(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】水処理用電解具
(51)【国際特許分類】
C02F 1/461 20060101AFI20221102BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20221102BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20221102BHJP
C25B 11/073 20210101ALI20221102BHJP
C02F 1/30 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
C02F1/461 Z
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B11/073
C02F1/30
(21)【出願番号】P 2020024922
(22)【出願日】2020-02-18
【審査請求日】2021-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】520057162
【氏名又は名称】エコパワー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092875
【氏名又は名称】白川 孝治
(72)【発明者】
【氏名】河成 孝雄
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-060935(JP,A)
【文献】特開2012-000544(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110357183(CN,A)
【文献】特開2000-202453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/66- 1/68
C02F 1/46- 1/48
C02F 1/20- 1/26
C02F 1/30- 1/38
C25B 1/00- 9/77
C25B13/00-15/08
C25B11/00-11/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焦電機能および遠赤外線放射機能を持つ焦電物質を備え、電解源として機能する電解エレメントと、該電解エレメントを収納し、該電解エレメントからの電荷を帯電させる電解ケースとからなり、導電性のある液体を収容した金属製の液体容器内において、当該液体容器との間で電解作用を発揮する水
処理用の電解具であって、
上記電解ケースが、正電荷を帯電させやすい合成樹脂製の円筒体により形成されていると共に、上記電解エレメントが、可撓性及び復元性を有し、浸漬用の錘となる所定の重量の金属製の芯材を中心として半径方向に複数層のロール構造に巻成されたメッシュ部材よりなり、該メッシュ部材のメッシュ部全体に帯電電荷生成手段および遠赤外線放射手段として機能する焦電物質と上記液体容器内の液体からの遠赤外線を吸収し、上記焦電物質を加温する加温手段として機能する黒体物質を複合させた状態でコーティングして構成されており、該構成の電解エレメントを上記合成樹脂製の円筒体よりなる電解ケース内に収納して構成されていることを特徴とする水
処理用電解具。
【請求項2】
焦電機能および遠赤外線放射機能を持つ焦電物質は、自発分極作用を有する極性結晶体により構成されていることを特徴とする請求項1記載の水
処理用電解具。
【請求項3】
黒体物質
として、カーボンナノチューブ
を採用したことを特徴とする請求項1又は2記載の水
処理用電解具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、飲料水その他の液体を収容した金属製の容器中に任意に投入され、同容器中において有効な電解作用を果たす水処理用電解具の構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近では、水素水に抗酸化作用があるとの知見に基づいて、ペットボトルやアルミ缶等の容器に入れた水素水が商品として販売され、また、家庭で同様の水素水を作ることができる水素生成剤入りの水素水生成用カートリッジや電解方式の水素水生成器が提供されている。
【0003】
水素水の作り方としては、(1)加圧下で水に水素ガスを充填する方法、(2)マグネシウムと水、あるいはアルミニウムと酸化カルシウムと水の化学反応により水素分子を発生させる方法、(3)水を電気分解する方法などがあり、容器入り水素水の多くは(1)の方法によるものであり、また水素生成剤入りの水素水生成用カートリッジは(2)の方法によるもの、電解方式の水素水生成器は(3)の方法によるものである。
【0004】
しかし、(1)の方法は一般家庭では採用し得ないし、ペットボトルなどでは充填された水素ガスが消失し易く、安定した水素濃度を維持することができない。また(2)の方法では飲料水の味が変わる可能性があり、お茶やジュースなどの飲料液には適さない。さらに(3)の方法は電極部を含めた容器本体の構造が大きく、電源(電気エネルギー)を必要とし、製品価格が高い、などの問題がある。
【0005】
このような問題の解決に関連し、一部には、アルミニウム等金属製の容器本体(外容器)内に所定の間隔を保ってペットボトル等合成樹脂製の飲料容器(内容器)を設けると共に、それら金属製の容器本体と合成樹脂製の飲料容器との間の空間にケイ酸(SiO2)を含む石英閃緑ひん岩の微粉末をゲル化したスラリーを収容し、金属製の容器本体と合成樹脂製の飲料容器および飲料との間でケイ酸(SiO2)を含む石英閃緑ひん岩のスラリーを介した所定の電解反応を生ぜしめることによって、飲料容器内に収容された各種飲料のORP(酸化還元電位)を下げるようにした飲料用容器が提案されている(特許文献1を参照)。
【0006】
この飲料用容器は、合成樹脂製の飲料容器(内容器)内に収容された各種飲料の酸化防止を目的としたもので、必ずしも水素水の生成を目的とするものではないが、飲料容器内に収容された飲料のORPを下げる点で還元作用を生ぜしめるものであり、その電解作用が有効に寄与するものである限り、電源(電気エネルギー)を必要としない、簡便で、手軽な水素水生成用の飲料用容器を構成することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献1の飲料用容器の場合、ケイ酸(SiO2)を含む石英閃緑ひん岩のスラリーが金属製の容器本体(外容器)と合成樹脂製の飲料容器(内容器)との間にあり、絶縁体である合成樹脂製の飲料容器を介して飲料と接している。したがって、仮にスラリーと飲料との間に静電誘導が起こったとしても、スラリーと飲料との間に電流を流すことはできない。
【0009】
また、静電誘導を起こすためには基本となる帯電源が必要である。この飲料用容器の場合、ケイ酸(SiO2)を含む石英閃緑ひん岩の微粉末をゲル化後にスラリー化し、流動性を高めているので、ケイ酸(SiO2)粒子間の摩擦による帯電作用が想定されるが、スラリー化したからと言ってケイ酸(SiO2)粒子が自然に流動する訳ではないので、そのままでの帯電の可能性は疑わしい。また、飲料温度の影響(伝導)で対流が起ることも考えられるが、それには相当に高い温度が必要であるし、比重の大きいケイ酸(SiO2)粒子はそう簡単には流動しない。このような事情を考えると、帯電源を見出すことはできず、静電誘導が起きるということは考えにくい。
【0010】
さらに、合成樹脂製の飲料容器内には正負の電極構成部が全く備えられておらず、電解電流が流れる構成ともなっていない。
【0011】
要するに、この飲料用容器では、以上のような構成において、なぜ飲料容器内の飲料のORPが下がるのか、電気化学的な解明がなされておらず、その効果も明らかではない。
【0012】
したがって、上記特許文献1の構成を採用して水素水生成容器を構成した場合、その水素水生成機能には限界があると考えられる。また、上記特許文献1の場合、その構成上、使用する容器そのものを水素水生成専用の容器として構成しなければならず、外容器と内容器の二重壁構造、その間にゲル化したスラリー材収納と、構造が複雑になり、シンプル、かつ安価に構成することができない。
【0013】
本願発明は、これらの問題を解決するためになされたもので、水素生成剤や電源を必要とせず、保温ポット等の一般に使用されている金属製の容器内に所要時間投入しておくだけで、当該金属製の容器との間で有効な電解作用を発揮し、効率良く酸化還元電位(ORP)を低下させることができる水処理用電解具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明は、上記の課題を解決するための手段として、次のような構成を備えて構成されている。
【0015】
(1)請求項1の発明の課題解決手段
請求項1の発明の課題解決手段は、焦電機能および遠赤外線放射機能を持つ焦電物質を備え、電解源として機能する電解エレメントと、該電解エレメントを収納し、該電解エレメントからの電荷を帯電させる電解ケースとからなり、導電性のある液体を収容した金属製の液体容器内において、当該液体容器との間で電解作用を発揮する水処理用の電解具であって、上記電解ケースが、正電荷を帯電させやすい合成樹脂製の円筒体により形成されていると共に、上記電解エレメントが、可撓性及び復元性を有し、浸漬用の錘となる所定の重量の金属製の芯材を中心として半径方向に複数層のロール構造に巻成されたメッシュ部材よりなり、該メッシュ部材のメッシュ部全体に帯電電荷生成手段および遠赤外線放射手段として機能する焦電物質と上記液体容器内の液体からの遠赤外線を吸収し、上記焦電物質を加温する加温手段として機能する黒体物質を複合させた状態で一体化して構成されており、該構成の電解エレメントを上記合成樹脂製の円筒体よりなる電解ケース内に収納して構成されていることを特徴としている。
【0016】
この発明の課題解決手段における水処理用電解具は、焦電機能および遠赤外線放射機能を持つ焦電物質を備えていて、電解源として機能する電解エレメントを、該電解エレメントからの電荷を帯電させる電解ケース内に収納して構成されており、導電性のある液体を収容した金属製の液体容器内において、当該液体容器との間で有効な電解作用を発揮し、それによって対象とする液体の酸化還元電位(ORP)を低下させるようになっている。
【0017】
すなわち、同構成の場合、液体容器内の液体の酸化還元電位(ORP)を低下させる電解作用(導電性液体の還元作用)において電解源として機能する電解エレメントの焦電物質(エレクトレット)が、焦電機能に加えて、遠赤外線放射機能を有している。したがって、その焦電機能によって、先ず電解エレメントが所定の電界レベルに帯電し、同電解エレメントが帯電源となって静電誘導を招来する。そして、それによって当該電解エレメントを収納している電解ケースが所定の電界レベルに帯電する(誘導帯電)。
【0018】
その結果、同電解ケースがその外周面全体に所定の極性の電荷を帯びた所定の電位の電極部材(電解電極)として機能するようになり、飲料液等導電性のある液体を収容した金属製の液体容器内において、当該金属製液体容器との間で有効な電解作用(還元作用)を発揮し、効果的に酸化還元電位(ORP)を低下させるようになる。
【0019】
ところで、水は一般に分子構造H2Oとして表されるが、実際の水の状態は非常に複雑であり、水分子H2Oを構成する水素H2と酸素Oの原子間の結合や、水分子同士のつながり方や集まり具合は動的であって、一時として静的な状態にはない。また水分子は一つの双極子であるために、水分子同士の間には相互作用が生じ、さらに溶存している他のイオンとの間にも種々の相互作用が生じる。また水は通常H2O分子が5~6個結合した分子クラスターであるが、他の元素分子や不純物があると、それらの分子が同クラスター中に入り込んで、さらに数十の分子と結合する。このような結合状態は、電解と言う電気化学的な方法のみでは容易に分解することができない。ミネラルウオーターなどの飲料水の場合でも各種のミネラルを含んでいるし、さらにカテキンやポリフェノールを含むお茶やジュースなどの場合にはよりその傾向が強くなる。
【0020】
したがって、そのような各種飲料液において効率良く電解(還元)するには、このようなクラスター構造を上記電気化学的な方法とは別の何らかの方法で破砕することが必要となる。
【0021】
そのために、この発明の課題解決手段では、上記電解源となる電解エレメントの焦電物質に焦電機能と共に焦電機能に伴って生じる遠赤外線の放射機能を有するものを採用している。遠赤外線は周知のように電磁波であり、都合の良いことに、分子振動領域において、上記水分子H2Oの固有振動数(全ての分子は分子領域において固有の振動数を有し、常に振動している)に一致する波長帯域を有している。したがって、上記導電性のある液体中に同波長帯域の遠赤外線を放射すると、上記クラスター構造の水分子H2O部分で有効に分子振動領域の共振(共鳴)が起こる。
【0022】
そして、同クラスター構造の水分子H2O部分に分子振動領域の共振が起きると、当該分子振動領域において分子・原子間の振動、伸縮、変角が生じ、水分子相互間又は他元素分子との分子間結合力が弱まって、当該クラスター構造が物理的に破砕され、また分子間結合力が弱められる。その結果、上述した電気分解作用において、上記電気化学反応以外の作用でも(それら各作用が相乗して)、上記水分子H2Oの酸素分子Oと水素分子H2の分離が促進されるようになり、水素分子H2が金属製容器の内壁面側、酸素分子Oが上記電解ケースの外周面側に効率良く析出するようになる。
【0023】
このように、この発明の課題解決手段による水処理用電解具を用いると、その基本的な作用として、電気化学的、物理的(機械的)な作用が相乗した有効な水素生成作用を実現することができる。しかも、その構成は、そのような電解源(帯電源)としての作用を果たす電解エレメントを電極部材としての電極作用を果たす電解ケース内に収納して、保温ポット等の他電極作用を果たす金属製の容器内に所定時間投入しておくだけで良いから、極めて簡単、かつ便利であり、電源(電気エネルギー)も不要で、極めて安価に構成することができる。そして、長期に亘って使用することができる。
【0024】
しかし、このような構成の場合、電源がなく、電解源としての電界電位は上述した焦電物質の焦電機能のみに依存している。また、遠赤外線の放射機能についても同様である。したがって、実用的な意味で十分な酸化還元電位(ORP)低減能力を確保しようとした場合には、上記基本的(原理的)な構成のみでは十分ではない。
【0025】
そこで、この発明の課題解決手段では、上記電解ケースを、正電荷を帯電させやすい合成樹脂製の円筒体により形成すると共に、上記電解エレメントを、可撓性及び復元性を有し、浸漬用の錘となる所定の重量の金属製の芯材を中心として半径方向に複数層のロール構造に巻成したメッシュ部材よりなり、該メッシュ部材のメッシュ部全体に帯電電荷生成手段および遠赤外線放射手段として機能する焦電物質と上記液体容器内の液体からの遠赤外線を吸収し、上記焦電物質を加温する加温手段として機能する黒体物質を複合させた状態で一体化して構成し、同構成の電解エレメントを上記合成樹脂製の円筒体よりなる電解ケース内に収納して構成している。
【0026】
このような構成の場合、メッシュ部全体に帯電電荷生成手段および遠赤外線放射手段として機能する焦電物質と上記液体容器内の液体からの遠赤外線を吸収し、上記焦電物質を加温する加温手段として機能する黒体物質を複合させた状態で一体化し、浸漬用の錘となる所定の重量の金属製の芯材を中心として半径方向に複数層のロール構造に巻成したメッシュ部材を帯電性のある合成樹脂製の円筒体よりなる電解ケースの内径より小さい外径に巻き締めた状態で電解ケース内に収納すると、その復元性によるスプリングバック作用によって、同帯電性のある合成樹脂製の円筒体よりなる電解ケース内において、半径方向に所定の隙間を保った状態でコンパクトに収納され、その外周面全体に焦電物質および黒体物質を備えた半径方向に複数層のメッシュ部材が同帯電性のある合成樹脂製の円筒体形状の電解ケース外周面に効率良く所定の極性の電荷を帯電させるようになる。その結果、電解源(帯電源)としての有効な電解電極部材を構成することができる。
【0027】
このような構成の電解エレメントの場合、焦電作用および遠赤外線放射作用を果たす焦電物質の量、作用する面積をトータルとして極めて大きなものとすることができる一方、内層部側のメッシュ部の焦電物質からの電荷や遠赤外線が外層部側のものによって遮蔽されることなく半径方向外周に効率良く放出、放射されるようになる。したがって、実用性に耐える必要にして十分な焦電作用および遠赤外線放射作用を得ることができ、十分な酸化還元電位(ORP)低減能力を実現することができる。
【0028】
また、半径方向に複数層のロール構造のメッシュ部材は、浸漬用の錘となる所定の重量の金属製の芯材を中心として半径方向に複数層のロール構造に巻成されており、中心部に位置する芯材が浸漬用の錘として機能するようになっている。したがって、液体容器の液体中に浸漬させることができると共に、電解ケースが円筒体となっていることから、当該電解具を液体容器中に立設状態で設置することも容易である。そのため、液体容器中での全体に均等な効率の良い電解作用が実現される。また、この金属製の芯材は、電解時の負電荷収集部材として機能させることも出来る。
【0029】
なお、以上の構成において、上記金属製の容器としては、一般的に家庭で使用されている保温ポット等のステンレス製の容器を想定している。周知のように、ステンレス等の鉄系金属の帯電列順位は負側にある(自然電位で-525mv前後)。したがって、合成樹脂製の電解ケースの合成樹脂材には、帯電列順位が正側に大きく偏位した正(+)に帯電しやすいアクリル材(アクリルプレート)が選ばれる。その結果、電解ケース外周面には多数の正電荷が高密度に帯電して高い正電位を維持し、負に帯電し、電位が低いステンレス製容器との間に有効な電解電流が流れるようになり、有効な電解(還元)作用が実現される。
【0030】
(2)請求項2の発明
請求項2の発明の課題解決手段は、上記請求項1の発明の課題解決手段の構成において、焦電機能および遠赤外線放射機能を持つ焦電物質は、自発分極作用を有する極性結晶体により構成されていることを特徴としている。
【0031】
上記焦電機能および遠赤外線放射機能を持つ焦電物質は、例えば、ある種のトルマリン鉱石のような自発分極作用を有する極性結晶体により構成される。トルマリン鉱石の中には、結晶構造が捻れていて(構成原子の正負の電荷の重心が一致せず)自発分極作用により永久的な電気極性を示すものがある。極性結晶のトルマリンは、その結晶構造において、先の尖った方が+極、フラットな方が-極に分極しており、外部電荷の影響による結晶表面での電気的な中和がなければ、永久に当該+-の電気的な極性を維持する。
【0032】
したがって、上述したような焦電機能(エレクトレット機能)を持つ焦電物質として最適であり、電源(電気エネルギー)を使用しない電界形成用の電解源(帯電源)として有効に機能する。また、焦電効果に伴う遠赤外線の放射機能を有しており、水分子との間で上述した分子振動領域での共振作用を招来する。また、遠赤外線の放射率も高い。また、極性結晶のトルマリン鉱石は、数μ程度の微粉末にすることにより、容易に線維構造のメッシュ部材にコーティングその他の方法(繊維化して紡糸)で一体化することができ、メッシュ部材全体に均一な焦電および遠赤外線放射機能を付与することができる。
【0033】
(3)請求項3の発明
請求項3の発明の課題解決手段は、上記請求項1又は2の発明の課題解決手段の構成において、黒体物質として、カーボンナノチューブを採用したことを特徴としている。
【0034】
上述の極性結晶体等焦電物質の結晶を構成している原子の位置には、温度に対する依存性があり、温度を変えると構成原子の位置も変化する。そして、それに伴って自発分極のレベル(+-極間の電位差、すなわち焦電レベル)も変化する。一般に結晶体を冷やすと焦電レベルは低下し、加温すると焦電レベルは高くなる。したがって、結晶体を所定温度に加温し、焦電レベルを高くすると、+-極間の電位差(電圧)が高くなる。この電位差(電圧)は+-極間の絶縁レベルが高いほど高く、かつ安定して維持される。また、これにより所定レベルの電界が形成され、それに応じた電荷が蓄積され、強い誘電体となる。
【0035】
したがって、上記焦電物質(極性結晶体)を電気エネルギーを必要としない電解源として有効に機能させるためには、所定温度への加温手段(加熱原)が必要である。もちろん、電気ポット等の金属製の容器内の液体がお茶などの場合には、同液体の温度が30~40℃の場合もあるが、上記メッシュ部材に設けられた焦電物質(極性結晶体)は、シールされた合成樹脂製の電解ケースの空間内に所定の隙間を置いて収納されており、液体の温度が直接伝導する訳ではない。しかし、液体の温度が30~40℃もあれば当該液体から十分に遠赤外線は放射されており、これを効率良く吸収するようにすれば、上記焦電物質(極性結晶体)を有効に加温することができる。ただ、上記焦電物質(極性結晶体)は遠赤外線の放射率が高いとは言っても、所詮天然鉱石の結晶体であり、その界面部分では30~40℃程度の液体からの遠赤外線を有効に吸収するには十分ではない。
【0036】
そこで、上記請求項1の発明の課題解決手段では、上記焦電物質(極性結晶体)に対して、黒体物質を混合し、同黒体物質を加温手段(加熱原)として機能させることにより、その焦電機能および遠赤外線放射機能をさらに有効に向上させるようにしている。
【0037】
周知のように遠赤外線の放射率が最も高いのは黒体(放射率100%)であり、完全放射体と呼ばれている。しかし、これは概念上の物体であり、現実には存在しない。現在、工業的に量産可能な材料の中で、最も黒体に近い放射率99%を持っているのがカーボンナノチューブである。したがって、上記焦電物質(極性結晶体)に対して、カーボンナノチューブよりなる黒体物質を混合すると、上記焦電物質(極性結晶体)は全体として黒体に近くなり、遠赤外線の吸収率が非常に高いものとなる。その結果、上記温度依存性のある焦電物質(極性結晶体)の加温機能を実現することができ、焦電機能および遠赤外線放射機能をより有効に向上させることができる。
【0038】
また、同カーボンナノチューブよりなる黒体物質は遠赤外線の放射率が99%と極めて高いことから、その上昇した温度に基づいて、自らも有効な遠赤外線の放射物質として機能し、上記分子振動領域における水分子との共振現象をより一層促進することになる。これらの結果、同構成によると、さらに有効な水素生成機能が実現される。
【発明の効果】
【0039】
以上の結果、本願発明によると、水素生成剤や電源(電気エネルギー)を必要とすることなく、保温ポット等の一般に使用されている金属製の液体容器内に所要時間投入しておくだけで、当該金属製の液体容器との間で有効な電解作用を発揮し、効率良く酸化還元電位(ORP)の低い液体を生成することができる、極めて簡便、かつ安価な水処理手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本願発明の実施の形態に係る水
処理用電解具の全体的な構成を示す斜視図である。
【
図2】同実施の形態に係る水
処理用電解具の全体的な構成を示す電解エレメントおよび電解ケース相互の分解斜視図である。
【
図3】同実施の形態に係る水
処理用電解具における電解エレメント単独の構成を示す斜視図である。
【
図4】同実施の形態に係る水
処理用電解具の全体的な構成を示す
図1のA-A線切断部での拡大断面図である。
【
図5】同実施の形態に係る水
処理用電解具における電解エレメント要部の構成を示す拡大斜視図である。
【
図6】同実施の形態に係る水
処理用電解具を用いた水
処理状態を示す断面図である。
【
図7】同実施の形態に係る水
処理用電解具を用いた
図6の水
処理状態における
電解メカニズムを示す電解機構図である。
【
図8】同実施の形態に係る水
処理用電解具による水
処理効果(酸化還元電位の低下)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、添付の
図1~
図8を参照して、本願発明の実施の形態にかかる水
処理用電解具の構成及び作用について詳細に説明する。
【0042】
<本願発明の実施の形態にかかる水処理用電解具の特徴>
本願発明の実施の形態に係る水処理用電解具は、焦電機能および遠赤外線放射機能を持った電解物質を備え、電解源として機能する電解エレメントを帯電性の高い合成樹脂製の電解ケース内に収納して構成されており、当該水処理用電解具を一般に使用されている電気ポット等金属製の飲料容器内に設置し、同飲料容器との間で還元可能な電解系(電解機構)を形成し、飲料容器内飲料液の電気分解を可能としたことを特徴としている。
【0043】
電解源である電解エレメントは、ロール構造に巻成された半径方向に複数層のメッシュ部材よりなり、メッシュ部には帯電電荷生成手段(電解源)および遠赤外線放射手段として機能する焦電物質と、飲料液からの遠赤外線を吸収し、焦電物質を加温する加温手段および遠赤外線放射手段として機能する黒体物質との2種の物質よりなる複合的な構成の電解物質が設けられている。
【0044】
焦電物質はトルマリン鉱石等の自発分極機能を有する極成結晶体により形成され、また、黒体物質はカーボンナノチューブ等の極めて遠赤外線放射率が高い物質により形成されている。焦電物質はその自発分極機能を利用して合成樹脂製の電解ケースを帯電させるとともに、強度の高い遠赤外線を飲料液中の水分子に放射して、飲料液中の水分子のクラスター構造を破砕すると共に、水分子との間で分子振動領域の共振現象を生ぜしめ、電気分解による水分子中の水素分子の遊離を促進する。
【0045】
<基本構成>
まず
図1~
図4は、同実施の形態に係る水
処理用電解具10の全体的な構成を示しており、また
図5は、同水
処理用電解具10における要部の構成を拡大して示している。
【0046】
同水処理用電解具10は、大きく分けると、電解源として機能し、電解作用(還元作用)を果たす電解エレメント1と、該電解エレメント1を収納している電解ケース2との2つの部分から構成されている。
【0047】
電解エレメント1は、可撓性および復元性のある、所定厚、所定幅、所定長さのメッシュ部材11と、該メッシュ部材11のメッシュ部の表面にコーティングされた電解物質12と、所定の重量を有する金属製の芯材13により構成されている。メッシュ部材11は、たとえば
図5に拡大して示されるような格子構造の繊維構造体よりなり、縦および横両方向に交差して延びる格子部11a,11a・・とそれら相互の間に位置して開放された格子間空間11b,11b・・を備えて構成されている。そして、この実施の形態の場合、上記電解物質12は、それら各格子部11a,11a・・の外周面全体に含浸する状態で均一にコーテンィングされている。
【0048】
芯材13は、メッシュ部材11の幅に対応した長さを有する所定の直径のステンレス製(SUS304等)の円柱体よりなり、メッシュ部材11の一端が連結されている。メッシュ部材11は、芯材13を中心として、
図3のような半径方向に複数層のロール構造体に巻成されている。芯材13は、次に述べる電解ケース2の中心にあって、上記メッシュ部材11を半径方向に複数層のロール構造体に巻成すると同時に、後述するように上記電解物質12中の焦電物質からの負電荷を集めて帯電させる負電荷収集部(分極部材)として機能する。また、その重量により当該水素水生成用電解具10を
図6のような飲料液W中への浸漬状態に維持する錘部材としての機能を有している。
【0049】
この実施の形態の場合、同芯材13は、必ずしも電極として機能させているものではないが、巻成構造の電解エレメント1を収納した電解ケース2中において発生する負電荷を中心軸部分に集めることによって、浮遊する負電荷を無くし、電荷の中和を防ぐことにより、電解ケース2部分への正電荷の帯電機能を高める機能を果たしている。
【0050】
電解ケース2は、上下方向中間部で相互に接合一体化された上下2組の合成樹脂製の有底円筒体21,22よりなり、たとえば、まず下部側の有底円筒体21内に上記ロール構造に巻成された電解エレメント1の下部を入れ、その後、相互の開口部21a,22a側を突き合わせる形で接着剤で一体に接合することにより、
図1および
図4に示すように、電解エレメント1の各層のメッシュ部材11を相互に所定の隙間を保った巻成状態で収納している。したがって、同電解ケース2の直径および高さ寸法は、そのような状態での電解エレメント1の収納に適した寸法に設定されている。もちろん、この電解ケース2は、必ずしも上下方向中間部で相互に接合一体化された上下2組の合成樹脂製の有底円筒体21,22で構成する必要はなく、一端を開口した有底円筒体の一端を最後に閉じるものでも良い。
【0051】
この電解ケース2は、上記電解エレメント1の電解物質12中の焦電物質の焦電作用により外周面全体(表裏及び側面の全体)が正(+)に帯電されるようになっており、上記負(-)電荷収集部を形成する芯材13に比べて遥かに面積の広い電気分解用の正電極部を形成するようになっている。そのため、同電解ケース2を形成する合成樹脂材には、帯電列で正側に偏位したアクリル樹脂が選ばれている(なお繊維材としてのアクリル樹脂は負側に偏位しているが、板材としてのアクリル樹脂は正側に偏位している)。これにより、電解ケース2の広い外周面(電極面)に効率良く正の電荷が集積されるようになり、電気分解用の正電極として高い正電位を維持するようになる。
【0052】
そして、この実施の形態の電解具(電源の要らない電解源を備えた電極部材)10が、例えば
図6に示すように、内容器31aおよび外容器31bよりなる金属製(ステンレス製)真空二重壁構造の保温ポット3の内容器31a内に収納された状態では、同電解ケース2の広い外周面の全体が正電極(アノード)として、負電極(カソード)となる内容器31aに対向することになり、それら相互の間に収容されたお茶等の導電性のある飲料液Wを電解質として電気分解可能な(還元可能な)、
図7に示すような電解系(電解機構)が形成され、飲料液W中の水分子H
2Oの電気分解が行われる。そして、それにより正電極である電解ケース2の外周面側(界面部)で電子e
-が奪われて水素H
2と分離した酸素O
2が析出する一方、負電極となる内容器31aの内周面側(界面部)に酸素O
2を分離した水素H
2が析出する。これが所定時間繰り返されることによって、当該飲料液W中に所定量の水素H
2が生成され、酸化還元電位ORPが低下する。したがって、その水素生成量は、後述するように飲料液W中の酸化還元電位ORPの低下を測定することで確認することができる。
【0053】
今、
図6中において、符号3aは、当該保温ポット(金属製の容器)3上端部の開口、符号32は、同開口3a部分に着脱可能に螺合されている蓋であり、上記水素水生成用電解具10は、上記保温ポット3上端部の開口3aを介して任意に投入され、また取り出される。
【0054】
実際の
還元作用(ORP低減作用)実施に際しては、先ず飲料液Wの入っていない内容器31aの底部中央に当該電解具10を立てる形で置き、その後36~40℃(お茶の場合)の必要な量のお湯(飲料液)Wを入れる。この場合、上記水
処理用電解具10の全体がお湯の中に沈む状態が好ましい。その後、さらに緑茶等のティーパックを入れて、所定時間(6~10時間程度)維持する。すると、その間に上記した
図7の電解作用が実現されて、同時間経過後には必要な量の水素が生成され、酸化還元電位
ORPが低下する。
【0055】
当該電解具10の
図6の状態への浸漬の仕方としては、種々の方法があり、飲料液Wが入っている内容器31a内に、後から
水処理用電解具10を入れるようにしても良いことは言うまでもない。
【0056】
<電解物質12の構成と作用>
ところで、この実施の形態の場合、上記電解物質12は、帯電電荷生成手段および遠赤外線放射手段として機能する焦電物質と、飲料液からの遠赤外線を吸収し、焦電物質を加温する加温手段および遠赤外線放射手段として機能する黒体物質との2種の物質により構成されている。具体的には、帯電電荷生成手段および遠赤外線放射手段として機能する焦電物質をベースとし、同焦電物質に飲料液Wからの遠赤外線を吸収し、焦電物質を加温する加温手段および遠赤外線放射手段として機能する黒体物質を所定の重量比で均一に混合して構成されている。
【0057】
ベースとなる焦電物質は、ある種のトルマリン鉱石(電気石)に代表される自発分極作用を有する極性結晶体の数μ程度の微粉末により構成されている。トルマリン鉱石(以下、単にトルマリンという)の中には、たとえばSiO2:36.6%、Al2O3:34.05%、FeO3:14.15%、MgO:0.9%、その他の組成を有し、結晶構造が捻れていて(構成原子の正負の電荷の重心が一致せず)自発分極作用によって永久的な電気極性を示すものがある。このような性質を有する結晶体が極性結晶体である。
【0058】
極性結晶体であるトルマリンは、その結晶構造において、先の尖った方が+極、フラットな方が-極に分極しており、外部電荷(イオン)の影響による結晶表面での電気的な中和がなければ、永久に当該+-の電気的な極性を維持する。この場合、上記結晶を構成している原子の位置は、温度に対する依存性があり、温度を変えると構成原子の位置も変化する。そして、それに伴って自発分極のレベル(+-極間の電位差、すなわち焦電レベル)も変化する。一般に結晶体を冷やすと焦電レベルは低下し、加熱すると焦電レベルは高くなる。したがって、結晶体を所定の温度に加温し、焦電レベルを高くすると、+-極間の電位差(電圧)が高くなる。この電位差(電圧)は+-極間の絶縁レベルが高いほど高く、かつ安定して維持される。また、これにより所定レベルの電界が形成され、それに応じた電荷が蓄積され、全体として強い誘電体となる。
【0059】
また、極性結晶体であるトルマリンは、その焦電効果に伴う遠赤外線の放射機能(電磁波放射機能)をも有しており、しかも、その波長域は5μから1mmで、水分子H2Oの分子振動領域の固有振動数に等しい固有振動数の波長6~15μを持っている。しかも、遠赤外線の放射率も92.7%と高い。したがって、上記極性結晶体全体(電解エレメント1全体)としての焦電レベル、電解レベルを上げ、水分子H2Oに対して、よりエネルギーレベルの高い遠赤外線を放射するようにすると、より効率の良い水素生成作用(還元作用)を実現することができる。
【0060】
すなわち、水は、一般に分子構造H2Oとして表されるが、実際の水の状態は非常に複雑であり、水分子を構成する水素H2と酸素Oの原子間の結合や、水分子同士のつながり方や集まり具合は動的であって、一時として静的な状態にはない。また、水分子は一つの双極子であるために、水分子同士の間には相互作用が生じ、さらに溶存している他のイオンとの間にも種々の相互作用が生じる。水は、通常、H2O分子が5~6個結合した分子クラスターとなっているが、他の元素分子や不純物があると、それらの分子が当該クラスター中に入り込み、さらに数十の分子と結合する。このような結合状態は、上記電気分解と言う電気化学的な方法のみでは容易に分解することができない。ミネラルウオーターなどの飲料水の場合でも各種のミネラルを含んでいるし、さらにカテキンやポリフェノールを含むお茶やジュースなどの場合にはよりその傾向が強くなる。
【0061】
したがって、より効率的な電気分解、水素の生成(還元)には、このようなクラスター構造の破砕が必要となる。
【0062】
そのために、この実施の形態では、上記電解源となる電解エレメント1の焦電物質に遠赤外線の放射機能を有するものを採用している。遠赤外線は電磁波であり、都合の良いことに、上記分子振動領域において水分子H2Oの固有振動数に一致する波長帯域6~15μを有している。したがって、上記飲料液W中に同波長帯域の遠赤外線を放射すると、クラスター構造の水分子H2O部分で効果的に分子振動領域の共振が起こる。
【0063】
そして、同水分子H
2O部分に分子振動領域の共振が起きると、当該分子振動領域において分子・原子間の振動、伸縮、変角が生じ、水分子相互間又は他元素分子との分子間結合力が弱まって、クラスター構造が物理的(機械的)に破砕される。その結果、電気化学反応以外の作用でも、水分子H
2Oの酸素分子Oと水素分子H
2の分離が促進されるようになり、結果として水素分子H
2が保温ポット3の内容器31a内周面側(負極側/カソード側)、酸素分子Oが上記電解ケース2の外周面側(正極側/アノード側)に効率良く析出するようになる(
図7を参照)。
【0064】
このように、この実施の形態による水処理用電解具10を用いると、その基本的な作用として、電気化学的、物理的(機械的)な作用が相乗した有効な還元作用(酸化還元電位低減作用)を実現することができる。しかも、その構成は、そのような作用を果たす電解エレメント1を電極部材としての作用を果たす電解ケース2内に収納して、保温ポット3の金属製内容器31a内に所定時間投入しておくだけで良いから、極めて簡単、かつ便利であり、電源(電気エネルギー)も不要で、安価に構成することができる。
【0065】
しかし、このような構成の場合、電源がなく、電解源としての電界電位は上述した焦電物質の焦電機能のみに依存している。また、遠赤外線の放射機能についても同様である。したがって、実用的な意味で十分な還元能力(ORP低減能力)を確保しようとした場合には、上記基本的(原理的)な構成のみでは十分ではない。
【0066】
そこで、この実施の形態では、上記電解エレメント1を、その外周面全体に焦電物質を備えた半径方向に複数層のメッシュ部材11よりなるものとし、焦電作用および遠赤外線放射作用を果たす焦電物質の量、作用する面積を極めて大きなものとする一方、内層側のメッシュ部の焦電物質からの電荷や遠赤外線が外層側のもので遮蔽されることなく半径方向外方に放出、放射されるようにしている。したがって、実用性に耐える必要にして十分な焦電作用および遠赤外線放射作用を得ることができ、十分な還元能力(ORP低減能力)を実現することができる。
【0067】
また、それを前提として、上記電解ケース2(電解電極部2)を帯電性のある合成樹脂製の円筒体により構成しており、当該半径方向に複数層のメッシュ部材11よりなる電解エレメント1は、同円筒形状の帯電性のある合成樹脂製の電解ケース2内に巻成状態で極めてコンパクトに収納し、その外周面に効率良く所定の極性の電荷を密度良く帯電させるようにしている(
図1~
図4参照)。
【0068】
そして、この実施の形態では、以上のように、金属製の容器としては、一般に家庭で使用されている保温用ポット等のステンレス製の容器を想定している。ステンレス(SUS304等)の鉄系金属の帯電列順位は負側にある(自然電位は-525mv前後)。そして、合成樹脂製の電解ケース2の合成樹脂材には、帯電列順位が正側に大きく偏位した正(+)に帯電しやすいアクリル材(プレート)が選ばれている。その結果、電解ケース2外周面には多数の正電荷が高密度に帯電して高い正電位を維持し、負に帯電し、電位が低い上記ステンレス製の内容器31aとの間に有効な電解電流が流れるようになり、有効な還元作用が実現されて、効率良く水素が
析出する(
図7参照)。
【0069】
一方、黒体物質は、例えばカーボンナノチューブの数μ程度の微粉末により構成されている。周知のように遠赤外線の放射率が最も高いのは黒体であり(100%)、完全放射体と呼ばれている。しかし、厳格な意味での黒体は概念上の物体であり、現実には存在しない。現在、工業的に量産可能な物質(材料)の中で、最も黒体に近い放射率を持っているのがカーボンナノチューブである(99%)。したがって、上記極性結晶体であるトルマリンの微粉末にカーボンナノチューブの微粉末を所定の重量比で混合すると、上記電解物質12は全体として黒体に近くなり、遠赤外線の吸収率および放射率共に非常に高いものとなる。
【0070】
したがって、後述するように、保温ポット3の金属製内容器31a内の飲料液W中に当該電解具10が浸漬され、飲料液Wの温度が所定値以上の温度(例えば36~40°C)に保持されているような場合には、同飲料液Wから放射される遠赤外線が電解物質12中のカーボンナノチューブよりなる黒体物質に効率良く吸収され、同黒体物質の温度が上昇して電解物質12中の焦電物質であるトルマリン結晶体を加温し、トルマリン結晶体の温度が十分な自発分極温度に維持される。その結果、トルマリン結晶体の自発分極作用が活溌になって焦電レベルが高くなり、上記電解ケース2の電界電位が高くなる。また、遠赤外線の放射機能も、さらに向上する。
【0071】
しかも、この作用は、円筒体構造の電解ケース2内にロール構造に巻成された半径方向に複数層のメッシュ部材11の格子部11a,11a・・の各部で均等に起こるので(この場合にも電解エレメント1の各部がメッシュ構造となっているので、飲料液Wからの遠赤外線が外層部から内装部まで均一に入射する)、それらが相乗した電解エレメント1全体での+-極間の電位差、電界レベルの上昇は相当に大きなものとなる。その結果、電解ケース2内には、多量の電荷が発生し、非常に電荷密度が高くなる。そして、電極電位+Vが十分に高められる(
図7参照)。
【0072】
また、この実施の形態では、電解エレメント1を収納している円筒状の電解ケース2が透明なアクリル材により形成されている。したがって、遠赤外線を透過させやすい。またアクリル材は、それ自体合成樹脂材の中でも92.2%と遠赤外線の放射率が高い。したがって、上記電解エレメント1の電解物質12中の焦電物質には、飲料液温度36~40°Cで温められた電解ケース2全周からの遠赤外線も作用するようになる。その結果、上記トルマリン極性結晶体は、さらに分極作用が活発になって、上記+-極間の電位差、電界レベルをさらに高くし、より多量の電荷を発生するようになる。
【0073】
この実施の形態の場合、上記焦電物質であるトルマリン等の極成結晶体の微粉末と黒体物質であるカーボンナノチューブの微粉末との混合による電解物質12の形成は、一例として、所定の重量比で絶縁性の高いバインダー樹脂材中に混合し、加熱溶融させて、上記メッシュ部材11の格子部11a,11a・・の表面全体に含浸状態で均一にコーティングする方法が採用されている。このようにすると、バインダー樹脂材により極性結晶体表面の絶縁性が確保され、周囲イオンの付着による中和作用がなくなることから、+-極間の電位差、電界レベルを高く維持することができる。また、このバインダー樹脂材中への混合時においては、例えば所定の静電界をかけることにより、上記トルマリン極性結晶体各々の極性(結晶方向)を揃える構成が採用される。このようにすると、結晶相互の電位の打ち消しがなくなり、さらに焦電物質の焦電機能を向上させることができ、より高い電界電位を実現することができる。また、バインダー樹脂材の付着含浸により、メッシュ部材11が円筒体構造の電解ケース2内において適正なロール構造体を維持するために必要な剛性および復元性(スプリングバック性)が適切に実現される。
【0074】
なお、この実施の形態の場合、ベースとなるメッシュ部材11の一例として、例えばポリエステル等の熱可塑性樹脂にシリカ(SiO2)を主成分とする遠赤外線放射物質を混練して得られる樹脂組成物を用い、同樹脂組成物を紡糸し、織り上げてメッシュ部材としたものを使用している。したがって、メッシュ部材11は、引っ張り強度が高く、安定したロール構造体に維持することができる。また、ベース繊維素材それ自体としても、シリカ(SiO2)を主成分とする遠赤外線放射物質による均一な遠赤外線の放射機能を得ることができる。
【0075】
<実際の
還元作用とORPの低下について>
以上の実施の形態に係る水
処理用電解具10の
有効な還元作用(ORP低減作用)を確認するために、当該水
処理用電解具10を、上記
図6に示すように、例えば温度36℃の緑茶溶液Wを収容した保温ポット(内容器31aおよび外容器31bの真空二重壁構造のステンレス製の飲料容器)3中に浸漬し、16時間経過するまでの緑茶溶液Wの酸化還元電位ORPを測定した。その結果を示すのが、
図7のグラフである。
【0076】
この結果を見ると明らかなように、測定開始から確実に酸化還元電位が下がり始め、測定開始時には+84mvあった酸化還元電位が、6時間経過した時点で-320mv、10時間経過時点では-500mvまで低下した。酸化還元電位が下がれば、それに反比例して溶存水素量は増えていくので、この結果から、同状態では、緑茶溶液W中に水素が生成されていることが推測される。
【0077】
この還元作用(ORP低減~水素生成作用)は、水道水などに比べ、お茶やジュースなどポリフェノール等の水素成分を多く含んでいる飲料ほど有効であり(それらは水道水などより導電性も高い)、より効果的な還元作用(ORP低減作用)が確認された。
【0078】
<その他の実施の形態について>
この実施の形態に係る上記水処理用電解具10は、要するに電源なしで有効な還元作用を果たし、対象とする液体の酸化還元電位(ORP)を低下させる水処理用の電極部材である。したがって、同水処理用電解具10は、電源を準備できないが還元作用を必要とする各種の水処理用途に利用することができる。
【0079】
また、当該水処理用電解具10には、上述のように、各種の不純物を含んだクラスター構造の水分子を電磁波である遠赤外線による共振現象を利用して破砕し、効率良く電気分解する機能がある。この機能は、水自体の汚れを分解、浄化する機能に利用することができ、また浴槽等において、浴槽との界面において機械的、電気化学的に付着している汚れを除去するクリーナーとして利用することもできる。
【符号の説明】
【0080】
1は電解エレメント、2は電解ケース、3は金属製の容器、11はメッシュ部材、12は電解物質、10は水処理用電解具である。