(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】電解液、リチウム硫黄二次電池及びモジュール
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0569 20100101AFI20221104BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221104BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20221104BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20221104BHJP
H01M 4/60 20060101ALI20221104BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20221104BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/052
H01M4/38 Z
H01M4/58
H01M4/60
H01M10/0568
(21)【出願番号】P 2021554863
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2020039264
(87)【国際公開番号】W WO2021090666
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2019200473
(32)【優先日】2019-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】石川 正司
(72)【発明者】
【氏名】岸田 海平
(72)【発明者】
【氏名】日高 知哉
(72)【発明者】
【氏名】山崎 穣輝
(72)【発明者】
【氏名】桑嶋 佳子
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-503964(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105977534(CN,A)
【文献】特開2005-108724(JP,A)
【文献】特開2002-75447(JP,A)
【文献】特開2002-270233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0569
H01M 10/052
H01M 4/38
H01M 4/58
H01M 4/60
H01M 10/0568
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単体硫黄、多硫化リチウム(Li
2S
n:1<n<8)、及び有機硫黄化合物からなる群から選択される少なくとも一つを含む硫黄系電極活物質を含有する正極、リチウムイオンを吸蔵放出する材料を含む負極を有するリチウム硫黄二次電池に使用する電解液であって、
前記電解液は、非水電解質及び溶媒を含有するものであり、
前記溶媒は、10~100重量%の割合でビニレンカーボネートを含有するものであることを特徴とする電解液。
【請求項2】
前記溶媒は、さらに、下記一般式(1)で表されるフッ素化カーボネート及び/又は一般式(2)で表されるエーテルを含有する請求項1記載の電解液。
【化1】
(式中、R
1は、フッ素基又はフッ素基を含み、エーテル結合及び/又は不飽和結合を有していてもよい炭素数1~4のアルキル基。)
R
2-(OCHR
3CH
2)x-OR
3 (2)
(式中、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、炭素数1~9のフッ素置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいシクロヘキシル基から成る群から選択され、但しこれらは共に環を形成してもよく、R
3は、それぞれ独立して、H又はCH
3を表し、xは0~10を表す。)
【請求項3】
上記一般式(1)で表されるフッ素化カーボネートは、フルオロエチレンカーボネートである請求項2記載の電解液。
【請求項4】
非水電解質は、LiPF
6、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)及びリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド (LiFSI)からなる群より選択される少なくとも1の化合物を含む請求項1,2又は3記載の電解液。
【請求項5】
単体硫黄、多硫化リチウム(Li
2S
n:1<n<8)、及び有機硫黄化合物からなる群から選択される少なくとも一つを含む硫黄系電極活物質を含有する正極、リチウムイオンを吸蔵放出する材料を含む負極を有するリチウム硫黄二次電池であって、請求項1,2,3又は4に記載した電解液を使用するものであることを特徴とする単体硫黄、多硫化リチウム(Li
2S
n:1<n<8)、及び有機硫黄化合物からなる群から選択される少なくとも一つを含む硫黄系電極活物質を含有する正極、リチウムイオンを吸蔵放出する材料を含む負極を有するリチウム硫黄二次電池。
【請求項6】
請求項5記載のリチウム硫黄二次電池を備えることを特徴とするモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電解液、リチウム硫黄二次電池及びモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
高容量の二次電池としては、リチウムイオン二次電池が広く普及しており、更に高容量の二次電池としてリチウム-硫黄二次電池が検討されている。これらの各種電池においては、電解液の性能が電池の性能において大きな影響を与えるものである。
【0003】
特許文献1には、比較例としてビニレンカーボネートを含有する非水電解質を使用したリチウム硫黄電池が開示されている。
特許文献2には、電解液に配合できる化合物の例として、ビニレンカーボネートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-108724号公報
【文献】特開2012-238448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、耐久性に優れたリチウム硫黄二次電池を得ることができる電解液を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、単体硫黄、多硫化リチウム(Li2Sn:1<n<8)、及び有機硫黄化合物からなる群から選択される少なくとも一つを含む硫黄系電極活物質を含有する正極、リチウムイオンを吸蔵放出する材料を含む負極を有するリチウム硫黄二次電池に使用する電解液であって、
上記電解液は、非水電解質及び溶媒を含有するものであり、
上記溶媒は、10~100重量%の割合でビニレンカーボネートを含有するものであることを特徴とする電解液である。
【0007】
上記溶媒は、さらに、下記一般式(1)で表されるフッ素化カーボネート及び/又は一般式(2)で表されるエーテルを含有することが好ましい。
【0008】
【化1】
(式中、R
1は、フッ素基又はフッ素基を含み、エーテル結合及び/又は不飽和結合を有していてもよい炭素数1~4のアルキル基。)
R
2-(OCHR
3CH
2)
x-OR
3 (2)
(式中、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、炭素数1~9のフッ素置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいシクロヘキシル基から成る群から選択され、但しこれらは共に環を形成してもよく、R
3は、それぞれ独立して、H又はCH
3を表し、xは0~10を表す。)
【0009】
上記一般式(1)で表されるフッ素化カーボネートは、フルオロエチレンカーボネートであることが好ましい。
上記非水電解質は、LiPF6、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)及びはリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド (LiFSI)からなる群より選択される少なくとも1の化合物を含むことが好ましい。
【0010】
本開示は、単体硫黄、多硫化リチウム(Li2Sn:1<n<8)、及び有機硫黄化合物からなる群から選択される少なくとも一つを含む硫黄系電極活物質を含有する正極、リチウムイオンを吸蔵放出する材料を含む負極を有するリチウム硫黄二次電池であって、上述した電解液を使用するものであることを特徴とする単体硫黄、多硫化リチウム(Li2Sn:1<n<8)、及び有機硫黄化合物からなる群から選択される少なくとも一つを含む硫黄系電極活物質を含有する正極、リチウムイオンを吸蔵放出する材料を含む負極を有するリチウム硫黄二次電池でもある。
本開示は、上述したリチウム硫黄二次電池を備えることを特徴とするモジュールでもある。
【発明の効果】
【0011】
本開示の電解液を使用したリチウム硫黄二次電池は、耐久性、より具体的には長期使用時の容量維持率に優れた性能を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示を詳細に説明する。
本開示は、単体硫黄、多硫化リチウム(Li2Sn:1<n<8)、及び有機硫黄化合物からなる群から選択される少なくとも一つを含む硫黄系電極活物質を含有する正極、リチウムイオンを吸蔵放出する材料を含む負極を有するリチウム硫黄二次電池に使用する電解液である。すなわち、近年研究開発が進められているリチウム硫黄二次電池の性能を向上させることができる電解液を提供するものである。
具体的には電解液における溶媒が、10~100重量%の割合でビニレンカーボネートを含有することを特徴とするものである。
なお、ビニレンカーボネートは、下記一般式(3)で表される化合物である。
【0013】
【0014】
リチウム-硫黄二次電池においては、充放電における電極反応により発生するリチウムポリスルフィド(Li2Sn)が電解液に溶出してしまうことによって、充放電の繰り返しによって放電容量が低下して、電池寿命が短くなるとされていた。本開示は、ビニレンカーボネートを特定の割合で含有する電解液を使用することによって、このような課題を解決できることを見出すことによって完成されたものである。
【0015】
本開示においては、電解液における溶媒の全量に対して10~100重量%の割合でビニレンカーボネートが含まれる点も重要な特徴である。すなわち、溶媒10%未満という少量であると、耐久性の向上という効果が十分に得られないという点で好ましいものではない。
【0016】
本開示の効果が生じる作用は明らかではないが、ビニレンカーボネートによって、硫黄を含む正極上に被膜が形成され、これによってリチウムポリスルフィドの溶出が抑制されることによるものであると推測される。
【0017】
ビニレンカーボネートは、硫黄系電極活物質と反応する化合物であることから、従来は、このような化合物をリチウム硫黄電池の電解液として使用する試みはなされていなかった。実際、特許文献2においては、比較例としてビニレンカーボネートをごく少量配合する電解液を開示しており、これによって電池性能が悪くなることが記載されている。
【0018】
しかしながら、実際にビニレンカーボネートを電解液の溶媒として所定量配合させると、電池性能を向上させることが明らかとなった。すなわち、ビニレンカーボネートが硫黄系電極活物質と反応すること乃至は初回の充電過程で硫黄正極上に被膜を形成することによって、むしろリチウムポリスルフィドの溶出が抑制され、電池としての性能が向上していると推測される。このような結果は、当業者の予想外の事実であり、例えば、特許文献2の記載から当業者が容易に知ることができた事項ではない。
【0019】
ここで、「溶媒」とは、電解液に含まれる液体成分のうち、揮発性を有する化合物を意味する。リチウム硫黄電池の電解液においては、非水電解質が含まれる。このような非水電解質は、揮発性を有さない成分である。本開示における「溶媒」とは、電解液において、これらの非水電解質と併用して使用されるものであり、各種カーボネート化合物、エーテル化合物、エステル化合物などの、揮発性の液体化合物を意味するものである。また、これらのうち2種以上を併用して使用するものであってもよい。
【0020】
本開示のリチウム硫黄二次電池においては、ビニレンカーボネートは溶媒全重量に対して、10~100重量%の割合で含まれるものである。ビニレンカーボネートの量が、上記範囲に比べて多すぎても少なすぎても、長期使用時の容量維持率を良好なものとすることができない。
【0021】
上記ビニレンカーボネート配合量の下限は、25重量%であることがさらに好ましい。上記ビニレンカーボネート配合量の上限は、75重量%であることがより好ましい。このような範囲で上記ビニレンカーボネートを配合することで、最も好適に本開示の目的を達成することができる。
なお、上記電解液は、非水電解液である。
【0022】
本開示のリチウム硫黄二次電池において使用される電解液は、ビニレンカーボネート以外の溶媒(以下これを「その他の溶媒」と記す)を含有するものであってもよい。
上記その他の溶媒としては、特に限定されるものではなく、電池分野において、電解液中の溶媒として使用することができる各種溶媒を使用することができる。具体的には、フッ素化飽和環状カーボネート、フッ素化鎖状カーボネート、エーテル化合物、フッ素化エーテル、フッ素化エステル等を挙げることができる。これらのなかでも、フッ素化飽和環状カーボネート、エーテル化合物、フッ素化エーテルを併用することが好ましい。これらの化合物は、電池の出力向上という点で好ましいものである。
【0023】
上述した溶媒のなかでも、下記一般式(1)で表されるフッ素化カーボネート又は一般式(2)で表されるエーテルを含有することが特に好ましい。
【0024】
【化3】
(式中、R
1は、フッ素基又はフッ素基を含み、エーテル結合及び/又は不飽和結合を有していてもよい炭素数1~4のアルキル基。)
R
2-(OCHR
3CH
2)x-OR
3 (2)
(式中、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、炭素数1~9のフッ素置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいシクロヘキシル基から成る群から選択され、但しこれらは共に環を形成してもよく、R
3は、それぞれ独立して、H又はCH
3を表し、xは0~10を表す。)
以下、これらのその他の溶媒について詳述する。
【0025】
(フッ素化飽和環状カーボネート)
上記フッ素化飽和環状カーボネートとしては、式(4):
【0026】
【0027】
(式中、R21~R24は、同じか又は異なり、それぞれ-H、-CH3、-F、エーテル結合を有してもよいフッ素化アルキル基、又は、エーテル結合を有してもよいフッ素化アルコキシ基を表す。ただし、R21~R24の少なくとも1つは、-F、エーテル結合を有してもよいフッ素化アルキル基、又は、エーテル結合を有してもよいフッ素化アルコキシ基である。)で示されるものが好ましい。
【0028】
上記フッ素化アルキル基としては、炭素数が1~10のものが好ましく、炭素数が1~6のものがより好ましく、炭素数が1~4のものが更に好ましい。
上記フッ素化アルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状であってよい。
上記フッ素化アルコキシ基としては、炭素数が1~10のものが好ましく、炭素数が1~6のものがより好ましく、炭素数が1~4のものが更に好ましい。
上記フッ素化アルコキシ基は、直鎖状又は分岐鎖状であってよい。
【0029】
R21~R24としては、同じか又は異なり、-H、-CH3、-F、-CF3、-C4F9、-CHF2、-CH2F、-CH2CF2CF3、-CH2-CF(CF3)2、-CH2-O-CH2CHF2CF2H、-CH2CF3、及び、-CF2CF3からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
この場合、R21~R24の少なくとも1つは、-F、-CF3、-C4F9、-CHF2、-CH2F、-CH2CF2CF3、-CH2-CF(CF3)2、-CH2-O-CH2CHF2F2H、-CH2CF3、及び、-CF2CF3からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0030】
上記フッ素化飽和環状カーボネートとしては、次の化合物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0031】
【0032】
本開示において、その他の溶媒は、環状飽和カーボネートのなかでも、
【0033】
【化6】
(式中、R
1は、フッ素基又はフッ素基を含み、エーテル結合及び/又は不飽和結合を有していてもよい炭素数1~4のアルキル基。)
の一般式で表される化合物がより好ましい。上記化合物は、電池の出力向上という点で特に好ましいものである。さらには、
【0034】
【化7】
の一般式で表されるフルオロエチレンカーボネートを使用することが最も好ましい。
【0035】
(フッ素化鎖状カーボネート)
上記フッ素化鎖状カーボネートとしては、下記一般式:
【0036】
【0037】
(式中、R31及びR32は、同じか又は異なり、エーテル結合を有してもよく、フッ素原子を有してもよいアルキル基を表す。ただし、R31及びR32のいずれか一方は、フッ素原子を有する。)で示されるものが好ましい。
【0038】
上記アルキル基としては、炭素数が1~10のものが好ましく、炭素数が1~6のものがより好ましく、炭素数が1~4のものが更に好ましい。
上記アルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状であってよい。
【0039】
R31及びR32としては、同じか又は異なり、-CH3、-CF3、-CHF2、-CH2F、-C2H5、-CH2CF3、-CH2CHF2、及び、-CH2CF2CF2Hからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
この場合、R31及びR32の少なくとも一方は、-CF3、-CHF2、-CH2F、-CH2CHF2、-CH2CF3、及び、-CH2CF2CF2Hからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0040】
上記フッ素化鎖状カーボネートとしては、次の化合物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0041】
【0042】
(フッ素化エステル)
上記フッ素化エステルとしては、下記一般式:
【0043】
【0044】
(式中、R41及びR42は、同じか又は異なり、エーテル結合を有してもよく、フッ素原子を有してもよいアルキル基を表し、お互いに結合して環を形成してもよい。ただし、R41及びR42のいずれか一方は、フッ素原子を有する。)で示されるものが好ましい。
【0045】
上記アルキル基としては、炭素数が1~10のものが好ましく、炭素数が1~6のものがより好ましく、炭素数が1~4のものが更に好ましい。
上記アルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状であってよい。
【0046】
R41及びR42としては、同じか又は異なり、-CH3、-C2H5、-CHF2、-CH2F、-CH(CF3)2、-CHFCF3、-CF3、及び、-CH2CF3からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
この場合、R41及びR42の少なくとも一方は、-CHF2、-CH(CF3)2、-CHFCF3、-CF3、及び、-CH2CF3からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0047】
R41及びR42がお互いに結合して環を形成するとは、R41及びR42が、R41及びR42のそれぞれが結合する炭素原子及び酸素原子と一緒になって環を形成することを意味し、R41及びR42はフッ素化アルキレン基として環の一部を構成する。R41及びR42がお互いに結合して環を形成する場合、R41及びR42としては、-CH2CH2CH(CH2CF3)-、-CH(CF3)CH2CH2-、-CHFCH2CH2-、-CH2CH2CHF-、及び、-CH2CH2CH(CF3)-からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0048】
上記フッ素化エステルとしては、次の化合物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0049】
【0050】
(エーテル化合物)
エーテル化合物としては、下記一般式(2)で表される化合物を好適に使用することができる。
R2-(OCHR3CH2)x-OR3 (2)
(式中、R2及びR3は、それぞれ独立して、炭素数1~9のフッ素置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいシクロヘキシル基から成る群から選択され、但しこれらは共に環を形成してもよく、R3は、それぞれ独立して、H又はCH3を表し、xは0~10を表す。)
【0051】
上述した一般式(2)で表される化合物は、非フッ素化エーテル化合物とフッ素化エーテル化合物に分類することができる。以下、上記エーテル化合物を、非フッ素化エーテル化合物とフッ素化エーテル化合物に分けてそれぞれ詳述する。
【0052】
(非フッ素化エーテル化合物)
非フッ素化エーテル化合物としては下記一般式で表される化合物を好適に使用することができる。
R54-(OCHR53CH2)x-OR55
式中、R54及びR55は、それぞれ独立して、炭素数1~9のフッ素を有していないアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基、及びハロゲン原子で置換されていてもよいシクロヘキシル基から成る群から選択され、但しこれらは共に環を形成してもよく、R53は、それぞれ独立して、H又はCH3を表し、xは0~10を表す。
【0053】
上記式中のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基等が挙げられる。アルキル基の炭素数が9を超えると、エーテル化合物の極性が弱くなるため、アルカリ金属塩の溶解性が低下する傾向がある。そのため、アルキル基の炭素数は少ない方が好ましく、好ましくはメチル基及びエチル基であり、最も好ましくはメチル基である。
【0054】
ハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基としては、特に制限はないが、2-クロロフェニル基、3-クロロフェニル基、4-クロロフェニル基、2,4-ジクロロフェニル基、2-ブロモフェニル基、3-ブロモフェニル基、4-ブロモフェニル基、2,4-ジブロモフェニル基、2-ヨードフェニル基、3-ヨードフェニル基、4-ヨードフェニル基、2,4-ヨードフェニル基等が挙げられる。
【0055】
ハロゲン原子で置換されていてもよいシクロヘキシル基としては、特に制限はないが、2-クロロシクロヘキシル基、3-クロロシクロヘキシル基、4-クロロシクロヘキシル基、2,4-ジクロロシクロヘキシル基、2-ブロモシクロヘキシル基、3-ブロモシクロヘキシル基、4-ブロモシクロヘキシル基、2,4-ジブロモシクロヘキシル基、2-ヨードシクロヘキシル基、3-ヨードシクロヘキシル基、4-ヨードシクロヘキシル基、2,4-ジヨードシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0056】
R3は、H又はCH3を表し、xが2以上の場合には、それぞれ互いに独立する。xは、0~10を表し、エチレンオキシド単位の繰り返し数を表わす。xは好ましくは1~6、より好ましくは2~5、最も好ましくは3又は4である。
【0057】
上記エーテル化合物は、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン若しくはグライム又はそれらの誘導体等を挙げることができる。
上記一般式で表されるエーテル化合物は共に環を形成してもよく、この環状化合物としては、xが0の場合には、テトラヒドロフラン(THF)やその誘導体である2-メチルテトラヒドロフランが挙げられ、xが1の場合には、1,3-ジオキソランや1,4-ジオキサンが挙げられる。
グライムは、上記一般式(2)(但し、R3はHを表し、xは1以上を表し、直鎖化合物である。)で表され、モノグライム(G1、x=1)、ジグライム(G2、x=2)、トリグライム(G3、x=3)及びテトラグライム(G4、x=4)等が挙げられる。モノグライム(G1)としては、メチルモノグライム、エチルモノグライム等が挙げられ、ジグライム(G2)としては、エチルジグライム、ブチルジグライム等が挙げられる。
【0058】
上記エーテル化合物として、xが1~10であるグライムを使用すると、電解液の熱安定性、イオン伝導性、電気化学的安定性をより向上でき、高電圧に耐え得る電解液となる。電解液に用いてもよいエーテル化合物は、一種が単独で使用されても、二種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0059】
(フッ素化エーテル化合物)
上記その他の溶媒は、下記一般式(5):
Rf-(OR51)n1-O-R52 (5)
(式中、Rfは、フッ素原子を有するアルキル基であり、炭素数1~5の分岐または環を形成していてもよい。R51は、フッ素原子を有していてもよいアルキル基、R52はフッ素を有していないアルキル基であり炭素数1~9であり、分岐または環を形成していてもよい。n1は0、1又は2である。)
で示されるフッ素化エーテル化合物であってもよい。
【0060】
上記式(5)で表される化合物としては特に限定されるものではないが、例えば、HCF2CF2OCH2CH2CH3,HCF2CF2OCH2CH2CH2CH3,HCF2CF2CH2OCH2CH3,HCF2CF2CH2OCH2CH2CH3,HCF2CF2CH2OCH2CH2CH2CH3,CF3CHFCF2OCH2CH3,CF3CHFCF2OCH2CH2CH3、HCF2CF2OCH2CH3を挙げることができる。これらの化合物のなかから2以上の化合物を混合して使用するものであってもよい。
【0061】
上記フッ素化エーテル化合物は、
Rf1-(OR51)n1-O-Rf2 (5-1)
(式中、Rf1、Rf2は、同じか又は異なり、フッ素原子を有するアルキル基である。R51は、フッ素原子を有していてもよいアルキル基、n1は0、1又は2である。1分子中の炭素数は、5以上である)
で示されるフッ素化エーテルを含有するものであってよい。(5-1)のようなフッ素化エーテルとしては、HCF2CF2CH2OCF2CHFCF3、HCF2CF2CH2OCF2CF2H、CF3CF2CH2OCF2CHFCF3、CF3CF2CH2OCF2CF2H、HCF2CF2OC2H5、HCF2CF2OC2H5OCF2CF2H、CF3OC2H5OCF3が例示できる。
【0062】
上記「その他の溶媒」は、2種以上を併用するものであってもよい。上記「その他の溶媒」の含有量は、電解液全量に対して20~90重量%であることが好ましい。上記範囲内とすることで、電池の出力向上という点でこのましい。
上記「その他の溶媒」としては、フルオロエチレンカーボネート、エーテル化合物を使用することが特に好ましい。その他の溶媒としてフルオロエチレンカーボネートを使用する場合、上記「その他の溶媒」の含有量は、電解液全量に対して20~90重量%であることが好ましい。上記エーテル化合物を使用する場合、上記「その他の溶媒」の含有量は、電解液全量に対して30~70重量%であることが好ましい。
【0063】
(リチウムイオンを含む非水電解質)
本開示の電解液は、リチウムイオンを含む非水電解質を含有するものである。
リチウムイオンを含む非水電解質は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩はLiXで表すことができ、Xは対の陰イオンとなる物質である。上記リチウム塩は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を混合物の形態で使用してもよい。
【0064】
Xとしては、特に制限はないが、Cl、Br、I、BF4、PF6、CF3SO3、ClO4、CF3CO2、AsF6、SbF6、AlCl4、ビストリフルオロメタンスルホニルアミド(TFSA)、N(CF3SO2)2、N(CF3CF2SO2)2、PF3(C2F5)3、N(FSO2)2、N(FSO2)(CF3SO2)、N(CF3CF2SO2)2、N(C2F4S2O4)、N(C3F6S2O4)、N(CN)2、N(CF3SO2)(CF3CO)、R4FBF3(但し、R4F=n-CmF2m+1、m=1~4の自然数、nはノルマル)及びR5BF3(但し、R5=n-CpH2p+1、p=1~5の自然数、nはノルマル)からなる群から選択される少なくとも一種であると好ましい。エーテル化合物に対する溶解性や、錯構造の形成しやすさの点から、より好ましくはN(FSO2)2、N(CF3SO2)2、N(CF3CF2SO2)2、 PF6、 ClO4である。最も好ましいものはPF6、N(CF3SO2)2である。
【0065】
上記非水電解質は、電解液中3.0~30重量%の割合で含有することが好ましい。当該範囲内とすることで、良好な電解液として使用することができる。上記下限は、5.0重量%であることがより好ましく、8.0重量%であることが更に好ましい。上記上限は、20重量%であることがより好ましく、15重量%であることが更に好ましい。
【0066】
本開示の電解液において、上記溶媒と非水電解質との混合比(溶媒)/(非水電解質)は、下限0.1、上限5.0(モル換算)であることが好ましい。上記範囲内であると、アルカリ金属イオンのへのフッ素化エーテルの配位が良好であるため好ましい。上記混合比は、下限0.5、上限4.0であることがより好ましい。
【0067】
更に、上述したリチウム塩化合物に加えてさらに、以下の一般式で表されるリチウム塩化合物(以下、これを「第二のリチウム塩化合物」と記す)を併用するものであってもよい。上記第二のリチウム塩化合物は、2種以上を併用して使用するものであっても差し支えない。
【0068】
【0069】
これらの化合物を併用することで、電池の高寿命化、電池の出力向上
という効果が得られる点で好ましい。
【0070】
上記第二のリチウム塩化合物は、電解液全量に対して、0.001~10重量%の割合で含有することが好ましい。
上記第二のリチウム塩含有量の下限は、0.01重量%であることがより好ましく、0.1重量%であることがさらに好ましい。上記第二のリチウム塩含有量の上限は、5重量%であることがより好ましく、3重量%であることがさらに好ましい。
【0071】
本開示のリチウム硫黄二次電池において使用される電解液は、更に、環状ホウ酸エステルを含むものであってもよい。上記環状ホウ酸エステルを含むことにより、さらに良好な容量保持率を有することができる。
上記環状ホウ酸エステルとしては特に限定されず、例えば、次の化合物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0072】
【0073】
上記電解液は、上述の環状ホウ酸エステルを0.01重量%以上含有することが好ましく、1.0重量%以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、1.0重量%であることが好ましい。
【0074】
本開示の電解液は、リン酸エステルを含有するものであってもよい。リン酸エステルを含有することで、電池の高寿命化、電池の出力向上という点で好ましいものである。
リン酸エステルの含有量は、電解液全量に対して、0.001~10重量%であることが好ましい。
上記リン酸エステル含有量の下限は、0.01重量%であることがより好ましく、0.1重量%であることがさらに好ましい。上記リン酸エステル含有量の上限は、5重量%であることがより好ましく、3重量%であることがさらに好ましい。
【0075】
上記リン酸エステルとして具体的には、以下の化合物を挙げることができる。
リン酸(メチル)(2-プロペニル)(2-プロピニル)、リン酸(エチル)(2-プロペニル)(2-プロピニル)、リン酸(2-ブテニル)(メチル)(2-プロピニル)、リン酸(2-ブテニル)(エチル)(2-プロピニル)、リン酸(1,1-ジメチル-2-プロピニル)(メチル)(2-プロペニル)、リン酸(1,1-ジメチル-2-プロピニル)(エチル)(2-プロペニル)、リン酸(2-ブテニル)(1,1-ジメチル-2-プロピニル)(メチル)、及びリン酸(2-ブテニル)(エチル)(1,1-ジメチル-2-プロピニル)等のリン酸エステル;
亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル、メチルホスホン酸ジメチル、エチルホスホン酸ジエチル、ビニルホスホン酸ジメチル、ビニルホスホン酸ジエチル、ジエチルホスホノ酢酸エチル、ジメチルホスフィン酸メチル、ジエチルホスフィン酸エチル、トリメチルホスフィンオキシド、トリエチルホスフィンオキシド、リン酸ビス(2,2-ジフルオロエチル)2,2,2-トリフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)2,2,2-トリフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)メチル、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エチル、リン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)2,2-ジフルオロエチルリン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)2,2,3,3-テトラフルオロプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、リン酸トリス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2-イル)、リン酸トリオクチル、リン酸2-フェニルフェニルジメチル、リン酸2-フェニルフェニルジエチル、リン酸(2,2,2-トリフルオロエチル)(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)メチル、メチル2-(ジメトキシホスホリル)アセテート、メチル2-(ジメチルホスホリル)アセテート、メチル2-(ジエトキシホスホリル)アセテート、メチル2-(ジエチルホスホリル)アセテート、メチレンビスホスホン酸メチル、メチレンビスホスホン酸エチル、エチレンビスホスホン酸メチル、エチレンビスホスホン酸エチル、ブチレンビスホスホン酸メチル、ブチレンビスホスホン酸エチル、酢酸2-プロピニル2-(ジメトキシホスホリル)、酢酸2-プロピニル2-(ジメチルホスホリル)、酢酸2-プロピニル2-(ジエトキシホスホリル)、酢酸2-プロピニル2-(ジエチルホスホリル)、リン酸トリス(トリメチルシリル)、リン酸トリス(トリエチルシリル)、リン酸トリス(トリメトキシシリル)、亜リン酸トリス(トリメチルシリル)、亜リン酸トリス(トリエチルシリル)、亜リン酸トリス(トリメトキシシリル)、ポリリン酸トリメチルシリル等の含燐化合物
【0076】
上記リン酸エステルとしてより具体的には、以下の実施例においてD-1~D-5として開示した化合物が特に好ましいものである。これらの化合物を使用すると、上述した効果が特に好適に発揮されるものである。
【0077】
本開示のリチウム硫黄二次電池において使用される電解液は、ゲル状のゲル電解液であってもよい。ゲル電解液は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマーに、電解液が注入されてなる構成を有する。この電解液として、上記の本開示の電解液を使用する。マトリックスポリマーとして用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(VDF-HEP)の共重合体、ポリ(メチルメタクリレート(PMMA)及びこれらの共重合体等が挙げられる。ポリアルキレンオキシド系高分子には、リチウム塩などの電解液塩がよく溶解しうる。
【0078】
本開示の電解液は、単体硫黄、多硫化リチウム(Li2Sn:1<n<8)、及び有機硫黄化合物からなる群から選択される少なくとも一つを含む硫黄系電極活物質を含有する正極、リチウムイオンを吸蔵放出する材料を含む負極を有するリチウム硫黄二次電池に使用されるものである。すなわち、このようなリチウム硫黄二次電池において当該電解液を使用すると、上述したような各種効果が特に好適に得られるものである。上記正極、負極については、以下で詳述する。
また、本開示は、上記電解液を必須成分とするリチウム硫黄二次電池でもある。以下、本開示のリチウム硫黄二次電池についても詳述する。
【0079】
(電池)
本開示に係るアルカリ金属-硫黄系二次電池は、例えば、上記した正極又は負極と対極とをセパレータを介して離間して配置し、セパレータ内に電解液を含ませてセルを構成し、このセルを複数個積層又は巻回してケースに収容した構造とすることができる。正極又は負極と、対極との集電体は、それぞれケース外部に引き出され、タブ(端子)に電気的に接続される。なお、電解液をゲル電解液としてもよい。
【0080】
<硫黄を含む正極>
上記正極は、単体硫黄、多硫化リチウム(Li2Sn:1<n<8)、及び有機硫黄化合物からなる群から選択される少なくとも一つの硫黄系電極活物質を含むものであり、より具体的には、単体硫黄、多硫化リチウム(Li2Sn:1≦n≦8)、及び有機硫黄化合物からなる群から選択される少なくとも一つを含むものである。有機硫黄化合物としては、有機ジスルフィド化合物、カーボンスルフィド化合物が挙げられる。また、これらの硫黄系電極活物質と炭素材料の複合材料を使用することが好ましい。
【0081】
上記複合材料を使用することによって、細孔中に上記硫黄系電極活物質が存在することとなり、これによって抵抗を低下させることができる点で好ましい。
【0082】
上記複合材料における上記正極活物質に含まれる上記硫黄系電極活物質の含有量としては、サイクル性能に一層優れ、過電圧が更に低下することから、上記複合材料に対して、40~99質量%が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上が更に好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下が更に好ましい。上記正極活物質が上記硫黄単体の場合、上記正極活物質に含まれる硫黄の含有量は、上記硫黄単体の含有量と等しい。
【0083】
硫黄の含有量は、ヘリウム雰囲気下において、室温から600℃まで昇温速度10℃/mで加熱した際の重量変化を測定することで得られる。
【0084】
上記複合材料における上記炭素材料の含有量としては、サイクル性能に一層優れ、過電圧が更に低下することから、上記正極活物質に対して、1~60質量%が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が更に好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましい。
【0085】
上記硫黄と炭素材料の複合材料において使用される炭素材料は、細孔を有することが好ましい。上記「細孔」には、ミクロ孔、メソ孔及びマクロ孔が含まれる。上記ミクロ孔とは、0.1nm以上2nm未満の直径を有する孔を意味する。上記メソ孔とは、2nm超50nm以下の直径を有する孔を意味する。上記マクロ孔とは、50nm超の直径を有する孔を意味する。
【0086】
本発明では、特に、上記炭素材料として、ミクロ孔の細孔体積と、メソ孔の細孔体積との比である細孔体積比(ミクロ孔/メソ孔)が1.5以上の炭素材料を用いる。上記細孔体積比としては、2.0以上がより好ましい。上記細孔体積比の上限は特に限定されないが、3.0以下であってよい。上記炭素材料が細孔を有するものであると、上記正極活物質の溶出をかなり抑制できるものと推測される。なお、上記細孔体積にはマクロ孔体積を加味していない。
【0087】
本発明におけるBET比表面積、細孔の平均直径および細孔体積は、サンプル(炭素材料、複合材料)を液体窒素温度下において、サンプルに窒素ガスを吸着して得られる窒素吸着等温線を用いて、求めることができる。具体的には、窒素吸着等温線を用いて、Brenauer-Emmet-Telle(BET)法により、サンプルのBET比表面積を求めることができるし、また、窒素吸着等温線を用いて、QSDFT法(急冷固定密度汎関数理論)により、サンプルの細孔の平均直径、細孔体積を求めることができる。これらを求めるには、測定装置として、例えば、カンタクローム・インスツルメンツ社製比表面積/細孔分布測定装置(Autosorb)を用いて測定すればよい。
【0088】
上記複合材料において、サイクル性能に一層優れ、過電圧が更に低下することから、上記正極活物質が上記炭素材料の上記細孔内に含まれていることが好ましい。上記正極活物質が上記細孔内に含まれていると、上記正極活物質の溶出をかなり抑制できるものと推測される。
【0089】
上記正極活物質が上記細孔内に含まれていることは、上記複合材料のBET比表面積を測定することにより確認できる。上記正極活物質が上記細孔内に含まれている場合、上記複合材料のBET比表面積が、上記炭素材料のみのBET比表面積よりも小さくなる。
【0090】
上記炭素材料としては、マクロ孔及びメソ孔を有する多孔質カーボンが好ましい。
【0091】
上記炭素材料は、500~2500m2/gのBET比表面積を有することが、サイクル性能に一層優れ、過電圧が更に低下することから好ましい。上記BET比表面積は、700m2/g以上がより好ましく、2000m2/g以下がより好ましい。
【0092】
上記炭素材料は、1~50nmの平均粒子径を有することが、サイクル性能に一層優れ、過電圧が更に低下することから好ましい。上記平均粒子径は、2nm以上がより好ましく、30nm以下がより好ましい。
【0093】
上記炭素材料の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、易分解性高分子と難分解性(熱硬化性)の有機成分との複合体を形成し、上記複合体から上記易分解性高分子を除去する方法が挙げられる。例えば、フェノール樹脂と熱分解性高分子との有機-有機相互作用を利用して、規則性ナノ構造ポリマーを調製し、それを炭化することにより製造できる。
【0094】
上記複合材料の製造方法としては、特に限定されないが、上記正極活物質を気化させ、上記炭素材料上に析出させる方法が挙げられる。析出させた後、150℃程度で加熱することにより、余分な上記正極活物質を除去してもよい。
【0095】
上記正極は、上記した硫黄系電極活物質に加えて、増粘剤と結着剤と導電剤とを含んでもよい。そして、これら電極材料のスラリー(ペースト)を、導電性の担体(集電体)に塗布して乾燥することにより、電極材料を担体に担持させて正極を製造することができる。
集電体としては、アルミニウム、ニッケル、銅、ステンレス鋼などの導電性の金属を、箔、メッシュ、エキスパンドグリッド(エキスパンドメタル)、パンチドメタルなどに形成したものが挙げられる。また、導電性を有する樹脂又は導電性フィラーを含有させた樹脂を集電体として使用してもよい。集電体の厚さは、例えば5~30μmであるが、この範囲に限定されない。
【0096】
上記電極材料(硫黄系電極活物質と他の成分との合計量、集電体を除く)のうち、硫黄系電極活物質の含有量は、好ましくは50~98重量%であり、より好ましくは65~75重量%である。活物質の含有量が前記範囲であれば、エネルギー密度を高くすることができるため好適である。
電極材料の厚さ(塗布層の片面の厚さ)は、好ましくは、10~500μmであり、より好ましくは20~300μmであり、さらに好ましくは20~150μmである。
【0097】
上記結着剤は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(PAALi)、エチレンオキシド若しくは一置換エポキサイドの開環重合物などのポリアルキレンオキサイド、又はこれらの混合物等とすることができる。
【0098】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン及びこれらの塩等が挙げられる。1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0099】
上記導電剤は、導電性を向上させるために配合される添加物であり、黒鉛、ケッチェンブラック、逆オパール炭素、アセチレンブラックなどのカーボン粉末や、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)などの種々の炭素繊維などとすることができる。又、電極材料が支持塩(下記電解液に含まれる成分)を含んでもよい。
【0100】
<負極>
本開示のリチウム硫黄二次電池における負極は、リチウムイオンを吸蔵放出する材料を含むものである。負極に含まれる負極活物質は、アルカリ金属イオンを吸蔵脱離するよう作用する。負極活物質としては、リチウム、ナトリウム、炭素、ケイ素、アルミニウム、スズ、アンチモン及びマグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。より具体的には、チタン酸リチウム、リチウム金属、ナトリウム金属、リチウムアルミ合金、ナトリウムアルミ合金、リチウムスズ合金、ナトリウムスズ合金、リチウムケイ素合金、ナトリウムケイ素合金、リチウムアンチモン合金、ナトリウムアンチモン合金等の金属材料、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、ハードカーボンなどの結晶性炭素材や非結晶性炭素材等の炭素材料といった従来公知の負極材料を用いることができる。このうち、容量、入出力特性に優れた電池を構成できることから、炭素材料もしくはリチウム、リチウム遷移金属複合酸化物を用いるのが望ましい。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。
【0101】
負極も、上記した活物質と結着剤と導電剤とを含んでもよい。そして、これら電極材料を、導電性の担体(集電体)に担持して負極を製造することができる。集電体としては上記と同様のものを使用できる。
【0102】
正極と負極の間には、通常、セパレータが配置されている。セパレータとしては、例えば、後述する電解液を吸収保持するガラス繊維製セパレータ、ポリマーからなる多孔性シート及び不織布を挙げることができる。多孔性シートは、例えば、微多孔質のポリマーで構成される。このような多孔性シートを構成するポリマーとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;PP/PE/PPの3層構造をした積層体、ポリイミド、アラミドが挙げられる。特にポリオレフィン系微多孔質セパレータ及びガラス繊維製セパレータは、有機溶媒に対して化学的に安定であるという性質があり、電解液との反応性を低く抑えることができることから好ましい。多孔性シートからなるセパレータの厚みは限定されないが、車両のモータ駆動用二次電池の用途においては、単層又は多層で全体の厚み4~60μmであることが好ましい。また、多孔性シートからなるセパレータの微細孔径は、最大で10μm以下(通常、10~100nm程度)、空孔率は20~80%であることが好ましい。
【0103】
不織布としては、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン(登録商標)、ポリエステル;PP、PEなどのポリオレフィン;ポリイミド、アラミドなど従来公知のものを、単独又は混合して用いる。不織布セパレータの空孔率は50~90%であることが好ましい。さらに、不織布セパレータの厚さは、好ましくは5~200μmであり、特に好ましくは10~100μmである。厚さが5μm未満では電解液の保持性が悪化し、200μmを超える場合には抵抗が増大する場合がある。
上記リチウム―硫黄二次電池を備えるモジュールも本開示の一つである。
【実施例】
【0104】
以下、本開示を実施例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例においては特に言及しない場合は、「部」「%」はそれぞれ「重量部」「重量%」を表す。
【0105】
実施例及び比較例
(電解液の調製)
表5に記載の組成になるように各成分を混合し、非水電解液を得た。
【0106】
(コイン型アルカリ金属―硫黄系二次電池の作製)
炭素材料及び正極活物質として所定の硫黄を含有した複合材料(硫黄の含有量は70質量%)、導電材としてカーボンブラック、純水で分散させたカルボキシメチルセルロース(CMC)、及び、スチレンーブタジエンゴムを固形分比で92/3/2.5/2.5(質量%比)になるよう混合した正極合剤スラリーを準備した。厚さ25μmのアルミ箔集電体上に得られた正極合剤スラリーを均一に塗布し、乾燥した後、プレス機により圧縮形成して正極とした。正極積層体を打ち抜き機で直径1.6cmの大きさに打ち抜き、円状の正極を作製した。
【0107】
別途負極には直径1.6cmの大きさに打ち抜いた円状のリチウム箔を用いた。
【0108】
(試験前セルの製造)
厚さ25μmの微孔性ポリプロピレンフィルム(セパレータ)を介して正極と負極を対向させ、上記で得られた非水電解液を注入し、電解液がセパレータ等に充分に浸透した後、封止し予備放電、予備充電、エージングを行い、コイン型のアルカリ金属―硫黄系二次電池を作製した。
得られたコイン型のアルカリ金属―硫黄系二次電池について、以下の基準に基づいて評価を行った。
【0109】
(サイクル試験)
上記で製造した二次電池を25℃でサイクル試験を行った。サイクル試験は0.2Cに相当する電流で3.0Vまで定電流充電した後、0.2Cの定電流で1.0Vまで放電するのを50サイクル繰り返し行った。ここで1Cとは電池の基準容量を1時間で放電する電流値を表し、例えば、0.2Cとはその1/5の電流値を表す。表には50サイクル後の放電容量値を記載する。
【0110】
(10レート放電容量)
上記で製造した二次電池を25℃で0.2Cに相当する電流で3.0Vまで定電流充電した後、0.2Cの定電流で1.0Vまで放電するのを3サイクル繰り返った。その後、0.2Cに相当する電流で3.0Vまで定電流充電した後、10Cの定電流で1.0Vまで放電を行った。表にはその際の放電容量値を記載する。
【0111】
なお、表に記載の添加剤についての符号は、それぞれ表1~4に示した化合物を表す。
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
表5中、VCは、ビニレンカーボネートを表す。
FECは、フルオロエチレンカーボネートを表す。
DOLは、1,3-ジオキソランを表す。
【0118】
表5の結果から、本開示の電解液を使用したリチウム硫黄二次電池は特に耐久性に優れたものであることが明らかである。また、比較例2のように、10重量%以下の割合でビニレンカーボネートを含有する場合には、十分な耐久性が得られないことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本開示の電解液を使用したリチウム硫黄二次電池は、携帯用電源、自動車用電源等の種々の電源として利用することができる。