(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】質量分析計における干渉抑制
(51)【国際特許分類】
H01J 49/00 20060101AFI20221102BHJP
H01J 49/42 20060101ALI20221102BHJP
H01J 49/06 20060101ALI20221102BHJP
H01J 49/10 20060101ALI20221102BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20221102BHJP
【FI】
H01J49/00 500
H01J49/42 250
H01J49/06 700
H01J49/10 500
G01N27/62 E
(21)【出願番号】P 2021557201
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 EP2020058615
(87)【国際公開番号】W WO2020193726
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-09-24
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508306565
【氏名又は名称】サーモ フィッシャー サイエンティフィック (ブレーメン) ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】ベロフ ミハイル
(72)【発明者】
【氏名】ロットマン ローター
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0251712(US,A1)
【文献】国際公開第2008/047464(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析計(100、100’)において衝突セル(10)を動作させる方法であって、前記衝突セルが、入口開口(116)、出口開口(117)、少なくとも1つのDC出口電極(113)、少なくとも1対のRF軸方向電極(112)および少なくとも1つのDC軸方向電極(114)を備え、前記方法が、
前方軸方向(LD)において前記入口開口(116)を通じて前記衝突セル内にイオンを供給することと、
前記少なくとも1対のRF軸方向電極(112)を使用して、前記イオンを半径方向に閉じ込めるためのRF電場分布を生成することと、
第1の期間中に、前記少なくとも1つのDC出口電極(113)を使用して、前記衝突セル内にイオンをトラップするための第1のDC電場分布を生成することと、
第2の期間中に、前記少なくとも1つのDC出口電極(113)を使用して、トラップされたイオンを前記前方軸方向において前記出口開口に向かって解放するための第2のDC電場分布を生成することと、
衝突断面積に応じてイオンを分離するように、前記衝突セル内で、少なくとも前記入口開口(116)の近くで、前記前方軸方向(LD)とは反対のガス流(G1)を生成することと、
前記少なくとも1つのDC軸方向電極(114)を使用して、前記入口開口を通って前記衝突セルに入るイオンの運動エネルギーを変調するための軸方向場勾配を有するさらなるDC電場分布を生成することと、を含み、
前記軸方向場勾配は、前記衝突セルに入る前記イオンの運動エネルギーを低減するように構成されている、方法。
【請求項2】
前記軸方向電場勾配が、前記第1の期間中よりも前記第2の期間中により大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記衝突セル(10)内のガス圧が、0.001mbar~0.1mbarである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記衝突セル(10)内のガス圧が、0.005mbar~0.02mbar、好ましくは約0.01mbarである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記入口開口(116)における前記ガス流が、5ml/分~40ml/分の流速を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記入口開口(116)における前記流速が、10ml/分~15ml/分、好ましくは約12ml/分である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ガス流が、閾値よりも低い流速を有する場合にのみ、前記さらなるDC電場分布が生成され、前記閾値が、好ましくは8ml/分~12ml/分、より好ましくは約10ml/分である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ガス流が、前記入口開口(116)と前記出口開口(117)との間の距離の約4分の1~約4分の3に位置する少なくとも1つの入口ポート(119)から、好ましくは前記入口開口と前記出口開口との間のほぼ中間から、前記イオンの前記前方軸方向と反対に流れる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ガス流が、前記イオンの前記前方軸方向と反対に、ほぼ前記出口開口に位置する少なくとも1つの入口ポート(119)から流れる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ガス流が、前記イオンと非反応性であるガス、好ましくはヘリウムなどの不活性ガスを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の期間が、前記第2の期間より2倍~30倍、好ましくは約20倍長い、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の期間が、約2msの持続時間を有し、前記第2の期間が、約0.1msの持続時間を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記衝突セル(10)が、四重極構成を構成する2対のRF軸方向電極(112)を備え、前記方法が、前記四重極構成を使用して、前記イオンを半径方向に閉じ込めるための前記RF電場分布を生成することを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記衝突セル(10)が、六重極、八重極、またはより高次の構成を構成する3対以上のRF軸方向電極(112)を備え、前記方法が、前記六重極、八重極、またはより高次の構成を使用して、前記イオンを半径方向に閉じ込めるための前記RF電場分布を生成することを含む、請求項1~
12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記イオンが、プラズマ源(1)に由来し、原子イオンおよび多原子イオンを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
質量分析方法であって、
プラズマイオン源(1)においてイオンを生成することと、
前記イオンを衝突セル(10)に輸送することと、
請求項1~15のいずれか一項に記載の方法に従って前記衝突セルを動作させることと、を含み、
第2のDC電場分布を生成することにより、イオンが前記衝突セルから吐出され、前記方法が、
吐出された前記イオンを質量分析器(16)に輸送することと、
前記質量分析器において前記イオンを質量分析することと、をさらに含む、質量分析方法。
【請求項17】
質量分析計(100、100’)において使用するための衝突セル(10)であって、
前方軸方向(LD)においてイオンを受け入れるための入口開口(116)と、
前記前方軸方向においてイオンを放出するための出口開口(117)と、
第1の期間中に、イオンをトラップするための第1のDC電場分布を生成し、第2の期間中に、前記出口開口(117)に向かって前記前方軸方向に、トラップされたイオンを解放するための第2のDC電場分布を生成するための少なくとも1つのDC出口電極(13、113)と、
イオンを半径方向に閉じ込めるためのRF電場分布を生成するための少なくとも1対のRF軸方向電極(112)と、
衝突断面積に応じてイオンを分離するように、少なくとも前記入口開口(116)の近くで、前記前方軸方向とは反対のガス流を受け入れるための少なくとも1つのガス入口ポート(119)と、
前記衝突セルに入るイオンの運動エネルギーを低減するように、前記入口開口を通って前記衝突セルに入る前記イオンの運動エネルギーを変調するための軸方向場勾配を有するさらなるDC電場分布を生成するための少なくとも1つのDC軸方向電極(114)と、を備える、衝突セル。
【請求項18】
前記少なくとも1つのDC軸方向電極(114)が、抵抗勾配を有し、前記抵抗勾配が、好ましくは抵抗器の直列構成を含む、請求項17に記載の衝突セル。
【請求項19】
前記第1の期間中よりも前記第2の期間中により大きい軸方向電場勾配を生成するように構成されている、請求項17又は18に記載の衝突セル。
【請求項20】
ガス圧を0.001mbar~0.1mbar、好ましくは約0.01mbarに維持するように構成されている、請求項17~19のいずれか一項に記載の衝突セル。
【請求項21】
5ml/分~40ml/分の、前記入口開口における前記ガス流の流速を提供するための少なくとも1つのガス源をさらに備える、請求項17~20のいずれか一項に記載の衝突セル。
【請求項22】
前記入口開口における前記流速が、10ml/分~15ml/分、好ましくは約12ml/分である、請求項21に記載の衝突セル。
【請求項23】
前記ガス流が閾値よりも低い流速を有する場合にのみ、前記さらなるDC電場分布を生成するように構成されており、前記閾値が好ましくは8ml/分~12ml/分、より好ましくは約10ml/分である、請求項17~22のいずれか一項に記載の衝突セル。
【請求項24】
前記少なくとも1つのガス入口ポート(119)が、前記入口開口(116)と前記出口開口(117)との間の距離の約4分の1~約4分の3、好ましくは前記入口開口と前記出口開口との間のほぼ中間から配置されている、請求項17~23のいずれか一項に記載の衝突セル。
【請求項25】
前記少なくとも1つのガス入口ポート(119)が、ほぼ前記出口開口(117)に配置されている、請求項17~23のいずれか一項に記載の衝突セル。
【請求項26】
前記ガス流が、前記イオンと非反応性であるガス、好ましくはヘリウムなどの不活性ガスを含む、請求項17~25のいずれか一項に記載の衝突セル。
【請求項27】
前記少なくとも1つのDC出口電極(13、113)が、前記出口開口(117)付近に配置されている、請求項17~26のいずれか一項に記載の衝突セル。
【請求項28】
前記少なくとも1つのDC出口電極(113)が、前記出口開口(117)を画定する、請求項17~27のいずれか一項に記載の衝突セル。
【請求項29】
前記DC電極および前記RF電極への電圧を生成する電場分布を供給するための少なくとも1つの電圧源をさらに備える、請求項17~28のいずれか一項に記載の衝突セル。
【請求項30】
請求項17~29のいずれか一項に記載の少なくとも1つの衝突セル(10)を備える、質量分析計(100、100’)。
【請求項31】
プラズマイオン源などの少なくとも1つのイオン源(1)と、少なくとも1つの質量分析器(9、16)と、イオンを検出するための少なくとも1つの検出器(20)とをさらに備える、請求項30に記載の質量分析計。
【請求項32】
質量分析計(100、100’)を提供するための部品キットであって、
少なくとも1つのイオン源(1)と、
少なくとも1つの質量分析器(9、16)と、
イオンを検出するための少なくとも1つの検出器(20)と、
請求項17~29のいずれか一項に記載の少なくとも1つの衝突セル(10)と、を備える、部品キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析計を用いて分析を行う際の干渉の抑制に関する。特に、本発明は、質量分析計を用いて実施される微量元素分析における多原子干渉を抑制するために使用することができるが、これに限定されない。より詳細には、本発明は、質量分析計において衝突セルを動作させる方法、質量分析計において使用するための衝突セル、およびそのような衝突セルを備えた質量分析計に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導結合プラズマ(ICP)質量分析(MS)は、地質学的研究、環境研究、食品および安全性の研究、ならびに生物医学研究など、さまざまな用途で広く使用されている。典型的なICP-MS分析では、サンプルがキャリアガスとともに噴霧室に噴霧される。後者は、サンプルのイオン化、および、大気圧領域から減圧下で動作する質量分析計の下流要素へのイオン輸送を支援するために使用される。分析物種が他の物質とともに気化、霧化、イオン化され、輸送されることはよく知られており、これらはまとめてマトリックス、またはイオン化された形態のマトリックスイオンと呼ばれる。
【0003】
市販のICP-MS機器では、典型的なキャリアガスはアルゴン(Ar)であり、高温(8,000K超)のアルゴンプラズマを形成する。数ppm(百万分率)から数ppt(一兆分率)までの濃度範囲の分析物を含む低濃度(2%)硝酸(HNO3)水溶液がアルゴンプラズマに導入されると、さまざまな異なるマトリックスイオンが形成される。これらには、Ar2+、ArO+、ArH+、および他の多くが含まれる。例えば、分析溶液中の塩酸(HCl)の濃度が低い場合(0.5%)、ClO+などの追加のマトリックスイオンも形成される。これらのイオン化マトリックス種はすべて、化学分析用途における多原子干渉であり、同重体単原子分析物の検出限界に大きく影響する。さらに、干渉は非常に強い信号を呈し、分析信号を数桁(2桁以上)超えることが多いため、同重体種の微量元素分析が妨げられる。例えば、分子ArO+は、鉄の主要な同位体56Feの検出に大いに干渉する可能性がある。
【0004】
これらのICP干渉問題に対処するために、いくつかの異なる手法が開発された。運動エネルギー弁別(KED)と呼ばれる1つの手法は、不活性ガスで満たされた衝突/反応セル(CRC)を通過するときの干渉(通常は分子イオン)および分析物による様々な程度の運動エネルギー損失を利用する。KEDモードでは、イオン種がCRCに導入され、衝突/反応ガス(典型的にはHe)との複数の衝突が発生する。CRCを出ると、すべてのイオン種は、CRCの下流に位置付けられた分析四重極への進入によって減速される。減速は、例えば、CRCロッドよりも数ボルト(約2~3V)高い分析四重極ロッドにバイアスをかけることによって達成される。より低い程度の運動エネルギー損失を呈する分析物種は、このエネルギー障壁を通じて分析四重極に、次いで、さらにMS検出器に向かってより容易に伝達される。KE手法は、当該技術分野において広く採用されているが、分析物信号の非常に大幅な損失を特徴としており、典型的には、ICP生成イオンのm/z(質量対電荷)のより高い範囲(m/z100~m/z200)においては最大1桁、および、より低いm/zのイオン(m/z50~60未満)については3桁を超える損失がある。さらに、KEDモードにおいて動作するCRCの前にイオン選択が採用された場合、加圧セルを介した伝達を本質的に支援する空間電荷成分が除去されるため、分析損失はさらに大きくなる。
【0005】
別の手法は、選択的にアルゴン(Ar)ベースの干渉を除去するために、H2などの反応性試薬ガスで充填された3D衝突セルを採用している、米国特許第6,259,091号に記載されている。反応性ガスは、元素化学分析に2つのタイプの有益な反応をもたらし、それは、より強力なアルゴンベースの干渉種を中和し、干渉および分析物イオンをm/zドメインにおいて相互にシフトさせる。この手法は、Ar+およびより低いm/z干渉を除去するのに効率的であることが示されているが、様々なタイプの干渉への幅広い適用性が不足している。この手法は、分析物のイオン化ポテンシャルが、干渉のイオン化ポテンシャルよりも低い試薬のイオン化ポテンシャルよりも低い、分析物との電荷交換反応において最もよく機能する。したがって、US6,259,091の手法は、適用範囲が制限されている。
【0006】
例えば、WO2004/109741に開示されているように、質量分析においてガス流と静的軸方向電場の両方を使用すること自体は知られていることに留意されたい。しかしながら、既知の構成では、ガス流と軸方向電場とは反対方向に作用する。すなわち、イオンがデバイスに供給される方向にガスが流れ、したがって、イオンの移動を支援する場合、電場は、一部のイオンを減速またはさらには停止させるように構成される。ガスが反対方向に流れる場合、電場はイオンを加速させて、少なくとも一部のイオンに対するガス流の減速効果を克服するように構成される。したがって、従来技術の構成では、ガス流と電気力との平衡が存在する。これにより、多色干渉の抑制におけるそれらの使用が制限される。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、先行技術の欠点を克服し、干渉、特に、排他的にではなく、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)の分析におけるマトリックス干渉を抑制することを可能にする、質量分析計において衝突セルを動作させる方法を提供することである。
【0008】
したがって、本発明は、質量分析計において衝突セルを動作させる方法を提供し、衝突セルが、入口開口、出口開口、少なくとも1つのDC出口電極、少なくとも1対のRF軸方向電極、および少なくとも1つのDC軸方向電極を備え、方法が、
前方軸方向において入口開口を通じて衝突セル内にイオンを供給することと、
少なくとも1対のRF軸方向電極を使用して、イオンを半径方向に閉じ込めるためのRF電場分布を生成することと、
第1の期間中に、少なくとも1つのDC出口電極を使用して、衝突セル内にイオンをトラップするための第1のDC電場分布を生成することと、
第2の期間中に、少なくとも1つのDC出口電極を使用して、トラップされたイオンを前方軸方向において出口開口に向かって解放するための第2のDC電場分布を生成することと、
衝突断面積に応じてイオンを分離するように、衝突セル内で、少なくとも入口開口の近くで、前方軸方向とは反対のガス流を生成することと、
少なくとも1つのDC軸方向電極を使用して、入口開口を通って衝突セルに入るイオンの運動エネルギーを変調するための軸方向場勾配を有するさらなるDC電場分布を生成することと、を含み、
軸方向場勾配が、衝突セルに入るイオンの運動エネルギーを低減するように構成されている。
【0009】
RF電場分布を生成することにより、衝突セルに入るイオンを、好ましくは衝突セルの中心軸上の空間内に半径方向に閉じ込めることができる。このような閉じ込めは、イオンが失われるのを防ぎ、したがって衝突セルの収率を増加させる。RF場分布を生成するために使用されるRF軸方向電極は、例えば、四重極構成を構成し得る。
【0010】
それぞれ第1の期間および第2の期間中にイオンをトラップするための第1のDC電場分布およびトラップされたイオンを解放するための第2のDC電場分布を生成することにより、イオンを衝突セルにトラップし、衝突セルから解放することができる。トラップイベントおよび解放(またはパージ)イベントをそれぞれ規定する第1の期間および第2の期間は、好ましくは連続している。第1のDC電場分布および第2のDC電場分布により、衝突セルをイオントラップとして、特に線形イオントラップとして使用することができる。
【0011】
衝突セルの内部で、少なくとも入口開口の近くで、ただし好ましくは衝突セルの長さの相当部分にわたって、イオンの順方向とは反対のガス流を生成することによって、衝突断面積に基づいてイオンを分離することが可能である。イオンの順方向とは反対のガス流は、例えば、衝突セルの長さの少なくとも半分にわたって生成され得る。ガスの向流は抗力を引き起こし、これはイオンの速度を低下させる。速度の変化は、イオンの衝突断面積にほぼ比例する。大きい(衝突)断面積を有するイオンは、小さい(衝突)断面積を有するイオンよりもガス分子と衝突する可能性が高く、したがって、ガスによって速度が低下する可能性が高くなる。この効果は、ガスが静止している従来の衝突セルと比較して、ガスの向流によって増強される。
【0012】
イオンの断面積に依存する速度低下の結果として、イオンが異なる同重体イオン種に属する場合にも、異なる(衝突)断面積を有するイオンの空間的分離が起こり得る。これは、原子イオンを、分子マトリックスイオンなどの干渉分子イオンから分離する場合に特に有利である。
【0013】
DC場によるトラップと断面積ベースの分離との組み合わせにより、イオンを選択的にトラップすることができる。本発明によれば、比較的小さい衝突断面積を有するイオンをトラップし、したがって収集することができ、一方、比較的大きい衝突断面積を有するイオンが、トラップされて拒絶されるのを防ぐことができる。トラップにより、一定量の選択されたイオンを収集して、質量フィルタリングおよび/または検出などのさらなる処理を行うことができる。
【0014】
いかなる理論または説明にも拘束または制限されることなく、比較的小さい原子イオンが衝突セルの出口開口に到達することが可能になり得、一方で、ガス流抗力の減速効果により、同じ質量電荷比(m/z)の比較的大きい多原子イオンが出口開口に到達することを防ぐことができる。本発明の方法は、衝突セルに入るときに高い初期運動エネルギーを有するイオンに特に適用可能である。
【0015】
別の態様では、本発明は、質量分析の方法を提供し、方法が、
プラズマイオン源においてイオンを生成することと、
イオンを衝突セルに輸送することと、
上記の質量分析計において衝突セルを動作させる方法に従って、衝突セルを動作させることと、を含み、
第2のDC電場分布を生成することにより、イオンが衝突セルから吐出され、方法が、
吐出されたイオンを質量分析器に輸送することと、
質量分析器においてイオンを質量分析することと、をさらに含む。
【0016】
質量分析計において使用するためのイオントラップ装置はよく知られていることに留意されたい。例えば、その内容が参照により本文献に組み込まれる、US8,278,618(Thermo Fisher Scientific)は、イオンをトラップするためにトラップ場を生成することができるガス充填衝突セルを開示している。トラップされたイオンは衝突セル内で処理され、電場勾配が生成され、これにより、処理されたイオンは衝突セルから反対方向に出る。イオンがデバイスを通じて進行する方向のこの反転は、一部の用途では望ましくない。本発明の方法では、解放されたイオンは、それらが入ったのと実質的に同じ前方軸方向にトラップを出る、すなわち、それらの方向は実質的に変化しない。さらに、US8,278,618は、マトリックス干渉の問題に対処していない。
【0017】
電圧勾配を提供するために少なくとも1つのDC軸方向電極を使用して、本発明の方法は、少なくとも1つのDC軸方向電極を使用して、入口開口を通って衝突セルに入るイオンの運動エネルギーを変化させるための軸方向場勾配を有するさらなるDC電場分布を生成することをさらに含む。
【0018】
電圧勾配を有するDC軸方向電極は、絶縁基板上に軸方向に取り付けられた一連のそれぞれのDC電極と、電気抵抗勾配を提供するための抵抗器の直列構成とを含む構造によって構成され得る。複数の抵抗器がそれぞれのDC電極を相互接続し、その結果、DC軸方向電極がDC電圧源に接続されると、軸方向電場勾配が生成される。構造はいわゆるベーンであり得、絶縁基板はプリント回路基板(PCB)を含み得る。
【0019】
各DC軸方向電極は、隣接するRF軸方向電極間の空間を占め得る。一実施形態において、4つのDC軸方向電極が、4つのRF軸方向電極間のそれぞれの空間を占める。
【0020】
軸方向電場勾配は、イオンの速度を変化させるための追加のメカニズムを提供する。ガス流と軸方向電場勾配との組み合わせを使用することにより、トラップされるイオンの選択をさらに改善することができる。より具体的には、軸方向場勾配は、運動エネルギー、したがってイオンの速度を変えるための別のメカニズムを提供する。
【0021】
いくつかの実施形態において、軸方向場勾配は、第1の期間(注入イベント)中、および場合によっては第2の期間(解放イベント)中もゼロまたは実質的にゼロであり得る。ただし、非ゼロ値の軸方向場勾配が好ましい。特に、軸方向場勾配は、衝突セルに入るイオンの運動エネルギーを低減するように構成することができる。したがって、軸方向場勾配は、ガス向流の効果を高め得る。
【0022】
軸方向場勾配は、一定であってもよく、または、経時的に、例えば、期間ごとに、もしくは、さらには期間内に変化してもよい。軸方向場勾配が、衝突セルに入るイオンの運動エネルギーを低減するように構成されている場合、軸方向電場勾配は、第1の期間中よりも第2の期間中により大きくなり得る。反対に、第1の期間中、軸方向場勾配は、第2の期間中よりも小さくなり得る。結果として、イオンの運動エネルギーは、イオンが注入およびトラップされている第1の期間中よりも、トラップされたイオンが衝突セルから解放される第2の期間中により低減する。これは、衝突セルに入るイオンが解放されるイオンと混合するのを防ぐ。いくつかの実施形態において、第1の期間中の軸方向場勾配は、ゼロであり得るか、または、さらには、イオンの運動エネルギーを増加させるように構成され得る。
【0023】
ガス流に起因するイオンの運動エネルギー低減と、軸方向場勾配による運動エネルギー低減とは同一ではなく、補完するものであることに留意されたい。ガス流は、イオンの衝突断面積に応じて運動エネルギーを低減し、一方、軸方向場勾配は、イオンの電荷に応じて運動エネルギーを低減する。
【0024】
衝突セル内のガス圧は、0.001mbar~0.1mbarであり得る。好ましくは、ガス圧は、0.005mbar~0.02mbarであり得、例えば、約0.01mbar(1Pa)であり得る。衝突セルは、質量分析計の真空室内に位置し、すなわち真空ポンプと連通することができる。そのような構成では、衝突セル内のガス圧は、ガス流速に加えて、周囲の真空室内の圧力に依存し得る。
【0025】
一実施形態において、入口開口における前方軸方向とは反対のガス流は、5ml/分~40ml/分の間の流速を有する。より詳細には、入口開口におけるガス流速は、10ml/分~15ml/分、好ましくは約12ml/分であり得る。
【0026】
さらなるDC電場分布が、ガス流速に依存することが好ましい。すなわち、軸方向場勾配の存在および/または大きさは、好ましくは、ガス流の流速に依存する。一実施形態において、さらなるDC電場分布を低減する運動エネルギーは、入口開口におけるガス流が閾値よりも低い流速を有する場合にのみ生成され得る。ガス向流の閾値を超えると、イオンの運動エネルギーの低減は、さらにDC電場分布を低減する運動エネルギーが存在する場合、イオンが出力開口に到達することができないようなものであり得る。
【0027】
閾値は、例えば、8ml/分~12ml/分であり得るが、約10ml/分の閾値が好ましい。閾値は、衝突セルの寸法、使用されるガス、トラップされるイオン、および拒絶されるイオンなどの様々なパラメータに依存し得ることが理解されよう。
【0028】
一実施形態において、軸方向場勾配は、代替の動作モード中に衝突セルに入るイオンの運動エネルギーを一時的に増加させるように構成され得る。したがって、軸方向場勾配は、そのような実施形態において、ガス向流の影響を一時的に低減することができる。
【0029】
代替の動作モードが使用されている間に衝突セルに入るイオンの運動エネルギーを増加させるように軸方向場勾配が構成される場合、軸方向電場勾配は、第1の期間中よりも第2の期間中により小さくなり得る。逆に、軸方向電場勾配は、第2の期間中よりも第1の期間中により大きくなり得る。すなわち、解放イベント中、軸方向場勾配は、トラップイベント中に増加される運動エネルギーよりも少なく運動エネルギーを増加させる。これは、入来するイオンがトラップされたイオンと混合するのを防ぐためである。いくつかの実施形態において、第2の期間中の軸方向電場勾配は、ゼロであり得るか、または、さらには、イオンの運動エネルギーを低減するように構成され得る。
【0030】
上で言及したように、DC電場分布を低減するさらなる運動エネルギーは、ガス流が閾値よりも低い流速を有する場合にのみ生成され得る。すなわち、ガス流速が閾値よりも高い場合、ガス向流がすでに十分な運動エネルギー低減を提供しているため、DC電場分布を低減するさらなる運動エネルギーは生成され得ない。実際、イオンのさらなる運動エネルギーの低減は、それらの速度を過度に低減し、イベントがイオンのトラップを妨げ得る。
【0031】
ガス向流は、衝突セルの相当部分に及び得、衝突セルの全長に及び得るが、それは典型的には、本発明の利点を達成するために必須ではない。いくつかの実施形態において、ガス向流は、衝突セルの長さの約3分の1または4分の1にしか及ばなくてもよい。
【0032】
したがって、一実施形態において、ガスは、入口開口と出口開口との間の距離の約4分の1~約4分の3から、好ましくは入口開口と出口開口との間のほぼ中間から、イオンの前方軸方向と反対に流れる。そのような実施形態において、ガス流方向は、衝突セルの長さのほぼ前半にわたってイオンの前方軸方向と反対であり、衝突セルの長さのほぼ後半にわたって前方軸方向と実質的に同一である。
【0033】
別の実施形態において、ガスは、イオンの前方軸方向とは反対に、ほぼ出口開口から流れ、したがって、衝突セルの実質的に全長に及び得る。そのような実施形態において、ガス流は、衝突セルの実質的に全長にわたる向流である。
【0034】
ガス流は、イオンと非反応性であるガスを含み得る。非反応性ガスは、好ましくは、ヘリウムなどの不活性ガスである。
【0035】
注入イベントが発生する第1の期間と、解放イベントが発生する第2の期間とは、異なる持続時間を有し得る。第1の期間は、第2の期間より2~30倍長くてもよく、例えば、約10倍または20倍長くてもよい。例えば、第1の期間は、約2msの持続時間を有してもよく、一方、第2の期間は、約0.2ms以下、例えば、0.1msの持続時間を有してもよい。ただし、それぞれの持続時間においてより大きい差も可能である。第1の期間は、第2の期間より30倍以上長くてもよく、例えば、40倍またはさらには50倍長くてもよい。
【0036】
第2の期間に、再び第1の期間が続いてもよく、または、遅延などの別の期間が続いてもよい。第1の期間(期間T1)、続く第2の期間(期間T2)において実行される動作のサイクルは、必要な数のイオンが解放されて質量分析されるまで、所望の回数繰り返すことができる。軸方向勾配を生成するための電圧など、イオントラップに印加される電圧を、必要に応じてサイクル間で調整して、イオンから除去される干渉を調整することができる。
【0037】
衝突セルは、四重極構成を構成する2対のRF軸方向電極を備え、方法は、四重極構成を使用して、イオンを半径方向に閉じ込めるためのRF電場分布を生成することを含むことができる。四重極構成の代わりに、例えば、六重極または八重極など、異なる数の極を有する代替的な構成が使用されてもよい。したがって、衝突セルは、六重極、八重極、またはより高次の構成を構成する3対以上のRF軸方向電極を備えることができ、一方、方法は、六重極、八重極、またはより高次の構成を使用して、イオンを半径方向に閉じ込めるためのRF電場分布を生成することを含むことができる。閉じ込め型RF場は永続的に存在し得るが、例えば、解放イベント中には存在しない場合がある。
【0038】
イオンは様々な供給源に由来し得るが、本発明は、イオンがプラズマ源に由来し、原子イオンおよび多原子イオンを含む用途において特に有用である。そのような用途において、原子イオンは所望のイオンまたは分析物であり得、一方、多原子イオンは望ましくないまたはマトリックスイオンであり得る。本発明の方法は、同じ質量電荷比(m/z)の多原子干渉から単原子分析物を分離するのに非常に適しており、単原子分析物が、多原子のより大きい衝突断面積に起因する多原子干渉を拒絶しながら、トラップを通過することを可能にする。
【0039】
本発明は、ガスによって引き起こされる抗力効果がイオンの(衝突)断面積に依存するという洞察に基づいている。本発明の実施形態はまた、ガス流によって引き起こされる抗力と軸方向電場勾配によって引き起こされる静電力との組み合わせが、多原子干渉イオンを除去するときに効率的であるというさらなる洞察に基づいている。このとき、望ましくないイオンを除去することで、所望のイオンをより効率的にトラップできる。すなわち、衝突断面積が小さいイオンは、イオントラップの出口領域に到達して蓄積され得るが、衝突断面積が大きいイオン(マトリックスイオンなど)は、衝突セルの出口領域に到達しない程度まで、ガス流抗力と静電力との組み合わせに晒されることになる。その結果、マトリックスイオンの存在量が多いことに起因する望ましくない空間電荷効果が軽減される。
【0040】
US6,630,662は、質量分析計のためのイオンガイドを開示していることに留意されたい。この従来技術のイオンガイドは、イオンガイドに沿ってDCおよびRF電場を生成するための区分化された軸方向電極を備えており、さらに、抗力を引き起こすようにガス流を生成するように構成されている。US6,630,662において、ガス流の抗力と電場の勾配とは反対方向に作用し、前方軸方向電場はイオンをイオンガイドへと加速させ、一方、ガス流の後方抗力はイオンを減速させ、軸方向電場とガス流との適切な平衡によってイオンをトラップすることが可能になるとされている。US6,630,662のイオンガイドは、イオンをトラップおよび解放するためのDC出口電極を欠いている。
【0041】
本発明の方法においては、第2のDC電場分布が生成される第2の期間は、第1のDC電場分布が生成される第1の期間に続き得る。反対に、第3の期間の直後に、または第3の期間の後に、第2の期間が、第1の期間に続き得る。そのような第3の期間では、例えば、DC場は生成され得ず、イオンは衝突セルに供給され得ない。
【0042】
本発明は、付加的に、質量分析計において使用するための衝突セルを提供し、衝突セルは、
前方軸方向においてイオンを受け入れるための入口開口と、
前方軸方向においてイオンを放出するための出口開口と、
第1の期間中に、イオンをトラップするための第1のDC電場分布を生成し、第2の期間中に、出口開口に向かって前方軸方向に、トラップされたイオンを解放するための第2のDC電場分布を生成するための少なくとも1つのDC出口電極と、
イオンを半径方向に閉じ込めるためのRF電場分布を生成するための少なくとも1対のRF軸方向電極と、
衝突断面積に応じてイオンを分離するように、少なくとも入口開口の近くで、前方軸方向とは反対のガス流を受け入れるための少なくとも1つのガス入口ポートと、
衝突セルに入るイオンの運動エネルギーを低減するように、入口開口を通って衝突セルに入るイオンの運動エネルギーを変調するための軸方向場勾配を有するさらなるDC電場分布を生成するための少なくとも1つのDC軸方向電極と、を備える。
【0043】
本発明による衝突セルは、上記の方法と同じ利点を有する。衝突セルは、1対、2対、3対、4対、または別の数の対の軸方向RF電極を有してもよい。同様に、衝突セルは、1つ、2つ、3つ、または別の数のDC出口電極を有してもよい。
【0044】
トラップ電極と呼ばれる場合もある少なくとも1つのDC出口電極は、衝突セルの出口開口の近くに配置され得る。いくつかの実施形態において、少なくとも1つのDC出口電極は、出口開口を画定することができる。すなわち、いくつかの実施形態において、DC出口電極は、出口開口を構成する貫通孔を有するディスクまたはプレートなどの要素によって構成することができる。したがって、出口開口は、DC出口電極内に設けることができる。そのような実施形態において、少なくとも1つのDC出口電極は、出口開口を画定することができる。
【0045】
少なくとも1つのDC軸方向電極は、抵抗勾配を有することができ、抵抗勾配は、例えば、抵抗器の直列構成によって構成することができる。
【0046】
本発明の衝突セルでは、軸方向場勾配は、通常、衝突セルに入るイオンの運動エネルギーを低減するように構成されている。本発明の衝突セルは、ガス流が閾値よりも低い流速を有する場合にのみ、さらなるDC電場分布を生成するようにさらに構成することができる。閾値は、8ml/分~12ml/分であってもよく、好ましくは、約10ml/分であってもよい。
【0047】
別の実施形態において、軸方向場勾配は、代替の動作モードにおいて衝突セルに入るイオンの運動エネルギーを増加させるように構成され得る。そのような実施形態において、衝突セルは、第1の期間中よりも第2の期間中により小さい軸方向電場勾配を生成するように構成することができる。
【0048】
衝突セルに入るイオンの運動エネルギーを増加させるように軸方向場勾配が構成されている実施形態は、ガス流が閾値よりも高い流速を有する場合にのみ、加速軸方向場勾配を有する電場を生成するようにさらに構成することができる。閾値は、8ml/分~12ml/分であってもよく、好ましくは、約10ml/分であってもよい。
【0049】
本発明による衝突セルは、5ml/分~40ml/分の、入口開口におけるガス流の流速を提供するためのガス源をさらに備えることができる。流速は、10ml/分~15ml/分であってもよく、例えば、約12ml/分であってもよい。
【0050】
本発明による衝突セルは、ガス圧を約0.001mbar~0.1mbar、好ましくは約0.005~0.02mbar、より好ましくは約0.01バールに維持するように構成することができる。
【0051】
少なくとも1つのガス入口ポートは、入口開口と出口開口との間の距離の約4分の1~4分の3に、好ましくは入口開口と出口開口との間のほぼ中間に、配置することができる。別の実施形態において、少なくとも1つのガス入口ポートは、ほぼ出口開口に配置されてもよい。
【0052】
ガス流は、イオンと非反応性であるガス、例えば、ヘリウムなどの不活性ガスを含んでもよい。窒素またはアルゴンなどの他のガスを使用することもできる。
【0053】
本発明による衝突セルは、正および/または負のイオンをトラップおよび解放するための正および/または負の電圧を提供するための電圧源をさらに備えることができる。ICP-MS用途は正に帯電したイオンを生成するが、本発明はまた、負イオンを生成することが可能な他のイオン化源を使用する場合に適用することもできる。
【0054】
DC出口電極に印加される典型的な電圧は、例えば、-100V~+50Vに及んでもよく、一方、DC軸方向電極には、-40V~+10Vの範囲の電圧が印加され得る。加えて、RF軸方向電極には、-40V~+10Vの範囲のDCバイアスを与えることができる。ただし、イオンの1つ以上のタイプおよび衝突セルの形状に応じて、他の適切な電圧を選択することもできる。
【0055】
例示的な実施形態において、DC軸方向電極の一端にある1つの電極に-35Vの電圧が印加され、別の反対側の端部にある別の電極に-5Vの電圧が印加され、したがって、DC軸方向電極の長さにわたって-30Vの勾配が生じ、中心軸における電場透過率を2%と仮定すると、衝突セルの中心軸上の実効電場分布勾配は-0.6Vになる。例えば、電極の長さが130mmの場合、これにより、中心軸上で-4mV/mmの実効電場分布勾配が得られる。
【0056】
動作中はいつでも、衝突セルを一定期間にわたって、従来の通過モード、すなわち、トラップおよび解放イベントのないモードに切り替えることができる。例えば、干渉している可能性のあるイオン(マトリックス干渉など)がないm/zスペクトルの領域を分析する場合、イオンをトラップするための第1のDC電場分布は、オフに切り替えることができ、したがって、トラップされたイオンを解放するための第2のDC電場分布が後続する必要はない。通過モード中は、DC電場分布がなくてもよい。いくつかの実施形態において、通過モードにおいては、加速する(順方向に)DC軸方向場勾配を衝突セルに適用することができる。
【0057】
本発明はさらに、上記のような衝突セルを備える質量分析計を提供する。本発明による質量分析計は、少なくとも1つのイオン源と、少なくとも1つの質量分析器と、イオンを検出するための少なくとも1つの検出器とをさらに備えることができる。少なくとも1つの質量分析器は、例えば、四重極、または磁気セクター型質量分析器、またはFTMS質量分析器、または軌道トラップ質量分析器(Orbitrap(商標)質量分析器など)を含んでもよい。イオン源は、プラズマ源、例えば、ICP(誘導結合プラズマ)源またはマイクロ波誘導プラズマ(MIP)源であってもよい。イオンは典型的には、プラズマイオン源によって生成される場合、正に帯電したイオンである。
【0058】
質量分析計は、典型的には、本発明の方法を実行するように、電極に電圧を供給するための少なくとも1つの電圧源を制御するように構成されたコントローラを備える。コントローラはまた、少なくとも1つのイオン源、任意のイオンガイド、任意の質量フィルタ、質量分析器および検出器を含むがこれらに限定されない、分光計の様々な構成要素に印加される電圧を制御することもできる。コントローラは、関連するメモリを伴う少なくとも1つのマイクロプロセッサを備えることができる。少なくとも1つのプロセッサに本発明の方法を実行させるためのプログラムコードのモジュールを有するコンピュータプログラムを提供することができる。
【0059】
本発明はまた、質量分析計を提供するための部品キットも提供し、部品キットは、
少なくとも1つのイオン源、
少なくとも1つの質量分析器、
イオンを検出するための少なくとも1つの検出器、および
上述したような少なくとも1つの衝突セルのうちの少なくとも2つを備える。
【0060】
部品キットは、組み立てられると、上述したような質量分析計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】本発明による質量分析計の第1の例示的な実施形態を概略的に示す。
【
図2A】本発明による衝突セルの例示的な実施形態およびその機能を概略的に示す。
【
図2B】本発明による衝突セルの例示的な実施形態およびその機能を概略的に示す。
【
図2C】本発明による衝突セルの例示的な実施形態およびその機能を概略的に示す。
【
図2D】本発明による衝突セルの例示的な実施形態およびその機能を概略的に示す。
【
図2E】本発明による衝突セルの例示的な実施形態およびその機能を概略的に示す。
【
図2F】本発明による衝突セルの例示的な実施形態およびその機能を概略的に示す。
【
図2G】本発明による衝突セルの例示的な実施形態およびその機能を概略的に示す。
【
図3】本発明による質量分析計の第2の例示的な実施形態を概略的に示す。
【
図4A】従来技術によるトリプル四重極質量分析計によって得られたIPC-MSスペクトルを概略的に示す。
【
図4B】従来技術によるトリプル四重極質量分析計によって得られたIPC-MSスペクトルを概略的に示す。
【
図5A】本発明によるトリプル四重極質量分析計によって得られたIPC-MSスペクトルを概略的に示す。
【
図5B】本発明によるトリプル四重極質量分析計によって得られたIPC-MSスペクトルを概略的に示す。
【
図6A】それぞれ従来技術および本発明による軸方向勾配電圧の関数としての行列信号を概略的に示す。
【
図6B】それぞれ従来技術および本発明による軸方向勾配電圧の関数としての行列信号を概略的に示す。
【
図7A】本発明に従って得られた質量スペクトルの2つの領域を概略的に示す。
【
図7B】本発明に従って得られた質量スペクトルの2つの領域を概略的に示す。
【
図8】本発明による衝突セルを動作させる方法の一実施形態を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0062】
質量分析において頻繁に発生する問題は、望ましくない同重体イオン種が所望の分析物イオンと混合し、m/z(質量/電荷)ドメインにおける、所望の分析物イオンのスペクトル信号と同じまたは類似の位置に望ましくないスペクトル信号が生じることである。これらの望ましくない信号、いわゆる干渉は、スペクトル信号に基づく定量化を信頼性の低いものにし、特定の分析物信号の抑制をもたらす場合さえある。本発明は、ガス流と電場との組み合わせを使用して、望ましくないイオン種を遮断または抑制し、関心のある分析物のみを通過させることによって、この問題に対処する。
【0063】
本発明は、ガス流を通って移動するイオンが経験する抗力を使用して、それらのイオンを分離することができるという洞察に基づいている。粘性ガス流を通って移動する粒子が、ストークス-カニンガムの式によって記述される抗力Fdを経験すること自体は知られている。
【数1】
式中、
【数2】
式中、
【数3】
また式中、A、B、Eは定数、μはガス粘度、Rは分析物(粒子)半径、Knはクヌーセン数、Vは分析物速度、λは分析物の平均自由行程、σはガス分子の衝突断面積、Nはガス数密度である。
【0064】
粘性ガス流において、抗力は粒子(例えば、分析物)の速度と反対に向けられ、粒子の有効半径に比例する。したがって、衝突セルまたは衝突反応セル(CRC)内では、ガスの向流(ガス流の方向がイオンの初期速度と反対の場合)に導入されたイオン化種は運動エネルギーを失い、したがって減速する。大きい(衝突)断面積を有するイオンは、小さい(衝突)断面積を有するイオンよりもガス分子と衝突する可能性が高いため、この減速はイオンの衝突断面積に比例する。結果として、上記の式(1)によって表される抗力は、主に、より大きい衝突断面積を有するより大きい同重体イオンに作用する。これらのより大きい断面積の種は、それらの初期運動エネルギーをより高い程度ガス分子に伝達し、それらの種が同重体である場合でさえ、異なる衝突断面積の種の空間的分離を生じさせる。
【0065】
また、衝突セル内に軸方向電場分布を生成することにより、イオンの運動エネルギーをさらに変えることができる。このようにして、イオンの運動エネルギーを変化させる追加のメカニズムが提供される。帯電した種に作用する電場力は、以下によって統制される。
【数4】
式中、eは電気素量、φは電位である。したがって、軸方向電位勾配の増加は、電場強度Eの比例的な増加をもたらし、これは、種の移動度kに基づいて粘性ガスを通じて一定速度Vdにおいて帯電種を駆動する。
【数5】
【0066】
より低い粘度領域(10mL/分未満のガス流速)では、減速電場は、衝突セルの軸上で印加される一定の場強度を有し得る。
【0067】
衝突セルは、イオンをトラップおよび解放するための追加の電場を提供することにより、イオントラップとしてさらに使用することができる。イオントラップとして使用される衝突セル内のイオン操作は、(イオン)注入イベントおよび(イオン)解放イベントと呼ばれ得る2つのイベントによって表され得る。本発明によれば、望ましくない種を拒絶しながら、所望の分析物をトラップし、続いて解放することを可能にする衝突セルが提供される。
【0068】
本発明を適用することができる質量分析計の例示的な実施形態を
図1に概略的に示す。
【0069】
図1の質量分析計100は、高エネルギー衝突解離(HCD)セル10をCRC(衝突反応セル)として組み込んでいる、修正されたトリプル四重極質量分析計である。質量分析計100は、誘導結合プラズマ(ICP)イオン源1を備えることが示されており、これは、例えば、27MHzの周波数で動作する1400W RF(無線周波数)発生器を利用することができる。
図1の質量分析計100は、サンプリングコーン2、スキマーコーン3、イオン抽出光学系4Aおよび4B、角度偏向構成要素5Aおよび5B、事前選択四重極焦点レンズ7、事前選択四重極入口開口8、ならびに事前選択四重極9をさらに備える。事前選択四重極9は、分析のために下流に伝達される一定の質量範囲のイオンを選択することができる。
【0070】
衝突セル(または衝突反応セル)10は、示されている例では、第2の四重極を備える。衝突セル10は、入口開口電極11、四重極ロッド12、および出口開口電極13を含むように示されている。中間デフレクタアセンブリは、デフレクタアセンブリ構成要素14、15A、および15Bを含み、これらは、それぞれ、フォーカスD2およびD1と呼ばれ得る。第3の四重極または分析四重極16は、入口開口電極17、分析クワッドロッド18、および分析クワッド出口開口電極19を備えるように示されている。検出器アセンブリ20は、検出器アナログダイノード21、検出器アナログ信号電極22、検出器ゲート23、検出器計数信号24、および電子増倍管電極として機能する検出器カウンタダイノード25を備えるように示されている。代替的に、Channeltron(登録商標)またはマイクロチャネルプレート(MCP)検出器を使用することもできる。他の実施形態において、検出器アセンブリ20は、ファラデーカップを備えることができる。FTMS(フーリエ変換質量分析計)タイプなどのいくつかのタイプの質量分析器では、検出器は、分析器内の振動イオンを検出するイメージ電流検出器を備えることができる。
【0071】
質量分析計100は、図面を単純化するために
図1に示されていないさらなる部品を備えることができる。例えば、1つ以上の電圧源を、ACおよび/またはDC電圧を四重極構成に供給するように構成することができ、一方、ガス源は、衝突セル10にガスを供給することができる。同様に、ガス源は、ICPイオン源1にガスを供給するように構成することができる。
【0072】
質量分析計100は、イオンが衝突セル10に入るときに高い初期運動エネルギーを有するように構成することができる。当業者は、必要に応じて、イオンを加速するために、様々な部品に適切な電圧を容易に印加することができるであろう。
【0073】
イオン源1、サンプリングコーン2、スキマーコーン3、イオン光学系4Aおよび4B、衝突セル10、質量分析器16、および検出器アセンブリ20は、本発明による質量分析計を製造するための部品キットとして供給することができる。本発明による質量分析計を製造するための部品キットは、より多くのまたはより少ない部品を含んでもよい。
【0074】
イオン源1から質量分析計100の様々な部品を通って検出器アセンブリ20に至るイオン軌道ITも
図1に示されている。
【0075】
【0076】
衝突セル10は、イオンが入ることができる前端と、イオンが出ることができる後端とを有するハウジング115を含むように示されている。前端において、入口開口電極111(
図1の入口開口電極11に対応し得る)が、入口開口116を有するプレートによって構成されており、一方、後端において、出口開口電極113(
図1の出口開口電極13に対応し得る)が、出口開口117を有するプレートによって構成されている。四重極ロッド112および軸方向場勾配ベーン114が、ハウジング15の長手方向(
図2EのLD)において、その長手方向軸に平行に配置されている。
図2Cに見られるように、衝突セル10は、4つの四重極ロッド112の間のそれぞれの空間に位置する4つのベーン114を有する。
【0077】
ガスがハウジングに入ることを可能にするために、入口ポート119がハウジング115内に設けられている。
図2Bに見られるように、示される実施形態において、入口ポート119は、ハウジングの長さに沿ってほぼ中間に位置する。この実施形態において、ハウジング115に入るガスは、ハウジングの上流区画および下流区画にわたってほぼ均等に分散される。例えば、10ml/分の流速では、ガスの圧力は約0.01mbar(1Pa)になり得る。いくつかの実施形態において、入口ポートは、入口開口116により近く、または出口開口117により近く、例えば、ハウジング115の長さの約4分の1、または長さの約4分の3に位置し得る。
【0078】
ベーン114は、ベーンに沿って一定の範囲、例えば、漸進的な範囲の電圧を提供することができる分圧器を実装するように、例えば、各々50kΩの20個の抵抗器が直列に配置された抵抗器の構成を有するPCB(プリント回路基板)、例えば、セラミックまたはポリマーPCBによって構成され得る。抵抗器のそのような直列構成は、例えば、US7,675,031またはUS8,604,419に記載されており、各ベーンは、いくつかの区画(またはセグメント)にセグメント化されている。各区画は、入口セグメントおよび出口セグメントに印加される電圧ならびに抵抗器の値によって決定される電圧を生成する。ベーンに適切な電圧を印加することにより、電圧勾配および対応する軸方向電場勾配が生成される。衝突セルの長手方向軸における各ベーンの電場の透過は、典型的には、わずか約2%であり、その結果、30Vがベーンに印加された場合、0.6Vのみが軸における電場に寄与する。
【0079】
出口開口117を画定するプレート(または出口開口部品)113は、電極として、特に、イオンをトラップおよび解放するために使用できるDC出口電極として機能することができ、したがって、衝突セルをイオントラップとして使用することができる。第1の期間の注入イベント中にイオンをトラップすることができ、第2の期間の解放イベント中にイオンを解放またはパージすることができる。本発明は、分析物イオンなどの所望のイオンのみをトラップし、続いて解放することを可能にする。
【0080】
衝突セルは、ガス流速が約15ml/分よりも小さい低粘度領域において、または、ガス流速が約15ml/分以上である高粘度領域において動作させることができる。
【0081】
低粘度領域における注入イベント中、減速軸方向電場勾配は比較的浅く、場合によってはゼロになることさえある。しかしながら、減速軸方向電場勾配のゼロ以外の値が好ましい。入来するイオンは、出口開口電位をより高い正のレベル(例えば、+10V~+30V)に増加させながら、すべての四重極ロッド112を同じ負の電圧(例えば、入来するイオンが正の場合、-10V~-1V)にバイアスすることによって、出口開口117のすぐ近くにトラップされ得る。軸方向勾配を生成するベーン114の第1の電極または入口電極(例えば、入口開口116に最も近い端部にある)は、優先的には四重極ロッドバイアスよりも低い、負の電圧(例えば、-35V~-10V)にバイアスされ得る。ベーン114の第2の電極または出口電極(例えば、出口開口117に最も近い端部にある)は、第1の電極または入口電極よりも高い電圧を有し、四重極バイアスに短絡することができる。この四重極バイアスは、例えば、-10V~-1Vの範囲内の電圧であり得る。
【0082】
低粘度領域における解放イベント中に、減速軸方向電場勾配が急速に増大し得る。さらに、四重極バイアス(四重極ロッドバイアスとも呼ばれ得る)は、出口開口電位よりも高いレベルまで増大させることができる。四重極ロッドバイアス(ベーンの第2の電極または出口電極の電圧と同一であり得る)は、例えば、正のレベル(例えば、+2V~+7V)に増加され得、一方、出口開口電位は、負のレベル(例えば、-100V~-30V)に低減され得る。ベーンの第1の電極の電圧は変化しないままであり得る。その結果、イオンがトラップされている第1の期間中よりも、トラップされたイオンが衝突セルから解放される第2の期間中に、入来するイオンがトラップに入るのを防ぐために、より強い軸方向減速場が生成される。これにより、イオンがトラップに入り、前の注入イベント中にすでに蓄積されたイオンと混ざり合うことが防止される。ロッドと出口開口との間の強い正の軸方向勾配に起因して、トラップされたイオンは、約0.1秒の比較的短い期間内にトラップからパージされ得る。典型的なイオン注入イベントの持続時間を2~3msとすると、イオンのトラップおよび解放は、95%を超えるデューティサイクルで実行される。イオンがトラップされている第1の期間中、減速軸方向電場勾配は浅くなり得、いくつかの実施形態ではゼロになることさえあり得る。しかしながら、第1の期間中の減速軸方向電場勾配のゼロ以外の値が好ましい。
【0083】
より高い粘度領域(ガス流速が15ml/分を超える)では、加速場勾配が、場合によっては、入来するイオンビームに関して衝突セル軸に沿って適用され得る。この場合、静電場力が、ガス流によってイオン種に加えられる抗力に逆らって作用する。イベントのタイミング、ならびに、四重極ロッドおよび出口開口に印加される電位は、上記のものと同様である。差は、加速軸方向電場の方向および大きさにある。粘性ガス流を通る、断面積がより小さいイオンを支援するために、注入イベント中により強い軸方向勾配を適用することができる。例えば、四重極ロッドバイアスが-10V~-1Vであるとすると、例えば、+5V~+20Vの範囲内の電位を、ベーン114の第1の電極または入口電極(勾配入口点)に印加することができる。解放イベント中、四重極ロッドバイアス(ベーン114の第2の電極または出口電極の電圧と同じであり得る)は、例えば、+3V~7Vに増加し得、その結果、軸方向電場が弱くなり、これは、すべての種への抗力を克服するには不十分になる。これにより、入来するイオンがトラップ領域に入り、蓄積された種と混合するのを防ぐ。
【0084】
したがって、本発明では、衝突セル内のトラップまたは解放DC電場は、ガス向流、および、場合によっては加速軸方向電場と交互になり得る減速軸方向電場と組み合わされる。この組み合わせにより、所望のイオンをトラップし、干渉イオンを拒絶することが可能になり、したがって、干渉抑制が可能になる。ガス流および電場は、所望のイオンのイオン集団の少なくとも大部分がトラップされ得、解放され得、次いで分析に供され得、一方、望ましくないイオンの干渉(m/zドメイン内で)イオン集団の少なくとも大部分が、ガス流と静電軸方向電場との組み合わせにより、セル内でさらに進むのを遮断するように、構成されている。
【0085】
出口開口の近くにおけるイオントラップまたは蓄積により、衝突セルからイオンを迅速にパージすることを可能にし、衝突セル動作のより高いデューティサイクルを維持することができる。これは、ガス入口ポートと出口開口との間のトラップ領域における順方向のガス流によって増強することができる。解放イベント中に(入来するイオンに対して)より高い負の(減速)軸方向電場勾配が与えられると、そのような勾配はまた、逆(上流)方向において勾配出口点の上流に位置付けられる衝突セルからのイオンのパージを引き起こし得る。本方法の感受性に悪影響を与え得るこの影響は、入口ポートと出口開口との間のトラップ領域における順方向のガス流によって軽減することができる。
【0086】
図2A~
図2Dの実施形態において、四重極ロッド112およびベーン114は、ハウジング115の長手方向に配置され、四重極ロッドは、RF軸方向電極として機能し、ベーンは、DC軸方向電極として機能する。いくつかの実施形態において、ロッドは、DC軸方向電極としても機能することができ、その場合、ベーンは省略され得る。すなわち、いくつかの実施形態において、RF軸方向電極およびDC軸方向電極は、同じ電極によって構成することができ、これはこのとき、軸方向電極と呼ばれ得る。これらの軸方向電極は、これらの実施形態において、DCおよびAC(交流、ここではRF)電場分布の両方を生成するために使用される。
【0087】
RFおよびDC軸方向電極は、以下のようなさまざまな方法で提供することができる。
(1)ロッドの広い端部が衝突セルへの入口にあり、狭い端部が衝突セルからの出口にあるように、またはその逆になるように、軸方向に沿って先細りになっているロッドを有する四重極ロッドセット。
(2)傾斜しているが直径が均一なロッドを有する四重極であって、すなわち、一方の対のロッドの端部は、セルの一方の端部における中心軸の近くに位置し、他方の対のロッドの端部は、セルの他方の端部における中心軸の近くに位置する四重極。(1)および(2)のロッド構成にDC電位が印加される結果として、両方の場合に、中心軸に沿って軸方向の電位が発生し、(1)および(2)の場合、軸方向場およびRF電極は同じ電極である。
(3)絶縁リングによって分離されたセグメントに分割されている、円筒形シェルによって囲まれたロッドを有する四重極であって、異なるセグメントに異なる電圧を印加することによって軸方向場が生成される、四重極。
(4)軸方向場電極として機能するように、四重極ロッド間に配置された4つの補助ロッドを有する四重極アセンブリであって、軸方向場は、補助電極の長さにわたって平行に電圧勾配を印加することによって生成される、四重極アセンブリ。
(5)DC電圧が印加されたときにロッドに沿って軸方向場が生成されるように、四重極内のロッドに不均一な抵抗性コーティングを適用する。
(6)電圧がロッドに印加されたときに場を生成するように、それらの長さに沿って非対称に、抵抗性材料から作製されたロッドを有する。
(7)ロッドを絶縁リングによってセグメントに分割し、セグメントに異なるDC電圧を印加する。
(8)抵抗性材料によって接続された、それらの端部に導電性金属バンドを有する絶縁材料からのロッドを有する。および/または
(9)ロッドを低抵抗材料によってコーティングし、ロッドの2つの端部に異なる電圧を印加する。
【0088】
例示的な軸方向電場電極には、US7,675,031に開示されているものが含まれ、電極のアセンブリは、薄い基板(例えば、PCB)上に配置され、かつイオントラップの四重極ロッドの間に配設されるフィンガ電極として提供される。電極アセンブリの長さに沿って漸進的な範囲の電圧を印加することにより、軸方向場がアセンブリに沿って生成される。
【0089】
RF軸方向電極は、好ましくは、衝突セルの入口開口と出口開口との間の距離の大部分にわたって、例えば、衝突セルの入口開口と出口開口との間の距離の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%にわたって延在する。同様に、DC軸方向電極は、好ましくは、衝突セルの入口開口と出口開口との間の距離の大部分にわたって、例えば、衝突セルの入口開口と出口開口との間の距離の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%にわたって延在する。
【0090】
本発明による衝突セルの例示的な実施形態が、
図2Eに概略的に示されている。
図2Eの概略的に示されている衝突セル10は、
図2Dの衝突セル10と同様であってもよい。図面を単純にするために、四重極ロッド(
図2Dの112)などのいくつかの部品は
図2Eには示されていない。
【0091】
図2Eの衝突セル10は、ベーン114が収容されている本体115を備えるように示されている。入口開口電極111は、入口開口116を有するプレートによって構成されており、一方、出口開口電極113は、出口開口117を有するプレートによって構成されている。ガス入口ポート119が、衝突セル10のほぼ中央に位置するように示されている。ガス入口ポート119は、適切なガス供給源に接続することができる。
【0092】
イオン軌道ITは、衝突セル10の長手方向LDと実質的に一致するように示されている。イオンは、入口開口116を通って衝突セル10に入り、出口開口117を通って出る。衝突セルに入るガス流は、実質的に2つの部分流、すなわち、ガスポート119から入口開口116(
図2Eの左側)に流れる第1の部分ガス流G1と、ガスポート119から出口開口117(
図2Eの右側)に流れる第2の部分ガス流G2に分かるように示されている。したがって、第1の部分ガス流G1とイオン流とは反対方向になる。結果として、第1の部分ガス流G1は、衝突セルに入るイオンの運動エネルギーを低減する。他方、第2の部分ガス流G2は、イオン流と同じ方向を有し、したがって、イオンの運動エネルギーを増加させる。
【0093】
入口開口および出口開口を通るガス流を制限し、衝突セル内に所望の圧力を維持するために、入口開口および出口開口が小さいことに留意されたい。例示的な実施形態において、入口開口116は3mmの直径を有し、一方、出口開口117は2mmの直径を有する。本発明はこれらの直径に限定されず、入口開口116は、例えば、約1.5~6mm、または約2~4mmの範囲内の直径を有してもよいことが理解されよう。同様に、出口開口117は、例えば、約1~4mmの範囲内の直径を有してもよい。第1の部分ガス流G1の少なくとも一部は、入口開口を通って流れ、衝突セルを出る。いくつかの実施形態において、第1の部分ガス流G1の100%が入口開口116を通って流れてもよく、他の実施形態においては、他の開口が入口電極内またはその近くに存在する場合、100%未満、例えば90%または60%が流れてもよい。
【0094】
図2Fには、第1の期間内にベーン(
図2Eの114)および出口電極(
図2Eの113)によって生成される電場分布が概略的に示されている。入口電極(
図2Eの111)によって生成される任意の電場分布は
図2Fには示されていないが、この電場は、陽イオンを引き付けるために低い値または負の値でさえある場合がある。軸方向DC電場E
AX1は、イオン軌道ITの方向に増加し、したがって陽イオンの運動エネルギーを低減するように示されている。出口電極(
図2Eの113)に最も近いベーンの端部において、電場E
AX1は値E
1に達する。出口電極は、出口開口(
図2Eの117)の近くでイオンをトラップするように、E
1よりも大きい値E
2を有するDC電場E
EX1を生成する。
【0095】
図2Gには、第2の期間内にベーン(
図2Eの114)および出口電極(
図2Eの113)によって生成される電場分布が概略的に示されている。入口電極(
図2Eの111)によって生成される任意の電場分布は
図2Gには示されていない。軸方向DC電場E
AX2は、イオン軌道ITの方向に増加し、したがって陽イオンの運動エネルギーを低減するように示されている。出口電極(
図2Eの113)に最も近いベーンの端部において、電場E
AX2は、
図2Fにおける場E
AX1が達する最大値E
2よりも大きい値E
3に達する。より大きい電場勾配をもたらすこのより大きい値E
3は、トラップされたイオンがパージされている間、入来するイオンの数を減らす役割を果たす。このパージは、出口電極によって生成される電場を低い(またはさらには負の)値E
4に低下させることによって達成される。
【0096】
干渉の除去は、抗力および軸方向場勾配力が、関心のある分析物イオンを干渉イオンから分離するために最適化されるように、連続するイオン注入(トラップ)イベントにおける衝突セル内の軸方向場勾配の大きさを調整することによって調節可能であり得る。したがって、トラップ期間中の衝突セル内の軸方向場勾配の大きさは、衝突セルの下流で分析されているイオンのm/zに応じて調整することができる。
【0097】
動作中はいつでも、衝突セルを一定期間にわたって、従来の通過モード、すなわち、注入(トラップ)および解放イベントのないモードに切り替えることができる。例えば、干渉している可能性のあるイオンがないm/zスペクトルの領域を分析する場合、イオンをトラップするための第1のDC電場分布は、オフに切り替えることができ、したがって、トラップされたイオンを解放するための第2のDC電場分布が後続する必要もない。通過モード中は、DC電場分布がなくてもよい。いくつかの実施形態において、通過モードにおいては、(順方向に)加速するDC軸方向場勾配を衝突セルに適用することができる。例えば、質量分析器が質量スペクトルを提供するためにm/z領域全体を走査する、四重極質量分析器16を有する、
図1に示される実施形態などの、衝突セルの下流に質量分析器を備える実施形態において、衝突セルモード(トラップ/解放モードまたは通過モード)は、その時点で分析されているm/zに応じて切り替えることができる。
【0098】
図3は、これらの研究でも採用されたハイブリッドICP-Orbitrap(商標)質量分析計(Thermo Fisher Scientific製、ブレーメン、ドイツ)の例示的な実施形態を概略的に示している。この機器は二重検出システムを有しており、その結果、信号が二次電子増倍管(SEM)または(フーリエ変換質量分析計側の)鏡像電荷検出回路を用いて独立して取得される。示されているように、ICPインターフェースはバックフランジを通じてQExactive(商標)Plus Orbitrap(商標)質量分析計に結合されており、その結果、ICPによって生成されたイオンは、
図2Aおよび
図2Bに示されているように、高エネルギー衝突解離(HCD)セルを介してOrbitrap(商標)質量分析計に導入されている。HCDセルはトラップモードで動作しており、独立して制御される軸方向場を有していた。
【0099】
図3の質量分析計100’は、
図1の質量分析計100のように、ICPイオン源1、サンプリングコーン2、スキマーコーン3、イオン抽出光学系4、角度偏向アセンブリ5、事前選択四重極焦点レンズ7、事前選択四重極入口開口8、事前選択四重極9を備える。
図3の質量分析計100’は、Orbitrap(商標)分析器へのイオン透過またはSEM(二次電子増倍管)検出器32へのイオン反射のいずれかを可能にするリバウンドレンズ31をさらに備える。HCD(高エネルギー衝突解離)セル10および34は、
図1の実施形態の衝突セル10と同一であり得る。本発明によれば、HCDセル10は、質量流コントローラおよび異なる衝突ガスを備えたCRCとして使用することができる。移動八重極33は、Orbitrap(商標)分析器37に関連するさらなるHCDセル34にイオンを移動させることができる。HCDセル34から、イオンは、Cトラップ35に移動させることができ、イオンはそこから吐出され、質量分析のためにZレンズ36を介してOrbitrap(商標)分析器37へと進む。ICPイオン源を用いた実験では、分析物をOrbitrap(商標)分析器37のHCDセル34に注入してトラップし、Cトラップ35に移動させ、次いで、信号分析および検出のために、静電レンズ(Zレンズ)アセンブリ36を介してOrbitrap(商標)分析器37へとさらにパージした。
【0100】
エレクトロスプレーイオン化(ESI)源47、加熱キャピラリー46、Sレンズ45、注入フラタポール44、屈曲フラタポール43、さらなる分析四重極42、および移動八重極41が、例えば、生体分子種を分析するために提供される。移動八重極41はCトラップ35に結合され、その結果、HCDセル34、Zレンズ36、およびOrbitrap(商標)分析器37は、ESIによって生成されるイオンおよびICPによって生成されるイオンによって共有され得る。
【0101】
図4Aは、衝突セルにガスが導入されていない場合に、トリプル四重極MS機器の標準構成を使用して得られる典型的なICP-MSスペクトルを示している。「強度較正済み(cps)(10
6)」とラベル付けされた縦軸は、カウント/秒(cps)単位で測定されたスペクトルの(較正済み)強度を示し、「質量(u)」とラベル付けされた横軸は、統一原子質量単位またはダルトン単位の質量を示す。
図4Aに見られるように、ClO(左上)、ArO
+(中央上)、およびAr
2
+(左下)としてラベル付けされているピークは、0.5%HClを有する2% HNO
3 ICP-MSチューニング溶液中で検出されている、それぞれClO
+、ArO
+、およびAr
2
+の最も顕著な干渉に起因するさらに、
59Co、
115In、および
209Biの信号が示されている。示されている分析物は、1±0.05μg/l、または1ppbの濃度でチューニング溶液に存在していた。
【0102】
図4Bは、ClO
+/Co
+(下)、Ar
2
+/Co
+(中央)、およびArO
+/Co
+(上)の比の時間領域信号トレースを示している。縦軸は強度(cps)を示し、一方、横軸は時間を千秒(すなわち、キロ秒)単位で表す。平均して、これらの強度比はそれぞれ10、40、および75である。
【0103】
図5Aは、本発明の干渉抑制条件下における
図4Aと同じ成分のICP-MS信号を示している。CRCは12ml/分の流速においてヘリウムで充填され、トラップモードで動作した。衝突セルの長さに沿って、約0.2V/mmの軸方向場勾配が導入された。各トラップイベントには、2msの注入時間および後続する0.1msのパージ(解放)時間が含まれていた。トラップ波形は、500Hzの繰り返し率で四重極動作と非同期に実行された。
【0104】
図5Bは、干渉抑制モードにおけるマトリックスイオンとCo
+との信号比の時間領域表現を示している。
図4Bと同じマトリックス種を分析に選択した。ヘリウムガスが12ml/分の流速でCRCに充填され、0.2V/mmの電場がCRC軸に沿って印加される。
図5Bに示すように、平均して、干渉対Co
+の比は、ClO
+、Ar
2
+、ArO
+についてそれぞれ0.04、0.08、1.8に大幅に低減している。上記のように、これらの比はそれぞれ10、40、75であった。これは、それぞれ250、500、40倍の干渉抑制を構成する。
【0105】
干渉抑制モードでは、分析信号は様々な傾向を示す。例えば、Co+信号は40~50%低減し、一方、Bi+信号は250%増加する。同時に、ClO+、Ar2
+、およびArO+干渉信号は、100倍超で低減する。言い換えると、干渉抑制に起因して分析信号が増減する場合があるが、干渉信号は、いずれの分析信号よりもはるかに大きく低減する。
【0106】
図6Aおよび
図6Bは、マトリックス信号(
図6A)と分析物信号(
図6B)の両方の、軸方向勾配への依存性を示している。より詳細には、それらは、ガス流がある場合とない場合の2つの実験において、ボルト単位で表される勾配入口電位(横軸)の関数として、カウント(縦軸)で表される検出信号強度を示す。勾配入口または勾配入口電圧は、ベーンの第1の電極または入口電極の電圧である。衝突セル(ここではHCDと呼ばれる)のロッドまたはRF軸電極は、両方の実験において注入イベント(第1の期間)中に-10V、パージまたは解放イベント(第2の期間)中に+5Vのバイアスを有していた。
図6Bの結果は、12ml/分のヘリウムガス流を使用して得られた。
図6Aにおいて、縦(信号強度)軸上のスケールは、0~8.0×10
5であり、一方、
図6Bにおいて、スケールは0~3.0×10
5である。
【0107】
結果は、マトリックス信号抑制が負の軸方向勾配の増加で2~3桁の効果を呈する一方で、分析物信号は30~50%しか低減しないことを示している。分析物信号対マトリックス信号の比のこの向上は、関心のある種の衝突断面積に比例する抗力効果に起因する。マトリックス種の衝突断面積が、同じまたは類似のm/zの対応する分析物の衝突断面積よりも高いことに起因して、マトリックスイオンは、ガス導入ポートの上流に位置するCRC区画において、より顕著な減速を経験する。その結果、マトリックスイオンはトラップモードで動作するCRCセルの下流区画に効率的に蓄積されなくなり、標準の透過モードと比較して多原子干渉が大幅に低減することが証明されている。
【0108】
図7Aおよび
図7Bは、高分解能質量スペクトルの2つの領域を示しており、縦軸にイオンの相対存在量、横軸にm/z(質量対電荷)比を示している。質量スペクトルは、3ppb~30ppbの範囲の濃度で25個の元素を含むセットアップ2%HNO
3溶液を使用しながら、
図3に示すタイプのICP-Orbitrap(商標)質量分析計を用いて得た。Orbitrap(商標)分析器への注入に先立って、ICPによって生成されたイオンは、窒素(N
2)が充填された高エネルギー衝突セル(HCD)にトラップされ、その後、Orbitrap(商標)質量分析器への注入のためにCトラップに解放された。HCDは、0.5V/mmの線形場勾配で操作された。スペクトルはArO
+およびAr
2
+マトリックスイオンの完全な抑制を明らかにしている。高エネルギー(例えば、1~5kV、または約3~4kV)におけるCトラップからOrbitrap(商標)質量分析器へのイオンの吐出は、分子干渉イオンの除去に追加の増強効果を有する場合がある。したがって、本発明の別の態様は、本明細書に記載の衝突セルを介するか否かにかかわらず、ICPイオン源からイオントラップ(例えば、Cトラップなどの線形イオントラップ)にイオンを移動させることと、例えば、1~10kV、または1~5kV、または約3もしくは4kVの吐出エネルギーによって、トラップされたイオンをイオントラップから質量分析器へと吐出することとを含む。
【0109】
図7Aおよび
図7Bの測定データを以下の表に示す。
【表1】
【表2】
【0110】
本発明による衝突セルを動作させる方法の例示的な実施形態が、
図8に概略的に示されている。方法200は、方法が開始されるステップ201において開始する。ステップ202において、例えば1対以上のRF軸方向電極を使用することによって、イオンを拘束するために軸方向RF場が生成される。
【0111】
ステップ203において、イオンの運動エネルギーを低減し、それによってイオンを減速させるように構成されたDC電場分布が生成される。減速DC電場分布は、少なくとも1つのDC軸方向電極を使用することによって生成され得るが、好ましくは、いくつか、例えば、2つ、4つ、6つ、または8つのDC軸方向電極が使用される。
ステップ204において、ガス流が、衝突セルを通して生成され、ガス流は、衝突セルの長さの少なくとも一部、例えば、衝突セルの長さの約半分にわたる向流である。
【0112】
ステップ205において、イオンが順方向において衝突セルに供給され、ガス向流は逆方向である。すなわち、イオンが衝突セルに供給される順方向とガス向流方向は反対方向である。
【0113】
ステップ206において、衝突セル内にイオンをトラップするように、第1のDC電場分布が生成される。ステップ207において、トラップされたイオンを衝突セルから順方向に解放するように、第2のDC電場分布が生成される。方法は、ステップ206に戻ることができ、そこでトラップ場が生成される。すなわち、トラップステップ206および解放ステップ207は、より長い期間にわたって繰り返され得る。
【0114】
一部のステップは同時に実行されてもよく、少なくとも部分的に時間的に重複してもよく(例えば、ステップ202、203、204、205、および206または207)、または記載されている以外の順序で実行されてもよいため、方法請求項におけるステップのリストは、時系列を意味する必要がないことに留意されたい。例えば、RFフィールド生成ステップ202、ガス生成ステップ204、およびイオン供給ステップ205は、異なる順序で、または実質的に同時に実行されてもよい。イオン供給ステップ205は、トラップ場生成ステップ206が開始された後にのみ実行され得る。RF場生成ステップ202、ガス生成ステップ204、およびイオン供給ステップ205を連続的に実行することができる一方で、トラップステップ206および解放ステップ207を交互に実行することができる。
【0115】
ガス流は、イオンと非反応性であるガスを含み得る。いくつかの実施形態において、ガス流は、イオンと非反応性であるガスから全体的に構成され得るが、他の実施形態において、ガス流は、非反応性であってもなくてもよい少なくとも1つの他のガスを含み得る。イオンと非反応性のガスは、ヘリウムなどの不活性ガスであり得る。
【0116】
本発明は、特に単一原子分析物(すなわち、元素イオン)に、特に誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)用途に適用可能であることに留意されたい。本発明は、単一原子分析物の存在下における多原子干渉の抑制に最も効果的であるが、これに限定されない。したがって、本発明の方法では、衝突セルによって受け取られるイオンは、プラズマ源に由来し得、原子イオンおよび多原子イオンを含み得る。本発明による方法およびデバイスによって抑制され得る多原子干渉は、典型的にはプラズマイオン源および/または一般的なサンプルマトリックスに由来する多原子イオンAr2
+、ArO+、ArH+、ClO+のうちの1つ以上を含み得る。
【0117】
本発明の特定の実施形態は、以下の節に要約することができる。
1.質量分析計において衝突セルを動作させる方法であって、衝突セルが、入口開口、出口開口、少なくとも1つのDC出口電極および少なくとも1対のRF軸方向電極を備え、方法が、
前方軸方向において入口開口を通じて衝突セル内にイオンを供給することと、
少なくとも1対のRF軸方向電極を使用して、イオンを半径方向に閉じ込めるためのRF電場分布を生成することと、
第1の期間中に、少なくとも1つのDC出口電極を使用して、衝突セル内にイオンをトラップするための第1のDC電場分布を生成することと、
第2の期間中に、少なくとも1つのDC出口電極を使用して、トラップされたイオンを前方軸方向において出口開口に向かって解放するための第2のDC電場分布を生成することと、
衝突断面積に応じてイオンを分離するように、衝突セル内で、少なくとも入口開口の近くで、前方軸方向とは反対のガス流を生成することとを含む、方法。
【0118】
2.衝突セルが少なくとも1つのDC軸方向電極をさらに備え、方法が、
少なくとも1つのDC軸方向電極を使用して、入口開口を通って衝突セルに入るイオンの運動エネルギーを変調するための軸方向場勾配を有するさらなるDC電場分布を生成することをさらに含む、節1に記載の方法。
【0119】
3.軸方向場勾配が、衝突セルに入るイオンの運動エネルギーを低減するように構成されている、節2に記載の方法。
【0120】
4.軸方向電場勾配が、第1の期間中よりも第2の期間中により大きい、節3に記載の方法。
【0121】
5.ガス流が、閾値よりも低い流速を有する場合にのみ、さらなるDC電場分布が生成され、閾値が、好ましくは8ml/分~12ml/分、より好ましくは約10ml/分である、節3または4に記載の方法。
【0122】
6.軸方向場勾配が、衝突セルに入るイオンの運動エネルギーを増大させるように構成されている、節2に記載の方法。
【0123】
7.軸方向電場勾配が、第1の期間中よりも第2の期間中により小さい、節6に記載の方法。
【0124】
8.ガス流が、閾値よりも高い流速を有する場合にのみ、さらなるDC電場分布が生成され、閾値が、好ましくは8ml/分~12ml/分、より好ましくは約10ml/分である、節6または7に記載の方法。
【0125】
9.入口開口におけるガス流が、5ml/分~40ml/分の流速を有する、節1~8のいずれか一節に記載の方法。
【0126】
10.流速が、10ml/分~15ml/分、好ましくは約12ml/分である、節9に記載の方法。
【0127】
11.衝突セル内のガス圧が、0.001mbar~0.1mbar、好ましくは約0.01mbarである、節1~10のいずれか一節に記載の方法。
【0128】
12.ガス流が、入口開口と出口開口との間の距離の約4分の1~約4分の3に位置する少なくとも1つの入口ポートから、好ましくは入口開口と出口開口との間のほぼ中間から、イオンの前方軸方向と反対に流れる、節1~11のいずれか一節に記載の方法。
【0129】
13.ガス流が、イオンの前方軸方向と反対に、ほぼ出口開口に位置する少なくとも1つの入口ポートから流れる、節1~11のいずれか一節に記載の方法。
【0130】
14.ガス流が、イオンと非反応性であるガス、好ましくはヘリウムなどの不活性ガスを含む、節1~13のいずれか一節に記載の方法。
【0131】
15.第1の期間が、第2の期間より2倍~30倍、好ましくは約20倍長い、節1~14のいずれか一節に記載の方法。
【0132】
16.第1の期間が、約2msの持続時間を有し、第2の期間が、約0.1msの持続時間を有する、節15に記載の方法。
【0133】
17.衝突セルが、四重極構成を構成する2対のRF軸方向電極を備え、方法が、四重極構成を使用して、イオンを半径方向に閉じ込めるためのRF電場分布を生成することを含む、節1~16のいずれか一節に記載の方法。
【0134】
18.衝突セルが、六重極、八重極、またはより高次の構成を構成する3対以上のRF軸方向電極を備え、方法が、六重極、八重極、またはより高次の構成を使用して、イオンを半径方向に閉じ込めるためのRF電場分布を生成することを含む、節1~17のいずれか一節に記載の方法。
【0135】
19.イオンが、プラズマ源に由来し、原子イオンおよび多原子イオンを含む、節1~18のいずれか一節に記載の方法。
【0136】
20.質量分析方法であって、
プラズマイオン源においてイオンを生成することと、
イオンを衝突セルに輸送することと、
節1~19のいずれか一節に記載の方法に従って衝突セルを動作させることと、を含み、
第2のDC電場分布を生成することにより、イオンが衝突セルから吐出され、方法が、
吐出されたイオンを質量分析器に輸送することと、
質量分析器においてイオンを質量分析することと、をさらに含む、質量分析方法。
【0137】
21.質量分析計において使用するための衝突セルであって、
前方軸方向においてイオンを受け入れるための入口開口と、
前方軸方向においてイオンを放出するための出口開口と、
第1の期間中に、イオンをトラップするための第1のDC電場分布を生成し、第2の期間中に、出口開口に向かって前方軸方向に、トラップされたイオンを解放するための第2のDC電場分布を生成するための少なくとも1つのDC出口電極と、
イオンを半径方向に閉じ込めるためのRF電場分布を生成するための少なくとも1対のRF軸方向電極と、
衝突断面積に応じてイオンを分離するように、少なくとも入口開口の近くで、前方軸方向とは反対のガス流を受け入れるための少なくとも1つのガス入口ポートとを備える、衝突セル。
【0138】
22.入口開口を通って衝突セルに入るイオンの運動エネルギーを変調するための軸方向場勾配を有するさらなるDC電場分布を生成するための少なくとも1つのDC軸方向電極をさらに備える、節21に記載の衝突セル。
【0139】
23.少なくとも1つの軸方向電極が、抵抗勾配を有し、抵抗勾配が、好ましくは抵抗器の直列構成を含む、節22に記載の衝突セル。
【0140】
24.軸方向場勾配が、衝突セルに入るイオンの運動エネルギーを低減するように構成されている、節22または23に記載の衝突セル。
【0141】
25.第1の期間中よりも第2の期間中により大きい軸方向電場勾配を生成するように構成されている、節24に記載の衝突セル。
【0142】
26.ガス流が閾値よりも低い流速を有する場合にのみ、さらなるDC電場分布を生成するように構成されており、閾値が好ましくは8ml/分~12ml/分、より好ましくは約10ml/分である、節24または25に記載の衝突セル。
【0143】
27.軸方向場勾配が、衝突セルに入るイオンの運動エネルギーを増大させるように構成されている、節21に記載の衝突セル。
【0144】
28.第1の期間中よりも第2の期間中により小さい軸方向電場勾配を生成するように構成されている、節27に記載の衝突セル。
【0145】
29.ガス流が閾値よりも高い流速を有する場合にのみ、加速軸方向場勾配を有する電場を生成するように構成されており、閾値が好ましくは8ml/分~12ml/分、より好ましくは約10ml/分である、節27または28に記載の方法。
【0146】
30.5ml/分~40ml/分の、入口開口におけるガス流の流速を提供するための少なくとも1つのガス源をさらに備える、節21~29のいずれか一節に記載の衝突セル。
【0147】
31.流速が、10ml/分~15ml/分、好ましくは約12ml/分である、節30に記載の衝突セル。
【0148】
32.ガス圧を0.001mbar~0.1mbar、好ましくは約0.01mbarに維持するように構成されている、節21~31のいずれか一節に記載の衝突セル。
【0149】
33.少なくとも1つのガス入口ポートが、入口開口と出口開口との間の距離の約4分の1~約4分の3、好ましくは入口開口と出口開口との間のほぼ中間から配置されている、節21~32のいずれか一節に記載の衝突セル。
【0150】
34.少なくとも1つのガス入口ポートが、ほぼ出口開口に配置されている、節21~33のいずれか一節に記載の衝突セル。
【0151】
35.ガス流が、イオンと非反応性であるガス、好ましくはヘリウムなどの不活性ガスを含む、節21~34のいずれか一節に記載の衝突セル。
【0152】
36.少なくとも1つのDC出口電極が、出口開口付近に配置されている、節21~35のいずれか一節に記載の衝突セル。
【0153】
37.少なくとも1つのDC出口電極が、出口開口付近を画定する、節21~35のいずれか一節に記載の衝突セル。
【0154】
38.DC電極およびRF電極への電圧を生成する電場分布を供給するための少なくとも1つの電圧源をさらに備える、節21~37のいずれか一節に記載の衝突セル。
【0155】
39.節21~38のいずれか一節に記載の少なくとも1つの衝突セルを備える、質量分析計。
【0156】
40.プラズマイオン源などの少なくとも1つのイオン源と、少なくとも1つの質量分析器と、イオンを検出するための少なくとも1つの検出器とをさらに備える、節39に記載の質量分析計。
【0157】
41.質量分析計を提供するための部品キットであって、
少なくとも1つのイオン源、
少なくとも1つの質量分析器、
イオンを検出するための少なくとも1つの検出器、および
節21~38のいずれか一節に記載の少なくとも1つの衝突セルと、を備える、部品キット。
【0158】
本発明が上述されている実施形態に限定されないこと、ならびに、添付の特許請求の範囲に規定されている本発明の範囲から逸脱することなく、多くの追加および修正を行うことができることが、当業者には理解されよう。