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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】ニオブ酸化合物分散液及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 33/00 20060101AFI20221102BHJP
【FI】
C01G33/00 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022515783
(86)(22)【出願日】2021-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2021046954
【審査請求日】2022-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2020216109
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒川 泰輝
(72)【発明者】
【氏名】原 周平
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-127392(JP,A)
【文献】特開2018-104242(JP,A)
【文献】特開2007-005161(JP,A)
【文献】特開2005-306641(JP,A)
【文献】特開2015-081220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ酸化合物の一部又は全部が、低級アルコール及び水を主溶媒とし、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、又は、第4級アンモニウム化合物、又は、これらのうちの2種以上(これらを「アミン化合物溶剤」とも称する)を含有する混合溶媒に、分散又は溶解してなるニオブ酸化合物分散液であって、
揮発温度が200℃以上の有機物並びにハロゲン元素を含有せず、
水を5.0質量%以上含有し、
前記アミン化合物溶剤の含有量が、ニオブ(Nb)の含有量に対してモル比で0.50以上であり、
前記ニオブ酸化合物に由来する成分、前記アミン化合物溶剤に由来する成分及び水以外の含有成分(「残部」と称する)の70質量%以上を前記低級アルコールが占め、
ニオブをNb25換算で10質量%以上含有することを特徴とするニオブ酸化合物分散液。
【請求項2】
ニオブ酸化合物の一部又は全部が、低級アルコール及び水を主溶媒とし、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、又は、第4級アンモニウム化合物、又は、これらのうちの2種以上(これらを「アミン化合物溶剤」とも称する)を含有する混合溶媒に、分散又は溶解してなるニオブ酸化合物分散液であって、
揮発温度が200℃以上の有機物並びにハロゲン元素を含有せず、
水を5.0質量%以上含有し、
前記アミン化合物溶剤の含有量が、ニオブ(Nb)の含有量に対してモル比で0.80以上であり、
前記ニオブ酸化合物に由来する成分、前記アミン化合物溶剤に由来する成分及び水以外の含有成分(「残部」と称する)の70質量%以上を前記低級アルコールが占めることを特徴とするニオブ酸化合物分散液。
【請求項3】
ニオブ酸化合物の一部又は全部が、低級アルコール及び水を主溶媒とし、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、又は、第4級アンモニウム化合物、又は、これらのうちの2種以上(これらを「アミン化合物溶剤」とも称する)を含有する混合溶媒に、分散又は溶解してなるニオブ酸化合物分散液であって、
揮発温度が200℃以上の有機物並びにハロゲン元素を含有せず、
水を5.0質量%以上含有し、
前記アミン化合物溶剤の含有量が、ニオブ(Nb)の含有量に対してモル比で0.50以上であり、
前記ニオブ酸化合物に由来する成分、前記アミン化合物溶剤に由来する成分及び水以外の含有成分(「残部」と称する)の70質量%以上を前記低級アルコールが占め、
アンモニウムイオンを含み、Nb含有量に対するアンモニウムイオン含有量のモル比(NH +/Nb)が0.60超であることを特徴とするニオブ酸化合物分散液。
【請求項4】
ニオブ酸化合物の一部又は全部が、低級アルコール及び水を主溶媒とし、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、又は、第4級アンモニウム化合物、又は、これらのうちの2種以上(これらを「アミン化合物溶剤」とも称する)を含有する混合溶媒に、分散又は溶解してなるニオブ酸化合物分散液であって、
揮発温度が200℃以上の有機物並びにハロゲン元素を含有せず、
水を5.0質量%以上含有し、
前記アミン化合物溶剤の含有量が、ニオブ(Nb)の含有量に対してモル比で0.50以上であり、
前記ニオブ酸化合物に由来する成分、前記アミン化合物溶剤に由来する成分及び水以外の含有成分(「残部」と称する)の70質量%以上を前記低級アルコールが占め、
波長400nmにおける光線透過率が99.5%以上であることを特徴とすることを特徴とするニオブ酸化合物分散液。
【請求項5】
ニオブをNb25換算で0.1~40質量%含有することを特徴とする、請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載のニオブ酸化合物分散液。
【請求項6】
波長400nmにおける光線透過率が65%以上であることを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のニオブ酸化合物分散液。
【請求項7】
以下に示す密着性評価にて合格と評価される、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のニオブ酸化合物分散液。
<密着性評価>
ニオブ酸化合物分散液を、スピンコーターを用いてソーダガラス基材上に1回塗布し、この塗布膜付ソーダガラス基材を、200℃×3時間の条件下で焼成した後、25℃まで冷却し、前記塗布膜の表面に、JIS Z 1522:2009に準じて、セロハン粘着テープ24mm×15mを貼り、粘着テープの表面を指先で3回擦った後、1分以内に、粘着テープの端をつかみ、60°±10°の角度で0.5~1.0秒で粘着テープを剥離させた際、塗布膜表面が滑らかで且つ剥がれが一切ないものを「合格」と評価する。
【請求項8】
請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のニオブ酸化合物分散液を塗布して乾燥することを特徴とするニオブ酸化合物膜の製造方法。
【請求項9】
ニオブ酸とアンモニウムイオンを有する化合物であるニオブ酸化合物(「前駆体」と称する)と、低級アルコールのみ、又は、水および低級アルコールからなる溶媒と、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、又は、第4級アンモニウム化合物、又は、これらのうちの2種以上(これらを「アミン化合物溶剤」とも称する)とを混合するニオブ酸化合物分散液の製造方法であって、
製造されるニオブ酸化合物分散液は、揮発温度が200℃以上の有機物並びにハロゲン元素を含有せず、前記アミン化合物溶剤の含有量が、ニオブ(Nb)の含有量に対してモル比で0.80以上であることを特徴とするニオブ酸化合物分散液の製造方法。
【請求項10】
ニオブ酸とアンモニウムイオンを有する化合物であるニオブ酸化合物(「前駆体」と称する)と、低級アルコールのみ、又は、水および低級アルコールからなる溶媒と、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、又は、第4級アンモニウム化合物、又は、これらのうちの2種以上(これらを「アミン化合物溶剤」とも称する)とを混合するニオブ酸化合物分散液の製造方法であって、
製造されるニオブ酸化合物分散液は、揮発温度が200℃以上の有機物並びにハロゲン元素を含有せず、アンモニウムイオンを含み、Nb含有量に対するアンモニウムイオン含有量のモル比(NH +/Nb)が0.60超であることを特徴とするニオブ酸化合物分散液の製造方法。
【請求項11】
ニオブ酸とアンモニウムイオンを有する化合物であるニオブ酸化合物(「前駆体」と称する)と、低級アルコールのみ、又は、水および低級アルコールからなる溶媒と、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、又は、第4級アンモニウム化合物、又は、これらのうちの2種以上(これらを「アミン化合物溶剤」とも称する)とを混合するニオブ酸化合物分散液の製造方法であって、
製造されるニオブ酸化合物分散液は、揮発温度が200℃以上の有機物並びにハロゲン元素を含有せず、波長400nmにおける光線透過率が99.5%以上であることを特徴とするニオブ酸化合物分散液の製造方法。
【請求項12】
ニオブ酸とアンモニウムイオンを有する化合物であるニオブ酸化合物(「前駆体」と称する)と、低級アルコールのみ、又は、水および低級アルコールからなる溶媒と、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、又は、第4級アンモニウム化合物、又は、これらのうちの2種以上(これらを「アミン化合物溶剤」とも称する)とを混合して、揮発温度が200℃以上の有機物並びにハロゲン元素を含有しないニオブ酸化合物分散液を製造する、ニオブ酸化合物分散液の製造方法であって、
前記前駆体は、Nb含有量に対するアンモニウムイオン含有量のモル比(NH +/Nb)が0.55以上であることを特徴とするニオブ酸化合物分散液の製造方法。
【請求項13】
製造されるニオブ酸化合物分散液は、ニオブをNb25換算で0.1~40質量%含有することを特徴とする、請求項ないし請求項12のいずれか1項に記載のニオブ酸化合物分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ酸化合物が有機系溶媒に分散乃至溶解してなるニオブ酸化合物分散液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニオブ(Nb)と酸素(O)を含有するニオブ酸化合物として、酸化ニオブ、水酸化ニオブ、ニオブのポリ酸などが知られている。これらは、例えば光学、電子などの原料や添加剤などとして用いられている。
また、ニオブ酸が固体酸性を示すことから、触媒としての研究もなされている。例えば、非特許文献1では、ポリ酸として知られている金属酸化物クラスター[MxOy]n-の中でも、Nbなどの5族元素のポリ酸について、特に優れた塩基触媒作用が報告されている。
【0003】
さらにまた、酸化ニオブは、高い屈折率及び誘電率を有するため、近年、オプトエレクトロニクス材料などにおいて、半導体材料、表面保護剤、反射防止材、屈折率調整剤、触媒等として、ニオブ酸化合物からなる微粒子が分散媒に分散している状態のニオブ酸化合物分散液が注目され、開発が進められている。
このようなニオブ酸化合物分散液は、例えば、各種部品の表面に塗布して乾燥させることにより、当該部品に所望の機能を付与することができる。中でも、ニオブ酸化合物が有機系溶媒に分散してなるニオブ酸化合物オルガノ分散液は、樹脂などにも製膜することができる上、揮発性に優れているため製膜性が高いという特徴を有している。
【0004】
この種のニオブ酸化合物分散液に関しては、例えば特許文献1において、親水性溶媒との相溶性が高いニオブ酸ゾルの製造方法として、無機酸を混合したニオブ酸アンモニウムゾルを洗浄してアンモニアを除去した後、アミン化合物の存在下で加熱してアンモニアを除去し、さらに有機酸を添加することを特徴とするニオブ酸ゾルの製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、ニオブ酸を主たる成分とする微粒子と安定化剤とを含有し、任意成分としてアンモニアを含有する場合には、NH/Nb(モル比)<1.0であるニオブ酸オルガノゾルが開示されていると共に、その製造方法として、水存在下にて、ニオブ酸を主たる成分とする微粒子と、アミン塩系カチオン型界面活性剤や第4級アンモニウム化合物塩系カチオン型界面活性剤などの安定化剤と、アミン化合物とを含有する混合液を調製する工程と、前記工程で得られた混合液を溶媒置換して当該オルガノゾルを得る工程を含む方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】山添 誠司「多価アニオン金属酸化物クラスターの塩基触媒応用」2018, The Chemical Society of Japan
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-81220号公報
【文献】特開2018-127392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来開示されているニオブ酸化合物分散液の多くは、上述のように、安定化剤として、揮発し難い有機物やハロゲンを含んでいるため、各種部品表面にニオブ酸化合物分散液を塗布した後、低温で乾燥処理して製膜すると、表面膜中にこれらの成分が残留してしまうという問題を抱えていた。
また、上記特許文献1のように、ニオブ酸化合物分散液が有機酸を含んでいる場合、有機酸を嫌う用途もあるため、そのような用途には使用できなかった。
【0009】
そこで本発明は、ニオブ酸化合物が有機系溶媒に分散してなるニオブ酸化合物分散液に関し、揮発温度が200℃以上の有機物並びにハロゲン元素を実質的に含んでいなくても、ニオブ酸化合物が有機系溶媒に分散又は溶解してなる、新たなニオブ酸化合物分散液及びその製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ニオブ酸化合物の一部又は全部が、低級アルコール及び水を主溶媒とし、低級アルコール及び水を主溶媒とし、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、又は、第4級アンモニウム化合物、又は、これらのうちの2種以上(これらを「アミン化合物溶剤」とも称する)を含有する混合溶媒に、分散又は溶解してなるニオブ酸化合物分散液であって、
水を5.0質量%以上含有し、前記アミン化合物溶剤の含有量が、ニオブ(Nb)の含有量に対してモル比で0.50以上であり、前記ニオブ酸化合物に由来する成分(「ニオブ酸化合物由来成分」と称する)、前記アミン化合物溶剤に由来する成分(「アミン化合物溶剤由来成分」と称する)及び水以外の含有成分(「残部」と称する)の70質量%以上を前記低級アルコールが占めることを特徴とするニオブ酸化合物分散液を提案する。
【0011】
本発明はまた、ニオブ酸とアンモニウムイオンを有する化合物であるニオブ酸化合物(「前駆体」と称する)と、低級アルコール乃至水と、前記アミン化合物溶剤とを混合することを特徴とする、ニオブ酸化合物分散液の製造方法を提案する。
【発明の効果】
【0012】
ニオブ酸化合物はそれ単独では、低級アルコール及び水からなる溶媒に分散乃至溶解させることが難しい。しかし、その溶媒を主溶媒とし、それに前記アミン化合物溶剤を加えると、分散乃至溶解させることができる。
よって、本発明が提案するニオブ酸化合物分散液及びその製造方法によれば、揮発温度が200℃以上の有機物並びにハロゲン元素を実質的に含んでいなくても、ニオブ酸化合物が有機系溶媒に分散又は溶解してなる、新たなニオブ酸化合物分散液を提供することができる。
かかるニオブ酸化合物分散液は、各種分野において、半導体材料、表面保護剤、反射防止材、屈折率調整剤、触媒等として有効に利用することができる。また、各種材料の原料としても利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
<<本ニオブ酸化合物分散液>>
本発明の実施形態の一例に係るニオブ酸化合物分散液(「本ニオブ酸化合物分散液」)は、ニオブ酸化合物(「本ニオブ酸化合物」と称する)の一部又は全部が、低級アルコール及び水を主溶媒とし、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、又は、第4級アンモニウム化合物、又は、これらのうちの2種以上、すなわちアミン化合物溶剤を含有する混合溶媒(「本混合溶媒」と称する)に、分散又は溶解してなる分散液又は溶液である。
【0015】
本発明において、「ニオブ酸化合物が本混合溶媒に分散している」とは、ニオブ酸化合物からなる粒子が沈降せず均一に分散している状態を意味する。
他方、「ニオブ酸化合物が本混合溶媒に溶解している」とは、ニオブ酸化合物が本混合溶媒に溶解して透明になっている状態を意味する。
なお、波長400nmにおける光線透過率は本ニオブ酸化合物分散液のニオブ化合物粒子の分散性及び光透過性の観点から、65%以上が好ましく、中でも80%以上が好ましく、その中でも90%以上が好ましく、95%以上が更に好ましく、99%以上が特に好ましい。
前記「ニオブ酸化合物が本混合溶媒に溶解している(透明になっている)」とは、理論的には波長400nmにおける光線透過率が100%であるが、実用的には99.5%以上であれば透明であると見なすことができる。
【0016】
「ニオブ酸化合物の一部又は全部が、本混合溶媒に、分散又は溶解している」ことは、ニオブ酸化合物分散液の組成分析、目視観察並びに光線透過率測定によって判断することができる。
【0017】
本ニオブ酸化合物分散液は、液体状、懸濁液状(ゾル)、ペースト状のいずれであってもよい。
【0018】
<本ニオブ酸化合物>
本ニオブ酸化合物は、ニオブ酸を含む化合物であればよい。例えば、Nb、O及びHからなるか、若しくは、Nb、O、H及びNからなる化合物を挙げることができる。その中でも、本混合溶媒に対する分散性乃至溶解性に優れている観点から、例えばニオブ酸アンモニウム又はその塩であるのが好ましい。但し、これらに限定されるものではない。
【0019】
中でも、本ニオブ酸化合物は、本混合溶媒に対する分散性乃至溶解性に優れている観点から、ポリ酸構造を有する化合物であるのが好ましい。
その中でも、本混合溶媒に対する分散性乃至溶解性に優れている観点から、ニオブのポリ酸と、アンモニウムイオンとの化合物であるのが好ましい。例えば、式:[NbxOy]n-・mH2O(6≦x≦10、19≦y≦28、n=6、mは0~50の整数)で表される構造を有する含水化合物であるのが好ましい。具体的には、[Nb619]6-・mH2Oで表される構造を有する含水化合物などを挙げることができる。但し、この含有化合物に限定するものではない。
【0020】
本ニオブ酸化合物が、ニオブ酸とアンモニウムイオンを有する化合物である場合、ニオブ(Nb)含有量に対するアンモニウムイオン含有量のモル比(NH +/Nb)は、本ニオブ酸化合物の分散性乃至溶解性をさらに高まる観点から、0.50以上であるのが好ましい。
かかる観点から、当該モル比は0.55以上であるのがより好ましく、その中でも0.58以上、その中でも0.60以上であるのが特に好ましい。他方、当該モル比(NH +/Nb)の上限値は、アミン化合物溶剤の効果を阻害しないという観点から、20以下である。
なお、上記ニオブ(Nb)含有量及び上記アンモニウムイオン(NH4+)の含有量は、ニオブ酸化合物分散液から求めることができる。
上記ニオブ(Nb)含有量は、ニオブ酸化合物分散液の一部を110℃で24時間乾燥後、1000℃にて4時間焼成することでNbを生成させ、その質量から、ニオブ酸化合物分散液に含まれるNb濃度を算出し、このNb濃度からNb含有量を算出する重量法により求めることができる。すなわち、算出されたNb濃度(質量濃度)を、Nbの分子量の1/2である132.9で割ることで、Nbのモル濃度に換算することができる。
また、上記アンモニウムイオン(NH +)の含有量は、例えば、ケルダール法にて、アンモニア性窒素、1~3級アミン性窒素及び4級アンモニウム性窒素のニオブ酸化合物分散液中の合計含有量を求める一方、例えば後述する方法にて、1~3級アミン性窒素及び4級アンモニウム性窒素のニオブ酸化合物分散液中の含有量を求め、前者の含有量から後者の含有量を差し引いた後、モル濃度で計算していた場合はそのままの値を用い、また、質量濃度で計算していた場合は窒素の原子量である14.01で割って、窒素(N)のモル濃度=NH4+のモル濃度に換算することにより、算出することができる。
【0021】
本ニオブ酸化合物は、本混合溶媒中では、ニオブ酸化合物のコロイド粒子として存在するか、若しくは、その一部又は全部が溶解してイオンとして存在する。
例えば、本ニオブ酸化合物がニオブ酸とアンモニウムイオンを有する化合物である場合、本混合溶媒中では、ニオブ酸化合物のコロイド粒子として存在するか、若しくは、ニオブ酸のイオン及びアンモニウムイオンとして存在することになる。
【0022】
<本混合溶媒>
本混合溶媒は、低級アルコール及び水を主溶媒とする溶媒である。
当該「主溶媒」とは、本混合溶媒の50質量%以上を低級アルコール及び水が占めるという意味であり、中でも60質量%以上、その中でも70質量%以上、その中でも80質量%以上、その中でも90質量%以上、その中でも95質量%以上(100質量%を含む)を低級アルコール及び水が占める場合が想定される。
【0023】
本ニオブ酸化合物分散液は、本混合溶媒に対する本ニオブ酸化合物の分散性乃至溶解性を高めることができるという観点から、水を5.0質量%以上含有するのが好ましく、中でも8.0質量%以上、その中でも9.0質量%以上、その中でも10質量%以上であるのがさらに好ましい。
但し、水の量が多過ぎると、成膜性が悪化する可能性があるため、上限値は95質量部%以下であるのが好ましく、中でも90質量%以下、その中でも85質量%以下であるのがさらに好ましい。
なお、前記の水は、後述するフッ素除去して得られたニオブ酸化合物含有物を乾燥させない場合及びアミン化合物溶剤にも通常含まれているので、水を加えなくても水を含有することになる。
【0024】
本混合溶媒における「低級アルコール」は、炭素数5以下のアルコールを意味し、多価アルコールも包含する。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0025】
本混合溶媒は、低級アルコール及び水を主溶媒とし、低級アルコール及び水を主溶媒とし、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、又は、第4級アンモニウム化合物、又は、これらのうちの2種以上、すなわちアミン化合物溶剤を含有する溶媒である。
【0026】
ここで、上記アミンとしては、低級アルコール及び水を主溶媒とし、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、又は、第4級アンモニウム化合物、又は、これらのうちの2種以上の混合物を使用可能である。溶解性の観点から、第1級アミン、第2級アミン、又は、第4級アンモニウム化合物、又は、これらのうちの2種類以上の混合物が好ましく、中でも第1級アミン又は第4級アンモニウム化合物又はこれら両方の混合物が好ましい。
好適な具体例として、後述するアルキルアミン(第4級アルキルアンモニウム化合物も含む)、コリン([(CHNCHCHOH])、水酸化コリン([(CHNCHCHOH]OH)などを挙げることができる。
【0027】
上記アルキルアミン(第4級アルキルアンモニウム化合物を含む)としては、アルキル基を1~4個有するものが使用可能である。中でも、アルキル基の数が1、2又は4個のものが好ましく、その中でも1又は4個のものがさらに好ましい。
アルキル基を2~4個有する場合、2~4個のアルキル基は全部同じものでもよいし、また、異なるなるものを含んでいてもよい。
上記アルキルアミンのアルキル基としては、溶解性の観点から、アルキル基の炭素数1~6のものが好ましく、中でも4以下、その中でも3以下、さらにその中でも2以下のものがさらに好ましい。
【0028】
上記アルキルアミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、エチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエチルアミン、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)、水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAH)、n-プロピルアミン、ジn-プロピルアミン、トリn-プロピルアミン、iso-プロピルアミン、ジiso-プロピルアミン、トリiso-プロピルアミン、n-ブチルアミン、ジn-ブチルアミン、トリn-ブチルアミン、iso-ブチルアミン、ジiso-ブチルアミン、トリiso-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、n-ペンタアミン、n-ヘキサアミンなどを挙げることができる。
中でも、溶解性の点からは、メチルアミン、ジメチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、エチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、および、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)が好ましく、中でもメチルアミン、エチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)がさらに好ましい。とりわけ、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)が最も好ましい。
なお、上記アルキルアミンは、これらの一種を単独で用いることも、二種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0029】
他方、第4級アンモニウム化合物としては、上記アルキルアミンとして紹介した第4級アルキルアンモニウム化合物以外に、例えば水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、水酸化コリンなど、ハロゲンを含有しない第4級アンモニウム化合物を好ましく挙げることができる。
【0030】
本混合溶媒は、上記主溶媒及びアミン化合物溶剤以外の溶媒成分(「他の溶媒成分」と称する)を含有することも可能である。
当該他の溶媒成分としては、ケトン、エーテル、ニトリルなどを挙げることができる。
【0031】
<本ニオブ酸化合物分散液における組成>
本ニオブ酸化合物分散液において、前記アミン化合物溶剤の含有量は、本混合溶媒に対する本ニオブ酸化合物の分散性乃至溶解性を高める観点から、ニオブ(Nb)の含有量に対して、モル比で0.50以上であるのが好ましく、中でも0.60以上、その中でも0.80以上、その中でも1.0以上であるのがさらに好ましい。
但し、成膜した際の乾燥容易性の観点から、当該モル比で30以下であるのが好ましく、中でも20以下、その中でも10以下であるのがさらに好ましい。
【0032】
この際、「アミン化合物溶剤の含有量」には、アミン化合物溶剤に由来するもののほか、本ニオブ酸化合物、すなわち後述する前駆体に由来するものも含まれる。
【0033】
本ニオブ酸化合物分散液において、ニオブの含有量は、ニオブを有効利用する観点から、ニオブをNb25換算で0.1質量%以上含有するのが好ましく、中でも0.5質量%以上、その中でも1.0質量%以上の割合で含有するのがさらに好ましい。他方、分散乃至溶解の観点から、ニオブをNb25換算で40質量%以下の割合で含有するのが好ましく、中でも35質量%以下、その中でも30質量%以下の割合で含有するのがさらに好ましい。
なお、本ニオブ酸化合物分散液において、ニオブ乃至ニオブ酸は、必ずしもNb25状態で存在するものではない。ニオブ乃至ニオブ酸の含有量を、Nb25換算で示しているのは、Nb濃度を示す際の慣例に基づくものである。
本ニオブ酸化合物分散液中のニオブ含有量は、20mLの分散液を蒸発乾固させて1000℃で4時間焼成することで得られるNb25の質量を測定する重量法にて測定することができる。
【0034】
本ニオブ酸化合物分散液において、前記アミン化合物溶剤の含有量は、ニオブの含有量に応じて適宜調整するのが好ましい。目安を挙げるならば、分散性の観点から、2.0質量%以上含有するのが好ましく、中でも3.0質量%以上、その中でも5.0質量%以上の割合で含有するのがさらに好ましい。他方、30質量%以下、その中でも20質量%以下の割合で含有するのがさらに好ましい。
【0035】
本ニオブ酸化合物分散液中の前記アミン化合物溶剤の含有量は、1~3級アミンについては、ヘキサン抽出・ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)によって測定することができ、4級アンモニウム化合物については、ダイレクトMS法によって測定することができる。
前記GC-MSの装置としては、日本電子製JMS-Q1500GCなどが使用可能である。また、前記ダイレクトMS法の装置としては、サーモフィッシャー社製Q-Exactiveなどを使用することができる。
【0036】
本ニオブ酸化合物分散液において、低級アルコールと水の比率に関しては、分散乃至溶解の観点から、低級アルコールの含有量100質量部に対する水の含有量が5.5質量部以上であるのが好ましく、中でも6.0質量部以上、その中でも8.0質量部以上、その中でも10質量部以上であるのがさらに好ましい。他方、樹脂への成膜性の観点から、1000質量部以下であるのが好ましい。
なお、低級アルコール及び水については、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)によって測定することができ、日本電子製JMS-Q1500GCなどが使用可能である。
【0037】
本ニオブ酸化合物分散液において、前記ニオブ酸化合物由来成分、前記アミン化合物溶剤由来成分及び水以外の含有成分(「残部」と称する)の70質量%以上を低級アルコールが占めるのが好ましい。
当該残部の70質量%以上を低級アルコールが占めることにより、分散性又は溶解性又はその両方を向上させることができる。
かかる観点から、当該残部の80質量%以上を低級アルコールが占めるのがより一層好ましく、その中でも90質量%以上、その中でも95質量%以上(100質量%を含む)を低級アルコールが占めるのがさらに好ましい。
【0038】
なお、上記「ニオブ酸化合物由来成分」とは、本ニオブ酸化合物、及び、本ニオブ酸化合物が本混合溶媒に溶解して変化した成分、例えばニオブ酸のイオン、アンモニウムイオンなどを意味する。
また、「アミン化合物溶剤に由来する成分」とは、本アミン化合物溶剤のほか、本アミン化合物溶剤が本ニオブ酸化合物などと反応して変化した成分を意味する。
当該残部には、低級アルコール以外の有機溶媒(例えばアセトンなど)のほか、各種添加剤が含まれる可能性がある。
【0039】
本ニオブ酸化合物分散液中の「ニオブ酸化合物由来成分」の含有量は、蒸発乾固させて1000℃で4時間焼成することでNbを生成させ、その質量から分散液に含まれる「ニオブ酸化合物由来成分」を算出することで測定することができる(重量法)。
他方、「アミン化合物溶剤に由来する成分」の含有量は、1~3級アミンについては、ヘキサン抽出・ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)によって測定することができ、4級アンモニウム化合物については、ダイレクトMS法によって測定することができる。
【0040】
本ニオブ酸化合物分散液は、安定化剤や有機酸など、揮発温度が200℃以上の有機物並びにハロゲン元素を実質的に含んでいなくてもよいことが、特徴の一つである。
ここで、「揮発温度が200℃以上の有機物並びにハロゲン元素を実質含まない」とは、意図してこれらを含有させないという意味であり、意図せず含んでしまう場合、すなわち不可避不純物として含まれる場合を除き、含まないという意味である。
【0041】
前記「安定化剤」とは、特開2018-127392号公報に挙げられている、アミン塩系カチオン型界面活性剤、第4級アンモニウム化合物塩系カチオン型界面活性剤などである。但し、これらに限定されるものではない。
前記アミン塩系カチオン型界面活性剤としては、例えばオクタデシルアミン、オキシエチレンドデシルアミン、ポリオキシエチレンドデシルアミン等を挙げることができる。
前記第4級アンモニウム化合物塩系カチオン型界面活性剤としては、例えばジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等を挙げることができる。
【0042】
前記「有機酸」とは、特許文献1に記載されているモノカルボン酸、ジカルボン酸、オキシカルボン酸などを挙げることができる。
例えば、前記モノカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、n-酪酸、吉草酸等を挙げることができ、前記ジカルボン酸としては、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、マロン酸、フマル酸、グルタル酸等を挙げることができ、前記オキシカルボン酸としては、クエン酸、グリコール酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸等を挙げることができる。
但し、有機酸をこれらに限定するものではない。
【0043】
揮発温度が200℃以上の有機物を含んでいないことは、イオンクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーなどにより測定することができる。
また、ハロゲン元素を含んでいないことは、ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法、ICP-OES/ICP-AES)及びイオンクロマトグラフィーなどにより測定することができる。
【0044】
<本ニオブ酸化合物分散液の性状>
本ニオブ酸化合物分散液は、本ニオブ酸化合物からなるコロイド粒子が本混合溶媒中に分散して懸濁している状態、すなわちゾルの状態であってもよいし、本ニオブ酸化合物が本混合溶媒中に溶解して透明な液体の状態であってもよい。
なお、本ニオブ酸化合物からなるコロイド粒子が本混合溶媒中に分散して懸濁している状態の場合は、該コロイド粒子の一部が本混合溶媒中に溶解していてもよい。
【0045】
(光線透過率)
本ニオブ酸化合物分散液は、波長400nmにおける光線透過率が65%を超えるものであり、中でも70%以上であるものが好ましく、その中でも80%以上、その中でも90%以上(100%を含む)であるものがさらに好ましい。
前述したように、本ニオブ酸化合物分散液は、ニオブ酸化合物が本混合溶媒に分散乃至溶解しているから、当該光線透過率は65%を超えるものである。
【0046】
(HSP)
本ニオブ酸化合物分散液は、本混合溶媒に対する本ニオブ酸化合物の溶解性を高める観点から、ニオブ酸化合物由来成分、アミン化合物溶剤由来成分及び水以外の残部、例えば低級アルコール及びその他の混合溶媒成分のHSP値に関し、
dD(分散項)≦16.0、dP(極性項)=8.5~11.5、dH(水素結合項)≧16.0、であるのが好ましい。
【0047】
かかる観点から、dD(分散項)は、15.8以下であるのがさらに好ましく、中でも15.5以下であるのがさらに好ましい。
dP(極性項)は、8.0以上或いは11.0以下であるのがさらに好ましく、中でも8.5以上或いは10.5以下であるのがさらに好ましい。
dH(水素結合項)は、18.5以上であるのがさらに好ましく、中でも19.0以上であるのがさらに好ましい。
【0048】
なお、HSP値(ハンセン溶解度パラメータ)は、ある物質が他のある物質にどのくらい溶けるのかという溶解性を表す指標である。
HSPは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメータを、分散項δD、極性項δP、水素結合項δHの3成分に分割し、三次元空間に表したものである。分散項δDは分散力による効果、極性項δPは双極子間力による効果、水素結合項δHは水素結合力による効果を示し、
dD(分散項)=δD:分子間の分散力に由来するエネルギー
dP(極性項)=δP:分子間の極性力に由来するエネルギー
dH(水素結合項)=δH:分子間の水素結合力に由来するエネルギー
と、表記される。(ここで、それぞれの単位はMPa0.5である。)
【0049】
前記分散項はファンデルワールス力、前記極性項はダイポール・モーメント、前記水素結合項は水、アルコールなどによる作用を反映している。そして、HSPによるベクトルが似ているもの同士は溶解性が高いと判断でき、ベクトルの類似度はハンセン溶解度パラメータの距離(HSP距離)で判断し得る。
【0050】
また、ハンセンの溶解度パラメータは、溶解性の判断だけではなく、ある物質が他のある物質中にどの程度存在しやすいか、すなわち分散性がどの程度良いかの判断の指標ともなり得る。
本発明においてHSP[δD、δP、δH]は、例えば、コンピュータソフトウエアHansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)を用いることによって、その化学構造から簡便に推算できる。具体的には、HSPiPに実装されている、Y-MB法により化学構造から求められるものである。また化学構造が未知である場合は、複数の溶媒を用いた溶解テストの結果からHSPiPに実装されているスフィア法により求められるものである。
【0051】
低級アルコールとその他の混合溶媒成分との混合成分のHSPは、混合比率(体積比率)に応じて、次のように求めることができる。
【0052】
(「初心者のためのHSP(https://pirika.com/HSP/JP/Examples/Docs/4Beginner.htm)」より引用。)
【0053】
(密着性)
本ニオブ酸化合物分散液は、次のようにコーティング液として塗布した際、以下に示す密着性評価にて「合格」と評価されるものとすることができる。
<密着性評価>
ニオブ酸化合物分散液を、スピンコーターを用いてソーダガラス基材上に1回塗布し、この塗布膜付ソーダガラス基材を、200℃×3時間の条件下で焼成した後、25℃まで冷却し、前記塗布膜の表面に、JIS Z 1522:2009「セロハン粘着テープ」に記載のセロハン粘着テープ24mm×15mを貼り、粘着テープの表面を指先で3回擦った後、1分以内に、粘着テープの端をつかみ、60°±10°の角度で0.5~1.0秒で粘着テープを剥離させた際、塗布膜表面が、滑らかで且つ剥がれが一切ないものを合格と評価する。
【0054】
<本ニオブ酸化合物分散液の製造方法>
次に、本ニオブ酸化合物分散液の好適な製造方法(「本製造方法」と称する)について説明する。
【0055】
本製造方法の一例として、ニオブ酸とアンモニウムイオンを有する化合物であるニオブ酸化合物(「前駆体」と称する)と、低級アルコール乃至水と、前記アミン化合物溶剤とを混合して、前駆体が分散又は溶解してなるニオブ酸化合物分散液を得る(「分散工程」と称する)という製造方法を挙げることができる。但し、本ニオブ酸化合物分散液の製造方法は、このような製造方法に限定されるものではない。
【0056】
本製造方法は、上記工程を備えていれば、他の工程若しくは他の処理を追加することは適宜可能である。
本製造方法によって得られたニオブ酸化合物分散液は、結局のところ、ニオブ酸化合物の一部又は全部が、低級アルコール乃至水と、前記アミン化合物溶剤とを含有する混合溶媒に、分散又は溶解してなるものになる。
【0057】
(前駆体)
前記前駆体は、本混合溶媒に対する分散性乃至溶解性が高いという観点から、ニオブ酸とアンモニウムイオンを有する化合物であるのが好ましく、ニオブ(Nb)含有量に対するアンモニウムイオン含有量のモル比(NH +/Nb)が0.50以上であるのが好ましく、中でも0.55以上、その中でも0.58以上、その中でも0.60以上であるのが好ましい。他方、アミン化合物溶剤の効果を阻害しないという観点から、20以下であるのが好ましく、中でも10以下であるのがさらに好ましい。
なお、前駆体中のアンモニウムイオン(NH +)の含有量は、上記本ニオブ酸化合物中の場合と同様な方法にて測定可能である。但し、前駆体が1級~3級アミン及び4級アンモニウム化合物を含有しないことがわかっている場合は、ケルダール法のみで測定可能である。
【0058】
(前駆体の製造方法)
前記前駆体の製造方法としては、フッ化ニオブ水溶液をアンモニア水溶液中に添加してニオブ含有沈殿物を得(「逆中和工程」と称する)、当該ニオブ含有沈殿物からフッ素を除去してニオブ酸化合物含有物、すなわち前記前駆体得ることができる。但し、前記前駆体の製造方法をこの製造方法に限定するものではない。
上記前駆体の製造方法は、上記工程を備えていれば、他の工程若しくは他の処理を追加することは適宜可能である。
【0059】
[逆中和工程]
逆中和工程では、フッ化ニオブ水溶液を、所定濃度のアンモニア水溶液中に添加してニオブ含有沈殿物を得るのが好ましい。すなわち、逆中和するのが好ましい。
アンモニア水溶液をフッ化ニオブ水溶液に添加して中和する正中和ではなく、フッ化ニオブ水溶液をアンモニア水溶に添加して中和する逆中和を行うことが好ましい。
逆中和することによって、ニオブ酸の構造が水に溶けやすい構造になると推測している。
【0060】
フッ化ニオブ水溶液は、ニオブ乃至ニオブ酸化物をフッ酸(HF)と反応させてフッ化ニオブ(H2NbF7)とし、これを水に溶解して作製することができる。
そしてこのフッ化ニオブ水溶液は、水(例えば純水)を加えて、ニオブをNb25換算で1~100g/L含有するように調製するのが好ましい。この際、ニオブ濃度が1g/L以上であれば、水に溶けやすいニオブ酸化合物になるので、フッ化ニオブ水溶液のニオブ濃度は、Nb25換算で1g/L以上であるがより好ましく、生産性を考えた場合、中でも10g/L以上、その中でも20g/L以上であるのがさらに好ましい。他方、ニオブ濃度が100g/L以下であれば、水に溶けやすいニオブ酸化合物になるので、より確実に水に溶けやすいニオブ酸化合物を合成するには、90g/L以下であるがより好ましく、中でも80g/L以下、その中でも70g/L以下であるのがさらに好ましい。
フッ化ニオブ水溶液のpHは、ニオブ乃至ニオブ酸化物を完全溶解させる観点から、2以下であるのが好ましく、中でも1以下であるのがさらに好ましい。
【0061】
他方、上記アンモニア水溶液は、アンモニア濃度が5.0~30質量%であることが好ましい。
逆中和に用いるアンモニア水溶液のアンモニア濃度を5.0質量%以上とすることで、Nbが溶け残ることを無くし、ニオブ乃至ニオブ酸を水に完全に溶けるようにさせることができる。他方、アンモニア水溶液のアンモニア濃度が30質量%以下であれば、アンモニアの飽和水溶液付近だから好ましい。
かかる観点から、アンモニア水溶液のアンモニア濃度は5.0質量%以上であるのが好ましく、中でも10質量%以上、中でも15質量%以上、中でも20質量%以上、その中でも25質量%以上であるのがさらに好ましい。他方、30質量%以下であるのが好ましく、中でも29質量%以下、その中でも28質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0062】
逆中和工程では、アンモニア水溶液に対するフッ化ニオブ水溶液の添加量(NH3/Nb25モル比)を95~300とするのが好ましく、中でも100以上或いは200以下、その中でも110以上或いは150以下とするのがさらに好ましい。
フッ化ニオブ水溶液及びアンモニア水溶液ともに常温でよい。
【0063】
逆中和工程では、前記フッ化ニオブ水溶液を前記アンモニア水溶液に添加する際、1分以内に中和反応させるのが好ましい。すなわち、時間をかけて徐々に前記フッ化ニオブ水溶液を加えるのではなく、例えば一気に投入するなど、1分以内の時間で投入して中和反応させるのが好ましい。
この際、前記フッ化ニオブ水溶液の添加時間は、1分以内とするのが好ましく、中でも30秒以内、その中でも10秒以内とするのがさらに好ましい。
【0064】
[F洗浄工程]
前記中和反応で得られた液、すなわちニオブ含有沈殿物には、不純物として、フッ化アンモニウムなどのフッ素化合物が存在するため、これらを除去してニオブ酸化合物含有物を得るのが好ましい。
【0065】
フッ素化合物の除去方法は任意である。例えば、アンモニア水や純水を用いた逆浸透ろ過、限外ろ過、精密ろ過などの膜を用いたろ過による方法のほか、遠心分離、その他の公知の方法を採用することができる。
F洗浄工程は、常温で行えばよく、それぞれの温度調整は特に必要ない。
【0066】
次に、前記工程でフッ素除去して得られたニオブ酸化合物含有物は、必要に応じて乾燥させてもよい。この際の乾燥方法は、公知に乾燥方法を適宜採用すればよい。
但し、水分を完全に除くと、ニオブ酸化合物の構造乃至性質が変化する可能性があるため、水分を残しておくのが好ましい。その意味では、遠心分離後、乾燥させない方が好ましい。
【0067】
(分散工程)
分散工程では、前述のように、前記ニオブ酸化合物(前駆体)と、主溶媒としての低級アルコール乃至水と、前記アミン化合物溶剤とを混合して、ニオブ酸化合物が分散又は溶解してなるニオブ酸化合物分散液を得ればよい。
【0068】
この際、前記前駆体と、前記主溶媒と、前記アミン化合物溶剤とを混合する順序を特に限定するものではない。
例えば、前記前駆体を、低級アルコール乃至水を主溶媒とする溶媒に添加してスラリーとし、該スラリーに前記アミン化合物溶剤を加えて分散又は溶解させてニオブ酸化合物分散液を得るようにしてもよい。
また、低級アルコール乃至水を主溶媒とし、これに前記アミン化合物溶剤を加えた混合溶媒に、前記前駆体を加えて分散又は溶解させてニオブ酸化合物分散液を得るようにしてもよい。
なお、「低級アルコール乃至水を主溶媒とする」とは、低級アルコールのみを主溶媒とする場合と、低級アルコール及び水を主溶媒とする場合とを包含する意味である。
但し、分散工程は、これらの方法に限定されるものではない。
【0069】
中でも、低級アルコールのみから、又は、水と低級アルコールとを混合して溶媒を調製し、当該溶媒に前駆体を加えて、必要に応じて攪拌してスラリーを得、当該スラリーに、前記アミン化合物溶剤を加えてニオブ酸化合物分散液を調製するのが好ましい。
この際、前記のように、低級アルコールのみを溶媒とした場合でも、ニオブ化合物が含有する水分により、水とアルコールからなる主溶媒となる。また、なお、アミン化合物溶剤も水を含有している場合が多い。
【0070】
このようにして得られたニオブ酸化合物分散液は、ニオブ酸化合物の一部又は全部が、低級アルコール及び水を主溶媒とし、前記アミン化合物溶剤を含有する混合溶媒に、分散又は溶解してなるものになる。
なお、フッ素除去して得られたニオブ酸化合物含有物及びアミン化合物溶剤が水を含有する場合は、その水も、ニオブ酸化合物分散液の混合溶媒中の水に該当する。
【0071】
前記アミン化合物溶剤としてのアミンとしては、上述のように、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、又は、第4級アンモニウム化合物、又は、これらのうちの2種以上の混合物を使用可能である。
中でも、溶解性の観点から、第1級アミン、第2級アミン、又は、第4級アンモニウム化合物、又は、これらのうちの2種類以上の混合物が好ましく、中でも第1級アミン又は第4級アンモニウム化合物又はこれら両方の混合物が好ましい。
具体的には、アルキルアミン(第4級アルキルアンモニウム化合物も含む)、コリン([(CHNCHCHOH])、水酸化コリン([(CHNCHCHOH]OH)などを好ましく例示することができる。
【0072】
上記アルキルアミン(第4級アルキルアンモニウム化合物を含む)としては、アルキル基を1~4個有するものが使用可能である。中でも、アルキル基の数が1、2又は4個のものが好ましく、中でも1又は4個のものがさらに好ましい。
アルキル基を2~4個有する場合、2~4個のアルキル基は全部同じものでもよいし、また、異なるなるものを含んでいてもよい。
前記アルキルアミンのアルキル基としては、溶解性の観点から、アルキル基の炭素数1~6のものが好ましく、中でも4以下、その中でも3以下、さらにその中でも2以下のものがさらに好ましい。
【0073】
上記アルキルアミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、エチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエチルアミン、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)、水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAH)、n-プロピルアミン、ジn-プロピルアミン、トリn-プロピルアミン、iso-プロピルアミン、ジiso-プロピルアミン、トリiso-プロピルアミン、n-ブチルアミン、ジn-ブチルアミン、トリn-ブチルアミン、iso-ブチルアミン、ジiso-ブチルアミン、トリiso-ブチルアミンおよびtert-ブチルアミン、n-ペンタアミン、n-ヘキサアミンなどを挙げることができる。
中でも、溶解性の点からは、メチルアミン、ジメチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、エチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)が好ましく、中でもメチルアミン、エチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)がさらに好ましい。とりわけ、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)が最も好ましい。
【0074】
他方、第4級アンモニウム化合物としては、上記アルキルアミンとして紹介した第4級アルキルアンモニウム化合物以外に、例えば水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、水酸化コリンなど、ハロゲンを含有しない第4級アンモニウム化合物を好ましく挙げることができる。
【0075】
水と低級アルコールとを混合して主溶媒を調製する際、低級アルコールと水との混合比率に関しては、分散性の観点から、低級アルコールの含有量100質量部に対する水の含有量が5.5質量部以上となるように混合するのが好ましく、中でも6.0質量部以上、その中でも8.0質量部以上、その中でも10質量部以上となるように混合するのがさらに好ましい。他方、樹脂への成膜性の観点から、1000質量部以下となるように混合するのが好ましい。
【0076】
<本ニオブ酸分散液の用途>
本ニオブ酸分散液は、例えば、ガラス、樹脂、金属板、酸化物、炭化物、窒化物、硫化物などからなる建材、車用部材、電子機器筐体、半導体材料、フィルム、顔料、触媒などへのコーティング液として利用することができる。ただし、本ニオブ酸分散液の用途が当該コーティング液に限定されるものではない。
【0077】
<語句の説明>
本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例
【0078】
本発明について、以下の実施例により更に説明する。但し、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【0079】
(実施例1)
五酸化ニオブ100gを55質量%フッ化水素酸水溶液200gに溶解させ、イオン交換水を1830mL添加することによって、ニオブをNb25換算で50g/L含有する(Nb25=4.69質量%)フッ化ニオブ水溶液を得た。
このフッ化ニオブ水溶液400mLを、アンモニア水(NH3濃度25質量%)1Lに、1分間未満の時間で添加して反応液(pH11)を得た。この反応液はニオブ酸化合物水和物のスラリー、言い換えればニオブ含有沈殿物のスラリーであった。
次に、前記反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、上澄み液のフリーフッ素量が100mg/L以下になるまで洗浄して、フッ素除去したニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)を得た。
このニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)の水分量は35.3質量%であった。
このニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)において、ニオブ(Nb)含有量に対する、アンモニウムイオン含有量のモル比(NH +/Nb)は0.8であった。
この際、前記Nb含有量は、前記ニオブ酸化合物含水物の一部を110℃で24時間乾燥後、1000℃で4時間焼成することでNb25を生成させ、その質量から、ニオブ酸化合物に含まれるNb25濃度を算出し、このNb25濃度からNb含有量を算出した。
また、前記アンモニアイオン含有量については、ケルダール法により測定した。
【0080】
前記フッ素除去したニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)13.2gにエタノール(水分量0.5質量%)48.4gを加えて撹拌し、その後、水酸化テトラメチルアンモニウム濃度6.0質量%になるように水酸化テトラメチルアンモニウム5水和物(アミン化合物溶剤すなわちTMAH濃度50質量%、水分量50質量%、表1の「アミン化合物溶剤含有物」)8.4gを添加して撹拌し、ニオブをNb25換算で10質量%含有するスラリーを調製した。このスラリーを24時間撹拌してニオブ酸化合物分散液(サンプル)を得た。このニオブ酸化合物分散液(サンプル)における水の含有量は13.0質量%であった。
【0081】
前記水酸化テトラメチルアンモニウム5水和物及びニオブ酸化合物含有物には水が含まれているため、実施例1で得られたニオブ酸化合物分散液(サンプル)は、低級アルコール及び水を主溶媒とし、アミン化合物溶剤としての水酸化テトラメチルアンモニウムを含有する混合溶媒に、ニオブ酸化合物の一部又は全部が分散又は溶解してなるニオブ酸化合物分散液である。
【0082】
(実施例2)
実施例1において、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)にエタノール(水分量0.5質量%)を加える代わりに、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)に、エタノール(水分量0.5質量%)と純水とを11.3:13.1の質量割合で含有する溶媒を加えて撹拌し、その後、水酸化テトラメチルアンモニウム濃度4.0質量%になるように水酸化テトラメチルアンモニウム5水和物(TMAH濃度50質量%、水分量50質量%)を添加して撹拌し、ニオブをNb25換算で10質量%含有するスラリーを調製した以外、実施例1と同様にしてニオブ酸化合物分散液(サンプル)を得た。このニオブ酸化合物分散液(サンプル)における水の含有量は50.1質量%であった。
【0083】
(実施例3)
実施例1において、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)にエタノール(水分量0.5質量%)を加える代わりに、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)に、エタノール(水分量0.5質量%)と純水とを26.3:29.1の質量割合で含有する溶媒を加えて撹拌し、その後、メチルアミン濃度10.0質量%になるようにメチルアミン水溶液(メチルアミン濃度40質量%、水分量60質量%)を添加して撹拌し、ニオブをNb25換算で10質量%含有するスラリーを調製した以外、実施例1と同様にしてニオブ酸化合物分散液(サンプル)を得た。このニオブ酸化合物分散液(サンプル)における水の含有量は51.6質量%であった。
【0084】
(実施例4)
実施例1において、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)にエタノール(水分量0.5質量%)48.4gを加えて攪拌する代わりに、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)にエタノール(水分量0.5質量%)40.8gを加えて撹拌し、その後、水酸化テトラエチルアンモニウム濃度8.0質量%になるように水酸化テトラエチルアンモニウム5水溶液(TEAH濃度35質量%、水分量65質量%)を添加して撹拌し、ニオブをNb25換算で10質量%含有するスラリーを調製した以外、実施例1と同様にしてニオブ酸化合物分散液(サンプル)を得た。このニオブ酸化合物分散液(サンプル)における水の含有量は21.8質量%であった。
【0085】
(実施例5)
実施例1において、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)にエタノール(水分量0.5質量%)を加える代わりに、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)に、イソブチルアルコール(水分量1.0質量%)とメタノール(水分量0.2質量%)とを42.4:24.7の質量割合で含有する溶媒を加えて撹拌し、その後、水酸化テトラメチルアンモニウム濃度7.0質量%になるように水酸化テトラメチルアンモニウム5水和物(TMAH濃度50質量%、水分量50質量%)を添加して撹拌し、ニオブをNb25換算で10質量%含有するスラリーを調製した以外、実施例1と同様にしてニオブ酸化合物分散液(サンプル)を得た。このニオブ酸化合物分散液(サンプル)における水の含有量は14.1質量%であった。
【0086】
実施例1と同様に、前記水酸化テトラメチルアンモニウム5水和物及びニオブ酸化合物含有物には水が含まれているため、実施例5で得られたニオブ酸化合物分散液(サンプル)は、低級アルコール及び水を主溶媒とし、アミン化合物溶剤としての水酸化テトラメチルアンモニウムを含有する混合溶媒に、ニオブ酸化合物の一部又は全部が分散又は溶解してなるニオブ酸化合物分散液である。
【0087】
(実施例6)
実施例1において、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)にエタノールを加える代わりに、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)に、イソブチルアルコール(水分量1.0質量%)とエチレングリコール(水分量0.5質量%)とメタノール(水分量0.2質量%)とを34.6:5.6:29.0の質量割合で含有する溶媒を加えて撹拌し、その後、水酸化テトラメチルアンモニウム濃度5.0質量%になるように水酸化テトラメチルアンモニウム5水和物(TMAH濃度50質量%、水分量50質量%)を添加して撹拌し、ニオブをNb25換算で10質量%含有するスラリーを調製した以外、実施例1と同様にしてニオブ酸化合物分散液(サンプル)を得た。このニオブ酸化合物分散液(サンプル)における水の含有量は12.1質量%であった。
【0088】
実施例1と同様に、前記水酸化テトラメチルアンモニウム5水和物及びニオブ酸化合物含有物には水が含まれているため、実施例6で得られたニオブ酸化合物分散液(サンプル)は、低級アルコール及び水を主溶媒とし、アミン化合物溶剤としての水酸化テトラメチルアンモニウムを含有する混合溶媒に、ニオブ酸化合物の一部又は全部が分散又は溶解してなるニオブ酸化合物分散液である。
【0089】
(実施例7)
実施例1において、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)にエタノール(水分量0.5質量%)を加える代わりに、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)に、エタノール(水分量0.5質量%)と純水とを21.4:39.7の質量割合で含有する溶媒を加えて撹拌し、その後、ジメチルアミン濃度10.0質量%になるようにメチルアミン水溶液(メチルアミン濃度50質量%、水分量50質量%)を添加して撹拌し、ニオブをNb25換算で10質量%含有するスラリーを調製した以外、実施例1と同様にしてニオブ酸化合物分散液(サンプル)を得た。このニオブ酸化合物分散液(サンプル)における水の含有量は56.5質量%であった。
【0090】
(実施例8)
実施例1において、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)にエタノール(水分量0.5質量%)を加える代わりに、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)に、エタノール(水分量0.5質量%)と純水とを5.7:7.7の質量割合で含有する溶媒を加えて撹拌し、その後、水酸化テトラメチルアンモニウム濃度15.0質量%になるように水酸化テトラメチルアンモニウム5水和物(TMAH濃度50質量%、水分量50質量%)を添加して撹拌し、ニオブをNb25換算で30質量%含有するスラリーを調製した以外、実施例1と同様にしてニオブ酸化合物分散液(サンプル)を得た。このニオブ酸化合物分散液(サンプル)における水の含有量は42.7質量%であった。
【0091】
(実施例9)
実施例1において、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)にエタノール(水分量0.5質量%)を加える代わりに、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)に、エタノール(水分量0.5質量%)とアセトン(水分量0.5質量%)純水とを49.0:4.7:14.0の質量割合で含有する溶媒を加えて撹拌し、その後、水酸化テトラメチルアンモニウム濃度0.7質量%になるように水酸化テトラメチルアンモニウム5水和物(TMAH濃度50質量%、水分量50質量%)を添加して撹拌し、ニオブをNb25換算で1.0質量%含有するスラリーを調製した以外、実施例1と同様にしてニオブ酸化合物分散液(サンプル)を得た。このニオブ酸化合物分散液(サンプル)における水の含有量は8.5質量%であった。
【0092】
(比較例1)
実施例1において、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)にエタノールを加える代わりに、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)にメチルエチルケトン(水分量1質量%)を加えて撹拌し、その後、水酸化テトラメチルアンモニウム濃度5.0質量%になるように水酸化テトラメチルアンモニウム5水和物(TMAH濃度50質量%、水分量50質量%)を添加して撹拌し、ニオブをNb25換算で10質量%含有するスラリーを調製した以外、実施例1と同様にしてニオブ酸化合物含有液(サンプル)を得た。このニオブ酸化合物含有液(サンプル)における水の含有量は12.4質量%であった。
【0093】
(比較例2)
実施例1において、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)にエタノール(水分量0.5質量%)を加える代わりに、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)にアセトン(水分量1質量%)を加えて撹拌し、その後、水酸化テトラメチルアンモニウム濃度5.0質量%になるように水酸化テトラメチルアンモニウム5水和物(TMAH濃度50質量%、水分量50質量%)を添加して撹拌し、ニオブをNb25換算で10質量%含有するスラリーを調製した以外、実施例1と同様にしてニオブ酸化合物含有液(サンプル)を得た。このニオブ酸化合物含有液(サンプル)における水の含有量は12.0質量%であった。
【0094】
(比較例3)
実施例1において、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)にエタノール(水分量0.5質量%)52.6gを加えて撹拌し、その後、水酸化テトラメチルアンモニウム濃度3.0質量%になるように水酸化テトラメチルアンモニウム5水和物(TMAH濃度50質量%、水分量50質量%)を添加して撹拌し、ニオブをNb25換算で10質量%含有するスラリーを調製した以外、実施例1と同様にしてニオブ酸化合物含有液(サンプル)を得た。このニオブ酸化合物含有液(サンプル)における水の含有量は10.0質量%であった。
【0095】
(比較例4)
実施例1において、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)にエタノール(水分量0.5質量%)を加える代わりに、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)に、エタノール(水分量0.5質量%)とアセトン(水分量0.5質量%)と純水とを48.0:1.7:18.0の質量割合で含有する溶媒を加えて撹拌し、その後、水酸化テトラメチルアンモニウム濃度0.7質量%になるように水酸化テトラメチルアンモニウム5水和物(TMAH濃度50質量%、水分量50質量%)を添加して撹拌し、ニオブをNb25換算で1.0質量%含有するスラリーを調製した以外、実施例1と同様にしてニオブ酸化合物分散液(サンプル)を得た。このニオブ酸化合物分散液(サンプル)における水の含有量は4.3質量%であった。
【0096】
(比較例5)
実施例1において、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)にエタノール(水分量0.5質量%)を加える代わりに、ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)に、エタノール(水分量0.5質量%)とアセトン(水分量0.5質量%)と純水とを32.0:4.7:31.0の質量割合で含有する溶媒を加えて撹拌し、その後、水酸化テトラメチルアンモニウム濃度0.7質量%になるように水酸化テトラメチルアンモニウム5水和物(TMAH濃度50質量%、水分量50質量%)を添加して撹拌し、ニオブをNb25換算で1.0質量%含有するスラリーを調製した以外、実施例1と同様にしてニオブ酸化合物分散液(サンプル)を得た。このニオブ酸化合物分散液(サンプル)における水の含有量は8.5質量%であった。
【0097】
実施例及び比較例で使用した前駆体含有物、低級アルコール等、純水、アミン化合物溶剤含有物の使用量、純分、水分等及び得られたニオブ酸化合物分散液(「Nb酸水溶液」)の水含有量について表1に示す。
また、実施例及び比較例にて得られたニオブ酸化合物含有液(サンプル)について、水含有量、アミン化合物溶剤とNbのモル比、残部の低級アルコールが占める割合を算出した。その結果を表2に示す。
【0098】
なお、実施例1~9及び比較例1~5にて得られたニオブ酸化合物含有液(サンプル)中のニオブ酸化合物は、各ニオブ酸化合物含有物(前駆体含有物)と同様に、ニオブ(Nb)含有量に対するアンモニウムイオン含有量のモル比(NH +/Nb)はいずれも0.8であった。
【0099】
【表1】
【0100】
なお、表1において、IBA*1:イソブチルアルコール(別名2-メチル-1-プロパノール)、EG*2:エチレングリコール(別名1.2-エタンジオール),(MEK)*3:メチルエチルケトン(別名2-ブタノン)≪低級アルコールではない≫、(アセトン)*4:別名2-プロパノン≪低級アルコールではない≫、純水*5:純水として添加したものが対象(前駆体含有物、低級アルコール等、アミン化合物溶剤含有物中の水分は除く)をそれぞれ示す。
【0101】
<透過率測定>
実施例1~9で得たニオブ酸化合物分散液(サンプル)又は比較例1~5で得たニオブ酸化合物含有液(サンプル)の透過率を分光光度計にて測定した。
【0102】
=透過率測定条件=
・装置:UH4150形分光光度計
・測定モード:波長スキャン
・データモード:%T(透過)
・測定波長範囲:200~2600nm
・スキャンスピード:600nm/min
・サンプリング間隔:2nm
【0103】
測定して得られた透過率から、波長400nmにおける光線透過率を算出して表2に示した。
【0104】
<HSP値(ハンセン溶解度パラメータ)>
実施例1~9で得たニオブ酸化合物分散液(サンプル)又は比較例1~5で得たニオブ酸化合物含有液(サンプル)に含まれる溶媒のHSP値をコンピュータソフトウエアHansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)を用いて、Y-MB法にて算出して表2に示した。
【0105】
<密着性評価>
実施例1~9で得たニオブ酸化合物分散液(サンプル)又は比較例1~5で得たニオブ酸化合物含有液(サンプル)を、スピンコーターを用いてソーダガラス基材上に1回塗布した。この塗布膜付ソーダガラス基材を、大気中200℃×3時間の条件下で焼成し、25℃まで冷却した。前記塗布膜の表面に、JIS Z 1522:2009に記載のセロハン粘着テープ24mm×15m(ニチバン株式会社製、製品名CT-24、厚さ0.053mm)を貼った。そして、粘着テープと塗布膜とを正しく接触させるために、粘着テープの表面を指先でしっかりと3回擦った後、1分以内に、粘着テープの端をつかみ、60°±10°の角度で0.5~1.0秒で粘着テープを剥離させた。
【0106】
塗布膜表面が、滑らかで且つ剥がれが一切ないものを「合格(○)」と評価し、一部が剥がれているか若しくは膜が均一でないものを「不合格(×)」と評価し、表2に示した。
なお、スラリー化もしくは溶液化できず、評価できなかったものは、評価不可能(-)とした。
【0107】
【表2】
【0108】
なお、比較例1及び2のサンプルについては、ニオブ酸化合物含有液が2相に分離したため、波長400nmにおける光線透過率は測定不可能であった。
比較例5については分散性が悪く、スラリー化が不可能であったため、波長400nmにおける光線透過率は測定不可能であった。
【0109】
(考察)
実施例1~9で得られたニオブ酸化合物分散液(サンプル)は、原料及び製造方法から、揮発温度が200℃以上の有機物並びにハロゲン元素を実質的に含んでいないものである。
【0110】
上記実施例・比較例の結果、並びに、これまで本発明者が行ってきた試験結果から、低級アルコール及び水を主溶媒とし、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、又は、第4級アンモニウム化合物、又は、これらのうちの2種以上の混合物、すなわち前述のアミン化合物溶剤を加えることで、ニオブ酸化合物の分散性乃至溶解性を高めることができ、ニオブ酸化合物の一部又は全部が分散又は溶解してなるニオブ酸化合物分散液を得ることができることが分かった。
【0111】
また、ニオブ酸化合物分散液中の水の含有量に関しては、実施例における水の含有量が8.5質量%以上であれば、水の含有量が4.3質量%である比較例4に比べ、分散性乃至溶解性が好ましい結果が確認されている。よって、ニオブ酸化合物の分散性乃至溶解性を高める観点から、ニオブ酸化合物分散液中の水の含有量が5.0質量%以上となるように、水の量を調整することが好ましいことが分かった。
また、前記アミン化合物溶剤の含有量に関しては、実施例におけるニオブ(Nb)の含有量に対する前記アミン化合物溶剤の含有量の比率が0.73以上であれば、0.44である比較例3に比べて、ニオブ酸化合物の分散性乃至溶解性が好ましい結果が確認されている。よって、ニオブ酸化合物の分散性乃至溶解性を高める観点から、前記アミン化合物溶剤の含有量が、ニオブ(Nb)の含有量に対してモル比で0.50以上となるように調整するのが好ましいことも分かった。
また、低級アルコールの割合に関しては、実施例における低級アルコールの割合が77.8質量%であれば、50.8質量%の比較例5に比べてニオブ酸化合物の分散性乃至溶解性が好ましい結果が確認されている。よって、ニオブ酸化合物の分散性乃至溶解性を高める観点から、前記ニオブ酸化合物由来成分、前記アミン化合物溶剤由来成分及び水以外の含有成分の70質量%以上を低級アルコールが占めるように調整することが好ましいことも分かった。
【要約】
ニオブ酸化合物が有機系溶媒に分散してなるニオブ酸化合物分散液に関し、揮発温度が200℃以上の有機物並びにハロゲン元素を実質的に含んでいなくても、ニオブ酸化合物が有機系溶媒に分散又は溶解してなる、新たなニオブ酸化合物分散液を提供する。
ニオブ酸化合物の一部又は全部が、低級アルコール及び水を主溶媒とし、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、又は、第4級アンモニウム化合物、又は、これらのうちの2種以上(これらを「アミン化合物溶剤」とも称する)を含有する混合溶媒に、分散又は溶解してなるニオブ酸化合物分散液であって、水を5.0質量%以上含有し、前記アミン化合物溶剤の含有量が、ニオブ(Nb)の含有量に対してモル比で0.50以上であり、前記ニオブ酸化合物に由来する成分、前記アミン化合物溶剤に由来する成分及び水以外の含有成分(「残部」と称する)の70質量%以上を前記低級アルコールが占めることを特徴とするニオブ酸化合物分散液である。