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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】アンカリング装置
(51)【国際特許分類】
   B60M 1/20 20060101AFI20221102BHJP
【FI】
B60M1/20 T
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019117240
(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公開番号】P2021003916
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-04-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1)公開試験 試験日 令和1年1月15日 場所 八千代工機株式会社 本社工場内 試験室(住所:大阪府東大阪市東鴻池町4丁目1番67号) 2)ウエブサイト掲載 公開日(開始日) 令和1年3月13日 ウエブサイトのURL https://www.osaka-monorail.co.jp/monorailwp/wp-content/uploads/2019/03/20190326_jisinhoukoku.pdf P.24~P.27(http://www.osaka-monorail.co.jp/info/news-376.htmlからアクセス可)
(73)【特許権者】
【識別番号】391042380
【氏名又は名称】八千代工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086346
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 武信
(72)【発明者】
【氏名】白藤 博行
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-302868(JP,A)
【文献】特開平06-255407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/20
B60M 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電車線に固定されるものであり、前記電車線の長手方向について前記電車線をスライド可能に支持する支持部材に対し、当りとなって前記スライド可能な範囲を規制するアンカリング装置において、
前記スライドにて前記支持部材へ当接する部位へ破壊部材を備え、
前記電車線の前記スライドにて前記破壊部材が前記支持部材を押圧し前記破壊部材へ所定の力が加わると前記破壊部材が破壊されて、前記支持部材の破壊が抑制されるアンカリング装置。
【請求項2】
電車線に固定されるものであり、前記電車線の長手方向について前記電車線をスライド可能に支持する支持部材に対し、当りとなって前記スライド可能な範囲を規制するアンカリング装置において、
前記スライドにて前記支持部材へ当接する部位へ破壊部材を備え、
前記電車線の前記スライドにて前記破壊部材が前記支持部材を押圧した際、前記支持部材の破壊前に前記破壊部材が破壊されて、前記支持部材の破壊が抑制されるアンカリング装置。
【請求項3】
前記支持部材の少なくとも一部は電気的な絶縁性を有する絶縁部であり、
前記アンカリング装置は、前記電車線へ固定されるアンカリング本体を備え、
前記破壊部材は、前記アンカリング本体と別体に形成され且つ前記支持部材との間に間隔を開けて前記アンカリング本体へ取り付けられるものであり、
前記破壊部材は、塑性変形可能な金属製の破壊部を備え、
前記電車線の前記スライドにて前記破壊部材が前記支持部材を押圧した際、前記絶縁部が破壊される前に前記破壊部が塑性変形して、前記絶縁部の破壊を抑制するものである請求項1又は2記載のアンカリング装置。
【請求項4】
前記電車線は剛体電車線であり、
前記支持部材の前記絶縁部は碍子であり、
前記破壊部材は前記アンカリング本体へ固定されることにて前記電車線の長手方向へ沿って伸びる金属板であり、
前記電車線の長手方向と交差する方向へ尾根が伸びる山形又は前記電車線の長手方向と交差する方向へ谷底が伸びる谷形に、前記破壊部は形成されたものであり、
電車線のスライドにて前記破壊部が前記支持部材を押圧した際、前記碍子が破壊される前に前記破壊部が前記電車線の前記長手方向について前記山形の山の幅又は前記谷形の谷の幅を狭めるように塑性変形するものである請求項3記載のアンカリング装置。
【請求項5】
前記破壊部材は、基部を前記アンカリング本体へ固定される固定部とし、前記固定により先端を前記支持部材へ向け、
前記破壊部材は、板面の一方を裏面とし前記裏面を前記電車線と対面させる、厚みを略均一とする金属板であり、
前記破壊部材は、表面と前記裏面との間の幅を前記厚みとし、前記電車線の前記長手方向を長さ方向とし、前記長さ方向及び前記厚み方向の夫々と直交する方向を幅方向とし、
前記破壊部材の先端には、当接部が形成され、
前記破壊部材は、前記当接部と前記支持部材との間に間隔を開けて前記アンカリング本体へ固定され、前記当接部は前記電車線の前記スライドによって前記支持部材と当接するものであり、
前記破壊部は、前記長さ方向について、前記固定部と前記当接部との間へ形成され、
前記破壊部の前記幅方向の幅は、前記当接部の前記幅方向の幅よりも小さいものであり、
前記支持部材の前記絶縁部は碍子であり、
前記碍子は、磁器、ガラス、ポリマーの少なくとも1つを主材とするものであり、前記破壊部材はアルミニウムを主材とするものである請求項3又は4記載のアンカリング装置。
【請求項6】
破壊部材の破壊後前記電車線の前記スライドにて前記破壊部材が前記支持部材を更に押圧した際、前記アンカリング装置は、前記押圧の力に対する前記支持部材からの反作用を受けて、前記支持部材の破壊前に前記電車線に対し前記押圧する方向と逆の方向へ変位して、前記支持部材の破壊を抑制することを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載のアンカリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカリング装置に関し、詳しくは軌道を走行する車両へ電気を供給する給電用の電車線に取り付けられるアンカリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道や新交通の電車線は、通常の支持箇所(支持部材)では支えられているだけで特に固定はされていないが、給電用の1本の電車線が担う区間において、当該電車線を支持する電車線の長手方向の複数の支持箇所うち1箇所だけ電車線を支持箇所へ固定させるためアンカリング装置を設けることが行われている。
強度の大きなアンカリング装置の場合、想定以上の荷重が加わった際にアンカリング装置自信は破壊されずに周辺の部品や装置が破壊されたり、或いはアンカリング装置自身が破壊される際に周辺の部品や装置を巻き込んで破壊してしまったり、給電用の電車線が機能不全に陥るように周囲を破壊してしまう。
【0003】
上記破壊の生ずる背景についてより具体的に述べる。
ここで、鉄道やモノレールの軌道において、車両の集電器へ電気を供給する電車線として、トンネルや地下区間で広く採用されている金属製の剛体電車線を例に採って、当該電車線の固定方法について説明すると、電気的に絶縁した状態に軌道や壁などへ電車線を配設するために、碍子を備えた支持部材が、上記剛体電線に対して所定間隔を開けて設置される。
特に気温の変化による剛体電車線の収縮や膨張を考慮して、電車線の伸びる方向即ち電車線の長手方向については剛体電車線がスライド可能なように、上記支持部材は剛体電車線を支持する(特許文献1段落0006及び図9)。
【0004】
上記において無制限に剛体電車線のスライドを許容すると、支持部材に対する剛体電車線の偏りを生じさせるので、上記支持部材のうち1区間を担う1本の剛体電車線の長手方向の中点に配置する支持部材を、上記アンカリング装置にて剛体電車線の上記スライドを制限する規制点(固定点)とすることが往々にして行われる(特許文献1段落0005及び図8)。
しかし、電車線の膨張や収縮によってアンカリング装置が支持部材を押圧し、支持部材の碍子を破壊してしまう危惧がある。
【0005】
現状において、上記破壊を回避するため、剛体電車線を把持する固定ブロックと、当該固定ブロックに1つの端部を配設して、縮む方向の力に対して反発する力を持った緩衝復元部とを備えたアンカリング金具が提案されている(特許文献1の請求項5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-302868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1へ示された固定装置(請求項1)及び当該装置に用いるアンカリング金具(請求項5)では、剛体電車線が縮むと、これに伴って固定ブロックも剛体電車線が縮む方向に移動するとともに、緩衝復元部の一端が支持部に接触しているので、緩衝復元部も縮み、このとき緩衝復元部は、固定ブロックを中立の位置へ戻すような力を加えるものであり。これにより剛体電車線が急激に縮まるのを防止できるとともに、緩衝復元部の力により少しずつ剛体電車線を当初の位置へ戻すことができるとされている。
また上記特許文献1において、固定装置の側方に配設してある支持装置において大きな摩擦力が発生しても、固定装置の緩衝復元部が縮むまたは伸びるので、大きな摩擦力が発生している方向に剛体電車線を移動させることができ、よって固定装置と、大きな摩擦力が発生している支持装置との間で、剛体電車線の引張り合いが生じるのを防止でき、絶縁部の破損を防止でき、そして固定装置で支持する剛体電車線が担う1区間を長くできるとされている。
【0008】
即ち、特許文献1の上記緩衝復元部は、その名の通り弾性変形によるバネ力によってアンカリング金具が固定装置へ突き当たった際の押圧を緩衝して上記絶縁部の破損(破壊)を回避しようとするものである(特許文献1の段落0031)。
しかし、上記絶縁部の破損回避のため適切な弾性変形を行うように緩衝復元部を設定するのは簡単ではない。
また、上記緩衝復元部では、支持部材がアンカリング装置から剛体電車線の伸縮に起因する押圧を受けても許容範囲内であれば元の状態へ復元し押圧発生の履歴を把握できない。既に生じた上記押圧によって、緩衝復元部が疲労し次回の押圧に対し緩衝作用が十分発揮できないものとなっていても把握できないのである。
【0009】
本発明の発明者は、特許文献1の緩衝復元部とは異なる手段によって絶縁部(碍子)の破壊を回避できないか鋭意研究を重ね、今般上記破壊を防ぐため、アンカリング装置に想定荷重通りに且つ、機能不全を起こすことなくアンカリング装置の備える破壊部材のみに破壊を生じるものを提供することにより上記課題の解決を図った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、電車線に固定されるものであり、前記電車線の長手方向について前記電車線をスライド可能に支持する支持部材に対し、当りとなって前記スライド可能な範囲を規制するアンカリング装置について次の構成を採るものを提供する。
即ちこのアンカリング装置は、前記スライドにて前記支持部材へ当接する部位へ破壊部材を備え、前記電車線の前記スライドにて前記破壊部材が前記支持部材を押圧し前記破壊部材へ所定の力が加わると前記破壊部材が破壊されて、前記支持部材の破壊が抑制される。
また本発明は、電車線に固定されるものであり、前記電車線の長手方向について前記電車線をスライド可能に支持する支持部材に対し、当りとなって前記スライド可能な範囲を規制するアンカリング装置について次の構成を採るものを提供する。
即ちこのアンカリング装置は、前記スライドにて前記支持部材へ当接する部位へ破壊部材を備え、前記電車線の前記スライドにて前記破壊部材が前記支持部材を押圧した際、前記支持部材の破壊前に前記破壊部材が破壊されて、前記支持部材の破壊が抑制される。
更に本発明では、前記支持部材の少なくとも一部は電気的な絶縁性を有する絶縁部であり、前記アンカリング装置は、前記電車線へ固定されるアンカリング本体を備え、前記破壊部材は、前記アンカリング本体と別体に形成され且つ前記支持部材との間に間隔を開けて前記アンカリング本体へ取り付けられるものであり、前記破壊部材は、塑性変形可能な金属製の破壊部を備え、前記電車線の前記スライドにて前記破壊部材が前記支持部材を押圧した際、前記絶縁部が破壊される前に前記破壊部が塑性変形して、前記絶縁部の破壊を抑制するアンカリング装置を提供できた。
また更に本発明では、前記電車線は剛体電車線であり、前記支持部材の前記絶縁部は碍子であり、前記破壊部材は前記アンカリング本体へ固定されることにて前記電車線の長手方向へ沿って伸びる金属板であり、前記電車線の長手方向と交差する方向へ尾根が伸びる山形又は前記電車線の長手方向と交差する方向へ谷底が伸びる谷形に、前記破壊部は形成されたものであり、電車線のスライドにて前記破壊部が前記支持部材を押圧した際、前記碍子が破壊される前に前記破壊部が前記電車線の前記長手方向について前記山形の山の幅又は前記谷形の谷の幅を狭めるように塑性変形するアンカリング装置を提供できた。
更にまた本発明では、前記破壊部材は、基部を前記アンカリング本体へ固定される固定部とし、前記固定により先端を前記支持部材へ向け、前記破壊部材は、板面の一方を裏面とし当該裏面を前記電車線と対面させる、厚みを略均一とする金属板であり、前記破壊部材は、表面と前記裏面との間の幅を前記厚みとし、前記電車線の前記長手方向を長さ方向とし、前記長さ方向及び前記厚み方向の夫々と直交する方向を幅方向とし、前記破壊部材の先端には、当接部が形成され、前記破壊部材は、前記当接部と前記支持部材との間に間隔を開けて前記アンカリング本体へ固定され、前記当接部は前記電車線の前記スライドによって前記支持部材と当接するものであり、前記破壊部は、前記長さ方向について、前記固定部と前記当接部との間へ形成され、前記破壊部の前記幅方向の幅は、前記当接部の前記幅方向の幅よりも小さいものであり、前記支持部材の前記絶縁部は碍子であり、前記碍子は、磁器、ガラス、ポリマーの少なくとも1つを主材とするものであり、前記破壊部材はアルミニウムを主材とするアンカリング装置を提供できた。
また本発明では、破壊部材の破壊後前記電車線の前記スライドにて前記破壊部材が前記支持部材を更に押圧した際、前記アンカリング装置は、前記押圧の力に対する前記支持部材からの反作用を受けて、前記支持部材の破壊前に前記電車線に対し前記押圧する方向と逆の方向へ変位して、前記支持部材の破壊を抑制するアンカリング装置を提供できた。
【発明の効果】
【0011】
上記構成を採る本発明は、支持部材(絶縁部)の破壊を防ぐために、想定荷重通りに自身のみが破壊されて、機能不全を起こすことのないアンカリング装置を提供できた。
具体的には、本発明は、アンカリング装置に破壊部材を設け、破壊部材が前記支持部材を押圧した際に当該破壊部が破壊され、支持部材の破壊を抑制する。
即ち、破壊部をヒューズとし、電車線の伸縮に起因し支持部材をアンカリング装置が押圧した際、破壊部が不可逆的に変形し又は粉砕されるものとして支持部材の破壊を回避可能とした。
また本発明(請求項3)のアンカリング装置では、破壊部材を電車線へ固定されるアンカリング本体と別体に形成されたものとするため、破壊部材の交換が簡単に行え、特に破壊部材の形状や材質を選択(変更)することにより、破壊部材の破壊強度の設定が容易に行える。
例えば、本発明(請求項4)では、破壊部の山の高さや谷の深さを変更することにより、上記破壊強度の設定(変更)を容易に行うことができる。また本発明では破壊部の上記幅方向の幅を変更することにより上記破壊強度の設定(変更)を容易に行うことができる。
破壊部が破壊され後も、当接部は破壊部の破壊の影響が少なく、破壊部が破壊された後のアンカリング装置は、従来のアンカリング装置と同等のアンカリング(スライド制限)の機能を有し、当該装置の早期の復旧に寄与する。
また、上記破壊部は、所定以上の力が1度でも加わると支持部材に先んじて破壊され、次回ヒューズとして機能しないことは一目瞭然であり、交換の機を逸しない。
更に本発明(請求項6)では、破壊部材が破壊された後の上記押圧の力に対し、前記アンカリング装置は、支持部材からの反作用を受けて、前記支持部材の破壊前前記電車線に対し変位することで、支持部材の破壊を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(A)は本発明の一実施の形態に係るアンカリング装置の使用(電車線へ取り付けた)状態を示す平面図、(B)は(A)の側面図、(C)は(A)の正面図。
図2】(A)は図1のアンカリング装置のアンカリング本体の正面図、(B)は(A)のアンカリング装置の要部正面図、(C)は(B)の平面図、(D)は(B)の側面図、(E)は図1のアンカリング装置の緩衝部材の背面図、(F)は(E)の側面図、(G)は(E)の正面図、(H)は(E)の底面図。
図3】(A)は図1へ示すアンカリング装置の作動状態を示す平面図、(B)は(A)の側面図。
図4】(A)は図1へ示すアンカリング装置の破壊部材の破壊状態を示す平面図、(B)は(A)の側面図。
図5】(A)は本発明の一実施例について強度試験を行う試験装置の側面図、(B)は(A)の背面図。
図6】(A)は図5の試験装置に関し供試体2)に対する試験荷重0(無荷重)の状態を示す側面図(写真)、(B)は供試体2)に対し試験荷重を4.6kNとして試験を行った図5の試験装置の側面図(写真)、(C)は試験中の(B)の供試体2)の斜視図(写真)。
図7】(A)は図6(C)へ示す供試体2)へ更に荷重を加えた状態の供試体2)の斜視図(写真)、(B)は上記供試体2)の試験終了後の状態を示す斜視図(写真)、(C)は(B)の供試体2)(の破壊部材)を試験装置から取り外した状態を示す斜視図(写真)、(D)は図5の試験装置に関し供試体6)に対する試験荷重0(無荷重)の状態を示す側面図(写真)。
図8】(A)は上記供試体6)に対し試験荷重を4.6kNとして試験を行った図5の試験装置の正面図(写真)、(B)は試験中の(A)の供試体6)の斜視図(写真)、(C)は上記供試体6)の試験終了後の状態を示す斜視図(写真)、(D)は(C)の供試体6)(の破壊部材)を試験装置から取り外した状態を示す斜視図(写真)。
図9】(A)は図5の試験装置に関し供試体4)に対する試験荷重0(無荷重)の状態を示す側面図(写真)、(B)は供試体4)に対し試験荷重を4.9kNとして試験を行った図5の試験装置の側面図(写真)、(C)は試験中の(B)の供試体4)の斜視図(写真)。
図10】(A)は図9(C)へ示す供試体4)へ更に荷重を加えた状態の供試体4)の斜視図(写真)、(B)は上記供試体4)の試験終了後の状態を示す斜視図(写真)、(C)は(B)の供試体4)(の破壊部材)を試験装置から取り外した状態を示す斜視図(写真)、(D)は図5の試験装置に関し供試体10)に対する試験荷重0(無荷重)の状態を示す側面図(写真)。
図11】(A)は上記供試体10)に対し試験荷重を4.4kNとして試験を行った図5の試験装置の側面図(写真)、(B)は試験中の(A)の供試体10)の斜視図(写真)、(C)は上記供試体10)の試験終了後の状態を示す斜視図(写真)、(D)は(C)の供試体10)(の破壊部材)を試験装置から取り外した状態を示す斜視図(写真)。
図12】(A)~(J)は夫々図2(H)へ示すアンカリング本体の変更例を示す底面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態について説明する。
(概要)
このアンカリング装置1は、電車へ電力を供給する電車線dに取り付けられて使用される(図1)。電車線dは、電車線の長手方向について間隔を開けて設けられた複数の支持部材gにて支持される。支持部材gの夫々は、トンネルや地下区間の壁・天井、或いは軌道といった構造物へ電車線を固定するものであり、当該構造物と間に介されて電車線dを支持する。
支持部材gの夫々は、碍子などの絶縁部g1を備え、上記構造物との間にて電車線dを電気的に絶縁する。
図1(A)(C)において絶縁部g1(碍子)の上記構造物側は上記構造物と共に省略している(図3(A)、図4(A)において同じ)。また図1(B)においては絶縁部g1(碍子)も省略している(図3(B)、図4(B)において同じ)。
【0014】
電車線dは、電車線dの長手方向xに対し周囲の温度の変化により膨張や収縮を生じるのであり、上記膨張や収縮を許容すべく支持部材gは電車線dを電車線dの長手方向xへスライド可能に支持する。
アンカリング装置1は、電車線dを支持する複数の支持部材gのうち一部の支持部材gの近傍にて電車線dへ取り付けられ、電車線dの上記スライドを規制する。
電車線dの長手方向xを前後方向とし、電車線dにおいて上記支持部材gの1つに対し電当該支持部材gの前後へ一対のアンカリング装置1が、支持部材gと間隔を開けて取り付けられる(図1(A)(B))。
アンカリング装置1は、支持部材gの上記絶縁部g1よりも小さな力で破壊することができるように構成されている。即ちアンカリング装置1は、所定の力の負荷にて破壊される破壊部32を備える。電車線dのスライドによって支持部材gへアンカリング装置1が当ってアンカリング装置1が支持部材gを押圧した際に、支持部材gの破壊に先立ち上記破壊部32が破壊されることで絶縁部g1の破壊が抑制される。
【0015】
(電車線dについて)
電車線dは剛体電車線であり、トロリ線d1と当該トロリ線d1を保持する剛体架台d2とに構成されている(図1(C))。
図1へ示す例では、剛体架台d2は長手方向xと直交する面での断面を略T型とするT型架台であるが、電車線dは他の形式の剛体架台d2を備えるものであってもよい。
この例では、電車線dは、上記支持部材gにて上記スライドが可能にクランプされる板状の台部d3と、台部d3の一方の板面から起立する起立部d4とを備える。起立部d4の先端側にトロリ線d1が保持される(図1(C))。
【0016】
(支持部材gについて)
支持部材gは、上記絶縁部g1と、ホルダ部g2とを備える(図1(A)(C))。
絶縁部g1は上記碍子であり、上記構造物へ固定される。
上記碍子は、磁器、ガラス、ポリマーの少なくとも1つを採用することができる。この例では、絶縁部g1である上記碍子は磁器である。
但し絶縁部g1として、電車線dから上記構造物を電気的に絶縁することができ、電車線dを支持する強度を備えたものであれば、上記の磁器やガラス、ポリマーといったものと異なる素材にて上記碍子を構成するのを排除するものではない。
ホルダ部g2は、絶縁部g1の上記構造物と反対側へ設けられたベースホルダg21と、1対のクランプホルダg22とを備える。この例では、クランプホルダg22は金属製であり、ベースホルダg21も金属製である。
ベースホルダg21は、絶縁部g1である碍子へセメントなどの接着材にて固着された金具である。電車線dの伸縮によるスライドにて破壊部材3が碍子へ直接突き当たらず金属製のベースホルダg21に破壊部材3が突き当たり、金属製のベースホルダg21自身は損傷しないものとしてもベースホルダg21を介し力を受けた磁器製の上記碍子が破壊される危惧がある。
一方上記クランプホルダg22は、ベースホルダg21と別体に形成された金具である。
ベースホルダg21と各クランプホルダg22との間へ上記電車線dの台部d3を収容し、各クランプホルダg22が、締結具g23にて、ベースホルダg21へ取り付けられる。
締結具g23は、ボルトとナットなどの周知の留具を採用する。この例では、各締結具g23の上記ボルトの座面とナットの座面には座金が重ねられている。
【0017】
上記締結具g23のボルトをナットへ締め付けてもベースホルダg21と各クランプホルダg22との間の電車線d(剛体架台d2)へ当該締め付けによる力が加わることのないようにクランプホルダg22と各クランプホルダg22とが構成され、電車線dにおいて上記スライドが可能となっている。
ベースホルダg21と一対のクランプホルダg22の夫々には、上記締結具g23のボルトを通す穴が形成されている。当該穴のうちベースホルダg21へ形成された一対の穴の夫々は、側面視において中心を同一とする弧を描く長孔g24である(図1(B))。
【0018】
(アンカリング装置1)
電車線dへ取り付けられる上記アンカリング装置1の夫々は、アンカリング本体2と、アンカリング本体2と別体に形成された破壊部材3とにて構成される(図1(A)(B)及び図2)。
【0019】
アンカリング本体2は、図2(A)へ示す同一形状の2つのアンカリング金具21を組み合わせて構成される。図2(B)~(D)は、2つの上記アンカリング金具21の一方を示している。
アンカリング金具21は、金属製の板状体であり、略U字状に屈曲する把持部22と、把持部22の上記U字の一端に延設された留め部23とを備える。
この例では、一枚の金属板を折曲することにより、上記把持部22と留め部23が形成されている。
【0020】
把持部22は、電車線d(剛体架台d2)の板状の台部d3に嵌められるものであり、台部d3の表面に沿って上記の通りU字状に屈曲している。
留め部23は、把持部22のU字の一端から当該U字の外側へ向けて伸びる。即ち、把持部22を上記台部d3へ嵌めた際、板状の台部d3の厚さ方向uについて台部d3と反対側へ伸びるように形成されている(図2(A)(B))。
留め部23には、ボルト24を通す貫通孔25が設けられている。
図2(A)へ示す状態において、台部d3の上部へ一対のアンカリング金具21の一方を嵌め、台部d3の下部へ一対のアンカリング金具21の他の一方を嵌めることにて、両アンカリング金具21の留め部23同士を対面させる。対面する両留め部23同士をボルトやナットなどの周知の固着具にて一体にする。
【0021】
具体的には、対面する両留め部23の貫通孔25へボルト24を通してボルト24へナット26を嵌める。この例では留め部23とナット26の座面との間に座金が装着される。
上記のボルト24をナット26に締め付けることにてアンカリング本体2を電車線dの剛体架台d2(台部d3)へ固定することができる。当該固定によって、アンカリング本体2は電車線dに対し位置を変えず、電車線dの伸縮によって電車線d2と一体に変位する。
図1(A)、図3(A)及び図4(A)において、図面の煩雑を避けるためボルト24は省略されている。
尚、破壊部材3の破壊によって電車線dが傷つかないように、電車線dの台部d3と破壊部材3との間にゴム板などの弾性シートを挟んでおくのが好ましい(図示しない)。
【0022】
破壊部材3は、金属製の板状体である(図2(E)~(H))。破壊部材3は、厚みを略均一とする。この例では、破壊部材3は、アルミニウム製の板状体である。
破壊部材3は、上記把持部22を電車線dの台部d3へ固定する際、電車線dの台部d3と共に一対の把持部22間に配置されて、アンカリング本体2と共に電車線dの台部d3へ固定される。
【0023】
詳しくは、破壊部材3は、上記にてアンカリング本体2と共に電車線dの台部d3へ固定される固定部31と、固定部31に延設された上記破壊部32と、破壊部32へ延設された延設部33と、当接部34と、抜止部35とを備える1枚の板状体である。
破壊部材3は、固定部31を基部として電車線dへの上記固定により先端側を支持部材gへ向け、電車線dに沿って電車線dの長手方向xへ伸びる。
【0024】
電車線dへの破壊部材3の上記固定により、金属板である破壊部材3の板面の一方を裏面とし当該裏面を電車線dの台部d3と対面させる。即ち、アンカリング本体2による破壊部材3の電車線dへの上記固定によって、破壊部材3の裏面を、台部d3の起立部d4の設けられた面と反対側の面へ対面させる。
電車線dへの破壊部材3の上記固定により、上記固定部31と延設部33は、電車線dの台部d3に添い台部d3へ面接触する。
破壊部材3の上記裏面と表面の間を厚みとすると、電車線dへ固定された破壊部材3において固定部31と延設部33の厚み方向は、電車線dの上記厚さ方向uと一致する。特許請求の範囲(請求項5)における破壊部材の「厚み方向」は固定部31と延設部33の上記厚み方向に対応する。
【0025】
以下、固定部31と延設部33の上記厚み方向を破壊部材3の厚み方向とし、電車線dへ固定した際電車線dの長手方向xと一致する方向を長さ方向vとし、当該長さ方向v及び厚み方向の夫々と直交する方向を幅方向wとして説明する。
上記の抜止部35は、固定部31に隣接して設けられて破壊部材3の基端を構成する。電車線dへ沿う固定部31に対し抜止部35は、電車線dと反対側へ起立し、アンカリング本体2から破壊部材3がずれるのを防止する。また抜止部35にて上記長手方向xについてアンカリング本体1に対する破壊部材3の固定時の位置決めを行うことができる。
【0026】
上記の当接部34は、延設部33に隣接して設けられ破壊部材3の先端を構成する。電車線dへ沿う延設部31に対し当接部34は起立し、電車線dと反対方向へ突出する。
支持部材gのベースホルダg21との間に間隔を開けて、破壊部材3はアンカリング本体1にて電車線dへ取り付けられる。
電車線dの伸縮にて電車線dがスライドした際、対なすアンカリング装置1のうちの一方の破壊部材3の当接部34(図3(A)(B)において右側のアンカリング装置1の破壊部材3の当接部34)が支持部材gのベースホルダg21へ当接するのである。
【0027】
電車線dへ沿う固定部31と延設部33に対し、長さ方向vについて固定部31と延設部33の間に設けられた破壊部32は、山形をなす折曲部として電車線dの台部d3から浮き上がった状態となっており台部d3から側方へ隆起する(図1(A)及び図2(H))。山形の破壊部32の尾根32aは上記幅方向wに沿って伸びる。
電車線dの伸縮にて電車線dがスライドし図3(A)(B)へ示す通り、対なすアンカリング装置1のうちの一方の破壊部材3の当接部34が支持部材gのベースホルダg21へ当接し、更に当接部34が支持部材gのベースホルダg21を押圧し続けると、破壊部32は山形の上記長さ方向vについての幅を狭め、最終的に斜面であった山形の長さ方向vについて前後の両面が固定部31及び延設部33に対して完全に起立する(図4(A)(B))。即ち、上記山形の両内側斜面同士が近接し当接し合う。
破壊部32は、塑性変形にて上記の通り山形を変形させる変形部である。
破壊部32のなす山の角度即ち、上記山形を象る前後の斜面の挟み角θは、下限を破壊部32の変形の小ささにて碍子の破壊を生じてしまう角度より大きいものとし、上限を大き過ぎて山形の上記変形の確実な誘導をできなくなる角度よりも小さいものとする(図2(H))。このアンカリング装置1において、破壊部32の上記挟み角θの角度の選択にて、破壊部材3の破壊に必要な力の設定(選択)が簡単に行えるものとなっている。
【0028】
アルミニウム製の破壊部材3の幅w方向について、破壊部32の幅w1は当接部34の幅w2よりも小さい(図2(F))。即ち上記w1<w2の関係と山形の形状によって、破壊部32は破壊部材3において最も塑性変形し易い部分となっている。より詳しくは、破壊部材3の幅w方向について、破壊部32の上記幅w1は、固定部31と延設部33の各幅w3よりも小さく、尚且つ上記の通り当接部34の幅w2よりも小さいのである。この例では、固定部31と延設部33の上記各幅w3は同一である。
【0029】
絶縁部g1の強度によって、上記破壊部32の強度を設定すればよい。即ち、破壊部32は絶縁部g1に所定の力の負荷によって破壊されるものとし、当該所定の力は絶縁部g1の破壊に必要な力よりも小さいものとするのである。
この例では、碍子である絶縁部g1が破砕される前に、金属板である破壊部材3の破壊部32に上記塑性変形が生じるように破壊部材2を構成しておく。
上記破壊部32の強度の設定については、破壊部材3の材質や、山形である破壊部32の隆起幅、破壊部32の幅w1、破壊部材3の厚みを選択することによって、破壊部32の破壊が生じる所定の力を簡単に設定し変更することができるのである。
【0030】
尚図示した例において、支持部材gの1つと当該支持部材gの前後に配置された一対のアンカリング装置1とが、電車線dの固定装置を構成する。
【実施例
【0031】
アンカリング装置1の一実施例について説明する。
このアンカリング装置1においてアンカリング本体2のアンカリング金具21の厚みを4mmの金属板とし、電車線dへ取り付けた際のアンカリング金具21における、台部d3の長手方向xに沿う方向の幅t1を50mmとし(図2(C))、台部d3の厚さ方向uに沿う方向の幅t2を53.5mmとし、上記長手方向x及び上記厚さ方向uと直交する方向の幅t3(図2(D))を39mmとし、把持部22の上記U字の深さt4を17mmとし(図2(B))、当該U字の懐の幅(懐幅h)を15.5mmとし、貫通孔25の径を8mmとする(図2(C))。
【0032】
このアンカリング装置2の破壊部材3は、厚みが3mmのアルミニウム製の板状体であり、全長(長さ方向vについて当接部34前面と抜止部35後面間の幅)を136mmとし、上記幅方向wについて、破壊部32の幅w1を40mmとし、当接部34の幅w2を50mmとし、固定部31と延設部33の各幅w3を80mmとする(図2(F))。また当接部34と抜止部35の側方へ起立する方向の最大幅z1,z2は、何れも20mmである(図2(H))。そして破壊部32のなす山形の山の高さyは10mmである。
【0033】
(強度試験)
以下、上記実施例のアンカリング装置2を対象として行った強度試験について説明する。
ここでは上記実施例に規定の寸法及び材質の破壊部材3を緩衝材と呼び、必要に応じタイプA-10-3Mと称する。
【0034】
試験場所は、八千代工機株式会社 本社工場試験室(東大阪市東鴻池町4丁目1番67号)であり、同社の技術生産部の監督下に、強度試験として、a. 耐荷重試験、及びb. 破壊荷重試験を実施した。
試験に使用する機器(計測機器)については表1へ示す株式会社永木精機(大阪府大東市太子田3丁目4番31号)製のテンションメーターn(デジタルテンションメーター型式100 kN)を採用した(図5(A))。
【0035】
【表1】
【0036】
試験を行う緩衝材(破壊部材3)として、同じ寸法・組成・物性である、供試体2)、供試体6)、供試体4)、供試体10)の4つの供試体を用意した。上記供試体毎に試験条件を変えて試験を行った。
【0037】
上記各供試体には、アルミニウム合金を採用した。
各供試体の機械的性質(共通)を表2へ示す。
【0038】
【表2】
【0039】
次に強度試験の試験要領について説明する。
a.耐荷重試験
耐荷重試験には、図5へ示す試験装置mを用いた。
試験装置mは、引張荷重を負荷する引張装置(図示しない。図5(A)の荷重方向を示す矢印の先に配置されている。)と、当該荷重方向と並行して伸びる鋼製の2本の支持用バーm1と、両支持用バーm1間に渡され固定用バーm1へボルトとナットにて固定された鋼製の2本の支持用桟m2と、支持用桟m2の夫々に沿って配置されて両支持用バーm1へボルトとナットにて固定された鋼製の2本の取付用桟m3と、両取付用桟m3間へ渡されボルトとナットにて固定された鋼製の2本の取付用板材m4とを備える。
【0040】
支持部材g(絶縁部g1)は、試験装置mの上記両取付用板材m4へ支持金具g25を介してボルトとナットにて固定される以外、図1へ示すものと同様のものを採用する。
試験装置mの上記両支持用バーm1と両支持用桟m2と両取付用桟m3と両取付用板材m4が、支持部材gを固定する前述の構造物の役割を果たす。
試験装置mへ設けられた上記支持部材gのホルダ部g2(図5(B))に、電車線d(剛体電車線)の代用とする試験用剛体d10がスライド可能に保持され、試験用剛体d10は長手方向を上記荷重方向と一致するように配置される。
【0041】
試験用剛体d10の一端側(図5(A)において左側)は上記の通り支持部材gにて試験用剛体d10長手方向にスライド可能に支持され、試験用剛体d10の他の一端側(図5(A)において右側)は上記引張装置に接手m2を介して連結される。接手m2には、上記テンションメーターnとターンバックルとが設けられている。
【0042】
アンカリング装置1は、上記試験用剛体d10へ、図1へ示す電車線dへ取り付けるのと同様に取り付けられる(図5図6(A)、図7(D)、図9(A)及び図10(D))。尚試験においては、一対のアンカリング装置1のうちの1つのみ、試験用剛体d10の支持部材g1を挟んで上記引張装置の反対側へ取り付けた。
【0043】
2つの支持用桟m2間の間隔、正確には2つの支持用桟m2の支持用バーm1へ取り付けるボルト間の間隔k1を450mmとし、2つの支持用桟m2のうち上記引張装置寄りの支持用桟m2のボルトと引張装置(の連結部)との間の間隔k2を1120mmとした。試験用剛体d10の長さk3は1000mmである。接手m2へ試験用剛体d10を取り付けるボルトの中心と試験用剛体d10の引張装置側端部(図5(A)において右端)との間の間隔k5を30mmとした。上記の接手m2へ試験用剛体d10を取り付ける上記ボルトを設けるため、試験用剛体d10の長手方向について起立部d14は、台部d13よりも短く、起立部d14の上記引張装置側の端部(図5(A)において右端)よりも、台部d13の引張装置側の端部は上記引張装置寄りに位置する。起立部d14の上記引張装置側の端部と台部d13の引張装置側の端部との間の間隔k4は75mmとした。
【0044】
試験装置mへアンカリング装置1を取り付け前に、緩衝材(供試体である破壊部材3)の形状の変化を確認するための、緩衝材における任意の2点p1,p2の位置を決定した(図2(F))。試験において、緩衝材の全長(長さ方向vについて当接部34前面と抜止部35の後面間の幅)
を測定すると共に、上記2点p1,p2間の距離を測定する。具体的には上記2点p1,p2のうち、1点p1は上記緩衝材(破壊部材3)の固定部31へ設定し、他の1点p2は延設部33へ設定した。従って上記2点p1,p2は、破壊部32の山形を挟む2箇所へ位置する。当該設定(上記2点p1,p2へマーキング)後、緩衝材(緩衝部材3)を含むアンカリング装置1を図5(A)(B)へ示すように電車線d(剛体電車線)の代用とする試験用剛体d10へ取り付け、当該試験用剛体d10に荷重を加えることにて試験を行った。尚、ボルト24の締付けトルクは12.5N・m(ニュートン・メートル) とする。
上記ボルト24の締付けトルクは、株式会社東日製作所(東京都大田区大森北2丁目2番12号)の「技術資料 2.ねじ締付け」(www.tohnichi.co.jp/products/download/service_file/12)に準拠する。
【0045】
後述する各表において、支持部材gの絶縁部g1を「碍子部」と表記し、試験用剛体d10を「剛体」と表記し、緩衝材(破壊部材2)の上記2点p1,p2間を「中央平面部」と表記し、当該緩衝材の全長を「緩衝材外々」と表記する。また後述の表中「ボルトM8」とは、アンカリング本体2のボルト24(図5(A))を指す。
上記実施例において緩衝材(破壊部材3)の当該全長は136mmとするが、試験装置への取り付け等による誤差があり、無負荷時の計測において試験装置における緩衝材の当該全長は136.20mmとなっている。
【0046】
試験中上記引張装置にて試験用剛体d10を引っ張り、アンカリング装置1の供試体(破壊部材3)を支持部材g(ベースホルダd21)へ当てて、試験用剛体d10を引っ張り続けることで、アンカリング装置1の供試体(破壊部材3)へ付加する荷重を適宜増加させ、都度碍子部(絶縁部g1)及び上記試験用剛体d10の変位を測定する。2.5kN(キロニュートン)負荷後は0kNに戻してアンカリング装置1を外し、緩衝材即ち供試体(緩衝部材3)の全長と上記2点p1,p2間の距離を測定する。上記距離測定後、再度試験装置にアンカリング装置1を取り付け、荷重増減を2.5kN・3.0kN・0kNとして都度変位を測定し、その後アンカリング装置1を外して緩衝材の全長と上記2p1,p2点間の距離を測定する。以降同様に0.5kN単位で荷重を増加させて試験を行う。
上記耐荷重試験は上記2点p1,p2間の距離に0.2%以上の変化が生じるまで行うものとするが、参考試験として0.2%以上変形した緩衝材を用いて次の「b.破壊荷重試験」と同様の試験を行う。
【0047】
b.破壊荷重試験
アンカリング装置1を図5へ示すように取り付け、試験用剛体d10に負荷する荷重を適宜増加して行き、当該荷重の増加の都度碍子部(絶縁部g1)及び試験用剛体d10の変位(全長と2点p1,p2間の距離の変化))を測定する。試験は荷重が降下し始める破壊荷重値を確認し、破壊後の挙動についても確認する。尚、ボルト24の締付けトルクは12.5N・mとする。ボルト24の締付けトルクは株式会社東日製作所の上記「技術資料 2.ねじ締付け」に準拠する。
加える荷重は最大10kNまでとするが、荷重を加え続けても値が上昇しない場合には変位が100mm以上となった時点で試験を終了する。
【0048】
上記強度試験の判定基準に関し、a.耐荷重試験については設定せず判定基準は無いものとし、上記2点p1,p2間の距離に0.2%以上の変化が生じた時の荷重範囲の最小値を耐荷重値として記録することとした。
一方、b.破壊荷重試験についても判定基準を設定せず判定基準は無いものとし、破壊荷重値を記録することとした。
【0049】
次に試験結果について述べる。
(a.耐荷重試験について)
供試体2)に対する試験荷重1.0kNから2.5kNまででの上記2点p1,p2間の距離については97.70mm-97.55mm=0.15mmの変化があった。当該変化について変化率は〔0.15mm/97.70mm〕×100=0.15%である。試験荷重2.5kNから3.0kN まででの供試体2)の全長については136.20mm-135.65mm=0.55mmの変化があった。当該変化の変化率は[0.55mm/136.20mm]×100=0.40%である。従って耐荷重値は2.5kN となった。
試験荷重2.5kN~3.0kN負荷後更に供試体2)へ荷重を加えると、最大の負荷荷重は4.6kNとなった。当該4.6kN以上荷重は上昇しなくなり、緩衝材(供試体2))の破壊部32(中央山形部)が破壊された(図6(B)(C)及び図7(A)~(C))。引き続き上記引張装置にて試験剛体d10を引っ張り続けると、破壊部3の破壊中は荷重が下降し最小値1.9kNまで減少した後荷重は再び上昇し始める。この時の剛体移動量は26mmであった。その後5.0kNへ至るまで(~5.0kN)の間で若干の滑りが確認された。当該滑りとは、試験用剛体d10に対するアンカリング装置1の変位である(以下同じ)。当該滑りを生じながらも負荷する荷重は上昇し続けたが、荷重値6.8kNで値がそれ以上上昇せずにアンカリング装置1が滑り続け、剛体移動量が100mmを超えたため試験を終了した。荷重除去後の剛体移動量は106mmであった。当該剛体移動量とは、試験用剛体d10の長さ方向の変位幅と絶縁部g1の変位幅との差である(以下同じ)。
【0050】
供試体6)では試験荷重1.0~2.5kNにおいて供試体6)の全長が136.20mm-136.05mm=0.15mm変化した。変化率は[0.15mm/136.20mm]×100=0.11%であった。2.5~3.0kNにおいて供試体6)の上記全長に関し136.20mm-135.65mm=0.55mmの変化があった。変化率は[0.55mm/136.20mm]×100=0.40%であった。従って耐荷重値は2.5kN となった。
その後更に荷重を加えると、最大4.6kNで荷重が上昇しなくなり、緩衝材の破壊部32(中央山形部)が破壊された(図8(B)~(D))。試験用剛体d10を引き続き上記引張装置にて引っ張り続けると、破壊部32の上記破壊中は荷重が下降し最小値2.0kNまで減少した後再び荷重が上昇し始める。この時の剛体移動量は29mmであった。その後アンカリング装置1の上記滑りを生じながらも負荷する荷重は上昇し続けるが、荷重値が10kNに達したため試験を終了した。荷重除去後の剛体移動量は115mmであった。
【0051】
(b.破壊荷重試験について)
供試体4)では試験荷重1.0kNから4.5kNまでの間は特に変化は見受けられず、変位測定値も比例的に上昇している。4.5~5.0kNの荷重を加えている途中4.9kNで荷重が上昇しなくなり緩衝材の破壊部32(中央の山形部)が破壊された(図9(B)(C)及び図10(A)~(C))。従って破壊荷重試験の記録値は4.9kNとなる。
試験用剛体d10を引き続き上記引張装置にて引っ張り続けると、緩衝材の破壊中は荷重が下降し最小値2.0kNまで減少した後再び荷重が上昇し始める。この時の剛体移動量は26mmであった。その後アンカリング装置1の滑りを生じながらも荷重は上昇し続けるが、荷重値が9kNに達した時引っ張り代が無くなったため試験を終了した。荷重除去後の剛体移動量は112mm であった。
【0052】
供試体10)では試験荷重1.0kNから4.0kNまでの間は特に変化は見受けられず、偏移測定値も比例的に上昇している。4.0kN~4.5kNの荷重を加えている途中4.4kNで荷重が上昇せず緩衝材の中央山形部が破壊された(図11(A)~(D))。従って破壊荷重試験の記録値は4.4kNとなる。
引き続き上記引張装置にて引っ張り続けると、破壊中は荷重が下降し最小値2.0kNまで減少した後再び荷重が上昇し始める。この時の剛体移動量は27mmであった。その後アンカリング装置1の滑りを生じながらも荷重は上昇し続けるが、荷重値が10kNに達したため試験を終了した。荷重除去後の剛体移動量は120mmであった。
【0053】
上記供試体2)6)4)10)の上記試験結果を表3にまとめる。
【0054】
【表3】
【0055】
供試体2)について2019年3月6日に行った耐荷重試験の試験結果を表4へ示す。
【0056】
【表4】
【0057】
供試体6)について2019年3月7日に行った耐荷重試験の試験結果を表5へ示す。
【0058】
【表5】
【0059】
供試体4)について2019年3月6日に行った破壊荷重試験の試験結果を表6へ示す。
【0060】
【表6】
【0061】
供試体10)について2019年3月7日に行った破壊荷重試験の試験結果を表7へ示す。
【0062】
【表7】
【0063】
各供試体の上記試験において、支持部材gの破壊は認められなかった。
従って電車線dに取り付けたアンカリング装置1に対し掛けた上記負荷の範囲において、アンカリング装置1の破壊部材3は適切に破壊されて、磁器製の一般的な碍子を備える支持部材gの破壊を有効に回避できていることが確認された。
上記の試験結果から、アンカリング装置1の電車線dに対する滑りを考慮しない場合、破壊部材3は、5kN以下の負荷で塑性変形(破壊)を生じるものとするのが最適である。但し、支持部材3の絶縁部g1の強度によって、破壊部材3の破壊を生じる強度の設定は変更可能である。
アンカリング装置1を緩衝材と見て、支持部材g押圧時の電車線dに対する滑り(ボルト24の締め付けによる摩擦抵抗の設定)を考慮すると、少なくとも試験を行うことが可能であった10kN以下の負荷で破壊部材3が塑性変形を生じるものとすることも可能である。
【0064】
(変更例)
図示した実施の形態では、破壊部32を山形としたが、破壊部32を谷形に形成するものとしてもよい。図示は省略するが、上記破壊部材3に対し、当接部34と固定部35の端部を長さ方向vに添うように屈曲した屈曲部を設け、破壊部材3を図示した実施の形態と表裏逆にすることで、山形であった破壊部3を谷形とするのである。上記のように破壊部32を谷形とする場合、把持部3の懐幅hを固定部31が台部d3から離れる分大きく形成し、把持部22内において破壊部材3の固定部31と電車線dの台部d3との間に別途のスペーサを介在させるものとすればよい。
また、破壊部32を上記山形とする場合も谷形とする場合も、破壊部32を複数の山や谷を備えるものとして実施してもよい(図12(G)(H))。更には、破壊部32を上記山形や谷形のような起伏部分とせず、上記w1<w2の関係にて他より破断し易いものとして実施してもよい。また、破壊部32を上記の山形や谷形とする場合も、斜面を平面状とするものに限定するものではなく、逆U字(図12(A))やU字状(図示しない)として実施してもよい。破壊部32の山形を逆U字やU字とする場合も、図12(G)(I)へ示すものと同様、複数の逆U字やU字の部分を備えるものとしてもよい(図12(I))。図12(G)~(I)において破壊部32に関し2つの山形を呈するものを例示したが、3つ以上の山形や谷形を呈するものとしても実施できる。
また、破壊部32を三角形の山形とする場合も、図2(H)へ示す二等辺三角形とする他、直角三角形(図12(B))や、鈍角三角形(図12(C))、鋭角三角形(図示しない)として実施してもよい。尚、図12(B)(C)へ示す夫々の三角形について、左右の斜辺が逆となるようにしてもよい(図示しない)。
更に、破壊部32における、適切な変形を誘導できるものであれば、上記山形は、図示したV字や逆V字、上記U、逆U字以外の形状を採るものであってもよい。例えば破壊部材3の側面視において、上記山形を矩形としてもよいし(図12(D))、上記山形を上記逆U字の上部を上記逆Vとした略五角形状にしてもよい(図12(E))。
また、破壊部32は、直線と曲線を複合した形状としてもよい(図12(F))。更には、破壊部32を複数の山形や谷形で構成する場合も、異なる形状の山や谷にて構成してもよい(図12(J))。
図2及び図12へ示す破壊部材3の各破壊部32の形状は例示であり、適切な破壊が生じる限り、図2及び図12へ示す以外の形状に破壊部32を形成して実施するのを排除するものではない。
【符号の説明】
【0065】
1 アンカリング装置
2 アンカリング本体
3 破壊部材
21 (アンカリング本体2の)アンカリング金具
22 (アンカリング金具21の)把持部
23 (アンカリング金具21の)留め部
24 (留め部23の固着具の)ボルト
25 (留め部23の)貫通孔
26 (留め部23の固着具の)ナット
31 (破壊部材3の)固定部
32 (破壊部材3の)破壊部
32a (破壊部32の)尾根
33 (破壊部材3の)延設部
34 (破壊部材3の)当接部
35 (破壊部材3の)抜止部
d 電車線
d1 トロリ線
d2 剛体架台
d3 (剛体架台d2の)台部
d4 (剛体架台d2の)起立部
d10 試験用剛体
d13(試験用剛体d10の)台部
d14(試験用剛体d10の)起立部
g 支持部材
g1 (支持部材gの)絶縁部
g2 (支持部材gの)ホルダ部
g21(ホルダ部g2の)ベースホルダ
g22(ホルダ部g2の)クランプホルダ
g23(ホルダ部g2の)締結具
g24(ベースホルダg21の)長孔
g25 支持金具
h (把持部22の)懐幅
m 試験装置
m1 (試験装置mの)支持用バー
m2 (試験装置mの)支持用桟
m3 (試験装置mの)取付用桟
m4 (試験装置mの)取付用板材
n テンションメーター
t1 (アンカリング金具21の長手方向xに沿う方向の)幅
t2 (アンカリング金具21において台部d3の幅方向uに沿う方向の)幅
t3 (アンカリング金具21の長手方向x及び幅方向uと直交する方向の)幅
t4 (把持部22の)深さ
u (台部d3の)厚さ方向
v (破壊部材3の)長さ方向
w (破壊部材3の)幅方向
w1 (破壊部32の幅方向wの)幅
w2 (当接部34の幅方向wの)幅
w3 (固定部31及び延設部33夫々の幅方向wの)幅
x (電車線dの)長手方向
y (破壊部32の山形の)高さ
z1 (当接部34の起立方向の)最大幅
z2 (抜止部35の起立方向の)最大幅
θ (破壊部32の呈する山形の両斜面の)挟み角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12