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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】弾性波デバイスおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/145 20060101AFI20221102BHJP
   H03H 9/25 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
H03H9/145 Z
H03H9/25 C
H03H9/25 Z
H03H9/145 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018072706
(22)【出願日】2018-04-04
(65)【公開番号】P2019186655
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】月舘 均
(72)【発明者】
【氏名】畑山 和重
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-506930(JP,A)
【文献】国際公開第2010/004741(WO,A1)
【文献】特開2017-034363(JP,A)
【文献】特開2018-007239(JP,A)
【文献】特表2016-519897(JP,A)
【文献】国際公開第2013/047433(WO,A1)
【文献】特開2016-072808(JP,A)
【文献】特開平05-304436(JP,A)
【文献】特開2017-224890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板上に接合し、第1の厚さを有する第1領域と前記第1の厚さより大きい第2の厚さを有する第2領域とを有する圧電基板と、
前記圧電基板の前記第1領域上に設けられ、複数の第1電極指を各々有する一対の第1櫛型電極を備え、前記一対の第1櫛型電極の一方の第1櫛型電極における第1電極指の平均ピッチは前記第1の厚さより大きい第1弾性波共振器と、
前記圧電基板の前記第2領域上に設けられ、複数の第2電極指を各々有する一対の第2櫛型電極を備え、前記一対の第2櫛型電極の一方の第2櫛型電極における第2電極指の平均ピッチに対する前記第2の厚さの比は、前記一方の第1櫛型電極における第1電極指の平均ピッチに対する前記第1の厚さの比より大きい第2弾性波共振器と、
を備え、
前記一対の第1櫛型電極および前記一対の第2櫛型電極は主モードとしてSH波を励振する弾性波デバイス。
【請求項2】
前記一方の第2櫛型電極における第2電極指の平均ピッチは前記第2の厚さより大きい請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記一方の第2櫛型電極における第2電極指の平均ピッチは前記第2の厚さより小さい請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記圧電基板は前記支持基板にアモルファス層を介し接合されている請求項1から3のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記圧電基板と前記支持基板とに挟まれた中間層を備える請求項1から4のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記圧電基板の前記第1領域と前記支持基板との間の前記中間層の第3の厚さは前記圧電基板の前記第2領域と前記支持基板との間の前記中間層の第4の厚さより大きい請求項5に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記圧電基板の前記第1領域と前記第2領域との前記中間層の反対側の面は略平坦である請求項6に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記第2弾性波共振器の共振周波数は前記第1弾性波共振器の共振周波数より低い請求項1から7のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
前記圧電基板は、20°以上かつ48°以下のカット角を有するYカットX伝搬タンタル酸リチウム基板である請求項1から8のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の弾性波デバイスを含み、
1または複数の前記第1弾性波共振器を含む第1フィルタと、
前記第1フィルタの通過帯域と重ならず、かつ前記第1フィルタの通過帯域より低い通過帯域を有し、1または複数の前記第2弾性波共振器を含む第2フィルタと、
を備えるマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイスおよびマルチプレクサに関し、例えば支持基板上に接合された圧電基板を有する弾性波デバイスおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電基板の弾性表面波を用いた弾性波デバイスの周波数温度特性を向上させるため支持基板上に圧電基板を接合することが知られている。圧電基板の厚さを弾性表面波の波長以下とすることでスプリアスを抑制できることが知られている(例えば特許文献1)。支持基板と圧電基板との間に圧電基板よりバルク音速が遅い低音速膜を設けることが知られている(例えば特許文献2)。圧電基板の厚さを異ならせることが知られている(例えば特許文献3から5)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-34363号公報
【文献】国際公開2012/086639号
【文献】特開2013-157839号公報
【文献】特開2005-223610号公報
【文献】特開平5-304436号公報
【文献】特表2018-506930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
共振周波数の異なる弾性表面波共振器を同一基板に設けるためには、電極指のピッチを異ならせる、電極指の膜厚を異ならせる、および/または電極指を覆う絶縁膜の膜厚を異ならせる、等の方法がある。しかしながら、共振周波数を大きく異ならせようとすると、いずれの方法も製造方法が複雑になる、および/または製造方法が制約される。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、共振周波数の異なる弾性波共振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、支持基板と、前記支持基板上に接合し、第1の厚さを有する第1領域と前記第1の厚さより大きい第2の厚さを有する第2領域とを有する圧電基板と、前記圧電基板の前記第1領域上に設けられ、複数の第1電極指を各々有する一対の第1櫛型電極を備え、前記一対の第1櫛型電極の一方の第1櫛型電極における第1電極指の平均ピッチは前記第1の厚さより大きい第1弾性波共振器と、前記圧電基板の前記第2領域上に設けられ、複数の第2電極指を各々有する一対の第2櫛型電極を備え、前記一対の第2櫛型電極の一方の第2櫛型電極における第2電極指の平均ピッチに対する前記第2の厚さの比は、前記一方の第1櫛型電極における第1電極指の平均ピッチに対する前記第1の厚さの比より大きい第2弾性波共振器と、を備え、前記一対の第1櫛型電極および前記一対の第2櫛型電極は主モードとしてSH波を励振する弾性波デバイスである。
【0007】
上記構成において、前記一方の第2櫛型電極における第2電極指の平均ピッチは前記第2の厚さより大きい構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記一方の第2櫛型電極における第2電極指の平均ピッチは前記第2の厚さより小さい構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記圧電基板は前記支持基板にアモルファス層を介し直接接合されている構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記圧電基板と前記支持基板とに挟まれた中間層を備える構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記圧電基板の前記第1領域と前記支持基板との間の前記中間層の第3の厚さは前記圧電基板の前記第2領域と前記支持基板との間の前記中間層の第4の厚さより大きい構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記圧電基板の前記第1領域と前記第2領域との前記中間層の反対側の面は略平坦である構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記第2弾性波共振器の共振周波数は前記第1弾性波共振器の共振周波数より低い構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記圧電基板は、20°以上かつ48°以下のカット角を有するYカットX伝搬タンタル酸リチウム基板である構成とすることができる。
【0015】
本発明は、上記弾性波デバイスを含み、1または複数の前記第1弾性波共振器を含む第1フィルタと、前記第1フィルタの通過帯域と重ならず、かつ前記第1フィルタの通過帯域より低い通過帯域を有し、1または複数の前記第2弾性波共振器を含む第2フィルタと、を備えるマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、共振周波数の異なる弾性波共振器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1(a)は、弾性波共振器の平面図、図1(b)は、図1(a)のA-A断面図である。
図2図2(a)および図2(b)は、比較例1に係る弾性波共振器の断面図である。
図3図3は、比較例2に係る弾性波デバイスの断面図である。
図4図4(a)および図4(b)は、圧電基板の厚さT/ピッチLに対する共振周波数frを示す図である。
図5図5(a)および図5(b)は、実施例1に係る弾性波デバイスの断面図である。
図6図6は、実施例1を用いたデュプレクサの回路図である。
図7図7は、実施例1における基板10の平面図である。
図8図8(a)から図8(e)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その1)である。
図9図9(a)から図9(d)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その2)である。
図10図10(a)および図10(b)は、実施例2に係る弾性波デバイスの断面図である。
図11図11(a)および図11(b)は、実施例2の変形例1に係る弾性波デバイスの断面図である。
図12図12(a)から図12(d)は、実施例2の変形例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その1)である。
図13図13(a)から図13(c)は、実施例2の変形例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その2)である。
図14図14(a)および図14(b)は、実施例2の変形例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[弾性波共振器の説明]
図1(a)は、弾性波共振器の平面図、図1(b)は、図1(a)のA-A断面図である。電極指14の配列方向をX方向、電極指14の延伸する方向をY方向、圧電基板10aの上面の法線方向をZ方向とする。X方向、Y方向およびZ方向は、圧電基板10aの結晶方位のX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向とは必ずしも対応しない。
【0020】
図1(a)および図1(b)に示すように、弾性波共振器20では、基板10は、支持基板10bと支持基板10bに接合された圧電基板10aとを有する。圧電基板10a上にIDT18および反射器19が形成されている。IDT18および反射器19は、基板10上に形成された金属膜12により形成される。IDT18は、対向する一対の櫛型電極16を備える。一対の櫛型電極16は、それぞれ複数の電極指14と、複数の電極指14が接続されたバスバー15と、を備える。一対の櫛型電極16の電極指14が重なる領域が交差領域56である。交差領域56の少なくとも一部において、一対の櫛型電極16のうち一方の櫛型電極の電極指と他方の櫛型電極の電極指とがほぼ互い違いとなるように、対向して設けられている。
【0021】
交差領域56において電極指14が励振する弾性波は、主にX方向に伝搬する。一方の櫛型電極16の電極指14のピッチLがほぼ弾性波の波長λとなる。圧電基板10aは、例えばタンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板であり、例えば回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板または回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム基板ある。支持基板10bは、例えばサファイア基板、スピネル基板、アルミナ基板、ガラス基板、水晶基板またはシリコン基板である。支持基板10bの線熱膨張係数は圧電基板10aの線熱膨張係数より小さい。これにより、弾性波共振器の周波数温度係数(TCF:Temperature Coefficient of Frequency)を抑制できる。金属膜12は、例えばアルミニウム膜または銅膜である。基板10上に、電極指14を覆うように保護膜または温度補償膜として機能する絶縁膜が設けられていてもよい。
【0022】
[比較例1]
図2(a)および図2(b)は、比較例1に係る弾性波共振器の断面図である。図2(a)に示すように、圧電基板10a上に弾性波共振器20aおよび配線22aが設けられている。図2(b)に示すように、圧電基板10a上に弾性波共振器20bおよび配線22bが設けられている。弾性波共振器20aおよび20bは、例えばデュプレクサのそれぞれ受信フィルタおよび送信フィルタに用いられる。送信フィルタと受信フィルタとでは通過帯域が重ならない。このため、弾性波共振器20aと20bとの共振周波数は大きく異なる。弾性波共振器20bは20aより共振周波数が低い。
【0023】
弾性波共振器20bの共振周波数を弾性波共振器20aの共振周波数より低くするため、弾性波共振器20bの電極指14のピッチL2は、弾性波共振器20aの電極指14のピッチL1より大きい。また、弾性波共振器20bの電極指14の膜厚H2は、弾性波共振器20aの電極指14の膜厚H1より大きい。弾性波共振器20aを形成したチップと弾性波共振器20bを形成したチップをパッケージに実装することで、例えばデュプレクサが形成できる。しかしながら複数のチップをパッケージに実装するとデュプレクサ等の弾性波デバイスが大型化する。
【0024】
[比較例2]
図3は、比較例2に係る弾性波デバイスの断面図である。図3に示すように、弾性波共振器20aおよび20bは単一の基板10上に設けられている。電極指14を覆うように絶縁膜24が設けられている。絶縁膜24は、例えば酸化シリコン膜または窒化シリコン膜であり、保護膜または温度補償膜として機能する。弾性波共振器20aと20bとの共振周波数を異ならせるため、絶縁膜24の電極指14上の膜厚H1´およびH2´を異ならせてもよい。
【0025】
比較例2のように、弾性波共振器20aと20bを単一基板10上に形成すると弾性波デバイスを小型化できる。弾性波共振器20aと20bとの共振周波数を大きく異ならせるためには、電極指のピッチを異ならせる、電極指14の膜厚を異ならせる、および/または電極指14を覆う絶縁膜24の膜厚を異ならせる、等の方法がある。しかしながら、ピッチL1およびL2を大きく異ならせようとすると、加工精度が低下してしまう。また、膜厚H1とH2、および/または膜厚H1´とH2´を大きく異ならせようとすると、製造工程が複雑になる。そこで、上記以外の方法で共振周波数を大きく異ならせる方法を検討した。
【0026】
[シミュレーション]
圧電基板10aの厚さTに対する弾性波共振器20の共振周波数を3次元有限要素法を用いシミュレーションした。シミュレーション条件は以下である。
支持基板10b:厚さが500μmのサファイア基板
圧電基板10a:厚さTの42°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板
金属膜12:膜厚が400nmのアルミニウム膜
電極指14のピッチL:20μm
電極指14の対数:100対
開口長(交差領域56の長さ):25λ
【0027】
図4(a)および図4(b)は、圧電基板の厚さT/ピッチLに対する共振周波数frを示す図である。図4(b)は、図4(a)の範囲Aの拡大図である。ドットはシミュレーション結果を示し、ドットをつなぐ曲線は近似曲線である。圧電基板10aの厚さTはピッチLで規格化している。図4(a)および図4(b)に示すように、圧電基板10aの厚さTがピッチL以上では共振周波数frはほぼ一定である。このとき電極指14が励振する弾性表面波の波長はほぼピッチLである。圧電基板10aの厚さTがピッチL以下となると、共振周波数frが高くなる。
【0028】
厚さTがピッチL以上のとき、電極指14は弾性表面波(例えばSH(Shear Horizontal)波)を励振するときにバルク波を励振する。このバルク波が圧電基板10aと支持基板10bとの界面で反射されると、スプリアスとなる。また、バルク波が励振されるため弾性波共振器の損失が大きくなる。これに対し、厚さTがピッチL以下ではバルク波に起因したスプリアスおよび損失が抑制される。図4(a)および図4(b)のように、厚さTがピッチL以下のときに共振周波数frが厚さTに大きく依存する理由は明確ではないが、バルク波の抑制が起因していると考えられる。
【実施例1】
【0029】
シミュレーション結果に基づき実施例について説明する。図5(a)および図5(b)は、実施例1に係る弾性波デバイスの断面図である。図5(a)および図5(b)に示すように、圧電基板10aは厚さがT1の領域30と厚さがT2の領域32を有している。領域30上には弾性波共振器20aおよび配線22aが設けられ、領域32上には弾性波共振器20bおよび配線22bが設けられている。弾性波共振器20aおよび20bの電極指14のピッチL1およびL2は同程度である。弾性波共振器20aおよび20bの電極指14を覆うように絶縁膜24が設けられている。弾性波共振器20aと20bでは、電極指14の膜厚は製造誤差程度に略同じであり、絶縁膜24の膜厚は製造誤差程度に略同じである。厚さT1およびT2のうち少なくとも厚さT1はピッチL1より小さい。これにより、電極指14および絶縁膜24の膜厚がほぼ同じでも弾性波共振器20aと20bとの共振周波数を大きく異ならせることができる。なお、絶縁膜24は電極指14より薄くてもよいし、厚くてもよい。また、絶縁膜24は設けられていなくてもよい。
【0030】
図6は、実施例1を用いたデュプレクサの回路図である。図6に示すように、共通端子Antと送信端子Txの間に送信フィルタ50が接続され、共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ52が接続されている。送信フィルタ50では、共通端子Antと送信端子Txとの間に1または複数の直列共振器S1からS4が直列に接続され、1または並列共振器P1からP3が並列に接続されている。
【0031】
受信フィルタ52では、共通端子Antと受信端子Rxとの間に直列共振器S5、DMS1およびDMS2が直列に接続されている。DMS1およびDMS2は2重モード弾性表面波(Double Mode Surface Acoustic)フィルタ等の多重モード型フィルタである。DMS1およびDMS2は各々3つのIDT18aから18cを有している。IDT18aから18cは弾性波の伝搬方向に配列されている。DMS1のIDT18bの一端は直列共振器S5に電気的に接続され、他端は接地されている。DMS1のIDT18aおよび18cの一端はそれぞれDMS2のIDT18aおよび18cの一端に電気的に接続されている。DMS1およびDMS2のIDT18aおよび18cの他端は接地されている。DMS2のIDT18bの一端は受信端子Rxに電気的接続され、他端は接地されている。
【0032】
送信フィルタ50は送信端子Txに入力する高周波信号のうち送信帯域の信号を共通端子Antに通過させ、他の周波数帯域の信号を抑圧する。受信フィルタ52は共通端子Antに入力する高周波信号のうち受信帯域の信号を受信端子Rxに通過させ、他の周波数帯域の信号を抑圧する。送信フィルタ50がラダー型フィルタを含み、受信フィルタ52が多重モード型フィルタを含む例を説明したが、送信フィルタ50が多重モード型フィルタを含み、受信フィルタ52を含んでもよい。送信フィルタ50および受信フィルタ52はいずれもラダー型フィルタを含んでもよい。また、送信フィルタ50および受信フィルタ52内の共振器の個数は適宜設定できる。
【0033】
図7は、実施例1における基板10の平面図である。図7に示すように、圧電基板10aの領域30上に弾性波共振器20aおよび配線22aが設けられている。弾性波共振器20aは直列共振器S5、DMS1およびDMS2を含む。配線22aは弾性波共振器20aと接続されている。配線22cは配線22aと立体交差している。配線22aは共通パッドPant、受信パッドPrxおよびグランドパッドPgndを含む。パッド上にはバンプ26が設けられている。
【0034】
圧電基板10aの領域32上に弾性波共振器20bおよび配線22bが設けられている。弾性波共振器20bは直列共振器S1からS4、並列共振器P1からP3を含む。配線22bは弾性波共振器20bと接続されている。配線22bは共通パッドPant、送信パッドPtxおよびグランドパッドPgndを含む。パッド上にはバンプ26が設けられている。共通パッドPant、送信パッドPtx、受信パッドPrxおよびグランドパッドPgndは、バンプ26を介し共通端子Ant、送信端子Tx、受信端子Rxおよびグランド端子に電気的に接続されている。
【0035】
送信フィルタ50と受信フィルタ52との通過帯域は重ならず、送信フィルタ50の通過帯域は受信フィルタ52の通過帯域より低い。領域30の圧電基板10aの厚さT1を領域32の圧電基板10aの厚さT2より小さくしている。このため、弾性波共振器20aと20bとで、電極指14の膜厚をほぼ同じにし、絶縁膜24の膜厚をほぼ同じしても、弾性波共振器20aの共振周波数を弾性波共振器20bの共振周波数より大きくできる。送信フィルタ50(および受信フィルタ52)内の弾性波共振器20b(および20a)の間の共振周波数の差は小さいため電極指14のピッチL2(またはL1)を異ならせることで対応できる。よって、簡単な製造工程で単一基板10上に共振周波数の大きく異なる弾性波共振器20aおよび20bを形成することができる。よって、単一基板10上に通過帯域の重ならない送信フィルタ50と受信フィルタ52を形成することができる。
【0036】
図5(a)のように、送信フィルタ50の通過帯域が受信フィルタ52の通過帯域より低い場合、領域32および30にそれぞれ送信フィルタ50および受信フィルタ52を形成する。図5(b)のように、送信フィルタ50の通過帯域が受信フィルタ52の通過帯域より高い場合、領域30および32にそれぞれ送信フィルタ50および受信フィルタ52を形成する。図5(a)および図5(b)において、支持基板10bの厚さは例えば50μmから500μmであり、厚さT1およびT2の少なくとも一方はピッチL1およびL2以下である。
【0037】
[実施例1の製造方法]
図8(a)から図9(d)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。図8(a)に示すように、支持基板10bの上面に圧電基板10aの下面を、常温において直接接合する。接合方法は例えば特許文献1と同じである。すなわち、支持基板10bの上面および圧電基板10aの下面を不活性元素のイオンビーム、中性ビームまたはプラズマにより活性化する。その後支持基板10bと圧電基板10aとを常温において接合する。このとき、支持基板10bと圧電基板10aとの間には、例えば1nmから8nmの厚さのアモルファス層10dが形成される。このように、支持基板10bと圧電基板10aとを常温において接合すると、アモルファス層10dが形成される。アモルファス層10dは圧電基板10aに比べ非常に薄いため、支持基板10bと圧電基板10aとは直接接合されている。アモルファス層10dは非常に薄いため図8(a)および図13(b)以外の図では図示を省略する。
【0038】
図8(b)に示すように、圧電基板10aの上面を、例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用い研磨することで平坦化する。図8(c)に示すように、領域30の圧電基板10aを薄膜化する。例えば圧電基板10aの上面にレーザ光54を照射しアブレーション加工する。これにより、領域30の圧電基板10aが薄膜化する。図8(d)に示すように、圧電基板10aの領域30および32上に、例えば真空蒸着法またはスパッタリング法を用い金属膜12を成膜する。図8(e)に示すように、金属膜12を、例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターンニングする。これにより、圧電基板10aの領域30上に弾性波共振器20aおよび配線22aが形成され、領域32上に弾性波共振器20bおよび配線22bが形成される。
【0039】
図9(a)に示すように、弾性波共振器20a、20bを覆うように絶縁膜24を例えば真空蒸着法、スパッタリング法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜する。図9(b)に示すように、絶縁膜24を、例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターンニングする。これにより、弾性波共振器20aおよび20bの電極指14上の絶縁膜24は残存し、配線22aおよび22b上の絶縁膜24が除去される。図9(c)に示すように、配線22a、22bおよび絶縁膜24上に、例えば真空蒸着法、スパッタリング法またはめっき法を用い金属膜27を成膜する。金属膜27は例えば金膜である。図9(d)に示すように、金属膜27を、例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い所望の形状にパターンニングする。これにより、配線22aおよび22b上に低抵抗な金属膜28が形成され、弾性波共振器20aおよび20b上の金属膜27が除去される。
【0040】
図8(a)から図9(d)のように、図8(c)の領域30の圧電基板10aの薄膜化以外の製造工程は、弾性波共振器20aと20bとで共通にできる。よって、共振周波数の異なる弾性波共振器20aおよび20bを容易に製造することができる。
【実施例2】
【0041】
図10(a)および図10(b)は、実施例2に係る弾性波デバイスの断面図である。図10(a)および図10(b)に示すように、中間層10cが支持基板10bと圧電基板10aとの間に挟まれている。中間層10cの弾性率の温度係数は圧電基板10aの弾性率の温度係数と逆符号である。これにより、弾性波共振器20aおよび20bの周波数温度係数(TCF)をより抑制できる。中間層10cとしては例えば酸化シリコン膜、シリコン膜、窒化アルミニウム膜または窒化シリコン膜を用いることができる。中間層10cの厚さは例えばピッチL1およびL2以下である。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0042】
[実施例2の変形例1]
図11(a)および図11(b)は、実施例2の変形例1に係る弾性波デバイスの断面図である。図11(a)および図11(b)に示すように、領域30における中間層10cの厚さT3は領域32における中間層10cの厚さT4より大きい。厚さT1+T3は厚さT2+T4にほぼ等しい。これにより、圧電基板10aの領域30と32との境界の上面はほぼ平坦である。
【0043】
[実施例2の変形例1の製造方法]
図12(a)から図14(b)は、実施例2の変形例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。図12(a)に示すように圧電基板10aを準備する。図12(b)に示すように、領域30の圧電基板10aを薄膜化する。例えば領域30の圧電基板10aの表面にレーザ光54を照射しアブレーション加工する。これにより、圧電基板10aに領域30および32が形成される。図12(c)に示すように、段差を有する圧電基板10a表面上に中間層10cを例えば真空蒸着法、スパッタリング法またはCVD法を用い成膜する。図12(d)に示すように、中間層10cの表面を例えばCMP法を用い平坦化する。
【0044】
図13(a)に示すように、以下上下を逆に示す。図13(b)に示すように、支持基板10bの上面と平坦化した中間層10cの表面とを常温において直接接合する。このとき、図8(a)と同様に、支持基板10bと中間層10cとの間にアモルファス層10dが形成される。中間層10cが酸化シリコン膜の場合、酸化シリコン膜と支持基板10bとの常温接合が難しいことがある。支持基板10bと中間層10cとを常温接合する場合、中間層10cはシリコン膜、窒化アルミニウム膜または窒化シリコン膜等の酸化シリコン膜以外の絶縁膜であることが好ましい。図13(c)に示すように、圧電基板10aの上面を例えばCMP法を用い平坦化する。これにより、支持基板10bと圧電基板10aとの間に中間層10cを有する複合基板である基板10が形成される。
【0045】
図14(a)に示すように、図8(d)および図8(e)と同様に、圧電基板10aの領域30上に弾性波共振器20aおよび配線22aを形成し、領域32上に弾性波共振器20bおよび配線22bを形成する。図14(b)に示すように、図9(a)から図9(d)と同様に絶縁膜24および金属膜28を形成する。
【0046】
実施例2の変形例1では、圧電基板10aの領域30と32との上面が平坦である。このため、圧電基板10a上への弾性波共振器20aおよび20b、配線22aおよび22b等の形成が容易となる。また、圧電基板10aをバンプを用い実装するときにバンプの高さが均一となりバンプの接続性が安定する。
【0047】
実施例1,2およびその変形例によれば、圧電基板10aは、厚さT1(第1の厚さ)を有する領域30(第1領域)と厚さT2(第1の厚さより大きい第2の厚さ)を有する領域32(第2領域)とを有する。領域30上に設けられた弾性波共振器20a(第1弾性波共振器)は、複数の電極指14(第1電極指)を各々有する一対の櫛型電極16(第1櫛型電極)を備え、櫛型電極16の一方の電極指14の平均ピッチL1は厚さT1より大きい。領域32上に設けられた弾性波共振器20b(第2弾性波共振器)、複数の電極指14(第2電極指)を各々有する一対の櫛型電極16(第2櫛型電極)を備える。
【0048】
これにより、図4(a)および図4(b)のように、弾性波共振器20aの共振周波数を弾性波共振器20bの共振周波数より高くできる。よって、共振周波数の異なる弾性波共振器20aおよび20bを容易に形成することができる。また、弾性波共振器20aにおけるスプリアスおよび損失を抑制できる。
【0049】
弾性波共振器20bの櫛型電極16の一方の電極指14の平均ピッチL2を厚さT2より大きくすることで、弾性波共振器20bにおけるスプリアスおよび損失を抑制できる。平均ピッチL2を厚さT2より小さくすることで、弾性波共振器20aと20bとの共振周波数の差を大きくできる。
【0050】
実施例1およびその変形例のように、圧電基板10aは支持基板10bにアモルファス層10dを介し接合されていてもよい。実施例2およびその変形例のように、圧電基板10aと支持基板10bとに挟まれた中間層10cを備えていてもよい。中間層10cの弾性率の温度係数を圧電基板10aの弾性率の温度係数と逆符号とする。これにより、弾性波共振器20aおよび20bの周波数温度係数を抑制できる。
【0051】
実施例2の変形例1のように、圧電基板10aの領域30と支持基板10bとの間の中間層10cの厚さT3(第3の厚さ)は圧電基板10aの領域32と支持基板10bとの間の中間層10cの厚さT4(第4の厚さ)より大きくする。これにより、領域30と32との圧電基板10aの上面(中間層10cの反対側の面)の段差を厚さT1とT2との差より小さくする。これにより、圧電基板10a上の弾性波共振器20aおよび20b等の形成が容易となる。領域30と32との圧電基板10aの上面は製造誤差程度に略平坦であることが好ましい。
【0052】
弾性波共振器20aおよび20bの櫛型電極16が励振する弾性波はSH波であることが好ましい。電極指14がSH波を励振する場合、バルク波が励振されやすい。よって、圧電基板10aの厚さT1をピッチL1より小さくすると、弾性波共振器20aの共振周波数がより高くなる。
【0053】
櫛型電極16がSH波を励振するため、圧電基板10aは、20°以上かつ48°以下のカット角を有するYカットX伝搬タンタル酸リチウム基板であることが好ましい。カット角は、30°以上が好ましく、38°以上がより好ましい。カット角は、46°以下が好ましく、44°以下がより好ましい。
【0054】
図6および図7のように、マルチプレクサでは、受信フィルタ52(第1フィルタ)は、1または複数の弾性波共振器20aを含み、送信フィルタ50(第2フィルタ)は、1または複数の弾性波共振器20bを含む。送信フィルタ50の通過帯域と受信フィルタ52の通過帯域とが重ならない場合、弾性波共振器20aと20bとの共振周波数を大きく異ならせる。このため、圧電基板10aの厚さT1およびT2を異ならせることで共振周波数を異ならせる。これにより、同一圧電基板10aに通過帯域の重ならない送信フィルタ50および受信フィルタ52を容易に形成することができる。
【0055】
マルチプレクサとして、デュプレクサの例を説明したが、トリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。圧電基板10aに厚さが異なる領域を3か所以上設けることで、圧電基板10a上に3個以上の通過帯域の異なるフィルタを形成することもできる。
【0056】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 基板
10a 圧電基板
10b 支持基板
10c 中間層
12 金属膜
14 電極指
16 櫛型電極
20、20a、20b 弾性波共振器
30、32 領域
50 送信フィルタ
52 受信フィルタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図14