(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】ひずみゲージ
(51)【国際特許分類】
G01B 7/16 20060101AFI20221102BHJP
【FI】
G01B7/16 R
(21)【出願番号】P 2018235218
(22)【出願日】2018-12-17
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小野 彩
(72)【発明者】
【氏名】竹中 恒詞
【審査官】信田 昌男
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-132531(JP,A)
【文献】特開2003-195249(JP,A)
【文献】特開昭59-164901(JP,A)
【文献】特開2007-285938(JP,A)
【文献】特開2015-127660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する基材と、
前記基材上に、クロムとニッケルの少なくとも一方を含む材料から形成された抵抗体と、
前記抵抗体と電気的に接続された電極と、
前記抵抗体及び前記電極と電気的に接続されていないダミーパターンと、を有し、
前記電極及び前記ダミーパターンは、前記抵抗体と同一材料から形成された金属層、及び前記金属層上に積層された電解めっき層、を含み、
平面視において、前記電極を構成する前記電解めっき層は、所定個数の角を有し、
平面視において、前記ダミーパターンを構成する前記電解めっき層は、前記所定個数の角の何れよりも尖鋭な角を、前記所定個数よりも多く有するひずみゲージ。
【請求項2】
可撓性を有する基材と、
前記基材上に、クロムとニッケルの少なくとも一方を含む材料から形成された抵抗体と、
前記抵抗体と電気的に接続された電極と、
前記抵抗体及び前記電極と電気的に接続されていないダミーパターンと、を有し、
前記電極及び前記ダミーパターンは、前記抵抗体と同一材料から形成された金属層、及び前記金属層上に積層された電解めっき層、を含み、
平面視において、前記電極を構成する前記電解めっき層は、角を有しない形状であり、
平面視において、前記ダミーパターンを構成する前記電解めっき層は、1つ以上の角を有する形状であるひずみゲージ。
【請求項3】
前記角を有しない形状は円形である請求項2に記載のひずみゲージ。
【請求項4】
平面視において、前記ダミーパターンを構成する前記電解めっき層は鋭角を有する請求項1乃至3の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項5】
平面視において、前記ダミーパターンを構成する前記電解めっき層の面積は、前記電極を構成する前記電解めっき層の面積よりも小さい請求項1乃至4の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項6】
平面視において、前記ダミーパターンは、前記基材の隅部に配置されている請求項1乃至5の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項7】
前記金属層と前記電解めっき層との間に、シード層が形成された請求項1乃至6の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項8】
前記抵抗体は、Cr混相膜から形成されている請求項1乃至7の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項9】
前記抵抗体は、アルファクロムを主成分とする請求項1乃至8の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項10】
前記抵抗体は、アルファクロムを80重量%以上含む請求項9に記載のひずみゲージ。
【請求項11】
前記抵抗体は、窒化クロムを含む請求項9又は10に記載のひずみゲージ。
【請求項12】
前記基材の一方の面に、金属、合金、又は、金属の化合物から形成された機能層を有し、
前記抵抗体は、前記機能層の一方の面に形成されている請求項1乃至11の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項13】
前記機能層は、前記抵抗体の結晶成長を促進する機能を有する請求項12に記載のひずみゲージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひずみゲージに関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物に貼り付けて、測定対象物のひずみを検出するひずみゲージが知られている。ひずみゲージは、ひずみを検出する抵抗体を備えており、抵抗体の材料としては、例えば、Cr(クロム)やNi(ニッケル)を含む材料が用いられている。又、例えば、抵抗体の両端が電極として用いられ、電極には、はんだにより外部接続用のリード線等が接合される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、抵抗体の両端をそのまま電極として用いるのではなく、抵抗体の両端上に電解めっき層を積層して電極として用いる方法が検討されている。この方法では、電解めっきを行う際に、抵抗体の両端上の電解めっき層に電流が集中すると、膜厚がばらつく場合がある。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、電極を構成する電解めっき層の膜厚のばらつきが抑制されたひずみゲージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本ひずみゲージは、可撓性を有する基材と、前記基材上に、クロムとニッケルの少なくとも一方を含む材料から形成された抵抗体と、前記抵抗体と電気的に接続された電極と、前記抵抗体及び前記電極と電気的に接続されていないダミーパターンと、を有し、前記電極及び前記ダミーパターンは、前記抵抗体と同一材料から形成された金属層、及び前記金属層上に積層された電解めっき層、を含み、平面視において、前記電極を構成する前記電解めっき層は、所定個数の角を有し、平面視において、前記ダミーパターンを構成する前記電解めっき層は、前記所定個数の角の何れよりも尖鋭な角を、前記所定個数よりも多く有する。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、電極を構成する電解めっき層の膜厚のばらつきが抑制されたひずみゲージを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施の形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
【
図2】第1の実施の形態に係るひずみゲージを例示する断面図である。
【
図3】第1の実施の形態に係るひずみゲージの製造工程を例示する図(その1)である。
【
図4】第1の実施の形態に係るひずみゲージの製造工程を例示する図(その2)である。
【
図5】第1の実施の形態の変形例1に係るひずみゲージを例示する平面図である。
【
図6】ダミーパターンの平面形状のバリエーションを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
〈第1の実施の形態〉
図1は、第1の実施の形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図2は、第1の実施の形態に係るひずみゲージを例示する断面図であり、
図1のA-A線に沿う断面を示している。
図1及び
図2を参照するに、ひずみゲージ1は、基材10と、抵抗体30と、電極40と、ダミーパターン50とを有している。
【0011】
なお、本実施の形態では、便宜上、ひずみゲージ1において、基材10の抵抗体30が設けられている側を上側又は一方の側、抵抗体30が設けられていない側を下側又は他方の側とする。又、各部位の抵抗体30が設けられている側の面を一方の面又は上面、抵抗体30が設けられていない側の面を他方の面又は下面とする。但し、ひずみゲージ1は天地逆の状態で用いることができ、又は任意の角度で配置することができる。又、平面視とは対象物を基材10の上面10aの法線方向から視ることを指し、平面形状とは対象物を基材10の上面10aの法線方向から視た形状を指すものとする。
【0012】
基材10は、抵抗体30等を形成するためのベース層となる部材であり、可撓性を有する。基材10の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、5μm~500μm程度とすることができる。特に、基材10の厚さが5μm~200μmであると、接着層等を介して基材10の下面に接合される起歪体表面からの歪の伝達性、環境に対する寸法安定性の点で好ましく、10μm以上であると絶縁性の点で更に好ましい。
【0013】
基材10は、例えば、PI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の絶縁樹脂フィルムから形成することができる。なお、フィルムとは、厚さが500μm以下程度であり、可撓性を有する部材を指す。
【0014】
ここで、『絶縁樹脂フィルムから形成する』とは、基材10が絶縁樹脂フィルム中にフィラーや不純物等を含有することを妨げるものではない。基材10は、例えば、シリカやアルミナ等のフィラーを含有する絶縁樹脂フィルムから形成しても構わない。
【0015】
抵抗体30は、基材10上に所定のパターンで形成された薄膜であり、ひずみを受けて抵抗変化を生じる受感部である。抵抗体30は、基材10の上面10aに直接形成されてもよいし、基材10の上面10aに他の層を介して形成されてもよい。なお、
図1では、便宜上、抵抗体30を梨地模様で示している。
【0016】
抵抗体30は、例えば、Cr(クロム)を含む材料、Ni(ニッケル)を含む材料、又はCrとNiの両方を含む材料から形成することができる。すなわち、抵抗体30は、CrとNiの少なくとも一方を含む材料から形成することができる。Crを含む材料としては、例えば、Cr混相膜が挙げられる。Niを含む材料としては、例えば、Cu-Ni(銅ニッケル)が挙げられる。CrとNiの両方を含む材料としては、例えば、Ni-Cr(ニッケルクロム)が挙げられる。
【0017】
ここで、Cr混相膜とは、Cr、CrN、Cr2N等が混相した膜である。Cr混相膜は、酸化クロム等の不可避不純物を含んでもよい。
【0018】
抵抗体30の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、0.05μm~2μm程度とすることができる。特に、抵抗体30の厚さが0.1μm以上であると、抵抗体30を構成する結晶の結晶性(例えば、α-Crの結晶性)が向上する点で好ましい。又、抵抗体30の厚さが1μm以下であると、抵抗体30を構成する膜の内部応力に起因する膜のクラックや基材10からの反りを低減できる点で更に好ましい。
【0019】
例えば、抵抗体30がCr混相膜である場合、安定な結晶相であるα-Cr(アルファクロム)を主成分とすることで、ゲージ特性の安定性を向上することができる。又、抵抗体30がα-Crを主成分とすることで、ひずみゲージ1のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。ここで、主成分とは、対象物質が抵抗体を構成する全物質の50質量%以上を占めることを意味するが、ゲージ特性を向上する観点から、抵抗体30はα-Crを80重量%以上含むことが好ましい。なお、α-Crは、bcc構造(体心立方格子構造)のCrである。
【0020】
電極40は、抵抗体30の両端部から延在しており、平面視において、抵抗体30よりも拡幅して略矩形状に形成されている。電極40は、ひずみにより生じる抵抗体30の抵抗値の変化を外部に出力するための一対の電極であり、例えば、外部接続用のリード線等が接合される。抵抗体30は、例えば、電極40の一方からジグザグに折り返しながら延在して他方の電極40に電気的に接続されている。
【0021】
電極40は、複数の金属層が積層された積層構造である。具体的には、電極40は、抵抗体30の両端部から延在する金属層である端子部41と、端子部41の上面に形成されたシード層42と、シード層42の上面に形成された電解めっき層43とを有している。なお、抵抗体30と端子部41とは便宜上別符号としているが、同一工程において同一材料により一体に形成することができる。
【0022】
シード層42の材料は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、Cu(銅)を用いることができる。シード層42の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、0.01μm~1μm程度とすることができる。
【0023】
電解めっき層43の材料は、Cu、Cu合金、Ni、又はNi合金を用いることが好ましい。電解めっき層43の厚さは、電極40へのはんだ付け性を考慮して決定されるが、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上である。電解めっき層43の材料としてCu、Cu合金、Ni、又はNi合金を用い、電解めっき層43の厚さを1μm以上とすることで、はんだ食われが改善される。又、電解めっき層43の材料としてCu、Cu合金、Ni、又はNi合金を用い、電解めっき層43の厚さを3μm以上とすることで、はんだ食われが更に改善される。なお、電解めっきの容易性から、電解めっき層43の厚さは30μm以下であることが好ましい。
【0024】
ここで、はんだ食われとは、電極40を構成する材料が、電極40に接合されるはんだの中に溶解し、電極40の厚みが薄くなったり、なくなったりすることである。はんだ食われが発生すると、電極40に接合されるリード線等との接着強度や引張り強度が低下するおそれがあるため、はんだ食われが発生しないことが好ましい。
【0025】
電解めっき層43の上層として、電解めっき層43よりもはんだ濡れ性の良好な材料からなる金属層を積層してもよい。例えば、電解めっき層43の材料がCu、Cu合金、Ni、又はNi合金であれば、金属層の材料としてAu(金)を用いることができる。Cu、Cu合金、Ni、又はNi合金の表面をAuで被覆することにより、Cu、Cu合金、Ni、又はNi合金の酸化及び腐食を防止できると共に、良好なはんだ濡れ性を得ることができる。金属層の材料としてAuに代えてPt(白金)を用いても同様の効果を奏する。金属層の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、0.01μm~1μm程度とすることができる。
【0026】
なお、平面視において、シード層42及び電解めっき層43の積層部の周囲に端子部41が露出しているが、端子部41はシード層42及び電解めっき層43の積層部と同一の平面形状であっても構わない。
【0027】
ダミーパターン50は、抵抗体30及び電極40と電気的に接続されていないフローティングされたパターンであり、平面形状が矩形状の基材10の4つの隅部の各々に1つずつ配置されている。但し、ダミーパターン50は、基材10上に最低1個配置されていればよい。この場合、例えば、1つのダミーパターン50を基材10の何れか1つの隅部に配置することができる。ダミーパターン50を基材10の隅部に配置することにより、主要なパターンの形成を妨げることを防止できる。
【0028】
ダミーパターン50は、複数の金属層が積層された積層構造である。具体的にはダミーパターン50は、抵抗体30と同一材料から形成された金属層51と、金属層51の上面に形成されたシード層52と、シード層52の上面に形成された電解めっき層53とを有している。
【0029】
ダミーパターン50は、電極40と同一の層構造である。すなわち、金属層51と端子部41とは便宜上別符号としているが、同一工程において同一材料により形成することができる。又、シード層52とシード層42とは便宜上別符号としているが、同一工程において同一材料により形成することができる。又、電解めっき層53と電解めっき層43とは便宜上別符号としているが、同一工程において同一材料により形成することができる。
【0030】
平面視において、ダミーパターン50を構成する電解めっき層53の面積は、電極40を構成する電解めっき層43の面積よりも小さいことが好ましい。電解めっき層53の面積を電解めっき層43の面積よりも小さくすることで、電解めっきの際の、めっき液の不要な消耗を抑制できる。
【0031】
なお、平面視において、シード層52及び電解めっき層53の積層部の周囲に金属層51が露出しているが、金属層51はシード層52及び電解めっき層53の積層部と同一の平面形状であっても構わない。
【0032】
抵抗体30を被覆し電極40を露出するように基材10の上面10aにカバー層60(絶縁樹脂層)を設けても構わない。カバー層60を設けることで、抵抗体30に機械的な損傷等が生じることを防止できる。又、カバー層60を設けることで、抵抗体30を湿気等から保護することができる。カバー層60は、電極40を除く部分の全体を覆うように設けてもよい。なお、ダミーパターン50は、カバー層60で被覆してもよいし、被覆しなくてもよい。
【0033】
カバー層60は、例えば、PI樹脂、エポキシ樹脂、PEEK樹脂、PEN樹脂、PET樹脂、PPS樹脂、複合樹脂(例えば、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂)等の絶縁樹脂から形成することができる。カバー層60は、フィラーや顔料を含有しても構わない。カバー層60の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、2μm~30μm程度とすることができる。
【0034】
ここで、ダミーパターン50について、より詳しく説明する。ダミーパターン50は、電極40を構成する電解めっき層43が所定個数の角(
図1では4個)を有する場合、電極40を構成する電解めっき層43の厚さを均一にするために設けられている。この目的を達するために、平面視において、ダミーパターン50を構成する電解めっき層53は、電解めっき層43の所定個数の角の何れよりも尖鋭な角を、所定個数よりも多く有している。
【0035】
なお、電解めっき層43の有する何れの角よりも尖鋭な角とは、電解めっき層43が互いに異なる角度の角を有する場合には、電解めっき層43の有する角のうち、最小角度の角よりも小さい角を指す。
【0036】
図1の例では、平面視において、電解めっき層43は4個の角を有しており、各々の角の角度は何れも90度である。この場合、平面視において、電解めっき層53は、90度よりも尖鋭な角(すなわち、鋭角)を4個よりも多く有している必要がある。
図1では、一例として、平面視において、電解めっき層53は鋭角を5個有する星形に形成されているが、鋭角を5個以上有する形状であれば星形には限定されない。
【0037】
なお、本願において、角とは、平面視において、電解めっき層43や電解めっき層53を構成する2辺が交わる部分を指すが、2辺が交わる部分の先端が尖っていることは必須ではなく、2辺が交わる部分の先端が丸みを帯びているものも角に含めるものとする。つまり、電解めっき層43の4個の角は丸みを帯びていてもよいし、電解めっき層53の5個の角は丸みを帯びていてもよい。
【0038】
一般に、電解めっきを施す際には、尖鋭な角を有するパターンほど電流が集中しやすい。電流が集中して形成された電解めっき層は、表面の荒れや膜厚のばらつきを引き起こす。これは、電解めっき層を形成したい主要パターンよりも尖鋭な角を有するパターンを、ダミーパターンとして電解めっき層を形成したい主要パターンの近傍に配置すれば、ダミーパターンに電流が集中することを意味する。
【0039】
そこで、ひずみゲージ1では、電解めっき層43よりも尖鋭な角を有する電解めっき層53を、電解めっき層43の近傍に配置している。これにより、電解めっきを施す際に、電解めっき層53に電流が集中し、電解めっき層43への電流の集中が緩和される。その結果、ひずみゲージ1において必要な電解めっき層43の表面の荒れや膜厚のばらつきを抑制できる。なお、ダミーパターン50はひずみゲージ1の動作には寄与しないため、電解めっき層53の表面の荒れや膜厚のばらつきが生じても問題はない。
【0040】
図3及び
図4は、第1の実施の形態に係るひずみゲージの製造工程を例示する図であり、
図2に対応する断面を示している。ひずみゲージ1を製造するためには、まず、
図3(a)に示す工程では、基材10を準備し、基材10の上面10aに金属層300を形成する。金属層300は、最終的にパターニングされて抵抗体30、端子部41、及び金属層51となる層である。従って、金属層300の材料や厚さは、前述の抵抗体30、端子部41、及び金属層51の材料や厚さと同様である。
【0041】
金属層300は、例えば、金属層300を形成可能な原料をターゲットとしたマグネトロンスパッタ法により成膜することができる。金属層300は、マグネトロンスパッタ法に代えて、反応性スパッタ法や蒸着法、アークイオンプレーティング法、パルスレーザー堆積法等を用いて成膜してもよい。
【0042】
ゲージ特性を安定化する観点から、金属層300を成膜する前に、下地層として、基材10の上面10aに、例えば、コンベンショナルスパッタ法により膜厚が1nm~100nm程度の機能層を真空成膜することが好ましい。
【0043】
本願において、機能層とは、少なくとも上層である金属層300(抵抗体30)の結晶成長を促進する機能を有する層を指す。機能層は、更に、基材10に含まれる酸素や水分による金属層300の酸化を防止する機能や、基材10と金属層300との密着性を向上する機能を備えていることが好ましい。機能層は、更に、他の機能を備えていてもよい。
【0044】
基材10を構成する絶縁樹脂フィルムは酸素や水分を含むため、特に金属層300がCrを含む場合、Crは自己酸化膜を形成するため、機能層が金属層300の酸化を防止する機能を備えることは有効である。
【0045】
機能層の材料は、少なくとも上層である金属層300(抵抗体30)の結晶成長を促進する機能を有する材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、Cr(クロム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ni(ニッケル)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Si(シリコン)、C(炭素)、Zn(亜鉛)、Cu(銅)、Bi(ビスマス)、Fe(鉄)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)からなる群から選択される1種又は複数種の金属、この群の何れかの金属の合金、又は、この群の何れかの金属の化合物が挙げられる。
【0046】
上記の合金としては、例えば、FeCr、TiAl、FeNi、NiCr、CrCu等が挙げられる。又、上記の化合物としては、例えば、TiN、TaN、Si3N4、TiO2、Ta2O5、SiO2等が挙げられる。
【0047】
機能層は、例えば、機能層を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にAr(アルゴン)ガスを導入したコンベンショナルスパッタ法により真空成膜することができる。コンベンショナルスパッタ法を用いることにより、基材10の上面10aをArでエッチングしながら機能層が成膜されるため、機能層の成膜量を最小限にして密着性改善効果を得ることができる。
【0048】
但し、これは、機能層の成膜方法の一例であり、他の方法により機能層を成膜してもよい。例えば、機能層の成膜の前にAr等を用いたプラズマ処理等により基材10の上面10aを活性化することで密着性改善効果を獲得し、その後マグネトロンスパッタ法により機能層を真空成膜する方法を用いてもよい。
【0049】
機能層の材料と金属層300の材料との組み合わせは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、機能層としてTiを用い、金属層300としてα-Cr(アルファクロム)を主成分とするCr混相膜を成膜することが可能である。
【0050】
この場合、例えば、Cr混相膜を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にArガスを導入したマグネトロンスパッタ法により、金属層300を成膜することができる。或いは、純Crをターゲットとし、チャンバ内にArガスと共に適量の窒素ガスを導入し、反応性スパッタ法により、金属層300を成膜してもよい。
【0051】
これらの方法では、Tiからなる機能層がきっかけでCr混相膜の成長面が規定され、安定な結晶構造であるα-Crを主成分とするCr混相膜を成膜できる。又、機能層を構成するTiがCr混相膜中に拡散することにより、ゲージ特性が向上する。例えば、ひずみゲージ1のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。なお、機能層がTiから形成されている場合、Cr混相膜にTiやTiN(窒化チタン)が含まれる場合がある。
【0052】
なお、金属層300がCr混相膜である場合、Tiからなる機能層は、金属層300の結晶成長を促進する機能、基材10に含まれる酸素や水分による金属層300の酸化を防止する機能、及び基材10と金属層300との密着性を向上する機能の全てを備えている。機能層として、Tiに代えてTa、Si、Al、Feを用いた場合も同様である。
【0053】
このように、金属層300の下層に機能層を設けることにより、金属層300の結晶成長を促進することが可能となり、安定な結晶相からなる金属層300を作製できる。その結果、ひずみゲージ1において、ゲージ特性の安定性を向上することができる。又、機能層を構成する材料が金属層300に拡散することにより、ひずみゲージ1において、ゲージ特性を向上することができる。
【0054】
次に、
図3(b)に示す工程では、金属層300の上面を覆うように、例えば、スパッタ法や無電解めっき法等により、シード層420を形成する。シード層420は、最終的にパターニングされてシード層42及び52となる層である。従って、シード層420の材料や厚さは、前述のシード層42及び52の材料や厚さと同様である。
【0055】
次に、
図3(c)に示す工程では、シード層420の上面の全面に感光性のレジスト800を形成し、露光及び現像して電極40を形成する領域を露出する開口部800x、及びダミーパターン50を形成する領域を露出する開口部800yを形成する。レジスト800としては、例えば、ドライフィルムレジスト等を用いることができる。
【0056】
次に、
図3(d)に示す工程では、例えば、シード層420を給電経路とする電解めっき法により、開口部800x内に露出するシード層420上に電解めっき層43を、開口部800y内に露出するシード層420上に電解めっき層53を形成する。電解めっき法は、タクトが高く、かつ、低応力の電解めっき層43及び53を形成できる点で好適である。膜厚の厚い電解めっき層43及び53を低応力とすることで、ひずみゲージ1に反りが生じることを防止できる。
【0057】
次に、
図4(a)に示す工程では、
図3(d)に示すレジスト800を除去する。レジスト800は、例えば、レジスト800の材料を溶解可能な溶液に浸漬することで除去できる。
【0058】
次に、
図4(b)に示す工程では、シード層420の上面の全面に感光性のレジスト810を形成し、露光及び現像して、
図1の抵抗体30、端子部41、及び金属層51と同様の平面形状にパターニングする。レジスト810としては、例えば、ドライフィルムレジスト等を用いることができる。
【0059】
次に、
図4(c)に示す工程では、レジスト810をエッチングマスクとし、レジスト810から露出する金属層300及びシード層420を除去し、
図1の平面形状の抵抗体30、端子部41、及び金属層51を形成する。例えば、ウェットエッチングにより、金属層300及びシード層420の不要な部分を除去できる。金属層300の下層に機能層が形成されている場合には、エッチングによって機能層は抵抗体30、端子部41、及び金属層51と同様に
図1に示す平面形状にパターニングされる。なお、この時点では、抵抗体30上にシード層420が形成されている。
【0060】
次に、
図4(d)に示す工程では、電解めっき層43及び53をエッチングマスクとし、電解めっき層43及び53から露出する不要なシード層420を除去し、シード層42及び52を形成する。例えば、シード層420がエッチングされ、機能層及び抵抗体30がエッチングされないエッチング液を用いたウェットエッチングにより、不要なシード層420を除去できる。
【0061】
図4(d)に示す工程の後、必要に応じ、基材10の上面10aに、抵抗体30を被覆し電極40を露出するカバー層60を設けることで、ひずみゲージ1が完成する。カバー層60は、例えば、基材10の上面10aに、抵抗体30を被覆し電極40を露出するように半硬化状態の熱硬化性の絶縁樹脂フィルムをラミネートし、加熱して硬化させて作製することができる。カバー層60は、基材10の上面10aに、抵抗体30を被覆し電極40を露出するように液状又はペースト状の熱硬化性の絶縁樹脂を塗布し、加熱して硬化させて作製してもよい。なお、ダミーパターン50は、カバー層60で被覆してもよいし、被覆しなくてもよい。
【0062】
図3(d)に示す電解めっきの工程では、電解めっき層43よりも尖鋭な角を有する電解めっき層53が、電解めっき層43の近傍に形成される。これにより、電解めっきを施す際に、電解めっき層53に電流が集中し、電解めっき層43への電流の集中が緩和される。その結果、ひずみゲージ1において必要な電解めっき層43の表面の荒れや膜厚のばらつきを抑制できる。
【0063】
〈第1の実施の形態の変形例1〉
第1の実施の形態の変形例1では、第1の実施の形態とは平面形状の異なる電極の例を示す。なお、第1の実施の形態の変形例1において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0064】
図5は、第1の実施の形態の変形例1に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図5を参照するに、ひずみゲージ1Aは、電極40が電極40Aに置換された点がひずみゲージ1(
図1及び
図2等参照)と相違する。なお、カバー層60は、電極40Aを除く部分の全体を覆うように設けてもよい。
【0065】
電極40Aは、端子部41A、シード層42A、及び電解めっき層43Aが順次積層された構造である。すなわち、電極40Aは、電極40と同様の層構造である。端子部41A、シード層42A、及び電解めっき層43Aの材料や厚さ、製造方法等は、例えば、端子部41、シード層42、及び電解めっき層43と同様とすることができる。
【0066】
端子部41A、シード層42A、及び電解めっき層43Aは、端子部41、シード層42、及び電解めっき層43とは異なり、平面視において、角を有しない形状に形成されている。角を有しない形状とは、例えば、円形、楕円形、矩形の対向する1組の辺が外側に膨らむ円弧状に形成された形状等が挙げられるが、
図5では円形の場合を図示している。
【0067】
電解めっき層43Aを角を有しない形状とすることで、角を有する形状(例えば、電解めっき層43)と比べて、同じ平面形状の電解めっき層53を設けた場合、電解めっきを施す際に、電解めっき層53に更に電流が集中する。そのため、電解めっき層43Aへの電流の集中が更に緩和される。その結果、ひずみゲージ1Aにおいて必要な電解めっき層43Aの表面の荒れや膜厚のばらつきを抑制する効果を向上できる。特に、電解めっき層43Aが円形である場合に、電解めっき層43Aへの電流の集中が最も緩和される。
【0068】
なお、電解めっき層43Aが角を有しない形状である場合、平面視において、電解めっき層53を1つ以上の角(任意の角度)を有する形状とすることで、電解めっきを施す際に、電解めっき層43Aへの電流の集中を緩和する効果が得られる。但し、電解めっき層53の有する角の数が増えるほど、電解めっき層43Aへの電流の集中を緩和する効果が大きくなる。
【0069】
図6は、ダミーパターンの平面形状のバリエーションを例示する図である。電解めっき層43Aが角を有しない形状である場合、ダミーパターン50を構成する電解めっき層53の平面形状は、例えば、
図6(a)に示すような1つの角を有する涙滴型(ティアドロップ型)としてもよい。
【0070】
又、電解めっき層53の平面形状は、
図6(b)に示すような三角形や、
図6(c)に示すような四角形としてもよい。
【0071】
又、電解めっき層53の平面形状は、
図6(d)~
図6(f)に示すような、複数の三角形を最小角が外側を向くように放射状に配置した形状としてもよい。もちろん、7つ以上の三角形を最小角が外側を向くように放射状に配置した形状としてもよい。
【0072】
電解めっき層53において角の数が多いほど電流の集中を緩和する効果が大きくなる。又、電解めっき層53において各々の角の角度が小さいほど電流の集中を緩和する効果が大きくなる。電解めっき層53において各々の角の角度は鋭角であることが好ましく、60度以下であることがより好ましく、30度以下であることが更に好ましい。
【0073】
なお、
図6(a)~
図6(f)において、前述のように、2辺が交わる部分の先端が尖っていることは必須ではなく、2辺が交わる部分の先端が丸みを帯びていてもよい。
【0074】
又、電解めっき層53の平面形状は、
図6(a)~
図6(f)に例示した形状には限定されず、より複雑な形状であってもよい。
【0075】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0076】
1、1A ひずみゲージ、10 基材、10a 上面、30 抵抗体、40、40A 電極、41、41A 端子部、42、42A、52 シード層、43、43A、53 電解めっき層、51 金属層、60 カバー層