(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】固定工具
(51)【国際特許分類】
B25C 1/06 20060101AFI20221104BHJP
B27F 7/11 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
B25C1/06
B27F7/11
(21)【出願番号】P 2020568278
(86)(22)【出願日】2019-05-29
(86)【国際出願番号】 EP2019063954
(87)【国際公開番号】W WO2019233851
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2020-12-05
(32)【優先日】2018-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591010170
【氏名又は名称】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
【住所又は居所原語表記】Feldkircherstrasse 100, 9494 Schaan, LIECHTENSTEIN
(74)【代理人】
【識別番号】100123342
【氏名又は名称】中村 承平
(72)【発明者】
【氏名】ペーター ブルグミュラー
(72)【発明者】
【氏名】チャフィック アブ アントゥン
(72)【発明者】
【氏名】ティロ ディットリッヒ
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-510590(JP,A)
【文献】特開平09-234677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25C 1/06
B27F 7/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
留め具を基板(被打ち込み材)に打ち込むための固定工具、特に、手持ち固定工具であって、留め具を保持するためのホルダと
、前記ホルダに保持された留め具を固定軸に沿って前記基板内に搬送するための打ち込み要素と、前記打ち込み要素を前記固定軸に沿って前記留め具に向かって駆動するためのドライブと、を備え、前記ドライブが、電気コンデンサと、前記打ち込み要素上に配置されたかご形回転子と、前記コンデンサの放電中に、電流が流れ、前記打ち込み要素を前記留め具に向かって加速する磁場を生成する励起コイルと、を備え、前記打ち込み要素
は、少なくとも30J及び最大600Jの前記留め具を前記基板内に搬送するための固定エネルギーE
kin
、ピストン直径d
K及びピストン質量m
Kを有し、ピストン直径d
Kが、
【数1】
であり、式中、a=33mm、b=6mmJ
-n、n=1/3であり、及び/又はピストン質量m
Kが、
【数2】
であり、式中、c=20g、d=30gJ
-n、n=1/3である、固定工具。
【請求項2】
前記ピストン直径d
Kが、
【数3】
である、請求項1に記載の固定工具固定工具。
【請求項3】
前記ピストン質量m
Kが、
【数4】
である、請求項1又は2に記載の固定工具。
【請求項4】
前記コンデンサの前記放電中に前記励起コイルを流れる前記電流の電流強度A
coilが、立ち上がりエッジ、最大電流強度A
max、及び立ち下がりエッジを有する時間プロファイルを有し、前記電流強度A
coilが
、前記最大電流強度A
maxの0.1倍から0.8倍に立ち上がる
電流立ち上がり時間Δt
rise
が、少なくとも0.020ms及び最大0.275msであり、且つ、
前記電流強度A
coil
が前記最大電流強度A
max
の0.5倍超となっているインパクト時間Δ
t
impact
が、少なくとも0.15ms及び最大2.0msである、請求項1~3のいずれか1項に記載の固定工具。
【請求項5】
前記電流立ち上がり時間Δt
riseが、少なくとも0.05ms及び最大0.2msであり、及び/又は前記インパクト時間Δt
impactが、少なくとも0.2ms及び最大1.6msである、請求項4に記載の固定工具。
【請求項6】
前記コンデンサの前記放電中の前記励起コイルの最大電流密度が、少なくとも800A/mm
2及び最大3200A/mm
2である、請求項1~5のいずれか1項に記載の固定工具。
【請求項7】
前記コンデンサ及び前記励起コイルが電気発振回路に配置されており、前記コンデンサは静電容量C
cap及びコンデンサ抵抗R
capを有し、前記励起コイルが自己インダクタンスL
coil及びコイル抵抗R
coilを有し、前記電気発振回路が総抵抗R
totalを有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の固定工具。
【請求項8】
前記総抵抗R
totalに対する前記コンデンサ抵抗R
capの比率が、最大0.6、特に最大0.5である、請求項7に記載の固定工具。
【請求項9】
前記コイル抵抗R
coilに対する前記自己インダクタンスL
coilの比率が、少なくとも800μH/Ω及び最大4800μH/Ωである、請求項7又は8に記載の固定工具。
【請求項10】
前記コンデンサがコンデンサ時定数τ
cap=C
capR
capを有し、前記励起コイルがコイル時定数τ
coil=L
coil/R
coilを有し、前記コンデンサ時定数τ
capに対する前記コイル時定数t
coilの比率が少なくとも10である、請求項7~9のいずれか1項に記載の固定工具
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、留め具を基板(被打ち込み材)に打ち込むための固定工具に関する。
【背景技術】
【0002】
そのような固定工具は通常、留め具用のホルダを有し、ホルダからホルダ内に保持された留め具を固定軸に沿って基板内に搬送する。このため、打ち込み要素は、ドライブによって固定軸に沿って留め具に向かって駆動される。
【0003】
特許文献1は、打ち込み要素用のドライブを備えた固定工具を開示している。ドライブは、電気コンデンサとコイルとを有する。打ち込み要素を駆動するために、コンデンサはコイルを介して放電され、それによってローレンツ力が打ち込み要素に作用し、その結果、打ち込み要素が釘に向かって移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高効率及び/又は良好な固定品質が保証される、前述のタイプの固定工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、留め具を基板(被打ち込み材)に打ち込むための固定工具によって達成され、固定工具は、留め具を保持するためのホルダと
、ホルダに保持された留め具を固定軸に沿って基板内に搬送する打ち込み要素と、打ち込み要素を固定軸に沿って留め具に向かって駆動するドライブと、を備え、ドライブは、電気コンデンサと、打ち込み要素上に配置されたかご形回転子と、コンデンサの放電中に、電流が流れ、打ち込み要素を留め具に向かって加速する磁場を生成する励起コイルと、を備え、打ち込み要素は、
少なくとも30J及び最大600Jの前記留め具を前記前記基板内に搬送するための固定エネルギーE
kin
、ピストン直径d
K及びピストン質量m
Kを有し、ピストン直径d
Kは、
【数1】
であり、式中、a=33mm、b=6mmJ-n、n=1/3であり、及び/又はピストン質量m
Kは、
【数2】
であり、式中、c=20g、d=30gJ-n、n=1/3である。本発明において、ピストン直径d
Kは、固定軸に垂直な打ち込み要素の最大範囲を意味する。円柱形の打ち込み要素又はピストンプレートの場合、これは円筒の直径である。好ましくは、ピストン直径d
Kは、
【数3】
である。
【0007】
同様に、好ましくは、ピストン質量m
Kは、
【数4】
である。
【0008】
この手段は、ドライブの効率を高める効果を有する。この場合、固定工具は、好ましくは、手持ち式で使用することができる。或いは、固定工具は、静止(固定)又は半静止(半固定)方式で使用することができる。
【0009】
本発明において、コンデンサは、電荷及び関連するエネルギーを電界に貯蔵する電気構成要素を意味する。特に、コンデンサは、2つの導電性電極を有し、電極が異なって帯電すると、その間に電界が形成される。本発明の文脈において、留め具は、例えば、釘、ピン、クランプ、クリップ、スタッド、特にねじ付きボルトなどを意味する。
【0010】
本発明の有利な態様では、コンデンサの放電中に励起コイルを流れる電流の電流強度Acoilが、立ち上がりエッジ、最大電流強度Amax、及び立ち下がりエッジを有する時間プロファイルを有し、電流強度Acoil
が、最大電流強度Amaxの0.1倍から0.8倍に立ち上がる時間を電流立ち上がり時間Δt
rise
、且つ、電流強度A
coil
が、最大電流強度Amaxの0.5倍超になっている時間をインパクト時間Δt
impact
とすると、電流立ち上がり時間Δtriseは、少なくとも0.020ms及び最大0.275msであり、並びに/又はインパクト時間Δtimpactは、少なくとも0.15ms及び最大2.0msである、ことを特徴とする。好ましくは、電流立ち上がり時間Δtriseは、少なくとも0.05ms及び最大0.2msであり、並びに/又はインパクト時間Δtimpactは、少なくとも0.2ms及び最大1.6msである。
【0011】
有利な態様では、コンデンサの放電中の励起コイルの最大電流密度は、少なくとも800A/mm2及び最大3200A/mm2である、ことを特徴とする。
【0012】
有利な態様では、コンデンサ及び励起コイルが電気発振回路に配置されており、コンデンサが静電容量Ccap及びコンデンサ抵抗Rcapを有し、励起コイルが自己インダクタンスLcoil及びコイル抵抗Rcoilを有し、電気発振回路が総抵抗Rtotalを有する、ことを特徴とする。総抵抗Rtotalに対するコンデンサ抵抗Rcapの比率は、好ましくは最大0.6、特に好ましくは最大0.5である。同様に好ましくは、コイル抵抗Rcoilに対する自己インダクタンスLcoilの比率は、少なくとも800μH/Ω及び最大4800μH/Ωである。同様に好ましくは、コンデンサはコンデンサ時定数τcap=CcapRcapを有し、励起コイルはコイル時定数τcoil=Lcoil/Rcoilを有し、ここでコンデンサ時定数τcapに対するコイル時定数τcoilの比率は少なくとも10である。
【0013】
本発明は、図面中に示された複数の実施例により説明される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】電流強度の時間プロファイルを示す図である。
【
図4】ピストン質量に依存する効率を示す図である。
【
図5】固定エネルギーに基づくピストン直径を示す図である。
【
図6】固定エネルギーに基づくピストン質量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、図示されていない基板(被打ち込み材)に留め具を打ち込むための手持ち固定工具10を示している。固定工具10は、スタッドガイドとして形成されたホルダ20を有し、ここに、釘として形成された留め具30を(
図1の左側上の)固定軸Aに沿って基板内に打ち込まれるために保持されている。留め具をホルダに供給する目的で、固定工具10は、留め具が貯蔵庫内に個別に、又は留め具ストリップ50の形態で保持されて、ホルダ20に1つずつ搬送されるマガジン40を備える。この目的のために、マガジン40は、特に示されていない、バネ仕掛け供給要素を有する。固定工具10は、ピストンプレート70及びピストンロッド80を含む、打ち込み要素60を有する。打ち込み要素60は、留め具30を、ホルダ20から固定軸Aに沿って基板内に搬送するために提供される。そのプロセスでは、打ち込み要素60は、そのピストンプレート70を用いて、固定軸Aに沿ってガイドシリンダ95内に案内される。
【0016】
打ち込み要素60は、その一部が、ピストンプレート70上に配置されたかご形回転子90、励起コイル100、軟磁性フレーム105、スイッチング回路200、及び内部抵抗が5mΩのコンデンサ300を備えるドライブによって駆動される。かご形回転子90は、好ましくはリング状、特に好ましくは円形リング状の、低電気抵抗の、例えば銅製の要素からなり、例えば、ホルダ20とは反対側を向くピストンプレート70の側部上のピストンプレート70に、はんだ付けされ、溶接され、接着接合され、クランプされ、又は形状同志の嵌め合いにより結合されて、締結される。図示されていない実施例では、ピストンプレート自体は、かご形回転子として形成されている。スイッチング回路200は、以前に充電されたコンデンサ300の急速放電を引き起こし、それによってフレーム105に組み込まれた励起コイル100を通して流れる放電電流を伝導するために提供される。フレームは、好ましくは、少なくとも1.0Tの飽和磁束密度、及び/又は最大106S/mの実効比電気伝導率を有し、その結果、励起コイル100によって生成される磁場がフレーム105によって増強され、フレーム105内の渦電流は抑制される。
【0017】
打ち込み要素60(
図1)の準備完了位置では、打ち込み要素60は、かご形回転子90が励起コイル100から少し離れたところに配置されるように、ピストンプレート70で、特に示されていないフレーム105のリング状の凹部に入る。その結果、励起コイルを流れる電気励起電流の変化によって生成される励起磁場は、かご形回転子90を通過し、その一部が、かご形回転子90に、リング状に循環する二次電流を誘導する。増大し、したがって変化するこの二次電流は、次いで励起磁場に対抗する二次磁場を生成し、その結果、かご形回転子90はローレンツ力を受け、それによって励起コイル100によって反発されて、打ち込み要素60をホルダ20とその中に保持された留め具30とに向けて駆動する。
【0018】
固定工具10は、ドライブが保持されるハウジング110と、トリガとして形成された操作要素130を備えたハンドル120と、充電式バッテリとして形成された電気エネルギー貯蔵器140と、制御ユニット150と、トリップスイッチ160と、接触圧力スイッチ170と、フレーム105上に配置された温度センサ180として形成された励起コイル100の温度を検出するための手段と、制御ユニット150を電気エネルギー貯蔵器140、トリップスイッチ160、接触圧力スイッチ170、温度センサ180、スイッチング回路200、及びコンデンサ300にそれぞれ接続する電気接続ライン141、161、171、181、201、301と、を更に備える。図示されていない実施例では、固定工具10は、電気エネルギー貯蔵器140の代わりに、又は電気エネルギー貯蔵器140に加えて、電力ケーブルによって電気エネルギーを供給される。制御ユニットは、好ましくはプリント回路基板上で相互接続されて1つ以上の電気制御回路、特に1つ以上のマイクロプロセッサを形成する、電子構成要素を備える。
【0019】
固定工具10が(
図1の左側上に)示されていない基板に対して押し付けられると、特に示されていない接触圧力要素が、接触圧力スイッチ170を操作し、その結果、接続ライン171によって接触圧力信号を制御ユニット150に送信する。これにより、制御ユニット150をトリガしてコンデンサ充電プロセスを開始し、ここで、コンデンサ300を充電するために、電気エネルギーが、接続ライン141によって電気エネルギー貯蔵器140から制御ユニット150に、且つ、接続ライン301によって制御ユニット150からコンデンサ300に伝導される。この目的のために、制御ユニット150は、電気エネルギー貯蔵器140からの電流をコンデンサ300のための適切な充電電流に変換する、特に示されていないスイッチングコンバータを備える。コンデンサ300が充電され、打ち込み要素60が
図1に示されるその準備完了状態位置にあるとき、固定工具10は準備完了状態にある。コンデンサ300の充電は、固定工具10を基板に対して押し付けることによってのみ実施されるので、エリアの人々の安全性を高めるために、固定プロセスは、固定工具10が基板に対して押し付けられたときのみに実行可能になる。図示されていない実施例では、制御ユニットは、固定工具がオンにされるときに、又は固定工具が基板から持ち上げられるときに、又は先行する打ち込みプロセスが完了するときに、コンデンサ充電プロセスをすでに開始している。
【0020】
操作要素130が、例えば、ハンドル120を保持している手の人差し指を使用して引っ張られることで、固定工具10が準備完了状態で操作されると、操作要素130はトリップスイッチ160を操作し、その結果、接続ライン161によってトリップ信号が制御ユニット150に送信される。これにより、制御ユニット150をトリガしてコンデンサ放電プロセスを開始し、ここで、コンデンサ300に貯蔵された電気エネルギーが、コンデンサ300が放電されることによって、スイッチング回路200を用いてコンデンサ300から励起コイル100に伝導される。
【0021】
この目的のために、
図1に概略的に示されるスイッチング回路200は、2つの放電ライン210、220を備え、これらは、コンデンサ300を励起コイル200に接続し、少なくとも1つの放電ライン210は、通常開である放電スイッチ230によって遮断される。スイッチング回路200は、励起コイル100及びコンデンサ300と電気発振回路を形成する。この発振回路の前後の発振、及び/又はコンデンサ300の負の充電は、ドライブの効率に悪影響を及ぼす可能性があり得るが、フリーホイールダイオード240を用いて抑制することができる。放電ライン210、220は、例えば、はんだ付け、溶接、ねじ込み、クランプ、又は形状適合接続によって、いずれの場合も、ホルダ20に面するコンデンサ300の端部側360上に配置されたコンデンサ300の電気接点370、380によって、コンデンサ300の1つの電極310、320に電気的に接続される。放電スイッチ230は、好ましくは、高電流強度の放電電流をスイッチングするのに適しており、例えば、サイリスタとして形成される。加えて、放電ライン210、220は、互いに小さな距離にあるので、それらによって誘導される寄生磁場は可能な限り低くなる。例えば、放電ライン210、220は、組み合わされてバスバーを形成し、適切な手段、例えば、保持デバイス又はクランプによって一緒に保持される。図示されていない実施例では、フリーホイールダイオードは、放電スイッチと電気的に並列に接続されている。図示されていない更なる実施例では、フリーホイーリングダイオードは回路内にはない。
【0022】
コンデンサ放電プロセスを開始する目的で、制御ユニット150は、接続ライン201によって放電スイッチ230を閉じ、その結果、高電流強度のコンデンサ300の放電電流が、励起コイル100を流れる。急速に立ち上がる放電電流は、かご形回転子90を通過する励起磁場を誘導し、その一部が、かご形回転子90内に、リング状に循環する二次電流を誘導する。増大するこの二次電流は、次いで励起磁場に対抗する二次磁場を生成し、その結果、かご形回転子90はローレンツ力を受け、それによって励起コイル100によって反発されて、打ち込み要素60をホルダ20とその中に保持された留め具30とに向けて駆動する。打ち込み要素60のピストンロッド80が留め具30の、特に示されていないヘッドに接触するとすぐに、留め具30は、打ち込み要素60によって基板内に打ち込まれる。打ち込み要素60の過剰な運動エネルギーは、打ち込み要素60がピストンプレート70と共にブレーキ要素85に対して移動し、それが停止するまでブレーキ要素85によりブレーキがかけられることによって、ばね弾性及び/又は減衰材料、例えばゴムで作られたブレーキ要素85によって吸収される。次いで、打ち込み要素60は、特に示されていないリセットデバイスによって、準備完了位置にリセットされる。
【0023】
コンデンサ300、特にその重心は、固定軸A上の打ち込み要素60の後ろに配置されるが、ホルダ20は、打ち込み要素60の前に配置される。したがって、固定軸Aに関して、コンデンサ300は、打ち込み要素60に対して軸方向にオフセットされた方法で、及び打ち込み要素60と半径方向にオーバーラップするように配置されている。その結果、一方では、長さが短い放電ライン210、220を実現することができ、その結果、それらの抵抗を低減することができるため、ドライブの効率を高めることができる。一方、固定工具10の重心と固定軸Aとの間に、わずかな距離を実現することができる。その結果、打ち込みプロセス中に固定工具10が反動した場合の傾斜(角度)モーメントは小さい。図示されていない実施例では、コンデンサは、打ち込み要素の周りに配置されている。
【0024】
電極310、320は、例えば、キャリアフィルム330のメタライゼーションによって、特に蒸着によって、固定軸Aと一致する巻線軸の周りに巻かれたキャリアフィルム330の両側に配置される。図示されていない実施例では、電極を備えたキャリアフィルムは、巻線軸に沿って通路が残るように巻線軸の周りに巻かれている。特に、この場合、コンデンサは、例えば、固定軸の周りに配置されている。キャリアフィルム330は、1500Vのコンデンサ300の充電電圧で、2.5μm~4.8μmの膜厚を有し、3000Vのコンデンサ300の充電電圧で、例えば9.6μmの膜厚を有する。図示されていない実施例では、キャリアフィルムは、その一部が、層として上下に配置された2つ以上の個別のフィルムからなる。電極310、320は、50Ω/□のシート抵抗を有する。
【0025】
コンデンサ300の表面は、円筒、特に円柱の形状をしており、その円柱軸は、固定軸Aと一致している。巻線軸方向のこの円柱の高さは、巻軸に垂直に測定して、その直径と実質的に同じサイズである。シリンダの直径に対する高さの比が小さいため、コンデンサ300の比較的高い静電容量に対する低内部抵抗、及びとりわけ、固定工具10のコンパクト構造が実現される。コンデンサ300の低内部抵抗はまた、電極310、320の大きなライン断面によって、特に電極310、320の厚い層厚によって実現され、ここでは、自己回復効果、及び/又はコンデンサ300の耐用年数に対する層厚の影響を考慮に入れるべきである。
【0026】
コンデンサ300は、減衰要素350によって減衰されるように、固定工具10の残りの部分に取り付けられている。減衰要素350は、固定軸Aに沿った固定工具10の残りの部分に対するコンデンサ300の動きを減衰させる。減衰要素350は、コンデンサ300の端部側360上に配置され、端部側360を完全に覆う。結果として、キャリアフィルム330の個々の巻線は、固定工具10の反動による均一な負荷を受ける。この場合、電気接点370、380は、端面360から突出し、減衰要素350を通過する。このために、それぞれの場合の減衰要素350は、電気接点370、380が突出するためのクリアランスを有する。接続ライン301はそれぞれ、コンデンサ300と、固定工具10の残りの部分との間の相対的な動きを補償するために、詳細には示されていない、ひずみ緩和及び/又は拡張ループを有する。図示されていない実施例では、更なる減衰要素が、コンデンサ上に、例えば、ホルダとは反対側に面するコンデンサの端部側上に配置される。次いで、コンデンサは、好ましくは、2つの減衰要素間にクランプされ、すなわち、減衰要素は、プレストレスでコンデンサを支える。図示されていない更なる実施例では、接続ラインは、コンデンサからの距離が増大するにつれて連続的に減少する剛性を有する。
【0027】
図2は励起コイル600の縦断面図を示している。励起コイル600は、例えば、固定軸A
2の周りに数ターン610で巻かれた、円形断面を有する、好ましくは銅製の導電体を備える。全体として、励起コイルは、外径R
a、及び固定軸A
2方向にコイル長L
Spを有する、実質的に円筒形、特に円柱形の外形を有する。固定軸A
2に対して半径方向内側にある領域において、励起コイル600は、好ましくは同様に円筒形、特に円柱状であり、励起コイル600の内径R
iを画定する自由空間620を有する。これにより、コイルの自己インダクタンスは、
【数5】
であり、ここで、誘導定数は
【数6】
、n
Wは励起コイル600の巻数であり、平均コイル半径は、
【数7】
である。固定工具の動作中、励起コイル600は磁気的に飽和した領域にあるので、励起コイル600の透磁率数μ
rは、μ
r=1として設定され、その結果、自己インダクタンスは、励起コイル600の巻数及び寸法から計算することができる。
【0028】
励起コイル600の温度を検出するための温度センサ660として形成された手段は、固定軸A2に対して励起コイル600の軸方向の端部面上に配置され、熱伝導性方式で、例えばサーマルペーストによって、励起コイル600に接続されている。図示されていない実施例では、温度センサは、励起コイルの内周又は外周に配置されている。
【0029】
図3は、本発明による固定工具内のコンデンサの放電中に励起コイルを流れる電流の電流強度A
coilの時間プロファイル400を示している。電流強度A
coilはアンペアで示され、ミリ秒単位の時間tに対してプロットされている。電流強度A
coilの時間プロファイル400は、立ち上がりエッジ410、約6000Aの最大電流強度A
max、及び立ち下がりエッジ420を有する。立ち上がりエッジ410内で、電流強度A
coilは、電流立ち上がり時間Δt
riseの間に、最大電流強度A
maxの0.1倍から0.8倍に立ち上がる。インパクト時間Δt
impactの間に、電流強度A
coilは、最大電流強度A
maxの0.5倍超になる。
【0030】
この実施例では、電流立ち上がり時間Δtriseは、約0.05msであり、インパクト時間Δtimpactは、約0.4msである。電流立ち上がり時間Δtrise及びインパクト時間Δtimpactの選択が小さ過ぎる場合、同じ固定エネルギーを確実にするために最大電流強度Amaxを増大させる必要がある。しかしながら、これにより、励起コイルの熱負荷が増大し、それによってドライブの効率が低下する。電流立ち上がり時間Δtrise及びインパクト時間Δtimpactの選択が大き過ぎる場合、打ち込み要素は、すでに立ち上がりエッジ410にある励起コイルから遠く離れて移動し、かご形回転子に作用する反発力が減少するため、同様に、ドライブの効率が低下する。
【0031】
励起コイルの断面積が例えば3mm2の場合、コンデンサの放電中の励起コイルの最大電流密度は、約2000A/mm2である。励起コイルの最大電流密度の選択が低過ぎる場合、そうでなければ変更されていない固定工具で達成できる固定エネルギーが減少する。これを補償するために、例えば、コンデンサ又は励起コイルを大きくする必要があるが、これにより固定工具の重量を増大させ得る。励起コイルの最大電流密度の選択が高過ぎる場合、励起コイルの熱負荷が増大し、その結果、ドライブの効率が低下する。
【0032】
コンデンサ及び励起コイルは、総抵抗Rtotalを有する電気発振回路に配置されている。コンデンサは、静電容量Ccap及びコンデンサ抵抗Rcapを有する。励起コイルは、自己インダクタンスLcoil及びコイル抵抗Rcoilを有する。総抵抗Rtotalに対するコンデンサ抵抗Rcapの比率は、0.14である。総抵抗Rtotalに対するコンデンサ抵抗Rcapの比率の選択が大き過ぎる場合、コンデンサにおいて比較的大量の熱損失が発生し、その結果、ドライブの効率が低下する。
【0033】
励起コイルのコイル時定数τcoilは、コイル抵抗Rcoilに対する自己インダクタンスLcoilの比率から得られ、例えば、1000μH/Ω又は1msである。コイル時定数τcoilの選択が小さ過ぎる場合、励起コイルに流れる電流が急激に増大し、それによってドライブの効率が低下する。コイル時定数τcoilの選択が大き過ぎる場合、励起コイルに流れる電流が比較的長い期間にわたって分散する。この結果、最大電流強度Amaxが減少し、それによってドライブの効率が低下する。
【0034】
加えて、コンデンサはコンデンサ時定数τcap=CcapRcapを有し、励起コイルはコイル時定数τcoil=Lcoil/Rcoilを有し、ここで、コンデンサ時定数τcapに対するコイル時定数τcoilの比率は約150である。時定数の比率の選択が小さ過ぎる場合、コンデンサにおいて比較的大量の熱損失が発生し、それによってドライブの効率が低下する。
【0035】
図4は、固定エネルギーE
kinが125Jである打ち込み要素のピストン質量m
Kに依存する固定工具のドライブの効率ηを示している。効率ηには単位がなく、ピストンの質量m
Kはグラムで示される。ドライブの総効率η
totalは、反動効率η
Rと電磁効率η
emとの積から得られる。同じ固定エネルギーE
kinでは、固定工具の反動のエネルギーがピストン質量m
Kの増大とともに増大してこの反動エネルギーが失われるため、反動効率η
Rは、ピストン質量m
Kの増大とともに減少する。同じ固定エネルギーE
kinでは、打ち込み要素の加速度がピストン質量m
Kの増大とともに減少し、したがって、励起コイルの影響範囲内の打ち込み要素に対する時間長が増大するため、電磁効率η
emは、ピストン質量m
Kの増大とともに増大する。ドライブの総効率η
totalが最大になるピストン質量m
Kは、以下のように決定できる。
【数8】
式中、c=20g、d=30gJ
-n、n=1/3である。この例(E
kin=125J)では、ピストン質量m
K=170gである。
【0036】
図5は、上述のピストン質量m
Kの固定エネルギーE
kinとの関係を示している。
図4に関連して説明したように、範囲外
【数9】
では、本発明によれば、ドライブの総効率η
totalは、大幅に減少する。
【0037】
図4と同様に、ピストン直径d
Kが増大するとピストン質量m
Kが増大するため、反動効率η
Rもまた、ピストン直径d
Kが増大すると減少する。更に、ピストン直径d
Kが増大するとかご形回転子の直径が増大し、その結果、励起コイルとかご形回転子との間の反発力も増大するため、電磁効率η
emは、ピストン直径d
Kが増大すると増大する。ドライブの総効率η
totalが所与の固定エネルギーE
kinに対して最大になるピストン直径d
Kは、以下ように決定できる。
【数10】
式中、a=33mm、b=6mmJ
-n、n=1/3である。この例(E
kin=125J)では、ピストン直径d
K=63mmである。
【0038】
図6は、上述のピストン直径d
Kと固定エネルギーE
kinとの関係を示している。上述のように、範囲外
【数11】
では、本発明によれば、ドライブの総効率η
totalは、大幅に減少する。
【0039】
本発明は、図面に示されている一連の実施例、及び図示されていない実施例を使用して説明されてきた。様々な実施例の個別の特徴は、それらが矛盾しないという前提で、個別に、又は互いに任意の所望の組み合わせで、適用可能である。本発明による固定工具はまた、他の用途にも使用できることに留意されたい。