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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】ロール偏芯制御方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/66 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
B21B37/66
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019103648
(22)【出願日】2019-06-03
(65)【公開番号】P2020196029
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000200334
【氏名又は名称】JFEプラントエンジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】木村 亮介
(72)【発明者】
【氏名】横田 修二
(72)【発明者】
【氏名】天沼 修二
(72)【発明者】
【氏名】今田 浩正
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-138468(JP,A)
【文献】特開昭63-015106(JP,A)
【文献】特開昭59-150612(JP,A)
【文献】特開昭49-072164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4ロール圧延機の一対のバックアップロール又は2ロール圧延機の一対のワークロールである一対のロールに対して、非圧延時にキスロール状態での荷重データから偏芯量を推定し、圧延時に前記偏芯量の推定結果に基づいて前記偏芯量を制御する方法であって、
前記キスロール状態の前記荷重データに基づいてフーリエ級数展開を行うことにより前記一対のロールのフーリエ係数を演算するフーリエ係数演算ステップと、
前記フーリエ係数演算ステップで演算したフーリエ係数に基づいて前記一対のロールの偏芯量を演算する偏芯量演算ステップと、を備え、
前記フーリエ係数演算ステップは、データ長が等しい異なる2区間において、前記一対のロールのうちの一方のロールは同位相であり、他方のロールは略逆位相になるようにして、フーリエ級数展開して得た積分値の和を求めることにより、前記一対のロールのフーリエ係数をロール毎個別のフーリエ係数として求めることを特徴とするロール偏芯制御方法。
【請求項2】
前記異なる2区間の前記データ長は、フーリエ級数の次数に対応した前記一対のロールの前記一方のロール、又は前記他方のロールの1周期の整数倍の長さを基本とすることを特徴とする請求項1記載のロール偏芯制御方法。
【請求項3】
前記異なる2区間の前記データ長は、前記一対のロールの前記一方のロールの周期と前記他方のロールの周期の重み付き平均周期の整数倍であることを特徴とする請求項1記載のロール偏芯制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4ロール圧延機の一対のバックアップロール又は2ロール圧延機の一対のワークロールである一対のロールに対して、非圧延時にキスロール状態での荷重データから偏芯量を推定し、圧延時に前記偏芯量の推定結果に基づいて前記偏芯量を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板などの金属板の圧延に用いられる4ロール圧延機では、ロール偏芯、特にバックアップロールの偏芯除去は圧延における重要課題である。バックアップロール径が、同径であれば、容易に除去できるのであるが、若干の径差がある時には、偏芯による、ビートが生じる。ビートが生じている時に、精度良くフーリエ係数を求めることが困難である。
このため、圧延中に逐次、その時の偏芯量にあうフーリエ係数を求めながら、制御する方法が実用化されている。しかしながら、厚板のような短尺材の圧延、圧延中の荷重には偏芯が精度よく現れにくい塑性係数の小さい材の圧延等は、圧延中にはフーリエ係数を求めることが困難であるため、圧延前にキスロール状態での荷重から、フーリエ係数を求める必要があり、圧延中に補正ができないため、これらを事前に精度良く求めることが必要である。
【0003】
キスロール状態でフーリエ係数を求める方法として、例えば特許文献1、2の技術がある。
特許文献1は、解析的で美しいが、精度よく係数を求めるためには、係数を求めるロールの差分処理時における位相差を十分とる必要があるため、他の方法と同様に一方のロールを回転させる必要がある。これに加えて、データの差分処理が発生する。
特許文献2は実用的な方法であるが、一方のロールを回転させ、フーリエ係数を求めことを繰り返すことにより、この係数を収束させる必要がある。一方のロールを回転させることは、必要最小限の回数にし、差分処理も実施しないことが望まれる。言い換えると、必要精度は維持しながら、処理手続きの簡素化が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-272446号公報
【文献】特開2009-735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、圧延中のデータ採取なしで、言い換えると、キスロール状態のみのデータ採取、しかも少ない採取量で、精度良く、ロール偏芯量を表現できるフーリエ係数を求めることができ、ロール偏芯の補償制御を精度よく行うことで、圧延する板のロール偏芯による厚さ変動を抑制することができるロール偏芯制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るロール偏芯制御方法は、4ロール圧延機の一対のバックアップロール又は2ロール圧延機の一対のワークロールである一対のロールに対して、非圧延時にキスロール状態での荷重データから偏芯量を推定し、圧延時に偏芯量の推定結果に基づいて偏芯量を制御する方法である。この方法は、キスロール状態の荷重データに基づいてフーリエ級数展開を行うことにより一対のロールのフーリエ係数を演算するフーリエ係数演算ステップと、フーリエ係数演算ステップで演算したフーリエ係数に基づいて一対のロールの偏芯量を演算する偏芯量演算ステップと、を備えている。そして、フーリエ係数演算ステップは、データ長が等しい異なる2区間においてフーリエ級数展開して得た積分値の和を一対のロールのフーリエ係数として求め、異なる2区間において、前記一対のロールのうちの一方のロールは同位相であり、他方のロールは略逆位相であるようにした。ここで、逆位相とは、約π位相がずれていることを表している。
【0007】
このように、フーリエ係数演算ステップでは、異なる2区間において、一対のロールのうちの一方のロールは同位相であり、他方のロールは略逆位相であるようにしたので、他のロールの偏芯の影響を受けず、少ないデータ量で精度のよいフーリエ係数を求めることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るロール偏芯制御方法によると、他のロールの偏芯の影響を受けず、少ないデータ量で精度のよいフーリエ係数を求めることができるので、ロール偏芯の補償制御を精度よく行うことができ、圧延する板のロール偏芯による厚さ変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(a)は、一対のロールの偏芯によるビートの発生を示し、図1(b)は、異なる2区間の一方の区間の一対のロールの偏芯量を示し、図1(c)は、異なる2区間の他方の区間の一対のロールの偏芯量を示している。
図2】本発明に係る一実施形態のロール偏芯制御装置を備えた圧延装置を示す図である。
図3】本発明に係る一実施形態のフーリエ係数演算処理を示すフローチャートである。
図4】本発明のシミュレーションを行う際のシミュレータの構成を示す図である。
図5】本発明のシミュレーションを行う際に偏芯したロールの状態を示す図である。
図6】本発明のシミュレーションの結果を示すグラフである。
図7図6の矢印の区間を拡大したグラフである。
図8】本発明のシミュレーションにおいて、補償制御の精度を上げるために、1次のフーリエ係数を求める時にデータ選択を行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照して、本発明に係る実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率、圧延機のスタンド数等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
[ロール偏芯制御方法の概要]
先ず、本発明に係る一実施形態のロール偏芯制御方法の概要について説明する。ここで、本実施形態の内容が明確となるように、これから説明するフーリエ係数の求め方では、先ず従来方法を記載している。
本実施形態のロール偏芯制御方法の概要は、4ロール圧延機の一対のバックアップロール(以下、ロールB1、ロールB2と称する)の偏芯量を制御する方法として説明する。なお、4ロール圧延機の一対のワークロールには偏芯がないものとする。
【0012】
求めたいのは、ロールB1、ロールB2の個々の偏芯量で、以下の(1)式、(2)式で示すが、フーリエ級数展開におけるロールの回転角θと次数nに対応するフーリエ係数an,bn,cn,dnである。これらのフーリエ係数は、従来方法では、以下の(3)式から(6)式で求められるが、ロール径が若干異なり、ビートが生じている時に精度よく求めるには、偏芯の合計荷重から個々の偏芯量を求めるため、非常に長いデータ(T1,T2の整数倍)が必要となり現実的でない。
【0013】
【数1】
【0014】
ここで、f1,f2:ロールB1、ロールB2の偏芯量、θ1、θ2:ロールB1、ロールB2の回転角、n:次数 1、2、3…、g(t):キスロール時のロール偏芯による荷重変化量である(g(t)= M・(f1(t)+f2(t)))、M:ミル定数、T1,T2:ロールB1、ロールB2の1回転時間、L1,L2:整数(なお、T1・L1 = T2・L2を満足するとデータ長は、長く実用的でないが、精度よく係数を求めることができる。)
【0015】
次に、本実施形態のフーリエ係数の求め方について詳細に説明する。本実施形態では、短いデータで精度良くフーリエ係数を求めるため、以下の(7)式、(8)式に示す、ロールB1の2区間における係数演算の和を考えた。なお、以降のフーリエ係数an,bnは、(3)式、(4)式で示したフーリエ係数an,bnとは異なる。
【0016】
【数2】
【0017】
ここで、t1は、任意の時刻とし、t2を以下の(9)式、(10)式を満足するように定めると、ロールB1のフーリエ係数は、ロールB2の影響をほとんど受けないで求めることができる。なぜなら、この時、ロールB2は、t1からの積分とt2からの積分するデータの位相が約π(180°)ずれるからである。言い換えると、
cos(θ+π)=-cosθ、sin(θ+π)=-sinθなので、t1からの積分とt2からの積分が打ち消しあうが、ロールB1は、同位相なので、t1からの積分とt2からの積分がほぼ同値となる。
【0018】
【数3】
【0019】
ここで、k:整数 2,3,4…、B:ビートの1周期時間 T1×T2/|T1-T2|
上述した内容の補足説明を、図1(a)~(c)を参照して説明する。図1(a)は、1次のみ(n=1)の偏芯でロールB1が径1200mm、偏芯量が10μ、ロールB2が径1140mm偏芯量15μの合成によるビートを表す。
そして、短いデータで精度良くフーリエ係数を求めるために設定する2区間は、図1(a)において時刻t1のA区間と、A区間に対してデータ長が等しい異なる時刻t2のB区間である。ここで、A区間、B区間の等しいデータ長は、フーリエ級数の次数に対応したロールB1の1周期の整数倍の長さを基本としている。なお、A区間、B区間の等しいデータ長を、フーリエ級数の次数に対応したロールB2の1周期の整数倍の長さを基本としてもよいし、ロールB1,B2の1周期の平均値で規定してもよい。
【0020】
図1(b)は、図1(a)のA区間におけるロールB1,B2の偏芯量を示し、図1(c)は、図1(a)のB区間におけるロールB1,B2の偏芯量を示している。実際は、図1(a)の偏芯量に対応する荷重変化からこの偏芯量を推定する。
求めたいのは、図1(b),(c)に示すロールB1,B2の個別の偏芯量であり、フーリエ係数で言えば、これらに対応するan,bnである。上述した(9)式、(10)式に従って、t2を求め、(7)式、(8)式に示す積分区間の2倍(T1×2)のデータを図1(b),(c)に示している。ここでは、t1は0(ゼロ)とした。図1(a)のA位置の波形とB位置の波形を比べると、ロールB1は、同位相で、ロールB2は逆位相(約π位相がずれている)である。このため、(7)式、(8)式の1項目の積分と2項目の積分の和をとると、ロールB1については、1項目の約2倍、ロールB2については約0(ゼロ)になる。言い換えると、データを適切に選択して積分すれば、少ないデータでも他のロール偏芯の影響を受けないため、精度良くフーリエ係数を求めることができる。なお、ロールB1の周期で積分すると、ロールB2の周期とは、若干異なるため、完全には0(ゼロ)にはならないが、実用上は問題にならない。
【0021】
したがって、従来技術では、フーリエ係数を精度良く求めるために、偏芯の合計荷重からロールB1の個々の偏芯量を求めるため、非常に長いデータが必要としていたが、本実施形態は、異なる2区間という短いデータで精度良く、上述した(7)式、(8)式のフーリエ係数a,bを求めることができ、同様の方法でロールB2のフーリエ係数c,dを求めることができるので、必要精度を維持しながらロール偏芯制御を効率良く行うことができる。
【0022】
[圧延装置の構成]
次に、図2は、本発明に係る一実施形態の被圧延材の板厚を制御して圧延を行う圧延装置1を示しており、圧延機2と、板厚制御装置3と、ロール偏芯制御装置4と、を備えている。
圧延機2は、一対のロールB1,B2の間に設けられた一対のワークロールW1,W2と、を備える4ロールの圧延機であり、ワークロールW1,W2の間で被圧延材が圧延される。
板厚制御装置3は、上位コンピュータから入力した被圧延材の目標板厚と、圧延機2から入力した被圧延材の板厚、張力、荷重の実測値が入力することで、一対のロールB1,B2が偏芯していない場合のシリンダ位置の出力値を演算する。
【0023】
ロール偏芯制御装置4は、キスロールデータ収集部5と、フーリエ係数演算部6と、補償量演算部7と、収集データ部8と、フーリエ係数データ部9と、を備えている。
キスロールデータ収集部5は、一対のワークロールW1,W2のキスロール時の荷重と一対のロールB1,B2の回転角とを、収集データ部8に格納する。
補償量演算部7は、フーリエ係数演算部6で演算したフーリエ係数a,b,c,dに基づき、前述した式(1)、(2)を使用して、一対のロールB1,B2の偏芯量f1,f2と、これら偏芯量f1,f2を打ち消す補償量を演算し、この補償量を出力する。
【0024】
フーリエ係数演算部6は、収集データ部8に格納されている情報などに基づいて、図3に示すフーリエ係数演算処理を行う。
図3のフーリエ係数演算処理は、先ず、ステップST10において、一対のワークロールW1,W2をキスロールさせた状態で一定荷重をかけ、図1(a)のA区間における一対のロールB1,B2の回転角と荷重を数回転分計測する。
次いで、ステップST11において、ステップST10で計測した一対のロールB1,B2の回転角、又は一対のロールB1,B2のロール径の設定値から一対のロールB1,B2のビード周期を演算する。
【0025】
次いで、ステップST12において、ビート周期、一対のロールB1,B2の周期及び必要とする次数に基づいて次回のサンプリング位置(回転角)を求め、一対のロールB1,B2の一方のロールをサンプリング位置までキスロールしない状態で回転させる。そして、再度、キスロール状態として次数ごとに図2(a)のB区間における一対のロールB1,B2の回転角と荷重を数回転分計測する。
次いで、ステップST13において、各次数及び一対のロールB1,B2の一方及び他方毎に回転角を合わせてフーリエ係数a,b,c,dとして演算する。そして、フーリエ係数データ部9に格納する。
【0026】
そして、補償量演算部7が出力した補償量が、板厚制御装置3の出力値に加えられることで、一対のロールB1,B2のロール偏芯が抑制される。
ここで、本発明に記載されているフーリエ係数演算ステップが、図3で示したフーリエ係数演算処理に対応し、本発明に記載されている偏芯量演算ステップが、ロール偏芯制御装置4の補償量演算部7が行う処理に対応している。
【0027】
[本実施形態の効果]
本実施形態は、以下の効果を奏する。本実施形態の圧延装置1を構成するロール偏芯制御装置4のフーリエ係数演算部6が、データ長が等しい異なる2区間(図1(a)のA区間、B区間)において当該ロールB1は同位相であり、他のロールB2は略逆位相としているので、他のロールの偏芯の影響を受けず、少ないデータ量で精度のよいフーリエ係数a,b,c,dを演算することができる。そして、ロール偏芯制御装置4の補償量演算部7が、演算したフーリエ係数a,b,c,dに基づいて一対のロールB1,B2の偏芯量f1,f2を高精度に求めることができる。
【0028】
また、ロール偏芯制御装置4を備えた圧延装置1は、一対のロールB1,B2の偏芯量f1,f2に基づいて補償量を演算し、圧延時における偏芯による被圧延材の厚さ変動を抑制することができる。
なお、ロール偏芯制御演算部4のフーリエ係数演算部6では、フーリエ係数を求める時のデータ長を、ロールB1の1周期分の整数倍としたが、ロール2の一周期分の整数倍でもよく、また、ロールB1の周期とロールBの周期の重み付き平均周期の整数倍でもよい。
また、本実施形態は、4ロールの圧延装置1の一対のロールB1,B2のロール偏芯制御について説明したが、本発明の要旨がこれに限るものではなく、例えば2ロール圧延機の一対のワークロールのロール偏芯制御に使用しても、同様の効果を奏することができる。
【0029】
[シミュレーション結果]
次に、本実施形態のシミュレーション結果を、図4から図8を参照して説明する。
図4は、シミュレータの構成を示しており、圧延機10と、ロール偏芯制御器11と、シリンダ応答同定器12と、を備えている。
圧延機10は、ロール偏芯に関し、偏芯の発生と偏芯を打ち消すシリンダの動きを模擬する。偏芯の発生は、図5に示すロール偏芯のモデルを用いている。偏芯があるのは、図5の一対のロールB1,B2で、一対のワークロールW1,W1は、偏芯はないものとしている。偏芯は、ロール毎、次数毎に正弦波とした。これらを合成した総合偏芯量Ltを式(11)に示す。
【0030】
【数4】
【0031】
ここで、f:偏芯のあるロール番号(1,2)、n:次数(1,2,3,…)、Lfn:偏芯量(ロール別、次数別)、I:シミュレーションの演算カウント(1,2,3,4,5…)、K:回転方向(-1、1)、ω:回転速度(rad/演算)、R:基準ロール径(回転速度ω対応基準径、検証ではロールB1の径)、Rf:ロール径(ロールB1,B2)、θfn:初期位相(ロール別、次数別)
総合偏芯量Ltにミル定数Mをかけたものが、荷重g(t)になる。
ロール偏芯制御器11は、荷重g(t)をミル定数Mで割りもどして、総合偏芯量Ltを推定するが、本シミュレーションでは、総合偏芯量Ltのまま、シミュレーションを行う。
【0032】
また、圧延機10は、ロール偏芯制御器11からのシリンダ位置指令値に対して、遅れを有する。この遅れは、高次の遅れ系としてモデル化されているが、ここではシミュレーション上の本質ではないため、時定数100msecの1次遅れ系とした。
ロール偏芯制御器11は、フーリエ係数を求めるため、キスロール時に圧延機10の荷重とロール回転角を収集し、圧延時には、このフーリエ係数と、シリンダ応答同定器12で求めた圧延機の次数別ゲイン、遅れ時間、とロール回転角からシリンダ位置の補償量を演算し、圧延機に出力する。
【0033】
また、ロール偏芯の制御出力は各次数毎の演算結果の和であるから、次数毎の応答を事前に調べ、その結果に従って、制御出力を行い補償制御の精度を上げることができる。本シミュレーションでは、シリンダ応答同定器22が、各次数の正弦波(シリンダ位置)を圧延機10へ出力し、その応答のシリンダ位置を把握して、次数毎の遅れとゲインを演算する。遅れは、正弦波のピーク値の時間差とし、ゲインは、ピーク値の比とした。
次に、一対のロールB1,B2の偏芯設定を表1に示す。ここでは、一対のロールB1,B2のみ偏芯があるものとし、次数は、2次までとした。基準ロールの回転速度は0.04rad/sec、演算とし演算周期は、2msecとした。また、演算回数は6000回とした。
【0034】
【表1】
【0035】
シミュレーションの結果を図6及び図7のグラフに示す。図7は、図6の矢印の区間を拡大したものである。図6及び図7の実線が総合偏芯量で、破線が補償制御後の偏芯量を示す。図6及び図7から、本実施形態では偏芯を十分制御できることがわかる。また、図7の初期において、補償後偏芯量が大きいのは、シリンダの遅れがあるためである。実圧延において、材の噛み込み前から、本実施形態のロール偏芯の補償を行っていれば、解消可能である。
【0036】
なお、本シミュレーションでは、補償制御の精度を上げるため、1次のフーリエ係数を求める時に、図8に示すようなデータ選択を行っている。実線が、前述した式(7)式及び式(8)式における積分の1項目に対応するが、2周期分を積分区間としている。破線と一点鎖線は、約180度ずれた位置の2項目のデータであるが、一点鎖線は破線より、1周期遅らしたデータである。これらの積分量は、1項目の2倍となるため、1/2倍している。
また、1次の係数のみであるが、この係数のゲインを1.2としており、他は1である。このゲインは、オフラインの検証等で適正化できる。
【符号の説明】
【0037】
1 圧延装置
2 圧延機
3 板厚制御装置
4 ロール偏芯制御装置
5 キスロールデータ収集部
6 フーリエ係数演算部
7 補償量演算部
8 収集データ部
9 フーリエ係数データ部
10 圧延機
11 ロール偏芯制御器
12 シリンダ応答同定器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8