(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】エレベーター用の非常運転コントローラ、および複数のエレベーターの非常運転の制御方法
(51)【国際特許分類】
B66B 5/02 20060101AFI20221102BHJP
【FI】
B66B5/02 P
(21)【出願番号】P 2018187264
(22)【出願日】2018-10-02
【審査請求日】2021-09-22
(32)【優先日】2017-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591020353
【氏名又は名称】オーチス エレベータ カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Otis Elevator Company
【住所又は居所原語表記】One Carrier Place,Farmington,Connecticut,U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】宮島 弘光
(72)【発明者】
【氏名】目黒 大輔
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-224469(JP,A)
【文献】特開2004-091140(JP,A)
【文献】特開2010-083629(JP,A)
【文献】特開2008-239291(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0138948(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0260864(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーター用の非常運転コントローラであって、前記コントローラが、他の複数のエレベーターの各非常運転コントローラに、ネットワークを通して接続されており、各コントローラが、ノードを、前記ネットワーク内で構成し、
前記コントローラは、緊急状態を検出した時に、緊急状態検出メッセージを生成して、前記コントローラに隣接するノードを構成する前記ネットワーク内の他のコントローラに送信し、かつ、他のコントローラが緊急状態を検出した時に、緊急状態検出メッセージを、前記ネットワーク内の前記コントローラに隣接するノードを構成する他のコントローラから受信し、
前記緊急状態検出メッセージが、1つのコントローラが前記緊急状態検出メッセージを次の隣接するノードを構成する他のコントローラに送信するたびに1ずつ減らされるように構成された、伝搬数を含み、前記緊急状態検出メッセージが、前記伝搬数が零になるまで継続して送信され、
各非常運転コントローラは、前記緊急状態検出メッセージを前記緊急状態の検出の前に受信した場合に、非常運転を、受信した緊急状態検出メッセージに基づいて、実行するように構成されている、
エレベーター用の非常運転コントローラ。
【請求項2】
前記緊急状態が、地震であり、前記緊急状態検出メッセージが、地震検出メッセージである、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項3】
各非常運転コントローラは、該コントローラが任意の地震検出メッセージを前記地震の検出時に受信していない場合、地震非常運転を、それ自身の地震の検出に基づいて実行する、請求項2に記載のコントローラ。
【請求項4】
前記ネットワーク内の少なくとも1つのコントローラが、昇降路内に設置された地震センサを含む、請求項2に記載のコントローラ。
【請求項5】
前記地震検出メッセージが、P波とS波とを含む検出地震の種類を含み、前記地震検出メッセージがP波を示す場合、前記コントローラが、エレベーターのかごを最も近い階で停止させ、運転を所定時間の経過後再開し、前記地震検出メッセージがS波を示す場合、前記コントローラが、エレベーターの運転を、それが手動でリセットされるまで完全に停止する、請求項2に記載のコントローラ。
【請求項6】
前記地震検出メッセージを生成する前記コントローラが、前記伝搬数を、検出地震の前記種類によって設定し、S波の前記伝搬数が、P波のものよりも小さい値に設定される、請求項5に記載のコントローラ。
【請求項7】
P波の前記伝搬数が、3と5との間の値に設定され、S波の前記伝搬数が、1または2に設定される、請求項6に記載のコントローラ。
【請求項8】
前記コントローラが、
地震信号を地震センサから受信するための信号処理部と、
地震検出メッセージを、前記信号処理部から受信した地震信号に基づいて生成するための、または地震非常運転を、他のコントローラから受信した任意の地震検出メッセージに基づいて実行するための、主制御部と、
前記地震検出メッセージを、前記ネットワーク内で隣接するノードを構成する他のコントローラに送信し、かつ、前記他のコントローラから受信するためのネットワーク制御部と、
を含む、請求項2に記載のコントローラ。
【請求項9】
前記コントローラが、前記ネットワーク内で隣接するノードを構成するエレベーターの配信リストを、緊急状態の検出前に生成するように構成されている、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項10】
前記緊急状態が、洪水である、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項11】
ネットワーク内に接続された複数のエレベーターの非常運転の制御方法であって、各エレベーターが、前記ネットワーク内でノードを構成するものにおいて、
緊急状態を、前記ネットワーク内の少なくとも1つのエレベーターによって検出するステップと、
緊急状態検出メッセージを、前記少なくとも1つのエレベーターによって生成するステップであって、伝搬数を含む、緊急状態検出メッセージを生成するステップと、
前記緊急状態検出メッセージを、前記少なくとも1つのエレベーターの次の隣接するノードを構成する、前記ネットワーク内の他のエレベーターに送信し、前記伝搬数を1ずつ減らすステップと、
非常運転を、前記緊急状態検出メッセージに基づいて実行するステップと、
を備え、
前記緊急状態検出メッセージを送信するステップが、前記伝搬数が零になるまで実行される、方法。
【請求項12】
前記緊急状態が、地震であり、前記緊急状態検出メッセージが、地震検出メッセージである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
エレベーターが任意の地震検出メッセージを前記地震の検出時に受信していない場合、地震非常運転を、それ自身の地震の検出に基づいて実行するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記地震検出メッセージが、P波とS波とを含む検出地震の種類をさらに含み、
前記地震検出メッセージがP波を示す場合、エレベーターのかごを最も近い階で停止させ、運転を所定時間の経過後再開するステップと、
前記地震検出メッセージがS波を示す場合、前記エレベーターの運転を、それが手動でリセットされるまで停止するステップと、
をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記伝搬数を、P波に対しては3と5との間の値に設定するステップと、
前記伝搬数を、S波に対して1または2に設定するステップと、
をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ネットワーク内で隣接するノードを構成するエレベーターの配信リストを定期的に生成するステップ、
をさらに含み、
前記配信リストを生成するステップが、前記ネットワーク内の前記エレベーターの各々によって、緊急状態の検出前に実行され、
前記緊急状態検出メッセージを送信するステップが、前記配信リストに基づいて実行される、
請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記緊急状態が、洪水である、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、ネットワーク内で共に接続されたエレベーターのための非常運転制御に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの地震非常運転制御システムが提案されており、それらでは、さまざまなエリア内のそれらの各エレベーターシステム内に設置された複数の地震センサが、通信ネットワークを介して、遠隔監視センタに接続されており、監視センタは、地震非常運転制御を、ネットワーク内のエレベーターシステムに、取得した地震情報に基づいて提供する。様々なエリア内のエレベーターシステムを、通信ネットワークを通して接続することによって、事前の警告を遠隔地に地震の到着の前に提供するために、取得した地震検出データを活用することができる。しかしながら、大量のデータトラフィックを遠隔監視センタ内の中央管理サーバが取り扱わなければならないため、このような構成は、施設の保守と管理とのための高いコストと複雑さとを追加することになる。
【0003】
また、エレベーター用のいくつかの地震非常運転制御システムが、政府機関によって提供されるリアルタイムの地震情報を、地震非常運転制御をネットワーク内のエレベーターシステムに提供するために活用することは知られている。しかしながら、これらのシステムは、また、政府機関との長期契約と、施設の保守と管理と、のための高いコストを必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、当技術分野内には、地震の到着前に取得した地震伝搬予測データを、高いコストを発生させず、複雑さを必要とせずに活用することができる、エレベーター用の地震非常運転制御システムを提供することに対する必要性が存在する。また、当技術分野内には、エレベーターシステムがそれ自身の地震センサを有するかどうかに関わらず、ネットワーク内に接続された任意のエレベーターシステムが使用することができる、地震非常運転制御システムを提供することに対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によると、エレベーター用の非常運転コントローラが開示される。コントローラは、他の複数のエレベーターの各非常運転コントローラにネットワークを通して接続されており、各コントローラは、ノードをネットワーク内で構成する。コントローラは、コントローラが緊急状態を検出した時に、緊急状態検出メッセージを生成して、そのコントローラに隣接するノードを構成するネットワーク内の他のコントローラに送信し、他のコントローラが緊急状態を検出した時に、緊急状態検出メッセージを、そのコントローラに隣接するノードを構成するネットワーク内の他のコントローラから受信する。緊急状態検出メッセージは、伝搬数を含む。伝搬数は、1つのコントローラが緊急状態検出メッセージを、次の隣接ノードを構成する他のコントローラに送信するたびに、1ずつ減少するように構成されている。緊急状態検出メッセージは、伝搬数が零になるまで継続して送信される。各非常運転コントローラは、コントローラが緊急状態検出メッセージを緊急状態の検出前に受信した場合、非常運転を、受信緊急状態検出メッセージに基づいて実行するように構成されている。
【0006】
いくつかの実施形態では、緊急状態は、地震であり、緊急状態検出メッセージは、地震検出メッセージである。
【0007】
いくつかの実施形態では、各非常運転コントローラは、コントローラが地震検出メッセージを地震の検出時に受信していない場合、地震非常運転を、それ自身の地震の検出に基づいて実行する。
【0008】
いくつかの実施形態では、ネットワーク内の少なくとも1つのコントローラは、昇降路内に設置された地震センサを含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、地震検出メッセージは、P波とS波とを含む検出地震の種類を含み、コントローラは、地震検出メッセージがP波を示す場合、エレベーターのかごを最も近い階で止め、動作を所定時間の経過後に再開し、コントローラは、地震検出メッセージがS波を示す場合、それが手動でリセットされるまで、エレベーターの動作を完全に停止する。
【0010】
いくつかの実施形態では、地震検出メッセージを生成するコントローラは、伝搬数を、検出地震の種類によって設定し、S波の伝搬数は、P波のものよりも小さい数に設定される。
【0011】
いくつかの実施形態では、P波の伝搬数は、3と5との間の値に設定され、S波の伝搬数は、1または2に設定される。
【0012】
いくつかの実施形態では、コントローラは、地震信号を地震センサから受信するための信号処理部と、地震検出メッセージを、信号処理部からの受信地震信号に基づいて生成するための、または地震非常運転を、他のコントローラから受信した任意の地震検出メッセージに基づいて実行するための、主制御部と、地震検出メッセージを、隣接ノードをネットワーク内で構成する他のコントローラに/から、送信/受信するためのネットワーク制御部と、を含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、コントローラは、ネットワーク内で隣接するノードを構成するエレベーターの配信リストを、緊急状態の検出前に、定期的に生成するように構成されている。
【0014】
いくつかの実施形態では、緊急状態は、洪水である。
【0015】
本発明の他の態様によると、ネットワーク内に接続された複数のエレベーターの非常運転を制御する方法が開示される。各エレベーターは、ノードを、ネットワーク内で構成する。方法は、緊急状態をネットワーク内の少なくとも1つのエレベーターによって検出することと、伝搬数を含む緊急状態検出メッセージを少なくとも1つのエレベーターによって生成することと、緊急状態検出メッセージを、少なくとも1つのエレベーターの次の隣接ノードを構成するネットワーク内の他のエレベーターに送信し、伝搬数を1減らすことと、非常運転を緊急状態検出メッセージに基づいて実行することと、を含む。緊急状態検出メッセージを送信することは、伝搬数が零になるまで実行される。
【0016】
いくつかの実施形態では、緊急状態は、地震であり、緊急状態検出メッセージは、地震検出メッセージである。
【0017】
いくつかの実施形態では、方法は、さらに、エレベーターが任意の地震検出メッセージを地震の検出時に受信していない場合、地震非常運転を、それ自身の地震の検出に基づいて実行すること、を含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、地震検出メッセージは、さらに、P波とS波とを含む検出地震の種類を含む。方法は、さらに、地震検出メッセージがP波を示す場合、エレベーターのかごを最も近い階で停止させ、所定時間の経過後、運転を再開することと、地震検出メッセージがS波を示す場合、それが手動でリセットされるまで、エレベーターの運転を停止することと、を含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、方法は、さらに、伝搬数を、P波では3と5との間の値に設定することと、伝搬数を、S波では1または2に設定することと、を含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、方法は、さらに、ネットワーク内で隣接ノードを構成するエレベーターの配信リストを定期的に生成すること、を含む。配信リストを生成することは、ネットワーク内のエレベーターの各々によって、緊急状態の検出前に実行される。緊急状態検出メッセージを送信することは、配信リストに基づいて実行される。
【0021】
いくつかの実施形態では、緊急状態は、洪水である。
【0022】
本開示のこれら及び他の態様は、以下のとおり簡単に説明され得る、以下の説明と添付図面とからより容易に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明による、地震非常運転制御システムの1つの可能な構成を示した概略図である。
【
図2A】本発明の地震非常運転コントローラによって実行される、「確認クエリ」メッセージを送信するための例示的動作のフロー図である。
【
図2B】「確認クエリ」メッセージの一例を示す図である。
【
図3A】本発明の地震非常運転コントローラによって実行される、「確認応答」メッセージを送信するための例示的動作のフロー図である。
【
図4A】エリア内のエレベーターシステムの「配信リスト」を生成するためのプロセスを示す図である。
【
図4B】エリア内のエレベーターシステムの「配信リスト」を生成するためのプロセスを示す図である。
【
図4C】エリア内のエレベーターシステムの「配信リスト」を生成するためのプロセスを示す図である。
【
図4D】エリア内のエレベーターシステムの「配信リスト」を生成するためのプロセスを示す図である。
【
図5A】本発明の地震非常運転コントローラによって実行される、「地震検出」メッセージを送信するための例示的動作のフロー図である。
【
図5B】「地震検出」メッセージの一例を示す図である。
【
図6】本発明の地震非常運転コントローラによって実行される、受信「地震検出」メッセージに応答するための例示的動作のフロー図である。
【
図7】“伝搬数”が2に設定されている、エリア内の地震非常運転制御の例示的伝搬プロセスを示す図である。
【
図8】「伝搬数」が3に設定されている、エリア内の地震非常運転制御の例示的伝搬プロセスを示す図である。
【
図9】複数の検出点が地震を検出している、エリア内の地震非常運転制御の例示的伝搬プロセスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明による、エレベーターシステム1の地震非常運転制御システムのさまざまな構成要素の概略図を示している。エレベーターシステム1は、昇降路3内で垂直に上下移動するように構成されたエレベーターのかご2を含む。エレベーターシステム1は、また、エレベーターのかご2に複数の滑車5を介して動作可能に接続されたカウンターウェイト4を含む。
【0025】
図1に示す通り、エレベーターシステム1は、さらに、昇降路3内に配置された、一次地震波(P波)と二次地震波(S波)とを検出するための、地震センサ6を含む。地震センサ6によって検出された地震波は、建物の最上階の上のマシンルーム8内に一般的に提供される、または建物内の任意の特定の場所に配置された操作制御盤内に提供される、メインコントローラ7に送信される。
【0026】
本発明による、エレベーターシステム1全体の動作を制御するためのメインコントローラ7は、地震非常運転コントローラ9を含む。地震非常運転コントローラ9は、地震信号を地震センサ6から受信するための信号処理部10と、後述するアルゴリズムを実行するための主制御部11と、メッセージを通信ネットワーク13を介して接続された他のエレベーターシステム1に/から送信/受信するためのネットワーク制御部12と、を含む。
【0027】
図1に示す通り、さまざまなエリア内の建物内に設置された複数のエレベーターシステム1は、ネットワーク13を介して接続されており、それらの地震検出データは、互いに共有されている。特定のエリア内のエレベーターシステム1のデータを統合するためのアルゴリズムを展開して、配信リストを地震の検出前に生成することにより、その配信リストを使用して、地震非常運転制御を限定された範囲内で起動させることができる。ネットワーク13は、任意の地震センサ6を有さない建物内に設置されたエレベーターシステム1を含むことができる、ということに留意すべきである。
【0028】
昇降路3内に設置された地震センサ6が地震波を検出すると、検出された信号は、信号処理部10を通して、主制御部11に送信される。主制御部11は、その後、検出メッセージを生成し、検出メッセージを、ネットワーク制御部12を通して、ネットワーク13内の他のエレベーターシステム1に、送信者エレベーターシステム1のコントローラ9内に格納された配信リストに基づいて、送信する。後述する通り、検出メッセージデータは、1つのエレベーターシステム1が検出メッセージを他のエレベーターシステム1から受信するたびに1ずつ減少するように提供された、所定の「伝搬数」を含む。このプロセスは、伝搬数が零になるまで実行される。このプロセスは、地震検出アルゴリズムと呼ばれる。このアルゴリズムを活用することによって、地震非常運転制御信号に応答して制御されるエレベーターを、所定のエリア内に限定することができる。
【0029】
次に、配信リストを生成するための、さまざまなエリア内のエレベーターシステム1のデータを統合するためのアルゴリズムを、
図2Aから3Bを参照して説明する。
【0030】
図2Aは、1つのエレベーターシステム1の地震非常運転コントローラ9によって実行される、「確認クエリ(Ack Query)」メッセージを送信して、近隣のビル内に設置された他のエレベーターシステム1の配信リストを生成するための、例示的動作のフローチャートである。プロセスは、ステップ101において開始し、コントローラ9が、計画されたクエリ時間かどうかを判断する。はいの場合、フローは、ステップ102に進み、確認クエリメッセージが、例えば
図2Bに示す通り、コントローラ9内で生成される。ステップ102では、「送信者ノードID」及び「送信者ノード位置」が、メッセージ内に設定される。その後、ステップ103では、「伝搬範囲」が、最小値に設定される、たとえば、1km範囲内に設定される。「伝搬範囲」は、近隣のエレベーターシステム1の、「確認クエリ」メッセージを生成する送信者エレベーターシステム1からの距離範囲を指す。
【0031】
「ノード」は、ネットワーク内の1つのアクセスポイントを指すことに留意すべきである。したがって、ネットワーク13内の各エレベーターシステム1は、ノードを構成し、次のノードは、ネットワーク13内の送信者エレベーターシステム1に直接接続された、ネットワーク13内の次の隣接エレベーターシステム1を指す。データ、この場合確認クエリメッセージを、次の隣接ノード、つまり、次の隣接するエレベーターシステム1に送信することができる。
【0032】
その後、フローはステップ104に進み、確認クエリメッセージが、すべての隣接ノード、つまり、伝搬範囲内の、送信者エレベーターシステム1に直接接続されたすべてのエレベーターシステム1に送信される。ステップ105では、コントローラは、受信者エレベーターシステム1からの「確認応答(Ack Response)」メッセージを、特定の期間待つ。ステップ106では、確認応答メッセージが返信されない場合、ステップ107で、コントローラは、たとえば、範囲を1kmから2kmに増やすことによって、「伝搬範囲」を増やし、次いで、メッセージを再び送信し(ステップ104)、所定の時間の間待機する(ステップ105)する。このプロセスは、送信者コントローラ9が、特定の量のノード(つまり、近隣エレベーターシステム1)を集め、近隣エレベーターシステム1の配信リストを生成するまで、繰り返すことができる。送信者エレベーター1が特定の量のノードを集めると、次いで、フローは、ステップ108に進み、決定された伝搬範囲内の近隣エレベーターシステム1の配信リストを生成する。ステップ108では、前配信リストには載っていたが現時点で応答のないエレベーターシステム1がある場合、コントローラ9は、そのノードIDを、配信リストから消去することができる。ステップ108が実行されると、アルゴリズムは、ステップ101に戻り、プロセスを繰り返す。
【0033】
図3Aは、「確認クエリ」メッセージを受信した時に、受信者エレベーターシステム1によって実行される例示的動作のアルゴリズムである。このプロセスは、ステップ201において開始し、コントローラ9が、それが「確認クエリ」メッセージを受信したかどうかを判断する。受信していない場合、フローはステップ201に戻り、プロセスを繰り返す。コントローラ9が任意の「確認クエリ」メッセージを受信した場合、コントローラ9は、ステップ202において、送信者のノードを、「送信者ノードID」と「送信者ノード位置」とに基づいて更新し、仕分けする。その後、アルゴリズムは、ステップ203に進み、「伝搬数」を零に減らし、その後、ステップ204において、
図3Bの実施例について示す通り、「受信者ノードID」と「受信者ノード位置」と「伝搬数」とに関するデータを含む「確認応答」メッセージを生成する。ステップ205では、受信者エレベーターシステム1が、送信者エレベーターシステム1の「伝搬範囲」内に位置しているかどうかが判断される。そうでない場合、フローは、ステップ201に戻り、プロセスを繰り返す。受信者エレベーターシステム1が「伝搬範囲」内にある場合、受信者エレベーターシステム1のコントローラ9は、更新した「確認応答」メッセージを、送信者エレベーターシステム1に送り返し、アルゴリズムは、ステップ201に戻り、プロセスを繰り返す。
【0034】
「伝搬数」は、
図2Bに示す通り、「確認クエリ」メッセージを、1つのエレベーターシステムから、ネットワーク内に接続された次の隣接するエレベーターシステム(つまり、ネットワーク内の次のノード)に伝えることができる回数を指す、ということに留意すべきである。したがって、「伝搬数」は、1つのエレベーターシステムが検出メッセージを他の隣接するエレベーターシステムから受信するたびに1ずつ減らされる。この場合では、「伝搬数」は1に設定されているため、「確認クエリ」メッセージは、ネットワーク内の隣接するエレベーターシステムに1度だけ送信される。
【0035】
次に、近隣エリア内のエレベーターシステム1の配信リストを生成するためのプロセスを、
図4Aから4Dを参照して説明する。
【0036】
市内に、ネットワーク13内に共に接続された10個のエレベーターがあり、ID番号0(以降「エレベーター#0」という)を有する1つのエレベーターが、
図2Aに示す通り、1kmの伝搬範囲を用いて、配信リスト生成アルゴリズムを実行していると仮定する。この場合では、
図4Aに示す通り、伝搬範囲が小さすぎ、エレベーターが範囲内にないため、「確認応答」メッセージは、エレベーター#0に返信されない。その後、エレベーター#0は、たとえば、
図4Bに示す通り、1kmから2kmに増やすことによって、「伝搬範囲」を増やす。この場合では、
図4Cに示す通り、3つのエレベーターシステム#1、2、及び3が2kmの伝搬範囲内にあるため、エレベーター#0は、「確認応答」メッセージをエレベーター#1、2、及び3(
図4D)から受信し、その後、これらのデータを結合して配信リストを生成する。ネットワーク13内の全エレベーターシステム1の各々が、このアルゴリズムを生成し、したがって、ネットワーク13内に接続されている各建物が、それ自身の配信リストを含む、ということを理解すべきである。
【0037】
次に、本発明による地震非常運転制御方法を、
図5Aから6を参照して説明する。
【0038】
図5Aは、地震の検出時にコントローラ9によって実行される例示的動作のフローチャートである。プロセスは、ステップ301において開始し、コントローラ9は、地震センサ6が地震を検出したか判断する。地震が発生していない場合、メインコントローラ7は、通常運転モードのままである。地震センサ6が地震信号を検出した場合、フローは、ステップ302に進み、コントローラ9が、
図5Bの例に示す通り、最初の送信者として、それ自身の「地震信号種類」と「検出時間」と「検出ノードID」と「検出ノード位置」とを設定することによって、「地震検出」メッセージを生成する。「地震信号種類」は、地震センサ6によって検出された地震波の種類を指し、後述する通り、基本的にP波及びS波である。「伝搬数」は、最初の送信者コントローラ9によって設定される。「伝搬数」は、「地震検出」メッセージの一部を構成する。フローは、その後、ステップ303に進み、「地震検出」メッセージが、「配信リスト」に挙げた全ノード(つまり、近隣エレベーターシステム1)に送信される。
【0039】
図6は、
図5Bに示す「地震検出」メッセージを近隣エレベーターシステム1から受信した時に、受信者エレベーターシステム1のコントローラ9によって実行される例示的動作のフロー図を示している。プロセスは、ステップ401において開始し、コントローラ9は、任意の「地震検出」メッセージを、近隣ノード、つまりネットワーク13内の任意のエレベーターシステム1から、それが受信したか判断する。受信していない場合、プロセスは、ステップ401に戻り、プロセスを繰り返す。
【0040】
コントローラ9が任意の「地震検出」メッセージを近隣ノード(つまり、近隣エレベーターシステム1)から受信した場合、フローは、ステップ402に進み、コントローラ9は、所定の期間、たとえば、1分以内に受信した、同じ「検出ノードID」を有する(
図5Bの実施例で示した)他の「地震検出」メッセージがあるかどうか確認する。無い場合、コントローラ9は、ステップ403を実行して、「受信済リスト」を検出ノードIDに対して生成し、メッセージ内の「前ノードID」を「受信済リスト」に追加する。
【0041】
一方で、コントローラ9が、同じ「検出ノードID」を有する任意の他の「地震検出」メッセージがあることを1分以内に検出した場合、フローは、ステップ404に進み、現在受信した「地震検出」メッセージ内の「前ノードID」が、同じ検出ノードIDに対する既存「受信済リスト」に追加される。
【0042】
たとえば、エレベーター#0が、地震を最初に検出し、その後、その「地震検出」メッセージが、3つのエレベーター#3、4、及び5に最初に送信され、その後、エレベーター#3、4、及び5の各々が、その「地震検出」メッセージを近隣エレベーター#7に1分以内に送信したと仮定する。この場合では、エレベーター#7は、0として記載された同じ「検出ノードID」を有するが、3、4、及び5として記載された3つの異なる「前ノードID」を有する、3つのアナログメッセージを受信する。したがって、エレベーター#7内のコントローラ9は、ステップ404を実行して、「前ノードID」:3、4、及び5を、「検出ノードID」=エレベーター#0に対する「受信済リスト」に追加する。
【0043】
加えて、「受信済リスト」は、リストが生成された後1分が経過した場合、コントローラ9内の利用可能なメモリを節約するために、消去することができる。
【0044】
ステップ403と404との実行の後に、フローは、ステップ405に進み、「伝搬数」を1減らす。
【0045】
「伝搬数」は、
図5Bに示した「地震検出」メッセージが、エレベーターシステムから、ネットワーク内に接続された次の隣接エレベーターシステム(つまり、ネットワーク内の次のノード)に伝わることができる回数を指す、ということに留意すべきである。したがって、「伝搬数」は、1つのエレベーターシステムが検出メッセージを他の隣接エレベーターシステムから受信するたびに1ずつ減らされる。このプロセスは、伝搬数が零になるまで実行される。伝搬数は、最初の送信者コントローラ9によって決定され、それは、ネットワーク13内に接続されたエレベーター1の総数、ネットワーク13のカバーエリア、地震波の種類、地震のマグニチュード、などによって選択され得る。
【0046】
続いて、フローは、ステップ406に進み、コントローラ9が、地震非常運転を、
図5Bに示す受信「地震検出」メッセージ内の「地震信号種類」に基づいて開始する。
【0047】
主に2つの種類の地震波、つまり、一次地震波(P波)と二次地震波(S波)とがあることが知られている。P波は、より小さな振幅を有し、予震に含まれている。対照的に、S波は、P波よりも著しく大きな振幅を有し、主要な破壊的な波に含まれる。P波は、S波よりもより早く進み、一方で、S波は、比較的遅い速度で進む。したがって、通常、P波とS波との到着の間に時間差があり、地点が地震の震源地から遠く離れるにつれて、S波が検出点に到着するのにはより長い時間がかかる。したがって、エレベーターシステム1を制御して、P波の検出を受信した時に最も近い階で停止することによって、乗員の安全が保障され得る。さらに、検出メッセージの伝達速度はS波の速度よりも早いため、S波によって引き起こされるエレベーターシステム1に対する重大なダメージを、乗員の安全を保障しながら、防ぐことができる。
【0048】
受信した「地震信号種類」が「P」波である場合、コントローラ9は、P波動作を起動させ、乗員が避難することを可能にするために、エレベーターのかご2を、最も近い階で停止させる。エレベーターシステム1の運転は、所定時間の経過後に、自動的に再開することができる。受信した「地震信号種類」が「S」波である場合、コントローラ9は、S波動作を起動させ、信号をメインコントローラ7に即座に送信して、エレベーターの運転を完全に停止する。S波動作は、一般的に、運転を再開するために、エレベーターの保守員によって手動でリセットされ得る。
【0049】
ステップ407では、コントローラ9は、「伝搬数」が零でないかどうかを確認する。「伝搬数」が零になった場合、アルゴリズムは、ステップ401に戻り、プロセスを繰り返す。「伝搬数」が零になっていない場合、アルゴリズムは、ステップ408に進み、コントローラ9が、「前ノードID」と「前ノード位置」とを、受信したノードの(つまり、受信者エレベーターシステムの)自身のノードIDとそれ自身のノード位置とを用いて更新することによって、受信「地震検出」メッセージを更新する。
【0050】
その後、ステップ409では、コントローラ9は、更新した「地震検出」メッセージを、「受信済リスト」に載っているエレベーターシステム1を除いた、「配信リスト」に載っているエレベーターシステム1に送信する。ステップ409の実行後、このアルゴリズムが完了し、ステップ401に戻り、プロセスを繰り返す。
【0051】
各コントローラ9は、地震の検出時にコントローラ9が地震検出メッセージを受信していない場合、地震非常運転を、それ自身の地震の検出に基づいて実行するように構成される、ということに留意すべきである。この点において、コントローラ9は、
図5Aに示す動作を、そのエレベーターシステムの自身の地震非常運転制御と同時に開始することができる。
【0052】
次に、本発明による、ネットワーク内の地震非常運転制御の伝搬プロセスを、
図7から9を参照して説明する。
【0053】
図7は、伝搬数が2に設定されている場合を示している。エレベーター#0が地震を検出すると(ステップA)、エレベーター#0は、「地震検出」メッセージを、ネットワーク13内の次の隣接エレベーター#1、2、及び3(次のノード)に送信し、「伝搬数」は、2から1に減らされる(ステップB)。次いで、受信したエレベーター#1、2、及び3は、さらに、受信した「地震検出」メッセージを、ネットワーク13内のそれらの次の隣接エレベーター#4、5、6、及び7(次のノード)に送信し(ステップC)、「伝搬数」が、1から0に減らされる。この時点で、「伝搬数」が零になったため、地震非常運転の伝搬プロセスは停止し、ステップ(D)に示す通り、通常運転モードのままであるいくつかのエレベーター#8、9、及び10が、ネットワーク13内に共に接続されて残っている。
【0054】
図8は、伝搬数が3に設定されている場合を示している。この場合では、1つのエレベーター#0が地震を検出した時(ステップA)、エレベーター#0は、「地震検出」メッセージを、ネットワーク13内の次の隣接エレベーター#1、2、及び3に送信し、「伝搬数」は、3から2に減らされる(ステップB)。同様に、受信したエレベーターは、さらに、受信「地震検出メッセージ」を、次の隣接エレベーターに、「伝搬数」が零になるまで送信する(ステップC及びD)。ステップEでは、伝搬プロセスが停止し、通常運転モードのままである唯一のエレベーター#10が、エリア内に残っている。
【0055】
本発明によると、「伝搬数」を、カバーするエリア、ネットワーク13に接続されているエレベーターの総数、地震波の種類、地震のマグニチュード、などによって適切に選択することによって、地震非常運転制御信号に応答して制御されるエレベーターを、所定のエリアに限定することができる。たとえば、地震検出メッセージがネットワーク13内で延々と送信されることを防ぐために、P波の「伝搬数」は、3と5との間の値に設定することができ、S波のものは、1または2に設定することができる。S波の伝搬数をP波のものよりも小さい値に設定するという条件で、検出された地震信号に対する任意の「伝搬数」を選択することができる、ということを理解すべきである。
【0056】
図9は、伝搬数が2に設定され、比較的大きな地震が、ネットワーク13によってカバーされるエリアを襲う場合を示している。この場合では、複数のエレベーターシステム#0及び9が、最初に、地震を、わずかな時間差で検出し、「地震検出」メッセージを、次の隣接エレベーターシステム#1、2、及び3と#4、5、6、8、及び10とに、それらの各配信リストに基づいて送信する(ステップB)。したがって、地震非常運転制御信号が、ネットワーク内のエレベーターシステム全体に即時に送信され(ステップC)、各エレベーターシステムは、すぐに、地震非常運転を開始する(ステップD)。
【0057】
同様に、エレベーターシステム#1、2、及び3の各々が、地震を、エレベーターシステム#0による地震の検出後に検出すると、エレベーターシステム#1、2、及び3の各々は、また、「地震検出」メッセージを、最初の送信者として生成する。
【0058】
本発明によると、地震非常運転制御は、いわゆるピアツーピア方法で制御され、ネットワーク13内の各エレベーターシステム1は、それ自身の地震非常運転制御を実行し、それらの地震検出データは、ネットワーク13内の全エレベーターシステム1によって共有される。言い換えると、中央管理サーバがネットワーク内に無い。したがって、本発明による地震非常運転制御を活用することによって、施設の保守と管理とに必要なコストと複雑さを、遠隔監視センタ内の中央管理サーバを活用する従来の地震非常運転制御システムと比較して、著しく減らすことができる。
【0059】
さらに、本発明による地震非常運転制御は、エレベーターシステムがそれ自身の地震センサを有するかどうかに関わらず、ネットワーク内に接続された任意のエレベーターシステムに適用することができる。
【0060】
加えて、本発明による非常運転制御システムは、また、他の緊急状態にも適用することができる。たとえば、非常運転コントローラ9は、昇降路3内に設置された、集中豪雨、などによる洪水状態を検出するための洪水センサを含むことができる。この場合では、コントローラ9は、乗員の安全を保障するために、洪水状態を示す緊急状態検出メッセージを、ネットワーク13内の他のコントローラ9に、非常運転制御を豪雨エリア内に位置するさまざまなエレベーターシステム1に提供するために、送信することができる。
【0061】
本発明を、図に示した例示的実施形態を参照して、具体的に示し説明したが、当業者にとって、さまざまな変更が、添付の特許請求の範囲で開示する本発明の精神と範囲とから逸脱することなく、なされ得る、ということが理解できるであろう。