(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】集電体、その極シートと電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 4/64 20060101AFI20221102BHJP
【FI】
H01M4/64 A
(21)【出願番号】P 2019516234
(86)(22)【出願日】2018-12-05
(86)【国際出願番号】 CN2018119285
(87)【国際公開番号】W WO2019109928
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2019-03-25
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-30
(31)【優先権主張番号】201711269253.9
(32)【優先日】2017-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513196256
【氏名又は名称】寧徳時代新能源科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Contemporary Amperex Technology Co., Limited
【住所又は居所原語表記】No.2,Xingang Road,Zhangwan Town,Jiaocheng District,Ningde City,Fujian Province,P.R.China 352100
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梁成都
(72)【発明者】
【氏名】黄華鋒
(72)【発明者】
【氏名】黄起森
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】土屋 知久
【審判官】太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-31224(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107369810(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/64
H01G11/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層と導電層とを備え、
前記絶縁層は、前記導電層を担持し、
前記導電層は、電極活物質層を担持し、且つ前記絶縁層の少なくとも1つの表面に位置し、
前記絶縁層の密度が、前記導電層の密度よりも小さく、
前記絶縁層の厚さをD1とするとき、D1は1μm≦D1≦10μmを満たし、
前記導電層の厚さをD2とするとき、D2は200nm≦D2≦1.5μmを満たし、
前記絶縁層の引張強度は、150MPa以上であり、
前記導電層の電気抵抗率は、8.0×10
-8Ω・m以下であり、
前記導電層は、導電層本体と、前記導電層本体の互いに対向する2つの表面に位置する金属保護層とを備え、
前記導電層本体の前記絶縁層から離れる方向の表面に設けられる保護層の厚さをD3´とし、前記導電層本体の前記絶縁層に向かう方向の表面に設けられる保護層の厚さをD3´´とするとき、
D3´´とD3´との比例関係が、1/2 D3´≦D3´´≦4/5 D3´であることを特徴とする集電体。
【請求項2】
D1は、1μm≦D1≦5μmを満たすことを特徴とする請求項1に記載の集電体。
【請求項3】
D1は、1μm≦D1≦3μmを満たすことを特徴とする請求項2に記載の集電体。
【請求項4】
前記絶縁層の破断伸度が16%~120%であることを特徴とする請求項2または3に記載の集電体。
【請求項5】
前記絶縁層の材料が有機ポリマー絶縁材料であることを特徴とする請求項2から4の何れか一項に記載の集電体。
【請求項6】
前記絶縁層の材料が、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリブチレンテレフタレート、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド、ポリプロピレンエチレン、ポリホルムアルデヒド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、シリコーンゴム、ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2から5の何れか一項に記載の集電体。
【請求項7】
前記絶縁層の200℃での熱収縮率は、1.5%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の集電体。
【請求項8】
D2は、200nm≦D2≦1μmを満たすことを特徴とする請求項1に記載の集電体。
【請求項9】
D2が200nm≦D2≦900nmを満たすことを特徴とする請求項8に記載の集電体。
【請求項10】
前記金属保護層の材料が、ニッケル、クロム、ニッケル基合金、銅基合金から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の集電体。
【請求項11】
前記導電層
本体の材料が、金属導電材料及び炭素系導電材料から選ばれる少なくとも1種であり、前記金属導電材料が、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、銀、ニッケル銅合金、アルミニウム-ジルコニウム合金から選ばれる少なくとも1種であり、前記炭素系導電材料が、グラファイト、アセチレンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項
1または
10に記載の集電体。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれか1項に記載の集電体と、前記集電体の表面に形成される電極活物質層とを備えることを特徴とする極シート。
【請求項13】
正極シートと、セパレータと、負極シートとを備える電気化学デバイスであって、前記正極シート及び/又は前記負極シートが請求項
12に記載の極シートであることを特徴とする電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電池分野に関し、具体的には、集電体、その極シートと電気化学デバイスに関する。
【0002】
(関連出願)
本願は、2017年12月5日に中国へ出願された、出願番号が201711269253.9、出願名称が「集電体、その極シートと電気化学デバイス」の中国特許出願をもとに優先権を要求し、その全内容は、引用として本願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、高エネルギー密度、高出力、長サイクル寿命、低環境汚染などの利点を有するため、電気自動車及び消費類電子製品に広く応用されている。リチウムイオン電池の応用範囲が拡大していくにつれて、リチウムイオン電池の重量エネルギー密度と体積エネルギー密度に対する要求はますます高まっている。
【0004】
質量エネルギー密度と体積エネルギー密度が高いリチウムイオン電池を得るために、一般的に、リチウムイオン電池について、(1)放電比容量が高い正極材又は負極材を選択すること、(2)リチウムイオン電池の機械設計を最適化してその体積を最小化すること、(3)圧密密度が高い正極シート又は負極シートを選択すること、(4)リチウムイオン電池の各部品を軽量化すること、というような改良が行われている。
その中で、集電体に対する改良としては、重量の小さい又は厚さの薄い集電体を選択することが一般的であり、例えば、穴あき集電体又は金属層でメッキされたプラスチック集電体などが用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属層でメッキされたプラスチック集電体については、導電性に優れ、重量が小さく、かつ厚さが薄い集電体を得るには、多方面からの改良が必要である。
本願は、このような事情に鑑みたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の第1態様では、良好な導電性、重量エネルギー密度と機械的強度を兼ね備える集電体が供給されている。当該集電体は絶縁層と導電層を備え、前記絶縁層は、前記導電層を担持し、前記導電層は、電極活物質層を担持し、かつ前記絶縁層の少なくとも1つの表面に位置し、
前記絶縁層の密度は前記導電層の密度よりも小さく、絶縁層の厚さはD1とし、D1が1μm≦D1≦10μmを満たし、前記導電層の厚さはD2とし、D2が200nm≦D2≦1.5μmを満たし、
前記絶縁層の引張強度は150MPa以上であり、
前記導電層の電気抵抗率は8.0×10-8Ω・m以下である。
【0007】
本願の第2態様では、本願の第1態様に係る集電体と当該集電体の表面に形成される電極活物質層を備える極シートが供給されている。
【0008】
本願の第3態様では、正極シート、セパレータと負極シートを備える電気化学デバイスが供給され、正極シート及び/又は負極シートが本願の第2態様に係る極シートである。
【発明の効果】
【0009】
本願の解決手段は、以下の有利な作用効果を少なくとも有する。
本願の集電体では、従来の集電体に対して、重量が小さいため、電池の重量エネルギー密度を効果的に改善することができ、軽量集電体を得ることができる。本願の集電体は、良好な機械的強度と導電性をさらに有するため、当該集電体の良好な機械的安定性、動作安定性と使用寿命を保証し、良好な倍率性能を有することができる。
本願の極シートと電気化学デバイスでは、高い重量エネルギー密度を有するとともに、良好な倍率性能、サイクル性能などの電気化学性能を有し、さらに優れた動作安定性と使用寿命を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本願の具体的な一実施形態に係る正極集電体の構造模式図である。
【
図2】本願の他の具体的な実施形態に係る正極集電体の構造模式図である。
【
図3】本願の具体的な一実施形態に係る負極集電体の構造模式図である。
【
図4】本願の他の具体的な実施形態に係る負極集電体の構造模式図である。
【
図5】本願の他の具体的な実施形態に係る正極集電体の構造模式図である。
【
図6】本願の他の具体的な実施形態に係る正極集電体の構造模式図である。
【
図7】本願の他の具体的な実施形態に係る正極集電体の構造模式図である。
【
図8】本願の他の具体的な実施形態に係る正極集電体の構造模式図である。
【
図9】本願の他の具体的な実施形態に係る正極集電体の構造模式図である。
【
図10】本願の他の具体的な実施形態に係る正極集電体の構造模式図である。
【
図11】本願の他の具体的な実施形態に係る負極集電体の構造模式図である。
【
図12】本願の他の具体的な実施形態に係る負極集電体の構造模式図である
【
図13】本願の他の具体的な実施形態に係る負極集電体の構造模式図である。
【
図14】本願の他の具体的な実施形態に係る負極集電体の構造模式図である。
【
図15】本願の他の具体的な実施形態に係る負極集電体の構造模式図である。
【
図16】本願の他の具体的な実施形態に係る負極集電体の構造模式図である。
【
図17】本願の具体的な一実施形態に係る正極シートの構造模式図である。
【
図18】本願の他の具体的な実施形態に係る正極シートの構造模式図である。
【
図19】本願の具体的な一実施形態に係る負極シートの構造模式図である。
【
図20】本願の他の具体的な実施形態に係る負極シートの構造模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、具体的な実施形態を参照しながら、本願をさらに説明する。これらの実施形態は、本願を説明するためのものであり、本願発明の範囲を制限するものではないと理解されるべきである。
【0012】
本願の実施形態では、絶縁層と導電層を備える集電体が供給され、絶縁層は導電層を担持し,導電層は電極活物質層を担持し、そして導電層は前記絶縁層の少なくとも1つの表面に位置する。
【0013】
具体的には、集電体は、正極集電体又は負極集電体であってもよい。その構造模式図は、
図1~
図4に示す通りである。
【0014】
図1と
図2は、本願の実施形態に係る正極集電体の構造模式図であり、
図1、
図2に示すように、正極集電体10は、正極絶縁層101と正極導電層102を備え、正極活物質をコーティングして正極シートを製造するために用いられる。そのうち、
図1において、正極絶縁層101の互いに対向する2つの表面にはいずれも正極導電層102が設けられているので、当該正極集電体の2つの表面にはいずれも正極活物質が塗布されている。
図2において、正極絶縁層101の1つの表面には正極導電層102が設けられているので、当該正極集電体10は1つの表面のみに正極活物質が塗布されている。
【0015】
図3と
図4は、本願の実施形態に係る負極集電体の構造模式図であり、
図3、
図4に示すように、負極集電体20は、負極絶縁層201と負極導電層202を備え、負極活物質をコーディングして負極シートを製造するために用いられる。そのうち、
図3において、負極絶縁層201の互いに対向する2つの表面にはいずれも負極導電層202が設けられているので、当該負極集電体の2つの表面にはいずれも正極活物質が塗布されている。
図4において、負極絶縁層201の1つの表面には負極導電層202が設けられているので、当該負極集電体20は1つの表面のみに負極活物質が塗布されている。
【0016】
以下に、本願の実施形態に係る集電体の性能を詳細に説明する。
【0017】
本願の実施形態に係る集電体は、絶縁層と導電層から構成され、絶縁層が一般的に有機材料を用い、導電層が一般的に密度の大きい金属又は他の導電材料を用いるため、絶縁層の密度が導電層の密度よりも小さく、即ち、従来の集電体であるアルミニウム箔、銅箔に対して、重量エネルギー密度が向上される。さらに、絶縁層の厚さはD1とし、D1が1μm≦D1≦10μmを満たし、導電層の厚さはD2とし、D2が200nm≦D2≦1.5μmを満たす。この厚さ範囲から見られるように、導電層の厚さと絶縁層の厚さとの比は1:50~1:5であるため、本願の集電体では、密度の小さい絶縁層が殆どの部分を占め、重量エネルギー密度を著しく向上させる。
【0018】
本願の実施形態に係る集電体では、絶縁層は担持作用を発揮し、絶縁層の引張強度は150MPa以上であることにより、集電体の機械的強度をより一層確保することができる。導電層は集電の作用を発揮し、導電層の電気抵抗率は8.0×10-8Ω・m以下である(20℃の条件で)ことにより、集電体の導電性をより一層確保することができる。これによって、重量が軽く、かつ性能が全面的に向上された集電体を得ることができる。
ここで、導電層の電気抵抗率は、接触電気抵抗測定法によって測定することができる。
【0019】
したがって、出願人は、多くの実験の結果、1μm≦D1≦10μm、200nm≦D2≦1.5μmであり、かつ、絶縁層の引張強度が150MPa以上であり、導電層の電気抵抗率が8.0×10-8Ω・m以下である(20℃の条件で)と、当該集電体によるリチウムイオン電池は、分極が少なく、サイクル寿命がよく、重量エネルギー密度が高いことを見出した。
【0020】
本願の実施形態に係る集電体では、絶縁層と導電層との間の結合力はFとし、FがF≧400N/mを満たす。
ただし、結合力Fの測定方法は、以下の通りである。即ち、絶縁層の片面に導電層が設けられた集電体を測定試料として選択し、室温常圧の条件下で3M両面接着剤を用いてステンレス板に均一に貼り付けてから、さらに測定試料を両面テープに均一に貼り付け、幅は2cmとする。高速引張試験機を用いて測定試料における導電層を絶縁層から剥がし、引張力と変位のデータマップに基づいて最大引張力を読み取り、読み取った値(単位N)を0.02で割って計算して、金属層堅牢度、即ち、集電体の絶縁層と導電層との間の結合力F(N/m)が得られた。
【0021】
本願の実施形態に係る集電体における絶縁層と導電層との間の結合力Fでは、F≧400N/mであるため、絶縁層と導電層の間に安定で強固な結合を形成することができ、絶縁層により良好な担持作用を発揮させることができる。この結合力範囲の要件の下で、絶縁層の厚さを最大限に低減することができ、絶縁層の担持効果を実現することもでき、さらに電池の体積エネルギー密度をより一層向上させる。
【0022】
[導電層]
従来の金属集電体に対して、本願の実施形態に係る集電体では、導電層が導電と集電の作用を発揮し、電極活物質層に電子を供給するために用いられる。導電層の厚さはD2とし、D2が200nm≦D2≦1.5μmを満たす。導電層の導電性が悪い、または厚さが小さすぎると、電池の内部抵抗が大きく、分極が大きく、導電層の厚みが大きすぎると、電池の重量エネルギー密度および体積エネルギー密度を改善する効果を奏するには不十分である。
【0023】
本願の実施形態では、導電層の厚さD2の上限は、1.5μm、1.4μm、1.3μm、1.2μm、1.1μm、1μm、900nmであってもよく、導電層の厚さD2の下限は、800nm、700nm、600nm、500nm、450nm、400nm、350nm、300nm、200nmであってもよく、導電層の厚さD2の範囲は上限又は下限の任意の数値で構成することができる。D2は、500nm≦D2≦1.5μmを満たすことが好ましく、500nm≦D2≦1.2μmを満たすことがより好ましい。
【0024】
本願の実施形態では、導電層の電気抵抗率は、8.0×10-8Ω・m以下である(20℃の条件で)ことをさらに満たす。さらに、導電層の電気抵抗率の範囲は、1.6×10-8Ω・m~8.0×10-8Ω・m(20℃の条件で)を満たすことが好ましい。
【0025】
導電層の密度が絶縁層の密度よりも小さいため、導電層の厚さD2が小さいほど、集電体の重量を低減することに有利になり、電池のエネルギー密度を改善することに有利になる。しかしながら、D2が小さすぎると、導電層の導電と集電の効果が悪化し、電池の内部抵抗、分極、サイクル寿命などに影響を与えるおそれがある。よって、導電層の電気抵抗率が8.0×10-8Ω・m以下(20℃の条件で)であり、かつ200nm≦D2≦1μmであるときに、導電層は、集電体の重量を効果的に低減することができ、また、電池に良い倍率性能、充放電性能を持たせることができる。より好ましくは、200nm≦D2≦900nmである。
【0026】
また、導電層の材料は、金属導電材料と炭素系導電材料から選択される少なくとも1種であってもよく、金属導電材料は、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、銀、ニッケル基合金、アルミニウム基合金、銅基合金から選択される少なくとも1種であってもよく、炭素基導電材料は、グラファイト、アセチレンブラック、グラフェン、カーボンナノメートルから選択される少なくとも1種であってもよい。
【0027】
導電層は、機械的ロール圧延、粘着、気相成長法(vapor deposition)、無電解メッキ(Electroless plating)のうちの少なくとも1種によって絶縁層に形成されることが可能であり、気相成長法としては、物理的気相成長法(Physical Vapor Deposition,PVD)が好ましく、物理的気相成長法としては、蒸着法、スパッタ法のうちの少なくとも1種であることが好ましく、蒸着法としては、真空蒸着法(vacuum evaporating)、熱蒸着法(Thermal Evaporation Deposition)、電子ビーム蒸着法(electron beam evaporation method,EBEM)のうちの少なくとも1種が好ましく、スパッタ法としては、マグネトロンスパッタ法(Magnetron sputtering)が好ましい。
【0028】
[絶縁層]
本願の実施形態に係る集電体では、導電層は、導電と集電の作用を発揮し、電極活物質層に電子を供給するために用いられ、絶縁層は、導電層を担持と保護する作用を発揮する。絶縁層の厚さはD1とし、D1が1μm≦D1≦10μmを満たす。絶縁層の厚さを低減することによって、電池の重量エネルギー密度を改善することができるが、絶縁層の厚さが小さすぎると、絶縁層が極シートの加工プロセスなどの過程で破断が非常に発生しやすくなる。
【0029】
ここで、絶縁層の厚さD1の上限は10μm、9μm、8μm、7μm、6μmであってもよく、絶縁層の厚さD1の下限は1μm、1.5μm、2μm、3μm、4μm、5μmであってもよい。絶縁層の厚さD1の範囲は、上限又は下限の任意の数値で構成することができる。
【0030】
本願の実施形態では、集電体の良好な機械的安定性、動作安定性と使用寿命を保証するために集電体の機械的強度をさらに確保するには、絶縁層の引張強度は、150MPa以上であり、より好ましくは、絶縁層の引張強度の範囲は、150MPa~400MPaであってもよい。
【0031】
引張強度の測定方法は、GB/T 1040.3-2006に従って行われる。
【0032】
更に好ましくは、絶縁層は、高い引張強度を有することに加え、良好な靭性を有し、その破断伸度が16%~120%である。
【0033】
破断伸度の測定方法は、以下のようになる。絶縁層の試料をピックアップして15mm×200mmに裁断し、高速引張試験機により引張試験を行う。初期位置を設定し、治具間の試料の長さを50mmとし、50mm/minの速度で引張して、引張破断時の機器の変位y(mm)を記録し、最後に破断伸度を(y/50)×100%として算出する。
【0034】
これによってわかるように、絶縁層の引張強度と破断伸度が上記条件を満たした上で、絶縁層の担持作用を発揮する前提で、集電体の全体強度をさらに向上し、絶縁層の厚さを低減することができる。
【0035】
絶縁層が導電層を担持するのに十分な作用を発揮する場合、絶縁層の厚さD1が小さいほどよい。しかしながら、絶縁層の厚さが小さいほど、絶縁層の機械的強度が不十分であることによって、加工中または電池使用中に集電体を破断させることが引き起こされる。従って、絶縁層の引張強度が150MPa以上である場合、好ましくは、1μm≦D1≦5μmである。このような絶縁層によれば、集電体の重量と体積を効果的に低減させ、集電体の体積エネルギー密度を格段に向上させることができ、また、集電体に良好な機械的強度を持たせることができる。より好ましくは、1μm≦D1≦3μmである。
【0036】
本願の実施形態に係る絶縁層の材料は、有機ポリマー絶縁材料であり、有機ポリマー絶縁材料は、ポリアミド(Polyamide、PAと略称する)、ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene terephthalate、PETと略称する)、ポリイミド(Polyimide、PIと略称する)、ポリエチレン(Polyethylene、PEと略称する)、ポリプロピレン(Polypropylene、PPと略称する)、ポリスチレン(Polystyrene、PSと略称する)、ポリ塩化ビニル(Polyvinyl chloride、PVCと略称する)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(Acrylonitrile butadiene styrene copolymers、ABSと略称する)、ポリブチレンテレフタレート(Polybutylene terephthalat、PBTと略称する)、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド(Poly-p-phenylene terephthamide、PPAと略称する)、エポキシ樹脂(epoxy resin)、ポリプロピレンエチレン(PPEと略称する)、ポリホルムアルデヒド(Polyformaldehyde、POMと略称する)、フェノール樹脂(Phenol-formaldehyde resin)、ポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoroethylene、PTFEと略称する)、シリコーンゴム(Silicone rubber)、ポリビニリデンフルオライド(Polyvinylidenefluoride、PVDFと略称する)、ポリカーボネート(Polycarbonate、PCと略称する)から選ばれる少なくとも1種である。
【0037】
さらに、本願の実施形態に係る絶縁層は、200℃での熱収縮率が1.5%以下である。この集電体が極シートの加工プロセスで乾燥や圧密などの工程を経過する必要があるため、絶縁層の引張強度が150MPa以上であり、かつ200℃での熱収縮率が1.5%以下であるとき、絶縁層の厚さを大幅に低減することができ、ひいては絶縁層の厚さを約1μmまで低減することができる。
【0038】
[保護層]
本願の実施形態では、導電層の厚さが小さいと、化学的腐食または機械的損傷を受けやすい。よって、導電層は、導電層本体と導電層本体の少なくとも1つの表面にある保護層を備え、この集電体の動作安定性と使用寿命を大きく改善することができる。また、保護層は、集電体の機械的強度をさらに高めることができる。
【0039】
本願の実施形態に係る保護層は、金属保護層、金属酸化物保護層又は導電性カーボン保護層から選ばれるものであってもよい。金属は、ニッケル、クロム、ニッケルクロム合金、銅基合金(例えば、ニッケル銅合金)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。金属酸化物は、酸化アルミニウム、酸化コバルト、酸化クロム、酸化ニッケルから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。導電性カーボンは、導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0040】
ここで、ニッケルクロム合金は、金属ニッケルと金属クロムとから形成される合金である。好ましくは、ニッケル元素とクロム元素とのモル比が1:99~99:1である。銅基合金は、純銅を基体として1種または複数種の他の元素を添加して構成される合金であり、ニッケル銅合金が好ましい。好ましくは、ニッケル銅合金において、ニッケル元素と銅元素との質量比が1:99~99:1である。
【0041】
さらに好ましくは、導電層本体の表面に金属保護層が設けられる。金属材質の導電性が金属酸化物又は導電性カーボンの導電性よりも優れるからである。さらに、金属材質は、金属ニッケルまたはニッケル基合金から選択することができ、金属ニッケルまたはニッケル基合金は、耐食性が良く、且つ硬度が高く、導電性が良いからである。
【0042】
さらに、本願の実施形態に係る集電体の保護層の厚さがD3とし、D3がD3≦1/10 D2を満たし、且つ1nm≦D3≦200nmを満たす。保護層の厚さD3の上限は、200nm、180nm、150nm、120nm、100nm、80nm、60nm、55nm、50nm、45nm、40nm、30nm、20nmであってもよく、保護層の厚さD3の下限は、1nm、2nm、5nm、8nm、10nm、12nm、15nm、18nmであってもよい。保護層の厚さD3の範囲は、上限又は上限の任意の数値で構成することができる。保護層が薄すぎると、導電層本体を保護する作用を発揮するのに不十分であり、保護層が厚すぎると、電池の重量エネルギー密度と体積エネルギー密度が低下する。好ましくは、5nm≦D3≦200nmであり、より好ましくは、10nm≦D3≦200nmである。
【0043】
図5~
図16は、本願の実施形態に係る保護層が設けられた集電体の構造模式図である。正極集電体の模式図は、
図5~
図10に示。
【0044】
図5では、正極集電体10は、正極絶縁層101と、正極絶縁層101の互いに対向する2つの表面に設けられる正極導電層102とを備え、正極導電層102は、正極導電層本体1021と、正極導電層本体の上表面(即ち、正極絶縁層101から離れる方向における表面)に設けられる正極保護層1022とを備える。
【0045】
図6では、正極集電体10は、正極絶縁層101と、正極絶縁層101の互いに対向する2つの表面に設けられる正極導電層102とを備え、正極導電層102は、正極導電層本体1021と、正極導電層本体1021の下表面(即ち、正極絶縁層101に向かう表面)に設けられる正極保護層1022とを備える。
【0046】
図7では、正極集電体10は、正極絶縁層101と、正極絶縁層101の互いに対向する2つの表面に設けられる正極導電層102とを備え、正極導電層102は、正極導電層本体1021と、正極導電層本体1021の互いに対向する2つの表面に正極保護層1022とを備える。
【0047】
図8では、正極集電体10は、正極絶縁層101と、正極絶縁層101の1つの表面に正極導電層102とを備え、正極導電層102は、正極導電層本体1021と、正極導電層本体1021の上表面(正極絶縁層101から離れる方向における表面)に設けられる正極保護層1022とを備える。
【0048】
図9では、正極集電体10は、正極絶縁層101と、正極絶縁層101の1つの表面に設けられる102とを備え、正極導電層102は、正極導電層本体1021と、正極導電層本体1021の下表面(正極絶縁層101に向かう方向における表面)に設けられる1022とを備える。
【0049】
図10では、正極集電体10は、正極絶縁層101と、正極絶縁層の1つの表面に設けられる正極導電層102とを備え、正極導電層102は、正極導電層本体1021と、正極導電層1021の互いに対向する2つの表面に設けられる正極保護層1022とを備える。
【0050】
【0051】
図11では、負極集電体20は、負極絶縁層201と、負極絶縁層201の互いに対向する2つの表面に設けられる負極導電層202とを備え、負極導電層202は、負極導電層本体2021と、負極導電層本体2021の上表面(即ち、負極絶縁層201から離れる方向における表面)に設けられる負極保護層2022とを備える。
【0052】
図12では、負極集電体20は、負極絶縁層201と、負極絶縁層201の互いに対向する2つの表面に設けられる負極導電層202とを備え、負極導電層202は、負極導電層本体2021と、負極導電層本体2021の下表面(即ち、負極絶縁層201から離れる方向における表面)に設けられる負極保護層2022とを備える。
【0053】
図13では、負極集電体20は、負極絶縁層201と、負極絶縁層201の互いに対向する表面に設けられる負極導電層202とを備え、負極導電層202は、負極導電層本体2021と、負極導電層本体2021の互いに対向する2つの表面に設けられる負極保護層2022とを備える。
【0054】
図14では、負極集電体20は、負極絶縁層201と、負極絶縁層201の1つの表面に設けられる負極導電層202とを備え、負極導電層202は、負極導電層本体2021と、負極導電層本体2021の上表面(負極絶縁層201から離れる方向における表面)に設けられる負極保護層2022とを備える。
【0055】
図15では、負極集電体20は、負極絶縁層201と、負極絶縁層201の1つの表面に設けられる負極導電層202とを備え、負極導電層202は、負極導電層本体2021と、負極導電層本体2021の下表面(即ち、負極絶縁層201に向かう方向における表面)に設けられる負極保護層2022とを備える。
【0056】
図16では、負極集電体20は、負極絶縁層201と、負極絶縁層201の1つの表面に設けられる負極導電層202とを備え、負極導電層202は、負極導電層本体2021と、負極導電層本体2021の互いに対向する2つの表面に設けられる負極保護層2022とを備える。
【0057】
保護層は、導電層本体の互いに対向する2つの表面に位置することが好ましく、これによって、この集電体の動作安定性と使用寿命を最大限に改善させ、電池の容量保持率、サイクル寿命などの性能を改善させる。
【0058】
導電層本体の互いに対向する2つの表面に位置する保護層は、材料が同じであってもよく、異なってもよく、厚さが同じであってもよく、異なってもよい。
【0059】
さらに、本願の実施形態に係る集電体の導電層本体の互いに対向する2つの表面には、いずれも金属保護層が設けられている。
【0060】
導電層の絶縁層から離れる方向にける表面に設けられる保護層は、上保護層と呼ばれ、上保護層の厚さは、D3´とする。上保護層は、導電層本体を腐食、損傷等から保護することができるとともに、導電層本体と電極活物質層との間の界面を改善することができる。金属材料の導電性が高く、防腐能力が強いため、金属上保護層が好ましい。金属上保護層は、導電層本体と電極活物質層との間の導電性を改善し、極シートの分極を低減することができる。
【0061】
導電層の絶縁層に向かう方向における表面に設けられる保護層は、下保護層と呼ばれ、下保護層の厚さは、D3´´とする。下保護層は、完全な担持構造を構成して導電層本体を保護することができ、導電層本体に対して保護作用がより良く形成し、導電層が酸化、腐食又は破壊されることを防止する。金属材料の導電性が高く、防腐能力が強いため、金属下保護層が好ましい。
【0062】
さらに、オプションとして、上保護層の厚さD3´は、下保護層の厚さD3´´よりも大きい。下保護層の厚さを増加することは、電池性能の改善に対する作用が限られたものであり、むしろ電池の重量エネルギー密度に影響を与える。
【0063】
さらに、オプションとして、同時に上保護層及び下保護層が設けられている場合に、下保護層の厚さD3´´と上保護層の厚さD3´との比例関係は、1/2 D3´≦D3´´≦4/5 D3´である。この比例条件では、上保護層と下保護層の作用をより良好に発揮させることができる。
【0064】
保護層は、気相成長法、インサイチュ形成法、塗布法などにより導電層本体に形成されてもよい。気相成長法としては、物理的気相成長法(Physical Vapor Deposition,PVD)が好ましい。物理的気相成長法としては、蒸着法、スパッタ法のうちの少なくとも1種が好ましい。蒸着法としては、真空蒸着法(vacuum evaporating)、熱蒸着法(Thermal Evaporation Deposition)、電子ビーム蒸着法(electron beam evaporation method,EBEM)のうちの少なくとも1種が好ましい。スパッタ法としては、マグネトロンスパッタ法(Magnetron sputtering)が好ましい。インサイチュウ形成法としては、インサイチュウパッシベーション法、即ち、金属の表面に金属酸化物のパッシベーション層をインサイチュウ形成する方法が好ましい。塗布法としては、ロールプレス塗布、エクストルージョン塗布、ブレード塗布、グラビア塗布などのうちの1種が好ましい。
【0065】
本願の実施形態の第2態様では、本願の実施形態の第1態様に係る集電体と、集電体の表面に形成される電極活物質層とを備える極シートが提供される。
【0066】
図17と
図18は、本願の実施形態に係る正極シートの構造模式図であり、
図17と
図18に示すように、正極シート1は、本願の正極集電体10と、正極集電体10の表面に形成される正極活物質層11とを備え、正極集電体10は、正極絶縁層101と正極導電層102とを備える。
【0067】
図19と
図20は、本願の実施形態に係る負極シートの構造模式図であり、
図19と
図20に示すように、負極シート2は、本願の負極集電体20と、負極集電体20の表面に形成される負極活物質層21とを備え、負極集電体20は、負極絶縁層201と負極導電層202とを備える。
【0068】
ここで、絶縁層の両面に導電層が設けられた場合、集電体の両面に活性物質が塗布されて製造された正極シートと負極シートは、それぞれ
図17と
図19に示すように、電池に直接適用することが可能である。絶縁層の片面に導電層が設けられた場合、集電体の片面に活性物質が塗布されて製造された正極シートと負極シートは、それぞれ
図18と
図20に示すように、折り畳んで電池に適用することが可能である。
【0069】
本願の実施形態では、正極シート、セパレータと負極シートを備える電気化学デバイスがさらに提供される。
【0070】
ここで、正極シート及び/又は負極シートは、上記本願の実施形態に係る極シートである。本願の電池は、巻き取り式であってもよく、または、積層式であってもよい。本願の電気化学デバイスは、リチウムイオン二次電池、リチウム一次電池、ナトリウムイオン電池、マグネシウムイオン電池のうちの1種であってもよいが、これに限定されない。
【実施例】
【0071】
1.集電体の製造
一定の厚さを有する絶縁層を選択し、その表面に、真空蒸着、機械的ロール圧延又は粘着の手段で一定の厚さを有する導電層を形成した。
【0072】
ここで、
(1)真空蒸着の形成条件は、以下のようになる。表面洗浄処理された絶縁層を真空蒸着チャンバ内に配置し、1600℃~2000℃という高温で蒸着チャンバ内における高純度の金属ワイヤを溶融し蒸発させ、蒸発後の金属が真空蒸着チャンバ内の冷却システムを通過し、最後に絶縁層の表面に堆積して、導電層が形成された。上記結合力の測定方法で測定した結果、絶縁層と導電層との間の結合力Fは、230N/mである。
【0073】
(2)機械的ロール圧延の形成条件は、以下のようになる。導電層材料の箔片を機械ローラに配置し、20t~40tの圧力を付与することにより、それを所定の厚さに転圧し、そして、それを表面洗浄処理された絶縁層の表面に配置し、最後に両方を機械ローラに配置し、30t~50tの圧力を付与することにより両方を密着させる。上記結合力の測定方法で測定した結果、絶縁層と導電層との間の結合力Fは、160N/mである。
【0074】
(3)粘着の形成条件は、以下のようになる。導電層材料の箔片を機械ローラに配置し、20t~40tの圧力を付与することにより、それを所定の厚さに転圧し、そして、表面洗浄処理された絶縁層の表面にPVDFとNMPの混合溶液を塗布し、最後に上記所定の厚さの導電層を絶縁層の表面に粘着して、100℃で乾燥させた。上記結合力の測定方法で測定した結果、絶縁層と導電層との間の結合力Fは、180N/mである。
【0075】
正極集電体の導電層の材料に金属アルミニウムが用いられ、負極集電体の導電層の材料に金属銅が用いられる。金属アルミニウム又は金属銅が用いられる場合、導電層の電気抵抗率が8.0×10-8Ω・m以下である(20℃の条件で)。
【0076】
本発明の実施例の絶縁層に、引張強度が150MPa以上であり、破断伸度が16%~120%であり、且つ200℃での熱収縮率が1.5%以下である材料が用いられ、具体的には、上記要求を満たす市販のPET、PI材料が用いられることが可能である。
【0077】
本発明の実施例と比較例の集電体の構成及び厚さは、表1に示す通りである。そのうち、通常の正極集電体は、12μmのアルミニウム箔であり、通常の負極集電体は、8μmの銅箔である。表1において、正極集電体では、集電体の重量百分率とは、単位面積あたりの正極集電体の重量を単位面積あたりの通常の正極集電体の重量で除した百分率を指し、負極集電体では、集電体の重量百分率とは、単位面積あたりの負極集電体の重量を単位面積あたりの通常の負極集電体の重量で除した百分率を指す。
【0078】
2.保護層を有する集電体の製造
保護層を有する集電体は、以下のいくつかの方式で製造される。
【0079】
(1)まず、気相成長法又は塗布法により絶縁層の表面に保護層を設け,そして、真空蒸着、機械的ロール圧延又は粘着の方式によって、上記保護層を有する絶縁層の表面に一定の厚さを有する導電層本体を形成して、保護層を有する集電体(保護層が絶縁層と導電層本体の間に位置する)を製造した。また、これに加えて、さらに導電層本体の絶縁層から離れる方向の表面に、気相成長法、インサイチュウ形成法又は塗布法によってもう1層の保護層を形成して、保護層を有する集電体(保護層が導電層本体の互いに対向する2つの表面に位置する)を製造した。
【0080】
(2)まず、気相成長法、インサイチュウ形成法又は塗布法により導電層本体の1つの表面に保護層を形成し、そして、機械的ロール圧延又は粘着の方式によって、上記保護層を有する導電層本体を絶縁層の表面に設け、且つ保護層が絶縁層と導電層本体の間に設けられることにより、保護層を有する集電体(保護層が絶縁層と導電層本体の間に位置する)を製造した。また、これに加えて、さらに導電層本体の絶縁層から離れる方向の表面に気相成長法、インサイチュウ形成法又は塗布法によってもう1層の保護層を形成して、保護層を有する集電体(保護層が導電層本体の互いに対向する2つの表面に位置する)を製造した。
【0081】
(3)まず、気相成長法、インサイチュウ形成法又は塗布法により導電層本体の1つの表面に保護層を形成し、そして、機械的ロール圧延又は粘着の方式によって、上記保護層を有する導電層本体を絶縁層の表面に設け、且つ保護層が導電層本体の絶縁層から離れる表面に設けられることによって、保護層を有する集電体(保護層が導電層本体の絶縁層から離れる表面に位置する)を製造した。
【0082】
(4)まず、気相成長法、インサイチュウ形成法又は塗布法により導電層本体の2つの表面に保護層を形成し、そして、機械的ロール圧延又は粘着の方式によって、上記保護層を有する導電層本体を絶縁層の表面に設けて、保護層を有する集電体(保護層が導電層本体の互いに対向する2つの表面に位置する)を製造した。
【0083】
(5)上記実施例1の「集電体の製造」に加えて、さらに導電層本体の絶縁層から離れる方向の表面に気相成長法、インサイチュウ形成法又は塗布法によりもう1層の保護層を形成して、保護層を有する集電体(保護層が導電層本体の絶縁層から離れる表面に位置する)を製造した。
【0084】
製造の実施例では、気相成長法として、真空蒸着法が用いられ、インサイチュウ形成法として、インサイチュウパッシベーション方式が用いられ、塗布法として、ブレード塗布方式が用いられる。
【0085】
真空蒸着方式の形成条件は、以下のようになる。表面洗浄処理された試料を真空蒸着チャンバ内に設置し、1600℃~2000℃という高温で蒸着チャンバ内における保護層材料を溶融し蒸発させ、蒸発後の保護層材料が真空蒸着チャンバ内の冷却システムを通過し、最後に試料の表面に堆積して、保護層を形成した。
【0086】
インサイチュウパッシベーション法の形成条件は、以下のようになる。導電層を高温酸化環境に配置し、温度を160℃~250℃に制御するとともに、高温環境で酸素の供給を維持し、理時間を30minとすることによって、金属酸化物系の保護層を形成した。
【0087】
グラビア塗布方式の形成条件は、以下のようになる。保護層材料とNMPを攪拌・混合し、そして試料の表面に上記保護層材料のスラリー(固形分が20%~75%)を塗布し、次にグラビアローラで塗布の厚さを制御し、最後に100℃~130℃で乾燥させた。
【0088】
製造された保護層を有する集電体の具体的なパラメータは、表2に示す通りである。
【0089】
3.極シートの製造
通常の電池塗布プロセスにより正極集電体の表面に正極活物質(NCM)スラリーを塗布し、100℃で乾燥させた後、同じ圧密密度(圧密密度:3.4g/cm3)の正極シートを得た。正極活物質層の厚さは、55μmである。
【0090】
通常の電池塗布プロセスにより負極集電体の表面に負極活物質(グラファイト)のスラリーを塗布し、100℃で乾燥させた後、同じ圧密密度(圧密密度:1.6g/cm3)の負極シートを得た。負極活物質層の厚さは、70μmである。
【0091】
通常の正極シートについて、集電体は厚さ12μmのAl箔片であり、正極活物質層は一定の厚さを有する三元(NCM)材料層である。
【0092】
通常の負極シートについて、集電体は厚さ8μmのCu箔片であり、負極活物質層は一定の厚さを有するグラファイト材料層である。
【0093】
本発明の実施例と比較例の極シートの具体的なパラメーターは、表1及び表2に示す通りである。
【0094】
4.電池の製造
通常の電池製造プロセスにより、正極シート、PP/PE/PPセパレータと負極シートを一緒にベアセルに巻き取り、次いで電池ケースに入れて、電解液(EC:EMC体積比が3:7であり、LiPF6が1mol/Lである)を注入した後、密封や化成などの工程を行い、最終的にリチウムイオン二次電池(以下、単に電池と称する)を得た。
【0095】
本発明の実施例で製造された電池及び比較例の電池の詳細構成は、表3に示す通りである。
【0096】
【0097】
【表2】
ただし、「/」は、保護層無しを表し、ニッケル基合金は、ニッケルとクロムとが質量比9:1で形成された合金である。
【0098】
【0099】
[実験例]
1.サイクル性能実験
リチウムイオン電池に対してサイクル寿命テストを行い、具体的なテスト方法は、以下のようになる。
【0100】
リチウムイオン電池を25℃と45℃との2種類の温度でそれぞれ充放電し、即ち、1Cの電流で4.2Vまで充電してから、1Cの電流で2.8Vまで放電して、1サイクル目の放電容量を記録した。その後、電池を1000サイクルだけ1C/1Cの充放電を繰り返して、1000サイクル目の電池の放電容量を記録し、1000サイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で除し、1000サイクル目の容量保持率を得た。
【0101】
実験結果は、表4に示す通りである。
【0102】
2.倍率実験
【0103】
リチウムイオン電池に対して倍率テストを行い、具体的なテスト方法は、以下のようになる。
【0104】
リチウムイオン電池を25℃で大きなレートで充放電させ、即ち、1Cの電流で4.2Vまで充電してから、4Cの電流で2.8Vまで放電して、1サイクル目の放電容量を記録し、この放電容量を25℃で1C/1C充放電での1サイクル目の放電容量で除し、電池の4C倍率性能を得た。
【0105】
【0106】
表1、表2からわかるように、本発明が適用される正極集電体及び負極集電体は、重量が大幅に低減される。集電体の引張強度及び破断伸度が使用要求を満たす前提で、正極集電体の重量百分率は、通常の正極集電体の30%以下であり、負極集電体の重量百分率は、通常の負極集電体の50%以下である。負極シートの重量百分率を比較してわかるように、導電層の厚さが1.5μmよりも大きくなった以降、集電体に対する軽量化の効果が限りのあるものであるとともに、集電体全体の厚さを効果的に低減することもできない。負極集電体3#と負極集電体4#の厚さが低減されていないが、その重量も顕著に低減されている。負極集電体1#、負極集電体2#と負極集電体5#の厚さと重量の両方は低減されるため、電池の体積エネルギー密度と重量エネルギー密度を同時に向上することができる。
【0107】
表4の結果から見れば、通常の正極シートと通常の負極シートが用いられる電池1#に比べ、本発明の実施形態に係る集電体が用いられる電池のサイクル寿命が良好であり、通常の電池のサイクル性能と同等である。これは、本発明の実施形態に係る集電体が、製造された極シートと電池に悪影響を与えないことを示している。特に保護層を有する集電体により製造された電池は、容量保持率がさらに向上、電池の信頼性がさらに良好になる。
【0108】
本発明は、好適な実施形態により以上のように開示されているが、特許請求の範囲を限定するためではない。当業者が本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形や変更を実施可能であるため、本発明の保護範囲は、本発明の請求の範囲により規定される範囲に準ずるべきである。
【符号の説明】
【0109】
1…正極シート
10…正極集電体
101…正極絶縁層
102…正極導電層
1021…正極導電層本体
1022…正極保護層
11…正極活物質層
2…負極シート
20…負極集電体
201…負極絶縁層
202…負極導電層
2021…負極導電層本体
2022…負極保護層
21…負極活物質層。