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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】成膜成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/17 20060101AFI20221102BHJP
   B29C 33/34 20060101ALI20221102BHJP
   B29C 45/06 20060101ALI20221102BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20221102BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20221102BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20221102BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
B29C45/17
B29C33/34
B29C45/06
B29C45/26
C23C14/14 B
C23C14/14 Z
C23C14/24 T
C23C14/34 T
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019003263
(22)【出願日】2019-01-11
(65)【公開番号】P2020110967
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 隆男
(72)【発明者】
【氏名】小沼 人士
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光記
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-286082(JP,A)
【文献】特開2006-168160(JP,A)
【文献】特開2015-038236(JP,A)
【文献】特開2010-100006(JP,A)
【文献】特開2009-166427(JP,A)
【文献】特開2009-023246(JP,A)
【文献】特開2009-234204(JP,A)
【文献】特開2008-195007(JP,A)
【文献】特開2004-338328(JP,A)
【文献】国際公開第2004/101254(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/098302(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/095807(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 33/00-33/76
C23C 14/00-14/58
B32B 1/00-43/00
H05H 1/00- 1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非導電性の第1成形体と、前記第1成形体を覆い、電磁波透過性能を有する金属被膜とを含む成膜成形体の製造方法であって、
(a)第1金型および第2金型を型締めし、前記第1金型と前記第2金型との間の第1空間に第1材料を射出することで、前記第1材料から成る前記第1成形体を形成する工程、
(b)前記第1金型および前記第2金型を型開きした後、前記第1金型と前記第2金型との間において、前記第2金型に対して前記第1成形体を移動させる工程、
(c)前記(b)工程の後、前記第1金型および前記第2金型を型締めし、前記第2金型が備える第1成膜部で、前記第1成形体の表面上に前記金属被膜を成膜し、その後、前記第1金型および前記第2金型を型開きした後、前記第2金型に対して、前記金属被膜を有する前記第1成形体を移動し、前記第1成膜部と並んで形成されている第2成膜部で、前記第1金型および前記第2金型を型締めし、前記金属被膜の表面上に金属材料からなる保護膜を成膜する工程、
(d)前記(c)工程の後、前記第1成形体、前記金属被膜および前記保護膜を加熱する工程、
を有し、
前記金属被膜には、前記()工程後に前記第1成形体、前記金属被膜および前記保護膜が温度変化する過程でクラックが生じ、これにより前記金属被膜および前記保護膜に電磁波透過性能が付与される、成膜成形体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の成膜成形体の製造方法において、
前記(a)工程から前記()工程の間、前記第1成形体は、前記第1金型と前記第2金型との間に位置している、成膜成形体の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の成膜成形体の製造方法において、
前記第1成膜部は、スパッタリング装置または蒸着装置を含んでいる、成膜成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の成膜成形体の製造方法において、
前記第1材料と、前記金属被膜を構成する第2材料とは、互いに熱膨張係数が異なる、成膜成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の成膜成形体の製造方法において、
前記第1成形体は、前記(a)工程で形成された後、前記(c)工程で前記金属被膜が成膜されるときまで、100℃以上の温度を保っている、成膜成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項記載の成膜成形体の製造方法において、
前記(b)工程および前記()工程では、前記第1金型を回転させることで、前記第1金型に支持された前記第1成形体を移動させる、成膜成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項1記載の成膜成形体の製造方法において、
前記金属被膜の膜厚は、800~1500Åである、成膜成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項1記載の成膜成形体の製造方法において、
前記金属被膜を構成する第2材料は、ステンレス、クロムまたはアルミニウムである、成膜成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波透過性を有する成膜成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両周辺監視装置には、車両前方のバンパーの左右隅部などに、電磁波を利用した測距センサ(例えばミリ波レーダー)を搭載したものがある。測距センサはバンパーの隅部の外表面に取り付けられており、測距センサが障害物を検出すると、運転手に警告を発する。このような測距センサを車両前方の中央部に配置する場合、フロントグリルの隙間または前面などに測距センサを配置することが考えられる。しかし、このようなレーダーの配置では、レーダーが露出し、外部から視認可能となるので、車両のデザイン性が悪化するという問題があった。
【0003】
そこで、車両前方に配置された成膜成形体(例えばエンブレム)の裏側に測距センサを配置する実装法が検討されているが、成膜成形体の表面に形成された従来の金属被膜は、測距センサが発する電磁波を遮断する特性がある。これに対し、特許文献1(特開2015-38236号公報)には、電磁波透過性に優れた金属被膜を形成することを目的として、基材表面を覆う金属薄膜にクラックを形成することが記載されている。また、特許文献2(特開2011-58048号公報)には、成形機から取り出した製品を保温しつつ成膜装置本体内に移動し、薄膜をコーティングすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-38236号公報
【文献】特開2011-58048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
成形機と成膜装置とを用意し、成形機内の金型により形成した成形体を成膜装置内に移して成膜を行うことで、上記エンブレムなどの成膜成形体を製造する場合、成形体の運搬用設備、および、成膜前の成形体を洗浄(除電エアー洗浄)するための洗浄装置が必要となる。また、成形体が水分を吸収すること、成形体が帯電すること、および、成形体にごみが付着することなどに起因して、歩留まりが低下する。このような問題の発生を防ぐためにはクリーンルームを用意する必要があり、成形機、成膜装置、運搬設備および洗浄設備を含めると、成膜成形体を形成するための設備が大規模なものとなり、成膜成形体の製造コストが増大する。
【0006】
また、金属薄膜にクラックを発生させて電磁波透過性の高い金属被膜を形成する際には、昇温された成形体にスパッタリング法などにより金属被膜を形成した後、成形体を冷却することで当該クラックを形成する。このため、成形機から成膜装置へ成形体に搬入する過程では、成形体の保温または昇温(加熱)を行う工程、並びに、成膜装置内の減圧などの工程を要する。このことは、製造工程の煩雑化および成膜成形体の製造コストの増大の原因となる。
【0007】
本発明の目的は、電磁波透過性に優れた成膜成形体の製造設備および製造工程の簡素化を図ってコストダウンを実現できる成膜成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の成膜成形体の製造方法は、非導電性の第1成形体と、前記第1成形体を覆う金属被膜とを含む成膜成形体の製造方法であって、第1金型および第2金型の間で成形した前記第1成形体を形成する工程、前記第2金型が備える第1成膜部で、前記第1成形体の表面に前記金属被膜を成膜する工程、を有し、前記金属被膜は、成膜後にクラックが生じることで電磁波透過性能を有するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の成膜成形体の製造方法によれば、成形と成膜とを同一金型内で済ませるため、製造に要する設備を小型化することができ、成形体の水分の吸収、成形体の静電気の発生および成形体へのごみの付着を防ぐことができ、成膜のための真空状態を容易に作り出すことができる。このため、電磁波透過性に優れた成膜成形体の製造工程を簡素化して、製造コストを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態1である成膜成形体の製造フローである。
図2】本発明の実施の形態1である成膜成形体の製造工程中の断面図である。
図3図2に続く成膜成形体の製造工程中の断面図である。
図4図3に続く成膜成形体の製造工程中の断面図である。
図5図4に続く成膜成形体の製造工程中の断面図である。
図6図5に続く成膜成形体の製造工程中の断面図である。
図7図6に続く成膜成形体の製造工程中の断面図である。
図8】本発明の実施の形態1である成膜成形体が取付けられた車両の、一部を透過して示す上面図である。
図9】本発明の実施の形態2である成膜成形体の製造工程中の断面図である。
図10図9に続く成膜成形体の製造工程中の断面図である。
図11図10に続く成膜成形体の製造工程中の断面図である。
図12図11に続く成膜成形体の製造工程中の断面図である。
図13】本発明の実施の形態2の変形例1である成膜成形体の製造工程中の断面図である。
図14図13に続く成膜成形体の製造工程中の断面図である。
図15】本発明の実施の形態2の変形例2である成膜成形体の製造工程中の斜視図である。
図16図15に続く成膜成形体の製造工程中の斜視図である。
図17図16に続く成膜成形体の製造工程中の斜視図である。
図18図17に続く成膜成形体の製造工程中の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。また、実施の形態を説明する図面においては、構成を分かりやすくするために、平面図または斜視図等であってもハッチングを付す場合がある。さらに、実施の形態を説明する図面においては、構成を分かりやすくするために、断面図においてハッチングを省略する場合がある。
【0012】
(実施の形態1)
以下、車両用のエンブレムを例とし、成膜成形体(被膜成形体)の製造方法について図面を用いて説明するが、これに制限されることはない。ここでは、レーダーが発する電磁波を透過することが可能な金属被膜(金属薄膜)により表面を覆われた車両用エンブレムの製造方法であって、同一金型内で当該エンブレムの成形工程および金属被膜の成膜工程の両方を行うことについて説明する。
【0013】
<成膜成形体の製造方法>
以下に、図1図8を用いて、本実施の形態の成膜成形体の製造方法について説明する。図1は、本実施の形態の成膜成形体の製造フローである。図2図7は、本実施の形態の成膜成形体の製造工程中の断面図である。図8は、本実施の形態の成膜成形体が取付けられた車両の、一部を透過して示す上面図である。図8では、車両内に取付けられたレーダーを透過して示している。
【0014】
ここでは、図1に示すフローに沿って、成膜成形体の製造方法について説明する。
【0015】
本実施の形態の成膜成形体の製造工程では、まず、材料供給を行う(図1のステップS1)。つまり、成膜成形体の製造装置(以下、単に製造装置と呼ぶ)に、成膜成形体の成形に用いられる材料を供給する。ここでは、例えば、ポリカーボネートを材料として用いて成形体を形成する。製造装置は、図2に示す可動金型1および固定金型2を備えており、さらに、可動金型1と固定金型2とを互いに嵌合した際に、それらの金型同士の間の隙間に当該材料を射出するためのシリンダ(図示しない)を備えている。また、製造装置は当該シリンダに当該材料を供給するための容器であるホッパ(図示しない)を備えている。図1のステップS1では、まず、例えば粒状の材料(ペレット)を、乾燥ドラムなどに供給し、当該乾燥ドラムなどを用いて乾燥させる。ここで材料を乾燥させる目的は、材料内の空気または水分が成形工程中に熱により暴発し、成形体の表面に異常が生じることを防ぐことなどにある。ここでは、当該材料としてポリカーボネートを用いる場合について説明するが、当該材料はアクリル樹脂(PMMA)などのその他の有機材料であってもよい。当該材料により成形される成形体は、非導電性の物体である。
【0016】
次に、乾燥した材料をホッパを介してシリンダ内に供給し、シリンダ内で材料を加熱し、溶融する(図1のステップS2)。シリンダは、内部の材料を金型内に材料を送り出す機能(射出機能)を有しており、シリンダの周囲には、シリンダ内の材料を加熱するためのヒータが備え付けられている。シリンダ内で溶融した材料の温度は100℃以上となる。本願でいう金型内とは、図2に示す可動金型1または固定金型2の1つの金型の内部を指すのではなく、複数の金型(ここでは、可動金型1および固定金型2)同士の間に挟まれた領域を指す。
【0017】
次に、図2に示す可動金型1および固定金型2を、図3に示すように嵌合させた状態、つまり型締めを行った状態で可動金型1および固定金型2の相互間の隙間(空間)4aに溶融した材料を射出することで、成形を行う(図1のステップS3)。これにより、図4に示す成形体4を形成する。このとき、可動金型1および固定金型2のそれぞれの温度は、例えば80~95℃である。この射出成形工程について、以下に具体的に説明する。
【0018】
図2図4に示す可動金型(第1金型)1は、固定金型(第2金型)2に対して対向方向に離接移動できるとともに、固定金型2から離間した状態で固定金型2と対向する面に沿う方向の移動(平行移動)ができるように構成されている。なお、金型の移動は相対的なものでよいから、可動金型1を固定し、固定金型2を移動させるように構成してもよく、また両者を移動するように構成してもよい。また、移動は、面に沿う方向の移動であれば、直線方向の平行移動に限らず、軸を中心とする回転移動であってもよい。金型を回転させることについては、後述する実施の形態2の変形例2で説明する。
【0019】
固定金型2と対向する可動金型1の1つの面(上面)には、成形体(ワーク)4の外側面を形成するための凸型面1aが形成されている。また、可動金型1と対向する固定金型2の1つの面(下面)には、成形体4の内側面を形成するための凹型面2aと、成膜部(成膜装置、成膜手段)であるスパッタリング装置5を収容(内装)するための凹型面2cとが並んで形成されている。凸型面1aおよび凹型面2aは、成形部を構成している。
【0020】
スパッタリング装置5は公知のものが設けられるが、その概略として、スパッタリング装置5は、真空ポンプ6、真空ポンプ6に開閉バルブ6aを介して接続される真空流路6b、成膜材料(原料)である金属から成るターゲット7、および、ターゲット7を固定(配置)するためのステージ8を備えている。なお、ターゲット7は交換可能な成膜材料であるから、スパッタリング装置5の構成要素ではないと考えることもできる。ターゲット7を構成する金属は、例えばステンレス(SUS)、クロム(Cr)またはアルミニウム(Al)などである。成形体4は、車両(自動車)の前方であって、例えばフロントグリルの中央部に配置されるエンブレムの基材である。
【0021】
図2では、可動金型1および固定金型2が互いに離間して対向している状態を示している。つまり、成形体4(図4参照)を形成する凸型面1aおよび凹型面2a同士がそれぞれ互いに離間した状態(型開きした状態)で対向している。この離間状態から、図3に示すように、可動金型1を固定金型2側に移動することで、対向する凸型面1aおよび凹型面2a同士が型締め(型合わせ)される。この型締め状態で、凸型面1aおよび凹型面2a同士の隙間4aに材料が射出され、材料が固まるまで材料に圧力を加えたまま、材料を冷却する。材料が冷却されて固まることで、図4に示すように、当該材料から成る成形体4が成形される。
【0022】
次に、成膜部を用いて、成形体4の表面に金属被膜を成膜する(図1のステップS4)。すなわち、まず、図5に示すように、可動金型1が固定金型2から離型(型開き)する方向に移動する離型(型開き)工程を行う。このとき、可動金型1側に成形体4が脱型されずに支持されように型設計されている。つまり、成形体4は凸型面1aに接しており、可動金型側に残る。続いて、可動金型1は、成形体4がスパッタリング装置5と対向するよう平行移動する。言い換えれば、可動金型1が移動することで、可動金型1と固定金型2との間の領域において、固定金型2に対し成形体4が相対的に移動する。このとき、成形体4は凹型面2cの直下に移動する。
【0023】
続いて、図6に示すように、可動金型1が固定金型2側に移動することで可動金型1と固定金型2とは型締め状態となり、凹型面2c内と成形体4との間の成膜空間6cが外気と隔離され、封止される。成膜空間6cは、可動金型1と固定金型2とが互いに密着することで可動金型1と固定金型2の凹型面2cとにより囲まれた密閉空間である。
【0024】
続いて、開閉バルブ6aを開放して該成膜空間S内の空気を真空流路6bから抜くことで、成膜空間6c内を真空状態にする。このとき、成膜空間6c内の気圧は例えば10-2Paである。その後、成膜空間6c内にアルゴン(Ar)ガスを封入(充填)する。続いて、成膜空間6cで放電を起こし、アルゴンをイオン化させる。そして、イオン化したアルゴンをターゲット7に衝突させ、ターゲット7の材料の粒子を弾き飛ばす。これにより弾き出された粒子が成形体4の表面に付着することで成膜が行われる(図1のステップS4)。この成膜工程により、成形体4と、成形体4の表面を覆う金属被膜(金属膜、金属光沢膜、金属薄膜)14とを備えた成膜成形体9を形成する。金属被膜14は、成形体4の表面のうち、可動金型1の凸型面1a側とは反対側の面であって、固定金型2側の面を覆っている。金属被膜14は、例えばステンレス(SUS)、クロム(Cr)またはアルミニウム(Al)などから成り、上記成膜工程で形成された膜である。金属被膜14がアルミニウム膜である場合は、金属被膜14の酸化を防ぐ観点から、後述する実施の形態2のように、金属被膜14を覆う保護膜を形成することが望ましい。
【0025】
金属被膜14を均一かつ安定した膜厚で形成する観点から、成形体4とターゲット7との間の距離(成膜距離)は一定であることが望ましい。つまり、金属被膜14を形成するために用いられるターゲット7の表面であって、成形体4と対向する表面は、成膜対称の成形体4の表面に沿った立体形状を有していることが望ましい。これにより金属被膜14を均一な膜厚で形成することで、後述する金属被膜14のクラックを金属被膜14の全体に亘って一定に形成することができる。よって、ターゲット7としては、成形体4の表面に沿って湾曲したものまたは折れ曲がったものを用いることが考えられる。
【0026】
金属被膜14は、成形工程の直後の成形体4が、成形工程により昇温された可動金型1および固定金型2の温度(例えば80~95℃)以上の温度(例えば100℃以上)を有している状態で成膜される。言い換えれば、成形工程後、成形体4が100℃以上の温度を保った状態で、金属被膜14の成膜工程を行う。ここで、金属被膜14を形成するために用いる材料(ターゲット7の材料)は、成形体4の材料とは異なる熱膨張係数を有する。つまり、金属被膜14の材料の線膨張係数(線膨張率)は、成形体4の線膨張係数(線膨張率)と異なる。例えば、金属被膜14の熱膨張係数は、成形体4の熱膨張係数より小さい。ただし、成膜直後において、金属被膜14の温度と成形体4の温度とはほぼ同じである。また、成膜直後において、金属被膜14は成形体4の表面を均一に広い範囲で覆っている。つまり金属被膜14はクラックを有していないため、互いに離間する複数の部分(膜)に別れておらず、連続的な1つの膜として形成されている。線膨張係数は、温度をセ氏1℃上げたときの物質の長さの増加量と、もとの長さとの比であり、体積の変化を表す熱膨張係数(体膨張率)の約3分の1となる。
【0027】
次に、図7に示すように、可動金型1を固定金型2から離間(型開き)させ、成膜成形体9を可動金型1と固定金型2との間から取り出す(図1のステップS5)。このように金型内から成膜成形体9が常温の環境に取り出されたことで、成膜成形体9の温度は低下する。続いて、成膜成形体9を昇温する加熱工程を行う。これにより加熱されて温度が上昇した成膜成形体9は、その後再度常温の環境に戻され、成膜成形体9の温度は低下する。
【0028】
次に、成膜成形体9に接続されているゲート(図示しない)を切断する(図1のステップS6)。ゲートは、成形体4(図4参照)の形成用の材料を隙間4a(図3参照)に射出するための経路内に形成される棒状の成形体である。図1のフローには示していないが、その後の工程では、形成した複数の成膜成形体9の箱詰め、および、成膜成形体9の外観検査を行う。これにより、本実施の形態の成膜成形体9の製造工程が完了する。
【0029】
ここで、金属被膜14および成形体4から成る成膜成形体9の温度は、金属被膜14の成膜直後から徐々に下がっていき、上記のように成膜成形体9を可動金型1と固定金型2との間から取り出した後は、当該温度はさらに早く低下する。このようにして成膜成形体9の温度が変化(低下)する際、金属被膜14の熱膨張係数と成形体4の熱膨張係数との違いにより、金属被膜14と成形体4との間に熱応力差が生じ、これにより金属被膜14にクラックが生じる。つまり、金属被膜14には、成膜後に成形体4および金属被膜14が温度変化する過程でクラックが生じる。すなわち、成形体4の表面を覆う金属被膜14は、ひび割れにより複数の膜に分離し、海島構造を有する不連続な膜となる。成形体4に用いられることが考えられる材料のうち、例えば、アクリル樹脂の線膨張係数は4.5~7.0×10-5/℃であり、ポリカーボネートの線膨張係数は5.6×10-5/℃である。金属被膜14に用いられることが考えられる材料のうち、例えば、ステンレスの線膨張係数は1.44×10-5/℃であり、クロムの線膨張係数は6.2×10-6/℃であり、アルミニウムの線膨張係数は2.4×10-5/℃である。
【0030】
また、上記にしたように、金型内から成膜成形体9を取り出した後に成膜成形体9を昇温する加熱工程を行い、その後常温の環境で成膜成形体9を冷却することで、上記クラックがさらに顕著に発生する。つまり、成形体4および金属被膜14のそれぞれの温度が上昇するとき、および、その後に当該温度が低下するときのそれぞれの温度変化により、クラックが発生する。ただし、クラックと、海島構造の金属被膜14を構成する複数の膜のそれぞれとは微細であるため、肉眼で視認することは困難である。つまり、金属被膜14が海島構造を有していても、成膜成形体9の表面の金属光沢は失われておらず、成膜成形体9の装飾品としての機能は損なわれない。
【0031】
上記のようにして形成された成膜成形体9は、図8に示すように、車両15の前方に取付けられるエンブレムである。すなわち、成膜成形体9は車両15の製造元または車種などの判別に用いられ、装飾効果を有するものであり、図7に示す金属被膜14は、エンブレムの表面に金属光沢を有する膜で覆うことを目的として成膜されたものである。成膜成形体9は、例えば車両15の前面のフロントグリルの中央部に配置されており、成膜成形体9の裏側、つまり、成膜成形体9の表面のうち、金属被膜14で覆われていない方の表面側の車両15内には、レーダー16が配置されている。レーダー16は、車両周辺監視装置の一種であり、電磁波(マイクロ波)を発振し、電磁波の反射を検知して車両の周辺の障害物を検出する測距装置である。測距センサが障害物を検出した際には、車両15の運転手に警告を発する。
【0032】
レーダー16は、例えば、ミリ波帯(波長1~10mmの電波)を発振するミリ波レーダーである。レーダー16を用いることで、図8に示す所定の範囲(検知エリア)17内の障害物を検出することができる。ここで、レーダーから発振される電磁波は、広範囲に均一に成膜された金属被膜に覆われている場合、当該金属被膜により遮断されることが考えられる。したがって、電磁波が遮断されることを防ぐ方法として、金属光沢を有するエンブレムまたはフロントグリルなどを避けて、外部から視認できる位置にレーダーを配置する方法がある。しかし、その場合自動車のデザイン性を著しく損ねる。
【0033】
そこで、本実施の形態では、電磁波透過性を有する成膜成形体9を形成し、例えばエンブレムである成膜成形体9の裏側にレーダー16を配置している。図7に示す成膜成形体9の表面の金属被膜14は、肉眼では確認することが困難な微細なクラック(ひび割れ、貫通溝)を有しており、クラックにより互いに離間する複数の膜により構成されている。つまり、金属被膜14は海島構造を有する膜であり、成形体4の表面を連続的に覆ってはいない。すなわち、金属被膜14は、成膜後にクラックが生じることにより電磁波透過性能が付与される。よって、金属被膜14を構成する上記複数の膜同士の間に、成形体4の表面を露出する微細なクラックが存在することで、成膜成形体9の裏側にレーダーを配置しても、当該レーダーから金属被膜14を含む成膜成形体9を透過して電磁波の送受信を行うことができる。
【0034】
図8に示すレーダー16を成膜成形体9の裏側に配置することで、車両15の外観のデザイン性を損なうことなく、レーダー16により車両の前方の障害物の検出を行うことができる。したがって、レーダー16を配置する位置の自由度を高めることもできる。なお、ここでは車両15の前方を測距するためのレーダー16をエンブレムの裏側に配置することについて説明したが、エンブレム以外の部品に本実施の形態の製造方法により形成した成膜成形体を用い、その部品の裏側にレーダー16を配置してもよい。また、同様のレーダーを車両15の斜め前方の角部または車両15側部などに配置してもよい。その場合に、当該レーダーを覆う部品に本実施の形態の製造方法により形成した成膜成形体を用いれば、車両15の前面以外の箇所であっても、金属光沢を有する膜に覆われた部品の裏側に配置されたレーダーを使用することができる。つまり、レーダーを覆う部品(レドーム)であって、装飾用の金属被膜を有する部品に、本実施の形態の製造方法により形成した成膜成形体を用いることができる。
【0035】
上記クラックの発生は、図7に示す金属被膜14の膜厚が大きくなる程顕著となる。金属被膜14の膜厚が1500Åを超えると、クラックまたはクラックの発生による金属被膜14の表面の曇りを肉眼で視認することが可能となり、成膜成形体9の金属光沢が損なわれるため、成膜成形体9の装飾品としての機能を損なう。また、1500Åを超える膜厚を有する成膜成形体9を形成しようとすると、成膜に要する時間が過度に大きくなり、成膜成形体9の製造コストが増大する。また、金属被膜14の膜厚が800Å未満であると、クラックが十分に発生せず、成膜成形体9が十分な電磁波透過性能を発揮することができない。したがって、金属被膜14の膜厚は、800~1500Åである必要があり、特に、当該膜厚は1000Å以上であることが望ましい。金属被膜14の膜厚は、例えばスパッタリング法による成膜を行う時間(秒数)を変更することで制御することができる。
【0036】
<本実施の形態の効果>
本実施の形態では、成膜成形体9を製造するに際し、成形体4を形成する射出成形の工程と、成形体4の表面に金属被膜14を形成する成膜工程とを、2つの金型の間において連続して行い、成膜工程の前に成形体4を2つの金型の間から取り出す必要がない。つまり、成形工程から成膜工程の間、成形体4は常に可動金型1と固定金型2との間に位置している。このため、成形体の形成後に一旦金型から成形体を取り出し、その後成形体に対し金属被膜を成膜する場合に比べ、製造工程を簡略化し、かつ、不良品の発生を防ぐことができる。
【0037】
すなわち、射出成形を行って成形体を形成した後に、金型から成形体を取り出し、その後成形体に対し金属被膜を成膜する場合、成形体を金型から取り出した後、成膜工程前に成形体を一時的に保管する必要がある。よって、成形体を金型から取り出した後には、例えば、成形体を袋に入れてから箱詰めし、運搬して在庫として保管した後、成膜工程前に再度運搬して箱および袋から出す作業を行うことが考えられる。それらの運搬などの作業中に成形体にゴミまたは水分が吸着していると成膜不良の原因となるため、成膜工程の直前には成形体に対し除電エアー洗浄を行う必要がある。また、成形体にゴミまたは水分が吸着することを防ぐため、クリーンルーム内で成形装置および成膜装置を用いての製造と上記運搬などの作業とを行うことが考えられる。
【0038】
このように、成形装置および成膜装置を別々に用意し、成形装置から成形体を成膜装置に運搬する過程でベルトコンベアまたはロボットアームなどを用い、成膜前には洗浄作業を行い、それらの作業をクリーンルーム内で行おうとすると、設備が大がかりなものとなり、箱詰めなどの手間もかかるため、成膜成形体の製造コストが増大する問題がある。また、成形工程と成膜工程との間で成形体を金型から出す場合、上記のように成形体にゴミまたは水分が吸着することで、成膜成形体の歩留まりの低下および信頼性の低下が起きる虞がある。また、成形装置から成形体を取り出し、成膜装置へ移す過程で人が成形体に触れると、成形体に指紋などの汚れまたは傷が付く虞があり、この場合、不良発生率が高くなる。
【0039】
また、成形装置から取り出された直後の成形体の内部の温度は、100℃以上となっている。しかし、成形装置から成形体を取り出して成膜装置に移す場合、成膜前に成形体が冷える過程で成形体に水分が吸着し易くなる。よって、成形装置から成膜装置まで成形体を運搬する際、成形体を保温すること、または成膜直前に加熱することが考えられる。また、成膜装置に入れる成形体が100℃以上であれば、成形体から水分が脱離しているため、成膜装置内での真空引きを用意に行うことができる。また、成膜時における成形体の温度が高ければ、成形体に対する密着性が高い膜を成膜することができる。このため、真空引きを短時間で行う観点および金属被膜の密着性を向上する観点からも、成膜装置に運搬される成形体の温度は高温に保たれていることが望ましい。しかし、このように成形体を保温または加熱することも、成膜成形体の製造コストが増大する原因となる。
【0040】
そこで、本実施の形態では、図1図7を用いて説明したように、射出成形により成形した成形体4を、可動金型1と固定金型2との間から取り出すことなく、成形後に連続して成膜工程を行うことで、電磁波透過性に優れた金属被膜14を備えた成膜成形体9を形成している。すなわち、成形装置と成膜装置とを別々に用意する必要がない。
【0041】
これにより、成形装置から成形体を取り出してから成膜装置に設置するまでの作業が不要になり、作業能率が向上する。すなわち、成形装置から成形体を取り出してから成膜装置に設置するまでに行う成形体の袋詰め、箱詰め、保管、袋からの取り出し、箱からの取り出しなどの作業を省くことができる。さらに、金型から成形体4を取り出さないため、成膜工程の前に成形体4を洗浄する必要がなく、洗浄のための装置を用意しなくて済む。また、成形工程の直後に成膜を行うことができるため、成形体4の内部は100℃以上の温度を保っており、かつ、80~95℃以上の温度を有する可動金型1および固定金型2により、成形体4の表面は80~95℃以上に保温されていることから、成形体4の表面に水分が殆ど吸着されていない。よって、成膜工程で行う凹型面2c内での真空引きを短時間で容易に行うことができる。また、成形体4の温度が高く保たれていることにより、成膜工程において比較的密着性の高い金属被膜14を形成することができる。また、金型から成形体4を取り出さないため、クリーンルーム内で成形工程および成膜工程を行う必要もなく、ベルトコンベアまたはロボットアームなどの設備も必要としない。
【0042】
よって、本実施の形態では、成膜成形体9の製造工程に要する設備を小型化および簡易化することができ、製造に要する作業を簡略化することができるため、成膜成形体9の製造コストを大幅に低減することができる。また、成形体4にゴミまたは水分が吸着することを防ぐことができ、さらに、成形体4を人が手で触ることに起因して、成形体4に汚れがつくことおよび成形体4に傷がつくことがないため、不良品の発生を大幅に低減することができる。よって、成膜成形体9の歩留まりおよび信頼性を向上させることができる。
【0043】
また、本実施の形態の成膜成形体の製造工程で用いる製造装置では、スパッタリング装置5の本体が収容される凹型面2cが固定金型(第2金型)2に形成されている。このため、スパッタリング装置5は固定されており、可動金型1側に設けた場合のように、スパッタリング装置5に設けられるポンプ配管および配線などについて移動を考慮した構成にする必要はなく、構造の簡略化と共に耐久性を向上することができる。
【0044】
また、海島構造を有する金属被膜の材料としてはインジウム(In)を用いることが考えられるが、インジウムは比較的高価な材料である。また、蒸着法によりインジウム被膜を形成する方法には、歩留まりが低い問題、および、膜成形に要する時間が比較的長い問題がある。本実施の形態では、インジウムに比べて安価な材料(ステンレス、クロムまたはアルミニウム)を用いて、海島構造を有する金属被膜14を形成することで、歩留まりを向上し、膜成形に要する時間を短縮し、成膜成形体の製造コストを低減することができる。
【0045】
また、ここでは成形体4の成形工程として射出成形を行うことについて説明したが、これに限定されず、例えばプレス成形またはブロー成形などの型成形により成形体4を成形してもよい。
【0046】
また、ここでは成膜部(成膜装置、成膜手段)としてスパッタリング装置5を用いることについて説明したが、スパッタリング装置5に代って真空蒸着装置などを固定金型2に組み込み、成形体4に対し蒸着法により成膜を行って金属被膜14を形成してもよい。また、成膜部として、スパッタリング装置5に代わってイオンプレーディング装置を用いてもよい。
【0047】
蒸着法は、真空中で被膜用の材料に電子ビームを照射し、または当該材料に熱を加え、これによりを成膜対象に膜付けする方法である。この場合、例えば電子ビームを照射された材料は分子レベルまで分解して、真空中をゆっくり移動し、成膜対象の表面上に降り積もっていき、これにより成膜が行われる。蒸着法による成膜を行う場合、図6に示す成膜空間6c内の気圧は例えば10-8Paとする。
【0048】
イオンプレーディング装置を用いたイオンプレーディング法には、金属の溶けた溶液中などで成膜を施す湿式メッキ法と、真空中などで成膜する乾式メッキ法とがある。乾式メッキ法であるイオンプレーディング法は蒸着法とほぼ同じ原理の成膜方法であるが、蒸発粒子にプラズマ中を通過させることでプラスの電荷を帯びさせ、成膜対象にマイナスの電荷を印加することで、蒸発粒子を成膜対処に引き付けて堆積させ成膜を行うことができる。これにより、蒸着法に比べて、より密着性の高い膜を作ることができる。イオンプレーディング法による成膜を行う場合、図6に示す成膜空間6c内の気圧は例えば10-3Paとする。
【0049】
また、ここでは2つの金型を用いる場合について説明したが、形状が複雑な成形体であって、2つの金型では成形できないような成形体を成形する場合は、第3金型など、必要において金型の数を増やすことができる。
【0050】
また、図2図7に示す可動金型1に凸型面1aが形成され、固定金型2に凹型面2aが形成されているが、逆に可動金型1に凹型面が形成され、固定金型2に凸型面が形成されていてもよい。また、可動金型1および固定金型2の何れかの金型の面が平坦であることで、形成された成形体4の当該金型側の面が平坦となっていてもよい。
【0051】
(実施の形態2)
前記実施の形態1では、成形体の上に1つの金属被膜を成膜することについて説明したが、以下では当該金属被膜上にさらに成膜を行うことについて、図9図12を用いて説明する。図9図12は、本実施の形態の成膜成形体の製造工程中の断面図である。
【0052】
図9に示すように、本実施の形態の成膜成形体の製造装置は、互いに対向する可動金型21と固定金型22とを有している。固定金型22と対向する可動金型21の1つの面(上面)には、成形体4(図10参照)の外側面を形成するための凸型面1aが形成されている。また、可動金型21と対向する固定金型22の1つの面(下面)には、成形体4の内側面を形成するための凹型面2aと、第1成膜部(成膜装置、成膜手段)であるスパッタリング装置5を収容(内装)するための凹型面2cと、第2成膜部(成膜装置、成膜手段)である真空蒸着装置5aを収容(内装)するための凹型面2dとが並んで形成されている。
【0053】
すなわち、固定金型22が真空蒸着装置5aおよび凹型面2dをさらに有している点で、前記実施の形態1の固定金型とは構成が異なる。真空蒸着装置5aは、真空ポンプ6d、真空ポンプ6dに開閉バルブ6eを介して接続される真空流路6f、成膜材料(原料)であるターゲットを入れるボート(容器)7a、および、ボート7aを加熱するためのヒータ8aを備えている。ボート7a内に入れられた成膜材料は、例えば酸化アルミニウム(Al)、フッ化マグネシウム(MgF)または酸化シリコン(SiO)などである。なお、第1成膜部と第2成膜部のそれぞれの真空引きは、同一の真空ポンプを用いて行ってもよい。
【0054】
本実施の形態の成膜成形体の製造工程では、まず、図2図4を用いて説明した工程と同様の工程を行うことで、図10に示すように、凸型面1aと凹型面2aとの間の隙間に成形体4を射出成形する。
【0055】
次に、図5図6を用いて説明した工程と同様の工程を行うことで、可動金型21と凹型面2cにより密閉された成膜空間6c内で、成形体4の表面に金属被膜14を形成する。ここでは、ターゲット7および金属被膜14は、例えばアルミニウム(Al)から成る。
【0056】
次に、図12に示すように、第2成膜部を用いて、成形体4を覆う金属被膜14の表面上に保護膜18を成膜する。すなわち、まず、可動金型21が固定金型22から離型(型開き)する方向に移動する離型(型開き)工程を行う。このとき、可動金型21側に成形体4が脱型されずに支持されている。続いて、可動金型21は、成形体4が真空蒸着装置5aと対向するよう平行移動する。続いて、可動金型21が固定金型22側に移動することで可動金型21と固定金型22とは型締め状態となり、凹型面2d内と成形体4との間の成膜空間6gが外気と隔離され、封止される。成膜空間6gは、可動金型21と固定金型22とが互いに密着することで可動金型21と固定金型22の凹型面2dとにより囲まれた密閉空間である。
【0057】
続いて、開閉バルブ6eを開放して該成膜空間S内の空気を真空流路6fから抜くことで、成膜空間6g内を真空状態にする。このとき、成膜空間6g内の気圧は例えば10-8Paである。その後、加熱したヒータ8aによりボート7aに供給される溶融した材料が蒸気化し、成形体4を覆う金属被膜14の表面上に真空蒸着膜である保護膜18が成膜される。つまり、成形体4の表面は、金属被膜14を介して保護膜18により覆われる。これにより、成形体4、金属被膜14および保護膜18から成る成膜成形体19を形成することができる。保護膜18は、例えば酸化アルミニウム(Al)、フッ化マグネシウム(MgF)または酸化シリコン(SiO)などから成る。金属被膜14がアルミニウム膜などのように酸化し易い膜である場合は、本実施の形態のように、保護膜18により金属被膜14を覆うことが好ましい。
【0058】
続いて、可動金型21を固定金型22から離間(型開き)して成膜成形体19を金型内から取り出した後、成膜成形体19を昇温する加熱工程を行う。これにより、本実施の形態の成膜成形体19の製造工程が完了する。
【0059】
ここでも、成膜成形体19の温度変化により、金属被膜14にクラックが生じる。本実施の形態では、成形体4の形成後、金属被膜14の成膜工程前に成形体4を金型内から取り出す必要がないため、前記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、金属被膜14の成膜後、保護膜18の成膜前に成形体4を金型内から取り出す必要がないため、金属被膜14に覆われた成形体4を運搬するための設備および作業を省略することができる。また、金属被膜14に覆われた成形体4にゴミおよび水分が付着することを防ぐができ、クリーンルームおよび洗浄装置を用意する必要がないため、成膜成形体19の製造コストを低減することができる。
【0060】
保護膜18が金属膜である場合など、保護膜18が電磁波を遮断する材料から成る場合は、金属被膜14と同様に保護膜18にもクラックを生じさせる。これにより、成膜成形体19により電磁波が遮断されることを防ぐことができる。なお、保護膜18が金属膜でない場合、つまり、電磁波透過性能を有する膜である場合、保護膜18にはクラックが生じなくてもよい。
【0061】
<変形例1>
前記実施の形態1では、成形体の上に1つの金属被膜を成膜することについて説明したが、以下では当該金属被膜上にさらに射出成形を行うことについて、図13および図14を用いて説明する。図13および図14は、本実施の形態の変形例1の成膜成形体の製造工程中の断面図である。
【0062】
図13に示すように、本実施の形態の成膜成形体の製造装置は、互いに対向する可動金型31と固定金型32とを有している。固定金型32と対向する可動金型31の1つの面(上面)には、成形体4の外側面を形成するための凸型面1aが形成されている。また、可動金型31と対向する固定金型32の1つの面(下面)には、成形体4の内側面を形成するための凹型面2aと、成膜部であるスパッタリング装置5を収容するための凹型面2cと、成形体4上にさらに成形体20(図14参照)を形成するための凹型面2eとが並んで形成されている。凹型面2aは第1成形部を構成し、凹型面2eは第2成形部を構成している。
【0063】
すなわち、固定金型32が、第2成形部として、成形用の凹型面2eをさらに有している点で、本変形例は前記実施の形態1とは構成が異なる。
【0064】
本実施の形態の成膜成形体の製造工程では、まず、図2図4を用いて説明した工程と同様の工程を行うことで、図13に示すように、凸型面1aと凹型面2aとの間の隙間に成形体4を射出成形する。なお、図13では前記実施の形態とは異なる断面形状を有する成形体4を示しているが、成形体4の形状は前記実施の形態1と同様であってもよい。
【0065】
次に、図示は省略するが、図5および図6を用いて説明した工程と同様の成膜工程を行うことで、成形体4の表面を覆う金属被膜14を形成する。
【0066】
次に、図14に示すように、可動金型31および固定金型32を互いに離間させた後、可動金型31を横に移動することで、凸型面1aと凹型面2eとを対向させ、続けて、可動金型31を固定金型32側に移動することで、対向する凸型面1aおよび凹型面2e同士が型合わせ(型締め)される。このとき、凸型面1aと凹型面2eとの間には、凸型面1aに接する成形体4と、成形体4を覆う金属被膜14と、成形体4および金属被膜14および凹型面2eの間の隙間(空間)とが存在している。
【0067】
続いて、型締め状態で、当該隙間に材料が射出され、材料が固まるまで材料に圧力を加えたまま、材料を冷却する。材料が冷却されて固まることで、当該材料から成る成形体20が成形され、これにより、成形体4、金属被膜14および成形体20から成る成膜成形体23が形成される。成形体20は、成形体4の表面を金属被膜14を介して覆っている。成形体20を構成する当該材料としては、例えばポリカーボネートまたはアクリル樹脂などの透明な材料を用いることができる。
【0068】
続いて、可動金型31を固定金型32から離間(型開き)して成膜成形体23を金型内から取り出した後、成膜成形体23を昇温する加熱工程を行う。これにより、本実施の形態の成膜成形体23の製造工程が完了する。ここでは、金属被膜14の成膜時において金属被膜14にクラックは生じていないが、その後金属被膜14および成形体4の温度が変動することで、金属被膜14にクラックが生じる。
【0069】
本変形例では、例えば金属被膜を有するエンブレムをさらに透明な樹脂から成る成形体で覆うことができる。この場合に、成形体4の形成後、金属被膜14の成膜工程前に成形体4を金型内から取り出す必要がないため、前記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、金属被膜14の成膜後、成形体20の形成前に成形体4を金型内から取り出す必要がないため、金属被膜14に覆われた成形体4を運搬するための設備および作業を省略することができる。また、金属被膜14に覆われた成形体4にゴミおよび水分が付着することを防ぐができ、クリーンルームおよび洗浄装置を用意する必要がないため、成膜成形体23の製造コストを低減することができる。
【0070】
<変形例2>
以下では、図9図12を用いて説明した工程を、軸を中心に回転する可動金型を用いて行うことについて、図15図18を用いて説明する。図15図18は、本実施の形態の変形例2の成膜成形体の製造工程中の斜視図である。図15図18に示す斜視図では、固定金型の下面側に形成された凹部を透過して示す。また、図15図18では、図を分かり易くするため、固定金型の底面に形成された凹部(凹型面)を透過して示し、さらに成形体および成形体を覆う膜のそれぞれにハッチングを付している。また、図15図18では、凹型面2cに収容されたスパッタリング装置5、および、凹型面2dに収容された真空蒸着装置5aのそれぞれの図示を省略している。
【0071】
図15に示すように、本実施の形態の成膜成形体の製造装置は、互いに対向する可動金型41と固定金型42とを有している。可動金型41および固定金型42は、互いに平面視で円形の形状を有しており、それぞれの円の中心軸40は、平面視で重なっている。図15では、当該中心軸(回転軸)40を一点鎖線で示している。上側の固定金型42は固定されているが、下側の可動金型41は、例えばターンテーブル(図示しない)上に配置されており、中心軸40を中心に回転することができる。
【0072】
固定金型42と対向する可動金型41の1つの面(上面)には、成形体4(図10参照)の外側面を形成するための凸型面1aが形成されている。また、可動金型41と対向する固定金型42の1つの面(下面)には、成形体4の内側面を形成するための凹型面2aと、第1成膜部(成膜装置、成膜手段)であるスパッタリング装置5を収容するための凹型面2cと、第2成膜部である真空蒸着装置5aを収容するための凹型面2dとが、中心軸40を中心とする円に沿って並んで形成されている。具体的には、凹型面2aは当該円と重なる第1位置に配置され、凹型面2cは当該円と重なる第2位置に配置され、凹型面2dは当該円と重なる第3位置に配置されている。第1位置、第2位置および第3位置は、平面視において、互いに中心軸40を頂点として120度の関係にある。
【0073】
つまり、平面視において、凹型面2aが配置された第1位置と中心軸40とを結ぶ線と、凹型面2cが配置された第2位置と中心軸40とを結ぶ線とのなす角度は120度である。同様に、凹型面2aが配置された第1位置と中心軸40とを結ぶ線と、凹型面2dが配置された第3位置と中心軸40とを結ぶ線とのなす角度は120度である。したがって、凹型面2cが配置された第2位置と中心軸40とを結ぶ線と、凹型面2cが配置された第3位置と中心軸40とを結ぶ線とのなす角度は120度である。
【0074】
可動金型41は、凸型面1aが形成されている箇所である第4位置を、平面視で第1位置、第2位置および第3位置のそれぞれと平面視で重なる3箇所(停止位置)の相互間を往復回転する機能を有している。言い換えれば、可動金型41は、凸型面1aが形成されている第4位置を、凹型面2a、2cおよび2dのそれぞれの直下に移動させるように120度ずつ往復回転することできる。
【0075】
本実施の形態の成膜成形体の製造工程では、まず、図15に示すように、互いに離間した状態(型開きした状態)の可動金型41および固定金型42同士を用意する。このとき、第4位置の凸型面1aは第1位置の凹型面2aの直下に位置している。
【0076】
次に、図16に示すように、可動金型41および固定金型42を型締めし、凸型面1a(図15参照)と凹型面2aとの間の隙間に成形体4を射出成形する。
【0077】
次に、図17に示すように、可動金型41および固定金型42を互いに離間して型開きした後、可動金型41を120度回転させて、第4位置の凸型面1a(図15参照)を第2位置の凹型面2cの直下に移動させる。このとき、可動金型41側に成形体4が脱型されずに支持(固定)されている。つまり、成形体4を凹型面2cの直下に移動するように可動金型41を回転させ、可動金型41を停止させる。続いて、可動金型41と固定金型42を型締め状態にし、図6を用いて説明した工程と同様の工程を行うことで、可動金型41と凹型面2cとにより密閉された成膜空間6c内で、成形体4の表面に金属被膜14を形成する。
【0078】
次に、図18に示すように、第2成膜部を用いて、成形体4(図16参照)を覆う金属被膜14(図17参照)の表面に保護膜18を成膜する。すなわち、まず、可動金型41および固定金型42を互いに離間して型開きした後、可動金型41を120度回転させて、第4位置の凸型面1a(図15参照)を第2位置の凹型面2dの直下に移動させる。このとき、可動金型41側に成形体4が脱型されずに支持(固定)されている。つまり、成形体4を凹型面2dの直下に移動するように可動金型41を回転させ、可動金型41を停止させる。続いて、可動金型41と固定金型42を型締め状態にし、図12を用いて説明した工程と同様の工程を行うことで、可動金型41と凹型面2dとにより密閉された成膜空間6g内で、成形体4の表面を金属被膜14介して覆う保護膜18を形成する。これにより、成形体4、金属被膜14および保護膜18から成る成膜成形体19を形成することができる。
【0079】
続いて、可動金型41を固定金型42から離間(型開き)して成膜成形体19を金型内から取り出した後、成膜成形体19を昇温する加熱工程を行う。これにより、本実施の形態の成膜成形体19の製造工程が完了する。本変形例の成膜成形体の製造方法では、図9図12を用いて説明した実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0080】
本変形例では、図9図12を用いて説明した実施の形態と同様に、成形工程、成膜工程および成膜工程を順に行う場合について説明したが、
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0081】
例えば、互いに嵌合する1組の金型は、必ず固定金型を有している必要はない。すなわち、互いに嵌合する1組の金型は、複数の可動金型を有していてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1、21、31、41 可動金型
1a 凸型面
2、22、32、42 固定金型
2a、2c、2d、2e 凹型面
4、20 成形体
5 スパッタリング装置
5a 真空蒸着装置
9、19、23 成膜成形体
14 金属被膜
18 保護膜
図1
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