(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】目標物の電力値を測定するための装置および方法
(51)【国際特許分類】
G01R 21/06 20060101AFI20221102BHJP
G01R 21/04 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
G01R21/06 F
G01R21/04 D
(21)【出願番号】P 2019558435
(86)(22)【出願日】2018-04-25
(86)【国際出願番号】 EP2018060579
(87)【国際公開番号】W WO2018197553
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-02-18
(32)【優先日】2017-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】319004364
【氏名又は名称】エレクトディス アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100165191
【氏名又は名称】河合 章
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】マルティン ネックマル
(72)【発明者】
【氏名】ローレンス スバーンス
(72)【発明者】
【氏名】マグヌス ビークストランド
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-110481(JP,A)
【文献】特開2011-250682(JP,A)
【文献】特開昭49-067674(JP,A)
【文献】特開昭56-016876(JP,A)
【文献】特開昭54-077588(JP,A)
【文献】特開昭54-083484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 21/00-22/10
G01R 11/00-11/66
G01R 35/00-35/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御可能な直流電源(12)を備える直流回路(10,110,210,310)と,
直流回路(10,110,210,310)の少なくともひとつの電気パラメータを測定するための電気的測定手段(50)と,
直流回路(10,110,210,310)
の第1の抵抗器(R
DC
)と目標交流回路(30,130,230,330)
の第2の抵抗器(R
AC
)との間に熱的に接続された
共通ヒートシンク(260,360)を有する、少なくともひとつのヒートシンク(160a,160b,260,360)と,
直流回路(10,110,210,310)と目標交流回路(30,130,230,330)の電力損失に関連した熱パラメータを少なくともひとつ測定するための熱感知手段(20)と,
電気的測定手段(50)と動作可能なように接続された入力(42),熱感知手段(20)と動作可能なように接続された少なくともひとつの入力(44),および,制御可能な直流電源(12)と接続された出力(46)を有する平衡化部(40)とを備え,
平衡化部(40)は,
熱感知手段(20)によって測定された熱パラメータの少なくともひとつに基づいて,直流回路(10,110,210,310)と目標交流回路(30,130,230,330)との間の電力損失の差が小さくなるように,制御可能な直流電源(12)を制御し,
熱平衡に達したとき,直流回路(10,110,210,310)の少なくともひとつの電気パラメータの少なくともひとつのリアルタイム測定値を電気的測定手段(50)から読み出し,読み出した少なくともひとつの電気パラメータの少なくともひとつのリアルタイム測定値に基づいて,直流回路(10,110,210,310)の直流電力値を計算し,計算した直流電力値を用いて目標交流回路(30,130,230,330)の電力値(49)を計算することによって,目標交流回路(30,130,230,330)の電力値(49)を測定するように構成される,
交流電源(132,232,332)を有する交流回路(130,230,330)の形をとった目標物(30)の電力値(49)を測定するための装置(1)。
【請求項2】
直流回路(10,110,210,310と目標交流回路(30,130,230,330)の間の電力損失の差が閾値よりも小さいことを熱感知センサ(20)が示すとき,熱平衡に達したと判定するように平衡化部(40)が構成された,請求項1に定義された装置。
【請求項3】
直流回路(10,110,210,310)と目標交流回路(30,130,230,330)との間の電流散逸の差が閾値レートよりも低いことを熱感知センサ(20)が示すとき,熱平衡に達したと判定するように平衡化部(40)が構成された,請求項1に定義された装置。
【請求項4】
直流回路(10,110,210,310)は,直流電源(12,112,212,312)に接続された
前記第1の抵抗器(R
DC)を備え,熱感知手段(20,120,221,321,320a)は,前記第1の抵抗器(R
DC)での電力損失に関連した熱パラメータの少なくともひとつを測定するように適合されてなる,請求項1乃至請求項3のいずれか一項に定義された装置。
【請求項5】
熱感知手段は,
前記第1の抵抗器(R
DC)付近のそれぞれの位置に配置されて,前記それぞれの位置の温度を測定するように適合された,温度センサの第1のセット(221,321)を備え,熱感知手段は,更に,目標交流回路(30,230,330)付近のそれぞれの位置に配置されて,前記それぞれの位置の温度を測定するように適合された,温度センサの第2のセット(222,322)を備える,請求項4に定義された装置。
【請求項6】
熱感知手段は,直流回路(10,110,310)と目標交流回路(30,130,330)との間に配置された熱流量センサ(120,320a,320b)を少なくともひとつ備える,請求項1乃至請求項5のいずれか一項に定義された装置。
【請求項7】
目標交流回路(30,130,230,330)は,交流電源(32,132,232,332)に接続された
前記第2の抵抗器(R
AC)を備え,熱感知手段(20,120,222,322,320b)は,前記第2の抵抗器(R
AC)での電力損失に関連した熱パラメータを少なくともひとつ測定するように適合されてなる,請求項1乃至請求項6のいずれか一項に定義された装置。
【請求項8】
前記少なくともひとつのヒートシンクは,
直流回路の
前記第1の抵抗器(R
DC)に熱的に接続された第1のヒートシンク(160a)と,
交流回路の
前記第2の抵抗器(R
AC)に熱的に接続された第2のヒートシンク(160b)とを更に備え,
熱感知手段は,
第1のヒートシンク(160a)と第2のヒートシンク(160b)との間に配置された熱流量センサ(120)を備え,前記熱流量センサ(120)は,第1および第2のヒートシンクの間の熱流量を測定し,平衡化部(140)に対し,熱流量の測定値の形で熱パラメータを提供するように適合されてなる,
請求項7に定義された装置。
【請求項9】
前記第1の抵抗器(R
DC)と
前記第2の抵抗器(R
AC)との間の熱流量が存在しない,または,最小限存在することを,熱流量センサ(120)から受け取った熱流量の測定値が示すとき,熱平衡に達したと判定するように平衡化部(140)が構成された,請求項8に定義された装置。
【請求項10】
熱感知手段は,
前記第1の抵抗器(R
DC)の付近のそれぞれの位置に配置された温度センサの第1のセット(221)と,
前記第2の抵抗器(R
AC)の付近のそれぞれの位置に配置された温度センサの第2のセット(222)とを備え,
温度センサの前記第1のセット(221)および温度センサの前記第2のセット(222)の各温度センサは,前記配置のそれぞれでの温度を測定し,平衡化部(240)に対して,温度の測定値の形でそれぞれの熱パラメータを提供するように適合されてなる,
請求項
1に定義された装置。
【請求項11】
前記第1の抵抗器(R
DC)および
前記第2の抵抗器(R
AC)の間の温度差が存在しないか最小限存在することを,
温度センサの前記第1のセット(221)および温度センサの前記第2のセット(222)から受け取った温度の測定値が示すとき,熱平衡に達したと判定するように平衡化部(240)が構成された,請求項10に定義された装置。
【請求項12】
熱感知手段は,
前記第1の抵抗器(R
DC)と共通ヒートシンク(360)との間に配置された第1の熱流量センサ(320a)と,
共通ヒートシンク(360)と
前記第2の抵抗器(R
AC)の間に配置された第2の熱流量センサ(320b)と,
前記第1の抵抗器(R
DC)付近のそれぞれの位置に配置された温度センサの第1のセット(321)と,
前記第2の抵抗器(R
AC)付近のそれぞれの位置に配置された温度センサの第2のセット(322)とを備え,
前記第1の熱流量センサ(320a)は,
前記第1の抵抗器(R
DC)と共通ヒートシンク(360)との間の熱流量を測定し,熱流量の測定値の形で第1の熱パラメータを平衡化部(340)に提供するように適合され,
前記第2の熱流量センサ(320b)は,共通ヒートシンク(360)と
前記第2の抵抗器(R
AC)との間の熱流量を測定し,熱流量の測定値の形で第2の熱パラメータを平衡化部(340)に提供するように適合され,
温度センサの前記第1のセット(321)および温度センサの前記第2のセット(322)の各温度センサは,前記位置のそれぞれの温度を測定し,温度の測定値の形でそれぞれの熱パラメータを平衡化部(340)に提供するように適合される,請求項
1に定義された装置。
【請求項13】
前記第1の抵抗器(R
DC)と
前記第2の抵抗器(R
AC)との間の温度差が存在しないか最小限存在することを,
温度センサの前記第1のセット(321)および温度センサの前記第2のセット(322)から受け取った測定値が示すとき,および/または,
前記第1の抵抗器(R
DC)と
前記第2の抵抗器(R
AC)の間の熱流量が存在しないか最小限存在することを,第1および第2の熱流量センサ(320a,320b)から受け取った熱流量の測定値が示すとき,熱平衡に達したと判定するように平衡化部(340)が構成された,請求項12に定義された装置。
【請求項14】
共通ヒートシンク(360)付近のそれぞれの位置に配置された温度センサの第3のセット(323)を更に備え,温度センサの前記第3のセットの各温度センサは,前記位置のそれぞれの温度を測定して,温度の測定値の形でそれぞれの熱パラメータを平衡化部(340)に提供するように適合されてなる,請求項13に定義された装置。
【請求項15】
温度センサの第3のセット(323)によって測定した温度を,
a)第1および第2の熱流量センサ(320a,320b)によって測定された熱流量を検証するため,
b)温度センサの第1および第2のセット(321,322)によって測定された温度を検証するため,及び,
c)共通ヒートシンク(360)の冷却のために冷却部を制御するため,
の少なくともひとつのために用いるように平衡化部(340)が構成された,請求項14に定義された装置。
【請求項16】
直流回路(10,110,210,310)は既知の抵抗値を有する精密抵抗器(R
prec)を備え,
電気的測定手段(50)は,精密抵抗器(R
prec)の両端電圧の形で電気パラメータを少なくともひとつ測定するための電圧計(150,250,350)を備える,
請求項1乃至請求項15のいずれか一項に定義された装置。
【請求項17】
直流回路(10,110,210,310)に直流電力を供給するため,制御可能な直流電源(12)を操作(72)し,
少なくともひとつのヒートシンク(160a,160b,260,360)
のうちの共通ヒートシンク(260,360)が
、直流回路(10,110,210,310)
の第1の抵抗器(R
DC
)と目標交流回路(30,130,230,330)
の第2の抵抗器(R
AC
)との間に熱的に接続されて,直流回路(10)と目標物(30)の電力損失に関連した熱パラメータを少なくともひとつ測定(73)し,
直流回路(10,110,210,310)と目標交流回路との間の電力損失の差が小さくなるように,少なくともひとつの熱パラメータの測定値に基づいて,直流電源(12)を制御(74)し,
熱平衡に達したとき(75),
直流回路(10,110,210,310)の少なくともひとつの電気パラメータの少なくともひとつのリアルタイム測定値を読み取り(76),
読み取った,少なくともひとつの電気パラメータの少なくともひとつのリアルタイム測定値に基づいて,直流回路(10,110,210,310)の直流電力値を計算(77)し,
計算した直流電力値を用いて,目標交流回路(30,130,230,330)の電力値(49)を計算(78)する
ことによって,目標交流回路(30,130,230,330)の電力値(49)を測定する
ことを含む,交流電源(132,232,332)を有する交流回路(130,230,330)の形の目標物(30)の電力値を測定する方法(70)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的には電子測定装置の分野に関し,特に,目標の電力値を測定する装置に関する。また本発明は,目標物の電力値を測定する,関連した方法に関する。
【背景技術】
【0002】
目標物の電力値を測定するための様々なアプローチが従来の技術の中で提案されてきた。直流電源を含む直流回路の形を取る目標物のような特定のタイプの目標物を対象とするものとしては非常に精確な測定方法が存在する。こうした測定方法の中には,ひとつまたは複数の精密な抵抗器を用いてリアルタイムの電圧値および/またはリアルタイムの電流値を測定し,オームの法則を用いて電力値を計算することにより動作するものがある。
【0003】
交流電源を含む交流回路のような他のタイプの目標物については,同等の測定精度を達成するのはもっと困難になる。ある従来技術の試みの中では,直流と交流の測定結果が連続して互いに比較される。最初に,直流入力を用いて,パワーシンクの温度上昇が測定される(較正フェーズ)。次に,交流入力が印加されて,結果として生じる温度上昇が直流入力と比較される。理論上,完全に較正された負荷は,温度上昇の観点から特徴づけることが可能であり,一見したところ,一定の温度上昇を一定の電力レベルに関連付けるルックアップテーブルを生成することができる。しかし,そうしたソリューションは,熱的/電気的モデルが時間的に変化しない(リアルタイムに比較を実行しない)ことを要求する。実世界での応用では,電力損失は主にコンポーネントの自己発熱によって時間と共に変化する。これは予測のためには非常に困難なファクターであり,この種のソリューションであればどのようなものであっても精度を数パーセントに制限する。
【0004】
他の従来技術の試みでは,交流の電圧と電流とを測定し,測定値を掛け算して瞬間的な電力を求める。その値の平均が実際の電力となる。これらの測定は,高速かつ高精度なADC(analog/digital converter)サンプラーに依存する必要がある。また,電圧と電流の測定値の位相差が考慮される必要がある。何故なら位相差は平均電力を変えるからである(電圧または電流のいずれか一方がまだ正である間に他方が負になると,位相シフトは小さな負の電力となるが,これは抵抗負荷では起こらない)。更に,交流信号の周波数が上昇した時点でサンプリング精度は劣化する。サンプリング周波数が十分に低いとき,24ビットADCは高い解像度を達成することができるが,サンプリング周波数が高くなると,有効ビット数(Effective Number Of Bits,ENOB)は顕著に劣化する。これに加えて,実際の応用では,交流部が純粋な正弦関数になるような信号を含むことがない。高調波成分は電力損失(power dissipation)の総量に寄与するため,電力を測定する際には高調波成分を考慮すべき(即ち精確に測定すべき)であるが,交流部は高調波成分を含んでいる。これは,この種の従来技術の測定システムの精度に他の制限を課している。
【0005】
フィルタリングやエラーの補償,訂正を容易にするために回路を追加してもよいが,そうした回路の追加を行うと,測定量に対する不確定要素と影響が大きくなる。このため,例えば平均化を改善することによって,フィルタコンポーネントは回路全体の不確実性を高め,それによって高精度な測定結果を得るのが難しくなる。
【0006】
このような理由により,本願発明者らはこれらの分野の中に改善の余地があるとの認識に至った。
【発明の概要】
【0007】
従って,本発明の目的は,交流電源を含む交流回路の形を取る目標物の電力値を測定するための,改良された装置および方法を提供することによって,上述の問題の少なくともいくつかを除去,軽減,緩和あるいは縮小することである。
【0008】
この問題の本質について洞察した結果,本願発明者らは,目標交流回路内の交流電源からのエネルギーを熱に変換して電力損失を測定する一方,直流回路に直流電力を供給し,直流回路での電力損失を測定することにより,目標交流回路の電力値を測定することができるとの知見を得た。少なくともひとつのヒートシンクが直流回路と目標交流回路との間に熱的に接続されて,電力損失測定値の精度を改善し,特に,直流回路の電力損失の測定を交流回路の電力損失の測定から分離する。電力損失による温度間の(リアルタイムの)平衡を求めることにより,直流回路の直流電力値のリアルタイム測定が実行されて,目標物の電力値の直流電力相当として用いられる。平衡が維持されている限り,直流の電力測定値は交流の電力消費と釣り合う。更に,目標交流回路が正確な平衡状態にない場合であっても,熱交換部間の温度差は,電力差と電力損失の精確な測定を実現する。これにより,熱的に遅いシステムにおいて早く結果が得られるだけではなく,時間的に変化するあるいは周期的な電力損失について精確な測定が可能となる。直流電力は精確に測定可能なので,本発明のアプローチによれば,目標物が直流回路ではないにも関わらず,また,電源が直流電源ではないにも関わらず,目標交流回路の精確な電力値が得られる。
【0009】
その結果,本発明の第1の態様は,交流電源を有する交流回路の形を取る目標物の電力値を測定するための装置である。本装置は,制御可能な直流電源を有する直流回路と,直流回路の少なくともひとつの電気パラメータを測定するための電気的測定手段と,直流回路と目標交流回路との間に熱的に接続された,少なくともひとつのヒートシンクと,直流回路と目標交流回路の電力損失(例えば熱放散,熱流量,温度)に関連する熱パラメータを少なくともひとつ測定するための熱感知手段と,平衡化部とを備える。平衡化部は,電気的測定手段と動作可能に接続された入力と,熱感知手段と動作可能に接続された少なくともひとつの入力と,制御可能な直流電源に接続された出力とを有する。
【0010】
平衡化部は,熱感知手段によって測定された少なくともひとつの熱パラメータに基づいて,直流回路と目標交流回路の間の電力損失(熱放散,熱流量,温度等)が小さくなるように,制御可能な直流電源を制御するように構成される。熱平衡に達したとき,直流回路の少なくともひとつの電気パラメータの少なくともひとつのリアルタイム測定値を,電気的測定手段から読み出し,読み出した,少なくともひとつの電気パラメータの少なくともひとつのリアルタイム測定値に基づいて,直流回路の直流電力値を計算し,計算した直流電力値を用いて,目標交流回路の電力値を計算することによって,目標交流回路の電力値を測定するように平衡部は構成される。
【0011】
いくつかの実施の形態では,直流回路と交流回路との間における電力損失の差が閾値よりも小さいと熱感知手段が示すとき,熱平衡に達したと判定するように平衡化部は構成される。他の実施の形態では,直流回路と目標交流回路との間の電力損失の差が閾値レートよりも小さく変化したと熱感知手段が示すとき,熱平衡に達したと判定するように平衡化部は構成される。
【0012】
一般に,熱平衡は,熱的モデルが存在しうる抽象的な状態として定義されてもよい。熱平衡の単純な一例としては,オブジェクトへの熱流束(熱流量)がそのオブジェクトからの熱流束と等しい(結果として,熱流束にも関わらず温度変化がない)ときである。しかし,本願発明者らは,本発明の熱時定数よりも早く変化する,時間的に変化する,あるいは,周期的な信号が測定されるシナリオをも想定している。そうした状況においては,熱平衡は,最小限の期間における最小限の温度変化として定義することができるだろう。熱平衡の他の定義は本発明から除外されない。このため,熱平衡は,温度が安定していること,および/または,温度差が非常に小さいことを必ずしも意味しない。
【0013】
本発明の第2の態様は,交流電源を有する交流回路の形を取る目標物の電力値を測定する方法である。本方法は,直流回路に直流電力を供給する制御可能な直流電源を操作することと,直流回路と目標交流回路の電力損失(例えば熱放散,熱流量,温度)に関する熱パラメータを少なくともひとつ測定することとを含み,少なくともひとつのヒートシンクが,直流回路と目標交流回路との間を熱的に接続する。また,本方法は,直流回路と目標交流回路との間の電力損失(例えば熱放散,熱流量,温度)の差が小さくなるように,測定した少なくともひとつの熱パラメータに基づいて,直流電源を制御することを含む。
【0014】
更に,本方法は,直流回路の少なくともひとつの電気パラメータの少なくともひとつのリアルタイム測定結果を読み出すことと,読み出した少なくともひとつの電気パラメータの少なくともひとつのリアルタイム測定結果に基づいて,直流回路の直流電力値を計算することと,計算した直流電力値を用いて,目標交流回路の電力値を計算することによって,熱平衡に達したときに目標交流回路の電力値を測定することを含む。
【0015】
本文書を通して説明されているように,第2の態様による方法は,第1の態様およびその実施形態に従った装置によって実行される,一部または全部の機能を更に含むこととしてもよい。
【0016】
本発明の他の態様とその実施形態は,添付の特許請求項によって定義され,詳細な説明の中だけではなく,図面においても更に説明される。
【0017】
本明細書の中で用語「備える(comprises/comprising)」が用いられるとき,記述された特徴,整数,段階またはコンポーネントを特定するために用いられているが,一又は複数の他の特徴,整数,段階またはコンポーネント,またはそれらのグループの存在または追加を除外するものではない。本文書内で明示的に別段に定義されていない限り,請求項で用いられた用語はすべて本技術分野における通常の意味に従って解釈されるべきである。明示的に別段に定義されていない限り,「要素,装置,コンポーネント,手段,段階等」(a/an/the [element,device,component,means,step,etc])への言及は,どれも,要素,装置,コンポーネント,手段,段階等が少なくともひとつ存在すると言及しているものとして,率直に(openly)解釈されるべきである。明示的に説明されていない限り,ここで開示されているどの方法の段階であっても,開示されたものと完全に同じ順序で実行される必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明の実施形態のオブジェクト,特徴および長所は以下の詳細な説明に登場し,添付の図面が参照される。
【
図1】
図1は本発明に従って目標物の電力値を測定するための装置を図示した略ブロック図である。
【
図2】
図2は本発明に従って目標物の電力値を測定する方法を図示した略フローチャート図である。
【
図3】
図3は本発明の第1の実施の形態に従って目標物の電力値を測定するための装置を図示した略ブロック図である。
【
図4】
図4は本発明の第2の実施の形態に従って目標物の電力値を測定するための装置を図示した略ブロック図である。
【
図5】
図5は本発明の第3の実施の形態に従って目標物の電力値を測定するための装置を図示した略ブロック図である。
【
図6】
図6は電気的観点から本発明の理解を促す略電気回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。しかし,本発明は多くの異なる形態で実施可能であり,ここで説明される実施形態に限定して解釈されるべきではない。これらの実施形態は,この開示が詳細かつ完全であり,当業者に対して本発明の範囲を十分に伝達するように提供されている。添付の図面に図示した特定の実施形態の詳細な説明の中で用いた専門用語は,本発明を限定することを意図したものではない。図面において類似した番号は類似した要素を参照している。
【0020】
最初に
図1を参照する。同図は本発明による装置1を図示した略ブロック図であり,装置1は目標物30の電力値49を測定するためのものである。
図3,4,5に図示した第1,第2,第3の実施形態を参照して後に説明するように,目標物30は交流電源を有する交流回路である。
現在の特許請求の範囲に記載した発明の一部ではない,代替的な発明の態様では,例えば,目標物30は,磁場を電流に変換するための電磁装置,光学的なエネルギーを直接熱に変換するための感光装置,ソーラーエネルギーのコレクタ/アキュムレータ,印加された力学的な力に基づいて熱を生成するためのメカニカルダンパー,熱を生成する化学反応,または,圧力を熱に変換するための圧力コンバータであってもよい。
【0021】
装置1は,制御可能な直流電源12を有する直流回路10を備える。また,装置1は,直流回路の電気パラメータを少なくともひとつ測定するための電気的測定手段50と,直流回路10と目標交流回路30の電力損失(例えば熱放散,熱流量,温度)に関する熱パラメータを少なくともひとつ測定するための熱感知手段20とを備える。
図3-5から明らかなように,電力損失の測定精度を改善するため,直流回路10と交流回路30との間に少なくともひとつのヒートシンクが接続されている。
【0022】
装置1の平衡化部40は,電気的測定手段50と動作可能に接続された入力42と,熱感知手段20と動作可能に接続された少なくともひとつの入力44とを有する。平衡化部40の出力46は制御可能な直流電源12に接続されている。
【0023】
直流回路10と目標交流回路30との間の電力損失の差を小さくするため,好ましくはゼロまたは非常に低い初期直流電力から開始して熱平衡に達するまで直流電力を増加させることにより,熱感知手段20によって測定した熱パラメータの少なくともひとつに基づいて,制御可能な直流電源12を制御するように,平衡化部40は構成されている。直流回路10と目標交流回路30との間に熱的に接続された,前述のヒートシンクを少なくともひとつ設けて,電力損失の測定精度を改善する。この改善は,特に,直流回路10の電力損失の測定を,目標交流回路30の電力損失の測定から分離することによってなされる。
【0024】
熱平衡に達すると,平衡化部40は,直流回路10の少なくともひとつの電気パラメータの少なくともひとつのリアルタイム測定を電気的測定手段50から読み出し,次に,読み出した電気パラメータのリアルタイム測定結果に基づいて直流回路10の直流電力値を計算し,最後に,計算した直流電力値を用いて目標交流回路30の電力値49を計算することにより,目標交流回路30の電力値49を決定するように構成されている。
【0025】
いくつかの実施形態では,目標物30の電力値49は,単純に,計算した直流電力値に設定されてもよい。他の実施形態において,例えば,時間的に変化する信号において起きる恐れがある,温度が互いに等しくない場合や,平衡が2つの最小値の間をジャンプする場合,目標交流回路30の電力値49は,例えば2つの最小値の平均値のように,平均値として計算されてもよい。当業者によって容易に実施されるように,計算された直流電力値を用いて目標交流回路30の電力値を計算する他の方法も存在してよい。
【0026】
図1に示すように,そうして求められた電力値49は,平衡化部40の出力48を介して,ユーザ,オペレータ,コンピュータ等に対して,表示され,報告され,または,利用可能とされてもよい。
【0027】
図2の70に,目標交流回路30の電力値49を求める対応する方法を示す。方法70は以下の機能を含む。
【0028】
72に示すように,制御可能な直流電源12は直流回路10に直流電力を供給するように操作される。73に示すように,直流回路10と目標交流回路30の電力損失(例えば熱放散,熱流量,温度)に関連した熱パラメータの少なくともひとつが測定される。74に示すように,測定した少なくともひとつの熱パラメータに基づいて,直流回路10と目標交流回路30の電力損失(例えば熱放散,熱流量,温度)の差が小さくなるように,直流電源12は制御される。
【0029】
75に示すように,熱平衡に達したか否かがチェックされる。もし達していないならばブロック72-74の機能が続けられる。
【0030】
熱平衡に達すると,76に示すように,電気的測定手段50から,直流回路10の少なくともひとつの電気パラメータの少なくともひとつのリアルタイム測定を読み出し,77に示すように,少なくともひとつの電気パラメータの少なくともひとつの読み出したリアルタイム測定に基づいて,直流回路10の直流電力値を計算することによって,目標交流回路30の電力値49は求められる。78に示すように,計算した直流電力値を用いて,目標交流回路30の電力値49が計算される。
【0031】
直流回路10と目標交流回路30の電力損失の差が閾値よりも小さいことを熱感知手段20(即ち,それまたはそれらによって提供される測定結果)が示すとき,熱平衡に達したと判定(
図2,75を参照)するように平衡化部40は構成されてもよい。
閾値は,ゼロ値でもよいし,適切に選択された低い値でもよく,実装次第である。
【0032】
代替的に,直流回路10と目標交流回路30の電力損失の差が,時間に対する閾値レートよりも低い割合で変化することを,熱感知手段20(即ち,それまたはそれらによって提供される測定結果)が示すとき,熱平衡に達したと判定するように平衡化部40は構成されてもよい。閾値レートはゼロレート(即ち,変化しない,一定の状態)であってもよいし,または,適切に選択された低い変化率であってもよく,実装次第である。
【0033】
直流回路10は,直流電源12に接続された第1の抵抗器を備えることとしてもよい。
図3,4,5にそうした第1の抵抗器をR
DCとして示す。熱感知手段20は,第1の抵抗器R
DCでの電力損失に関する熱パラメータを少なくともひとつ測定するように適合される。
【0034】
有利には,熱感知手段20は,第1の抵抗器R
DC付近のそれぞれの位置に配置されて,それらそれぞれの位置の温度を測定するように適合された,温度センサの第1のセットを備えることとしてもよい。そうした温度センサの第1のセットを
図4の221及び
図5の321に示す。有利には,熱感知手段20は,目標交流回路30付近のそれぞれの位置に配置されて,それらそれぞれの位置の温度を測定するように適合された,温度センサの第2のセットを更に備えることとしてもよい。そうした温度センサの第2のセットを
図4の222,
図5の322に示す。
【0035】
有利には,直流回路10と目標交流回路30の間に配置される熱流量センサを少なくともひとつ熱感知手段20は備えることとしてもよい。そうした少なくともひとつの熱流量センサを
図3の120と
図5の320a,320bに示す。以下の説明で明らかなように,熱流量センサは,別の限定しない実施形態において,温度センサの代わりに,あるいは,温度センサと組み合わせて用いられてもよい。
【0036】
既に述べたように,装置1は,直流回路10と目標交流回路30との間に熱的に接続されたヒートシンクを少なくともひとつ備える。
図3,要素160a,160b,
図4,要素260,
図5,要素360を参照されたし。
【0037】
有利には,目標交流回路30は,交流電源に接続された第2の抵抗器を備えることとしてもよい。そうした第2の抵抗器を
図3,4,5にR
ACとして示す。熱感知手段20は,第2の抵抗器R
ACでの電力損失に関する熱パラメータを少なくともひとつ測定するように適合される。
【0038】
図3の第1の実施の形態について更に詳しく説明する。
図1の一般的な装置1と同様に,
図3の装置101は目標物130の電力値149を測定するための装置である。具体的に説明すると,目標物130は交流電源132を有する交流回路130であり,測定される電力値149は交流電力値140である。一般に,同様の参照番号nn(
図1)と1nn(
図3)は同一,類似または少なくとも対応した要素であり,nnは10,20,30等の整数である。
【0039】
装置101は,制御可能な直流電源112を有する直流回路110を備える。また,装置101は,直流回路の電気パラメータを測定するための電気的測定手段150を備える。
図3の実施形態では,電気的測定手段150は,精密抵抗器R
precの両端電圧として直流回路110の電気パラメータを測定するために接続された,RMS電圧計のような電圧計150を備える。電圧計150の出力は平衡化部140の入力142に接続される。
【0040】
更に,装置101は,直流回路110と目標交流回路130の電力損失に関する熱パラメータを少なくともひとつ測定するための熱感知手段120を備える。
図3の実施形態の熱感知手段120は,第1のヒートシンク160aと第2のヒートシンク160bとの間に配置された熱流量センサ120を備える。第1のヒートシンク160aは直流回路110の第1の抵抗器R
DCに熱的に接続され,第2のヒートシンク160bは目標交流回路130の第2の抵抗器R
ACに熱的に接続される。熱流量センサ120は,第1および第2のヒートシンク160a,160bの間の熱流量を測定し,測定された熱流量の形で熱パラメータを平衡化部140の入力144に供給するように構成される。第1および第2の抵抗器R
DC,R
ACは,同一の種類であって,等しい抵抗値を有する抵抗器であることが好ましい。
【0041】
図1の一般的な装置1と同様に,
図3の装置101の平衡化部140は,熱流量センサ120の形の熱感知手段によって測定された,少なくともひとつの熱パラメータに基づいて,直流回路110と目標交流回路130の間の電力損失の差が小さくなるように制御可能な直流電源112を制御するように構成される。
【0042】
熱平衡に達したとき,平衡化部140は,直流回路110の電気パラメータのリアルタイム測定を,精密抵抗器Rprecの両端電圧の測定値の形で電気的測定手段150から読み出すことにより,目標交流回路130の電力値149を測定するように構成される。
【0043】
そして,平衡化部140は,オームの法則:直流電力値=(精密抵抗器Rprecの両端電圧の測定値)2/(精密抵抗器Rprecの抵抗値)を用いて,読み出した精密抵抗器Rprecの両端電圧のリアルタイム測定値に基づいて,直流回路110の直流電力値を計算する。
【0044】
そして,平衡化部140は,例えば,目標交流回路の電力値149を,計算した直流電力値にそのまま設定することにより,計算した直流電力値を用いて,目標交流回路130の電力値149を計算する。
【0045】
熱流量センサ120上の入力144から受け取った,熱流量の測定値が,第1の抵抗器と第2の抵抗器の間の熱流量が存在しないかまたは最小限であることを示すとき,熱平衡に達したと判定するように平衡化部140は構成される。
【0046】
図1に関して既に述べたように,電力量149の測定値は,平衡化部140の出力148を介して,ユーザ,オペレータ,コンピュータ等に対して,表示され,報告され,または利用可能にされる。
【0047】
図4の第2の実施形態について更に詳しく説明する。
図1の一般的な装置1や
図3の第1の実施形態による装置101と同様に,
図4の装置201は目標物230の電力値249を測定するための装置であり,より具体的には,交流電源232を有する交流回路230の交流電力値249を測定するための装置である。ppは整数であり,後述する相違を除いて,類似の参照番号1pp(
図3)と2pp(
図4)は同一,類似または少なくとも対応する要素を表す。
【0048】
図3の熱流量センサ120に代わって,
図4の装置201は,それぞれ第1の抵抗器R
DCの付近のそれぞれの位置に配置された温度センサの第1のセット221と,第2の抵抗器R
AC付近のそれぞれの位置に配置された温度センサの第2のセット222との形で熱感知手段を備える。共通のヒートシンク260が,直流回路の第1の抵抗器R
DCと,交流回路の第2の抵抗器R
ACとに熱的に接続される。温度センサの第1および第2のセット221,222の温度センサは,それぞれ,各々の位置の温度を測定して,個々の熱パラメータを温度の測定値の形で平衡化部240の入力244に供給するように適合される。
【0049】
温度センサの第1および第2のセット221,222によって測定された温度に基づいて,直流回路210と目標交流回路230との間の電力損失の差が小さくなるように,制御可能な直流電源212を制御するものとして,
図4の装置201の平衡化部240は構成される。
【0050】
単純化した電気回路図を
図6に示す。単純化のため,電気回路図は,フィルタリング,ヒステリシス,サチュレーション,制約等の実務的なデザインの様相を含んでいない。そうした追加は,決して本発明を制限するものでも回避するものでもないと理解すべきである。温度センサの第1のセット221は,単一の温度センサ221(温度センサの第1のセット221の平均値を表すだろう)として図示され,温度センサの第2のセット222についても同様である。温度センサの第1および第2のセット221,222からの測定値信号は,
増幅器Aに対して,直接にフィードバックを提供する。増幅器Aは,平衡化部240によって実装され,直流電源212を制御し,従って第1の抵抗器R
DC
の電力損失を制御する。
【0051】
図6の
(単純化された
)構成では,第1の抵抗器R
DCでの電力損失を変えることによって,温度221および222を等しく維持することを回路は意図している。
【0052】
第1の抵抗器RDCの既知の抵抗値と共に,第1の抵抗器RDCの両端電圧を用いて直流側の電力損失を計算することができる。温度221,222が互いに等しいことは,第1の抵抗器RDCと第2の抵抗器RACの電力損失が互いに等しいことを意味するという知見と共に,交流回路230の交流電力値249は,直流回路210の直流測定の精度によって決定されるだろう。
【0053】
本実施形態では,温度センサの第1および第2のセット221,222から受け取った温度の測定値が,第1の抵抗器RDCと第2の抵抗器RACの間に温度差がないあるいは最小限であることを示すとき,熱平衡に達したと判定するように平衡化部240は構成される。
【0054】
図1,3に関して既に述べたように,測定した電力値249は,平衡化部240の出力248を介して,ユーザ,オペレータ,コンピュータ等に対し,表示され,報告され,利用可能にされてもよい。
【0055】
図5の第3の実施形態について詳しく説明する。
図1の一般的な装置1,
図3の第1の実施形態に従った装置101,
図4の第2の実施形態に従った装置201と同様に,
図5の装置301は,目標物330の電力値349を測定するための装置であり,より具体的には,交流電源332を有する交流回路330の交流電力値349を測定するための装置である。後述する相違を除いて,類似の参照番号1qq/2qq(
図3/
図4)および3qq(
図5)は,同一,類似または少なくとも対応する要素を表し,qqは整数である。
【0056】
図5の装置301は,第1の抵抗器R
DCと共通ヒートシンク360の間に配置された第1の熱流量センサ320a,
共通ヒートシンク360と第2の抵抗器R
AC
の間に配置された第
2の熱流量センサ320b,第1の抵抗器R
DC付近のそれぞれの位置に配置された温度センサの第1のセット321,および,第2の抵抗器R
AC付近のそれぞれの位置に配置された温度センサの第2のセット322の形で,熱感知手段を備える。共通ヒートシンク360は,直流回路310内の第1の抵抗器R
DCと,目標交流回路330内の第2の抵抗器R
ACとの間に配置され,第1および第2の熱流量センサ320a,320bに熱的に接続される。
【0057】
第1の熱流量センサ320aは,第1の抵抗器RDCと共通ヒートシンク360との間の熱流量を測定するように適合され,平衡化部340の入力344に熱流量の測定値の形で第1の熱パラメータを提供する。それに対して,第2の熱流量センサ320bは,共通ヒートシンク360と第2の抵抗器RACとの間の熱流量を測定するように適合され,平衡化部340の入力344(または他の入力)に熱流量の測定値の形で第2の熱パラメータを提供する。更に,温度センサの第1および第2のセット321,322の各温度センサは,それぞれの位置の温度を測定し,平衡化部340の入力344(または他の入力)に,温度の測定値の形でそれぞれの熱パラメータを提供するように適合される。
【0058】
図5の装置301の平衡化部340は,温度センサの第1および第2のセット321,322によって測定された温度と,第1および第2の熱流量センサ320a,320bから受け取った熱流量の測定値とに基づいて,直流回路310と目標交流回路330との間の熱流量
の差が小さくなるように,制御可能な直流電源312を制御するように構成される。
【0059】
本実施形態では,温度センサの第1および第2のセット321,322から受け取った温度の測定値が,第1の抵抗器RDCと第2の抵抗器RACとの間に温度差がないか最小限であることを示すとき,および/または,第1および第2の熱流量センサ320a,320bから受け取った熱流量の測定値が,第1の抵抗器RDCと第2の抵抗器RACとの間の熱流量がないか最小限であることを示すとき,熱平衡に達したと判定するように平衡化部340は構成される。
【0060】
熱平衡に達したとき,平衡化部340は,直流回路310の電気パラメータのリアルタイム測定値を精密抵抗器Rprecの両端電圧の測定値の形で電気的測定手段350から読み出すことにより,目標交流回路330の電力値349を求めるように構成される。
【0061】
そして,平衡化部340は,前述のようにオームの法則を用いて,精密抵抗器Rprecの両端電圧のリアルタイム測定値を読み出したものに基づいて直流回路310の直流電力値を計算する。そして,平衡化部340は,目標交流回路330の電力値349を,計算した直流電力値に設定するか,または,計算した直流電力値を用いて,前述のように目標交流回路330の電力値349を計算する。
【0062】
図1,3および4について既に述べたように,そうして求められた電力値349は,平衡化部340の出力348を介して,ユーザ,オペレータ,コンピュータ等に対して,表示され,報告され,または,利用可能とされてもよい。
【0063】
任意ではあるが,有利には,
図5の第3の実施形態は,共通ヒートシンク360付近のそれぞれの位置に配置された温度センサの第3のセット323を更に備えることとしてもよい。温度センサの第3のセット323の各センサは,各位置の温度を測定して,温度の測定値の形で平衡化部340に各熱パラメータを提供するように適合される。
【0064】
第1および第2の熱流量センサ320a,320bによって測定した熱流量
の有効性を確認するため,または,
その測定した熱流量を検証するため,温度センサの第3のセット323によって測定した温度を用いるように,平衡化部340は構成されてもよい。加えてまたは代替的に,温度センサの第1および第2のセット321,322によって測定した温度
の有効性を確認するため,または,
その測定した温度を検証するため,温度センサの第3のセット323によって測定した温度を用いるように,平衡化部340は構成されてもよい。更に加えてまたは代替的に,冷却部(
図5に図示していない)を制御して共通ヒートシンク360を冷却するため,温度センサの第3のセット323によって測定した温度を用いるように,平衡化部340は構成されてもよい。これにより,温度センサの第1および第2のセット321,322が,意図した動作範囲を維持しやすくなり,それによって,精確な温度読み取りを得る機会が増える。
【0065】
本発明のどの実施形態であっても,温度センサは例えばKタイプまたはEタイプの熱電対であってもよい。出力ゲインを上昇させるため熱電対を直列にしてもよいが,この場合,出力電圧は実際の温度に一定の倍率をかけたもの(scaled version)となる。
【0066】
本発明のどの実施形態であっても,熱流束センサは,例えば,スイス,チューリッヒ,CH-8005,テクノパーク1,greenTEG社のgSKIN(商標)タイプの熱流束センサであってもよい。
【0067】
本発明のどの実施形態であっても,平衡化部は,中央処理装置(central processing unit,CPU),デジタルシグナルプロセッサ(digital signal processor,DSP),特定用途向け集積回路(application-specific integrated circuit,ASIC),FPGA(field-programmable gate array)を備えるコンピュータシステムとして,または,ここで説明したような機能を実行可能なあらゆる電子回路によって,(ADCコンバータのような)インタフェース,供給回路,保護回路,フィルタ,メモリ等,必要に応じた回路と共に実装されてよい。
【0068】
代替的な発明の態様が以下の参照符号付きの条項に定義される。
【0069】
I. 制御可能な直流電源(12)を備える直流回路(10)と,
直流回路の少なくともひとつの電気パラメータを測定するための電気的測定手段(50)と,
直流回路(10)と目標物(30)の電力損失に関連した熱パラメータを少なくともひとつ測定するための熱感知手段(20)と,
電気的測定手段(50)と動作可能に接続された入力(42),熱感知手段(20)と動作可能に接続された少なくともひとつの入力(44),および,制御可能な直流電源(12)と接続された出力(46)を有する平衡化部(40)とを備え,
平衡化部(40)は,
熱感知手段(20)によって測定された熱パラメータの少なくともひとつに基づいて,直流回路(10)と目標物(30)との間の電力損失の差が小さくなるように,制御可能な直流電源(12)を制御し,
熱平衡に達したとき,直流回路(10)の少なくともひとつの電気パラメータの少なくともひとつのリアルタイム測定値を電気的測定手段(50)から読み出し,読み出した,少なくともひとつの電気パラメータの少なくともひとつのリアルタイム測定値に基づいて,直流回路(10)の直流電力値を計算し,計算した直流電力値を用いて目標物(30)の電力値を計算するように構成される,
目標物(30)の電力値(49)を測定するための装置(1)。
【0070】
II.目標物(30)は以下のいずれかである,条項Iに定義した装置。
・交流電源(132,232,332)を有する交流回路(30,230,330)
・交番磁界を電流に変換するための電磁装置
・光エネルギーを熱に直接変換するための感光装置
・ソーラーエネルギーのコレクタ/アキュムレータ
・印加された力学的な力に基づいて熱を生成するためのメカニカルダンパー
・熱を生成する化学反応
・圧力を熱に変換するための圧力コンバータ
【0071】
III . 直流回路(10)と目標物(30)の間の電力損失の差が閾値よりも小さいことを熱感知センサ(20)が示すとき,熱平衡に達したと判定するように平衡化部(40)が構成された,条項IまたはIIに定義した装置。
【0072】
IV. 直流回路(10)と目標物(30)との間の電流散逸の差が閾値レートよりも低いことを熱感知センサ(20)が示すとき,熱平衡に達したと判定するように平衡化部(40)が構成された,条項IまたはIIに定義した装置。
【0073】
V. 直流回路(10,110,210,310)は,直流電源(12,112,212,312)に接続された第1の抵抗器(RDC)を備え,熱感知手段(20,120,221,321,320a)は,前記第1の抵抗器(RDC)での電力損失に関連した熱パラメータの少なくともひとつを測定するように適合されてなる,前記条項のいずれかに定義された装置。
【0074】
VI. 熱感知手段は,第1の抵抗器(RDC)付近のそれぞれの位置に配置されて,前記それぞれの位置の温度を測定するように適合された,温度センサの第1のセット(221,321)を備え,熱感知手段は,更に,目標物(30)付近のそれぞれの位置に配置されて,前記それぞれの位置の温度を測定するように適合された,温度センサの第2のセット(222,322)を備える,条項Vに定義された装置。
【0075】
VII . 直流回路(10,110,310)と目標物(30,130,330)との間に配置された熱流量センサ(120,320a,320b)を少なくともひとつ熱感知手段は備える,前記条項のいずれかに定義された装置。
【0076】
VIII. 直流回路(10,110,310)と目標物(30,130,330)との間に熱的に接続されたヒートシンク(160a,160b,260)を少なくともひとつ更に備える,前記条項のいずれかに定義された装置。
【0077】
IX. 目標物(30)は,交流電源(132,232,332)を有する交流回路(130,230,330)であり,
交流回路(30,130,230,330)は,交流電源(132,232,332)に接続された第2の抵抗器(RAC)を備え,熱感知手段(20,120,222,322,320b)は,前記第2の抵抗器(RAC)での電力損失に関連した熱パラメータを少なくともひとつ測定するように適合されてなる,
前記条項のいずれかに定義された装置。
【0078】
X. 直流回路の第1の抵抗器(RDC)に熱的に接続された第1のヒートシンク(160a)と,
交流回路の第2の抵抗器(RAC)に熱的に接続された第2のヒートシンク(160b)とを更に備え,
熱感知手段は,第1のヒートシンク(160a)と第2のヒートシンク(160b)との間に配置された熱流量センサ(120)を備え,前記熱流量センサ(120)は,第1および第2のヒートシンクの間の熱流量を測定し,平衡化部(140)に対し,熱流量の測定値の形で熱パラメータを提供するように適合されてなる,
前記条項のいずれかに定義された装置。
【0079】
XI. 第1の抵抗器(RDC)と第2の抵抗器(RAC)との間の熱流量が存在しない,または,最小限存在することを,熱流量センサ(120)から受け取った熱流量の測定値が示すとき,熱平衡に達したと判定するように平衡化部(140)が構成された,条項Xに定義された装置。
【0080】
XII. 直流回路の第1の抵抗器(RDC)と交流回路の第2の抵抗器(RAC)とに熱的に接続された共通ヒートシンク(260)を更に備え,
熱感知手段は,
第1の抵抗器(RDC)の付近のそれぞれの位置に配置された温度センサの第1のセット(221)と,
第2の抵抗器(RAC)の付近のそれぞれの位置に配置された温度センサの第2のセット(222)とを備え,
温度センサの前記第1および第2のセットの各温度センサは,前記配置のそれぞれでの温度を測定し,平衡化部(240)に対して,温度の測定値の形でそれぞれの熱パラメータを提供するように適合されてなる,
条項IXに定義された装置。
【0081】
XIII. 第1の抵抗器(RDC)および第2の抵抗器(RAC)の間の温度差が存在しないか最小限存在することを,温度センサの第1および第2のセット(221,222)から受け取った温度の測定値が示すとき,熱平衡に達したと判定するように平衡化部(240)が構成された,条項XIIに定義された装置。
【0082】
XIV. 直流回路の中の第1の抵抗器(RDC)と交流回路の中の第2の抵抗器(RAC)との間に配置された共通ヒートシンク(360)を更に備え,
熱感知手段は,
第1の抵抗器(RDC)と共通ヒートシンク(360)との間に配置された第1の熱流量センサ(320a)と,
共通ヒートシンク(360)と第2の抵抗器(RAC)の間に配置された第2の熱流量センサ(320b)と,
第1の抵抗器(RDC)付近のそれぞれの位置に配置された温度センサの第1のセット(321)と,
第2の抵抗器(RAC)付近のそれぞれの位置に配置された温度センサの第2のセット(322)とを備え,
前記第1の熱流量センサ(320a)は,第1の抵抗器(RDC)と共通ヒートシンク(360)との間の熱流量を測定し,熱流量の測定値の形で第1の熱パラメータを平衡化部(340)に提供するように適合され,
前記第2の熱流量センサ(320b)は,共通ヒートシンク(360)と第2の抵抗器(RAC)との間の熱流量を測定し,熱流量の測定値の形で第2の熱パラメータを平衡化部(340)に提供するように適合され,
温度センサの前記第1および第2のセット(321,322)の各温度センサは,前記位置のそれぞれの温度を測定し,温度の測定値の形でそれぞれの熱パラメータを平衡化部(340)に提供するように適合される,条項IXに定義された装置。
【0083】
XV. 第1の抵抗器(RDC)と第2の抵抗器(RAC)との間の温度差が存在しないか最小限存在することを,温度センサの第1および第2のセット(321,322)から受け取った測定値が示すとき,および/または,第1の抵抗器(RDC)と第2の抵抗器(RAC)の間の熱流量が存在しないか最小限存在することを,第1および第2の熱流量センサ(320a,320b)から受け取った熱流量の測定値が示すとき,熱平衡に達したと判定するように平衡化部(340)が構成された,条項XIVに定義された装置。
【0084】
XVI. 共通ヒートシンク付近のそれぞれの位置に配置された温度センサの第3のセット(323)を更に備え,温度センサの前記第3のセットの各温度センサは,前記位置のそれぞれの温度を測定して,温度の測定値の形でそれぞれの熱パラメータを平衡化部(340)に提供するように適合されてなる,条項XVに定義された装置。
【0085】
XVII. 温度センサの第3のセット(323)によって測定した温度を,
a) 第1および第2の熱流量センサ(320a,320b)によって測定された熱流量を検証するため,
b) 温度センサの第1および第2のセット(321,322)によって測定された温度を検証するため,および,
c)共通ヒートシンク(360)の冷却のために冷却部を制御するため,
の少なくともひとつのために用いるように平衡化部(340)が構成された,条項XVIに定義された装置。
【0086】
XVIII. 直流回路(10)は既知の抵抗値を有する精密抵抗器(Rprec)を備え,
電気的測定手段(50)は,精密抵抗器(Rprec)の両端電圧の形で電気パラメータを少なくともひとつ測定するための電圧計(150,250,350)を備える,
前記条項のいずれかに定義された装置。
【0087】
XIX. 直流回路(10)に直流電力を供給するため,制御可能な直流電源(12)を操作(72)し,
直流回路(10)と目標物(30)の電力損失に関連した熱パラメータを少なくともひとつ測定(73)し,
直流回路(10)と目標物(30)の間の電力損失の差が小さくなるように,少なくともひとつの熱パラメータの測定値に基づいて,直流電源(12)を制御(74)し,
熱平衡に達したとき(75),
直流回路(10)の少なくともひとつの電気パラメータの少なくともひとつのリアルタイム測定値を読み取り(76),
読み取った,少なくともひとつの電気パラメータの少なくともひとつのリアルタイム測定値に基づいて,直流回路(10)の直流電力値を計算(77)し,
計算した直流電力値を用いて,目標物(30)の電力値(49)を計算(78)することにより,目標物(30)の電力値(49)を測定する
ことを含む,目標物(30)の電力値(49)を測定する方法。
【0088】
本発明の実施形態を参照して本発明について詳細に説明した。しかし,当業者には容易に理解されるように,添付した請求項に定義された発明として,他の実施形態も本発明の範囲に同様に含まれうる。