(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】局所冷却を含むガラス板の曲げ
(51)【国際特許分類】
C03B 23/023 20060101AFI20221102BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20221102BHJP
C03B 27/044 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
C03B23/023
B60J1/00 H
B60J1/00 P
C03B27/044
(21)【出願番号】P 2019570011
(86)(22)【出願日】2018-06-26
(86)【国際出願番号】 FR2018051558
(87)【国際公開番号】W WO2019002751
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-05-25
(32)【優先日】2017-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン-ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100116975
【氏名又は名称】礒山 朝美
(72)【発明者】
【氏名】ダビド ビュルゴー
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドレ ヘニオン
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム ゴバン
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-504402(JP,A)
【文献】特表2016-500629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B23/02-23/037
C03B27/00-27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲圧縮帯(83)を含むガラス板を含む曲げグレージングを製造する方法であって、前記ガラス板の調製が、前記ガラス板の曲げ温度まで前記ガラス板を炉
(3)内で加熱し、前記ガラス板を個別に曲げ、かつ前記ガラス板を全体的に冷却することを含む方法において、
前記周囲圧縮帯
(83)の少なくとも部分的に内側の、局所冷却ゾーンと呼ばれる、前記ガラス板の1つのゾーン
(84)に、前記ガラス板の加熱後に、前記ガラス板が少なくとも530℃の温度にあるときに、前記全体冷却よりも高速で局所冷却を施
し、かつ
前記ガラス板を曲げた後に、前記局所冷却ゾーン(84)内で前記曲げたガラス板の切り取りを行い、かつ
前記切り取り後に、前記曲げたガラス板を、別のガラス板と共に取り付けることなく個別に使用するか、又は別のガラス板と共に積層体として取り付けること
を特徴とする、
周囲圧縮帯(83)を含むガラス板を含む曲げグレージングを製造する方法。
【請求項2】
前記局所冷却を前記曲げの前に施すことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記局所冷却を前記曲げの期間中に施すことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記局所冷却を前記曲げの後に施すことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ガラス板を個別に前記炉内で加熱することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ガラス板に個別に前記局所冷却を施すことを特徴とする、請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記炉から前記ガラス板を取り出した後で、前記曲げを行うことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ガラス板が5℃~50℃の範囲の温度を有する環境内にあるときに、前記局所冷却を施すことを特徴とする、請求項1から7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ガラス板がチャンバ内にあるときに、前記局所冷却を施し、前記チャンバの環境が400℃~650℃の範囲の温度にあり、且つ前記ガラス板の温度よりも低い温度にあることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ガラス板が530℃~660℃、好ましくは550℃~610℃の範囲の温度にあるときに、前記局所冷却を前記ガラス板上に施すことを特徴とする、請求項1から9までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記局所冷却を、対流及び/又は伝導及び/又は放射によって前記ガラス板上に施すことを特徴とする、請求項1から10までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記局所冷却を空気吹き付けによって行うことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ガラス板の厚さが0.7~3mm、より具体的には0.8~1.2mmの範囲にあることを特徴とする、請求項1から12までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ガラス板に、前記曲げの後で半強化処理又は強化処理を施し、前記ガラス板に20~200MPaの範囲の表面応力を与えることを特徴とする、請求項1から13までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記局所冷却ゾーンが0.5cm
2~70cm
2の面積を占めることを特徴とする、請求項1から14までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記局所冷却ゾーンが前記ガラスの縁から、前記局所冷却ゾーンの直径の1倍よりも大きい距離、好ましくは前記局所冷却ゾーンの直径の1.3倍よりも大きい距離を置いて位置していることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記局所冷却ゾーンが、前記ガラスの縁から、2cmを超える距離を置いて位置していることを特徴とする、請求項1から16までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記局所冷却ゾーンが、前記ガラス板の主面の面積の10%未満、さらには5%未満の面積を占めることを特徴とする、請求項1から17までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記局所冷却ゾーン内で、切り取り後の縁圧縮応力が4MPaを超え、好ましくは8MPaを超えるように、前記局所冷却を十分な継続時間及び強度で行うことを特徴とする、請求項1から18までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記周囲圧縮帯の少なくとも部分的に内側の前記局所冷却ゾーン内でオリフィスを切り取り、前記オリフィスの縁圧縮応力が少なくとも4MPaであり、好ましくは少なくとも8MPaであることを特徴とする、請求項
1から19までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記ガラス板を前記ガラス板の加熱中に個別に搬送し、かつローラ床上で曲げ工具まで個別に搬送することを特徴とする、請求項1から
20までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
個別のガラス板を曲げる
ための、下記を備える装置
:
前記ガラス板の曲げ温度まで前記ガラス板を加熱するための加熱エレメントを含む炉
(3);
前記炉(3)内で前記ガラス板の曲げ温度まで加熱した前記
個別のガラス板を曲げるための
曲げ工具
(4,6)、
ここで、前記曲げ工具は、上側曲げ型(4)及び可動の下側曲げ対応型(6)を含み、前記可動の下側曲げ対応型は、前記炉内で前記ガラス板の曲げ温度まで加熱した前記個別のガラス板を前記上側曲げ型(4)に対してプレスして、個別の曲げガラス板を形成するように構成されており、前記上側曲げ型及び前記可動の下側曲げ対応型は、前記曲げ工具において、前記個別のガラス板の周囲領域が、前記上側曲げ型の主面に対してプレスされ、前記個別のガラス板を前記個別の曲げガラス板に変換するような寸法を有している;
前記炉
(3)を通して前記曲げ工具
(4,6)へ前記ガラス板を移動する
ための搬送装置;及び
前記ガラス板を前記加熱エレメントによって加熱した後で前記ガラス板を局所的に冷却する
ための局所冷却システム(8)、
ここで、前記局所冷却システム(8)は、前記加熱エレメントの下流に配置されており、
(a)前記局所冷却システム(8)は、前記可動の下側曲げ対応型(6)と共に移動可能な第一の冷却工具を含み、それによって、前記第一の冷却工具と前記可動の下側曲げ対応型とが、ピックアップ場所の下の位置から前記上側曲げ型の方へ鉛直に移動可能になっており、その移動の間に、前記可動の下側曲げ対応型が、前記個別のガラス板を前記ピックアップ場所でピックアップし、かつ前記個別のガラス板を前記ピックアップ場所の上に前記上側曲げ型の方へ鉛直に搬送して、前記個別のガラス板を曲げ、かつ前記個別の曲げガラス板を形成し、前記第一の冷却工具が、前記曲げの前、前記曲げの間、又は前記曲げの後に、前記個別のガラス板の第一の主面に、0.5cm
2
~70cm
2
の面積を占める第一の局所冷却ゾーンを形成するか、又は
(b)前記局所冷却システム(8)は、前記上側曲げ型(4)に組み込まれた第二の冷却工具を含み、前記第二の冷却工具が、前記曲げの間又は前記曲げの後に、前記第一の主面の反対側の前記個別のガラス板の第二の主面に0.5cm
2
~70cm
2
の面積を占める第二の局所冷却ゾーンを形成するか、又は
(c)前記局所冷却システム(8)は、前記第一の冷却工具及び前記第二の冷却工具を含むか、又は
(d)前記局所冷却システム(8)は、前記上側曲げ型(4)と前記可動の下側曲げ対応型(6)との間の可動の冷却フレーム(9)と共に移動可能な第三の冷却工具を含み、前記第三の冷却工具が、前記曲げの後に、前記個別のガラス板の第一の主面に0.5cm
2
~70cm
2
の面積を占める第三の局所冷却ゾーンを形成する。
【請求項23】
前記ガラス板が前記曲げ工具
(4,6)の上又は下にある間に、前記ガラス板のゾーンにわたって介在するように、
局所的に冷却するための前記局所冷却
システム(8)が配置されていることを特徴とする、請求項
22に記載の装置。
【請求項24】
前記局所冷却
システム(8)が
前記第一の冷却工具を含み、かつ前記第一の冷却工具が前記可動の下側曲げ対応型(6)に取り付けられていることを特徴とする、請求項
22又は23に記載の装置。
【請求項25】
前記局所冷却
システム(8)が
前記第二の冷却工具を含むことを特徴とする、請求項
22又は23までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項26】
前記局所冷却システム(8)が、第一及び第二の冷却工具を含む、請求項22又は23に記載の装置。
【請求項27】
前記局所冷却システム(8)が前記第三の冷却工具を含み、かつ前記第三の冷却工具が前記冷却フレーム(9)に取り付けられていることを特徴とする、請求項
22又は23に記載の装置。
【請求項28】
前記第一、第二、及び第三の冷却工具のそれぞれが、対流及び/又は伝導及び/又は放射によって作用することを特徴とする、請求項
22に記載の装置。
【請求項29】
前記第一、第二、及び第三の冷却工具の少なくとも一つが空気吹き付けノズルを含むことを特徴とする、請求項
28に記載の装置。
【請求項30】
前記ガラス板を移動する
ための搬送装置がローラ床
(2)を含むことを特徴とする、請求項
22から29までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項31】
前記曲げ工具
(4,6)が前記炉
(3)の後ろに配置されていることを特徴とする、請求項
22から30までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項32】
前記装置が、前記曲げ工具の後ろに空気吹き付けユニットを含み、前記空気吹き付けユニットが、前記ガラス板に半強化処理又は強化処理を施すことができることを特徴とする、請求項
22から31までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項33】
ガラス板を含む曲げグレージングを製造するためのラインであって、前記ラインが、請求項
22から32までのいずれか一項に記載の装置と、
前記ガラス板を曲げた後に前記曲げガラス板を切り取る手段とを含む、製造ライン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮応力によって強化したゾーンを含む曲げグレージング、特に自動車グレージングの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
グレージング上に圧縮応力によって強化したゾーンを形成することが、ある特定の用途に必要とされることがある。特に、グレージング内のオリフィスが、例えばケーブルをそれに通さなければならない場合、又は部品をその周りに固定しなければならない場合に、充分な抵抗力をもたらすのに十分に高い縁応力を有することが推奨される。
【0003】
英国特許出願公開第1157391号公報及びベルギー国特許出願公開第723484号公報の文献には、ガラスの切り取りを想定することなしに、中央ゾーン内に異なる破断挙動を得るために、ガラスの区分化強化処理(テンパリング)を行うことが教示されている。米国特許第5,972,513号の文献には、ガラスの切り取りを想定することなしに、積層ガラスのうちの1枚のガラス板が硬化されている積層ガラスが教示されている。他の文献としては、米国特許出願公開第2005/0268661号公報及び仏国特許出願公開第2828880号公報を挙げることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特に密閉型のルーフの場合、具体的には寸法許容誤差、反射時の光学品質、及び表面応力に関して、対を成すガラス板を曲げる方法が、必要な製品性能全てを達成することを必ずしも可能にするわけではない。したがって、ある特定の場合には、ガラス板を個別に曲げることが好ましい。
【0005】
本発明は先ず、「ガラス板毎の(シート・バイ・シート(sheet by sheet))」曲げ方法に関する。この方法は、ガラス板を個別に、すなわち1枚ずつであって、かつ積層様式でない状態で曲げることを意味する。本発明による方法によって曲げたいくつかのガラス板を任意には次いで取り付けることにより、積層グレージングを形成することができる。本発明に基づいて曲げたガラス板は、本発明による方法とは異なる方法によって曲げたガラス板と共に取り付けてもよい。本発明に基づき曲げたガラス板は、別のガラス板と共に取り付けることなしに個別に使用してもよい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、周囲圧縮帯を含む個別の曲げガラス板を製造する装置及び方法であって、ガラス板の曲げ温度までガラス板を炉内で加熱し、ガラス板を個別に曲げ、かつガラス板を全体的に冷却することを含み、ここで、周囲圧縮帯の少なくとも部分的に内側の、局所冷却ゾーンと呼ばれる、ガラス板の1つのゾーンに、ガラス板の加熱後に、ガラス板が少なくとも530℃の温度にあるときに、全体冷却よりも高速で局所冷却を施すことを含む、上記の装置及び方法に関する。炉内では、ガラス板を個別に搬送し、かつ加熱する。ガラス板に局所冷却を個別に施す。局所冷却は、上記ゾーン内で、ガラス板の全体冷却中に、その厚さにおいて応力を発生させる。
【0007】
局所冷却ゾーンは、ガラス板の全体冷却後、周囲圧縮帯を含む周囲ゾーンからは離れている。この圧縮帯(圧縮帯域)は、当業者によく知られている形式で全体冷却によって形成され、周囲ゾーンで特定の冷却手段を使用することなく形成される。局所冷却ゾーンは圧縮帯の内側のガラス板領域内に少なくとも部分的に位置しており、このことは、局所冷却ゾーンが圧縮帯のゾーンと部分的にはオーバーラップし得るという事実を含む。しかしながら、局所冷却ゾーンと圧縮帯との間の相互のいかなる侵入も回避することが好ましい。具体的には、局所冷却は圧縮応力ゾーンを生成するものの、この圧縮応力ゾーンに続いてすぐに引張応力ゾーンが生成される。しかしながら、このような引張力が圧縮帯の圧縮力を低減するのを防止することが望ましい。それというのも圧縮力が低減すると、縁は、圧縮帯の他の部分よりも局所的に強化度が低くなるからである。圧縮帯はガラスの縁から延在し、ガラスの縁から少なくとも2.5mmの距離のところまで延在していて、この距離は最大10mmまで延在することができる。このような理由から、特に、局所冷却ゾーンがガラスの縁から1.5cmを超える距離に位置していることが好ましい(この距離は縁と局所冷却ゾーンの始点との間隔である)。好ましくは、局所冷却ゾーンがガラスの縁から、局所冷却ゾーンの直径の1倍よりも大きい距離、好ましくは局所冷却ゾーンの直径の1.3倍よりも大きい距離を置いて位置している(ここでも、この距離は縁と局所冷却ゾーンの始点との間隔である)。「直径」という用語は、等価直径、すなわち同じ面積の円の直径を意味するものとする。大まかに言えば、局所冷却ゾーンはガラス板の主面の面積の10%未満、さらには5%未満の面積を占める。なお、リング冷却の場合には、リングの内側の面積がカウントされる。
【0008】
本発明によれば、ガラス板を曲げることを目的として、ガラス板をその曲げ温度、すなわちその塑性変形温度まで加熱し、この加熱はガラス板を590℃~660℃の温度にすることを可能にする。本発明によれば、ガラス板は局所冷却を施され、この局所冷却が、冷却済の最終ガラス板の厚さにおけるこれらの応力源となる。これらの応力は、局所冷却を施したガラス板ゾーン内に生成される。この局所冷却は、特に炉の加熱ゾーンのすぐ後に続く高温環境内、又は低温環境内で行うことができる。高温環境の場合、ガラスはチャンバ(炉の最終ゾーン、又は炉のすぐ後に設けられたチャンバ)内にある。このチャンバの雰囲気は400℃~650℃の温度にある。低温環境の場合、ガラスは工場作業場環境にあり、この環境の雰囲気はほぼ5℃~50℃の温度にある。あらゆる事例において、ガラス板がガラス板の温度よりも低い温度の環境にあるときに、このガラス板上に局所冷却が施される。
【0009】
ガラス板の加熱ゾーンの後には曲げ工具が配置されている。曲げ工具はそれ自体、ほぼ400℃~650℃の温度範囲の高温環境内、又はほぼ5℃~50℃の温度範囲の低温環境内にあってよい。後者(低温環境)の場合、曲げは、炉からガラス板を取り出した後、任意のチャンバの概ね外側で行われる。高温環境における曲げは、ガラス板の湾曲に関して極めて複雑な形状の部品、又は特に高度の強化処理(テンパリング)を必要とする部品のために好ましい。具体的には、高温環境を去ったばかりのガラス板上へ低温空気を吹き付けることによって行った強化処理は、高度な強化処理の度合いをもたらす。
【0010】
全ての事例において、曲げ工具、具体的には上側曲げ型は、これが低温環境にあろうと高温環境にあろうと、概ね、曲げられるために到着したガラス板の温度よりも低い温度にある。
【0011】
遅くともガラス内のこれらの応力が決定されつつある間に、そして好ましくはガラス内の応力が決定される前に既に温度差を導入するように、局所冷却を行う。この温度差は、局所冷却を施した、より低温になったゾーン(「局所冷却ゾーン」と呼ばれる)と、すぐ隣にある、高温のままの領域との間の温度差である。
【0012】
局所冷却は、ガラス板が少なくとも530℃の温度、特に530℃~660℃の範囲、好ましくは550℃~610℃の範囲の温度にあるときにガラス板に施される。これらは局所冷却を施す直前の温度である。ガラスが任意のチャンバの外側、ひいては低温環境内にある間に局所冷却が施される場合、局所冷却は概ね、530℃~580℃の範囲の温度にある間に施される。局所冷却は全体冷却中に施される。全体冷却は概ね、ガラス板をその曲げ温度まで加熱した後に開始する。
【0013】
概ね遅くとも530℃近くで発生するガラスの硬化まで、温度差は失われないことが認められる。
【0014】
高温環境内で局所冷却を行うためには、ガラスがチャンバ内にあるときに局所冷却を実施し、このチャンバは任意には炉の部分であるか、又は炉とは別個であって、ガラスのために炉のすぐ後に設けられている。高温環境ゾーンは、ガラスのために、炉内でガラスを加熱するゾーンから続いて設けられている。高温環境ゾーンは、ガラスのための加熱エレメントを含まない。この高温環境ゾーン内では、ガラスは、これを取り囲む雰囲気の温度よりも高い温度にある。ガラスは、局所冷却を施した後は加熱されない。
【0015】
十分にガラスが冷却される(ほぼ530℃)まで、(特に0.5cm2~70cm2の面積を占める)局所冷却ゾーンは、局所冷却ゾーンにすぐに隣り合う領域よりも低温のままでいなければならず、それによって、ガラスを硬化するようにし、かつガラスの内部応力を決定するようになっている。曲げ温度までの加熱が終わるとすぐに、曲げ前に、及び/又は曲げの期間中に、及び/又は曲げ後に、ガラスの選択されたゾーン上に局所冷却を施すことができる。局所冷却はガラス板の一方の主面又は両方の主面に施してよく、局所冷却が両面に施される場合には、一方の面上の局所冷却は他方の面上の局所冷却と対向していてもいなくてもよい。互いに対向するガラス板の両面上の冷却は、より強力な局所冷却をもたらす。
【0016】
ガラス板の全体冷却は、ガラス板が炉内の最後の加熱エレメントを通過するとすぐに連続的に行われる(すなわち温度が均一に低下する)。
【0017】
局所冷却は、対流、伝導、放射、又はこれらの手段の組み合わせによって得ることができる。概ね0℃~50℃の温度の空気が選択されたゾーン上に吹き付けられる、対流式局所冷却が特に好適である。
【0018】
局所冷却が及ぼされるゾーンは、任意の形状を有する数ミリメートル幅のストリップであってよい。その形状は線であってよく、この線上で続いて切り取りを行うことができる。切り取り後、この切り取りによって形成された2つの縁は、これらの縁を強化する縁圧縮応力を有する。好ましくは、局所冷却ゾーン内で、切り取り後の縁圧縮応力が4MPaよりも大きく、好ましくは8MPaよりも大きくなるのに十分な継続時間及び強度で局所冷却を行う。通常の試験によりこの調節を容易に行うことができる。好ましくは、局所冷却は、局所圧縮応力が20MPaよりも小さくなるように施される。
【0019】
ガラス板の加熱が終わるとすぐに、特にガラス板が炉を去るとすぐに、ガラス板全体に全体冷却が施され、その縁はガラス板の残りの部分よりも急速に冷える。このような理由から、ガラス板の周囲の縁は、一般的には周囲の縁に吹き付けを行う必要なしに、全体冷却に起因した縁応力を自然に含む。したがって、ガラス板は4MPaを上回る、好ましくは8MPaを上回る圧縮縁応力の帯域を含む。ガラス板の周囲の縁は主面の中央ゾーンよりも衝撃を受けやすいので、このような周囲縁応力が望ましい。本発明による局所冷却を、ガラス板の全体冷却に加えて、所与のゾーンに対して行う。局所冷却は、局所冷却ゾーンに対する全体冷却よりも高速である。
【0020】
本発明はまた、周囲圧縮帯と、この周囲圧縮帯の少なくとも部分的に内側のオリフィスとを含むガラス板を含む曲げグレージングを製造する方法であって、このオリフィスの縁圧縮応力が少なくとも4MPaであり、好ましくは少なくとも8MPaであるガラス板を含む曲げグレージングの製造方法に関し、この方法は、局所冷却を含む本発明による方法によってこのガラス板を調製し、続いて局所冷却ゾーン内でオリフィスを切り取ることを含む。
【0021】
本出願の文脈において、圧縮応力値は基準ASTM F218-2005-01に記載された方法によって測定される。一般的に、縁圧縮応力値は、縁から0.1~2mm、好ましくは縁から0.5~1mmのところで測定される。局所圧縮応力ゾーンがオリフィスを取り囲んでいない場合、このゾーンが続いてオリフィスを形成するのを可能にするゾーンである限りは、切り取りに続いて上記の縁からの距離のところで応力を測定することによって、前述のとおり圧縮応力を測定することができる。
【0022】
局所冷却がオリフィスを形成する目的で施される場合、局所冷却ゾーンは切り取り線だけに関与してよく、或いは、切り取りによって除去されるゾーン全体に関与してもよい。例えば、形成しようとするオリフィスが円形である場合、局所冷却が空気吹き付けノズルによって施されるときには、ノズルのオリフィスはディスクの形状又はリングの形状を有してよい。ディスクの場合、ディスクの直径は切り取られるべき円の直径よりも僅かに大きく、これは局所制御冷却を経る円内部の表面全体である。リング形状ノズルの場合、ノズルは、円上のリング状ゾーン全体にわたって吹き付けを行い、このリングの内側では行わない。冷却するゾーンの直径が同一である場合、ディスク状ゾーンと比較してリング状ゾーンを局所的に冷却することが好ましい。それというのも、リング状ゾーンの局所冷却はエネルギー面で見て、より低廉であるからである。さらに、圧縮力は不可避的に近隣領域の引張力をもたらすので、冷却ゾーンの面積、ひいては圧縮ゾーンの面積が低減されればされるほど、近隣の引張ゾーンの面積も低減される。引張ゾーンの面積の低減は、ガラスの堅牢性にとって好ましい。このことは、リング冷却がディスク冷却よりも好ましいことの重要な理由となる。なぜならばリングは、同じ外径のディスクよりも小さな表面積を有し、かつ形成される引張力が小さくなるからである。さらに、伝導によって(すなわち接触によって)冷却が施される場合、曲げガラス上にディスクとしてではなくリングとして接触する方が接触を保証しやすい。
【0023】
最も大きいオリフィスのためには、リング状ノズルがより多く使用される。円形又は非円形オリフィスは0.5cm2~70cm2の面積を有していてよい。この場合、冷却がリング(面積はリングの内側のゾーンをも占める)として施されるのであれ、ディスクとして施されるのであれ、局所冷却ゾーンは0.5cm2~70cm2の面積を占め、それによって、0.5cm2~70cm2の面積を有するオリフィスの切り取りを可能とし、このオリフィスの縁が少なくとも4MPa、好ましくは少なくとも8MPaの圧縮応力を有するようになっている。好ましくは、切り取り後に縁を圧縮状態にしたままにするように、局所冷却ゾーン上、すなわち圧縮状態のゾーン上で切り取りを実施する。したがって、局所冷却ゾーンの面積(適切な場合にはリングの内側を含む)は切り取りゾーンの面積よりも大きいことが好ましい。局所冷却ゾーンの外輪郭に対して、切り取りゾーンの輪郭は、好ましくは、局所冷却ゾーンの縁から少なくとも0.5mm、好ましくは少なくとも1mmのところにあり、この切り取りゾーンは圧縮下にあり、かつ局所冷却ゾーンの内部にある。
【0024】
本発明に基づいて得られたガラス板は、局所冷却ゾーン上で、周囲温度で切り取られてよい。ガラス板は乗り物への装着前又は乗り物への装着後に切り取られてよい。例えば、これはルーフバー支持体を通じるのを可能にするように穿孔することができるゾーンであってよく、ガラス板を切り取るか否かの選択は乗り物の所有者に委ねられてよい。
【0025】
本発明による方法によって得られたいくつかのガラス板は積層グレージングとして組み立てることができる。この組み立ては、2つのガラス板の間にポリマー材料シートを挿入することにより、当業者によく知られた様式で実施される。一般的に、局所冷却ゾーンは積層グレージングにおいて互いに対向して位置している。この事例では、積層グレージングの組み立て後に切り取ることにより、積層グレージング全体を貫通するオリフィスを形成することができる。一方の主面だけから、又は両方の主面から同時に出発して、以下の手段、すなわち
- ホールソー又はルータ:両主面を同時に切り取ることが好ましい場合、
- ウォータジェット:単一の側で充分である場合
のうちの1つによって積層グレージングアセンブリを切り取ることができる。
【0026】
積層グレージングとして、本発明による局所冷却を経たガラス板を、本発明による局所冷却を経ていないガラス板と共に取り付けることも可能である。この事例では、切り取りが行われる場合には、一般的には、切り取りは、局所冷却を経たガラス板だけに行い、他方のガラス板は切り取られない。この切り取りは例えば、乗り物の内部照明のようなエレメントを収容するために用いられてよく、この積層体は例えば上記乗り物のルーフとして役立つ。
【0027】
曲げ後にガラスを切り取ることができることが有利である。なぜならば、曲げによって与えられる形状が、続いて切り取られる位置のオリフィスによって影響を及ぼされることがないからである。特に、曲げ前にオリフィスが切り取られる場合、ガラスの形状はオリフィスのところに欠陥を有するおそれがある。成形中にオリフィスが存在すると、この存在は反射時の光学的外観に影響を及ぼし、かつオリフィスの周りの領域に光学的歪みが観察される。さらに、組み立て前に切り取られた、いくつかのガラス板から成る薄板としての組み立て(従来技術)の場合、例えばオリフィスを含むと、組み立て時のガラスの不完全な整列に起因して、ガラス間のオフセットがオリフィスに存在することがある。さらに、成形時にオリフィスが存在すると、製品の実現可能性のための技術的複雑度が高まり、このことは炉の効率及びこのグレージングの実現可能性に悪影響を及ぼす。これらの困難性は以下の事例においてより大きくなる:
- いくつかの穴の形成、
- 大型サイズの穴、
- 穴が線状の辺を有する場合(例えば正方形又は長方形の形状)、
- 穴が高度に曲げたゾーン内にある場合。
【0028】
本発明によれば、薄板の種々のガラス板を同時に穿孔できるので、積層体として組み立てた後でガラスを切り取ることによって、この整列不良の問題を解決する。このように、従来技術では、ガラス板毎のために、及びポリマー材料から成る(概ねPVBから成る)中間層のために作業が必要となる。従来技術によれば、ポリマー材料の切り取りは付加的な作業を特に必要とし、そしてさらに、積層体の組み立て中に脱気を保証するために、脱気作業中に穴をシールするのを可能にするエレメント(吸引カップ、バッグ、グリーンスネーク(green snake)など)の取り付けとともに付加的な作業が必要となる。反対に、本発明によれば、通常の組み立てを実施し、次いで単一の穿孔作業が積層体全体のために必要となる。こうして形成されたオリフィスは、完全に連続して積層体を貫通しているのに対して、従来技術によれば(組み立て前にガラス板1枚当たり1回の穿孔)、種々の穿孔作業の誤差が加算されることにより、誤差が増大する。
【0029】
ガラス内に応力を発生させる局所冷却は、このゾーン内でガラスを切り取ることを必ずしも想定せずに行ってもよい。実際には、取り付けられた2枚のガラス板間の、ポリマー材料(例えばPVB)でできた中間層のところに、グレージングへの付加的なエレメントが挿入されている積層グレージングを製造することが望まれる場合がある。この付加的なエレメントは、例えばLED若しくはOLED、又はその他の、センサ又は受信機又は検出器又は単純な審美的エレメントを含む、照明機能を有するエレメントであってよい。グレージング内へのこのような統合は特にその破損をもたらす場合がある。本発明による局所的補強は、付加的なエレメントが位置するために選択された位置におけるガラスの堅牢性を改善し、かつこのような統合を可能にする。さらに、例えば開閉システム又はハンドルを受容しなければならないので、グレージングが所与の位置で高度の機械的応力を有さなければならない場合、本発明による局所的補強は、選択された位置におけるガラスの堅牢性を保証する。
【0030】
個別に曲げたいくつかのガラス板を積層体として組み立てる場合、好ましくは、曲げプロセスにおいて直接に相前後して得られるガラス板を組立てることにより、プロセス中に生じ得るドリフトが、組み立てるべき種々のガラス板の形状に及ぼすいかなる影響をも最小限に抑えるようにする。局所冷却を施していないガラス板と、局所冷却を施したガラス板とを組み立てなければならない場合には、これら2枚のガラス板は直接に相前後して得られるように形成される。唯一の違いは、冷却が一方のガラス板に対しては行われ、他方のガラス板に対しては行われないことである。
【0031】
ガラス板は曲げ工程を、次いで冷却工程を順々に通過する。曲げプロセスは、特に垂れ下がり曲げ(サグベンディング)又はプレス曲げによる任意のタイプであってよい。あらゆる事例において、工業プロセスでは、個別のガラス板が順々に、好ましくはローラ床上で、ガラス板を個別に曲げるための曲げ工具まで搬送される。曲げ工具が上側曲げ型を含む場合には、ローラ床は、ガラス板がこの型の下に来るまでこのガラス板を運ぶ。こうして、本発明によるプロセス中、ガラス板は搬送され炉内で個別に加熱され、次いで個別に曲げられる。ガラス板は個別の状態のまま局所冷却を施される。特に、この局所冷却を曲げの前に施すことができる。特に、この局所冷却を曲げの間に施すことができる。特に、この局所冷却を曲げ後に施すことができる。
【0032】
局所冷却を、曲げ前又は曲げ後のガラスの輸送中にガラスに施すことができる。局所冷却の適用は、ガラス板が移動している間、定置の状態で施すことができる。この局所冷却は、ガラス板の1つのゾーンだけに及ぶように一時的であってよい。局所冷却は可動式に施すことができる。具体的には、局所冷却はガラス板の輸送中にガラス板に追従してよく、これにより、ガラス板の速度を遅くする必要なしに、同一のゾーン上でより長い冷却を行うことができる。局所冷却は曲げの期間中に行われてもよく、これは、局所冷却を曲げ前に開始し、かつ曲げ後に引き続き行うことができるものと理解される。曲げ型、特に上側曲げ型に対する曲げを行っている間に局所冷却を実施する場合、冷却を成形面に施すように、冷却システムを型内に組み込むことができる。曲げ型を加熱する場合には、局所冷却されるべきゾーンで、異なる加熱制御によって局所冷却を施すか、或いは局所加熱なしに施すことができる。
【0033】
ガラス板が炉内で加熱された後、ガラス板は全体冷却を経る。このような冷却はより高速でもより低速でもよい。全体冷却は、ガラス板内に応力を特に発生させない低速冷却であってよい。この全体冷却は、半強化処理(「硬化」とも呼ばれる)タイプ又は強化処理タイプの高速冷却を含むことができる。本発明に基づく局所冷却は一般的に、この高速冷却を施す前に行われる。曲げ後の半強化処理又は強化処理は、20~200MPaの範囲の表面応力をガラス板に与える。本発明の文脈の中では、半強化処理タイプの全体冷却は、20~90MPaの範囲のガラスの表面応力を発生させることができる。表面応力はガラスの厚さによって影響を受ける。ガラス板厚さが少なくとも2mmの場合、表面応力は30~90MPaの範囲であり得る(半強化処理)。ガラス板厚さが2mm未満の場合、表面応力は20~50MPaの範囲であり得る(半強化処理)。強化処理は90MPa超のガラスの表面応力をもたらす。大まかに言えば、ガラス板の表面応力は最大で200MPaである。表面応力は偏光原理で働く装置、例えばScalp-04偏光器によって測定することができ、測定した値はガラス基材の一方の主面上で、縁から少なくとも20cmのところで5回測定したものの平均値である。当業者はこれらの値を負符号で表すこともあり得るので、上述の表面応力値は絶対値である。
【0034】
本発明は、厚さが0.7~3mm、より具体的には0.8~1.2mmの範囲にある個別のガラス板を曲げるのに特に適している。
【0035】
本発明はまた、ガラス板を曲げる装置であって、ガラス板の曲げ温度までガラス板を加熱するための加熱エレメントを含む炉と、ガラス板を個別に曲げるための工具と、炉を通して曲げ工具までガラス板を移動する手段と、ガラス板を加熱エレメントによって加熱した後でガラス板を局所的に冷却する手段とを含む、ガラス板を曲げる装置に関する。特に、曲げ工具の手前で、あるいはガラス板が曲げ工具の上又は下にある間に、ガラス板のゾーンにわたって介在するために、局所冷却手段が配置されていてよい。例えば、曲げ工具は上側曲げ型を含み、そしてガラスが曲げの前に上側曲げ型の下に位置しているときに、冷却を既に行うことができる。特に、曲げ工具は上側曲げ型と加圧フレームとを含むことができる。これらの2つの工具は、これらの間でガラス板を曲げるために、互いに接近又は離反するように動かすことができる。特に、局所冷却手段を加圧フレーム上に形成することができる。局所冷却手段は上側曲げ型内へ組み込まれていてもよい。局所冷却ゾーンは0.5cm2~70cm2の面積を占めることができる。特に、本発明は、個別のガラス板を曲げる装置であって、ガラス板の曲げ温度までガラス板を個別に加熱するための加熱エレメントを含む炉と、個別のガラス板を曲げるための工具と、炉を通して曲げ工具までガラス板を個別に移動する手段と、ガラス板を加熱エレメントによって加熱した後でガラス板を局所的に冷却する手段とを含み、局所冷却ゾーンが0.5cm2~70cm2の面積を占める、個別のガラス板を曲げる装置に関する。それぞれが0.5cm2~70cm2の面積を占めるいくつかの局所冷却ゾーンとすることもできる。
【0036】
曲げ後、冷却フレームが、曲げたガラスを回収する役割を担うことにより、全体冷却という意味の範囲内で、冷却ゾーンへガラスを持っていくようにすることができる。局所冷却手段を冷却フレーム上に組み込むことができる。冷却フレームは特に上側曲げ型の下を通過することができ、したがって、上側曲げ型は曲げガラスを冷却フレーム上に放出する。このフレームは、次いで曲げ型から離れる方向に動くことにより、ガラスを冷却ゾーンへ搬送する。
【0037】
局所冷却手段を、対流及び/又は伝導及び/又は放射によってガラス板に施す。具体的には局所冷却は空気吹き付けによって実施することができ、局所冷却手段は空気吹き付けノズルを含むことができる。
【0038】
本発明によれば、個別のガラス板は炉を通って曲げ工具まで、移動手段によって順々に個別に移動する。ガラス板を移動する手段はローラ床を含んでよい。曲げ後、個別のガラス板は順々に冷却ゾーン内へ搬送される。この冷却は大まかに言えば、半強化処理タイプ又は強化処理タイプの急速冷却を含み、続いてより低速の全体冷却が行われる。このように、本発明による装置は、ガラス板の経路に沿って見て曲げ工具の後ろに、半強化処理又は強化処理をガラス板に施すことができる空気吹き付けユニットを含んでよい。
【0039】
本発明はまた、周囲圧縮帯を含むガラス板を含む曲げグレージングを製造する方法であって、本発明に基づく曲げ及び冷却方法によってガラス板を調製し、続いて局所冷却ゾーン内で切り取りを行うことを含む、曲げグレージングを製造する方法に関する。本発明は特に、周囲圧縮帯を含むガラス板を含む曲げグレージングを製造する方法であって、この方法が、周囲圧縮帯を含む個別の曲げガラス板の製造を含み、この製造が、ガラス板の曲げ温度までガラス板を炉内で加熱し、ガラス板を個別に曲げ、かつガラス板を全体的に冷却することを含み、ここで、この周囲圧縮帯の少なくとも部分的に内側の、局所冷却ゾーンと呼ばれる、ガラス板の1つのゾーンに、ガラス板の加熱後に、ガラス板が少なくとも530℃の温度にあるときに、全体冷却よりも高速で局所冷却を施し、続いて局所冷却ゾーン内でガラス板を切り取ることを特徴とする、曲げグレージングを製造する方法に関する。この方法では、ガラス板は炉内の加熱から、少なくとも局所冷却の終了まで個別である(別のガラス板と並置されない)。
【0040】
本発明はまた、ガラス板を含む曲げグレージングを製造するためのラインであって、このラインが、本発明による装置と、曲げガラス板を切り取る手段、すなわち、個々に又は積層グレージングとして組み立てた後で切り取る手段とを含む、製造ラインに関する。
【0041】
本発明は、以下のものの製造に適用することができる:
- アンテナ用穴、
- ルーフバー用穴、
- ワイパーアーム用穴、
- 電子装置(照明、GPSなど)エレメントの統合用穴、
- 保持(ヒンジ、支持体)用穴、
- エレメント(LED、OLED、電子構成部分、構造エレメントなど)の局所的積層のための補強部分、
- システムの局所的な機械的応力(装着点、支承点)のための補強部分。
【0042】
本発明は全ての乗り物(自動車、バス、トラック、列車、農業用乗物)のグレージング、及びこれらの乗り物のあらゆるタイプのグレージング、例えばウィンドシールド(フロントウィンドウ)、リアウィンドウ、サイドウィンドウ、クオータウィンドウ、ルーフ、ベイフラッシュ(bayflush)、及びその他に適用することができる。
本発明は、建造物、太陽光発電、特殊用途、及び航空分野に適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
(原文に記載なし)
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1は、ローラ床2上を順々に移動する個別のガラス板1を曲げる装置を示している。ローラ床は、それぞれの平らなガラス板をその塑性変形温度まで加熱する炉3を通過する。ガラス板は炉を去り、次いで凸面状の上側曲げ型4に達する。ガラス板は上側曲げ型の下の適宜の位置で、エンドストップシステム5によって停止する。ひとたびガラス板が上側曲げ型によって引き受けられれば、エンドストップは任意には引っ込められてよい。加圧フレームタイプの下側曲げ対応型6が、仮想線7によって示されたガラス板を受け取るための面よりも下方の下側位置に位置している。ガラス板の上面上へ、局所冷却ゾーンと呼ばれる制限されたゾーンにわたって、局所冷却エアジェットをノズル8によって提供することにより、このゾーンをガラス板の残りの部分よりも低い温度にする。局所冷却手段として作用するノズル8は短時間にわたって吹き付けを行うことにより、小さなゾーンに影響を与えることができ、或いは、より長い時間にわたって吹き付けを行うことにより、局所冷却によって影響を与えるゾーンのサイズを、吹き付け中のガラス板の移動によって拡大することができる。曲げの期間中及び曲げ後のガラス板の全体冷却中には温度差が存在し続けることになり、ノズル8によって局所的に冷却されたゾーン内に特定の応力を生成する。
【0045】
図2は、ガラス板1が移動している間(矢印は移動を示す)、ノズル8が移動することを除き、
図1のものと同じ装置を示している。ノズルの初期位置は破線によって示されている。ノズル8はガラス板と同じ速度で移動してもよく、或いは異なる速度で、一般的にはガラス板の速度よりも遅く移動してもよい。この実施態様は,ガラス板の速度を遅くする必要なしに、ガラス板の同じゾーンをより長時間にわたって冷却することができるようになっている。
【0046】
図3は、ガラス板が上側曲げ型4の下の曲げ位置で停止したとき、局所冷却手段として作用するノズル8がガラス板の下面上に吹き付けを行うことを除き、
図1のものと同じ装置を示している。ここでのノズルは、加圧フレーム6上に形成されている(すなわち加圧フレーム6に取り付けられている)。したがって、ノズルは、ガラス板がノズルの上方に存在するようになる(
図3a)とすぐに吹き付けを行い、かつガラス板が上側曲げ型4に向かって上昇している間(
図3b)にも、このガラス板を加圧フレーム6によって支持しながら、ノズルは吹き付けを行うことができる。
【0047】
図4は、
図3のものと同じ装置であるが、より後の段階、つまりガラス板1を曲げている間の段階にこの装置が介在している状態で示している。ガラス板1が下側対応型6(加圧フレーム)と上側曲げ型4との間でプレスされており、したがって、ガラス板1が、曲げプロセスにありながら、ノズル8がガラス板の下面の局所ゾーン上へ冷却用空気を吹き付ける。ノズル8は局所冷却手段として作用する。
【0048】
図5は、吹き付けノズル8が上側曲げ型4内に組み込まれていることを除き、
図4のものと同じ装置を示している。ガラス板が型4に押し付けられながら、冷却用空気が吹き付けられている。冷却用空気がガラス板の上面の局所ゾーンと直接に接触し得るように、型はオリフィスを含むことができる。もちろん、吹き付けられた空気はガラス板に導かれ、その後、曲げ型から、曲げ型内に設けられた管(図示せず)によって排出される。
【0049】
図6は、
図4及び5の局所冷却システムを組み合わせた装置を示している。ここでは、2つのノズル8’及び8”がガラス板に対して、その両側に及び概ね同じ位置に、すなわちガラス板の両側の同じゾーン上で対向するように、同時に吹き付けを行う。この方法で、局所冷却はより強力になる。ノズル8’及び8”は局所冷却手段として役立つ。
【0050】
図7は、局所冷却が曲げ直後に行われる、本発明による装置を示している。上側型4に対して曲げを行った後、加圧フレーム6を下降させて、ガラスを受容するための面7よりも下方へ戻す。このため、ガラスを、吸引システムによって、ガラスと接触するその面を介して上側型4で保持する。冷却フレーム9が型4の下側を通り、次いで型4は吸引の遮断により、ガラスをフレーム9上に放出する。局所冷却手段として作用する吹き付けノズル8は、冷却フレームに取り付けられており、かつ冷却フレーム9がガラスの下に来るとすぐに、ガラス上へ局所的に冷却用空気を吹き付けることができる。ガラスが型4から分離され、かつガラスが冷却ゾーンに行くためにフレーム9によって型4から離れるように動かされると、ノズル8は吹き付けを行うことができる。ガラス板10は炉3を出て型4に近づき、それによって、ガラス1の後で、ガラス1と同じ処理を受けるようになっている。
【0051】
図8は、アンテナのためのオリフィス81を含む積層ガラス80から形成した自動車用曲げルーフを示している。積層体は本発明に基づき曲げた2枚のガラス板を組み合わせており、アンテナのためのゾーンは、2枚のガラス板のそれぞれに対して、本発明に基づく局所的な冷却を行ったものである。積層体を組み立てた後に単一の穿孔作業でオリフィス82を形成した。グレーのゾーンは縁圧縮応力を含むゾーンを表す。グレージングの周囲は、圧縮応力帯83を含む。この帯域は、ここに吹き付けを行う必要なしに、曲げ後の冷却中に自然に生成される。オリフィス82の縁も縁圧縮応力84を含み、これらの縁圧縮応力84は、本発明に基づく局所的な吹き付けによって生成したものである。オリフィス82は圧縮帯の内側の、ガラス板領域内にある。
本明細書に開示される発明は以下の態様を含む:
[1]周囲圧縮帯を含む個別の曲げガラス板を製造する方法であって、前記ガラス板の曲げ温度まで前記ガラス板を炉内で加熱し、前記ガラス板を個別に曲げ、かつ前記ガラス板を全体的に冷却することを含む方法において、
前記周囲圧縮帯の少なくとも部分的に内側の、局所冷却ゾーンと呼ばれる、前記ガラス板の1つのゾーンに、前記ガラス板の加熱後に、前記ガラス板が少なくとも530℃の温度にあるときに、前記全体冷却よりも高速で局所冷却を施すことを特徴とする、
周囲圧縮帯を含む個別の曲げガラス板を製造する方法。
[2]前記局所冷却を前記曲げの前に施すことを特徴とする、上記[1]に記載の方法。
[3]前記局所冷却を前記曲げの期間中に施すことを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記局所冷却を前記曲げの後に施すことを特徴とする、上記[1]~[3]のいずれか一つに記載の方法。
[5]前記ガラス板を個別に前記炉内で加熱することを特徴とする、上記[1]~[4]のいずれか一つに記載の方法。
[6]前記ガラス板に個別に前記局所冷却を施すことを特徴とする、上記[1]~[5]のいずれか一つに記載の方法。
[7]前記炉から前記ガラス板を取り出した後で、前記曲げを行うことを特徴とする、上記[1]~[6]のいずれか一つに記載の方法。
[8]前記ガラス板が5℃~50℃の範囲の温度を有する環境内にあるときに、前記局所冷却を施すことを特徴とする、上記[1]~[7]のいずれか一つに記載の方法。
[9]前記ガラス板がチャンバ内にあるときに、前記局所冷却を施し、前記チャンバの環境が400℃~650℃の範囲の温度にあり、且つ前記ガラス板の温度よりも低い温度にあることを特徴とする、上記[1]~[6]のいずれか一つに記載の方法。
[10]前記ガラス板が530℃~660℃、好ましくは550℃~610℃の範囲の温度にあるときに、前記局所冷却を前記ガラス板上に施すことを特徴とする、上記[1]~[9]のいずれか一つに記載の方法。
[11]前記局所冷却を、対流及び/又は伝導及び/又は放射によって前記ガラス板上に施すことを特徴とする、上記[1]~[10]のいずれか一つに記載の方法。
[12]前記局所冷却を空気吹き付けによって行うことを特徴とする、上記[11]に記載の方法。
[13]前記ガラス板の厚さが0.7~3mm、より具体的には0.8~1.2mmの範囲にあることを特徴とする、上記[1]~[12]のいずれか一つに記載の方法。
[14]前記ガラス板に、前記曲げの後で半強化処理又は強化処理を施し、前記ガラス板に20~200MPaの範囲の表面応力を与えることを特徴とする、上記[1]~[13]のいずれか一つに記載の方法。
[15]前記局所冷却ゾーンが0.5cm
2
~70cm
2
の面積を占めることを特徴とする、上記[1]~[14]のいずれか一つに記載の方法。
[16]前記局所冷却ゾーンが前記ガラスの縁から、前記局所冷却ゾーンの直径の1倍よりも大きい距離、好ましくは前記局所冷却ゾーンの直径の1.3倍よりも大きい距離を置いて位置していることを特徴とする、上記[15]に記載の方法。
[17]前記局所冷却ゾーンが、前記ガラスの縁から、2cmを超える距離を置いて位置していることを特徴とする、上記[1]~[16]のいずれか一つに記載の方法。
[18]前記局所冷却ゾーンが、前記ガラス板の主面の面積の10%未満、さらには5%未満の面積を占めることを特徴とする、上記[1]~[17]のいずれか一つに記載の方法。
[19]前記局所冷却ゾーン内で、切り取り後の縁圧縮応力が4MPaを超え、好ましくは8MPaを超えるように、前記局所冷却を十分な継続時間及び強度で行うことを特徴とする、上記[1]~[18]のいずれか一つに記載の方法。
[20]上記[1]~[19]のいずれか一つに記載の方法によってガラス板を調製し、続いて前記局所冷却ゾーン内で切り取りを行うことを含む、周囲圧縮帯を含むガラス板を含む曲げグレージングを製造する方法。
[21]前記周囲圧縮帯の少なくとも部分的に内側の前記局所冷却ゾーン内でオリフィスを切り取り、前記オリフィスの縁圧縮応力が少なくとも4MPaであり、好ましくは少なくとも8MPaであることを特徴とする、上記[20]に記載の方法。
[22]前記ガラス板を前記ガラス板の加熱中に個別に搬送し、かつローラ床上で曲げ工具まで個別に搬送することを特徴とする、上記[1]~[21]のいずれか一つに記載の方法。
[23]個別のガラス板を曲げる装置であって、前記ガラス板の曲げ温度まで前記ガラス板を加熱するための加熱エレメントを含む炉と、前記ガラス板を曲げるための工具と、前記炉を通して前記曲げ工具へ前記ガラス板を移動する手段と、前記ガラス板を前記加熱エレメントによって加熱した後で前記ガラス板を局所的に冷却する手段とを含むことを特徴とする、個別のガラス板を曲げる装置。
[24]前記曲げ工具の手前で、又は前記ガラス板が前記曲げ工具の上又は下にある間に、前記ガラス板のゾーンにわたって介在するように、前記局所冷却手段が配置されていることを特徴とする、上記[23]に記載の装置。
[25]前記曲げ工具が上側曲げ型と、加圧フレームとを含み、前記局所冷却手段が前記加圧フレーム上に形成されていることを特徴とする、上記[23]又は[24]に記載の装置。
[26]前記曲げ工具が上側曲げ型を含み、前記局所冷却手段が前記上側曲げ型内に組み込まれていることを特徴とする、上記[23]~[25]のいずれか一つに記載の装置。
[27]前記装置が、曲げの後に前記ガラスを受け取って前記ガラスを冷却ゾーンへ持っていくための冷却フレームを含み、前記局所冷却手段が前記冷却フレーム上に統合されていることを特徴とする、上記[23]~[26]のいずれか一つに記載の装置。
[28]前記局所冷却をするゾーンが0.5cm
2
~70cm
2
の面積を占めることを特徴とする、上記[23]~[27]のいずれか一つに記載の装置。
[29]前記局所冷却手段が、対流及び/又は伝導及び/又は放射によって作用することを特徴とする、上記[23]~[28]のいずれか一つに記載の装置。
[30]前記局所冷却手段が空気吹き付けノズルを含むことを特徴とする、上記[29]に記載の装置。
[31]前記ガラス板を移動する手段がローラ床を含むことを特徴とする、上記[23]~[30]のいずれか一つに記載の装置。
[32]前記曲げ工具が前記炉の後ろに配置されていることを特徴とする、上記[23]~[31]のいずれか一つに記載の装置。
[33]前記装置が、前記曲げ工具の後ろに空気吹き付けユニットを含み、前記空気吹き付けユニットが、前記ガラス板に半強化処理又は強化処理を施すことができることを特徴とする、上記[23]~[32]のいずれか一つに記載の装置。
[34]ガラス板を含む曲げグレージングを製造するためのラインであって、前記ラインが、上記[23]~[33]のいずれか一つに記載の装置と、前記曲げガラス板を切り取る手段とを含む、製造ライン。