特許 7169243 カラオケ装置

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】

(24)【登録日】2022-11-01

(45)【発行日】2022-11-10

(54)【発明の名称】カラオケ装置

(51)【国際特許分類】

   G10K 15/04 20060101AFI20221102BHJP

   G10L 25/51 20130101ALI20221102BHJP

【ＦＩ】

G10K15/04 302D

G10L25/51 100

【請求項の数】 2

(21)【出願番号】P 2019067689

(22)【出願日】2019-03-29

(65)【公開番号】P2020166162

(43)【公開日】2020-10-08

【審査請求日】2021-11-18

(73)【特許権者】

【識別番号】390004710

【氏名又は名称】株式会社第一興商

(74)【代理人】

【識別番号】110000176

【氏名又は名称】一色国際特許業務法人

(72)【発明者】

【氏名】橘 聡

【審査官】岩田 淳

(56)【参考文献】

【文献】特開２００８－２２５１１５（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２０１７－１１１２６８（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２０１６－１７７１４４（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２０１７－０５８４４１（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２０１３－２２２１４０（ＪＰ，Ａ）

【文献】国際公開第２０１３／１５７６０２（ＷＯ，Ａ１）

(58)【調査した分野】(Int.Cl.，ＤＢ名)

Ｇ１０Ｋ １５／０４

Ｇ１０Ｌ ２５／５１

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

カラオケ楽曲の歌唱により得られた歌唱音声信号から、所定時間長のフレーム単位で歌唱ピッチを検出する歌唱ピッチ検出部と、
前記カラオケ楽曲の主旋律を示すリファレンスデータに含まれるノートのうち、一のノートの時間長が所定時間の範囲内である場合、当該一のノートをあるノートとして特定し、
当該あるノートの発音開始タイミング近傍において検出された歌唱ピッチの第１のフレームから、歌唱ピッチが検出されなくなった第２のフレームまでの間、連続する２つのフレームの歌唱ピッチのピッチ差が第１の所定範囲内であるよう歌唱ピッチが連続して下降する場合、前記第１のフレームを開始時のフレームとし、前記第２のフレームを終了時のフレームとする下降区間として特定し、
当該下降区間に含まれる当該開始時のフレームの歌唱ピッチと当該終了時のフレームの歌唱ピッチとのピッチ差が第２の所定範囲内であり、且つ当該開始時のフレームの歌唱ピッチと、当該あるノートの基準ピッチとのピッチ差が第３の所定範囲内である場合、当該下降区間をスローダウン歌唱が行われている区間として判定するスローダウン歌唱判定部と、
を有するカラオケ装置。

【請求項2】

前記あるノートの採点結果が不合格と判定された場合、且つ当該あるノートに対する前記スローダウン歌唱が行われていると判定された場合、当該あるノートの採点結果を合格と判定する採点処理部を有することを特徴とする請求項１記載のカラオケ装置。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、カラオケ装置に関する。

【背景技術】

【0002】

カラオケ装置は、マイクにより入力された歌唱音声から抽出した歌唱音声データと、カラオケ演奏された楽曲の主旋律を示すリファレンスデータとを比較することにより、カラオケ歌唱の巧拙を採点する採点機能が搭載されている。

【0003】

たとえば、特許文献１には、カラオケ演奏に合わせてマイクから入力される歌唱音声信号から音高データ及び音長データを抽出し、カラオケ演奏に並行して読み出されるガイドメロディと比較することによって歌唱の巧拙を採点評価する技術が開示されている。

【0004】

また、歌唱者の中にはプロ歌手の歌唱を真似て、しゃくり、フォール、こぶし、シャウトなどの特殊な歌唱技法を用いて歌唱を行う者もいる。特許文献２～５には、このような特殊な歌唱技法を検出し、歌唱を評価する技術が開示されている。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0005】

【文献】特開平１０－６９２１６号公報

【文献】特開２００５－１０７３３６号公報

【文献】特開２００８－２２５１１５号公報

【文献】特開２００８－２６８３７０号公報

【文献】特開２０１２－０７８７０１号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0006】

ところで、カラオケ歌唱の表現力を高めるために用いる技法としては、従来から知られている技法と聴感上で類似しているが、より特徴的に聴こえるものも存在する。歌唱者がこのような技法を使用した場合、従来のカラオケ装置ではこのような技法を特定することができない。また、上手いという印象を聴衆に与える歌唱技法であるにもかかわらず、従来の評価技術では減点対象としてしまう事もあった。

【0007】

本発明の目的は、カラオケ歌唱にスローダウン歌唱（後述）が含まれるかどうかを特定することが可能なカラオケ装置を提供することにある。

【課題を解決するための手段】

【0008】

本発明者は、聴感上、フォール歌唱に類似しているが、より力強い印象を与えるカラオケ歌唱と判断される歌唱音声信号に含まれる歌唱ピッチを解析したところ、あるノートの発音開始タイミング近傍の歌唱ピッチから、歌唱ピッチが検出できなくなるまで、歌唱ピッチが連続して徐々に下降するという変化を示すことを見出した。本発明は、この発見に基づき、完成されたものであって、この歌唱独特のピッチの変化を検出することにより、この歌唱を特定することができる技術である。

【0009】

なお、このようなカラオケ歌唱による歌唱ピッチの推移は、フォール歌唱のように歌唱ピッチが一定になることはなく、物を投げ落とした際に描く曲線のようなゆっくりとした右肩下がりの歌唱ピッチになる。よって、このようなピッチ変化を示すカラオケ歌唱を、以下「スローダウン歌唱」という。

【0010】

具体的に、上記目的を達成するための発明は、カラオケ楽曲の歌唱により得られた歌唱音声信号から、所定時間長のフレーム単位で歌唱ピッチを検出する歌唱ピッチ検出部と、カラオケ楽曲の主旋律を示すリファレンスデータに含まれるノートのうち、あるノートの発音開始タイミング近傍において検出された歌唱ピッチのフレームから、歌唱ピッチが検出されなくなったフレームまでの間に、第１の条件を満たすよう歌唱ピッチが連続して下降する下降区間が存在し、当該下降区間に含まれるフレームの歌唱ピッチのピッチ差が第２の条件を満たし、且つ当該あるノートの発音開始タイミング近傍において検出された歌唱ピッチと、当該あるノートの基準ピッチとのピッチ差が第３の条件を満たす場合、当該あるノートに対するスローダウン歌唱が行われていると判定するスローダウン歌唱判定部と、を有するカラオケ装置である。
本発明の他の特徴については、後述する明細書及び図面の記載により明らかにする。

【発明の効果】

【0011】

本発明によれば、カラオケ歌唱にスローダウン歌唱が含まれるかどうかを判定することができる。

【図面の簡単な説明】

【0012】

【図1】実施形態に係るカラオケ装置のハードウェア構成例を示す図である。

【図2】実施形態に係るカラオケ本体のソフトウェア構成例を示す図である。

【図3】実施形態に係るスローダウン歌唱の判定処理を示すフローチャートである。

【図4】実施形態に係る一のノートと歌唱ピッチとの関係を示した図である。

【発明を実施するための形態】

【0013】

＜実施形態＞
図１～図４を参照して、実施形態に係るカラオケ装置１について説明する。

【0014】

＝＝カラオケ装置＝＝
カラオケ装置１は、カラオケ演奏及び歌唱者がカラオケ歌唱を行うための装置である。カラオケ装置１は、歌唱者が選曲したカラオケ楽曲を予約待ち行列に登録し、順番にカラオケ演奏を行う。図１に示すように、カラオケ装置１は、カラオケ本体１０、スピーカ２０、表示装置３０、マイク４０、及びリモコン装置５０を備える。

【0015】

スピーカ２０はカラオケ本体１０からの放音信号に基づいて放音するための構成である。表示装置３０はカラオケ本体１０からの信号に基づいて映像や画像を画面に表示するための構成である。マイク４０は歌唱者の歌唱音声（マイク４０への入力音声）をアナログの歌唱音声信号に変換してカラオケ本体１０に入力するための構成である。リモコン装置５０は、カラオケ本体１０に対する各種操作をおこなうための装置である。歌唱者はリモコン装置５０を用いて歌唱を希望するカラオケ楽曲の選曲（予約）等を行うことができる。リモコン装置５０の表示画面には各種操作の指示入力を行うためのアイコン等が表示される。

【0016】

カラオケ本体１０は、選曲されたカラオケ楽曲の演奏制御、歌詞や背景映像等の表示制御、マイク４０を通じて入力された歌唱音声信号の処理といった、カラオケ歌唱に関する各種の制御を行う。図１に示すように、カラオケ本体１０は、制御部１１、通信部１２、記憶部１３、音響処理部１４、表示処理部１５、及び操作部１６を備える。各構成はインターフェース（図示なし）を介してバスＢに接続されている。

【0017】

制御部１１は、ＣＰＵ１１ａおよびメモリ１１ｂを備える。ＣＰＵ１１ａは、メモリ１１ｂに記憶された動作プログラムを実行することにより各種の制御機能を実現する。メモリ１１ｂは、ＣＰＵ１１ａに実行されるプログラムを記憶したり、プログラムの実行時に各種情報を一時的に記憶したりする記憶装置である。

【0018】

通信部１２は、ルーター（図示なし）を介してカラオケ本体１０を通信回線に接続するためのインターフェースを提供する。

【0019】

記憶部１３は、各種のデータを記憶する大容量の記憶装置であり、たとえばハードディスクドライブなどである。記憶部１３は、カラオケ装置１によりカラオケ演奏を行うための複数の楽曲データを記憶する。

【0020】

楽曲データは、個々のカラオケ楽曲を特定するための楽曲ＩＤが付与されている。楽曲データは、伴奏データ、リファレンスデータ等を含む。伴奏データは、カラオケ演奏音の元となるデータである。リファレンスデータは、カラオケ楽曲の主旋律を示すデータであって、歌唱者によるカラオケ歌唱を採点する際の基準として用いられるデータである。リファレンスデータは、複数のノート（音符）から構成され、ノート毎に所定のピッチ（基準ピッチ）が設定されている。また、リファレンスデータは、ノート毎に、ノートオンイベントデータ及びノートオフイベントデータを含む。ノートオンイベントデータは、ノートの発音を表すデータであり、ノートオフイベントデータは、ノートの消音を表すデータである。

【0021】

また、記憶部１３は、各カラオケ楽曲に対応する歌詞を表示装置３０等に表示させるための歌詞テロップデータ、カラオケ演奏時に表示装置３０等に表示される背景画像等の背景画像データ、楽曲毎のカラオケ演奏時間を示す演奏時間データ及び楽曲の属性情報（歌手名、作詞・作曲者名、ジャンル等の当該楽曲に関する情報）を記憶する。

【0022】

音響処理部１４は、制御部１１の制御に基づき、カラオケ楽曲に対する演奏の制御およびマイク４０を通じて入力された歌唱音声信号の処理を行う。表示処理部１５は、制御部１１の制御に基づき、表示装置３０やリモコン装置５０における各種表示に関する処理を行う。たとえば、表示処理部１５は、カラオケ楽曲の演奏時における背景映像に歌詞テロップや各種アイコンが重ねられた映像を表示装置３０に表示させる制御を行う。或いは、表示処理部１５は、リモコン装置５０の表示画面に操作入力用の各種アイコンを表示させる。操作部１６は、パネルスイッチおよびリモコン受信回路などからなり、歌唱者によるカラオケ装置１のパネルスイッチあるいはリモコン装置５０の操作に応じて選曲信号、演奏中止信号などの操作信号を制御部１１に対して出力する。制御部１１は、操作部１６からの操作信号を検出し、対応する処理を実行する。

【0023】

（ソフトウェア構成）
図２はカラオケ本体１０のソフトウェア構成例を示す図である。カラオケ本体１０は、歌唱ピッチ検出部１００、スローダウン歌唱判定部２００、提示部３００、及び採点処理部４００を備える。歌唱ピッチ検出部１００、スローダウン歌唱判定部２００、提示部３００、及び採点処理部４００は、ＣＰＵ１１ａがメモリ１１ｂに記憶されるプログラムを実行することにより実現される。

【0024】

［歌唱ピッチ検出部］
歌唱ピッチ検出部１００は、カラオケ楽曲の歌唱により得られた歌唱音声信号から、所定時間長のフレーム単位で歌唱ピッチを検出する。

【0025】

歌唱ピッチは、所定時間長（たとえば１０～２０ｍｓｅｃ）のフレーム単位で１サンプルずつ時系列に検出する。たとえば、所定時間長が１５ｍｓｅｃの場合、歌唱ピッチ検出部１００は、１５ｍｓｅｃを一のフレームとして、歌唱ピッチの検出を行う。歌唱ピッチ検出部１００は、歌唱音声信号を解析して検出した歌唱ピッチを、対応するノートの基準ピッチと対応付けて記憶部１３に記憶させる。ノートの基準ピッチは、リファレンスデータに含まれるノートオンイベントデータに基づいて特定される。

【0026】

記憶部１３は、検出した歌唱ピッチ及び対応するノートの基準ピッチを、カラオケ演奏の開始からの経過時間と共に記憶する。すなわち、検出した歌唱ピッチ及び対応するノートの基準ピッチは、フレーム単位で記憶されている。

【0027】

なお、歌唱ピッチの検出は、カラオケ楽曲の歌唱に伴って順次行ってもよいし、一のカラオケ楽曲の歌唱が全て終了した後にまとめて行ってもよい。

【0028】

［スローダウン歌唱判定部］
スローダウン歌唱判定部２００は、カラオケ楽曲の主旋律を示すリファレンスデータに含まれるノートのうち、あるノートの発音開始タイミング近傍において検出された歌唱ピッチのフレームから、歌唱ピッチが検出されなくなったフレームまでの間に、第１の条件を満たすよう歌唱ピッチが連続して下降する下降区間が存在し、当該下降区間に含まれるフレームの歌唱ピッチのピッチ差が第２の条件を満たし、且つ当該あるノートの発音開始タイミング近傍において検出された歌唱ピッチと、当該あるノートの基準ピッチとのピッチ差が第３の条件を満たす場合、当該あるノートに対するスローダウン歌唱が行われていると判定する。

【0029】

下降区間は、あるノートの発音開始タイミング近傍において検出された歌唱ピッチのフレームから、歌唱ピッチが検出されなくなったフレームまでの間の区間であって、第１の条件を満たすよう歌唱ピッチが連続して下降する区間である。第１の条件は、下降区間を特定するための条件である。第１の条件は、特定するスローダウン歌唱の程度に応じて、予め任意の条件が設定されている。具体的に、第１の条件は、あるノートの発音開始タイミング近傍において検出された歌唱ピッチのフレームから、歌唱ピッチが検出されなくなったフレームまでの間、連続する２つのフレームの歌唱ピッチのピッチ差が第１の所定範囲内であるかどうかである（詳細は後述）。

【0030】

第２の条件及び第３の条件は、あるノートに対するスローダウン歌唱が行われているかどうかを判定するための条件である。第２の条件及び第３の条件は、特定するスローダウン歌唱の程度に応じて、予め任意の条件が設定されている。具体的に、第２の条件は、下降区間の開始時のフレームの歌唱ピッチと、下降区間の終了時のフレームの歌唱ピッチとのピッチ差が第２の所定範囲内であるかどうかである（詳細は後述）。第３の条件は、下降区間の開始時のフレームの歌唱ピッチと、あるノートの基準ピッチとのピッチ差が第３の所定範囲内であるかどうかである（詳細は後述）。

【0031】

ここで、図３及び図４を参照して、スローダウン歌唱の判定処理について詳細に説明を行う。図３は、スローダウン歌唱の判定処理を示すフローチャートである。図４は、一のノートと歌唱ピッチの推移との関係を示した図である。図４における縦軸は歌唱ピッチを示し、横軸は時刻を示す。開始時刻ＴｓはノートＮの発音開始タイミングであり、終了時刻ＴｅはノートＮの発音終了タイミングである。ノートの発音開始タイミングは、カラオケ楽曲の演奏開始時点を０とした場合の、当該ノートまでの経過時間に相当する。なお、図４の横軸は連続する所定時間長のフレームと解してもよく、一フレーム毎に歌唱ピッチが検出される。

【0032】

以下の説明において、あるノートに対するスローダウン歌唱が行われているかどうかを判定する際に用いる最初の歌唱ピッチは、あるノートの発音開始タイミングよりも所定時間だけ前のフレーム以降で検出された歌唱ピッチであるとする。この歌唱ピッチは、あるノートの発音開始タイミング近傍において検出した歌唱ピッチに相当する。所定時間は、予め任意の値を設定することができる。たとえば、所定時間を１２０ｍｓｅｃとすることができる。

【0033】

また、以下の説明において、ピッチ差はｃｅｎｔ値で示す。なお、基準ピッチが０の部分は、非歌唱区間（カラオケ歌唱用の歌詞が付与されていない区間）であり、歌唱ピッチが０の部分は歌唱ピッチが検出できなかったものとする。

【0034】

まず、スローダウン歌唱判定部２００は、リファレンスデータに含まれるノートのうち、一のノートの時間長が所定時間の範囲内かどうかを判定する。

【0035】

具体的に、スローダウン歌唱判定部２００は、一のノートのノートオンイベントデータに基づいて当該一のノートの時間長を取得する。スローダウン歌唱判定部２００は、取得した時間長が所定時間の範囲内に含まれる場合、当該一のノートをスローダウン歌唱の検出対象となるノートとして特定する（スローダウン歌唱の検出対象となるノートの特定。ステップ１０）。この例では、スローダウン歌唱の検出対象となるノートＮが特定されたとする。

【0036】

所定時間の範囲は、一のノートをスローダウン歌唱の検出対象とするかどうかを判定するための値である。所定時間の範囲は、予め任意の値を設定することができる。たとえば、所定時間の範囲を１４０ｍｓｅｃ～９３０ｍｓｅｃとすることができる。

【0037】

なお、一のノートの時間長が所定時間の範囲に含まれない場合、スローダウン歌唱判定部２００は、以下の処理を行わない。

【0038】

次に、スローダウン歌唱判定部２００は、あるノートの発音開始タイミング近傍において検出された歌唱ピッチの第１のフレームから、歌唱ピッチが検出されなくなった第２のフレームまでの間、連続する２つのフレームの歌唱ピッチのピッチ差が第１の所定範囲内である場合、第１のフレームを開始時のフレームとし、第２のフレームを終了時のフレームとする下降区間ＤＺを特定する（下降区間の特定。ステップ１１）。

【0039】

第１の所定範囲は、下降区間を特定するにあたり、許容可能な連続する２つのフレームの歌唱ピッチのずれの幅である。第１の所定範囲は、判定するスローダウン歌唱の程度に応じて、予め任意の値が設定されている。なお、下降区間においては、歌唱ピッチが徐々に低くなる。従って、あるフレームの歌唱ピッチの値とその次のフレームの歌唱ピッチの値のピッチ差を求めた場合、当該ピッチ差は、常にマイナスの値を示すこととなる。よって、第１の所定範囲も値がマイナスの範囲で設定される。たとえば、第１の所定範囲は、－２０ｃｅｎｔから－４０ｃｅｎｔとすることができる。

【0040】

具体的に、スローダウン歌唱判定部２００は、ステップ１０で特定されたノートＮの発音開始タイミング近傍において検出された歌唱ピッチＰ（１）のフレームから順次、歌唱ピッチを参照し、連続する２つのフレームの歌唱ピッチのピッチ差Ｐｄを求める。スローダウン歌唱判定部２００は、歌唱ピッチが検出されなくなるまで連続する２つのフレームの歌唱ピッチのピッチ差を求める。スローダウン歌唱判定部２００は、求めた全てのピッチ差が第１の所定範囲内に含まれるかどうかを判定する。

【0041】

歌唱ピッチのピッチ差が第１の所定範囲内である場合、スローダウン歌唱判定部２００は、歌唱ピッチＰ（１）のフレームを開始時のフレームとし、歌唱ピッチが検出されなくなったフレームよりも一つ前のフレームを終了時のフレームとする下降区間ＤＺを特定する。この例では、終了時のフレームの歌唱ピッチを歌唱ピッチＰ（ｎ）とする。

【0042】

次に、スローダウン歌唱判定部２００は、下降区間ＤＺの開始時のフレームの歌唱ピッチＰ（１）と下降区間ＤＺの終了時のフレームの歌唱ピッチＰ（ｎ）とのピッチ差Ｐ（ｎ）－Ｐ（１）が第２の所定範囲内であるかどうかを判定する。

【0043】

第２の所定範囲は、スローダウン歌唱と判定するにあたり、許容可能な下降区間の開始時のフレームの歌唱ピッチと下降区間の終了時のフレームの歌唱ピッチとのずれの幅である。第２の所定範囲は、特定するスローダウン歌唱の程度に応じて、予め任意の値が設定されている。なお、上述の通り、下降区間においては、歌唱ピッチが徐々に低くなる。従って、下降区間の開始時のフレームの歌唱ピッチよりも下降区間の終了時のフレームの歌唱ピッチの方が低くなる。よって、第２の所定範囲も値がマイナスの範囲で設定される。たとえば、第２の所定範囲は、－３００ｃｅｎｔ～－２０００ｃｅｎｔの範囲で設定できる。

【0044】

下降区間ＤＺの開始時のフレームの歌唱ピッチＰ（１）と下降区間ＤＺの終了時のフレームの歌唱ピッチＰ（ｎ）とのピッチ差Ｐ（ｎ）－Ｐ（１）が第２の所定範囲内である場合（ステップ１２でＹの場合）、スローダウン歌唱判定部２００は、下降区間ＤＺの開始時のフレームの歌唱ピッチＰ（１）と、ノートＮの基準ピッチＰｆとのピッチ差が第３の所定範囲内であるかどうかを判定する。

【0045】

第３の所定範囲は、スローダウン歌唱と判定するにあたり、許容可能な下降区間の開始時のフレームの歌唱ピッチと、スローダウン歌唱の検出対象となるノートの基準ピッチとのずれの幅である。第３の所定範囲は、特定するスローダウン歌唱の程度に応じて、予め任意の値が設定されている。たとえば、第３の所定範囲は、ずれの幅の絶対値として１００ｃｅｎｔ～１５００ｃｅｎｔの範囲で設定できる。

【0046】

下降区間ＤＺの開始時のフレームの歌唱ピッチＰ（１）と、ノートＮの基準ピッチＰｆとのピッチ差が第３の所定範囲内である場合（ステップ１３でＹの場合）、スローダウン歌唱判定部２００は、ステップ１１で特定された下降区間ＤＺをスローダウン歌唱が行われている区間として判定する（スローダウン歌唱の判定。ステップ１４）。図４に示したノートＮに対するスローダウン歌唱の歌唱ピッチの推移は、下降区間ＤＺの開始時のフレームの歌唱ピッチＰ（１）と下降区間ＤＺの終了時のフレームの歌唱ピッチＰ（ｎ）とのピッチ差が－９００ｃｅｎｔであり、下降区間ＤＺの開始時のフレームの歌唱ピッチＰ（１）と、ノートＮの基準ピッチＰｆとのピッチ差が＋３００ｃｅｎｔとなっている。

【0047】

なお、この例では、ステップ１２の処理の後、ステップ１３の処理を行う例について述べたが逆の順で処理を行ってもよい。また、下降区間を特定できない場合、下降区間ＤＺの開始時のフレームの歌唱ピッチＰ（１）と下降区間ＤＺの終了時のフレームの歌唱ピッチＰ（ｎ）とのピッチ差Ｐ（ｎ）－Ｐ（１）が第２の所定範囲内にない場合（ステップ１２でＮの場合）、及び下降区間ＤＺの開始時のフレームの歌唱ピッチＰ（１）と、ノートＮの基準ピッチＰｆとのピッチ差が第３の所定範囲内にない場合（ステップ１３でＮの場合）、スローダウン歌唱判定部２００は、ノートＮについてはスローダウン歌唱が行われていないと判定する。

【0048】

［提示部］
提示部３００は、スローダウン歌唱判定部２００による判定結果を歌唱者に提示する。たとえば、ノートＮに対するスローダウンが行われたとの判定結果が入力された場合、提示部３００は、表示装置３０に表示されるノートＮに対応するガイドメロディ画像近傍にスローダウン歌唱が行われた旨のアイコンを表示させることができる。ガイドメロディ画像は、歌唱者のカラオケ歌唱を支援するために、カラオケ楽曲のメロディを画像として表示させたものである。ガイドメロディ画像の表示については公知の手法を用いることが可能である（たとえば特開２００４－２０５８１７号公報参照）。

【0049】

なお、提示部３００は、ガイドメロディ画像と関係なく、スローダウン歌唱が行われた旨のアイコンのみを表示させることもできる。或いは、提示部３００は、スローダウン歌唱が行われた旨のアイコンを表示させる代わりにスピーカ２０を介して音声（拍手、歓声等）でスローダウン歌唱が行われた旨を報知することでもよい。

【0050】

［採点処理部］
採点処理部４００は、カラオケ楽曲の歌唱により得られる歌唱音声信号を当該カラオケ楽曲のリファレンスデータと比較し、採点値を算出する。採点値を算出する処理は公知の手法を用いることができる。たとえば、採点処理部４００は、マイク４０から入力された歌唱音声信号に基づく歌唱ピッチと、リファレンスデータに基づく基準ピッチにより、歌唱音程の正確さについての採点処理を行う。

【0051】

ここで、本実施形態に係る採点処理部４００は、あるノートの採点結果が不合格と判定された場合、且つ当該あるノートに対するスローダウン歌唱が行われていた場合、当該あるノートの採点結果を合格と判定する。図４に示すように、スローダウン歌唱は、ノートの基準ピッチとのずれが大きくなるため、一般的な採点処理によれば、不合格となる可能性が高い。そこで、採点処理部４００は、あるノートの採点結果が不合格となった場合であっても、スローダウン歌唱判定部２００により、当該あるノートに対してスローダウン歌唱が行われたと判定された場合には、当該あるノートを合格として判定する。

【0052】

以上から明らかなように、本実施形態に係るカラオケ装置１は、カラオケ楽曲の歌唱により得られた歌唱音声信号から、所定時間長のフレーム単位で歌唱ピッチを検出する歌唱ピッチ検出部１００と、カラオケ楽曲の主旋律を示すリファレンスデータに含まれるノートのうち、あるノートの発音開始タイミング近傍において検出された歌唱ピッチのフレームから、歌唱ピッチが検出されなくなったフレームまでの間に、第１の条件を満たすよう歌唱ピッチが連続して下降する下降区間が存在し、当該下降区間に含まれるフレームの歌唱ピッチのピッチ差が第２の条件を満たし、且つ当該あるノートの発音開始タイミング近傍において検出された歌唱ピッチと、当該あるノートの基準ピッチとのピッチ差が第３の条件を満たす場合、当該あるノートに対するスローダウン歌唱が行われていると判定するスローダウン歌唱判定部２００とを有する。このようなカラオケ装置１によれば、カラオケ歌唱にスローダウン歌唱が含まれるかどうかを判定することができる。

【0053】

より、具体的に、スローダウン歌唱判定部２００は、リファレンスデータに含まれるノートのうち、一のノートの時間長が所定時間の範囲内である場合、当該一のノートをあるノートとして特定し、あるノートの発音開始タイミング近傍において検出された歌唱ピッチの第１のフレームから、歌唱ピッチが検出されなくなった第２のフレームまでの間、連続する２つのフレームの歌唱ピッチのピッチ差が第１の所定範囲内である場合、第１のフレームを開始時のフレームとし、第２のフレームを終了時のフレームとする下降区間を特定し、開始時のフレームの歌唱ピッチと終了時のフレームの歌唱ピッチとのピッチ差が第２の所定範囲内であり、且つ開始時のフレームの歌唱ピッチと、あるノートの基準ピッチとのピッチ差が第３の所定範囲内である場合、下降区間をスローダウン歌唱が行われている区間として判定する。スローダウン歌唱判定部２００がこのような処理を実行することにより、カラオケ歌唱にスローダウン歌唱が含まれるかどうかを判定することができる。

【0054】

更に、本実施形態に係るカラオケ装置１は、あるノートの採点結果が不合格と判定された場合、且つ当該あるノートに対するスローダウン歌唱が行われていた場合、当該あるノートの採点結果を合格と判定する採点処理部４００を有する。このようなカラオケ装置によれば、スローダウン歌唱という歌唱技法が用いられたにも関わらず、それが反映されない採点結果となることを回避できる。

【0055】

＜その他＞
上記実施形態で説明したスローダウン歌唱の判定処理等をプログラムとして提供することも可能である。たとえば、当該プログラムは、コンピューター（たとえば、カラオケ装置）に、カラオケ楽曲の歌唱により得られた歌唱音声信号から、所定時間長のフレーム単位で歌唱ピッチを検出させ、カラオケ楽曲の主旋律を示すリファレンスデータに含まれるノートのうち、あるノートの発音開始タイミング近傍において検出された歌唱ピッチのフレームから、歌唱ピッチが検出されなくなったフレームまでの間に、第１の条件を満たすよう歌唱ピッチが連続して下降する下降区間が存在し、当該下降区間に含まれるフレームの歌唱ピッチのピッチ差が第２の条件を満たし、且つ当該あるノートの発音開始タイミング近傍において検出された歌唱ピッチと、当該あるノートの基準ピッチとのピッチ差が第３の条件を満たす場合、当該あるノートに対するスローダウン歌唱が行われていると判定させる。

【0056】

また、上記プログラムが記憶された非一時的なコンピューター可読媒体（non-transitory computer readable medium with an executable program thereon）を用いて、コンピューターにプログラムを供給することも可能である。なお、非一時的なコンピューターの可読媒体の例は、磁気記録媒体（例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ）、ＣＤ－ＲＯＭ（Read Only Memory）等がある。

【0057】

上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定するものではない。上記の構成は、適宜組み合わせて実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。

【符号の説明】

【0058】

１ カラオケ装置
１０ カラオケ本体
１１ 制御部
１００ 歌唱ピッチ検出部
２００ スローダウン歌唱判定部
３００ 提示部
４００ 採点処理部

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】