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特許7169326電動車両用バッテリーケースおよび製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】電動車両用バッテリーケースおよび製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60K 1/04 20190101AFI20221102BHJP
   B21D 53/00 20060101ALI20221102BHJP
   B21D 22/10 20060101ALI20221102BHJP
   B62D 25/20 20060101ALI20221102BHJP
   H01M 50/20 20210101ALI20221102BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20221102BHJP
   H01M 10/6567 20140101ALI20221102BHJP
【FI】
B60K1/04 Z
B21D53/00 D
B21D22/10 Z
B62D25/20 E
H01M50/20
H01M10/613
H01M10/6567
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020148477
(22)【出願日】2020-09-03
(65)【公開番号】P2022042851
(43)【公開日】2022-03-15
【審査請求日】2021-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100218132
【弁理士】
【氏名又は名称】近田 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】石飛 秀樹
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0337377(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0381899(US,A1)
【文献】登録実用新案第3002875(JP,U)
【文献】特開平10-255749(JP,A)
【文献】特表2001-515959(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0233789(US,A1)
【文献】特開2011-124101(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第10160242(DE,A1)
【文献】国際公開第2016/125507(WO,A1)
【文献】特開2002-273525(JP,A)
【文献】特開昭51-133170(JP,A)
【文献】特開2001-129618(JP,A)
【文献】国際公開第2019/003764(WO,A1)
【文献】特開2011-146340(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0296294(US,A1)
【文献】プレス加工ノウハウ編集委員会編,“プレス加工ノウハウ100題”,第2版,日本,日刊工業新聞社,1975年12月30日,p.36-81,ISBN:978-4-526-00795-8
【文献】中川威雄,阿部邦雄,林豊,“薄板のプレス加工”,第1版,日本,実教出版株式会社,1977年10月10日,p.99-154,ISBN:978-4-407-02185-1
【文献】池田薫男,“技能指導プレス加工”,第2版,日本,工学図書株式会社,1965年12月15日,p.163-198,ISBN:978-4-769-20035-2
【文献】橋本明,“プレス絞り加工”,第14版,日本,日刊工業新聞社,1975年11月30日,p.118-129,ISBN:978-4-526-00051-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 1/04
B21D 22/10
H01M 50/20
H01M 10/613
H01M 10/6567
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視において、多角形枠状であり、内側に空間を画定し、前記多角形枠状の角部の内側にはR形状が付与されているフレームと、
前記空間内に位置する底壁と、前記底壁の周囲に設けられて前記底壁とは反対側に開口部を画定する周壁と、前記周壁の先端に設けられたフランジとを有し、前記フレームの前記空間内において前記フレームに押し付けられるように圧接されて一体化されたバスタブ状のトレイと
を備え、
前記トレイの前記底壁から開口部に向かって少なくとも部分的に内側へ向かう負角が形成された負角部が設けられている、電動車両用バッテリーケース。
【請求項2】
前記フレームは、前記多角形枠状を構成する本体と、前記本体の前記角部の内側に配置された前記R形状を有するコーナー部材とを備える、請求項1に記載の電動車両用バッテリーケース。
【請求項3】
前記フレームは、直線状の押出材が溶接されて前記多角形枠状が構成され、
前記押出材の端部は、前記R形状を有するようにプレス加工されている、請求項1に記載の電動車両用バッテリーケース。
【請求項4】
前記フレームは、アルミニウム合金製の押出材からなり、
前記トレイは、アルミニウム合金製の板材からなる、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電動車両用バッテリーケース。
【請求項5】
前記フレームは、鋼板ロールフォーム材からなり、
前記トレイは、鋼製の板材からなる、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電動車両用バッテリーケース。
【請求項6】
前記フレームは、防食塗装された鋼板ロールフォーム材からなり、
前記トレイは、アルミニウム合金製の板材からなる、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電動車両用バッテリーケース。
【請求項7】
前記フレームは、アルミニウム合金製の押出材からなり、
前記トレイは、塗装鋼板またはラミネート鋼板からなる、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電動車両用バッテリーケース。
【請求項8】
前記フレームは、クロスメンバーを備える、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の電動車両用バッテリーケース。
【請求項9】
前記トレイの前記底壁には冷却液の流路が成形されている、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の電動車両用バッテリーケース。
【請求項10】
平面視において、多角形枠状であり内側に空間を画定する本体および前記本体の角部の内側に配置されたR形状を有するコーナー部材を含むフレームと、平板状の被成形部材とを準備し、
前記被成形部材を前記フレームに重ねて配置し、
前記フレームとは反対側から前記被成形部材に圧力を加え、前記フレームに前記被成形部材を押付けて前記空間内で膨出させ、それによって前記被成形部材を、底壁と、前記底壁の周縁に設けられて開口部を画定する周壁とを備えるバスタブ状のトレイに変形させるとともに、前記フレームと一体化し、
前記被成形部材と前記フレームが一体化された後に前記コーナー部材を前記フレームから取り外す
ことを含む、電動車両用バッテリーケースの製造方法。
【請求項11】
前記被成形部材への加圧は、ゴムバルジ法によって行われる、請求項10に記載の電動車両用バッテリーケースの製造方法。
【請求項12】
前記ゴムバルジ法による前記被成形部材の加圧は、前記被成形部材を加熱して軟化させた状態で行われる、請求項11に記載の電動車両用バッテリーケースの製造方法。
【請求項13】
高さ寸法が前記フレーム以上であって、前記フレームの動きを拘束する拘束金型をさらに準備し、
前記拘束金型を前記フレームの外側に固定して配置し、
前記被成形部材の第1外縁部を前記フレームによって支持し、前記第1外縁部よりも外側の第2外縁部を前記拘束金型によって支持することで、前記被成形部材を平面視において外側から内側に向かって高さが低くなるように撓ませて配置し、
前記被成形部材が撓んだ状態で前記被成形部材を加圧する
ことをさらに含む、請求項10から請求項12のいずれか1項に記載の電動車両用バッテリーケースの製造方法。
【請求項14】
前記被成形部材の加圧は、2段階で行われ、
第1段階でバスタブ状に前記被成形部材を成形し、
第2段階で前記フレームと前記被成形部材を圧接して一体化する、請求項10から請求項13のいずれか1項に記載の電動車両用バッテリーケースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両用バッテリーケースおよび製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車などの電動車両は、十分な航続距離を確保するために大容量のバッテリーを搭載する必要がある一方で広い車室が求められている。これらの要求を両立するため、多くの電気自動車では大容量のバッテリーをバッテリーケースに格納して車両の床下全面に搭載している。従って、電動車両用バッテリーケースには、路面などからの水の浸入を防止して電子部品の不具合を防止するための高いシール性が求められるとともに、内部のバッテリーを保護するために高い衝突強度が求められる。
【0003】
例えば、特許文献1には、金属板を冷間プレス成形によりバスタブ状に成形したトレイを用いることでシール性を向上させたバッテリーケースが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-226353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のバッテリーケースでは、金属板を冷間プレス成形するため、金型の抜き角(周壁の傾斜)および底壁と周壁の稜線部ないし角部にR形状(ラウンド形状)が必要となる。バッテリー搭載用のスペースを大きく確保するために、高荷重のプレス成形を行い、角部の丸みを小さくしようとすると、角部において割れが生じるおそれがある。従って、バッテリー搭載用のスペースを効率的に確保し難い。また、バスタブ状のトレイと、縦骨などのフレームとを溶接する必要もある。
【0006】
本発明は、電動車両用バッテリーケースおよびその製造方法において、十分なシール性の確保、バッテリー搭載用のスペース効率の向上、よびトレイとフレームの接合強度の向上を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、平面視において、多角形枠状であり、内側に空間を画定し、前記多角形枠状の角部の内側にはR形状が付与されているフレームと、前記空間内に位置する底壁と、前記底壁の周囲に設けられて前記底壁とは反対側に開口部を画定する周壁と、前記周壁の先端に設けられたフランジとを有し、前記フレームの前記空間内において前記フレームに押し付けられるように圧接されて一体化されたバスタブ状のトレイとを備え、前記トレイの前記底壁から開口部に向かって少なくとも部分的に内側へ向かう負角が形成された負角部が設けられている、電動車両用バッテリーケースを提供する。
【0008】
この構成によれば、トレイがバスタブ状に成形されているため、継ぎ目も存在せず、高いシール性を確保できる。また、フレームの角部にはR形状が付与されており、トレイがフレームに圧接されていることからトレイにもフレームのR形状が付与される。従って、フレームの角部のR形状に合わせたR形状を有するトレイを構成できる。よって、フレームの角部のR形状を所望の大きさに設定することでバッテリー搭載用のスペース効率を向上できる。仮に、フレームの角部にR形状を付与しない場合、高荷重のプレス成形によってトレイの角部のR形状が著しく小さくなる結果、トレイ底面部の割れやフランジ部のシワが生じるおそれがある。しかし、上記構成のようにフレームの角部にR形状を付与していると、トレイには少なくともフレームの角部のR形状と同程度のR形状が付与されるため、トレイの成形時に発生する底面部の割れやフランジ部のシワを抑制できる。また、バスタブ状のトレイが圧接によりフレームと一体化されており、溶接に伴う熱変形が生じることもなく、高精度の接合を実現でき、即ちトレイとフレームの接合強度を向上できる。また、トレイに負角部が形成されていることによって、圧接が解かれてトレイがフレームから抜けることを抑制できる。
【0009】
前記フレームは、前記多角形枠状を構成する本体と、前記本体の前記角部の内側に配置された前記R形状を有するコーナー部材とを備えてもよい。
【0010】
この構成によれば、フレームにおいて、本体とコーナー部材が別体であることにより、フレームの角部のR形状を自由に設定しやすい。
【0011】
前記フレームは、直線状の押出材が溶接されて前記多角形枠状が構成され、
前記押出材の端部は、前記R形状を有するようにプレス加工されていてもよい。
【0012】
この構成によれば、フレーム自体にR形状が付与されていることにより、R形状を付与するための部品を設ける必要がなく、構成部品数を減らすことができる。なお、フレームに対して溶接を行ってもトレイに対しては溶接を行わないため、シール性は損なわれない。
【0013】
前記フレームは、アルミニウム合金製の押出材からなり、前記トレイは、アルミニウム合金製の板材からなってもよい。また、前記フレームは、鋼板ロールフォーム材からなり、 前記トレイは、鋼製の板材からなってもよい。また、前記フレームは、防食塗装された鋼板ロールフォーム材からなり、前記トレイは、アルミニウム合金製の板材からなってもよい。また、前記フレームは、アルミニウム合金製の押出材からなり、前記トレイは、塗装鋼板またはラミネート鋼板からなってもよい。
【0014】
これらの構成によれば、電動車両用バッテリーケースを様々な材質の構成部品を使用して具体的に構成できる。
【0015】
前記フレームは、クロスメンバーを備えてもよい。
【0016】
この構成によれば、クロスメンバーによって、バッテリーケースの強度を向上させることができる。特に、クロスメンバーによって、車両の側方からの衝突に対しての強度を向上できる。
【0019】
前記トレイの前記底壁には冷却液の流路が成形されていてもよい。
【0020】
この構成によれば、流路に冷却液を流すことによりバッテリーを冷却できる。特に、シール性の高いバッテリーケースでは、放熱性能が低下することがあるため、高い冷却性能が求められる。
【0021】
本発明の第2の態様は、平面視において、多角形枠状であり内側に空間を画定する本体および前記本体の角部の内側に配置されたR形状を有するコーナー部材を含むフレームと、平板状の被成形部材とを準備し、前記被成形部材を前記フレームに重ねて配置し、前記フレームとは反対側から前記被成形部材に圧力を加え、前記フレームに前記被成形部材を押付けて前記空間内で膨出させ、それによって前記被成形部材を、底壁と、前記底壁の周縁に設けられて開口部を画定する周壁とを備えるバスタブ状のトレイに変形させるとともに、前記フレームと一体化し、前記被成形部材前記フレーム一体化された後に前記コーナー部材を前記フレームから取り外すことを含む、電動車両用バッテリーケースの製造方法を提供する。
【0022】
この方法によれば、被成形部材をバスタブ状のトレイに成形できるため、継ぎ目も存在せず、高いシール性を確保できる。また、フレームの角部にはR形状が付与されており、トレイがフレームに圧接されることからトレイの角部にもフレームのR形状と同様のR形状が付与される。従って、所望のR形状を有するトレイを構成できることから、バッテリー搭載用のスペース効率を向上できるとともに、成形時の割れを抑制できる。また、バスタブ状のトレイが圧接によりフレームと一体化されるため、溶接に伴う熱変形が生じることもなく、高精度の接合を実現でき、即ちトレイとフレームの接合強度を向上できる。また、コーナー部材を取り外すことで軽量化を図ることができる。
【0023】
前記被成形部材への加圧は、ゴムバルジ法によって行われてもよい。
【0024】
この方法によれば、熱変形を伴うことなく被成形部材をバスタブ状のトレイに簡易に成形できる。ここで、ゴムバルジ法は、弾性体を利用した圧力成形法である。詳細には、圧力成形法は、気体または液体の圧力によって部材を成形する方法のことをいう。この方法では、例えば、水または油などの液体が入った金属製のチャンバーの下面のみがゴム板(弾性体)で塞がれている装置を使用し得る。そのような装置は、液体の圧力を調整することにより、ゴム板が弾性変形し、ゴム板を被成形部材に押し付けて変形させる。このとき、液体が被成形部材と直接接触することなく成形を行うことができる。
【0025】
前記ゴムバルジ法による前記被成形部材の加圧は、前記被成形部材を加熱して軟化させた状態で行われてもよい。
【0026】
この方法によれば、被成形部材の軟化により、トレイの成形時の割れを一層抑制できる。
【0027】
前記電動車両用バッテリーケースの製造方法は、高さ寸法が前記フレーム以上であって、前記フレームの動きを拘束する拘束金型をさらに準備し、前記拘束金型を前記フレームの外側に固定して配置し、前記被成形部材の第1外縁部を前記フレームによって支持し、前記第1外縁部よりも外側の第2外縁部を前記拘束金型によって支持することで、前記被成形部材を平面視おいて外側から内側に向かって高さが低くなるように撓ませて配置し、前記被成形部材が撓んだ状態で前記被成形部材を加圧することをさらに含んでもよい。
【0028】
この方法によれば、被成形部材が外側から内側に向かって高さが低くなるように撓んだ状態で被成形部材を加圧することで、被成形部材の内側への材料流入量を増加させ、バスタブ状のトレイの底壁と周壁との接続稜線部ないし角部のR形状をより小さくした形状に実現できる。
【0029】
前記被成形部材の加圧は、2段階で行われ、第1段階でバスタブ状に前記被成形部材を成形し、第2段階で前記フレームと前記被成形部材を圧接して一体化してもよい。
【0030】
この方法によれば、被成形部材の加圧を2段階に分けることにより、被成形部材においてひずみが増加する位置が変化するので、全体として成形性を向上できる。即ち、被成形部材の割れを抑制して安定してトレイを成形できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、電動車両用バッテリーケースおよびその製造方法において、十分なシール性の確保、バッテリー搭載用のスペース効率の向上、よびトレイとフレームの接合強度の向上を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の第1実施形態に係る電動車両用バッテリーケースを搭載した電気自動車の側面図。
図2】第1実施形態におけるバッテリーケースの概略断面図。
図3】第1実施形態におけるトレイとフレームと閉鎖板の斜視図。
図4】第1実施形態におけるトレイとフレームと閉鎖板の分解斜視図。
図5】第1実施形態におけるトレイの平面図。
図6】第1実施形態に係るバッテリーケースの製造方法を示す第1断面図。
図7】第1実施形態に係るバッテリーケースの製造方法を示す第2断面図。
図8】第1実施形態に係るバッテリーケースの製造方法を示す第3断面図。
図9】第1実施形態に係るバッテリーケースの製造方法を示す第4断面図。
図10】負角成形の第1変形例を示す断面図。
図11】負角成形の第2変形例を示す断面図。
図12】負角成形の第3変形例を示す断面図。
図13】閉鎖板の変形例を示すバッテリーケースの概略断面図。
図14】拘束金型とフレームの斜視図。
図15】拘束金型とフレームの分解斜視図。
図16】変形例に係るバッテリーケースの製造方法を示す第1断面図。
図17】変形例に係るバッテリーケースの製造方法を示す第2断面図。
図18】変形例に係るバッテリーケースの製造方法を示す第3断面図。
図19】変形例に係るバッテリーケースの製造方法を示す第4断面図。
図20】他の変形例に係るバッテリーケースの製造方法の変形例を示す断面図。
図21】第2実施形態に係るバッテリーケースのフレームの平面図。
図22図21のフレームの製造方法を示す斜視図。
図23】鋼板ロールフォーム材からなるフレームおよびクロスメンバーを含むバッテリーケースの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0034】
(第1実施形態)
図1を参照して、電動車両1は、バッテリー30から供給される電力によって不図示のモータを駆動させて走行する車両である。例えば、電動車両1は、電気自動車またはプラグインハイブリッド車等であり得る。車両の種類については、特に限定されず、乗用車、トラック、作業車、またはその他のモビリティ等であり得る。以下では、電動車両1として乗用車タイプの電気自動車の場合を例に挙げて説明する。
【0035】
電動車両1は、車体前部10に不図示のモータや高電圧機器等を搭載している。また、電動車両1は、車体中央部20の車室Rの床下の概ね全面にバッテリー30を格納した電動車両用バッテリーケース100(以下、単にバッテリーケース100ともいう。)を搭載している。なお、図1中、電動車両1の前後方向をX方向で示し、高さ方向をZ方向で示している。以降の図でも同表記とし、図2以降で車幅方向をY方向で示す。
【0036】
図2を参照して、バッテリーケース100は、車幅方向においてロッカー部材200の内側に配置され、ロッカー部材200に支持されている。ロッカー部材200は、電動車両1(図1参照)の車幅方向両端下部において車両前後方向に延びる骨格部材である。ロッカー部材200は、複数枚の金属板が貼り合わされて形成されており、電動車両1の側方からの衝撃に対して車室Rおよびバッテリーケース100を保護する機能を有する。
【0037】
図3,4を併せて参照して、バッテリーケース100は、貫通孔THを画定するフレーム110と、バスタブ状のトレイ120と、これらを上下から挟み込むように配置されるトップカバー130(図2参照)およびアンダーカバー140(図2参照)と、トレイ120の底壁122aに配置される閉鎖板123とを備える。ここで、貫通孔THは、本発明における空間の一例である。
【0038】
フレーム110は、バッテリーケース100の骨格をなす部材である。フレーム110は、平面視において矩形枠状の本体111と、本体111内で車幅方向に延びる3本のクロスメンバー112と、本体111の4つの角部の内側に配置されたコーナー部材113とを備える。なお、本実施形態では、貫通孔THを有するフレーム110を例に説明するが、フレーム110の形状は貫通形状に限定されない。例えば、フレーム110は、貫通形状に代えて凹形状を有してもよく、即ち底壁を有していてもよい。
【0039】
本体111は、車両前後方向に延びる側壁111c,111dと、それらを接続して車幅方向に延びる前壁111aおよび後壁111bとを備える。側壁111c,111dは、車両前後方向に垂直な断面において概略L字形をしている。側壁111c,111dの内部は、複数の部屋に仕切られて中空状となっている。前壁111aおよび後壁111bは四角筒状であり、前壁111aおよび後壁111bの内部もまた同様に中空状となっている。本体111は、例えばアルミニウム合金製の押出材からなる。
【0040】
3本のクロスメンバー112は、前壁111aおよび後壁111bと平行にほぼ等間隔で設けられ、側壁111cおよび側壁111dを接続している。クロスメンバー112は、バッテリーケース100の強度を向上させる機能を有する。特に、クロスメンバー112によって、電動車両1(図1参照)の側方からの衝突に対しての強度を向上できる。クロスメンバー112の態様は特に限定されず、形状、配置、および本数等は任意に設定され得る。また、クロスメンバー112は、必須の構成ではなく、必要に応じて省略されてもよい。
【0041】
図4の破線円は、コーナー部材113を拡大して示している。なお、コーナー部材113の円弧形状部には、肩R形状(上面と側面との境界におけるフィレット形状)を有するが、図示していない。
【0042】
コーナー部材113は、平面視において概略L字形であり、フレーム110と同程度の高さを有する柱状である。コーナー部材113の内面113aにはR形状(ラウンド形状)を付与されている。バッテリー30の搭載スペースを大きく確保するために、R形状の曲率は半径30mm以下であることが好ましい。詳細には、フレーム110の高さ(貫通孔THのZ方向長さ)が50mm以下であれば、R形状の曲率は15mm以下であることが好ましい。また、フレーム110の高さが100mm以下であれば、R形状の曲率は30mm以下であることが好ましい。このような寸法設定により、R形状を可能な限り小さく設定してバッテリー30の搭載スペースを大きく確保しつつ、トレイ120の成形時に発生する底面部の割れやフランジ部のシワを抑制できる。
【0043】
コーナー部材113は、本体111に対して任意の方法で取り付けられ得る。例えば、コーナー部材113は、ねじ止めにより本体111に取り付けられてもよいし、着脱可能なアタッチメント機構により取り付けられてもよい。
【0044】
トレイ120は、バッテリー30を収容するバスタブ状の部材である。トレイ120は、外縁部において水平方向(X-Y方向)へ延びるフランジ121と、フランジ121と連続して凹形状を有する収容部122とを備える。収容部122は、バッテリー30を収容する部分であり、底面を構成する底壁122aと、底壁122aの周囲に設けられて底壁122aとは反対側に開口部122dを画定する周壁122bとを有する。トレイ120は、例えばアルミニウム合金製の板材からなる。
【0045】
平面視において、周壁122bの4つの角部には、フレーム110のコーナー部材113と実質的に同じ曲率のR形状が付与されている。フレーム110とトレイ120が一体介した状態では、周壁122bの4つの角部と、フレーム110のコーナー部材113とは、隙間なく当接している。
【0046】
収容部122の底壁122aには、クロスメンバー112に対して相補的な形状を有する張出部122cが設けられている。張出部122cは、底壁122aが部分的に上方へ張り出して車幅方向に延びる部分である。張出部122cによって区切られた収容部122のそれぞれの底壁122aには、冷却液が流れる溝124がそれぞれ形成されている。
【0047】
個々の溝124は、平面視において蛇腹状に形成されている。個々の溝124の一端には冷却液が流入する入口124aが設けられ、他端には冷却液が流出する出口124bが設けられている。特に本実施形態では、張出部122cによって区切られた個々の収容部122に対して、入口124aおよび出口124bがそれぞれ設けられている。
【0048】
張出部122cによって区切られた収容部122のそれぞれの底壁122aには、対応する形状の閉鎖板123がそれぞれ上方から配置接合されている。閉鎖板123によって溝124が閉じられることにより、冷却液が流れる冷却液流路124Aが画定される。
【0049】
閉鎖板123上には、バッテリー30(図2参照)が配置される。冷却液流路124Aを流れる冷却液は、閉鎖板123を介してバッテリー30を冷却する。閉鎖板123は、冷却効率を向上させるために熱伝導率の高いアルミニウム板などであり得る。
【0050】
閉鎖板123をトレイ120に接合する際には、接着材または熱融着(例えばレーザ熱融着)などの接合方法が使用され得る。好しくは、FSW(Friction Stir Welding)が使用される。FSWは、固相状態での接合であるため、通常の溶接とは異なり、ブローホールを生じさせることもなく、シール性に優れる。冷却性能を向上させるために、閉鎖板123の厚みを例えば2mm以下(例えば1mm程度)としてもよい。
【0051】
トレイ120とフレーム110が組み合わされた状態(図3参照)では、トレイ120のフランジ121がフレーム110の本体111の上面に載置されるとともに、トレイ120の収容部122がフレーム110の本体111内に配置される。このとき、張出部122cがクロスメンバー112を部分的に被覆するように配置される。図4では、説明のために仮想的に分解図を示しているが、トレイ120はフレーム110の貫通孔THに対して圧接されることにより、図3のように組み合わされた状態で一体化されている。この圧接では、フレーム110の本体111の内面に対してトレイ120の収容部122の外面が圧接されるとともに、クロスメンバー112に対して張出部122cが圧接されている。
【0052】
図2を再び参照して、トレイ120の収容部122にはバッテリー30が配置される。収容部122がバッテリー30の上方からトップカバー130によって密閉されることで、バッテリー30がバッテリーケース100に格納される。当該密閉構造によって、バッテリーケース100の外部からの水の浸入が防止される。また、バッテリーケース100の内部の圧力調整用の安全弁が設けられてもよい。
【0053】
図2の例では、トップカバー130とトレイ120は、フレーム110に対してねじで共締めされて固定されている。トップカバー130の上方には、車室Rの床面を構成するフロアパネル300と、車室Rにおいて車幅方向に延びるフロアクロスメンバー400とが配置されている。また、トレイ120の下方には、アンダーカバー140が配置されている。アンダーカバー140は、フレーム110にねじ止めされ、トレイ120を下方から支持している。
【0054】
図6~9を参照して、上記の構成を有するバッテリーケース100の製造方法を説明する。
【0055】
図6を参照して、フレーム110と、平板状のブランク材(被成形部材)120とを準備し、フレーム110およびブランク材120を台55上に重ねて配置する。台55の上面には、後述するようにトレイ120に溝124を成形するために溝124と対応した形状の凹部55aが形成されている。なお、ブランク材とトレイに対して同じ参照符号120を使用するが、これは、成形前の状態がブランク材であり、成形後の状態がトレイであることを意味する。
【0056】
次いで、図7,8を参照して、ブランク材120を加圧してフレーム110に押し付けることによりブランク材120をフレーム110の貫通孔(空間)TH内に膨出させる。これにより、ブランク材120をバスタブ状のトレイ120に変形させるとともにブランク材120(即ちトレイ120)をフレーム110に圧接する。その結果、トレイ120およびフレーム110が一体化される。
【0057】
本実施形態では、ブランク材120に対する加圧は、弾性体を利用した圧力成形法(ゴムバルジ法)によって行われる。圧力成形法は、気体または液体の圧力によって部材を成形する方法のことをいう。本実施形態では、ゴムバルジ法において、液体の圧力を利用して弾性変形可能な液圧伝達弾性体50を使用する。液圧伝達弾性体50は、例えば水または油などの液体が入った金属製のチャンバーの下面のみがゴム板で塞がれている構造を有するものであり得る。そのような液圧伝達弾性体50は、液体の圧力を調整することにより、ゴム板が弾性変形し、液体がブランク材120と直接接触することなく成形を行うことができる。
【0058】
図6,7を参照して、本実施形態では、フレーム110、ブランク材120、および液圧伝達弾性体50を台55上にこの順で重ねて配置し、液圧伝達弾性体50を介してブランク材120を加圧してフレーム110に押し付ける。好ましくは、ゴムバルジ法によるブランク材120の加圧は、ブランク材120を加熱して軟化させた状態で行われる。この場合、ブランク材120の軟化により、トレイ120の成形時の割れを一層抑制できる。
【0059】
また、台55の上面には、トレイ120に溝124を成形できるように溝124と対応した形状の凹部55aが形成されている。そのため、液圧伝達弾性体50による加圧に伴って、トレイ120の底壁122aには溝124(図8参照)が成形される。即ち、本実施形態では、ブランク材120をバスタブ状のトレイ120に成形するとともにトレイ120の収容部122の底壁122aに溝124を成形する。溝124の平面視形状は、特に限定されず、例えば図5に示すような蛇腹状であってもよい。また、溝124の断面形状も特に限定されず、図8,9に示すような半円状であってもよい。また、詳細を図示しないが、溝124の成形に加えて、バッテリー30を位置決めするための突起をトレイ120に成形してもよい。
【0060】
図8を参照して、ブランク材120がバスタブ状のトレイ120に変形した後に加圧力を解放すると、液圧伝達弾性体50が自然状態の形状に復元する。従って、トレイ120の内部から液圧伝達弾性体50を容易に取り除くことができる。液圧伝達弾性体50を取り除いた後、図2に示すようにトップカバー130やアンダーカバー140を接合することでバッテリーケース100が構成される。
【0061】
本実施形態では、フレーム110において、前壁111a、後壁111b、および側壁111c,111dは、上部の肉厚が他の部分よりも厚く設定されている。前壁111a、後壁111b、および側壁111c,111dの上部は、上記成形によって力を受けやすい部分であり、当該部分の肉厚を厚くすることで意図しない変形を防止している。また、前壁111a、後壁111b、および側壁111c,111dの内側上部には、R形状が付与されている。このR形状によって上記成形においてブランク材120の内側への材料流入を促すようにしている。ただし、押出材などの設計上、フレーム110の内側上部以外にも小さな角R(フィレットR)が付けられることがある。図示においては、そのような小さな角Rは省略するものとする。
【0062】
本実施形態では、図8を参照して、ブランク材120をバスタブ状のトレイ120に成形する際、トレイ120の底壁122aから上方の開口部122dに向かって少なくとも部分的に負角を形成する負角成形が行われる。ここで、負角とは、金型を用いた成形分野においてよく使用される用語であり、成形部材における金型の抜き角がゼロ未満(マイナス)であることを示す。本実施形態では、液圧伝達弾性体50からの加圧によって、予め負角部分を有していなかったフレーム110とブランク材120とが一体的に変形して負角を形成することにより負角成形がなされる。図示の例では、フレーム110の内面が部屋ごとに外側へ変形し、当該変形に沿ってブランク材120も外側へ変形し、負角部111e,122cが形成される。図8では、負角部111e,122cをより明瞭に示すために、破線円で囲まれた領域が拡大されて示されている。
【0063】
次に、図9を参照して、上記のように成形された溝124を閉じるようにトレイ120の底壁122aに閉鎖板123を配置接合する。閉鎖板123は、トレイ120の収容部122に上方から配置され、例えばFSWによって接合される。このようにして、閉鎖板123と溝124によって、冷却液が流れる冷却液流路124Aが画定される。
【0064】
また、負角成形の変形例として図10~12に示すようにフレーム110に負角部111eを予め設けていてもよい。この場合、負角成形は、ブランク材120をフレーム110の負角部111eに押し付けることにより行う。図10の例ではフレーム110の車高方向下部内面に窪みとして負角部111eを構成している。図11の例では、フレーム110の車高方向中央部内面に窪みとして負角部111eを構成している。図12の例ではフレーム110の内面がフレーム110の中央に向かって傾斜することにより、傾斜面として負角部111eを構成している。また、負角部111eはクロスメンバー112にも形成されていてもよい。このように、フレーム110に負角部111eを予め設けることによって、バッテリーケース100に負角部を設ける負角成形を容易かつ確実に実行できる。
【0065】
また、閉鎖板123の変形例として図13に示すように閉鎖板123に凹凸形状を付与してもよい。前述の構成では、平坦な表面を有する閉鎖板123を例示しているが、冷却液流路124Aの流路面積を拡大するように溝124の形状に合わせて上向きの凸形状(下向きの凹形状)を閉鎖板123に付与してもよい。図13の例では、溝124の半円形状と上下対称な半円形状を閉鎖板123に付与している。このようにして、冷却液流路124Aの流路面積を拡大することで、冷却液の流量を増加でき、冷却性能を向上できる。
【0066】
以上のようなバッテリーケース100およびその製造方法によれば、以下の作用効果を奏する。
【0067】
本実施形態によれば、トレイ120がバスタブ状に成形されているため、継ぎ目も存在せず、高いシール性を確保できる。また、フレーム110の角部にはコーナー部材113によりR形状が付与されており、トレイ120がフレーム110に圧接されていることからトレイ120にもフレーム110のコーナー部材113のR形状が付与される。従って、コーナー部材113のR形状に合わせたR形状を有するトレイ120を構成できる。よって、コーナー部材113のR形状を所望の大きさに設定することでバッテリー30を搭載するためのスペース効率を向上できる。仮に、コーナー部材113を使用せず、フレーム110の角部にR形状を付与しない場合、高荷重のプレス成形によってトレイ120の角部のR形状が著しく小さくなる結果、トレイ120に割れが生じるおそれがある。しかし、本実施形態のようにフレーム110の角部にコーナー部材113によってR形状を付与していると、トレイ120には少なくともフレーム110のコーナー部材113のR形状と同程度のR形状が付与されるため、トレイ120の成形時に発生する底面部の割れやフランジ部のシワを抑制できる。また、バスタブ状のトレイ120が圧接によりフレーム110と一体化されており、溶接に伴う熱変形が生じることもなく、高精度の接合を実現でき、即ちトレイ120とフレーム110の接合強度を向上できる。
【0068】
また、フレーム110において、本体111とコーナー部材113が別体であることにより、フレーム110の角部のR形状を自由に設定しやすい。
【0069】
また、トレイ120に負角部が形成されていることによって、圧接が解かれてトレイ120がフレーム110から抜けることを抑制できる。
【0070】
また、冷却液流路124Aに冷却液を流すことによりバッテリー30を冷却できる。特に、本実施形態のようにシール性の高いバッテリーケース100では、放熱性能が低下することがあるため、高い冷却性能が求められる。
【0071】
また、本実施形態ではゴムバルジ法を採用しているため、熱変形を伴うことなくブランク材120をバスタブ状のトレイ120に簡易に成形できる。
【0072】
また、コーナー部材113は、トレイ120およびフレーム110が一体化された後にフレーム110から取り外されてもよい。これにより、軽量化を図ることができる。
【0073】
(変形例)
図14,15を参照して、上記実施形態の変形例を説明する。本変形例では、フレーム110の動きを拘束する拘束金型60を使用する。
【0074】
拘束金型60は、フレーム110と相補的な形状を有し、平面視においてフレーム110の外側に配置される。拘束金型60は、前壁111aおよび後壁111bをそれぞれ支持する前拘束部材61および後拘束部材62と、側壁111c,111dをそれぞれ支持する側方拘束部材63,64とを備える。前拘束部材61、後拘束部材62、および側方拘束部材63,64は組み合わされて、平面視において枠状を構成する。拘束金型60の上面は、2段形にされている。詳細には、拘束金型60の上面は、フレーム110の上面と概略同一の高さに揃えられた第1面60aと、フレーム110の上面よりも一段高く設けられた第2面60bとを有する。第1面60aと第2面60bは、傾斜面60cによって接続され、平面視において第2面60bが第1面60aの外側に配置されている。また、フレーム110と拘束金型60の下面は揃えられている。従って、フレーム110と拘束金型60の高さ寸法を比較すると、拘束金型60の高さがフレーム110の高さよりも高く設定されている。
【0075】
本実施形態のバッテリーケース100の製造方法では、第1実施形態に加えてフレーム110の動きを拘束する拘束金型60をさらに準備し、平面視において拘束金型60をフレーム110の外側に固定して配置する(図14,15参照)。その後、図16~18に示すように、前述と同様にブランク材120をバスタブ状のトレイ120に変形させるとともにフレーム110と一体化する。このとき同時に、トレイ120の載置部122の底部122aに溝124を成形する。そして、図19に示すように、トレイ120に閉鎖板123を配置接合する。
【0076】
詳細には、図16に示すようにブランク材120を拘束金型60上に配置し、図17に示すように液圧伝達弾性体50を介してブランク材120を加圧することで、ブランク材120の第1外縁部121aをフレーム110によって支持するとともに第1外縁部121a(最外縁部からわずかに内側の部分)よりも外側の第2外縁部121b(最外縁部)を拘束金型60の第2面60bによって支持する。これにより、ブランク材120が外側から内側に向かって高さが低くなるように撓んで配置され、ブランク材120がこのように撓んだ状態から続けてブランク材120を加圧することで、ブランク材120を底壁122aに溝124が形成されたバスタブ状のトレイ120に変形させ、フレーム110と圧接する(図18参照)。
【0077】
上記圧接後、図19に示すように、溝124を閉じるようにトレイ120の底壁122aに閉鎖板123を配置接合する。閉鎖板123は、トレイ120の収容部122の底壁122aに上方から配置され、例えばFSWによって接合される。このようにして、閉鎖板123と溝124によって、冷却液流路124Aが画定される。
【0078】
本実施形態によれば、ブランク材120が外側から内側に向かって高さが低くなるように撓んだ状態でブランク材120を加圧するため、ブランク材120の内側への材料流入量を増加させ、トレイ120の底部122aの稜線部ないし角部の丸みをより低減できる。
【0079】
本変形例において、傾斜面60cは、鉛直方向に延びていてもよいし、負角形状を有してもよい。また、拘束金型60の肩R形状(傾斜面60cと第2面60bのフィレット形状)を図示していないが、好ましくは当該肩R形状が設けられる。また、第1面60aは省略されてもよい。
【0080】
代替的には、図20に示すように、フレーム110と拘束金型60の高さ寸法は、同じであってもよい。図14図19の例では、拘束金型60の高さ寸法をフレーム110よりも大きくすることでブランク材120の内側への材料流入量を増加させている。しかし、トレイ120の成形に問題がない場合には、図20に示すように、材料歩留を向上する目的でフレーム110の上面と拘束金型60の上面とが揃えられてもよい。
【0081】
(第2実施形態)
図21を参照して、第2実施形態では、フレーム110はコーナー部材113(図4参照)を有しておらず、本体111の角部の内側にR形状が付与されたR部111fが設けられている。これに関する以外は、第1実施形態と実質的に同じである。従って、第1実施形態と同じ部分については説明を省略する場合がある。
【0082】
フレーム110では、前壁111a、後壁111b、側壁111c、および側壁111dがアルミニウム合金製の押出材からなる。平面視において、前壁111aと側壁111cおよび前壁111aと側壁111dがそれぞれ溶接され、後壁111bと側壁111cおよび後壁111bと側壁111dがそれぞれ溶接されている。このようにして、フレーム110の平面視における矩形枠状が構成されている。各壁111a~111dの両端部の内側は、R部111fを構成するようにプレス加工されている。
【0083】
図22は、図21のフレーム110の製造方法を示す斜視図である。図22は、フレーム110を構成する前壁111aが図示されている。図22の前壁111aは、アルミニウム合金製の中空押出材を長手方向に対して斜め(例えば45°)に切断したものである。前壁111aの両端部から、内形よりもわずかに大きな外形を有する成形治具81,82を差し込むことにより、両端部が拡大変形してR形状が形成される。特に、成形治具81,82は、前壁111aへの差し込み部分において、前壁111aにR形状を付与できるようにR形状に対応する湾曲面81a,82aを有している。このように成形した前壁111aと、同様に成形した後壁111bおよび側壁111c,111dとを、図21に示すように溶接して枠状にすることにより、R部111fを有するフレーム110が構成される。
【0084】
本実施形態によれば、フレーム110がR部111fを有し、即ちフレーム110自体にR形状が付与されていることにより、R形状を付与するための部品を設ける必要がない。よって、構成部品数を減らすことができる。
【0085】
以上より、本発明の具体的な実施形態およびその変形例について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、個々の実施形態または変形例の内容を適宜組み合わせたものを、この発明の一実施形態としてもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、フレーム110は、平面視において矩形状のものを例示したが、矩形以外の多角形状であってよい。フレーム110の形状は、バッテリーケース100を搭載する電動車両1に応じて適宜設計される。
【0087】
また、フレーム110とトレイ120の材質は、上記実施形態のものに限定されない。例えば、フレーム110は鋼板ロールフォーム材(図23参照)からなり、トレイ120は鋼製の板材からなってもよい。例えば、フレーム110は防食塗装された鋼板ロールフォーム材(図23参照)からなり、トレイ120は、アルミニウム合金製の板材からなってもよい。例えば、フレーム110はアルミニウム合金製の押出材からなり、トレイ120は塗装鋼板またはラミネート(樹脂積層)鋼板からなってもよい。
【0088】
また、上記実施形態では、ゴムバルジ法によるトレイの成形およびフレーム110とトレイ120の一体化を1工程で行った例を説明したが、これらはプレス荷重などの条件を変えて2段階に分けて行われてもよい。即ち、第1段階で冷間プレスにより周壁122bの傾斜角度などが大きな概略バスタブ状のトレイ120にブランク材120を成形し、第2段階でゴムバルジ法により正確なトレイ120形状に成形するとともにフレーム110とトレイ(ブランク材)120を圧接して一体化してもよい。このようにブランク材120の加圧を2段階に分けることにより、ブランク材120においてひずみが増加する位置が変化するので、全体として成形性を向上できる。即ち、ブランク材120の割れを抑制して安定してトレイを成形できる。
【0089】
また、上記実施形態では、溝124が底壁122aの上面に形成され、溝124に対して上方から閉鎖板123によって蓋をする構成を例示したが、溝124が底壁122aの下面に形成され、溝124に対して下方から閉鎖板123によって蓋をする構成であってもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 電動車両
10 車体前部
20 車体中央部
30 バッテリー
50 液圧伝達弾性体
55 台
55a 凹部
60 拘束金型
60a 第1面
60b 第2面
60c 傾斜面
61 前拘束部材
62 後拘束部材
63,64 側方拘束部材
81,82 成形治具
81a,82a 湾曲面
100 バッテリーケース(電動車両用バッテリーケース)
110 フレーム
111 本体
111a 前壁
111b 後壁
111c,111d 側壁
111e 負角部
111f R部
112 クロスメンバー
112a 溶接点
113 コーナー部材
113a 内面
120 トレイ(ブランク材)(被成形部材)
121 フランジ
121a 第1外縁部
121b 第2外縁部
122 収容部
122a 底壁
122b 周壁
122c 張出部
122d 開口部
123 閉鎖板
124 溝
124A 冷却液流路
124a 入口
124b 出口
124c 流入路
124d 流出路
124e 分岐路
130 トップカバー
140 アンダーカバー
200 ロッカー部材
300 フロアパネル
400 フロアクロスメンバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23