(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】卵巣癌を評価するための新規バイオマーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20221102BHJP
G01N 33/92 20060101ALI20221102BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20221102BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20221102BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/92 Z
G01N30/88 G
G01N30/88 H
G01N30/88 F
G01N30/88 C
G01N27/62 V
(21)【出願番号】P 2019538601
(86)(22)【出願日】2018-01-18
(86)【国際出願番号】 EP2018051254
(87)【国際公開番号】W WO2018134329
(87)【国際公開日】2018-07-26
【審査請求日】2020-07-02
(32)【優先日】2017-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508003712
【氏名又は名称】バイオクラテス ライフ サイエンシズ アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】ウド ミュラー
(72)【発明者】
【氏名】ジーモン シャッファラー
(72)【発明者】
【氏名】バルバラ ブルビンケル
【審査官】白形 優依
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101832977(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0004854(US,A1)
【文献】国際公開第2009/154296(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0143444(US,A1)
【文献】特表2008-547031(JP,A)
【文献】国際公開第2007/003344(WO,A2)
【文献】特表2005-509870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵巣癌を評価するための代謝バイオマーカーセットであって、少なくとも以下:
i.)アラニン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファン、グルタメートの群から選択される1つのアミノ酸、及び
ii.)lyso PC a C18:1、lyso PC a C18:2、及びPC aa C32:2の群から選択される1つのリン脂質、及び
iii.)アシルカルニチンC18:1、アシルカルニチンC18:2の群から選択される1つのアシルカルニチン
を含む代謝バイオマーカーセット。
【請求項2】
iv.)スフィンゴ脂質AM(OH)C24:1を更に含む、請求項1に記載の代謝バイオマーカーセット。
【請求項3】
少なくとも1つのさらなるバイオマーカーが、表
1a~表1eの全てから選択される、請求項1又は2に記載の代謝バイオマーカーセット。
【請求項4】
前記評価が、(a)診断及び/もしくはリスク分類のため、(b)予後診断のため、(c)卵巣癌を有する患者と健常人との識別診断のため、又は(d)早期発見のためのものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の代謝バイオマーカーセット。
【請求項5】
卵巣癌を評価するための請求項1~4のいずれか1項に記載の代謝バイオマーカーセットの使用。
【請求項6】
卵巣癌を評価するための方法であって、試験されるべき患者から入手したサンプル中の少なくとも以下:
i.)アラニン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファン、グルタメートの群から選択される1つのアミノ酸、及び
ii.)lyso PC a C18:1、lyso PC a C18:2、及びPC aa C32:2の群から選択される1つのリン脂質、及び
iii.)アシルカルニチンC18:1及びアシルカルニチンC18:2の群から選択される1つのアシルカルニチンの量
が決定され、
ここで、i.)~iii.)の少なくとも2つのバイオマーカーの少なくとも1つの比が決定されることを特徴とする、方法。
【請求項7】
iv.)スフィンゴ脂質AM(OH)C24:1をさらに含み、i.)~iv.)の少なくとも2つのバイオマーカーの少なくとも1つの比が決定される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
サンプル中のC18:2/lysoPC a C18:2、C18:2/SM (OH) C24:1、Glu/Ala、Glu/PC aa C32:2の群から選択される少なくとも2つのバイオマーカーの少なくとも1つの比を決定することをさらに含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
アルギニン及びトリプトファンが選択され、C18:2/lysoPC a C18:2の比が決定される、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項10】
前記患者が、症候性及び/又は無症候性の患者である、請求項6~9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記評価が、診断又は予後診断である、請求項6~9の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記評価が、(a)診断及び/もしくはリスク分類のため、(b)予後診断のため、(c)卵巣癌を有する患者と健常人との識別診断のため、(d)早期発見のため、又は(e)臨床的決定を行うためのものである、請求項6~9の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記決定が、クロマトグラフィー、分光法、及び質量分析法から選択される定量分析法に基づく、請求項6~9の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
クロマトグラフィーが、GC、LC、HPLC、又はUPLCを含み; 分光法が、UV/Vis、IR、又はNMRを含み; 質量分析法が、ESI-QqQ、ESI-QqTOF、MALDI-QqQ、MALDI-QqTOF、又はMALDI-TOF-TOFを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
サンプル中のバイオマーカーを定量するための少なくとも1つの内部標準を含侵させた1つ以上のウェル及び1つ以上のインサートを有する装置を含む、請求項6~14の何れか1項に記載の方法を実行するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に疾患の早期において、より高感度で卵巣癌を評価するための新規バイオマーカーに関する。加えて、本発明は、試験される患者からの卵巣癌を評価するための方法、及びその方法を実行するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
メタボロミクスは、中間代謝経路の全範囲を表す主要な代謝産物を体系的に網羅する低分子量化合物の包括的な定量方法である。システム生物学アプローチでは、それは遺伝学的ブループリント、規制、タンパク質の量及び修飾、及び環境の影響によって決定された変化の機械的に読み出された情報を提供する。大量の代謝産物を分析する能力は、明白な生物学的事象の実際の機能的エンドポイントを反映する生化学的情報を抽出する一方で、トランスクリプトミクス及びプロテオミクス等の他の機能的ゲノミクス技術は、非常に価値があるが、単に表現型の応答の潜在的な原因を示すにすぎない。従って、機能的検証が加えられない限り、それらは必ずしも表現型レベルで薬物効果、毒性学的反応又は病状を予測することが出来ない。
【0003】
メタボロミクスは、生物学的流体及び組織における代謝産物の違いが様々な表現型の応答への最も近いリンクを提供するため、特にそのような機能的情報を示すことによってこの情報ギャップを埋める。言うまでもなく、生化学的表現型のそのような変化は、適切な技術によって費用効果の高いマイニング(mining)及びこの情報の統合が可能になれば、製薬、バイオテクノロジー及び健康産業に直接影響を与える。
【0004】
一般に、表現型は必ずしも遺伝子型によって予測されるわけではない。遺伝子型と表現型との間のギャップは、薬物、栄養及び環境要因を含む様々な影響に対するそれぞれの依存性を伴う、多くの生化学反応にまたがる。遺伝子から表現型までのこの一連の生体分子において、代謝産物は、表現型に最も近いリンクを有する定量可能な分子である。薬物に対する毒性反応又は疾患の有病率等の多くの表現型及び遺伝子の状態は、体液及び組織内の機能的に関連する代謝産物の濃度の違いによって予測される。
【0005】
卵巣癌(OC)は、過去10年間で世界的に発生率と罹患率が増加していることを示し、全ての婦人科疾患の中で2番目に一般的でありかつ、最も致命的である。ヨーロッパにおいて、2000年~2007年の間に診断された女性の平均5年生存率は、わずか35%であった。米国において、毎年20,000を超える新たな卵巣癌の症例が予想され、14,000を超える人が死亡している(Siegel et al.2015)。補助化学療法及び原料手術を含む積極的な併用治療方法を受けているにも関わらず、5年生存率は、進行性卵巣癌のステージIII又はIVと診断された女性で25%未満である(Shapira et al. 2014; Berkenblit und Cannistra 2005; Vaughan et al. 2011)。従って、擬陽性の結果を回避するために、女性に疾患及び特異性を正しく特定するために高感度で卵巣癌を検出することが出来る有効な方法による信頼できる診断が不可欠だろう。
【0006】
現在適用されている卵巣癌のスクリーニングツールは、主に経腟超音波検査、骨盤検査又はタンパク質バイオマーカー等の画像診断法に基づく。CA-125(癌抗原125)及びHE4(ヒト精巣上体分泌タンパク質4)は、米国食品医薬品局(FDA)によって承認されている、卵巣癌モニタリング用の2つのみのタンパク質マーカーである。CA-125の血中濃度の上昇は、疾患の再発の指標として用いられ得る(Suh et al. 2010)。しかしながら、可溶性CA-125レベルの上昇は、乳癌、リンパ腫、子宮内膜症、胃癌等の他の様々な悪性腫瘍にも見られる(Norum et al. 2001; Yamamoto et al. 2007; Bairey et al. 2003; Kitawaki et al. 2005)。従って、その限定された特異性及び感受性のために、CA-125単独では、卵巣癌に対する理想的なバイオマーカーとしては役立ち得ない。特に、経腟超音波検査法と合わせたCA-125は、早期卵巣癌の女性の約30%しか検出できない(Roupa et al. 2004)。以前の研究では、血清サンプル中のCA-125レベルとHE4レベルの組み合わせが、卵巣癌の同定において感度と特異性が向上した方法を生み出す可能性があることが示された。さらに、CA-125及びHE4の両方を更年期障害の女性の状態と統合し最近開発された悪性リスクのアルゴリズム(Risk of Malignancy Algorithm)(ROMA)が、良性の骨盤内腫瘤を区別するためにFDAによって承認されている(Moore et al. 2011; Wei et al. 2016)。
【0007】
しかしながら、最も一般的に使用される単一血清マーカーCA-125及びHE4の精度は、議論の余地があるか又は不十分であり、卵巣癌のための確実な診断及びスクリーニングのための代謝産物等の非タンパク質に基づくバイオマーカーが、将来的に必要とされている。
【0008】
卵巣癌は、早期段階で治療可能であり、予防可能であると考えられているため、早期発見によって患者は合併症及び苦しみを和らげ、並びに保険制度及び患者自身の両方の医療費を削減するであろう。
【0009】
先行技術に存在する上述の問題を考慮して、本発明の根底にある目的は、卵巣癌を評価するための、特に疾患の早期でより高感度の新規バイオマーカーを提供することである。最適には、マーカーは、血液及び/又は血漿中等の生物学的サンプル中で容易に検出可能であるべきであり、そのレベルは、一貫して卵巣障害の程度に関連し及びそのレベルは、変化すべきである。さらに、本発明の目的は、生物学的サンプル中の卵巣癌を評価するための方法を提供することである。
【0010】
本発明の根底にある目的を解決するために、本発明者達は、メタボロミクスに関する研究に基づいて、疾患の過程で卵巣に生じる生化学的変化のための病識を与え、いくつかの新規かつ、潜在的に改善されたバイオマーカーを提供する。故に、卵巣癌の代謝バイオマーカーを持つことは、重要な改善点であり、これはまた、卵巣の機能及びその中の生化学的反応についてより多くの情報を与えるだろう。本発明者達は、先行技術で提供されているような単一マーカーのみを使用するのではなく、進行中の卵巣癌に伴って変化する一群の代謝産物を使用する際、全ての関与する経路及び機構のより包括的な見通しが実現されることを見出した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】Bairey, Osnat; Blickstein, Dorit; Stark, Pinhas; Prokocimer, Miron; Nativ, Hila Magen; Kirgner, Ilia; Shaklai, Mati (2003): Serum CA 125 as a prognostic factor in non-Hodgkin's lymphoma. In: Leukemia & lymphoma 44 (10), S. 1733-1738. DOI: 10.1080/1042819031000104079.
【文献】Berkenblit, Anna; Cannistra, Stephen A. (2005): Advances in the management of epithelial ovarian cancer. In: The Journal of reproductive medicine 50 (6), S. 426-438.
【文献】Breiman, L. (2001): Random Forests, Machine Learning.
【文献】Jerome H. Friedman (2002): Stochastic gradient boosting. In: Journal Computational Statistics & Data Analysis, S. 367-378. DOI: 10.1016/S0167-9473(01)00065-2.
【文献】Jerome H. Friedman, Trevor Hastie, Rob Tibshirani (2009): Regularization Paths for Generalized Linear Models via Coordinate Descent. In: Journal of Statistical Software. DOI: 10.18637/jss.v033.i01.
【文献】Kitawaki, Jo; Ishihara, Hiroaki; Koshiba, Hisato; Kiyomizu, Miyo; Teramoto, Mariko; Kitaoka, Yui; Honjo, Hideo (2005): Usefulness and limits of CA-125 in diagnosis of endometriosis without associated ovarian endometriomas. In: Human reproduction (Oxford, England) 20 (7), S. 1999-2003. DOI: 10.1093/humrep/deh890.
【文献】Louppe, Gilles and Wehenkel, Louis and Sutera, Antonio and Geurts, Pierre (2013): Understanding Variable Importances in Forests of Randomized Trees. Proceedings of the 26th International Conference on Neural Information Processing Systems.
【文献】Max Kuhn: Building Predictive Models in R Using the caret Package. In: Journal of Statistical Software 2008. DOI: 10.18637/jss.v028.i05.
【文献】Moore, Richard G.; Miller, M. Craig; Disilvestro, Paul; Landrum, Lisa M.; Gajewski, Walter; Ball, John J.; Skates, Steven J. (2011): Evaluation of the diagnostic accuracy of the risk of ovarian malignancy algorithm in women with a pelvic mass. In: Obstetrics and gynecology 118 (2 Pt 1), S. 280-288. DOI: 10.1097/AOG.0b013e318224fce2.
【文献】Norum, L. F.; Erikstein, B.; Nustad, K. (2001): Elevated CA125 in breast cancer--A sign of advanced disease. In: Tumour biology : the journal of the International Society for Oncodevelopmental Biology and Medicine 22 (4), S. 223-228.
【文献】Prat, Jaime (2014): Staging classification for cancer of the ovary, fallopian tube, and peritoneum. In: International journal of gynaecology and obstetrics: the official organ of the International Federation of Gynaecology and Obstetrics 124 (1), S. 1-5. DOI: 10.1016/j.ijgo.2013.10.001.
【文献】Roupa, Zoi; Faros, Efthimios; Raftopoulos, Vasilios; Tzavelas, Georgios; Kotrotsiou, Evangelia; Sotiropoulou, Penelope et al. (2004): Serum CA 125 combined with transvaginal ultrasonography for ovarian cancer screening. In: In vivo (Athens, Greece) 18 (6), S. 831-836.
【文献】Shapira, I.; Oswald, M.; Lovecchio, J.; Khalili, H.; Menzin, A.; Whyte, J. et al. (2014): Circulating biomarkers for detection of ovarian cancer and predicting cancer outcomes. In: British journal of cancer 110 (4), S. 976-983. DOI: 10.1038/bjc.2013.795.
【文献】Siegel, Rebecca L.; Miller, Kimberly D.; Jemal, Ahmedin (2015): Cancer statistics, 2015. In: CA: a cancer journal for clinicians 65 (1), S. 5-29. DOI: 10.3322/caac.21254.
【文献】Steven L. Salzberg: C4.5: Programs for Machine Learning. In: Machine Learning 1994. DOI: 10.1007/BF00993309.
【文献】Strobl, Carolin; Malley, James; Tutz, Gerhard (2009): An introduction to recursive partitioning: rationale, application, and characteristics of classification and regression trees, bagging, and random forests. In: Psychological methods 14 (4), S. 323-348. DOI: 10.1037/a0016973.
【文献】Suh, K. Stephen; Park, Sang W.; Castro, Angelica; Patel, Hiren; Blake, Patrick; Liang, Michael; Goy, Andre (2010): Ovarian cancer biomarkers for molecular biosensors and translational medicine. In: Expert review of molecular diagnostics 10 (8), S. 1069-1083. DOI: 10.1586/erm.10.87.
【文献】Tibshirani, Robert; Bien, Jacob; Friedman, Jerome; Hastie, Trevor; Simon, Noah; Taylor, Jonathan; Tibshirani, Ryan J. (2012): Strong rules for discarding predictors in lasso-type problems. In: Journal of the Royal Statistical Society. Series B, Statistical methodology 74 (2), S. 245-266. DOI: 10.1111/j.1467-9868.2011.01004.x.
【文献】Vaughan, Sebastian; Coward, Jermaine I.; Bast, Robert C.; Berchuck, Andy; Berek, Jonathan S.; Brenton, James D. et al. (2011): Rethinking ovarian cancer: recommendations for improving outcomes. In: Nature reviews. Cancer 11 (10), S. 719-725. DOI: 10.1038/nrc3144.
【文献】Wei, S. U.; Li, Hui; Zhang, Bei (2016): The diagnostic value of serum HE4 and CA-125 and ROMA index in ovarian cancer. In: Biomedical reports 5 (1), S. 41-44. DOI: 10.3892/br.2016.682.
【文献】Yamamoto, Manabu; Baba, Hideo; Toh, Yasushi; Okamura, Takeshi; Maehara, Yoshihiko (2007): Peritoneal lavage CEA/CA125 is a prognostic factor for gastric cancer patients. In: Journal of cancer research and clinical oncology 133 (7), S. 471-476. DOI: 10.1007/s00432-006-0189-2.
【0012】
本明細書の添付において、以下の
図1~7を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】健康コントロール患者(CTRL)と卵巣癌患者(OVCA)の間を識別するための分類指標の受信者動作特性(ROC)曲線。 トレーニングセットの性能は、左側に表示され、バリデーションセットの性能は、右側に表示される。点の実線は、分類指標の識別力を表し、それによって、黒丸(閾値)は、(1-感度)
2+(1-特異性)
2によって計算される。x軸及びy軸は、それぞれ擬陽性率及び真陽性率を示す。一点短鎖線の対角線は、識別がないこと、すなわち、ランダム分類を示す。
【
図2】卵巣癌患者(OVCA)と乳癌患者(BCA)間の識別診断のための分類指標の受信者動作特性(ROC)曲線。 トレーニングセットの性能は左側に表示され、バリデーションセットの性能は右側に表示される。点の実線は、分類指標の識別力を表し、それによって黒丸(閾値)は、(1-感度)
2+(1-特異性)
2によって計算される。x軸及びy軸は、それぞれ擬陽性率及び真陽性率を示す。一点短鎖線の対角線は、識別がないこと、すなわち、ランダム分類を示す。
【
図3】左から右に向かう(C18:2/lyso PC a C18:2, Trp, Ala)単一特量の(A)トレーニングデータ及び(B)バリデーションデータにおける受信者動作特性(ROC)曲線。 卵巣癌患者(OVCA)及び乳癌患者(BCA)との間の識別診断のROC曲線は、黒丸として描かれたカットオフポイントを有する連続線として示される。健康コントロール(CTRL)及び卵巣癌患者(OVCA)との間の分化のROC曲線は、カットオフ表示としての塗りつぶし三角の破線として示される。全てのカットオフポイントは、(1-感度)
2+(1-特異性)
2によって計算される。x軸及びy軸は、それぞれ擬陽性率及び真陽性率を示す。一点短鎖線の対角線は、識別がないこと、すなわち、ランダム分類を示す。
【
図4】左:健康コントロール患者(CTRL)と卵巣癌患者(OVCA)間の識別のためのバリデーションセットに対する分類指標性能の受信者動作特性(ROC)曲線。右:早期乳癌患者(BCA)と早期卵巣癌患者(OVCA)間の識別のためのバリデーションセットに関する分類指標性能のROC曲線。 黒丸(閾値)を有する実線は、分類指標の識別力を表し、それによって黒丸は、(1-感度)
2+(1-特異性)
2によって計算される。x軸及びy軸は、それぞれ擬陽性率及び真陽性率を示す。一点短鎖線の対角線は、識別がないこと、すなわち、ランダム分類を示す。
【
図5】分類指標の左から右に向かう(C18:2/lyso PC a C18:2, Trp, Ala)早期卵巣癌における単一特徴の(A)トレーニングデータ及び(B)バリデーションデータにおける受信者動作特性(ROC)曲線。 早期卵巣癌患者(OVCA)及び早期乳癌患者(BCA)の間の識別診断のROC曲線は、黒丸として描かれたカットオフポイントを有する連続線として示される。健康コントロール(CTRL)及び早期卵巣癌患者(OVCA)の間の分化のROC曲線は、カットオフ表示として塗りつぶし三角の破線として示される。全てのカットオフポイントは、1-感度)
2+(1-特異性)
2によって計算される。x軸及びy軸は、それぞれ擬陽性率及び真陽性率を示す。一点短鎖線の対角線は、識別がないこと、すなわち、ランダム分類を示す。
【
図6】左:健康コントロール患者(CTRL)と卵巣癌患者(OVCA)の間を識別するためのバリデーションセットに対する分類指標の受信者動作特性(ROC)曲線。右:早期乳癌患者(BCA)と後期卵巣癌患者(OVCA)との間を識別するためのバリデーションセットに対する分類指標性能の受信者動作特性(ROC)曲線。 黒丸(閾値)を有する実線は、分類指標の識別力を表し、それによって黒丸は、(1-感度)
2+(1-特異性)
2によって計算される。x軸及びy軸は、それぞれ擬陽性率及び真陽性率を示す。一点短鎖線の対角線は、識別がないこと、すなわち、ランダム分類を示す。
【
図7】分類指標の左から右に向かう早期卵巣癌における単一の特徴の(A)トレーニングデータ及び(B)バリデーションデータにおける受信者動作特性(ROC)曲線。 後期卵巣癌患者(OVCA)及び早期乳癌患者(BCA)の間の識別診断のROC曲線は、黒丸として描かれたカットオフポイントを有する実線として示される。健康コントロール(CTRL)及び後期卵巣癌患者(OVCA)の間の分化のROC曲線は、カットオフ表示として塗りつぶし三角の破線として示される。全てのカットオフポイントは、(1-感度)
2+(1-特異性)
2によって計算される。x軸及びy軸は、それぞれ擬陽性率及び真陽性率を示す。一点短鎖線の対角線は、識別がないこと、すなわち、ランダム分類を示す。
【
図8】左から右に向かう単一の特徴の(A)トレーニングデータ及び(B)バリデーションデータにおける受信者操作特性(ROC)曲線(Glu/PC aa C32:2、C18:2/SM(OH)C24:1、Glu/Ala)。 卵巣癌患者(OVCA)及び乳癌患者(BCA)の間の識別診断のROC曲線は、黒丸として描かれたカットオフポイントを有する連続線として示される。健康コントロール(CTRL)及び卵巣癌患者(OVCA)との間の分化のROC曲線は、カットオフ表示として塗りつぶし三角の破線として示される。全てのカットオフポイントは、(1-感度)
2+(1-特異性)
2によって計算される。x軸及びy軸は、それぞれ擬陽性率及び真陽性率を示す。一点短鎖線の対角線は、識別がないこと、すなわち、ランダム分類を示す。
【
図9】左から右に向かう単一の特徴の(A)トレーニングデータ及び(B)バリデーションデータにおける受信者操作特性(ROC)曲線(Arg、His、SM(OH)C24:1)。 卵巣癌患者(OVCA)及び乳癌患者(BCA)との間の識別診断のROC曲線は、黒丸として描かれたカットオフポイントを有する連続線として示される。健康コントロール(CTRL)及び乳癌患者(OVCA)との間の分化のROC曲線は、カットオフ表示とし塗りつぶし三角の破線として示される。全てのカットオフポイントは、(1-感度)
2+(1-特異性)
2によって計算される。x軸及びy軸は、それぞれ擬陽性率及び真陽性率を示す。一点短鎖線の対角線は、識別がないこと、すなわち、ランダム分類を示す。
【発明の概要】
【0014】
発明の概要
従って、特許請求の範囲に記載されるように、本発明は、特に疾患の早期で卵巣の病理変化に対してより高感度で卵巣癌を評価するために適した新規バイオマーカー類(すなわち、新規バイオマーカーセット)を提供する。加えて、本発明はまた、患者における卵巣癌を評価するための方法、並びにその方法を実行するために適合したキットを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
好ましい実施形態の説明
本発明による特定の(一連の)バイオマーカー及び方法を使用することによって、卵巣癌をより適切かつ、確実に評価することが可能になった。本発明の意味において「評価(Assessment)」又は「評価すること(Assessing)」は、疾患の発症の開始及びモニタリング、特に異なる段階での疾患の検出及びマーキングにおける診断又は予測を意味する。
【0016】
本発明は、改善された様式で、及び疾患の早期で卵巣癌を予測及び診断することを可能にし、及び卵巣における病理学的変化についてより高感度の検出を提供する。実際に、本発明によるバイオマーカーは、特に血液中及び/又は血漿中で容易に検出可能であり、それらのレベルは、一貫して卵巣疾患/損傷の程度及びそれらのレベルの変化に関連する。
【0017】
一般に、バイオマーカーは、通常の生物学的プロセス、病原性プロセスの指標として、又は薬学的介入に対する反応として機能しながら、2つ以上の生物学的状態を互いに区別することが出来るため、貴重なツールである。代謝産物は、低分子化合物(<1kDa)で、ほとんどのタンパク質、DNA、その他の高分子よりも小さい。タンパク質の活性のわずかな変化は、生化学的反応及びその代謝物(=代謝バイオマーカー、これは体の代謝を見る)に大きな変化をもたらし、その濃度、流れ及び輸送機構は、疾患及び薬物の干渉に対し感受性が高い。これにより、栄養摂取、身体活動、腸内微生物、薬等の遺伝学的要因と環境要因の両方を反映した、生理学的及び病理生理学的物質の個々のプロファイルを取得することが出来る。従って、代謝バイオマーカーは、例えばバイオマーカーであるが、代謝バイオマーカーでもないタンパク質又はホルモンよりも包括的な情報を提供する。
【0018】
それを考慮して、本明細書で使用される代謝バイオマーカーという用語は、卵巣癌の状態の指標として適した化合物であると定義され、哺乳動物体内の代謝過程中に生じる代謝産物又は代謝化合物である。
【0019】
本発明によって測定される代謝バイオマーカー(セット)は、少なくとも以下の種類の代謝産物(すなわち、分析物):
i.) アラニン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファン、グルタメートの群から選択される1つのアミノ酸、及び
ii.)lyso PC a C18:1、lyso PC a C18:2、及びPC aa C32:2の群から選択される1つのリン脂質、及び
iii.)アシルカルニチンC18:1、アシルカルニチンC18:2の群から選択される1つのアシルカルニチン、及び、任意で
iv.)1つのスフィンゴ脂質SM(OH)C24:1、
を含み、
及びここで、i.)~iv.)の少なくとも2つのバイオマーカーの少なくとも1つの比が決定され、
同時に、特にFIGO段階I及びIIに関連して、卵巣癌のより信頼性の高い診断を可能にする、下記参照。そのような事実は、従来技術に記載されておらず、また従来技術からも明らかにされていない。
【0020】
従って、本発明は、以下:
i.)アラニン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファン、グルタメートの群から選択される1つのアミノ酸、及び
ii.)lyso PC a C18:1、lyso PC a C18:2、及びPC aa C32:2の群から選択される1つのリン脂質、及び
iii.)アシルカルニチンC18:1、好ましくは、アシルカルニチンC18:2の群から選択される1つのアシルカルニチン、及び
任意で
iv.)1つのスフィンゴ脂質SM(OH)C24:1、
の種類の代謝産物を含む又はそれからなる代謝バイオマーカーセットに関する。
【0021】
加えて、本発明は、試験される患者からサンプル、好ましくは血液及び/又は血漿を採取し、特に卵巣癌の診断における評価方法及び少なくともサンプル中の
i.)アラニン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファン、グルタメートの群から選択される1つのアミノ酸、及び
ii.)lyso PC a C18:1、lyso PC a C18:2、及びPC aa C32:2の群から選択される1つのリン脂質、及び
iii.)アシルカルニチンC18:1、好ましくは、アシルカルニチンC18:2の群から選択される1つのアシルカルニチン、
の量を測定し、
及び任意で
iv.)1つのスフィンゴ脂質SM(OH)C24:1が、決定され、
及びここで、i.)~iv.)の少なくとも2つのバイオマーカーの少なくとも1つの比が決定される、
方法に関する。
【0022】
関連するクラス及び種類の定義は、当業者に周知であるが、これらのクラスの好ましい一員は、アミノ酸、生体アミン、アシルカルニチン、ヘキソース、スフィンゴ脂質及びグリセロリン脂質に関する下記の表1に要約される。
【0023】
代謝バイオマーカーセット及び関連する方法は、上記のクラスの種を提示する表1に従って少なくとも1つの代謝産物で拡張され得る。
【0024】
驚くべきことに、これらクラス及び種類の代謝産物を含むバイオマーカーのセットを測定することによって、改善された様式及び疾患の早期で卵巣癌の予測及び診断することが可能になることが見出された。特に、卵巣の病理的変化をより高感度に検出することが出来る。この群の1つのクラス又は種の代謝産物が除去されるか、又はその数が減少すると、卵巣癌の評価は、感度及び信頼性が低くなる。これは特に、既知の全てのバイオマーカーを使用する既知の方法によって確実に検出可能ではない疾患の早期が当てはまる。実際に、少なくとも、
i.)アラニン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファン、グルタメートの群から選択される1つのアミノ酸、及び
ii.)lyso PC a C18:1、lyso PC a C18:2、及びPC aa C32:2の群から選択される1つのリン脂質、及び
iii.)アシルカルニチンC18:1、好ましくは、アシルカルニチンC18:2の群から選択される1つのアシルカルニチン、及び任意で
iv.)1つのスフィンゴ脂質SM(OH)C24:1が、決定され、
及びここで、i.)~iv.)の少なくとも2つのバイオマーカーの少なくとも1つの比が決定される。
【0025】
本発明の好ましい実施形態において、バイオマーカーセット又は関連する方法は、選択されたバイオマーカーの比、特にi.)~iv.)の少なくとも2つのバイオマーカーの少なくとも1つの比の測定をさらに含む。これらの比を測定することによって、バイオマーカーセット及び本発明による方法の診断性能が、さらに改善され得る。
【0026】
バイオマーカーのメタボロームセットが測定され、そしてその量は、好ましくは内部標準較正を用いてMRMモードでエレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析によって評価され、前記比は、単一の代謝産物の定量化及び比の計算によって決定され得(例えば、C18:2/lyso PC a C18:2 = 0.00167、c(C18:2) = 37.074 μM及びc(lyso PC a C18:2)、及びそれに応じて、標的分析物の濃度を測定し、その比を計算する。しかしながら、前記比は、ゼロより大きい値を有する。
【0027】
より好ましくは、本発明によるバイオマーカーセット又は関連する方法は、アミノ酸、生体アミン、アシルカルニチン、ヘキソース、スフィンゴ脂質及びグリセロリン脂質の群から選択される1つ以上の代謝産物をさらに含む。これらのクラスの好ましい例は、以下の表1に示される。そのうえ、これらクラスの代謝産物をさらに測定することによって、バイオマーカーセット及び本発明による方法の診断性能が、さらに改善され得る。
【0028】
特に好ましいバイオマーカーセット又は関連する方法は、アミノ酸が、アルギニン、トリプトファンから選択されるうちの1つ、及び/又は比が、C18:2/lysoPC a C18:2、C18:2/SM (OH) C24:1、Glu/Ala、Glu/PC aa C32:2から選択される。
【0029】
本発明による方法の一実施形態において、体液、好ましくは、血液、任意で全血若しくは血清、又は入手可能であれば血漿は、試験される患者から採取され、及び診断は、インビトロ/エクスビボで、例えばヒト及び動物の体の外側で行われる。
【0030】
従って、本発明はまた、特に症候性の及び/又は無症候性の患者において、増大したリスク及び/又は好ましくない予後の卵巣癌を有する患者を同定することに関する。
【0031】
従って、本発明はまた、患者の入院の決定を含む、医薬品による継続的処置及び治療等の臨床的決定を行うための癌を有する患者の診断及び/又はリスク分類のための方法に関する。
【0032】
本発明による方法のさらに好ましい実施形態において、評価は、診断及び/又はリスク分類、予後診断、識別診断、早期発見及び認識のためのものである。
【0033】
用語「卵巣癌」は、患者又は女性患者の早期で症状が全くない又はほとんどない婦人科腫瘍の一種を指す。卵巣癌は、女性の生殖管における卵巣の悪性疾患である(Pschyrembel, de Gruyter, 263rd edition (2012), Berlin参照)。
【0034】
本発明の範囲内で、用語「患者、特に女性患者」は、試験対象が卵巣癌についてテストされるという条件で、何れかのテスト対象(ヒト又は哺乳動物)を意味すると解される。用語「女性患者」は、何れかの女性テスト対象を意味すると解される。
【0035】
加えて、本発明は、当該方法を実施するのに適したキットに関し、ここで前記キットは、1つ以上のウェル及び1つ以上の内部標準を含侵させた1つ以上のインサートを含む装置を含む。そのような装置は、WO 2007/003344及びWO 2007/003343に詳細に記載されている。
【0036】
サンプル中の比を含む代謝産物の濃度/量の測定又は決定のために、クロマトグラフィー、分光法、及び質量分析等の定量分析法が用いられるべきであるが、質量分析法が特に好ましい。クロマトグラフィーは、GC、LC、HPLC、及びUPLCを含み得る; 分光法は、UV/Vis、IR、及びNMRを含み得る; 及び質量分析は、ESI-QqQ、ESI-QqTOF、MALDI-QqQ、MALDI-QqTOF、及びMALDI-TOF-TOFを含み得る。FIA-及びHPLC-タンデム質量分析の使用が好ましい。これらの分析方法は、一般に当業者に周知である。
【0037】
代謝産物量を測定又は決定するために、アミノ酸、生体アミン、アシルカルニチン、ヘキソース、スフィンゴ脂質及びグリセロリン脂質の分析クラスを含むサンプル中の代謝産物を定量するために、標的メタボロミクスが使用される。定量は、同位体標識された内部標準の存在下で行われ、そして上記の方法によって決定される。本発明によって測定される代謝物として適切であるそれらの略語(BCコード)を含む分析物のリストは、以下の表1に示される。
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
何れかの場合の脂質においても、好ましくは、用いられるMS/MS測定における質量分解能の制限のために、検出されるシグナルは、同じクラス内の同じ分子量(±0.5Daの範囲)を有するいくつかの同重体脂質の合計であることに留意すべきである。例えば、PC aa C36:6のシグナルは、異なる脂肪酸組成を有する異なる脂質種(例えば、PC 16:1/20:5対PC 18:4/18:2)、脂肪酸sn-1/sn-2の様々な位置及びそれら脂肪酸鎖における異なる二重結合位置及び結合を有する(例えば、PC(18:4(6Z、9Z、12Z、15Z)/18:2(9Z、12Z))tuiPC(18:4(9E、11E、13E、15E)/18:2(9Z、12Z)))。
【実施例】
【0044】
データセット
分類指標をトレーニングするためのデータセットは、健康患者コントロールサンプル100例、卵巣癌サンプル34例及び早期乳癌サンプル80例からなり、それにより、分析前の品質フィルタリングによって示されるように、血漿分離の遅延のために1つの卵巣癌サンプルが除去され、33個の卵巣癌サンプルが得られた。卵巣癌サンプルは、2つのFIGO段階I、1つのFIGO段階II、28のFIGO段階III及び2つのFIGO段階IVサンプルからなっていた(Prat2014)。以下において、FIGO段階I及びIIは、早期卵巣癌として指定され、一方FIGO段階III及びIVは、後期卵巣癌として指定される。
【0045】
分類指標をバリデーションするためのデータセットは、50のコントロールサンプル、35の卵巣癌症例及び109の早期乳癌患者からなっていた。バリデーションセットにおいて、卵巣癌の症例は、5つのFIGO段階I、5つのFIGO段階II、15のFIGO段階III及び6つのFIGO段階IVサンプルからなっていた。さらに、4つのサンプルには、何れかのFIGO段階分類情報は含まれない。
【0046】
データ前処理
質量分析によって測定された188個の代謝産物の初期セットから、53個(28%)の分析物が除去された。なぜなら、それらの濃度値は、トレーニングデータセット又はバリデーションデータセットの何れかにおいて、検出限界(LOD)を下回る20%を超える値で構成されているためである。残り135の代謝産物の濃度をさらに3つの基準でフィルタリングした、すなわち、(i)倍数変化は、複製されたサンプルの変動計数(CV)よりも高くなければならなかった、(ii)分析物は、t検定(p値<0.05)に従ったトレーニングデータセットでは健康コントロールサンプルと卵巣癌患者で有意に異なる必要があり、又はランダムフォレスト平均減少ジニ測定(Rパッケージに実装されている、http://cran.r-project.org/で利用可能)は、0.8より大きくなければならなかった、及び(iii)サンプルにLOD値が存在している必要はない(Breiman 2001; Louppe, Gilles and Wehenkel, Louis and Sutera, Antonio and Geurts, Pierre 2013)。これらの伝統的なフィルタリング基準は、それぞれ代謝産物ペアからなる138の代謝産物比で強化された70の代謝産物をもたらした。
【0047】
特徴選択
特徴選択のために、31個の漿液性卵巣癌サンプルのみ使用し、従って、生物学的不均一性を減少させるために、2個の類子宮内膜性卵巣癌サンプルが除去された。次に、得られた208個の特徴をlog2変換し、Rパッケージ「glmnet」に実装されている、elastic net正規化回帰分析(Tibshirani et al. 2012)によって減少した。それによって、当該モデルは、0~1の範囲の100のアルファレベル、0.01刻み幅でのトレーニングセットでトレーニングされた。最適な適合を見つけるために、各アルファレベルで10倍のクロスバリデーションが行われた。得られた100アルファレベルでの最適な適合から、感度と特異性を最大化し、さらに係数の数とクロスバリデーション適合から得られる誤差を最小化することにより、最良のものが選択された。これにより、合計9つの代謝産物: Ala、Arg、His、SM (OH) C24:1、Trp、lyso PC a C18:2、C18:2、Glu、PC aa C32:2、からなる9つの特徴サブセットからなるアルファレベル96及びラムダレベル0.285に適合する最適なパラメータ化モデルが得られた。
【0048】
これらの特徴は、5つの単一代謝産物(Ala、Arg、His、SM(OH)C24:1、Trp)及び4つの代謝産物比(C18:2/lysoPC a C18:2、C18:2/SM (OH) C24:1、Glu/Ala、Glu/PC aa C32:2)を含む。
【0049】
分類
卵巣癌の診断
ランダムフォレスト分類指標は、他の分類指標、すなわち、c5.0、一般化ブースト回帰モデリング、ロジスティック回帰、又はRパッケージキャレットに実装されている分類ツリーと比較して最良の全体的な性能を示したので、この得られる9つの特徴セットについてトレーニングされた(Max Kuhn; Jerome H. Friedman 2002; Jerome H. Friedman, Trevor Hastie, Rob Tibshirani 2009; Strobl et al. 2009; Steven L. Salzberg)。従って、Mean Decrease Gini重要度測定で測定されたそれら変数の重要度に基づいて、特徴が、より小さなサブセットに減少された。得られた4つの異なる代謝産物からなる3つの特徴のセット(C18.2/lysoPC a C18:2、Trp、Ala)は、10倍クロスバリデーションを繰り返すことによってランダムフォレスト分類でトレーニングされ、結果として1.0の曲線下面積(AUC)(
図1左)、100%の感度、及び100%の特異性が得られた。
【0050】
トレーニングの後、分類指標は、上記の独立したバリデーションデータセットで検証された。分類指標の性能は、0.96のAUCを示す受信者操作特性(ROC)曲線によって評価され(
図1右)、トレーニングセットで得られた固定カットオフで結果を予測することによって88.5%の感度及び100%の特異性が得られた。詳細には、35人の卵巣癌患者のうち31人が正しく識別され、50人の健康コントロールのうち50人が正しく識別された。第2の工程において、このモデルを用いて識別診断をテストし、比較のために転移のない乳癌患者サンプルを含めた。それによって、109個の乳癌サンプルのうち104個が、非卵巣癌として同定され、これは、96.8%の特異性及び0.94のAUCに相当する(
図2)。単一の特徴の予測力を評価するために、我々は、トレーニングセット(
図3A)及びバリデーションセット(
図3B)における単一の代謝産物及び比としてモデルから代謝産物の予測性能を調べた。
【0051】
早期卵巣癌診断
早期卵巣癌患者(計10人の患者)の分類指標の性能は、受信者操作特性(ROC)曲線によって評価され、0.98のAUCを示し(
図4左)、そして得られた固定カットオフで結果を予測することによって、トレーニングセットでは90%の感度及び100%の特異性が得られた。詳細には、10人の早期卵巣癌患者のうち9人が正しく同定された。比較のために、転移の無い乳癌患者を含む識別診断は、0.97のAUCを示す(
図4右)。単一の特徴の予測力を評価するために、トレーニングセット(
図5A)及びバリデーションセット(
図5B)における単一の代謝物及び比としてのモデルから各代謝産物の予測可能性を調べた。
【0052】
後期卵巣癌診断
後期卵巣癌患者(計25人の患者)の分類指標の性能は、受信者操作特性(ROC)曲線によって評価され、0.95のAUCを示し(
図6左)、トレーニングセットで得られた固定カットオフで結果を予測することによって88%の感度及び100%の特異性が得られた。詳細には、25人の後期卵巣癌患者のうち22人が正しく同定された。比較のために転移の無い乳癌患者を含む識別診断は、0.92のAUCを示す(
図6右)。単一の特徴の予測力を評価するために、トレーニングセット(
図7A)及びバリデーションセット(
図7B)における単一の代謝産物及び比としてのモデルからの各代謝産物の予測可能性を調べた。