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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】伝搬音予測方法および伝搬音予測装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/20 20200101AFI20221104BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20221104BHJP
   G06F 30/13 20200101ALI20221104BHJP
【FI】
G06F30/20
G01H17/00 Z
G06F30/13
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019043110
(22)【出願日】2019-03-08
(65)【公開番号】P2020144814
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】増田 潔
【審査官】堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-068655(JP,A)
【文献】特開2003-075244(JP,A)
【文献】特開2000-305960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00-30/398
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動物理特性が付与された複数の部材要素に構造物をモデル化するステップと、
騒音・振動源から前記部材要素への入射振動エネルギと前記部材要素間の振動エネルギ伝達率とに基づいて、統計的エネルギ解析法によって前記構造物モデルの音響放射エネルギを算出するステップと、
前記音響放射エネルギを結合要素を介して固体伝搬音の入射音響エネルギに変換するステップと、
前記固体伝搬音の入射音響エネルギに基づいて、境界エネルギ積分法によって受音位置での騒音レベルを予測するステップと、を含むプログラムと、該プログラムを実行するコンピュータと、を備えることを特徴とする伝搬音予測装置。
【請求項2】
音響特性が付与された複数の微小要素と、振動物理特性が付与された複数の部材要素と、によって構造物をモデル化するステップと、
騒音・振動源からの前記微小要素への入射音響エネルギと前記微小要素間の音響エネルギ伝達率とに基づいて、空気伝搬音の入射音響エネルギを算出するステップと、
騒音・振動源からの前記部材要素への入射振動エネルギと前記部材要素間の振動エネルギ伝達率とに基づいて、統計的エネルギ解析法によって前記構造物モデルの音響放射エネルギを算出するステップと、
前記構造物モデルの音響放射エネルギを結合要素を介して固体伝搬音の入射音響エネルギに変換するステップと、
前記空気伝搬音の入射音響エネルギと前記固体伝搬音の入射音響エネルギとに基づいて、境界エネルギ積分法によって受音位置での騒音レベルを予測するステップと、を含むプログラムと、該プログラムを実行するコンピュータと、を備えることを特徴とする伝搬音予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物等の構造物に係る伝搬音を予測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
建物等の構造物に係る伝搬音を予測する技術として、例えば特許文献1には、「拡張エネルギ積分方程式法」によって、空気中を伝搬する騒音を予測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-75244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、騒音・振動源に基づく騒音には、構造物中を伝搬して受音位置で放射される空気伝搬音もある。これに対し、特許文献1記載の技術は、空気伝搬音に限って騒音を予測する技術である。そのため、構造物中を伝搬する固体伝搬音を加味して、受音位置での騒音レベルを予測することは困難である。
【0005】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、構造物中を伝搬する固体伝搬音を加味して、受音位置での騒音レベルを予測し得る、伝搬音予測方法および伝搬音予測装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る伝搬音予測方法は、振動物理特性が付与された複数の部材要素に構造物をモデル化する工程と、騒音・振動源から前記部材要素への入射振動エネルギと前記部材要素間の振動エネルギ伝達率とに基づいて、統計的エネルギ解析法によって前記構造物モデルの音響放射エネルギを算出する工程と、前記音響放射エネルギを結合要素を介して固体伝搬音の入射音響エネルギに変換する工程と、前記固体伝搬音の入射音響エネルギに基づいて、境界エネルギ積分法によって受音位置での騒音レベルを予測する工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の一態様に係る伝搬音予測装置は、振動物理特性が付与された複数の部材要素に構造物をモデル化するステップと、騒音・振動源から前記部材要素への入射振動エネルギと前記部材要素間の振動エネルギ伝達率とに基づいて、統計的エネルギ解析法によって前記構造物モデルの音響放射エネルギを算出するステップと、前記音響放射エネルギを結合要素を介して固体伝搬音の入射音響エネルギに変換するステップと、前記固体伝搬音の入射音響エネルギに基づいて、境界エネルギ積分法によって受音位置での騒音レベルを予測するステップと、を含むプログラムと、該プログラムを実行するコンピュータと、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係る伝搬音予測方法および装置によれば、構造物中を伝搬する固体伝搬音を加味して、受音位置での騒音レベルを予測できる。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本発明の他の一態様に係る伝搬音予測方法は、音響特性が付与された複数の微小要素と、振動物理特性が付与された複数の部材要素と、によって構造物をモデル化する工程と、騒音・振動源からの前記微小要素への入射音響エネルギと前記微小要素間の音響エネルギ伝達率とに基づいて空気伝搬音の入射音響エネルギを算出する工程と、騒音・振動源からの前記部材要素への入射振動エネルギと前記部材要素間の振動エネルギ伝達率とに基づいて、統計的エネルギ解析法によって前記構造物モデルの音響放射エネルギを算出する工程と、前記構造物モデルの音響放射エネルギを結合要素を介して固体伝搬音の入射音響エネルギに変換する工程と、前記空気伝搬音の入射音響エネルギと前記固体伝搬音の入射音響エネルギとに基づいて、境界エネルギ積分法によって受音位置での騒音レベルを予測する工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の他の一態様に係る伝搬音予測装置は、音響特性が付与された複数の微小要素と、振動物理特性が付与された複数の部材要素と、によって構造物をモデル化するステップと、騒音・振動源からの前記微小要素への入射音響エネルギと前記微小要素間の音響エネルギ伝達率とに基づいて、空気伝搬音の入射音響エネルギを算出するステップと、騒音・振動源からの前記部材要素への入射振動エネルギと前記部材要素間の振動エネルギ伝達率とに基づいて、統計的エネルギ解析法によって前記構造物モデルの音響放射エネルギを算出するステップと、前記構造物モデルの音響放射エネルギを結合要素を介して固体伝搬音の入射音響エネルギに変換するステップと、前記空気伝搬音の入射音響エネルギと前記固体伝搬音の入射音響エネルギとに基づいて、境界エネルギ積分法によって受音位置での騒音レベルを予測するステップと、を含むプログラムと、該プログラムを実行するコンピュータと、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の他の一態様に係る伝搬音予測方法および装置によれば、空気伝搬音に加え、構造物中を伝搬する固体伝搬音を加味して、受音位置での騒音レベルを予測できる。よって、空気伝搬音および固体伝搬音を同時に予測できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、構造物中を伝搬する固体伝搬音を加味して、受音位置での騒音レベルを予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】空気伝搬音と固体伝搬音とが同時に伝搬する建設現場の一例を示す模式図であり、同図(a)は建設現場全体の模式図、(b)は同図(a)に符号Rで示す居室の部分の拡大図である。
図2】本発明の一態様に係る伝搬音予測方法に用いられる伝搬音予測装置の一実施形態が実行する伝搬音予測処理のブロック図である。
図3図2の伝搬音予測処理で用いられる構造物モデルを説明する図である。
図4図2の伝搬音予測処理で実行される処理であって、振動要素(構造物モデルの部材要素の音響放射エネルギ)が結合要素を介して音響要素(固体伝搬音の入射音響エネルギ)に変換されるイメージを示す図である。
図5】境界エネルギ積分法による連立方程式におけるパラメータを示す概念図である。
図6】本発明の一実施形態に係る回折の取扱いを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0015】
図1は、建物の解体工事の例であり、同図は、建物Bの下部の居室Rに人Pが滞在したままで建物Bの上部を種々の建機Mにて解体する想定図である。
ここで、解体工事においては、構造物である建物Bの構造内を振動が伝搬するとともに(以下、「固体伝搬音Ss」ともいう)、空気中を音波として騒音が伝搬する(以下、「空気伝搬音As」ともいう)。そのため、建物Bの下部の居室Rには、建機M等の騒音・振動源からの固体伝搬音Ssと空気伝搬音Asとによる騒音が発生する。
【0016】
これに対し、本実施形態の伝搬音予測装置は、建物等の構造物Bに関わる全ての騒音伝搬予測を行うために、拡張エネルギ積分方程式法(境界エネルギ積分法)による空気伝搬音予測法と、統計的エネルギ解析法(以下、SEA(Statisfical Energy Analysys )ともいう)による振動伝搬予測法と、を結合する「結合要素」(図2のステップS17)を作成し、これにより、固体伝搬音と空気伝搬音とをコンピュータによるシミュレーションにより同時に解析して予測するものである。
【0017】
詳しくは、図1において、建機Mが騒音・振動源であり、建物Bが、音響特性が付与されたメッシュ状の微小要素に分割されるとともに、振動物理特性が付与された複数の部材要素としてモデル化される構造物である。
各微小要素には、構造物Bの部位に応じて、音響に関する物理特性(吸音率、透過損失)をデータとして与えてある。また、騒音・振動源Mにも物理特性を与えてある。なお、拡散反射係数としては、全ての反射エネルギが拡散反射するように、全要素について1と設定してある。
【0018】
次に、本実施形態に係る騒音伝搬予測の求め方について、図2に示す伝搬音予測処理のブロック図を参照しつつ説明する。
伝搬音予測処理のプログラムがコンピュータによって実行されると、同図に示すように、まず、ステップS1において、伝搬した騒音を予測する予測範囲を設定する。また、ステップS2において、騒音・振動源Mの位置や数を設定する。
【0019】
また、ステップS3において、構造物Bのうち、音の反射、吸音、透過に関わる部材を部材要素に分割したモデルを構築する。図3にモデル化の一例を示すように、複数の部材要素にモデル化された構造物Bのうち、符号1はスラブ、符号2は梁、符号3は柱であり、それぞれが「部材要素」に対応する。また、受音する予測範囲は、上述した、2階の居室Rを受音位置として設定している。
【0020】
続いて、図2に示すように、ステップS4においては、騒音・振動源Mのパワーレベルや指向特性などの音響物理特性を設定する。ステップS5においては、スラブ1、梁2、柱3等の各部材要素に応じて、吸音率、音響透過損失、拡散反射係数などの音響物理特性の係数を設定し、ステップS6では、各部材要素をメッシュに切り、複数の微小要素に分割する。また、ステップS7において、各部材要素に対して、各部材要素に応じた、密度、ヤング率、断面二次モーメント、放射効率などの振動物理特性の係数を設定する。
【0021】
そして、ステップS8では、各微小要素から予測範囲内の各受音位置への音響エネルギ伝達率を算出する。ステップS9では、騒音・振動源Mから直接および多重回折を経て各微小要素に入射する音響入射エネルギを算出する。
また、ステップS10では、反射、多重回折、音響透過を考慮して、各微小要素間の音響エネルギ伝達率を計算する。音響エネルギ伝達率とは、ある要素に入射したエネルギの中から別のある要素に入射するエネルギの割合を示す率であって、距離減衰、回折減衰、透過減衰、入射角で決定する。
【0022】
ステップS11では、図3に示した、スラブ1、梁2、柱3等の各部材要素間での振動エネルギ伝達率を算出する。また、ステップS12では、騒音・振動源Mから部材要素への入射振動エネルギを算出する。
そして、ステップS13では、各部材要素の振動エネルギを未知数とした連立方程式を構築し、続くステップS14で、統計的エネルギ解析法(以下、SEA(Statisfical Energy Analysys )ともいう)による連立方程式の解法を行い、ステップS15にて各部材要素について振動エネルギを算出する。
【0023】
さらに、ステップS16にて、各部材要素の音響放射エネルギを算出する。なお、SEAについては公知の方法(例えば、日本音響学会誌第48巻第6号(1992))によるので、詳細な説明は省略する。
ステップS17では、図4にイメージを示すように、部材要素がもつ振動エネルギ(振動要素)を、結合要素を介して固体伝搬音の入射音響エネルギ(音響要素)に変換する。結合要素の結合パラメータCは、振動面の物性値から以下の(式1)により計算される。但し、ρは空気の密度、cは空気中での音速、σ、ρ、E、hは、それぞれ音を放射する面材の放射効率,密度,ヤング率,厚さである。
【0024】
【数1】
【0025】
ここで、上記「結合要素」の導出過程について説明する。
いま、無限大の板における曲げ振動のインピーダンスZは、文献等(建物の遮音設計資料 日本建築学会編 P124)から下記(式2)で得られる。なお、(式2)において、Bは曲げ剛性、Eはヤング率、ρは密度、hは板の厚さである。
【0026】
【数2】
【0027】
図4の振動要素において、板曲げ振動の平均速度をvとすると、振動要素の板曲げ振動(音を発生させる振動)の単位面積当たりの振動エネルギIは、統計エネルギ理論より、下記(式3)で近似できる。これにより、下記(式4)が得られる。
【0028】
=Zv (式3)
【0029】
【数3】
【0030】
一方、板の曲げ振動において、その平均速度vでの振動要素における放射音の強さをI,空気の密度をρ,音速をc,放射効率をσとすると、下記(式5)となる。
=ρσ (式5)
【0031】
よって、(式4)および(式5)からvを消去することで、振動エネルギから放射音の強さ、つまり「音響要素の音響放射エネルギ」を計算するための、下記(式6)が得られる。
【0032】
【数4】
【0033】
よって、「振動要素の振動エネルギI」を「音響要素の音響放射エネルギI」に変換する係数をCとすると、上記(式1)を得る。
【0034】
図2に戻り、ステップS18では、上記部材要素がもつ振動エネルギ(振動要素)を「結合要素」で変換した固体伝搬音の入射音響エネルギ(音響要素)情報を含む、微小要素間のエネルギ伝達率及び、騒音・振動源Mから各微小要素への入射エネルギを用いて、各微小要素に入射するエネルギを未知数とした、境界エネルギ積分法による連立方程式を反射、回折、透過を考慮して、下記(式7)のように構築する。
【0035】
【数5】
【0036】
この(式7)において、左辺の第1項は反射に係る項であり、第2項は回折に係る項であり、第3項は透過に係る項であり、第4項は騒音源1から直接の伝搬に係る項であり、第5項は騒音源から回折の伝搬に係る項である。
【0037】
ここで、x、y、yは、メッシュに切られた微小要素の節点であり、微小要素中のインテンシティは全て節点値に等しいと仮定している。そして、この方程式は、図5に示す、音場の境界面を構成する微小要素間のエネルギ収支に関する連立方程式である。各パラメータは図5に示す関係にある。また、τ(j)は透過率をあらわす。また、R(y′、x、y)はxにおける反射係数を示し、下記の(式8)であらわされる。
【0038】
【数6】
【0039】
また、N、M、Lは、それぞれ反射経路数、回折経路数、透過経路数である。Ns、Msはそれぞれ、直接音の到達する音源数、回折経路で音が到達する音源数である。α(j)は吸音率であり、τ(j)は透過率であり、d(j)は拡散反射係数(仮想的であるが、Lambert Lawにしたがって拡散反射されるエネルギの入射エネルギに対する割合である。拡散反射以外は全て鏡面反射エネルギとなる。)である。
【0040】
SPLf(i、j)は、図6に示すように、yに単位パワーの無指向性音源がある場合のxにおける音圧レベルである。Qsは音源の指向特性、Wsは音源のパワーである。
そして、ステップS19では、上記連立方程式の解法を行い、ステップS20にて、各微小要素について、音源及び他の微小要素から入射するエネルギを算出する。すなわち、上記方程式を解くことで、多重反射、多重回折、音響透過、それらの複合効果が考慮された各微小要素への音響入射エネルギが求められる。
【0041】
ステップS21において、騒音・振動源Mから直接もしくは回折のみの経路で各受音位置へ入射する音響入射エネルギを算出する。また、ステップS22にて、ステップS8で求めたエネルギ伝達率とステップS20で求めた各微小要素への音響入射エネルギとの積和を求め、各微小要素から各受音位置に入射する音響入射エネルギを算出する。
【0042】
そして、ステップS23では、各受音位置におけるステップS22で求めた音響入射エネルギとステップS21で求めた音響入射エネルギとを合成して、下記(式9)に基づき、各受音位置での騒音レベルを算出する。そして、各受音位置での騒音レベルによって予測範囲内の騒音レベルの分布(音圧のコンタ)を求める。求めた騒音分布はモニタに表示したり紙に印字したりする。
【0043】
【数7】
【0044】
次に、本実施形態の伝搬音予測装置を用いた伝搬音予測方法の作用・効果について説明する。
ここで、近年、ビルの改修工事のうち、改修区域以外の居室では、人が従前のまま活動しつつ改修工事を実施する事例が多くみられる。その場合、改修工事で発生する振動が躯体を伝搬して人がいる居室の壁を揺らす。
そのため、空気中を伝搬する騒音に加え、騒音が発生する固体伝搬音も考慮を要するという問題がある。つまり、事前にどれくらいの固体伝搬音が生じるのか否かを迅速かつ正確に解析することが、騒音対策案を検討するためにも必要となる。
【0045】
しかし、この解析には、従来は、個々の担当者が個別に計算式を作成して解析を試みており、統一した予測システムとはなっていなかった。また、建物全体に影響が及ぶ改修工事の騒音、および解体工事騒音の音環境の予測を、実用レベルで効率的に行うことはこれまで不可能であった。
これに対し、本実施形態の伝搬音予測装置を用いた伝搬音予測方法によれば、建物等の構造物Bを、音響特性が付与された複数の微小要素と、振動物理特性が付与された複数の部材要素と、によって構造物をモデル化し、部材要素および微小要素間のエネルギのやり取りを解くことで、構造物Bでおこる多重反射、多重回折、音響透過および、それらの複合効果を同時に計算できる。
【0046】
特に、本実施形態の伝搬音予測装置を用いた伝搬音予測方法により、建物等の構造物全体に対する空気伝搬音および固体伝搬音の両方を同時に考慮して効率的に予測することが実用レベルで可能となる。
すなわち、本実施形態の伝搬音予測装置を用いた伝搬音予測方法によれば、図2に示したように、振動物理特性が付与された複数の部材要素に構造物をモデル化する(ステップS3、S7)。そして、騒音・振動源から部材要素への入射振動エネルギと部材要素間の振動エネルギ伝達率とに基づいて、統計的エネルギ解析法によって構造物モデルの音響放射エネルギを算出する(ステップS11~S16)。
さらに、振動要素である音響放射エネルギを、結合要素を介して音響要素である固体伝搬音の入射音響エネルギに変換する(ステップS17)。そして、固体伝搬音の入射音響エネルギに基づいて、境界エネルギ積分法によって受音位置での騒音レベルを予測する(ステップS18~S23)。そのため、「振動要素」を「結合要素」により「音響要素」と結合することで、空気伝搬音および固体伝搬音を同時に予測できる。
【0047】
特に、本実施形態の伝搬音予測装置を用いた伝搬音予測方法によれば、図2に示したように、音響特性が付与された複数の微小要素と、振動物理特性が付与された複数の部材要素と、によって構造物をモデル化する。そして、騒音・振動源からの微小要素への入射音響エネルギと微小要素間の音響エネルギ伝達率とに基づいて空気伝搬音の入射音響エネルギを算出する。
さらに、騒音・振動源からの部材要素への入射振動エネルギと部材要素間の振動エネルギ伝達率とに基づいて、統計的エネルギ解析法によって構造物モデルの音響放射エネルギを算出する。そして、構造物モデルの音響放射エネルギを結合要素を介して固体伝搬音の入射音響エネルギに変換する。そして、空気伝搬音の入射音響エネルギと固体伝搬音の入射音響エネルギとに基づいて、境界エネルギ積分法によって受音位置での騒音レベルを予測する。そのため、空気伝搬音および固体伝搬音を同時に予測できる。
【0048】
つまり、本実施形態の伝搬音予測装置を用いた伝搬音予測方法によれば、例えば、建物Bを居住者Pが使用しながら、同一建物内で改修工事および一部解体工事を行った場合に発生する固体伝搬音および空気伝搬音を同時に予測できる。
【0049】
よって、施主が対象建物を使用しながら、実施する改修工事物件および部分解体工事物件の工事騒音予測に適用できる。また、本実施形態の伝搬音予測装置を用いた伝搬音予測方法によれば、空気伝搬音と固体伝搬音を同時に計算できる。そのため、どちらの影響が強いかを比較検討することが可能となり、防音・防振対策の検討を従来よりも効率的にできる。また、計算時間も短く実用性の高い解析が可能となる。
【0050】
また、本実施形態の伝搬音予測装置を用いた伝搬音予測方法によれば、建物を居住者が使用しながら実施するリニューアル工事や一部解体工事に対し、工事によって発生する騒音(振動によって発生する固体伝搬音と空気伝搬音との複合音)を事前に予測できる。そのため、工法の選択や対策範囲の対策手法の検討に用いることができる。
【0051】
また、本実施形態の伝搬音予測装置を用いた伝搬音予測方法によれば、発生騒音(空気伝搬音)と発生振動(固体伝搬音)の両方が問題になるような設備機器の騒音を予測できる。そのため、発生音や発生振動が大きい設備機器の防音・防振対策検討に適用できる。
【0052】
また、本実施形態の伝搬音予測装置を用いた伝搬音予測方法によれば、騒音と振動の両方を発生する設備機器の騒音(振動によって発生する固体伝搬音と空気伝搬音との複合音)を、エネルギーベースで近似計算するので、メッシュを切る量を少なくでき、簡便な入力条件により、事前に短時間で精度良く予測できる。そのため、予測作業を統一化かつ効率化させ、この種の設備機器の防音・防振対策の検討に用いることができる。
【0053】
また、本実施形態の伝搬音予測装置を用いた伝搬音予測方法によれば、音や振動が伝わる過程における減衰状況を可視化できる。そのため、騒音が影響する範囲が分かりやすく、対策が必要な範囲を効率的に決定できる。さらに、ビジュアルな結果表示を行うことができるので、プレゼンテーションツールとしても有効活用できる。
【0054】
特に、顧客に対してわかりやすい結果を「見える化」させることは、プレゼンテーションにおいて重要であり、ビジュアルな表現で解析結果を示すことができる。本実施形態の伝搬音予測装置は、固体伝搬音の統一的な解析が可能なので、これを工事コンペで活用できる。
また、入力が簡便でかつ精度の高い統一した伝搬音予測システムを提供できるため、居室における騒音がどれくらいになるのかを事前に検討でき、顧客のニーズに沿った工事計画の検討がより好適に行える。
【0055】
また、改修工事のみならず、機能を維持しながら既存建物の一部を解体して敷地を確保して新棟を建設していくローリング計画など、機能が老朽化した建物(病院、学校、庁舎等)の更新工事で問題となる工事中の固体伝搬音の解析により、必要な対策を検討するためにも有効である。
【0056】
以上説明したように、本実施形態の伝搬音予測装置を用いた伝搬音予測方法によれば、空気伝搬音および固体伝搬音を同時に予測できる。なお、本発明に係る伝搬音予測方法および伝搬音予測装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0057】
1 スラブ(部材要素)
2 梁(部材要素)
3 柱(部材要素)
As 空気伝搬音
Ss 固体伝搬音
C 結合要素
B 建物(構造物)
M 建機(騒音・振動源)
P 人(居住者)
R 居室(受音位置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6