(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】スイッチング素子
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20221102BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20221102BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
H01L29/78 652J
H01L29/78 653A
H01L29/78 652T
H01L29/78 652F
H01L29/78 652D
H01L29/78 652H
H01L29/78 655A
(21)【出願番号】P 2021551089
(86)(22)【出願日】2019-10-11
(86)【国際出願番号】 JP2019040303
(87)【国際公開番号】W WO2021070382
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 順
(72)【発明者】
【氏名】片岡 恵太
(72)【発明者】
【氏名】山下 侑佑
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 行彦
(72)【発明者】
【氏名】朽木 克博
(72)【発明者】
【氏名】浦上 泰
【審査官】殿川 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-169386(JP,A)
【文献】特開2018-046254(JP,A)
【文献】国際公開第2017/179377(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/169085(WO,A1)
【文献】米国特許第10332992(US,B1)
【文献】特開2018-142578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 29/739
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子であって、
半導体基板と、
前記半導体基板の上面に設けられた複数のトレンチと、
それぞれが対応する前記トレンチの内面を覆っている複数のゲート絶縁膜と、
それぞれが対応する前記トレンチ内に配置されているとともに対応する前記ゲート絶縁膜によって前記半導体基板から絶縁されている複数のゲート電極、
を有しており、
前記半導体基板が、
前記各トレンチの底面及び側面において前記ゲート絶縁膜に接しているn型のドリフト領域と、
前記ドリフト領域の上側で前記各トレンチの前記側面において前記ゲート絶縁膜に接しているp型のボディ領域と、
前記ボディ領域の上側で前記各トレンチの前記側面において前記ゲート絶縁膜に接しており、前記ボディ領域によって前記ドリフト領域から分離されているn型のソース領域と、
それぞれが対応する前記トレンチの直下であって前記ゲート絶縁膜から離れた位置に配置されているp型の複数の底部領域と、
前記各底部領域と前記ボディ領域を接続するp型の接続領域、
を有しており、
前記各トレンチの下端の深さと前記ボディ領域の間の間隔が距離L1であり、
前記各トレンチの下端の深さと前記ボディ領域の間の範囲内の前記ドリフト領域のn型不純物濃度が濃度N1であり、
前記各トレンチの下端の深さと前記各底部領域の上端の深さの間の間隔が距離L2であり、
前記各トレンチの下端の深さと前記各底部領域の上端の深さの間の範囲内の前記ドリフト領域のn型不純物濃度が濃度N2であり、
隣り合う前記底部領域の間の間隔が距離L3であり、
隣り合う前記底部領域の間の範囲内の前記ドリフト領域のn型不純物濃度がN3であり、
【数1】
及び、
【数2】
の関係が満たされている、
スイッチング素子。
【請求項2】
【数3】
の関係が満たされている、
請求項1のスイッチング素子。
【請求項3】
N2<N1の関係が満たされている、
請求項1または2のスイッチング素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、スイッチング素子に関する。
【0002】
特開2009-158681号公報には、トレンチゲート型のスイッチング素子が開示されている。このスイッチング素子は、トレンチの直下であってゲート絶縁膜から離れた位置に、p型の底部領域(ボトムp型層)を有している。底部領域の周囲は、n型のドリフト領域に囲まれている。このスイッチング素子がオフするときには、ボディ領域と底部領域からドリフト領域内に空乏層が伸びる。底部領域から伸びる空乏層によって、トレンチの下端近傍における電界集中が抑制される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図9は、底部領域を有するスイッチング素子がオンからオフに切り換わる過程における空乏層の分布をシミュレーションした結果を示している。
図9のスイッチング素子は、底部領域910、ドリフト領域912、ボディ領域914、トレンチ内に設けられたゲート電極916を有している。
図9において、参照番号910xは、各底部領域910からドリフト領域912内に伸びる空乏層を示している。各底部領域910から伸びる空乏層が互いに繋がることで、層状の空乏層910xが形成されている。参照番号914xは、ボディ領域914からドリフト領域912内に伸びる空乏層を示している。参照番号924、926は、ドリフト領域912内の空乏化していない領域(以下、非空乏化領域という)を示している。
図9のように、各底部領域910から伸びる空乏層がボディ領域914から伸びる空乏層914xと繋がる前に互いに繋がって層状の空乏層910xが形成されると、空乏層910xと空乏層914xの間に非空乏化領域924が残存する。この状態では、非空乏化領域924が非空乏化領域926から分離しているので、非空乏化領域924の電位がフローティングとなる。この場合、非空乏化領域924が空乏化され難くなり、スイッチング素子への印加電圧が高くなるまで非空乏化領域924が残存する。このようにトレンチに接する範囲に非空乏化領域924が残存すると、ゲート絶縁膜に高電界が印加され易く、ゲート絶縁膜が劣化し易い。本明細書では、ドリフト領域内にフローティング状態の非空乏化領域が残存し難いスイッチング素子の構造を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書が開示するスイッチング素子は、半導体基板と、前記半導体基板の上面に設けられた複数のトレンチと、それぞれが対応する前記トレンチの内面を覆っている複数のゲート絶縁膜と、それぞれが対応する前記トレンチ内に配置されているとともに対応する前記ゲート絶縁膜によって前記半導体基板から絶縁されている複数のゲート電極、を有している。前記半導体基板が、前記各トレンチの底面及び側面において前記ゲート絶縁膜に接しているn型のドリフト領域と、前記ドリフト領域の上側で前記各トレンチの前記側面において前記ゲート絶縁膜に接しているp型のボディ領域と、前記ボディ領域の上側で前記各トレンチの前記側面において前記ゲート絶縁膜に接しているとともに前記ボディ領域によって前記ドリフト領域から分離されているn型のソース領域と、それぞれが対応する前記トレンチの直下であって前記ゲート絶縁膜から離れた位置に配置されているp型の複数の底部領域と、前記各底部領域と前記ボディ領域を接続するp型の接続領域、を有している。前記各トレンチの下端の深さと前記ボディ領域の間の間隔が距離L1である。前記各トレンチの下端の深さと前記ボディ領域の間の範囲内の前記ドリフト領域のn型不純物濃度が濃度N1である。前記各トレンチの下端の深さと前記各底部領域の上端の深さの間の間隔が距離L2である。前記各トレンチの下端の深さと前記各底部領域の上端の深さの間の範囲内の前記ドリフト領域のn型不純物濃度が濃度N2である。隣り合う前記底部領域の間の間隔が距離L3である。隣り合う前記底部領域の間の範囲内の前記ドリフト領域のn型不純物濃度がN3である。下記数式1及び数式2の関係が満たされている。
【数1】
【0005】
数式1、2が満たされていると、スイッチング素子がオフするときに、各底部領域から伸びる空乏層が互いに繋がる前に、ボディ領域から伸びる空乏層と各底部領域から伸びる空乏層が繋がる。このため、ドリフト領域内にフローティング状態の非空乏化領域が残存することが抑制される。したがって、このスイッチング素子では、ゲート絶縁膜が劣化し難い。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図9】フローティング状態の非空乏化領域が残存する場合の空乏層の分布を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書が開示する構成の付加的な特徴について、以下に列記する。なお、以下に列記された各特徴は、それぞれ独立して有用なものである。
【0008】
本明細書が開示する一例のスイッチング素子においては、下記数式3の関係が満たされていてもよい。
【数2】
【0009】
数式3が満たされていることで、スイッチング素子で生じる損失を低減することができる。
【0010】
本明細書が開示する一例のスイッチング素子においては、N2<N1の関係が満たされていてもよい。
【0011】
N2<N1の関係が満たされていることで、スイッチング素子で生じる損失を低減することができる。
【0012】
(実施例1)
図1~3は、実施例1のMOSFET(metal-oxide-semiconductor field effect transistor)10を示している。MOSFET10は、半導体基板12を有している。以下では、半導体基板12の上面12aと平行な一方向をx方向といい、上面12aに平行でx方向に直交する方向をy方向といい、半導体基板12の厚み方向をz方向という。
図2は、
図1の平面IIにおける断面図であり、
図3は
図1の平面IIIにおける断面図である。
図2、3に示すように、半導体基板12の上面12a上には、電極、絶縁膜等が設けられている。なお、
図1では、説明のため、半導体基板12の上面12a上の電極、絶縁膜の図示を省略している。
【0013】
半導体基板12は、炭化シリコン(SiC)により構成されている。半導体基板12の上面12aには、複数のトレンチ22が設けられている。
図1に示すように、複数のトレンチ22は、上面12aにおいて、互いに平行に伸びている。複数のトレンチ22は、上面12aにおいてy方向に直線状に長く伸びている。複数のトレンチ22は、x方向に間隔を開けて配列されている。各トレンチ22の内部に、ゲート絶縁膜24とゲート電極26が配置されている。
【0014】
ゲート絶縁膜24は、トレンチ22の内面を覆っている。ゲート絶縁膜24は、トレンチ22の側面を覆う側面絶縁膜24aと、トレンチ22の底面を覆う底面絶縁膜24bを有している。ゲート絶縁膜24は、酸化シリコンにより構成されている。
【0015】
ゲート電極26は、トレンチ22内に配置されている。ゲート電極26は、ゲート絶縁膜24によって半導体基板12から絶縁されている。
図2、3に示すように、ゲート電極26の上面は、層間絶縁膜28によって覆われている。
【0016】
図2、3に示すように、半導体基板12の上面12aには、ソース電極70が配置されている。ソース電極70は、上面12aと層間絶縁膜28を覆っている。ソース電極70は、層間絶縁膜28が設けられていない部分で半導体基板12の上面12aに接している。ソース電極70は、層間絶縁膜28によってゲート電極26から絶縁されている。半導体基板12の下面12bには、ドレイン電極72が配置されている。ドレイン電極72は、半導体基板12の下面12bに接している。
【0017】
図1に示すように、半導体基板12の内部には、複数のソース領域30、ボディ領域32、複数の底部領域36、ドリフト領域34、及び、ドレイン領域35が設けられている。
【0018】
各ソース領域30は、n型領域である。
図1、2に示すように、隣接する2つのトレンチ22に挟まれた半導体領域(以下、トレンチ間領域という)のそれぞれに、複数のソース領域30が配置されている。
図1に示すように、各トレンチ間領域において、複数のソース領域30が、y方向に間隔を開けて配置されている。
図2に示すように、各ソース領域30は、半導体基板12の上面12aに臨む範囲に配置されており、ソース電極70にオーミック接触している。各ソース領域30は、トレンチ間領域の両側に位置する2つのトレンチ22に接している。各ソース領域30は、トレンチ22の上端部において側面絶縁膜24aに接している。
【0019】
ボディ領域32は、p型領域である。ボディ領域32は、複数のボディコンタクト領域32aと低濃度ボディ領域32bを有している。
【0020】
各ボディコンタクト領域32aは、p型不純物濃度が高いp型領域である。
図1に示すように、各ボディコンタクト領域32aは、トレンチ間領域に設けられている。各ボディコンタクト領域32aは、半導体基板12の上面12aに臨む範囲に配置されている。各トレンチ間領域に、複数のボディコンタクト領域32aが配置されている。各トレンチ間領域において、ソース領域30とボディコンタクト領域32aが、y方向に交互に配置されている。したがって、ボディコンタクト領域32aは、2つのソース領域30の間に配置されている。
図3に示すように、各ボディコンタクト領域32aは、ソース電極70にオーミック接触している。
【0021】
低濃度ボディ領域32bは、各ボディコンタクト領域32aよりもp型不純物濃度が低いp型領域である。
図1~3に示すように、低濃度ボディ領域32bは、各ソース領域30及び各ボディコンタクト領域32aの下側に配置されている。低濃度ボディ領域32bは、各ソース領域30及び各ボディコンタクト領域32aに対して下側から接している。低濃度ボディ領域32bは、各ソース領域30及び各ボディコンタクト領域32aの下側の全域に分布している。
図2に示すように、低濃度ボディ領域32bは、ソース領域30の下側で、側面絶縁膜24aに接している。低濃度ボディ領域32bの下端は、ゲート電極26の下端よりも上側に配置されている。
【0022】
図1、3に示すように、ボディコンタクト領域32aの直下には、低濃度ボディ領域32bから下側に伸びる接続領域38が設けられている。接続領域38は、トレンチ22の下端よりも下側まで伸びている。
図1、2に示すように、ソース領域30の直下には、接続領域38は設けられていない。
図1に示すように、ボディコンタクト領域32aと同様に、複数の接続領域38が、y方向に間隔を開けて配置されている。
【0023】
ドリフト領域34は、n型不純物濃度が低いn型領域である。
図1~3に示すように、ドリフト領域34は、ボディ領域32(より詳細には、低濃度ボディ領域32b)及び接続領域38の下側に配置されている。ドリフト領域34は、低濃度ボディ領域32b及び接続領域38に接している。ドリフト領域34は、低濃度ボディ領域32bによって各ソース領域30から分離されている。ドリフト領域34は、各トレンチ間領域から各トレンチ22の下端よりも下側の領域まで分布している。ドリフト領域34は、接続領域38が存在しない範囲で、低濃度ボディ領域32bの下側で側面絶縁膜24a及び底面絶縁膜24bに接している。接続領域38の下端よりも下側では、ドリフト領域34は、x方向及びy方向において、半導体基板12の略全域に分布している。
【0024】
ドレイン領域35は、ドリフト領域34よりもn型不純物濃度が高いn型領域である。
図1~3に示すように、ドレイン領域35は、ドリフト領域34の下側に配置されている。ドレイン領域35は、ドリフト領域34に対して下側から接している。ドレイン領域35は、半導体基板12の下面12bに臨む範囲に設けられており、ドレイン電極72にオーミック接触している。
【0025】
図1~3に示すように、各底部領域36は、対応するトレンチ22の直下に配置されている。各底部領域36は、対応するトレンチ22の底面から離れた位置に配置されている。すなわち、各底部領域36は、対応する底面絶縁膜24bから離れた位置に配置されている。言い換えると、底面絶縁膜24bと底部領域36の間に、間隔が設けられている。
図1に示すように、底部領域36は、トレンチ22の底面に沿ってy方向に長く伸びている。
図2の断面では、底部領域36の周囲は、ドリフト領域34によって囲まれている。このため、底面絶縁膜24bと底部領域36の間の間隔には、ドリフト領域34が配置されている。各底部領域36の上部において、ドリフト領域34が底面絶縁膜24bに接している。
図2の断面では、底部領域36は、その上面、側面、及び、下面において、ドリフト領域34と接している。
図3の断面では、各底部領域36は、接続領域38の下端に接続されている。上述したように、接続領域38の上端は低濃度ボディ領域32bに接続されている。したがって、接続領域38を介して、各底部領域36は低濃度ボディ領域32bに接続されている。このため、各底部領域36は、接続領域38、低濃度ボディ領域32b、及び、ボディコンタクト領域32aを介して、ソース電極70に接続されている。したがって、底部領域36の電位は、ソース電極70の電位と略等しい。
【0026】
図4は、ドリフト領域34を、z方向の位置によって区画した図を示している。
図4では、ドリフト領域34を、上部ドリフト領域34a、中部ドリフト領域34b、及び、下部ドリフト領域34cに区画している。上部ドリフト領域34aは、ドリフト領域34のうち、各トレンチ22の下端の深さD1よりも上側の範囲内(すなわち、各トレンチ22の下端の深さとボディ領域32の間の範囲内)の部分である。中部ドリフト領域34bは、ドリフト領域34のうち、各トレンチ22の下端の深さD1と各底部領域36の上端の深さD2の間の範囲内の部分である。下部ドリフト領域34cは、各底部領域36の上端の深さD2よりも下側の範囲内(すなわち、各底部領域36の上端の深さD2とドレイン領域35の間の範囲内)の部分である。以下では、上部ドリフト領域34a内のn型不純物濃度を濃度N1、中部ドリフト領域34b内のn型不純物濃度を濃度N2、下部ドリフト領域34c内のn型不純物濃度を濃度N3という。また、以下では、上部ドリフト領域34aの厚み(各トレンチ22の下端の深さD1とボディ領域32の間の間隔)を距離L1といい、中部ドリフト領域34bの厚み(各トレンチ22の下端の深さD1と各底部領域36の上端の深さD2の間の間隔)を距離L2という。また、底部領域36同士の間の間隔(x方向における間隔)を距離L3という。
【0027】
実施例1では、N1=N2=N3である。また、実施例1では、L1<L3/2、L2<L3/2、及び、L2<L1の関係が満たされている。
【0028】
次に、実施例1のMOSFET10の動作について説明する。MOSFET10の使用時には、MOSFET10と負荷(例えば、モータ)と電源が直列に接続される。MOSFET10と負荷の直列回路に対して、電源電圧が印加される。MOSFET10には、ドレイン電極72がソース電極70よりも高電圧となる向きで、電源電圧が印加される。ゲート電極26にゲート閾値以上の電圧を印加すると、ゲート絶縁膜24に接する範囲のボディ領域32にチャネルが形成され、MOSFET10がオンする。MOSFET10がオンしている状態では、ドリフト領域34には空乏層が広がっていない。ゲート電極26に印加する電圧をゲート閾値未満まで低下させると、MOSFET10がオフする。
【0029】
MOSFET10がオフするときには、ドレイン電極72の電位が上昇する。ドリフト領域34は、ドレイン領域35を介してドレイン電極72に接続されている。ボディ領域32は、ソース電極70に接続されている。また、底部領域36は、接続領域38を介してボディ領域32に接続されている。したがって、底部領域36の電位は、ボディ領域32の電位(すなわち、ソース電極70の電位)と略等しい。したがって、ドレイン電極72の電位がソース電極70の電位に対して上昇すると、ボディ領域32とドリフト領域34の界面のpn接合、及び、底部領域36とドリフト領域34の界面のpn接合に、逆方向に電圧が印加される。したがって、これらのpn接合からドリフト領域34内に空乏層が広がる。すなわち、
図5に示すように、ボディ領域32からドリフト領域34内に空乏層32xが広がるとともに、各底部領域36からドリフト領域34内に空乏層36xが広がる。ドレイン電極72の電位が上昇するのに従って、空乏層32x、36xが拡大する。
【0030】
ボディ領域32から伸びる空乏層32xの伸展距離X1は、下記の数式4の関係を有する。また、底部領域36から空乏層36xが上側に伸びるときの伸展距離X2は、下記の数式5の関係を有する。また、底部領域36から空乏層36xが横方向に伸びるときの伸展距離X3は、下記の数式6の関係を有する。
【数3】
【0031】
なお、数式4~6において、εはドリフト領域34の誘電率であり、Vdsはドレイン電極72とソース電極70の間に印加される電圧であり、φはpn接合のビルトインポテンシャルであり、qは電気素量である。数式4~6から明らかなように、伸展距離X1~X3は、以下の数式7~9の関係を満たす。
【数4】
【0032】
上述したように、実施例1では、N1=N2=N3であるので、X1=X2=X3である。
【0033】
上述したように、MOSFET10がオフするときに、電圧Vdsが上昇する。電圧Vdsが上昇すると、伸展距離X1、X2、X3が増加する。すなわち、電圧Vdsの上昇に伴って、空乏層32x、36xが拡大する。電圧Vdsがある値まで上昇すると、伸展距離X1、X2、X3が、距離L2に達する。この段階では、
図6に示すように、空乏層36xがトレンチ22の底面(すなわち、底面絶縁膜24b)に接する。このように、トレンチ22の底面が空乏層36xに覆われることで、トレンチ22の下端でゲート絶縁膜24に電界が集中することが抑制される。これによって、ゲート絶縁膜24の劣化が抑制される。
【0034】
また、
図4に示すようにL2<L1であるので、
図6の段階では空乏層32xの伸展距離X1は距離L1に達していない。すなわち、
図6に示すように、空乏層32xが、トレンチ22の下端に達していない。したがって、空乏層32xは、空乏層36xには繋がっていない。この状態では、空乏層32x内のゲート絶縁膜24近傍の領域に電子の蓄積層が存在するので、矢印100に示す経路に沿って電子が流れる。このように、空乏層がある程度拡大した段階でもMOSFET10には電子が流れる。その後、伸展距離X1、X2、X3がさらに増加して距離L1に達すると、
図7に示すように、空乏層32xと空乏層36xが繋がる。この段階で、電子の経路100(
図6参照)が遮断され、電流が停止する。このため、経路100が遮断されるまで低損失で電流を流すことが可能であるとともに、経路100が遮断されたタイミングで急激に電流を停止させることができる。このように、L2<L1が満たされることで、低損失でMOSFET10を動作させることができる。
【0035】
また、
図4に示すように、隣り合う底部領域36同士の間の間隔L3は、L1<L3/2、及び、L2<L3/2の関係を満たす。したがって、
図6のように伸展距離X1、X2、X3が距離L1に達した段階では、隣り合う底部領域36の間で空乏層36x同士が繋がっていない。すなわち、隣り合う底部領域36から伸びる空乏層36xの間に、非空乏化領域37が残存している。このように、空乏層36x同士が繋がるよりも前に、各空乏層36xが空乏層32xと繋がる。このため、
図9の非空乏化領域924のようなフローティング状態の非空乏化領域が、実施例1のMOSFET10では形成されない。これによって、トレンチ22の下端近傍のゲート絶縁膜24への電界集中が抑制される。また、
図9のようにフローティング状態の非空乏化領域が形成されると、ゲート電極26とドリフト領域34の間の容量(すなわち、帰還容量)が大きくなり、スイッチング速度が遅くなる。実施例1のMOSFET10では、フローティング状態の非空乏化領域が形成されないので、帰還容量が小さく、高速なスイッチングか可能である。
【0036】
その後、電圧Vdsがさらに上昇すると、
図8のように、隣り合う底部領域36から伸びる空乏層36x同士が繋がる。その後、さらに電圧Vdsが上昇すると、ドリフト領域34の全体に空乏層が広がる。これによって、MOSFET10のターンオフが完了する。
【0037】
以上に説明したように、実施例1のMOSFET10では、オンからオフに切り換わる過程においてドリフト領域34内にフローティング状態の非空乏化領域が形成されることを防止することができる。このため、ゲート絶縁膜の劣化を防止できるとともに、帰還容量を小さくすることができる。
【0038】
(実施例2)実施例2では、濃度N1、N2、N3、及び、距離L1、L2、L3の関係が実施例1とは異なる。実施例2では、N3=N2<N1である。また、実施例2では、下記数式10~12が満たされている。
【数5】
【0039】
実施例2では、数式10~12が満たされる範囲内において、L2>L1とされている。但し、L2=L1であってもよいし、L2<L1であってもよい。
【0040】
実施例2のMOSFET10がオフするきも、実施例1と同様に、電圧Vdsの上昇に伴って空乏層32x、36xが拡大する。空乏層36xの伸展距離X2が距離L2に達すると、
図6と同様に、空乏層36xがトレンチ22の底面に接する。これによって、ゲート絶縁膜24の劣化が抑制される。また、この段階では、空乏層32xの伸展距離X1は、上記数式7及びX2=L2の関係から、X1=L2(N2/N1)
1/2の関係を満たす。この関係と、上記数式12から、X1<L1の関係が満たされる。すなわち、この段階では、
図6と同様に、空乏層32xは、トレンチ22の下端に達していない。したがって、この段階では、
図6の矢印100と同様の経路で、電子が流れることができる。その後、空乏層32xの伸展距離X1が距離L1に達すると、
図7と同様に、空乏層32xと空乏層36xが繋がる。このとき、空乏層32xの伸展距離X3は、上記数式8及びX1=L1の関係から、X3=L1(N1/N3)
1/2の関係を満たす。この関係と、上記数式10から、X3<L3/2の関係が満たされる。すなわち、この段階では、
図7と同様に、隣接する底部領域36から伸びる空乏層32xの間に、非空乏化領域37が存在している。このため、ドリフト領域34内にフローティング状態の非空乏化領域が形成されない。これによって、トレンチ22の下端近傍のゲート絶縁膜24への電界集中が抑制される。また、帰還容量が低減される。その後、空乏層は、電圧Vdsの上昇に伴ってドリフト領域34全体に広がる。これによって、MOSFET10のターンオフが完了する。
【0041】
以上に説明したように、実施例2のMOSFETでも、オンからオフに切り換わる過程においてドリフト領域34内にフローティング状態の非空乏化領域が形成されることを防止することができる。このため、ゲート絶縁膜の劣化を防止できるとともに、帰還容量を小さくすることができる。
【0042】
なお、実施例2では、濃度N1が濃度N2及び濃度N3よりも大きい。このため、上部ドリフト領域34a内では空乏層32xが比較的低速度で伸展する。このため、矢印100のような電子の経路をより長い時間確保することができる。これによって、MOSFETで生じる損失がより低減される。また、濃度N2及び濃度N3が濃度N1よりも小さいことで、中部ドリフト領域34b及び下部ドリフト領域34cでは空乏層を素早く進展させることができる。したがって、電子の経路を遮断した後に、急速に電流を停止させることができる。
【0043】
なお、実施例1、2では、N2=N3であったが、N2とN3が異なっていてもよい。また、上述した実施例1、2では、上記数式12が満たされていたが、数式12は満たされていなくてもよい。この場合でも、数式10、11が満たされていれば、フローティング状態の非空乏化領域が形成されることを防止することができる。
【0044】
また、実施例1、2では、MOSFETについて説明したが、IGBT(insulated gate bipolar transistor)等の他のスイッチング素子に、本明細書に開示の技術を適用してもよい。スイッチング素子がIGBTである場合には、ソース領域がエミッタ領域と呼ばれる場合がある。
【0045】
また、実施例1、2では、各接続領域38が複数の底部領域36に接続されていたが、底部領域36毎に分割して接続領域38が設けられていてもよい。
【0046】
また、実施例1、2では、濃度N2と濃度N3が等しかったが、濃度N2と濃度N3が異なっていてもよい。
【0047】
以上、実施例について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。