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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】除電装置
(51)【国際特許分類】
   H05F 3/04 20060101AFI20221104BHJP
   H01T 19/04 20060101ALI20221104BHJP
   H01T 23/00 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
H05F3/04 D
H01T19/04
H01T23/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018135224
(22)【出願日】2018-07-18
(65)【公開番号】P2020013704
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183738
【氏名又は名称】春日電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002446
【氏名又は名称】特許業務法人アイリンク国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076163
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋 宣之
(72)【発明者】
【氏名】岡村 善次
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-115559(JP,A)
【文献】特開2012-079531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05F 3/04
H01T 19/04
H01T 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータによって搬送される除電対象であるシートの少なくとも一方の面に対向するとともに、このシートの幅方向に沿って設けられた放電電極が備えられた除電装置であって、
上記放電電極に印加する電圧を制御する電圧制御手段と、
上記シートの搬送速度が、スタートから定常速度になるまでのスタート時、及び上記定常速度から停止するまでの減速時における上記シートの搬送速度を検出し、検出値である速度信号を上記電圧制御手段に対して出力する速度検出手段とを備え、
上記電圧制御手段は、上記スタート時及び減速時に上記速度検出手段から入力された速度信号に応じて上記放電電極への印加電圧を制御する除電装置。
【請求項2】
上記シートを挟んで対向する位置に、互いに逆極性となる放電電極を備え、
上記電圧制御手段は、上記速度検出手段から出力される速度信号に応じて互いに逆極性となる放電電極への印加電圧を制御する請求項1に記載の除電装置。
【請求項3】
上記各放電電極は、複数の針電極を所定の間隔を保って一直線状に配置してなる請求項1または2に記載の除電装置。
【請求項4】
上記電圧制御手段には、帯電物体の搬送速度と上記各放電電極に対する印加電圧値との対応テーブルが設定され、
上記電圧制御手段は、上記速度信号と上記対応テーブルとに基づいて、上記放電電極への印加電圧を制御する請求項1~3のいずれか1に記載の除電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、シートを搬送しながら除電するための除電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、搬送されるシートの表面を除電する除電装置が知られている。
例えば特許文献1に記載された除電装置は、シート製品の製造現場において、繰り出しローラから引き出されたシートが、巻き取りローラで巻き取られる搬送経路に沿って設けられるもので、放電によって生成されたイオンによってシート表面の電荷を中和するものである。
そして、上記除電装置には、シートの搬送経路に沿って複数の放電電極が配置されている。
【0003】
このような除電装置において、生成されるイオン量は、放電電極に印加する電圧に依存する。すなわち、印加電圧が高いほど生成イオン量が多くなり、印加電圧が低ければ生成イオン量は少なくなる。
一方、シート表面を除電するために必要なイオン量はシートの搬送速度に依存する。帯電したシートの搬送速度が速ければ、単位時間に除電装置を通過するフィルム上の電荷量が多く、中和に必要なイオン量も多くなり、搬送速度が遅ければ、除電装置を単位時間内に通過する電荷量が少なく、中和に必要なイオン量が少なくなるからである。
【0004】
したがって、上記のような除電装置では、予め、シートの定常速度に基づいて放電電極に対する印加電圧を設定していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-263173号公報
【文献】特開昭63-301495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、従来の除電装置では、放電電極への印加電圧をシートの定常速度に応じて固定的に設定していたため、次のような不都合が生じることがあった。
シートの除電処理を行なう工程では、繰り出しローラから引き出されたシートを搬送経路に沿って引き回し、その先端を巻き取りローラに連結してから、電動モータをオンにして搬送をスタートさせる。
しかし、電動モータはスイッチをオンにしても、すぐに定常速度にはならない。
そのため、搬送スタート時には、シートの速度はゼロから徐々に速度を上げ、定常速度に達するまで、定常速度より低速で搬送されることになる。
【0007】
ところが、このような低速搬送時であっても、放電電極には定常速度に基づいた設定電圧が印加されている。そのため、放電電極で生成されるイオン量が過剰となって、フィルム表面を逆帯電させてしまうことがある。
また、フィルムの搬送を停止させる際には、電動モータのスイッチをオフにして急停止させたのでは、搬送中のシートにダメージを与えることになるので、徐々に減速するようにしている。その減速運転中も、搬送速度は定常速度より低速になっているので、生成イオンが過剰になって逆帯電部分ができてしまう。
【0008】
上記のような逆帯電部分は除電不良領域となるため、この除電不良領域に対応したシートの先端側と後端側の部分はカットしなければならない。除電不良領域をそのまま使用したのでは、不良品になってしまう可能性がある。
特に、搬送スタート時に発生する除電不良領域は、巻き取りローラの芯側に入り込んでしまう。それを購入したユーザーは、巻き取りローラからシートを引きだして使用する際に、後端側となる上記除電不良領域を廃棄しなければならない。この廃棄部分が多ければ、材料が無駄になるだけでなく、その処理に手間がかかるという問題があった。
【0009】
このことは、シートの搬送速度の減速時にも起こることで、搬送されるシートの後端側も廃棄しなければならない。
そして、シートの除電不良領域は目視ではわからないので、それを使用することがないようにするため、通常は端部側を多めに廃棄する。そのため、廃棄量が多くなって、材料の無駄が多くなるうえ、廃棄場所の確保が必要であるという問題もあった。
一般に、樹脂製シートの製造現場では、搬送速度は数百[m/分]の高速になることが多く、スタートから定常速度に達するまでに数分を要するだけでも、数[km]の長さのシートを廃棄しなければならないことになる。
【0010】
この発明の目的は、シートの搬送のスタート時や停止時の低速搬送時に、シート表面を逆帯電させない除電装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、電動モータによって搬送される除電対象であるシートの少なくとも一方の面に対向するとともに、このシートの幅方向に沿って設けられた放電電極が備えられた除電装置であって、上記放電電極に印加する電圧を制御する電圧制御手段と、上記シートの搬送速度が、スタートから定常速度になるまでのスタート時、及び上記定常速度から停止するまでの減速時における上記シートの搬送速度を検出し、検出値である速度信号を上記電圧制御手段に対して出力する速度検出手段とを備え、上記電圧制御手段は、上記スタート時及び減速時に上記速度検出手段から入力された速度信号に応じて上記放電電極への印加電圧を制御する構成にしている。
なお、上記シートには、電動モータによって搬送可能な、帯状の樹脂製フィルムや紙などが含まれるが、その材質は限定されない。
【0012】
第2の発明は、上記シートを挟んで対向する位置に、互いに逆極性となる放電電極を備え、上記電圧制御手段が、上記速度検出手段から出力される速度信号に応じて互いに逆極性となる放電電極への印加電圧を制御する。
【0013】
第3の発明は、上記各放電電極が、複数の針電極を所定の間隔を保って一直線状に配置してなることを特徴とする。
【0014】
第4の発明は、上記電圧制御手段には、帯電物体の搬送速度と上記各放電電極に対する印加電圧値との対応テーブルが設定され、上記電圧制御手段は、上記速度信号と上記対応テーブルとに基づいて、上記放電電極への印加電圧を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、シートの搬送速度に応じて放電電極への印加電圧が制御されるので、搬送速度が定常速度よりも遅くなったとしても、逆帯電領域ができることがない。したがって、材料の無駄や、廃棄処理の手間などを少なくできる。
また、逆帯電部分が混入した不良品を製造してしまう可能性もなくなる。
【0016】
第2の発明によれば、シートを挟んで配置された逆極性の放電電極によって形成される電界で、シート表面にイオンを導くことができる。そのため、放電電極で生成されたイオンを効率的に除電に寄与させることができる。
【0017】
特に、シート表面が、細かい複雑な帯電模様を形成するような帯電状態では、全体の平均的な表面電位がゼロに近くなるため、シート表面の帯電電荷によって除電用のイオンを引き付けることができないが、この発明によれば、このような状態のときにも、シート表面にイオンを導いて除電することができる。
そして、逆極性の放電電極で形成される電界によってシート表面にイオンを導くようにしながら、搬送速度が低速になったときには、放電電極への印加電圧を制御して過剰イオンの生成を抑制できるので、逆帯電を防止できる。
【0018】
第3の発明によれば、シートの幅方向の放電状態を安定させることができる。例えば、ワイヤーや棒状の放電電極の場合には、放電電極にたわみが発生して、部分的にシート表面との距離が変化してしまうことがある。このようにシート表面と放電電極との距離が不均一になると、放電状態が幅方向で不均一なったり、放電状態が不安定になったりしてしまうことがあるが、針電極を所定間隔で設ければそのようなことがない。
また、逆極性の針電極を対向させた場合には、針電極の先端位置に電界が集中することになるが、搬送速度に応じて印加電極を適正に制御することで、電界集中個所が逆帯電することを防止できる。
【0019】
第4の発明によれば、予め設定された、搬送速度と印加電圧値との対応テーブルに基づいて、放電電極への印加電圧を制御できる。
なお、上記対応テーブルは、特性が異なる除電対象ごとに実験によって作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明の実施形態の全体概略図である。
図2】実施形態の除電装置の主要部の構成を示す概略図である。
図3】実施形態の電圧制御手段に設定された速度と印加電圧との対応テーブルである。
図4】速度と印加電圧との対応テーブルの他の例である。
図5】針電極による逆帯電状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1図4を用いてこの発明の一実施形態を説明する。
図1は、樹脂製の幅広シートのロールR1から引き出したシートSの幅を、スリッター1でカットして、幅の狭いシートロールR2を製造する工程の全体図である。
なお、シートSの幅とは、シートSの搬送方向に直交する方向である。
この工程では、幅広のロールR1を繰り出しローラ2にセットし、引き出したシートSを複数のローラ3~7に掛け回した後、幅を狭くカットされたシートSを、巻き取りローラ8,9にセットされた図示しないロール芯で巻き取って幅の狭いシートロールR2とするものである。
【0022】
上記ローラ2~9には、それぞれ電動モータMの駆動軸が連結され、シートSを搬送するようにしている。
そして、シートSの搬送過程には、シートSの表面を除電するための除電装置10が設けられようにしている。
【0023】
また、除電装置10の下流側に、上記スリッター1が上記ローラ7に対向して設けられている。このスリッター1はシートSの幅方向に所定の間隔を保つとともに、シートSの搬送方向に沿った複数の刃を備えた装置である。
一方、上記ローラ7の外周面には、スリッター1の刃の先端に対応する位置に環状凹部が形成されている。このローラ7の環状凹部に対応する位置において、ローラ7に掛けまわされたシートSに接触するようにスリッター1の刃をセットし、ローラ7とスリッター1との間を通過する幅広のシートSが、スリッター1の刃の間隔に対応した幅にカットされるようにしている。
【0024】
なお、図1では幅の狭いシートロールR2を2個しか示していないが、スリッター1の下流側にはスリッター1の刃の数に対応した数の幅の狭い帯状シートが作成されるので、その帯状シートの数に応じたシートロールR2とそれを支持する巻き取りローラが設けられている。
また、ローラ4,5間には除電装置10の除電部11が設けられるとともに、その上流側のローラ4にはシートSの搬送速度を検出する速度センサ12が接続されている。この速度センサ12は、ローラ4の回転数から搬送速度を検出するセンサで、その検出値を速度信号として、後で説明する制御装置13に入力する。
【0025】
なお、速度検出手段としては、ローラの回転数を測定するもののほか、シートSの速度を非接触で検出するものなど、その検出原理はどのようなものでも構わない。
ただし、ローラの回転数に基づいて搬送速度を検出する速度センサ12は、ローラ4のように、シートSが直接接触して回転するローラに接続しなければならない。シートロールR1,R2のようにシートSの巻き数が変化するローラの回転数は、搬送速度に比例しないからである。
【0026】
次に、除電装置10について詳細に説明する。
この除電装置10は、搬送されるシートSに沿って設けられた除電部11、この除電部11に対して制御信号を送信する制御装置13及び速度センサ12で構成されている。
上記除電部11には、シートSの一方の面側に、搬送方向に沿って、正の電圧が印加される正の放電電極14,16,18,20,22と、負の電圧が印加される負の放電電極15,17,19,21とが交互に配置されるとともに、シートSの他方の面側には、上記放電電極14~22と逆極性となる放電電極23~31が配置されている。なお、図2では、各放電電極14~31に印加される電圧の極性を、符号「+」または「-」で示している。
【0027】
すなわち、シートSを挟んで対向する位置に互いに逆極性となる放電電極の組が、搬送方向に沿って9組設けられている。
なお、上記放電電極14~31は、シートSの幅方向に長さを有するバー状電極である。この実施形態では、上記放電電極は、バー状のケース内に複数の針電極を所定の間隔を保って一直線状に配置して形成され、針の尖端をシートSに対向させたもので、1本の放電電極を構成する全ての針電極に同じ電圧が印加されるようにしている。
【0028】
また、上記各放電電極には、正または負の電圧を印加するための電源部32が接続されている。この電源部32は、電源回路P1~P9で構成され、これら電源回路P1~P9のそれぞれが、シートSを介して対向する放電電極14,23、放電電極15,24、放電電極16,25、放電電極17,26、放電電極18,27、放電電極19,28、放電電極20,29、放電電極21,30、放電電極22,31、に接続されている。
上記電源回路P1~P9は、正負の直流高電圧を出力可能な回路で、例えばコンセントから供給される交流電圧を、放電可能な直流高電圧に変換して出力する正負の出力端子を備えた回路である。
【0029】
そして、各電源回路P1~P9の正の出力端子が正の放電電極に接続され、負の出力端子が負の放電電極に接続されている。
また、上記電源部32には、電圧制御手段である制御装置13が接続され、この制御装置13が、各電源回路P1~P9によって放電電極に印加される正負の電圧値を制御する。正または負の電圧を印加された各放電電極は、印加電圧に応じた正または負のイオンをシートSに向かって放出し、このイオンによってシートSの表面が除電される。
【0030】
また、この実施形態の制御装置13には、速度センサ12からシートSの搬送速度uに対応する速度信号が入力されるが、制御装置13は、この速度信号に応じて電源部32の各電源回路P1~P9からの出力電圧、すなわち各放電電極への印加電圧を制御するようにしている。
例えば、制御装置13には、シートSの搬送速度に印加電圧値を対応づけた対応テーブルを設定し、制御装置13は、速度センサ12から入力された速度信号と上記対応テーブルとに基づいて、電源部32を制御する。
【0031】
図3は、搬送速度と各電源回路の印加電圧値との対応テーブルの一例である。
ここでは、シートSの搬送速度を、0以上u1未満、u1以上u2未満、u2以上u3未満、u3以上の4つの速度領域に分類し、各速度領域に電源回路P1~P9から出力される印加電圧値E1~E4を対応づけている。
【0032】
そして、各電源回路P1~P9から出力される正の電圧と負の電圧が、それぞれ、シートSを挟んで対向する放電電極に印加される。
例えば、シートSの搬送速度がu1未満のときには、電源回路P1から出力される正の電圧+E1がシートSの一方の面側の放電電極14に印加されるとともに、電源回路P1から出力される負の電圧-E1が上記放電電極14と対向する放電電極23に印加され、電源回路P2から出力される負の電圧-Eが放電電極15に印加され、正の電圧+E1が放電電極24に印加される。
【0033】
上記対応テーブルにおいて速度領域に対応づけられた電圧値は、シートSの搬送速度が高速になるにしたがって大きく設定されている。帯電したシートSの搬送速度が速いほど、それを除電するために単位時間あたりに必要なイオン量が多くなるからである。そして、最大速度領域を、上記モータMによって搬送されるシートSの定常速度に対応させている。
【0034】
また、上記対応テーブルは、実際に除電対象であるシートSを搬送しながら除電する実験によって作成する。実験では、シートSの搬送速度と放電電極への印加電圧とを変化させてシートSの表面の帯電状態を測定する。そして、搬送速度ごとに、過不足なく除電できる印加電圧値を特定し、その電圧値と搬送速度とを対応付けて上記対応テーブルを作成する。
なお、シートSの表面の帯電状態は、正に帯電したカラートナーと負に帯電したカラートナーとを静電付着させることによって測定できる。シートSの表面が、完璧に除電されれば、正のトナー及び負のトナーはほとんど付着しない。また、付着したトナーの色によって、帯電極性を知ることもできる。
【0035】
この実施形態の制御装置13は、上記したようにして作成された対応テーブルと速度センサ12から入力された速度信号uとに基づいて、放電電極への印加電圧を制御している。
例えば、上記各電動モータMのスタート時であって、シートSが定常速度に達するまでの低速状態のときには、その低速に応じた電圧が放電電極に印加される。
また、シートSを停止させるための減速運転中にも、その時の搬送速度に応じた電圧が放電電極に印加される。
【0036】
したがって、シートSが低速搬送中であっても、放電電極から放出されるイオン量が過剰になることがなく、従来のように逆帯電させることを防止できる。
そのため、搬送速度の加減速時に除電不良領域ができてしまうことがなく、除電不良領域の廃棄の手間や材料の無駄をなくすことができる。
【0037】
さらに、この実施形態では、上記除電装置10の下流側に、正のイオンと負のイオンとを同時に放出する放電電極33が設けられている。放電電極33は、正の電圧が印加される針電極と負の電圧が印加される針電極とを交互に配置して構成され、これらの電極針に直流電源34の正の出力端子と負の出力端子とが交互に接続されている。
この放電電極33から放出される正負のイオンは、上記放電装置10で除電しきれずにわずかに残った電荷を中和するものであるが、必須のものではない。
【0038】
なお、この実施形態では、電源回路P1~P9から出力される印加電圧の絶対値を全て等しくしている。しかし、電源回路ごとに異なる電圧値を設定することもできる。例えば、搬送方向に沿って上流側から下流側に向かって印加電圧の大きさを小さくし、放出されるイオン量を徐々に少なくして、上流側で除電されたシートSに対して放出されるイオンが過剰にならないようにできる。
また、シートSの特性によっては、放電電極14~31の全てに電圧を印加しなくても除電ができる場合もある。そのような場合には、上記対応テーブルにおいて一部の放電電極に対応した電源回路の電圧値をゼロに設定すればよい。
【0039】
さらに、電源回路P1~P9を複数の電源グループにグループ分けして、電源グループごとに印加電圧を制御するようにしてもよい。例えば、図4に示す対応テーブルは、電源回路P1~P9を3つの電源グループG1~G3に分け、その電源グループG1~G3ごとに印加電圧を対応づけたテーブルである。このように電源グループを作成した場合にも、シートSの搬送速度と各電源グループに設定する印加電圧値との対応関係は実験によって求めるもので、全ての電源グループに同じ電圧を設定する必要はない。
そして、上記電源回路の数や電源グループの数はこの実施形態のものに限定されない。
また、速度領域の区分数もいくつでも構わないが、速度の区分数を多くすればするほど、わずかな速度変化にも対応した印加電圧の制御ができ、過不足なく完璧な除電ができることになる。
【0040】
なお、この実施形態では、制御装置13は予め設定され上記対応テーブルによって、速度センサ12から入力された速度信号に対応する印加電圧値を特定し、各放電電極への印加電圧を制御しているが、対応テーブルの代わりにシートSの速度をパラメータとして印加電圧値を算出する演算式を用いてもよい。制御装置13は、速度センサ12から入力された速度信号の値を上記演算式に代入して算出された電圧値を放電電極に印加する。上記演算式も、実験によって決めることができる。
【0041】
さらに、上記実施形態では、シートSを挟んで放電電極を設けるとともに、対向する放電電極の極性を逆極性にしているが、放電電極はシートSにおける除電対象面となる一方の面側のみに設けてもよい。
ただし、図2に示すこの実施形態のように、シートSを挟んで互いに逆極性となる放電電極を配置した場合には、対向する電極間に形成される電界によって各放電電極から放出されたイオンがシートSの表面に導かれることになる。そのため、生成されたイオンを無駄なく除電に寄与させることができる。
【0042】
特に、シートSの表面に細かい複雑な帯電模様が形成されている場合には、シートSの表面が全体として中和状態に見なせるため、正または負のイオンを引き付ける吸引力が弱くなってしまうが、他方の面に逆極性の放電電極を設けることによって、イオンをシート表面に導くことができ、除電によって上記のような帯電模様も消すことができる。
一方で、シートSの表面へイオンを導く力が強ければ、その分、イオン濃度が高くなるので、搬送速度が低下したときに逆帯電しやすくなるが、上記のように、搬送速度に応じて放電電極への印加電圧を制御すれば逆帯電は防止できる。
【0043】
また、この実施形態では、各放電電極を所定の間隔を保って配置された複数の針電極で構成しているが、放電電極の形態はこれに限らない。
シートSの幅方向に沿ったワイヤーや棒状の電極でも構わない。ただし、シートSの幅が大きく、電極の長さが長くなったとき、ワイヤーや棒部材では中間が弛んでしまって、シートSの幅方向の均一な放電が維持できない可能性がある。そのため、幅広のシートSを均一に除電するためには、針電極を用いることが好ましい。
【0044】
一方、シートSを挟んで互いに逆極性となる針電極を対向させた場合には、その尖端が対向する位置に電気力線が集中してイオンが集中する。そのため、シートSの搬送速度に応じた印加電圧の制御をしない従来の除電装置では、針電極の尖端が対向する位置に過剰なイオンが集中して、図5に示すようにシートSの表面には、逆帯電によって、矢印で示した搬送方向に沿った線状の帯電部Lができてしまう。
なお、上記帯電部Lは目視では確認できないが、帯電したカラートナーを付着させることによって図示のように可視化することができる。
【0045】
図5のような線状の帯電部Lが形成されると、それを下流側の放電電極で完全に除電することは難しい。なぜなら、例えば正の針電極の尖端に対応する位置に形成された線状の正の帯電部Lに、搬送方向下流側に設けられた負の針電極の尖端位置を正確に対向させることは難しいからである。正の帯電部Lと負の針電極の位置とがずれた状態で、負の電極針から過剰な負のイオンが放出され、それが針電極の尖端に対応する位置に集中すれば、正の帯電部Lが除電されないだけでなく、新たに負の帯電部ができてしまうこともある。このような帯電部が除電不良領域になってしまう。
しかし、この実施形態では、シートSの搬送速度に応じた印加電圧制御をしているので、針電極を用いた場合にも図5に示すような逆帯電による帯電部Lを形成することがない。
【0046】
なお、上記放電装置10における放電電極の数や正負の配置は特に限定されない。
通常、除電対象は、正負が入り混じって帯電している場合が多いので、正の放電電極と負の放電電極とを設けることが好ましいが、処理対象が正負いずれか一方に帯電していることが明らかな場合には、正の放電電極あるいは負の放電電極のいずれか一方を設けるようにしてもよい。
また、放電電極の数も、処理対象の特性に応じて決めればよい。
【0047】
さらに、処理対象であるシートSの厚さや材質は限定されない。
また、上記では、幅の広いシートロールR1から引き出したシートを、スリッター1でカットして幅の狭いシートロールR2に形成する工程中に除電装置10を設けているが、上記除電装置10はシートのカット工程だけでなく、搬送されるシートの除電を必要とする様々な工程に設けることができる。例えば、デジタル印刷機に設けて、印刷工程で帯電したシートを除電して排出させることもできる。
【0048】
さらに、搬送されるシートはロール状に巻かれたものに限らない。例えば折り畳み状態の長尺シートを引きだして搬送してもよい。除電後もロールに巻き取るのではなく、折り畳んだり、所定長さにカットして重ねたりしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
搬送方向に連続する、様々な用途に用いられるシートの表面を確実に除電することができる。
【符号の説明】
【0050】
S シート
12 (速度検出手段)速度センサ
13 (電圧制御手段)制御装置
14~31 放電電極
10 除電装置
図1
図2
図3
図4
図5