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特許7169411延伸フィルムおよび延伸フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】延伸フィルムおよび延伸フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/02 20060101AFI20221102BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20221102BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20221102BHJP
   C08F 20/10 20060101ALI20221102BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20221102BHJP
   C08J 7/043 20200101ALI20221102BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
B29C55/02
C08L33/06
C08L51/04
C08F20/10
C08J5/18 CEY
C08J7/043
G02B5/30
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021133910
(22)【出願日】2021-08-19
(62)【分割の表示】P 2019506237の分割
【原出願日】2018-03-14
(65)【公開番号】P2021192106
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2021-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2017050530
(32)【優先日】2017-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】島田 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】桝田 長宏
(72)【発明者】
【氏名】片岡 直人
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/030118(WO,A1)
【文献】特開2010-065109(JP,A)
【文献】特開2009-280750(JP,A)
【文献】特開2016-221809(JP,A)
【文献】特開2017-025333(JP,A)
【文献】特開2016-138963(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158968(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/00 - 55/30
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ガラス転移温度が120℃以上であるアクリル系樹脂及びアクリル系ゴム粒子(B)を含有する二軸延伸フィルムの製造方法であって、
前記二軸延伸フィルムは、アクリル系樹脂組成物から構成されており、
前記アクリル系ゴム粒子(B)は、前記アクリル系樹脂組成物中に1重量%~50重量%含有されており、
延伸工程における延伸温度がTg+25℃~Tg+55℃であることを特徴とする、二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記二軸延伸フィルムは、同時二軸延伸または逐次二軸延伸により形成されたものである、請求項1に記載の二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
延伸温度がTg+26℃~Tg+55℃である、請求項1または2に記載の二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記二軸延伸フィルムは、85℃、85%RH雰囲気下に120時間静置した際の収縮率が1.3%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項5】
MIT往復折り曲げ回数が350回以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記(B)アクリル系ゴム粒子がゴム状重合体からなるコア層とガラス状重合体からなるシェル層とを有するコアシェル型弾性体であって、コアシェル型弾性体の平均分散長が150nm~300nmであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項7】
(A)ガラス転移温度が120℃以上であるアクリル系樹脂が主鎖に環構造を持ち、前記環構造がグルタルイミド環、ラクトン環、無水マレイン酸、マレイミド及び無水グルタル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項8】
(A)ガラス転移温度が120℃以上であるアクリル系樹脂中の環構造の含有量が2重量%~80重量%であることを特徴とする、請求項7に記載の二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項9】
(A)ガラス転移温度が120℃以上であるアクリル系樹脂及びアクリル系ゴム粒子(B)を含有する二軸延伸フィルムであって、
前記二軸延伸フィルムは、アクリル系樹脂組成物から構成されており、
前記アクリル系ゴム粒子(B)は、前記アクリル系樹脂組成物中に1重量%~50重量%含有されており、
85℃、85%RH雰囲気下に120時間静置した際の収縮率が1.3%以下である二軸延伸フィルム。
【請求項10】
前記(B)アクリル系ゴム粒子がゴム状重合体からなるコア層とガラス状重合体からなるシェル層とを有するコアシェル型弾性体であって、コアシェル型弾性体の平均分散長が150nm~300nmであることを特徴とする、請求項9に記載の二軸延伸フィルム。
【請求項11】
(A)ガラス転移温度が120℃以上であるアクリル系樹脂が主鎖に環構造を持ち、前記環構造がグルタルイミド環、ラクトン環、無水マレイン酸、マレイミド及び無水グルタル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項9または10に記載の二軸延伸フィルム。
【請求項12】
(A)ガラス転移温度が120℃以上であるアクリル系樹脂中の環構造の含有量が2重量%~80重量%であることを特徴とする、請求項11に記載の二軸延伸フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム等に使用できる延伸フィルムおよび延伸フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置には多数の光学フィルムが使用される。液晶表示装置には、通常、液晶セルの両側に二枚の偏光板が配置される。偏光板としては偏光子の両側に偏光子を保護する為の偏光子保護フィルムを接着剤で貼合したものが一般的に用いられる。偏光子保護フィルムとしては、透明性が高い、光学フィルムが使用されている。セルロース系材料からなる光学フィルムが多用されるが、耐久性の向上等を目的として、アクリル系樹脂からなる光学フィルムを偏光子保護フィルムとして用いることが提案されている(例えば、特許文献1及び2)。しかしながら、これらアクリル樹脂系フィルムは、用途によっては機械的特性、特に可とう性が不足する場合がある。この課題を解決するために、延伸されたフィルムを使用することがある。加えて、アクリル系延伸フィルムであっても更なる機械的特性の向上のために、アクリル系延伸フィルムにおいてアクリル系ゴム粒子を使用することが検討されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-205135号公報
【文献】特開2015-143842号公報
【文献】特開2009-84574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの検討によれば、アクリル系ゴム粒子を配合することにより、機械的特性は改善するものの、高温高湿環境において収縮率が増大するという問題があることが分かった。光学フィルムを偏光子保護フィルムとして使用する場合、光学フィルムが収縮すると偏光板全体が追随して歪み、液晶表示装置のコントラスト低下や周辺むらが発生することがある。また、アクリル系ゴム粒子を配合することにより、偏光子に貼り合わされた際に、光学フィルムの表面近傍においてアクリル系ゴム粒子に起因する凝集破壊が起こり、偏光子との密着性が不十分となることも分かった。
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものである。本発明の目的は、機械的特性、特に可とう性(MIT耐屈曲性)に優れ、接着強度を有し、さらに、高温高湿環境下における寸法変化率が小さい光学フィルムとして使用することが好適である延伸フィルムおよび延伸フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
<1>
(A)ガラス転移温度が120℃以上であるアクリル系樹脂及び(B)アクリル系ゴム粒子を1重量%~50重量%含有する延伸フィルムの製造方法であって、延伸工程における延伸温度がTg+20℃~Tg+55℃であることを特徴とする、延伸フィルムの製造方法に関する。
【0008】
<2>
前記延伸フィルムは、85℃、85%RH雰囲気下に120時間静置した際の収縮率が1.5%以下であり、且つ、MIT往復折り曲げ回数が350回以上である、<1>に記載の製造方法に関する。
【0009】
<3>
前記(B)アクリル系ゴム粒子がゴム状重合体からなるコア層とガラス状重合体からなるシェル層とを有するコアシェル型弾性体であって、コアシェル型弾性体の平均分散長が150nm~300nmであることを特徴とする、<1>又は<2>に記載の製造方法に関する。
【0010】
<4>
前記延伸フィルムを接着剤でポリカーボネートフィルムに貼り付け、23℃、50%RH雰囲気において90度剥離強度の値が1.0N/cm以上であることを特徴とする、<1>~<3>のいずれか1つに記載の製造方法に関する。
【0011】
<5>
(A)ガラス転移温度が120℃以上であるアクリル系樹脂が主鎖に環構造を持つことを特徴とする、<1>~<4>のいずれか1つに記載の製造方法に関する。
【0012】
<6>
前記環構造がグルタルイミド環、ラクトン環、無水マレイン酸、マレイミド及び無水グルタル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、<5>に記載の製造方法に関する。
【0013】
<7>
(A)ガラス転移温度が120℃以上であるアクリル系樹脂中の環構造の含有量が2重量%~80重量%であることを特徴とする、<5>または<6>に記載の製造方法に関する。
【0014】
<8>
環構造が下記一般式(1)を含むことを特徴とする、<5>~<7>のいずれか1つに記載の製造方法に関する。
【0015】
【化1】
(ここで、R及びRはそれぞれ独立に、水素または炭素数1~8のアルキル基を示し、Rは炭素数1~18のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基または炭素数6~10のアリール基を示す。)
【0016】
<9>
前記延伸フィルムは、85℃、85%RH雰囲気下に120時間静置した際の収縮率が0.1%以上1.5%以下である、<1>~<8>のいずれか1つに記載の製造方法に関する。
【0017】
<10>
前記延伸フィルムの片面若しくは両面に易接着層が設けられている、<1>~<9>のいずれか1つに記載の製造方法に関する。
【0018】
<11>
(A)ガラス転移温度が120℃以上であるアクリル系樹脂及び(B)アクリル系ゴム粒子を1重量%~50重量%含有する延伸フィルムであって、85℃、85%RH雰囲気下に120時間静置した際の収縮率が1.5%以下であり、且つ、MIT往復折り曲げ回数が350回以上である延伸フィルムに関する。
【0019】
<12>
前記(B)アクリル系ゴム粒子がゴム状重合体からなるコア層とガラス状重合体からなるシェル層とを有するコアシェル型弾性体であって、コアシェル型弾性体の平均分散長が150nm~300nmであることを特徴とする、<11>に記載の延伸フィルムに関する。
【0020】
<13>
前記延伸フィルムを接着剤でポリカーボネートフィルムに貼り付け、23℃、50%RH雰囲気において90度剥離強度の値が1.0N/cm以上であることを特徴とする、<11>または<12>に記載の延伸フィルムに関する。
【0021】
<14>
(A)ガラス転移温度が120℃以上であるアクリル系樹脂が主鎖に環構造を持つことを特徴とする、<11>~<13>のいずれか1つに記載の延伸フィルムに関する。
【0022】
<15>
前記環構造がグルタルイミド環、ラクトン環、無水マレイン酸、マレイミド及び無水グルタル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、<14>に記載の延伸フィルムに関する。
【0023】
<16>
(A)ガラス転移温度が120℃以上であるアクリル系樹脂中の環構造の含有量が2重量%~80重量%であることを特徴とする、<14>または<15>に記載の延伸フィルムに関する。
【0024】
<17>
環構造が下記一般式(1)を含むことを特徴とする、<14>~<16>のいずれか1つに記載の延伸フィルムに関する。
【0025】
【化2】
【0026】
(ここで、R及びRはそれぞれ独立に、水素または炭素数1~8のアルキル基を示し、Rは炭素数1~18のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基または炭素数6~10のアリール基を示す。)
【0027】
<18>
前記延伸フィルムは、85℃、85%RH雰囲気下に120時間静置した際の収縮率が0.1%以上1.5%以下である、<11>~<17>のいずれか1つに記載の延伸フィルムに関する。
【0028】
<19>
前記延伸フィルムの片面若しくは両面に易接着層が設けられている、<11>~<18>のいずれか1つに記載の延伸フィルムに関する。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、機械的特性に優れ、優れた接着強度を有し、さらに、高温高湿下における寸法変化率が小さい光学フィルム、特に偏光子保護フィルムとして使用可能な延伸フィルムおよび延伸フィルムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の一実施形態について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」をそれぞれ意味する。
【0031】
本発明は、(A)ガラス転移温度が120℃以上であるアクリル系樹脂及び(B)アクリル系ゴム粒子を1重量%~50重量%含有する延伸フィルムであって、85℃、85%RH雰囲気下に120時間静置した際の収縮率が1.5%以下であり、且つ、MIT往復折り曲げ回数が350回以上である延伸フィルムであることを特徴とする。
【0032】
(延伸フィルム)
本発明の延伸フィルムは、(A)ガラス転移温度が120℃以上であるアクリル系樹脂(以下、(A)アクリル系樹脂ということもある)及び(B)アクリル系ゴム粒子を1重量%~50重量%含んでなる延伸フィルムである。ここで、(A)ガラス転移温度が120℃以上であるアクリル系樹脂及び(B)アクリル系ゴム粒子を1重量%~50重量%を含むアクリル系樹脂をアクリル系樹脂組成物と定義する。
【0033】
本発明の延伸フィルムは、85℃、85%RH雰囲気下に120時間静置した際の収縮率が改善されており、MIT耐屈曲性に優れ、且つ、偏光子保護フィルムとして用いる際に、延伸フィルムの一面に易接着剤を塗布したのち、瞬間接着剤を用いてポリカーボネートフィルムに貼り付け、23℃、50%RH雰囲気下でポリカーボネートフィルムを延伸フィルムから剥離することにより試験した90度剥離強度が改善されている。
【0034】
85℃、85%RH雰囲気下に120時間静置した際の収縮率としては、延伸フィルムの長手方向(MD方向)、および幅方向(TD方向)のいずれも1.5%以下、好ましくは1.3%以下である。1.5%以下となると、偏光子に貼合した際に液晶表示装置のコントラスト低下や周辺むらを抑制できる。一方、上記収縮率の下限としては、特に限定されず、上記収縮率は、延伸フィルムの長手方向(MD方向)、および幅方向(TD方向)のいずれも、例えば、0.1%以上でよい。上記収縮率が0.1%以上であると、偏光子に貼合した際に、偏光子自体が収縮しても、その収縮に延伸フィルムが追随しやすい。ここでの85℃、85%RH雰囲気下に120時間静置した際の収縮率は、延伸フィルムを85℃、85%RHに設定した環境試験機中で120時間静置した前後の寸法変化を、三次元測定器を用いて測定することができる。
【0035】
剥離強度としては、延伸フィルムの長手方向(MD方向)および幅方向(TD方向)のいずれも1.0N/cm以上、好ましくは1.2N/cm以上である。1.0N/cm以上の剥離強度であれば偏光子へ貼合した後のリワーク性および耐久性の点で良好となる。剥離強度はオートグラフを用いて測定し、得られた測定データの10mm~60mmの間のデータを平均化することにより求めることができる。
【0036】
上記瞬間接着剤としては、市販されている瞬間接着剤を用いることができる。市販の瞬間接着剤としては、東亞合成(株)製 商品名「アロンアルファシリーズ」(アロンアルファ(登録商標) プロ用NO.1、アロンアルファ(登録商標) 即効多用途Extra、アロンアルファ(登録商標) プラスチック用等)等が挙げられる。
【0037】
上記ポリカーボネートフィルムとしては、市販のポリカーボネートフィルムをそのまま用いることができる。市販のポリカーボネートフィルムとしては、具体的には、帝人化成(株)製商品名「ピュアエースシリーズ(登録商標)」、(株)カネカ製商品名「エルメックシリーズ(登録商標)」(R140、R435等)等が挙げられる。
【0038】
ここで、延伸フィルムの機戒的特性を改善させるために、(B)アクリル系ゴム粒子とともにアクリル系熱可塑性エラストマーも検討されている。しかしながら、本発明者らの検討の結果、アクリル系熱可塑性エラストマーを用いた場合には、製膜フィルムにおいてアクリル系熱可塑性エラストマーがディスク状からロッド状に長く伸びた分散形状となることが多く、(A)ガラス転移温度が120℃以上のアクリル系樹脂との界面が増大し、(A)ガラス転移温度が120℃以上のアクリル系樹脂とアクリル系熱可塑性エラストマーの界面破壊が起こり易くなり、結果として剥離強度が低下したり、偏光子に貼合したのち断裁する際に、クラックが生じたり、エッジ部分が欠け落ちるという問題が生じうる。本発明の(B)アクリル系ゴム粒子を用いた場合には、熱可塑性エラストマーを用いた場合と比較して分散形状が球形に近くなり、(A)ガラス転移温度が120℃以上のアクリル系樹脂との界面積をより小さく抑えることが可能となり、上記課題を解決しうる。特に延伸温度を高く設定すると配向が抑えられ、(B)アクリル系ゴム粒子の分散形状をより球形に近くすることが可能となり好ましい。
【0039】
本発明の延伸フィルムは、当該フィルムの片面若しくは両面に易接着層を設けることが可能である。易接着層を設けることにより、例えば、偏光子保護フィルムとして用いる場合、接着剤を介して偏光子に貼り合わせる際に、接着剤による偏光子保護フィルムと偏光子との密着性を補強することができる。また未延伸フィルムに易接着層を設けて、その後延伸することにより、易接着層を有する延伸フィルムを得ることも可能である。
【0040】
本発明に用いる易接着層としては、特開2009-193061号公報、特開2010-55062号公報などに記載の公知の技術を用いて形成させることができる。即ち、例えば、カルボキシル基を有するウレタン樹脂と架橋剤とを含む易接着剤組成物で形成させることができる。ウレタン樹脂を用いることにより、偏光子保護フィルムと偏光子の密着性に優れた易接着層が得られうる。易接着剤組成物は、その作業性の観点及び、環境保護の観点から好ましくは、水系である。
【0041】
本発明の延伸フィルムの内部へイズは、1.0%以下であることが好ましい。より好ましくは0.5%以下であり、さらに好ましくは0.3%以下が良い。内部へイズが1.0%より低いことにより、液晶パネルに実装した時の品質が良好になる。
【0042】
本発明の延伸フィルムでは、MIT耐屈曲試験における切断するまでのMIT往復折り曲げ回数(以下、折り曲げ回数とも記載する)が改善される。折り曲げ回数としては、延伸フィルムの長手方向(MD方向)および幅方向(TD方向)のいずれも350回以上、好ましくは500回以上が良い。350回以上になると、長尺製膜の工程による破断のリスクや、液晶パネルへ貼合したのちのリワーク性の点で良好である。本発明による延伸フィルムにおける一軸延伸もしくは二軸延伸は任意で実施できる。ただし二軸延伸を施すことで、MIT耐屈曲試験における切断するまでのMIT往復折り曲げ回数を増大させることが出来る。
【0043】
上記(B)アクリル系ゴム粒子を含まないアクリル系樹脂からなるフィルムであっても、延伸条件等の加工方法によっては、MIT耐屈曲試験においてMIT往復折り曲げ回数が350回以上を実現することは可能であるが、その際の延伸条件は延伸温度を下げる方向であったり、延伸倍率を上げる方向であることから、延伸工程においての破断リスクが高くなる。本発明によれば、比較的高い延伸温度であっても、(B)アクリル系ゴム粒子の効果によりMIT耐屈曲試験における折り曲げ回数350回以上を実現でき、延伸時の破断のリスクが低く、且つ、寸法変化が小さく、偏光子に貼合された際の剥離強度の低下を抑えることが可能で、透明性の良好なアクリル樹脂組成物による偏光子保護フィルムを得ることが可能となる。
【0044】
ここでのMIT耐屈曲試験は、MIT耐柔疲労試験機を用いて、幅15mmの短冊型試験片を使用し、折り曲げクランプの曲率半径Rが0.38mm、左右の折り曲げ角度135度、折り曲げ速度175回/分、荷重1.96Nの条件で測定した切断するまでの往復折り曲げ回数と定義する。
【0045】
本発明の延伸フィルムのガラス転移温度は110℃以上であり、好ましくは115℃以上であり、より好ましくは120℃以上である。ここでのガラス転移温度は、アクリル系樹脂およびアクリル系樹脂組成物10mgを用いて、示差走査熱量計を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定し、中点法により決定したものである。
【0046】
本発明の(A)ガラス転移温度が120℃以上であるアクリル系樹脂の平均屈折率は1.48以上であることが好ましい。(A)ガラス転移温度が120℃以上であるアクリル系樹脂と、(B)アクリル系ゴム粒子との屈折率差が0.02以下であることも好ましく、0.01以下であることがより好ましい。本発明の延伸フィルムは、(B)アクリル系ゴム粒子が、(A)アクリル系樹脂中に分散した状態であることから、アクリル系樹脂と前記(B)アクリル系ゴム粒子との屈折率差が小さくなるほど、延伸フィルムの内部へイズが低下する傾向にある。ここでの延伸フィルムの平均屈折率は、例えばアッべ屈折計を用いて測定することができる。
【0047】
ここでの内部へイズは、液体測定用ガラスセルに得られたフィルムを入れ、その周辺に純水を充填した状態のガラスセルを対象にヘイズメーター(濁度計)を用い測定したヘイズ値と定義する。
【0048】
((A)ガラス転移温度が120℃以上であるアクリル系樹脂)
本発明では、(A)ガラス転移温度が120℃以上であるアクリル系樹脂を使用する。アクリル系樹脂のガラス転移温度が120℃以上であると、(B)アクリル系ゴム粒子と混合したアクリル系樹脂組成物からなる延伸フィルムのガラス転移温度が高くなり、例えば、高温環境下での延伸フィルムの寸法変化率が小さくなる。実使用上、本発明の延伸フィルムは他のフィルムと積層されて用いることが多く、寸法変化率が小さいと、積層された他フィルムとの間に生じる寸法変化率の差から生じる歪や反りの発生を抑制することができる。
【0049】
ここで、(A)ガラス転移温度が120℃以上であるアクリル系樹脂としては、主鎖に環構造を有しているアクリル系樹脂を好適に利用することができる。例えば、その環構造としてグルタルイミド環、ラクトン環、無水マレイン酸、マレイミド及び無水グルタル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の環構造を挙げることができる。これらによれば、耐熱性付与が可能となる。また、その中でも、特に環構造がグルタルイミドであることが、生産の簡便性やコスト、湿気に対する品質安定性の観点で好ましい。
【0050】
また、ガラス転移温度が120℃以上であるアクリル系樹脂としては、メタクリル酸などのカルボキシル基を導入する手法が挙げられるが、カルボキシル基が一定量以上になると、架橋体を形成するリスクが生じたり、製膜するときに発泡するリスクが増大するため、ある一定量以下に抑えることが好ましい。具体的にはアクリル系樹脂中のカルボキシル基の量は0.6mmol/g以下、好ましくは0.4mmol/g以下であることが好ましい。
【0051】
ガラス転移温度が120℃以上であるアクリル系樹脂中の環構造の含有量は2重量%~80重量%の範囲であることが好ましい。この範囲内の環構造の含有量の場合、ガラス転移温度と厚み方向位相差Rthのいずれもが良好となるので好ましい。アクリル系樹脂中の環構造の含有量は、H-NMRを用いて、対象となる環構造部分とそれ以外の部分のモル比を測定し、重量換算を行い算出した。
【0052】
以下、各環構造について説明する。
【0053】
(グルタルイミド環を有するアクリル系樹脂)
環構造としてグルタルイミド環を有するアクリル系樹脂は、下記一般式(1)で表されるグルタルイミド単位とメタクリル酸メチル単位とを含有する樹脂であり、アクリル酸エステル単位が1重量%未満であるアクリル系樹脂を加熱溶融し、イミド化剤で処理することによって得られる。
【0054】
【化3】
【0055】
(ここで、R及びRはそれぞれ独立に、水素または炭素数1~8のアルキル基を示し、Rは炭素数1~18のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基または炭素数6~10のアリール基を示す。)。
【0056】
本発明に係るグルタルイミド環の含有量は、例えば以下の方法で測定できる値である。H-NMRを用いて行う。3.5ppmから3.8ppm付近のメタクリル酸メチルのO-CHプロトン由来のピークの面積と、3.0ppmから3.3ppm付近のグルタルイミド基のN-Rプロトン由来のピーク面積より、求められたモル比を用いて重量換算を行う。
【0057】
イミド化剤で処理する工程において、メタクリル酸メチル以外にも、例えば、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなども併用してよいが、これらを併用する場合はアクリル酸エステル単位が1重量%未満であることが好ましい。さらにアクリル酸エステル単位が0.5重量%未満であることがより好ましく、0.3重量%未満であることがさらに好ましい。
【0058】
また、上記モノマー(単量体)以外にも、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系単量体、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体、スチレンなどの芳香族ビニル系モノマーを共重合することも可能である。
【0059】
上記メタクリル酸メチル樹脂の構造は、特に限定されるものではなく、リニアー(鎖状)ポリマー、ブロックポリマー、コアシェルポリマー、分岐ポリマー、ラダーポリマー、及び架橋ポリマー等のいずれであってもよい。
【0060】
ブロックポリマーの場合、A-B型、A-B-C型、A-B-A型、及びこれら以外のタイプのブロックポリマーのいずれであってもよい。コアシェルポリマーの場合、ただ一層のコア及びただ一層のシェルのみからなるものであってもよいし、それぞれが多層からなるものであってもよい。
【0061】
ポリメタクリル酸メチルの製造方法としては、特に限定されず、公知の乳化重合法、乳化-縣濁重合法、縣濁重合法、塊状重合法、溶液重合法などが適用可能であるが、光学分野に用いる場合、不純物が少ないとの観点から、塊状重合法、溶液重合法が特に好ましい。例えば、特開昭56-8404、特公平6-86492、特公平7-37482、あるいは特公昭52-32665などに記載の方法に準じて製造できる。
【0062】
本発明は、メタクリル酸メチル樹脂または、上記メタクリル酸メチルモノマー以外のモノマーを共重合したアクリル系樹脂を加熱溶融して、イミド化剤で処理する工程(イミド化工程)を含む。これによりグルタルイミドを有するアクリル系樹脂を製造できる。
【0063】
イミド化剤は一般式(1)で表されるグルタルイミド環を生成できるものであれば特に制限されず、WO2005/054311記載のもの等が挙げられる。具体的には、例えば、アンモニア、メチルアミン、n-プロピルアミン、i-プロピルアミン、n-ブチルアミン、i-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有アミン、アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、トリクロロアニリン等の芳香族炭化水素基含有アミン、シクロヘキシルアミン等などの脂環式炭化水素含有アミンを挙げることができる。また、尿素、1,3-ジメチル尿素、1,3-ジエチル尿素、1,3-ジプロピル尿素のように、加熱により、例示したアミンを発生する尿素系化合物を用いることもできる。これらのイミド化剤のうち、コスト、物性の両面からメチルアミン、アンモニア、シクロヘキシルアミンを用いることが好ましく、メチルアミンを用いることが特に好ましい。
【0064】
常温にてガス状のメチルアミンなどは、メタノールなどのアルコール類に溶解させた状態で使用してもよい。
【0065】
このイミド化工程において、上記イミド化剤の添加割合を調整することにより、得られるアクリル系樹脂におけるグルタルイミド単位および(メタ)アクリル酸エステル単位の割合を調整することができる。
【0066】
また、イミド化の程度を調整することにより、得られるアクリル系樹脂の物性や、本発明にかかるアクリル系樹脂を成形してなる延伸フィルムの光学特性等を調整することができる。
【0067】
イミド化剤はメタクリル酸メチル単位を含むアクリル系樹脂100重量部に対して0.5重量部~20重量部であることが好ましい。イミド化剤の添加量がこの範囲内の場合、樹脂中にイミド化剤が残存しにくく、成形後の外観欠陥や発泡を誘発する可能性が極めて低い。また、最終的に得られる樹脂組成物のグルタルイミド環の含有量も適切になるため、その耐熱性が低下しにくく、成形後の外観欠陥を誘発しにくくなり、好ましい。
【0068】
このイミド化の工程においては、イミド化剤に加えて、必要に応じて、閉環促進剤(触媒)を添加してもよい。
【0069】
加熱溶融し、イミド化剤と処理する方法は、特に限定されなく、従来公知のあらゆる方法を用いることができる。例えば、押出機や、バッチ式反応槽(圧力容器)等を用いる方法により、上記メタクリル酸メチル単位を含むアクリル系樹脂をイミド化することができる。
【0070】
押出機は特に限定されるものではない。例えば、単軸押出機、二軸押出機または多軸押出機等を用いることができる。押出機は単独で用いてもよいし、複数を直列につないで用いてもよい。二軸押出機を用いる場合、非噛合い型同方向回転式、噛合い型同方向回転式、非噛合い型異方向回転式、および噛合い型異方向回転式等を挙げることができる。中でも、噛合い型同方向回転式の二軸押出機は、高速回転可能であるため、原料ポリマーに対するイミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤と閉環促進剤)の混合を、より一層促進することができ、好ましい。
【0071】
押出機中でイミド化を行う場合は、例えば、メタクリル酸メチル樹脂を押出機の原料投入部から投入し、該樹脂を溶融させ、シリンダ内を充満させた後、添加ポンプを用いてイミド化剤を押出機中に注入することにより、押出機中でイミド化反応を進行させることができる。
【0072】
この場合、押出機中で処理する温度(樹脂温度)や時間(反応時間)、樹脂圧もグルタルイミド化が可能であれば特に制限されない。
【0073】
押出機を使用する場合は、未反応のイミド化剤や副生成物を除去するために、大気圧以下に減圧可能なベント孔を装着することも好ましい。このような構成によれば、未反応のイミド化剤、もしくはメタノール等の副生成物やモノマー類を除去することができる。
【0074】
グルタルイミド環を含有するアクリル系樹脂を、バッチ式反応槽(圧力容器)を用いて製造する場合、そのバッチ式反応槽(圧力容器)の構造は特に限定されるものでない。メタクリル酸メチル単位を含むアクリル系樹脂を加熱により溶融させ、攪拌することができ、イミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤と閉環促進剤)を添加することができる構造を有していればよいが、攪拌効率が良好な構造を有するものであることが好ましい。
【0075】
イミド化方法の具体例としては、例えば、特開2008-273140、特開2008-274187記載の方法など公知の方法をあげることができる。
【0076】
本発明の製造方法では、上記イミド化工程に加え、エステル化剤で処理する工程を含むことができる。このエステル化工程によって、イミド化工程で得られたイミド化樹脂の酸価を所望の範囲内に調整することができる。
【0077】
エステル化剤としては、分子鎖中に残存するカルボキシル基をエステル化できれば特に制限されない。例えば、ジメチルカーボネート、2,2-ジメトキシプロパン、ジメチルスルホキシド、トリエチルオルトホルメート、トリメチルオルトアセテート、トリメチルオルトホルメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルサルフェート、メチルトルエンスルホネート、メチルトリフルオロメチルスルホネート、メチルアセテート、メタノール、エタノール、メチルイソシアネート、p-クロロフェニルイソシアネート、ジメチルカルボジイミド、ジメチル-t-ブチルシリルクロライド、イソプロペニルアセテート、ジメチルウレア、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、ジメチルジエトキシシラン、テトラ-N-ブトキシシラン、ジメチル(トリメチルシラン)フォスファイト、トリメチルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、ジアゾメタン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、コスト、反応性などの観点から、ジメチルカーボネート、トリメチルオルトアセテートが好ましく、コストの観点からジメチルカーボネートが好ましい。
【0078】
このイミド化工程において、エステル化剤はメタクリル酸メチル単位を含むアクリル系樹脂100重量部に対して0重量部~30重量部であることが好ましく、0重量部~15重量部であることがより好ましい。エステル化剤がこれらの範囲内であれば酸価を適切な範囲に調整できる。一方、この範囲より多い場合は未反応のエステル化剤が樹脂中に残存する可能性があり、得られた樹脂を使って成形を行った際、発泡や臭気発生の原因となることがある。
【0079】
エステル化剤に加え、触媒を併用することもできる。触媒はエステル化を促進することができれば特に限定されるものではない。例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の脂肪族3級アミンが挙げられる。これらの中でもコスト、反応性などの観点からトリエチルアミンが好ましい。
【0080】
このエステル化工程では、エステル化剤によって処理することなく、加熱処理等のみを行うこともできる。加熱処理(押出機内での溶融樹脂の混練や分散など)のみを行った場合、イミド化工程にて副生したグルタルイミド環を有するアクリル系樹脂中のカルボキシル基同士の脱水反応やカルボン酸とアルキルエステル基の脱アルコール反応、等によりカルボキシル基の一部または全部を酸無水物基とすることができる。このとき、閉環促進剤(触媒)を使用することも可能である。
【0081】
エステル化剤によって処理する場合であっても、加熱処理による酸無水物基化を進行させることも可能である。
【0082】
イミド化工程およびエステル化工程を経たイミド樹脂中には、未反応のイミド化剤や、未反応のエステル化剤、反応により副生した揮発成分および樹脂分解物等を含んでいるため、大気圧以下に減圧可能なベント孔を装着することが可能である。
【0083】
(ラクトン環を有するアクリル系樹脂)
環構造としてラクトン環を有するアクリル系樹脂は、分子内にラクトン環構造を持つ熱可塑性の重合体(分子鎖中にラクトン環構造が導入された熱可塑性の重合体)であれば、限定はされず、その製造方法についても限定されないが、好ましくは、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体(a)を重合によって得た(重合工程)後に、得られた重合体(a)を加熱処理することによりラクトン環構造を重合体に導入する(ラクトン環化縮合工程)ことによって得られる。
【0084】
重合工程においては、下記一般式(2)で表される不飽和単量体を含む単量体成分の重合反応を行うことにより、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得る。
【0085】
【化4】
【0086】
(ただし、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20のアルキル基を表す。)。
【0087】
一般式(2)で表される不飽和単量体としては、例えば、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸ターシャリーブチルなどが挙げられる。なかでも、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、耐熱性向上効果が高い点で、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが特に好ましい。これらの不飽和単量体は1種のみ用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0088】
単量体成分中の一般式(2)で表される不飽和単量体の含有割合は、5重量%~50重量%が好ましく、より好ましくは10重量%~40重量%、さらに好ましくは10重量%~30重量%である。上記含有割合が5重量%よりも少ないと、得られるラクトン環含有重合体の耐熱性、耐溶剤性、表面硬度が低下するおそれがあり、50重量%よりも多いと、ラクトン環構造を形成する際に架橋反応が起こってゲル化し易くなり、流動性が低下して溶融成形しにくくなる場合があったり、未反応の水酸基が残りやすくなるために成形の際にさらに縮合反応が進行して揮発性物質が発生してシルバーストリークが入りやすくなったり、厚み方向位相差Rthが増大するなどのおそれがある。
【0089】
単量体成分は一般式(2)で表される不飽和単量体以外の、その他の単量体を含むことが好ましい。該その他の単量体としては、本発明の効果を損なわない範囲で選択すれば、限定はされないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記一般式(3)で表される不飽和単量体が好ましく挙げられる。上記その他の単量体は、1種のみ用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0090】
【化5】
【0091】
(ただし、Rは水素原子またはメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1~20のアルキル基、アリール基、-OAc基、-CN基、-CO-R基、または-C-O-R基を表し、Ac基はアセチル基を表し、RおよびRは水素原子または炭素数1~20のアルキル基を表す。)。
【0092】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、一般式(2)で表される不飽和単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルであれば、限定はされないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;が挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし2種以上を併用してもよい。なかでも特に、耐熱性、透明性の点から、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0093】
上記(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合、単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を十分に発揮させる上で、10重量%~95重量%が好ましく、より好ましくは10重量%~90重量%、さらに好ましくは40重量%~90重量%、特に好ましくは50重量%~90重量%である。
【0094】
(無水マレイン酸、マレイミドおよび無水グルタル酸構造を有するアクリル系樹脂)
本発明においては、環構造としてマレイミドや無水グルタル酸構造を有するアクリル系樹脂を用いることも好ましい。無水マレイン酸構造としては、例えば、スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。マレイミド構造としては、例えば、特開2004-45893に記載されているようなオレフィン・マレイミド共重合体などが挙げられる。無水グルタル酸構造としては、例えば特開2003-137937に記載されているような無水グルタル酸単位を有する共重合体が挙げられる。
【0095】
((B)アクリル系ゴム粒子)
アクリル系ゴム粒子としては、ゴム状重合体からなるコア層とガラス状重合体(硬質重合体ともいう)からなるシェル層とを有するコアシェル型弾性体が好ましい。コア層を構成するゴム状重合体のTgは20℃以下が好ましく、-60℃~20℃がより好ましく、-60℃~10℃がさらに好ましい。コア層を構成するゴム状重合体のTgが20℃を超えると、アクリル系樹脂組成物の機械的強度の向上が十分ではないおそれがある。シェル層を構成するガラス状重合体(硬質重合体)のTgは、50℃以上が好ましく、50℃~140℃がより好ましく、60℃~130℃がさらに好ましい。シェル層を構成するガラス状重合体のTgが50℃より低いと、アクリル系樹脂組成物の耐熱性が低下するおそれがある。
【0096】
上記コアシェル型弾性体におけるコア層の含有割合は、好ましくは30重量%~95重量%、より好ましくは50重量%~90重量%である。上記コアシェル型弾性体中におけるシェル層の含有割合は、好ましくは5重量%~70重量%、より好ましくは10重量%~50重量%である。上記コアシェル型弾性体には、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切なその他の成分を含んでいても良い。
【0097】
上記コア層を構成するゴム状重合体を形成する重合性モノマーとしては、任意の適切な重合性モノマーを使用してもよい。上記ゴム状重合体を形成する重合性モノマーは、(メタ)アクリル酸エステルを含むことが好ましい。上記ゴム状重合体を形成する重合性モノマー100重量%中、(メタ)アクリル酸エステルは50重量%以上含まれることが好ましく、50重量%~99.9重量%含まれることがより好ましく、60重量%~99.9重量%含まれることがさらに好ましい。
【0098】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸ラウロイル、(メタ)アクリル酸ステアリル等、アルキル基の炭素数が2~20の(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。これらのなかでも、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソノニル等、アルキル基の炭素数が2~10の(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸イソノニルがより好ましい。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0099】
上記ゴム状重合体を形成する重合性モノマーは、分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーを含むことが好ましい。上記ゴム状重合体を形成する重合性モノマー中、分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーは0.01重量%~20重量%含まれることが好ましく、0.1重量%~20重量%含まれることがより好ましく、0.1重量%~10重量%含まれることがさらに好ましく、0.2重量%~5重量%含まれることが特に好ましい。
【0100】
上記分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン等の芳香族ジビニルモノマー、ジ(メタ)アクリル酸エチレン、ブチレングリコールジ(メタ)アクリル酸ブチレン、ジ(メタ)アクリル酸ヘキシレン、ジ(メタ)アクリル酸オリゴエチレン、ジ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン等のポリ(メタ)アクリル酸アルカンポリオール等や、ジ(メタ)アクリル酸ウレタン、ジ(メタ)アクリル酸エポキシ等を挙げることができる。また、異なる反応性のビニル基を有する多官能性モノマーとして、例えば、(メタ)アクリル酸アリル、マレイン酸ジアリル、フマル酸ジアリル、イタコン酸ジアリル等を挙げることができる。これらのなかでも、ジメタクリル酸エチレン、ジアクリル酸ブチレン、メタクリル酸アリルが好ましい。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0101】
上記ゴム状重合体を形成する重合性モノマーには、上記(メタ)アクリル酸エステルおよび分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーと共重合可能な他の重合性モノマーを含んでも良い。上記ゴム状重合体を形成する重合性モノマー中、他の重合性モノマーは0重量%~49.9重量%含まれることが好ましく、0重量%~39.9重量%含まれることがより好ましい。
【0102】
上記他の重合性モノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル、芳香族ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、シアン化ビニリデン、メタクリル酸メチル、ウレタンアクリレート、ウレタンメタクリレート等を挙げることができる。また、他の重合性モノマーとしては、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基等の官能基を有するモノマーでもよい。具体的には、エポキシ基を有するモノマーとして、例えば、メタクリル酸グリシジル等を挙げることができ、カルボキシル基を有するモノマーとして、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等を挙げることができる。水酸基を有するモノマーとして、例えば、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル等を挙げることができる。アミノ基を有するモノマーとして、例えば、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル等を挙げることができる。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0103】
上記シェル層を構成するガラス状重合体を形成する重合性モノマーとしては、任意の適切な重合性モノマーを使用してもよい。
【0104】
上記ガラス状重合体を形成する重合性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルおよび芳香族ビニルモノマーから選ばれる少なくとも1種のモノマーを含むことが好ましい。上記ガラス状重合体を形成する重合性モノマー100重量%中、(メタ)アクリル酸エステルおよび芳香族ビニルモノマーから選ばれる少なくとも1種が50重量%~100重量%含まれることが好ましく、60重量%~100重量%含まれることがより好ましい。
【0105】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等、アルキル基の炭素数が1~4のものが好ましく、メタクリル酸メチルがより好ましい。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0106】
上記芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等を挙げることができ、これらのなかでも、スチレンが好ましい。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0107】
上記ガラス状重合体を形成する重合性モノマーは、分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーを含んでいても良い。上記ガラス状重合体を形成する重合性モノマー100重量%中、分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーは0重量%~10重量%含まれることが好ましく、0重量%~8重量%含まれることがより好ましく、0重量%~5重量%含まれることがさらに好ましい。
【0108】
上記分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーの具体例としては、前述したものと同様のものを挙げることができる。
【0109】
上記ガラス状重合体を形成する重合性モノマーは、上記(メタ)アクリル酸エステルおよび分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーと共重合可能な他の重合性モノマーを含んでいても良い。上記ガラス状重合体を形成する重合性モノマー100重量%中、他の重合性モノマーは0重量%~50重量%含まれることが好ましく、0重量%~40重量%含まれることがより好ましい。
【0110】
上記他の重合性モノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、シアン化ビニリデン、前述したもの以外の(メタ)アクリル酸エステル、ウレタンアクリレート、ウレタンメタクリレート等を挙げることができる。また、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基等の官能基を有するものでもよい。エポキシ基を有するモノマーとしては、例えば、グリシジルメタクリレート等を挙げることができ、カルボキシル基を有するモノマーとしては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等を挙げることができ、水酸基を有するモノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシメタクリレート、2-ヒドロキシアクリレート等を挙げることができ、アミノ基を有するモノマーとしては、例えば、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート等を挙げることができる。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0111】
本発明におけるコアシェル型弾性体の製造方法としては、コアシェル型の粒子を製造し得る任意の適切な方法を採用することができる。
【0112】
例えば、コア層を構成するゴム状重合体を形成する重合性モノマーを懸濁または乳化重合させて、ゴム状重合体粒子を含む懸濁または乳化分散液を製造し、続いて、該懸濁液または乳化分散液にシェル層を構成するガラス状重合体を形成する重合性モノマーを加えてラジカル重合させ、ゴム状重合体粒子の表面をガラス状重合体が被覆してなる多層構造を有するコアシェル型弾性体を得る方法が挙げられる。ここで、ゴム状重合体を形成する重合性モノマー、および、ガラス状重合体を形成する重合性モノマーは、一段で重合しても良いし、組成比を変更して2段以上で重合してもよい。
【0113】
本発明の延伸フィルムを構成するアクリル系樹脂組成物中の(B)アクリル系ゴム粒子の分散形状は、特に制限は無いが、成形方法や延伸方法によって球状、扁平状、ディスク状でありうる。分散粒径については特に制限は無いが、いずれの分散形状においても、長軸方向及び短軸方向の平均分散長は共に10nm~500nmであることが好ましく、100nm~400nmであることがより好ましく、150nm~300nmであることがさらに好ましい。平均分散長が10nm以下となるとアクリル系樹脂組成物のガラス転移温度が低下する傾向にある。平均分散長が500nmを超えると、分散状態が不均一になり、ヘイズが増大したり、ピール強度及びMIT往復折り曲げ回数が低下する傾向にある。
【0114】
前記(B)アクリル系ゴム粒子の平均分散長は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて目視測定することが一般的である。
【0115】
本発明のアクリル系フィルムの物性バランスを確保するためには、上記コアシェル型弾性体の構造を適宜制御することが望ましい。
【0116】
上記コアシェル型弾性体の好ましい構造としては、例えば、(a)軟質の内層および硬質の外層を有し、上記内層が(メタ)アクリル系架橋重合体層を有するもの、(b)硬質の内層、軟質の中間層および硬質の外層を有し、上記内層が少なくとも一種の硬質重合体層からなり、上記中間層が(メタ)アクリル系架橋重合体層からなる軟質重合体を有するものなどが挙げられる。各層のモノマー種を適宜選択することによって、アクリル系樹脂組成物の諸物性(機械的特性、光学特性、配向複屈折や光弾性係数)を任意に制御することができる。「軟質」は、重合体のガラス転移温度が20℃未満であることが好ましく、「硬質」は、重合体のガラス転移温度が20℃以上であることが好ましい。
【0117】
コアシェル型弾性体の更に好ましい構造の具体例としては、例えば、(i)多層構造粒子のシェル層がアクリル酸エステルを0.1重量%以上、より好ましくは1重量%以上含む非架橋のメタクリル樹脂であるもの、(ii)多層構造粒子のシェル層がアクリル酸エステルの含有量の異なる2段以上の多層からなり、トータルでアクリル酸エステルを1重量%以上含む非架橋のメタクリル樹脂であるもの、(iii)多層構造粒子のコア層が、有機過酸化物をレドックス型開始剤として使用して重合した、架橋メタクリル系樹脂からなる最内層粒子のラテックスの存在下に、過酸(過硫酸、過リン酸塩等)を熱分解型開始剤として使用しアクリル酸エステル、多官能性モノマー、適宜その他のモノマーを共重合してなる中間層を形成した多層構造を有するもの、等が例示される。このような構造を有することにより、本発明のアクリル系樹脂組成物中でコアシェル型弾性体が良好に分散しやすくなり、フィルムを形成した際に未分散や凝集による欠陥が少なく、強度、靭性、耐熱性、透明性、外観に優れ、さらに温度変化や応力による白化が抑制され、品質に優れたフイルムを得ることが出来る。
【0118】
(アクリル系樹脂組成物)
本発明の延伸フィルムを構成するアクリル系樹脂組成物中の、アクリル系ゴム粒子の含有量は、アクリル系樹脂組成物に対してアクリル系ゴム粒子を1重量%~50重量%含むことが好ましく、より好ましくは2重量%~35重量%、さらに好ましくは3重量%~25重量%である。アクリル系ゴム粒子の含有量が1重量%未満であると、アクリル系樹脂組成物の機械的特性の向上が十分ではなく、50重量%を超えると、アクリル系樹脂組成物の耐熱性が低下したり、ヘイズが悪化するおそれがある。
【0119】
また本発明の延伸フィルムを構成するアクリル系樹脂組成物のガラス転移温度は115℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。ここでのガラス転移温度は示差走査熱量計(DSC、(株)SII製、DSC7020)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定し、中点法により解析した値である。ガラス転移温度が115℃以上であると、偏光子保護フィルムに代表される液晶パネルを構成するフィルムとして積層したときに寸法変化が小さく、また寸法変化に伴う積層フィルムの反りが小さくかつ位相差変化が小さくなり、実使用上の不具合が少ない。
【0120】
アクリル系樹脂組成物には、必要に応じ、一般に用いられる酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ブルーライトカットを目的とした特定波長吸収剤もしくは特定波長吸収色素、ラジカル捕捉剤などの耐光性安定剤や、位相差調整剤、触媒、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤、抗菌・脱臭剤、蛍光増白剤、相溶化剤等を単独または2種以上組み合わせて、本発明の目的を損なわない範囲であれば添加してもよい。
【0121】
紫外線吸収剤については、例えば、トリアジン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ベンゾオキサジン系化合物およびオキサジアゾール系化合物等が挙げられる。これらの中でも添加量に対する紫外線吸収性能や溶融押出をする場合、揮発性の観点でトリアジン系化合物が好ましい。
【0122】
位相差調整剤については、負の位相差を付与する場合は、例えばスチレン骨格を持つ化合物であればよく、アクリロニトリル-スチレン共重合体が例示される。
【0123】
(A)アクリル系樹脂と(B)アクリル系ゴム粒子の混合方法に関しては、特に限定されなく、従来公知のあらゆる方法を用いることができる。例えば、重量式フィーダーを用いて押出機に供給し溶融混練りする方法や、(A)アクリル系樹脂および(B)アクリル系ゴム粒子ともに相溶性に優れた溶媒により溶液の状態で混合する等が挙げられる。
【0124】
押出機を用いて混合する場合、用いる押出機は特に限定されるものではなく、各種押出機を用いることができる。具体的には単軸押出機、二軸押出機または多軸押出機等を用いることができる。中でも二軸押出機を用いることが好ましい。二軸押出機によれば、(A)アクリル系樹脂と(B)アクリル系ゴム粒子を均一混合する条件の自由度が広い。また、押出機の上流側から原料投入ホッパー等を用いて(A)アクリル系樹脂及び(B)アクリル系ゴム粒子を投入し混合しても良いし、(B)アクリル系ゴム粒子のみを、押出機の途中からサイドフィーダーや、重量式フィーダー等を用いて投入し混合してもよい。
【0125】
本発明における(B)アクリル系ゴム粒子と混合する前の(A)アクリル系樹脂の状態、および/もしくは(A)アクリル系樹脂と(B)アクリル系ゴム粒子の混合した状態において、樹脂中の異物低減を目的として、押出機の最後にフィルターを設置することも可能である。フィルターの前には(A)アクリル系樹脂/アクリル系樹脂組成物を昇圧するためにギアポンプを設置した方が好ましい。フィルターの種類としては、溶融ポリマーからの異物除去が可能なステンレス製のリーフディスクフィルターを使用するのが好ましく、フィルターエレメントとしてはファイバータイプ、パウダータイプ、あるいはそれらの複合タイプを使用するのが好ましい。
【0126】
(延伸フィルムの製造方法)
本発明の延伸フィルムの製造方法の一実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。つまり、本発明のアクリル系樹脂組成物を成形してフィルムを製造できる方法であれば、従来公知のあらゆる方法を用いることができる。
【0127】
具体的には、例えば、射出成形、溶融押出成形、インフレーション成形、ブロー成形、圧縮成形、等を挙げることが出来る。また、本発明に係るアクリル系樹脂組成物を溶解可能な溶剤に溶解させた後、成形させる溶液流延法やスピンコート法によって、本発明に係るフィルムを製造することが出来る。
【0128】
中でも溶剤を使用しない溶融押出法を用いることが好ましい。溶融押出法によれば、製造コストや溶剤による地球環境や作業環境への負荷を低減することができる。
【0129】
本発明のアクリル系樹脂組成物を溶融押出法によりフィルムに成形する場合、まず、本発明のアクリル系樹脂組成物を、予備乾燥し、その後押出機に供給し、該アクリル系樹脂組成物を加熱溶融させる。さらに、ギアポンプやフィルターを通して、Tダイなどのダイスに供給する。次に、Tダイに供給されたアクリル系樹脂組成物を、シート状の溶融樹脂として押し出し、冷却ロールなどを用いて冷却固化して、未延伸フィルム(原反フィルムともいう)を得る。この際、フィルムの表面性(平滑性)を良好にするために、金属ロールと金属製弾性外筒を備えたフレキシブルロールに挟み込むことも可能である。
【0130】
本発明のアクリル系樹脂組成物を溶液流延法により未延伸フィルムに成形する場合、本発明のアクリル系樹脂組成物を有機溶媒とともに溶液とした後、当該溶液を支持体に流延し、加熱乾燥して未延伸フィルムを製造する方法である。溶剤流延法に用いることができる溶剤は、公知の溶剤から選択され得る。塩化メチレンおよびトリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶剤は本発明のアクリル系樹脂を溶解しやすく、また沸点も低いため好ましい溶剤である。また、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどの、極性の高い非ハロゲン系の溶剤も用いることができる。さらに、トルエン、キシレンおよびアニソール等の芳香族系溶剤、ジオキサン、ジオキソラン、テトラヒドロフランおよびピラン等の環状エーテル系溶剤、ならびにメチルエチルケトン等のケトン系の溶剤も使用可能である。これらの溶剤は単独で使用してもよい。また、複数種を混合して用いてもよい。溶剤の使用量は、キャスティングを充分に行える程度に熱可塑性樹脂を溶解し得る限り、任意の量とすることができる。なお、本明細書中で「溶解」とは、キャスティングを充分に行える程度の均一な状態で樹脂が溶媒中に存在していることをいう。必ずしも、完全に溶質が溶媒に溶解していることを必要としない。溶液中の樹脂濃度は、好ましくは、1重量%~90重量%であり、より好ましくは、5重量%~70重量%であり、さらに好ましくは、10重量%~50重量%である。好ましい支持体としては、ステンレス製のエンドレスベルトを用いてもよい。あるいはポリイミドフィルムまたはポリエチレンテレフタレートフィルム等のような、フィルムを用いることもできる。
【0131】
本発明の延伸フィルムは未延伸フィルム(原反フィルムともいう)を延伸して得られる。未延伸フィルムを延伸することにより所望の厚みの延伸フィルムを製造することができたり、延伸フィルムの機械的特性を向上させることができる。延伸方法としては従来公知の方法を用いることができる。例えば溶融押出により成形した未延伸の原反フィルムを、一軸延伸または二軸延伸して所定の厚みのフィルムを製造することができる。延伸フィルムの長手方向(MD方向)、幅方向(TD方向)共に優れた機械的特性を持たせる為には二軸延伸することが好ましい。延伸方法としては、同時二軸延伸であっても、逐次二軸延伸であってもよい。延伸倍率については(二軸延伸である場合はフィルムのMD方向、TD方向共に)、1.5倍~3.0倍であることが好ましく、1.8倍~2.8倍であることがより好ましい。延伸倍率がこの範囲内であれば、延伸に伴うフィルムの機械的特性向上を充分にできる。また配向度が上がりすぎることもなく、85℃、85%RH雰囲気下に120時間静置した際における寸法変化を小さくでき、さらには偏光子に貼合した際の剥離強度が低下する可能性も小さい。延伸速度については、1.1倍/分以上で行うことが好ましく、5倍/分以上で行うことがより好ましい。また、100倍/分以下であることが好ましく、50倍/分以下であることがより好ましい。逐次二軸延伸の場合は、一段目の延伸速度と二段目の延伸速度が同じでも、異なっていてもよい。逐次二軸延伸において、通常、一段目の延伸は長手方向(MD方向)の延伸であり、二段目の延伸は幅方向(TD方向)の延伸である。
【0132】
延伸温度は、特に限定されず、延伸温度の下限は、アクリル系樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)+20℃、Tg+21℃、Tg+22℃、Tg+25℃、Tg+26℃、Tg+29℃、Tg+30℃、Tg+31℃、Tg+36℃、Tg+41℃、Tg+45℃、又はTg+55℃でよく、延伸温度の上限は、Tg+55℃、Tg+45℃、Tg+41℃、又はTg+36℃でよい。延伸温度の下限と延伸温度の上限との組み合わせは、延伸温度の下限が延伸温度の上限以下である限り、特に限定されず、いかなる組み合わせであってもよい。延伸温度は、Tg+20℃~Tg+55℃で行うことが好ましく、Tg+25℃~Tg+55℃で行うことがより好ましく、Tg+30℃~Tg+45℃で行うことがさらに好ましく、Tg+35℃~Tg+45℃で行うことが特に好ましい。また、延伸温度は、Tg+31℃~Tg+55℃でも、Tg+31℃~Tg+45℃でも、Tg+31℃~Tg+41℃でも、Tg+31℃~Tg+36℃でもよい。延伸温度がこの範囲の場合、85℃、85%RH雰囲気下に120時間静置した際における寸法変化率が小さくなる傾向にあり、また偏光子等他のフィルムに貼合した際の剥離強度が低下する懸念も低くなる。さらに、高温で延伸することにより通常生じるMIT往復折り曲げ回数の低下をアクリル系ゴム粒子の添加により抑制することが可能となる。すなわち、延伸温度を上記範囲内にすることにより、寸法変化率が小さく、剥離強度、MIT耐屈曲性に優れたバランスの良い延伸フィルムを製造することができる。なお、フィルムの品質等の観点から、逐次二軸延伸の場合、幅方向(TD方向)の延伸における延伸温度が長手方向(MD方向)の延伸における延伸温度以上であることが好ましく、特に、二段目の延伸として行われる幅方向(TD方向)の延伸における延伸温度が、一段目の延伸として行われる長手方向(MD方向)の延伸における延伸温度以上であることが好ましい。
【0133】
(用途)
本発明の延伸フィルムを偏光子保護フィルムとして使用する場合は偏光子と貼合されて偏光板となる。偏光子は特に限定されるものではなく、従来公知の任意の偏光子を用いることができる。例えば、延伸されたポリビニルアルコールにヨウ素を含有させて得た偏光子等を挙げることができる。
【0134】
この偏光板はさらに種々のフィルムと貼り合わされて、各種製品に用いることができる。その用途は特に限定されるものではないが、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどのディスプレイ分野等に好適に用いることができる。
【実施例
【0135】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0136】
(ガラス転移温度)
(A)アクリル系樹脂およびアクリル系樹脂組成物10mgを用いて、示差走査熱量計(DSC、(株)SII製、DSC7020)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定し、中点法により決定した。
【0137】
(MIT耐屈曲試験)
フィルムを幅15mmの短冊状にカットしこれを試験片とした。この試験片を、東洋精機(株)製のMIT耐柔疲労試験機型式Dを用いて、試験荷重1.96N、速度175回/分、折り曲げクランプの曲率半径Rは0.38mm、折り曲げ角度は左右へ135°で測定した。MD方向、TD方向についてそれぞれ行い、算術平均値をMIT往復折り曲げ回数とした。
【0138】
(内部ヘイズ)
フィルムを日本電色工業(株)製ヘイズメーターNDH2000を用いて測定した。内部ヘイズは、液体測定用ガラスセルに得られたフィルムをいれ、フィルムの両面に蒸留水が接触するようにして測定した。
【0139】
(平均屈折率)
(株)アタゴ社製アッベ屈折計3Tを用いて測定した。
【0140】
(環構造の含有量の算出)
得られた(A)アクリル系樹脂をH-NMR BRUKER AvanceIII(400MHz)を用いて測定を行った。対象となる環構造部分とそれ以外の部分のモル比から重量換算を行い算出した。具体的にグルタルイミドのケースでは、3.5から3.8ppm付近のメタクリル酸メチルのO-CHプロトン由来のピークの面積Aと、3.0から3.3ppm付近のグルタルイミドのN-CHプロトン由来のピークの面積Bより、求められたモル比を用いて重量換算を行い算出できる。
【0141】
<アクリル系樹脂の製造>
(アクリル系樹脂(A1)製造例)
使用した押出機は口径40mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機(L/D=90)である。押出機の各温調ゾーンの設定温度を250~280℃、スクリュー回転数は85rpmとした。メタクリル酸メチル樹脂(Mw:10.5万)を42.4kg/hrで供給し、ニーディングブロックによって上記メタクリル酸メチル樹脂を溶融、充満させた後、ノズルから上記メタクリル酸メチル樹脂100重量部に対して1.8重量部のモノメチルアミン(三菱ガス化学(株)製)を注入した。反応ゾーンの末端にはリバースフライトを入れて樹脂を充満させた。反応後の副生成物および過剰のメチルアミンをベント孔の圧力を-0.092MPaに減圧して除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化することにより、樹脂(I)を得た。次いで、口径40mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機にて、押出機各温調ゾーンの設定温度を240~260℃、スクリュー回転数102rpmとした。ホッパーから得られた樹脂(I)を41kg/hrで供給し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルから上記メタクリル酸メチル樹脂100重量部に対して0.56重量部の炭酸ジメチルを注入し樹脂中のカルボキシル基の低減を行った。反応ゾーンの末端にはリバースフライトを入れて樹脂を充満させた。反応後の副生成物および過剰の炭酸ジメチルをベント孔の圧力を-0.092MPaに減圧して除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化し、グルタルイミド環を有するアクリル系樹脂(A1)を得た。当該アクリル系樹脂(A1)のグルタルイミド含有量は6重量%、ガラス転移温度は125℃、平均屈折率は1.50であった。
【0142】
(アクリル系樹脂(A2)製造例)
ポリメタクリル酸メチル樹脂(Mw:10.5万)の代わりにメタクリル酸メチル-スチレン共重合体(スチレン量11モル%)を用い、モノメチルアミン供給量を14重量部とした以外は、実施例1と同様にしてグルタルイミド環を有するアクリル系樹脂(A2)を得た。当該アクリル系樹脂(A2)のグルタルイミド含有量は79重量%、ガラス転移温度134℃、平均屈折率は1.53であった。
【0143】
<アクリル系ゴム粒子の製造>
(アクリル系ゴム粒子(B1)の製造例)
以下の組成の混合物をガラス製反応器に仕込み、窒素気流中で攪拌しながら80℃に昇温したのり、メタクリル酸メチル27部、メタクリル酸アリル0.5部、t-ドデシルメルカプタン0.1部からなる単量体混合物とt-ブチルハイドロパーオキサイド0.1との混合液のうち25%を一括して仕込み、45分間の重合を行った。
脱イオン水 220部
ホウ酸 0.3部
炭酸ナトリウム 0.03部
N-ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 0.09部
ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレート 0.09部
エチレンジアミン四酢酸-2-ナトリウム 0.006部
硫酸第一鉄 0.002部
続いてこの混合液の残り75%を1時間にわたって連続添加した。添加終了後、同温度で2時間保持し重合を完結させた。また、この間に0.2部のN-ラウロイルサルコシン酸ナトリウムを追加した。得られた最内層架橋メタクリル系重合体ラテックスの重合転化率(重合生成量/モノマー仕込量)は98%であった。
【0144】
得られた最内層重合体ラテックスを窒素気流中で80℃に保ち、過硫酸カリウム0.1部を添加したのち、アクリル酸n-ブチル41部、スチレン9部、メタクリル酸アリル1部からなる単量体混合物を5時間にわたって連続添加した。この間にオレイン酸カリウム0.1部を3回に分けて添加した。モノマー混合液の添加終了後、重合を完結させるためにさらに過硫酸カリウムを0.05部添加し2時間保持した。得られたゴム粒子の重合転化率は99%、粒径は240nmであった。
【0145】
得られたゴム粒子ラテックスを80℃に保ち、過硫酸カリウム0.05部を添加したのちメタクリル酸メチル21.5部、アクリル酸n-ブチル1.5部の単量体混合物を1時間にわたって連続添加した。モノマー混合液の追加終了後1時間保持しグラフト共重合体ラテックスを得た。重合転化率は99%であった。得られたゴム含有グラフト共重合体ラテックスを塩化カルシウムで塩析凝固、熱処理、乾燥を行い、白色粉末状のアクリル系ゴム粒子(B1)を得た。
【0146】
(アクリル系ゴム粒子(B2)の製造例)
以下の組成の混合物をガラス製反応器に仕込み、窒素気流中で撹拌しながら80℃に昇温したのち、メタクリル酸メチル21部、メタクリル酸アリル0.4部、t-ドデシルメルカプタン0.08部からなる単量体混合物とt-ブチルハイドロパーオキサイド0.1部との混合液のうち25%を一括して仕込み、45分間の重合を行なった。
脱イオン水 220部
ホウ酸 0.3部
炭酸ナトリウム 0.03部
N-ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 0.09部
ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレート 0.09部
エチレンジアミン四酢酸-2-ナトリウム 0.006部
硫酸第一鉄 0.002部
続いてこの混合液の残り75%を1時間にわたって連続添加した。添加終了後、同温度で2時間保持し重合を完結させた。また、この間に0.2部のN-ラウロイルサルコシン酸ナトリウムを追加した。得られた最内層架橋メタクリル系重合体ラテックスの重合転化率(重合生成量/モノマー仕込量)は98%であった。
【0147】
得られた最内層重合体ラテックスを窒素気流中で80℃に保ち、過硫酸カリウム0.1部を添加したのち、アクリル酸n-ブチル32部、スチレン7部、メタクリル酸アリル0.8部からなる単量体混合物を5時間にわたって連続添加した。この間にオレイン酸カリウム0.1部を3回に分けて添加した。モノマー混合液の添加終了後、重合を完結させるためにさらに過硫酸カリウムを0.05部添加し2時間保持した。得られたゴム粒子の重合転化率は99%、粒径は240nmであった。
【0148】
得られたゴム粒子ラテックスを80℃に保ち、過硫酸カリウム0.05部を添加したのちメタクリル酸メチル34部、アクリル酸n-ブチル3部、アクリロニトリル3部の単量体混合物を1時間にわたって連続添加した。モノマー混合液の追加終了後1時間保持しグラフト共重合体ラテックスを得た。重合転化率は99%であった。得られたゴム含有グラフト共重合体ラテックスを塩化カルシウムで塩析凝固、熱処理、乾燥を行ない、白色粉末状のアクリル系ゴム粒子(B2)を得た。
【0149】
(実施例1)
上記、アクリル系樹脂製造例で製造したアクリル系樹脂(A1)と、アクリル系ゴム粒子(B1)を10重量%を含む混合物を、口径15mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機(L/D=30)にて混練した。ホッパーから樹脂混合物を2kg/hrで供給し、押出機各温調ゾーンの設定温度を260℃、スクリュー回転数100rpmとした。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化し、アクリル系樹脂組成物(C1)を得た。
【0150】
得られたアクリル系樹脂組成物(C1)を、100℃で5時間乾燥後、押出機出口にTダイを備えた口径15mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機(L/D=30)を用いて製膜した。ホッパーからアクリル系樹脂組成物(C1)を2kg/hrで供給し、押出機各温調ゾーンの設定温度を270℃、スクリュー回転数100rpmとした。押出機出口に設けられたTダイから押し出されたシート状の溶融樹脂を冷却ロールで冷却して幅160mm、厚み160μmの原反フィルム(D1)を得た。
【0151】
原反フィルムについて、上記の方法に従って、ガラス転移温度を測定した結果、124℃であった。
【0152】
得られた原反フィルム(D1)を、(株)井元製作所製、二軸延伸装置(IMC-1905)を用いて、延伸倍率2倍(縦・横)、ガラス転移温度より21℃高い温度で同時二軸延伸を行い、延伸フィルム(E1)を作製した。
【0153】
上記の方法に従って、収縮率、剥離強度、MIT往復折り曲げ回数を測定した。結果を表1に示す。また、内部へイズを測定したところ、0.17であった。
【0154】
(収縮率)
上記で得られた延伸フィルム(E1)を90mm×90mmの大きさにカッターを用いて切り出し、フィルムの四隅から対角線の内側方向へ20mmの場所にΦ1mmのポンチで孔を開け、ミツトヨ製MF201型三次元測定器を用いて孔間隔を測定した。続いて孔間隔を測定した延伸フィルムを、85℃、85%RHに設定したナガノサイエンス製LH-20型環境試験機中で120時間静置した後の孔間隔を再度測定した。85℃、85%RH雰囲気下での静置前後の孔間隔差から、収縮率を算出した。
【0155】
(コロナ放電処理)
上記で得られた原反フィルムD1の片側に、コロナ放電処理(コロナ放電電子照射量100W/m2/min)を施し、コロナ放電処理フィルム(F1)を得た。
【0156】
(易接着層の形成)
カルボキシル基を有する水系ウレタン樹脂(第一工業製薬、商品名:スーパーフレックス210、固形分:33%)100gに対して、架橋剤(日本触媒製、商品名:エポクロスWS700、固形分:25%)20gを添加し、3分間撹拌し、易接着剤組成物を得た。得られた易接着剤組成物を、コロナ放電処理を施した原反D1のコロナ放電処理面に、バーコーター(番線#6)で塗布した。易接着剤を塗布した原反D1を熱風乾燥機(80℃)に投入し、ウレタン組成物を約1分間乾燥させて、易接着層を形成した易接着処理フィルム(G1)を得た。
【0157】
(剥離強度)
上記で得られた易接着処理フィルム(G1)を、(株)井元製作所製、二軸延伸装置(IMC-1905)を用いて、延伸倍率2倍(縦・横)、ガラス転移温度より21℃高い温度で同時二軸延伸を行い、二軸延伸フィルムを作成した。二軸延伸後の易接着層の厚みは0.38μmであった。得られた二軸延伸フィルムを幅15mm、長さ10cmの短冊状に切り出し、易接着層が施された側の一面に、東亞合成(株)製「アロンアルファシリーズ」(アロンアルファ プロ用No.1)を6滴滴下し、幅15mm、長さ10cmの短冊状に切り出した(株)カネカ製「エルメックシリーズ」(Rフィルム、厚み64μm)を、2kgのゴムローラー(JIS Z 0237準拠)を用いて均一に接着した。得られたポリカーボネートフィルムが接着された延伸フィルムを幅1cmの短冊状にカッターを用いてカットし、剥離強度試験サンプルとした。得られた剥離強度試験サンプルを、積水化学工業(株)製「ポリエチレンクロス両面テープ(50mm×15m)」を用いて、ステンレス製の台に延伸フィルム側が下側に、ポリカーボネートフィルムが上側になるように貼付し、延伸フィルムからポリカーボネートフィルムを90度剥離する際の強度を剥離強度とした。ここでの剥離強度は、23℃/50%RHの環境下で、(株)島津製作所製小型卓上試験機(オートグラフ)EZ-Sを用いて測定し、剥離速度30mm/minの条件で得られた測定データにおいて剥離強度試験における剥離長さが10mm~60mmの間のデータを平均化することにより求め、3回測定した算術平均値を剥離強度とした。結果を表1に示す。
【0158】
(実施例2)
上記、原反フィルム(D1)をガラス転移温度より26℃高い温度で同時二軸延伸を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い、二軸延伸フィルムを作製した。上記の方法に従って、収縮率、剥離強度、MIT往復折り曲げ回数を測定した。結果を表1に示す。また、内部へイズを測定したところ、0.18であった。
【0159】
(実施例3)
上記、原反フィルム(D1)をガラス転移温度より31℃高い温度で同時二軸延伸を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い、二軸延伸フィルムを作製した。上記の方法に従って、収縮率、剥離強度、MIT往復折り曲げ回数を測定した。結果を表1に示す。また、内部へイズを測定したところ、0.19であった。
【0160】
(実施例4)
上記、原反フィルム(D1)をガラス転移温度より36℃高い温度で同時二軸延伸を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い、二軸延伸フィルムを作製した。上記の方法に従って、収縮率、剥離強度、MIT往復折り曲げ回数を測定した。結果を表1に示す。また、内部へイズを測定したところ、0.18であった。
【0161】
(実施例5)
上記、原反フィルム(D1)をガラス転移温度より41℃高い温度で同時二軸延伸を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い、二軸延伸フィルムを作製した。上記の方法に従って、収縮率、剥離強度、MIT往復折り曲げ回数を測定した。結果を表1に示す。また、内部へイズを測定したところ、0.17であった。
【0162】
(実施例6)
上記、アクリル系ゴム粒子(B1)を15重量%、延伸温度をガラス転移温度より26℃高い温度で同時二軸延伸を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い二軸延伸フィルムを作製した。上記の方法に従って、収縮率、剥離強度、MIT往復折り曲げ回数を測定した。結果を表1に示す。また、内部へイズを測定したところ、0.19であった。
【0163】
(実施例7)
上記、アクリル系ゴム粒子(B1)を15重量%、延伸温度をガラス転移温度より31℃高い温度で同時二軸延伸を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い、二軸延伸フィルムを作製した。上記の方法に従って、収縮率、剥離強度、MIT往復折り曲げ回数を測定した。結果を表1に示す。また、内部へイズを測定したところ、0.20であった。
【0164】
(実施例8)
上記、アクリル系樹脂(A1)の代わりにアクリル系樹脂(A2)、アクリル系ゴム粒子(B1)の代わりにアクリル系ゴム粒子(B2)を23重量%、延伸温度をガラス転移温度より22℃高い温度で同時二軸延伸を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い、二軸延伸フィルムを作製した。上記の方法に従って、収縮率、剥離強度、MIT往復折り曲げ回数を測定した。結果を表1に示す。
【0165】
(実施例9)
上記、アクリル系ゴム粒子(B1)の代わりにアクリル系ゴム粒子(B2)を23重量%、延伸温度をガラス転移温度より29℃高い温度で同時二軸延伸を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い、二軸延伸フィルムを作製した。上記の方法に従って、収縮率、剥離強度、MIT往復折り曲げ回数を測定した。結果を表1に示す。また、内部へイズを測定したところ、0.17であった。
【0166】
(実施例10)
アクリル系樹脂(A1)とアクリル系ゴム粒子(B1)10重量%を用いて、塩化メチレンに溶解して固形分濃度15重量%の溶液を得た。この溶液を、ガラス板上に敷いた二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム上に流延した。得られたサンプルを、室温で60分間放置した。その後ポリエチレンテレフタレートフィルムからサンプルを剥し、サンプルの4辺を固定して100℃で10分間乾燥し、さらに140℃で10分間乾燥を行って、厚さ160μmの原反フィルム(D1’)を得た。延伸温度をガラス転移温度より36℃高い温度で同時二軸延伸を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い、二軸延伸フィルムを作製した。上記の方法に従って、収縮率、剥離強度、MIT往復折り曲げ回数を測定した。結果を表1に示す。また、内部へイズを測定したところ、0.16であった。
【0167】
(比較例1)
上記、アクリル系ゴム粒子(B1)を5重量%、延伸温度をガラス転移温度より11℃高い温度で同時二軸延伸を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い、二軸延伸フィルムを作製した。上記の方法に従って、収縮率、剥離強度、MIT往復折り曲げ回数を測定した。結果を表1に示す。また、内部へイズを測定したところ、0.23であった。
【0168】
(比較例2)
上記、延伸温度をガラス転移温度より11℃高い温度で同時二軸延伸を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い、二軸延伸フィルムを作製した。上記の方法に従って、収縮率、剥離強度、MIT往復折り曲げ回数を測定した。結果を表1に示す。また、内部へイズを測定したところ、0.25であった。
【0169】
(比較例3)
上記、アクリル系ゴム粒子(B1)を15重量%、延伸温度をガラス転移温度より16℃高い温度で同時二軸延伸を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い、二軸延伸フィルムを作製した。上記の方法に従って、収縮率、剥離強度、MIT往復折り曲げ回数を測定した。結果を表1に示す。また、内部へイズを測定したところ、0.27であった。
【0170】
(比較例4)
上記、アクリル系ゴム粒子(B1)の代わりにアクリル系ゴム粒子(B2)を23重量%、延伸温度をガラス転移温度より12℃高い温度で同時二軸延伸を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い、二軸延伸フィルムを作製した。上記の方法に従って、収縮率、剥離強度、MIT往復折り曲げ回数を測定した。結果を表1に示す。また、内部へイズを測定したところ、0.13であった。
【0171】
(比較例5)
上記、アクリル系ゴム粒子(B1)の代わりにアクリル系ゴム粒子(B2)を23重量%、延伸温度をガラス転移温度より19℃高い温度で同時二軸延伸を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い、二軸延伸フィルムを作製した。上記の方法に従って、収縮率、剥離強度、MIT往復折り曲げ回数を測定した。結果を表1に示す。また、内部へイズを測定したところ、0.14であった。
【0172】
(比較例6)
上記、アクリル系樹脂(A1)の代わりにアクリル系樹脂(A2)、アクリル系ゴム粒子(B1)の代わりにアクリル系ゴム粒子(B2)を23重量%、延伸温度をガラス転移温度より19℃高い温度で同時二軸延伸を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い、二軸延伸フィルムを作製した。上記の方法に従って、収縮率、剥離強度、MIT往復折り曲げ回数を測定した。結果を表1に示す。
【0173】
(比較例7)
上記、アクリル系ゴム粒子(B1)を添加せず、延伸温度をガラス転移温度より20℃高い温度で同時二軸延伸を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い、二軸延伸フィルムを作製した。上記の方法に従って、収縮率、剥離強度、MIT往復折り曲げ回数を測定した。結果を表1に示す。また、内部へイズを測定したところ、0.15であった。
【0174】
(比較例8)
上記、アクリル系樹脂(A1)の代わりにアクリル系樹脂(A2)、アクリル系ゴム粒子(B1)を添加せず、延伸温度をガラス転移温度より11℃高い温度で同時二軸延伸を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い、二軸延伸フィルムを作製した。上記の方法に従って、収縮率、剥離強度、MIT往復折り曲げ回数を測定した。結果を表1に示す。また、内部へイズを測定したところ、0.15であった。
【0175】
(比較例9)
上記、延伸温度をガラス転移温度より61℃高い温度で同時二軸延伸を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い、二軸延伸フィルムを作製した。上記の方法に従って、MIT耐屈曲試験を行ったところ、MIT往復折り曲げ回数が130回であった。
【0176】
【表1】
【0177】
表1から、延伸温度をこの範囲内とすることにより、アクリル系ゴム粒子を添加することにより生じる寸法変化率の増大(悪化)を抑制出来ると共にアクリル系ゴム粒子に起因する凝集破壊を抑制し、機械的特性、寸法安定性、剥離強度のバランスに優れたアクリル系ゴム粒子を含む延伸フィルムとすることができることがわかる。中でも、延伸温度が155~165℃である実施例3~5、7、及び10では、寸法安定性及び剥離強度が特に優れており、機械的特性、寸法安定性、剥離強度のバランスに更に優れたアクリル系ゴム粒子を含む延伸フィルムとすることができることがわかる。