(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】鉄道車両用レールの汚れ及び清掃の評価方法
(51)【国際特許分類】
B61K 9/08 20060101AFI20221102BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20221102BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20221102BHJP
B60T 8/172 20060101ALI20221102BHJP
G01M 17/10 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
B61K9/08
B60L15/20 Y
B60L3/00 N
B60T8/172 B
G01M17/10
(21)【出願番号】P 2019566678
(86)(22)【出願日】2018-06-12
(86)【国際出願番号】 IB2018054224
(87)【国際公開番号】W WO2018229638
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-06-07
(31)【優先権主張番号】102017000064371
(32)【優先日】2017-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】516351289
【氏名又は名称】フェヴレ・トランスポール・イタリア・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】FAIVELEY TRANSPORT ITALIA S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100183232
【氏名又は名称】山崎 敏行
(72)【発明者】
【氏名】マッテオ・フレア
(72)【発明者】
【氏名】ルク・インベルト
【審査官】金田 直之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0371959(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0065701(US,A1)
【文献】特開2004-294303(JP,A)
【文献】特開平02-074105(JP,A)
【文献】特開2012-010505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61K 9/08
B61C 15/00, 15/14
B60L 3/00, 15/20, 15/28
B60T 8/172, 8/176, 8/1763
G01M 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両用の、レールの汚れを評価する方法であって、
鉄道車両の制御される第1車軸(A1)の車輪(W1)とレールとの間に、既定の第1しきい値(t1)よりも低い第1滑走値(δ1)を設定すること、ここで制御される第1車軸(A1)は、鉄道車両の進行方向において鉄道車両の先頭車軸である、
制御される第2車軸(A2)の車輪とレールとの間に、既定の第2しきい値(t2)よりも大きい第2滑走値(δ2)を設定すること、ここで第2車軸(A2)は、列車の進行方向において第1車軸(A1)の後の車軸であり、既定の第2しきい値(t2)は、既定の第1しきい値(t1)よりも大きい、
第1車軸(A1)の車輪とレールとの間の
測定された第1粘着力値(μ1)、及び第2車軸(A2)の車輪とレールとの間の
測定された第2粘着力値(μ2
)を比較して、鉄道車両の制御される複数の車軸(An)に属する車輪(W)とレールとの間の粘着力曲線の傾向を決定すること、
を備えた、
レールの汚れ評価方法。
【請求項2】
鉄道車両の制御される複数の車軸(An)に属する車輪(W)とレールとの間の粘着力曲線の傾向を決定するステップは
、
第2粘着力値(μ2)が第1粘着力値(μ1)よりも大きい場合には、鉄道車両の制御される複数の車軸(An)に属する車輪(W)とレールとの間の粘着力曲線は、既定の第2しきい値(t2)よりも大きい滑走値(δp)で粘着力のピーク値(μp)を有する傾向を持った粘着力曲線であると決定すること、
第2粘着力値(μ2)が第1粘着力値(μ1)よりも低い場合には、鉄道車両の制御される複数の車軸(An)に属する車輪(W)とレールとの間の粘着力曲線は、既定の第1しきい値(t1)よりも低い滑走値(δp)で粘着力のピーク値(μp)を有する傾向を持った粘着力曲線であると決定すること、
を備える、請求項1に記載のレールの汚れ評価方法。
【請求項3】
a)鉄道車両の制御される複数の車軸(An)に属する車輪(W)とレールとの間の粘着力曲線が、既定の第2しきい値(t2)よりも大きい滑走値(δp)で粘着力のピーク値(μp)を有する傾向を持った粘着力曲線であると決定された場合には、当該方法は、 - 制御される全ての車軸の車輪とレールとの間に、既定の第2しきい値(t2)よりも大きい滑走値(δ)を設定することを備え、
b)鉄道車両の制御される複数の車軸(An)に属する車輪(W)とレールとの間の粘着力曲線が、既定の第1しきい値(t1)よりも低い滑走値(δp)で粘着力のピーク値(μp)を有する粘着力曲線であると決定された場合には、当該方法は、さらに、
- 第1粘着力値(μ1)と第2粘着力値(μ2)との差によって粘着力差分値(Δμslide)を計算すること、
- 少なくとも一つの第3車軸(A3)の車輪とレールとの間に、既定の第2しきい値(t2)よりも大きい第2滑走値(δ2)を設定すること、ここで第3車軸(A3)は、列車の進行方向において第2車軸(A2)の後の車軸である、
- 第3車軸(A3)の車輪のために第2車軸(A2)の車輪の清掃効果によって生成される粘着力差分値(Δμclean)を計算すること、ここで清掃効果によって生成される粘着力差分値(Δμclean)は、第3車軸(A3)の車輪とレールとの粘着力値(μ3)と、第2車軸(A2)の車輪とレールとの粘着力値(μ2)との差によって得られる、
- 車輪の清掃効果によって生成される粘着力差分値(Δμclean)が、
車軸数に反比例する値である適応ファクター(Fad)を乗じ
た粘着力差分値(Δμslide)に対して優勢である場合には、制御される全ての車軸(A1, ...,An)の車輪とレールとの間に、既定の第2しきい値(t2)よりも大きい滑走値(δ)を設定すること、
- 車輪の清掃効果によって生成される粘着力差分値(Δμclean)が、
車軸数に反比例する値である適応ファクター(Fad)を乗じ
た粘着力差分値(Δμslide)に対して優勢でない場合には、制御される全ての車軸(A1, ...,An)の車輪とレールとの間に、既定の第1しきい値(t1)よりも低い滑走値(δ)を設定すること、
を備える、請求項2に記載のレールの汚れ評価方法。
【請求項4】
鉄道車両の制御される複数の車軸(An)に属する車輪(W)の粘着力曲線が、既定の第1しきい値(t1)よりも低い滑走値(δp)で粘着力のピーク値(μp)を有する粘着力曲線であると決定された場合には、当該方法は、さらに、
制御される全ての車軸(A1, ...,An)の車輪とレールとの間に、既定の第2しきい値(t2)よりも大きい滑走値(δ2)を設定した後、
車軸数に反比例する値である適応ファクター(Fad)を乗じ
た粘着力差分値(Δμslide)に対して、車輪の清掃効果によって生成される粘着力差分値(Δμclean)が優勢でないことに起因して、先行する車軸(An)の車輪の粘着力値(μn)が次の車軸における車輪の粘着力値に一致する場合には、少なくとも一つの後続の車軸の車輪とレールとの間に、既定の第1しきい値(t1)よりも低い第1滑走値(δ1)を設定すること、
を備える、請求項3に記載のレールの汚れ評価方法。
【請求項5】
当該方法は、既定の時間間隔後に繰り返される、請求項1から4のいずれかに記載のレールの汚れ評価方法。
【請求項6】
当該方法は、鉄道車両が既定距離を移動した後に繰り返される、請求項1から4のいずれかに記載のレールの汚れ評価方法。
【請求項7】
既定の第1しきい値(t1)は、5%よりも低い滑走値を有し、既定の第2しきい値(t2)は、15%と25%との間の滑走値を有する、請求項1から6のいずれかに記載のレールの汚れ評価方法。
【請求項8】
鉄道車両用レールの清掃の評価方法であって、
鉄道車両の制御される第1車軸(A1)の車輪(W1)とレールとの間に、既定の第1しきい値(t1)よりも低い第1滑走値(δ1)を設定すること、ここで制御される第1車軸(A1)は、鉄道車両の進行方向における鉄道車両の先頭車軸である、
制御される第2車軸(A2)の車輪とレールとの間に、既定の第2しきい値(t2)よりも大きい第2滑走値(δ2)を設定すること、ここで、第2車軸(A2)は、列車の進行方向において第1車軸(A1)の後の車軸であり、既定の第2しきい値(t2)は、既定の第1しきい値(t1)よりも大きい、
制御される第3車軸(A3)の車輪とレールとの間に、第2滑走値(δ2)に等しい第3滑走値(δ3)を設定すること、ここで第3車軸(A3)は、列車の進行方向において第2車軸(A2)の後の車軸である、
第2車軸(A2)の車輪とレールとの間の
測定された第1粘着力値(μ2)、及び第3車軸(A3)の車輪とレールとの間の
測定された第2粘着力値(μ3
)を比較して、第3車軸(A3)のために第2車軸(A2)の滑走によって生成されたレールの清掃の有効性を決定すること、
を備えた、鉄道車両用レールの清掃の評価方法。
【請求項9】
レールの清掃の有効性を決定するステップは
、
第2粘着力値(μ3)と第1粘着力値(μ2)との間の減算動作を実行することによって清掃の有効性を決定すること、
を備える、請求項8に記載のレールの清掃の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車輪とレールとの間の粘着力値を制御するための方法の分野に関する。特に、本発明は、特に鉄道車両用のレールの汚れ及び清掃の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最新の鉄道車両には電子システムが組み込まれており、それは、車輪滑動制御サブシステムを典型的に含み、車両が牽引状態にあるとき、及び車両が制動状態にあるときの両方で介入することを意図している。それらのサブシステムは、滑動防止あるいは滑走防止システム、又は、WSP(Wheel Slide Protection:滑走防止)システムとして知られている。
【0003】
従来技術による、滑動防止機能のような、車輪の粘着力を制御するシステムは、添付の
図1に概略的に示されており、これは、n個の制御される車軸(制御車軸)A1、A2、…Anを有する車両を参照している。車軸A1、A2、…Anは、それぞれのシャフトS1、S2、…Sn、及び回転に必須のそれぞれの車輪W1、W2、…Wnを備える。
【0004】
図面では、各車軸における一つのみの車輪を大まかに図示している。
【0005】
図1のWSPシステムは、典型的にマイクロプロセッサ構造に基づく電子制御ユニットECUを備え、該ECUは、そのような車軸とそれぞれ関連付けられる検出器SS1、SS2、…SSnからの各車軸A1、A2、…Anの角速度に関する回転計信号を受信する。また電子制御ユニットECUは、それぞれの車軸A1、A2、…Anと各々が関連するトルク制御装置TC1、TC2、…TCnに接続される。
【0006】
電子制御ユニットECUは、粘着力が低下した状況における牽引又は制動の間にトルクを付与する場合において、一もしくは複数の車軸の車輪が初期の滑動状態になり得る場合に、既定のアルゴリズムに従い各車軸に適用するトルクの調整を実行するように準備されている。トルク調整は、車軸の完全なロックを防止するような方法において、場合によっては粘着力を回復する意図により、及びいずれの場合でも、粘着力が低下した状況の全期間にわたり各車軸を制御された滑走状況にするように、実施される。
【0007】
図2では、曲線1、2、3は、周囲条件に従って粘着力(粘着性)の傾向を定性的に表している。即ち、曲線1は、車輪とレール間の乾燥接触条件における粘着状態に相当し、曲線2は、車輪とレールとの間に水分が存在する粘着状態に相当し、曲線3は、車輪とレールとの間に粘性物質、例えば油もしくは腐った葉(秋期間における典型的な状態)、又は水分と混ざった一様なさび(鉄道の駅における典型的な状態)が存在する粘着状態を表している。
【0008】
粘着力のピークa1,a2,a3でのδの値は、粘着条件における変化に伴い変わり、
図2においてAで示すような曲線に沿って移動するということが経験的に分かっている。
【0009】
図3は、車軸の車輪に作用する力を図示する図である。この図から、次のことが明らかである。
【0010】
ここで、Fmは、牽引及び/又はブレーキシステムによって車輪に作用する接線力、Rは、車輪の半径、Jは、車軸の慣性モーメント、
は、車軸の瞬間角加速度である。
【0011】
同じ瞬間角加速度で、最大適用力Fmが最大粘着力値μ、つまり
図2の曲線A上に存在する各点、で得られる、ということは明らかである。
【0012】
例えば
図2におけるb点に対応する条件のような状況において車軸が滑走する場合、利用可能な力Fmの値は、粘着力値μの減少の結果として減少する。しかしながら、車輪-レールの接触点でのエネルギー注入の事実は、車両の速度Vvと車輪の接線速度Vr間の滑り(相違)に比例して、パワー(単位時間あたりに注入されるエネルギー)によって得られる。即ち、
P(δ)=F
A(δ)・(Vv-Vr)=μ(δ)・m・g・(Vv-Vr)=μ(δ)・m・g・δ・Vv (5)
【0013】
上の式(5)は、δを増すことによって、車輪-レールの接触点に加えられるパワーの増加がどのように得られるかを示している。このエネルギーの注入は、結果として生じる接触点の清掃効果と共に車輪の過熱を引き起こし、次の車輪に関して瞬間粘着力値μを改善する。
【0014】
水分又は雨の場合、顕著な清掃効果が得られ、一方、潤滑油又は腐った葉の存在では、清掃効果は殆ど公表されていないことがさらに知られている。
【0015】
車輪とレール間の粘着力を回復させる現状のシステムは、固定の滑走値δ、典型的に0.2と0.3との間で、具体的な値は車両の承認試験での信頼のおける方法において較正される、を強要している。したがって選択されたδ値は、承認試験で滑動状態を引き起こすために使用される潤滑油の種類に関して最適化されたものであり、例えば、EN15595:2009+A1,Railway Applications-Braking-Wheel Slide Protectionの、6.4.2.1項に規定されているようなものであり、その一方で、車両の通常運行で滑動状態を引き起こす可能性のある全ての種類の物質に関して最適化されたものではない。
【0016】
図4Aのグラフは、4つの車軸を有する車両における全体の粘着力のピーク値がδの変化によってどのように変化するかを、定性的方法において示している。即ち、
図4Aのように、δ1値に対応する粘着力で全ての車軸を滑走させ、実質的に清掃ファクターは存在せず、よって、4つの車軸に対応する4つの粘着力曲線は実質的に互いに一致し、各車軸は最大ピーク粘着力値μ(δ1)を利用する。
【0017】
一方、
図4Bのように、滑走値δ2に対応する粘着力で車軸を滑走させた場合、高い清掃ファクターが得られるであろう。即ち、車両の第1車軸(進行方向において)に対応するμ1曲線のみが変化しないままであり
図4Aの曲線に等価であり、一方、後の各車軸に対応する各曲線は、先行の車軸によって達成された清掃効果のため、増加した粘着力値を有するだろう。各車軸に関する値μ(δ2)は、対応する値μ(δ1)よりも実際に低い。
【0018】
図4Cに定性的に示されるように、δ1≦δ≦δ2の範囲において、全体の粘着力のピーク値の平均
が存在する。
【0019】
上に記述したものを拡張することによって、n個の車軸を有する車両又は列車に適用される。
【0020】
滑走値δの関数として粘着力値μを表す曲線は、分析的方法では数学的に説明されないかもしれず、また滑動、接触点の形状、及び外的周囲条件を引き起こす条件の変化によって連続的に変化することから、推測的に最適な滑走値δを分析的に計算することは可能ではない。
【0021】
しかしながら、優れた粘着力制御及び可能な回復システムは、瞬間粘着力条件をリアルタイムにて分析することができるべきであり、また、δ値の変化によってその傾向を検証し、
を最大化するようにδ値を特定すべきである。そのような値は、滑動において最大の粘着力回復を可能にし、減少した粘着力状態における制動事象での停止距離を最小化する値である。
【0022】
上述した問題を未然に防ぐために、WO 2006/113954 Aは、経時的に連続して実行される、鉄道車両用の滑走制御を記述しており、これは、滑走条件における後続の所望性能を考慮して必要なパラメーターの、最適な粘着力条件における、識別を必要とする。そのような方法は、さらに、システム全体の減速を知ることを必要とする。
【0023】
さらに、最適な滑走値を調整するプロセスは、著しく長い時間を要する。この調整プロセスは、滑動段階の初め、つまり車両が高速で走行しているときに実行されることから、車両が進む距離は、かなり増加する。
【0024】
さらに加えて、従来技術によって実現されるプロセス及びシステムは、車輪の粘着力曲線が、常に、例えば1-2%のオーダーにおける小さい滑走値で、粘着力のピーク値μpを有する曲線である、という仮定に基づいている。
【0025】
実際には、車輪の粘着力曲線は、必ずしも小さい滑走値で、粘着力のピーク値μpを有する曲線であるとは限らない。即ち、それら曲線は、例えば20-25%のオーダーにおける値のような、より大きな滑走値で粘着力のピーク値μpを有する曲線であることもある。
【0026】
このような第2の場合(上の実際の場合)において、あたかも曲線が小さい滑走値で、粘着力のピーク値μpを有する曲線であるかのように、誤って作動した場合、即ち、車輪粘着力のピーク値を得るために、小さい滑走値が車輪とレールとの間に設定された場合には、所望の効果は、達成されない。実際には、例えば20-25%のオーダーにおける値のような、より大きな滑走値で粘着力のピーク値μpを有する曲線は、小さい滑走値では、劣った粘着力レベル及び不十分な清掃効果を提示する(設定された粘着力が低いと仮定すると)。
【0027】
したがって、上の第2の場合では、各車輪における一つ一つの粘着力値を考慮した、上述の平均粘着力値は、最適値にはならないであろう。
【発明の概要】
【0028】
本発明の目的は、車両の複数の制御される車軸に属する車輪の粘着力曲線に沿った粘着力のピーク位置を決定し、それにより鉄道車両の制御される車軸における車輪の粘着力の改善された制御及び可能な回復を得ることを可能にする、レールの汚れの評価方法を提案することであり、並びに、鉄道車両における別々の連続する車軸間の清掃効果のより良い評価を提案可能にするレール清掃の評価方法を提案することである。
【0029】
本発明の態様による、上述の及び他の目的、並びに利点は、請求項1に規定する特徴を有する、レールの汚れ評価方法によって、及び、請求項8に規定する特徴を有する、レールの清掃評価方法によって達成される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項に規定され、その内容は、本願明細書の不可欠な部分及び本願明細書を完全なものにする部分として意図される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、鉄道車両における車輪の滑動防止制御システムのブロック図である。
【
図2】
図2は、x軸に示される滑走値δの関数として、y軸に示され車軸における車輪の粘着係数μの定性的な傾向を示すグラフである。
【
図3】
図3は、車軸の車輪に作用する力を説明する図である。
【
図4A】
図4Aは、2つの異なる動作条件において、車両の4つの車軸における各車輪の粘着係数の定性的な傾向を示すグラフである。
【
図4B】
図4Bは、2つの異なる動作条件において、車両の4つの車軸における各車輪の粘着係数の定性的な傾向を示すグラフである。
【
図4C】
図4Cは、ピーク値付近での平均粘着力曲線μaverageの傾向を説明している。
【
図5】
図5は、既定の第1しきい値よりも低い滑走値で粘着力のピークを有する粘着力曲線を図示するグラフである。
【
図6】
図6は、既定の第2しきい値よりも大きい滑走値で粘着力のピークを有する粘着力曲線を図示するグラフである。
【
図7】
図7は、レールの清掃効果が存在する場合において、4つの連続する車軸に属するそれぞれの車輪の4つの粘着力曲線を示している。
【
図8】
図8は、レールと車軸の車輪との間に、粘着力のピーク値に一致するように滑走値が設定され、よってレールの清掃効果が存在しない場合において、4つの連続する車軸に属するそれぞれの車輪の4つの粘着力曲線を示している。
【
図9】鉄道車両の複数の制御される車軸に属する車輪の粘着力曲線が既定の第1しきい値よりも小さい滑動値で粘着力ピークを示し、車軸の車輪とレールとの間に設定された滑走値が既定の第2しきい値よりも大きい滑走値である場合において、
図9は、4つの連続する車軸に属するそれぞれの車輪の4つの粘着力曲線を示している。
【
図10】粘着力曲線が既定の第2しきい値よりも大きい滑走値で粘着力のピークを示し、車軸の車輪とレールとの間に設定された滑走値が既定の第2しきい値よりも大きい滑走値である場合において、
図10は、4つの連続する車軸に属するそれぞれの車輪の4つの粘着力曲線を示している。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の更なる特徴及び利点は、以下に添付の図面を参照して単に非限定の例示によって提供される詳細な説明から明らかになるであろう。
【0032】
発明における複数の実施形態の詳細な記述を行う前に、発明は、その適用において、以下の記述において提供された又は図面に図示された部品の構造又は構成の詳細に限定されないということは、明確にされるべきである。発明は、他の実施形態を想定してもよいし、本質的に異なる方法で実施又は達成されてもよい。表現及び専門用語は、記述的目的を有し、限定するものとして理解されるべきではない、ということもまた、理解されるべきである。「含む(include)」、「備える(comprise)」、及びそれらの変形の使用は、その後に述べられる要素及びその等価物、並びに追加の要素及びその等価物を包含するように理解されるものである。
【0033】
以下の記述からより明らかになるように、本発明による方法は、車両における複数の制御される車軸に属する車輪における粘着力曲線に沿った粘着力のピーク位置の決定を可能にし、及び、鉄道車両の制御される車軸における車輪の改善された制御及び粘着力の可能な回復を得ることを可能にする。
【0034】
最初に、
図5等の粘着力曲線を参照して、1-2%のオーダーにおける小さな滑走値に対して粘着力ピーク値μpが得られる。
【0035】
粘着力ピーク値μpが得られる滑走値としてδpを定義すると、以下のことが明らかである。即ち、
車軸がδp付近で滑走した場合(僅かな滑走)、ピーク値μpと推測する局所的な粘着力のために、無視可能な清掃効果が存在するであろう。
反対に、車軸がより大きい滑走値δで滑走した場合、後続の車軸に対して可能な清掃効果のために局所的な粘着力の減少が存在するであろう。このような効果は、存在する汚れの種類及び量に依存して多かれ少なかれ効果があるだろう。清掃の有効性は、推測的な不明なデータである。
【0036】
したがって、車軸の平均粘着力を最大化するために、車軸に働かせる滑走点の選択は、一般的に2つのファクターを考慮しなければならない。即ち、
1.後続の車軸における清掃のメリット(局所的な滑走が増すにつれて増す)、及び
2.局所的な粘着力値(滑走が増すにつれて減少する)
【0037】
反対に、
図6のような粘着力曲線の場合では、文献から、及び鉄道車両において実行された実験的試験の結果から、粘着力曲線の傾向は、多くのファクター、その中の、汚れの種類、汚れの量、及び車両の重量に依存することが分かってきている。必ずしも全ての粘着力曲線が、
図5のような、小さい滑走値に対して粘着力ピーク値μpを示すことはない。
図6の曲線のように、
に対して得られる場合もある。
【0038】
そのような場合、即ち、
車軸が小さい滑走値(例えば、δ=1-2%)で滑走する場合には、清掃効果は、事実上、ゼロであろうし、局所的粘着力は、ピーク値に対して減じられるだろう。
反対に、
で滑走する場合には、後続の車軸に関して局所的粘着力及び清掃効果の可能性の両方においてメリットがあるだろう。
【0039】
したがって
図6のような粘着力曲線の場合では、清掃の有効性に関わらず、最も適切な選択は、全ての車軸を、局所的粘着力及び清掃効果の可能性の両方を最大化する大きい滑走値
にすることである。
【0040】
上述のコンセプトに基づいて、レール、特に鉄道車両用のレール、の汚れの評価方法は、以下のステップを備える。即ち、
鉄道車両の制御される第1車軸A1における車輪W1とレールとの間に、既定の第1しきい値t1よりも下の(低い、小さい)第1滑走値δ1を設定すること、ここで、制御される第1車軸A1は、鉄道車両の進行方向における鉄道車両の先頭車軸である、
制御される第2車軸A2における車輪とレールとの間に、既定の第2しきい値t2よりも大きい第2滑走値δ2を設定すること、ここで、第2車軸A2は、列車の進行方向における第1車軸A1の後の車軸であり、既定の第2しきい値t2は、既定の第1しきい値t1よりも大きい、
第1車軸A1の車輪とレールとの間の第1粘着力値μ1、及び第2車軸A2の車輪とレールとの間の第2粘着力値μ2に基づいて、鉄道車両における制御される複数の車軸Anに属する車輪Wとレールとの間の粘着力曲線の傾向を決定すること。
【0041】
鉄道車両における制御される複数の車軸Anに属する車輪Wとレールとの間の粘着力曲線の傾向を決定するステップは、さらに、第1車軸A1の車輪とレールとの間の第1粘着力値μ1、及び第2車軸A2の車輪とレールとの間の第2粘着力値μ2を測定すること、
第2粘着力値μ2が第1粘着力値μ1よりも大きい場合には、鉄道車両における制御される複数の車軸Anに属する車輪Wとレールとの間の粘着力曲線は、既定の第2しきい値t2よりも大きい滑走値δpで粘着力のピーク値μpを有する傾向を持った粘着力曲線であると決定すること、及び、
第2粘着力値μ2が第1粘着力値μ1よりも低い場合には、鉄道車両における制御される複数の車軸Anに属する車輪Wとレールとの間の粘着力曲線は、既定の第1しきい値t1よりも低い滑走値δpで粘着力のピーク値μpを有する傾向を持った粘着力曲線であると決定すること、を備えてもよい。
【0042】
例として、既定の第1しきい値t1は、約5%の滑走値と一致してもよく、また、制御される第1車軸A1の車輪とレールとの間の既定の第1しきい値よりも小さい第1滑走値δ1は、約1-2%であってもよい。既定の第2しきい値t2は、約15%と25%との間の滑走値と一致してもよく、また、少なくとも一つの制御される第2車軸A2の車輪とレールとの間の既定の第2しきい値よりも大きい第2滑走値δ2は、約20%-25%であってもよい。
【0043】
好ましくは、第2滑走値δ2は、約25%に等しい限界滑走値δlimitを超えない。
【0044】
鉄道車両における制御される複数の車軸Anに属する車輪Wとレールとの間の粘着力曲線が、既定の第2しきい値t2よりも大きい滑走値で粘着力のピーク値μpを示す傾向を有する粘着力曲線である場合には、レールの汚れの評価方法は、以下のステップを備えてもよい。即ち、
制御される全ての車軸の車輪とレールとの間に、既定の第2しきい値t2よりも大きい滑走値δを設定すること。
【0045】
一方、鉄道車両における制御される複数の車軸Anに属する車輪Wとレールとの間の粘着力曲線が、既定の第1しきい値t1よりも小さい滑走値δpで粘着力のピーク値μpを有する傾向を持った粘着力曲線であると決定されている場合には、レールの汚れの評価方法は、以下のステップを備えてもよい。即ち、
第1粘着力値μ1と第2粘着力値μ2間の差によって粘着力差分値Δμslideを計算すること、
少なくとも一つの第3車軸A3の車輪とレールとの間に、既定の第2しきい値t2よりも大きい第2滑走値δ2を設定すること、ここで、第3車軸A3は、列車の進行方向において第2車軸A2の後の車軸である、
第3車軸A3の車輪のために第2車軸A2の車輪の清掃効果によって生成される粘着力差分値Δμcleanを計算すること、ここで、清掃効果によって生成される粘着力差分値Δμcleanは、第3車軸A3の車輪とレールとの間の粘着力値μ3と、第2車軸A2の車輪とレールとの間の粘着力値μ2との差によって得られる、
車輪の清掃効果によって生成される粘着力差分値Δμcleanが、適応ファクターFadを乗じた粘着力差分値Δμslide、その値は車軸数に反比例する、に対して優勢である場合には、制御される全ての車軸A1、…、Anの車輪とレールとの間に、既定の第2しきい値t2よりも大きい滑走値δを設定すること、
車輪の清掃効果によって生成される粘着力差分値Δμcleanが、適応ファクターFadを乗じた粘着力差分値Δμslide、その値は車軸数に反比例する、に対して優勢ではない場合には、制御される全ての車軸A1、…、Anの車輪とレールとの間に、既定の第1しきい値t1よりも低い滑走値δを設定すること。
【0046】
鉄道車両における制御される複数の車軸Anに属する車輪Wの粘着力曲線が、既定の第1しきい値t1よりも小さい滑走値δpで粘着力のピーク値μpを有する粘着力曲線であると決定されている場合には、レールの汚れの評価方法は、以下のステップを備えてもよい。即ち、
制御される全ての車軸A1、…、A0の車輪とレールとの間に、既定の第2しきい値t2よりも大きい滑走値δ2を設定した後、適応ファクターFadを乗じた粘着力差分値Δμslide、その値は車軸数に反比例する、に対して、車輪の清掃効果によって生成される粘着力差分値Δμcleanが優勢ではないことに起因して、先行の車軸Anの車輪の粘着力値μnが次の車軸An+1の車輪の粘着力値μn+1に一致する場合には、少なくとも一つの後続の車軸An+1、An+2、…の車輪とレールとの間に、既定の第1しきい値t1よりも低い第1滑走値δ1を設定すること。
【0047】
上述の最後のステップに起因して、進行方向における第1車軸において示されるレールの清掃効果は、後続の車軸に関して粘着力における増加をもはや伴わず(例えば、レールは全く汚れていないので)、その結果、後続の車軸では、レールを清掃するのに役立つ滑走値ではなく、粘着力のピーク値に対応する滑走値を設定することが適切である、ということに注意してもよい。
【0048】
例として、先行の車軸Anとして第2車軸を、次の車軸An+1として第3車軸を考えたとき、制御される全ての車軸の車輪とレールとの間に、既定の第2しきい値t2よりも大きい滑走値δ2を設定した後、適応ファクターFadを乗じた粘着力差分値Δμslideに対して、車輪の清掃効果によって生成される粘着力差分値Δμcleanが優勢ではないことに起因して、第2車軸A2(先行の車軸An)の車輪の粘着力値μ2が第3車軸(次の車軸An+1)の車輪の粘着力値μ3に一致する場合には、第3の後の車軸の車輪とレールとの間に、既定の第1しきい値t1よりも小さい第1滑走値δ1が設定されてもよい。
【0049】
例として、レールの汚れ評価方法は、既定の時間間隔(例えば30秒毎)後に繰り返されてもよく、又は、鉄道車両が既定距離を移動した後に繰り返されてもよい。
【0050】
発明は、さらに、鉄道車両用レールの清掃を評価する方法を備え、該方法は、以下のステップを備える。即ち、
鉄道車両の制御される第1車軸A1の車輪W1とレールとの間に、既定の第1しきい値t1よりも低い第1滑走値δ1を設定すること、ここで、制御される第1車軸A1は、鉄道車両の進行方向における鉄道車両の先頭車軸である、
制御される第2車軸A2の車輪とレールとの間に、既定の第2しきい値t2よりも大きい第2滑走値δ2を設定すること、ここで、第2車軸A2は、列車の進行方向において第1車軸A1の後の車軸であり、既定の第2しきい値t2は、既定の第1しきい値t1よりも大きい、
制御される第3車軸A3の車輪とレールとの間に、第2滑走値δ2に等しい第3滑走値δ3を設定すること、ここで、第3車軸A3は、列車の進行方向において第2車軸A2の後の車軸である、
第2車軸A2の車輪とレールとの間の第1粘着力値μ2、及び第3車軸A3の車輪とレールとの間の第2粘着力値μ3に基づいて、第3車軸A3のために第2車軸A2の滑走によって生成されるレール清掃の有効性を決定すること。
【0051】
上述の、レール清掃の有効性を決定するステップは、以下のステップを備えてもよい。即ち、
第1粘着力値μ2及び第2粘着力値μ3を測定すること、及び
第2粘着力値μ3と第1粘着力値μ2との間の減算操作を実行することによって清掃の有効性を決定すること。
【0052】
以下では、例示によって、鉄道車両の車軸の全数が4つである説明に役立つケースについて説明する。
【0053】
図7を参照して、鉄道車両を構成する4つの車軸によって関与する粘着力を評価することができる。
【0054】
第1車軸A1に関して得られる粘着力値μ1は、清掃によって影響されず、このような車軸は、最初にレールと出会う。粘着力値μ1は、レールの状態、即ち、以下で「amb」によって示される環境/汚れ状態、のみに依存する。
【0055】
よって第1車軸によって関与する粘着力値μ1は、レールの第1車軸の局所的滑走値δ1の関数になるだろう。即ち、
μ1=f(μmax,δ1)=f(amb,δ1)
【0056】
反対に、第2車軸に関して得られる粘着力値μ2は、先行の第1車軸によって生成される清掃(Δμ12)に依存する。
μ2,max=μmax+Δμ12
【0057】
先行の第1車軸によって生成され第2車軸の利益になる清掃(Δμ12)は、典型的な汚れ(同じ滑走値により多かれ少なかれ除去が容易な汚れ)の清掃特性、これは、以後、用語「cleaning」(清掃)で表示する、と共に、レール上の第1車軸の滑走値δ1の関数である。
μ2,max=μmax+f(clean,δ1)
【0058】
よって第2車軸によって関与する粘着力値μ2は、レールに接した第2車軸の局所的滑走値δ2の関数になるだろう。
μ2=f(μ2,max、δ2)=f(amb,δ1,cleaning,δ2)
【0059】
同様に、第3車軸によって関与する粘着力値μ3は、局所的滑走値δ3に依存し、かつ、先行の車軸よってδ1,δ2により及び清掃によって生成される清掃に依存する。
【0060】
同様に、第4車軸によって関与する粘着力値μ4は、局所的滑走値δ4に依存し、かつ、先行の車軸よってδ1,δ2,δ3により及び清掃によって生成される清掃に依存する。
【0061】
これらの考察に従い、
μaverage =(1/4)*(f(amb,δ1)+f(amb,δ1,δ2,cleaning)+f(amb,δ1,δ2,δ3,cleaning)+f(amb,δ1,δ2,δ3,δ4,cleaning))
【0062】
図5に示されるような粘着力曲線の場合で、及び、粘着力ピーク値μpに対応する滑走値が全ての車軸に設定されるような場合では、粘着力ピーク値μpにおいて、つまりδp前後の小さい滑走値で、全ての車軸の制御を仮定すると(
図8を参照)、全くレール清掃は、生成されない。
【0063】
Δμ12 =Δμ23 =Δμ34 =0
及び、したがって、
μ2,max =μ3,max =μ4,max =μ1,max
【0064】
よって、全ての車軸は、車軸がレールを清掃しないように、先頭車軸(進行方向における先頭の車軸)が見出したものと同じ粘着力値を見出す。
したがって、
μaverage =μ1,max
【0065】
図5のような粘着力曲線の場合、ここでは全ての車軸において、δ>>δpの滑走値が設定され、清掃効果を得ることが可能である(この効果は、必ずしも推測的ではなく、むしろ問題となっている汚れ(即ち、清掃として先に定義されたパラメーター)における清掃の有効性に依存する)。
【0066】
図9を参照して、
Δμ12 =Δμ23 =Δμ34 =Δμclean
したがって、
μ2,max =μ1,max +Δμclean
μ3,max =μ2,max +Δμclean =μ1,max +2*Δμclean
μ4,max =μ3,max +Δμclean =μ1,max +3*Δμclean
【0067】
同時に、ピーク値δpから離れたδで滑走する各車軸は、局所的に利用可能な全ての粘着力値μを有効に生かせないだろう。
【0068】
図9を参照して、
μ1 =μ1,max -Δμslide
μ2 =μ2,max -Δμslide =μ1,max +Δμclean -Δμslide
μ3 =μ3,max -Δμslide =μ1,max +2*Δμclean -Δμslide
μ4 =μ4,max -Δμslide =μ1,max +3*Δμclean -Δμslide
【0069】
車両の平均粘着力値を計算すると、
μaverage =μ1,max +(3/2)*Δμclean -Δμslide
【0070】
図5に示されるような粘着力曲線の場合に得られる平均粘着力値と比べると、全ての車軸において、粘着力のピークに対応する滑走値が設定される場合、及び、全ての車軸において、δ>>δpの滑走値が設定される場合では、以下のことに気がつく。即ち、
Δμclean >(2/3)*Δμslideの場合には、δ>>δpの大きい滑走値において、つまり既定の第2しきい値t2よりも大きい滑走値によって車軸を制御することが適切であり、
Δμclean <(2/3)*Δμslideの場合には、δ=δpの減じられた滑走値によって、つまり既定の第1しきい値t1よりも小さい滑走値によって車軸を制御することが適切である。
【0071】
上の例では、適応できるファクターは、2/3に等しい。例えば5つの車軸の場合、適応できるファクターは、1/2に等しい。
【0072】
図6に示すような粘着力曲線の場合では、清掃の有効性に関わらず、最も適切な選択は、全ての車軸を大きい滑走値、つまり
よりも大きい滑走値にすることであり、その結果として局所的粘着力値及び清掃効果の可能性の両方を最大にする。
【0073】
滑走値点のこのような管理によれば、我々は以下のものを有する(
図10参照)。即ち、
μ1 =μ1,max
μ2 =μ1,max +Δμclean
μ3 =μ1,max +2*Δμclean
μ4 =μ1,max +3*Δμclean
【0074】
したがって、平均の車両レベルの粘着力値は、以下になる。即ち、
μaverage =μ1,max +(3/2)*Δμclean
【0075】
前述の各場合(
図5に示されるような粘着力曲線の場合で、全ての車軸において、粘着力のピークに対応する滑走値が設定される場合、
図5に示されるような粘着力曲線の場合で、全ての車軸において、δ>>δpの滑走値が設定される場合、及び、
図6に示されるような各粘着力曲線の場合)の分析から、最適な滑走値点(車両の平均粘着力値を最大化するもの)の選択は、以下の3つの主なファクターの評価を経なければならないことに気づくかもしれない。
【0076】
ファクター1:粘着力曲線の種類
即ち、粘着力のピークが、小さい滑走値(
図5)つまり既定の第1しきい値t1よりも小さい滑走値に関して得られる場合、又は、大きい滑走値(
図6)つまり既定の第2しきい値t2よりも大きい、δlimitの近く、滑走値に関して得られる場合、
【0077】
ファクター2:Δμslide(
図5に示された曲線に関してのみ定義されたパラメーター)
即ち、粘着力値における、曲線のピークと限界滑走値に近い滑走値(
図9参照)との間の差異、
【0078】
ファクター3:Δμclean
即ち、車軸nを、既定の第2しきい値t2よりも大きい、δlimitの近く、滑走値によって滑走させたときに、車軸(n+1)が得る利益からの清掃効果の有効性。
【0079】
レールに接して移動する鉄道車両の場合、上述した基準による、3つのファクター及び結果として生じる滑走値点の選択の評価は、車両に関与する平均粘着力を最大化するために、車両の制動中、リアルタイムにて実行されねばならず、それにより車両の減速を最大化し、車両の停止距離を最小化する。
【0080】
清掃の有効性(ファクター3)を評価するために、適切な滑走値、つまり車軸nにおいて、既定の第2しきい値t2よりも大きい滑走値
を設定して、車軸(n+1)における粘着力の利益可能性を検証する必要がある。
【0081】
同時に、既定の第2しきい値t2よりも大きい滑走値、δlimitに近い、によって車軸が滑走することによって、後続の車軸に関してレール状態が変更され、小さい滑走値に対する、つまり既知の第1しきい値t1よりも小さい滑走値(δ<5%)による粘着力値を評価することは不可能になる。したがって、ファクター1、2は、評価することができない。
【0082】
本発明の目的は、以下のように、車両の車軸の滑走値を扱うことである。
即ち、
【0083】
第1車軸、つまり先頭の車軸は、小さい滑走値において制御される。このようにして、第1車軸に関与する粘着力値を測定することにより、小さい滑走値に対する粘着力値は、清掃を行うことなく、つまり後続の車軸に関してレールの特性を変更することなく、得られる。
μ1=μ(1-2%)
【0084】
一方、第2車軸は、大幅な滑走値、つまり既知の第2しきい値t2よりも大きい滑走値において制御される。このようにして、第2車軸に関与する粘着力値を測定することにより、大きい滑走値に対する粘着力値は、後続の車軸に関して、汚れの特性に依存するであろう(清掃ファクター3)、起こり得る清掃を生成して、得られる。
μ2=μ(20%)
【0085】
第3車軸は、第2車軸用に設定されるのと同じ滑走値で制御される。
【0086】
このようにして、第3車軸に関与する粘着力値を測定することによって、下記の清掃ファクターを計算することで清掃の有効性を評価することができる。
Δμclean =μ3-μ2
【0087】
さらに、第1及び第2の車軸に関して測定された粘着力値を比較することによって、粘着力曲線の種類を決定してもよく(ファクター1)、場合によりΔμslide(ファクター2)を計算してもよい。
【0088】
μ2>μ1であれば、これは、
図6に示される種類の粘着力曲線の場合である。
【0089】
したがって、最も適切な選択は、全ての車軸を大きい滑走値にする、即ち、既定の第2しきい値t2よりも大きい滑走値
にすることである。
【0090】
μ2>μ1であれば、これは、
図5に示される種類の粘着力曲線の場合であり、下記を計算してもよい。
Δμslide =μ1-μ2
【0091】
この時点で、全てのファクターが無くても、最適な滑走値点を選択してもよい。即ち、
【0092】
Δμclean >(2/3)*Δμslide の場合には、
最も適切な選択は、全ての車軸を大きい滑走値にする、即ち、既定の第2しきい値t2よりも大きい滑走値
にすることである。
【0093】
Δμclean <(2/3)*Δμslide の場合には、
最も適切な選択は、粘着力のピーク値において、つまり既定の第1しきい値t1よりも小さい滑走値(δ<5%)によって車軸を制御することである。
【0094】
当然ながら、発明の原理を変更することなく、実施形態及び実施の詳細は、非限定の例によって単に記述され説明されたものに対して、添付の請求範囲に規定されるような発明の範囲から逸脱することなく、広く変更されてもよい。さらに、各実施形態は、任意の他の実施形態と組み合わせてもよいことは、理解される。