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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】スケグ船
(51)【国際特許分類】
   B63B 1/32 20060101AFI20221104BHJP
   B63B 1/08 20060101ALI20221104BHJP
   B63H 5/08 20060101ALI20221104BHJP
   B63H 5/16 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
B63B1/32 A
B63B1/08 Z
B63H5/08
B63H5/16 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018082194
(22)【出願日】2018-04-23
(65)【公開番号】P2019188942
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】細野 和樹
(72)【発明者】
【氏名】川淵 信
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 良太
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-149000(JP,U)
【文献】特開2015-147533(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0079802(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0137945(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0192465(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/32
B63B 1/08
B63H 5/08
B63H 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船尾部の船底に船体前後方向に沿って設けられるスケグであって、第1スケグと、前記第1スケグに対して船体幅方向に間隔をあけて設けられた第2スケグと、を少なくとも含むスケグと、
前記スケグに支持されるとともに、前記スケグから後方に突出するプロペラ軸と、
前記プロペラ軸に固定されたプロペラと、
を備え、
前記第1スケグまたは前記第2スケグの少なくとも一方において、前記スケグの船外側面と船内側面とに開口して前記船外側面と前記船内側面とを連通する少なくとも1個の流路が形成され、
前記流路は、前記スケグにおける前記プロペラ軸より上方の部位に設けられており、
前記流路の内部にはスラスタが配置されていないことを特徴とするスケグ船。
【請求項2】
前記流路は、船体前後方向が船体高さ方向より大きい横断面を有することを特徴とする請求項1に記載のスケグ船。
【請求項3】
前記流路は、船体高さ方向が船体前後方向より大きい横断面を有することを特徴とする請求項1に記載のスケグ船。
【請求項4】
前記流路は、円弧で形成された横断面を有することを特徴とする請求項1に記載のスケグ船。
【請求項5】
前記流路は、前記スケグの前記船外側面から前記船内側面に向かって船体前後方向に対して船体後方へ傾斜するように配置されることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のスケグ船。
【請求項6】
前記船外側面に開口する船外側開口が、前記船内側面に開口する船内側開口に対して、
船体前後方向において前方側、かつ、船体高さ方向において下方側に配置されることを特
徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載のスケグ船。
【請求項7】
前記流路の横断面は、前記スケグの前記船外側面から前記船内側面に向かって徐々に縮小するように構成されることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載のスケグ船。
【請求項8】
前記流路の前記船外側面に開口する船外側開口を開閉可能な蓋部材と、
前記流路を開閉するように前記蓋部材を動作させる駆動部と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項に記載のスケグ船。
【請求項9】
前記流路の前記船外側面に開口する船外側開口に配置される整流デバイスであって、前記船外側開口を横断する複数の棒状部材を含む整流デバイスをさらに備えることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項に記載のスケグ船。
【請求項10】
前記スケグは、前記第1スケグおよび前記第2スケグの間に、前記第1スケグおよび前記第2スケグの各々に対して船体幅方向に間隔をあけて設けられた第3スケグをさらに備え、
前記第3スケグには、一方側側面と他方側側面とに開口して前記一方側側面と前記他方側側面とを連通する少なくとも1個の流路が形成されていることを特徴とする請求項1乃至9の何れか一項に記載のスケグ船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、船底の船尾側にスケグを備えるスケグ船に関する。
【背景技術】
【0002】
船底の船尾側に船体幅方向に間隔をあけて左右一対のスケグを備え、これらスケグでプロペラ軸を支持し、プロペラ軸の後端にプロペラを装着したツインスケグ船が知られている。これらスケグと、スケグの間に船尾側へ向かって上方へ傾斜する船底傾斜面とでトンネル状の船底凹部が形成される。航行時、上記船底傾斜面に沿い後方のプロペラに向かって上昇する水流が形成される。一対のスケグに支持されたプロペラは内回り、即ち、両プロペラ間に形成される上昇流に対して下向きに回転するので、推進効率を向上できる。
特許文献1及び2に、ツインスケグ船の例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-1117号公報
【文献】特開2012-6556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ツインスケグ船は、1基のプロペラ軸しかない1軸船と比べると、スケグ出口に形成される低流速領域が広くなる。低流速領域が広がると、舵へ流入する水流の速度が小さくなり、舵力が減少する。ツインスケグ船は、浅水域において深水域に比べて旋回性能が低下することが一般的に知られている。港内(浅水域)で操船性能が悪いと、接岸までに時間を要したり、あるいはタグボートで曳航して接岸する必要があり、コストアップとなる。
【0005】
浅水域で旋回性能が低下する原因は、スケグ下端と海底との隙間が小さくなることで、旋回時にスケグの外側から船底凹部に流入する強い渦流が形成され、この渦流の作用によって舵に流入する流れが弱まるためであると考えられる。もう1つの理由は、船底と海底との距離が近づくことによって、スケグ下端と海底との隙間が小さくなり、旋回時にスケグの内側領域(上記船底凹部)への流れが抑制され、これによって、プロペラから後方へ流れる水流の流速が小さくなり、舵に作用する水流の力が小さくなるため、舵力が低下すると考えられる。
【0006】
一実施形態は、浅水域でのスケグ船の旋回性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)一実施形態に係るスケグ船は、
船尾部の船底に船体前後方向に沿って設けられるスケグであって、第1スケグと、第1スケグに対して前記船体幅方向に間隔をあけて設けられた第2スケグとを少なくとも含むスケグと、
前記スケグに支持されるとともに、前記スケグから後方に突出するプロペラ軸と、
前記プロペラ軸に固定されたプロペラと、
を備え、
前記第1スケグまたは前記第2スケグの少なくとも一方において、前記スケグの船外側面と船内側面とに開口して前記船外側面と前記船内側面とを連通する少なくとも1個の流路が形成されている。
ここで、「船内側面」とは、2基のスケグ間に形成される船底凹部に面するスケグの面を意味し、「船外側面」とは、船内側面と反対側に形成されるスケグの面を意味する。
【0008】
上記(1)の構成によれば、旋回時に、船尾部が旋回方向と反対側へ移動すると、移動方向のスケグ外側の水圧が上昇し、上記流路を介してスケグ外側から船底凹部へ流入する水流が形成される。これによって、船底凹部における水流の流速が上昇し、舵に作用する水流の力が増加することで、舵力が増加し、浅水域での旋回性能を向上できる。
【0009】
(2)一実施形態では、前記(1)の構成において、
前記流路は、前記スケグにおける前記プロペラ軸より上方の部位に設けられる。
上記(2)の構成によれば、プロペラ軸より上方に形成された上記流路から船底凹部に流入する水流が、舵に流入する流れを弱める上記渦流と逆方向へ流れるために、該渦流を弱めるように作用する。これによって、舵に流入する水流の流速低下を抑制し、旋回性能を改善できる。
なお、上記流路をプロペラ軸より下方に位置するスケグに設けても、船底凹部における水流の増速効果が得られるので、浅水域での旋回性能を向上できる。
【0010】
(3)一実施形態では、前記(1)又は(2)の構成において、
前記流路は、船体前後方向が船体高さ方向より大きい横断面を有する。
上記(3)の構成によれば、上記流路の横断面は船体前後方向が船体高さ方向より大きく構成されるため、旋回時などにおいてスケグの外側に形成される水流が上記流路に流入しやすくなる。これによって、船底凹部の水流の流速が上昇し、舵力を増加できる。
【0011】
(4)一実施形態では、前記(1)又は(2)の構成において、
前記流路は、船体高さ方向が船体前後方向より大きい横断面を有する。
スケグの内部には、プロペラ軸の軸受や該軸受の潤滑装置など、様々な機器類が搭載される。そのため、上記流路が船体前後方向に大きなスペースを取ることは難しい。
上記(4)の構成によれば、上記流路が、船体高さ方向が船体前後方向より大きい横断面を有するため、機器類のレイアウトを変更せずに機器類の間に流路を配置しやすくなり、流路の設置が容易になる。
【0012】
(5)一実施形態では、前記(1)又は(2)の構成において、
前記流路は、円弧で形成された横断面を有する。
上記(5)の構成によれば、上記流路が円弧で形成された横断面、例えば、円形又は楕円形の横断面を有することで、製作上の技術的難易度を緩和できる。例えば、既技術であるサイドスラスタを設置する要領で製作できるため、製作が容易になる。
【0013】
(6)一実施形態では、前記(1)~(5)の何れかの構成において、
前記流路は、前記スケグの前記船外側面から前記船内側面に向かって船体前後方向に対して船体後方へ傾斜するように配置される。
上記(6)の構成によれば、旋回時におけるスケグの船外側と船底凹部との間の圧力差によって発生するスケグの外側から内側へ向かう流れに加えて、スケグ船の前進速度成分も合わせることで、船底凹部に流入する水流の流量を増加できる。これによって、舵力を増して旋回性能を向上できる。
【0014】
(7)一実施形態では、前記(1)~(6)の何れかの構成において、
前記船外側面に開口する船外側開口が、前記船内側面に開口する船内側開口に対して、船体前後方向において前方側に、かつ、前記船体高さ方向において下方側に配置される。
2基のスケグの間に形成される船底凹部には、後方へ向かって上方へ傾斜する船底傾斜面が形成される。航行時、2基のスケグ間の船底凹部に形成される水流は、ほぼ船底傾斜面に沿って後方のプロペラに向かって上昇する水流が形成される。
上記(7)の構成によれば、上記流路は、船底凹部に形成される船底傾斜面とほぼ同一方向に配置されるため、該流路から船底凹部に流入する水流は、船底傾斜面に沿って流れる水流とほぼ同一方向で船底凹部に流入する。そのため、少ない抵抗で船底凹部に流入できると共に、船底凹部の水流を乱さずに舵へ向かわせることができるので、舵力を増加できる。
【0015】
(8)一実施形態では、前記(1)~(7)の何れかの構成において、
前記流路の横断面は、前記スケグの前記船外側面から前記船内側面に向かって徐々に縮小するように構成される。
上記(8)の構成によれば、船外側面から該流路に流入した水流は、該流路で徐々に増速して船内側面から船底凹部に流出する。そのため、旋回時に船底凹部に形成される渦流を効果的に弱め、かつ舵に作用する力を増すことができ、これによって、旋回性能を向上できる。
【0016】
(9)一実施形態では、前記(1)~(8)の何れかの構成において、
前記流路の前記船外側面に開口する船外側開口を開閉可能な蓋部材と、
前記流路を開閉するように前記蓋部材を動作させる駆動部と、
を備える。
上記(9)の構成によれば、浅水域での旋回時などでは、上記流路を開放して旋回性能を高め、船舶が深水域を航行中など、不要なときは上記蓋部材で上記流路の船外側開口を閉じておくことで、船体に沿う流れの乱れを抑制でき、これによって、通常航行時の船体抵抗の増加を回避できる。また、旋回時に、旋回外側のスケグの流路のみ開放することで、旋回内側のスケグの流路から水流がスケグ外に漏れないようにすることができる。これによって、舵に向かう水流の流速を増加でき、旋回性能を向上できる。さらに、各スケグに複数の流路を形成する場合、水深に合わせて開放する流路の個数を変更することで、意図する旋回性能を得ることができる。
【0017】
(10)一実施形態では、前記(1)~(8)の何れかの構成において、
前記流路の前記船外側面に開口する船外側開口に配置される整流デバイスであって、前記船外側開口を横断する複数の棒状部材又は板状部材を含む整流デバイスをさらに備える。
上記(10)の構成によれば、旋回時には、船外側開口から上記整流デバイスを通して船底凹部に水流を導入することで、旋回性能を向上でき、通常航行時には、上記整流デバイスによって水流の流入を抑制できるので、船体抵抗の増加を抑制できる。
【0018】
(11)一実施形態では、前記(1)~(10)の何れかの構成において、
前記スケグは、前記第1スケグおよび前記第2スケグの間に、前記第1スケグおよび前記第2スケグの各々に対して船体幅方向に間隔をあけて設けられた第3スケグをさらに備え、
前記第3スケグには、一方側側面と他方側側面とに開口して前記一方側側面と前記他方側側面とを連通する少なくとも1個の流路が形成されている。
上記(11)の構成によれば、第3スケグを備えることで、船体幅が大きい船舶であっても、第3スケグの整流作用を付加することで、スケグ船の直進安定性を向上できる。これによって、スケグを備える3軸船において直進安定性を向上できる。
【発明の効果】
【0019】
幾つかの実施形態によれば、少なくとも1つのスケグに船外側面と船内側面とに連通する少なくとも1個の流路が形成されることで、スケグ船の浅水域での旋回性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一実施形態に係るスケグ船の船尾部を船尾側から視認した概略的横断面図である。
図2】一実施形態に係るスケグ船の船尾部の概略的側面図である。
図3】一実施形態に係るスケグ船の船尾部の概略的側面図である。
図4】一実施形態に係るスケグ船の船尾部の概略的側面図である。
図5】一実施形態に係るスケグ船の船尾部の概略的側面図である。
図6】一実施形態に係るスケグ船の船尾部の概略的側面図である。
図7】一実施形態に係るスケグ船の船尾部の概略的側面図である。
図8A】一実施形態に係る流路の船外側開口を示す概略的正面図である。
図8B】一実施形態に係る流路の船外側開口を示す概略的正面図である。
図9A】一実施形態に係る流路の船外側開口に設けられる整流デバイスの正面図である。
図9B】一実施形態に係る流路の船外側開口に設けられる整流デバイスの正面図である。
図10】一実施形態に係るスケグ船の船尾部を船尾側から視認した概略的横断面図である。
図11】スケグ船が右旋回するときの説明図である。
図12】従来のスケグ船の船尾部を船尾側から視認した概略的横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、これらの実施形態に記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状及びその相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一つの構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0022】
図1図10は、幾つかの実施形態に係るスケグ船10(10A、10B、10C、10D、10E、10F、10G)を示す。スケグ船10(10A~10F)は、ツインスケグ船であり、スケグ船10(10G)は、3基のスケグ14を備える3軸船である。
【0023】
幾つかの実施形態に係るスケグ船10(10A~10G)は、図1に示すように、夫々船尾部12の船底に少なくとも2基のスケグ14(14a、14b)(第1スケグ、第2スケグ)を備える。2基のスケグ14は、船体前後方向に沿って設けられ、2基のスケグ14は船体幅方向に間隔をあけて設けられる。2基のスケグ14には夫々プロペラ軸16(16a、16b)が設けられる。各プロペラ軸16は夫々スケグ14に支持され、プロペラ軸16の後端はスケグ14から後方の船外に突出し、該後端にプロペラ18(18a、18b)が固定される。2基のスケグ14には、夫々スケグ14の船外側面20と船内側面22とに開口して船外側面20と船内側面22とに連通する少なくとも1個の流路24(24a、24b)が形成されている。2基のスケグ14の間には、船尾側へ向かって上昇する船底傾斜面26aが形成され、その下方に船底凹部26が形成される。各プロペラ18の後方には、夫々舵28(図2以下参照)が設けられる。
【0024】
上記構成によれば、旋回時に、船尾部が旋回方向と反対側へ移動すると、スケグ14に対して船体外側の水圧が上昇するため、流路24を介してスケグ外側から船底凹部26へ流入する水流Wc1が形成される。水流Wc1が形成されることで、船底凹部26における水流の流速が上昇し、プロペラ軸16の後方に設けられる舵28に作用する水流の力が増加する。これによって、舵力が増加し、浅水域での旋回性能を向上できる。
なお、2基のスケグ14のうち、少なくとも一方に流路24が形成されればよい。
【0025】
図1は、スケグ船10が右旋回又は左旋回するときを示している。スケグ船10が右旋回すると、船尾部12は左舷側(矢印a方向)へ移動する。このとき、スケグ14(14a)の外側領域r1の水圧が上昇し、左舷側の流路24(24a)に船底凹部26に流入する水流Wc1が形成される。この水流Wc1によってスケグ14間の内側領域r2の流速が上昇するため、舵28に作用する水流の力が増加し、旋回性能が向上する。
スケグ船10が左旋回するときは、船尾部12は右舷側(矢印b方向)へ移動する。このときは、右舷側の流路24(24b)に船底凹部26に流入する水流Wc2が形成される。この水流Wc2によってスケグ14間の内側領域r2の流速が上昇するため、舵28に作用する水流の力が増加し、旋回性能が向上する。
【0026】
図11は2基のスケグを備える従来のツインスケグ船100を示し、図12は、ツインスケグ船100の船尾部の横断面を示す。ツインスケグ船100が右旋回する場合、船尾部12は左側へ移動する。船底と海底30との距離が近い浅水域で右旋回すると、図12に示すように、スケグ14と海底30との間でスケグ14の外側から船底凹部26に流入する強い渦流Scが形成される。この渦流Scがプロペラ18の旋回面を通して舵28に流入すると、舵28に作用する力が小さくなる。
加えて、船底と海底30との距離が近づくことによって、旋回時に船底凹部26へ流入する流れが抑制され、これによって、プロペラ18から出る流れの流速が小さくなり、舵28に流入する流れの流速が小さくなる。このように、舵28に作用する流れの力が小さくなり、舵力が低下するため、旋回性能が低下する。
【0027】
上記実施形態によれば、スケグ外側から船底凹部26へ流入する水流Wc1又はWc2が形成されるため、舵28に作用する水流の力が増加する。これによって、舵力が増加するため、浅水域での旋回性能を向上できる。
【0028】
一実施形態では、図1に示すように、2基のスケグ14(14a、14b)は、船体前後方向に沿う船体中心軸に対して対称に配置される。
一実施形態では、図2に示すように、各スケグ14に複数の流路24(24A、24B)が形成されていてもよい。各スケグ14に複数の流路24を形成することで、1個のみの流路24を形成する場合と比べて、船底凹部26における水流の増速効果を高めることができる。
一実施形態では、図2に示す流路24(24A、24B)の横断面は四角形を有するが、他の形状であってもよい。
一実施形態では、図2に示す流路24(24A、24B)のように、プロペラ軸16の上方域又は下方域に、複数の流路24を列状に並べて形成するようにしてもよい。
【0029】
一実施形態では、図2に示すように、スケグ船10(10A)の流路24(24A)は、スケグ14におけるプロペラ軸16より上方の部位に設けられる。
この実施形態によれば、流路24から船底凹部26に流入する水流Wc1又はWc2が渦流Scと逆方向へ流れるために、渦流Scを弱めるように作用する。そのため、舵28に流入する水流の力を強めることができるため、旋回性能を向上できる。
なお、図2に示す流路24(24B)のように、スケグ14におけるプロペラ軸16より下方の部位に設けてもよい。この実施形態でも、旋回時に、流路24(24B)から船底凹部26に流入する水流Wc1によって船底凹部26に形成される水流を増速でき、その増速流によって舵力を増加できるので、浅水域での旋回性能を向上できる。
【0030】
一実施形態では、図2に示すように、プロペラ軸16の上方域に複数の流路24(24A)がプロペラ軸16に沿って船体前後方向へ並べて形成される。これによって、渦流Scを大きく弱めることができると共に、船底凹部26における水流の増速効果を高めることができるので、旋回性能を大きく向上できる。
【0031】
一実施形態では、図3に示すように、スケグ船10(10C)の流路24(24C)の横断面は、船体前後方向で船体高さ方向より大きく構成される。即ち、船体前後方向長さL>船体高さ方向長さHの関係を有する。
この実施形態によれば、流路24(24C)の横断面が上記関係を有するため、旋回時などにおいてスケグ14の外側に形成される水流が船体の前進によって流路24(24C)に流入しやすくなる。これによって、船底凹部26において舵28に向かう水流の流速が上昇し、舵28に作用する水流の力を増加できるため、旋回性能を向上できる。
【0032】
図3に示す実施形態では、流路24(24C)の船外側開口は、船体前後方向に沿って延在する。これによって、船体外板に沿って流れる水流が船外側開口から流路24(24C)に流入しやすくなる。この実施形態では、流路24(24C)はプロペラ軸16より上方のスケグ14の部位に配置されているが、プロペラ軸16より下方のスケグ14の部位に配置されてもよい。
【0033】
一実施形態では、図4に示すように、スケグ船10(10C)の流路24(24D)は、船体高さ方向が船体前後方向より大きい横断面を有する。即ち、船体高さ方向長さH>船体前後方向長さLの関係にある。スケグ14の内部に設けられるプロペラ軸16の周囲は、プロペラ軸用軸受や該軸受の潤滑装置など、様々な機器類が搭載される。そのため、プロペラ軸16の周囲で流路24が船体前後方向に大きなスペースを取ることは難しい。
この実施形態によれば、流路24(24D)の横断面が上記関係にあるため、流路24(24D)はスケグ内に設けられる機器類の間に形成できる。従って、これら機器類のレイアウトを変更せずに流路24の設置が容易になる。
【0034】
一実施形態では、図5に示すように、スケグ船10(10D)の流路24(24E)は、円弧で形成された横断面を有する。即ち、流路24(24E)は、その横断面の外周縁が1つまたは複数の円弧によって構成されている。例えば、円形又は楕円形等の横断面を有する。
この実施形態によれば、流路24(24E)の製作時に、製作上の技術的難易度を緩和できる。例えば、既技術であるサイドスラスタを設置する要領で製作できるため、製作が容易になる。
図5に示す実施形態は、複数の流路24(24E)がプロペラ軸16より上方のスケグ14の部位でプロペラ軸16に沿って並べて形成されている。これによって、製作上の難易度を上げずに船底凹部26における水流の増速効果を高めることができる
【0035】
一実施形態では、図6に示すように、スケグ船10(10E)の流路24(24F)は、スケグ14の船外側面20から船内側面22に向かって船体前後方向に対して船体後方へ傾斜するように配置される。
この実施形態によれば、旋回時におけるスケグ14の船外側と船底凹部26との間の圧力差によって発生するスケグ14の外側から内側へ向かう力に加えて、スケグ船10(10E)の前進速度成分も合わせることで、船底凹部26に流入する水流Wc1の流量を増加できる。これによって、舵力を増して旋回性能を向上できる。
【0036】
一実施形態では、図7に示すように、スケグ船10(10F)の流路24(24G)は、船外側面20に開口する船外側開口20aが、船内側面22に開口する船内側開口22aに対して、船体前後方向において前方側に、かつ、船体高さ方向において下方側に配置される。2基のスケグ14の間に形成される船底凹部26には、後方へ向かって上方へ傾斜する船底傾斜面26aが形成される。航行時、2基のスケグ間の船底凹部26に形成される水流は、ほぼ船底傾斜面26aに沿って後方のプロペラに向かって上昇する水流Wc2が形成される。
この実施形態によれば、流路24(24G)は、船底凹部26に形成される船底傾斜面26aとほぼ同一方向に配置されるため、流路24(24G)から船底凹部26に流入する水流Wc1は、船底傾斜面26aに沿って流れる水流Wcとほぼ同一方向で船底凹部26に流入する。そのため、水流Wc1は少ない抵抗で船底凹部26に流入できると共に、船底凹部26の水流Wcを乱さずに舵28へ向かわせることができるので、舵力を増加できる。
【0037】
一実施形態では、図7に示すように、流路24(24G)の横断面は、スケグ14の船外側面20から船内側面22に向かって徐々に縮小するように構成される。
この実施形態によれば、流路24(24G)に流入した水流Wc1は、徐々に増速して船内側面22から船底凹部26に流出する。そのため、旋回時に船底凹部26に形成される渦流Scを効果的に弱め、かつ舵28に作用する力を増すことができる。
【0038】
一実施形態では、図8A及び図8Bに示すように、流路24(24E)の船外側開口20aを開閉可能な蓋32と、流路24(24E)を開閉するように蓋32を動作させる駆動部34と、を備える。
この実施形態によれば、スケグ船10が深水域を航行中など、流路24(24E)にスケグ外側から水を流入させる必要がないときは、蓋32で流路24(24E)の船外側開口20aを閉じておく。これによって、船体に沿う流れの乱れを抑制できるため、通常航行時の船体抵抗の増加を回避できる。
【0039】
他方、浅水域で旋回させる場合など、旋回性能を良くする必要がある場合には、旋回外側のスケグ14のみ駆動部34で蓋32を開動作させる。これによって、旋回内側のスケグ14の流路24(24E)から船底凹部26にある水流Wcがスケグ外へ漏れないようにすることができる。また、流路24(24E)から船底凹部26に流入した水流Wc1がそのまま旋回内側のスケグ14から外側へ流出するのを阻止できる。これによって、舵28に向かう水流Wcの流速を増加でき、旋回性能を向上できる。なお、場合によっては、旋回外側のスケグ14の蓋32だけでなく、旋回内側のスケグ14の蓋32を開動作させてもよい。
さらに、各スケグ14に複数の流路24を形成する場合、水深に合わせて開放する流路24の個数を変更することで、意図する旋回性能を得ることができる。
なお、この実施形態において、流路24(24E)の横断面は、円形以外の他の形状であってもよい。
【0040】
一実施形態では、図8A及び図8Bに示すように、蓋32は回動軸36によって回動可能に軸支され、蓋32は駆動部34によって回動軸36を介して回動される。
一実施形態では、プロペラ軸16の回転が駆動部34に伝達され、駆動部34はプロペラ軸16の回転を動力として回動軸36を回動させるように構成される。
一実施形態では、流路24(24E)を挟んで駆動部34の反対側に回動軸36を軸支する軸受部38を備える。
図8A及び図8Bに示す実施形態では、回動軸36は水平方向に沿うように配置されているが、鉛直方向に沿うように配置されてもよい。あるいは、水平方向及び鉛直方向に対して傾斜する方向へ配置されてもよい。
【0041】
一実施形態では、図8A及び図8Bに示す蓋32は、船体壁面方向に沿ってスライド可能に構成し、蓋32を船体壁面に沿ってスライドさせて流路24を開閉可能にしてもよい。
一実施形態では、図8A及び図8Bに示す蓋32は、一方向に沿って分割された複数の分割片で構成され、分割片毎に回動軸36と分割片を回動させる駆動部34を夫々備えるようにしてもよい。
また、他の実施形態では、蓋32をヒンジ軸を介して船体外板に回動可能に取り付けるように構成し、これによって、流路24(24E)を開閉可能にしてもよい。
【0042】
幾つかの実施形態では、図9A及び図9Bに示すように、流路24の船外側面20に開口する船外側開口20aに配置される整流デバイスであって、船外側開口20aを横断する複数の棒状部材又は板状部材42を含む整流デバイス40(40a、40b)をさらに備える。
この実施形態によれば、旋回時には、船外側開口20aから整流デバイス40を通して船底凹部26に水流Wc1又はWc2を導入することで、旋回性能を向上でき、通常航行時には、整流デバイス40の存在によって水流Wc1又はWc2の流入を抑制できるので、船体抵抗の増加を抑制できる。
【0043】
図9Aに示す整流デバイス40(40a)は、複数の棒状(板状)部材42が格子状に縦横に配置されて形成されるグリッドを含んで構成され、船外側開口20aを網目状に複数の開口に分割するように構成される。
図9Bに示す整流デバイス40(40b)は、互いに間隔を置いて並列に配置された複数の棒状(板状)部材42を含んで構成され、船外側開口20aを一方向へ延在し並列に並んだ複数の開口に分割するように構成される。
船外側開口20aに整流デバイス40(40a、40b)を設けることで、旋回時に旋回性能を向上できると共に、通常航行時に船体抵抗の増加を抑制できる。
なお、整流デバイス40が複数の板状部材で構成される場合、該板状部材は船外側開口20aから流入する水流の方向に沿うように配置される。
【0044】
一実施形態では、図10に示すように、スケグ船10(10H)は、2基のスケグ14(14a、14b)の間に、スケグ14(14a、14b)の夫々に対して船体幅方向に間隔をあけて設けられたスケグ14(14c)(第3スケグ)を備える。スケグ14(14c)には、一方側側面21と他方側側面23とに開口して一方側側面21と他方側側面23とを連通する少なくとも1個の流路24(24c)が形成されている。スケグ14(14a)とスケグ14(14c)との間に内側領域r3が形成され、スケグ14(14b)とスケグ14(14c)との間に内側領域r4が形成される。
【0045】
図10において、スケグ船10(10G)が例えば右旋回したとき、船尾部12は左舷側(矢印a方向)へ移動する。このとき、スケグ14(14a)の外側領域r1の水圧が上昇し、左舷側の流路24(24a)に水流Wc1が形成される。この水流Wc1によってスケグ14間の内側領域r3の流速が上昇するため、舵28に作用する水流の力が増加し、旋回性能が向上する。また、水流Wc1の一部は流路24(24c)を通って内側領域r4に流入し、内側領域r4の流速を上昇させる。これによって、プロペラ軸16の後方に設けられる舵28に作用する水流の力が増加し、浅水域での旋回性能を向上できる。
【0046】
スケグ船10が左旋回するときは、船尾部12は右舷側へ移動する。このときは、右舷側の流路24(24b)に船底凹部26に流入する水流Wc2が形成される。この水流Wc2によってスケグ14間の内側領域r4の流速が上昇するため、舵28に作用する水流の力が増加し、旋回性能が向上する。また、水流Wc2の一部は流路24(24c)を通って内側領域r3に流入し、内側領域r3の流速を上昇させる。これによって、プロペラ軸16の後方に設けられる舵28に作用する水流の力が増加し、浅水域での旋回性能を向上できる。
【0047】
一実施形態では、図11に示すように、スケグ14(14c)には、プロペラ軸16(16c)が設けられる。プロペラ軸16(16c)はスケグ14(14c)に支持され、プロペラ軸16(16c)の後端はスケグ14(14c)から後方に突出し、船外に突出した該後端にプロペラ(不図示)が固定される。
さらに、一実施形態では、上記プロペラの後方に舵(不図示)が設けられる。
別な実施形態では、スケグ14(14c)には、プロペラ軸16(16c)を設けない。従って、プロペラ軸16(16c)の後端に装着されるプロペラ及びこのプロペラの後方に設けられる舵を設けなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
幾つかの実施形態によれば、スケグ船において、旋回時、特に浅水域の旋回時に簡易な手段で旋回性能を向上できる。
【符号の説明】
【0049】
10(10A、10B、10C、10D、10E、10F)、100 スケグ船
12 船尾部
14(14a、14b、14c) スケグ(第1スケグ、第2スケグ、第3スケグ)
16(16a、16b、16c) プロペラ軸
18(18a、18b) プロペラ
20 船外側面
20a 船外側開口
22 船内側面
22a 船内側開口
24(24a、24b、24c、24A、24B、24C、24D、24E、24F、24G) 流路
26 船底凹部
26a 船底傾斜面
28 舵
30 海底
32 蓋
34 駆動部
36 回動軸
38 軸受部
40(40a、40b) 整流デバイス
42 棒状部材又は板状部材
Sc 渦流
Wc、Wc1、Wc2 水流
r1 外側領域
r2、r3、r4 内側領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11
図12