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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】毛髪処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/65 20060101AFI20221104BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20221104BHJP
   A61Q 5/10 20060101ALI20221104BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20221104BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
A61K8/65
A61Q5/00
A61Q5/10
A61K8/35
A61K8/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018023871
(22)【出願日】2018-02-14
(65)【公開番号】P2019137649
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】303028376
【氏名又は名称】株式会社 リトル・サイエンティスト
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野村 恭稔
(72)【発明者】
【氏名】柴橋 知明
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-170838(JP,A)
【文献】特開2015-137261(JP,A)
【文献】特開2015-117186(JP,A)
【文献】特開2010-215530(JP,A)
【文献】特開2014-227407(JP,A)
【文献】特開2012-171946(JP,A)
【文献】特開2012-171952(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154708(WO,A1)
【文献】特開2017-088502(JP,A)
【文献】特開2017-124983(JP,A)
【文献】特開2013-014557(JP,A)
【文献】特開2015-040193(JP,A)
【文献】特開2004-315410(JP,A)
【文献】特開2010-132595(JP,A)
【文献】特開2003-300836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)(A)ケラチン中のジスルフィド結合(-S-S-)の一部又は全てが、システアミン及びチオグリコール酸からなる群から選択されるチオール化合物並びに亜硫酸のうち少なくとも1つで変換されたケラチン誘導体又は(B)ケラチン中のジスルフィド結合(-S-S-)の一部又は全てが、システアミン及びチオグリコール酸からなる群から選択されるチオール化合物並びに亜硫酸のうち少なくとも1つで変換され、且つ加水分解されたケラチン加水分解物を含有する組成物で毛髪を処理する工程;並びに
(II)1種以上の塩基性染料を含有する組成物で毛髪を処理する工程;
を含む、毛髪処理方法。
【請求項2】
(III)1種以上の還元剤を含有する組成物で毛髪を処理する工程;及び
(IV)1種以上の酸化剤を含有する組成物で毛髪を処理する工程;
を更に含む、請求項1に記載の毛髪処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染毛及び毛髪損傷の修復を同時に行うことができる毛髪処理方法に関する。更に詳しくは、本発明は、毛髪への染毛性及び均染性が高く、色の持続性に優れ、更に毛髪損傷を修復することができる毛髪処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、お洒落を楽しむために髪色のニュアンスを変えたり、白髪を目立たなくしたりすることを目的に、酸化染毛剤の使用頻度が増えている。酸化染毛剤はアルカリ剤及び酸化剤を含有するため、毛髪損傷を引き起こすことが知られている。具体的には、酸化染毛剤により、毛髪を形成するケラチンタンパク質のジスルフィド結合(-S-S-)が開裂してシステイン酸(-SO )に酸化されることで、毛髪強度や伸長率が低下することが知られている。更に、酸化染毛剤には、パラフェニレンジアミン等の染料中間体が配合されていることがあるが、これらの染料中間体は、重篤なアレルギーを引き起こす可能性があるとされ、問題となっている。
【0003】
酸化染毛剤に代わる染毛手段として、酸性染料を用いたヘアマニキュア等の染毛料(以下、「酸性染毛料」とする。)が上市されている。酸性染毛料は毛髪への染毛性が高く、毛髪損傷も比較的少ないとされている。更に、アレルギーの可能性は酸化染毛剤と比較すると低いとされている。
【0004】
しかしながら、酸性染毛料は皮膚や頭皮に染着しやすく、一度染着すると非常に取れにくいという大きな問題がある。酸性染毛料を皮膚や頭皮に全く付けることなく、根元の生え際まで塗布するには高度な技術が必要であり、理美容師であっても万人ができるわけではない。
【0005】
また、酸化染毛剤に代わる別の手段として、塩基性染料を用いたカラートリートメント等の染毛料(以下、「塩基性染毛料」とする。)が上市されている。塩基性染毛料は皮膚への染着が比較的弱く、配合によって素手でも使用可能な染毛料も上市されており、簡便性に優れる。
【0006】
しかしながら、塩基性染毛料は毛髪への染着性が弱く、染毛性及び色の持続性に関して問題がある。更に、塩基性染料はカチオン性物質であり、酸化染毛剤及びパーマネントウェーブ剤等の化学的処理による毛髪損傷で発生したシステイン酸(-SO )にイオン結合で吸着し易い。前記のような毛髪損傷が発生している毛髪を塩基性染毛料で染める場合、均染性に劣るおそれがある。
【0007】
これらの問題点を改善する手法として、3剤式染毛料による染毛方法が提案されている。これにより、染毛性及び色の持続性に優れ、且つ皮膚への染着が少ない染毛方法を提供することができる(特許文献1)。
【0008】
また、損傷した毛髪の特性を改善する化粧料として、変換タンパク質を含有する化粧料が提案されている。これにより、毛髪の損傷した部位を修復し、毛髪の特性を改善することができる(特許文献2)。
【0009】
毛髪の物理学的特性を分析する際、強度と伸張率を測定し、総合的に判断することが一般的である。伸張率を測定することで、毛髪の「しなやかさ」及び「弾力性」を判断することができる。健常な毛髪である場合、毛髪強度は約1N、伸張率は約50%である(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2012-171952号公報
【文献】特開2017-124983号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】古谷照雄、「毛髪の引張強度と伸張率に関する研究」、太成学院大学紀要Vol.9(2007)p.151-156
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1の染毛方法で毛髪を処理した場合、酸化還元反応を伴うため、毛髪損傷を発生するおそれがある。更に、損傷により電荷的に不均一になった状態の毛髪に対して、該染毛方法では均一に染めることが困難となることがある。
【0013】
特許文献2には、毛髪の特性を改善する方法は記載されているが、該方法と同時に毛髪を染める方法に関しての記載がない。
【0014】
理美容室等が利益を得るためには、施術の時間短縮が大きな課題の一つである。また、消費者としても、短時間で複数の大きな効果が得られる施術は拘束時間が短く、更に満足感を実感し易いため、好ましい。一方、前記毛髪の特性を改善する施術と、酸化染毛剤又は染毛料等で毛髪を染める施術とを別々に施す方法では長時間を要する。
【0015】
従って、本発明は、染毛及び毛髪損傷修復を同時に行うことができる毛髪処理方法に関し、毛髪への染毛性及び均染性が高く、色の持続性に優れ、且つ、毛髪損傷を修復することができる毛髪処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の毛髪処理方法は、(I)ケラチン中のジスルフィド結合(-S-S-)の一部又は全てが、システアミン、システイン、及びチオグリコール酸からなる群から選択されるチオール化合物並びに亜硫酸のうち少なくとも1つで変換されたケラチン誘導体又はケラチン加水分解物(以下、「変換ケラチン」という。)を含有する組成物(以下、「組成物(I)」という。)で毛髪を処理する工程(以下、「工程(I)」という。);並びに(II)1種以上の塩基性染料を含有する組成物(以下、「組成物(II)」という。)で毛髪を処理する工程(以下、「工程(II)」という。)を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明では、必要に応じて、(III)1種以上の還元剤を含有する組成物(以下、「組成物(III)」という。)で毛髪を処理する工程(以下、「工程(III)」という。);及び(IV)1種以上の酸化剤を含有する組成物(以下、「組成物(IV)」という。)で毛髪を処理する工程(以下、「工程(IV)」という。)を含んでもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の毛髪処理方法は、変換ケラチンで処理をすることから、損傷した毛髪の特性を健常な状態へ修復することができる。また、塩基性染料で毛髪を処理することから、毛髪を染めることができる。更に、前記2つの毛髪処理を理美容室等の1つの施術として施す為、短時間で毛髪損傷を修復し、且つ、毛髪を染める施術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
前記ケラチンは、ジスルフィド結合を有する限り、その由来及び構造に限定はない。例えば、ケラチンを含むヒト及び鳥獣の毛(人毛、羊毛、羽毛等)、角、爪が挙げられる。
【0020】
変換ケラチンは、前記ケラチン中のジスルフィド結合の一部又は全部が、システアミン、システイン、及びチオグリコール酸からなる群から選択されるチオール化合物並びに亜硫酸のうちの少なくとも1つ(以下、「チオール化合物等」とする。)により変換されている。変換ケラチンを用いることにより、毛髪損傷を修復することができる。毛髪損傷を修復することにより、毛髪本来の特性を付与することもできる。
【0021】
該変換は、前記ケラチン中のジスルフィド結合が開裂し、次いで開裂箇所のS原子と前記チオール化合物等中のS原子との間で新たな結合が形成されることを意味する。上記のように、本発明では、前記ケラチン中のジスルフィド結合の一部が前記チオール化合物等により変換されていてもよい。よって、変換ケラチンには、未変換のジスルフィド結合が残存していてもよく、あるいはジスルフィド結合が開裂して形成されたチオール基(-SH)を含んでいてもよい。変換ケラチンは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
更に、前記ケラチン中のジスルフィド結合の一部又は全てが、アミノエチルジスルフィド基(-S-S-CH-CHR-NH)に変換されていることが、毛髪への接着性の点で好ましい。これにより、前記毛髪損傷を発生した箇所に対して、特に接着性に優れる。その結果、効率的に毛髪損傷を修復し、毛髪の特性を健常な状態に導くことができ、且つ、前記塩基性染毛料の染毛性及び均染性を向上させ、前記塩基性染毛料の色の持続性を向上させることができる。前記ジスルフィド結合の一部がアミノエチルジスルフィド基に変換されていてもよい。よって、ジスルフィド結合の一部又は全てが、アミノエチルジスルフィド基に変換された変換ケラチンには、未変換のジスルフィド結合が残存していてもよく、あるいはジスルフィド結合が開裂して形成されたチオール基を含んでいてもよい。
【0023】
前記ジスルフィド結合のアミノエチルジスルフィド基への変換の具体的方法には特に限定はない。該変換は通常、前記ケラチン中のジスルフィド結合とアミノエタンチオール類(HN-CHR-CH-SH)とを反応させることにより行われる。前記アミノエチルジスルフィド基への変換は、前記ジスルフィド結合とアミノエタンチオール類とを直接反応させることにより実施してもよく、あるいは、ジスルフィド結合を還元剤によりチオール基に還元した後、該チオール基とアミノエタンチオール類とを反応させることにより実施してもよい。この場合、前記還元剤には特に限定はない。該還元剤としては、公知の還元剤、例えばチオグリコール酸又はその塩等のメルカプトアルキルカルボン酸及びその塩を用いることができる。
【0024】
前記アミノエタンチオール類の量その他反応条件によっては、前記ジスルフィド結合のうち、一方が前記アミノエタンチオール類により変換され、他方がチオール基に変換する場合(下記式(1))と、両方が前記アミノエタンチオール類により変換される場合(下記式(2))がある。本発明における変換には、このいずれも含まれる。尚、下記式(1)及び(2)中、「Cys」は、変換ケラチンに含まれるシステイン残基を意味する。
【0025】
Cys-S-S-Csy + HN-CHR-CH-SH
→ Cys-S-S-CH-CHR-NH + Cys-SH (1)
Cys-S-S-Csy + 2 HN-CHR-CH-SH
→ 2 Csy-S-S-CH-CHR-NH (2)
【0026】
前記アミノエチルジスルフィド基及び前記アミノエタンチオール類において、式中の「R」はH、COOH、OH、NH又はCHである。前記RがH又はCOOHであると、可溶性の点で好ましい。また、前記アミノエタンチオール類は、HN-CHR-CH-SHの塩でもよい。
【0027】
変換ケラチンは、必要に応じて他の処理を行ってもよい。例えば、分子量及び分子サイズを低下させる為に、変換ケラチンについて、酵素、酸又はアルカリにより加水分解を行ってもよい。また、変換ケラチンを得た後、精製、ろ過、遠心分離等を行うことにより、他の成分又は不溶分を除去してもよい。
【0028】
組成物(I)中の変換ケラチンの配合量は、有効量である限り特に限定はない。変換ケラチンの配合量は、通常、0.01~10質量%が好ましい。
【0029】
組成物(I)は、本発明の作用を阻害しない限り、必要に応じて、変換ケラチン以外の他の成分を含んでいてもよい。該他の成分として、従来から化粧料に添加含有されている公知成分、あるいは他の機能性成分が挙げられる。該他の成分として具体的には、例えば、油脂、炭化水素油、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル油、シリコーン油、界面活性剤(ノニオン性、アニオン性、カチオン性、両性)、保湿剤、水溶性高分子、皮膜剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、糖類、アミノ酸、pH調整剤、ビタミン、酸化防止剤、色素、防腐剤、及び香料等が挙げられる。
【0030】
組成物(I)の剤形及び使用形態に特に限定はない。前記組成物は、例えば、ローション状、乳液状、クリーム状、ゲル状、フォーム状、霧状で使用することができる。
【0031】
組成物(I)として具体的には、例えば、シャンプー、リンス、トリートメント、コンディショナー、スタイリング剤が挙げられる。理美容室等での施術におけるハンドリング性の観点から、リンス、トリートメント又はコンディショナーが好ましい。
【0032】
組成物(II)に含まれる前記塩基性染料は、有効である限り、特に種類は限定されない。具体的には、例えば、BasicBlue3、Basic Blue6、BasicBlue7、Basic Blue9、BasicBlue26、Basic Blue41、BasicBlue47、Basic Blue75、BasicBlue99、Basic Brown4、BasicBrown16、Basic Brown17、BasicGreen1、Basic Green4、BasicOrange1、Basic Orange2、BasicOrange31、Basic Red1、BasicRed2、Basic Red22、BasicRed46、Basic Red51、BasicRed76、Basic Red118、BasicViolet1、Basic Violet3、BasicViolet4、Basic Violet10、BasicViolet11、Basic Violet14、BasicViolet16、Basic Yellow11、BasicYellow28、Basic Yellow57、BasicYellow87等から選ばれる少なくとも1種以上を任意に選択して用いることができる。
【0033】
組成物(II)中の前記塩基性染料の配合量は、有効量である限り特に限定はない。前記塩基性染料の配合量は、通常、合計量として0.05~5質量%が好ましい。0.05質量%以上であれば、染毛効果を実感できるため好ましく、5質量%以下の場合、皮膚や頭皮の染着を抑制できるので好ましい。
【0034】
組成物(II)には、必要に応じて前記塩基性染料以外の直接染料を配合することができる。好ましい前記直接染料としてHC染料等が挙げられる。これにより、前記塩基性染料のみでは不可能な色調の染毛色を作り出すことができる。一般に、電気的相性の観点から、酸性染料を配合することは避けることが好ましい。しかし、本発明の作用効果を阻害しない範囲で、酸性染料を配合することができる。
【0035】
前記HC染料には特に限定はないが、例えば、HC Blue2、HC Blue5、HC Blue6、HC Blue9、HC Blue10、HC Blue11、HC Blue12、HC Blue13、HC Orange1、HC Orange2、HC Orange3、HC Red1、HC Red3、HC Red7、HC Red10、HC Red11、HC Red13、HC Red14、HC Violet1、HC Violet2、HC Yellow2、HC Yellow4、HC Yellow5、HC Yellow9、HC Yellow10、HC Yellow11、HC Yellow12、HC Yellow13、HC Yellow14、HC Yellow15等が挙げられる。これらを任意に選択して用いることができる。
【0036】
組成物(II)のpHは、本発明の作用が有効である限り特に限定はない。好ましくは、pH6.0~8.0である。pH6.0以上の場合、染毛性を向上させることができ、pH8.0以下の場合、毛髪損傷を抑制することができるので好ましい。
【0037】
組成物(II)は、本発明の作用を阻害しない限り、必要に応じて、前記塩基性染料以外の他の成分を含んでいてもよい。該他の成分として、従来から化粧料に添加含有されている公知成分、あるいは他の機能性成分が挙げられる。該他の成分として具体的には、例えば、油脂、炭化水素油、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル油、シリコーン油、界面活性剤(ノニオン性、アニオン性、カチオン性、両性)、保湿剤、水溶性高分子、皮膜剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、糖類、アミノ酸、pH調整剤、ビタミン、酸化防止剤、色素、防腐剤、及び香料等が挙げられる。
【0038】
組成物(II)の剤形及び使用形態に特に限定はない。前記組成物は、例えば、ローション状、乳液状、クリーム状、ゲル状、フォーム状で使用することができる。
【0039】
組成物(II)として具体的には、例えば、シャンプー、リンス、トリートメント、コンディショナー、スタイリング剤が挙げられる。理美容室等での施術におけるハンドリング性の観点から、リンス、トリートメント又はコンディショナーが好ましい。
【0040】
組成物(I)及び(II)は、変換ケラチン及び前記塩基性染料の両者を有効量含有する1剤式でもよい。また、組成物(I)及び(II)は、変換ケラチンを有効量含有する第1剤と、前記塩基性染料を有効量含有する第2剤とからなる2剤式の製剤でもよい。2剤式の製剤の場合、前記第1剤及び前記第2剤の具体的組成には特に限定はない。該第1剤及び該第2剤の組成は同じでもよく、異なってもよい。また、2剤式の製剤の場合、変換ケラチンは、該第1剤にのみ含まれていてもよく、該第1剤と該第2剤の両者に含まれていてもよい。該塩基性染料は、該第2剤にのみ含まれてもよく、該第1剤と前記第2剤の両者に含まれてもよい。該第1剤で毛髪を処理した後、該2剤で毛髪を処理してもよく、該第1剤と該第2剤を混合した剤で毛髪を処理してもよい。
【0041】
工程(I)及び(II)の順序は、本発明の作用が有効である限り特に限定はない。例えば、工程(I)の後に、工程(II)を行ってもよく、又は工程(I)及び(II)を同時に行ってもよい。
【0042】
本発明において、必要に応じて、1種以上の還元剤を含有する組成物(組成物(III))で毛髪を処理することができる(工程(III))。前記還元剤により、前記変換ケラチン及び/又は処理する毛髪の繊維に含まれるジスルフィド結合を還元し、チオール基に変換することができる。これにより、変換ケラチンが毛髪内部に定着し易くし、且つ毛髪組織を緩めることで塩基性染料の浸透性を向上することができる。
【0043】
前記還元剤は、前記チオール基への変換を実現できる限り、その種類に特に限定はない。該還元剤として具体的に、例えば、チオグリコール酸、チオ乳酸、亜硫酸、システアミン、システイン、及びスピロノラクトン並びにこれら還元剤の塩又はその誘導体(例えば、エステル)を用いることができる。該還元剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、組成物(III)における前記還元剤の含有量は、有効量である限り特に限定はない。
【0044】
組成物(I)及び(III)は、変換ケラチン及び前記還元剤の両者を有効量含有する1剤式でもよい。また、組成物(I)及び(III)は、変換ケラチンを有効量含有する第1剤と、前記還元剤を有効量含有する第2剤とからなる2剤式の製剤でもよい。2剤式の製剤の場合、前記第1剤及び前記第2剤の具体的組成には特に限定はない。該第1剤及び該第2剤の組成は同じでもよく、異なってもよい。また、2剤式の製剤の場合、変換ケラチンは、前記第1剤にのみ含まれていてもよく、前記第1剤と前記第2剤の両者に含まれていてもよい。前記還元剤は、前記第2剤にのみ含まれていてもよく、前記第1剤と前記第2剤の両者に含まれていてもよい。前記第1剤を毛髪に処理した後、前記第2剤で毛髪を処理してもよいし、前記第2剤を毛髪に処理した後、前記第1剤で毛髪を処理してもよい。更に、前記第1剤と前記第2剤を混合した剤で毛髪を処理してもよい。
【0045】
本発明では、必要に応じて、1種以上の酸化剤を含有する組成物(組成物(IV))で毛髪を処理することができる(工程(IV))。この処理により、本発明の効果をより向上することができる。前記酸化剤は、チオール基間でジスルフィド結合を形成することができる。これにより、変換ケラチンと毛髪に含まれるケラチンタンパク質とを、ジスルフィド結合を介して結合することができる。その結果、毛髪組織を更に強固に強化し、毛髪の特性を更に効果的に健常な状態へ向上することができる。また、毛髪組織を更に強化したことで牢閉性が向上し、毛髪内部に浸透した前記塩基性染料の色の持続性を更に向上することができる。
【0046】
前記酸化剤は、チオール基間でジスルフィド結合を形成することができる限り、その種類に特に限定はない。前記酸化剤として具体的には、例えば、過酸化水素、臭素酸及びその塩が挙げられる。前記酸化剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。組成物(IV)における前記酸化剤の含有量は、有効量である限り特に限定はない。
【0047】
工程(III)及び(IV)を行う場合、その順序には特に限定はない。本発明では、工程(III)の後、工程(IV)を行うのが好ましい。また、工程(III)と工程(IV)の間に、工程(III)で使用した組成物(III)を洗い流す工程を行うのが好ましい。
【0048】
また、工程(I)~(IV)の順序には特に限定はない。例えば、工程(I)の後、工程(III)を行ってもよく、又は工程(I)と工程(III)を同時に行ってもよい。更に、工程(I)~(III)を同時に行ってもよい。また、工程(II)の後、工程(IV)を行ってもよく、又は工程(II)と工程(IV)とを同時に行ってもよい。
【0049】
好ましい実施態様は、工程(I)、工程(III)、工程(II)、及び工程(IV)の順で行う態様である。この場合、工程(I)及び(III)を同時に行ってもよく、工程(II)及び(IV)を同時に行ってもよく、更に、工程(I)~(III)を同時に行ってもよい。
【実施例
【0050】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、実施例に示す形態に限定されない。本発明の実施形態は、目的及び用途に応じて、本発明の範囲内で種々変更することができる。また、実施例における結果に対する考察は、全て発明者の見解に過ぎず、何ら本発明を定義付ける趣旨の説明ではないことを付言する。
【0051】
実施例1~2及び比較例1~6
【0052】
ハイダメージ毛に対して工程(I)及び(II)を行った後、毛髪引張試験による毛髪の物理的特性の評価、並びに染毛試験による染毛性、均染性、及び色持ちの評価を行った。更に、ハイダメージ毛に対して工程(I)~(IV)を行った後、毛髪引張試験による毛髪の物理的特性の評価、並びに染毛試験による染毛性、均染性、及び色持ちの評価を行った。
【0053】
(I)毛髪処理組成物の調製
常法に従い、表1及び2に示す処方例1~4の組成物を調製した。表1及び2における数値は、当該欄の成分の含有量を示し、その単位は質量%である。処方例1は、変換ケラチンを含有する組成物(組成物(I))であり、処方例4は、塩基性染料を含有する組成物(組成物(II))である。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
(II)評価用毛束の作成
ハイダメージ毛
ブリーチ剤1剤(ホーユー株式会社製「レセ パウダーブリーチ EX」)及びブリーチ2剤(株式会社ミルボン社製「オルディーブ アディクシー オキシダン 6%」)を1:2.5(質量比)の比率で均一に混合してブリーチ混合液を得た。毛束(株式会社スタッフス社製「テスト用毛束1g10cm 人毛 黒」)に対し、ブリーチ混合液を均等量塗布し、25℃で30分間放置後、しっかり水洗した。このブリーチ処理を2回行った。その毛束を1.0質量%ラウリル硫酸ナトリウム溶液中に25℃で5分間浸漬した。次いでその毛束を水洗した後、乾燥させた。この毛束を評価用毛束とした。
【0057】
(III)処方例1~4の組成物による処理
処方例1~3の組成物を、前記評価用毛束1本に対して1g均一に塗布し、25℃で10分間放置した。その後よく水洗し、タオルで水気を拭きとった。次いで、処方例4の組成物を、前記処理済の毛束1本に対し1g均一に塗布し、25℃で10分間放置した。その後よく水洗し、乾燥した。
【0058】
(IV)還元剤を含む組成物及び酸化剤を含む組成物による処理
処方例1~3の組成物及び還元剤を含む組成物(株式会社リトル・サイエンティスト社製「リケラ アクチベーター」)を20:1(質量比)の比率で均一に混合して混合液1を調製した。次いで、前記評価用毛束1本に対し、前記混合液1を1g均一に塗布し、25℃で10分間放置した。その後よく水洗し、タオルで水気を拭きとった。次いで、処方例4の組成物及び酸化剤を含む組成物(株式会社リトル・サイエンティスト社製「リケラ 3Dアンカー クリーム」)を1:1(質量比)の比率で均一に混合して混合液2を調製した。次いで、前記処理済の毛束1本に対し、前記混合液2を2g均一に塗布し、25℃で10分間放置した。その後前記毛束をよく水洗し、乾燥した。前記混合液2を毛束1本に対し2g塗布した理由は、毛束1本に対する塩基性染料の塗布量を前記(III)の方法と合わせる為である。
【0059】
(A)毛髪引張試験
前記(III)及び(IV)の方法で処理した毛束に対して、万能引張試験機(株式会社島津製作所製「AG-20k NXDplus)を用いて、50mm/minの速度で、毛髪1本当りの引張切断強度(N)及び伸張率(%)を測定した(n=10)。この結果を毛髪損傷の指標として評価した。
【0060】
(B)染色性及び均染性評価試験
前記(III)及び(IV)の方法で処理した毛束の染色性及び均染性を、10人のパネラーにより評価した。染色性は、毛束の塩基性染毛料による色の濃さにより5段階で評価した。均染性は、塩基性染毛料による色が毛束に対して均一に染まっているかにより、5段階で評価した。
(B-1)染色性評価
5:良好に染まっている
4:やや良好に染まっている
3:染まっている
2:やや染まりが悪い
1:染まりが悪い
(B-2)均染性評価
5:良好に均一に染まっている
4:やや良好に均一に染まっている
3:均一に染まっている
2:やや不均一に染まっている
1:不均一に染まっている
【0061】
(C)色持ち評価試験
前記(III)及び(IV)の方法で処理した毛束を、1.0質量%ラウリル硫酸ナトリウム溶液中に25℃で30分間浸漬した。その後よく水洗し、乾燥した。10人のパネラーがその毛束の色の退色具合を観察することにより、色持ちを5段階で評価した。
(C-1)堅牢性評価
5:退色していない
4:やや退色している
3:退色しているが許容範囲内
2:退色している
1:非常に退色している
【0062】
前記(A)の試験を健常毛及び評価用毛束に対しても実施した。健常毛に関しては毛束(株式会社スタッフス社製「テスト用毛束1g10cm 人毛 黒」)に対し、1.0質量%ラウリル硫酸ナトリウム溶液中に25℃で5分間浸漬した。次いで水洗した後、乾燥させた。この毛束を健常毛毛束とした。更に、前記(B)及び(C)の試験を評価用毛束に対しても実施した。これらの結果を健常な毛髪及び未処理ハイダメージ毛の特性比較基準として、比較例5とした。これらの数値と比較して、前記(III)及び(IV)の処理による毛髪損傷修復の度合いを評価した。
【0063】
以上の評価試験結果の平均値を算出し、これを表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
表3より、変換ケラチンであるアミノエチルジスルフィドケラチンを配合した組成物で処理した毛髪(実施例1及び2)が、健常毛(比較例5)と非常に類似した物性を示している。更に、実施例1及び2を比較すると、還元剤及び酸化剤で処理をした毛髪(実施例2)の方が効果的である。これは、アミノエチルジスルフィドケラチンに含まれるジスルフィド結合及び毛髪中のケラチン中のジスルフィド結合が還元剤により開裂し、次いで酸化剤処理をしたことで、該アミノエチルジスルフィドケラチンと毛髪中のケラチンタンパク質がジスルフィド結合を介して強固に定着し、より毛髪損傷修復効果を高めたと推察される。本実施態様は、毛髪の損傷レベルによって処理方法を自在に変化させることができるため、幅広い髪質に対応することができる。
【0066】
更に、実施例1及び2では、塩基性染毛料による染色性、均染性及び色持ちを大幅に改善している。これは、加水分解ケラチンで処理した毛髪(比較例1及び2)と比較して、前記アミノエチルジスルフィドケラチンが毛髪組織を効果的に修復することで、塩基性染毛料による染色性を向上することができることを示している。具体的には、該アミノエチルジスルフィドケラチンは、毛髪損傷によって発生したシステイン酸(-SO )に対して効率的に吸着することができるため、毛髪の電気的バランスを整えることにより、染毛性及び均染性が向上したと推察される。更に、アミノエチルジスルフィドケラチンが毛髪組織を強化することで牢閉性が向上し、塩基性染料が毛髪内部から流出し難くなったと推察される。
【0067】
上述の通り、理美容室等の1つの施術として、毛髪損傷修復及び染毛を同時に行える前記毛髪処理方法は用途が広く実用的であり、美容業界の分野において利用価値が高い。