(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】蒸着マスクの製造方法、蒸着マスク、及び蒸着マスクを作製するための給電板
(51)【国際特許分類】
C25D 1/08 20060101AFI20221104BHJP
C23C 14/04 20060101ALI20221104BHJP
H01L 27/32 20060101ALI20221104BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20221104BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
C25D1/08 311
C23C14/04 A
H01L27/32
H05B33/10
H05B33/14 A
(21)【出願番号】P 2018144457
(22)【出願日】2018-07-31
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100158964
【氏名又は名称】岡村 和郎
(72)【発明者】
【氏名】宮谷 勲
(72)【発明者】
【氏名】井上 功
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-541962(JP,A)
【文献】特開2016-199775(JP,A)
【文献】特開2017-193775(JP,A)
【文献】特開2017-020080(JP,A)
【文献】特開2018-095958(JP,A)
【文献】特許第6120039(JP,B1)
【文献】国際公開第2017/013903(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00 - 14/58
C25D 1/00 - 21/22
H01L 27/32
H01L 51/50
H05B 33/10 - 33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の貫通孔を有する蒸着マスクの製造方法であって、
導電性材料から構成された給電面を有する給電板を準備する準備工程と、
前記給電面上に、前記貫通孔に対応するパターンを有する第1レジストパターンを形成する第1レジスト形成工程と、
前記第1レジストパターンの隙間においてめっき処理により前記給電面上に金属層を形成し、前記金属層を貫通する前記複数の貫通孔を有するベースマスクを得るベースマスク作製工程と、
前記ベースマスクを前記給電面から剥離させる剥離工程と、を備え、
前記給電板の前記給電面のSdrが0.0002以上0.0010以下である、蒸着マスクの製造方法。
【請求項2】
前記第1レジスト形成工程は、前記給電板の前記給電面上に第1レジストフィルムを設ける工程と、前記第1レジストフィルムをパターニングして前記第1レジストパターンを形成する工程と、を含む、請求項1に記載の蒸着マスクの製造方法。
【請求項3】
前記ベースマスクは、前記複数の貫通孔を含む有効領域と、前記有効領域の周囲に位置する周囲領域と、を有し、
前記蒸着マスクの製造方法は、前記ベースマスクの前記有効領域の前記複数の貫通孔に重なる開口部を有する支持体を前記ベースマスクの前記周囲領域に接合する支持体接合工程を更に備え、
前記剥離工程は、前記ベースマスク及び前記ベースマスクに接合された前記支持体を前記給電面から剥離させる、請求項1又は2に記載の蒸着マスクの製造方法。
【請求項4】
前記支持体接合工程は、前記ベースマスクの前記周囲領域の一部、前記給電板の前記給電面の一部及び前記支持体の一部に跨る接合部をめっき処理により形成する工程を含む、請求項3に記載の蒸着マスクの製造方法。
【請求項5】
前記給電板の厚みが0.9mm以下であり、
前記剥離工程は、前記給電板を湾曲又は屈曲させて前記給電板を前記ベースマスクから剥離させる工程を含む、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の蒸着マスクの製造方法。
【請求項6】
前記準備工程は、前記給電板の前記給電面のSdrが0.0002以上0.0010以下であるか否かを検査する検査工程を含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の蒸着マスクの製造方法。
【請求項7】
複数の貫通孔を有する蒸着マスクであって、
第1面及び第1面の反対側に位置する第2面を含む金属層と、前記金属層を貫通する複数の貫通孔と、を有するベースマスクを備え、
前記第1面のSdrが0.0002以上0.0010以下である、蒸着マスク。
【請求項8】
前記ベースマスクは、前記複数の貫通孔を含む有効領域と、前記有効領域の周囲に位置する周囲領域と、を有し、
前記蒸着マスクは、前記ベースマスクの前記有効領域の前記複数の貫通孔に重なる開口部を有し、前記ベースマスクの前記周囲領域に接合されている支持体を更に備える、請求項7に記載の蒸着マスク。
【請求項9】
前記蒸着マスクは、前記ベースマスクの前記周囲領域の一部及び前記支持体の一部に結合されている接合部を更に備える、請求項8に記載の蒸着マスク。
【請求項10】
前記接合部の面のうち前記ベースマスクの前記周囲領域と前記支持体との間において前記金属層の前記第1面と同一の側に位置する面のSdrが0.0002以上0.0010以下である、請求項9に記載の蒸着マスク。
【請求項11】
複数の貫通孔を有する蒸着マスクのベースマスクをめっき処理により作製するための
、第1レジストパターンが設けられた給電板であって、
前記ベースマスクは、第1面及び第1面の反対側に位置する第2面を含む金属層と、前記金属層を貫通する複数の貫通孔と、を有し、
前記給電板は、前記ベースマスクの前記金属層の前記第1面に対向し、0.0002以上0.0010以下のSdrを有し、導電性材料から構成された給電面を備え
、
前記第1レジストパターンは、前記給電面に位置し、
前記第1レジストパターンは、前記ベースマスクの前記貫通孔に対応するパターンを有する、第1レジストパターンが設けられた給電板。
【請求項12】
前記給電板の厚みが0.9mm以下である、請求項11に記載の
、第1レジストパターンが設けられた給電板。
【請求項13】
前記給電板がステンレス鋼、黄銅又はアルミニウムを含む、請求項11又は12に記載の
、第1レジストパターンが設けられた給電板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、蒸着マスクの製造方法及び蒸着マスクに関する。また、本開示の実施形態は、蒸着マスクのベースマスクをめっき処理により作製するための給電板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレットPC等の持ち運び可能なデバイスで用いられる表示装置に対して、高精細であること、例えば画素密度が500ppi以上であることが求められている。また、持ち運び可能なデバイスにおいても、ウルトラハイディフィニション(UHD)に対応することへの需要が高まっており、この場合、表示装置の画素密度が例えば800ppi以上であることが求められる。
【0003】
応答性の良さや消費電力の低さのため、有機EL表示装置が注目されている。有機EL表示装置の画素を形成する方法として、所望のパターンで配列された貫通孔を含む蒸着マスクを用い、所望のパターンで画素を形成する方法が知られている。具体的には、はじめに、有機EL表示装置用の基板に対して蒸着マスクを密着させ、次に、密着させた蒸着マスクおよび基板を共に蒸着装置に投入し、有機材料などの蒸着を行う。
【0004】
蒸着マスクの製造方法としては、例えば特許文献1に開示されているように、めっき処理を利用して蒸着マスクを製造する方法が知られている。例えば特許文献1に記載の方法においては、はじめに、ステンレスや真ちゅう鋼製の給電板の表面にレジストパターンを形成する。続いて、給電板を電鋳槽に入れ、給電板の表面のうちレジストパターンで覆われていない部分に金属層を形成し、金属層を貫通する複数の貫通孔を有するベースマスクを得る。続いて、ベースマスクに枠部材を接合した後、ベースマスク及び枠部材から給電板を剥離する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
給電板とベースマスクとの間の密着力が大き過ぎると、ベースマスクから給電板を剥離する時にベースマスクが損傷してしまう可能性がある。一方、給電板とレジストパターンとの間の密着力が小さ過ぎると、めっき処理の時にレジストパターンが給電板から剥がれてしまう可能性がある。
【0007】
本開示の実施形態は、このような課題を効果的に解決し得る蒸着マスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一実施形態は、複数の貫通孔を有する蒸着マスクの製造方法であって、導電性材料から構成された給電面を有する給電板を準備する準備工程と、前記給電面上に、前記貫通孔に対応するパターンを有する第1レジストパターンを形成する第1レジスト形成工程と、前記第1レジストパターンの隙間においてめっき処理により前記給電面上に金属層を形成し、前記金属層を貫通する前記複数の貫通孔を有するベースマスクを得るベースマスク作製工程と、前記ベースマスクを前記給電面から剥離させる剥離工程と、を備え、前記給電板の前記給電面のSdrが0.0002以上0.0010以下である、蒸着マスクの製造方法である。
【0009】
本開示の一実施形態による蒸着マスクの製造方法において、前記第1レジスト形成工程は、前記給電板の前記給電面上に第1レジストフィルムを設ける工程と、前記第1レジストフィルムをパターニングして前記第1レジストパターンを形成する工程と、を含んでいてもよい。
【0010】
本開示の一実施形態による蒸着マスクの製造方法において、前記ベースマスクは、前記複数の貫通孔を含む有効領域と、前記有効領域の周囲に位置する周囲領域と、を有し、前記蒸着マスクの製造方法は、前記ベースマスクの前記有効領域の前記複数の貫通孔に重なる開口部を有する支持体を前記ベースマスクの前記周囲領域に接合する支持体接合工程を更に備え、前記剥離工程は、前記ベースマスク及び前記ベースマスクに接合された前記支持体を前記給電面から剥離させてもよい。
【0011】
本開示の一実施形態による蒸着マスクの製造方法において、前記支持体接合工程は、前記ベースマスクの前記周囲領域の一部、前記給電板の前記給電面の一部及び前記支持体の一部に跨る接合部をめっき処理により形成する工程を含んでいてもよい。
【0012】
本開示の一実施形態による蒸着マスクの製造方法において、前記給電板の厚みが0.9mm以下であり、前記剥離工程は、前記給電板を湾曲又は屈曲させて前記給電板を前記ベースマスクから剥離させる工程を含んでいてもよい。
【0013】
本開示の一実施形態による蒸着マスクの製造方法において、前記準備工程は、前記給電板の前記給電面のSdrが0.0002以上0.0010以下であるか否かを検査する検査工程を含んでいてもよい。
【0014】
本開示の一実施形態は、複数の貫通孔を有する蒸着マスクであって、第1面及び第1面の反対側に位置する第2面を含む金属層と、前記金属層を貫通する複数の貫通孔と、を有するベースマスクを備え、前記第1面のSdrが0.0002以上0.0010以下である、蒸着マスクである。
【0015】
本開示の一実施形態による蒸着マスクにおいて、前記ベースマスクは、前記複数の貫通孔を含む有効領域と、前記有効領域の周囲に位置する周囲領域と、を有し、前記蒸着マスクは、前記ベースマスクの前記有効領域の前記複数の貫通孔に重なる開口部を有し、前記ベースマスクの前記周囲領域に接合されている支持体を更に備えていてもよい。
【0016】
本開示の一実施形態による蒸着マスクは、前記ベースマスクの前記周囲領域の一部及び前記支持体の一部に結合されている接合部を更に備えていてもよい。
【0017】
本開示の一実施形態による蒸着マスクにおいて、前記接合部の面のうち前記ベースマスクの前記周囲領域と前記支持体との間において前記金属層の前記第1面と同一の側に位置する面のSdrが0.0002以上0.0010以下であってもよい。
【0018】
本開示の一実施形態は、複数の貫通孔を有する蒸着マスクのベースマスクをめっき処理により作製するための給電板であって、前記ベースマスクは、第1面及び第1面の反対側に位置する第2面を含む金属層と、前記金属層を貫通する複数の貫通孔と、を有し、前記給電板は、前記ベースマスクの前記金属層の前記第1面に対向し、0.0002以上0.0010以下のSdrを有し、導電性材料から構成された給電面を備える、給電板である。
【0019】
本開示の一実施形態による給電板の厚みが0.9mm以下であってもよい。
【0020】
本開示の一実施形態による給電板がステンレス鋼、黄銅又はアルミニウムを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本開示の実施形態によれば、めっき処理の時にレジストパターンが給電板から剥がれることを抑制できる。また、ベースマスクから給電板を剥離する時にベースマスクが損傷することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態による蒸着マスク装置を備えた蒸着装置を示す図である。
【
図2】
図1に示す蒸着マスク装置を用いて製造した有機EL表示装置を示す断面図である。
【
図3】蒸着マスク装置のベースマスクを示す平面図である。
【
図4】ベースマスクの一部を拡大して示す平面図である。
【
図5】蒸着マスク装置の支持体を示す平面図である。
【
図6】ベースマスク及び支持体を備える蒸着マスクを支持体側から見た場合を示す平面図である。
【
図9】給電板の給電面に第1レジストフィルムを形成する工程を示す図である。
【
図10】第1レジストフィルムをパターニングして第1レジストパターンを形成する工程を示す図である。
【
図11】第1レジストパターンの隙間に金属層を形成する工程を示す図である。
【
図12】第1レジストパターンを除去してベースマスクを得る工程を示す図である。
【
図13】ベースマスクの有効領域上に第2レジストパターンを形成する工程を示す図である。
【
図14】給電板の給電面側に支持体を設ける工程を示す図である。
【
図15】支持体をベースマスクの周囲領域に接合する工程を示す図である。
【
図16】第2レジストパターンを除去して蒸着マスクを得る工程を示す図である。
【
図17】蒸着マスクを給電面から剥離させる剥離工程を示す図である。
【
図18】ベースマスクの一変形例を示す平面図である。
【
図19】
図18のベースマスクを備える蒸着マスクの一例を示す断面図である。
【
図20】実施例におけるレジスト密着性及びマスク剥離性の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、一実施形態に係るマスクの構成及びその製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は本開示の実施形態の一例であって、本開示はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。また、本明細書において、「板」、「基材」、「シート」、「フィルム」など用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。例えば、「板」はシートやフィルムと呼ばれ得るような部材も含む概念である。また、「面(シート面、フィルム面)」とは、対象となる板状(シート状、フィルム状)の部材を全体的かつ大局的に見た場合において対象となる板状部材(シート状部材、フィルム状部材)の平面方向と一致する面のことを指す。また、板状(シート状、フィルム状)の部材に対して用いる法線方向とは、当該部材の面(シート面、フィルム面)に対する法線方向のことを指す。更に、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」や「直交」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0024】
また、本実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、図面の寸法比率は説明の都合上実際の比率とは異なる場合や、構成の一部が図面から省略される場合がある。
【0025】
本実施形態においては、有機EL表示装置を製造する際に有機材料を所望のパターンで基板上にパターニングするために用いられる蒸着マスクの製造方法を例にあげて説明する。ただし、このような適用に限定されることなく、種々の用途に用いられるマスクに対し、本実施形態を適用することができる。
【0026】
(蒸着装置)
まず、対象物に蒸着材料を蒸着させる蒸着処理を実施する蒸着装置90について、
図1を参照して説明する。
図1に示すように、蒸着装置90は、その内部に、蒸着源(例えばるつぼ94)、ヒータ96、及び蒸着マスク装置10を備える。また、蒸着装置90は、蒸着装置90の内部を真空雰囲気にするための排気手段を更に備えていてもよい。るつぼ94は、有機発光材料などの蒸着材料98を収容する。ヒータ96は、るつぼ94を加熱して、真空雰囲気の下で蒸着材料98を蒸発させる。蒸着マスク装置10は、るつぼ94と対向するよう配置されている。
【0027】
(蒸着マスク装置)
以下、蒸着マスク装置10について説明する。
図1に示すように、蒸着マスク装置10は、蒸着マスク12と、蒸着マスク12を支持するフレーム14と、を備える。フレーム14は、蒸着マスク12が撓んでしまうことがないように、蒸着マスク12をその面方向に引っ張った状態で支持する。蒸着マスク装置10は、
図1に示すように、蒸着マスク12が、蒸着材料98を付着させる対象物である基板、例えば有機EL基板92に対面するよう、蒸着装置90内に配置されている。以下の説明において、蒸着マスク12及び蒸着マスク12の構成要素の面のうち、有機EL基板92側に位置する面を第1面と称し、第1面の反対側に位置する面を第2面と称する。
【0028】
蒸着マスク装置10は、
図1に示すように、有機EL基板92の、蒸着マスク12と反対の側の面に配置された磁石93を備えていてもよい。磁石93を設けることにより、磁力によって蒸着マスク12を磁石93側に引き寄せて、蒸着マスク12を有機EL基板92に密着させることができる。また、静電気力(クーロン力)を利用する静電チャックを用いて蒸着マスク12を有機EL基板92に密着させてもよい。
【0029】
図1に示すように、蒸着マスク装置10の蒸着マスク12は、複数の貫通孔25を含む。るつぼ94から蒸発して蒸着マスク装置10に到達した蒸着材料98は、蒸着マスク12の貫通孔25を通って有機EL基板92に付着する。これによって、蒸着マスク12の貫通孔25の位置に対応した所望のパターンで、蒸着材料98を有機EL基板92の表面に成膜することができる。
【0030】
図2は、
図1の蒸着装置90を用いて製造した有機EL表示装置100を示す断面図である。有機EL表示装置100は、有機EL基板92と、パターン状に設けられた蒸着材料98を含む画素と、を備える。
【0031】
なお、複数の色によるカラー表示を行いたい場合には、各色に対応する蒸着マスク12が搭載された蒸着装置90をそれぞれ準備し、有機EL基板92を各蒸着装置90に順に投入する。これによって、例えば、赤色用の有機発光材料、緑色用の有機発光材料および青色用の有機発光材料を順に有機EL基板92に蒸着させることができる。
【0032】
(蒸着マスク)
次に、蒸着マスク12について詳細に説明する。
図1に示すように、蒸着マスク12は、ベースマスク20及び支持体30を備える。蒸着マスク12は、支持体30をベースマスク20に接合する接合部35を更に備えていてもよい。
【0033】
ベースマスク20は、蒸着材料98が通過する複数の貫通孔25を含む。支持体30は、ベースマスク20の複数の貫通孔25に重なる開口部32を含む。なお「重なる」とは、ベースマスク20の法線方向に沿ってベースマスク20及び支持体30を見た場合に、支持体30の開口部32の内部にベースマスク20の複数の貫通孔25が位置していることを意味する。
【0034】
図3は、蒸着マスク12に含まれるベースマスク20の一例を示す平面図である。本実施の形態においては、
図3に示すように、1つの蒸着マスク12に複数のベースマスク20が含まれている。
【0035】
ベースマスク20は、蒸着材料98が通過する複数の貫通孔25を含む有効領域21と、有効領域21の周囲に位置する周囲領域22と、を有する。
図3に示す例において、周囲領域22は、平面視において有効領域21を囲んでいる。図示はしないが、周囲領域22にも貫通孔が形成されていてもよい。
【0036】
一つの有効領域21は、一つの有機EL表示装置100の表示領域に対応する。本実施の形態においては、蒸着マスク12が複数の有効領域21を含むので、有機EL表示装置100の多面付蒸着が可能である。すなわち、1回の蒸着工程により、複数の有機EL表示装置100に対応する蒸着材料の層を有機EL基板92上に形成することができる。なお、一つの有効領域21が複数の表示領域に対応する場合もある。
【0037】
図3に示すように、有効領域21は、例えば、平面視において略四角形形状、さらに正確には平面視において略矩形状の輪郭を有する。なお図示はしないが、各有効領域21は、有機EL基板92の表示領域の形状に応じて、様々な形状の輪郭を有することができる。例えば各有効領域21は、円形状の輪郭を有していてもよい。
【0038】
図4は、ベースマスク20の第1面271側から、すなわち有機EL基板92側から見た場合のベースマスク20の一部を拡大して示す平面図である。
図4に示すように、有効領域21の貫通孔25は、異なる二方向に沿ってそれぞれ所定のピッチで配列されている。
図4に示す例において、二方向は互いに直交している。
【0039】
平面視における貫通孔25の輪郭は、多角形状であってもよく、円形状であってもよい。
図4に示す例において、貫通孔25の輪郭は、互いに平行な2対の辺を有する矩形状である。
図4に示すように、多角形状の輪郭における角部は湾曲していてもよい。
【0040】
図4において、符号S1は、平面視における貫通孔25の寸法を表し、符号S2は、隣接する2つの貫通孔25の間の間隔を表す。貫通孔25の輪郭が多角形である場合、寸法S1は、互いに平行な辺の間の間隔の最大値である。寸法S1、S2は、有機EL表示装置の画素密度などに応じて適切に設定される。例えば、寸法S1は35μm以下であり、寸法S2は35μm以下である。寸法S1は10μm以上であり、寸法S2は10μm以上であってもよい。
【0041】
図5は、蒸着マスク12に含まれる支持体30の一例を示す平面図である。また、
図6は、ベースマスク20及び支持体30を備える蒸着マスク12を支持体側から見た場合を示す平面図である。支持体30は、ベースマスク20の有効領域21の複数の貫通孔25に重なる少なくとも1つの開口部32を有する。開口部32は、有効領域21に対応した輪郭を有する。
【0042】
図5に示す例において、支持体30は、所定の方向に沿って配列された複数の開口部32を有する。本実施の形態においては、
図6に示すように、平面視において支持体30の開口部32が、有効領域21及び周囲領域22を有するベースマスク20全体を囲んでいる。後述する変形例で示すように、開口部32は、その外縁がベースマスク20の周囲領域22上に位置するように構成されていてもよい。
【0043】
図5において、符号S3は、平面視における開口部32の寸法を表し、符号S4は、隣接する2つの開口部32の間の間隔を表す。開口部32の輪郭が多角形である場合、寸法S3は、互いに平行な辺の間の間隔の最大値である。寸法S3は、例えば20mm以上200mm以下であり、寸法S4は、例えば1mm以上20mm以下である。
【0044】
図7は、ベースマスク20及び支持体30を備える蒸着マスク12を示す断面図である。
図7に示すように、ベースマスク20は、有機EL基板92側に位置する第1面271及び第1面271の反対側に位置する第2面272を含む金属層27によって構成されている。金属層27は、後述するように電解めっき処理によって形成されるめっき層である。金属層27は、1つのめっき層を含んでいてもよく、複数のめっき層を含んでいてもよい。上述の貫通孔25は、金属層27を貫通している。
【0045】
図7において、符号T1は、ベースマスク20を構成する金属層27の厚みを表す。金属層27の厚みT1は、シャドーの発生を抑制するよう定められている。「シャドー」とは、有機EL基板92などの基板に到達すべき蒸着材料98が蒸着マスク12の一部分によって遮られ、この結果、基板に付着した蒸着材料98からなる蒸着層の一部分が欠落する、という現象である。金属層27の厚みT1は、例えば10μm以下であり、より好ましくは3μm以下である。また、金属層27の厚みT1は、例えば2μm以上である。
【0046】
図7に示すように、支持体30は、有機EL基板92側に位置する第1面311及び第1面311の反対側に位置する第2面312を含む板状の支持部材31と、支持部材31に形成された上述の開口部32と、を有する。支持部材31は、例えば、厚みT2を有する金属板である。支持体30の支持部材31は、ベースマスク20の周囲領域22に接合されている。支持体30を設けることにより、ベースマスク20の金属層27の厚みT1が小さい場合であっても、蒸着マスク12全体の強度を高めることができる。これにより、蒸着マスク12に塑性変形や亀裂などの損傷などが生じることを抑制することができる。支持部材31の厚みT2は、例えば0.3mm以上であり、より好ましくは1.0mm以上である。また、支持部材31の厚みT2は、例えば10.0mm以下であり、より好ましくは6.0mm以下である。
【0047】
図7に示すように、蒸着マスク12は、ベースマスク20の周囲領域22と支持体30の支持部材31とを接合する接合部35を備えていてもよい。接合部35は、例えば、電解めっき処理によって形成されるめっき層36である。
図7に示す例において、接合部35のめっき層36は、ベースマスク20の周囲領域22を構成する金属層27の第2面272上から支持体30の支持部材31の第2面312上に至るように広がっている。また、めっき層36は、周囲領域22を構成する金属層27の第1面271と支持部材31の第1面311との間に位置し、給電板51の給電面511に接する第1面361を含む。
【0048】
図7において、符号T3は、ベースマスク20の周囲領域22を構成する金属層27上に位置するめっき層36の厚みを表す。めっき層36の厚みT3は、例えば30μm以上であり、80μm以上であってもよい。また、めっき層36の厚みT3は、例えば200μm以下であり、150μm以下であってもよい。
【0049】
以下、蒸着マスク12のベースマスク20、支持体30及び接合部35並びに蒸着マスク12を支持するフレーム14の材料について説明する。蒸着処理は、高温雰囲気となる蒸着装置90の内部で実施される場合がある。この場合、蒸着処理の間、蒸着装置90の内部に保持される蒸着マスク12、フレーム14および有機EL基板92も加熱される。この際、蒸着マスク12、フレーム14および有機EL基板92は、各々の熱膨張係数に基づいた寸法変化の挙動を示すことになる。この場合、蒸着マスク12やフレーム14と有機EL基板92の熱膨張係数が大きく異なっていると、それらの寸法変化の差異に起因した位置ずれが生じ、この結果、有機EL基板92上に付着する蒸着材料の寸法精度や位置精度が低下してしまう。
【0050】
このような課題を解決するため、蒸着マスク12およびフレーム14の熱膨張係数が、有機EL基板92の熱膨張係数と同等の値であることが好ましい。例えば、有機EL基板92としてガラス基板が用いられる場合、蒸着マスク12およびフレーム14の主要な材料として、ニッケルを含む鉄合金を用いることができる。
【0051】
鉄合金は、ニッケルに加えてコバルトを更に含んでいてもよい。例えば、蒸着マスク12のベースマスク20の金属層27、支持体30の支持部材31及び接合部35のめっき層36を構成する金属材料として、ニッケル及びコバルトの含有量が合計で30質量%以上且つ54質量%以下であり、且つコバルトの含有量が0質量%以上且つ6質量%以下である鉄合金を用いることができる。ニッケル若しくはニッケル及びコバルトを含む鉄合金の具体例としては、34質量%以上且つ38質量%以下のニッケルを含むインバー材、30質量%以上且つ34質量%以下のニッケルに加えてさらにコバルトを含むスーパーインバー材、38質量%以上且つ54質量%以下のニッケルを含む低熱膨張Fe-Ni系めっき合金などを挙げることができる。
【0052】
なお蒸着処理の際に、蒸着マスク12、フレーム14および有機EL基板92の温度が高温には達しない場合は、蒸着マスク12およびフレーム14の熱膨張係数を、有機EL基板92の熱膨張係数と同等の値にする必要は特にない。この場合、蒸着マスク12を構成する材料として、上述の鉄合金以外の材料を用いてもよい。例えば、クロムを含む鉄合金など、上述のニッケルを含む鉄合金以外の鉄合金を用いてもよい。クロムを含む鉄合金としては、例えば、いわゆるステンレスと称される鉄合金を用いることができる。また、ニッケルやニッケル-コバルト合金など、鉄合金以外の合金を用いてもよい。
【0053】
(蒸着マスクの製造方法)
次に、蒸着マスク12を製造する方法について説明する。
図8乃至
図17は、蒸着マスク12の製造方法を説明する図である。
【0054】
〔給電板の準備工程〕
まず、
図8に示すように、給電板51を準備する。給電板51は、電解めっき処理によってベースマスク20を形成するために用いられる部材である。給電板51は、導電性材料から形成された給電面511を有する。給電板51を構成する材料としては、ステンレス鋼、黄銅、アルミニウムなどを用いることができる。ステンレス鋼としては、SUS304、SUS316などのオーステナイト系ステンレス鋼、又は、SUS430などのフェライト系ステンレス鋼を用いることができる。
【0055】
給電板51の厚みT4は、例えば0.9mm以下であり、0.1mm以下であってもよい。給電板51の厚みT4を0.9mm以下にすることにより、ベースマスク20を給電板51から剥離させる後述する剥離工程において、給電板51を湾曲させたり屈曲させたりすることができる。また、給電板51の厚みT4は、例えば0.05mm以上である。
【0056】
本実施の形態において、給電板51の給電面511は、一定の範囲内の表面粗さを有する。具体的には、給電面511のSdrが0.0002以上0.0010以下である。Sdrとは、給電面511の一部の定義領域の展開面積が、定義領域の面積に対してどれだけ増大しているかを表す指標である。展開領域とは、定義領域における給電面511の起伏を考慮した表面積である。面積とは、給電面511の法線方向に沿って見た場合の、二次元平面における定義領域の大きさである。定義領域が完全に平坦である場合、Sdrは0になる。定義領域が傾斜面や湾曲面を含む場合、Sdrが0よりも大きくなる。給電面511のSdrを測定するための測定器としては、例えばレーザ顕微鏡を用いることができる。
【0057】
蒸着マスク12の製造者が給電板51を準備する準備工程は、給電板51の給電面511のSdrを測定し、給電面511のSdrが0.0002以上0.0010以下であるか否かを検査する検査工程を含んでいてもよい。検査工程は、1回の蒸着マスク12の製造工程につき1回実施されてもよく、複数回の蒸着マスク12の製造工程につき1回実施されてもよい。また、蒸着マスク12の製造者ではなく給電板51の製造者や販売者が検査工程を実施してもよい。
【0058】
以下、給電面511のSdrが0.0002以上0.0010以下であることの意義について説明する。
【0059】
まず、給電面511のSdrが0.0002以上であることの意義について説明する。後述するように、蒸着マスク12の製造工程において、給電板51の給電面511には第1レジストパターン53が設けられる。給電板51の給電面511に対する第1レジストパターン53の密着性が低すぎると、後述するめっき処理などの際に第1レジストパターン53が給電面511から剥がれてしまうことが考えられる。ここで本実施の形態においては、給電面511のSdrが0.0002以上であるので、給電面511に対する第1レジストパターン53の接触面積が大きくなる。これにより、第1レジストパターン53が給電面511から剥がれてしまうことを抑制することができる。
【0060】
次に、給電面511のSdrが0.0010以下であることの意義について説明する。後述するように、蒸着マスク12の製造工程は、ベースマスク20を給電板51から剥離させる剥離工程を含む。給電板51の給電面511に対するベースマスク20の密着性が高すぎると、剥離工程においてベースマスク20に大きな応力が加わり、ベースマスク20に塑性変形や亀裂などの損傷などが生じてしまうことが考えられる。ここで本実施の形態においては、給電面511のSdrが0.0010以下であるので、給電面511に対するベースマスク20の密着性が高くなり過ぎることを防ぐことができる。これにより、剥離工程においてベースマスク20に塑性変形や亀裂などの損傷などが生じてしまうことを抑制することができる。
【0061】
なお、表面粗さに関する指標としては、Saが知られている。Saは、給電面511の法線方向における給電面511の平均位置を表す平均面と、給電面511上の複数の点との間の距離の平均値である。本件発明者らが鋭意研究を行った結果、後述する実施例に示すように、Sdrの方がSaよりも、給電面511に対する第1レジストパターン53の密着性に関して、又は、給電面511に対するベースマスク20の剥離性に関して、高い相関性を示すことを見出した。従って、本実施の形態によれば、一定の範囲内のSdrを有する給電板51を用いることにより、第1レジストパターン53が給電面511から剥がれてしまうこと、及び、剥離工程においてベースマスク20に塑性変形や亀裂などの損傷などが生じてしまうことをより確実に抑制することができる。
【0062】
〔第1レジスト形成工程〕
続いて、給電板51の給電面511上に第1レジスト層を設ける。本実施の形態においては、第1レジスト層として、給電面511に貼り付けられた第1レジストフィルム52を用いる。第1レジストフィルム52としては、感光性樹脂を含むドライフィルムを用いることができる。ドライフィルムの例としては、旭化成サンフォート製のAQ1058、AQ1558、日立化成フォテック製のRY5319、RD2015、ニッコーマテリアルズ製のALPHO-NIT510などを挙げることができる。
【0063】
続いて、
図10に示すように、給電面511上に設けられた第1レジストフィルム52等の第1レジスト層をフォトリソグラフィ法によりパターニングして、第1レジストパターン53を形成する。第1レジストパターン53は、ベースマスク20の貫通孔25に対応するパターンを有する。
【0064】
なお、給電面511上に第1レジスト層を設ける方法として、感光性樹脂を含むレジスト液を給電面511に塗布し、固化させるという方法を採用してもよい。レジスト液は、ポジ型であってもよく、ネガ型であってもよい。ポジ型のレジスト液としては、東京応化工業製のPMER-P-LA900PM、PMER-P7100、ナガセケムテックス製のNPR9700などを用いることができる。
【0065】
〔ベースマスク作製工程〕
続いて、
図11に示すように、第1レジストパターン53の隙間において電解めっき処理により給電面511上に金属層27を形成する。めっき液の成分は、金属層27におけるニッケル及びコバルトの含有量が30質量%以上且つ54質量%以下になるよう定められる。例えば、めっき液として、ニッケル化合物を含む溶液と、鉄化合物を含む溶液との混合溶液を用いることができる。例えば、スルファミン酸ニッケルや臭化ニッケルを含む溶液と、スルファミン酸第一鉄を含む溶液との混合溶液を用いることができる。その後、
図12に示すように、第1レジストパターン53を除去する。このようにして、金属層27を貫通する複数の貫通孔25を有するベースマスク20を得ることができる。
【0066】
〔第2レジスト形成工程〕
続いて、
図13に示すように、有効領域21の複数の貫通孔25を覆う第2レジストパターン56を形成する。第2レジストパターン56を構成する第2レジスト層としては、第1レジスト形成工程の場合と同様に、レジストフィルムを用いてもよく、レジスト液を固化させたものを用いてもよい。
【0067】
〔支持体接合工程〕
続いて、
図14に示すように、給電板51の給電面511上に支持体30を配置する。支持体30は、ベースマスク20の有効領域21の複数の貫通孔25に重なる開口部32を有する。支持体30を配置する際、複数のベースマスク20がそれぞれ対応する支持体30の開口部32の内側に位置するよう、ベースマスク20及び給電板51に対する支持体30の位置合わせを行う。
【0068】
続いて、支持体30をベースマスク20に接合する接合部35を設ける。具体的には、ベースマスク20の周囲領域22における金属層27の第2面272の一部、給電板51の給電面511の一部及び支持体30の支持部材31の第2面312の一部に跨る接合部35のめっき層36をめっき処理により形成する。この際、有効領域21の複数の貫通孔25は第2レジストパターン56によって覆われているので、めっき液が貫通孔25の内部に入ることを抑制することができる。めっき層36用のめっき液としては、ベースマスク20の金属層27用のめっき液と同一のものを用いてもよく、異なるものを用いてもよい。
【0069】
図16においては、接合部35のめっき層36が支持部材31の全域に存在する例が示されている。しかしながら、ベースマスク20と支持体30とを接合することができる限りにおいて、平面視における接合部35のめっき層36の面積や形状は特には限定されない。
【0070】
〔剥離工程〕
続いて、
図17に示すように、ベースマスク20を給電板51の給電面511から相対的に剥離させる剥離工程を実施する。例えば、給電板51を180度にわたって折り返した状態で給電板51を
図17の矢印Pの方向に引っ張ることにより、給電板51をベースマスク20から剥離させる。この場合、
図17に示すように給電板51に屈曲部513が形成される。図示はしないが、剥離工程においては、給電板51を湾曲させて給電板51をベースマスク20から剥離させてもよい。
【0071】
本実施の形態においては、ベースマスク20の金属層27の第1面271だけでなく、支持体30の支持部材31の第1面311及び接合部35のめっき層36の第1面361も、給電板51の給電面511に接している。このため、剥離工程においては、ベースマスク20、接合部35、及び、接合部35を介してベースマスク20に接合された支持体30が、給電板51の給電面511から剥離される。このようにして、ベースマスク20、支持体30及び接合部35を備える蒸着マスク12を得ることができる。
【0072】
本実施の形態においては、めっき処理で用いられる給電板51が、0.0002以上のSdrを有する。このため、給電板51の給電面511に対する第1レジストパターン53の密着性を確保することができる。これにより、第1レジスト層を現像する現像処理や、ベースマスク20の金属層27を形成するめっき処理の際に第1レジストパターン53が給電面511から剥がれてしまうことを抑制することができる。また、給電板51が、0.0010以下のSdrを有する。このため、給電板51の給電面511に対するベースマスク20の剥離性を確保することができる。これにより、剥離工程においてベースマスク20に塑性変形や亀裂などの損傷などが生じてしまうことを抑制することができる。同様に、剥離工程において支持体30や接合部35に塑性変形や亀裂などの損傷などが生じてしまうことを抑制することもできる。
【0073】
なお、上述のようにして得られた蒸着マスク12のベースマスク20の金属層27の第1面271のSdrは、給電板51の給電面511のSdrと同等になる。すなわち、ベースマスク20の金属層27の第1面271のSdrは、0.0002以上0.0010以下である。これにより、蒸着マスク12を介して有機EL基板92に蒸着材料を付着させる蒸着工程においてベースマスク20の金属層27の第1面271が有機EL基板92に接触する場合に、金属層27の第1面271と有機EL基板92との間の密着性を高めることができる。すなわち、蒸着マスク12と有機EL基板92との間の密着性を高めることができる。
【0074】
ベースマスク20の金属層27の第1面271のSdrは、例えば、
図4において符号273で示す定義領域の展開面積を測定することによって得られる。定義領域273は、平面視において、例えば、長さL1の一辺及び長さL2の一辺を有する矩形状の領域である。長さL1は、20μm以上100μm以下であり、例えば65μmである。長さL2は、10μm以上30μm以下であり、例えば20μmである。
【0075】
また、蒸着マスク12の接合部35のめっき層36の第1面361のSdrも、給電板51の給電面511のSdrと同等になる。すなわち、接合部35のめっき層36の第1面361のSdrは、0.0002以上0.0010以下である。これにより、蒸着工程において接合部35のめっき層36の第1面361が有機EL基板92に接触する場合に、蒸着マスク12と有機EL基板92との間の密着性をより高めることができる。
【0076】
(蒸着マスク装置の製造方法)
次に、上述のようにして得られた蒸着マスク12をフレーム14に溶接する溶接工程を実施する。これによって、蒸着マスク12及びフレーム14を備える蒸着マスク装置10を得ることができる。
【0077】
(有機EL表示装置の製造方法)
次に、本実施の形態に係る蒸着マスク12を用いて有機EL表示装置100を製造する方法について説明する。有機EL表示装置100の製造方法は、蒸着マスク12を用いて有機EL基板92などの基板上に蒸着材料98を蒸着させる蒸着工程を備える。蒸着工程においては、まず、蒸着マスク12が有機EL基板92に対向するよう蒸着マスク装置10を配置する。また、磁石93を用いて蒸着マスク12を有機EL基板92に密着させる。この状態で、蒸着材料98を蒸発させて蒸着マスク12を介して有機EL基板92へ飛来させることにより、蒸着マスク12の貫通孔25に対応したパターンで蒸着材料98を有機EL基板92に付着させることができる。
【0078】
なお、上述した実施の形態に対して様々な変更を加えることが可能である。以下、必要に応じて図面を参照しながら、変形例について説明する。以下の説明および以下の説明で用いる図面では、上述した実施の形態と同様に構成され得る部分について、上述の実施の形態における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用いることとし、重複する説明を省略する。また、上述した実施の形態において得られる作用効果が変形例においても得られることが明らかである場合、その説明を省略することもある。
【0079】
(ベースマスクの変形例)
上述の実施の形態においては、1つのベースマスク20が1つの有効領域21を含む例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、
図18に示すように、1つのベースマスク20が複数の有効領域21を含んでいてもよい。この場合、
図18に示すように、隣り合う2つの有効領域21に、蒸着材料98が通る貫通孔25を含まない周囲領域22が広がっている。
【0080】
図18に示すように、ベースマスク20は、ベースマスク20の外縁に位置する耳部24と、耳部24の間に位置し、複数の有効領域21を含む中間部23と、を有していてもよい。この場合、ベースマスク20の法線方向に沿って見た場合に耳部24と重なる領域において、ベースマスク20がフレーム14に溶接されてもよい。
【0081】
図19は、
図18のベースマスク20を備える蒸着マスク12であって、給電板51から剥離される前の蒸着マスク12の一例を示す断面図である。本変形例においては、
図19に示すように、給電板51と支持体30との間に、隣り合う2つの有効領域21に広がる周囲領域22が位置していてもよい。言い換えると、支持体30の開口部32の外縁がベースマスク20の周囲領域22上に位置していてもよい。この場合、接合部35のめっき層36は、ベースマスク20の周囲領域22を構成する金属層27の第2面272上から支持体30の支持部材31の第2面312上に至るように広がっている。めっき層36は、給電板51の給電面511に接していなくてもよい。
【実施例】
【0082】
次に、上述の実施形態を実施例により更に具体的に説明するが、実施形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0083】
まず、異なる表面粗さを有する13枚のステンレス鋼製の給電板51を準備した。以下の説明において、13枚の給電板51をそれぞれ番号で呼ぶこともある。給電板51は、矩形状の輪郭を有する。給電板51の輪郭の一辺の長さは730mmであり、他の一辺の長さは920mmであった。また、給電板51の厚みは0.25mmであった。
【0084】
続いて、各給電板51の給電面511のSdr及びSaを測定した。具体的には、各給電板51から、一辺が50mmの正方形状のサンプルを3枚ずつ切り出し、各サンプルの給電面511のSdr及びSaを測定した。測定器としては、キーエンス製の形状解析レーザ顕微鏡 VK-X250を用いた。測定は、ISO-025178に準じて実施した。測定器の具体的な設定条件は下記の通りである。
・対物レンズの倍率:150倍
・光学ズームの倍率:1倍
・測定モード:表面形状/高精細/高精度/ダブルスキャン有り
・測定領域:給電面511の、一辺が100μmの正方形状の領域
測定結果を解析してSdr及びSaを算出する解析ソフトとしては、VK-H1XM Ver.1.3を用いた。なお、ベースマスク20の金属層27の第1面271のSdrを測定するための測定器及び測定条件も、給電板51の場合と同一である。
【0085】
13枚のステンレス鋼製の給電板51の給電面511のSdr及びSaを
図20に示す。
図20に示すSdr及びSaの値は、各給電板51から3枚ずつ切り出されたサンプルにおけるSdr及びSaの測定値の平均値である。No.1~No.3の給電板51においては、給電面511のSdrが0.0002未満であった。No.4~No.10の給電板51においては、給電面511のSdrが0.0002以上0.0010以下であった。No.11~No.13の給電板51においては、給電面511のSdrが0.0010を超えていた。
【0086】
続いて、各給電板51の給電面511上に第1レジストパターン53を形成した。第1レジストパターン53を構成する第1レジスト層としては、第1レジストフィルム52を用いた。第1レジストフィルム52としては、旭化成サンフォート製のAQ1558を用いた。第1レジストパターン53の寸法は、貫通孔25の寸法S1に対応しており、30μmであった。
【0087】
続いて、第1レジストフィルム52の隙間にめっき液を供給して、金属層27を含むベースマスク20を形成した。めっき液としては、ニッケル化合物を含む溶液と、鉄化合物を含む溶液との混合溶液を用いた。金属層27の厚みは8μmであった。
【0088】
めっき処理においては、40℃のめっき液が収容されためっき槽の中に、35分間にわたって給電板51を浸漬させた。この際、No.1~No.3の給電板51においては、一部の第1レジストパターン53の剥離が確認された。一方、No.4~No.13の給電板51においては、第1レジストパターン53の剥離が確認されなかった。
【0089】
続いて、第1レジストフィルム52を除去した後、給電板51を180度にわたって折り返した状態で給電板51を引っ張ることにより、給電板51をベースマスク20から剥離させた。給電板51を引っ張る速度は、50mm/sであった。この際、No.11~No.13の給電板51から剥離されたベースマスク20には、損傷が確認された。具体的には、ベースマスク20の一部に局所的なシワ又は破れが生じていた。一方、この際、No.1~No.10の給電板51から剥離されたベースマスク20には、損傷が確認されなかった。
【0090】
レジスト密着性及びマスク剥離性の評価結果を、給電板51の表面粗さの測定結果と併せて
図20に示す。
「レジスト密着性」の欄において、「Yes」は、めっき処理の際に第1レジストパターン53の剥離が確認されなかったことを意味する。「No」は、めっき処理の際に第1レジストパターン53の剥離が確認されたことを意味する。
「マスク剥離性」の欄において、「Yes」は、給電板51から剥離されたベースマスク20に損傷が確認されなかったことを意味する。「No」は、給電板51から剥離されたベースマスク20に損傷が確認されたことを意味する。
【0091】
図20に示すように、給電面511のSdrが0.0002以上0.001以下であるNo.4~No.10の給電板51においては、めっき処理の際に第1レジストパターン53の剥離が確認されず、且つ、給電板51から剥離されたベースマスク20に損傷が確認されなかった。従って、給電面511のSdrは、蒸着マスク12のベースマスク20を作製するために用いる給電板51を選別する上での優れた指標であると言える。
【0092】
図20に示すように、No.2~No.4の給電板51においては、給電面511のSaがいずれも0.010μmであった。一方、No.2~No.4の給電板51のSdrには差が生じていた。具体的には、No.2及びNo.3の給電板51の給電面511のSdrは0.0002未満であり、No.4の給電板51の給電面511のSdrは0.0002以上であった。また、No.2~No.3の給電板51においては、めっき処理の際に第1レジストパターン53の剥離が確認された。一方、No.4の給電板51においては、めっき処理の際に第1レジストパターン53の剥離が確認されなかった。このように、めっき処理の際に第1レジストパターン53の剥離が生じるか否かの境界付近において、給電面511のSaには有意な差が現れなかったが、給電面511のSdrには有意な差が現れた。このように、SdrはSaに比べて、給電面511に対する第1レジストパターン53の密着性に関して高い相関性を示している。従って、SdrはSaに比べて、給電板51を選別する上での優れた指標であると言える。
【符号の説明】
【0093】
10 蒸着マスク装置
12 蒸着マスク
14 フレーム
20 ベースマスク
21 有効領域
22 周囲領域
25 貫通孔
27 金属層
271 第1面
272 第2面
273 定義領域
30 支持体
31 支持部材
311 第1面
312 第2面
32 開口部
35 接合部
36 めっき層
51 給電板
511 給電面
513 屈曲部
52 第1レジストフィルム
53 第1レジストパターン
54 隙間
56 第2レジストパターン
90 蒸着装置
92 有機EL基板
98 蒸着材料