(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】構造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B61F 5/52 20060101AFI20221102BHJP
G01B 5/20 20060101ALI20221102BHJP
G01B 5/008 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
B61F5/52
G01B5/20 M
G01B5/008
(21)【出願番号】P 2018214966
(22)【出願日】2018-11-15
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】521475989
【氏名又は名称】川崎車両株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和木 謙治
(72)【発明者】
【氏名】佐野 行拓
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-130874(JP,A)
【文献】特開2016-205909(JP,A)
【文献】特開2002-225706(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03144632(EP,A1)
【文献】特開2006-329745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/52
G01B 5/20
G01B 5/008
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブを備える3次元測定器を用い、前記プローブを、構造物の製造途中の中間品である少なくとも1つのワークと点接触させることにより、前記プローブと前記ワークとの接触点の座標位置を計測する計測ステップと、
前記計測ステップで得られた前記ワークの前記座標位置を、予め用意された設計モデルの対応する座標位置と比較することにより、前記ワークと前記設計モデルとの間に存在するずれ量を算出する算出ステップと、
前記算出ステップで得られた算出結果に基づいて、前記ワークを矯正する歪矯正ステップと、を有
し、
前記算出ステップでは、前記ワークが製造目標とする形状及び寸法を有する平坦面である第1領域と、前記第1領域と同一平面内に位置して前記第1領域の縁端から前記第1領域の外方に延在する平坦面である第2領域とを含む少なくとも1つのモデル面を有する前記設計モデルを用い、前記第1領域の表面に沿った方向と、前記第1領域の表面に垂直な方向とに前記ずれを生じた前記ワークの前記垂直な方向の前記ずれ量を、前記ワークの前記座標位置と、前記設計モデルの前記第2領域の対応する座標位置とを比較することにより算出する、構造物の製造方法。
【請求項2】
プローブを備える3次元測定器を用い、前記プローブを、構造物の製造途中の中間品である少なくとも1つのワークと点接触させることにより、前記プローブと前記ワークとの接触点の座標位置を計測する計測ステップと、
前記計測ステップで得られた前記ワークの前記座標位置を、予め用意された設計モデルの対応する座標位置と比較することにより、前記ワークと前記設計モデルとの間に存在するずれ量を算出する算出ステップと、
前記算出ステップで得られた算出結果に基づいて、前記ワークを矯正する歪矯正ステップと、を有し、
前記ワークは、鉄道車両用台車枠の部品であって、長手方向に垂直な方向に並べて配置された一対の横梁と、前記一対の横梁を接続する一対のツナギ梁とを有し、
前記計測ステップでは、前記ワークの前記一対の横梁と前記一対のツナギ梁とにより囲まれた領域に存在する原点座標と、前記設計モデルの原点座標とを一致させた状態で、前記ワークの前記座標位置を計測する、構造物の製造方法。
【請求項3】
2つの前記ワークの各々について前記計測,算出,及び歪矯正ステップを行った後、前記2つのワークを接合する接合ステップを有する、請求項1又は2に記載の構造物の製造方法。
【請求項4】
前記歪矯正ステップ後、前記計測ステップを再度行い、当該計測ステップで得られた前記ワークの前記座標位置に基づいて、前記ワークの表面に罫書き線を記入する記入ステップを有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の構造物の製造方法。
【請求項5】
前記算出ステップでは、前記ワークの3次元モデルを構築することなく前記ずれ量を算出する、請求項1~4のいずれか1項に記載の構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の台車枠等の構造物を製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の台車枠等の構造物を製造する場合、構造物の製造途中の中間品(以下、単に中間品とも称する。)に、部品を取り付けるための取付部が、機械加工により形成されることがある。
【0003】
取付部は、機械加工時の加工不良を防止するため、中間品の正確な位置に形成される必要がある。中間品に取付部を形成する方法の一つとして、例えば特許文献1に開示された方法が知られている。この方法では、中間品の表面形状をレーザ光により測定して3次元モデルを構築し、この3次元モデルを設計モデルと比較する。これにより両モデルのベストフィットを行い、機械加工を行うべき中間品の座標をレーザ光に基づいて罫書く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記方法では、中間品の表面の膨大な数の測定点に基づいて3次元モデルを構築した後、この3次元モデルを設計モデルとフィッティングさせることによりモデル同士の原点座標を合わせた上で、3次元モデルから特定の位置情報を抽出する必要がある。このため、作業時間が長時間に及ぶと共に作業負担が増大するおそれがある。また、測定を行った現場ですぐに結果を得ることが困難であり、演算作業を円滑に行うために例えば高性能なコンピュータが要求される。
【0006】
そこで本発明は、構造物を製造する場合において、作業時間及び作業負担の軽減を図りながら、設計モデルに対する構造物の製造途中の中間品のずれを調べることにより、中間品に正確に取付部を形成可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る構造物の製造方法は、プローブを備える3次元測定器を用い、前記プローブを、構造物の製造途中の中間品である少なくとも1つのワークと点接触させることにより、前記プローブと前記ワークとの接触点の座標位置を計測する計測ステップと、前記計測ステップで得られた前記ワークの前記座標位置を、予め用意された設計モデルの対応する座標位置と比較することにより、前記ワークと前記設計モデルとの間に存在するずれ量を算出する算出ステップと、前記算出ステップで得られた算出結果に基づいて、前記ワークを矯正する歪矯正ステップと、を有する。
【0008】
上記方法によれば、例えば、中間品の表面の膨大な数の位置情報に基づいて3次元モデルを構築することなく、計測ステップで得られたワークの座標位置と、設計モデルの対応する座標位置とを比較することで、前記ずれ量を算出できる。
【0009】
このように上記方法によれば、前記ずれ量を算出するためには中間品の3次元モデルを構築する必要がなく、必要最小限の座標位置の計測データを用いればよい。このため、作業時間及び作業負担の軽減を図りながら、必要に応じて迅速にワークを矯正できる。よって、比較的短時間でステップを進めることができ、ワークの正確な位置に取付部を迅速に形成できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、構造物を製造する場合において、作業時間及び作業負担の軽減を図りながら、設計モデルに対する構造物の製造途中の中間品のずれを調べることにより、中間品に正確に取付部を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る3次元測定器とワークとの斜視図である。
【
図2】
図1の3次元測定器を用いた構造物の製造方法のフローチャートである。
【
図3】ワークと設計モデルとの座標合わせを行う際に用いる
図1のワークの各位置と原点座標とを示す斜視図である。
【
図4】
図1の3次元測定器の表示部の表示内容を示す図である。
【
図5】
図1の表示部に表示された変形例の設計モデルを示す図である。
【
図6】
図5の設計モデルと
図1のプローブとの位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態及び変形例について、図を参照して説明する。
(実施形態)
図1は、実施形態に係る3次元測定器1とワークWとの斜視図である。
図1に示すように、3次元測定器1は一例としてアーム式であり、アームユニット2とコンピュータ3とを備える。アームユニット2は、多軸(一例として6軸)式であり、連結された複数のアーム2a~2dを有する。最も先端側のアーム2dには、長尺状のプローブ2eが設けられている。プローブ2eには、球状に形成されてワークWと接触する先端部2fが設けられている。プローブ2eの先端部2fは、オペレータにより手動で移動される。
【0013】
アームユニット2は、ベース台2gと複数の関節部分とを更に有する。ベース台2gは、ワークWの上面、又は床面等に載置される。各関節部分では、隣接する2つのアーム2a~2dが所定の回転軸回りに相対的に回転する。各間接部分には、エンコーダが内蔵されている。隣接する2つのアーム2a~2dの回転量は、エンコーダにより検出され、その検出信号が、ケーブル4による有線通信、又は無線通信によりコンピュータ3に入力される。
【0014】
これにより3次元測定器1では、オペレータがプローブ2eの先端部2fの位置を手動で移動させて、ワークWの表面に先端部2fを点接触させることにより、当該接触点における3次元の座標位置を測定することが可能になっている。
【0015】
コンピュータ3は、一例としてパーソナルコンピュータであり、CPU、ROM、及びRAMの他、オペレータが入力する情報を受け付ける入力部3aと、オペレータに所定情報を表示する表示部3bとを有する。
【0016】
ROMには、制御プログラムが格納されている。RAMは、所定情報を記憶する。この所定情報には、入力部3aを介して入力される設定情報の他、アームユニット2により計測されたワークWの複数の座標位置についての情報と、ワークWの設計図である3次元の設計モデル(3DCG、
図4参照)10のデータとが含まれている。なお、アーム式の3次元測定器1としては、例えば、ファロージャパン株式会社製ポータブル3次元測定器「FARO QUANTUM」を使用できる。
【0017】
コンピュータ3のCPUは、制御プログラムに基づいて、アームユニット2により計測されたワークWの複数の位置情報を読み込むと共に、この位置情報が示す座標位置を、ワークWの設計モデル10が置かれたモデル空間(仮想空間)内の座標にプロットし、表示部3bに表示させる。
【0018】
ワークWは、構造物の製造途中の中間品であり、構造物は、一例として鉄道車両用台車枠である。ワークWは、円筒状の一対の横梁W1,W2と、長尺状の一対のツナギ梁W3,W4とを有する。横梁W1,W2は、平行に配置され、横梁W1,W2の長手方向に離隔した2カ所で、一対のツナギ梁W3,W4により接続されている。
【0019】
ワークWには、一例として、艤装品等の別部品が取り付けられる。ワークWの表面の所定位置には、この別部品を取り付けるための取付部が形成される。取付部は、NC旋盤等の機械加工機により精密に形成される。このため、取付部の形成に先立って、必要に応じてワークWに存在する歪を矯正した後、ワークWの表面の取付部を形成すべき適切な位置を確認する必要がある。
【0020】
以下、3次元測定器1を用いて、ワークWに存在する歪を矯正し、ワークWの表面の取付部を形成すべき位置の計測確認を行い、ワークWの取付部形成位置を適切に機械加工するために必要な座標位置を示す罫書き線をワークWの表面に記入して、機械加工によりワークWの表面に取付部を形成する構造物の製造方法を例示する。この製造方法は、計測ステップ、算出ステップ、及び歪矯正ステップを有する。
【0021】
計測ステップでは、プローブ2eを備える3次元測定器1を用い、プローブ2eを、構造物の製造途中の中間品である少なくとも1つのワークWと点接触させることにより、プローブ2eとワークWとの接触点の座標位置を計測する。本実施形態の計測ステップでは、プローブ2eが設けられたアーム2a~2dを備える3次元測定器1を用い、アーム2a~2dのプローブ2eを少なくとも1つのワークWと点接触させることにより、プローブ2eとワークWとの接触点の座標位置を計測する。
【0022】
算出ステップでは、計測ステップで得られたワークWの座標位置を、予め用意された設計モデル10の対応する座標位置と比較することにより、ワークWと設計モデル10との間に存在するずれ量を算出する。このずれ量は、ワークWの形状が、設計モデル10の形状に対して、どの方向にどれだけずれているかについての情報を含む。
【0023】
算出ステップは、座標合わせステップ、部分計測ステップ、及び表示ステップをサブステップとして含む。座標合わせステップでは、ワークWの座標位置と設計モデル10の対応する座標位置とを位置合わせする。部分計測ステップでは、前記位置合わせが行われた後、ワークWと設計モデル10との対応する各部のずれ量を算出する。表示ステップでは、部分計測ステップの算出結果を表示する。
【0024】
歪矯正ステップでは、算出ステップで得られた算出結果に基づいて、ワークWを矯正する。本実施形態の歪矯正ステップでは、算出ステップで得られた算出結果として、ワークWの表面に記入された罫書き線を用いる。
【0025】
本実施形態の製造方法は、更に、2つのワークの各々について計測,算出,及び歪矯正ステップを行った後に、2つのワークを接合する接合ステップを有する。また、歪矯正ステップ後に、計測ステップで得られたワークWの座標位置に基づいて、ワークWの表面に罫書き線を記入する記入ステップを有する。
【0026】
図2は、
図1の3次元測定器1を用いた構造物の製造方法のフローチャートである。
図3は、ワークWと設計モデル10との座標合わせを行う際に用いる
図1のワークWの各位置A1~A4と原点座標C1とを示す斜視図である。
図4は、
図1の3次元測定器1の表示部3bの表示内容を示す図である。
【0027】
まずオペレータは、アームユニット2を適切な場所に載置する。
図1に示すように、本実施形態では、横梁W1,W2とツナギ梁W3,W4とが全体として井桁状に配置されるようにワークWを載置した状態において、ワークWのツナギ梁W4の上面にアームユニット2のベース台2gを載置して固定する。
【0028】
この状態で、オペレータは、アームユニット2のプローブ2eの先端部2fを、ワークWの表面の複数の箇所に接触させる(S1)。このときのワークWの表面との接触箇所の位置及び数は、ワークWを設計モデル10と対比する際に必要なワークWの原点座標C1(
図3参照)を算出できるように、適宜設定される。これによりオペレータは、ワークWの表面の複数の箇所の相対位置を計測してコンピュータ3に記録する。
【0029】
本実施形態では、鉛直(Z)方向から見て横梁W1,W2の長手方向両端にプローブ2eの先端部2fを接触させる。また、一対のツナギ梁W3,W4の対向面M1,M2にプローブ2eの先端部2fを接触させる。これにより計測ステップが行われ、ワークWとプローブ2eの先端部2fとの各接触点の座標が計測される。
【0030】
オペレータは、計測された相対位置に基づいて、設計モデル10の原点座標C0(
図4参照)に対応するワークWの原点座標C1を求めるように、コンピュータ3を操作する。ここではコンピュータ3のCPUは、制御プログラムにより、計測された各接触点の相対位置に基づいて、ツナギ梁W3の対向面M1を含む面内における横梁W1,W2の2つの径方向中心位置A1,A2と、ツナギ梁W4の対向面M2を含む面内における横梁W1,W2の2つの径方向中心位置A3,A4とを求める。そして最小二乗法に基づき、この位置A1~A4から、ワークWの原点座標C1を算出する。
【0031】
なお、この原点座標のC1の算出に際しては、ワークWの製造時にワークWに記入される基準線等も参考にしてよいものとする。また、その他の算出方法の一例として、ワークWのその他の重要部位の位置に基づき、ワークWの原点座標C1を算出してもよいものとする。
【0032】
コンピュータ3のCPUは、モデル空間内において、設計モデル10の原点座標C0と、算出したワークWの原点座標C1とを一致させる。これにより座標合わせステップが行われ、ワークWと設計モデル10との座標位置が合わせられる(S2)。
【0033】
次にオペレータは、ずれ量を測定しようとするワークWの部位の表面に、プローブ2eの先端部2fを接触させ、この接触点の座標位置をコンピュータ3のCPUに計測させる。これにより、ワークWと設計モデル10との対応する各部のずれ量を算出する部分計測ステップが行われる(S3)。
【0034】
具体的に部分計測ステップでは、コンピュータ3のCPUは、モデル空間内にプロットされた接触点の座標位置で、接触点のワークWの表面の法線方向におけるワークWと設計モデル10とのずれ量及びずれ方向を算出する。また、コンピュータ3のCPUは、部分計測ステップで算出した算出結果を表示部3bに表示する(
図4)。これにより表示ステップが行われる。
【0035】
具体的に部分計測ステップでは、オペレータがX,Y,Z方向のうちから選択した方向に沿って、プローブ2eの先端部2fをワークWの表面に点接触させることで、コンピュータ3のCPUにより、接触点のワークWと設計モデル10との各表面の法線方向におけるずれ量が算出される。また表示ステップでは、ワークWと設計モデル10との当該ずれ量が数値として表示部3bに表示されると共に、当該ずれの向きが正負の違いとして(一例として、前記法線方向一方側が正、他方側が負として)表示部3bに表示される。
【0036】
表示ステップは、コンピュータ3のCPUが部分計測ステップの算出結果が得られた直後に瞬時に行われる。よってオペレータは、ワークWが設計モデル10に対してどの方向にどれだけずれているかを瞬時に把握できる。また部分計測ステップでは、オペレータによるコンピュータ3の操作は不要であるため、表示ステップにおける表示部3bの表示内容を確認するためには、オペレータは測定動作を行うだけでよい。
【0037】
本実施形態では、オペレータは、部分計測ステップにおいてコンピュータ3のCPUにより算出され、表示ステップにおいて表示部3bに表示されたワークWの各部位のずれ量及びずれ方向についての情報を、ワークWの表面に記入して、後述するS5でのワークWの矯正を行い易くする。上記したように表示ステップでは、オペレータは表示部3bの表示内容により当該情報を瞬時に確認できる。このため当該記入に際し、オペレータはワークWの表面に当該情報をすぐに記入できる。これにより、当該情報を記入すべきワークWの表面位置を間違う等の問題が発生しにくい。
【0038】
次にコンピュータ3のCPUは、算出ステップで算出した算出結果に基づいて、設計モデル10に対するワークWのずれ量が、予め設定された公差内か否かを判定する(S4)。このとき用いられる公差の値は、ワークWの各部位に応じて予め設定されてコンピュータ3に記憶されている。
【0039】
コンピュータ3のCPUは、S4において、設計モデル10に対するワークWのずれ量が公差内ではない(公差を超えるものである)と判定した場合(S4:N)、オペレータにその旨を通知する。このときの通知は、例えば、警告音と共に、接触点のワークWと設計モデル10との各表面の法線方向における上記したずれ量を表示部3bに表示することで行われる。これによりオペレータは、ワークWの矯正が必要な場所を即座に確認し、当該場所を示す情報をワークWに記入できる。オペレータは、その記入内容を基にワークWを矯正する(S5)。これにより歪矯正ステップが行われる。
【0040】
ここで、歪矯正ステップにおけるワークWの矯正方法は限定されない。この矯正方法としては、例えば、ワークWを部分的に加圧する方法、ワークWを熱変形させる方法、ワークWの表面を切削する方法、或いはワークWの表面に別部材を溶接した後に溶接部の形状を仕上げる方法等が挙げられる。オペレータはS5を行った後、ステップをS1に戻す。これにより、ワークWの形状が適切に矯正されるまで、S5の歪矯正ステップが繰り返して行われる。
【0041】
S4において、コンピュータ3のCPUにより設計モデル10に対するワークWのずれ量が公差内であると判定された場合(S4:Y)、オペレータは、ワークWを機械加工機に適切に設置してワークWの表面に取付部を正確に形成するために必要な罫書き線をワークWに記入する(S6)。ここで、一度歪矯正ステップ(S5)を経た場合には、計測ステップ(S1)を再度行い、当該計測ステップ(S1)で得られたワークWの座標位置に基づいて、ワークWの表面に罫書き線が記入されることとなる(S6)。これにより、記入ステップが行われる。その後オペレータは、当該罫書き線に基づいて機械加工機にワークWを適切に設置し、ワークWの表面に取付部を形成する(S7)。
【0042】
次にオペレータは、ワークWと組み合わされる別のワーク(本実施形態では、例えば横梁W1,W2と組み合わされる側梁)が存在する場合、当該のワークについて、計測,算出,及び歪矯正ステップを別途同様に行う。またその後、必要に応じて、当該のワークの表面に機械加工を行うための座標(X,Y,Z座標)を示す罫書き線を記入して、ワークを機械加工し、当該ワークの表面に取付部を正確に形成する。
【0043】
次にオペレータは、ワークW及びワークWと組み合わされる別のワークが接合可能状態にあるか否かを判定する(S8)。オペレータは、S8において、これら2つのワークが接合可能状態にあると判定した場合(S8:Y)、次に、必要に応じて2つのワークを接合する(S9)。ここではオペレータは、2つのワークを溶接により接合する。これにより接合ステップが行われる。
【0044】
なお、ワークWと組み合わされる別のワークが存在しない場合、S8及びS9は省略される。また、取付部に部品を取り付けるタイミングは、限定されない。また、2つのワークを接合する方法は、溶接に限定されない。
【0045】
以上説明したように、上記製造方法によれば、例えば、中間品の表面の膨大な数の位置情報に基づいて3次元モデルを構築することなく、計測ステップで得られたワークWの座標位置と、設計モデル10の対応する座標位置とを比較することで、ずれ量を算出できる。
【0046】
このように上記方法によれば、ずれ量を算出するためには中間品の3次元モデルを構築する必要がなく、必要最小限の座標位置の計測データを用いればよい。このため、作業時間及び作業負担の軽減を図りながら、必要に応じて迅速にワークWを矯正できる。よって、比較的短時間でステップを進めることができ、ワークWの正確な位置に取付部を迅速に形成できる。また、例えば計測ステップ及び算出ステップにおいてコンピュータを用いる場合、演算処理の負荷を軽減できるため、例えばそれほど高性能ではない市販品のコンピュータであっても良好に用いることができる。
【0047】
また、ワークWの適切な位置に取付部が形成されていないと、例えば、ワークWの機械加工時に加工空振りが生じたり、ワークWの表面に穴を形成する場合には穴が偏心したりするおそれがある。これに対して上記方法によれば、ワークWの適切な位置に取付部を形成できるため、このような問題の発生を防止できる。
【0048】
また上記方法は、2つのワークの各々について計測,算出,及び歪矯正ステップを行った後に、2つのワークを接合する接合ステップを有する。このため、高精度な形状に調整された2つのワークを接合でき、中間品の形状が、設計モデル10に対して、各ワークを作製するたびに累積的にずれていくのを良好に防止できる。
【0049】
また上記方法は、歪矯正ステップ後、計測ステップを再度行い、当該計測ステップで得られたワークWの座標位置に基づいて、ワークWの表面に罫書き線を記入する記入ステップを有する。このため、歪矯正ステップにより矯正されて正確な形状を有する中間品に、取付部の形成位置(具体的には例えば取付部の形成位置の中心座標)を示す罫書き線を記入することができ、中間品の適切な位置に取付部を形成できる。
【0050】
またワークWは、鉄道車両用台車枠の部品であって、長手方向に垂直な方向に並べて配置された一対の横梁W1,W2と、一対の横梁W1,W2を接続する一対のツナギ梁W3,W4とを有し、上記方法の計測ステップでは、ワークWの一対の横梁W1,W2と一対のツナギ梁W3,W4とにより囲まれた領域に存在する原点座標C1と、設計モデル10の原点座標C0とを一致させた状態で、ワークWの接触点の座標位置を計測する。
【0051】
このため、ワークWにおける一対の横梁W1,W2と一対のツナギ梁W3,W4の位置が、設計モデル10における一対の横梁と一対のツナギ梁の位置に対してずれている場合でも、ずれ量を正確に計測できる。よって、この計測結果に基づいて、ワークWを正確な形状に矯正でき、台車枠の中間品の適切な位置に機械加工により取付部を形成できる。以下、変形例について、実施形態との差異を中心に説明する。
【0052】
(変形例)
変形例の算出ステップでは、ワークが製造目標とする形状及び寸法を有する平坦面である第1領域と、第1領域と同一平面内に位置して第1領域の縁端から第1領域の外方に延在する平坦面である第2領域とを含む少なくとも1つのモデル面を有する設計モデルを用い、第1領域の表面に沿った方向と、第1領域の表面に垂直な方向とにずれを生じたワークの前記垂直な方向のずれ量を、ワークの座標位置と、設計モデルの前記第2領域の対応する座標位置とを比較することにより算出する。
【0053】
図5は、
図1の表示部3bに表示された変形例の設計モデル20を示す図である。
図6は、
図5の設計モデル20と
図1のプローブ2eの先端部2fとの位置関係を示す図である。
【0054】
図5に示すように、具体的に設計モデル20は、一例として、略直方体状の外観形状を有すると共に、1つのモデル面20aを有する。モデル面20aは、一例として、XY方向に平行に延びている。モデル面20aは、ワークWが目標とする形状及び寸法を有する平坦面である第1領域20bと、第1領域20bと同一平面内に位置して第1領域20bの縁端から第1領域20bの外方に第1領域20bに沿って延在する平坦面である第2領域20cとを含む。一例として、第2領域20cは、第1領域20bを周方向に囲むように形成されているが、これに限定されない。
【0055】
ここで
図6に示すように、例えばワークWが、設計モデル20の第1領域20bの表面に沿った方向(ここではXY方向)と、設計モデル20の第1領域20bの表面に垂直な方向(ここではZ方向)とにずれを生じている場合において、ワークWの表面W5と、これに対応する設計モデル20の第1領域20bとの前記垂直な方向のずれ量d2を測定することがある。
【0056】
この場合、モデル空間内において、ワークWとプローブ2eの先端部2fとの接触点の座標位置を通る前記垂直な方向に平行な仮想線Z1上に第1領域20bが存在しない程度までワークWが歪んでいると、ずれ量d2が正しく計測できず、例えばずれ量が、コンピュータ3のCPUにより、プローブ2eの先端部2fと設計モデル20との最短距離d1として、誤って計測される場合がある。
【0057】
これに対して、予めモデル面20aを有するように設計モデル20を構成することで、仮想線Z1上に第1領域20bが存在しなくても、仮想線Z1上に第2領域20cが存在していれば、ずれ量d2を正しく算出できる。即ち、ワークWの座標位置と、設計モデル20の第2領域20cの対応する座標位置とを比較することで、コンピュータ3のCPUにより、ずれ量d2を適切に算出できる。
【0058】
本発明は、上記実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その方法を変更、追加、又は削除できる。構造物は、当然ながら鉄道車両の台車枠に限定されず、その他のものであってもよい。また3次元測定器は、接触式であればよく、プローブが球状以外のもの(例えば針状のもの)であってもよい。また3次元測定器は、トラッカータイプの接触式でもよい。
【0059】
また上記実施形態では、オペレータが手動で3次元測定器1のプローブ2eをワークWと接触させる方法を例示したが、例えばロボット等を用いて機械的に3次元測定器1のプローブ2eをワークWと接触させてもよい。
【符号の説明】
【0060】
C0 設計モデルの原点座標
C1 ワークの原点座標
W ワーク
W1,W2 横梁
W3,W4 ツナギ梁
1 3次元測定器
2a~2d アーム
2e プローブ
10,20 設計モデル
20a モデル面
20b 第1領域
20c 第2領域