(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】塗布液及びその製造方法、膜付基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 4/02 20060101AFI20221102BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20221102BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20221102BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20221102BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
C09D4/02
C09D7/61
C09D7/63
B05D7/24 303B
B05D7/24 303E
B05D7/24 302Z
B05D7/24 302P
B05D3/00 D
B05D7/24 302E
(21)【出願番号】P 2022548251
(86)(22)【出願日】2022-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2022002186
【審査請求日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2021009006
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134119
【氏名又は名称】奥町 哲行
(72)【発明者】
【氏名】箱嶋 夕子
(72)【発明者】
【氏名】荒金 宏忠
(72)【発明者】
【氏名】村口 良
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/071134(WO,A1)
【文献】特開2020-132857(JP,A)
【文献】国際公開第2009/096253(WO,A1)
【文献】特開2011-053518(JP,A)
【文献】特開2015-193757(JP,A)
【文献】特開2016-194008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B05D 3/00
B05D 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン含有酸化物
およびその前駆体
の少なくとも一方と、アダマンタン誘導体と、
アルコキシ基および(メタ)アクリレート基を有する有機バインダーと、を含む膜形成用の塗布液。
【請求項2】
前記チタン含有酸化物が固形分中に50~75重量%含まれ、
前記アダマンタン誘導体が固形分中に10~35重量%含まれ、
前記有機バインダーが固形分中に10~25重量%含まれることを特徴とする請求項1に記載の塗布液。
【請求項3】
前記有機バインダーの少なくとも一部がオリゴマーを形成していることを特徴とする請求項1に記載の塗布液。
【請求項4】
前記アダマンタン誘導体が
分子内に2個以上の(メタ)アクリレート基を有することを特徴とする請求項1に記載の塗布液。
【請求項5】
前記アダマンタン誘導体が(メタ)アクリレート
基以外の置換基を有さないことを特徴とする請求項
4に記載の塗布液。
【請求項6】
前記アダマンタン誘導体の分子量が350以下であることを特徴とする請求項
4に記載の塗布液。
【請求項7】
チタン含有酸化物
およびその前駆体の
少なくとも一方を含む分散液を準備する準備工程と、
前記分散液と
、アルコキシ基および(メタ)アクリレート基を有する有機バインダー
とを混合し、混合物を調製する混合工程と、
前記混合物にアダマンタン誘導体を添加する添加工程と、を備えることを特徴とする膜形成用の塗布液の製造方法。
【請求項8】
前記混合工程で前記有機バインダーを前記チタン含有酸化物100質量部に対して10~40質量部混合し、
前記添加工程で前記アダマンタン誘導体を前記チタン含有酸化物100質量部に対して15~80質量部添加することを特徴とする請求項
7に記載の塗布液の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の塗布液を基材上に塗布し、膜を形成することを特徴とする膜付基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に高屈折率の厚膜を形成するための塗布液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、メガネ、レンズ、タッチパネル等に高屈折率膜が利用されている。このような膜を形成するために、屈折率の高いチタニア粒子を含有した塗布液が用いられている。さらに、チタンアルコキシドとシランアルコキシドを含有する塗布液を用いて、クラックの生じ難い高屈折率膜を形成することが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、屈折率の高いアダマンタン骨格を有する樹脂を用いて高屈折率膜形成用の塗布液を調製することが知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-194008号公報
【文献】特表2019-510119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の塗布液を用いて、基材上に高屈折率膜を形成できる。しかし、成膜時に塗膜が収縮し易いため、150nm以上の厚膜を形成することができない。また、膜を硬化する際に、高温(300℃以上)で加熱する必要があるため、基材が歪み易い。
【0006】
特許文献2の塗布液は屈折率の高い樹脂を含んでいるものの、形成される膜の密度が低いため、1.7程度の屈折率しか得られない。
【0007】
本発明の目的は、高屈折率で、厚い膜を形成可能な塗布液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、チタン含有酸化物と、有機バインダーと、アダマンタン誘導体とを含む塗布液を用いて、基材上に膜を形成することとした。また、固形分中でのこれらの成分の比率について、チタン含有酸化物は50~75重量%、アダマンタン誘導体は10~35重量%、有機バインダーは10~25重量%が好ましい。また、有機バインダーはアルコキシ基を有することが好ましい。
【0009】
また、塗布液の製造方法は、チタン含有酸化物の分散液を準備する工程(準備工程)と、チタン含有酸化物の分散液と有機バインダーを混合し、混合物を調製する工程(混合工程)と、アダマンタン誘導体を添加する工程(添加工程)と、を備えている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の塗布液は、チタン含有酸化物(以下、チタン酸化物と記す)、有機バインダーとアダマンタン誘導体を含んでいる。このような塗布液を用いると、アダマンタン誘導体と有機バインダーがチタン酸化物の周りに密に充填された膜が形成される。すなわち、膜が緻密になるため、膜の密度が高くなる。そのため、膜の屈折率と透明性が高くなる。
【0011】
チタン酸化物の屈折率が高いため、塗布液に含まれる固形分のうち、チタン酸化物が50重量%以上であると、膜の屈折率が高くなる。塗布液に含まれる固形分のうち、チタン酸化物が75重量%以下であると、チタン酸化物が塗布液や膜中に分散し易い。
【0012】
塗布液に含まれる固形分のうち、有機バインダーが25重量%以下であると、相対的にチタン酸化物とアダマンタン誘導体の含有量が多くなる。チタン酸化物とアダマンタン誘導体は有機バインダーより屈折率が高いので、これらの含有量が多いと、膜の屈折率が高くなる。一方、塗布液に含まれる固形分のうち、有機バインダーが10重量%以上であると、チタン酸化物とアダマンタン誘導体の相溶性が高くなる。そのため、チタン酸化物が塗布液に分散し易い。そのため、チタン酸化物が分散した状態で膜が形成され易く、膜中でチタン酸化物が均一に存在できる。その結果、膜の透明性が高くなる。また、チタン酸化物が分散された状態で膜が形成されると、チタン酸化物が凝集する場合よりも、膜中にボイドが少なくなるため、膜が緻密になる。
【0013】
特に、塗布液に含まれる固形分のうち、チタン酸化物が50~75重量%、アダマンタン誘導体が10~35重量%、有機バインダーが10~25重量%だと、屈折率の高い成分(チタン酸化物とアダマンタン誘導体)の含有量が多いうえ、チタン酸化物が塗布液や膜に分散し易い。
【0014】
塗布液の固形分において、有機バインダーの含有量(重量)を1としたときの、チタン酸化物の含有量が2.5~4.0、アダマンタン誘導体の含有量が0.5~1.5の範囲にあると、膜が緻密になる。特に、チタン酸化物の含有量が3.0~3.5、アダマンタン誘導体の含有量が0.8~1.3の範囲にあることが好ましい。
【0015】
必要に応じて、他の固形分(酸化物や樹脂〔モノマー、オリゴマー、ポリマー〕、添加剤〔硬化剤や表面調整剤〕)を添加しても構わない。これらを添加する場合に、チタン酸化物、アダマンタン誘導体や有機バインダーが上記濃度の範囲にあると、膜が緻密になる。
【0016】
塗布液中の固形分が5重量%以上だと、150nm以上の厚膜を均一な厚さで成膜し易くなる。10重量%以上がより好ましい。また、塗布液中の固形分が50重量%以下だと、膜中にチタン酸化物が分散し易い。45重量%以下がより好ましい。
【0017】
有機バインダーがアルコキシ基を有すると、チタン酸化物との相溶性が高くなる。さらに、塗布液中でアルコキシ基は加水分解し、チタン酸化物のOH基と脱水縮合反応(以下、加水分解と、脱水縮合を合わせてカップリング反応と称す)する。すなわち、チタン酸化物が有機バインダーと化学結合する。そのため、膜が緻密になる。また、膜の硬度が高くなる。有機バインダーと化学結合したチタン酸化物はアダマンタン誘導体や有機溶媒との相溶性が高いため、塗布液や膜中に分散し易い。
【0018】
また、アルコキシ基の酸素原子に結合しているアルキル基がメチル基またはエチル基だと、有機バインダーは加水分解し易い。すなわち、チタン酸化物とカップリング反応し易い。また、アルコキシ基の加水分解を促進させる触媒を塗布液に添加すると、カップリング反応が起こり易くなる。
【0019】
有機バインダーが2個以上のアルコキシ基を有すると、塗布液中でカップリング反応していない有機バインダー(未反応の有機バインダー)が重合する。その結果、有機バインダーのオリゴマーが形成される。オリゴマーは、チタン酸化物とアダマンタン誘導体との中間の極性を持つと考えられる。このようなオリゴマーが塗布液に含まれていると、固形分が塗布液に分散し易いため、膜が緻密になる。このとき、2~3個のアルコキシ基を有する有機バインダーを用いると、チタン酸化物とアダマンタン誘導体の相溶性が高くなる。そのため、成膜時に固形分が膜に分散し易くなる。特に、アルコキシ基を3個有する有機バインダーを用いると、オリゴマーが程よい極性となる。そのため、チタン酸化物とアダマンタン誘導体の相溶性が高くなる。
【0020】
このとき、未反応の有機バインダーの8割以上がオリゴマーを形成すると、チタン酸化物とアダマンタン誘導体の相溶性が高くなる。未反応の有機バインダーの全量に対してモノマーの量が1割以下だと、成膜時に有機バインダーが揮発し難いため、緻密な膜が形成できる。
【0021】
オリゴマーの分子量が5000以下だと、膜の強度や、膜の基材への密着性が高くなる。特に、分子量が500~5000の範囲だと、チタン酸化物とアダマンタン誘導体との相溶性が高くなる。分子量は1500~4000の範囲がより好ましい。
【0022】
アルコキシ基を有する有機バインダーは、さらに(メタ)アクリレート基を有すると、紫外線照射により(メタ)アクリレート基同士が結合するため、膜を低温で硬化できる。また、硬化時に有機バインダーの(メタ)アクリレート基が他の固形分の(メタ)アクリレート基と結合するため、膜が緻密になる。アルコキシ基を有する有機バインダーから形成されたオリゴマーは複数の(メタ)アクリレート基を有する。硬化時にこのようなオリゴマーは複数の固形分と結合するため、膜が緻密になる。
【0023】
また、有機バインダーが有機ケイ素化合物だと工業的に取り扱い易い。有機ケイ素化合物は一般式(RO)mSi(Y)4-mで表せる。ここで、RはMeまたはEtである。mは1~4の整数を表す。Yは(メタ)アクリレート基を有する有機化合物である。Yとして、具体的に-(CH2)3OC(=O)C(CH3)(=CH2)又は-(CH2)3OC(=O)CH(=CH2)等が挙げられる。
【0024】
モノマーのアダマンタン誘導体を用いると、アダマンタン誘導体が塗布液中の固形分と重合できるため、より緻密な膜が得られる。また、硬化時にオリゴマーやポリマーよりもモノマーは収縮し易い。そのため、膜が緻密になる。
【0025】
このとき、アダマンタン誘導体は分子内に2個以上の(メタ)アクリレート基を有すると、(メタ)アクリレート基を2個以上有する他の固形分と重合できる。特に、(メタ)アクリレート基を2個有するアダマンタン誘導体は、3個以上の場合より立体障害が小さい。そのため、このようなアダマンタン誘導体を用いると、膜が緻密になる。このとき、アダマンタン骨格の1位と3位に(メタ)アクリレート基が結合していると、アダマンタン誘導体の立体障害がさらに小さくなる。また、アダマンタン誘導体が(メタ)アクリレート基以外の置換基を有さないと、立体障害が小さくなる。また、アダマンタン誘導体の分子量が350以下だと、立体障害が小さくなる。
【0026】
チタン酸化物の代わりに、チタン酸化物の前駆体が塗布液に含まれていてもよい。前駆体として、モノマーやオリゴマーなどが挙げられる。さらに、前駆体はチタンアルコキシドだと、塗膜を加熱・乾燥するときに加水分解・縮合し、チタン酸化物となる。アルコキシ基を有する有機バインダーはチタンアルコキシドと加水分解・縮合するため、膜が緻密になる。
【0027】
塗布液が有機溶媒を含むと、塗布液に固形分が分散し易い。このような塗布液は基材に塗布し易い。さらに、有機溶媒の含有量が50重量%以上だと、塗布液や膜中にチタン酸化物が分散し易くなる。含有量は60重量%以上がより好ましい。一方、有機溶媒の含有量が95重量%以下だと、150nm以上の厚さの膜を均一な厚さで形成し易くなる。90重量%以下がより好ましい。
【0028】
また、有機溶媒の沸点が50℃以上だと、塗布液をゆっくり乾燥できる。そのため、チタン酸化物が膜中に均一に分散し易い。一方、有機溶媒の沸点が200℃以下だと、実質的に120℃以下という低温且つ数分で塗布液を乾燥できるため、生産性が上がる。
【0029】
有機溶媒がエステル結合もしくはエーテル結合、またはケトン基を有すると、塗布液にアダマンタン誘導体が分散できる、膜の表面が平滑になる。有機溶媒がこれらの結合または官能基を2個以上有すると、塗布液に固形分がより分散し易い。同一種を2個以上でも、異なる2種をそれぞれ1個以上でもよい。3個有する有機溶媒がさらに好ましい。
【0030】
有機溶媒として、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)又はプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)が挙げられる。中でも、PGMEAが好ましい。
【0031】
必要に応じて塗布液には硬化剤や表面調整剤などが添加される。硬化剤が光重合開始剤だと、低温で成膜できる。中でも、アシルフォスフィンオキサイド系の光重合開始剤を用いると、膜の硬化が効率よく進行するため、膜が緻密になる。光重合開始剤の含有量がアダマンタン誘導体100質量部に対して2質量部以上だと、硬化反応が進み易いため、膜の硬度が高くなる。一方、10質量部以下だと、余剰の重合開始剤の比率が減るため、重合が効率よく進む。
【0032】
塗布液がチタン酸化物、有機バインダー、アダマンタン誘導体、および硬化剤以外の固形分を含まなければ、膜は緻密になり易い。このとき、これらが経時変化したものを含んでいても構わない。
【0033】
以下、チタン酸化物について詳細に説明する。
【0034】
チタン酸化物の結晶構造は、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型であっても、非晶質であってもよい。複数の結晶が混在してもよい。チタン酸化物の一部が非晶質であってもよい。チタン酸化物が酸化チタンをTiO2換算濃度で80重量%以上含むと、膜の屈折率が高くなる。90重量%以上がより好ましく、95重量%以上がさらに好ましい。
【0035】
チタン酸化物が粒子状(以下、粒子状のチタン酸化物を単に粒子と称す)だと、膜が緻密になり易い。また、厚膜を形成し易い。
【0036】
粒子の結晶子径が大きいほど、粒子の密度が高くなるため、膜の屈折率が高くなる。結晶子径は1nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましい。一方、結晶子径が100nm以下だと、膜のヘーズが低くなる。50nm以下がより好ましい。また、粒子の粒子径が100nm以下だと膜のヘーズが低くなる。
【0037】
粒子はチタン酸化物以外の無機成分を含むと、塗布液に分散し易くなる。中でも、アルミナ、シリカ、ジルコニア、酸化スズなどの無機成分がそれぞれAl2O3、SiO2、ZrO2、SnO2換算で0.5~10.0重量%粒子に含まれると、塗布液に粒子が分散し易い。0.5~6.0重量%の範囲がより好ましい。特に、酸化スズをSnO2換算濃度で1~3重量%含むチタン酸化物は粒子状になり易い。また、特に、アルミナをAl2O3換算濃度で0.5~1.5重量%含む粒子は溶媒に分散し易い。
【0038】
また、粒子100質量部に対して1~30質量部の表面処理剤を粒子に処理すると、粒子は有機溶媒へ分散し易くなる。5~22質量部の表面処理剤を粒子に処理することがより好ましい。
【0039】
また、アルコキシ基を有する表面処理剤は粒子表面とカップリング反応し易いため、粒子を有機溶媒に分散させ易い。アルコキシ基が多いほど、粒子の表面でカップリング反応が起こり易い。3~4個のアルコキシ基を有する表面処理剤が好ましく、4個のアルコキシ基を有する表面処理剤がさらに好ましい。
【0040】
また、アルコキシ基はメトキシ基もしくはエトキシ基だと、加水分解し易い。すなわち、アルコキシ基中のアルキル基の分子量が小さいほど、アルコキシ基が加水分解し易い。
【0041】
表面処理剤として、ケイ素化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物等が挙げられる。表面処理剤は、一般式(RO)nM(X)4-nで表せる。nは1~4の整数である。Mは、Si、Ti、Zr、Alのいずれかを表す。Xとして、Me、Et、Pr、-(CH2)3OC(=O)C(CH3)(=CH2)、-(CH2)3OC(=O)CH(=CH2)、-CH=CH2が挙げられる。RはMeまたはEtである。特に、表面処理剤はケイ素化合物だと、工業的に取り扱い易い。
【0042】
次に、塗布液の製造方法について説明する。まず、チタン酸化物の分散液を準備する(準備工程)。次に、チタン酸化物の分散液と有機バインダーを混合し、混合物を調製する(混合工程)。準備工程において有機バインダーを混合しても構わない。次に、混合物にアダマンタン誘導体を添加する(添加工程)ことにより、塗布液が得られる。
【0043】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0044】
<準備工程>
はじめに、チタン酸化物の分散液を準備する。ここでは、チタン含有酸化物の粒子(以下、チタン酸化物粒子と記す)の分散液を準備した。まず、チタンを含む化合物を水溶液中で中和してスラリーを調製する。調製したスラリーを、水を用いて洗浄すると、余分な塩を取り除ける。次に、スラリーに過酸化水素水を添加し、ペルオキソチタン酸水溶液を調製する。その後、脱アルカリ処理を行うことが好ましい。このペルオキソチタン酸水溶液を加熱することにより、結晶子径が数nm~数十nmのチタン酸化物粒子の分散液が得られる。加熱の前に、酸化チタン以外の無機成分を添加することにより、粒子成長はコントロールできる。また、粒子が塗布液に分散し易くなる。添加する無機成分量は、前述した粒子中の無機成分の濃度に対応する量が好ましい。添加量を少なくすると、粒子中の酸化チタンの比率を高くできる。準備されたチタン酸化物の分散液には、チタン酸化物以外の酸化物がさらに含まれていても構わない。
【0045】
粒子の分散液に上述の表面処理剤を添加することにより、粒子表面を処理できる。表面処理された粒子は有機溶媒に分散し易くなる。表面処理剤を添加した後の分散液を40℃以上で1時間以上保持することにより、表面処理剤が速く処理される。40℃以上に保持する時間が20時間以下だとコストが低くなる。表面処理剤の処理量は、粒子100質量部に対して20~85質量部(酸化物換算{表面処理剤がケイ素化合物であればSiO2換算}で3~30質量部)であると、粒子は有機溶媒に分散し易くなる。粒子の水分散液に表面処理剤を添加する場合、有機溶媒を添加することにより、表面処理剤の凝集が抑制される。そのため、表面処理剤が粒子の表面に均一に処理され易くなる。このとき、添加する有機溶媒がアルコールであると、表面処理剤の凝集がさらに抑制される。また、アルコールは水と混ざり易い。
【0046】
分散液の溶媒が有機溶媒だと、後に混合する有機バインダーの凝集が抑制される。チタン酸化物の分散液の溶媒が水の場合、水を有機溶媒に置換することが好ましい。このとき、有機溶媒がアルコールであると水と混ざり易いため、溶媒を置換し易い。置換する方法として、有機溶媒を添加した後、水を取り除く(脱水する)方法が挙げられる。脱水の方法として、限外濾過や蒸留等の方法が挙げられる。チタン酸化物が粒子の場合、表面処理剤で粒子が処理されていると、溶媒を置換し易い。
【0047】
上述のチタン酸化物の前駆体の分散液を準備し、塗布液の調製に用いてもよい。
【0048】
<混合工程>
この工程では、チタン酸化物の分散液と有機バインダーを混合し、混合物を調製する。このとき、アルコキシ基を有する有機バインダーを用いることにより、有機バインダーはチタン酸化物とカップリング反応できる。カップリング反応したチタン酸化物と、有機溶媒の相溶性は高い。未反応の有機バインダー同士は加水分解・縮合反応して、オリゴマーとなる。オリゴマーが塗布液に含まれると、チタン酸化物と有機溶媒の相溶性がさらに高くなる。
【0049】
アルコキシ基を有する有機バインダーを用いる場合、混合物の温度を40℃以上で保持することにより加水分解反応が進行する。保持温度は45℃以上が好ましい。さらに、1時間以上保持すると、反応が進行し易い。保持する時間は、10時間以上が好ましく、15時間以上がより好ましい。また、混合物を攪拌することにより、有機バインダーがチタン酸化物の表面と均一に縮合反応し易くなる。溶媒がアルコールのとき、混合物を60℃以下で保持すると、溶媒が蒸発し難い。
【0050】
また、有機バインダーがアルコキシ基を有するとき、混合物に触媒や水などを添加することにより、有機バインダーの加水分解反応が促進する。成膜後、膜に触媒が残存し難いと、膜の密度が高くなる。また、加水分解反応は酸側よりアルカリ側で行うことが好ましい。残存し難く且つアルカリ側で加水分解反応を促進できる触媒としてアンモニアが適している。
【0051】
チタン酸化物100質量部に対して混合する有機バインダーの量が10質量部以上だと、チタン酸化物が有機溶媒に分散し易い。20質量部以上がより好ましく、30質量部以上がさらに好ましい。一方、チタン酸化物100質量部に対して混合する有機バインダーの量が50質量部以下だと、膜中のチタン酸化物の割合が高くなる。40質量部以下がより好ましい。ただし、チタン酸化物が粒子の場合、100質量部は表面処理剤を含めた量である。
【0052】
混合物中の溶媒をエステル結合もしくはエーテル結合、またはケトン基を有する有機溶媒に置換すると、アダマンタン誘導体が有機溶媒に分散できる。また、塗布液を塗布してから乾燥する工程において、成膜の安定性が高くなるため、均質で、緻密で、表面が平滑な膜が得られ易くなる。このような有機溶媒としてPGMEAが適している。
【0053】
<添加工程>
混合物にアダマンタン誘導体を添加することにより、塗布液が得られる。添加後、超音波装置等を用いて十分に撹拌することが好ましい。また、添加後、光重合開始剤を添加することが好ましい。また、この工程では、アダマンタン誘導体以外の樹脂をさらに添加しても構わない。このとき、添加する順序は問わない。
【0054】
チタン酸化物100質量部に対して、10~40質量部の有機バインダー混合し、且つ15~80質量部のアダマンタン誘導体を添加すると、膜の密度は高くなる。有機バインダーは20~40質量部混合し、且つアダマンタン誘導体は20~50質量部添加することがより好ましい。ただし、チタン酸化物が粒子状の場合、100質量部は表面処理剤を含めた量である。
【0055】
上述の塗布液を基材上に塗布することにより被膜付基材を製造できる。
【0056】
具体的には、基材上に塗布液を塗布した後、塗布液を乾燥・硬化させることにより、膜付基材が得られる。塗布方法として、スピンコート、バーコート、グラビアコート、スリットコートなどが挙げられる。ここで、乾燥とは溶媒を揮発させて除去することを表す。乾燥温度が60℃以上だと、乾燥時間が短くなる。また、膜中に溶媒が残り難い。そのため、緻密な膜が得られる。一方、乾燥温度が120℃以下だと、基材が変形し難い。また、工業的に扱い易い。乾燥温度は100℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましい。塗膜を乾燥した後に硬化すると、生産効率が上がる。
【0057】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0058】
[実施例1]
≪準備工程≫
はじめに、以下のようにチタン酸化物粒子の分散液を準備した。四塩化チタンをTiO2換算で2重量%含む四塩化チタン水溶液900gと、15重量%のアンモニア水352gとを混合し、pH8.6の白色のスラリーを調製した。このスラリーを濾過した後、純水で洗浄することにより、固形分濃度が5重量%のケーキ360gを得た。このケーキ360gに、35重量%の過酸化水素水411.2gと純水128.8gを加えることにより、再度スラリーを得た。このスラリーを80℃で1時間加熱することにより、過酸化チタン酸をTiO2換算で2重量%含む過酸化チタン酸水溶液900gを得た。この水溶液の色は透明な黄褐色であった。この水溶液のpHは8.1であった。
【0059】
この水溶液900gに、平均粒子径が7nmのシリカ粒子を15重量%含むシリカゾル(日揮触媒化成社製:カタロイド(登録商標)SN-350)19.4gと純水1178gとを添加した。その後、オートクレーブを用いて165℃で18時間水溶液を保持した。水溶液を室温まで冷却した後、限外濾過膜装置を用いて濃縮することにより、固形分が10重量%のチタン酸化物の水分散液209.1gを得た。調製したチタン酸化物の組成(無機成分の添加量比)を表1に記載する。
【0060】
オキシ塩化ジルコニウムをZrO2換算で2重量%含むオキシ塩化ジルコニウム水溶液263gを攪拌しながら、そこに15重量%のアンモニア水を添加することにより、pH8.5のスラリーを得た。このスラリーを濾過し、純水で洗浄することにより、ジルコニウム化合物をZrO2換算で10重量%含むケーキ52.6gを得た。このケーキ20gに純水180gと10重量%の水酸化カリウム水溶液12gを加えた。さらに、35重量%の過酸化水素水40gを加えた後、このケーキを50℃に加温することにより、ケーキを溶解し、分散液を得た。この分散液に純水148gを加え、過酸化ジルコン酸をZrO2として0.5重量%含む過酸化ジルコン酸水溶液400gを得た。
【0061】
ケイ酸ナトリウムをSiO2換算濃度で2重量%含む水硝子に陽イオン交換樹脂(三菱ケミカル社製)を添加することにより、アルカリ成分を除去した。その後、イオン交換樹脂を分離し、SiO2として2重量%の珪酸水溶液を得た。
【0062】
チタン酸化物の水分散液160gに純水640gを加えた後、この水分散液を90℃に加温した。この水分散液と、過酸化ジルコン酸水溶液53.4gと、珪酸水溶液42.4gとを混合し、混合液を得た。この混合液を90℃で1時間撹拌した後、オートクレーブを用いて165℃で18時間保持した。混合液を室温まで冷却した後、限外濾過膜装置を用いて濃縮することにより、固形分が10重量%のチタン酸化物の水分散液195.2gを得た。この水分散液195.2gに陽イオン交換樹脂を添加(脱アルカリ)した。その後、イオン交換樹脂を分離した。この分散液にSiO2換算濃度が28.8重量%のテトラエトキシシラン(多摩化学社製)14.9gを溶解させたメタノール溶液210.1gを添加した後、50℃で1時間撹拌した。この分散液を室温まで冷却した後、限外濾過膜を用いて溶媒をメタノールに置換した。その後、分散液を濃縮することにより、シリカ層を設けた固形分濃度20重量%のチタン酸化物のメタノール分散液119.2gを得た。このメタノール分散液をチタン酸化物の分散液とした。
【0063】
≪混合工程≫
次に、チタン酸化物の分散液と有機バインダーを混合した。具体的には、チタン酸化物のメタノール分散液100gと、有機バインダーとして3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製:KBM-503)3.68gとを混合することにより、混合物を調製した。この混合物を50℃で19時間撹拌した。混合物を室温まで冷却した後、ロータリーエバポレーターを用いて混合物中の溶媒をPGMEAに置換することにより、固形分濃度20重量%の混合物103.7gを得た。
【0064】
≪添加工程≫
次に、アダマンタン誘導体を添加し、塗布液を調製した。具体的には、固形分濃度20重量%の混合物100.0gにPGMEA100.0g、アダマンタン誘導体(三菱ガス化学社製:ダイヤピュレスト(登録商標)ADDA)6.0g、および重合開始剤としてジフェニル(2,4,6トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(IGMResinsB.V.社製:OMNIRAD(登録商標)TPO-H)0.36gを添加・攪拌することにより、塗布液を調製した。
【0065】
塗布液の調製条件の概要を表1に記載する。得られた塗布液を用いて以下のように透明被膜付基材(ガラス基材)を形成し、膜付基材の全光線透過率およびヘーズを測定した。また、得られた塗布液を用いて以下のように透明被膜付基材(シリコンウエハ)を形成し、膜付基材の屈折率と膜厚を評価した。測定結果と評価結果を表2に示す。後述の実施例、及び比較例2についても同様に透明膜付基材を作製し、測定・評価した。
【0066】
≪透明被膜付基材(ガラス基材)の製造≫
塗布液をガラス基材(浜新社製:FL硝子、厚さ:3mm、屈折率:1.51)にスピンコート法で塗布した。この塗布液を80℃で2分間乾燥した後、高圧水銀ランプ(GSユアサ社製:EYEUVMETER)を用いて、この塗布液に3000mJ/cm2の条件で紫外光を照射することにより、透明被膜付基材(ガラス基材)を調製した。ヘーズメーター(日本電色社製:NDH-5000)を用いて、透明被膜付基材(ガラス基材)の全光線透過率およびヘーズを測定した。なお、未塗布のガラス基材おいて、全光線透過率が99.0%、ヘーズが0.1%であった。
【0067】
≪透明被膜付基材(シリコンウエハ)の製造≫
塗布液をシリコンウエハ(松崎製作社製:6インチダミーウエハ(P型)、厚さ:625μm)にスピンコート法で塗布した。この塗布液を80℃で2分間乾燥した後、この塗布液にEYEUVMETERを用いて3000mJ/cm2の条件で紫外光を照射することにより、透明被膜付基材(シリコンウエハ)を調製した。分光エリプソメトリー(日本セミラボ社製:SE―2000)を用いて、透明被膜付基材(シリコンウエハ)の屈折率と膜厚を評価した。
【0068】
[実施例2]
四塩化チタンをTiO2換算で7.5重量%含む四塩化チタン水溶液2000gと7.5重量%のアンモニア水2000gとを混合することにより、pH9.2の白色のスラリーを調製した。このスラリーを濾過し、純水で洗浄することにより、固形分が10重量%のケーキ1500gを得た。このケーキ1500gを純水で1.5重量%に希釈した。このケーキに35重量%の過酸化水素水1714gを加えた後、80℃で1時間保持することにより、過酸化チタン酸をTiO2換算で1.5重量%含む過酸化チタン酸水溶液11714gを得た。この水溶液に純水3286gを添加後、水溶液を撹拌することにより、透明な黄褐色の過酸化チタン酸水溶液を得た。この水溶液のpHは7.8であった。この過酸化チタン酸水溶液15000gに、陽イオン交換樹脂を添加(脱アルカリ)した。この水溶液に1重量%の錫酸カリウム水溶液を309g添加した後、イオン交換樹脂を分離した。さらに1重量%のアルミン酸ナトリウム水溶液155gを添加し、攪拌した。その後、オートクレーブを用いて165℃で18時間この水溶液を保持した。この水溶液を室温まで冷却した後、限外濾過膜装置を用いて濃縮することにより、固形分が4重量%のチタンの水分散液3866gを得た。
【0069】
この水分散液3866gにメタノール3866gとSiO2換算で28.8重量%の正珪酸エチル(多摩化学工業社製)118.4gとを添加した。その後50℃で18時間撹拌し、チタン酸化物の水/メタノール分散液を得た。
【0070】
この分散液を室温まで冷却した後、限外濾過膜を用いてこの分散液の溶媒をメタノールに置換した。この分散液を濃縮することにより、固形分濃度20重量%のチタン酸化物のメタノール分散液943.7gを得た。
【0071】
このメタノール分散液890gに5重量%のアンモニア水を17.7g添加した。さらにKBM-503を53.3g添加した後、この分散液を50℃で18時間撹拌した。この分散液を室温まで冷却した後、ロータリーエバポレーターを用いてこの分散液の溶媒をPGMEAに置換することにより、固形分濃度20重量%の混合物943.3gを得た。
【0072】
添加工程において、本実施例で調製した混合物を用いたことおよびアダマンタン誘導体として三菱ガス化学社製のダイヤピュレストADTMを用いたこと以外は実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0073】
[実施例3]
添加工程において、アダマンタン誘導体として三菱ガス化学社製のダイヤピュレストHADDMを用いた以外は実施例2と同様にして、塗布液を調製した。
【0074】
[実施例4]
四塩化チタンをTiO2換算で2重量%含む四塩化チタン水溶液4500gと15重量%のアンモニア水450gとを混合することにより、pH8.6の白色のスラリーを調製した。このスラリーを濾過し、純水で洗浄することにより、固形分含有量が10重量%のケーキ900gを得た。このケーキ900gを純水で1.5重量%に希釈し、スラリー化した後、このスラリーに35重量%の過酸化水素水1029gを加えた。このスラリーを80℃で1時間保持することにより、過酸化チタン酸をTiO2換算で1.5重量%含む過酸化チタン酸水溶液7039gを得た。この水溶液に純水1961gを添加後、この水溶液を撹拌することにより、透明な黄褐色の過酸化チタン酸水溶液を得た。この水溶液のpHは8.1であった。
【0075】
この水溶液9000gに陽イオン交換樹脂を添加(脱アルカリ)した。イオン交換樹脂を分離した後、1重量%のアルミン酸ナトリウム水溶液91gをこの水溶液に添加し、この水溶液を攪拌した。オートクレーブを用いてこの水溶液を155℃で18時間保持した。この水溶液を室温まで冷却した後、限外濾過膜装置を用いて濃縮することにより、固形分濃度が4重量%のチタン酸化物の水分散液2275gを得た。
【0076】
この水分散液2275gにメタノールを2275gとSiO2換算で28.8重量%の正珪酸エチル70gとを添加した。その後、この水分散液を50℃で18時間撹拌することにより、チタン酸化物の水/メタノール分散液を得た。この分散液を室温まで冷却し、限外濾過膜を用いてこの分散液の溶媒をメタノールに置換した。この分散液を濃縮することにより、固形分濃度20重量%のチタン酸化物のメタノール分散液555.8gを得た。
【0077】
このメタノール分散液500gに5%のアンモニア水を10g添加した。さらに、KBM-503を30g添加した。この分散液を50℃で18時間撹拌し、室温まで冷却した。その後、ロータリーエバポレーターを用いてこの分散液の溶媒をPGMEAに置換することにより、固形分濃度20重量%の混合物530gを得た。
【0078】
添加工程において本実施例で調製した混合物を用いることと、アダマンタン誘導体の添加量を4.0gに、光重合開始剤の添加量を0.24gに変更したこと以外は実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0079】
[実施例5]
添加工程において、アダマンタン誘導体の添加量を14.0g、光重合開始剤の添加量を0.84gに変更した以外は実施例4と同様に塗布液を調製した。
【0080】
[実施例6]
実施例2のチタン酸化物のメタノール分散液500gに5%のアンモニア水を10.0g添加した。さらに3-フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業社製:KBM-103)29.9gを添加した後、この分散液を50℃で18時間撹拌した。この分散液を室温まで冷却した後、ロータリーエバポレーターを用いてこの分散液の溶媒をPGMEAに置換することにより、固形分濃度20重量%の混合物529.9gを得た。
【0081】
添加工程において、本実施例で調製した混合物を用いたこと以外は実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0082】
[実施例7]
錫酸カリウム水溶液を添加しないこと、および1重量%のアルミン酸ナトリウム水溶液の添加量を152gに変更したこと以外は実施例2と同様にチタン酸化物の水分散液を得た。ただし、限外濾過後のチタン酸化物の水分散液の量は3788gであった。
【0083】
準備工程において、本実施例のチタン酸化物の水分散液3788gに、メタノールを3788gとSiO2換算で28.8重量%の正珪酸エチル116gとを添加すること以外は実施例2と同様に、固形分濃度20重量%のチタン酸化物のメタノール分散液924.6gを得た。
【0084】
混合工程において、本実施例のチタン酸化物のメタノール分散液824gに5%のアンモニア水を17g添加後、KBM-503を49g混合したこと以外は、実施例2と同様に固形分濃度20重量%の混合物を873g調製した。
【0085】
添加工程において、本実施例の固形分濃度20重量%の混合物100.0gを用いたこと、およびアダマンタン誘導体の混合量を8.0g、光重合開始剤の添加量を0.48gとしたこと以外は実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0086】
[実施例8]
添加工程において、実施例4の固形分濃度20重量%の混合物を用いたこと、および重合開始剤を1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(IGMResinsB.V.社製:OMNIRAD184)に変更したこと以外は実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0087】
[実施例9]
添加工程において、アダマンタン誘導体の混合量を8.0gに、光重合開始剤の添加量を0.48gにしたこと以外は実施例4と同様に塗布液を調製した。
【0088】
[実施例10]
添加工程において、実施例2の固形分濃度20重量%の混合物を用いたこと以外は実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0089】
[比較例1]
SiO2換算濃度が44.1重量%のメチルトリエトキシシラン(信越化学工業社製:KBM-13)403.71gと溶媒(日本アルコール販売社製:ソルミックス(登録商標)AP-11)1061.55gを混合し、混合液を調製した。この混合液を30分間撹拌した。撹拌しながらこの混合液に0.1重量%の硝酸322.92gを30分かけて添加した。その後、さらに30分間撹拌した。このときの混合液のpHは2.0であった。さらに、撹拌しながらこの混合液にトリエタノールアミン(林純薬工業社製)2.86gを添加した。さらに、この混合液を10分撹拌することにより、SiO2換算濃度で10.0重量%の加水分解化合物を調製した。このときの混合液のpHは7.0であった。攪拌されているヘキシレングリコール(富士フィルム和光純薬社製)1194.03gに、この加水分解化合物を添加し、加水分解化合物の分散液を得た。この分散液をさらに30分間撹拌し、SiO2換算濃度6.0重量%の加水分解化合物の分散液を調製した。
【0090】
ヘキシレングリコール(富士フィルム和光純薬社製)を5211.44g、アセチルアセトン(富士フィルム和光純薬社製)を261.19g、およびTiO2換算で28重量%のチタンアルコキシド(マツモトファインケミカル社製:オルガチックス(登録商標)TA-10)を1492.54g混合し、混合液を得た。その後、この混合液を5分間撹拌した。この混合液を撹拌しながら、この混合液にSiO2換算濃度6.0重量%の加水分解化合物の分散液をさらに混合した。この混合液を10分間撹拌した後、この混合液に純水49.75gを加えた。この混合液を25℃で30分間撹拌した後、0.2μmのフィルターを用いて濾過することにより、固形分が6.0重量%の塗布液を調製した。
【0091】
得られた塗布液を用いて以下のように透明被膜付基材(ガラス基材)を形成し、全光線透過率およびヘーズを測定した。また、同様に透明被膜付基材(シリコンウエハ)を形成し、屈折率と膜厚を評価した。測定結果と評価結果を表2に示す。
【0092】
≪透明被膜付基材(ガラス基材)の製造≫
フレキソ印刷法で、この塗布液をガラス基材上に塗布した。その後、この塗布液を90℃で5分間乾燥した。この塗布液に3000mJ/cm2の紫外線(波長365nm)を照射した後、この塗布液を230℃で30分間加熱することにより、透明被膜付基材(ガラス基材)を調製した。NDH-5000を用いて、透明被膜付基材(ガラス基材)の全光線透過率及びヘーズを測定した。なお、未塗布のガラス基材おいて、全光線透過率が99.0%、ヘーズが0.1%であった。
【0093】
≪透明被膜付基材(シリコンウエハ)の製造≫
フレキソ印刷法で、塗布液をシリコンウエハ上に塗布した。その後、この塗布液を90℃で5分間乾燥した。この塗布液に3000mJ/cm2の紫外線(波長365nm)を照射した後、この塗布液を230℃で30分間加熱し、透明被膜付基材(シリコンウエハ)を調製した。SE―2000を用いて、透明被膜付基材(シリコンウエハ)の屈折率と膜厚を評価した。
【0094】
[比較例2]
添加工程において、アダマンタン誘導体を混合しないこと以外は実施例1と同様にして、塗布液を調製した。
【0095】
[比較例3]
ロータリーエバポレーターを用いて実施例4のチタン酸化物のメタノール分散液500g中の溶媒をPGMEAに置換することにより、固形分濃度20重量%のチタン酸化物のPGMEA分散液500gを得た。この分散液は、粘度が高く、白濁していた。
【0096】
【0097】
【要約】
基材上に高屈折率で、厚い膜を形成できる塗布液を提供する。本発明によれば、チタン含有酸化物と、有機バインダーと、アダマンタン誘導体とを含む塗布液を用いて、基材上に膜を形成する。この塗布液は、チタン含有酸化物が固形分中で50~75重量%含まれ、アダマンタン誘導体が固形分中で10~35重量%含まれ、有機バインダーが固形分中で10~25重量%含まれることが好ましい。また、アルコキシ基を持つ有機バインダーを用いることが好ましい。