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特許7169645生体組織中の異種抗原を不活性化する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】生体組織中の異種抗原を不活性化する方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/36 20060101AFI20221104BHJP
   A61F 2/02 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
A61L27/36 410
A61L27/36 100
A61F2/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018546756
(86)(22)【出願日】2016-11-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-02-14
(86)【国際出願番号】 EP2016078898
(87)【国際公開番号】W WO2017093147
(87)【国際公開日】2017-06-08
【審査請求日】2019-11-07
(31)【優先権主張番号】102015000078236
(32)【優先日】2015-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】518186735
【氏名又は名称】バイオコンパティビリティ イノベーション エッセエッレエッレ
【氏名又は名称原語表記】BIOCOMPATIBILITY INNOVATION SRL
【住所又は居所原語表記】Via Enrico Petrella,4,35132,Padova(IT)
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ナーゾ,フィリッポ
(72)【発明者】
【氏名】ガンダリア,アレッサンドロ
【審査官】一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/047620(WO,A2)
【文献】特表2003-520825(JP,A)
【文献】特表2014-516695(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0087611(US,A1)
【文献】国際公開第2007/133479(WO,A2)
【文献】New Food Industry, Vol.27, No.2(1985), p.53-60
【文献】Journal of Heart Valve Desease,2015年01月,Vol.24, No.1,pp.92-100
【文献】Xenotransplantation,2013年,Vol.20,pp.252-261
【文献】日腎会誌,2005年,Vol.47, No.2,pp.83-93
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
A61F 2/00-4/00
A01N 1/00-1/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織中、並びに/又はヒト若しくは獣医学臨床用途のために既に調製及び意図された生体補綴代替物中の異種抗原を不活性化する方法であって、以下の工程:
-前記生体組織及び/又は生体補綴代替物からのα-Gal抗原の少なくとも一部を不活性化するために、コーヒー酸を含有する溶液を用意する工程と;
-制御された条件下、前記溶液中で、処理すべき前記生体組織及び/又は前記生体補綴代替物をインキュベートする工程と;
-前記処理された生体組織及び/又は生体補綴代替物を一連の洗浄に供する工程と;
を伴うことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記生体組織が天然、または天然および固定、または固定結合組織によって構成されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生体組織が異種性又は同種性であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記制御された条件が、少なくとも40±2℃の温度での処理を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ヒト又は獣医学臨床分野で使用するための、生体補綴代替物及び/又は生体補綴代替物の部分を製造する方法であって、以下の工程:
-生体組織からのα-Gal抗原の少なくとも一部を不活性化するために、コーヒー酸を含有する溶液を用意する工程と;
-制御された条件下、前記溶液中で、処理すべき前記生体補綴代替物及び/又は前記生体補綴代替物の部分をインキュベートする工程と;
-前記処理された生体補綴代替物及び/又は生体補綴代替物の部分を一連の洗浄に供する工程と;
を伴い、
前記生体補綴代替物及び/又は生体補綴代替物の部分は、不活性型のα-Gal抗原の少なくとも一部を有することを特徴とする、方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の生体組織中の異種抗原を不活性化する方法を実施するためのキットであって、少なくとも
-最も適切な用量のコーヒー酸が溶解される緩衝液を含有する1又は複数の容器;
-緩衝液と組み合わせるための粉末形態の前記用量のコーヒー酸を含有する1又は複数の容器;
-洗浄緩衝液を含有する1又は複数の容器;
-処置を施すタイミング及び様式の説明を含む取扱説明書
を含むことを特徴とする、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織中の異種抗原を不活性化する、特にヒト又は獣医学臨床分野での使用を意図した生体補綴代替物を製造するために使用することができる組織中の異種抗原を不活性化する方法に関する。
【0002】
特に、本発明は、フェノール化合物、ポリフェノール化合物、及びそれらの誘導体での確認された生物学的活性の使用を通した、特に心血管組織における、天然及び/又は固定、異種又は同種の結合組織中の異種抗原、特にα-Galエピトープの不活性化を保証する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
生体補綴代替物の製造は、現在、大きな拡大を遂げている市場である。移植片と宿主との間の相互作用機構の深い知識と組み合わせた、外科手術の臨床的改善、術後合併症の減少、新しい免疫調節薬の開発及び管理は全て、可能な場合には動物又は同種組織によって構成された生体補綴の使用を促進するのに寄与している。この意味において、代表的であるが非限定的な1つの部門は、特に心臓弁置換術の確立された実践が引き起こし得る社会的及び健康的な影響の観点で、心血管部門である。
【0004】
生物医学技術は、機能不全の天然弁の開閉機能を模倣することができる弁補綴を置換目的で開発及び外科的に適用することができる。
【0005】
理想的な弁補綴は、アナログオリジナルの健康な弁と重ねることができ、長寿命を保証し、溶血効果も血栓形成効果も生じさせないトランス弁流を可能にするはずである。
【0006】
最もよく使用される弁代替物は、異種組織、特にブタ弁又はウシ若しくはウマ心膜で製造された弁から得られる生体補綴である。
【0007】
このような弁補綴及び代替物は、石灰化ジストロフィーの変性過程及び/又はカスプの破損による劣化に遭遇し、心内膜感染症の発症に対してより高い感受性を示すという欠点を有する。それらの機械的特性を改善し、固有の抗原性を減少させ、保存を可能にする目的で、それらを通常、非排他的な例としてグルタルアルデヒド等の架橋剤/滅菌化学剤で処理する。更に、これらを脱灰又は無毒化プロトコルによる処理に供することができる。
【0008】
「異種組織」という用語は、ヒト以外の種の生物に属する組織を意味する。即ち、このような材料は、起源の種の内部で許容されるが、ヒトに移植されると不適合性である特異的表面抗原を有し、十分に処理されなければ、血小板凝集を伴う補体カスケードの活性化を誘引し、血液型不適合の場合に起こるのと同様の状況がもたらされ得る。
【0009】
このような現象は、「超急性拒絶」という用語によって知られている。このような機構の開始の主な原因は、α-Gal異種抗原の存在である。このエピトープは、膜糖タンパク質及び糖脂質(主に内皮細胞の)上、並びに単球、顆粒球、及び赤血球等の異なる細胞型上、並びに心筋及び骨領域等の重要な組織中に存在するジ-ガラクトシド(ガラクトース-α1,3-ガラクトース)である。このような重大な抗原は、高等霊長類及びヒトを除いて、全ての哺乳動物において構成的に発現される。
【0010】
人体は、誕生から、腸内細菌叢による連続的刺激の結果として、このようなエピトープに対する抗体を発現する。
【0011】
今日、バイオプロテーゼを製造するのに使用することを意図した異種組織の生体適合性は、上記グルタルアルデヒドで処理することによって得られる。
【0012】
このような手順にもかかわらず、α-Galエピトープは、現在販売されている弁代替物において反応性を維持し、移植後に小児患者と成人の両方で循環する抗α-Gal抗体の増加を引き起こすことが示されている。
【0013】
更に、形成される抗原-抗体複合体は、弁の石灰化ジストロフィー発現の形成を支持する、カルシウム塩の沈着の促進に直接関与するようである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の狙いは、従来の治療の限界を克服することができる生体組織中の異種抗原を不活性化する方法を提供することである。
【0015】
この狙いの範囲内で、本発明の目的は、ヒト又は獣医学臨床分野で使用するために、生体補綴代替物を製造するために使用することができる、天然及び/又は固定、異種又は同種の結合組織に適用することができる方法を提供することである。
【0016】
本発明の更なる目的は、心血管組織中のα-Galエピトープの不活性化を保証するように適合された、生体組織中の異種抗原を不活性化する方法を提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、上記のエピトープを不活性化し、よって、現在市販されている種々の異なるタイプの生体補綴代替物に適用することができる有効な処理を保証する生体組織における異種抗原を不活性化する方法を提供することである。
【0018】
本発明の別の目的は、移植後、循環抗α-Gal抗体の増加を支持しない方法を提供することである。
【0019】
本発明の別の目的は、カルシウム塩の沈着を促進せず、そのため弁の石灰化ジストロフィー発現の形成を制限する方法を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、従来の装置及び機械で実施することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
以下で更に明らかになるこの狙い並びにこれらの及び他の目的は、生体組織中、特に生体補綴代替物を製造するために使用することができる組織中並びに/又はヒト若しくは獣医学臨床用途のために既に調製及び意図された生体補綴代替物中の異種抗原を不活性化する方法であって、以下の工程:
-前記組織からの異種エピトープの少なくとも一部を不活性化するために、フェノール化合物、ポリフェノール化合物、又はそれらの誘導体に基づく溶液を用意する工程と;
-制御された条件下、フェノール/ポリフェノールに基づく種々の溶液中で処理すべき試料をインキュベートする工程と;
-処理された組織を一連の洗浄に供する工程と
を伴うことを特徴とする方法によって達成される。
【0022】
本発明はまた、上記の本発明による生体組織中の異種抗原を不活性化する方法で得られる結合組織であって、不活性型の抗原成分の少なくともいくらかを有することを特徴とする結合組織に関する。
【0023】
本発明はまた、ヒト又は獣医学臨床分野で使用するための、既に調製された生体補綴代替物及び/又は生体補綴代替物の部分を製造するための、上記の本発明による生体組織中の異種抗原を不活性化する方法で得られた結合組織の使用に関する。
【0024】
本発明はまた、上記の本発明による生体組織中の異種抗原を不活性化する方法を実施するためのキットであって、少なくとも
-最も適切な用量のフェノール化合物、ポリフェノール化合物、又はそれの誘導体が溶解される緩衝液を含有する1又は複数の容器;
-緩衝液と組み合わせるための粉末形態の前記用量のフェノール化合物、ポリフェノール化合物、又はそれらの誘導体を含有する1又は複数の容器;
-洗浄緩衝液を含有する1又は複数の容器;
-処置を施すタイミング及び様式の説明を含む取扱説明書
を含むことを特徴とするキットに関する。
【0025】
本発明の更なる特徴及び利点は、本発明による生体組織中の異種抗原を不活性化する方法の、好ましいが排他的ではない実施形態の以下の詳細な説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明による方法の適用の百分率での結果を、その適用の第1の変形で示す図である。
図2】本発明による方法の適用の百分率での結果を、その適用の第2の変形で示す図である。
図3】本発明による方法の適用の百分率での結果を、その適用の第3の変形で示す図である。
図4】本発明による方法の適用の百分率での結果を、その適用の第4の変形で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
定義
「フェノール化合物」の用語は、少なくともその一部が、1又は複数のヒドロキシル官能基に結合した芳香族核(ベンゼン環)の存在によって特徴付けられる分子を指す。上記の化合物には、排他的ではない例として、単純フェノール(単一のベンゼン環を有し、ヒドロキシル基のみを置換基として含む分子、例えばフェノール及びヒドロキノン)、フェノールアルデヒド(フェノール基とアルデヒド基の両方を含む、例えばバニリンアルデヒド(aldeide vanillica))、フェノール酸(例えば桂皮酸)、フェニルアミン(弱酸性基および強塩基性基を含む両性分子、例えばフェニルアラニン)、フェノール化合物(フェノール環が別のベンゼン環又はヒドロキシル/ラクトン/ケトン官能基を有する他の複素環化合物に結合している、例えばクマリン及びキサントン)、フラボノイド(酸素化複素環を構成する3つの炭素原子を有する鎖によって連結された2個のベンゼン環で構成される、例えばカテキン、フラボノン、フラボン、カルコン、フラバノノール、フラバノール、ロイコアントシアニジン、アントシアニジン)、フェニルプロパノイド(3個の炭素原子を有する脂肪族側鎖を有する芳香環の存在を特徴とする、例えばヒドロキシ桂皮酸)、並びにタンニンが含まれる。本発明において、「フェノール」及び「ポリフェノール」の用語は同じ意味を有することができ、一緒に使用することも、あるいは設定される狙いのために互いに取って代わることもできる。
【0028】
「異種抗原」の用語は、免疫によって認識され、ヒト宿主生物において抗体/免疫媒介性/炎症反応を誘導することができる動物起源の分子を指す。本発明において、「異種抗原」、「抗原」、「異種性抗原」、「エピトープ」、及び「重要抗原」の用語は、同じ意味を有することができ、一緒に使用することも、あるいは互いに取って代わることもできる。
【0029】
「結合組織」の用語は、とりわけ、血管、心臓弁、腱、靭帯、心膜、筋膜、硬膜、鼓膜、腸粘膜下層、軟骨、脂肪組織、及び骨組織を含む。
【0030】
「固定」組織の用語は、化学的又は生物学的作用物質、例えば非限定的な例として、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、及びケルシチンの作用に供された組織を含む。
【0031】
「固定」組織の用語は、化学物質又は生物学的作用物質の作用に供され、タンパク質、脂質、及び細胞構造を安定化させる、並びに宿主の潜在的な抗原作用を低下させる機能を有する組織内架橋を発達させる組織を含む。本発明の記載において、「固定」及び「架橋」の用語は、同じタイプの処理を記載することができる、及び/又は同じ意味を有し、一緒に使用することも、あるいは互いに取って代わることもできる。
【0032】
「異種」組織の用語は、ヒト以外の起源の組織を意味する。
【0033】
このような組織は、その再生特性を増強する処理(例えば、純粋に例示的な目的のために、脱細胞化手順又は細胞成分のための再生促進性(pro-regenerative)/保存性物質のコーティング/吸収のための手順)に供する代わりに、天然として又は未処理で臨床用途に提供することができる。本発明の記載において、「異種性(heterologous)」の用語は、「異種性(xenogeneic)」と同じ意味を有することができ、これらは一緒に使用することも、あるいは互いに取って代わることもできる。
【0034】
「同種」組織の用語は、ヒト起源の組織を意味する。このような組織は、保存処理(例えば、純粋に例示的な目的のために、凍結保存)又はその再生特性を増強する処理(例えば、純粋に例示的な目的のために、脱細胞化手順又は細胞成分のための再生促進性(pro-regenerative)/保存性物質のコーティング/吸収のための手順)に供する代わりに、天然として又は未処理で臨床用途に提供することができる。
【0035】
「脱細胞化手順」の用語は、非限定的な例として、生理食塩水(高張性、等張性、又は低張性)、洗浄溶液(イオン性、非イオン性、又は両性イオン性)、及び酵素を使用する全ての個々の又は複数の処理を意味し、その目的は元の組織中に存在する細胞成分の部分的、選択的、又は完全な除去である。
【0036】
「生体補綴代替物」の用語は、ヒト又は獣医学臨床用途を意図した、生物の欠落した部分(肢、臓器、若しくは組織)を置換する、あるいは損傷部分を統合するよう適合した生物学的装置を特定する。本発明の記載において、「生体補綴代替物」、「バイオプロテーゼ」、「生体補綴」、又は「装置」の用語は同じ意味を有することができ、一緒に使用することも、又は互いに取って代わることもできる。
【0037】
「α-Gal抗原のノックアウト動物」の用語は、α-ガラクトシルトランスフェラーゼ酵素をコードする遺伝子がサイレンシングされた動物を意味する。このような酵素は、α-Galエピトープの膜糖タンパク質及びリポタンパク質を攻撃する役割を果たす。その欠如は、当のエピトープを完全に欠き、この点では、ヒトの体の組織に完全に匹敵する組織の産生をもたらす。本発明では、α-Gal抗原のノックアウト動物血管組織が絶対的陰性対照として使用されている。
【0038】
以下は、本発明による方法の適用のいくつかの非限定的な例である。
【0039】
本発明による生体組織、特に生体補綴代替物を製造するために使用することができる組織並びに/あるいはヒト又は獣医学臨床用途のために既に調製及び意図された生体補綴代替物中の異種抗原を不活性化する方法は、以下の工程:
-前記組織からの異種エピトープの少なくとも一部を不活性化するために、フェノール化合物、ポリフェノール化合物ま、又はそれらの誘導体に基づく溶液を用意する工程と;
-制御された条件下、フェノール/ポリフェノールに基づく種々の溶液中で処理すべき試料をインキュベートする工程と;
-処理された組織を一連の洗浄に供する工程と
を含む。
【0040】
この方法はまた、α-ガラクトシルトランスフェラーゼ酵素の遺伝子についての処理/未処理組織とノックアウトブタ組織との比較による、α-Galエピトープの有効な不活性化を評価するその後の手順を含む。
【0041】
このような手順は、例えば、イタリア特許第0001409783号明細書及び欧州特許第2626701号明細書に開示されるように提供することができる。
【0042】
生体組織は、天然、又は天然及び固定、又は固定であり得る結合組織によって構成される。
【0043】
生体組織は異種性又は同種性であり得る。
【0044】
抗原エピトープはα-Gal抗原によって構成される。
【0045】
インキュベーションステップの制御された条件は、40±2℃の温度で少なくとも1回の処理を含む。
【0046】
このような組織からの異種エピトープの少なくとも一部を不活性化するためのフェノール化合物、ポリフェノール化合物、又はそれらの誘導体は、桂皮酸、タンニン、及びオレウロペインの誘導体によって構成される。
【0047】
特に、また例として、桂皮酸誘導体はコーヒー酸によって構成される。
【0048】
特に、また例として、タンニン誘導体はタンニン酸によって構成される。
【0049】
特に、また例として、オレウロペイン誘導体はヒドロキシチロソールによって構成される。
【0050】
特に、また例として、桂皮酸の少なくとも1つのフェニル誘導体はコーヒー酸によって構成される。
【0051】
特に、また例として、タンニンの少なくとも1つのフェニル誘導体はタンニン酸によって構成される。
【0052】
特に、また例として、オレウロペインの少なくとも1つのフェニル誘導体はヒドロキシチロソールによって構成される。
【0053】
生体補綴代替物を製造するために使用することができる組織を意味する本発明による生体組織中の異種抗原を不活性化する方法を、本発明の非限定的な例として、以下の生体補綴代替物のモデルを構成する組織中のα-Galエピトープの不活性化に適用する:
-「HANCK」として図中に示されるHancock II(商標)ブタ心臓弁(モデルT510、Medtronic Inc.,ミネアポリス、米国);
-「FREE」として図中に示されるFreestyle(登録商標)大動脈根心臓弁(モデル995、Medtronic Inc.,ミネアポリス、米国);
-「SAV」として図中に示されるCarpentier-Edwards S.A.V.(モデル6650、Edwards Lifesciences LCC、カリフォルニア、米国);
-「PERI」として図中に示されるCarpentier-Edwards Perimount Plus(モデル6900P、Edwards Lifesciences LCC、カリフォルニア、米国);
-「CC」として図中に示されるCardioCel心血管パッチ(モデルC0404、Admedus Regen Pty Ltd、パース、オーストラリア)。
【実施例
【0054】
生体組織中の異種抗原を不活性化する、特に生体補綴代替物試料中のα-Galエピトープを不活性化する方法を、実施形態の詳細において以下で記載する。
【0055】
組織試料は、現在市販されている上記のモデルにより生体補綴代替物から採取する。このような試料を、濾光紙吸取り(30~50mgの範囲)後に湿った状態で秤量し、露出面を増加させるために小片に切断する。
【0056】
各生体補綴代替物について、4つの異なるセットの試料を調製する(各セットについてn=8)。
【0057】
各セットを異なる方法に供する。
【0058】
4つの異なる溶液を、本発明による方法の4つの異なる適用変形に対応して、フェノール誘導体に基づいて調製し、試料を最終体積5mlでこれに供する、具体的には以下の通りである:
-方法T1:[1:20]の比の5mM~50mMの濃度(本発明では、20mM濃度を採用した)のコーヒー酸/チロシナーゼ1ml当たり600±50Uのリン酸ナトリウムの緩衝液;
-方法T2:0.2±0.1MのNaOH中5mM~50mMの濃度(本発明では、20mM濃度を採用した)のコーヒー酸;
-方法T3:リン酸ナトリウム緩衝液中0.1M~1.5Mの濃度(本発明では、1M濃度を採用した)のタンニン酸;
-方法T4:0.2±0.1MのNaOH中0.3mM~10mMの濃度(本発明では、6mM濃度を採用した)のヒドロキシチロソール。
【0059】
これらの溶液を、40±2℃の温度で合計12±2時間、中程度であるが一定の攪拌下で作用させておく。
【0060】
インキュベーションの最後に、試料をそれぞれ15分間の等張溶液による2回の洗浄に供し、15分間、専用緩衝液(TP)で3回目の洗浄をする。
【0061】
処理された試料の表面上で依然として活性なエピトープの存在の評価は、本発明者らによる例示方法の修正に基づいており、イタリア特許第0001409783号明細書及び欧州特許第2626701号明細書に記載されている。
【0062】
手短に言えば、処理及び洗浄した組織試料を試験管に入れ、これにTP緩衝液を1000μL~1500μLの最終体積まで添加する。
【0063】
次いで、α-Galエピトープに対するモノクローナルマウス抗体(この例では、これはM86と呼ばれるIgMクローンである)を、[1:50]v/vの好ましい濃度で添加し、全体を一定であるが中程度の撹拌下、37±2℃で120±10分間インキュベートする。
【0064】
最後に、試料を周囲温度で30±5分間、14750×gで遠心分離に供する。
【0065】
M86抗体とのインキュベーション中、96ウェルプレートを調製し、ウェルの底をリン酸緩衝液中5μg/mlのα-Gal/血清アルブミン細胞1個当たり100μLで覆う。このようにして調製したプレートを、30℃~40℃の温度で60±10分間インキュベートするが、全てを37℃で安定化することが好ましい。次いで、周囲温度で1ウェル当たり300μLのリン酸緩衝液を用いて3回の洗浄を行う。
【0066】
第1の洗浄は5分間、その後2回の洗浄は3分間行う。
【0067】
ブロッキングを、1ウェル当たり300μLの血清アルブミンで行い、引き続いて周囲温度、暗所で60±10分間インキュベートする。その後、上記のような3回の洗浄を行う。
【0068】
個々のウェル毎に、各処理試料から遠心分離後に採取された上清100μLを添加する。
【0069】
試料をプレートに充填し、各種の試料がカラム全体のウェルを占める。これに続いて30℃~40℃の温度で120±10分間プレートをインキュベートするが、全てを37℃で安定化することが好ましい。
【0070】
次いで、上記のような3回の洗浄を行い、ペルオキシダーゼ酵素と結合した二次抗体(ウサギポリクローナル抗マウス)の溶液を1ウェル当り100μL添加する(このような抗体の理想溶液は[1:1000]、[1:500]、及び[1:100]であることが分かったので、好ましくは中間の溶液[1:500]を採用した)。
【0071】
次いで、プレートを30℃~40℃の温度で60±10分間再度インキュベートするが、全てを37℃で安定化することが好ましい。
【0072】
次いで、上記のような3回の洗浄を行う。1ウェルあたり100μLのペルオキシダーゼ酵素の現像液を添加し、引き続いてプレートを暗所で5±1分間インキュベートする。
【0073】
その後、1ウェル当たり50μLの、2M HSOで構成された停止溶液を添加し、次いで、450nmでプレートをプレートリーダーで読み取る。
【0074】
当のエピトープの不活性化割合は、α-Gal抗原のノックアウト動物の血管組織によって構成された対照組織中、未処理補綴組織中、及び上記の種々の処理に供した組織中の得られたエピトープの数の間の比較によって決定することができる。
【0075】
その適用の変形T1の方法が、処理された種々の異なる生体補綴組織による効果の顕著な変動を示すことが図1から明らかである。
【0076】
T1の方法では試験した他のプロトコルよりも著しく低い効力を示し、最良の結果として、不活性化がエピトープの約43%に制限されることを示した。
【0077】
図2では、桂皮酸誘導体のみを用いたその適用変形T2の方法が、抗原に対する優れた不活性化作用を示し、90%~98%の不活性化割合を有し、T3変形(図3、不活性化割合は80%~100%であった)及びT4変形(図4、不活性化割合は89%~95%であった)の方法によって示される結果と類似であることが分かる。
【0078】
本発明はまた、上記の方法で得られる結合組織に関する。
【0079】
このような結合組織は、不活性型の抗原成分の少なくともいくらかを有することを特徴とする。
【0080】
本発明はまた、ヒト又は獣医学臨床分野で使用するための、既に調製された生体補綴代替物及び/又は生体補綴代替物の部分を製造するための、上記の結合組織の使用に関する。
【0081】
本発明はまた、上記の生体組織中の異種抗原を不活性化する方法を実施するためのキットに関する。
【0082】
このようなキットは、少なくとも
-最も適切な用量のフェノール化合物、ポリフェノール化合物、又はそれらの誘導体が溶解される緩衝液を含有する1又は複数の容器;
-緩衝液と組み合わせるための粉末形態の前記用量のフェノール化合物、ポリフェノール化合物、又はそれらの誘導体を含有する1又は複数の容器;
-洗浄緩衝液を含有する1又は複数の容器;
-処置を施すタイミング及び様式の説明を含む取扱説明書
を含む。
【0083】
キットの想定される使用は、診療所及び病院等の医療施設にとって有用な、上記の本発明による方法を用いた、既に調製された生体補綴代替物の自律的処理を目的とする。
【0084】
実際、本発明が意図した狙い及び目的を完全に達成することが分かっている。
【0085】
特に、本発明では、生体組織中の異種抗原、特に臨床及び/又は獣医学用途のための生体補綴代替物の製造を意図した組織中のα-Galエピトープを不活性化する方法が考案されている。
【0086】
更に、本発明では、上記の抗原を不活性化し、よって現在市販されている種々の異なるタイプの組織バイオプロテーゼに適用することができる有効な処理を保証する方法が考案されている。
【0087】
そのため、本発明では、このような方法で処理した組織の移植後に、循環する抗α-Gal抗体の増加を引き起こさないことが潜在的に可能である方法が考案される。
【0088】
更に、本発明では、カルシウム塩の沈着を制限し、そのため弁の石灰化ジストロフィー発現の形成を支持しないことが可能である方法が考案される。
【0089】
最後になったが、本発明では、従来の装置及び機械で実施することができる方法が考案されている。
【0090】
このようにして着想された本発明は、多数の修正及び変形が可能であり、それらの全てが添付の特許請求の範囲の範囲内にある。更に、全ての詳細は、他の技術的に同等な要素で置換されてもよい。
【0091】
実際、使用される構成成分及び材料は、それらが具体的な用途、並びに偶発性の寸法及び形状と適合する限り、要件及び先行技術にしたがって任意であり得る。
【0092】
本出願が優先権を主張するイタリア特許出願第102015000078236号(UB2015A006019)における開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0093】
参考文献
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図2
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