(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】圧電トランスの周波数制御のための方法ならびに圧電トランスを有する回路構成体
(51)【国際特許分類】
H05H 1/24 20060101AFI20221102BHJP
H01L 41/107 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
H05H1/24
H01L41/08 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020109722
(22)【出願日】2020-06-25
(62)【分割の表示】P 2018504235の分割
【原出願日】2016-07-08
【審査請求日】2020-07-20
(31)【優先権主張番号】102015112410.6
(32)【優先日】2015-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】300002160
【氏名又は名称】ティーディーケイ・エレクトロニクス・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】TDK ELECTRONICS AG
【住所又は居所原語表記】Rosenheimer Strasse 141e, 81671 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイルグニ, ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】プフ, マルクス
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-086758(JP,A)
【文献】特開2009-129673(JP,A)
【文献】特開2000-116141(JP,A)
【文献】特開2000-308358(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0301702(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00-1/54
H01L 27/20
41/00-41/47
H02M 7/42- 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電トランス(1)を周波数制御するための方法であって、
入力側(1a)に入力電圧として所定の周波数の交流電圧を用いて圧電トランス(1)を励起するステップであって、前記圧電トランス(1)はプラズマ発生器として駆動されて、前記入力側(1a)での前記方法を用いて制御される周波数で、1つの入力電圧が1つの出力電圧に変換されるようにされ、出力側(1b)で、前記プラズマ発生器の周りを流れる作業ガスのイオン化によりプラズマが生成される、ステップと、
フィードバック経路において、前記圧電トランス(1)の入力インピーダンスの位相情報を検知するステップと、
所定の位相基準に照らして、検知された前記位相情報を評価するステップと、
評価された前記位相情報に依存して前記交流電圧の周波数を制御するステップと、
入力インピーダンスの位相角
の変化を検出し
、前記変化の絶対値が所定のしきい値を超えたときに印加入力電力を低減させるステップと、を備え、
前記フィードバック経路において、直列に回路接続されたXORゲート(7)およびローパスフィルタ(TP)を含む位相検出器によって、入力電圧の信号が、前記圧電トランス(1)の前記入力側での入力電流に比例した信号と比較され、
前記XORゲート(7)の出力部に比較信号である出力信号が生成されるように、前記XORゲート(7)の第1の入力部に前記入力電圧の符号信号が印加され、前記XORゲート(7)の第2の入力部に前記圧電トランス(1)の前記入力側(1a)での前記入力電流に比例した符号信号が印加され、
前記出力信号は、前記ローパスフィルタ(TP)を用いて平均化され、前記圧電トランス(1)の前記入力インピーダンスの前記位相角の値に比例し、前記圧電トランス(1)の前記入力インピーダンスの前記位相情報として用いられる、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記所定の位相基準は、前記交流電圧の周波数の関数である前記入力インピーダンスの前記位相角の1つのゼロ点または1つの局所的な特異点として設定され、
検知された前記位相情報を評価する前記ステップは、前記所定位相基準を満足することを評価するステップを含む、ことを特徴とする方法。
【請求項3】
回路構成体であって、
入力側(1a)および出力側(1b)を備える圧電トランス(1)と、
前記圧電トランス(1)の前記入力側(1a)に所定の周波数の入力電圧を生成するための、交流電圧源(2)であって、前記圧電トランス(1)は1つの圧電プラズマ発生器であり、当該圧電プラズマ発生器は、前記入力側(1a)での前記入力電圧から、前記出力側(1b)での高電圧出力を生成し、前記出力側(1b)に前記プラズマ発生器の周りを流れる作業ガスのイオン化によってプラズマが生成されるように構成されている、交流電圧源(2)と、
前記圧電トランス(1)の前記入力側(1a)と前記交流電圧源(2)との間のフィードバック経路に設置され、前記圧電トランス(1)の入力インピーダンスの位相情報を検知するための、検出装置(4)と、
検知された前記位相情報を所定の位相基準に照らして評価し、そして評価された当該位相情報に依存して前記交流
電圧源(2)に前記入力電圧の生成のための周波数を設定するように構成されている、制御装置(5)と、を備え、
前記検出装置(4)は、位相検出器を備え、
前記位相検出器は、直列に回路接続されたXORゲート(7)およびローパスフィルタ(TP)を備え、
前記XORゲート(7)の出力部に比較信号として入力インピーダンスの位相情報を含んだ出力信号が生成され得るように、前記XORゲート(7)の第1の入力部に前記入力電圧の符号信号が印加され、前記XORゲート(7)の第2の入力部に前記圧電トランス(1)の前記入力側(1a)に入力電流に比例した符号信号が印加され、
前記出力信号は、前記ローパスフィルタ(TP)を用いて1つの信号に平均可能であり、前記圧電トランス(1)の前記入力インピーダンスの位相角の値に比例しており、
前記圧電トランス(1)は、入力インピーダンスの位相角
の変化を検出し
、前記変化の絶対値が所定のしきい値を超えたときに印加入力電力を低減するように設計された回路構成である、ことを特徴とする回路構成体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電トランスの周波数制御のための方法ならびに、1つの圧電トランスおよびこの圧電トランスの入力側での入力電圧を発生させるための1つの交流電圧源を有する回路構成体に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電トランスは、圧電素子の入力側への入力電圧として投入される交流電圧を、これより高いかまたは低い、出力側への出力電圧として変換することを可能にする。この圧電素子はしばしばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)から構成されている。この圧電素子の入力側ならびに出力側の適合した分極に依存して、この圧電素子は、この入力側への正弦波形状の交流電圧の印加の際に、逆圧電効果のために、たとえば厚さ方向に変形し、これによってこの圧電素子の長手方向に振動が生成される。これは、その直接圧電効果のために、今度はこの出力側にこれに対応した出力電圧を生成する。
【0003】
この印加された入力電圧の周波数が、この圧電素子の共振周波数に一致すると、これよりこの素子の電気機械共振が生じ、こうしてその機械振動は最大に達する。このようにしてこの圧電素子の出力側に、1つの非常に大きな出力電圧を発生することができる。1つのアプリケーションとして、たとえば1つの圧電トランスをプラズマ発生器として駆動することがあり、ここでこのプラズマ発生器の出力側での大きな出力電圧のおかげで、このプラズマ発生器の周囲を流れる作業ガスのイオン化を生じ、こうしてプラズマが発生される。
【0004】
さらに圧電トランスの動作の際には、このトランスを常に最大の効率で駆動することが望ましい。この最大の効率は、1つの特定の周波数でのみ達成することができる。この周波数は、多数のパラメータに依存しており、特に上記の入力電圧とこのトランスが用いられる動作環境に依存する。この最大の効率を見出すためには、したがって上記のデバイスの情報が必要である。
【0005】
従来の圧電トランスの周波数制御においては既に複数の方法が存在している。たとえば、二次側での電圧(出力電圧)が用いられてよい。もう1つの方法は、トランスに、フィードバック信号を得るための1つの追加の電極を用いることである。
【0006】
最初の方法では、出力電圧を毎回取得することが、この出力電圧の振幅に影響し、そしてこれにより圧電素子の振動特性および最終的にはこの圧電トランスの動作に影響することである。特にこの圧電トランスをプラズマ発生器として用いる際には、このような周波数制御の方法は、このプラズマ発生器の動作に大きな悪影響を与えかねない。
【0007】
これに対し上記の2つ目の実施例は、これによりこの圧電デバイスのもう1つの接続部が必要となり、これが構造をさらに複雑にするという欠点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明の課題は、1つの圧電トランス、具体的には1つの圧電プラズマ発生器を、このトランスが常に最大の効率で駆動されるように、そしてなお簡単な構成でその動作ができるかぎり影響を受けないように、周波数に照らして制御することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様においては、上記の課題は、請求項1に記載の、圧電トランスを周波数制御するための方法によって解決される。
【0010】
本方法は以下のステップを備えている。
-入力側に入力電圧として所定の周波数の交流電圧を用いて1つの圧電トランスを励起するステップ。
-フィードバック経路において、この圧電トランスの入力インピーダンスの位相情報を検知するステップ。
-所定の位相基準に照らして、この検知された位相情報を評価するステップ。
-この評価された位相情報に依存して上記の交流電圧の周波数を制御するステップ。
【0011】
上記のような方法によれば、1つの位相情報、すなわち正弦波形状の入力電圧と正弦波形状の入力電流との間の位相角に関する情報の検出が行われ、この位相角は入力インピーダンスの位相角に対応している。最終的には、この交流電圧の周波数は、上記の評価された位相情報に依存して制御することができる。
【0012】
このような方法の利点はこの圧電トランスの入力側で検知された情報のみが、周波数制御のために、この周波数制御用の基準として使用されるということである。このようにすることでこの圧電トランスの動作特性は実際に殆ど影響を受けず、または無視できる程度にのみ影響を受けることになる。具体的には、この圧電トランスの出力側での信号情報の取得は用いられない。それでもなおこの圧電トランスは、上記の入力側で検知された情報のみで、常に最適の条件で駆動することができる。従来のアイデアに対して決定的な利点は、ここで達成することができるその高い効率である。
【0013】
本方法の重要な原理は、この方法が、このトランスを任意の外部条件でそれぞれ最大の効率で駆動するために、上記の圧電トランスの入力インピーダンスの位相角のみに基づいて可能であるということである。これは所定の位相基準に照らして検知された位相譲歩の評価に基づくだけで、アルゴリズム的に1つの所定の動作周波数が推測され得るということを意味し、この周波数では上記の位相基準が満足され、そして最大の効率となっている。以上のようにして上記の圧電トランスは、上記の交流電圧の1つの動作周波数となるように制御され、こうしてこのトランスはこの周波数で最大の効率で動作するようになっている。
【0014】
上述したような方法では、所定の位相基準は、好適には、この交流電圧の周波数の関数である入力インピーダンスの位相角の1つ以上のゼロ点すなわち1つの局所的な特異点として設定される。たとえばこの局所的な特異点は、上記の入力インピーダンスの位相角の局所的な1つの極小値であってよい。上記の検知された位相情報を評価するステップは、有利には上記の所定の位相基準を充分満足していることの評価するステップを含む。こうして上記の交流電圧の周波数の関数である入力インピーダンスの位相角の変化は、所定の動作条件で上記の圧電トランスの効率が最適となる所定の動作周波数を導き出すことを可能とする。
【0015】
これらの1つ以上の位相基準を数学的な式で表し、そしてこれに対応した制御を実装することによって、連続的な周波数の制御を、上記の検知された位相情報が上記の位相基準を十分に満足するかどうかを常に評価するように行うことができる。こうして最大の効率を有する上記の圧電トランスの最適な動作周波数である、1つの対応する位相基準に係る動作周波数に制御することができる。このようにしてこの周波数についての上記の位相角の評価のみによって、上記の圧電トランスの最適な動作周波数を求めることが可能となる。
【0016】
1つの可能な実施形態においては、上記のフィードバック経路において、1つの位相検出器を用いて、1つの入力電圧の信号が、上記の圧電トランスの入力側での入力電流に比例した1つの信号と比較され、そしてこれよりこの位相検出器の1つの出力信号が求められる。この位相検出器の出力信号は、この入力電圧とこの入力電流との間の位相角の値に比例しており、そして上記の圧電トランスの入力インピーダンスの位相情報として用いられる。このような方法は、入力電圧および入力電流の比較を参照する簡単な手段を用いて、これら2つの電気的な変数の位相差を推測することを可能とする。
【0017】
もう1つの実施形態においては、上記のフィードバック経路において、1つのインピーダンス解析器を用いて、上記の圧電トランスの入力側での入力電流に比例した1つの信号がサンプリングされる。このサンプリング値(複数)から、フーリエ変換を用いて、この信号の位相角が計算され、最終的にこの位相角はこの圧電トランスの入力インピーダンスの位相情報として用いられる。このようにして最適な動作周波数の制御のための位相角を求めることもできる。
【0018】
有利なことに、上述したような方法では、上記の圧電トランスはプラズマ発生器として駆動されて、上記の入力側での本方法を用いて制御される周波数で、1つの入力電圧が1つの出力電圧に変換されるようにされ、これによってこの出力側で、このプラズマ発生器の周りを流れる作業ガスのイオン化によりプラズマが生成される。この作業ガスは、たとえば空気であってよく、または他に希ガス(たとえばアルゴン)であってもよい。
【0019】
具体的には、プラズマ発生器としての圧電トランスの好適な動作では、このプラズマ発生器が最大の効率を有する周波数は、多くのパラメータに依存し、とりわけ用いられている作業環境(作業ガス、温度、等)に依存する。上述の周波数制御の方法を用いて、このプラズマ発生器の動作、具体的にはその動作周波数を、様々な作業環境および動作条件に適合することができる。上記の周波数制御のために必要な情報は入力側で検知されるものだけであるので、その出力側でのプラズマ発生器の動作特性は、その出力側では悪影響を受けず、そしてこれよりそのプラズマ発生は悪影響を受けない。とにかくこのプラズマ発生器は、常に最適な条件で駆動することができる。以上により上記の圧電素子あるいは圧電デバイスの加熱も極小にまで低減される。さらにこのプラズマ発生器は、より大きなプラズマ出力で駆動することもできる。
【0020】
さらに、1つの圧電プラズマ発生器の動作での周波数制御のための上述の方法の利用の利点は、操作ミス(たとえば導電性の対象物に対する点火、接触、等)に対応することができることである。というのは、このような状況は、上記の入力インピーダンスの位相あるいは位相角の大きな変化をもたらすので、これは上述の方法によって知ることができるからである。以上により励起、たとえば入力電力を低減することができる。
【0021】
もう1つの態様においては、上述の課題は、請求項6に記載の回路構成体によって解決される。この回路構成体は、以下のものを備える。
-1つの入力側および1つの出力側を備える1つの圧電トランス、
-この圧電トランスの入力側に所定の周波数の入力電圧を生成するための1つの交流電圧源、
-この圧電トランスの入力側とこの交流電圧源との間のフィードバック経路に設置され、この圧電トランスの入力インピーダンスの位相情報を検知するための、1つの検出装置、ならびに、
-この検知された位相情報を所定の位相基準に照らして評価し、そして評価された位相情報に依存して上記の交流電源に上記の入力電圧の生成のための周波数を設定するように構成されている、1つの制御装置。
【0022】
このような回路構成体は、圧電トランスの周波数制御のための従来の制御構成体とは対照的に、圧電トランスの周波数制御が、このトランスの入力側で検知された情報のみによって実施可能であるという利点を有している。上述の方法に関連して既に説明したように、この周波数制御は、検知された圧電トランスの入力インピーダンスの位相情報に基づいて行われる。これは本発明による回路構成体の簡単な構成を可能とし、そしてなお最大の効率を有する動作周波数の観点からこのトランスの最適な制御を可能とする。さらに本発明による回路構成体は、トランスの動作に悪影響を与えない。これは制御のために必要な情報は、トランスの入力側でのみ取り出されるからである。
【0023】
1つの可能な実施形態においては、上記の検出装置は、1つの位相検出器を備え、この位相検出器は、この位相検出器の1つの第1の入力部に、上記の入力電圧の信号が印加され、そしてこの位相検出器の1つの第2の入力部に、この圧電トランスの入力側での入力電流に比例した信号が印加されるように回路接続されている。ここでこの位相検出器は、1つの出力部に出力信号を出力するように構成されており、この出力信号は、上記の入力インピーダンスの位相情報を含んでいる。このような位相検出器によって、上記の入力インピーダンスの位相情報を簡単に検知することができる。
【0024】
1つの代替の実施形態によれば、上記の検出装置は、1つのインピーダンス解析器を備え、このインピーダンス解析器はその入力部に、圧電トランスの入力側での入力電流に比例した信号を印加するように回路接続されている。このインピーダンス解析器は、この信号をサンプリングし、そしてこの信号の位相角を計算するために、このサンプリングされた信号にフーリエ変換を施すように構成されている。この位相角は、この圧電トランスの入力インピーダンスの位相角に対応している。
【0025】
上述したような圧電トランスの回路構成体において有利なことは、圧電プラズマ発生器が、その入力側での入力電圧から、その出力側での高電圧出力を生成することであり、こうしてその出力側にこのプラズマ発生器の周りを流れる作業ガスのイオン化によってプラズマが生成されることである。
【0026】
さらなる有利な実施形態が、下位請求項ならびに以下の図の説明で開示される。
【0027】
複数の図を用いて、以下の実施形態例を参照して、本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】1つの圧電トランスの入力インピーダンスの値ならびに位相角の様々な特性曲線を周波数に対して示す。
【
図2】
図1に関連した圧電トランスの効率の様々な特性曲線を周波数に対して示す。
【
図3A】1つの実施形態による1つの圧電トランスの周波数制御のための1つの回路構成体を示す。
【
図3B】
図3Aに示す1つの回路構成体における1つの検出装置の構成を示す。
【
図4】もう1つの実施形態による圧電プラズマ発生器の周波数制御のための1つの回路構成体を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、1つのプラズマ発生器の入力インピーダンスの大きさ(「|Zin|」)の様々な特性曲線Z1,Z2,Z3を周波数に対してオーム(Ω)で示し、ならびにこれに対応するこの入力インピーダンスのこれに対応する位相角(「φ(Zin)」の様々な特性曲線を周波数に対して度(°)で示す。以下の説明は、ここでは上記の圧電プラズマ発生器の反共鳴での制御に関する。なおここで基礎としている原理は、共鳴における動作用に構成されるプラズマ発生器に対しても有効である。
【0030】
図1は、様々の動作のプラズマ発生器とこれに対応した動作特性を示す。特性曲線Z1およびP1は、第1の動作特性を表す。ここではプラズマ発生器は、その出力電圧が、プラズマを発生するためにはまだ十分でないような小さな入力電圧を用いて励起される。この場合このプラズマ発生器は、無負荷の圧電トランスのように記述することができる。この際効率は、0°の位相角で最大であり、そして同時にインピーダンスの最大値で最大となっている。これは
図1においては、特性曲線P1が周波数F1(垂直のマーキング線参照)でゼロ通過部を備え、ここでインピーダンスZ1の値の最大値があることで明らかとなっている。
図2は、これに対応する周波数(垂直マーキング線F1参照)で、効率W1の変化における局所的な最大値を示す。
【0031】
入力電圧を大きくすると、プラズマ発生器はプラズマの発生を開始する。この振舞いは近似的に、この圧電プラズマ発生器の出力部での電圧依存の負荷抵抗として記述することができる。この動作特性は、
図1においては特性曲線P2あるいはZ2によって表されている。上記の特性曲線P1およびZ1の振舞いと異なり、この動作特性における効率は、もはやインピーダンスの最大値では最大となっておらず(
図1の特性曲線Z1の局所的な最大値を参照)、むしろここでは0°の位相角で最大となっている(これに対応するより低い周波数F2での特性曲線P2のゼロ点を参照)。
図2は、このような効率W2の変化がF2で局所的な最大値を備える振舞いを示している。
【0032】
このプラズマ発生器の入力部での電圧がさらに大きくされると、このデバイスのインダクタンスとしての振舞いは、全く消失し、そしてその位相角は常に0°より小さくなっている。
図1における特性曲線P3およびZ3の変化を参照されたい。ここでは、最大の効率は、周波数F3での位相角の最大値のところとなっている。これは周波数F3のところにある、
図2における効率W3の局所的な最大値と比較されたい。
【0033】
図1および2で分るように上述の考察から、周波数依存の位相角の変化に基づくことのみで、任意の外部条件でプラズマ発生器をそれぞれ最大の効率で駆動することが可能となる。
【0034】
この知見は、このプラズマ発生器の周波数制御に利用することができる。
【0035】
図3Aは、1つのプラズマ発生器に適合した周波数制御のための1つの回路構成体の1つの実施形態を示す。
【0036】
具体的には、この回路構成体は、圧電プラズマ発生器として動作する1つの圧電トランス1を備える。この圧電トランス1は、1つの入力側1aおよび1つの出力側1bを備える。入力側には、1つの交流電圧源2が回路接続されており、この交流電圧源は、圧電トランス1を励起するための正弦波形状の交流電圧をその入力側に生成する。この交流電圧源2は、たとえば1つのDDS正弦波発生器(DDS=Direkte digitale Synthese)であってよい。しかしながら、この交流電圧源2は、アナログ電圧制御の発振器(Voltage Controlled Oscillator, VCO)として実装することも可能である。
【0037】
こうして発生された交流電圧は、1つの電力増幅器3によって前段増幅されて、圧電トランス1の入力側1aに入力電圧信号uが印加される。この入力電圧uによって、圧電トランス1を機械振動させるように励起することができ、こうしてその出力側1bに圧電トランス1の周りを流れる作業ガス、たとえば空気のプラズマ発生のための高電圧出力が生成される。
【0038】
さらに、
図3Aに示す回路構成体のフィードバック経路には、1つの検出装置4が設置されており、この検出装置には、入力電圧信号uも、また信号u(i)も供給される。最終的に、電圧信号はこのトランス1の入力側1aでの入力電流iに比例する。信号u(i)は、1つの電流シャント6を介して得られる。上記の2つの信号uおよびu(i)は、検出装置4において出力信号u=f(|φ|)となるように処理される(トランス1の入力インピーダンスの位相角の値の関数である電圧信号)。この実施形態においては、この出力信号は、この位相角の値に比例する。換言すれば。この検出装置4の出力信号は、位相情報を表し、具体的には、このトランス1の入力側1aでの時間依存の入力電圧uと、(信号u(i)で表される)時間依存の入力電流との間の位相シフト(位相角)を表す。
【0039】
この検出装置4の出力信号はさらに、この出力信号を評価する制御装置5に供給される。この評価に依存して、場合により1つの新たな(あるいは1つの所定の値だけ変化された)周波数が計算され、この新たな周波数が交流電圧源2に補正信号として供給される。制御装置5は、たとえばマイクロコントローラとして実装されていてよい。具体的には、この制御装置5は、検出装置4によって検知され、そして出力信号として出力される位相情報を評価し、この検知されたトランス1の入力インピーダンスの位相角が所定の位相基準を満足するか否かを評価する。有利にはここでこの制御装置5は、ゼロ通過(ゼロ点)、すなわち上記の位相情報の局所的な特異点が満足されているか、あるいはこれが達成されているかを評価する。
図1および
図2に対して説明したように、それぞれの動作状態における、これに対応する位相角の周波数に対する変化のこれらの位置で、上記のトランス1で目標とする最大の効率となっている。
【0040】
制御を1つのある周波数から開始して、周波数が連続的に変化され、そして上述の方法により、検知されたこのトランスの入力インピーダンスの位相角が上記の所定の位相基準に近づいたかどうかおよびこの位相基準を最終的に充分満たすがどうかを評価することも可能である。この制御は、圧電トランス1の連続的動作の間に行うことができる。代替として、1つの特定の動作状態に対して、最初に所定の周波数バンドを(たとえばスイープ信号またはチャープ信号を用いて)通過し、目標とする位相基準に照らして位相角を評価し、そして続いてこの位相基準が充分満足される、適合した周波数に向かって制御することも可能である。この後上記の圧電トランス1は、この周波数を用いて最適に駆動することができる。ここで作業ガス量、温度等の特定の動作パラメータが変化した場合、動作中に追加的にさらなる再調整を行うことも可能である。
【0041】
検知された位相情報が、上述の位相基準を(たとえば規定された位相基準の近傍の所定の小さな領域で)充分に満たすと、トランス1は、
図3Aに示すように、対応する周波数で最適な効率で駆動することができる。以上のように
図3Aに示す回路構成体は、検知されたトランス1の入力インピーダンスの位相角を参照して、所定の位相基準(
図1および2参照)が満足される最適な動作周波数となるように制御することができるという利点を有する。
【0042】
図3Bは
図3Aに示す検出装置4を詳細に示している。ここではこの検出装置4は、位相検出器として実装されている。最初に、上記の入力電圧信号uならびに上記の入力電流に比例している上記の信号u(i)が、それぞれ1つのコンパレータK1およびK2に供給されてそれぞれの信号のゼロ通過が確認される。続いてこれらの処理された信号は、1つのXORゲート7(XOR=Exklusiv ODER)の入力部(複数)に印加される。これらの信号uおよびu(i)が互いに逆の符号を有する限り、このXORゲート7はその出力部にハイレベルを出力する。逆に、これらの信号uおよびu(i)が同じ符号を有する限り、このXORゲートはローレベルを出力する。このXORゲート7の出力信号7は、さらに1つのローパスフィルタに伝送され、このローパスフィルタはこのXORゲート7の信号を平均化する。このようにして得られた出力信号u=f(|φ|)(トランス1の入力インピーダンスの位相角の値の関数である電圧信号)は、上記の信号uおよびu(i)が同相である場合は、ゼロとなる。これらの信号が+180度あるいは-180度位相シフトしていると、この出力信号は最大となる。
【0043】
このようにして上記のように実装された位相検出器4は、正位相と負位相とを区別することはできないが、しかしながら位相角の値に比例している信号(位相信号)が得られる。この信号は、制御装置5(
図3A参照)に引き渡され、この制御装置において適合したアルゴリズムによって、繰り返し周波数を変更し、そしてこの位相角を評価することによって、所望の位相基準に近づいていることあるいはこれに到達したことを検出することができ、この信号は最終的に最適な動作周波数をもたらす。これに適合したアルゴリズムは、たとえばゼロ点法および/または特異値探索アルゴリズムを備える。(Q値の関数である)最適の位相基準を最適に探し出すためのLQ制御法を、これに対応した動作周波数を決定するために用いることも可能である。ここで様々なアルゴリズムまたはこれらのそれぞれの方法の組合せも可能である。
【0044】
図4は圧電トランス1の周波数制御のための1つの回路構成体の1つの代替の実施形態を示す。この回路構成体は、
図3Aに示す回路構成体のいくつかの重要な部品においては対応するものとなっている。
図4に示す回路構成体のただ1つの違いは、検出装置4および交流電圧源2が構造的に1つのモジュールに一体化され、そしてこの検出装置4がインピーダンス解析器として構成されていることである。このようにしてこの検出装置4には、この回路構成体のフィードバック経路において1つの電圧信号u(i)のみが引き渡される。この電圧信号は、
図3Aに示したと同様に、1つの電流シャント6を介して形成され、そして圧電トランス1の入力側1aへの入力電流に比例している。この信号u(i)は、このインピーダンス解析器4においてオーバサンプリングされ、そしてこれらのサンプリング値から、対応するこの信号の位相角がフーリエ変換によって求められる。ここでたとえば高速フーリエ変換(FFT)のアルゴリズム手法を応用することができる。こうして対応する出力信号u=f(φ)が、制御装置5に引き渡され、そしてこの制御装置において充分に評価することができる。この制御装置5は、たとえばソフトウェアによって交流電圧源2に対する制御変数としてこの周波数を再調整する。この
図4に示すインピーダンス解析器4による位相角の評価は、この位相角の符号も考慮され、そして評価の中に取り込むことができるという利点を有する。
【0045】
上記の実施形態は単に例示的に選択されたものである。ここで上記の説明した制御方法あるいは上記の回路構成体は、圧電トランス、具体的には圧電プラズマ発生器の、それぞれの動作状態における最適な動作周波数に調整するための周波数制御を可能とし、この圧電トランスを最適な効率で駆動することが可能となっている。この方法あるいはこの回路構成体の利点は、これに対応する制御情報が、このトランスの入力側で取り出すことができる信号のみによって得られることである。このようにして、このトランスの動作に悪影響を与えかねない、このトランスの出力側での信号の取出しおよびフィードバックが省かれる。さらにこれに対応する回路構成体は、簡単な構成とすることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 : 圧電トランス
1a : 入力側
1b : 出力側
2 : 交流電圧源
3 : 電力増幅器
4 : 検出装置
5 : 制御装置
6 : 電流シャント
7 : XORゲート
F1,F2,F3 : 周波数マーキング線
K1 : コンパレータ
K2 : コンパレータ
P1,P2,P3 : 位相角
TP : ローパスフィルタ
Z1,Z2,Z3 : インピーダンス値