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特許7169495電着砥粒層で被覆された切削工具及び該切削工具の再生方法
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  • 特許-電着砥粒層で被覆された切削工具及び該切削工具の再生方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】電着砥粒層で被覆された切削工具及び該切削工具の再生方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20221104BHJP
   B23B 27/20 20060101ALI20221104BHJP
   B23P 15/28 20060101ALI20221104BHJP
   C25D 15/02 20060101ALI20221104BHJP
   C23F 1/00 20060101ALI20221104BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
B23B27/14 A
B23B27/14 B
B23B27/20
B23P15/28 A
C25D15/02 F
C23F1/00 103
C25D7/00 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018185417
(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2020055049
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2020-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】500487620
【氏名又は名称】株式会社Kamogawa
(74)【代理人】
【識別番号】100173406
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 真貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100067301
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 順一
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 政利
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-171712(JP,A)
【文献】特開平09-057515(JP,A)
【文献】特開2006-247751(JP,A)
【文献】特開2017-087336(JP,A)
【文献】特開2004-276178(JP,A)
【文献】特許第4526343(JP,B2)
【文献】特許第4227835(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2002/0139680(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0081464(US,A1)
【文献】特開昭62-105628(JP,A)
【文献】特開平08-001519(JP,A)
【文献】特開平08-001520(JP,A)
【文献】特開平10-053832(JP,A)
【文献】特開2001-081526(JP,A)
【文献】中国実用新案第205237113(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00-29/34
B23P 5/00-17/06
B23P 23/00-25/00
C04B 35/56-35/599
C22C 1/04-1/05
C22C 26/00
C22C 29/00-29/18
C22C 32/00
C22F 1/00-3/02
C23F 1/00-4/04
C25D 5/00-7/12
C25D 9/00-9/12
C25D 13/00-21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化タングステンとバインダーとからなる超硬合金の切削工具であって、前記バインダーはコバルトを除くバインダーであり、前記切削工具は先端から外周面にかけて電着砥粒層で被覆されており、前記電着砥粒層は砥粒を含有したニッケルメッキ層である電着砥粒層で被覆された切削工具。
【請求項2】
前記超硬合金のバインダーが炭化ケイ素又は炭化チタンである請求項1記載の電着砥粒層で被覆された切削工具。
【請求項3】
請求項1又は2記載の電着砥粒層で被覆された切削工具の電着砥粒層をニッケル溶解液によって除去してなる切削工具。
【請求項4】
請求項3記載の切削工具の先端から外周面かけて電着砥粒層で被覆してなる切削工具であって、前記電着砥粒層が砥粒を含有したニッケルメッキ層である電着砥粒層で被覆された切削工具。
【請求項5】
前記砥粒がダイヤモンド又は立方体窒化硼素の砥粒である請求項1乃至4いずれか記載の切削工具。
【請求項6】
請求項1又は2記載の電着砥粒層で被覆した切削工具をニッケル溶解液で電着砥粒層を剥離することを特徴とする電着砥粒層の剥離方法。
【請求項7】
請求項3記載の切削工具の先端から外周面かけて砥粒を含有したニッケルメッキで電着砥粒層を設けることを特徴とする切削工具を電着砥粒層で被覆する方法。
【請求項8】
前記砥粒がダイヤモンド又は立方体窒化硼素の砥粒である請求項7記載の切削工具を電着砥粒層で被覆する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端から外周面にかけて電着砥粒層で被覆された切削工具に関する。詳しくは、該切削工具は、コバルトやニッケルをバインダーとしない超硬合金を母材とし、電着砥粒層が砥粒を含有したニッケルメッキ層であるから、ニッケル溶解液に浸漬するという簡便な方法で電着砥粒層を剥離することができると共に、ニッケル溶解液によっても母材が脆くならないから、電着砥粒層の剥離と再被覆とを繰り返し行うことができる、剛性や硬度に優れ、再生可能な電着砥粒層で被覆された切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ダイヤモンドや窒化硼素等の砥粒を先端部分に電着させた工具(以下「電着工具」と言う)は、SK4等の炭素鋼を母材とし、砥粒を含有したニッケルメッキで電着砥粒層を設けている。
【0003】
ニッケルメッキで砥粒を付着させれば、ニッケル溶解液に浸漬するという簡便な方法で剥離することができる。
【0004】
また、炭素鋼はニッケル溶解液に浸漬しても脆くなったりすることがないので、使用によって砥粒が摩耗したり、脱落したりした場合には、電着工具をニッケル溶解液に浸漬して電着砥粒層を剥離した後、再度、砥粒を含有するニッケルメッキによって電着砥粒層を設けることができるので、繰り返し電着工具を再生することができるという特長がある。
【0005】
しかし、炭素鋼はヤング率が約200Gpaと低くて剛性が劣るため、切削工具に用いた場合は、切削加工中に電着工具が破損したり、曲がりが生じたりする虞があり、高精度の切削加工には使用できないといった問題がある。
【0006】
そこで、高精度の切削加工に用いる切削工具には、ヤング率が530Gpa以上ある超硬合金を母材とすることがある。
【0007】
超硬合金は炭化タングステン(WC)の焼結体であるが、WCのみで緻密な焼結体を得ることは困難であるため、通常は、バインダーとしてコバルト(Co)やニッケル(Ni)を添加し剛性のある超硬合金を製造する。
【0008】
中でも炭化タングステンにコバルトを添加して焼結した超硬合金(以下「WC-Co系超硬合金」と言う)は特に優れた超硬合金であり、WCのみの焼結体と比べて強度や破壊靭性が非常に向上する。
【0009】
しかし、WC-Co系超硬合金は硬度が低いため、WC-Co系超硬合金を母材とする切削工具は、先端部分をダイヤモンド膜で被覆したり、砥粒を含有するニッケルでメッキして電着砥粒層を設けたりすることで硬度を高く維持することが行われる。
【0010】
しかし、ダイヤモンド膜はWC-Co系超硬合金との密着性が高く、剥離が困難であり、ダイヤモンド膜を剥離して、再度、被覆して再生することが困難であるという問題がある。
【0011】
ニッケルメッキによる電着砥粒層であれば、ニッケル溶解液に浸漬することで容易に電着砥粒層を剥離することができるが、ニッケル溶液に浸漬したWC-Co系超硬合金を母材とする切削工具を再度電着砥粒層で被覆しても、ニッケル溶解液に浸漬する前の硬度を維持できなかったり、密着性が足りず使用中に電着砥粒層が剥がれたりすることが知られている。
【0012】
したがって、WC-Co系超硬合金を母材とし、硬質材料で被覆した切削工具は、硬質材料を剥離し、再度被覆することが困難であり、繰り返し再生して使用することができないといった問題がある。
【0013】
そこで、母材が超硬合金であって剛性が高く、かつ、硬質材料で被覆されており硬度も高い切削工具であって、容易な方法で硬質材料を剥離でき、また、再度被覆しても母材の剛性や硬度が維持されて繰り返し再生して使用できる切削工具の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開平9-57515
【文献】特開2006-247751
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1には、ドリルの先端が超硬合金製の切刃チップがロウ付けにより固定されており、切刃チップの先端から外周面にかけてニッケルバインダーを主成分とする電着砥粒層で被覆されているドリルが開示されている。
【0016】
しかし、特許文献1に開示されるドリルは、砥粒が摩耗・脱落等した場合には切刃チップごと交換するように設計されているドリルであり、仮に、ニッケル溶解液で切刃チップの電着砥粒層を剥離すれば、ニッケル溶解液で超硬合金が脆くなり、再度電着砥粒層で被覆したとしても、再生前の硬度が維持できなかったり、使用中に電着砥粒層が剥がれたりする虞があるといった問題がある。
【0017】
特許文献2には、超硬合金を母材とする切削工具で、ダイヤモンド膜で被覆されている切削工具のダイヤモンド膜を除去し、新たにダイヤモンド膜で被覆する方法が開示されている。
【0018】
しかしながら、特許文献2に開示される方法は、高温領域においてコバルトがダイヤモンド膜を遊離炭素に変化させる作用を利用して剥離をしようとするものであるから、800℃を超える熱処理を行う必要があり、高度な技術や専用の設備が必要であるという問題がある。
【0019】
本発明者らは、前記諸問題点を解決することを技術的課題とし、試行錯誤的な数多くの試作・実験を重ねた結果、母材がWC-Co系超硬合金である電着工具が再生できないのは、電着砥粒層を剥離する際に浸漬するニッケル溶解液によってコバルトが溶出するため、WC-Co系超硬合金が脆くなるためであることを発見した。
【0020】
そして、炭化タングステン(WC)とバインダーとからなる超硬合金の切削工具であって、前記バインダーはコバルト及び/又はニッケルを除くバインダーであり、前記切削工具は先端から外周面にかけて電着砥粒層で被覆されており、前記電着砥粒層は砥粒を含有したニッケルメッキ層である電着砥粒層で被覆された切削工具であれば、ニッケル溶解液に浸漬しても超硬合金が脆くなったりすることがないから、ニッケル溶解液に浸漬するといった容易な方法で電着砥粒層を剥離することができると共に、再度、砥粒を含有するニッケルメッキによって切削工具の先端部分を被覆したとしても、剛性や硬度が維持され、また、電着砥粒層が剥がれたりせず、繰り返し再生することができる、高精度加工にも好適に使用できる切削工具になるという刮目すべき知見を得て、前記技術的課題を達成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記技術的課題は、次のとおり本発明によって解決できる。
【0022】
本発明は、炭化タングステンとバインダーとからなる超硬合金の切削工具であって、前記バインダーはコバルトを除くバインダーであり、前記切削工具は先端から外周面にかけて電着砥粒層で被覆されており、前記電着砥粒層は砥粒を含有したニッケルメッキ層である電着砥粒層で被覆された切削工具である。

【0023】
また、本発明は、前記超硬合金のバインダーが炭化ケイ素又は炭化チタンである前記電着砥粒層で被覆された切削工具である。
【0024】
また、本発明は、前記電着砥粒層で被覆された切削工具の電着砥粒層をニッケル溶解液によって除去してなる切削工具である。
【0025】
また、本発明は、前記電着砥粒層で被覆された切削工具の電着砥粒層をニッケル溶解液によって除去してなる切削工具の先端から外周面にかけて電着砥粒層で被覆してなる切削工具であって、前記電着砥粒層が砥粒を含有したニッケルメッキ層である電着砥粒層で被覆された切削工具である。
【0026】
また、本発明は前記砥粒がダイヤモンド又は立方体窒化硼素の砥粒である前記切削工具である。
【0027】
また、本発明は、前記電着砥粒層で被覆した切削工具をニッケル溶解液で電着砥粒層を剥離することを特徴とする電着砥粒層の剥離方法である。
【0028】
また、本発明は、前記電着砥粒層で被覆された切削工具の電着砥粒層をニッケル溶解液によって除去してなる切削工具の先端から外周面にかけて砥粒を含有したニッケルメッキで電着砥粒層を設けることを特徴とする切削工具を電着砥粒層で被覆する方法である。
【0029】
また、本発明は、前記砥粒がダイヤモンド又は立方体窒化硼素の砥粒である前記切削工具を電着砥粒層で被覆する方法である。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、超硬合金からなる切削工具であるから、破損したり、曲がりが生じたりする虞がない高い剛性を備え、かつ、先端から外周にかけて電着砥粒層で被覆されているので、高い硬度を備えた高精度加工にも好適に使用できる切削工具である。
【0031】
また、本発明における超硬合金のバインダーが炭化ケイ素又は炭化チタンであれば、剛性が極めて高い切削工具になる。
【0032】
また、本発明における電着砥粒層が砥粒を含有するニッケルメッキ層であるから、ニッケル溶解液に浸漬するという容易な方法で電着砥粒層を剥離することができる。
【0033】
また、母材である超硬合金のバインダーは、コバルトやニッケルを除くバインダーであるから、ニッケル溶解液に浸漬して電着砥粒層を剥離したとしても、バインダーが溶出しないので超硬合金が脆くなることがなく、再度、砥粒を含有するニッケルメッキ層である電着砥粒層で先端及び外周面を被覆すれば、剛性及び硬度を維持した切削工具になるため、繰り返し再生可能な切削工具である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】ニッケル溶解液に5日間浸漬したWC-Co系超硬合金とWC-SiC系超硬合金の比較である(30倍)。
図2】ニッケル溶解液に5日間浸漬したWC-Co系超硬合金の電子顕微鏡写真(100倍)である。
図3】ニッケル溶解液に5日間浸漬したWC-Co系超硬合金の内側と表面側のスペクトルの比較である。
図4】ニッケル溶解液に5日間浸漬したWC-SiC系超硬合金の電子顕微鏡写真(300倍)である。
図5】ニッケル溶解液に5日間浸漬したWC-Co系超硬合金の内側と表面側のスペクトルの比較である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明における切削工具は、炭化タングステン(WC)にコバルト(Co)やニッケル(Ni)を除くバインダーを添加して焼結してなる超硬合金を母材とする。
【0036】
本発明における超硬合金の硬度(ビッカーズ硬さ)は2200~2500HV、ヤング率は500~650Gpa、破壊靭性値は6.0~6.5MPa/m1/2であることが好ましい。
【0037】
高精度の切削加工に使用できる剛性及び硬度を確保するためである。
【0038】
本発明における超硬合金としては、炭化ケイ素がバインダーである超硬合金(WC-SiC系焼結体/特許4526343号)、炭化チタンがバインダーである超硬合金(WC-TiC系焼結体/特許4227835)を例示することができる。
【0039】
本発明における切削工具の先端及び外周面は砥粒を含有したニッケルメッキ層である電着砥粒層で被覆されている。
【0040】
本発明においては、電着砥粒層を設ける前に、切削工具に対してストライクメッキを行ってもよい。
【0041】
ストライクメッキは、例えばウッド浴(塩化ニッケル200~250g/L、35%塩酸50~100ml/L)に切削工具を浸漬後、電流密度4~5A/dm、1~2分間メッキを行えばよい。
【0042】
本発明においては、下地メッキを行うことができる。
下地メッキは、ニッケルメッキ浴に切削工具を浸漬後、電流密度1~2A/dm、10~60分メッキを行えばよい。
【0043】
ストライクメッキや下地メッキを施せば、密着性が上がるため電着砥粒層が剥がれ難くなる。
【0044】
砥粒は超高硬度であり、耐摩耗性の高い砥粒であればよく、ダイヤモンドや窒化硼素(CBN)が好適である。
【0045】
砥粒を入れたニッケルメッキ浴に切削工具の先端部を浸漬し、電流密度0.2~1.0A/dm、1~6時間でメッキを行うとよい。
【0046】
ニッケルメッキ浴は硫酸ニッケル、塩化ニッケル等の各種ニッケルを含有する公知のニッケルメッキ浴を使用することができるが、スルファミン酸ニッケル浴(スルファミン酸ニッケル440~550g/L、ホウ酸30~50g/L)が好適である。
【0047】
電着砥粒層のメッキの厚みは砥粒のサイズに合わせて適宜変更すればよい。例えば、#100に対しては70~90μmであることが好ましく、♯140に対しては50~70μmであることが好ましい。
【0048】
砥粒のサイズが#100の場合に、メッキの厚みが70μmより薄ければ剥がれる虞があり、90μmよりも厚ければメッキ面から突き出した砥粒が少なくなるので、工具寿命が悪くなるからである。
【0049】
本発明における切削工具は、先端から外周面にかけて電着砥粒層で被覆されていればよく、外周面の全部が被覆されていてもよい。
【0050】
本発明における電着砥粒層はニッケル溶解液に浸漬し、洗浄することで剥離することができる。
【0051】
ニッケル溶解液は特に限定されるものではなく、公知の強アルカリ液を使用することができる。
【0052】
また、市販のニッケル溶解液も好適に使用することができる。
市販のニッケル溶解液としてはアサヒリップ(上村工業株式会社製)を例示することができる。
【0053】
40~60℃のニッケル溶解液に、電着砥粒層で被覆された切削工具を浸漬し、24~72時間放置し、洗浄することで電着砥粒層を剥離することができる。
【0054】
本発明における切削工具は、母材である超硬合金がニッケル溶解液によってバインダーが溶出して脆くなったりすることがないから、前述の方法にて再度、電着砥粒層を設けることができ、繰り返し再生することができる。
【実施例
【0055】
本発明を実施例及び比較例を挙げてより詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0056】
全長50mm、外径6mmの円柱状のWC-Co系超硬合金(KFカーバイトジャパン社製)及びWC-SiC系超硬合金(日本ハードメタル株式会社製)の各超硬合金からなる台金をそれぞれ3本ずつ、外周部端面10mmの長さを残して、絶縁テープNo.647(株式会社寺岡製作所製)によりマスキングを行った。
【0057】
該台金を、アサヒベース(登録商標)F-1000(上村工業株式会社製)100g/L水溶液に3~5分浸漬して浸漬脱脂を行った後、アサヒベース(登録商標)F-2000(上村工業株式会社製)90g/L水溶液に浸漬し、液温50℃、電圧3V固定で、3分間通電して電解脱脂を行った。
その後、水洗いをして台金を酸性浴(17.5%塩酸:純水=1:1)に浸漬をすることで活性化し、再度水洗いを行った。
【0058】
次に、この台金をウッド浴(塩化ニッケル250g/L、35%塩酸100ml/L)に浸漬し、電流密度5A/dm、1分間通電してストライクメッキを行った。
【0059】
ストライクメッキ後にスルファミン酸建浴液(日本化学産業株式会社製 Ni450BF)に浸漬し、電流密度2A/dmで15分間下地メッキを行った。
【0060】
スルファミン酸建浴液(日本化学産業株式会社製 Ni450BF)9Lを入れた槽の中に、平均粒径150μmのダイヤモンド砥粒を3000carat入れたパウダー槽を設置し、パウダー槽に台金を挿入して電流密度0.4A/dmで4時間メッキすることにより、ダイヤモンド砥粒を仮固定した。
【0061】
仮固定を行った各台金をスルファミン酸建浴液(日本化学産業株式会社製 Ni450BF)に浸漬して、電流密度0.9A/dmで2時間メッキして砥粒を固定することで、電着砥粒層で被覆した。
【0062】
(ニッケル溶解液の作用)
直径6cm、全長50mmのWC-Co系超硬合金とWC-SiC系超硬合金の丸棒を常温(約20℃)のアサヒリップ(上村工業株式会社製)に5日間浸漬した後、輪切りにして観察した結果、WC-Co系超硬合金のみニッケル溶解液と接していた表面が変色していることが確認できた。両超硬合金を比較した写真を図1に示す。
【0063】
前記の輪切りにしたWC-Co系超硬合金とWC-SiC系超硬合金を電子顕微鏡(SEMEDXTYPeN/株式会社日立サイエンスシステムズ製)で撮影した。WC-Co系超硬合金の電子顕微鏡写真を図2、WC-SiC系超硬合金を図4に示す。
【0064】
各超硬合金の表面側及び内側の各元素の含有量をSEMEDXTYPeN(株式会社日立サイエンスシステムズ製)で測定した(繰り返し回数3回)。測定個所は図2及び図4の白の四角で示した箇所である。
【0065】
WC-SiCの結果を表1、WC-SiC系超硬合金の結果を表2にそれぞれ示す。
また、WC-Co系超硬合金のスペクトルの結果を図3、WC-SiC系超硬合金のスペクトルの結果を図5にそれぞれ示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
(強度試験)
<浸漬処理>
WC-Co系超硬合金(KFカーバイトジャパン社製)及びWC-SiC系超硬合金(日本ハードメタル株式会社製)の各超硬合金を使用した。
【0069】
抗折力の測定には、直径3cm、全長50mmの各超硬合金の台金を使用し、ビッカーズ硬さ及び破壊靭性の測定には直径6cm、全長5mmの各超硬合金を使用した。
【0070】
各超硬合金をアサヒリップに1週間浸漬して浸漬処理を行った。
【0071】
<抗折力>
精密万能試験機オートグラフAG-IS(株式会社島津製作所製)を使用し、各超硬合金1点の値を測定した。
【0072】
<ビッカーズ硬さ>
ビッカーズ硬度計 FV-300e(株式会社フューチャーテック製)を使用し、各超硬
合金2点の値を測定し平均値を各測定値とした。
【0073】
<破壊靭性値>
ビッカーズ硬度計 FV-300e(株式会社フューチャーテック製)を使用し、各超硬合
金2点の値を測定し平均値を各測定値とした。
【0074】
強度試験の各結果を表3に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
表1及び表2より、WC-Co系超硬合金はニッケル溶解液によってコバルトが溶出していることが確認され、ニッケル溶解液はWC-SiC系超硬合金に対しては影響がないことが確認された。
また、ニッケル溶解液に浸漬したWC-Co系超硬合金は抗折力やビッカーズ硬さが低下するが、WC-SiC系超硬合金は影響がないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明における電着砥粒層で被覆された切削工具であれば、ニッケル溶解液に浸漬するという容易な方法で電着砥粒層を剥離することができる。
また、ニッケル溶解液に浸漬しても超硬合金のバインダーが溶出せず、母材が脆くなることがないので、再度、電着砥粒層で被覆しても、切削工具の強度を維持することができる。
したがって、本発明における電着砥粒層で被覆された切削工具は繰り返し再生することができる。
よって、本発明の産業上の利用可能性は高い。
図1
図2
図3
図4
図5