IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】回転電機制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20221104BHJP
   H02M 7/493 20070101ALI20221104BHJP
【FI】
H02M7/48 F
H02M7/493
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020003674
(22)【出願日】2020-01-14
(65)【公開番号】P2021112072
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】サハ スブラタ
(72)【発明者】
【氏名】岩井 宏起
(72)【発明者】
【氏名】小坂 卓
(72)【発明者】
【氏名】松盛 裕明
【審査官】猪瀬 隆広
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-47670(JP,A)
【文献】国際公開第2019/142877(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 7/493
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに独立した複数相のオープン巻線を有する回転電機を、第1インバータ及び第2インバータを介して駆動制御する回転電機制御装置であって、
前記第1インバータは、複数相の前記オープン巻線の一端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、
前記第2インバータは、複数相の前記オープン巻線の他端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、
前記第1インバータと前記第2インバータとのそれぞれを、スイッチングパターンが異なる複数の制御方式により制御可能であると共に、互いに独立した前記制御方式で制御可能であり、
前記制御方式には、電気角の一周期においてパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調制御と、電気角の一周期において1つのパルスが出力される矩形波制御とが含まれ、
前記第1インバータ及び前記第2インバータの一方のインバータを前記矩形波制御により制御し、他方の前記インバータを前記パルス幅変調制御の1つである特別パルス幅変調制御により制御する対象制御を実行し、
前記特別パルス幅変調制御は、前記オープン巻線に目標電圧を生じさせる場合の前記パルス幅変調制御によるスイッチングパターンと、前記矩形波制御によるスイッチングパターンとの差に基づいたスイッチングパターンとなる前記制御方式である、回転電機制御装置。
【請求項2】
前記オープン巻線に目標電圧を生じさせる場合に、前記矩形波制御により制御される一方の前記インバータのスイッチングパターンを生成させる電圧指令を矩形波用電圧指令とし、
前記矩形波用電圧指令とは位相が180度異なる電圧指令であって、当該目標電圧を生じさせる場合に前記パルス幅変調制御により制御される他方の前記インバータのスイッチングパターンを生成させる電圧指令をパルス幅変調用電圧指令とし、
前記矩形波用電圧指令と前記パルス幅変調用電圧指令との差分を2つの前記インバータ全体の電圧指令であるシステム電圧指令とし、
振幅中心を一致させた状態での、前記システム電圧指令と前記矩形波用電圧指令との差分を特別パルス幅変調用電圧指令として、
前記特別パルス幅変調制御は、前記特別パルス幅変調用電圧指令に基づいてスイッチングパターンが生成される前記制御方式である、請求項1に記載の回転電機制御装置。
【請求項3】
前記回転電機の制御領域として、低速度域と、同じトルクにおける前記回転電機の回転速度が前記低速度域よりも高い高速度域とが設定され、
前記高速度域において、前記対象制御を実行する、請求項1又は2に記載の回転電機制御装置。
【請求項4】
前記第1インバータ及び前記第2インバータは、それぞれ交流1相分のアームが上段側スイッチング素子と下段側スイッチング素子との直列回路により構成され、
前記パルス幅変調制御には、前記制御方式として、複数相の前記アームの全てについて連続的にパルス幅変調を行う連続パルス幅変調制御と、複数相の一部の前記アームについてスイッチング素子をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う不連続パルス幅変調制御とが含まれ、
前記高速度域内には、第1高速度域と、同じトルクにおける前記回転電機の回転速度が前記第1高速度域よりも高い第2高速度域とが設定され、
前記第1高速度域では、前記対象制御として、前記第1インバータ及び前記第2インバータの一方の前記インバータを前記矩形波制御により制御し、他方の前記インバータを前記連続パルス幅変調制御に基づく前記特別パルス幅変調制御である特別連続パルス幅変調により制御する第1対象制御を実行し、
前記第2高速度域では、前記対象制御として、前記第1インバータ及び前記第2インバータの一方の前記インバータを前記矩形波制御により制御し、他方の前記インバータを前記不連続パルス幅変調制御に基づく前記特別パルス幅変調制御である特別不連続パルス幅変調により制御する第2対象制御を実行する、請求項3に記載の回転電機制御装置。
【請求項5】
前記低速度域では、前記第1インバータ及び前記第2インバータの少なくとも一方のインバータが、前記パルス幅変調制御により制御され、
前記高速度域では、前記パルス幅変調制御における変調周波数よりも高い変調周波数により、前記特別パルス幅変調制御が実行される、請求項3又は4に記載の回転電機制御装置。
【請求項6】
同じトルクにおける前記回転電機の回転速度が前記高速度域よりも高い超高速度域がさらに設定され、
前記超高速度域では、前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方の前記インバータを前記矩形波制御により制御する、請求項3から5の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項7】
前記第1インバータ及び前記第2インバータは、それぞれ交流1相分のアームが上段側スイッチング素子と下段側スイッチング素子との直列回路により構成され、
前記制御方式には、複数相全ての前記アームの前記上段側スイッチング素子をオン状態とする又は複数相全ての前記アームの前記下段側スイッチング素子をオン状態とするアクティブショートサーキット制御がさらに含まれ、
前記低速度域では、前記第1インバータ及び前記第2インバータの一方の前記インバータを前記アクティブショートサーキット制御により制御し、他方の前記インバータを前記パルス幅変調制御により制御する対象低速度域制御を実行する、請求項3から6の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項8】
前記第1インバータ及び前記第2インバータは、それぞれ交流1相分のアームが上段側スイッチング素子と下段側スイッチング素子との直列回路により構成され、
前記パルス幅変調制御には、前記制御方式として、複数相の前記アームの全てについて連続的にパルス幅変調を行う連続パルス幅変調制御と、複数相の一部の前記アームについてスイッチング素子をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う不連続パルス幅変調制御とが含まれ、
前記低速度域内には、第1低速度域と、同じトルクにおける前記回転電機の回転速度が前記第1低速度域よりも高い第2低速度域とが設定され、
前記第1低速度域では、前記対象低速度域制御として、前記第1インバータ及び前記第2インバータの一方の前記インバータを前記アクティブショートサーキット制御により制御し、他方の前記インバータを前記連続パルス幅変調制御により制御する第1対象低速度域制御を実行し、
前記第2低速度域では、前記対象低速度域制御として、前記第1インバータ及び前記第2インバータの一方の前記インバータを前記アクティブショートサーキット制御により制御し、他方の前記インバータを前記不連続パルス幅変調制御により制御する第2対象低速度域制御を実行する、請求項7に記載の回転電機制御装置。
【請求項9】
前記低速度域において、前記第1インバータを制御する前記制御方式と前記第2インバータを制御する前記制御方式とを、予め規定された条件に従って交互に入れ替える、請求項7又は8に記載の回転電機制御装置。
【請求項10】
前記第1インバータ及び前記第2インバータは、それぞれ交流1相分のアームが上段側スイッチング素子と下段側スイッチング素子との直列回路により構成され、
前記パルス幅変調制御には、前記制御方式として、複数相の一部の前記アームについてスイッチング素子をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う不連続パルス幅変調制御が含まれ、
前記制御領域として、同じトルクにおける前記回転電機の回転速度が前記低速度域よりも高く前記高速度域よりも低い中間速度域がさらに設定され、
前記中間速度域では、前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方の前記インバータを前記不連続パルス幅変調制御により制御する、請求項3から9の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項11】
前記制御方式には、電気角の1/2周期である第1期間においてパターンの異なる複数のパルスが出力され、残りの1/2周期である第2期間において非有効状態が継続するように制御される混合パルス幅変調制御が含まれ、
前記中間速度域において、前記第1インバータ及び前記第2インバータの双方を、前記不連続パルス幅変調制御に代えて前記混合パルス幅変調制御により制御する、請求項10に記載の回転電機制御装置。
【請求項12】
それぞれの前記制御領域の境界は、前記回転電機のトルクに応じた前記回転電機の回転速度と、直流電圧に対する複数相の交流電圧の線間電圧の実効値の割合と、の少なくとも一方に応じて設定されている、請求項3から11の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項13】
前記第1インバータ及び前記第2インバータの内、一方の前記インバータは、第1スイッチング素子を用いて構成され、他方の前記インバータは、オフ状態とオン状態との間での遷移時のスイッチング損失が前記第1スイッチング素子よりも小さい第2スイッチング素子を用いて構成され、
前記特別パルス幅変調制御により制御される前記インバータは、前記第2スイッチング素子を用いて構成されている、請求項1から12の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項14】
前記第1インバータ及び前記第2インバータの内、一方の前記インバータは、第1スイッチング素子を用いて構成され、他方の前記インバータは、オフ状態とオン状態との間での遷移時のスイッチング損失が前記第1スイッチング素子よりも小さい第2スイッチング素子を用いて構成され、
前記パルス幅変調制御により制御される前記インバータは、前記第2スイッチング素子を用いて構成されている、請求項7から9の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項15】
前記第1スイッチング素子は、Si-IGBT又はSi-MOSFETであり、前記第2スイッチング素子は、SiC-MOSFET、又はGaN-MOSFETである、請求項13又は14に記載の回転電機制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オープン巻線を有する回転電機を、2つのインバータを介して駆動制御する回転電機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
V. Oleschukらによる2007年発表のIEEEの論文「Dual Inverter-Fed Traction Drive with DC Sources Power Balancing Based on Synchronized PWM」には、3相交流型の回転電機が備える3相オープン巻線の両端にそれぞれ1つずつ備えられたインバータをスイッチング制御して回転電機を駆動制御する制御装置が開示されている。一方、良く知られた形態として、例えば3相の巻線のそれぞれの一端側が接続されたY型巻線の他端側に1つのインバータをスイッチング制御して回転電機を駆動制御するものもある。オープン巻線と2つのインバータを用いたシステムでは、Y型巻線と1つのインバータを用いたシステムに比べて、直流の電圧が同じであれば、巻線の交流電圧の線間電圧を高くすることができ、回転電機をより高い出力で動作させることができる。
【0003】
V. Oleschukらの論文の前書き(Introduction)には、2つのインバータをスイッチング制御するためのパルスを生成するキャリア信号の位相をそれぞれ異ならせることによって、巻線に流れる電流のリップルの大きさを低減できることが記載されている。V. Oleschukらは、さらに、キャリア信号を用いた非同期方式ではなく、同期方式でパルスを生成することで、中/高出力のアプリケーションにも、より適した制御が可能となることに言及している。但し、非同期方式、同期方式の何れにおいても、2つのインバータは、常に同じ制御方式でスイッチング制御されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】V. Oleschuk、R. Bojoi、G. Griva、F. Profumo、“Dual Inverter-Fed Traction Drive with DC Sources Power Balancing Based on Synchronized PWM”、Conference Paper/June 2007、1-4244-0743-5/07、IEEE、p.260-265
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スイッチング制御の方式は、回転電機に要求されるトルクや、回転速度、直流側の電圧など、種々の要素(動作条件)によって、より高いシステム効率での動作が可能なように、決定されることが好ましい。V. Oleschukらの技術は優れたものであるが、オープン巻線の両端にそれぞれ備えられた2つのインバータを適切に制御する上では、まだ改善の余地がある。
【0006】
上記背景に鑑みて、オープン巻線の両端にそれぞれ備えられた2つのインバータを適切に制御する技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記に鑑みた、互いに独立した複数相のオープン巻線を有する回転電機を、第1インバータ及び第2インバータを介して駆動制御する回転電機制御装置は、1つの態様として、前記第1インバータが、複数相の前記オープン巻線の一端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、前記第2インバータが、複数相の前記オープン巻線の他端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、前記第1インバータと前記第2インバータとのそれぞれを、スイッチングパターンが異なる複数の制御方式により制御可能であると共に、互いに独立した前記制御方式で制御可能であり、前記制御方式には、電気角の一周期においてパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調制御と、電気角の一周期において1つのパルスが出力される矩形波制御とが含まれ、前記第1インバータ及び前記第2インバータの一方のインバータを前記矩形波制御により制御し、他方の前記インバータを前記パルス幅変調制御の1つである特別パルス幅変調制御により制御する対象制御を実行し、前記特別パルス幅変調制御は、前記オープン巻線に目標電圧を生じさせる場合の前記パルス幅変調制御によるスイッチングパターンと、前記矩形波制御によるスイッチングパターンとの差に基づいたスイッチングパターンとなる前記制御方式である。
【0008】
この構成によれば、2つのインバータの内、一方のインバータを矩形波制御することにより、当該一方のインバータのスイッチング回数が削減され、スイッチング損失を低減することができる。また、矩形波制御されない側の他方のインバータは、特別パルス幅変調制御により制御される。特別パルス幅変調制御では、オープン巻線に目標電圧を生じさせる場合のパルス幅変調制御によるスイッチングパターンと、矩形波制御によるスイッチングパターンとの差に基づいたスイッチングパターンにより、当該他方のインバータが制御される。従って、一方のインバータを矩形波制御により制御しても、他方のインバータのパルス幅変調制御が合わさることによって円滑に回転電機を駆動することができる。一般的に、矩形波制御が適用される相対的に高回転の動作領域において、システム損失を低減させると共に、回転電機を円滑に制御することができる。即ち、本構成によれば、オープン巻線の両端にそれぞれ備えられた2つのインバータを適切に制御することができる。
【0009】
回転電機制御装置のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】回転電機駆動システムの一例を示す模式的ブロック図
図2】回転電機制御装置の簡易的な部分ブロック図
図3】2つのインバータを用いた回転電機駆動システムのベクトル図
図4】直行ベクトル空間における回転電機の模式的電圧ベクトル図
図5】回転電機の制御領域の一例を示す図
図6】回転電機の制御領域の一例を示す図
図7】回転電機の制御領域の一例を示す図
図8】特別パルス幅変調制御(特別連続パルス幅変調制御)の電圧指令及びスイッチング制御信号の一例を示す波形図
図9】特別不連続パルス幅変調制御の電圧指令及びスイッチング制御信号の例を示す波形図
図10】特別連続パルス幅変調制御の電圧指令演算原理(結果)を示す説明図
図11】特別連続パルス幅変調制御の電圧指令演算原理(経過1)を示す説明図
図12】特別連続パルス幅変調制御の電圧指令演算原理(経過2)を示す説明図
図13】特別連続パルス幅変調制御の電圧指令演算原理(経過3)を示す説明図
図14】特別不連続パルス幅変調制御の電圧指令演算原理(結果)を示す説明図
図15】特別不連続パルス幅変調制御の電圧指令演算原理(経過1)を示す説明図
図16】特別不連続パルス幅変調制御の電圧指令演算原理(経過2)を示す説明図
図17】特別不連続パルス幅変調制御の電圧指令演算原理(経過3)を示す説明図
図18】特別パルス幅変調制御の電圧指令演算手順の一例を示すフローチャート
図19】特別パルス幅変調制御の電圧指令演算手順の他の例を示すフローチャート
図20】第1高速度域において矩形波制御と通常の連続パルス幅変調制御(CPWM)とを組み合わせた場合の3相電流及びdq軸電流の波形図
図21】第1高速度域において矩形波制御と通常の連続パルス幅変調制御(CPWM)とを組み合わせた場合の3相電流及び実変調率の波形図
図22】第1高速度域及び第2高速度域において矩形波制御と通常のパルス幅変調制御(CPWM,DPWM)とを組み合わせた場合の3相電流及びdq軸電流の波形図
図23】第1高速度域及び第2高速度域において矩形波制御と通常のパルス幅変調制御(CPWM,DPWM)とを組み合わせた場合の3相電流及び実変調率の波形図
図24】第1高速度域において矩形波制御と特別連続パルス幅変調制御(SP-CPWM)とを組み合わせた場合の3相電流及びdq軸電流の波形図
図25】第1高速度域において矩形波制御と特別連続パルス幅変調制御(SP-CPWM)とを組み合わせた場合の3相電流及び実変調率の波形図
図26】第1高速度域及び第2高速度域において矩形波制御と特別パルス幅変調制御(SP-CPWM,SP-DPWM)とを組み合わせた場合の3相電流及びdq軸電流の波形図
図27】第1高速度域及び第2高速度域において矩形波制御と特別パルス幅変調制御(SP-CPWM,SP-DPWM)とを組み合わせた場合の3相電流及び実変調率の波形図
図28】第1高速度域及び第2高速度域においてキャリア周波数を上げて矩形波制御と特別パルス幅変調制御(SP-CPWM,SP-DPWM)とを組み合わせた場合の3相電流及びdq軸電流の波形図
図29】第1高速度域及び第2高速度域においてキャリア周波数を上げて矩形波制御と特別パルス幅変調制御(SP-CPWM,SP-DPWM)とを組み合わせた場合の3相電流及び実変調率の波形図
図30】超高速度域での電圧指令及びスイッチング制御信号の一例を示す波形図
図31】低速度域(第1低速度域)での電圧指令及びスイッチング制御信号の例を示す波形図
図32】第2低速度域での電圧指令及びスイッチング制御信号の例を示す波形図
図33】中間速度域での電圧指令及びスイッチング制御信号の他の例を示す波形図
図34】混合パルス幅変調制御の電圧指令及びスイッチング制御信号の一例を示す波形図
図35】混合パルス幅変調制御の電圧指令及びスイッチング制御信号の他の例を示す波形図
図36】回転電機駆動システムの他の例を示す模式的ブロック図
図37】回転電機駆動システムの他の例を示す模式的ブロック図
図38】1インバータシステムでの回転電機の制御領域の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、互いに独立した複数相のオープン巻線を有する回転電機を、2つのインバータを介して駆動制御する回転電機制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、回転電機制御装置1(MG-CTRL)を含む回転電機駆動システムの模式的ブロック図である。回転電機80は、例えば、電気自動車やハイブリッド自動車などの車両において車輪の駆動力源となるものである。回転電機80は、互いに独立した複数相(本実施形態では3相)のステータコイル8(オープン巻線)を有するオープン巻線型の回転電機である。ステータコイル8の両端には、それぞれ独立して制御されて直流と複数相(ここでは3相)の交流との間で電力を変換するインバータ10が1つずつ接続されている。つまり、ステータコイル8の一端側には第1インバータ11(INV1)が接続され、ステータコイル8の他端側には第2インバータ12(INV2)が接続されている。以下、第1インバータ11と第2インバータ12とを区別する必要がない場合には単にインバータ10と称して説明する。
【0012】
インバータ10は、複数のスイッチング素子3を有して構成される。スイッチング素子3には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)が用いられる。図1には、第1インバータ11の第1スイッチング素子31としてSi-IGBTが用いられ、第2インバータ12の第2スイッチング素子32としてSiC-MOSFETが用いられる形態を例示している。第1スイッチング素子31は、Si-IGBTの他、Si-MOSFETでもよい。また、第2スイッチング素子32は、SiC-MOSFETの他、SiC-SIT(SiC - Static Induction Transistor)、GaN-MOSFET(Gallium Nitride - MOSFET)などでもよい。即ち、本実施形態では、第2インバータ12を構成する第2スイッチング素子32が、第1インバータ11を構成する第1スイッチング素子31に比べて、オフ状態とオン状態との間での遷移時のスイッチング損失が相対的に小さいスイッチング素子であると好適である。
【0013】
一般的に、Si半導体に比べてSiC半導体やGaN半導体は高価であるため、本実施形態では、2つのインバータ10の内の一方を構成するスイッチング素子3にSiC半導体を用いる形態を例示している。しかし、量産効果等によって、SiC半導体やGaN半導体の価格が低下したような場合には、図36に示すように、双方のインバータ10がSiC半導体(例えばSiC-MOSFET)によって構成されていてもよい。また、許容されるスイッチング損失の大きさなどの要求仕様に応じて、図37に示すように、双方のインバータ10がSi半導体(例えばSi-IGBT)によって構成されてもよい。
【0014】
2つのインバータ10は、それぞれ交流1相分のアーム3Aが上段側スイッチング素子3Hと下段側スイッチング素子3Lとの直列回路により構成されている。各スイッチング素子3には、負極FGから正極Pへ向かう方向(下段側から上段側へ向かう方向)を順方向として、並列にフリーホイールダイオード35が備えられている。また、本実施形態では、2つのインバータ10はそれぞれ独立した直流電源6に接続されている。つまり第1インバータ11の負極FGである第1フローティンググラウンドFG1と第2インバータ12の負極FGである第2フローティンググラウンドFG2とは、互いに独立している。また、インバータ10と直流電源6との間には、それぞれ直流電圧を平滑化する直流リンクコンデンサ4(平滑コンデンサ)が備えられている。
【0015】
具体的には、交流1相分のアーム3Aが第1上段側スイッチング素子31Hと第1下段側スイッチング素子31Lとの直列回路により構成された第1インバータ11は、直流側に第1直流リンクコンデンサ41(第1平滑コンデンサ)が接続されると共に、直流側が第1直流電源61に接続され、交流側が複数相のステータコイル8の一端側に接続されて、直流と複数相の交流との間で電力を変換する。交流1相分のアーム3Aが第2上段側スイッチング素子32Hと第2下段側スイッチング素子32Lとの直列回路により構成された第2インバータ12は、直流側に第2直流リンクコンデンサ42(第2平滑コンデンサ)が接続されると共に、直流側が第2直流電源62に接続され、交流側が複数相のステータコイル8の他端側に接続されて、直流と複数相の交流との間で電力を変換する。
【0016】
本実施形態では、第1直流電源61及び第2直流電源62は、電圧などの定格が同等の直流電源である。つまり、第1直流電源61の定格電圧“E1”と、第2直流電源62の定格電圧“E2”は、同じであり、両者を区別しない場合は、単に定格電圧“E”と称する。従って、第1インバータ11の直流側の電圧(直流リンク電圧)“Vdc1”と、第2インバータ12の直流側の電圧(直流リンク電圧)“Vdc2”とも、同じ電圧となる。また、第1直流リンクコンデンサ41及び第2直流リンクコンデンサも、容量などの定格が同等のコンデンサである。直流電源6の定格電圧は、48ボルトから400ボルト程度である。直流電源6は、例えば、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池(バッテリ)や、電気二重層キャパシタなどにより構成されている。回転電機80は、電動機としても発電機としても機能することができる。回転電機80は、インバータ10を介して直流電源6からの電力を動力に変換する(力行)。或いは、回転電機80は、車輪等から伝達される回転駆動力を電力に変換し、インバータ10を介して直流電源6を充電する(回生)。
【0017】
図1に示すように、インバータ10は、回転電機制御装置1により制御される。回転電機制御装置1は、第1インバータ11と第2インバータ12とのそれぞれを、互いに独立した制御方式で制御可能である(制御方式の詳細については後述する)。回転電機制御装置1は、マイクロコンピュータ等の論理回路を中核部材として構築されている。例えば、回転電機制御装置1は、不図示の車両制御装置等の他の制御装置等から提供される回転電機80の目標トルク(トルク指令)に基づいて、ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御を行って、インバータ10を介して回転電機80を制御する。
【0018】
回転電機80の各相のステータコイル8を流れる実電流は電流センサ15により検出され、回転電機80のロータの各時点での磁極位置は、レゾルバなどの回転センサ13により検出される。回転電機制御装置1は、電流センサ15及び回転センサ13の検出結果を用いて、電流フィードバック制御を実行する。回転電機制御装置1は、電流フィードバック制御のために種々の機能部を有して構成されており、各機能部は、マイクロコンピュータ等のハードウエアとソフトウエア(プログラム)との協働により実現される。
【0019】
図2のブロック図は、回転電機制御装置1の一部の機能部を簡易的に示している。ベクトル制御法では、回転電機80に流れる実電流(U相電流Iu,V相電流Iv,W相電流Iw)を、回転電機80のロータに配置された永久磁石が発生する磁界(磁束)の方向であるd軸と、d軸に直交する方向(磁界の向きに対して電気角でπ/2進んだ方向)のq軸とのベクトル成分(d軸電流Id,q軸電流Iq)に座標変換してフィードバック制御を行う。回転電機制御装置1は、回転センサ13の検出結果(θ:磁極位置、電気角)に基づいて、3相2相座標変換部55で座標変換を行う。
【0020】
電流フィードバック制御部5(FB)は、dq軸直交ベクトル座標系において、回転電機80のトルク指令に基づく電流指令(d軸電流指令Id,q軸電流指令Iq)と、実電流(d軸電流Id,q軸電流Iq)との偏差に基づいて回転電機80をフィードバック制御して、電圧指令(d軸電圧指令Vd,q軸電圧指令Vq)を演算する。回転電機80は、第1インバータ11と第2インバータ12との2つのインバータ10を介して駆動される。このため、d軸電圧指令Vd及びq軸電圧指令Vqは、それぞれ分配部53(DIV)において、第1インバータ11用の第1d軸電圧指令Vd1及び第1q軸電圧指令Vq1、第2インバータ12用の第2d軸電圧指令Vd2及び第2q軸電圧指令Vq2に分配される。上述したように、本実施形態では、第1インバータ11の直流リンク電圧“Vdc1”と、第2インバータ12の直流リンク電圧“Vdc2”とは、同じ電圧である(Vc1=Vdc2)。従って、分配された電圧指令も、“Vd1=Vd2”、“Vq1=Vq2”である。
【0021】
上述したように、回転電機制御装置1は、第1インバータ11と第2インバータ12とのそれぞれを、互いに独立した制御方式で制御可能であり、3相電圧指令演算部73及び変調部74(MOD)を備えた電圧制御部7を2つ備えている。即ち、回転電機制御装置1は、第1インバータ11のU相、V相、W相それぞれのスイッチング制御信号(Su1,Sv1,Sw1)を生成する第1電圧制御部71と、第2インバータ12のU相、V相、W相それぞれのスイッチング制御信号(Su2,Sv2,Sw2)を生成する第2電圧制御部72とを備えている。詳細は、図9図10等を参照して後述するが、第1インバータ11の電圧指令(Vu1**,Vv1**、Vw1**)と、第2インバータ12の電圧指令(Vu2**,Vv2**、Vw2**)との位相は“π”異なっている。このため、第2電圧制御部72には、回転センサ13の検出結果(θ)から“π”を減算した値が入力されている。
【0022】
図2に示すように、第2電圧制御部72は、第1電圧制御部71と同様に接続された3相電圧指令演算部73及び変調部74を備える他、さらに、別の3相電圧指令演算部73(特別変調用3相電圧指令演算部73B)と、変調部(特別変調用変調部75)、及び選択部76を備えている。第2電圧制御部72では、変調部74により生成された通常変調のスイッチング制御信号と、特別変調用変調部75により生成された特別変調のスイッチング制御信号とが選択部76において選択され、第2インバータ12のスイッチング制御信号(Su2,Sv2,Sw2)として出力される。この特別変調は、後述する特別パルス幅変調であり、詳細については、図8図19等も参照して後述する。尚、制御ブロックは、この構成に限らず、例えば、通常変調の3相電圧指令と、特別変調用変調部75により生成された特別変調の3相電圧指令とが選択部において選択され、選択された電圧指令に基づいて共通の変調部により、第2インバータ12のスイッチング制御信号(Su2,Sv2,Sw2)が生成されてもよい。
【0023】
尚、後述するように、変調方式には、回転電機80の回転に同期した同期変調と、回転電機80の回転とは独立した非同期変調とがある。一般的に、同期変調によるスイッチング制御信号の生成ブロック(ソフトウェアの場合は生成フロー)と、非同期変調によるスイッチング制御信号の生成ブロックとは異なっている。上述した電圧制御部7は、電圧指令と、回転電機80の回転に同期しないキャリアとに基づいてスイッチング制御信号を生成するものであるが、本実施形態では、説明を簡略化するために、同期変調によるスイッチング制御信号(例えば後述する矩形波制御の場合のスイッチング制御信号)も電圧制御部7にて生成されるものとして説明する。
【0024】
尚、インバータ10のそれぞれのアーム3Aは、上述したように、上段側スイッチング素子3Hと下段側スイッチング素子3Lとの直列回路により構成されている。図2では、区別していないが、各相のスイッチング制御信号は、上段用スイッチング制御信号と、下段用スイッチング制御信号との2種類として出力される。例えば、第1インバータ11のU相をスイッチング制御する第1U相スイッチング制御信号Su1は、末尾に“+”を付した第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、末尾に“-”を付した第1U相下段側スイッチング制御信号Su1-との2つの信号として出力される。尚、それぞれのアーム3Aを構成する上段側スイッチング素子3Hと下段側スイッチング素子3Lとが同時にオン状態となると当該アーム3Aが短絡状態となる。これを防ぐために、それぞれのアーム3Aに対する上段側スイッチング制御信号と、下段側スイッチング制御信号とが共に非有効状態となるデッドタイムが設けられている。このデッドタイムも、電圧制御部7において付加される。
【0025】
図1に示すように、インバータ10を構成する各スイッチング素子3の制御端子(IGBTやFETの場合はゲート端子)は、ドライブ回路2(DRV)を介して回転電機制御装置1に接続されており、それぞれ個別にスイッチング制御される。インバータ10などの回転電機80を駆動するための高圧系回路(直流電源6に接続された系統)と、マイクロコンピュータなどを中核とする回転電機制御装置1などの低圧系回路(3.3ボルトから5ボルト程度の動作電圧の系統)とは、動作電圧(回路の電源電圧)が大きく異なる。ドライブ回路2は、各スイッチング素子3に対する駆動信号(スイッチング制御信号)の駆動能力(例えば電圧振幅や出力電流など、後段の回路を動作させる能力)をそれぞれ高めて中継する。第1ドライブ回路21は第1インバータ11にスイッチング制御信号を中継し、第2ドライブ回路22は第2インバータ12にスイッチング制御信号を中継する。
【0026】
回転電機制御装置1は、第1インバータ11及び第2インバータ12を構成するスイッチング素子3のスイッチングパターンの形態(電圧波形制御の形態)として、例えば電気角の一周期においてパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)制御と、電気角の一周期において1つのパルスが出力される矩形波制御(1パルス制御(1-Pulse))との2つを実行することができる。即ち、回転電機制御装置1は、第1インバータ11及び第2インバータ12の制御方式として、パルス幅変調制御と、矩形波制御とを実行することができる。尚、上述したように、回転電機制御装置1は、第1インバータ11と第2インバータ12とのそれぞれを、互いに独立した制御方式で制御可能である。
【0027】
また、パルス幅変調には、正弦波パルス幅変調(SPWM : Sinusoidal PWM)や空間ベクトルパルス幅変調(SVPWM : Space Vector PWM)などの連続パルス幅変調(CPWM:Continuous PWM)や、不連続パルス幅変調(DPWM:Discontinuous PWM)などの方式がある。従って、回転電機制御装置1が実行可能なパルス幅変調制御には、制御方式として、連続パルス幅変調制御と、不連続パルス幅変調とが含まれる。
【0028】
連続パルス幅変調は、複数相のアーム3Aの全てについて連続的にパルス幅変調を行う変調方式であり、不連続パルス幅変調は、複数相の一部のアーム3Aについてスイッチング素子をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う変調方式である。具体的には、不連続パルス幅変調では、例えば3相の交流電力の内の1相に対応するインバータのスイッチング制御信号の信号レベルを順次固定して、他の2相に対応するスイッチング制御信号の信号レベルを変動させる。連続パルス幅変調では、このように何れかの相に対応するスイッチング制御信号が固定されることなく、全ての相が変調される。これらの変調方式は、回転電機80に求められる回転速度やトルクなどの動作条件、そして、その動作条件を満足するために必要な変調率(直流電圧に対する3相交流の線間電圧の実効値の割合)に応じて決定される。
【0029】
パルス幅変調では、電圧指令としての交流波形の振幅と三角波(鋸波を含む)状のキャリア(CA)の波形の振幅との大小関係に基づいてパルスが生成される(図7等参照。)。キャリアとの比較によらずにデジタル演算により直接PWM波形を生成する場合もあるが、その場合でも、指令値としての交流波形の振幅と仮想的なキャリア波形の振幅とは相関関係を有する。
【0030】
デジタル演算によるパルス幅変調において、キャリアは例えばマイクロコンピュータの演算周期や電子回路の動作周期など、回転電機制御装置1の制御周期に応じて定まる。つまり、複数相の交流電力が交流の回転電機80の駆動に利用される場合であっても、キャリアは回転電機80の回転速度や回転角度(電気角)には拘束されない周期(同期しない周期)を有している。従って、キャリアも、キャリアに基づいて生成される各パルスも、回転電機80の回転には同期していない。従って、正弦波パルス幅変調、空間ベクトルパルス幅変調などの変調方式は、非同期変調(asynchronous modulation)と称される場合がある。これに対して、回転電機80の回転に同期してパルスが生成される変調方式は、同期変調(synchronous modulation)と称される。例えば矩形波制御(矩形波変調)では、回転電機80の電気角1周期に付き1つのパルスが出力されるため、矩形波変調は同期変調である。
【0031】
ところで、直流電圧から交流電圧への変換率を示す指標として、直流電圧に対する複数相の交流電圧の線間電圧の実効値の割合を示す変調率がある。一般的に、正弦波パルス幅変調の最大変調率は約0.61(≒0.612)、空間ベクトルパルス幅変調制御の最大変調率は約0.71(≒0.707)である。約0.71を越える変調率を有する変調方式は、通常よりも変調率を高くした変調方式として、“過変調パルス幅変調”と称される。“過変調パルス幅変調”の最大変調率は、約0.78である。この変調率0.78は、直流から交流への電力変換における物理的(数学的)な限界値である。過変調パルス幅変調において、変調率が0.78に達すると、電気角の1周期において1つのパルスが出力される矩形波変調(1パルス変調)となる。矩形波変調では、変調率は物理的な限界値である約0.78に固定されることになる。
【0032】
変調率が0.78未満の過変調パルス幅変調は、同期変調方式、非同期変調方式の何れの原理を用いても実現することができる。過変調パルス幅変調の代表的な変調方式は、不連続パルス幅変調である。不連続パルス幅変調は、同期変調方式、非同期変調方式の何れの原理を用いても実現することができる。例えば、同期変調方式を用いる場合、矩形波変調では、電気角の1周期において1つのパルスが出力されるが、不連続パルス幅変調では、電気角の1周期において複数のパルスが出力される。電気角の1周期に複数のパルスが存在すると、パルスの有効期間がその分減少するため、変調率は低下する。従って、約0.78に固定された変調率に限らず、0.78未満の任意の変調率を同期変調方式によって実現することができる。例えば、電気角の1周期において、9パルスを出力する9パルス変調(9-Pulses)、5パルスを出力する5パルス変調(5-Pulses)などの複数パルス変調(Multi-Pulses)とすることも可能である。
【0033】
また、回転電機制御装置1は、インバータ10や回転電機80に異常が検出されたような場合のフェールセーフ制御として、シャットダウン制御(SDN)やアクティブショートサーキット制御(ASC)を実行することができる。シャットダウン制御は、インバータ10を構成する全てのスイッチング素子3へのスイッチング制御信号を非アクティブ状態にしてインバータ10をオフ状態にする制御である。アクティブショートサーキット制御は、複数相全てのアーム3Aの上段側スイッチング素子3H或いは複数相全てのアーム3Aの下段側スイッチング素子3Lの何れか一方側をオン状態とし、他方側をオフ状態とする制御である。尚、複数相全てのアーム3Aの上段側スイッチング素子3Hをオン状態とし、複数相全てのアーム3Aの下段側スイッチング素子3Lをオフ状態とする場合を上段側アクティブショートサーキット制御と称する。また、複数相全てのアーム3Aの下段側スイッチング素子3Lをオン状態とし、複数相全てのアーム3Aの上段側スイッチング素子3Hをオフ状態とする場合を下段側アクティブショートサーキット制御と称する。
【0034】
本実施形態のように、ステータコイル8の両端にそれぞれインバータ10が接続されている場合、一方のインバータ10をアクティブショートサーキット制御によって短絡させると、複数相のステータコイル8が当該一方のインバータ10において短絡される。つまり、当該一方のインバータ10が中性点となって、ステータコイル8がY型結線されることになる。このため、回転電機制御装置1は、2つのインバータ10を介してオープン巻線型の回転電機80を制御する形態と、1つのインバータ10(アクティブショートサーキット制御されていない側のインバータ10)を介してY型結線の回転電機80を制御する形態とを実現することができる。このため、本実施形態では、フェールセーフ制御に限らず、通常制御で選択可能な制御形態として、アクティブショートサーキット制御も含める。つまり、回転電機制御装置1は、第1インバータ11及び第2インバータ12の制御方式として、さらに、アクティブショートサーキット制御を実行することができる。
【0035】
ところで、1つのインバータ10をベクトル制御する場合、3相のアーム3Aの状態によって、8つの空間ベクトルを定義することができる。具体的には、上段側スイッチング素子3Hのスイッチング制御信号の2種類の信号レベルの3相分の組み合わせによって8つの空間ベクトルを定義することができる(2=8)。尚、下段側スイッチング素子3Lの3相のスイッチング制御信号の信号レベルは、それぞれ上段側スイッチング素子3Hのスイッチング制御信号と相補的な信号レベルとなる。このため、上段側又は下段側の何れか一方のスイッチング制御信号の信号レベルによって空間ベクトルを定義することができる。
【0036】
各スイッチング制御信号の信号レベルがハイレベルの場合を“1”、ローレベルの場合を“0”として、U相、V相、W相のスイッチング制御信号の信号レベルを(UVW)で示すと、空間ベクトルは、(000),(001),(010),(011),(100),(101),(110),(111)の8つとなる。尚、8つの空間ベクトルの内、(000),(111)は、線間電圧がゼロとなって回転電機80に電圧が印加されないためにゼロベクトル又はヌルベクトルと称され、dq軸ベクトル座標系において同一の座標を示す。これに対して、他の6つの空間ベクトルは、アクティブベクトルと称され、dq軸ベクトル座標系においてそれぞれ異なる座標を示す。
【0037】
図1に示すように、2つのインバータ10をベクトル制御する場合には、上段側又は下段側の何れか一方のスイッチング制御信号の信号レベルによって64個の空間ベクトルを定義することができる(2(3・2)=2=64)。この内、10個はヌルベクトルである。第1インバータ11のU相(U1相)、V相(V1相)、W相(W1相)の信号レベルと第2インバータ12のU相(U2相)、V相(V2相)、W相(W2相)の信号レベルとを(U1V1W1-U2V2W2)で示すと、(000-000),(001-001),(010-010),(011-011),(100-100),(101-101),(110-110),(111-111),(000-111),(111-000)の10個は、線間電圧がゼロとなるヌルベクトルである。残りの54個は、dq軸ベクトル座標系で原点(ヌルベクトルの座標)から18の異なる座標への有効な大きさを持つアクティブベクトルとなる。
【0038】
図3には、ヌルベクトルの座標と、18箇所のアクティブベクトルの座標とをプロットしている。Z0は、dq軸ベクトル座標系におけるヌルベクトルの座標を示している(10個のベクトルが同一座標)。Z1~Z6は、dq軸ベクトル座標系において実質的に1つのインバータ10によって実現されるアクティブベクトルの座標を示している。Z7~Z18は、dq軸ベクトル座標系において2つのインバータ10によって実現されるアクティブベクトルに対応する座標を示している。
【0039】
Z1は(000-011),(100-000),(100-111),(111-011)、Z2は(000-001),(110-000),(110-111),(111-001)、Z3は(000-101),(010-000),(010-111),(111-101)、Z4は(000-100),(011-000),(011-111),(111-100)、Z5は(000-110),(001-000)、(001-111),(111-110)、Z6は(000-010),(101-000),(101-111),(111-010)を含む。これら24個の空間ベクトルは、一方のインバータ10の空間ベクトルがヌルベクトルであり、他方のインバータ10の空間ベクトルがアクティブベクトルである組み合わせである。
【0040】
尚、Z1:(101-001),(110-010)、Z2:(010-011),(100-101)、Z3:(011-001),(110-100)、Z4:(001-101),(010-110)、Z5:(011-010),(101-100)、Z6:(001-011),(100-110)の12個の空間ベクトルも、それぞれZ1~Z6の座標を示す。但し、一方のインバータ10がヌルベクトルではなく、2つのインバータ10が共にアクティブベクトルである組み合わせである。
【0041】
Z7は(100-001),(110-011)、Z8は(010-001),(110-101)、Z9は(010-100),(011-101)、Z10は(001-100),(011-110)、Z11は(001-010),(101-110)、Z12は(100-010),(101-011)の12個の空間ベクトルに対応する。また、Z13は(100-011)、Z14は(110-001)、Z15は(010-101)、Z16は(011-100)、Z17は(001-110)、Z18は(101-010)の6個の空間ベクトルに対応する。
【0042】
図4は、回転電機80のdq軸ベクトル座標系での1つの動作点におけるベクトル図を例示している。図中、“V1”は第1インバータ11による電圧を示す第1電圧ベクトル、“V2”は第2インバータ12による電圧を示す第2電圧ベクトルを示す。2つのインバータ10を介してオープン巻線であるステータコイル8に現れる電圧は、第1電圧ベクトルV1と第2電圧ベクトルV2との差“V1-V2”に相当する。図中の“Va”は、ステータコイル8に現れる合成電圧ベクトルを示している。また、“Ia”は、回転電機80のステータコイル8を流れる電流を示している。図4に示すように、第1電圧ベクトルV1と第2電圧ベクトルV2とのベクトルの向きが180度異なるように、第1インバータ11及び第2インバータ12が制御されると、合成電圧ベクトルVaは、第1電圧ベクトルV1の向きに第2電圧ベクトルV2の大きさを加算したベクトルとなる。
【0043】
本実施形態のように、互いに独立した複数相のオープン巻線を有する回転電機80を、2つのインバータ10を介して駆動制御する場合、一般的には、2つのインバータ10は、同じ制御方式でスイッチング制御される。しかし、スイッチング制御の方式は、回転電機80に要求されるトルクや、回転速度、直流側の電圧など、種々の要素(動作条件)によって、より高いシステム効率での動作が可能なように、決定されることが好ましい。このため、回転電機制御装置1は、回転電機80の動作領域(制御領域R)に応じて第1インバータ11と第2インバータ12とを異なる制御方式で制御する制御モードを有している。発明者らの実験やシミュレーションによって、回転電機80の動作条件に応じて、第1インバータ11と第2インバータ12とを異なる制御方式で制御する制御モードを有することで、システム効率を高くすることができることが確かめられている。
【0044】
本実施形態では、回転電機制御装置1は、第1インバータ11及び第2インバータ12の一方のインバータ10(ここでは第1インバータ11)を矩形波制御により制御し、他方のインバータ10(ここでは第2インバータ12)をパルス幅変調制御の1つである特別パルス幅変調制御(SP-PWM)により制御する対象制御を実行する制御モードを有する。ここで、特別パルス幅変調制御とは、ステータコイル8に目標電圧を生じさせる場合のパルス幅変調制御によるスイッチングパターンと、矩形波制御によるスイッチングパターンとの差に基づいたスイッチングパターンとなる制御方式である。詳細については、図8図19等を参照して後述する。
【0045】
上述したように、本実施形態では、第2インバータ12を構成する第2スイッチング素子32は、第1インバータ11を構成する第1スイッチング素子31よりもオフ状態とオン状態との間での遷移時のスイッチング損失が相対的に小さいスイッチング素子である。第1インバータ11が矩形波制御により制御される場合、特別パルス幅変調制御により制御される第2インバータ12に比べてスイッチング回数が少なくなる。つまり、相対的にスイッチング損失が小さい第2インバータ12により多くスイッチングさせることによって、高い出力が要求される高速度域VRHにおいてシステム全体の損失を抑制することができる。
【0046】
当然ながら、制御モードには対象制御が実行されるモード以外のものもある。それぞれの制御モードは、回転電機80の制御領域R(図5等参照)に対応して設定されている。図5に示すように、本実施形態では、回転電機80の制御領域Rとして、低速度域VRLと、同じトルクTにおける回転電機80の回転速度が低速度域VRLよりも高い高速度域VRHとが設定されている。対象制御は、高速度域VRHにおいて実行される。
【0047】
また、図5に示すように、高速度域VRHを分割し、高速度域VRH内に、さらに、第1高速度域VRH1と、同じトルクTにおける回転電機80の回転速度が第1高速度域VRH1よりも高い第2高速度域VRH2とを設定することができる。そして、高速度域VRHにおいて実行される対象制御は、第1高速度域VRH1において実行される第1対象制御と、第2高速度域VRH2において実行される第2対象制御との2種類の制御を有することができる。尚、高速度域VRHが分割されない場合、高速度域VRHの全領域において実行される対象制御は、第1対象制御であると好適である。
【0048】
上述したように、パルス幅変調制御には、制御方式として、複数相のアーム3Aの全てについて連続的にパルス幅変調を行う連続パルス幅変調制御(CPWM)と、複数相の一部のアーム3Aについてスイッチング素子3をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う不連続パルス幅変調制御(DPWM)とが含まれる。また、特別パルス幅変調制御(SP-PWM)は、上述したように、ステータコイル8に目標電圧を生じさせる場合のパルス幅変調制御によるスイッチングパターンと、矩形波制御によるスイッチングパターンとの差に基づいたスイッチングパターンとなる制御方式である。第1対象制御では、このパルス幅変調制御として、連続パルス幅変調を用い、第2対象制御では、このパルス幅変調制御として、不連続パルス幅変調を用いる。
【0049】
即ち、回転電機制御装置1は、第1高速度域VRH1では、対象制御として、第1インバータ11及び第2インバータ12の一方のインバータ10(ここでは第1インバータ11)を矩形波制御により制御し、他方のインバータ10(ここでは第2インバータ12)を連続パルス幅変調制御(CPWM)に基づく特別パルス幅変調制御(SP-PWM)である特別連続パルス幅変調制御(SP-CPWM)により制御する第1対象制御を実行する。また、回転電機制御装置1は、第2高速度域VRH2では、対象制御として、第1インバータ11及び第2インバータ12の一方のインバータ10(ここでは第1インバータ11)を矩形波制御により制御し、他方のインバータ10(ここでは第2インバータ12)を不連続パルス幅変調制御(DPWM)に基づく特別パルス幅変調制御(SP-PWM)である特別不連続パルス幅変調(SP-DPWM)により制御する第2対象制御を実行する。
【0050】
不連続パルス幅変調制御による最大変調率は、連続パルス幅変調制御の最大変調率よりも大きい。第2高速度域VRH2は、同じトルクTにおいて第1高速度域VRH1よりも回転電機80の回転速度が高い制御領域Rであり、システム効率の観点からは第2高速度域VRH2では第1高速度域VRH1よりも高い変調率で変調されることが好ましい。第1高速度域VRH1において連続パルス幅変調に基づく特別連続パルス幅変調制御を実行し、第2高速度域VRH2において不連続パルス幅変調に基づく特別連続パルス幅変調制御を実行することによって、高速度域VRHの全体に亘って適切に回転電機80を駆動することができる。
【0051】
また、図6に示すように、制御領域Rとして、同じトルクTにおける回転電機の回転速度が高速度域VRHよりも高い超高速度域VRSHがさらに設定されていると好適である。この超高速度域VRSHでは、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10が矩形波制御により制御される。同じトルクTにおける回転電機の回転速度が超高速度域VRSHよりも低い高速度域VRHでは、一方のインバータ10が矩形波制御により制御され、他方のインバータ10が特別不連続パルス幅変調により制御されている。通常の不連続パルス幅変調の最大変調率は、ほぼ矩形波制御の変調率0.78である。不連続パルス幅変調に基づく特別不連続パルス幅変調の最大変調率も、ほぼ0.78となるので、高速度域VRHと超高速度域VRSHとに亘って適切に回転電機80を駆動することができる。
【0052】
尚、低速度域VRLでは、第1インバータ11及び第2インバータ12の一方のインバータ10(ここでは第1インバータ11)をアクティブショートサーキット制御により制御し、他方のインバータ10(ここでは第2インバータ12)をパルス幅変調制御により制御する対象低速度域制御が実行される。つまり、実質的に2つのインバータ10の内、1つのインバータ10(例えば第2インバータ12)のみで回転電機80を駆動することになる。一方のインバータ10がスイッチング動作をしないので、その分のスイッチング損失を低減することができ、その結果、システム全体の損失を抑制しつつ回転電機80を駆動することができる。
【0053】
上述したように、本実施形態では、第2インバータ12は、第1インバータ11に比べてスイッチング損失が相対的に小さいスイッチング素子を用いて構成されている。第1インバータ11がアクティブショートサーキット制御される場合、相対的にスイッチング損失が大きい第1インバータ11のスイッチング損失がほぼゼロとなる。また、スイッチングする第2インバータ12は、相対的にスイッチング損失が小さいので低速度域VRLにおいてシステム全体の損失を抑制することができる。
【0054】
また、図7に示すように、低速度域VRLも分割し、低速度域VRL内に、第1低速度域VRL1と、同じトルクTにおける回転電機80の回転速度が第1低速度域よりも高い第2低速度域VRL2とを設定することができる。そして、低速度域VRLにおいて実行される対象低速度制御は、第1低速度域VRL1において実行される第1対象低速度制御と、第2低速度域VRL2において実行される第2対象低速度制御との2種類の制御を有することができる。尚、低速度域VRLが分割されない場合、低速度域VRLの全領域において実行される対象制御は、第1対象低速度制御であると好適である。
【0055】
パルス幅変調制御には、制御方式として、複数相のアーム3Aの全てについて連続的にパルス幅変調を行う連続パルス幅変調制御と、複数相の一部のアーム3Aについてスイッチング素子3をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う不連続パルス幅変調制御とが含まれる。第1低速度域VRL1では連続パルス幅変調制御が用いられ、第2低速度域VRL2では不連続パルス幅変調制御が用いられる。
【0056】
具体的には、回転電機制御装置1は、第1低速度域VRL1では、対象低速度域制御として、第1インバータ11及び第2インバータ12の一方のインバータ10(ここでは第1インバータ11)をアクティブショートサーキット制御により制御し、他方のインバータ10(ここでは第2インバータ12)を連続パルス幅変調制御により制御する第1対象低速度域制御を実行する。また、回転電機制御装置1は、第2低速度域VRK2では、対象低速度域制御として、第1インバータ11及び第2インバータ12の一方のインバータ10(ここでは第1インバータ11)をアクティブショートサーキット制御により制御し、他方のインバータ10(ここでは第2インバータ12)を不連続パルス幅変調制御により制御する第2対象低速度域制御を実行する。
【0057】
不連続パルス幅変調制御による最大変調率は、連続パルス幅変調制御の最大変調率よりもが大きい。第2低速度域VRL2は、同じトルクTにおいて第1低速度域VRL1よりも回転電機80の回転速度が高い制御領域Rであり、システム効率の観点からは第2低速度域VRL2では第1低速度域VRL1よりも高い変調率で変調されることが好ましい。第1低速度域VRL1において連続パルス幅変調制御を用いた第1対象低速度域制御が実行され、第2低速度域VRL2において不連続パルス幅変調を用いた第2対象低速度域制御が実行されることによって、低速度域VRLの全体に亘って適切に回転電機80を駆動することができる。
【0058】
尚、低速度域VRLにおける変調の際には、キャリアCA(図31図32等参照)の周波数によっては、可聴帯域のノイズが発生する場合がある。低速度域VRLでは、車両の走行に伴う音(タイヤと路面との接地音などの走行音)も小さいため、インバータ10から出力されるノイズが可聴周波数帯域のノイズの場合には、ノイズが利用者に聞こえ易くなる可能性がある。ここで、キャリアCAの周波数を高くすることによって、ノイズの周波数を可聴帯域外とできる場合がある。第2インバータ12は、第1インバータ11に比べてスイッチング損失が相対的に小さいスイッチング素子を用いて構成されているため、キャリアCAの周波数を高くしても、スイッチング損失の増加が抑制される。
【0059】
ところで、図36及び図37に例示したように、第1インバータ11と第2インバータ12とは、同じスイッチング素子3を用いて構成されていてもよい。また、図1に例示したように第2インバータ12が第1インバータ11に比べてスイッチング損失が相対的に小さいスイッチング素子を用いて構成されている場合であっても、上述したように第2インバータ12のキャリアCAの周波数が高く設定されない場合もある。このような場合には、第1インバータ11をアクティブショートサーキット制御により制御する形態に限らず、第2インバータ12をアクティブショートサーキット制御により制御する形態であってもよい。
【0060】
また、このような場合には、アクティブショートサーキット制御されない方のインバータ10(ここでは第2インバータ12)のみが多くスイッチングされることによって消耗しないように、低速度域VRLにおいて、第1インバータ11を制御する制御方式と第2インバータ12を制御する制御方式とを、予め規定された条件に従って交互に入れ替えると好適である。制御方式を入れ替えることによって、第1直流電源61及び第2直流電源62の何れか一方だけの放電量が増加することも抑制することができる。ここで、規定された条件とは、例えば、一定の時間や、直流電源6の放電量であると好適である。
【0061】
また、図7に示すように、制御領域Rとして、同じトルクTにおける回転電機80の回転速度が低速度域VRLよりも高く高速度域VRHよりも低い中間速度域VRMをさらに設定することができる。中間速度域VRMでは、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10が不連続パルス幅変調制御により制御される。
【0062】
以上、制御領域Rとして、第1低速度域VRL1、第2低速度域VRL2、中間速度域VRM、第1高速度域VRH1、第2高速度域VRH2、超高速度域VRSHが設定される場合に、第1インバータ11及び第2インバータ12に適用される制御方式の一例を下記の表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
ここで、各制御領域Rの境界は、回転電機80のトルクに応じた回転電機80の回転速度と、直流電圧に対する複数相の交流電圧の線間電圧の実効値(指令値であっても出力電圧からの換算値でもよい)の割合との少なくとも一方に応じて設定されていると好適である。
【0065】
回転電機80の動作条件は、図5図7に例示するように、しばしば回転速度とトルクとの関係で定義される。制御領域Rが、1つのパラメータである回転速度に基づいて、設定されていると良い。ここで、制御領域Rの境界を規定する回転速度を、トルクに関わらず一定に設定することも可能であるが、制御領域Rの境界を規定する回転速度が、トルクに応じて異なる値となるように設定されているとさらに好適である。このようにすることにより、回転電機80の動作条件に応じて高い効率で回転電機80を駆動制御することができる。
【0066】
また、例えば、回転電機80に高い出力(速い回転速度や高いトルク)が要求される場合、電圧型のインバータでは、直流電圧を高くすることや、直流電圧が交流電圧に変換される割合を高くすることで当該要求が実現される。直流電圧が一定の場合には、直流電圧が交流電圧に変換される割合を高くすることで当該要求を実現することができる。この割合は、直流電力に対する3相交流電力の実効値の割合(電圧型のインバータの場合には、直流電圧に対する3相交流電圧の線間電圧の実効値の割合と等価)として示すことができる。上述したように、インバータ10を制御する制御方式には、この割合が低いものから高いものまで種々の方式が存在する。
【0067】
制御領域が、回転電機80に対する要求に応じて定まる直流電圧に対する3相交流電圧の線間電圧の実効値の割合(変調率)に基づいて設定されていると、回転電機80の動作条件に応じて高い効率で回転電機80を駆動制御することができる。下記に示す表2は、上記の表1に対応し、それぞれの制御領域Rに対応する変調率を例示している。詳細は後述するが、表中において、“Mi_inv1”は第1インバータ11の変調率、“Mi_inv2”は第2インバータ12の変調率、“Mi_sys”はシステム全体の変調率を示している。
【0068】
【表2】
【0069】
本実施形態では、第1直流電源61の端子間電圧“E1”と第2直流電源62の端子間電圧“E2”は同じである(共に電圧“E”)。第1インバータ11の交流側の実効値を“Va_inv1”、第2インバータ12の交流側の実効値を“Va_inv2”とすると、第1インバータ11の変調率“Mi_inv1”、及び第2インバータ12の変調率“Mi_inv2”は下記式(1)、(2)のようになる。また、システム全体の変調率“Mi_sys”は、下記式(3)のようになる。
【0070】
Mi_inv1=Va_inv1/E1=Va_inv1/E ・・・(1)
Mi_inv2=Va_inv2/E2=Va_inv2/E ・・・(2)
Mi_sys =(Va_inv1+Va_inv2)/(E1+E2)
=(Va_inv1+Va_inv2)/2E ・・・(3)
【0071】
電圧の瞬時値については、瞬時におけるベクトルを考慮する必要があるが、単純に変調率だけを考えると、式(1)~(3)より、システム全体の変調率“Mi_sys”は、“(Mi_inv1+Mi_inv2)/2”となる。尚、表2には、定格値としてそれぞれの制御領域Rに対応する変調率を示している。このため、実際の制御に際しては、制御領域Rで制御方式が変わる場合のハンチング等を考慮して、それぞれの制御領域Rに対応する変調率に重複する範囲が含まれていてもよい。
【0072】
尚、変調率“X”は、連続パルス幅変調(空間ベクトルパルス幅変調)による変調率の理論上の上限値(概ね0.707)に基づき、さらに、デッドタイムを考慮して設定される。表2に示すように、低速度域VRL(第1低速度域VRL1及び第2低速度域VRL2)では、1つのインバータ10のみで変調を行う場合がある。低速度域VRLの全域に亘って連続パルス幅変調制御が実行されても良いので、低速度域VRLでは、1つのインバータ10(ここでは第2インバータ12)の最大変調率“2X”が、連続パルス幅変調制御による変調率の理論上の上限値(空間ベクトルパルス幅変調で概ね0.707)に基づき、さらに、デッドタイムを考慮して、例えば0.5~0.6程度に設定される。従って、変調率“X”は、例えば、0.25~0.3程度の値に設定される。変調率“a,b,c”は、実験やシミュレーション等に基づいて、適宜設定される。
【0073】
以下、それぞれの制御領域Rにおける制御方式についてU相の電圧指令(Vu1**,Vu2**)及びU相上段側スイッチング制御信号(Su1+,Su2+)の波形例を参照して説明する。第2U相下段側スイッチング制御信号Su2-、及び、V相、W相については、図示を省略する。
【0074】
まず、高速度域VRHで実行され、本実施形態において最も特徴的な特別パルス幅変調制御(SP-PWM)について、図8図19を参照して説明する。図8は特別連続パルス幅変調制御(SP-CPWM)を示し、図9は特別不連続パルス幅変調制御(SP-DPWM)を示している。
【0075】
図8及び図9には、第1インバータ11及び第2インバータ12に共通するキャリアCAと、第1インバータ11の電圧指令である第1U相電圧指令Vu1**と、第2インバータ12の電圧指令である第2U相電圧指令Vu2**と、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+との一例を示している。第1U相下段側スイッチング制御信号Su1-、第2U相下段側スイッチング制御信号Su2-、及び、V相、W相については図示を省略する(他の制御方式も同様)。
【0076】
例えば、キャリアCAは“0<CA<1”の間で変化し、電圧指令(V**)は、基本的に“0≦V**≦1”の範囲内で変化する。キャリアCAと、電圧指令(V**)との比較により、電圧指令がキャリアCA以上の場合にスイッチング制御信号が“1”となり、電圧指令がキャリアCA未満の場合にスイッチング制御信号が“0”となる。キャリアCAと電圧指令(V**)との比較論理については、以下の説明においても同様である。
【0077】
上述したように、特別パルス幅変調制御(SP-PWM)は、ステータコイル8に目標電圧を生じさせる場合のパルス幅変調制御によるスイッチングパターンと、矩形波制御によるスイッチングパターンとの差に基づいたスイッチングパターンとなる制御方式である。従って、特別パルス幅変調制御(SP-PWM)の電圧指令(V**)は、ステータコイル8に目標電圧を生じさせる場合のパルス幅変調制御のための電圧指令(V**)と、矩形波制御ための電圧指令(V**)との差に基づいて設定されている。例えば、特別連続パルス幅変調制御(SP-CPWM)の電圧指令(V**)は、ステータコイル8に目標電圧を生じさせる場合の連続パルス幅変調制御のための電圧指令(V**)と、矩形波制御ための電圧指令(V**)との差に基づいて設定されている。また、特別不連続パルス幅変調制御(SP-DPWM)の電圧指令(V**)は、ステータコイル8に目標電圧を生じさせる場合の不連続パルス幅変調制御のための電圧指令(V**)と、矩形波制御ための電圧指令(V**)との差に基づいて設定されている。
【0078】
以下、図2のブロック図、及び図10図19を参照して、特別パルス幅変調制御の電圧指令(V**)を演算する原理及び手順について説明する。図10図13は、特別連続パルス幅変調制御の電圧指令(V**)を演算する原理を示し、図14図17は、特別不連続パルス幅変調制御の電圧指令(V**)を演算する原理を示し、図18及び図19は、特別パルス幅変調制御の電圧指令(V**)を演算する手順を示している。ここでは、3相の電圧指令(V**)の内、U相の電圧指令(Vu**)を代表として例示して説明する。
【0079】
図10は、図8に例示したような特別連続パルス幅変調制御の電圧指令(Vu2**)と、矩形波制御の電圧指令(Vu1**)と、キャリアCAとを示している。つまり、特別連続パルス幅変調制御の電圧指令(Vu2**)の演算結果を示している。上述したように、キャリアCAは“0<CA<1”の間で変化し、電圧指令(Vu1**,Vu2**)は、“0”以上“1”以下の範囲で変化している。
【0080】
図11は、連続パルス幅変調制御の電圧指令(Vu2**)と、矩形波制御の電圧指令(Vu1**)と、キャリアCAとを示している。例えば、図2に示すように、第2インバータ12の3相電圧指令を演算する第2電圧制御部72の特別変調用3相電圧指令演算部73Bでは、第1インバータ11の3相電圧指令(Vu1**)と、第2インバータ12の電圧指令(Vu2**)との双方を演算する。ここでは、第1インバータ11の3相電圧指令(Vu1**)として、矩形波制御(1-Pulese)の電圧指令が演算され、第2インバータ12の3相電圧指令(Vu2**)として、連続パルス幅変調制御(CPWM)の電圧指令が演算される。図18の第1ステップ#1に示すように、基本電圧指令として、これらの電圧指令が取得される(基本電圧指令取得ステップ)。“Vu_INV1_Ref”は、第1インバータ11の基本電圧指令(第1基本電圧指令)である。“Vu_INV2_Ref”は、第2インバータ12の基本電圧指令(第2基本電圧指令)である。第1基本電圧指令は、矩形波用電圧指令に相当し、第2基本電圧指令は、パルス幅変調用電圧指令(ここでは連続パルス幅変調用電圧指令)に相当する。
【0081】
図12は、図18の第2ステップ#2及び第3ステップ#3が実行された後の電圧指令を示している。第2ステップ#2では、第1インバータ11及び第2インバータ12を用いて出力される合計の電圧指令“Vu_total_Ref”(システム電圧指令)が演算される(システム電圧指令演算ステップ)。図4等を参照して上述したように、第1インバータ11の電圧指令と第2インバータ12の電圧指令とは、位相が180度異なるように設定されている。従って、図12及び図18に示すように、システム電圧指令“Vu_total_Ref”は、第1基本電圧指令“Vu_INV1_Ref”と、第2基本電圧指令“Vu_INV2_Ref”との差として演算される。
【0082】
図12に示すように、システム電圧指令“Vu_total_Ref”の波高は、キャリアCAの変域“0<CA<1”よりも大きくなり、その振幅中心は、“0”となる。システム電圧指令“Vu_total_Ref”の振幅中心と、第1基本電圧指令“Vu_INV1_Ref”の振幅中心とを一致させるために、第3ステップ#3では、第1基本電圧指令“Vu_INV1_Ref”の振幅中心をキャリアCAの変域“0<CA<1”の中心である“0.5”から“0”にシフトさせる。第3ステップ#3は、狭義には、マイナスシフトステップと称することができるが、システム電圧指令の演算に伴う補正であるから、システム電圧指令演算ステップに含めてもよい。本実施形態では、第2ステップ#2及び第3ステップ#3がシステム電圧指令演算ステップに相当する。尚、図2のブロック図(特別変調用3相電圧指令演算部73B)には、簡略化のために、第2ステップ#2における差分の演算を代表として図示している。
【0083】
図13は、図18の第4ステップ#4が実行された後の電圧指令を示している。第4ステップ#4では、システム電圧指令演算ステップ(#2,#3)で演算された、第1基本電圧指令“Vu_INV1_Ref”と、システム電圧指令“Vu_total_Ref”とに基づいて、第2基本電圧指令“Vu_INV2_Ref”が、特別連続パルス幅変調のために最適化される(電圧指令最適化ステップ)。図13及び図18に示すように、第2基本電圧指令“Vu_INV2_Ref”は、第1基本電圧指令“Vu_INV1_Ref”と、システム電圧指令“Vu_total_Ref”との差として演算される。第2基本電圧指令“Vu_INV2_Ref”は、特別パルス幅変調用電圧指令(ここでは特別不連続パルス幅変調用電圧指令)に相当する(最終的には、後述する第5ステップ#5、第6ステップ#6を経て特別パルス幅変調用電圧指令となる。)。
【0084】
第1基本電圧指令“Vu_INV1_Ref”及び第2基本電圧指令“Vu_INV2_Ref”の振幅中心は、第4ステップ#4の実行完了時点では、図13に示すように“0”である。このため、第5ステップ#5では、振幅中心を“0”からキャリアCAの変域“0<CA<1”の中心である“0.5”に戻すプラスシフト処理が実行される(プラスシフトステップ)。続く第6ステップ#6では、第1インバータ11の電圧指令“Vu1**”に第1基本電圧指令“Vu_INV1_Ref”が設定され、第2インバータ12の電圧指令“Vu2**”に第2基本電圧指令“Vu_INV2_Ref”が設定される(電圧指令設定ステップ)。第3ステップ#3(マイナスシフトステップ)と同様に、第5ステップ#5は補正演算である。従って、第3ステップ#3を第2ステップ#2と共にシステム電圧指令演算ステップに含めるのと同様に、第5ステップ#5も第6ステップ#6と共に電圧指令設定ステップに含めてもよい。本実施形態では、第5ステップ#5及び第6ステップ#6が電圧指令設定ステップに相当する。
【0085】
尚、図2のブロック図は簡略化しているが、特別変調用3相電圧指令演算部73Bは、第1ステップ#1~第6ステップ#6を実行する。特別変調用変調部75は、特別パルス幅変調制御(SP-PWM)の電圧指令(V**)に基づいて、特別パルス幅変調制御(SP-PWM)のスイッチング制御信号を生成する。制御方式として、特別パルス幅変調制御(SP-PWM)が選択されている場合、選択部76を介して特別パルス幅変調制御(SP-PWM)のスイッチング制御信号が出力される。図2には、通常の変調のための3相電圧指令演算部73及び変調部74と、特別パルス幅変調のための特別変調用3相電圧指令演算部73B及び特別変調用変調部75と、それぞれの変調部(74,75)により生成されたスイッチング制御信号を選択して出力する選択部76とを備える形態を例示している。しかし、上述したように、通常変調の3相電圧指令と、特別変調用変調部75により生成された特別変調の3相電圧指令とが選択部において選択され、選択された電圧指令に基づいて共通の変調部により、スイッチング制御信号が生成されてもよい。
【0086】
図14は、図9に例示したような特別不連続パルス幅変調制御の電圧指令(Vu2**)と、矩形波制御の電圧指令(Vu1**)と、キャリアCAとを示している。つまり、特別不連続パルス幅変調制御の電圧指令(Vu2**)の演算結果を示している。矩形波制御の電圧指令(Vu1**)は、“0~1”の間で変化するキャリアCAに対応して、“0”以上“1”以下の範囲で変化しているが、特別不連続パルス幅変調制御の電圧指令(Vu2**)は、キャリアCAの変域の範囲外である“0”以下、“1”以上の範囲も含んで変化している。
【0087】
図15は、不連続パルス幅変調制御の電圧指令(Vu2**)と、矩形波制御の電圧指令(Vu1**)と、キャリアCAとを示している。上述したように、特別変調用3相電圧指令演算部73B(図2参照)では、第1インバータ11の3相電圧指令(Vu1**)と、第2インバータ12の電圧指令(Vu2**)との双方を演算する。ここでは、第1インバータ11の3相電圧指令(Vu1**)として、矩形波制御(1-Pulese)の電圧指令が演算され、第2インバータ12の3相電圧指令(Vu2**)として、不連続パルス幅変調制御(DPWM)の電圧指令が演算される。図18を参照して上述したように、第1ステップ#1で、第1基本電圧指令“Vu_INV1_Ref”と第2基本電圧指令“Vu_INV2_Ref”とが取得される(基本電圧指令取得ステップ)。第1基本電圧指令は、矩形波用電圧指令に相当し、第2基本電圧指令は、パルス幅変調用電圧指令(ここでは不連続パルス幅変調用電圧指令)に相当する。
【0088】
図16は、図18の第2ステップ#2及び第3ステップ#3が実行された後の電圧指令を示している。第2ステップ#2では、第1インバータ11及び第2インバータ12を用いて出力される合計の電圧指令“Vu_total_Ref”(システム電圧指令)が演算される。図16及び図18に示すように、システム電圧指令“Vu_total_Ref”は、第1基本電圧指令“Vu_INV1_Ref”と、第2基本電圧指令“Vu_INV2_Ref”との差として演算される。
【0089】
図16に示すように、システム電圧指令“Vu_total_Ref”の波高は、キャリアCAの変域“0<CA<1”よりも大きくなり、その振幅中心は、“0”となる。システム電圧指令“Vu_total_Ref”の振幅中心と、第1基本電圧指令“Vu_INV1_Ref”の振幅中心とを一致させるために、第3ステップ#3では、第1基本電圧指令“Vu_INV1_Ref”の振幅中心をキャリアCAの振幅中心である“0.5”から“0”にシフトさせる(マイナスシフトステップ)。上述したように、第3ステップ#3は、システム電圧指令の演算に伴う補正であるから、システム電圧指令演算ステップに含めてもよい。本実施形態では、第2ステップ#2及び第3ステップ#3がシステム電圧指令演算ステップに相当する。
【0090】
図17は、図18の第4ステップ#4が実行された後の電圧指令を示している。第4ステップ#4では、システム電圧指令演算ステップ(#2,#3)で演算された、第1基本電圧指令“Vu_INV1_Ref”と、システム電圧指令“Vu_total_Ref”とに基づいて、第2基本電圧指令“Vu_INV2_Ref”が、特別連続パルス幅変調のために最適化される(電圧指令最適化ステップ)。図17及び図18に示すように、第2基本電圧指令“Vu_INV2_Ref”は、第1基本電圧指令“Vu_INV1_Ref”と、システム電圧指令“Vu_total_Ref”との差として演算される。第2基本電圧指令“Vu_INV2_Ref”は、特別パルス幅変調用電圧指令(ここでは特別不連続パルス幅変調用電圧指令)に相当する(最終的には、後述する第5ステップ#5、第6ステップ#6を経て特別パルス幅変調用電圧指令となる。)。
【0091】
第1基本電圧指令“Vu_INV1_Ref”及び第2基本電圧指令“Vu_INV2_Ref”の振幅中心は、第4ステップ#4の実行完了時点では、図17に示すように“0”である。このため、第5ステップ#5では、振幅中心を“0”からキャリアCAの振幅中心である“0.5”に戻すプラスシフト処理が実行される(プラスシフトステップ)。続く第6ステップ#6では、第1インバータ11の電圧指令“Vu1**”に第1基本電圧指令“Vu_INV1_Ref”が設定され、第2インバータ12の電圧指令“Vu2**”に第2基本電圧指令“Vu_INV2_Ref”が設定される(電圧指令設定ステップ)。第3ステップ#3(マイナスシフトステップ)と同様に、第5ステップ#5は補正演算であるから、システム電圧指令演算ステップと同様に、第5ステップ#5も第6ステップ#6と共に電圧指令設定ステップに含めてもよい。本実施形態では、第5ステップ#5及び第6ステップ#6が電圧指令設定ステップに相当する。上述したように、特別変調用3相電圧指令演算部73Bは、第1ステップ#1~第6ステップ#6を実行する。
【0092】
図19のフローチャートは、さらに第7ステップ#7を行う形態を例示している。特別変調用変調部75は、第7ステップ#7を実行する。尚、通常変調の3相電圧指令と、特別変調用変調部75により生成された特別変調の3相電圧指令とが選択部において選択され、選択された電圧指令に基づいて共通の変調部により、スイッチング制御信号が生成される場合には、当該共通の変調部において第7ステップ#7が実行される。
【0093】
第7ステップ#7では、“K”を“1”より大きい係数として、キャリアCAの周波数“FCA”(キャリア周波数)を“K”倍して、キャリア周波数FCAを設定する。つまり、キャリア周波数FCAを高くして変調の分解能を高くする。“K”は例えば“2”とすることができる。この効果については、図20図29(特に図26図29)を参照して後述する。尚、キャリア周波数FCAは、変調周波数に相当する。
【0094】
以上、図10図19を参照して説明したように、特別パルス幅変調制御は、特別パルス幅変調用電圧指令に基づいてスイッチングパターンが生成される制御方式ということができる。具体的には、オープン巻線であるステータコイル8に目標電圧を生じさせる場合に、矩形波制御により制御される一方のインバータのスイッチングパターンを生成させる電圧指令を矩形波用電圧指令とし、矩形波用電圧指令とは位相が180度異なる電圧指令であって、当該目標電圧を生じさせる場合にパルス幅変調制御により制御される他方のインバータのスイッチングパターンを生成させる電圧指令をパルス幅変調用電圧指令とし、矩形波用電圧指令とパルス幅変調用電圧指令との差分を2つのインバータ全体の電圧指令であるシステム電圧指令とし、振幅中心を一致させた状態での、システム電圧指令と矩形波用電圧指令との差分を特別パルス幅変調用電圧指令として、特別パルス幅変調制御は、特別パルス幅変調用電圧指令に基づいてスイッチングパターンが生成される制御方式ということができる。
【0095】
また、図19を参照して上述したように、低速度域VRLにおいて、第1インバータ11及び第2インバータ12の少なくとも一方のインバータ10が、パルス幅変調制御により制御される場合、高速度域VRHでは、当該パルス幅変調制御における変調周波数よりも高い変調周波数により、特別パルス幅変調制御が実行されてもよい。
【0096】
表1、表2等を参照して上述したように、特別パルス幅変調制御は、高速度域VRHにおいて実行される。高速度域VRHでは、第1インバータ11が矩形波制御によって駆動され、第2インバータ12が特別パルス幅変調制御によって駆動される。以下、第1インバータ11が矩形波制御によって駆動される状態で、第2インバータ12が通常のパルス幅変調制御制御によって駆動された場合と比較して、第2インバータ12が特別パルス幅変調制御により駆動される場合の利点について説明する。さらに、図19を参照して上述したように、キャリア周波数FCAを高くすること(変調周波数を高くすること)の利点についても説明する。
【0097】
以下、図20図29の波形図も参照して説明する。図20図29は、時間の経過に伴って回転電機80の回転速度を上昇させた速度スイープ実験や速度スイープシミュレーションの結果を示している。
【0098】
図20及び図21の波形図は、第1高速度域VRH1において矩形波制御(1-Pulse)と通常の連続パルス幅変調制御(CPWM)とを組み合わせた場合のdq軸電流(Id,Iq)、及び実変調率(Mi_sys)を3相電流と共に示している。図22及び図23の波形図は、図20及び図21よりも高速度の第1高速度域VRH1において矩形波制御(1-Pulse)と通常の連続パルス幅変調制御(CPWM)とを組み合わせた場合、及び第2高速度域VRH2において矩形波制御(1-Pulse)と通常の不連続パルス幅変調制御(DPWM)とを組み合わせた場合、のdq軸電流(Id,Iq)、及び実変調率(Mi_sys)を3相電流と共に示している。即ち、図22及び図23は、時間の経過に伴って回転電機80の回転速度が上昇し、第1高速度域VRH1から第2高速度域VRH2へ移行してインバータ10の制御方式が切り替わった場合の波形を示している(図26図29も同様)。図20図23に示すように、dq軸電流(Id,Iq)、及び実変調率(Mi_sys)の何れにもモータ電気周波数f(回転電機80の電気周波数)の6倍の周波数“6f”のリップルが現れている。
【0099】
ここで、この“6f”のリップルを改善するため、第1高速度域VRH1において第2インバータ12を特別連続パルス幅変調制御(SP-CPWM)により制御し、第2高速度域VRH2において第2インバータ12を特別不連続パルス幅変調制御(SP-DPWM)により制御する。図24図27は、この場合の波形図を示している。
【0100】
図24及び図25の波形図は、図20及び図21の波形図に対応しており、図20及び図21と同じトルク及び同じ回転速度において、図20及び図21が通常の連続パルス幅変調制御(CPMW)が実行された場合を例示しているのに対して、図24及び図25では、特別連続パルス幅変調制御(SP-CPWM)が実行された場合を例示している。同様に、図26及び図27の波形図は、図22及び図23の波形図に対応しており、図22及び図23と同じトルク及び同じ回転速度において、図22及び図23が通常のパルス幅変調制御(CPMW,DPWM)が実行された場合を例示しているのに対して、図24及び図25では、特別パルス幅変調制御(SP-CPWM,SP-DPWM)が実行された場合を例示している。
【0101】
具体的には、図24及び図25の波形図は、第1高速度域VRH1において矩形波制御(1-Pulse)と特別連続パルス幅変調制御(SP-CPWM)とを組み合わせた場合のdq軸電流(Id,Iq)、及び実変調率(Mi_sys)を3相電流と共に示している。図26及び図27の波形図は、図24及び図25よりも高速度の第1高速度域VRH1において矩形波制御(1-Pulse)と特別連続パルス幅変調制御(SP-CPWM)とを組み合わせた場合、及び第2高速度域VRH2において矩形波制御(1-Pulse)と特別不連続パルス幅変調制御(SP-DPWM)とを組み合わせた場合、のdq軸電流(Id,Iq)、及び実変調率(Mi_sys)を3相電流と共に示している。
【0102】
図20図21と、図24図25とを比較すると、dq軸電流(Id,Iq)、及び実変調率(Mi_sys)の何れもモータ電気周波数fの6倍の周波数“6f”のリップルが低減され、リップルが改善されていることがわかる。しかし、図22図23と、図26図27とを比較すると、新たにdq軸電流(Id,Iq)、及び実変調率(Mi_sys)の何れにもモータ電気周波数fの2倍の周波数“2f”のリップルが現れていることがわかる。即ち、高速度域VRHの中で相対的に低速度側では、矩形波制御と特別パルス幅変調制御とを組み合わせることで、“6f”のリップルを低減させるという改善が達成されているが、高速度域VRHの中で相対的に高速度側では、“6f”のリップルが低減されても、“2f”のリップルが生じるという新たな課題が発生している。
【0103】
この“2f”のリップルは、図10及び図14等に示すように、電気角がπ(180度)及び2π(360度)の位相(電圧指令の変曲点の位相)において特別パルス幅変調制御の電圧指令(V**)が急激に変化することに起因すると考えられる。つまり、電気角がπ及び2πの位相では、電圧指令(V**)の増加量や減少量が通常のパルス幅変調制御に比べて遙かに大きい。このため、通常のパルス幅変調制御では十分な分解能を持つキャリア周波数FCAであっても、特別パルス幅変調制御では分解能が足りず、スイッチング制御信号のパルスを適切に生成できなくなる場合がある。そこで、図19を参照して上述したように、キャリア周波数FCAを上げて変調の分解能を高くする。図28図29は、図26図27に対してキャリア周波数FCAを2倍にした場合の波形図を示している。
【0104】
図28及び図29の波形図は、図26及び図27の波形図に対応しており、図26及び図27と同じトルク及び同じ回転速度において、図26及び図27が通常と同様のキャリア周波数FCAで変調された特別パルス幅変調制御(SP-CPWM,SP-DPWM)が実行された場合を例示しているのに対して、図28及び図29では、通常の2倍のキャリア周波数FCAで変調された特別パルス幅変調制御(SP-CPWM,SP-DPWM)が実行された場合を例示している。具体的には、図28及び図29の波形図は、図26及び図27と同速度の第1高速度域VRH1においてキャリア周波数FAC図26及び図27の2倍に上げて矩形波制御(1-Pulse)と特別連続パルス幅変調制御(SP-CPWM)とを組み合わせた場合、及び第2高速度域VRH2においてキャリア周波数FAC図26及び図27の2倍に上げて矩形波制御(1-Pulse)と特別不連続パルス幅変調制御(SP-DPWM)とを組み合わせた場合、のdq軸電流(Id,Iq)、及び実変調率(Mi_sys)を3相電流と共に示している。
【0105】
図26図27と、図28図29とを比較すると、dq軸電流(Id,Iq)、及び実変調率(Mi_sys)の何れもモータ電気周波数fの2倍の周波数“2f”のリップルが低減され、リップルが改善されていることがわかる。即ち、高速度域VRHでは、低速度域VRLで実行されるパルス幅変調制御における変調周波数よりも高い変調周波数により、特別パルス幅変調制御が実行されると好適であることがわかる。
【0106】
本実施形態では、特別パルス幅変調制御は第2インバータ12に対して実行される。上述したように、第2インバータ12を構成する第2スイッチング素子32は、第1インバータ11を構成する第1スイッチング素子31に比べて、スイッチング損失が少ない素子である。従って、キャリア周波数FCAを高くしてもスイッチング損失の増加を抑制することができる。つまり、2つのインバータ10の内の一方のインバータ10を構成するスイッチング素子3に比べて、スイッチング損失が小さいスイッチング素子3を用いて他方のインバータ10が構成されていると、制御方式として特別パルス幅変調制御を適用し易くなり、スイッチング損失の増加を抑制しつつ、システム全体の効率を向上させ易い。
【0107】
当然ながら、通常のパルス幅変調制御を行う場合のキャリア周波数FCAが、π及び2πの位相の変曲点においても適切に特別パルス幅変調制御を実行できる程度に高い周波数を有している場合などでは、特別パルス幅変調制御の実行に際して改めてキャリア周波数FCAを高くする必要はない。従って、特別パルス幅変調制御の適用に際して、必ずしも図1に示すように、一方のインバータ10を構成するスイッチング素子3が他方のインバータ10を構成するスイッチング素子3よりもスイッチング損失が小さい素子である必要はない。図36図37に例示したように、双方のインバータ10が同じ物性のスイッチング素子3を用いて構成されていることを妨げるものではない。
【0108】
図30の波形図は、超高速度域VRSHにおける第1U相電圧指令Vu1**と、第2U相電圧指令Vu2**と、キャリアCAと、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+との一例を示している。上述したように、超高速度域VRSHにおいて第1インバータ11及び第2インバータ12は共に、矩形波制御により制御される。尚、インバータ10矩形波変調制御により制御される場合には、キャリアCAは不要であるが、他の制御方式との比較が容易なようにキャリアCAも図示している。
【0109】
図31の波形図は、第1低速度域VRL1における第1インバータ11のU相電圧指令である第1U相電圧指令Vu1**と、第2インバータ12のU相電圧指令である第2U相電圧指令Vu2**と、キャリアCAと、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+との一例を示している。第1低速度域VRL1において第2インバータ12は連続パルス幅変調制御により制御される。図31に示すように、キャリアCAと、第2U相電圧指令Vu2**とに基づいて、パルス状の第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+が生成される。
【0110】
第1インバータ11はアクティブショートサーキット制御により制御されるので、第1U相電圧指令Vu1**は例えば“0”に固定されており、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+は、常時“0”となる。図示は省略しているが、第1U相下段側スイッチング制御信号Su1-は、常時“1”となる。これにより、第1インバータ11のU相のアーム3Aの上段側スイッチング素子3H(31H)がオフ状態に制御され、下段側スイッチング素子3L(31L)がオン状態に制御される。V相、W相についても同様であり、これにより第1インバータ11は下段側アクティブショートサーキット制御により制御される。尚、第1U相電圧指令Vu1**が設定されることなく、第1U相スイッチング制御信号Su1が固定値に設定されてもよい。
【0111】
図32の波形図は、第2低速度域VRL2における第1U相電圧指令Vu1**と、第2U相電圧指令Vu2**と、キャリアCAと、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+との一例を示している。第1低速度域VRL1と同様に、第2低速度域VRL2において第1インバータ11はアクティブショートサーキット制御により制御されるので、第1U相電圧指令Vu1**は固定値である。第2低速度域VRL2において第2インバータ12は不連続パルス幅変調制御により制御される。第2U相電圧指令Vu2**が、“0”又は“1”となる区間では、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+が固定値となり、スイッチング素子3(ここでは第2スイッチング素子32)がオン状態又はオフ状態に固定される。
【0112】
図33の波形図は、中間速度域VRMにおける第1U相電圧指令Vu1**と、第2U相電圧指令Vu2**と、キャリアCAと、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+との一例を示している。上述したように、第3速度域VR3において第1インバータ11及び第2インバータ12は共に、不連続パルス幅変調制御により制御される。
【0113】
ところで、下記の表3に示すように、中間速度域VRMでは、回転電機制御装置1は、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方を、不連続パルス幅変調制御に代えて混合パルス幅変調制御(MX-PWM)により制御してもよい。混合パルス幅変調制御は、インバータ10を制御する制御方式の1つであり、電気角の1/2周期である第1期間T1(図33図34参照)においてパターンの異なる複数のパルスが出力され、残りの1/2周期である第2期間T2(図33図34参照)において非有効状態が継続するように制御される制御方式である。
【0114】
【表3】
【0115】
混合パルス幅変調制御では、第2期間T2においてスイッチング制御信号が非有効状態となるので、インバータ10の損失が低減され、また、スイッチングによる高調波電流も減少して回転電機80の損失(鉄損)も低減される。つまり、混合パルス幅変調制御を実行することによって、システム損失を低減することができる。
【0116】
図34には、第1インバータ11のキャリアCAである第1キャリアCA1と、第2インバータ12のキャリアCAである第2キャリアCA2と、第1インバータ11及び第2インバータ12に共通するU相電圧指令である共通U相電圧指令Vu**と、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+との一例を示している。ここでは、共通U相電圧指令Vu**として、図31に例示したような連続パルス幅変調(空間ベクトルパルス幅変調)の電圧指令を用いる形態を例示しているが、図32図33に例示したような不連続パルス幅変調の電圧指令を用いてもよい。連続パルス幅変調(CPWM)の電圧指令を用いる場合には、混合パルス幅変調制御(MX-PWM)を混合連続パルス幅変調制御(MX-CPWM)と称し、不連続パルス幅変調(DPWM)の電圧指令を用いる場合には、混合パルス幅変調制御(MX-PWM)を混合連続パルス幅変調制御(MX-DPWM)と称することができる。ここでは、混合連続パルス幅変調制御(MX-CPWM)を例示して説明する。
【0117】
例えば、第1キャリアCA1は“0.5<CA1<1”の間で変化し、第2キャリアCA2は“0<CA2<0.5”の間で変化し、電圧指令(V**)は、“0≦V**≦1”の間で変化可能である。キャリアCA(第1キャリアCA1及び第2キャリアVA2)と、電圧指令(V**)との比較により、電圧指令がキャリアCA以上の場合にスイッチング制御信号が“1”となり、電圧指令がキャリアCA未満の場合にスイッチング制御信号が“0”となる。
【0118】
図34に示すように、第1キャリアCA1及び第2キャリアCA2の振幅は、電圧指令(V**)に許容される振幅の半分である。一般的なパルス幅変調(図33等参照)では、キャリアCAの振幅は、電圧指令に許容される振幅と同等であり、混合パルス幅変調におけるキャリアCAはハーフキャリアと称することができる。このようなハーフキャリアを用いることにより、電気角の1/2周期である第1期間T1においては、このようなハーフキャリアと電圧指令(V**)とが交差するため、スイッチング制御信号としてパターンの異なる複数のパルスが出力される。残りの1/2周期である第2期間T2においては、ハーフキャリアと電圧指令(V**)とが交差しないため、スイッチング制御信号は非有効状態が継続するように出力される。
【0119】
尚、図示等は省略するが、電圧指令の波形によっては、第2期間T2においても、部分的に有効状態となるパルスがスイッチング制御信号として出力される場合がある。例えば、不連続パルス幅変調の電圧指令(V**)を用いる場合には、電圧指令(V**)の振幅中心近傍(電圧指令(V**)の変曲点付近)で、第2期間T2にも有効状態となるパルスが出力される場合がある。しかし、電圧指令(V**)の振幅中心近傍を除くと、第2期間T2において非有効状態は継続する。また、第2期間T2をスイッチング制御信号が非有効状態の期間(1/2周期未満の期間)のみとし、1周期の中で第2期間T2以外の期間(1/2周期以上の期間)に設定すると、混合パルス幅変調を以下のように定義することもできる。混合パルス幅変調制御は、電気角の1/2周期以上である第1期間T1においてパターンの異なる複数のパルスが出力され、電気角の1周期の残りである第2期間T2において非有効状態が継続するように制御されるということもできる。
【0120】
図35は、混合パルス幅変調制御(混合連続パルス幅変調制御)の図34とは異なる形態を例示している。生成されるスイッチング制御信号は、同じである。図35には、第1インバータ11のキャリアCAである第1キャリアCA1と、第2インバータ12のキャリアCAである第2キャリアCA2と、第1インバータ11のU相電圧指令である第1U相電圧指令Vu1**と、第2インバータ12のU相電圧指令である第2U相電圧指令Vu2**と、第1U相上段側スイッチング制御信号Su1+と、第2U相上段側スイッチング制御信号Su2+との一例を示している。例えば、第1キャリアCA1及び第2キャリアCA2は“0.5<CA1<1”の間で変化し、電圧指令(V**)は、“0≦V**≦1”の間で変化可能である。第1キャリアCA1と第2キャリアCA2とは位相が180度(π)異なっている。また、第1U相電圧指令Vu1**と第2U相電圧指令Vu2**とも位相が180度(π)異なっている。
【0121】
図35に示すように、第1キャリアCA1及び第2キャリアCA2の振幅は、電圧指令(V**)に許容される振幅の半分である。従って、図35に示す形態におけるキャリアCAもハーフキャリアである。このようなハーフキャリアを用いることにより、電気角の1/2周期(或いは1/2周期以上)である第1期間T1においては、このようなハーフキャリアと電圧指令(V**)とが交差するため、スイッチング制御信号としてパターンの異なる複数のパルスが出力される。周期の残りの期間である第2期間T2においては、ハーフキャリアと電圧指令(V**)とが交差しないため、スイッチング制御信号は非有効状態が継続するように出力される。
【0122】
図34に例示した形態は、2つのハーフキャリアと1つの共通のリファレンスとしての電圧指令(V**)により変調する方式であり、ダブルハーフキャリア・シングルリファレンス方式ということができる。一方、図35に例示した形態は、2つのハーフキャリアと2つの電圧指令(V**)により変調する方式であり、ダブルハーフキャリア・ダブルリファレンス方式ということができる。
【0123】
図8図9図30図33図35に示すように、第1インバータ11及び第2インバータ12が共にスイッチング制御される場合、第1U相電圧指令Vu1**と第2U相電圧指令Vu2**とは、概ね180度異なる位相である。例えば、U相電圧の最大振幅は “(4/3)E”となり、線間電圧の最大振幅は、“2E”となる(図3及び図4のベクトル図も参照)。尚、第1直流電源61と第2直流電源62とは独立しており、第1直流電源61の第1直流電圧E1と、第2直流電源62の第2直流電圧E2とは、異なる値であってもよい。例えば、正確には、U相電圧の最大振幅は、“((2/3)E1)+(2/3)E2”であるが、理解を容易にするために本明細書中では“E1=E2=E”とする。
【0124】
上述したように、相対的に変調率及び回転速度が低く、相対的に低い電力領域である低速度域VRLでは、全ての電力が1つのインバータ10から供給される。この時、一方のインバータ10に対しては、アクティブショートサーキット制御を行うように電圧指令(V**)が与えられ、他方のインバータ10に対しては通常の電圧指令(V**)が与えられる。低速度域VRLに対して変調率及び回転速度が高く、低速度域VRLに対して高い電力領域である中間速度域VRM、高速度域VRH及び超高速度域VRSHでは、2つのインバータ10から同等の電力が供給される。この時、双方のインバータ10に対して、位相が180度(π)異なる同じ電圧指令(V**)が与えられる。
【0125】
ところで、インバータ10をスイッチング制御した場合、交流電流の基本波に重畳される脈動成分が可聴周波数帯域のノイズを発生させる場合がある。2つのインバータ10がそれぞれ異なる制御方式で制御される場合には、それぞれの制御方式に応じた脈動が生じ、可聴周波数帯域のノイズが増加するおそれがある。特に回転電機80の回転速度が低速の場合、脈動成分の周波数(或いはそのサイドバンド周波数)が可聴周波数帯域に含まれる可能性が高くなる。回転電機80の制御方式、つまりインバータ10の制御方式は、高いシステム効率での動作と、可聴ノイズの低減とが両立できるように、動作条件に応じて適切に設定されることが望ましい。
【0126】
例えば、回転電機制御装置1は、回転電機80の制御モードとして、損失低減優先モードと、ノイズ低減優先モードとを切り替え可能に備えていてもよい。例えば、回転電機制御装置1は、ノイズ低減優先モードでは、低速度域VRLにおいて、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10をパルス幅変調によって制御する。また、回転電機制御装置1は、ノイズ低減優先モードでは、第1低速度域VRL1において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を連続パルス幅変調制御により制御し、第2低速度域VRL2において、第1インバータ11及び第2インバータ12の双方のインバータ10を不連続パルス幅変調制御により制御してもよい。
【0127】
損失低減優先モードでは、回転電機80の回転速度が相対的に低い低速度域VRLにおいて1つのインバータ10のみを駆動するため、2つのインバータ10が異なる周波数帯域のノイズを出すことはない。しかし、駆動される1つのインバータ10の出力は大きくなるので、ノイズのエネルギーは高くなる。また、低速度域VRLでは、車両の走行に伴う音(タイヤと路面との接地音などの走行音)も小さいため、駆動される1つのインバータ10から出力されるノイズが可聴周波数帯域のノイズの場合には、ノイズが利用者に聞こえ易くなる可能性がある。
【0128】
例えば、車両の発進時や停止に向けた減速時には、可聴周波数帯域のノイズが利用者に聞こえ易いことを考慮してノイズ低減優先モードが選択され、車両が定常走行する定常運転時には、損失低減優先モードが選択されると好適である。尚、これらのモードは、利用者による操作(設定スイッチ(タッチパネル等からの入力も含む))により、選択されてもよい。
【0129】
ノイズ低減優先モードでは、回転電機80の回転速度が相対的に低い低速度域VRLにおいて、第1インバータ11と第2インバータ12とが同じ制御方式で制御される。また、ステータコイル8に電流を流す2つのインバータ10は、電流の位相がほぼ180度異なる。2つのインバータ10が同じ制御方式で制御された場合には、脈動成分を含めて電流の位相がほぼ180度異なることになる。従って、脈動成分の少なくとも一部を互いに打ち消し合うことができ、可聴周波数帯域のノイズを低減することができる。
【0130】
図38は、比較例として、3相のステータコイル8が中性点で接続された1インバータシステムでの回転電機の制御領域の一例を示している。このインバータは、下記の表4に示すように、例えば、第1領域VR11において連続パルス幅変調制御により制御され、第2領域VR13において不連続パルス幅変調制御により制御され、第3領域VR14において矩形波制御により制御される。
【0131】
【表4】
【0132】
ここで、変調率“Y”は、表2、表3に例示した変調率“X”よりも大きい値であり、連続パルス幅変調(空間ベクトルパルス幅変調)による変調率の理論上の上限値(概ね0.707)に基づき、さらにデッドタイムを考慮して例えば0.5~0.6程度に設定されている。
【0133】
上述したように、本実施形態では、第2領域VR13に相当する領域の低速度側に中間速度域VRMが設定されると共に高速度側に高速度域VRHが設定され、特徴的な特別パルス幅変調制御が実行される。特別パルス幅変調制御により、高い出力が要求される動作領域においてインバータ10の損失が低減され、また、スイッチングによる高調波電流も減少して回転電機80の損失(鉄損)も低減される。つまり、特別パルス幅変調制御を実行することによって、システム損失を低減することができる。また、第1領域VR11に相当する領域に低速度域VRLを設定することによって、要求出力の低い動作領域においてもシステム損失を低減することができる。また、低速度域VR1では、上述したように、適宜、損失低減優先モードとノイズ低減優先モードとが切り替えられてもよい。損失低減優先モードではシステム全体の損失を低減し、ノイズ低減優先モードでは損失の低減と共にノイズを低減することができる。
【0134】
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明した回転電機制御装置(1)の概要について簡単に説明する。
【0135】
1つの態様として、互いに独立した複数相のオープン巻線(8)を有する回転電機(80)を、第1インバータ(11)及び第2インバータ(12)を介して駆動制御する回転電機制御装置(1)は、前記第1インバータ(11)が、複数相の前記オープン巻線(8)の一端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、前記第2インバータ(12)が、複数相の前記オープン巻線(8)の他端側に接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換し、前記第1インバータ(11)と前記第2インバータ(12)とのそれぞれを、スイッチングパターンが異なる複数の制御方式により制御可能であると共に、互いに独立した前記制御方式で制御可能であり、前記制御方式には、電気角の一周期においてパターンの異なる複数のパルスが出力されるパルス幅変調制御と、電気角の一周期において1つのパルスが出力される矩形波制御とが含まれ、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の一方のインバータ(10)を前記矩形波制御により制御し、他方の前記インバータ(10)を前記パルス幅変調制御の1つである特別パルス幅変調制御により制御する対象制御を実行し、前記特別パルス幅変調制御は、前記オープン巻線(8)に目標電圧を生じさせる場合の前記パルス幅変調制御によるスイッチングパターンと、前記矩形波制御によるスイッチングパターンとの差に基づいたスイッチングパターンとなる前記制御方式である。
【0136】
この構成によれば、2つのインバータ(10)の内、一方のインバータ(10)を矩形波制御することにより、当該一方のインバータ(10)のスイッチング回数が削減され、スイッチング損失を低減することができる。また、矩形波制御されない側の他方のインバータ(10)は、特別パルス幅変調制御により制御される。特別パルス幅変調制御では、オープン巻線(8)に目標電圧を生じさせる場合のパルス幅変調制御によるスイッチングパターンと、矩形波制御によるスイッチングパターンとの差に基づいたスイッチングパターンにより、当該他方のインバータ(10)が制御される。従って、一方のインバータ(10)を矩形波制御により制御しても、他方のインバータのパルス幅変調制御が合わさることによって円滑に回転電機(80)を駆動することができる。一般的に、矩形波制御が適用される相対的に高回転の動作領域において、システム損失を低減させると共に、回転電機(80)を円滑に制御することができる。即ち、本構成によれば、オープン巻線の両端にそれぞれ備えられた2つのインバータを適切に制御することができる。
【0137】
ここで、前記オープン巻線(8)に目標電圧を生じさせる場合に、前記矩形波制御により制御される一方の前記インバータ(10)のスイッチングパターンを生成させる電圧指令を矩形波用電圧指令とし、前記矩形波用電圧指令とは位相が180度異なる電圧指令であって、当該目標電圧を生じさせる場合に前記パルス幅変調制御により制御される他方の前記インバータ(10)のスイッチングパターンを生成させる電圧指令をパルス幅変調用電圧指令とし、前記矩形波用電圧指令と前記パルス幅変調用電圧指令との差分を2つの前記インバータ(10)全体の電圧指令であるシステム電圧指令とし、振幅中心を一致させた状態での、前記システム電圧指令と前記矩形波用電圧指令との差分を特別パルス幅変調用電圧指令として、前記特別パルス幅変調制御は、前記特別パルス幅変調用電圧指令に基づいてスイッチングパターンが生成される前記制御方式であると好適である。
【0138】
この構成によれば、矩形波制御とパルス幅変調制御とを組み合わせて円滑に回転電機(80)を駆動する場合に、パルス幅変調制御における電圧指令を最適化することができる。発明者らによる実験やシミュレーションによれば、単純に矩形波制御とパルス幅変調制御とを組み合わせた場合には、オープン巻線(8)を流れる電流などにリップルが生じることが確認されている。しかし、特別パルス幅変調制御によれば、そのようなリップルが抑制されることが確認されている。特別パルス幅変調制御においてスイッチングパターンを生成するための電圧指令は、矩形波制御とパルス幅変調制御とを組み合わせた場合の全体の電圧指令であるシステム電圧指令に基づき、矩形波制御のための矩形波用電圧指令との差分として設定されている。従って、矩形波制御とパルス幅変調制御とを組み合わせた場合と同様にオープン巻線に目標電圧を生じさせつつ、上述したようなリップルも低減することができる。
【0139】
また、前記回転電機(80)の制御領域(R)として、低速度域(VRL)と、同じトルク(T)における前記回転電機(80)の回転速度が前記低速度域(VRL)よりも高い高速度域(VRH)とが設定され、回転電機制御装置(1)が、前記高速度域(VRH)において、前記対象制御を実行すると好適である。
【0140】
一般的に、このような高速度域(VRH)では、変調率の高い変調方式のパルス幅変調を用いた制御方式によりインバータ(10)が制御される。対象制御では、2つのインバータ(10)の内の一方のインバータ(10)が矩形波制御されるため、当該一方のインバータ(10)のスイッチング損失を低減させることができる。本構成によれば、インバータ(10)に比較的高い出力が求められる高速度域(VRH)におけるシステム効率を向上させることができる。
【0141】
また、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)が、それぞれ交流1相分のアーム(3A)が上段側スイッチング素子(3H)と下段側スイッチング素子(3L)との直列回路により構成され、前記パルス幅変調制御には、前記制御方式として、複数相の前記アーム(3A)の全てについて連続的にパルス幅変調を行う連続パルス幅変調制御と、複数相の一部の前記アーム(3A)についてスイッチング素子(3)をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う不連続パルス幅変調制御とが含まれ、前記高速度域(VRH)内には、第1高速度域(VRH1)と、同じトルク(T)における前記回転電機(80)の回転速度が前記第1高速度域(VRH1)よりも高い第2高速度域(VRH2)とが設定され、前記第1高速度域(VRH1)では、回転電機制御装置(1)が、前記対象制御として、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の一方の前記インバータ(10)を前記矩形波制御により制御し、他方の前記インバータ(12)を前記連続パルス幅変調制御に基づく前記特別パルス幅変調制御である特別連続パルス幅変調により制御する第1対象制御を実行し、前記第2高速度域(VRH2)では、回転電機制御装置(1)が、前記対象制御として、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の一方の前記インバータ(10)を前記矩形波制御により制御し、他方の前記インバータ(10)を前記不連続パルス幅変調制御に基づく前記特別パルス幅変調制御である特別不連続パルス幅変調により制御する第2対象制御を実行すると好適である。
【0142】
不連続パルス幅変調制御による最大変調率は、連続パルス幅変調制御の最大変調率よりも大きい。第2高速度域(VRH2)は、同じトルク(T)において第1高速度域(VRH1)よりも回転電機(80)の回転速度が高い制御領域(R)であり、システム効率の観点からは第2高速度域(VRH2)では第1高速度域(VRH1)よりも高い変調率で変調されることが好ましい。第1高速度域(VRH1)において連続パルス幅変調に基づく特別連続パルス幅変調制御を実行し、第2高速度域(VRH2)において不連続パルス幅変調に基づく特別連続パルス幅変調制御を実行することによって、高速度域(VRH)の全体に亘って適切に回転電機(80)を駆動することができる。
【0143】
また、前記回転電機(80)の制御領域(R)として、低速度域(VRL)と、同じトルク(T)における前記回転電機(80)の回転速度が前記低速度域(VRL)よりも高い高速度域(VRH)とが設定され、回転電機制御装置(1)が、前記高速度域(VRH)において、前記対象制御を実行する前記低速度域では、前記第1インバータ及び前記第2インバータの少なくとも一方のインバータが、前記パルス幅変調制御により制御される場合、前記高速度域(VRH)では、前記パルス幅変調制御における変調周波数(FCA)よりも高い変調周波数(FCA)により、前記特別パルス幅変調制御が実行されると好適である。
【0144】
発明者らによる検討によれば、特別パルス幅変調制御における電圧指令は、電気角の半周期ごとに電圧指令の値が急激に増加、又は減少する大きな変曲点を有することが判った。そして、発明者らによる実験やシミュレーションによれば、この変曲点の近傍の位相において、オープン巻線(8)を流れる電流などにリップルが生じることが確認されている。これは、変調周波数(FCA)が、変曲点付近の位相において電圧指令の値の急激な増加、又は減少に対応できるような分解能を有していないことに起因している。本構成によれば、パルス幅変調制御における変調周波数(FCA)よりも高い変調周波数(FCA)により、特別パルス幅変調制御が実行される。従って、変調周波数(FCA)が、変曲点付近の位相において電圧指令の値の急激な増加、又は減少に対応できるようになり、上述したようなリップルを低減させることができる。
【0145】
また、同じトルク(T)における前記回転電機(80)の回転速度が前記高速度域(VRH)よりも高い超高速度域(VRSH)がさらに設定され、前記超高速度域では、回転電機制御装置(1)が、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方の前記インバータ(10)を前記矩形波制御により制御すると好適である。
【0146】
高速度域(VRH)では、一方のインバータ(10)が矩形波制御により制御され、他方のインバータ(10)が特別パルス幅変調により制御されている。当該他方のインバータ(10)の制御方式を矩形波制御に移行させることにより、高速度域(VRH)における対象制御から超高速度域(VRSH)における矩形波制御へと円滑に制御方式を変更することができる。即ち、本構成によれば、高速度域VRHと超高速度域VRSHとに亘って適切に回転電機80を駆動することができる。
【0147】
また、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)が、それぞれ交流1相分のアーム(3A)が上段側スイッチング素子(3H)と下段側スイッチング素子(3L)との直列回路により構成され、前記制御方式には、複数相全ての前記アーム(3A)の前記上段側スイッチング素子(3H)をオン状態とする又は複数相全ての前記アーム(3A)の前記下段側スイッチング素子(3L)をオン状態とするアクティブショートサーキット制御がさらに含まれ、前記低速度域(VRL)では、回転電機制御装置(1)が、前記第1インバータ(10)及び前記第2インバータ(12)の一方の前記インバータ(10)を前記アクティブショートサーキット制御により制御し、他方の前記インバータ(10)を前記パルス幅変調制御により制御する対象低速度域制御を実行すると好適である。
【0148】
対象低速度域制御の実行により、実質的に2つのインバータ(10)の内、1つのインバータ(10)のみで回転電機(80)を駆動することになる。一方のインバータ(10)がスイッチング動作をしないので、システム全体の損失を抑制しつつ回転電機(80)を駆動することができる。
【0149】
また、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)が、それぞれ交流1相分のアーム(3A)が上段側スイッチング素子(3H)と下段側スイッチング素子(3L)との直列回路により構成され、前記パルス幅変調制御には、前記制御方式として、複数相の前記アーム(3A)の全てについて連続的にパルス幅変調を行う連続パルス幅変調制御と、複数相の一部の前記アーム(3A)についてスイッチング素子(3)をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う不連続パルス幅変調制御とが含まれ、前記低速度域(VRL)内には、第1低速度域(VRL1)と、同じトルク(T)における前記回転電機(80)の回転速度が前記第1低速度域(VRL1)よりも高い第2低速度域(VRL2)とが設定され、前記第1低速度域(VRL1)では、回転電機制御装置(1)が、前記対象低速度域制御として、前記第1インバータ(11)及び第2インバータ(12)の一方の前記インバータ(10)を前記アクティブショートサーキット制御により制御し、他方の前記インバータ(10)を前記連続パルス幅変調制御により制御する第1対象低速度域制御を実行し、前記第2低速度域(VRL2)では、回転電機制御装置(1)が、前記対象低速度域制御として、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の一方の前記インバータ(10)を前記アクティブショートサーキット制御により制御し、他方の前記インバータ(10)を前記不連続パルス幅変調制御により制御する第2対象低速度域制御を実行すると好適である。
【0150】
不連続パルス幅変調制御による最大変調率は、連続パルス幅変調制御の最大変調率よりも大きい。第2低速度域(VRL2)は、同じトルク(T)において第1低速度域(VRL1)よりも回転電機(80)の回転速度が高い制御領域(R)であり、システム効率の観点からは第2低速度域(VRL2)では第1低速度域(VRL1)よりも高い変調率で変調されることが好ましい。第1低速度域(VRL1)において連続パルス幅変調制御を用いた第1対象低速度域制御が実行され、第2低速度域(VRL2)において不連続パルス幅変調を用いた第2対象低速度域制御が実行されることによって、低速度域(VRL)の全体に亘って適切に回転電機(80)を駆動することができる。
【0151】
また、回転電機制御装置(1)は、前記低速度域(VRL)において、前記第1インバータ(10)及び前記第2インバータ(12)の一方の前記インバータ(10)を前記アクティブショートサーキット制御により制御し、他方の前記インバータ(10)を前記パルス幅変調制御により制御する対象低速度域制御を実行する場合、前記第1インバータ(11)を制御する前記制御方式と前記第2インバータ(12)を制御する前記制御方式とを、予め規定された条件に従って交互に入れ替えると好適である。
【0152】
制御方式を入れ替えることによって、第1インバータ(11)及び第2インバータ(12)の何れか一方だけが消耗することが抑制される。また、第1インバータ(11)及び第2インバータ(12)が、それぞれ独立した直流電源(6)に接続される場合には、第1インバータ(11)に接続される直流電源(61)及び第2インバータ(12)に接続される直流電源(62)の何れか一方だけの電力消費量が増加することを抑制することができる。ここで、規定された条件とは、例えば、一定の時間や、直流電源(6)の電力消費量であると好適である。
【0153】
また、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)が、それぞれ交流1相分のアーム(3A)が上段側スイッチング素子(3H)と下段側スイッチング素子(3L)との直列回路により構成され、前記パルス幅変調制御には、前記制御方式として、複数相の一部の前記アーム(3A)についてスイッチング素子(3)をオン状態又はオフ状態に固定する期間を含んでパルス幅変調を行う不連続パルス幅変調制御が含まれ、前記制御領域(R)として、同じトルク(T)における前記回転電機(80)の回転速度が前記低速度域(VRL)よりも高く前記高速度域(VRH)よりも低い中間速度域(VRM)がさらに設定され、前記中間速度域(VRM)では、回転電機制御装置(1)が、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方の前記インバータ(10)を前記不連続パルス幅変調制御により制御すると好適である。
【0154】
この構成によれば、アクティブショートサーキット制御及びパルス幅変調制御を用いた低速度対象制御で制御される低速度域(VRL)と、矩形波制御及び特別パルス幅変調制御を用い対象制御で制御される高速度域(VRH)との間の制御領域(R)において、不連続パルス幅変調制御により双方のインバータ(10)が制御される。これにより、低速度域(VRL)から中間速度域(VRM)を経て高速度域(VRH)に至る広い制御領域に亘って円滑に回転電機(80)を駆動することができる。
【0155】
また、前記制御方式には、電気角の1/2周期である第1期間(T1)においてパターンの異なる複数のパルスが出力され、残りの1/2周期である第2期間(T2)において非有効状態が継続するように制御される混合パルス幅変調制御が含まれ、回転電機制御装置(1)が、前記中間速度域(VRM)において、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の双方を、前記不連続パルス幅変調制御に代えて前記混合パルス幅変調制御により制御すると好適である。
【0156】
混合パルス幅変調制御は、電気角の1周期の間におおよそ半周期ずつ、パルス幅変調される期間と、無変調(固定状態)の期間とを組み合わせた制御方式である。つまり、インバータ(10)は駆動時間のおおよそ1/2の期間において、スイッチング動作を行わないため、スイッチング損失が低減され、システム損失が低減される。
【0157】
また、それぞれの前記制御領域(R)の境界は、前記回転電機(80)のトルクに応じた前記回転電機(80)の回転速度と、直流電圧に対する複数相の交流電圧の線間電圧の実効値の割合と、の少なくとも一方に応じて設定されていると好適である。
【0158】
回転電機(80)の動作条件は、しばしば回転速度とトルクとの関係で定義される。回転電機制御装置(1)が、1つのパラメータである回転速度に基づいて、第1インバータ(11)及び第2インバータ(12)を制御する制御方式を変更すると、回転電機(80)の動作条件に応じて高い効率で回転電機(80)を駆動制御することができる。また、例えば、回転電機(80)に高い出力(速い回転速度や高いトルク)が要求される場合、電圧型のインバータでは、直流電圧を高くすることや、直流電圧が交流電圧に変換される割合を高くすることで当該要求が実現される。直流電圧が一定の場合には、直流電圧が交流電圧に変換される割合を高くすることで当該要求を実現することができる。この割合は、直流電力に対する3相交流電力の実効値の割合(電圧型のインバータの場合には、直流電圧に対する3相交流電圧の線間電圧の実効値の割合と等価)として示すことができる。インバータ(10)を制御する制御方式には、この割合が低いものから高いものまで種々の方式が存在する。回転電機(80)に対する要求に応じて定まる直流電圧に対する複数相の交流電圧の線間電圧の実効値の割合に基づいて、制御方式を変更することによって、回転電機(80)の動作条件に応じて高い効率で回転電機(80)を駆動制御することができる。
【0159】
また、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の内、一方の前記インバータ(10)は、第1スイッチング素子(31)を用いて構成され、他方の前記インバータ(10)は、オフ状態とオン状態との間での遷移時のスイッチング損失が前記第1スイッチング素子(31)よりも小さい第2スイッチング素子(32)を用いて構成され、前記特別パルス幅変調制御により制御される前記インバータ(10)は、前記第2スイッチング素子(32)を用いて構成されていると好適である。
【0160】
矩形波制御により制御されるインバータ(10)は、特別パルス幅変調制御により制御されるインバータ(10)に比べてスイッチング回数が少なくなる。本構成によれば、相対的にスイッチング損失が小さい第2スイッチング素子(32)を用いて構成されたインバータ(10)により多くスイッチングさせることによって、高い出力が要求される高速度域(VRH)においてシステム全体の損失を抑制することができる。
【0161】
また、前記第1インバータ(10)及び前記第2インバータ(12)の一方の前記インバータ(10)が前記アクティブショートサーキット制御により制御され、他方の前記インバータ(10)が前記パルス幅変調制御により制御される対象低速度域制御が実行される場合、前記第1インバータ(11)及び前記第2インバータ(12)の内、一方の前記インバータ(10)が、第1スイッチング素子(31)を用いて構成され、他方の前記インバータ(10)が、オフ状態とオン状態との間での遷移時のスイッチング損失が前記第1スイッチング素子(31)よりも小さい第2スイッチング素子(32)を用いて構成され、前記パルス幅変調制御により制御される前記インバータが、前記第2スイッチング素子を用いて構成されていると好適である。
【0162】
尚、低速度域VRLでは、第1インバータ11及び第2インバータ12の一方のインバータ10(ここでは第1インバータ11)をアクティブショートサーキット制御により制御し、他方のインバータ10(ここでは第2インバータ12)をパルス幅変調制御により制御する対象低速度域制御が実行される。つまり、実質的に2つのインバータ10の内、1つのインバータ10(例えば第2インバータ12)のみで回転電機80を駆動することになる。一方のインバータ10がスイッチング動作をしないので、システム全体の損失を抑制して回転電機80を駆動することができる。
【0163】
また、前記第1スイッチング素子(31)は、Si-IGBT又はSi-MOSFETであり、前記第2スイッチング素子(32)は、SiC-MOSFET、又はGaN-MOSFETであると好適である。
【0164】
例えば、炭化ケイ素(SiC)は、絶縁破壊電界強度がケイ素(Si)よりも高いことより、高耐圧パワーデバイスを構成する場合に、高い不純物濃度且つ薄い膜厚でドリフト層を形成することができる。高耐圧パワーデバイスの抵抗成分のほとんどはドリフト層の抵抗となるので、SiCデバイスは、Siデバイスに比べて単位面積当たりのオン抵抗が低くなる。つまり、SiCデバイスは、Siデバイスに比べてスイッチング損失を小さくすることができる。窒化ガリウム(GaN)を用いたデバイスも同様である。従って、第1スイッチング素子(31)がSiデバイスの場合に、SiCデバイスやGaNデバイスを第2スイッチング素子(32)とすることで、第1スイッチング素子(31)に比べてスイッチング損失が相対的に小さい第2スイッチング素子(32)を用いてインバータ(10)を構成することができる。
【符号の説明】
【0165】
1 :回転電機制御装置
3 :スイッチング素子
3A :アーム
3H :上段側スイッチング素子
3L :下段側スイッチング素子
8 :ステータコイル(オープン巻線)
10 :インバータ
11 :第1インバータ
12 :第2インバータ
80 :回転電機
R :制御領域
T :トルク
T1 :第1期間
T2 :第2期間
VRH :高速度域
VRH1 :第1高速度域
VRH2 :第2高速度域
VRL :低速度域
VRL1 :第1低速度域
VRL2 :第2低速度域
VRM :中間速度域
VRSH :超高速度域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38