム1を用いて、これらから建設予定となる建物の建築価格を予測し、これを出力する。
【0052】
4.第2入力工程S4について
第2入力工程S4と、次の工程である算出工程S5とが、本発明でいうところの算出工程に相当する。第2入力工程S4では、
図2に示すように、端末6からネットワークを介して、学習工程S3の後の予測システム1に対して、建設予定の建物に関するデータを入力する。具体的には、建設予定の建物の建設地域と、建設予定の建物の建設年と、建設予定の建物の建設階数と、建設予定の建物の敷地面積と、建設予定の建物の地盤条件に応じた地盤パラメータと、建設予定の建物の用途に応じた用途パラメータとを、入力装置2を介して予測システム1の記憶装置3に入力する。
【0053】
5.算出工程S5について
次に、算出工程S5を行う。この工程では、端末6を介して記憶装置3に記憶された、建設予定の建物の建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータと、に基づいて学習工程S3の後の予測システム1の演算装置4により、建設予定の建物の標準建築予測価格を算出する。具体的には、この算出は、機械学習後に前記重み付け係数が補正されたニューラルネットワーク43に、建設予定の建物の、建設階数、敷地面積、地盤パラメータ、および用途パラメータを入力し、建設予定の建物の標準建築予測価格を算出する。
【0054】
本実施形態では、過去の建物のデータから算出方法が学習された学習算出部42のニューラルネットワーク43を用いて、建設予定の建物の標準建築予測価格が算出されるので、より正確にかつ迅速に標準建築予測価格を算出することができる。
【0055】
6.第2補正工程S6について
次に、第2補正工程S6を行う。この工程では、
図3に示す演算装置4の第2補正部44において、建設予定の建物の建設地域に対応した(関連付けられた)地域物価係数と、建設予定の建物の建設年に対応した(関連付けられた)年物価係数とを用いて、算出工程S5で算出した標準建築予測価格を、建設予定の建物の建設地域および建設年の物価に依存した建築予測価格に補正する。
【0056】
具体的には、算出工程S5で算出した標準建築予測価格に、建設予定の建物の建設地域に対応した地域物価係数の逆数を乗算し、さらに、建設予定の建物の建設年に対応した年物価係数の逆数を乗算する。このようにして得られた(補正された)建築予測価格は、建設予定の建物の建設地域および建設年の物価に依存した価格となる。
【0057】
7.出力工程S7について
次に、出力工程S7を行う。この工程では、第2補正工程S6で補正された建設予定の建物の建築予測価格を、ネットワークを介して、端末6に出力する。
【0058】
本実施形態によれば、学習工程S3において機械学習をする前に、第1入力工程S1において入力された地域物価係数と年物価係数により、第1補正工程S2で、各建物の建築価格を標準建築価格に補正する。これにより、得られた標準建築価格は、建設地域および建設された年の物価に依存しない価格となる。そして、学習工程S3において、建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータと、に基づいて、各建物に対して算出した標準建築予測価格が、各建物の標準建築価格の値に収束するまで、機械学習により、標準建築予測価格の算出方法を学習する。
【0059】
このようにして、算出工程S5において、機械学習により学習された標準建築予測価格の算出方法で、建設予定の建物に対応する、建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータと、を用いて、標準建築予測価格を算出すれば、標準建築予測価格をより正確かつ迅速に算出することができる。
【0060】
さらに、算出工程S5において、算出した標準建築予測価格に対して、建設予定の建物の建設地域に対応した地域物価係数と、建設予定の前記建物の建設年に対応した年物価係数とを用いて、標準建築予測価格を、建築予測価格に補正すれば、建設予定の建物の建設地域および建設年の物価に依存した建築予測価格を得ることができる。このようして、建設における各要因の隠れた関連性をニューラルネットワークを用いて見つけ出すことにより、見積価格である建設予定の建物の建築価格を、これらをより短時間かつ正確に予測することができる。
【0061】
〔第2実施形態〕
以下に第2実施形態に係る建物の建築価格を予測する予測方法を説明する。第2実施形態に係る予測方法が、第1実施形態の予測方法と相違する点は、第2実施形態に係る予測方法では、建築価格とともに建設工期も予測する。以下に、第1実施形態と同じ内容は、その説明を省略する。また、基本的な各工程のフローは、第1実施形態と同じであるので、
図1を再び参照するとともに、以下の
図5~
図7を参照する。
【0062】
図5は、本発明の第2実施形態に係る予測方法を実行するための予測システム1を説明するための模式的概念図である。
図6は、
図5に示す予測システム1の演算装置4のブロック図である。
図7は、
図6に示す演算装置4の学習算出部42のニューラルネットワークの模式的概念図である。
【0063】
第2実施形態では、入力工程S1において、
図5に示すように、過去に建設された建物ごとに関して、第1実施形態で入力したデータに加えて、各建物の建設工期をさらに入力する。本実施形態では、次の第1補正工程S2は、第1実施形態と同じ補正を行う。但し、この第1補正工程S2において、例えば、建築標準価格に補正した方法と同じようにして、建設地域の物流の状態、建設地域の気候、建設地域の立地条件、建設中の月または季節等を、数値化し、これらの数値に基づいて、建設工期を補正し、各建物の建設工期を、これらの条件に依存しない標準的な建設工期(標準建設工期)に補正してもよい。なお、このように補正では、建設工期にこれらの数値を乗算し、第2補正工程S6では、その数値の逆数を乗算すればよい。
【0064】
次に、学習工程S3において、過去に建設された各建物に関して、建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータと、に基づいて、学習算出部42で、建築予測価格に加えて、建設予測工期をさらに算出する。そして、各建物ごとに算出した建設予測工期の値が、各建物の建設工期の値に収束するように、機械学習により、建築予測価格の算出方法に加えて、建設予測工期の算出方法をさらに学習する。
【0065】
この算出では、例えば、これらの建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータとの4つの入力値をパラメータとした非線形関数を用いて、建設予測工期を算出してもよい。この場合、算出方法の学習は、この関数のパラメータを補正することにより行うことができる。
【0066】
しかしながら、本実施形態では、第1実施形態と同様の
図7に示すニューラルネットワーク43を用いて行う。本実施形態に係るニューラルネットワーク43による機械学習は、建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータを入力値とし、標準建築予測価格と建設予測工期を出力値としたものである。
【0067】
図7に示すように、ニューラルネットワーク43が、第1実施形態と相違する点は、出力層43Eが、標準建築予測価格と建設予測工期を出力する2つの出力層ニューロン素子43eを含む点であり、入力層43Aおよび中間層43B、43C、43Dは同じである。2つの出力層ニューロン素子43eは、それぞれ所定の活性化関数を有しており、入力されたデータ(パラメータ)をその活性化関数に代入することにより、ニューロンパラメータを算出する。このニューロンパラメータが、標準建築予測価格と建設予測工期になる。
【0068】
本実施形態でも、各中間層43B、43C、43Dの中間層ニューロン素子43b、43c、43dにより算出したニューロンパラメータは、その素子内において、重み付け係数が乗算され、次の中間層の中間層ニューロン素子または出力層ニューロン素子に入力される。
【0069】
本実施形態でも、学習工程S3において、算出した標準建築予測価格と建設予測工期との値が、各建物の標準建築価格と建設工期との値に対して所定の範囲に収束するまで、各中間層ニューロン素子のニューロンパラメータに乗算される重み付け係数を繰り返し補正する。このようにして、本実施形態では、機械学習により、標準建築予測価格と建設予測工期の算出方法を同時に精度良く学習することができる。
【0070】
次に、第2入力工程S4は、第1実施形態と同じデータを端末6を介して予測システム1に入力する。ここで、第1補正工程S2において、建設地域の物流の状態、建設地域の気候、建設地域の立地条件、建設中の月または季節等を、数値化し、これらの数値に基づいて、建設工期を補正している場合には、建設予定の建物における建設地域の物流の状態、建設地域の気候、建設地域の立地条件、建設中の月または季節等を数値化したデータも端末6を介して予測システム1に入力する。
【0071】
次に、算出工程S5において、学習工程S3の後の予測システム1に対して、第2入力工程S4において入力した、建設予定の建物に関する、建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータと、に基づいて学習工程S3の後の予測システム1により、建設予定の建物の建築予測価格に加えて、建設予測工期をさらに算出する。
【0072】
より具体的には、機械学習後に重み付け係数が補正されたニューラルネットワーク43に、建設予定の建物の建設階数と、建設予定の建物の敷地面積と、建設予定の建物の地盤パラメータと、建設予定の建物の用途パラメータとを、入力し、標準建築予測価格および建設予測工期を算出する。
【0073】
第2実施形態によれば、学習工程S3において、過去の建物の建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータと、に基づいて、建設予測工期が、各建物の建設工期の値に収束するまで、機械学習により、建設予測工期の算出方法をさらに学習する。このようにして、算出工程S5において、機械学習により学習された建設予測工期の算出方法で、建設予定の建物に対応する、建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータと、を用いて、建設予測工期を算出すれば、より正確な建設予測工期を算出することができる。
【0074】
さらに、学習工程S3において、ニューラルネットワーク43の中間層ニューロン素子43b~43dにより算出したニューロンパラメータに乗算される重み付け係数を、機械学習時に補正するので、より簡単かつ迅速に、各建物の標準建築予測価格と建設予測工期との値を、各建物の標準建築価格と建設工期との値に対して、所定の範囲に収束させることができる。このようにして学習された標準建築予測価格と建設予測工期の算出を実行するニューラルネットワークを用いて、算出工程において、建設予定の建物の建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータとを入力すれば、標準建築予測価格および建設予測工期をより迅速かつ正確に算出することができる。
【0075】
〔第3実施形態〕
第1および第2実施形態は、第1発明の一例であり、建物の建築価格を少なくとも予測する予測方法であったが、第3実施形態は、第2発明の一例であり、建物の建設工期を予測する予測方法である。以下に、第3実施形態に係る建物の建設工期を予測する予測方法を説明する。
【0076】
図8は、本発明の第3実施形態に係る建物の建設工期を予測する予測方法のフロー図である。
図9は、本発明の第3実施形態に係る予測方法を実行するための予測システム1を説明するための模式的概念図である。
図10は、
図9に示す予測システム1の演算装置4のブロック図である。
図11は、
図10に示す演算装置4の学習算出部のニューラルネットワークの模式的概念図である。なお、
図8~11において、第1実施形態において、説明した各装置および各工程と類似した各装置および各工程は、同じ符号を付している。
【0077】
図8に示すように、本実施形態では、
図1に示す第1実施形態のフロー図とは異なり、第1補正工程S2および第2補正工程S6を行わない。以下に、
図8のフロー図に沿って、説明する。
【0078】
まず、入力工程S1では、過去に建設された建物A、B、C…に関する以下のデータを入力する。より具体的には、
図9に示すように、入力装置2を用いて、過去に建設された各建物の建設階数、各建物の敷地面積、各建物の地盤条件に応じた地盤パラメータ、各建物の用途に応じた用途パラメータ、および各建物の建設工期を入力する。これらのパラメータ等は、第1および第2実施形態で説明した通りである。
【0079】
次に、学習工程S3を行う。この工程では、予測システム1の演算装置4において、各建物に対して、建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータと、に基づいて、建設予測工期を算出し、各建物ごとに算出した建設予測工期の値が、各建物の建設工期の値に収束するように、機械学習により、建設予測工期の算出方法を学習する。なお、本実施形態では、第1補正工程S2および第2補正工程S6が無いので、演算装置4は、第1および第2実施形態の如く、第1補正部および第2補正部を有しない。
【0080】
本実施形態では、学習工程S3において、演算装置4の学習算出部42が、過去に建設された建物ごとに、建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータとを記憶装置3から読み出す。次に、これらの読み出した建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータとを入力値として、建設予測工期を算出する。この学習工程S3では、算出した建設予測工期の値が、入力工程S1で算出した建設工期の値に対して、所定の範囲内で収束するように、その算出方法を学習する。
【0081】
この算出では、例えば、これらの建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータとの4つの入力値をパラメータとした非線形関数を用いて、建設予測工期を算出してもよい。この場合、算出方法の学習は、この関数のパラメータを補正することにより行うことができる。
【0082】
しかしながら、本実施形態では、第1および第2実施形態と同様に、
図11に示すニューラルネットワーク43を用いて行う。ニューラルネットワーク43は、演算装置4の学習算出部42内において構築されているものである。ニューラルネットワーク43による機械学習は、建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータを入力値とし、建設予測工期を出力値としたものである。
【0083】
第1実施形態と同様に、
図11に示すように、ニューラルネットワーク43は、入力層43Aを有しており、入力層43Aは、建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータとが、それぞれ入力される4つの入力層ニューロン素子43aを含む。この入力層43Aの入力層ニューロン素子43aは、その他の入力されるパラメータの個数に応じて設定される。ニューラルネットワーク43は、出力層43Eを有している。出力層43Eは、建設予測工期を出力する1つの出力層ニューロン素子43eを含む。
【0084】
ニューラルネットワーク43は、3つの中間層43B、43C、43Dとを有している。3つの中間層43B、43C、43Dは、4つの入力層ニューロン素子43aと1つの出力層ニューロン素子43eとの間に設けられている。各中間層43B、43C、43Dは、これらの素子に直接的または間接的に結合された複数の中間層ニューロン素子43d、43c、43dを含む。
【0085】
中間層43B、43C、43Dは、入力層43A側からのニューロン素子が演算したニューロンパラメータを出力層43E側のニューロン素子に出力するものである。具体的な演算を実行する中間層ニューロン素子43b、43c、43dと、出力層ニューロン素子43eは、それぞれ所定の活性化関数を有しており、入力されたデータ(パラメータ)をその活性化関数に代入することにより、ニューロンパラメータを算出する。
【0086】
この際、各中間層43B、43C、43Dの中間層ニューロン素子43b、43c、43dにより算出したニューロンパラメータは、その素子内において、重み付け係数が乗算され、次の中間層の中間層ニューロン素子または出力層ニューロン素子に入力される。
【0087】
本実施形態では、学習工程S3において、算出した建設予測工期の値が、各建物の建設工期の値に対して所定の範囲に収束するまで、各中間層ニューロン素子のニューロンパラメータに乗算される重み付け係数を繰り返し補正する。このようにして、本実施形態では、機械学習により、建設工期の算出方法を学習することができる。
【0088】
第2入力工程S4と、次の工程である算出工程S5とが、本発明でいうところの算出工程に相当する。第2入力工程S4では、
図9に示すように、端末6からネットワークを介して、学習工程S3の後の予測システム1に対して、建設予定の建物に関するデータを入力する。具体的には、建設予定の建物の建設階数と、建設予定の建物の敷地面積と、建設予定の建物の地盤条件に応じた地盤パラメータと、建設予定の建物の用途に応じた用途パラメータとを、入力装置2を介して予測システム1の記憶装置3に入力する。
【0089】
次に、算出工程S5を行う。この工程では、端末6を介して記憶装置3に記憶された、建設予定の建物の建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータと、に基づいて学習工程S3の後の予測システム1の演算装置4により、建設予定の建物の建設予測工期を算出する。具体的には、この算出は、機械学習後に前記重み付け係数が補正されたニューラルネットワーク43に、建設予定の建物の、建設階数、敷地面積、地盤パラメータ、および用途パラメータを入力し、建設予定の建物の建設予測工期を算出する。出力工程S7を行う。この工程では、第2補正工程S6で補正された建設予定の建物の建築予測価格を、ネットワークを介して、端末6に出力する。
【0090】
本実施形態では、学習工程S3において、過去の建物の建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータと、に基づいて、建設予測工期が、各建物の建設工期の値に収束するまで、機械学習により、建設予測工期の算出方法を学習する。このようにして、算出工程S5において、機械学習により学習された建設予測工期の算出方法で、建設予定の建物に対応する、建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータと、を用いて、建設予測工期を算出すれば、過去の建設工期に基づいて建設予測工期をより正確かつ迅速に算出することができる。
【0091】
さらに、学習工程S3において、ニューラルネットワーク43の中間層ニューロン素子43b~43dにより算出したニューロンパラメータに乗算される重み付け係数を、機械学習時に補正するので、より簡単かつ迅速に、各建物の建設予測工期の値を、各建物の建設工期の値に対して、所定の範囲に収束させることができる。このようにして学習された建設予測工期の算出を実行するニューラルネットワーク43を用いて、算出工程S5において、建設予定の建物の建設階数と、敷地面積と、地盤パラメータと、用途パラメータとを入力すれば、建設予測工期をより迅速かつ正確に算出することができる。
【0092】
第3実施形態では、第1および第2実施形態のような第1補正工程S2を省略したが、例えば、第1入力工程S1後、学習工程S3前に、以下に示す第1補正工程を設けてもよい。この第1補正工程では、例えば、建築標準価格に補正した方法と同じようにして、建設地域の物流の状態、建設地域の気候、建設地域の立地条件、建設中の月または季節等を、建設工期に影響する度合で数値化し、これらの数値に基づいて、建設工期を補正し、各建物の建設工期を、これらの条件に依存しない標準的な建設工期(標準建設工期)に補正してもよい。なお、このように補正では、建設工期にこれらの数値を乗算し、算出工程後の第2補正工程では、その数値の逆数を乗算すればよい。
【0093】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。第2実施形態では、建設予定の建物の建築価格および建設工期を予測したが、この建物が建設された後の建築価格および建設工期から、建築予測価格と建設予測工期の算出方法をさらに機械学習してもよい。
【符号の説明】
【0094】
1:予測システム、2:入力装置、3:記憶装置、4:演算装置、6:端末、41:第1補正部、42:学習算出部、43:ニューラルネットワーク、43A:入力層、43a:入力層ニューロン素子、43B~43D:中間層、43b~43d:中間層ニューロン素子、43E:出力層、43e:出力層ニューロン素子、S1:第1入力工程(入力工程)、S2:第1補正工程、S3:学習工程、S4:第2入力工程(算出工程)、S5:算出工程、S6:第2補正工程、S7:出力工程