(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】抗腫瘍組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/24 20060101AFI20221104BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20221104BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221104BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20221104BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20221104BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20221104BHJP
A61K 47/61 20170101ALI20221104BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20221104BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20221104BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20221104BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221104BHJP
A61K 38/21 20060101ALI20221104BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20221104BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20221104BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
C12N15/24
A61K35/761
A61P35/00
A61P37/04
A61K47/64
A61K47/60
A61K47/61
A61K31/7105
A61K31/713
A61K31/7088
A61K48/00
A61K38/21
C12N15/113 130Z
C12N15/861 Z ZNA
C12N15/09 110
(21)【出願番号】P 2021500705
(86)(22)【出願日】2019-07-10
(86)【国際出願番号】 KR2019008514
(87)【国際公開番号】W WO2020013617
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-01-08
(31)【優先権主張番号】10-2018-0079752
(32)【優先日】2018-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519209439
【氏名又は名称】ジーンメディスン・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】チェ・オク・ユン
(72)【発明者】
【氏名】オン・ジュ・オ
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2017-0027669(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0079529(KR,A)
【文献】欧州特許出願公開第3329934(EP,A1)
【文献】Clin. Exp. Metastasis,1995年,Vol.13 ,p.396-404
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/24
A61K 35/761
A61P 35/00
A61P 37/04
A61K 47/64
A61K 47/60
A61K 47/61
A61K 31/7105
A61K 31/713
A61K 31/7088
A61K 48/00
A61K 38/21
C12N 15/113
C12N 15/861
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL-12A(p35)遺伝子配列及びIL-12B(p40)遺伝子配列を含むインターロイキン-12(IL-12)をコーディングする遺伝
子、並びにc-me
t遺伝子に相補的であり、c-metの発現を抑制するオリゴヌクレオチドを発現する遺伝子を含む、アデノウイルスシステム。
【請求項2】
前記インターロイキン-12(IL-12)をコーディングする遺伝子は、IL-12A(p35)遺伝子配列とIL-12B(p40)遺伝子配列の間にリンカー配列またはIRES(internal ribosome entry site)配列をさらに含むものである、請求項1に記載のアデノウイルスシステム。
【請求項3】
前記インターロイキン-12(IL-12)をコーディングする遺伝子は、アデノウイルスシステム
中でアデノウイルス遺伝子のE1B領域またはE3領域に挿入されたものである、請求項1に記載のアデノウイルスシステム。
【請求項4】
前記c-met遺伝子に相補的に結合してc-metの発現を抑制するオリゴヌクレオチドは、shRNA(small hairpin RNA)、miRNA、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム(ribozyme)、DNAzyme、
及びPNA(peptide nucleic acids
)からなる群から選ばれた一つ以上である、請求項1に記載のアデノウイルスシステム。
【請求項5】
前記c-metの発現を抑制するオリゴヌクレオチドをコーディングする遺伝子は、アデノウイルスシステム
中でアデノウイルス遺伝子のE1B領域またはE3領域に挿入されたものである、請求項1に記載のアデノウイルスシステム。
【請求項6】
前記アデノウイルスシステムは、組換えアデノウイルスまたはアデノウイルスの組換えDNAである、請求項1に記載のアデノウイルスシステム。
【請求項7】
前記c-met遺伝子に相補的に結合してc-metの発現を抑制するオリゴヌクレオチドがCRISPR用ガイドRNAで
あって、前記アデノウイルスシステムは、Casタンパク質を発現するヌクレオチド配列をさらに含むものである、請求項1に記載のアデノウイルスシステム。
【請求項8】
アデノウイルスシステムと結合された形態の生体適合性高分子をさらに含むものである、請求項1に記載のアデノウイルスシステム。
【請求項9】
前記生体適合性高分子は、PAPS(PEI-Arg-mPEG-S-S-mPEG-Arg-PEI)、PPSA(mPEG-PEI-g-Arg-S-S-Arg-g-PEI-mPEG)、PICION(フェギル化されて酸化鉄ナノ粒子と架橋結合されたカテコール-グラフトされたポリLリシン)、ABP(アルギニングラフトされた生分解性高分子)、APP(フェギル化されてPTX-コンジュゲートされたポリマーミセル)、PPCBA(mPEG-b-Pip-CBA)、PPA(PPCBA-PEI-Arginine)、ポリ(アミドアミン)デンドリマー(PAMAM)、ポリエチレングリコール(polyetheleneglycol、PEG)、ポリラクチド(poly-lactide、PLA)、ポリグリコライド(polyglycolide、PGA)、ポリラクチドコグリコリド(poly-lactide-co-glycolide、PLGA)、ポリカプロラクトン(poly-ε-carprolactone、PC
L)、ポリエチレ
ンイミン(polyethylen
eimine、PEI)、ヒアルロン酸(hyaluronic acid、HA)、ゼラチン、キトサン(chitosan)、及び血清アルブミンからなる群から選ばれたものである、請求
項8に記載のアデノウイルスシステム。
【請求項10】
請求項1ないし請求
項9のいずれか1項に記載のアデノウイルスシステムを含む、抗がん用組成物。
【請求項11】
前記がんは胃がん、肺がん、非小細胞性肺がん、乳がん、卵巣がん、肝臓がん、気管支がん、鼻咽頭がん、喉頭がん、膵臓がん、膀胱がん、大腸がん、結腸がん、子宮頸がん、骨がん、非小細胞性骨がん、血液がん、皮膚がん(黒色腫など)、頭頚部がん、子宮がん、直腸がん、肛門付近がん、結腸がん、卵管がん、子宮内膜がん、膣がん、陰門がん、ホジキン病(Hodgkin's disease)、食道がん、小腸がん、内分泌腺がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟組織肉腫、尿道がん、陰茎がん、前立腺がん、慢性または急性白血病、リンパ球リンパ腫、腎臓または尿管がん、腎臓細胞がん腫、腎臓骨盤がん腫、倍数体がん(polyploid carcinoma)、唾液腺がん、肉腫がん、仮性粘液腫、肝母細胞腫、精巣がん、膠芽腫、口唇がん、胚細胞腫瘍、基底細胞がん、多発性骨髄腫、胆のうがん、脈絡膜黒色腫、ファーター膨大部がん、腹膜がん、副腎がん、舌がん、小細胞がん、小児リンパ腫、神経芽細胞腫、十二指腸がん、尿管がん、星細胞腫、髄膜腫、腎盂がん、外陰がん、胸腺がん、中枢神経系(central nervous system、CNS)腫瘍、1次中枢神経系リンパ腫、脊髄腫瘍、脳幹神経膠腫及び脳下垂体腺腫である、請求項
10に記載の抗がん用組成物。
【請求項12】
前記組成物は、腫瘍内(intratumorally)に投与されるものである、請求項
10に記載の抗がん用組成物。
【請求項13】
請求項1ないし請求
項9のいずれか1項に記載のアデノウイルスシステムを含む抗腫瘍免疫性(antitumor immunity)増進用組成物。
【請求項14】
前記組成物は、腫瘍内(intratumorally)に投与されるものである、請求項
13に記載の抗腫瘍免疫性増進用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターロイキン-12(interleukin-12、IL-12)とC-met(tyrosine kinase Met)の発現を抑制する核酸分子を同時に発現する組換えアデノウイルスを含む抗腫瘍または抗腫瘍免疫性増進組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍免疫治療は、全般的な体内の免疫機能を増強させることにより、腫瘍に対する免疫反応を誘導し、これによって腫瘍を治療する方法であって、これに対する研究が活発に行われている。しかし、がんが生成される段階は、ほとんど大部分の場合、免疫抑制環境が形成され、体内の免疫システムが活発に作用しても腫瘍を容易に除去することが困難になる。腫瘍細胞は、自ら多くの異常な抗原を発現させ、これらの抗原は、免疫監視(immune surveillance)を通じて除去(efadication)反応を起こし、体内の免疫システムが活発に作用しても腫瘍細胞が免疫監視を回避するようにする。また、このような現象が腫瘍細胞が生産する様々な因子(factors)によって媒介されることが明らかになった。腫瘍組織は、血管内皮成長因子(VEGF)、腫瘍増殖因子(TGF)-β及びインターロイキン(IL)-10のような免疫抑制分子を生産でき、免疫抑制された腫瘍において調節T細胞の浸透が現れるものと報告された。さらに、活性化されたT細胞によってPD-1という抑制受容体の発現の刺激が続くほど増加するが、がん細胞の場合、PD-1と特異的に結合するリガンドであるPD-L1を多量に発現して活性化されたT細胞を不活性化させて免疫反応を回避し、結果として腫瘍内の免疫抑制微細環境及び免疫寛容を誘導する。
【0003】
最近の研究によりT細胞活性抑制に関与するPD-1の免疫チェックポイント(immune checkpoint)を抑制できる阻害剤が強力な抗腫瘍免疫反応を誘導したことを証明した。結果として、免疫監視回避を克服することが免疫治療療法の主要な戦略となる。したがって、このような限界点を克服するための一つの方案として、免疫増進効果を持つサイトカイン(cytokine)遺伝子を直接がん細胞に導入し、がん細胞からサイトカインを生成及び分泌させて抗腫瘍免疫反応誘導によるがん細胞特異的除去に関する研究が活発に行われている。現在まで抗腫瘍効果が報告された免疫増進サイトカイン遺伝子のうちインターロイキン-12(IL-12)は、最も効果的かつ有望なサイトカインの一つである。
【0004】
インターロイキン-12(IL-12)は、ジスルフィド結合で連結された40kDa及び35kDaサブユニットを含むヘテロダイマー(heterodimeric)タンパク質であって、活性化されたマクロファージ、単核球、樹状細胞、及び活性Bリンパ球のような抗原提示細胞(antigen presenting cell、APC)から分泌され、がん細胞を効果的に除去できる細胞性T細胞とNK細胞に直接作用してこれらを活性化させ、IFN-γの分泌を誘導するだけでなく、これらのがん細胞に対する殺傷能力も増強させる。IL-12の局所的発現は、腫瘍細胞がT-細胞媒介細胞毒性に敏感に反応するようにし、結果として、腫瘍成長抑制及び体液性免疫(systemic immunity)の構築をもたらす。
【0005】
しかし、IL-12の投与時、患者が受け入れられる容量を制限するサイトカイン-関連毒性が全身に現れる可能性があるため、IL-12の臨床適用において困難性がある。また、免疫効果の全般的な下向き調節、患者の血清におけるIL-10の発現増加及びIFN-γ及びTNF-βの発現減少によるTh1からTh2免疫へのIL-12分極化現象が現れており、このために反復的にIL-12を投与することになる場合も発生するため、このような臨床結果は、がんの治療のための単一治療剤としてのIL-12の限界を示す。
【0006】
最近、がんの悪性度を反映する生物学的指標として成長因子とそれらの受容体に対する研究が進行中であり、このうちチロシンキナーゼ受容体ファミリー(tyrosine kinase receptor family)の一つであるc-metに対する研究が活発に行われている。c-metは、肝細胞成長因子(hepatocyte growth factor/scatter factor、HGF/SF)の受容体として作用し、様々ながんにおいて過発現され、このような患者は、がんの治療予後が悪い場合がほとんどである。c-metの過発現は、HGF/SF-Met信号伝達体系により細胞分裂(mitogenesis)と細胞の運動性(motility)を増進させ、細胞死滅を抑制するだけでなく、血管形成や細胞外基質(extracellular matrix、ECM)で浸潤(invasion)と転移(metastasis)を誘導するなど、がんの悪性度を増加させる。このようなc-metの過発現によって誘導されるがん細胞の速い増殖及び転移は、免疫系のがん細胞除去速度を超えるため、免疫反応によって除去されにくい。さらに、腫瘍のサイズが大きくなるほど、腫瘍微小環境の免疫反応の中心おもりが抑制方向に激しく傾くため、単一治療法によりこれを制御するのは、さらに困難になり、抗腫瘍免疫治療によって向上した抗腫瘍効果を示すことが困難になる。
したがって、抗腫瘍免疫性を増加させてより優れた抗がん効果を持ちながら、投与量等による副作用のない抗がん治療法の開発は、依然として本技術分野において解決すべき課題として残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2016/115559
【文献】WO2010/124188
【文献】WO2012/075158
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記課題を解決するため、これに本発明者らは、抗腫瘍効果は優れていながらも、投与量を下げることができる治療ターゲットを開発しようと努力し、IL-12とc-metをターゲットとする治療法を併用することにより、より効果的にがんを治療できる方法を提案する。本発明者らは、インターロイキン-12を発現するとともに、c-metの過発現を抑制できるアデノウイルスをがんの治療に活用する場合、各治療ターゲットを単独で使用する場合に比べて腫瘍を抑制し、免疫監視回避を克服してがんを治療するのにシナジー効果が得られることを確認し、本発明を完成した。
【0009】
本明細書の全体にわたって多数の論文及び特許文献が参照され、その引用が表示されている。引用された論文及び特許文献の開示内容は、その全体として本明細書に参照として挿入され、本発明が属する技術分野の水準及び本発明の内容がより明確に説明される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、インターロイキン-12(IL-12)をコーディングする遺伝子及びc-metのmRNAに相補的であり、c-metの発現を抑制するオリゴヌクレオチドを発現する遺伝子を含む遺伝子伝達体を提供することを目的とする。
【0011】
本発明の他の目的は、インターロイキン-12(IL-12)をコーディングする核酸配列と、c-met遺伝子に相補的に結合し、c-metの発現を抑制するオリゴヌクレオチドを発現する核酸配列を含む遺伝子伝達体を含む薬剤学的組成物を提供するものである。
【0012】
前記遺伝子伝達体は、アデノウイルスシステムであってもよく、前記アデノウイルスシステムは、組換えアデノウイルスまたはアデノウイルスの組換えDNAであってもよい。
【0013】
前記薬剤学的組成物は、抗がん用または抗腫瘍免疫性増進用組成物であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のインターロイキン-12とC-metの発現を抑制する核酸分子を同時に発現するアデノウイルスシステムは、腫瘍環境で免疫機能を回復させて腫瘍の再形成、転移抑制、腫瘍の成長抑制のような抗がん効果を著しく増進させることができ、特に、2つの治療遺伝子を同時に発現させることにより、がんの治療において顕著なシナジー効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例によって構築されたアデノウイルスプラスミドDNAの構造を示したものである。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例によって構築されたアデノウイルスプラスミドDNAが細胞内でマウスインターロイキン-12(mIL-12)またはヒトインターロイキン-12(hIL-12)を発現できることを確認したグラフである。
【
図3】
図3は、本発明の一実施例によって構築されたアデノウイルスが細胞内でインターロイキン-12(IL-12)の発現を高め、c-metの発現を抑制させることを確認したグラフである。
【
図4】
図4は、本発明の一実施例によって構築されたIL-12とshc-metを同時発現する抗がんアデノウイルスの構造を示す。
【
図5】
図5a及び5bは、マウス由来B16-F10とCT26細胞のそれぞれにおいて、本発明の一実施例によるIL-12とshc-metを同時発現する抗がんアデノウイルスによる生体内抗腫瘍効果を確認した結果である。
【
図6】
図6は、マウス由来B16-F10細胞において本発明の一実施例によるIL-12とshc-metを同時発現する抗がんアデノウイルスpDNA/PPA複合体による生体内抗腫瘍効果を確認した結果である。
【
図7】
図7a及び7bは、ヒト肺がん細胞株H1975において本発明の一実施例によるIL-12とshc-metを同時発現する抗がんアデノウイルスによる細胞内IL-12発現(
図7a)及びc-metの発現抑制能(
図7b)を確認した結果である。
【
図8】
図8a及び8bは、ヒト肺がん細胞株H1975において本発明の一実施例によるIL-12及び/又はshc-metを発現する抗がんアデノウイルスによるがん細胞殺傷能を正常酸素条件8aと低酸素条件8bで確認した結果である。
【
図9】
図9a、9b、9c及び9dは、本発明の一実施例によるIL-12及び/又はshc-metを発現する抗がんアデノウイルスによるHUVEC細胞の転移(9a及び9b)と侵襲(9c及び9d)抑制効果を確認した結果である。
【
図10】
図10は、本発明の一実施例によるIL-12及び/又はshc-metを発現する抗がんアデノウイルスによるHUVEC細胞のEndo-MT(Endothelial to mesenchymal transition)阻害による腫瘍細胞の転移抑制を確認した結果である。
【
図11】
図11は、本発明の一実施例によるIL-12及び/又はshc-metを発現する抗がんアデノウイルスのヒト異種移植腫瘍モデル(H1975)において抗腫瘍効果を確認した結果である。
【
図12】
図12は、本発明の一実施例によってIL-12とc-metを標的とするガイドRNAによるCRISPR/Casシステムを同時発現する遺伝子伝達体の構造を図式化したものである。
【
図13】
図13a、13b及び13cは、本発明の一実施例によるIL-12とLbcpf1-crMETを同時発現する抗がんウイルスによる細胞内IL-12発現(13a)及びc-met抑制(13b及び13c)効果を確認した結果である。
【
図14】
図14は、本発明の一実施例によるIL-12とLbcpf1-crMETを同時発現する抗がんウイルスのヒト異種移植腫瘍モデル(H1975)において抗腫瘍効果を確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一態様によって、本発明は、インターロイキン-12(IL-12)をコーディングする遺伝子及びc-met遺伝子に相補的に結合してc-metの発現を抑制するオリゴヌクレオチドを発現する遺伝子を含む遺伝子伝達体を提供する。
【0017】
本発明の他の態様によって、本発明は、インターロイキン-12(IL-12)をコーディングする遺伝子及びc-met遺伝子に相補的に結合してc-metの発現を抑制するオリゴヌクレオチドを発現する遺伝子を含む遺伝子伝達体を含む抗がん用、がん細胞の抗転移用組成物、または抗腫瘍免疫性増進用薬学的組成物を提供する。
【0018】
本発明のさらに他の態様によって、本発明は、インターロイキン-12(IL-12)をコーディングする遺伝子及びc-met遺伝子に相補的に結合してc-metの発現を抑制するオリゴヌクレオチドを発現する遺伝子を含む遺伝子伝達体の抗がん剤としての用途を提供する。
【0019】
本発明のさらに他の態様によって、本発明は、インターロイキン-12(IL-12)をコーディングする遺伝子及びc-met遺伝子に相補的に結合してc-metの発現を抑制するオリゴヌクレオチドを発現する遺伝子を含む遺伝子伝達体またはこれを含む薬学的組成物を個体に投与することを含むがんを治療する方法を提供する。
【0020】
本発明において「遺伝子伝達体」とは、遺伝子を細胞内に伝達するためのベクターシステムを意味するもので、本発明において特に記載のない限り、遺伝子伝達体、アデノウイルスベクター、アデノウイルスシステム、またはアデノウイルスベクターシステムは、同じ意味で用いられる。本発明のアデノウイルスシステムは、アデノウイルスとアデノウイルスのDNA(viral DNA)をすべて含む意味である。好ましくは、抗がんまたは抗腫瘍免疫性増進用として組み換えられた組換えアデノウイルスまたはアデノウイルスの組換えDNAであってもよい。
【0021】
前記アデノウイルスシステムは、アデノウイルスのゲノム配列を含んでもよく、これによって細胞内に伝達されたアデノウイルスまたは組換えDNAからアデノウイルスが生成され、抗がんまたは抗腫瘍免疫効果を持つことができる。本発明では、IL-12とshc-metをそれぞれ発現する遺伝子がアデノウイルスゲノムに挿入されてアデノウイルスそのものまたはその組換えDNA形態で細胞に伝達され得るため、本発明の明細書全体においてアデノウイルスと称されるものは特に言及のない限り、組換えアデノウイルスとアデノウイルスの組換えDNAをすべて含む意味である。
【0022】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明のアデノウイルスシステムは、腫瘍でのみ特異的に増殖し、腫瘍細胞を選択的に殺傷できる腫瘍選択的殺傷アデノウイルス(oncolytic adenovirus、oAd)であってもよい。前記腫瘍選択的殺傷アデノウイルスは、本明細書において抗がんウイルス、oAd、または腫瘍殺傷ウイルスなどの用語と相互交換的に使用されてもよい。腫瘍選択的殺傷アデノウイルスは、本発明の技術分野で用いられる通常の技術を通じて遺伝子的に変形されたものはすべて、本発明のアデノウイルスシステムに含まれる。一例として、がん細胞でのみ増殖できるようにアデノウイルスゲノムからE1A及び/又はE1Bを除去して正常細胞で増殖できないようにしたり、がん細胞から分泌されるプロテアーゼを使用するようにウイルスタンパク質のターゲットシーケンスを変化させたり、がん細胞に存在する受容体(例:EGFR)に結合するために受容体リガンドを発現するようにウイルスゲノムにリガンドを発現する配列が挿入された変形であってもよい。
【0023】
また、本発明の腫瘍選択的殺傷アデノウイルスは、がん細胞の殺傷能を向上させるため、細胞死滅がよく発生するようにTRAIL遺伝子が挿入されるか、がん細胞に入って発現されて効果的に免疫反応が発生するようにIFN遺伝子が挿入されてもよい。
【0024】
本発明で用いられる組換えアデノウイルスは、動物細胞、好ましくは、哺乳動物細胞において作動可能なプロモーターを含む。本発明に適したプロモーターは、哺乳動物ウイルスから由来したプロモーター及び哺乳動物細胞のゲノムから由来したプロモーターを含む。組換えアデノウイルスに挿入されるトランス遺伝子は、プロモーター-トランス遺伝子ポリA配列の発現カセットに挿入されることが好ましい。この場合、前記プロモーターとして、本発明の遺伝子発現調節配列(HRE-TERT、HRE-E2F、HRE-TERT-E2F、HRE-E2F-TERT、HRE-E2F-5myc-TERT、HREは、2つが繰り返されて含まれてもよい)または通常のプロモーターが用いられてもよい。
【0025】
トランス遺伝子に結合される通常のプロモーターは、好ましくは、動物細胞、より好ましくは、哺乳動物細胞で作動してトランス遺伝子の転写を調節できるものであって、哺乳動物ウイルスから由来したプロモーター及び哺乳動物細胞のゲノムから由来したプロモーターを含み、例えば、U6プロモーター、H1プロモーター、CMV(cytomegalo virus)プロモーター、アデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター、SV40プロモーター、HSVのtkプロモーター、RSVプロモーター、EF1アルファプロモーター、メタロチオニンプロモーター、ベータ-アクチンプロモーター、ヒトIL-2遺伝子のプロモーター、ヒトIFN遺伝子のプロモーター、ヒトIL-4遺伝子のプロモーター、ヒトリンホトキシン遺伝子のプロモーター、ヒトGM-CSF遺伝子のプロモーター、inducibleプロモーター、がん細胞特異的プロモーター(例えば、TERTプロモーター、PSAプロモーター、PSMAプロモーター、CEAプロモーター、E2Fプロモーター及びAFPプロモーター)及び組織特異的プロモーター(例えば、アルブミンプロモーター)を含むが、これに限定されるものではない。トランス遺伝子を発現させるための発現コンストラクトにおいて、トランス遺伝子のダウンストリームにポリアデニル化配列が結合されていることが好ましい。前記ポリアデニル化配列は、ウシ成長ホルモンターミネーター(Gimmi,E.R.,et al.,Nucleic Acids Res.17:6983-6998(1989))、SV40由来ポリアデニル化配列(Schek,N,et al.,Mol.Cell Biol.12:5386-5393(1992))、HIV-1 polyA(Klasens,B.I.F.,et al.,Nucleic Acids Res.26:1870-1876(1998))、β-グロビンpolyA(Gil,A.,et al,Cell 49:399-406(1987))、HSV TK polyA(Cole,C.N. and T.P.Stacy、Mol.Cell.Biol.5:2104-2113(1985))またはポリオーマウイルスpolyA(Batt,D.B and G.G. Carmichael,Mol.Cell.Biol.15:4783-4790(1995))を含むが、これに限定されるものではない。
【0026】
本発明で用いられる組換えアデノウイルスにおいてIL-12遺伝子配列及びc-met抑制するRNAを発現する配列は、プロモーターに作動的に連結されている。本明細書において、用語の「作動的に結合された」とは、核酸発現調節配列(例:プロモーター、シグナル配列、または転写調節因子結合位置のアレイ)と他の核酸配列との間の機能的な結合を意味し、これにより、前記調節配列は、前記他の核酸配列の転写及び/又は解読を調節することになる。
【0027】
本発明の組換えアデノウイルスは、選択標識として抗生物質耐性遺伝子及びレポーター遺伝子(例えば、GFP(green fluorescence protein)、ルシフェラーゼ及びβ-グルクロニダーゼアーゼ)をさらに含んでもよい。前記抗生物質耐性遺伝子は、当業界で通常用いられる抗生物質耐性遺伝子を含み、例えば、アンピシリン、ゲンタマイシン、カベニシリン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、カナマイシン、ゲネチシン、ネオマイシン及びテトラサイクリンに対する耐性遺伝子があり、好ましくは、ネオマイシン耐性遺伝子である。前記選択標識は、別途のプロモーターまたはIRES(internal ribosome entry site)または2Aシステムによって連結された発現システムによっても発現されることがあり、本発明で用いられるIRESは、数種のウイルス及び細胞のRNAsで発見される調節配列である(McBratney et.al.Current Opinion in Cell Biology 5:961(1993))。また、2Aシステムは、単一のコーディング配列内の個々のタンパク質産物の効率的な調和発現(concordant expression)を可能にする切断可能な小さな(18-22アミノ酸)ペプチドをコーディングする配列を意味する。例えば、口蹄疫ウイルス(foot-and-mouth disease virus、F2A)、ウマ鼻炎(equine Rhinitis)Aウイルス、ブタテスコウイルス(porcine teschovirus)-1(P2A)またはトセアアシグナウイルス(Thosea asigna virus、T2A)またはSzymczak-Workman、A.など.「Design and Construction of 2A Peptide-Linked Multicistronic Vectors」に説明されている2Aシステムのうちのいずれかのような、ウイルスからの2Aシステムが使用されてもよい。
【0028】
本発明は、インターロイキン-12(interleukin-12、IL-12)をコーディングする遺伝子及びc-met(tyrosine kinase Met)のmRNAに相補的であり、c-metの発現を抑制するオリゴヌクレオチドを発現する遺伝子をすべて含み、これを同時に発現させることにより、抗がん及び抗腫瘍免疫性増進にシナジー効果が得られることを技術的特徴とする。また、少量のIL-12投与にもかかわらず、優れた治療効果が得られ、従来のサイトカイン投与による副作用の問題も解決できるという点で本技術は、意義を持つ。
【0029】
本発明の明細書において、用語の「インターロイキン-12(interleukin-12;IL-12)」は、40kDaサブユニット(p40サブユニット)及び35kDaサブユニット(p35サブユニット)がジスルフィド(disulfide)結合によって結合されてなるヘテロダイマーのサイトカインを意味する。IL-12は、マクロファージのような抗原提示細胞によって生成されて活性化されたT細胞、B細胞及びNK細胞の細胞表面の受容体に結合する。前記IL-12は、T細胞とNK細胞の増殖を促進し、T細胞、NK細胞及びマクロファージの細胞毒性効果を増進させ、IFN-γ、TNF-α及びGM-CSFの生成を誘導し、Th1細胞の活性化を誘導する作用をする。また、IL-12は、Th1クローン増殖の重要な共同刺激者として知られており、血清中におけるIgG2a抗体の生成を増加させることが知られている。本発明において、用語の「p35サブユニット」及び「p40サブユニット」とは、実施例に例示されたサブユニットだけでなく、それぞれのサブユニットの固有の機能を果たすことができるサブユニットのすべての類似体(analogues)を含む。
【0030】
本発明のアデノウイルスシステムは、IL-12をコーディングする遺伝子を発現可能な形態で含み、腫瘍細胞に感染した後、IL-12を分泌して、強力な抗腫瘍免疫反応を誘導する。
【0031】
本発明のアデノウイルスシステムは、IL-12を効率的に発現させるため、サブユニットとしてIL-12A(p35)とIL-12B(p40)を発現するIL-12A(p35)遺伝子及びIL-12B(p40)遺伝子を含んでもよい。また、前記2つのサブユニットを連結する役割を果たすようにIL-12A(p35)遺伝子配列及びIL-12B(p40)遺伝子配列との間にリンカー配列をさらに含んでもよく、またはタンパク質発現の効率を高めるため、IRES(internal ribosome entry site)配列をさらに含んでもよい。
【0032】
前記リンカーは、2つの遺伝子の間に含まれてもよい任意の配列を意味し、本発明では、IL-12A(p35)遺伝子及びIL-12B(p40)遺伝子の間に含まれてもよい配列を意味する。これは、すでに遺伝子と遺伝子との間に挿入されてもよいものと知られている通常のリンカー配列または任意に設計された配列をすべて含み、IL-12の発現に否定的な影響を与えたり、IL-12の機能を損なわない場合、すべて本発明に含まれてもよい。一例として、配列番号19の配列であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0033】
本発明で用いられる「IL-12Aサブユニット(p35サブユニット)」のアミノ酸配列は、GenBankアクセス番号AAD56385に記載されたものであってもよい(もし、マウスp35アミノ酸配列を発現しようとする場合には、GenBank Accession No.AAA39292)。また、前記IL-12Aサブユニットをコーディングする配列としてIL-12A(p35)遺伝子は、GenBank Accession No.AF180562に記載された配列のうちCDS(coding sequence)に該当するヌクレオチド配列であってもよい(もし、マウス配列を用いる場合、M86672に記載された配列のうちCDS配列を参照)。また、本発明の一実施例で使用された配列番号1または配列番号4の配列であってもよい(マウスの場合、配列番号7の配列)。
【0034】
本発明で用いられる「IL-12Bサブユニット(p40サブユニット)」のアミノ酸配列は、GenBank Accession No.AAD56386に記載されたものであってもよい(もし、マウスp40アミノ酸配列を発現する場合には、GenBank Accession No.AAA39296)。また、前記IL-12Bサブユニットをコーディングする配列としてIL-12B(p40)遺伝子は、GenBank Accession No.AF180563に記載された配列のうちCDS(coding sequence)に該当するヌクレオチド配列であってもよい(もし、マウス配列を用いる場合、Accession No.M86671に記載された配列のうちCDS配列を参照)。また、本発明の一実施例で使用された配列番号2または配列番号5の配列であってもよい(マウスの場合、配列番号8の配列)。
【0035】
本発明は、一実施例において、配列番号3または配列番号6のIL-12遺伝子を用いて腫瘍細胞でIL-12が発現されてもよく(マウスの場合、配列番号9)、特にc-metに対するRNAと同時に発現させる場合、IL-12の発現量が顕著に増加することを確認した。
【0036】
本発明の明細書において、用語の「c-met」は、チロシンキナーゼ受容体ファミリー(tyrosine kinase receptor family)の一つであり、肝細胞成長因子(hepatocyte growth factor/scatter factor、HGF/SF)の受容体として作用し、様々ながんにおいて過発現され、c-metの過発現が現れた患者は、がんの治療予後が悪い場合がほとんどである。本発明のC-metの遺伝子は、GenBank Accession No gi:4557746に記載されたmRNAの配列のうちCDS(coding sequence)に該当するヌクレオチド配列であってもよい(もし、マウス配列を用いる場合、Accession No.gi:146198695に記載された配列のうちCDS配列を参照)。
【0037】
c-metの過発現は、HGF/SF-Met信号伝達体系により細胞分裂(mitogenesis)と細胞の運動性(motility)を増加させ、細胞外基質に浸潤と転移を誘導してがんの悪性度を増加させる。したがって、がんの治療において、c-metの発現抑制は、非常に重要な問題である。本発明は、c-metのmRNAに相補的であり、c-metの発現を抑制するオリゴヌクレオチドを用いてc-metの発現を抑制し、特に、IL-12と同時発現によってc-metの発現抑制が単独抑制群に比べて著しく向上し得ることを確認した。
【0038】
一例として、本発明で用いられる抑制標的となるc-metのmRNAは、配列番号10に記載された配列であってもよい(マウスの場合、配列番号11)。
【0039】
前記c-met遺伝子に結合してc-metの発現を抑制するオリゴヌクレオチドは、shRNA、miRNA、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム(ribozyme)、DNAzyme、TFOs(triplex forming oligonucleotides)、PNA(peptide nucleic acids)、及びCRISPR用ガイドRNAからなる群から選ばれた一つ以上であってもよい。
【0040】
c-metの発現を抑制するオリゴヌクレオチド配列は、配列番号10のc-metmRNA配列の一部と同一または相補的な配列を含んでもよい。好ましくは、配列番号10の配列において4つ以上の連続するヌクレオチドの配列と同一またはこれに相補的な配列を含んでもよい。
【0041】
本発明の一実施例では、前記オリゴヌクレオチドとしてc-metのmRNAに相補的な配列を含み、その発現を抑制できるshRNAを用いて腫瘍細胞においてc-metの発現を効果的に抑制させることができることを確認した。
【0042】
本発明において、「shRNA(small hairpin RNA or short hairpin RNA)」は、ヘアピン構造を持つ人工RNA分子であって、RNA干渉(RNA interference)を介してターゲット遺伝子の発現を抑制するのに用いられる。shRNAは、主にプラスミド、バクテリアまたはウイルスベクターを介して細胞内に運ばれる。shRNAは、分解及び転換(turnover)の割合が比較的低いという利点がある。
【0043】
本発明の一実施例において、c-metの発現を抑制するshRNAとして配列番号12(ヒト)または配列番号14(マウス)の遺伝子によってコーディングされるshRNAである「Hshc-met(配列番号13の配列を標的とする)」または「shc-met(配列番号15の配列を標的とする)」を用いて、本発明のウイルスシステムによってc-metの発現が効果的に抑制されることを確認した。
【0044】
前記c-met遺伝子に結合してc-metの発現を抑制するオリゴヌクレオチドは、CRISPR用ガイドRNAであってもよい。この場合、本発明の遺伝子伝達体は、CRISPR-CASシステムを発現する場合、Casタンパク質を発現する配列をさらに含んでもよい。
【0045】
本発明において、「CRISPR-CASシステム」は、標的DNA上に存在する特定の塩基配列を認識し、DNAを切断する制限酵素でDNAを切断して遺伝子を矯正する技術を意味する。本発明では、アデノウイルスシステム内に標的遺伝子C-metに対するガイドRNAを発現する配列を挿入して発現されたガイドRNAが標的C-metに混成化結合すると、Casタンパク質を用いて標的部位を切断してC-metの発現を抑制できるシステムを意味する。
【0046】
特に言及のない限り、前記CRISPR-CASシステムを構築する方法、CRISPR-CASシステムに用いられる制限酵素タンパク質の種類などは、本発明の技術分野で通常用いられる技術を用いることができる。
【0047】
本発明で用いられるCasタンパク質は、Cas9またはCas12タンパク質であってもよい。本発明で用いられるCas9またはCas12(Cas12aまたはCpf1とも表記)タンパク質は、本発明の技術分野でCRISPR/Casシステムを具現するために通常用いられるCasタンパク質であれば、制限されず用いられてもよい。また、前記Cas9またはCas12タンパク質の具体的な種類は、一例として次の表1に示す通りであるが、これに限定されるものではなく、表1に記載された参考文献は、全体として本発明の明細書に含まれる。
【0048】
【0049】
前記Cpf1は、CRISPR/Casシステムの一種類であって、Class2 Type5 CRISPR/Casシステムに分類される。Cpf1は、Cas9のように、単一のサブユニットエフェクターモジュール(single subunit effector module)で作動するが、機能的にも若干の差があるため、Cas9が遺伝子を切り取るためには、tracrRNAを必要とするのに対し、Cpf1は、tracrRNAを必要としない。Cas9の場合、グアニン(Guanine)の多いPAM(protospacer-adjacent motif)がある部位の遺伝子を切り取るのに対し、Cpf1は、チミン(Thymine)が多い部位を効率的に切断し得る。また、Cpf1は、遺伝子を切り取るとき、4~5つのヌクレオチドオーバーハング(overhang)を発生させる特徴を持つ。このような様々な特徴と構造的な差異のために、Cpf1は、Cas9より作動効率はやや低くても、より高精度を示す。
【0050】
本発明のCRISPR-CASシステムの発現のためのプロモーターは、本発明の技術分野においてCRISPR/Casシステムに使用されるものであれば、制限されず使用されてもよい。一例として、タイプIIIクラスのRNAポリメラーゼIIIプロモーターを使用してもよい。または、U6プロモーターを使用してもよいが、この場合、通常用いられるU6プロモーターは、転写を開始するためにグアノシンヌクレオチドを必要とするため、U6プロモーターの使用は、ゲノム標的化部位をGN19NGGでさらに制限してもよい(Mali et al.(2013)Science 339:823-826; Ding et al.(2013)Cell Stem Cell 12:393-394)。T7、T3またはSP6プロモーターも本発明のベクターシステムで用いられてもよい(Adhya et al.(1981)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 78:147-151;Melton et al.(1984)Nucleic Acids Res.12:7035-7056;Pleiss et al.(1998)RNA 4:1313-1317)。
【0051】
本発明の一実施例では、前記オリゴヌクレオチドとして配列番号10のヒトc-metのmRNAから55番目ないし77番目のヌクレオチドを標的配列(配列番号17)として、これに相補的に混成化されてもよいCRISPR用ガイドRNAを発現する配列番号16の遺伝子とLbcpf1を発現する配列番号18の遺伝子が挿入されたアデノウイルスシステムを用いて、crRNA-LbCpf1のCRISPR-CASシステムを介してc-metの発現を効果的に阻害できることを確認した。
【0052】
本発明の一実施例では、本発明の
図13に示すように、LbCpf1を発現する遺伝子配列を含む組換えアデノウイルスベクターを用いてCRISPR-CASシステムを発現させた。
【0053】
本発明において用語の「相補的」とは、100%相補的な場合だけでなく、RNA干渉(interference)機序を介してc-met遺伝子の発現を抑制できる程度の不完全な相補性も包括する意味であり、好ましくは、90%の相補性、より好ましくは、98%の相補性、最も好ましくは、100%の相補性を意味する。本明細書において100%相補性を表現する場合には、「完全相補的(completely complementary)」と記載される。
【0054】
本発明の一具現例によれば、本発明のアデノウイルスに含まれるshRNA配列は、配列番号10の一部の配列に相補的な配列を含み、好ましくは、配列番号10のc-met mRNA配列のうち1987番目のヌクレオチドないし2007番目のヌクレオチドの配列に相補的な配列を含む。
【0055】
本発明の特定の具現例によれば、前記c-metの発現を抑制できるオリゴヌクレオチドとして、shRNAは、配列番号12または配列番号16の遺伝子によってコーディングされたものであってもよい(マウスの場合、配列番号14の遺伝子)。
【0056】
本発明で用いられる「遺伝子または遺伝子配列」は、本発明で提示する配列番号の各配列に対して実質的な同一性(substantial identity)または実質的な類似性(substantial similarity)を示す遺伝子配列も含むものと解釈される。前記実質的な同一性は、前記本発明の配列と任意の他の配列を最大限に対応するようにアライメントし、当業界で通常用いられるアルゴリズムを用いてアライメントされた配列を分析した場合に、70%以上の相同性、好ましくは、80%の相同性、より好ましくは、90%の相同性、最も好ましくは、95%の相同性を示す配列を意味する。前記実質的な類似性は、一つ以上の塩基の欠損または挿入のようなIL-12遺伝子配列の変化が組換えベクターシステムとの相同性組換えを最小化する本発明の目的に影響を及ぼさない変化を総称する。したがって、本発明のIL-12遺伝子配列は、例示された配列リストの配列に限定されず、本発明が目的とする最終生成物の活性に実質的に影響を及ぼさない限り、本発明の権利範囲に含まれると解釈される。
【0057】
本発明のアデノウイルスシステムは、アデノウイルスのゲノム骨格を用いてがんの治療を達成し得る。アデノウイルスは、中間程度のゲノムサイズ、操作の利便性、高いタイター、広範囲な標的細胞及び優れた感染性のため、遺伝子伝達体として多く使用されている。ゲノムの両末端は、100~200bpのITP(inverted terminal receptor)を含み、これはDNA複製及びパッケージングに必須的な構成である。ゲノムのE1領域(E1A及びE1B)は、転写及及び宿主細胞遺伝子の転写を調節するタンパク質をコーディングする。E2領域(E2A及びE2B)は、ウイルスDNA複製に関与するタンパク質をコーディングする。アデノウイルスゲノムの小さな部分のみがcisで必要であると知られているため(Tooza,J. Molecular biology of DNA Tumor viruses,2nd ed.Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.(1981))アデノウイルスは、外来のDNA分子を運搬する能力を持つ。
【0058】
本発明のアデノウイルスシステムのゲノムは、E1領域及びE3領域が欠失したものであってもよい。具体的には、本発明のアデノウイルスシステムは、E1A遺伝子及び非活性化されたE1B19遺伝子、非活性化されE1B55遺伝子または非活性化されたE1B19及びE1B55遺伝子を含んでもよい。
【0059】
本明細書において遺伝子に関連して用いられる用語の「非活性化」とは、その遺伝子の転写及び/又は解読が正常に行われず、その遺伝子によってコーディングされる正常なタンパク質の機能が現れないことを意味する。例えば、非活性化E1B19遺伝子は、その遺伝子に変異(置換、付加、部分的欠失または全体的欠失)が発生して活性のE1B 19kDaタンパク質を生成できないことである。E1B19が欠失した場合には、細胞枯死能を増加させることができ、E1B55遺伝子が欠失した場合には、腫瘍細胞特異性を持たせる(参照:特許出願第2002-23760号)。本明細書において、遺伝子または配列に関連して用いられる用語の「欠失」とは、当該配列が完全に欠失したものだけでなく、部分的に欠失したものも含む意味を持つ。
【0060】
本発明の組換えアデノウイルスは、ElA遺伝子配列に位置したRb結合部位をコーディングするヌクレオチド配列のうち45番目のGlu残基がGlyで置換された変異及び121-127番目のアミノ酸配列が全体的にGlyに置換された変異を有するものであってもよい。
【0061】
本発明の一具現例によれば、前記組換えアデノウイルスは、E1A部位を含み、E1B19kDaが欠失しており、E3部位(ΔE3)が欠失したものであってもよい。E1A遺伝子を含む組換えアデノウイルスは、複製可能な特性を持つようになる。前記IL-12遺伝子及びc-met発現抑制オリゴヌクレオチドは、それぞれアデノウイルスの欠失したE1及びE3部位に挿入されてもよい。
【0062】
本発明のアデノウイルスシステムは、アデノウイルスまたはそのviral DNAの細胞内伝達能を高めたり、細胞内に伝達されて残存時間などを増やすため、生体適合性高分子をさらに含んでもよい。具体的には、前記生体適合性高分子がアデノウイルスまたはアデノウイルスプラスミドDNAと結合された形態で本発明のシステムに含まれてもよい。
【0063】
前記生体適合性高分子は、本発明の技術分野において遺伝子の伝達のためのベクターシステムに使用されてもよいものであれば、すべて含まれてもよい。
【0064】
一例として、本発明の生体適合性高分子は、(a)免疫反応回避性部位(escapable portion from immune reaction)、(b)電荷性部位(chargeable portion)及び(c)ジスルフィド結合を含む生還元性部位(bioreducible portion)を含むpH敏感性及び生還元性高分子であってもよい。
【0065】
前記(a)免疫反応回避性部位は、ポリマーが結合するウイルスが生体内免疫反応(細胞性免疫反応及び体液性免疫反応を含む)を回避できるように作用をする。前記免疫反応回避性部位に用いられる物質は、具体的に生体内免疫反応(細胞性免疫反応及び体液性免疫反応を含む)を回避できるポリマーであり、より具体的には、PEG(polyethylene glycol)、ポリアルキレンオキサイド(例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンまたはこれらの共重合体(ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド-ポリエチレンオキサイド共重合体))、ポリフェニレンオキサイド、PEGとポリアルキレンオキサイドの共重合体、ポリ(メトキシエチルメタクリレート)、ポリ(メタクリロイルホスファチジルコリン)、過フッ化されたポリエーテル、デキストランまたはポリビニルピロリドンであり、より具体的には、PEG、ポリアルキレンオキサイドまたはPEGとポリアルキレンオキサイドの共重合体であり、さらに具体的にPEGであってもよい。
【0066】
前記(b)電荷性部位(chargable portion)は、生体内のpH、具体的には、中性pH付近で前記高分子に正電荷を付与して負電荷性のウイルスの表面またはDNAと相互作用によって結合できるようにしてもよい。または、ウイルス表面またはDNAの電荷性によって前記と逆に負電荷性を高分子に付与してもよい。したがって、電荷性部位は、前記高分子に正電荷または負電荷を付与する物質を含み、例えば、負電荷を付与する場合には、カルボキシレート基、正電荷を付与する場合には、3次アミン基またはアミノ基を有する単量体が電荷性部位に用いられてもよい。
【0067】
前記(c)ジスルフィド結合を含む生還元性部位(bioreducible portion)は、ジスルフィド結合を含む形態であれば、単量体の種類に制限されず、本発明に含まれてもよい。前記生還元性部位は、生体内の酸性環境下で還元されてジスルフィド結合がスルフヒドリル基に転換され、これによってポリマー構造の破砕が行われ、結局、ポリマー-ウイルス複合体またはポリマー-DNA複合体から結合されているウイルス(naked virus)またはDNAが放出されるようにする。
【0068】
さらに他の例として、本発明の生体適合性高分子は、ポリマー、ナノ物質、デンドリマー、ハイドロゲルをすべて含んでもよい。好ましくは、PAPS(PEI-Arg-mPEG-S-S-mPEG-Arg-PEI)、PPSA(mPEG-PEI-g-Arg-S-S-Arg-g-PEI-mPEG)、PICION(フェギル化されて酸化鉄ナノ粒子と架橋結合されたカテコール-グラフトされたポリLリシン(PLL))、ABP(アルギニングラフトされた生分解性高分子)、APP(フェギル化されてPTX-コンジュゲートされたポリマー型ミセル;PEGylated and PTX-conjugated polymeric micelle)、PPCBA(mPEG-b-Pip-CBA)、PPA(PPCBA-PEI-Arginine)、ポリエチレングリコール(polyetheleneglycol;PEG)、ポリラクチド(poly-lactide、PLA)、ポリグリコライド(polyglycolide;PGA)、ポリラクチドコグリコリド(poly-lactide-co-glycolide、PLGA)、ポリカプロラクトン(poly-ε-carprolactone、PCL)、ポリエチレンイミン(polyethyleneimine;PEI)、ヒアルロン酸(hyaluronic acid;HA)、ゼラチン、キトサン(chitosan)、及び血清アルブミンからなる群から選ばれたものであってもよい。
【0069】
前記PAPS高分子は、PEI-Arg-mPEG-S-S-mPEG-Arg-PEIで、次の構造式1の構造を持つ高分子であってもよい。
【0070】
【0071】
前記構造式1において、xとyは、それぞれ独立して1~500の整数であってもよい。
【0072】
前記PPSA高分子は、mPEG-PEI-g-Arg-S-S-Arg-g-PEI-mPEGで、次の構造式2の構造を持つ高分子であってもよい。
【0073】
【0074】
前記構造式2において、nとmは、それぞれ独立して1~500の整数であってもよい。
【0075】
前記PICIONは、フェギル化されて酸化鉄ナノ粒子と架橋結合されたカテコール-グラフトされたポリLリシン(PLL)で、次の構造式3のカテコール-グラフトされたポリLリシンが酸化鉄粒子と架橋結合され、その表面にmPEGが改質された構造を持つものであってもよい。
【0076】
【0077】
前記構造式3において、nは、1~500の整数であってもよい。
【0078】
前記ABP高分子は、アルギニングラフトされた生分解性高分子(Arginin grafted bio-reducible polymer)で、次の構造式4の構造を持つ高分子であってもよい。
【0079】
【0080】
前記構造式4において、nは、1~500の整数であってもよい。
【0081】
前記APPは、フェギル化されてPTX-コンジュゲートされたポリマー型ミセル(PEGylated and PTX-conjugated polymeric micelle)を意味するもので、次の構造式5の構造を持つものであってもよい。
【0082】
【0083】
前記構造式5において、nとmは、それぞれ独立して1~500の整数であってもよい。
【0084】
前記PPCBA高分子は、mPEG-b-Pip-CBAで、pH敏感性及び生分解性高分子に属し、次の構造式6の構造を持つものであってもよい。
【0085】
【0086】
前記構造式6において、nとmは、それぞれ独立して1~500の整数であってもよい。
【0087】
前記PPAは、PPCBA-PEI-ArginineでpH敏感性及び生分解性高分子に属し、前記PPCBAにPEIとアルギニンがより結合された形態の高分子であってもよい。次の構造式7の構造を持つものであってもよい。
【0088】
【0089】
前記構造式7において、a、b及びcは、それぞれ独立して1~500の整数であってもよい。一例として、aは100~200、bは1~10、そして、cは1~5の高分子、または、aは113、bは6、そして、cは1である高分子であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0090】
ポリエチレンイミン(polyethyleneimine、PEI)は、構造式8の単量体が結合された線状または分枝状のポリエチレンイミンをすべて含んでもよい。
【0091】
【0092】
前記構造式8において、nは、1~500の整数であってもよい。
【0093】
前記分枝状ポリエチレンイミンは、一般的な分枝状ポリエチレンイミンの他に、分子の鎖が一定の規則に従って中心から外側に向かって、規則的に3次元的に広がった形態のデンドリマーも含んでもよい。
【0094】
【0095】
構造式9は、分枝状ポリエチレンイミンの一例を示し、nは、1~500の整数であってもよい。
【0096】
本発明の生分解性高分子は、エチレンイミンを単量体とする構造式8の高分子の一例としてデンドリマー高分子も含む。一例として、デンドリマー形態の分枝状ポリエチレンイミンは、構造式10または構造式11の高分子であってもよいが、これに限定されるものではない。構造式11の高分子は、ポリ(アミドイミン)高分子で、PAMAMとも称される。
【0097】
【0098】
【0099】
前記生体適合性高分子は、本発明の組換えアデノウイルスまたはウイルスDNAと結合して細胞内に流入される効率を高め、個体内の安定性を高め、免疫原性を下げて目的部位にウイルスまたはウイルスDNAの伝達効率を向上させることにより、本発明のアデノウイルスまたはウイルスDNAによるがんの治療効果を顕著に上昇させることができる。
【0100】
前記生体適合性高分子とアデノウイルスシステムは、静電気的相互作用(electrostatic interaction)、イオン性相互作用または化学的結合により連結されてもよい。
【0101】
本発明の他の様態によれば、本発明は、インターロイキン-12(IL-12)をコーディングする核酸配列と、c-met遺伝子に相補的に結合してc-metの発現を抑制するオリゴヌクレオチドを発現する核酸配列を含む遺伝子伝達体を含む薬学的組成物を提供する。前記組成物は、抗がん用組成物、がん細胞の抗転移用組成物、または抗腫瘍免疫性(antitumor immunity)増進用組成物であってもよい。
【0102】
前記組成物は、本発明のアデノウイルスシステムを治療学的有効量で含んでもよい。また、前記組成物は、薬剤学的に許容される担体(carrier)をさらに含んでもよい。
【0103】
前記抗がん用組成物は、腫瘍細胞の生存、増殖及び/又は転移を抑制してがん細胞を増加させないか、がん細胞の死滅を誘導または促進させることを意味する。本発明の組換えアデノウイルスシステムまたはこれを含む組成物は、がん細胞の死滅を効果的に誘導し、転移を抑制し得る。
【0104】
前記がん細胞の抗転移用組成物は、がん細胞が移動を通じて転移されることを抑制する効果を持ち、例えば、がん細胞でEMTを阻害して転移を抑制する効果を確認し得る。本発明の抗転移用組成物は、がん細胞の殺傷を通じた抗がん効果とがん細胞の転移抑制効果を同時に持つことができる。
【0105】
前記抗腫瘍免疫性増進用組成物は、腫瘍組織で生産される免疫抑制分子を用いた腫瘍の免疫監視回避を克服してがんを治療できるもので、抗がん用組成物に含まれる意味であり得る。特に、抗腫瘍免疫性組成物は、腫瘍組織において免疫細胞の不均衡を正常化し、IL-12によってT helper細胞の分化を誘導して細胞毒性Tリンパ球及び自然殺傷細胞の細胞毒性を活性化させることにより、抗がん免疫を増進させることができることを意味する。
【0106】
本発明の薬学的組成物は、IL-12を発現してがん個体内で抗がん免疫を増進させる。また、C-metに対するshRNAを介してC-metの発現を抑制させてIL-12の機能をさらに増幅させることができる。本発明の一実施例において、ヒト由来のがん細胞を注入したマウスモデルにおいても本発明のIL-12とshc-met同時発現アデノウイルスを注入した場合、顕著な抗がん効果及び腫瘍の転移効果を示すことを確認した。
【0107】
また、前記組成物は、標準治療(standard therapy)の治療効果増進のための補助治療用組成物であってもよく、他の抗がん剤、免疫関門抑制剤、免疫治療剤などを含む標準治療剤の効果を改善または向上させるための補助治療用組成物であってもよい。
【0108】
本発明の抗がん組成物は、上述した抗腫瘍免疫性増進組成物に含まれる組換えアデノウイルスを用いるため、この2つの間に共通の内容は、本明細書の過度な複雑性を避けるため、その記載を省略する。
【0109】
本発明の一具現例によれば、前記がんは胃がん、肺がん、非小細胞性肺がん、乳がん、卵巣がん、肝臓がん、気管支がん、鼻咽頭がん、喉頭がん、膵臓がん、膀胱がん、大腸がん、結腸がん、子宮頸がん、骨がん、非小細胞性骨がん、血液がん、皮膚がん(黒色腫など)、頭頚部がん、子宮がん、直腸がん、肛門付近がん、結腸がん、卵管がん、子宮内膜がん、膣がん、陰門がん、ホジキン病(Hodgkin's disease)、食道がん、小腸がん、内分泌腺がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟組織肉腫、尿道がん、陰茎がん、前立腺がん、慢性または急性白血病、リンパ球リンパ腫、腎臓または尿管がん、腎臓細胞がん腫、腎臓骨盤がん腫、倍数体がん(polyploid carcinoma)、唾液腺がん、肉腫がん、仮性粘液腫、肝母細胞腫、精巣がん、膠芽腫、口唇がん、胚細胞腫瘍、基底細胞がん、多発性骨髄腫、胆のうがん、脈絡膜黒色腫、ファーター膨大部がん、腹膜がん、副腎がん、舌がん、小細胞がん、小児リンパ腫、神経芽細胞腫、十二指腸がん、尿管がん、星細胞腫、髄膜腫、腎盂がん、外陰がん、胸腺がん、中枢神経系(central nervous system、CNS)腫瘍、1次中枢神経系リンパ腫、脊髄腫瘍、脳幹神経膠腫及び脳下垂体腺腫からなる群から選ばれるが、これに限定されるものではない。
【0110】
上述した本発明のすべての組成物は、薬剤学的に許容される担体を含む。本発明に用いられる薬剤学的に許容される担体は、製剤時に通常的に用いられるものであって、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾアート、プロピルヒドロキシベンゾアート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、及びミネラルオイルなどを含むが、これに限定されるものではない。本発明の薬剤学的組成物は、前記成分の他に潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含んでもよい。適切な薬剤学的に許容される担体及び製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(19th ed.,1995)に詳細に記載されている。
【0111】
本発明の組成物は、経口または非経口で投与してもよい。非経口投与である場合には、腫瘍内(intratumorally)注入、静脈内注入、皮内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、脊髄内注入、心臓内注入、胸郭内注入、動脈内注入、骨内注入、関節腔内注入、経皮投与などで投与してもよく、好ましくは、非経口投与である。
【0112】
また、前記組成物は、局所投与、または全身投与用であってもよい。
【0113】
本発明の一具現例によれば、本発明の抗腫瘍免疫性増進組成物は、好ましくは、腫瘍内に(intratumorally)直接投与されて抗腫瘍免疫増進効果を持つことを確認した。
【0114】
本発明の組成物の適切な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性、病的状態、食べ物、投与時間、投与経路、排泄速度及び反応感応性のような要因によって多様に処方されることがある。本発明の薬剤学的組成物の1日の投与量は、例えば0.2-1000mg/kgである。しかし、有効成分の実際の投与量は、分化及び増殖しようとする対象組織細胞の量、投与経路、患者の体重、年齢及び性別などの様々な関連因子を考慮して決定してもよく、したがって、前記投与量は、いかなる形態でも本発明の範囲を限定するものではない。
【0115】
本発明のさらに他の態様によって、本発明は、インターロイキン-12(IL-12)をコーディングする遺伝子及びc-met遺伝子に相補的に結合してc-metの発現を抑制するオリゴヌクレオチドを発現する遺伝子を含む遺伝子伝達体の抗がん剤としての用途を提供する。本発明の遺伝子伝達体は、IL-12とc-metを抑制するRNAを同時に発現することにより、IL-12による抗腫瘍免疫効果をより向上させるとともに、腫瘍の転移も抑制し得る。抗がん剤としての本発明の遺伝子伝達体の用途に対しては、重複した記載を避けるため、先の遺伝子伝達体または薬学的組成物に対する内容を準用する。
【0116】
本発明のさらに他の態様によって、本発明は、インターロイキン-12(IL-12)をコーディングする遺伝子及びc-met遺伝子に相補的に結合してc-metの発現を抑制するオリゴヌクレオチドを発現する遺伝子を含む遺伝子伝達体またはこれを含む薬学的組成物を個体に投与することを含むがんを治療する方法を提供する。
【0117】
本発明の遺伝子伝達体は、IL-12とc-metを抑制するRNAを同時に発現することにより、IL-12による抗腫瘍免疫効果をより向上させるとともに、腫瘍の転移も抑制できるため、がんの治療においてシナジー効果が得られる。抗がん剤としての本発明の治療方法に対しては、重複した記載を避けるため、先の遺伝子伝達体または薬学的組成物に対する内容を準用する。
【0118】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、単に本発明をより具体的に説明するためのもので、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されないということは、当業界で通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【実施例】
【0119】
実験の準備及び組換えベクターの製造
準備例1.細胞の入手及び培養
細胞培養培地として、10%ウシ胎児血清(FBS;Gibco BRL)、L-グルタミン(2mmol/L)、ペニシリン(100IU/mL)、及びストレプトマイシン(50mg/mL)が添加されたDulbecco's modified Eagle's培地(DMEM;Gibco BRL,Grand Island,NY)、Roswell Park Memorial Institute medium(RPMI;Gibco BRL)、またはMinimal Essential Medium(MEM;Gibco BRL)を使用した。HEK293(アデノウイルスE1部位を発現、human embryonic kidney cell line)、H1975(human non-small lung cancer cell line)、及びHaK(hamster kidney cancer cell line)は、ATCC(American Type Culture Collection,Manassas、VA)から購入した。HaP-T1(hamster pancreatic carcinoma cell line)は、Dr.Masato Abei(University of Tsukuba,Ibaraki,Japan)から分譲を受けた。すべての細胞株は、37℃、5%CO2湿潤環境下で培養し、Hoeschst染料、細胞培養及びPCRを用いてマイコプラズマ陰性テストを行った。大腸菌(Escherichia coli)は、37℃、Luria Bertani培地で培養した。
【0120】
製造例1.IL-12及び/又はshc-metを発現する腫瘍殺傷(oncolytic)アデノウイルスシステム構築
製造例1-1.ヒト由来IL-12及びshc-metを発現するpDNA構築
Adベクターを用いた抗腫瘍効果及び抗腫瘍免疫反応を確認するために、mT-Rd19-RGDに基づいて抗腫瘍免疫遺伝子であるヒトインターロイキン-12(hIL-12)及び/又はがん細胞の成長と分化に重要な役割を果たすc-metの発現を抑制するためのc-metに相補的に結合する短いヘアピンRNA(short hairpin RNA、以下、「shc-met」という)を発現するように組換えられた2つの腫瘍殺傷(oncolytic)アデノウイルスのプラスミドDNA(Ad pDNAまたはoAd pDNAという)を製造した(
図1):(mT-Rd19-RGD及びmT-Rd19-RGD/hIL-12/shc-met)。
【0121】
【0122】
製造例1-2.マウス由来IL-12及びshc-met発現するポリマー-ウイルスDNA複合体の製造
また、HE5cT-Rd19-RGDに基づいてマウス由来のIL-12 p35(配列番号7)と、IL-12 p40(配列番号8)を発現する遺伝子を挿入した。また、配列番号11のマウスのc-met遺伝子に対して4398番目ないし4422番目のヌクレオチドを標的配列(配列番号15)とするshRNAを設計した。C-MET遺伝子に相補的に結合して遺伝子発現を抑制できるshc-metを発現する配列番号14のヌクレオチド配列が挿入されたHE5cT-Rd19-RGD/scIL-12/shc-metプラスミドDNAを構築した。これをPPA(PPCBA-PEI-Arginine)ポリマーと混合して結合させて、pDNA/PPAポリマー複合体を製造した。
【0123】
製造例2.IL-12及び/又はshc-metを発現する組換え腫瘍殺傷(oncolytic)アデノウイルスの構築
IL-12とshc-metを同時発現する抗がんアデノウイルスによる抗腫瘍効果及び抗腫瘍免疫反応を確認するために、抗がんアデノウイルスを作製した(
図4、組換えアデノウイルスがヒト由来の配列を含む場合にHscIL-12、Hshc-metに区分して表記):
HE5cT-Rd19-RGD:発現遺伝子を含まないAdベクター
HE5cT-Rd19-RGD/scIL-12:IL-12のみ発現するAdベクター
HE5cT-Rd19-RGD/shc-met:C-Met遺伝子に対するshRNAを発現するAdベクター
HE5cT-Rd19-RGD/scIL-12/shc-met:IL-12及びC-Met遺伝子に対するshRNAを発現するAdベクター
【0124】
より具体的には、HE5cT-Rd19-RGDに基づいてヒト由来のIL-12 p35(配列番号1)と、IL-12 p40(配列番号2)をそれぞれ発現する遺伝子を挿入した。また、配列番号10のヒトc-metのmRNAに対して、1987番目ないし2007番目ヌクレオチドを標的配列(配列番号13)とするshRNAを発現する配列番号12の配列を挿入して組換えアデノウイルスベクターを作製した。
【0125】
また、前記と同様の方法でマウス由来のIL-12 p35(配列番号8)と、IL-12 p40(配列番号9)を発現する遺伝子と配列番号11のマウス由来のC-MET遺伝子の4398番目ないし4422番目のヌクレオチドを標的配列(配列番号15)とし、これに相補的に結合して遺伝子発現を抑制できるshc-metを発現する配列(配列番号14)を挿入してIL-12とshcmet同時発現アデノウイルスベクターをそれぞれ製造した。
【0126】
製造例3.動物モデル構築
3-1.ヒト異種移植肺がん腫瘍モデル
オリエントから購入したヌードマウスが6-8週齢であるとき、ヒト肺がん細胞株(H1975)を3×106cells/50μLでヌードマウスの皮下に注射した後、腫瘍のサイズが平均100mm3となったとき、製造例1または2の抗がんアデノウイルスを投与して効果を確認した。
【0127】
3-2.マウス腫瘍モデル
C57BL6(B16-F10 tumor model)は、大韓バイオリンク、BALB/C(CT26 tumor model)は、オリエントから購入して実験を行った。マウス6-8週齢であるとき、マウス皮膚がん細胞株(B16-F10)またはマウス胃がん細胞株(CT26)を5×105cells/50μLでマウスの皮下に注射した後、腫瘍のサイズが平均100mm3となったとき、製造例1または2の抗がんアデノウイルスを投与して、効果を確認した。
【0128】
試験例1.Ad pDNAによる細胞内mIL-12及びhIL-12発現確認
製造例1によって製造されたAd pDNAによるヒトIL-12(hIL-12)遺伝子発現を確認するために、細胞内伝達効率の良いヒト胚腎臓細胞株である293AにmT-Rd19-RGD及びmT-Rd19-RGD/hIL-12/shc-met Ad pDNAをリポフェクタミン(lipofectamine)と常温で反応させた後、50%分注された293A細胞に処理後、72時間目の細胞培養液を回収してhIL-12 ELISAを行った。
【0129】
図2に示すように、実施例(mT-Rd19-RGD/hIL-12/shc-met Ad pDNA;Pac I 2個)によりhIL-12が97,500±6,384pg/mLで発現されたことを確認した。したがって、本実施例で作製されたAd pDNAは、細胞内で治療遺伝子インターロイキン-12の発現を効率的に誘導することを確認できた。
【0130】
試験例2.アデノウイルス(Ad)pDNAによる細胞内IL-12及びc-metの同時発現確認
製造例1によって製造されたアデノウイルスpDNAの細胞内伝達効率を考慮し、293A細胞株でmT-Rd19-RGD/hIL-12/shc-met Ad pDNAによるhIL-12の発現を確認したが、正常細胞である293Aでは、c-metが過発現しないため、c-met特異的shRNA発現によるc-met発現抑制能を確認できなかった。
【0131】
したがって、実施例mT-Rd19-RGD/hIL-12/shc-met(Pac I 2個)によるc-metの発現抑制能を検証するため、mT-Rd19-RGD/hIL-12/shc-metアデノウイルス(Ad)を製造し、前記で製造したmT-Rd19-RGD/hIL-12/shc-metアデノウイルス(Ad)を6-well plateに50%分注されたc-metが過発現されるA549ヒト肺がん細胞株にウイルスを20μL処理した後、48時間目に細胞培養液を回収して感染させ、48時間後、細胞培養液を回収してhIL-12とc-metに対するELISAを行った。いかなる処理もしないA549ヒト肺がん細胞株においてhIL-12とc-metの発現量を対照群として使用した。
【0132】
図3に示すように、mT-Rd19-RGD/hIL-12/shc-met AdによってhIL-12の発現(235,000±20,518pg/mL)が対照群(untreated)に対して増加し、対照群に対してmT-Rd19-RGD/hIL-12/shc-met Ad処理群でc-metの発現が1.2倍減少されることを確認した。したがって、本発明で製造されたAdシステムによって治療遺伝子であるIL-12とshc-metの発現が効率的に誘導されることが分かる。
【0133】
試験例3.IL-12とshc-metを同時発現する抗がんアデノウイルスの生体内抗腫瘍効果確認(mouse syngeneic tumor model)
製造例2によって製造された、マウスIL-12とマウスc-met標的shc-metを同時発現する抗がんアデノウイルスによる抗がん治療効果を検証するため、マウスの皮膚がん細胞株であるB16-F10またはマウス胃がん細胞株であるCT26を用いてそれぞれの腫瘍モデルを構築し、抗腫瘍効果を確認した。
【0134】
マウス皮膚がん細胞株(B16-F10)またはマウス胃がん細胞株(CT26)を5×105cells/50μLでマウスの皮下に注射した後、腫瘍のサイズが平均100mm3となったとき、PBSまたはHE5cT-Rd19-RGD/scIL-12/shc-metをそれぞれ投与した。2日間隔で計3回腫瘍内に投与した後(1×1010VP)、腫瘍のサイズを測定して抗腫瘍効果を観察した。
【0135】
図5a及び
図5bに示すように、2つのマウス腫瘍モデルにおいてPBS投与群の場合には腫瘍が急速に成長したが、HE5cT-Rd19-RGD/scIL-12/shc-metを投与したすべての個体において腫瘍が完全に消えることを確認した。
【0136】
試験例4.IL-12とshc-metを同時発現する抗がんアデノウイルスpDNA/PPA複合体の生体内抗腫瘍効果確認(mouse syngeneic tumor model)
製造例1-2によって製造されたHE5cT-Rd19-RGD/scIL-12/shc-met viral DNA)とPPAポリマー複合体(pDNA/PPA)を製造し、抗がん治療の効果を確認した。具体的には、マウス皮膚がん細胞株であるB16-F10を用いて腫瘍モデルを構築し、抗腫瘍効果を確認した。マウス皮膚がん細胞株(B16-F10)を5×105cells/50μLでマウスの皮下に注射した後、腫瘍のサイズが平均100mm3となったとき、PBSとHE5cT-Rd19-RGD/scIL-12/shc-met Ad pDNA/PPA複合体をそれぞれマウスモデルに投与した。毎日計7回腫瘍内に投与した後、腫瘍のサイズを測定して抗腫瘍効果を観察した。
【0137】
図6に示すように、PBS投与群の場合には、腫瘍のサイズが2514.7±202.1mm
3まで成長したが、抗がんウイルスのpDNA/PPA複合体を投与したグループにおいて、すべて明確な抗腫瘍効果が確認できた。HE5cT-Rd19-RGD/scIL-12/shc-met Ad pDNA/PPA複合体投与群の平均腫瘍サイズは、1387.6±171.8mm
3でPBS投与群に対して腫瘍のサイズが44.8%減少されることを確認し、これはIL-12とshc-metを同時発現するウイルスDNAによっても向上した抗腫瘍効果が誘導されることを意味する。
【0138】
試験例5.IL-12とshc-metを同時発現する抗がんアデノウイルスによる細胞内IL-12及びshc-met発現確認(Human)
IL-12とshc-metを同時発現する抗がんアデノウイルスによるhuman IL-12またはhuman c-Met標的shc-Metの発現を確認するため、H1975ヒト肺がん細胞株に製造例2によって製造された組換えアデノウイルスHE5cT-Rd19-RGD、HE5cT-Rd19-RGD/shc-met、HE5cT-Rd19-RGD/hscIL-12またはHE5cT-Rd19-RGD/hscIL-12/shc-metをそれぞれ2 MOI(
図7b)または5 MOI(
図7a)ずつ処理して感染させた。48時間経過後、細胞及び培養液を回収してhuman IL-12 ELISAとc-Metウエスタンブロット(western blot)を行って各遺伝子の発現を確認した。
【0139】
図7aに示すように、HE5cT-Rd19-RGD/hscIL-12(3066.3±165.7pg/mg)とHE5cT-Rd19-RGD/hscIL-12/shc-met(94922.6±185.8pg/mg)組換えベクターの両方でhuman IL-12が発現されることを確認した。
【0140】
また、
図7bに示すように、HE5cT-Rd19-RGD/shc-metまたはHE5cT-Rd19-RGD/hscIL-12/shc-met組み換えベクターで処理された細胞では、HE5cT-Rd19-RGD対照群に対してc-metの発現が抑制されることを確認した。したがって、本発明で作製された抗がんアデノウイルス組換えベクターに挿入された治療遺伝子IL-12とshc-metの発現が効率的に誘導されることが確認できる。
【0141】
試験例6.ヒト由来IL-12とshc-metを同時発現する抗がんアデノウイルスによるがん細胞殺傷能検証
ヒト由来のIL-12とshc-metを同時発現する抗がんアデノウイルスによるがん細胞殺傷能を確認するため、H1975ヒト肺がん細胞株に製造例2によって作製された抗がんアデノウイルスHE5cT-Rd19-RGD;HE5cT-Rd19-RGD/hscIL-12;HE5cT-Rd19-RGD/shc-met;またはHE5cT-Rd19-RGD/hscIL-12/shc-metをそれぞれ2、5、10、20、50 MOIずつ感染させ、正常酸素条件(Normoxia)と低酸素条件(Hypoxia)でアデノウイルスのがん細胞殺傷能を観察した。
【0142】
図8a及び8bに示すように、正常酸素条件と低酸素条件の両方でHE5cT-Rd19-RGD、HE5cT-Rd19-RGD/hscIL-12、HE5cT-Rd19-RGD/shc-met、またはHE5cT-Rd19-RGD/hscIL-12/shc-metのがん細胞殺傷能がウイルスの力価に比例して増加することを確認した。また、50 MOIを感染させた条件で単独治療遺伝子処理群であるHE5cT-Rd19-RGD/hscIL-12またはHE5cT-Rd19-RGD/shc-metのがん細胞殺傷能がHE5cT-Rd19-RGDに対して増加したが、前記単独処理群に比べて同時発現群であるHE5cT-Rd19-RGD/hscIL-12/shc-metが著しく向上されたがん細胞殺傷能を誘導した。これはIL-12とshc-metの同時発現が抗がん治療においてシナジー効果を持つことを意味する。
【0143】
試験例7.ヒト由来IL-12とshc-metを同時発現する抗がんアデノウイルスのHUVECの転移(migration)と侵襲(invasion)抑制能検証
がん細胞で発現されるHGFは、血管内皮細胞におけるc-met信号伝達体系を活性化させることにより、がん細胞の転移(migration)及び侵襲(invasion)を増加させ、結果として非理想的な血管形成を誘導すると報告されている。したがって、IL-12とshc-metを同時発現する抗がんアデノウイルスがHUVECの転移と侵襲能力を低下させることができるかを確認するため、次の実験を行った。
【0144】
H1975ヒト肺がん細胞株にHE5cT-Rd19-RGD、HE5cT-Rd19-RGD/hscIL-12、HE5cT-Rd19-RGD/shc-met、またはHE5cT-Rd19-RGD/hscIL-12/shc-metを感染させた後、上澄み液を回収して転移(migration)及び侵襲(invasion)分析(assay)を行った。対照群として無処理培地(fresh media、5%FBS RPMI)と抗がんウイルスを感染させないがん細胞培養液(H1975-culture media、H1975-CM)を使用した。
【0145】
図9a、9b、9c及び9dに示すように、H1975-CM(抗がんウイルスを感染させないがん細胞の培養液)で無処理培地(fresh media)を処理したグループに対してHUVECの転移及び侵襲能力が増加することを確認した。一方、がん細胞にHE5cT-Rd19-RGD/HscIL-12またはHE5cT-Rd19-RGD/Hshc-metを感染させた培養液を処理したグループの場合、HE5cT-Rd19-RGDを感染させたグループに対してHUVECの転移及び侵襲能力が減少され、特に、HE5cT-Rd19-RGD/HscIL-12/Hshc-metを感染させたがん細胞培養液では、HUVECの転移及び侵襲能が著しく抑制されることを確認した。これはIL-12とshc-metを同時発現する抗がんアデノウイルスによってがん細胞で発現されるHGFの量が効果的に抑制されることにより、結果としてHUVECの転移と侵襲能力を減少させるのにシナジー効果が得られることを意味する。
【0146】
試験例8.ヒト由来IL-12とshc-metを同時発現する抗がんアデノウイルスによる上皮-中間葉変異(Endo-MT)抑制効果確認
IL-12とshc-metを同時発現する抗がんアデノウイルスによって誘導される血管の正常化効果を検証するため、H1975ヒト肺がん細胞株にHE5cT-Rd19-RGD、HE5cT-Rd19-RGD/HscIL-12、HE5cT-Rd19-RGD/Hshc-met、またはHE5cT-Rd19-RGD/HscIL-12/Hshc-metを感染させた後に上澄み液を回収してHUVEC細胞を培養した後、上皮(endothelial)または中間葉(mesenchymal)マーカーの発現変化をウェスタンブロット(western blot)を介して確認した。対照群として無処理培地(fresh media、5%FBS RPMI)と抗がんウイルスを感染させないがん細胞培養液を使用した。
【0147】
図10に示すように、がん細胞にHE5cT-Rd19-RGD/Hshc-metまたはHE5cT-Rd19-RGD/HscIL-12/Hshc-metを感染させた培養液を処理したグループの場合、対照群(fresh media処理グループ)に比べて中間葉マーカー(mesenchymal marker)であるN-cadherinとa-SMAの発現が減少され、そのなかでIL-12とshc-metを同時に発現するアデノウイルスで処理された場合に、最も優れた発現減少効果が確認された。これはIL-12とshc-metを同時発現の場合、HUVEC細胞の転移と侵襲能を抑制する効果だけでなく、endo-MT移行(transition)を抑制して血管の正常化を誘導するのに優れた効果が得られることを示す結果である。
【0148】
試験例9.ヒト異種移植腫瘍モデルでIL-12とshc-metを同時発現する抗がんアデノウイルスの生体内抗腫瘍効果確認
ヒト異種移植腫瘍モデル(human xenograft tumor model)において本発明のIL-12とshc-metを同時発現する抗がんアデノウイルスによる抗がん治療効果を検証するため、ヒト肺がん細胞株であるH1975を用いて腫瘍モデルを構築して抗腫瘍効果を確認した。
【0149】
ヒト異種移植腫瘍モデルは、具体的には、ヒト肺がん細胞株(H1975)を3×106cells/50μLでヌードマウスの皮下に注射した後、腫瘍のサイズが平均100mm3となったとき、PBS、HE5cT-Rd19-RGD、HE5cT-Rd19-RGD/HscIL-12、HE5cT-Rd19-RGD/Hshc-met、またはHE5cT-Rd19-RGD/HscIL-12/Hshc-metをそれぞれ投与した。2日間隔で計2回腫瘍内投与した後(5×106pfu)、腫瘍のサイズを測定した。
【0150】
図11に示すように、PBS投与群の場合には、腫瘍が急速に成長したが、抗がんアデノウイルスを投与したグループにおいてすべて明確な抗腫瘍効果を確認できた。具体的には、PBS投与群に対して腫瘍のサイズがHE5cT-Rd19-RGDは81.7%、HE5cT-Rd19-RGD/HscIL-12は85.5%、HE5cT-Rd19-RGD/Hshc-metは92.2%、そして、HE5cT-Rd19-RGD/HscIL-12/Hshc-metは94.6%減少され、これにより単独処理群に比べてIL-12とshc-metを同時発現する抗がんアデノウイルスを用いる場合、シナジー効果が得られることが分かる。
【0151】
試験例10.IL-12とLbcpf1-crMETを同時発現する抗がんアデノウイルスによる細胞内IL-12発現及びc-met発現減少確認
試験例10-1.IL-12とc-met標的するクリスパーRNAを同時に発現する抗がんアデノウイルスの構築
標的DNAを切断した後、細胞内復旧システムによって再び連結される過程で遺伝子矯正と望む変異を起こす3.5世代遺伝子ハサミ(CRISPR/Cpf1)を用いたクリスパーRNAシステム(Lbcpf1-crRNA system)を構築して、本発明のアデノウイルスシステムでクリスパーシステムを用いた場合にも同じ効果を持つことができるかを確認した。IL-12配列は、製造例2と同様の方法で組換えベクターに位置させたが、IL-12のp35コーディング配列(配列番号4)とIL-12のp40をコーディングする配列(配列番号5)との間にIRESコーディング配列(配列番号20)を含む配列(配列番号6)を用いた(
図12においてHIL-12と表記)。
【0152】
c-met標的(target)ガイドRNA配列の場合は、プログラムを用いて選定した後、バイオニクス会社に依頼してオリゴマー(oligomer)を合成した後、アニーリング(annealing)によってクローニングを行った。RdB-RGDアデノウイルスのE1部位にCpf1タンパク質コーディング遺伝子(配列番号18)を挿入し、ガイドRNA(crc-met)を発現する部位のアップストリームにU6プロモーターを位置させた。また、RdB-RGDアデノウイルスのE3領域にIL-12コーディング配列及びC-met標的ガイドRNAを発現する配列(配列番号16)を挿入してIL-12とCRISPR-CASシステムを同時発現する組換えアデノウイルスを構築した。ガイドRNAは、配列番号10のヒトc-met配列から55番目ないし77番目のヌクレオチドを標的化するように設計した(
図12)。
【0153】
前記構築された組換えアデノウイルス発現されるガイドRNA(crcmet)が標的遺伝子の標的部位を認識して校正位置を指定すると、遺伝子ハサミCpf1が標的部位を切断して、c-metを効果的に抑制できるのかを確認した。
【0154】
試験例10-2.IL-12とc-met標的するクリスパーRNAを同時に発現する抗がんアデノウイルスによるc-met抑制効果確認
IL-12とLbcpf1-crMETを同時発現する抗がんアデノウイルスによるヒト由来のIL-12発現またはLbcpf1-crMETシステムによるc-metの発現減少を確認するため、H1975ヒト肺がん細胞株に作製された抗がんアデノウイルス5 MOIまたは100 MOIを感染させ、48時間後、細胞及び培養液を回収してヒトIL-12 ELISAまたはc-Metウエスタンブロットを行った。
【0155】
図13a、
図13b、及び
図13cに示すように、RdB-RGD/Lbcpf1/HscIL-12とRdB-RGD/Lbcpf1/HscIL-12-crMETを処理した群で、それぞれ9000.0±600.0pg/mLと17400.0±1200.0pg/mLのIL-12の発現が確認された。また、すべての抗がんウイルス処理群で、c-metの発現が抑制されることを確認した。特に、RdB-RGD/Lbcpf1/HscIL-12-crMETによって最もc-metの発現が効果的に減少した。
【0156】
試験例11.ヒト異種移植腫瘍モデルでIL-12とLbcpf1-crMETを同時発現する抗がんアデノウイルスの生体内抗腫瘍効果確認
ヒト異種移植腫瘍モデルにおいて、shRNAではないCRISPRによるc-met発現の抑制がIL-12の発現と同時に具現できるかと、これによる抗がん効果を記載できるかを確認するための実験を行った。
【0157】
CRISPRによるc-met発現抑制を確認するため、試験例10-1により作製されたLbcpf1-crMETシステムを用いた。
【0158】
作製されたIL-12とLbcpf1-crMETを同時発現する抗がんアデノウイルスによる抗がん治療効果を検証するため、ヒト肺がん細胞株であるH1975を用いて腫瘍モデルを構築し、抗腫瘍効果を確認した。ヒト肺がん細胞株(H1975)を3×106cells/50μLでヌードマウスの皮下に注射した後、腫瘍のサイズが平均90mm3となったたとき、PBS、RdB-RGD/Lbcpf1、RdB-RGD/Lbcpf1/HscIL-12、またはRdB-RGD/Lbcpf1/HscIL-12-crMETをそれぞれ投与した。2日間隔で計3回腫瘍内に投与した後(5×109VP)、腫瘍のサイズを測定して抗腫瘍効果を観察した。
【0159】
図14に示すように、PBS投与群の場合には、腫瘍のサイズが25日目に1486.5±221.1mm
3まで急激に成長したが、抗がんウイルスを投与したグループですべて明確な抗腫瘍効果が確認された。抗がんウイルス投与群の平均腫瘍のサイズは、それぞれ876.9±146.2mm
3(RdB-RGD/Lbcpf1)、792.0±230.3mm
3(RdB-RGD/Lbcpf1/scIL-12)、または535.6±172.6mm
3(RdB-RGD/Lbcpf1/scIL-12-crMET)でPBS投与群に対して腫瘍のサイズが41.0、46.7または64%減少され、特にIL-12と同時発現によりCRISPR方法を用いる場合、腫瘍のサイズが顕著に減少したところ、CRISPRシステムを用いる場合にも2つの治療遺伝子によるシナジー効果が得られることを確認した。
【配列表】