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特許7169337二次電池用の電極、及び、これを用いた二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】二次電池用の電極、及び、これを用いた二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/02 20060101AFI20221102BHJP
   H01M 4/70 20060101ALI20221102BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20221102BHJP
【FI】
H01M4/02 Z
H01M4/70 A
H01M4/13
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020502892
(86)(22)【出願日】2019-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2019003831
(87)【国際公開番号】W WO2019167559
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】P 2018034767
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠原 英男
(72)【発明者】
【氏名】神山 遊馬
(72)【発明者】
【氏名】八木 弘雅
(72)【発明者】
【氏名】田島 寛之
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-034009(JP,A)
【文献】特開2007-214038(JP,A)
【文献】特開2017-084691(JP,A)
【文献】特開2018-026274(JP,A)
【文献】国際公開第2018/004177(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 4/64- 4/84
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、集電体上に形成された活物質層と、を備える二次電池用の電極であって、
前記活物質層は、前記集電体上に形成された第1層と、この第1層の上に積層された第2層とを少なくとも含む複数層で構成され、
前記電極の端縁部における前記集電体の端部は、電極厚み方向において前記集電体の板厚よりも広がっており、
前記集電体の端部の広がった部分は、前記電極の端縁部において前記活物質層の第1層の端部を覆うと共に前記第2層の端部の少なくとも一部を覆っている、二次電池用の電極。
【請求項2】
前記活物質層の第1層および第2層は空隙を含み、前記集電体の端部の広がった部分において、集電体材料が前記空隙に入り込んでいる、請求項1に記載の二次電池用の電極。
【請求項3】
前記活物質層の第1層および第2層は空隙を含み、前記集電体の端部の広がった部分が形成されるときに溶融した集電体材料の一部が前記空隙に入り込んでいる、請求項2に記載の二次電池用の電極。
【請求項4】
前記第2層は第1層よりも空隙率が高く、前記集電体の端部の広がった部分が形成されるときに溶融した集電体材料は前記第1層よりも前記第2層の空隙により多く入り込んでいる、請求項3に記載の二次電池用の電極。
【請求項5】
前記活物質層において第1層の密度は第2層の密度よりも高い、請求項1~4のいずれか一項に記載の二次電池用の電極。
【請求項6】
前記集電体の端部の広がった部分の縁部は波打った形状に形成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の二次電池用の電極。
【請求項7】
集電体と、集電体上に形成された活物質層と、を備える二次電池用の電極であって、
前記活物質層は、前記集電体上に形成された第1層と、この第1層の上に積層された第2層とを少なくとも含む複数層で構成され、
前記電極の端縁部における前記集電体の端部は、電極厚み方向において前記集電体の板厚よりも広がっており、
前記電極の端縁部には活物質材料が溶融して凝固した溶融凝固部が形成されており、前記集電体の端部の広がった部分の端面は、電極厚み方向の直角方向に関して、前記溶融凝固部よりも内側に位置している、二次電池用の電極。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の電極を用いた二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池用の電極、及び、これを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池に使用される電極は、例えば長尺状の芯体に活物質層を形成した後、当該芯体を所定の形状に裁断し、個々の電極サイズに形成される。特許文献1には、レーザを用いて長尺状の電極前駆体を所定の形状に裁断する技術が開示されている。特許文献1では、パルス方式のレーザ発振器を使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-34009号公報
【発明の概要】
【0004】
二次電池の高容量化のため活物質層の厚みが増加した電極を特許文献1のようにパルス方式のレーザで裁断した場合、裁断した端縁部で活物質層の脱落が起こり易くなる。このような電極を負極板や正極板を用いて電極体を構成し、この電極体をケースに収容して二次電池とした場合、電極の端縁部で脱落した活物質が正極板および負極板の間に侵入して短絡が生じやすくなるという課題がある。
【0005】
本開示の目的は、電極を構成する活物質層が複層になった場合でも裁断端縁部における活物質層の脱落を抑制することができる二次電池用の電極、及び、これを用いた二次電池を提供することである。
【0006】
本開示の一態様である二次電池用の電極は、集電体と、集電体上に形成された活物質層と、を備える二次電池用の電極であって、活物質層は、集電体上に形成された第1層と、この第1層の上に積層された第2層とを少なくとも含む複数層で構成される。電極の端縁部における集電体の端部は、電極厚み方向において前記集電体の板厚よりも広がっている。
【0007】
本開示に係る二次電池用の電極、及び、これを用いた二次電池によれば、電極の裁断端縁部における活物質の脱落が生じにくくなり、その結果、脱落片が正極板および負極板の間に侵入して短絡が生じるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の一例である二次電池用の電極を示す正面図である。
図2図1におけるA-A線断面拡大図である。
図3図1におけるB-B線断面拡大図である。
図4図1におけるC方向から見た電極の裁断端縁部の拡大図である。
図5図1に示した二次電池用の電極の裁断形成に用いる連続発振レーザを説明するための図である。
図6図1に示した二次電池用の電極が連続発振レーザによって裁断される様子を示す斜視図である。
図7】実施形態の一例である二次電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本開示に係る二次電池用電極及びその製造方法の実施形態の一例について詳細に説明する。実施形態の説明で参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された構成要素の寸法などは、現物と異なる場合がある。具体的な寸法等は、以下の説明を参酌して判断されるべきである。本明細書において「略~」との用語は、略同一を例に説明すると、完全に同一はもとより、実質的に同一と認められるものを含む意図である。
【0010】
以下では、積層型電極体に適用される二次電池用の電極を例示するが、本開示に係る二次電池用の電極は巻回型電極体に適用されてもよく、本開示に係る製造方法は巻回型電極体用の電極の製造にも適用できる。
【0011】
図1は、実施形態の一例である二次電池用の電極(以下、適宜に「電極」とだけいう)10を示す正面図ある。図1及び図2に示すように、電極10は、薄板状の集電体11と、集電体11の両面に形成された活物質層12とを備える。活物質層12は、集電体11の一方の面のみに形成されてもよいが、好ましくは集電体11の両面に形成される。以下において、集電体11の両面に形成された活物質層12を区別するときは、集電体11の一方の面に形成された活物質層12を活物質層12aといい、集電体11の他方の面に形成された活物質層12を活物質層12bという。
【0012】
電極10は、基部13と、基部13の一端から突出したリード部14とを有する。電極10では、基部13とリード部14が一体成形されている。基部13は、活物質層12が形成される部分であって、集電体11の両面の全域に活物質層12が形成されている。基部13は、横方向に長い正面視矩形形状を有するが、その形状は特に限定されない。リード部14は、基部13の長辺部における短辺寄りの位置から突出し、正面視矩形形状を有する。活物質層12は、一般的にリード部14の付け根にも形成されるが、リード部14の大部分には形成されない。
【0013】
電極10の基部13は、平面視矩形状をなし、互いに平行な2つの長辺部13a,13bを有する。一方の長辺部13aは、直線状に形成されている。長辺部13aは、後述するように、電極前駆体を連続発振レーザ(CWレーザ)で裁断(または切断)することによって形成することができる。電極10の基部13の他方の長辺部13bおよびリード部14もまた、電極前駆体を連続発振レーザで裁断することによって形成することができる。
【0014】
図2に示すように、本実施形態の電極10では、集電体11上に形成された活物質層12が、第1層19aと第2層19bとを少なくとも含む複数層で構成されている。ここで、第1層19aが集電体11の表面に接触して形成されており、第1層19aの上に第2層19bが積層して形成されている。なお、活物質層12は、3層以上の複層で構成されてもよい。
【0015】
活物質層12の第1層19aおよび第2層19bは、それぞれ多孔質層であって空隙を含む層として形成されている。本実施形態では、第2層19bの方が第1層19aよりも空隙率が高くなるように形成されている。各層の空隙率は、例えば、クロスセクションポリッシャーを用いて断面を処理し、画像処理により、観察面全体における空隙の割合から算出される。
【0016】
第1層19aの密度が第2層19bの密度よりも高くなるように形成されていることが好ましい。ここでの密度は、活物質層12の第1層19aおよび第2層19bを構成する材料と空隙とを含む単位体積辺りの質量を表す「かさ密度(g/cm)」をいう。このような第1層19aと第2層19bの空隙量や密度の相違は、例えば、第1層19aと第2層19bを構成する材料を異ならせることによって実現できる。
【0017】
電極10は、例えば、二次電池の一例であるリチウムイオン電池の電極体を構成する負極板に好適に用いることができる。電極体は、それぞれセパレータを挟んで正極板と負極板とを多数枚積層して一体化することにより構成される。
【0018】
ここで、リチウムイオン電池の電極体を構成する正極板、負極板、および、セパレータについて説明する。正極板は、箔状の正極芯体の両側表面に正極活物質層を形成して構成される。正極芯体は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金箔からなる。正極リード部は、正極活物質層が形成されていない正極芯体自体によって形成されている。
【0019】
正極活物質層は、例えば、正極活物質として、リチウムニッケル酸化物を用い、導電剤として、アセチレンブラック(AB)を用い、結着剤として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用い、分散媒として、N-メチル-2-ピロリドンを用いることで作成できる。正極活物質について更に詳細に説明すると、正極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出することが可能な化合物であれば適宜選択して使用できる。これらの正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。例えば、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出することが可能なLiMO(ただし、MはCo、Ni、Mnの少なくとも1種である)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物、すなわち、LiCoO、LiNiO、LiNiCo1-y(y=0.01~0.99)、LiMnO、LiCoMnNi(x+y+z=1)や、LiMn又はLiFePOなどを一種単独もしくは複数種を混合して用いることができる。さらには、リチウムコバルト複合酸化物にジルコニウムやマグネシウム、アルミニウム、タングステンなどの異種金属元素を添加したものも使用し得る。しかし、正極活物質層は、それら以外の公知の如何なる材料で作成されてもよい。
【0020】
正極板は、例えば、次のように作製される。正極活物質に導電剤や結着剤等を混合し、その混合物を分散媒中で混練することによってペースト状の正極活物質スラリーを作製する。その後、正極活物質スラリーを正極芯体上に塗布する。続いて、正極芯体に塗布された正極活物質スラリーを乾燥、及び圧縮して、正極活物質層を形成する。そして、正極芯体および正極活物質層を例えばレーザ溶断等によって切断することで、正極リード部を有する正極板が形成される。
【0021】
負極板は、箔状の負極芯体の両側表面に負極活物質層を形成して構成される。負極芯体は、例えば、銅又は銅合金箔からなる。負極リード部は、負極活物質層が形成されていない正極芯体自体によって形成されている。
【0022】
負極活物質層の負極活物質は、リチウムを可逆的に吸蔵・放出できるものであれば特に限定されず、例えば、炭素材料や、珪素材料、リチウム金属、リチウムと合金化する金属或いは合金材料や、金属酸化物などを用いることができる。珪素材料としては、例えば、Si、SiO(x=0.5~1.5)などを用いることができる。炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソフェーズピッチ系炭素繊維(MCF)、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス、ハードカーボンなどを用いることができる。負極活物質層の負極活物質は、第1層19a及び第2層19bとで異なっていてもよい。第1層19aが珪素材料と炭素材料を含み、第2層19bが炭素材料のみからなる場合が例示される。
【0023】
また、負極活物質層は、結着剤として、スチレンーブタジエン共重合体ゴム粒子分散体(SBR)を用い、増粘剤として、カルボキシメチルセルロース(CMC)を用い、分散媒として、水を用いて、作成されると好ましい。負極活物質層は、例えば、次のように作製される。負極活物質に導電剤や結着剤等を混合し、その混合物を分散媒中で混練することによってペースト状の負極活物質スラリーを作製する。その後、負極活物質スラリーを負極芯体上に塗布する。続いて、負極芯体に塗布された負極活物質スラリーを乾燥、及び圧縮すると、負極活物質層が形成される。そして、負極芯体および負極活物質層を例えばレーザ溶断等によって裁断することで、負極リード部を有する負極板が形成される。
【0024】
セパレータとしては、非水電解質二次電池において一般に使用されている公知のものを用いることができる。例えば、ポリオレフィンからなるセパレータが好ましい。具体的には、ポリエチレンからなるセパレータのみならず、ポリエチレンの表面にポリプロピレンからなる層が形成されたものや、ポリエチレンのセパレータの表面にアラミド系の樹脂が塗布されたものを用いても良い。
【0025】
正極板とセパレータとの界面ないし負極板とセパレータとの界面には、無機物のフィラー層を形成してもよい。このフィラーとしては、チタン、アルミニウム、ケイ素、マグネシウム等を単独もしくは複数用いた酸化物やリン酸化合物、またその表面が水酸化物などで処理されているものを用いることができる。また、このフィラー層は、正極板、負極板、又はセパレータに、フィラー含有スラリーを直接塗布して形成してもよく、フィラーで形成したシートを、正極板、負極板、又はセパレータに貼り付けることで形成してもよい。
【0026】
図3は、図1におけるB-B線断面拡大図である。図3には、電極10においてリード部14が設けられている長辺部13bの拡大断面が示される。また、図3には、電極10の表面に沿った面方向が矢印Yで示され、面方向の直角方向である電極10の厚み方向が矢印Zで示されている。
【0027】
電極10の長辺部13bは、後述するように電極前駆体をレーザ溶断することによって裁断される端縁部である。この端縁部にでは、集電体11の端部は、電極厚み方向において集電体11の板厚よりも広がっている。具体的には、集電体11の板板をt1とし、端縁部における集電体11の電極厚み方向の寸法をt2としたとき、t1<t2となっている。
【0028】
図3では、集電体11の端部16が略三角状に広がって形成されている例が模式的に示される。ただし、実際には、集電体11の端部16はこのような略三角状に広がって形成されていなくてもよく、板厚t1よりも電極厚み方向の寸法t2が大きくなる形状であればよい。具体的には、集電体11の端部16の断面形状は、略台形状であってもよいし、電極厚み方向に長い略長方形状であってもよい。
【0029】
集電体11の端部16において板厚t1よりも広がった部分は、集電体11の両面に形成された活物質層12の第1層19aおよび第2層19bの端部を覆っている。より詳しくは、集電体11の端部16において板厚t1よりも広がった部分16a,16bは、活物質層12の第1層19aの端部の全体を覆っている。また、集電体11の端部16において板厚t1よりも広がった部分16a,16bは、活物質層12の第2層19bの端部の一部を覆っている。このように集電体11の広がった部分16a,16bが第2層19bの端部の一部を覆った状態に形成されることで、集電体11の広がった部分が電極10の活物質層12の表面(すなわち第2層19bの表面)を越えて形成されないようにしている。これにより、集電体11の広がった部分16a,16bが電極10の活物質層12の表面を越えて形成されると生じやすくなる、隣接する異極電極(例えば正極板)との短絡を抑制することができる。
【0030】
このように集電体11の端部16が板厚t1よりも広がった形状に形成されるのは次のような理由によるものと推察される。集電体11がレーザ溶断されるとき、レーザ出力(例えば、1000W~3000W)が高いが故に高伝熱性の金属箔からなる集電体11の溶融状態が面方向Yに瞬時に広がる。集電体11の端部16を形成する溶融した金属は、表面張力などの影響によって丸まろうとする。しかし、集電体11の両面に活物質層12が存在することによって完全に丸くなることが妨げられる。その結果、集電体11の端部16には、集電体11の厚さ方向Zの両側に略三角形状に広がった部分16a,16bが形成されるものと推察される。このように集電体11の端部16が広がった部分16a,16bを有することで、電極10の端縁部において活物質層12が押さえられて集電体11から脱落するのを抑制することができる。
【0031】
なお、図3では、集電体11の端部16の端面が活物質層12の第2層19bの端部と面方向Yにおいて面一に形成されている状態が示されるが、これに限定されるものではない。図3において破線で示すように、活物質層12の第2層19bの端部にはレーザ溶断時に活物質材料が溶融した後に凝固した溶融凝固部18が形成されており、この溶融凝固部18が集電体11の端部16の端面よりも面方向Yの外側に突出して形成されてもよい。換言すれば、集電体11の端部16の端面が活物質層12の第2層19bの溶融凝固部18よりも面方向Yの内側に形成されてもよい。すなわち、この場合には集電体11の端部16の端面が第2層19bの溶融凝固部18に対して面方向Yに凹んだ位置になっている。このように集電体11の端部16の端面が凹んだように形成されることで、隣接する異極電極(例えば正極板)との短絡をより一層生じにくくすることができる。
【0032】
上述したように活物質層12の第1層19aおよび第2層19bは、それぞれ多孔質層であって空隙を含む層として形成されている。そのため、集電体11の端部16の広がった部分16a,16bが形成されるときに溶融した集電体11の材料の一部が上記空隙に入り込んでいる。換言すると、図3において略三角状に広がった部分16a,16bは、溶融した集電体材料が第1層19aおよび第2層19bの空隙に入り込んで形成されている。このように溶融した集電体11の材料が活物質層12の第1層19aおよび第2層19bの端部の空隙に入り込んで固まっていることで、活物質層12の第1層19aおよび第2層19bの端部の脱落を効果的に抑制できる。
【0033】
また、本実施形態では、第2層19bの方が第1層19aよりも空隙率が高くなるように形成されている。そのため、集電体11の端部16の広がった部分16a,16bが形成されるときに溶融した集電体11の材料は第1層19aよりも第2層19bの空隙により多く入り込んでいる。このように溶融した集電体11の材料が活物質層12の第2層19bの端部の空隙により多く入り込んで固まっていることで、活物質層12の第2層19bの端部の脱落をより効果的に抑制できる。
【0034】
図2及び図3では、第1層19aと第2層19bとの界面を明確に図示しているが、当該界面は明確でなくてもよい。例えば、第1層19aと第2層19bとが混在した層が存在していてもよい。
【0035】
図4は、図1におけるC方向から見た電極10の端縁部の拡大図である。図4に示すように、電極10の端縁部において板厚t1よりも広がって形成された部分16a,16bの縁部は波打ったような形状に形成されている。このように波打った形状の縁部を有する集電体11の広がった部分16a,16bが活物質層12の第2層19bの表面を越えないように形成するのが好ましいことは上述したとおりである。
【0036】
次に、図5及び図6を参照しながら、電極10の製造方法の一例について詳細に説明する。図5は、実施形態の電極10の製造に使用されるレーザシステム30の全体構成を示す。図6は、レーザシステム30から出力されるレーザ光αにより電極前駆体20を切断する様子を示す。ここでは、電極前駆体20の切断により電極10の集電体11となる部材を長尺状芯体21、活物質層12となる層を活物質層22とする。また、図5及び図6では、レーザ光αの照射位置に対する電極前駆体20の相対的な移動方向が矢印Xで示されている。
【0037】
図5及び図6に例示するように、電極10は、長尺状芯体21の両面に活物質層22が形成された長尺状の電極前駆体20を所定の形状に切断して製造される。本実施形態の電極前駆体20は、長尺状芯体21の両面に活物質層22が形成される。活物質層22は、活物質等の構成材料を含む合材スラリーを調製する。このとき、活物質層12の構成する第1層19a用合材スラリーと、第2層19b用合材スラリーとを別々に調整する。そして、これらの合材スラリーを長尺状芯体21の両面に重ねて塗布し、塗膜を乾燥させることによって形成される。
【0038】
活物質層22の形成工程では、電極前駆体20の長手方向に沿って、芯体表面が露出した露出部23を形成する。露出部23は、長尺状芯体21の幅方向両端から略一定の幅でそれぞれ形成されることが好ましい。露出部23は、長尺状芯体21の両面の全域に活物質層22を形成した後、活物質層22の一部を剥離除去して形成されてもよいが、好ましくは長尺状芯体21の一部に合材スラリーを塗布しないことにより形成される。
【0039】
長尺状芯体21は、図6に示すように、長手方向と直交する幅方向に2枚の電極10を形成可能な幅を有する。そのため、本実施形態のレーザシステム30では、3本のレーザ光α1,α2,α3を用いて、電極前駆体20を切断する。より詳しくは、レーザ光α1,α2は、電極前駆体20の幅方向両端側に照射されて、電極10の基部13におけるリード部14を含む長辺部13bを形成する。レーザ光α3は、電極前駆体20の幅方向中央に照射され、電極前駆体20を2つの電極中間体20a,20bに切断する。
【0040】
電極前駆体20の切断工程では、電極前駆体20とレーザシステム30の加工ヘッドとの相対位置を変化させながら、電極前駆体20に対してレーザ光α1,α2,α3を照射する。電極前駆体20を固定した状態でレーザ光α1,α2,α3を走査することも可能であるが、長尺状の電極前駆体20を加工する場合は、電極前駆体20を搬送しながら切断処理を行うことが好ましい。電極前駆体20を搬送しながら、レーザ光α1,α2,α3を走査してもよい。
【0041】
図5には、電極前駆体20の幅方向一端側に照射されるレーザ光α1を出力するレーザシステム30が例示される。レーザ光α2,α3を出力するレーザシステムも同様に構成できる。
【0042】
図5に示すように、レーザシステム30は、レーザ発振器31と、ガルバノスキャナー33を内蔵する加工ヘッドとを備える。ガルバノスキャナー33を用いることで、加工ヘッド自体を固定した状態でレーザ光α1を走査することができる。レーザ発振器31は、連続発振が可能な発振器である。レーザ発振器31の例としては、連続発振モードでレーザ光α1を出力可能なYAGレーザ、COレーザ、Arレーザ、ファイバーレーザなどが挙げられる。好適な一例は、ファイバーレーザである。発振波長の好適な範囲の一例は、900nm~1200nmである。レーザシステム30では、レーザ発振器31とガルバノスキャナー33の間に、レーザ発振器31から出力されたレーザ光α1を平行なビームとするコリメータ32が設けられている。
【0043】
ガルバノスキャナー33は、レーザ発振器31側から順に、反射ミラー34、光学素子35、X軸ミラー36、Y軸ミラー37、及びFθレンズ38を有する。光学素子35には、例えば回折格子等が用いられる。コリメータ32を通過した連続波であるレーザ光α1は、反射ミラー34で光学素子35側に曲げられ、光学素子35を通過して、X軸ミラー36、Y軸ミラー37に導かれる。X軸ミラー36及びY軸ミラー37を動かすことでレーザ光α1を走査し、二次元平面内で照射スポットP1の位置を変更することができる。X軸ミラー36及びY軸ミラー37で反射されたレーザ光α1は、Fθレンズ38及び保護ガラス39を通って電極前駆体20に照射される。
【0044】
レーザ照射条件は、長尺状芯体21及び活物質層22の材質、厚み、切断形状等に基づいて調整することが好ましいが、概ね、連続発振レーザ(レーザ発振器31)の出力は500W~5000W、レーザ光α1のスポット径は5μm~100μmである。また、連続発振レーザによる電極前駆体20の切断速度は、例えば500mm/秒~8000mm/秒である。電極前駆体20が負極板の前駆体である場合と、正極板の前駆体である場合とで、照射条件を変更してもよい。一般的には、正極板の前駆体の方が切断し易い。
【0045】
レーザ出力、スポット径、及び切断速度に関する好適な範囲の一例は次の通りである。レーザ出力は、1000W~3000Wであることがより好ましい。スポット径は、10μm~100μmであることが好ましく、10μm~40μmであることが更に好ましい。切断速度は、1000mm/秒~5000mm/秒であることがより好ましい。
【0046】
ここで、電極前駆体20に照射されるレーザ光α1,α2,α3の各出力は、同一に設定することができる。ただし、電極前駆体20の幅方向両端側に照射されるレーザ光α1,α2は、集電体11の露出部23だけを切断する領域(すなわちリード部14となる凸部24の外形線)を含む。露出部23は、活物質層22が存在する領域に比べて、レーザ光の出力が低くても切断可能である。レーザ出力が過大であると、リード部14となる凸部24の周縁部が荒れた切断面になることがある。したがって、レーザ光α1,α2の各出力は、活物質層22がある領域だけを切断するレーザ光α3の出力に比べて、低く設定されてもよい。
【0047】
図6に例示するように、電極前駆体20の切断工程では、連続発振レーザを用いて、電極前駆体20の活物質層22が設けられた部分を露出部23に沿って切断すると共に、略一定周期で切断方向を変えて露出部23を切断することによりリード部14となる凸部24を形成する。レーザ光α1,α2は、活物質層22が設けられた部分と露出部23の境界位置に照射することもできるが、この場合、照射スポットP1,P2の僅かなズレでリード部14以外の部分に集電体11の露出した表面が形成される。リード部14以外の部分の集電体11の露出した表面は、正負極間の低抵抗な短絡を招くおそれがあるため、特に正極では当該露出部が形成されないように電極前駆体20を切断することが好ましい。このため、露出部23の近傍の活物質層22が設けられた部分にレーザ光α1,α2を照射して電極前駆体20を切断することが好ましい。
【0048】
レーザ光α1,α2は、露出部23(電極前駆体20の長手方向)に沿って走査され、凸部24に対応する部分で露出部23側(電極前駆体20の幅方向)に走査される。このとき、レーザ光α1とレーザ光α2とは、互いに反対方向に走査される。活物質層22が設けられた部分と露出部23との境界位置においてもレーザ光α1,α2は連続的に照射されるため、活物質層22が設けられた部分の切断部C22と、露出部23の切断部C23とは、連続した線状に形成される。略一定周期で切断方向を変えて露出部23を切断することで、電極前駆体20の長手方向に略等間隔で並ぶ複数の凸部24が形成される。そして、活物質層12が全体に形成された基部13と、付け根に活物質層12が形成されたリード部14とを有する電極10が得られる。
【0049】
本実施形態では、連続発振レーザを用いて、電極前駆体20を電極サイズに裁断する。上述のように、長尺状芯体21が幅方向に2枚の電極10が形成可能な幅を有するため、電極前駆体20の幅方向中央にレーザ光α3を照射して、電極前駆体20を長手方向に沿って裁断する。これにより、電極10に対応する幅に切断された2枚の長尺状の電極中間体20a,20bが得られる。なお、電極前駆体20は、幅方向中央でレーザ光α3によって直線状に裁断されるため、レーザ光α3は一次元的に走査可能であればよい。したがって、レーザ光α3を出力するレーザシステムでは、例えば、Y軸ミラー37を省略するか、又は、Y軸ミラー37を固定としてもよい。
【0050】
上記のように連続発振レーザを用いて2つに分断された電極中間体20a,20bは、活物質層22の圧縮工程に供給されてもよい。圧縮工程の後、電極中間体20a,20bが裁断予定線25で切断されることにより、個々の電極10が得られる。個々の電極10への裁断は、連続発振レーザを用いて行われてもよく、カッター等を用いた従来の一般的な裁断法を用いて行われてもよい。
【0051】
なお、図6では、3つのレーザ光α1,α2,α3が電極前駆体20の幅方向に並んで照射される例を示したが、これに限定されず、レーザ光α1,α2,α3のうち少なくとも1つの照射位置が、電極前駆体20の移動方向(矢印X)に関してずれていてもよい。
【0052】
次に、図7を参照して、電極10を用いた二次電池100の構成について説明する。
【0053】
図7に示すように、二次電池100は、複数枚の正極と複数枚の負極とがセパレータを介して交互に積層された電極体50が、電解液(図示せず)とともに、電池ケース60内に収容されている。ここで、電極体50を構成する負極極として電極10を用いることができる。また、電極体50を構成する正極板にも本実施形態の電極が用いられてもよい。
【0054】
電池ケース60の開口部は、封口体61によって封口されている。正極端子62及び負極端子63が、それぞれ、樹脂部材64、65を介して、封口体61に固定されている。正極板は正極リード部51及び正極集電部材52を介して正極端子62に電気的に接続されている。負極は負極リード部53及び負極集電部材54を介して負極端子63に電気的に接続されている。封口体61には、電解液を注液する注液孔が設けられ、この注液孔は、電解液を注液した後、封止部材66で封止される。また、封口体61には、電池ケース60の内部圧力が上昇したときに、圧力を開放するガス排出弁67が設けられている。電池ケース60が金属製である場合、電極体50を箱状又は袋状の絶縁シート55の内部に配置した状態で電池ケース60内に配置することが好ましい。
【0055】
なお、各正極から突出した正極リード部51は、湾曲した状態とし、正極集電部材52において、封口体61と略平行に配置される部分に接続されることが好ましい。また、各負極から突出した負極リード部53は、湾曲した状態とし、負極集電部材54において、封口体61と略平行に配置される部分に接続されることが好ましい。これにより、体積エネルギー密度のより高い二次電池となる。
【0056】
また、電極体50を構成する正極板および負極板は、正極板と負極板との間に配置されるセパレータに接着されていることが好ましい。接着の方法としては、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン製等のセパレータの表面あるいは、電極の活物質層表面に接着層を設け、この接着層によりセパレータと活物質層を接着することが好ましい。接着としては圧着や熱溶着等が好ましい。接着層は特に限定されないが、セパレータよりも柔らかい層であることが好ましい。また、接着層として、樹脂製のものが好ましく、例えば、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を用いることができる。
【0057】
活物質層とセパレータを接着層により接着する場合は、接着層が活物質層12の溶融凝固部と接するようにすることが好ましい。これにより、二次電池を使用する際に溶融凝固部が活物質層から滑落することを防止できる。
【0058】
なお、本開示に係る二次電池用の電極及びこれを用いた二次電池は、上述した実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲に記載された事項の範囲内において種々の変更や改良が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0059】
10 電極
11 集電体
12,12a,12b,22 活物質層
13 基部
13a,13b 長辺部
14 リード部
16 端部
16a,16b 集電体の広がった部分
18 溶融凝固部
19a 第1層
19b 第2層
20 電極前駆体
20a,20b 電極中間体
21 長尺状芯体
23 露出部
24 凸部
25 裁断予定線
30 レーザシステム
31 レーザ発振器
32 コリメータ
33 ガルバノスキャナー
34 反射ミラー
35 光学素子
36 X軸ミラー
37 Y軸ミラー
38 Fθレンズ
39 保護ガラス
50 電極体
51 正極リード部
52 正極集電部材
53 負極リード部
54 負極集電部材
55 絶縁シート
60 電池ケース
61 封口体
62 正極端子
63 負極端子
64,65 樹脂部材
66 封止部材
67 ガス排出弁
100 二次電池
22,C23 切断部
P1,P2,P3 照射スポット
t1 板厚
t2 寸法
α1,α2,α3 レーザ光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7