(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】水素生成器
(51)【国際特許分類】
C25B 11/043 20210101AFI20221104BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20221104BHJP
C25B 1/042 20210101ALI20221104BHJP
C25B 11/046 20210101ALI20221104BHJP
C01B 3/02 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
C25B11/043
C25B9/00 A
C25B1/042
C25B11/046
C01B3/02 H
(21)【出願番号】P 2019572051
(86)(22)【出願日】2018-06-26
(86)【国際出願番号】 GB2018051778
(87)【国際公開番号】W WO2019002841
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-24
(32)【優先日】2017-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】595042184
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ サリー
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ホリ,バーマン
(72)【発明者】
【氏名】グ,サイ
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-539328(JP,A)
【文献】特開2017-020053(JP,A)
【文献】特開2016-204743(JP,A)
【文献】EINERHAND,R.E.F. et al.,Hydrogen production during zinc deposition from alkaline zincate solutions,JOURNAL OF APPLIED ELECTROCHEMISTRY,1988年03月13日,18(1988),799-806,DOI:10.1007/BF01016034
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を生成するための電解セルであって、
前記
電解セルが、電解質区画と;前記電解質区画に配置され、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物と、
亜鉛イオンとを含むアルカリ水溶液を含む電解質と;前記電解質中に少なくとも部分的に配置された第1および離間した第2の電極と
;を含み、
前記
電解セルが、前記第1および第2の電極の間に電圧を印加するように構成された電源を含み、
(a)前記電源が、直流を前記電極に供給するように構成され、
前記電解セルが、前記電極を流れる前記電流を監視し、前記電流が所定のレベルを下回ったことを検出する場合に前記電流の方向を切り替えるように構成された制御システムを備える、または
(b)前記電源が、前記電極に交
流電流を印加するように構成されている、電解セル。
【請求項2】
前記第1および第2の電極が、グラファイト、クロニウム、ニッケル、亜鉛、カドミウム、銅、スズ、鉛、ロジウム、白金、金、パラジウム、イリジウム、オスミウム、レニウム、ルテニウム、ゲルマニウム、ベリリウム、銀、真鍮、および/または青銅
を含む、請求項1に記載の電解セル。
【請求項3】
前記電極の少なくとも1つが、
亜鉛金属の少なくともひとつの層を含む、請求項1または2に記載の電解セル。
【請求項4】
前記アルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物が、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化バリウム、水酸化セシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、および水酸化ルビジウムからなる群から選択される、および/または
前記水酸化物濃度と前記
亜鉛イオン濃度との比が、2:1~50:1、3:1~40:1、4:1~30:1、5:1~25:1、もしくは10:1~20:1である、請求項1~3のいずれか一項に記載の電解セル。
【請求項5】
前記アルカリ水溶液が、水酸化ナトリウムを含み、水酸化物濃度と前記
亜鉛イオン濃度との比が、10:1~15:1である、または
前記アルカリ水溶液が、水酸化カリウムを含み、水酸化物濃度と前記
亜鉛イオン濃度との比が、15:1~20:1である、請求項1~4のいずれか一項に記載の電解セル。
【請求項6】
20℃での前記アルカリ水溶液のpHが、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、もしくは少なくとも11.5である、および/または
前記電解液中の前記
亜鉛イオンの濃度が、0.01M~1.2M、0.05M~1M、0.1M~0.8M、0.15M~0.6M、もしくは0.2M~0.4Mである、請求項1~5のいずれか一項に記載の電解セル。
【請求項7】
前記電解質が、亜鉛酸ナトリウムを含み、前記亜鉛イオンの濃度が、0.01M~0.6M、0.1M~0.4M、0.15M~0.3M、もしくは0.2M~0.25Mである、または
前記電解質が、亜鉛酸カリウムを含み、前記亜鉛イオンの濃度が、0.01M~1.2M、0.1M~0.6M、0.2M~0.5M、もしくは0.25M~0.45Mである、請求項1~
6のいずれか1項に記載の電解セル。
【請求項8】
前記電源が、1V~6V、1.5V~3V、または2~2.5Vの電圧を印加するように構成されている、請求項1~
7のいずれか一項に記載の電解セル。
【請求項9】
水素を生成および貯蔵するための装置であって、請求項1~
8のいずれか一項に記載の電解セルと、水素ガス貯蔵用チャンバと、前記
電解セルから前記チャンバへ水素ガスを供給するように構成された導管と、を備える、装置。
【請求項10】
前記チャンバが、
-
水素ガスを含む第1の部分と、
-第2のガスを含む第2の部分と、
-液体と、
を含み、
前記導管が、前記電解セルから前記チャンバの前記第1の部分に前記水素ガスを供給するように構成され、
前記チャンバは、前記液体が前記第1の部分と前記第2の部分との間を流れ、前記第1の部分の前記
水素ガスが前記第2の部分の前記第2のガスと交換するのを防止するように構成されている、請求項
9に記載の装置。
【請求項11】
前記チャンバの前記第1の部分が、弁を備える排気口
を含
む
、請求項
10に記載の装置。
【請求項12】
電解セルを備えた、水素を生成する方法であって、
前記電解セルが、電解質区画と;前記電解質区画に配置され、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物と、亜鉛イオンとを含むアルカリ水溶液を含む電解質と;前記電解質中に少なくとも部分的に配置された第1および離間した第2の電極と;を含み、
前記電解セルが、前記第1および第2の電極の間に電圧を印加することを含み、
前記電解セルが、前記電極に交流電流を印加することによって前記電極を切り替えること、または、水素発生
率および/もしくは電流を監視し、
前記水素発生
率および/もしくは電流の低下が見られた場合に
前記電極を切り替えることを含む、水素を生成する方法。
【請求項13】
前記方法が、
-前記電極間に電圧を印加するステップであって、前記電極が、前記電解質中に少なくとも部分的に配置されることにより、前記カソード上に前記
亜鉛金属の層が形成され
るステップと、
-前記電極を切り替え
ることにより、少なくとも前記亜鉛金属の層を含むアノードを
得るステップと
、
を含む、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記方法が、前記電解質に水を添加して、その中に溶解した前記
亜鉛イオンの濃度を
実質的に一定になるように維持することを含む、請求項
12または
13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスを生成するための電解質を含む電気化学セルに関する。具体的には、本発明は、遷移金属イオンまたはpブロック金属イオンがその中に溶解したアルカリ水溶液を含む電解質について開示する。本発明は、水素ガスを生成および貯蔵するための装置、電解質自体の使用、ならびに水素ガスを生成する方法に及ぶ。
【背景技術】
【0002】
水素は、重要なエネルギーキャリアであり、持続可能な開発のために炭化水素ベースの燃料に取って代わる可能性を有する[1]。大気汚染、気候変動、および資源の不足など、炭化水素燃料に関する現在のエネルギー関連の問題は、水素を探索するための重要な動機である。代替燃料源として、水素はすべての燃料の中で最も高い比エネルギー含有量を有し、大気放出が限られている、またはまったくない燃料電池のクリーンな発電に使用でき、効率的なエネルギー貯蔵に便利である[2]。水素は、エネルギー効率をより高める輸送燃料として直接使用でき、技術的および政治的な問題として非常に注目されている[3]。
【0003】
現在、いくつかの工業的な水素生成方法が存在し、その中には改質、光変換、および電気分解があり、これらは顕著になっている。それらの長所および短所が議論されている[4]。水の電気分解は、水素生成のための最もクリーンな解決策を提供する。その利点は、(i)ゼロ炭素放出を与える、(ii)純粋な水素を生成し、水素原料中の不純物の影響を強く受ける燃料電池技術に影響を与える、(iii)炭化水素資源に依存しない、(iv)小規模プラントで運用することができる、および(v)再生可能エネルギーを使用して水素を生成することができる、ことである[5]。
【0004】
水分解の電解プロセスは、技術的に簡単であり、アルカリ電解、高分子電解質膜(PEM)、および固体酸化物電解セル(SOEC)など、水電解プロセスに関する多くの技術がある。電解プロセスに関する増大する問題は、高いエネルギー要件、設置コスト、ならびに低い安全性、耐久性、およびエネルギー効率である[6]。一部の電解槽、特にPEMは、水の純度に非常に敏感であり、電解の前に追加の水処理を適用する必要がある[6]。したがって、電極および電解質の電気化学的活性の側面を含む動作条件の改善、ならびに電解セルの全抵抗の低減に向けて、熱心な研究努力が行われている。
【発明の概要】
【0005】
本発明の第1の態様によれば、水素を生成するための電解セルであって、電解質区画と、電解質区画に配置された、遷移金属イオンまたはpブロック金属イオンを含むアルカリ水溶液を含む電解質と、電解質中に少なくとも部分的に配置された第1および離間した第2の電極と、を備える電解セルが提供される。
【0006】
有利なことに、電解セルは、第1および第2の電極間に電圧が印加されたときに水素を効率的に生成するように構成される。例えば、実施例で説明したように、本発明者らは、低電圧で水素を生成し、従来の水電解システムと比較して、生成される水素の質量単位あたりのエネルギーを2~4倍減少させることができた。
【0007】
遷移金属またはpクロック金属イオンがアルカリ溶液と平衡化しうることが理解されうる。例えば、実施例で説明したように、アルカリ溶液中の水酸化亜鉛Zn(OH)2は、以下の種Zn2+
(aq)、Zn(OH)+(aq)、Zn(OH)2(aq)、Zn(OH)3
-
(aq)、およびZn(OH)4
2-が存在し得るように平衡化できると考えられている。したがって、遷移金属イオンの濃度は、遷移金属イオン自体の濃度、および水酸化物イオンなどの電解質の他の元素と錯体を形成した遷移金属イオンの濃度を指すと理解し得る。
【0008】
第1および第2の電極は、独立して、炭素ベースの電極または金属ベースの電極を備え得る。炭素ベースの電極または各炭素ベースの電極は、グラファイトを含み得る。金属ベースの電極または各金属ベースの電極は、クロニウム、ニッケル、亜鉛、カドミウム、銅、スズ、鉛、ロジウム、白金、金、パラジウム、イリジウム、オスミウム、レニウム、ルテニウム、ゲルマニウム、ベリリウム、および/または銀を含み得る。あるいは、金属ベースの電極または各金属ベースの電極は、真鍮または青銅などの合金を含み得る。最も好ましくは、電極はグラファイトまたは亜鉛を含む。一実施形態では、第1および第2の電極の両方がグラファイトを含む。別の実施形態では、第1および第2の電極の両方が亜鉛を含む。
【0009】
好ましい実施形態では、電極の少なくとも1つは、電解質中の遷移金属イオンまたはpブロック金属イオンと同じ金属である遷移金属またはpブロック金属の少なくともひとつの層を含む。
【0010】
電極は、実質的に滑らかな表面を有してもよい。しかしながら、好ましい実施形態では、電極は実質的にテクスチャー加工された表面または多孔質表面を有する。有利なことに、テクスチャー加工された表面または多孔質表面は、電極の表面積を増加させる。
【0011】
好ましくは、アルカリ水溶液は、アレニウス塩基、ルイス塩基、またはブレンステッド・ローリー塩基、より好ましくは強アレニウス塩基またはルイス超強塩基を含む。アレニウス塩基は、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物を含み得る。アレニウス塩基は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化バリウム、水酸化セシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、および/または水酸化ルビジウムを含み得る。
【0012】
ルイス塩基は、ブチルリチウム(n-BuLi)、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)、リチウムジエチルアミド(LDEA)、ナトリウムアミド、水素化ナトリウム(NaH)、またはリチウムビス(トリメチルシリル)アミドを含み得る。
【0013】
ブレンステッド・ローリー塩基は、水酸化アンモニウム、脂肪族アミン、または芳香族アミンを含み得る。脂肪族アミンは、メチルアミン、エチルアミン、またはジメチルアミンを含み得る。芳香族アミンは、アニリン、フェニレンジアミン、またはo-トルジンを含み得る。
【0014】
好ましい実施形態では、アルカリ水溶液はアレニウス塩基を含む。好ましくは、水酸化物濃度と遷移金属イオンまたはpブロック金属イオン濃度との比は、2:1~50:1、より好ましくは3:1~40:1、4:1~30:1、または5:1~25:1、最も好ましくは10:1~20:1である。
【0015】
一実施形態では、アレニウス塩基は水酸化ナトリウムである。水酸化物濃度と遷移金属イオンまたはpブロック金属イオン濃度との比は、好ましくは2:1~50:1、より好ましくは3:1~40:1、4:1~30:1、または5:1~20:1、最も好ましくは10:1~15:1である。本発明者らは、酸化亜鉛を水酸化ナトリウム溶液に添加することにより電解質を調製するとき、最適な比は約10:1(NaOH:ZnO)であることを発見した。しかしながら、実施例の式1および2で説明したように、水酸化ナトリウム溶液に酸化亜鉛を添加すると、さらに2つの水酸化物イオンが生成される。したがって、溶液中の最適比は、約12:1(OH-:Zn2+)である。
【0016】
一実施形態では、強いアレニウス塩基は水酸化カリウムである。水酸化物濃度と遷移金属イオンまたはpブロック金属イオン濃度との比は、好ましくは2:1~50:1、より好ましくは3:1~40:1、4:1~30:1、または10:1~25:1、最も好ましくは15:1~20:1である。本発明者らは、酸化亜鉛を水酸化カリウム溶液に添加することにより電解質を調製するとき、最適な比は約15:1(NaOH:ZnO)であることを発見した。しかしながら、酸化亜鉛を水酸化カリウム溶液に添加すると、さらに2つの水酸化物イオンが生成されることが理解されよう。したがって、溶液中の最適比は約17:1(OH-:Zn2+)である。
【0017】
好ましくは、20℃でのアルカリ水溶液のpHは、少なくとも9、より好ましくは少なくとも10または少なくとも11、最も好ましくは少なくとも11.5である。好ましくは、20℃でのアルカリ水溶液のpHは、9~14、より好ましくは10~13.5または11~13、最も好ましくは11.5~12.5である。
【0018】
一実施形態では、アルカリ水溶液は、水酸化カリウムを含み、20℃でのpHは、好ましくは少なくとも9、より好ましくは少なくとも10または少なくとも11、最も好ましくは少なくとも11.5である。好ましくは、アルカリ水溶液は、水酸化カリウムを含み、20℃でのpHは10~14、より好ましくは11~13.5または11.32~13.04、最も好ましくは11.63~12.01である。
【0019】
代替実施形態では、アルカリ水溶液は水酸化ナトリウムを含み、20℃でのpHは、好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも11または少なくとも11.5、最も好ましくは少なくとも12である。好ましくは、アルカリ水溶液は水酸化ナトリウムを含み、20℃でのpHは11~13.5、より好ましくは11.5~13または11.71~12.62、最も好ましくは12.38~12.52である。
【0020】
遷移金属イオンは、亜鉛イオン、銅イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、コバルトイオン、クロニウムイオン、カドミウムイオン、バナジウムイオン、チタニウムイオン、イットリウムイオン、ジルコニウムイオン、および/またはスカンジウムイオンを含み得る。好ましくは、遷移金属イオンは、Zn2+、Cu+、Cu2+、Ni2+、Co2+、Co3+、Cr2+、Cr3+、Cr6+、Cd2+、V5+、Ti2+、Ti3+、Ti4+、Fe2+、Fe3+、Fe6+、Y3+、Zr4+、および/またはSc3+を含む。pブロック金属イオンは、アルミニウムイオン、スズイオン、または鉛イオンを含み得る。好ましくは、pブロック金属イオンは、Pb2+、Al3+、Sn2+、および/またはSn4+を含む。上記で説明したように、遷移金属イオンまたはpブロック金属イオンは、電解質の他の成分と錯体を形成し得る。したがって、電解質は、水酸化亜鉛、亜鉛酸塩、鉛酸塩(II)、テトラヒドロキソ銅酸塩(II)、水酸化銅(II)、鉄酸塩、イットリウム酸塩、ジルコン酸塩、および/またはスカンジウム酸塩を含み得る。好ましくは、電解質は、水酸化亜鉛、亜鉛酸ナトリウム、亜鉛酸カリウム、鉛酸ナトリウム(II)、鉛酸カリウム(II)、テトラヒドロキソ銅酸ナトリウム(II)、テトラヒドロキソ銅酸カリウム(II)、水酸化ナトリウム銅(II)、水酸化カリウム銅(II)、鉄酸ナトリウム、鉄酸カリウム、鉄酸バリウム、イットリウム酸ナトリウム、イットリウム酸カリウム、ジルコン酸ナトリウム、ジルコン酸カリウム、スカンジウム酸ナトリウム、および/またはスカンジウム酸カリウムを含む。最も好ましくは、電解質は、水酸化亜鉛、亜鉛酸ナトリウム、および/または亜鉛酸カリウムを含む。
【0021】
好ましくは、電解質中の遷移金属イオンまたはpブロック金属イオンの濃度は、0.01M~1.2M、より好ましくは0.05M~1Mまたは0.1M~0.8M、最も好ましくは0.15M~0.6Mまたは0.2M~0.4Mである。
【0022】
一実施形態では、電解質は亜鉛酸ナトリウムを含み、亜鉛イオンの濃度は0.01M~0.6M、より好ましくは0.1M~0.4Mまたは0.15M~0.3M、最も好ましくは0.2M~0.25Mである。
【0023】
一実施形態では、電解質は亜鉛酸カリウムを含み、亜鉛イオンの濃度は0.01M~1.2M、より好ましくは0.1M~0.6Mまたは0.2M~0.5M、最も好ましくは0.25M~0.45Mである。
【0024】
一実施形態では、電極はグラファイトを含み、電解質は亜鉛酸カリウムを含み、亜鉛イオンの濃度は0.01M~1.2M、より好ましくは0.1M~0.6Mまたは0.2M~0.4M、最も好ましくは0.25M~0.35Mである。
【0025】
一実施形態では、電極は亜鉛を含み、電解質は亜鉛酸カリウムを含み、亜鉛イオンの濃度は0.01M~1.2M、より好ましくは0.2M~0.6Mまたは0.3M~0.5M、最も好ましくは0.35M~0.45Mである。
【0026】
いくつかの実施形態では、電解区画は、分割されていないセルを備え得る。したがって、電解区画は、電解区画をアノード液区画および別に分離されたカソード液区画に分割するアノードとカソードとの間にイオン透過性膜を含まなくてもよい。
【0027】
代替する実施形態では、電解区画は分割セルを備え得る。したがって、電解区画は、電解区画をアノード液区画および別に分離されたカソード液区画に分割するアノードとカソードとの間にイオン透過性膜を含み得る。透過性膜は、セラミック膜またはポリマー膜を含み得る。セラミック膜は、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、アルミン酸マグネシウム、イットリア安定化ジルコニア、またはガドリニアドープセリアを含み得る。ポリマー膜は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナフィオン、ポリトリフェニルアミン、またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含み得る。有利には、セパレータは、電極を互いにより近くに位置付け、より大きな表面積を有することを可能にし、したがってセルの効率を高める。
【0028】
電解セルは、第1および第2の電極間に電圧を印加するように構成された電源を備え得る。電源は、バッテリー、生成器、再生可能電源を備えていてもよいし、全国送電網(national grid)を備えていてもよい。再生可能電源は、太陽光発電機、風力発電、または水力発電機を備え得る。
【0029】
電源は、電極に直流を供給するように構成され得る。電解セルは、電極を流れる電流を監視するように構成された制御システムを備え得る。制御システムは、電流が所定のレベルを下回ったことを検出すると、電流の方向を切り替えるように構成され得る。
【0030】
あるいは、電源は、交流または振動電流を電極に印加するように構成され得る。電流は、0.1mHz~100Hzの周波数で振動または交流し得る。有利には、電源が交流または振動電流を供給する場合、電極は、アノードとカソードとの間で連続的に切り替わることにより、カソード上への遷移金属の大量の堆積を防止する。
【0031】
電源は、正弦波、三角波、のこぎり波、または方形波の形で交流または振動電流を印加するように構成され得る。
【0032】
電源は、0.01Hz~100Hz、好ましくは0.05Hz~50Hz、最も好ましくは0.1Hz~10Hzで交流または振動電流を印加するように構成され得る。好ましくは、電源は、正弦波の形で交流または振動電流を印加するように構成される。
【0033】
より低い周波数の場合、電源は、方形波の形で交流または振動電流を印加するように構成されることが好ましい。有利には、方形波は、レドックス反応を開始するのに必要な潜在的な電圧を乗り越えるために時間が経過することによる遅延を引き起こさない。
【0034】
したがって、代替実施形態では、電源は、交流または振動電流を方形波の形で電極に印加するように構成されてもよく、電流は、0.1mHz~1Hz、好ましくは、0.2mHz~50mHzまたは0.5mHz~20mHz、より好ましくは0.5mHz~10mHz、0.8mHz~8mHz、1mHz~5mHz、最も好ましくは1.5mHz~3.5mHzの周波数で振動または交流し得る。
【0035】
電解セルは、所定の間隔の後に電流の方向を切り替えるように構成された電子切り替えデバイスを備え得る。所定の間隔は、1秒~2時間、好ましくは30秒~1時間または1分~30分、より好ましくは2分~25分、3分~20分、または4分~15分、最も好ましくは5分~10分であり得る。
【0036】
電源は、1V~6V、好ましくは1.5V~3V、最も好ましくは2~2.5Vの電圧を印加するように構成され得る。
【0037】
第1の態様の電解セルは、水素を生成および貯蔵するための装置の一部を形成することができる。
【0038】
したがって、第2の態様によれば、水素を生成および貯蔵するための装置であって、第1の態様の電解セルと、水素ガス貯蔵用チャンバと、セルからチャンバに水素ガスを供給するように構成された導管と、を備える、装置が提供される。
【0039】
有利には、装置は、小規模の水素生成器および貯蔵部を提供する。
【0040】
好ましくは、装置は、セルと大気との間の流体連通を可能にするように構成された導管を備える。好ましくは、導管は弁を備える。弁は、電磁弁を備え得る。有利には、弁により、電解液または水をセルに添加できる。この弁により、セルは酸素を大気に排出することもできる。
【0041】
好ましくは、セルからチャンバに水素を供給するように構成された導管は弁を備える。弁は、電磁弁を備え得る。有利には、弁は、セルが実質的に純粋な水素を生成しているときに、チャンバがセルにのみ流体接続されることを確保する。
【0042】
好ましくは、チャンバは第1の部分および第2の部分を備え、第1の部分は第2の部分に流体的に接続されている。好ましくは、チャンバは液体を含み、液体が第1の部分と第2の部分との間を流れることができるように構成される。好ましくは、第1の部分は第1のガスを含み、第2の部分は第2のガスを含む。好ましくは、第1のガスは水素ガスである。好ましくは、第2のガスは空気である。好ましくは、チャンバは、第1の部分の第1のガスが第2の部分の第2のガスと交換されるのを防止するように構成される。
【0043】
好ましくは、第1の部分の体積と第2の部分の体積との比は、1:2~2:1、より好ましくは1:1.5~1.5:1、最も好ましくは1:1.1~1.1:1である。最も好ましい実施形態では、第1の部分の体積は、第2の部分の体積に実質的に等しい。
【0044】
好ましくは、液体は、チャンバの体積の10%~90%、より好ましくは、チャンバの体積の20%~80%、30%~70%、または40%~60%、最も好ましくは、チャンバの体積の45%~55%を満たす。最も好ましい実施形態では、液体は、チャンバの体積の約50%を満たす。
【0045】
液体は、油または水、好ましくは水を含み得る。有利には、ごくわずかな水素ガスが水に溶解する。
【0046】
好ましくは、セルからチャンバに水素を供給するように構成された導管は、セルからチャンバの第1の部分に水素を供給するように構成される。有利には、水素ガスは、チャンバの第1の部分に貯蔵されてもよい。好ましくは、チャンバの第2の部分は、第2の部分のガスが大気に排出できるように構成された通気口を備える。通気口は、圧力安全弁または圧力破裂弁を備えることが好ましい。有利には、圧力が所定の最大圧力を超えて上昇した場合、第2のチャンバは大気に排出することができる。
【0047】
好ましくは、チャンバの第1の部分は、弁を備える排気口を含む。弁は、背圧調整弁を備え得る。有利には、排気口は、ユーザがチャンバから水素ガスを選択的に除去することを可能にする。
【0048】
本発明者らは、電解質のそれらの使用はそれ自体新規で発明性があると考えている。
【0049】
したがって、第3の態様によれば、水素を生成するための電解質の使用であって、電解質が、遷移金属イオンまたはpブロック金属イオンを含むアルカリ水溶液を含み、遷移金属イオンまたはpブロック金属の濃度が、0.01M~1.2Mである、使用を提供する。
【0050】
第4の態様によれば、水素を生成するための、第1の態様の電解セルまたは第2の態様の装置の使用が提供される。
【0051】
有利には、この装置を使用して、「熱化学的水分解サイクル」に関連する現在の「高温」(700℃~2,000℃)吸熱反応に取って代わることができる。第1の態様の電気化学セル、および第2の態様の装置は、室温で効率的に使用され得、したがって、熱化学水分解産業で現在使用されている高吸熱プロセスに取って代わることができる。これがH2の生成コスト全体を大幅に削減することができ、それによりプロセス全体が化石燃料を使用する現在の改質技術に匹敵するようになる。
【0052】
水素は燃料として使用でき、自動車の動力としても使用できる。あるいは、太陽または風などの代替エネルギー源を使用してセルに電力を供給することができるため、送電網に接続され得ない遠隔地で、装置を使用して水素を生成することができる。
【0053】
さらに、例えば、化学実験室で、水素を反応物として使用できる。
【0054】
第5の態様によれば、電極間に電圧を印加することを含む、水素を生成する方法であって、電極が、カソードおよび離間したアノードを含み、遷移金属イオンまたはpブロック金属イオンを含むアルカリ水溶液を含む電解質に少なくとも部分的に配置され、アノードが、遷移金属またはpブロック金属の少なくともひとつの層を含む、水素を生成する方法が提供される。
【0055】
好ましくは、第5の態様の方法は、第1または第2の態様の装置を使用する。
【0056】
好ましくは、アノードの遷移金属またはpブロック金属は、電解質中の遷移金属イオンまたはpブロック金属イオンと同じ金属である。
【0057】
この方法は、電極間に電圧を印加する主要なステップを含んでもよく、電極が、電解質中に少なくとも部分的に配置されることにより、カソード上に遷移金属またはpブロック金属の層が形成される。この方法は、また、電極を切り替えることを含み得る。有利には、遷移金属またはpブロック金属の層を備えた電極が、ここではアノードである。電極を切り替えることは、電流の方向を切り替えることを含み得る。
【0058】
この主要なステップにより酸素ガスが生成され得ることが理解され得る。したがって、この方法は、主要なステップで生成された酸素ガスを排出することを含み得る。
【0059】
この方法は、電解質に水を添加して、そこに溶解した遷移金属イオンまたはpブロック金属イオンの濃度を維持することを含み得る。したがって、この方法は、生成された水素ガスの体積を監視すること、および生成された水素ガス1244cm3ごとに1mLの水を電解質に添加することを含み得る。
【0060】
この方法は、電極を切り替えることを含み得る。電極は、所定の期間後に切り替えられ得る。あるいは、この方法は、水素生成率および/または電流を監視すること、ならびに水素生成率および/または電流の低下が観察されたときに電極を切り替えることを含み得る。好ましくは、この方法は、電流を監視すること、および電流の低下が観察されたときに電極を切り替えることを含む。電極を切り替えることは、電流の方向を切り替えることを含み得る。
【0061】
この方法は、生成された水素ガスを水素ガス貯蔵部に輸送することを含み得る。水素ガス貯蔵部は、第2の態様で定義されたとおりであり得る。この方法は、水素ガス貯蔵部に配置された液体を水素ガスで置換することを含み得る。
【0062】
本明細書に記載のすべての特徴(添付の特許請求の範囲、要約および図面を含む)、および/またはそのように開示される任意の方法もしくはプロセスのすべてのステップは、そのような特徴および/またはステップの少なくともいくつかが相互に排他的である組み合せを除き、任意の組み合わせで上記態様のいずれかと組み合わせてもよい。
【0063】
本発明をよりよく理解するために、また本発明の実施形態がどのように実施され得るかを示すために、添付の図面を例として参照する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図2a】水素生成率および電流の経時変化を示すグラフである。
【
図2b】アノード上の亜鉛層が時間とともにどのように変化するかを示す概略図である。
【
図3】水溶液中の亜鉛酸ナトリウムの濃度の関数として電解質の導電率および抵抗を示すグラフである。
【
図4】グラファイト電極を使用した電解システムの1.8V、2.0V、および2.2Vでの亜鉛酸ナトリウムの濃度に対する水素生成量を示すグラフである。
【
図5】グラファイト電極を使用した電解システムの1.8V、2.0V、および2.2Vでの亜鉛酸ナトリウムの濃度に対する電流密度を示すグラフである。
【
図6】水素生成率におけるグラファイト電極表面の影響を示すグラフである。
【
図7】亜鉛電極を使用した電解システムの1.8V、2.0V、および2.2Vでの亜鉛酸ナトリウムの濃度に対する水素生成量を示すグラフである。
【
図8】亜鉛電極を使用した電解システムの1.8V、2.0V、および2.2Vでの亜鉛酸ナトリウムの濃度に対する電流密度を示すグラフである。
【
図9】グラファイト電極を使用した電解システムの1.8V、2.0V、および2.2Vでの亜鉛酸カリウムの濃度に対する水素生成量を示すグラフである。
【
図10】亜鉛電極を使用した電解システムの1.8V、2.0V、および2.2Vでの亜鉛酸カリウムの濃度に対する水素生成量を示すグラフである。
【
図11】本発明による水素生成器の実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
[実施例]
実施例1-グラファイト電極および亜鉛酸ナトリウムを含む電解質を使用した水素ガスの生成
材料および方法
装置
図1に示すように、閉じた電解セル2でバッチ実験を実施した。セル2は、長さ20cm×幅12cmで高さ25cmの長方形のアクリル(Perspex)容器4を含んでいた。これにより、実験のすべてで異なる量の溶液を収容するのに十分な容量が確保された。直径1cm、高さ3cmの円筒状のグラファイト電極6を利用した。各電極6を容器4の底部に取り付け、電極は3cmの間隔をあけた。実験で生成された水素ガス12を捕捉するために、1リットルのガス収集管8を各電極6の上に置いた。管8の側面の目盛りにより、生成された水素ガスの体積を測定することができた。
【0066】
ナイロン管9を管8の頂部に接続し、実験開始前に真空ポンプ13を使用して管に電解液を充填できるようにした。次いで、弁11を閉じて、実験中に収集されたガスが管内に確実に残るようにした。
【0067】
従来のDC電源(DIGIMESS HY3010、0-30V/0-10A)10を使用して、システムに電圧を印加した。
【0068】
実験手順
まず最初に、660gの水酸化ナトリウムペレット(Sigma-Aldrich認定グレード、06203、98%純度)を1386mlの蒸留水に溶解することにより、亜鉛酸ナトリウム溶液(0.59mol/L)を調製した。これにより発熱反応が起こり、66gの酸化亜鉛粉末(Honeywell認定グレード、205532、純度99.9%)が溶解した溶液の温度を上昇させる。したがって、酸化亜鉛は以下の式に従って水酸化ナトリウム溶液と反応した:
【0069】
【0070】
次いで、酸化ナトリウムは次のように水と反応する:
【0071】
【0072】
溶液で利用可能な過剰なNaOHを使用してZn(OH)2を溶解し、次のように亜鉛酸ナトリウム、Na2Zn(OH)4とラベル付けできる擬似化合物を形成する:
【0073】
【0074】
強塩基に対する水酸化亜鉛の影響でどの化合物が形成されるかはまだ確認されていない。いくつかの報告は、導電率測定の理由で亜鉛酸ナトリウムの存在を否定しており、NaOH中のZn(OH)2が代わりにコロイド溶液を形成すると推測している。
【0075】
Reichle et al[7]による原子吸光分光光度計を使用した分析では、NaOHにおける水酸化亜鉛の溶解度は、Zn2+
(aq)、Zn(OH)+
(aq)、Zn(OH)2(aq)、Zn(OH)3-
(aq)、およびZn(OH)4
2-で表すことができる種を含有する飽和溶液と平衡状態にあるNa2Zn(OH)4の観点から解釈できると仮定されている。
【0076】
次いで、溶液を蒸留水で希釈して、所望の水酸化亜鉛濃度を達成する。
【0077】
溶液を電解セル2に注ぎ、2本のガス収集管8を使用して水素ガスを捕捉した。次いで、電圧を印加して、カソードで以下の反応が発生した:
【0078】
【0079】
および:
【0080】
【0081】
同様に、アノードで以下の反応が発生した:
【0082】
【0083】
したがって、全体的な反応は次のように記述できる:
【0084】
【0085】
アノードとカソードとの間の平衡電位差として定義される可逆電位E°、または平衡セル電圧は、この一連の反応で-1.677Vである。セル抵抗により、本発明者らは、最小動作が1.9Vであることを発見した。反応が妥当な速度で進行することを保証するために、発明者らは2.5Vの電圧を使用した。
【0086】
式4による水酸化亜鉛の還元により、カソード上に均一な亜鉛層の堆積が観察された。4時間後、本発明者らは、亜鉛の層が次の段階に進むのに十分であることを発見した。この時点で、電源の2つの(+/-)ポートを交換することにより、電極を切り替えた。次いで、バッチ実験を実施できた。実験は、濃度ごとに2.2V、2.0V、および1.8Vで実行した。
【0087】
式6に示すように、酸素ガスがアノードで生成される。次いで、これは、次のように亜鉛層と反応する:
【0088】
【0089】
次いで、酸化亜鉛を式1~3に従って溶液中の水酸化ナトリウムと反応させて、水酸化亜鉛および/または亜鉛酸ナトリウムを含有する溶液を得る。これは、式4に従ってカソードで反応する。したがって、以下のプロセスが発生している:
【0090】
【0091】
すべての測定値は、ガス収集管8の目盛りを読み取り放出された水素ガスの量を決定し、電流を記録することによって、手動で収集した。水素生成を経時的に監視するために、5分間隔で読み取り値を取得した。
【0092】
ガラス棒を使用して溶液を定期的に混合し、水酸化亜鉛の均一な勾配を確保した。溶液中に懸濁亜鉛固体が観察され、意図された濃度からの逸脱が生じた場合、固体を除去し、等モル量の酸化亜鉛粉末で置き換えた。あるいは、式8に従って、少量の懸濁亜鉛をアノードに向かって掃引し、それを酸化させて水酸化亜鉛を形成した。
【0093】
電解セルで消費される水の量を追跡することが重要であった。水は解離して水素を生成するため、電気分解が進行するにつれて、水が解離して水素および酸素ガスが生成されるため溶液の濃度が変化する。使用される水の量は、測定可能な唯一のガスであるため、生成された累積水素に基づいて計算する。溶液中の亜鉛酸ナトリウムの濃度を維持するために、生成される水素ガス1244cm3ごとに1mLの水を添加した。
【0094】
電極の切り替え
上記の式8に示すように、電気分解反応が進行すると、アノード16に配置された亜鉛14は、酸素18と反応して酸化亜鉛を生成する。したがって、反応が進行するにつれて、アノード16上の亜鉛14の層が減少する。
図2b(i)は、その外面に配置された厚い亜鉛14の層との反応の開始時のアノード16を示す。
図2b(ii)は、電解反応がしばらく実行された後のアノード16を示すが、亜鉛14の層が実質的に減少していることに留意されたい。最後に、
図2b(iii)は、電気分解がさらに長い時間実行され、亜鉛14の層が完全に枯渇した後のアノード16を示す。したがって、ここでは式6に従って、酸素バブル18がアノード16上に形成されている。本発明者らは、
図2aに示すように、亜鉛の層が枯渇すると、観察される電流および水素生成率が低下することに気付いた。
【0095】
しかしながら、亜鉛14の層がアノード16上で枯渇している間に、式4に従って、亜鉛14のさらなる層がカソード上に堆積される。したがって、アノード16上の亜鉛のレベルが枯渇すると、本発明者らは、電源上の2つの(+/-)ポートを交換することにより電極を切り替えることができた。その場合、新しいアノードは、その上に配置された亜鉛の層を有する。
【0096】
電極を切り替える時間、つまり電流の低下、水素生成率の低下、および酸素生成率の増加を示唆するいくつかの観察可能な指標があった。理論的には、これらの指標は同時に現れると予想される。しかしながら、一貫性を確保するために、1つの主な指標を有することが重要であった。したがって、電極を切り替えるための主な指標として、電流のレベルを使用した。本発明者は、亜鉛14の層が非常に薄くなり、アノード16のいくつかの領域が溶液にさらされると、電流が急速に低下し始めことを観察し、この時点で本発明者は、電極を切り替えた。
【0097】
印加電圧および溶液の濃度の変化により、実験間で切り替え時間が変わったことが理解されよう。したがって、本発明者らは、いつ電流が低下すると予想されるかを予測したが、電流の低下が検出されたらすぐに電極を切り替えられるように電流のライブ観察も維持した。この手法により、確実に一貫した標準を維持した。
【0098】
結果および考察
亜鉛酸ナトリウム濃度の影響
溶液内のイオン移動は、溶液の濃度および電極間の距離に依存する。電極6間のギャップを小さくすることで、イオン抵抗を最小限に抑えることができる6。
図1に示す機器を使用した実際の最小距離は3cmであったが、これは、ガス収集管8を収納する余地を残したためである。溶液のイオン抵抗は、その中のイオンの濃度に依存し、溶液の導電率を測定することで推定できる。導電率と抵抗との直接的な関係は、式R=l/σAで与えられ、式中、Rは電気抵抗であり、σは導電率であり、lは長さであり、Aは面積である。実験装置では、lは0.6cmであり、Aは1cm
2であった。したがって、抵抗に対する亜鉛酸ナトリウム溶液の濃度の変化の影響を分析することができる。この結果を
図3に示す。
【0099】
イオン移動は、溶液中の対流物質移動によって制御される。低濃度(0.25M未満)では、溶液が大きく希釈され、イオン数が減少するため、導電率が低くなる。逆に、濃度が高くなると、溶液の粘度が高くなり、全体的なセルの導電率に寄与しない中性イオン対も形成されることによりイオンの移動度が低くなるため、導電率も低下する。したがって、溶液の最適濃度は約0.25Mである。
【0100】
電解質溶液による電流の通過を持続する能力は、電解質に浸漬された電極間の電界におけるその構成荷電イオンの移動度に依存する。イオン移動度が良好になると、反応速度が向上し、その結果、水素生成率が増加する。したがって、本発明者らは、異なる濃度での水素生成率も分析し、結果を
図4に示す。
【0101】
観察された最高の水素生成率は、0.2Mであり、3つの電圧すべての傾向は、最適な濃度が0.1M~0.3Mであることを示唆している。この濃度を下回ると、溶液が大幅に希釈され、電極および電解質の界面での水酸化亜鉛イオンの可用性が制限されるため、水素生成が減少する。同様に、この濃度を超えると、中性イオン対が形成され、これらは電極に引き込まれない。
【0102】
電圧の影響
実験ごとの電圧を調整することにより、水素生成に対する印加動作セル電圧の影響を実験した。
【0103】
電気分解プロセスが増加するため、高電圧では水素生成が増加する。セル電圧と電流との関係は、電解セルの電気化学的挙動を特徴付ける。電気分解で生成される水素は、プロセスに関与する電荷の量に比例する。したがって、ファラデーの法則によれば、水素生成は、電荷移動、つまり電流に正比例する。したがって、電源で電圧を調整すると、電源によって電解プロセスに送達される電荷が電流に影響する。したがって、電圧を上げると、電流密度も高くなり、その結果、表1に示すように水素生成率が高くなる。
【0104】
【0105】
より良好なエネルギー効率を可能にするため、より低い電圧を使用することが望ましい。グラファイト電極を覆っている亜鉛層により、セルは他の方法では可能な電圧よりも低い電圧で動作することができる。例えば、1.8Vの電圧を使用したとき、水素生成率は高かった。しかしながら、上記で説明したように、アノードが亜鉛層を含まない場合、反応を少しでも進行させるためには、1.9Vの最小電圧が必要であった。同様に、工業用水の電気分解では、0.1~0.3A/cm2の電流密度で水素を生成するために2.0Vの最小電圧が必要である[8]。
【0106】
電流密度の影響
水素生成率は、電解セルの電流密度に依存することが理解されよう。したがって、本発明者らは、亜鉛酸ナトリウムの濃度によって電流密度がどのように変化するかを調査し、結果を
図5に示す。
【0107】
平均電流密度対濃度について観察された傾向は、水素生成率対濃度について観察された傾向を密接に反映しており、水素生成と電流密度との関係を確認していることに注意されたい。特に、0.2Mの濃度で最大平均電流密度が観察され、これは、最大水素生成率が観察された濃度と同じであった。
【0108】
電極上の亜鉛層が厚くなるにつれて、電流は経時的に減少する。これにより、2つのコンポーネントの抵抗、すなわち、電極の抵抗および電解質の抵抗が増加する。電極上の厚い亜鉛層は、電極および電解質の界面で抵抗の増加を引き起こし、これは、新たに形成された亜鉛が水素の発生を妨げるか、界面での水酸化亜鉛イオンの可用性が電気化学反応の中断を制限することを意味する。セルは、電流を減少させることで応答し、その結果、水素生成率が低下する。
【0109】
電極材料および表面状態
電解セルの効率的な動作には、正しい電極材料の選択が重要である。電極材料は、アルカリ溶液による侵食などの物理的攻撃に対して適切な強度および安定性を提供することが理解されているため、グラファイトベースであるように選択された。最初は、電極は、滑らかな表面を有した。しかしながら、電極に長時間の印加電圧がかかると、電極は腐食し、わずかに多孔質の表面が残った。初期の実験を繰り返すことで、この変化がどのような影響を与えたかが決定された。
【0110】
図6に示すように、電極が多孔質の表面を有する場合、水素生成率の増加が観察された。実際、平滑な表面で実行した場合と同じ電圧および電解質濃度で、96%の平均増加が観察された。これは、電極の表面積がより大きいためである。したがって、多孔質電極が有利である。
【0111】
セル効率
異なる技術のエネルギー効率を比較することにより、電解槽技術の直接比較を行うことができる。これは、以下の式で与えられるように、セルに印加される総電気エネルギーに対する単位体積の電解セルでの水素生成率と見なされる[8]:
【0112】
【0113】
式中、VH2は単位体積の電解セルでの水素生成率であり;
Uはセル電圧であり;
iはセル電流であり;および
tは時間である。
【0114】
ηH2生成率の単位は、m3m-3h-1kWh-1である。最初のm3は、電解容器/電解質の体積に由来し、m-3h-1は、水素生成率に由来し、kWh-1は、使用電力量に由来する。
【0115】
電解質が0.2Mの亜鉛酸ナトリウムを含むときに得られた値を以下の表2に示す。
【0116】
【0117】
電流を一定に保ちながら同じ水素質量を生成するために高電圧が必要な場合、セルは非効率であると見なされる。上記の表に示すように、2.2Vでのこのシステムで得られた値は、6.3m3m-3h-1kWh-1であり、一方で水電解槽の場合、2.3m3m-3h-1kWh-1の値は、典型的である[9]。したがって、本発明者らによって開発されたセルは、水素を生成するのに必要な電力がより少ないため、従来の水電解槽と比較してより大きな水素生成性能を有する。
【0118】
結論
グラファイト電極を備えた実用的なアルカリ水電解セルは、電解質として亜鉛酸塩溶液を使用して水素生成を探索するために構築されてきた。印加電圧、電流、および亜鉛酸ナトリウム濃度の影響を分析することにより、動作の最適条件を調査した。実験結果は、水素生成が約0.2Mでピークに達したことを示す。電圧を上げると、水素生成率も上がった。さらに、多孔質グラファイト表面の形成は、水素生成率にプラスの影響を与える別の要因であった。
【0119】
結果は、従来の水電解システムと比較して、エネルギー効率が高く、生成される水素の質量単位あたりのエネルギーが2.7倍減少することを示す、低電圧での顕著な水素生成を実証している。実験は実現可能性の段階を表しているため、良好な効率を達成するためにシステムを最適化する可能性がさらにある。
【0120】
実施例2-亜鉛電極および亜鉛酸ナトリウムを含む電解質を使用した水素ガスの生成
材料および方法
実施例1に記載された装置は、グラファイト電極を亜鉛電極[2.4cm(h)×0.9cm(d)]に置き換えることにより修正した。電極は、基材を腐食から保護するために、基材を0.5cmのポリエチレンホースで覆った。
【0121】
実施例1で記載するように、電流の減少が観察されたときに電極を切り替えた。しかしながら、実施例1とは異なり、水素生成の遅れが観察された。理論に拘束されることを望むことなく、本発明者らは、これが電極の過飽和に起因する可能性があると仮定する。これに対抗するために、ポートが切り替えられたとき、水素バブルができるまで電圧を10~12アンペアに上げ、その後、電圧を所望の電圧まで下げた。場合によっては、最初の5分間に水素が、まったく生成されないか、少量しか生成されなかったため、結果にこのことを記述した。この過飽和が克服されると、電流も減少し、水素生成率が増加した。
【0122】
これらの違いは別として、装置および実験方法は実施例1で記載したとおりであった。
【0123】
結果および考察
亜鉛酸ナトリウム濃度の影響
異なる濃度での水素生成率を
図7に示す。また、観察された最高の水素生成率は、0.2Mであり、3つの電圧すべての傾向は、最適な濃度が0.1M~0.3Mであることを示唆している。
【0124】
電圧の影響
同様に、発明者らは、セルが低電圧で動作できることを発見した。
【0125】
【0126】
電流密度の影響
グラファイト電極の場合と同様に、発明者らは、亜鉛酸ナトリウムの濃度によって電流密度がどのように変化するかを調査し、結果を
図8に示す。また、0.2Mの濃度で最大平均電流密度が観察され、これは、最大水素生成率が観察された濃度と同じであった。
【0127】
セル効率
このシステムのセル効率も計算し、得られた値を以下の表Xに示した。
【0128】
【0129】
結論
実施例1に記載されたアルカリ水電解セルは、グラファイト以外の材料を含む電極とともに使用されてもよい。特に、本発明者らは、亜鉛電極を効果的に使用し得ることを示し、これらの電極を使用すると、グラファイト電極で得られた結果と同様の結果を達成した。しかしながら、代替材料を含む電極も使用し得ることを理解されたい。
【0130】
実施例3-グラファイト電極および亜鉛酸カリウムを含む電解質を使用した水素ガスの生成
材料および方法
使用された装置は、実施例1に記載されたものであった。
【0131】
まず最初に980mlの蒸留水に1430gの水酸化カリウムを溶解することにより、亜鉛酸カリウム溶液(1.25mol/L)を調製した。これにより発熱反応が起こり、98gの酸化亜鉛粉末(Honeywell認定グレード、205532、純度99.9%)が溶解した溶液の温度を上昇させた。
【0132】
ナトリウムがカリウムに置き換えられたことを除いて、発生した反応は、実施例1で記載したとおりであることは理解されよう。
【0133】
これらの違いは別として、使用した装置および実験方法は実施例1で記載したとおりであった。
【0134】
結果および考察
亜鉛酸カリウム濃度の影響
異なる濃度での水素生成率を
図9に示す。実施例1および2とは異なり、観察された最高の水素生成率は、0.3Mであり、3つの電圧すべての傾向は、最適濃度が0.1M~0.4Mであることを示唆している。
【0135】
【0136】
結論
実施例1に記載されたアルカリ水電解セルは、代替電解質とともに使用されてもよい。特に、本発明者らは、亜鉛酸カリウム溶液を使用できることを示した。実験結果は、水素生成が約0.3Mでピークに達したことを示す。また、電圧を上げると、水素生成率も上がった。
【0137】
実施例4-亜鉛電極および亜鉛酸カリウムを含む電解質を使用した水素ガスの生成
材料および方法
使用した装置は実施例2に記載したとおりであり、使用した電解質は実施例3に記載したとおりであった。
【0138】
これらの違いは別として、使用した装置および実験方法は実施例1で記載したとおりであった。
【0139】
結果および考察
亜鉛酸カリウム濃度の影響
異なる濃度での水素生成率を
図10に示す。観察された最高の水素生成率は、0.4Mであり、3つの電圧すべての傾向は、最適な濃度が0.3M~0.5Mであることを示唆している。
【0140】
【0141】
結論
実施例3に記載されたアルカリ水電解セルはまた、代替電解質とともに使用されてもよい。特に、本発明者らは、亜鉛酸カリウム溶液を使用できることを示した。実験結果は、水素生成が約0.4Mでピークに達したことを示す。また、電圧を上げると、水素生成率も上がった。
【0142】
実施例5-小規模の水素生成器
図11は、小規模の水素生成器20を示す。生成器は、複数のグラファイト電極6’を備える電解セル2’を備える。電極6’は、アノード16’およびカソード22として示される。しかしながら、カソード16’およびアノード22は、上記のように切り替えることができ、あるいは振動または交流を使用して電極を連続的に切り替え得ることが理解されるであろう。
【0143】
生成器20はまた、実施例1に記載されるように、亜鉛酸ナトリウムを含む電解質溶液24を含み、導管26は、ユーザが必要に応じて溶液24を補給することを可能にする。導管26に配置された弁28は、セル2’で生成された水素12が大気に逃げるのを防止する。
【0144】
生成器20は、水素貯蔵部30も備える。貯蔵部30は、セパレータ36によって2つの部分34aおよび34bに分割されたチャンバ34を備える。部分34aおよび34bは、ほぼ等しい体積である。セパレータ36は、頂部および側壁に接続されているが、基材に小さな穴37を残し、それにより、2つの部分34aと34bとの間の流体連通を可能にする。液体38は、チャンバ34内に配置され、体積の約半分を満たす。液体38の高さは、ギャップ37の高さよりも高く、それにより、第1の部分34a内の気体が第2の部分34b内の気体と混合するのを防止する。圧力安全弁46を備える通気口40は、チャンバ34内の圧力が所定のレベルを超える場合、第2の部分34b内のガスを大気中に排出することを可能にする。オペレータは、必要に応じて液体38を補充するためにチャンバ34にアクセスすることができる。
【0145】
背圧調整弁44を備える第1の部分34aからの導管42は、ガスが第1の部分34aから選択的に除去されることを可能にする。理想的には、チャンバ34内の圧力は、0.5~3bargに維持される。
【0146】
図示されていないが、各電極6’は、電極6’が酸素ガスを生成しているときは、大気に選択的に、また電極6’が水素ガスを生成しているときは、水素貯蔵部30にガスを選択的に輸送するように構成された弁を備える関連導管を備えた別個の区画において提供されうることが理解されよう。
【0147】
電磁弁33を備える導管32は、セル2’とチャンバの第1の部分34aとの間に延在する。したがって、セル2’が水素12を生成しているとき、弁33が開き、水素12がセル2’から貯蔵部30の第1の部分34aに流れることを可能にする。水素12は、第1の部分34a内の液体38を置換し、穴37を通って第2の部分34b内に流れる。チャンバ34内の全圧は、水素ガスの添加により増加する。したがって、水素ガス12は、ユーザがそれを必要とするまで貯蔵することができ、または所望の圧力で水素ガスを連続的に供給することができる。
【0148】
参考文献
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[9]Santos DMF,Sequeira CAC,Figueiredo JL.Hydrogen production by alkaline water electrolysis.Quim Nova 2013;36:1176-93.
【符号の説明】
【0149】
2、2’ 電解セル、
4 容器、
6、6’ 電極、
8 ガス収集管、
9 ナイロン管、
11 弁、
12 水素ガス、
13 真空ポンプ、
14 亜鉛、
16 アノード、
18 酸素バブル、
20 水素生成器、
22 カソード、
24 電解質溶液、
26 導管、
33 弁、
34 チャンバ、
34a 第1の部分、
34b 第2の部分、
36 セパレータ、
37 穴、
38 液体、
40 通気口、
42 導管、
44 背圧調整弁、
46 圧力安全弁。