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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】パワーモジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20221102BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
H01L23/36 Z
H01L21/60 321E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018239155
(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公開番号】P2020102504
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宏文
(72)【発明者】
【氏名】臼井 正則
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敏一
(72)【発明者】
【氏名】庄司 智幸
(72)【発明者】
【氏名】淺井 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】青島 正貴
【審査官】井上 和俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-244165(JP,A)
【文献】特開2005-019447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体からなり、第1面側にある第1電極と第2面側にある第2電極とを少なくとも有するパワーデバイスと、
該第1電極に第1接合材を介して接合される第1スプレッダと、
該第2電極に第2接合材を介して接合されるターミナルとを備え、
該半導体は、ケイ素または炭化ケイ素からなり、
該第1電極は、該第2電極よりも接合される電極面積が大きく、
該第2電極は、ケイ素を含むアルミニウム合金(「Al-Si合金」という。)からなるAlSi層を含み、
該第1スプレッダと該ターミナルは、銅または銅合金からなり、
該第1接合材は、30℃のときの0.2%耐力と175℃のときの0.2%耐力との差の絶対値(|Δσ|)が10MPa以下であり、
該第2接合材は、30~175℃の全域において該Al-Si合金よりも0.2%耐力が小さく、30℃のときの0.2%耐力と175℃のときの0.2%耐力との差の絶対値(|Δσ|)が20MPa以下であり、
該第1接合材は、アルミニウム層と金属間化合物層が積層された複合材からなるパワーモジュール。
【請求項2】
記第2接合材は、銅を含むスズ合金のはんだからなる請求項1に記載のパワーモジュール。
【請求項3】
第2接合材は、アルミニウム層と金属間化合物層が積層された複合材からなる請求項1に記載のパワーモジュール。
【請求項4】
前記アルミニウム層は、純度が2N~4Nのアルミニウム箔からなる請求項2または3に記載のパワーモジュール。
【請求項5】
前記アルミニウム層の厚さは、前記複合材全体の厚さに対して60~95%である請求項2~4のいずれかに記載のパワーモジュール。
【請求項6】
前記金属間化合物層は、スズとニッケルからなる請求項2~5のいずれかに記載のパワーモジュール。
【請求項7】
前記パワーデバイスは、前記第2面側に制御電極をさらに有するトランジスタであり、
前記ターミナルは、該制御電極に接合されるボンディングワイヤーのスペースを確保するスペーサであり、
さらに、該スペーサの該第2面側に接合される第2スプレッダを備える請求項1~6のいずれかに記載のパワーモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
モータ駆動用インバータ等には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)、ダイオード等のパワーデバイス(半導体素子)を実装したパワーモジュールが用いられる。
【0003】
パワーモジュールの信頼性の確保には、先ず、パワーデバイス(単に「素子」ともいう。)の作動中に生じる発熱を効率的に放熱する必要がある。このような放熱構造に関連する記載が下記の特許文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-42039号公報
【文献】特開2008-103623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、パワーモジュールの信頼性をさらに高めるためには、放熱性の確保に加えて、高温となる素子電極の接合部における耐熱性や耐久性の確保等も重要となる。そこで従来は、高融点で高耐熱性な接合材(例えば、SnAgCu、SnSb等の鉛フリーはんだ)が用いられていた。
【0006】
しかし、そのような接合材を用いたパワーモジュールは、冷熱サイクル(温度サイクル)下で耐久性が十分でも、パワーサイクル下では必ずしも耐久性が十分ではなかった。なお、冷熱サイクルでは、温度分布が略均一的な高温環境下と低温環境下に繰り返しパワーモジュールが曝される。パワーサイクルでは、パワーデバイスへの通電のON・OFが短時間内に繰り返しなされて、不均一な温度分布を生じる環境下に繰り返しパワーモジュールが曝される。
【0007】
パワーサイクル下における耐久性を確保するため、低ヤング率または低耐力(常温域)の接合材も用いられていた。しかし、そのような接合材を用いたパワーモジュールでは、接合部温度(Tj)の上限保証温度が低温域(例えば150℃以下)に制限される。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、パワーサイクル下における信頼性を高温域まで確保できるパワーモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、パワーデバイスの第1面側(裏面側/下面側)にある電極を接合する第1接合材の機械的特性(例えば耐力)の温度依存性と、第2面側(表面側/上面側)にある電極を接合する第2接合材の機械的特性(例えば耐力)の温度依存性とを、所定範囲内にすることにより、パワーサイクル下における信頼性(耐久性)をより高温域まで確保できることを新たに見出した。この発見を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0010】
《パワーモジュール》
(1)本発明は、半導体からなり、第1面側にある第1電極と第2面側にある第2電極とを少なくとも有するパワーデバイスと、該第1電極に第1接合材を介して接合される第1スプレッダと、該第2電極に第2接合材を介して接合されるターミナルとを備え、該半導体は、ケイ素または炭化ケイ素からなり、該第1電極は、該第2電極よりも接合される電極面積が大きく、該第2電極は、ケイ素を含むアルミニウム合金(「Al-Si合金」という。)からなるAlSi層を含み、該第1スプレッダと該ターミナルは、銅または銅合金からなり、該第1接合材は、30℃のときの0.2%耐力と175℃のときの0.2%耐力との差の絶対値(|Δσ|)が10MPa以下であり、該第2接合材は、30~175℃の全域において該Al-Si合金よりも0.2%耐力が小さく、30℃のときの0.2%耐力と175℃のときの0.2%耐力との差の絶対値(|Δσ|)が20MPa以下であるパワーモジュールである。
【0011】
(2)本発明のパワーモジュールは、高温域(例えば、素子中心温度または接合部温度の上限値が150℃超~175℃以下となる温度域)のパワーサイクル下でも、高い耐久性(信頼性)を発揮し得る。例えば、そのような環境下でも、第2電極を構成するAlSi層の割れ(クラック)等が抑止される。
【0012】
このような優れた効果が発揮される理由やメカニズムは必ずしも定かではない。但し、第2電極側(特にAlSi層)のクラックの有無が、接合材の機械的特性(例えば耐力)の温度依存性に影響しており、第2電極の反対側である第1電極側の第1接合材の機械的特性の温度依存性を第2電極側の第2接合材よりも小さくすることが有効であるということは、これまでにない知見である。本発明は、そのような発見に基づいてなされており、画期的である。
【0013】
《その他》
特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】両面冷却構造型のパワーモジュールの要部を模式的に示す断面図である。
図2A】各試料に係るパワーサイクル試験後の第1電極面付近を観察した超音波顕微鏡像である。
図2B】パワーサイクル試験に係る1周期分の通電パターン図である。
図3】各試料に係るパワーサイクル試験後の第1接合材付近の断面を観察した光学顕微鏡像である。
図4】接合材に用いた各金属の耐力の温度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、本発明のパワーモジュールのみならず、その製造方法にも該当し得る。「方法」に関する構成要素は「物」に関する構成要素ともなり得る。
【0016】
《パワーデバイス》
パワーデバイスは、ダイオードでもよいが、主にトランジスタである。トランジスタは、第1電極、第2電極、制御電極(第3電極)を備える。本発明の場合、第1電極は第2電極よりも電極面積(または接合面積)が大きく、第1電極はトランジスタの第1面側にあり、第2電極はその第2面側(第1面側の反対面側)にある。このような条件を満たす限り、トランジスタは、IGBT、MOSFET、サイリスタ等のいずれでもよい。IGBTなら、例えば、第1電極はコレクタ電極、第2電極はエミッタ電極となる。MOSFETなら、例えば、第1電極はドレイン電極、第2電極はソース電極である。サイリスタなら、例えば、第1電極はアノード電極であり、第2電極はカソード電極である。なお、いずれの場合も、制御電極は、通常、ゲート電極である。ちなみに、本発明のパワーモジュールは、トランジスタ以外のデバイス(ダイオード等)や制御回路を含み得る。
【0017】
パワーデバイスは、半導体(SiまたはSiC)からなる。半導体基板(チップ)中のp領域やn領域は、例えば、イオン注入等により形成される。また、第1電極や第2電極は、例えば、金属蒸着(メタライズ)や熱処理(アニール)等により形成される。なお、制御電極は、例えば、絶縁膜(酸化膜)、ポリシリコン膜等により形成される。
【0018】
このような半導体の熱膨張係数(CTE:coefficient of thermal expansion)は、2~5さらには3~6ppm/K程度である。ちなみに、SiはCTEが3ppm/K程度、SiCはCTEが約3.7ppm/K程度である。
【0019】
第1電極や第2電極(特に第2電極)は、ケイ素を含むアルミニウム合金(「Al-Si合金」という。)からなるAlSi層を含む。AlSi層は、一般的に、半導体とNi電極との密着性確保や良好な電気的接触特性を得るために設けられる。パワーサイクル環境下で生じる不均一な温度分布やCTE不整合等に起因して、そのAlSi層でクラックが生じ易い。
【0020】
第1電極や第2電極は、AlSi層下(半導体上)に、極薄いAl層やTi層(50nm~500nm程度)等が形成されていてもよい。また、AlSi層上にNi層等が形成されていてもよい。下層であるAl層やTi層等は、例えば、オーミック接触や密着性を確保するために設けられる。上層であるNi層等は、例えば、接合材との接合性を確保するために設けられる。
【0021】
《ターミナルとスプレッダ》
第1電極に接合される第1スプレッダと、第2電極に接合されるターミナルは、導電性および熱伝導性に優れた銅(無酸素銅等の純銅)または銅合金からなる。これらのCTEは、通常、15~19ppm/K程度である。但し、CTEが小さい銅合金(例えば、CTEが4~10ppm/K程度のCu―W合金、Cu―Mo合金等)を用いてもよい。なお、これらは後述する第2スプレッダについても適宜該当し得る。
【0022】
パワーデバイスが第2面側に制御電極を有するトランジスタの場合、ターミナルは、例えば、その制御電極に接合されるボンディングワイヤーのスペースを確保するスペーサとなる。その厚みは、例えば、0.1mm~2mmさらには0.5mm~1.5mm程度である。なお、ターミナルの第2面側には、例えば、第2スプレッダが第3接合材を介して接合される。
【0023】
スプレッダは、パワーデバイスの発熱を受熱して、外部へ放熱する熱伝導部材である。スプレッダは、例えば、導電部材を兼ねるリードフレーム、DBC(Direct Copper Bond)基板の回路層等である。
【0024】
《接合材》
(1)第1電極と第1スプレッダの接合部(「第1接合部」という。)に用いられる第1接合材と、第2電極とターミナルの接合部(「第2接合部」という。)に用いられる第2接合材とは、いずれも、機械的特性(強度、クリープ抵抗、延性、ヤング率等)の温度変化が小さいものであるとよい。
【0025】
各接合材の機械的特性の温度依存性は、例えば、30℃のときの0.2%耐力(σ)と175℃(σ)のときの0.2%耐力との差(Δσ=σ―σ)またはその絶対値(|Δσ|)により指標される。第1接合材なら、例えば、その0.2%耐力差の絶対値(|Δσ|)が10MPa以下さらには6MPa以下あるとよい。第2接合材なら、例えば、その0.2%耐力差の絶対値(|Δσ|)が20MPa以下さらには12MPa以下あるとよい。いずれの場合でも、クラックが発生し易い第2電極(特にAlSi層)側である第2接合材の0.2%耐力差(絶対値)よりも、その反対面側にある第1接合材の0.2%耐力差(絶対値)を小さくするとよい。
【0026】
(2)第1接合材は、例えば、アルミニウム層と金属間化合物層が積層された複合材からなるとよい。アルミニウム層には、例えば、アルミニウム箔を用いることができる。このアルミニウム箔は、例えば、Al以外の不純物元素の合計量が1質量%以下(未満)である純アルミニウムからなるとよい。具体的にいうと、その純度は2N~4Nであるとよい。なお、2Nは純度99%、3Nは純度99.9%、4Nは純度99.99%を意味する。過剰に高純度なアルミニウム箔は高価であり、また、機械的特性の温度変化が大きくなり得る。不純物が過多になると、アルミニウム層が高強度または低延性となり、その応力緩和性が低下し得る。
【0027】
アルミニウム層の厚みは、例えば、複合材全体の厚さに対して60~95%さらには75~90%とするとよい。具体的にいうと、アルミニウム層は、例えば、10~500μmさらには20~200μm程度である。その厚みが過小では、第2電極(特にAlSi層)に生じる熱ひずみの低減が不十分となる。また、アルミニウム層による応力緩和性や耐熱疲労性も不十分となる。アルミニウム層の厚みが過大になると、パワーモジュールの薄型化が阻害される。
【0028】
金属間化合物層は、例えば、少なくとも一方側の被接合面上に、蒸着等により形成した低融点金属(層)と高融点金属(層)が反応し、その低融点金属よりも高融点な金属間化合物(IMC)が生成されてなる。このようなIMCによる接合を、固液相互拡散接合または単に「SLID(Solid Liquid Interdiffusion )接合」という。なお、本明細書では、アルミニウム層(Al層)と、その少なくとも一面側(通常はアルミニウム層の両面側)に形成された金属間化合物層(IMC層)とが積層された接合材(複合材)を、単に「Al-SLID」という。
【0029】
金属間化合物層を生成する低融点金属と高融点金属の組合わせ(ひいては金属間化合物の組成)は、パワーモジュールの耐熱温度、接合工程中の加熱温度、熱膨張係数等を考慮して選択される。低融点金属として、例えば、Sn、In、Ga、Pb、Bi、Zn等やそれらの合金がある。高融点金属として、Ni、Cu,Ti、Mo、W、Si、Cr、Mn、Co、Zr、Nb、Ta、Ag、Au、Pt、等やそれらの合金がある。
【0030】
一例として、Sn(融点:約230℃)と、Ni(融点:約1450℃)またはCu(融点:約1085℃)とを組み合わせるとよい。例えば、Sn層とNi層を接触させて約350℃で5分間程度加熱すると、ニッケルスズ(NiSn/融点:約795℃)からなる金属間化合物層が得られる。こうして、接合温度を抑制しつつ、高融点な複合接合層が得られる。高融点金属/低融点金属の他の組合わせは、Cu/Sn、Ag/Sn、Pt/Sn/、Au/Sn等でもよい。
【0031】
金属間化合物層は、通常、アルミニウム層よりも十分に薄い。アルミニウム層の片面側にある金属間化合物層(一層分)の厚さは、例えば、1~15μmさらには3~10μm程度である。複合材全体の厚さに対する金属間化合物層の合計厚さは、例えば、5~40%さらには10~25%程度である。
【0032】
このようなAl-SLIDは、上述した温度域内(30~175℃)で機械的特性(0.2%耐力等)が安定しており、その温度依存性が十分に小さい。このためAl-SLID(複合材)は、第1接合材として用いても、第2接合材として用いてもよい。なお、Al-SLIDの機械的特性は、ほぼ、その大部分を占めるアルミニウム層の機械的特性に依存していると考えてよい。
【0033】
(3)第2接合材には、機械的特性の温度依存性が比較的小さい種々の材料を用いることができる。例えば、上述したAl-SLIDを用いる他、従来から用いられているスズと銅のはんだ(単に「SnCuはんだ」という。)を用いることもできる。SnCuはんだは、例えば、その全体を100質量%として、Cu:0.4~1.5質量%さらには0.5~1質量%を含み、残部がSnと不純物からなるスズ合金からなる。この他、上述した0.2%耐力差の絶対値(|Δσ|)が所定範囲内となる限り、Ag、Ni等の合金からなるはんだを用いてもよい。
【0034】
(4)ターミナルの第2面側と第2スプレッダを接合する第3接合材には、各種はんだ、Al-SLID等を用いることができる。ターミナルと第2スプレッダの間は、パワーデバイスとターミナル若しくは第1スプレッダとの間よりも、低温で温度分布も略均一的である。このため第3接合材については、必ずしも、その機械的特性の温度依存性を問わない。
【実施例
【0035】
第1接合材と第2接合材の組み合わせを変更した種々のパワーモジュールを製作した。それらをパワーサイクル試験に供して、第2接合部(特に第2電極のAlSi層)にクラックが生じるか否かを観察し、パワーモジュールの耐久性(信頼性)を評価した。このような具体例を挙げつつ、本発明をさらに詳しく説明する。
【0036】
《パワーモジュールの概要》
本発明の一実施例である両面冷却構造型のパワーモジュールMを模式的に示した断面図を図1に示した。パワーモジュールMは、IGBTであるトランジスタ1と、スペーサであるターミナル2と、リードフレームである第1スプレッダ31および第2スプレッダ32とを備える。
【0037】
トランジスタ1は、IGBTの基板10と、そのコレクタ電極である第1電極11と、そのエミッタ電極である第2電極12と、そのゲート電極である制御電極13(第3電極)とを備える。
【0038】
第1電極11は、第1接合材41を介して、第1スプレッダ31に接合されている。第2電極12は、第2接合材42を介して、ターミナル2の第1面側に接合されている。制御電極13は、ボンディングワイヤー51により信号端子52と接合されている。ターミナル2の第2面側は、第3接合材43を介して第2スプレッダ32と接合されている。
【0039】
なお、図1には、一例として、第1接合材41が、アルミニウム層413とその両面側に生成された金属間化合物層411、412とからなるAl-SLID(複合材)である場合を示した。
【0040】
《パワーサイクル試験》
(1)試料
パワーサイクル試験に供するパワーモジュールM(試料)を種々製作した。先ず、トランジスタ1の基板10は、シリコン(Si単結晶)のチップ(12.4mm×12.4mm×厚さ135μm)からなる。第1電極11の電極面(接合面)は12.4mm×12.4mm(面積:154mm)、第2電極12の電極面(接合面)は11mm×10mm(面積:110mm)である。
【0041】
トランジスタ1の第1電極は、基板10のシリコン下面上に、AlSi層(厚さ5μm)、Ti層(厚さ250nm)、およびNi層(厚さ3μm)が順に積層されてなる。トランジスタ1の第2電極は、基板10のシリコン上面上に、AlSi層(厚さ5μm)およびNi層(厚さ3~5μm)が順に積層されてなる。各層は、原料金属(ターゲット)をスパッタリングして形成される。AlSi層は、Si:1質量%、Al:残部であるアルミニウム合金(「Al-1%Si」という。)を原料金属とした。
【0042】
ターミナル2(厚さ1.15mm)およびスプレッダ31、32(厚さ2mm)には、無酸素銅(純銅)箔を用いた。
【0043】
第1接合材41と第2接合材42には、図2Aに示す各種の接合材を用いた。SnCuは、Cu:0.7質量%、Sn:残部であるスズ合金のはんだ(厚さ100μm)からなる。SnSbは、Sb:5質量%、Sn:残部であるスズ合金のはんだ(厚さ100μm)からなる。なお、本明細書でいう合金組成は、特に断らない限り、合金全体に対する質量割合(質量%)である。
【0044】
Al-SLIDは、純アルミニウム(2N)の箔(厚さ100μm)からなるアルミニウム層413と、SnとNiからなる金属間化合物層411、412(各厚さ5μm)とが積層されてなる。なお、アルミニウム層の厚さは、Al-SLID全体に対して91%となる。
【0045】
なお、Al-SLIDは、純アルミニウム箔の両面にそれぞれNiとSnが順にメタライズされた接合シートを、Niがメタライズされた被接合面間に介装した状態で加熱(270℃)し、SLID反応を生じさせて形成される。なお、第3接合材には、上述したSnCu(Sn-0.7質量%Cu)のはんだ(厚さ150μm)を用いた。
【0046】
(2)試験
パワーサイクル試験は、各試料(パワーモジュールM)に、図2Bに示す通電パターンを5万サイクル印加して行った。通電のオン・オフは、素子中心温度が30℃(Tjmin)と、150℃または175℃(Tjmax)の範囲で変化するようにした。なお、素子中心温度はダイオードを用いた温度センサにより測定した。
【0047】
《観察》
(1)各試料について、第2電極12とターミナル2(第1面側)が接合されている第2接合部(第2接合材42付近)を、超音波顕微鏡で観察した。その観察像と、第2接合部(特に第2電極12のAlSi層)におけるクラックの有無とを、図2Aに併せて示した。
【0048】
(2)各試料の第2接合部の断面を光学顕微鏡で観察した。その観察像を図3にまとめて示した。
【0049】
《評価》
図2Aから次のことがわかる。試料11のように、第1接合材41と第2接合材42にSnCuはんだを用いた場合、素子中心温度の上限値(Tjmax)が150℃までなら、第2接合部にクラックはみられなかった。しかし、試料12のように、第1接合材41と第2接合材42にSnCuはんだを用いた場合でも、素子中心温度の上限値(Tjmax)が175℃になると、第2接合部にクラックが発生した。
【0050】
また、試料2のように、第1接合材41と第2接合材42に、SnCuはんだよりも高強度(高融点)なSnSbはんだを用いた場合でも、第2接合部にクラックが発生した。さらに、試料4のように、第1接合材41をAl-SLID、第2接合材42をSnSbとした場合も、第2接合部にクラックが発生した。
【0051】
一方、試料3または試料5のように、第1接合材41をAl-SLIDとして、第2接合材42をSnCuはんだ若しくはAl-SLIDとした場合には、第2接合部にクラックが発生しなかった。
【0052】
さらに図3からわかるように、クラックを生じた試料の場合、第2電極12のAlSi層にクラックが生じることもわかった。なお、試料3のように、第2接合部にクラックが無い場合、第2電極12(特にAlSi層)にクラックやうねりはみられなかった。
【0053】
《考察》
上述した結果を踏まえて、第1接合材と第2接合材の材質の相違(組み合わせ)により、第2電極のAlSi層等に発生するクラックの有無(ひいてはパワーモジュールの耐久性・信頼性)が異なる理由は、現状、次のように推察される。
【0054】
(1)第1接合材41と第2接合材42に用いた各金属材料の0.2%耐力の温度依存性を図4に示した。この温度依存性は、恒温槽を有する引張り試験機を用いて、ひずみ速度:0.01~0.06%/secの条件下で、各金属材料を引張り試験して得られたデータである。なお、Al-SLIDについては、その大部分を占めるAl(2N)に係る0.2耐力の温度依存性を示した。ちなみに、0.2%耐力は、各温度で行う引張試験により得られた応力―ひずみ線図上で、除荷後の塑性ひずみが0.2%となるときの応力値である。
【0055】
図4から明らかなように、SnSbはんだの0.2%耐力は、低温(25℃)でかなり大きいが、高温(200℃)になると急激に小さくなっている。つまり、SnSbはんだの機械的特性は、温度に対して大きく変化し易い(温度依存性が大きい)。
【0056】
一方、SnCuはんだの0.2%耐力は、低温(25℃)であまり大きくないものの、温度に対する変化は小さい(温度依存性は小さい)。さらにAl-SLID(Al(2N))は、25~200℃の範囲で、0.2%耐力が殆ど変化しておらず、温度依存性が非常に小さい。
【0057】
また、図4から明らかなように、30℃のときと175℃のときとの0.2%耐力差の絶対値(|Δσ|)をみると、SnSbはんだでは|Δσ|=24MPa(>20MPa)であった。一方、SnCuはんだは|Δσ|=13MPa(10MPa<|Δσ|<20MPa)であり、Al-SLIDは|Δσ|=3MPa(|Δσ|<10MPa)であった。さらに、SnCuはんだとAl-SLIDは、Al-1%Siよりも、30~175℃の全域において0.2%耐力が小さかった。
【0058】
(2)パワーサイクル下では、トランジスタ1(特に基板10)の温度が不均一となり、これに起因して、各電極や各接合部に生じる熱応力や変形・ひずみも不均一となり易い。このような不均一性が、各電極(特に第2電極のAlSi層)にクラックが生じさせる大きいな要因と考えられる。このような傾向は、素子温度(上限値)が高まるほど、顕著になり易い。
【0059】
ところが、本発明のように、機械的特性の温度依存性が小さい接合材をパワーデバイスの接合部に用いると共に、クラックを生じ易い第2電極側の第2接合材よりも、その反対面側にある第1電極側の第1接合材の温度依存性をさらに小さくすると、理由は定かではないが、上述した各接合部や各電極に生じる不均一なひずみ等が顕著に抑制されるようになったと考えられる。
【0060】
詳細なメカニズムは兎も角、本発明のパワーモジュールを採用することにより、その耐久性や信頼性の確保または向上が図られることは確かである。
【符号の説明】
【0061】
M パワーモジュール
1 トランジスタ
10 基板
11 第1電極
12 第2電極
13 制御電極
2 ターミナル
31 第1スプレッダ
32 第2スプレッダ
41 第1接合材
42 第2接合材
43 第3接合材
図1
図2A
図2B
図3
図4