(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】椅子
(51)【国際特許分類】
A47C 7/40 20060101AFI20221102BHJP
【FI】
A47C7/40
(21)【出願番号】P 2018210905
(22)【出願日】2018-11-08
【審査請求日】2021-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2018190577
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000139780
【氏名又は名称】株式会社イトーキ
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】春田 大輔
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0190564(US,A1)
【文献】特表2003-521956(JP,A)
【文献】特表平08-507935(JP,A)
【文献】特開2013-103065(JP,A)
【文献】特表2010-505507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 7/40-7/48,1/02,3/025
B60N 2/64
A61G 5/00-5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
座と背もたれ、及び、前記背もたれの後ろに配置されたバックフレームを備えており、前記背もたれは前記バックフレームに取り付けられている構成であって、
前記バックフレームは、左右中間部に位置した背支柱と、前記背支柱の下端から左右両側に張り出して先端が自由端になっているロアサポートとを備えていて、前記ロアサポートの先端部に前記背もたれの下端部が連結されており、
かつ、前記ロアサポートの上下両面が、背面視において左右外側に向けて上にずれるように湾曲した曲面に形成されており、更に、前記バックフレームの下端面は背面視で下向きに膨れた湾曲面になっている、
椅子。
【請求項2】
前記背もたれは、左右のサイドメンバーとアッパメンバー及びロアメンバーを有する前後開口の背フレームと、前記背フレームに張られたメッシュ材とを有しており、
前記背フレームにおけるロアメンバーの上面は、背面視で下方に膨れる湾曲面になっている一方、
前記左右のロアアームの上面は、前記背フレームにおけるロアメンバーの上面の湾曲面と略同じ形態の湾曲面になっている、
請求項1に記載した椅子。
【請求項3】
前記左右のロアサポートは、前記座の後部を左右両側から包むように平面視において湾曲した状態で手前に延びていて、側面視においては手前に向けて高くなるように傾斜しており、
かつ、前記左右のロアサポートは、平面視において厚さが前端に向けて小さくなるように形成されている、
請求項1又は2に記載した椅子。
【請求項4】
前記座の後部でかつ左右両側部に上向きの突起を設けて、前記座の背面視形状を、前記左右ロアサポートの上面の背面視形状と略同じ形状に湾曲した形状に形成している、
請求項1~3のうちのいずれかに記載した椅子。
【請求項5】
前記バックフレームの上端は、前記背支柱の上端から左右両側に張り出したアッパサポートによって構成されていて、前記背もたれの上端の左右端部が前記アッパサポートの両端部に連結されており、従って、前記背もたれは、前記アッパサポートとロアサポートとによって4点支持の状態で前記バックフレームに連結されており、
前記背もたれとアッパサポートとの間、及び、前記背もたれとロアサポートとの間にそれぞれ空間が空いている、
請求項1~4のうちのいずれかに記載した椅子。
【請求項6】
座と背もたれ、及び、前記背もたれの後ろに配置されたバックフレームを備えており、前記背もたれは前記バックフレームに取り付けられている構成であって、
前記バックフレームは、左右中間部に位置した背支柱と、前記背支柱の下端から左右両側に張り出して先端が自由端になっているロアサポートとを備えていて、前記ロアサポートの先端部に前記背もたれの下端部が連結されており、
かつ、前記ロアサポートの先端部が肘掛け装置の取付け部になっている、
椅子。
【請求項7】
前記ロアサポートにおける前端部の外側面に、当該外側面の外側にはみ出るように前記肘掛け装置のベース体が取付けられている、
請求項6に記載した椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
椅子は様々な形態があり、オフィスで多用されている回転椅子は、キャスタを備えた脚装置、座、背もたれを主要要素としており、オプション品として肘掛け装置やヘッドレスト、ハンガーなどが取付けられている。
【0003】
椅子において、背もたれの支持構造は様々であり、背もたれを、その後ろに配置されたバックフレームに取り付けることも広く行われている。例えば、特許文献1には、バックフレームを背面視で逆V形に形成して、このバックフレームに、前向きのアーム部材を介して背もたれが取付けられている。
【0004】
また、特許文献1では、バックフレームは、左右中間部に位置した上下長さの背支柱と、背支柱の下部に設けた水平フレームとで構成されており、背支柱の上端に背もたれの上端部の左右中間部が取付けられて、水平フレームの左右両端部に、背もたれの左右側部が取付けられている。
【0005】
背もたれが、前後に開口した背フレームにメッシュ材を張った構造になっている場合、バックフレームを前後に開口した枠状に構成して、このバックフレームに背フレームを連結することも広く行われている。
【0006】
また、椅子に肘掛け装置を設ける場合、座部の下面に取付けたり、背もたれが取り付く傾動フレームに取り付けたり、背もたれに取り付けたりしており、特許文献1では、脚支柱の状態に固定されたベース部に肘掛け装置を取付けている。すなわち、特許文献において、肘掛け装置は肘支柱と肘当てとを備えており、肘支柱をベース部に立設して、肘支柱の状態に肘当てを設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さて、椅子は人が使用するものであり、その外観は、商品価値を決める重要な要素である。従って、椅子においては、外観は機能と不離一体の関係にある。端的には、椅子において、外観は機能が結実したものである。そして、特許文献1,2とも、それぞれ独自の設計思想に基づいてバックフレームや背もたれの外観がデザインされている。
【0009】
そこで、特許文献1を取り上げてみると、特許文献1は、バックフレームは背支柱とロアフレームとで十字状又は逆T字状に形成されており、シンプルな外観であるが、シンプル過ぎて重厚性に欠けると云える。
【0010】
本願発明は、このような現状に鑑み成されたものであり、特許文献1のように、左右中間部に背支柱が配置されたバックフレームを有する椅子において、機能面とデザイン面との両面から品質を向上させることを課題としている。
【0011】
また、肘掛け装置について見ると、特許文献1のように肘支柱を有する構成では、肘支柱が空間に占める割合が大きいため、デザイン的に見て、椅子全体として纏まりに欠ける面がある。また、肘当てを水平動させる場合、肘支柱方式では、水平回動や前後動などが可能であるに過ぎないため、可動範囲が必ずしも広くないという問題もある。本願発明は、肘掛け装置の取付け構造の改良も課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は様々な構成を備えており、典型的な構成を各請求項で特定している。このうち請求項1の発明は、
「座と背もたれ、及び、前記背もたれの後ろに配置されたバックフレームを備えており、前記背もたれは前記バックフレームに取り付けられている」
という基本構成において、
「前記バックフレームは、左右中間部に位置した背支柱と、前記背支柱の下端から左右両側に張り出して先端が自由端になっているロアサポートとを備えていて、前記ロアサポートの先端部に前記背もたれの下端部が連結されており、
かつ、前記ロアサポートの上下両面が、背面視において左右外側に向けて上にずれるように湾曲した曲面に形成されており、更に、前記バックフレームの下端面は背面視で下向きに膨れた湾曲面になっている」
という構成が付加されている。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1において、
「前記背もたれは、左右のサイドメンバーとアッパメンバー及びロアメンバーを有する前後開口の背フレームと、前記背フレームに張られたメッシュ材とを有しており、
前記背フレームにおけるロアメンバーの上面は、背面視で下方に膨れる湾曲面になっている一方、
前記左右のロアアームの上面は、前記背フレームにおけるロアメンバーの上面の湾曲面と略同じ形態の湾曲面になっている」
という構成になっている。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1又は2において、
「前記左右のロアサポートは、前記座の後部を左右両側から包むように平面視において湾曲した状態で手前に延びていて、側面視においては手前に向けて高くなるように傾斜しており、
かつ、前記左右のロアサポートは、平面視において厚さが前端に向けて小さくなるように形成されている」
という構成になっている。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1~3のうちのいずれかにおいて、
「前記座の後部でかつ左右両側部に上向きの突起を設けて、前記座の背面視形状を、前記左右ロアサポートの上面の背面視形状と略同じ形状に湾曲した形状に形成している」
という構成になっている。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1~4のうちのいずれかにおいて、
「前記バックフレームの上端は、前記背支柱の上端から左右両側に張り出したアッパサポートによって構成されていて、前記背もたれの上端の左右端部が前記アッパサポートの両端部に連結されており、従って、前記背もたれは、前記アッパサポートとロアサポートとによって4点支持の状態で前記バックフレームに連結されており、
前記背もたれとアッパサポートとの間、及び、前記背もたれとロアサポートとの間にそれぞれ空間が空いている」
という構成になっている。
【0017】
請求項6の発明は、請求項1と同じ基本構成において、
「前記バックフレームは、左右中間部に位置した背支柱と、前記背支柱の下端から左右両側に張り出して先端が自由端になっているロアサポートとを備えていて、前記ロアサポートの先端部に前記背もたれの下端部が連結されており、
かつ、前記ロアサポートの先端部が肘掛け装置の取付け部になっている」
という構成になっている。
【0018】
更に、請求項7の発明は,請求項6において、
「前記ロアサポートにおける前端部の外側面に、当該外側面の外側にはみ出るように前記肘掛け装置のベース体が取付けられている」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0019】
本願発明では、背もたれの下端は、バックフレームにおける左右のロアサポートに対して、両端支持の状態で取付けられている。従って、背もたれを伸び変形可能な構成とすることにより、着座者の押圧力が背もたれに掛かったときに、背もたれの下端が後ろ向きに伸び変形することが許容されている。従って、クッション性・フィット性を向上させることが可能になっている。
【0020】
そして、バックフレームの下面は下向きに膨れた曲面になって、左右のロアサポートの上面で構成される面も下向きに膨れた曲面になっているため、バックフレームは、背面視で(正面視も同じ)錨の形態か、丸みを帯びた矢印の形態を成しており、シンプルでありながら安定感に優れた美観を呈するに至っている。すなわち、背もたれの下端を連結する機能は確保しつつ、高いデザイン性を獲得するに至っている。
【0021】
請求項2の発明はメッシュタイプの背もたれに適用したものであるが、背フレームにおけるロアメンバーの上面の形状と、バックフレームにおける左右ロアサポートの上面の形状とが揃っているため、背フレームとバックフレームとのデザインが統一されて、まとまりのあるスッキリとした外観を呈している。従って、美観を更に向上できる。
【0022】
請求項3の発明では、ロアサポートは座の後部を包むように湾曲していることに加えて、ロアサポートは前端に向けて薄くなっているため、座とロアサポートとのデザイン的な統一性を保持させつつ、ロアサポートが目立ち過ぎることを防止して、シンプルな
外観になっている。従って、左右のロアサポートが座の後部を包むように配置されていながら、ロアサポートと座との一体感が形成されて、高い美的効果を発揮しているといえる。
【0023】
また、背もたれの下端部とロアサポートとの間に空間を形成できるため、背もたれの下端部が着座者の押圧力によって後ろ向きに延び変形することが許容されて、フィット性とクッション性との向上に貢献できる。
【0024】
更に、ロアサポートには肘掛け装置を取り付けることが可能であるが、ロアサポートは手前に延びているため、肘掛け装置の取付け位置をできるだけ前に寄せることができる。従って、肘掛け装置の前後長さをできるだけ小さくして、肘掛け装置の取付け部に対するモーメントを抑制できる。その結果、肘掛け装置の支持強度を向上できる。
【0025】
請求項4の構成では、いわば、バックフレームのロアサポートが座の左右後部の後ろに隠れる状態になるため、ロアサポートと座との一体性が高まって、座とバックフレームとの外観の統一性がとられている。従って、スッキリとした外観を形成して高い美的効果を発揮しており、商品価値を向上できる。
【0026】
また、請求項4の構成では、座の後部に設けた左右の突起によって着座者の臀部が左右から挟まれるような状態になるため、着座者の臀部が座によって包まれたような状態にななる。従って、着座者の身体の安定性を向上できる。
【0027】
特に、実施形態のように背もたれが大きく捩じれ変形する構成の場合は、臀部が座によってホールドされるため、着座者は、臀部の安定性を確保した状態で上半身を大きく捩じることができる。従って、請求項4の構成は、座とロアサポートとのデザイン的な統一にによる美的効果のみでなく、着座者の動きを確保してフィット性を向上できるという機能的な利点も有している。
【0028】
請求項5の発明では、背もたれは4点支持の状態でバックフレームに連結されているため、背もたれを弾性変形する材料で構成することにより、着座者の押圧力によって後ろ側に凹むように背もたれ伸び変形させることができる。従って、フィット性とクッション性とを向上させて、使い心地を向上できる。
【0029】
請求項6のように、肘掛け装置をロアサポートの先端部(自由端部)に取付ける構造を採用すると、肘掛け装置は座の上方のエリアに配置されるため、肘支柱を設けた場合に比べて座の左右側方はスッキリとする。従って、美観に優れたものとすることができる。また、実施形態のように水平旋回できる中間アームを取り付けることも容易であるため、肘当ての水平旋回エリアを広くすることも容易である。
【0030】
肘掛け装置は、例えばロアサポートの先端部の上面に取り付けるといったことも可能であるが、この場合は、背もたれとの干渉を防止するために設計が厄介になる等の問題があり得る。これに対して、請求項7のようにロアサポートの外側面に取り付けると、取付けは容易である。また、肘掛け装置を座の左右外側に配置することも容易であるため、合理的である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】第1実施形態の椅子を示す図で、(A)は前方斜視図、(B)は後方斜視図、(C)は背部のみの後方斜視図である。
【
図2】(A)は正面図、(B)は背面図、(C)は背部のみ背面図、(D)は背部のみの側面図である。
【
図4】(A)は骨組みを示す斜視図、(B)は後方斜視図、(C)は分離斜視図である。
【
図5】(A)は座部の分離斜視図、(B)座部の構成部材の分離側面図、(C)は背支柱とセンターカバーとの分離斜視図である。
【
図6】(A)は後ろから見た分離斜視図、(B)(C)は背もたれの動きを示す平面図である。
【
図7】(A)は主要部材の分離正面図、(B)は座とバックフレームとの関係を示す正面図、(C)は分離背面図、(D)はバックフレームの平面図である。
【
図8】(A)は後ろから見た分離斜視図、(B)は背もたれの下端とバックフレームとの連結関係を示す分離斜視図、(C)は背もたれの下端部とバックフレームとの連結部の縦断側面図、(D)は背もたれの上端部とバックフレームとの連結部の縦断側面図である。
【
図9】(A)はバックフレームと背面カバーとを分離した状態で後方から見た斜視図、(B)はバックフレームと背面カバーとを分離した状態で前方から見た斜視図、(C)はアッパサポートの端部を前方から見た斜視図、(D)はロアサポートの端部を前方から見た斜視図である。
【
図10】第2実施形態であるメッシュタイプの椅子を示す図で、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は平面図である。
【
図11】第2実施形態を示す図で、(A)は正面図、(B)は背面図である。
【
図12】(A)は第2実施形態の前方分離斜視図、(B)は背支柱とセンターカバーとの別例の平面図である。
【
図13】第2実施形態を示す図で、(A)は後方分離斜視図、(B)はアッパサポートの端部の斜視図、(C)はロアサポートの端部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下では、方向を特定するため前後・左右の文言を使用するが、これの方向は、普通に着座した人から見た状態として特定している。正面視方向は、着座者と対向した方向である。
【0033】
(1).第1実施形態の概要
まず、第1実施形態の概要を説明する。本実施形態の椅子は、オフィス等で多用されている回転椅子に適用している。
図1,2に示すように、椅子は、主要部材として、座1と背もたれ2、背もたれ2が取り付けられたバックフレーム3、及び脚装置4を備えている。また、背もたれ2の後ろにはランバーサポート装置5が配置されている。また、椅子は、オプション品として、肘掛け装置6とヘッドレスト(或いはショルダーレスト)7を備えている。
【0034】
例えば
図1に示すように、脚装置4は、キャスタを備えた枝足の群を有している。また、
図5に示すように、中央部に配置した脚支柱(ガスシリンダ)8にベース体9を固定し、ベース体9に、バックフレーム3がジョイント部材10を介して後傾動自在に連結されている。正確に述べると、
図4(A)(C)に示すように、バックフレーム3の下端には前向き部3aが一体に形成されており、前向き部3aがジョイント部材10に固定されて、ジョイント部材10が、
図5(B)のとおり、ベース体9に後傾動自在に連結されている。いずれにしても、本実施形態の椅子は、背もたれ2が弾性手段に抗して後傾動するロッキングタイプである。
【0035】
図5に大まかに示すように、ベース体9には、中間金具11を介して座アウターシェル12が後退動可能に取付けられており、座アウターシェル12の後部とジョイント部材10とが、相対回動可能に連結されている。従って、背もたれ2の後傾動に連動して座1が後退する。座1は、座アウターシェル12に取付けられている。なお、座アウターシェル12には、座1の前後長さを調節するためのスライド部12a(
図5(A)参照)が取付けられている。
【0036】
本実施形態の背もたれ2は、
図1(C)から理解できるように、合成樹脂製の背板(背インナーシェル)2aの表裏にクッション材13を張って、表裏の全体を袋状の表皮材で覆った構造になっている。
図1(A)(B)、
図2(A)(B)などの多くの図では、クッション材13は省略して背板2aのみを表示している。
【0037】
背板2aは、着座者がもたれ掛かることによる押圧力によって容易に撓み変形する強度になっている。そして、特に着座者の腰部の後ろの部位に、変形を容易化するために多数の横長スリットを形成している。従って、背もたれ2は、ランバーサポート装置5によって容易に変形する。また、背板2aは、後ろ向きに凹むようにも変形し得る。
【0038】
(2).バックフレーム
例えば
図6に示すように、バックフレーム3は、左右中間部に位置した上下長手の背支柱15と、その上端に水平旋回可能に取付けた左右長手のアッパサポート16と、背支柱15の下端に一体に設けた左右のロアサポート17とを有している。当然ながら、アッパサポート16の左右両端とロアサポート17の先端とは自由端になっている。背支柱15及びアッパサポート16は、合成樹脂製である(アルミダイキャスト品や板金加工品も採用できる。)。
【0039】
なお、本実施形態では、背支柱15とロアサポート17とは、背支柱15の下端から左右のロアサポート17が分岐している態様として捉えているが、1本のロアサポート17の左右中間部から背支柱15が立ち上がっている態様として捉えることも可能である。
【0040】
例えば
図6のとおり、アッパサポート16は、手前に向けて凹むように(後ろに向けて膨らむように)、平面視で弓なりに反った形態になっており、その左右両端部に、背もたれ2の左右両端部が連結されている。従って、アッパサポート16と背もたれ2との間には大きな空間が空いている。この空間の存在により、背もたれ2の上端部は、着座者の押圧力(体圧)によって後ろ向きに伸び変形する(凹み変形する)ことが許容されている。
【0041】
他方、例えば
図7に明示するように、ロアサポート17は、背面視において上面と下面とが先端に向けて高くなるように湾曲しており、かつ、左右ロアサポート17の下面と背支柱15の下面とで形成される下面(すなわち,バックフレーム3の下面)も、下向きに膨れた湾曲面になっている。従って、バックフレーム3は、全体として錨に似た形態になっている。或いは、丸みを帯びた矢印に似た形態になっているということもできる。
【0042】
ロアサポート17の上部面の曲がり具合は、下面の曲がりの程度がやや大きくなっている。このため、ロアサポート17は、先端に行くに従って上下幅がやや小さくなっている。また、ロアサポート17は、例えば
図1(B)(C)に示すように、平面視では、座の後部を抱くような状態で前向きに延びており、その先端部に肘掛け装置6が取付けられている。
【0043】
図7(D)に明示するように、ロアサポート17は、平面視において先端に向けて幅が小さくなっている。このため、座1の後部を後ろから抱持しつつも、ロアサポート17の外周面が座1の外周面に収束するかのような外観を呈している。
【0044】
例えば
図7(A)(B)に明示するように、座1の後部には、正面視及び背面視において、ロアサポート17の上面の形状と相似形を成すように突部1aを設けている。このため、ロアサポート17の先端が上向きに反っていても、座1との一体感が形成されて、デザイン的に違和感のない状態になっている。座1の突部1aは、着座者の臀部に対するホールド効果も発揮しており、着座者の身体の安定性向上に貢献している。
【0045】
図7(D)から理解できるように、背もたれ2の下面は下向きに膨れた曲面になっているが、背もたれ2の下面の曲面は、バックフレーム3の下面の曲面と略同じ形状になっている。従って、デザイン的な統一がとれている。
【0046】
例えば
図7(C)に示すように、バックフレーム3の背面は、センターカバー18とサイドカバー19とで覆われている。すなわち、センターカバー18は、背支柱15の全体とロアサポート17の一部とを覆っており、サイドカバー19は、ロアサポート17の前半部の背面を覆っている。これらのカバー18,19は、バックフレーム3に手前から挿通したビスによって、バックフレーム3に固定されている。
図9に、バックフレーム3に設けたビス挿通穴20と、センターカバー18に設けたタップ穴21とを表示している。
【0047】
また、
図5(C)に示すように、センターカバー18の左右側縁にリブ18aを前向きに突設する一方、背支柱15の背面には、リブ18aが嵌まる溝18bを形成している。従って、センターカバー18は左右ずれ不能に保持されている。
【0048】
図12(B)に示すように、センターカバー18(及びサイドカバー19)の長手両側縁をテーパ状に形成することも可能である。この場合は、カバー18,19の厚さみが殆ど外観に現れないため、美観の面で有利である。
【0049】
(3).バックフレームと背もたれとの連結構造
図8(A)に示すように、背もたれ2を構成する背板2aの左右両端には下向き鉤状の係止爪22が形成されている一方、バックフレーム3におけるアッパサポート16の左右両端には、係止爪22が上から嵌まり込む係合枠部23が形成されている。
【0050】
また、
図8(B)に示すように、背もたれ2の下端の左右両端部に、四角錐の頭部分を切断した態様(四周各面が四角形の台錘形)のテーパ状角形突起24が後ろ向きに突設されている一方、ロアサポート17の先端部には、テーパ状角形突起24が入り込むテーパ状角形凹所25を形成し、ビス26によって、テーパ状角形突起24をテーパ状角形凹所25に引き込んでいる。
【0051】
ビス26は、ロアサポート17に後ろから挿通している一方、
図8(D)に示すように、背もたれ2のテーパ状角形突起24に前向きの角形ポケット穴27が形成されており、ポケット穴27に回転不能に嵌め入れたナット28にビス26がねじ込まれている。
【0052】
背もたれ2の上端はアッパサポート16の係合枠部23に嵌め込まれているため、左右2本のビスで背もたれ2のテーパ状角形凹所25を引き込むだけで、背もたれ2をバックフレーム3に離脱不能に取り付けることができる。そして、テーパ状角形突起24は、くさび作用によってテーパ状角形凹所25にしっかりと入り込むため、背もたれ2は、2本のビス26によってガタ付きのない状態に固定される。
【0053】
アッパサポート16は手前に向けて凹むように反っているため、アッパサポート16と背もたれ2との間には空間が空いている。ロアサポート17と背もたれ2との間にも、既述のように空間が空いている。また、背もたれ2は、4つのコーナー部がアッパサポート16とロアサポート17とに連結されていて、バックフレーム3に対して4点支持の状態に取付けられている。従って、背もたれ2の左右側部の後ろは開放されている。このため、背もたれ2は、着座者の押圧力によって後ろ向きに凹むように容易に弾性変形し得る。これにより、高いフィット性を確保することができる。
【0054】
なお、背もたれ2を構成する背板2aは、単体の状態で、人が手で簡単に曲げることができる程度の弾性強度になっている。実施形態では、背板2aの前後両面をクッション材13で覆っているが、クッション材13を前面のみに配置することも可能である(但し、実施形態のように後面にも配置すると、背板2aの地肌やスリットなどが後ろから透けて見えない利点がある。)。また、背板2aをクロス等の表皮材のみで覆ったり、背板2aを剥き出しの状態で使用したりすることも可能である。
【0055】
図8(A)に示すように、ヘッドレスト7の下端に後ろ向きの取付け片7aを設けている一方、アッパサポート16には、ヘッドレスト7の取付け片7aが嵌まる取付け穴7bを形成しており、取付け片7aが、図示しないビスでアッパサポート16に固定されている。取付け片7aは、ヘッドレスト7に内蔵した金具に形成している。
【0056】
(4).アッパサポート
アッパサポート16は、背支柱15の上端部に水平旋回可能に連結されている。すなわち、例えば
図1(B)や
図2(B)に示すように、アッパサポート16の左右中間部に下向きロッド31を固定し、この下向きロッド31が、背支柱15に内蔵した軸受け部(図示せず)によって水平可能に保持されている。従って、アッパサポート16は、下向きロッド31を含む軸支手段によって、背支柱15に水平旋回可能に取付けられている。
【0057】
また、詳細は省略するが、下向きロッド31が背支柱15に対して相対的に回転する角度は、軸支手段に設けたストッパー部によって規制されており、かつ、軸支手段は、アッパサポート16を基準姿勢に戻すばね手段を備えている。背支柱15とアッパサポート16との間にある程度の間隔が空いている。このため、下向きロッド31は部分的に露出しているが、この露出部は、エラストマ等の軟質樹脂材からなる弾性カバー32によって覆われている。
【0058】
そして、背もたれ2の左側部又は右側部に着座者の押圧力が作用すると、
図6(B)(C)に示すように、背もたれ2がアッパサポート16の水平旋回に追従して平面視で大きく捩じれ変形する。なお、
図6(B)(C)に表示している平行斜線は、背もたれ2の外形を明示するための措置であり、断面の表示ではない。
【0059】
このようにアッパサポート16の水平旋回によって背もたれ2が大きく捩じれ変形するため、背もたれ2を撓み変形しやすい強度に設定しておくことにより、背もたれ2の強度に誤差があっても、また、使用者の体格が小さい人であって背もたれ2に対する押圧力が小さい場合であっても、背もたれ2を容易に変形させることができる。従って、身体の動きに対する背もたれ2の追従性を格段に向上できる。
【0060】
更に、背もたれ2が全体的にねじれ変形するため、着座者の背中と背もたれ2との密着性を向上できる。その結果、高いフィット性を確保しつつ、身体の動きに対する背もたれ2の追従性を向上できる。これにより、椅子の品質を格段に向上できる。
【0061】
また、本実施形態では、背支柱15が着座者の押圧力によってねじれ変形する強度に設定されているため、背もたれ2は、まず、ばね47の弾性に抗して捩じれ変形し、次いで、背支柱15の弾性に抗して捩じれ変形しうる。このような2段階の捩じれ変形により、背もたれ2は、作用した押圧力の程度に応じて、着座者の身体の動きに的確に追従して変形することができる。従って、高い品質を確保できる。
【0062】
このように、本実施形態では、背もたれ2が大きく捩じれ変形して着座者の快適性を向上できるが、このように背もたれ2の捩じれ変形が可能になっているのは、背もたれ2が4点支持の状態でバックフレーム3に連結されていることを基本として、背もたれ2の下端部はロアサポート17に対して水平旋回不能に連結されている一方、背もたれ2の上端部は水平旋回可能なアッパサポート16に連結されているからである。
【0063】
また、背もたれ2が4点支持の状態でバックフレーム3に連結されていることは、捩じれ変形を捨象しても利点を有している。すなわち、背もたれ2がバックフレーム3に対して4点支持の状態で連結されていると、背もたれ2の上端部も下端部も左右側部も、着座者の押圧力によって後ろ向きに伸び変形し得るため、高いフィット性とクッション性とを得ることができる。
【0064】
例えば
図1に示すように、肘掛け装置6は、ロアサポート17の外側面に取付けられたベース部50と、ベース部50に取付けられた中間リンク51と、中間リンク51の前端に水平旋回可能に取付けられた肘当て52とを有している。
【0065】
詳細は省略するが、ベース部50は、ロアサポート17に固定されたケース部と、ケース部に水平回転自在に取り付けたロータ部とを有しており、ロータ部に、中間リンク51がその後端部を支点にして上下回動するように取付けられている。従って、中間リンク51の上下回動によって肘当て52の高さが調節されて、中間リンク51の水平旋回によって肘当て52の左右位置を変更できる。
【0066】
ベース部50は、ロアサポートに向いて延びるアーム部50aを有しており、アーム部50aは図示しないボルトでロアサポート17の外側面に固定されている。また、アーム部50aに設けた係合突起が、ロアサポート17に形成した係合穴に嵌合している。
【0067】
肘掛け装置6は、その全体が座1よりも上方に配置されているため、座の側方はスッキリとしており、美観に優れている。また、水平旋回自在な中間リンク51を取り付けることも問題ないため、肘当て52の可動エリアは非常に広い。従って、使い勝手がよい。
【0068】
(5).第2実施形態
図10~13では、メッシュタイプに適用した第2実施形態を示している。すなわち、背もたれ2は、前後に開口した背フレーム35にメッシュ材36を張った構造になっており、第1実施形態と同様に、ランバーサポート装置5と肘掛け装置6とヘッドレスト7とを備えている。
【0069】
背フレーム35は合成樹脂製であり、上下に長い左右のサイドメンバー37と、サイドメンバー37の上端に一体に繋がった水平状のアッパメンバー38と、サイドメンバー37の下端に一端に繋がった水平状のロアメンバー39とで構成されており、例えば、椅子に組み付けていない単体の状態で、人が容易に捩じり変形させ得る弾性強度になっている。
【0070】
メッシュ材36は、
図12に明示するテープ材40,41を介して背フレーム35に取付けられている。具体的には、左右の縦長テープ材40には、外向きに突出したボス42が多段に形成されており、このボス42が、サイドメンバー37の内周板に形成された係合溝43に嵌め込まれている。メッシュ材36の縦長縁部は縦長テープ材40の内面に重なっており、背フレーム35のサイドメンバー37は、メッシュ材36の左右端部に重なって後ろからぐるりと巻かれている。
【0071】
他方、
図12に明示するように、上下に配置された左右長手の横長テープ材41には、上下方向の外向きに突出した係止片44が左右方向に並べて形成されている一方、アッパメンバー38とロアメンバー39との対向面には、係止片44が嵌合する係合穴45が形成されている。そして、メッシュ材36の上下端部は、上下の横長テープ材41の内面に固定されており、メッシュ材36の上下端部により、アッパメンバー38及びロアメンバー39が外側からぐるりと巻かれている。
【0072】
このように、背フレーム35の全周はメッシュ材36でぐるりと包まれているため、背フレーム35の素材が露出することを極力抑制して、美観を向上できる。また、テープ材40,41の取付けも容易である。
【0073】
メッシュ仕様の背もたれ2では、背フレーム35の内周が透けて見える。そして、
図11から理解できるように、ロアメンバー39の上面(内面)の背面視形状(正面視形状も同じ)を、バックフレーム3における左右ロアサポート17の上面で形成される曲面とほぼ同じ形状の曲面と成している。このため、ロアメンバー39とロアサポート17とのデザイン的な統一性がとれて、すっきりとした外観を呈している。
【0074】
また、
図11から理解できるように、ロアメンバー39の上面の凹面形状は、座1のうち左右の突部1aを有する後部の凹面形状ともほぼ一致している。従って、座1の後部の形状と、背フレーム35におけるロアメンバー39の形状と、バックフレーム3における左右ロアサポート17の形状とが、統一性をもって形成されている。
【0075】
図13から理解できるように、バックフレーム3に対する背フレーム35の連結構造は、第1実施形態と同じである。すなわち、アッパサポート16に対する連結は、係止爪22と係合枠部23との組み合わせを使用し、ロアサポート17に対する連結は、テーパ状角形突起24とテーパ状角形凹所25の組み合わせを使用している。この実施形態でも、アッパサポート16は背支柱15に対して相対的に水平旋回し、また、背支柱15も、着座者の押圧力によって捩じれ変形し得る。
【0076】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、本願発明は、背もたれが後傾しないタイプの椅子にも適用できる。アッパサポートは、背支柱と相対回転しないように一体化することも可能である。或いは、アッパサポートを左右に分割して、それぞれが背支柱に対して相対回動する構成も採用できる。更に、背支柱がロアサポートに相対的に回転する構成も採用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本願各発明は、椅子に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0078】
1 座
1a 突部
2 背もたれ
2a 背板
3 バックフレーム
6 肘掛け装置
15 背支柱
16 アッパサポート
17 ロアサポート
35 背フレーム
36 メッシュ材
37 背フレームのサイドメンバー
38 背フレームのアッパメンバー
39 背フレームのロアメンバー
40,41 テープ材