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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】酸化亜鉛バリスタおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/112 20060101AFI20221104BHJP
   C01G 9/00 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
H01C7/112
C01G9/00 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018108770
(22)【出願日】2018-06-06
(65)【公開番号】P2019212800
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】石田 直己
(72)【発明者】
【氏名】五味 洋二
(72)【発明者】
【氏名】井口 憲一
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】越前谷 木綿子
(72)【発明者】
【氏名】中田 圭美
【審査官】北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-224303(JP,A)
【文献】特開2015-015455(JP,A)
【文献】特開2001-220136(JP,A)
【文献】特開2014-097922(JP,A)
【文献】特開2010-150093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/112
C01G 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛(ZnO)を主成分とし、粒界形成成分としてビスマス(Bi)、プラセオジム(Pr)からなる群より選択した1種類以上、遷移金属元素としてコバルト(Co)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)からなる群より選択した1種類以上の添加物を含み、
前記酸化亜鉛は、X線回折によって求められる結晶子サイズが20~100nmであり、BET法によって求められる粒子径が20~110nmであり、軽装かさ密度が0.60g/cm以上であり、タップ密度が0.80g/cm以上であることを特徴とする酸化亜鉛バリスタ。
【請求項2】
ドナー元素としてアルミニウム(Al)を亜鉛(Zn)に対してモル比で20ppm~20000ppm添加したことを特徴とする請求項1に記載の酸化亜鉛バリスタ。
【請求項3】
酸化亜鉛(ZnO)粉末の第1の前駆体である塩基性炭酸亜鉛スラリーを作製する工程と、
前記第1の前駆体より、酸化亜鉛(ZnO)粉末の第2の前駆体である塩基性炭酸亜鉛の乾燥粉を得る工程と、
前記第2の前駆体を熱処理して酸化亜鉛(ZnO)を得る工程と、
前記酸化亜鉛(ZnO)に所定の添加物を添加した混合材料を作製する工程と、
前記混合材料より酸化亜鉛バリスタのバリスタ素体を形成する工程と、
を備え、
前記酸化亜鉛バリスタは、前記酸化亜鉛(ZnO)を主成分とし、粒界形成成分としてビスマス(Bi)、プラセオジム(Pr)からなる群より選択した1種類以上、遷移金属元素としてコバルト(Co)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)からなる群より選択した1種類以上の添加物を含み、
前記酸化亜鉛(ZnO)は、X線回折によって求められる結晶子サイズが20~100nmであり、BET法によって求められる粒子径が20~110nmであり、軽装かさ密度が0.60g/cm 以上であり、タップ密度が0.80g/cm 以上であり、
ドナー元素としてアルミニウム(Al)を亜鉛(Zn)に対してモル比で20ppm~20000ppm添加し、
前記アルミニウム(Al)が添加されたアルミニウム添加酸化亜鉛は、アルミニウム塩水溶液、亜鉛塩水溶液、炭酸塩水溶液、およびアルカリ水溶液の沈殿物生成反応で生成される炭酸水和物を250℃以上の温度で熱処理して得られることを特徴とする酸化亜鉛バリスタの製造方法
【請求項4】
前記炭酸水和物は、下式(1)で表される塩基性炭酸亜鉛またはその水和物を含有することを特徴とする請求項に記載の酸化亜鉛バリスタの製造方法
4~6(CO1~3(OH)6~7・nH O (1)
ただし、式(1)中、Mは、Zn1-xAlを表し、xは、2×10-5~0.02の数を表し、nは、0~2の数を表す。
【請求項5】
前記アルミニウム添加酸化亜鉛の粉末を該粉末のまま、若しくはビーズミルによる解砕またはスプレードライヤによる造粒を行い、成形した後、1200℃以下の温度で焼結して酸化亜鉛焼結体を得ることを特徴とする請求項に記載の酸化亜鉛バリスタの製造方法
【請求項6】
さらに、ドナー元素であるホウ素(B)、ガリウム(Ga)を1種類以上添加したことを特徴とする請求項1または2に記載の酸化亜鉛バリスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば雷誘導サージ等から回路を保護する酸化亜鉛バリスタおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の様々な分野における急速な普及によって、それらに搭載される電子部品の使用環境も目覚しく変化している。例えば、自動車や産業機器等における規格の改定、用途の多様化により、電子部品の性能等に対して従来は予定していなかった要求が増加している。その結果、各種サージ、パルス性ノイズ等、予期せぬノイズ、パルスから脆弱な電子回路を保護する電子部品が求められるようになった。加えて、硫化、結露等の使用環境の影響を十分に考慮し、初期機能だけでなく継続的な信頼性の高い電子部品の提供が不可欠となっている。
【0003】
このような幅広い分野、アプリケーションで各種サージ、パルス性ノイズ等の異常電圧から脆弱な回路を保護して動作の安定性を確保し、さらには、静電気放電(ESD)への対策を目的として、従来より、非直線性抵抗素子として知られているバリスタが使用されている。また、多くの電子部品が省スペース化、薄短小化の流れにある中、バリスタも例外ではなく、その小型化、さらには低価格化が望まれるが、さらなる省スペース・小型化は限界を迎えているというのが現状である。
【0004】
バリスタは添加物、その添加量の組み合わせにより、得られる電気的特性や信頼性が大きく変わる。例えば、添加される原料の混合比率により焼結時に粒成長がばらつくことがある。その結果、バリスタの基本特性である制限電圧、大サージ印加時の回路保護能力等に大きな差異が現れることになる。
【0005】
ここで、焼結部材として使用されるセラミックスと酸化亜鉛(ZnO)について説明する。
【0006】
酸化亜鉛は、酸化アルミや酸化ジルコニウムなどの他のセラミック粉末と比較し、亜鉛の蒸気圧が高いことや、粒成長しやすいなどの特徴を有している。原料粉末は古くから白色顔料として多用されており、製造方法もフランス法、ドイツ法などが確立され、安価で高品質なものが供給されている。しかしこれらの粉末は粒子サイズが小さいものでも0.3~0.6μm程度であり、焼結部材の原料として低温での緻密化が期待できず、得られる焼結粒子サイズは大きいものとなってしまう。
【0007】
近年では0.3μm以下のグレードに、化粧料向けを中心とした湿式法で合成される粉末も比較的安価に供給されている。融液形成や焼結助剤を利用せずに低温焼結を実現するには原料の酸化亜鉛粉末の粒子サイズが小さいことは重要であるが、本発明の課題の一つである粒成長抑制に関しては有効な手段の提案は見られない。以下に主な特許文献により、本発明の課題を明確にする。
【0008】
特許文献1は水溶性カルボン酸亜鉛塩に炭酸アルカリ剤を滴下して一定のpHまでコントロールして得られる酸化亜鉛は、酸化亜鉛の一次粒子が集合してチューブ状の二次粒子を形成しており、優れた紫外線遮蔽能、透明性を発揮する化粧料向けであるが、前駆体の形状であるチューブ形状の痕跡により、タップ密度が低く粒成長が大きい。化粧料で要求される隠蔽性には有効だが、焼結体の原料には適していない。具体的には、塩化亜鉛水溶液に酢酸を加え溶解させ、そこに炭酸ナトリウム溶液を滴下しpH8まで滴下する。得られた析出物をフィルターで濾過ならびに水洗した後、乾燥し400℃、3時間熱処理して得られる酸化亜鉛粉末である。
【0009】
特許文献2は塩基性塩化亜鉛であり、隠蔽性に優れたフレーク形状である 結晶性、形状、サイズの制御など優れた技術であるが、熱処理で酸化亜鉛にしても多量の塩素が残存する。主としてアスペクトの制御については、アスペクト比が10以上の大型のフレーク形状であり、脱塩素、脱水時に板状に焼結しやすいこと、焼結粒子サイズが大きく、焼結時の空隙も大きいことなどから焼結原料には適さない。
【0010】
特許文献3では自動車の排ガスの温度センサーとして性能向上が期待されるサーミスタの作製に関するものである。複酸化物であるサーミスタ焼結部材の組成の均一性と緻密な組織を両立させる前駆体の湿式合成(噴霧熱分解)と、得られた平均粒径30~50nmの粉体の熱処理による、平均粒径0.1~1μmへの粒成長を利用したタップ密度の向上からなっている。粒成長させた粒子を使用することでバインダーの使用量を削減でき、ニアネットシェイプの緻密な焼結体が得られる。しかしながら本方法では、焼結温度の低温化、粒成長の抑制は期待できない。
【0011】
特許文献4では真球度の高い造粒粉の作製に関するもので、グリースや塗料に使用される充填率の高いフィラーを提供するものである。フィラー粒子の作製にあたっては、使用する酸化亜鉛一次粒子は特定せず、有機溶剤中で界面活性剤やバインダーを用いてスラリー化し、それをスプレードライ法にて真球度(長径/短径)が1.00~1.10、メジアン径(D50)が20~100μmとするものである。またD90/D10のサイズ比率を2.8以下とすることで、極端に大きな粒子が少なく、このことによって充填率の向上、安息角の低下も実現し、優れたフィラー材の提供を実現している。しかしながら本法で得られる造粒粉は、焼結素材としては適していない。焼結時に、まず球状粒状粉(フィラー)が収縮することで、大きな空隙を形成してしまうためである。このような空隙は高温、長時間の焼結で減らすことはできるが、なくすことはできない。
【0012】
特許文献5では、スパッターターゲット向けの酸化亜鉛粉、および酸化亜鉛複酸化物粉を提供するものである。スパッターターゲットでは、緻密で熱伝導率が高く、かつ組成の均一さが要求される。本技術においては、緻密化のための焼結方法として、カプセルHIP(熱間等方加圧焼結)が用いられており、そのための課題としてカプセルへの充填率(原料粉末のタップ密度/理論密度)を50%以上とすることをあげている。その解決手段としては、タップ密度が50%未満の酸化亜鉛粉末を大気中において900~1400℃で焼結することで得られるタップ密度が2.8g/cm3以上となる粉末を用いることとしている。タップ密度の向上方法が熱処理によることから、特許文献3と同じ手法であるが、カプセルHIP法で焼結することで、大気開放焼結と比較して酸化亜鉛の揮発を防げるとともに焼結温度の低温化も可能と考えられる。緻密で高強度、低粒成長を実現する技術といえる。しかしながら、本法はカプセルHIPを前提とした焼結素材を提供するものである。
【0013】
非特許文献1では高い紫外線防御能と高透明性を併せ持った花びら状の酸化亜鉛は、高温条件でpH一定の基、滴定を行なって製造している。この場合、カード状の前駆体塩基性炭酸亜鉛塩は連結して花びら状に成長する。それを酸化亜鉛に熱処理を経て変換した場合、その形状を維持している。そのため、種結晶が大きくなり、粒成長が著しく大きくなる為、均一な焼結体が得られない。具体的には、塩化亜鉛溶液とアルカリ溶液(炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合液)を60℃に保温した水に、pH一定条件の基、滴下させる。濾過、水洗後、乾燥し、乾燥物を400℃で焼結し酸化亜鉛を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2007-8805号公報
【文献】特開2015-038014号公報
【文献】特開2003-119080号公報
【文献】特許第5617410号公報
【文献】特開2013-189369号公報
【非特許文献】
【0015】
【文献】酸化亜鉛の最先端技術と将来、3.微粒子、勝山智祐((株)シーエムシー出版)2011年1月31日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記のようにバリスタは各種添加物を添加して粒成長、焼結性を制御することで、その性能が得られるという特徴を持つ。しかしながら、基本特性すべてにおいて優れ、理想的な特性を有するバリスタを得ることは難しい。バリスタ原料の90%程度を占め、バリスタの性能を有するために必須の材料である酸化亜鉛原料自体の特性を変えることは不可能であり、従来より、酸化亜鉛原料を用いて各種添加物との相互作用で性能を確保している。
【0017】
一般に酸化亜鉛は、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の他のセラミックス粉末と比較して、亜鉛の蒸気圧が高い、粒成長しやすい等の特徴を有している。酸化亜鉛の製造方法は、上述したフランス法によるものが殆どであり、その粒子サイズは0.3~0.6μm程度であり、結晶子内に多くの歪みや異方性を持っている。したがって、これらの材料を用いた既存のバリスタは、焼結の過程で異常粒成長や粒子形状の不安定性があり、バリスタにおいて重要な特性である雷等のサージパルス耐性に関して、高電圧サージパルスが印加されると粒子の不均一性に乗じて負荷が集中し、特性が大幅に劣化してしまうという問題がある。
【0018】
そこで、これらの問題に対する対策として、従来よりバリスタの添加物の組成や製造プロセスを工夫することで性能改善を図っているが、十分な性能を確保できるまでには至っていない。
【0019】
本発明は、上述した課題に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、小型化および低コスト化が可能で、信頼性の高い酸化亜鉛バリスタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
かかる目的を達成し、上述した課題を解決する一手段として、本発明に係る酸化亜鉛バリスタは、酸化亜鉛(ZnO)を主成分とし、粒界形成成分としてビスマス(Bi)、プラセオジム(Pr)からなる群より選択した1種類以上、遷移金属元素としてコバルト(Co)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)からなる群より選択した1種類以上の添加物を含み、前記酸化亜鉛は、X線回折によって求められる結晶子サイズが20~100nmであり、BET法によって求められる粒子径が20~110nmであり、軽装かさ密度が0.60g/cm3以上であり、タップ密度が0.80g/cm3以上であることを特徴とする。
【0021】
例えば、上記酸化亜鉛バリスタにおいて、さらに、ドナー元素であるホウ素(B)、ガリウム(Ga)を1種類以上添加したことを特徴とする。
【0022】
本発明に係る酸化亜鉛バリスタは、例えば焼結体の作製に用いる酸化亜鉛粉末であって、ドナー元素としてアルミニウム(Al)を亜鉛(Zn)に対してモル比で下記式(I)で表されるAl含有量が20モルppm以上、2モル%以下添加したことを特徴とする。
{nAl/(nZn+nAl)}×100 (I)
ただし、式(I)中、nAlは前記酸化亜鉛粉末中のAlの物質量を表し、nZnは前記酸化亜鉛粉末中のZnの物質量を表し、nZnおよびnAlの単位はいずれもモルである。
【0023】
また、例えば、上記アルミニウム(Al)が添加されたアルミニウム添加酸化亜鉛は、アルミニウム塩と、亜鉛塩、炭酸塩、およびアルカリとの沈殿物生成反応によって生成する、炭酸水和物であるアルミニウムを含有する塩基性炭酸亜鉛を、250℃以上の温度で熱処理することにより得られる事を特徴とする。また、前記炭酸水和物が、下記式(1)で表される、塩基性炭酸亜鉛を含有する事を特徴とする。
4~6(CO31~3(OH)6~7・nH2O (1)
ただし、式(1)中、Mは、Zn1-xAlxを表し、xは、2×10-5~0.02の数を表し、nは、0~2の数を表す。
【0024】
また、例えば、上記アルミニウム添加酸化亜鉛の粉末を該粉末のまま、若しくはビーズミルやボールミル等の粉砕方法による解砕またはスプレードライヤによる造粒を行い、成形した後、1200℃以下の温度で焼結して酸化亜鉛焼結体を得ることを特徴とする。
【0025】
また、上述した課題を解決する一手段として、本発明に係る酸化亜鉛バリスタの製造方法は、酸化亜鉛(ZnO)粉末の第1の前駆体である塩基性炭酸亜鉛スラリーを作製する工程と、前記第1の前駆体より、酸化亜鉛(ZnO)粉末の第2の前駆体である塩基性炭酸亜鉛の乾燥粉を得る工程と、前記第2の前駆体を熱処理して酸化亜鉛(ZnO)を得る工程と、前記酸化亜鉛(ZnO)に所定の添加物を添加した混合材料を作製する工程と、前記混合材料より酸化亜鉛バリスタのバリスタ素体を形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【0026】
例えば、上記酸化亜鉛バリスタの製造方法において、前記酸化亜鉛バリスタは酸化亜鉛(ZnO)を主成分とし、粒界形成成分としてビスマス(Bi)、プラセオジム(Pr)からなる群より選択した1種類以上、遷移金属元素としてコバルト(Co)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)からなる群より選択した1種類以上の添加物を含み、前記酸化亜鉛は、X線回折によって求められる結晶子サイズが20~100nmであり、BET法によって求められる粒子径が20~110nmであり、軽装かさ密度が0.60g/cm3以上であり、タップ密度が0.80g/cm3以上であることを特徴とする。
【0027】
例えば、上記酸化亜鉛バリスタの製造方法において、さらに、ドナー元素であるホウ素(B)、ガリウム(Ga)を1種類以上添加したことを特徴とする。
【0028】
本発明に係る酸化亜鉛バリスタの製造方法は、さらに例えば、ドナー元素としてアルミニウム(Al)を亜鉛(Zn)に対してモル比で20モルppm以上、2モル%以下添加したことを特徴とする。また、例えば、上記アルミニウム(Al)が添加されたアルミニウム添加酸化亜鉛は、アルミニウム塩水溶液、亜鉛塩水溶液、炭酸塩水溶液、およびアルカリ水溶液の沈殿物生成反応で生成される炭酸水和物を250℃以上の温度で熱処理して得られることを特徴とする。
【0029】
また、前記炭酸水和物が、下記式(1)で表される、塩基性炭酸亜鉛を含有する事を特徴とする。
4~6(CO31~3(OH)6~7・nH2O (1)
ただし、式(1)中、Mは、Zn1-xAlxを表し、xは、2×10-5~0.02の数を表し、nは、0~2の数を表す。
【0030】
また、例えば、上記アルミニウム添加酸化亜鉛の粉末を該粉末のまま、若しくはビーズミルによる解砕またはスプレードライヤによる造粒を行い、成形した後、1200℃以下の温度で焼結して酸化亜鉛焼結体を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、酸化亜鉛焼結体において焼結粒子サイズが均一でバリスタ電圧のバラツキが抑えられ、緻密性が高く、さらに高い電気伝導率を確保しつつ、サージ電流耐量に優れ、かつ制限電圧の低い酸化亜鉛バリスタを提供できる。また、酸化亜鉛に対するアルミニウム添加量と焼成温度により焼結粒子サイズの制御、およびサイズのばらつきを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明に係る合成例1の酸化亜鉛粉末を示すSEM写真である。
図2】本発明に係る合成例4の酸化亜鉛粉末を示すSEM写真である。
図3】実施例1、合成例2および合成例4について、酸化亜鉛粉末の結晶子サイズとタップ密度の関係を示すグラフである。
図4】本発明の実施形態に係る酸化亜鉛バリスタの製造工程を時系列で示すフローチャートである。
図5】本実施形態に係る酸化亜鉛バリスタのバリスタ電圧とサージ耐量評価結果を示す図である。
図6】本実施形態に係る酸化亜鉛バリスタのバリスタ電圧と制限電圧評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面および表を参照して本発明に係る実施の形態を詳細に説明する。
【0034】
1.酸化亜鉛粉末
[酸化亜鉛粉末の形態]
(1)本発明の酸化亜鉛バリスタに使用する酸化亜鉛粉末は、X線回折によって求められる結晶子サイズが20~100nmであり、BET法によって求められる粒子径が20~110nmであり、軽装かさ密度が0.60g/cm3以上であり、タップ密度が0.80g/cm3以上である。
ここで、軽装嵩密度とは、JIS R 9301-2-3で定められた方法を用い、静置された容積100ml容器に、酸化亜鉛粉末を自由に落下させた時の質量を求める。この質量を容器の体積で割った値を軽装嵩密度とする。
【0035】
後に実施例・比較例で説明するように、本発明の酸化亜鉛バリスタに使用する酸化亜鉛粉末は、従来技術で得られる比較例の酸化亜鉛粉末と比較して、タップ密度が高いことが特徴である。本発明の酸化亜鉛バリスタに使用する酸化亜鉛粉末の形態の特徴により、プレス成形体およびペーストによる厚膜成形体とした時に、充填密度が高く、粒子どうしの接触点が多くなる。このことによって、収縮が小さく、1000℃以下の低温でも緻密な焼結体を得る事ができる。また、1000℃以上の高温で焼結しても粒成長が小さい。焼結して得られる焼結体は、焼結粒子サイズが小さく、そのため高密度で高強度となる。
(2)一方、ドナー元素としてアルミニウム(Al)を添加した、本発明の酸化亜鉛バリスタに使用する酸化亜鉛粉末は、後述するように、アルミニウム濃度が例えば20モルppm以上、焼成温度が例えば1200℃以下では、粒成長が抑制されるだけでなく、焼結粒子サイズが均一になっていることが判明した。また、アルミニウム濃度が20モルppm未満、焼成温度が1200℃よりも高い場合には、焼結粒子サイズが大きくなることもわかった。
【0036】
[酸化亜鉛粉末の製造方法]
本発明の酸化亜鉛粉末を製造する方法は、特に限定されないが、例えば、アルミニウム塩と、亜鉛塩、炭酸塩、およびアルカリとの沈殿物生成反応によって生成する、炭酸水和物であるアルミニウムを含有する塩基性炭酸亜鉛を、250℃以上の温度で熱処理することにより、本発明の酸化亜鉛粉末を得る方法(以下、便宜的に「本発明の粉末製造方法」ともいう)が好適に挙げられる。
【0037】
本発明の粉末製造方法によって得られる酸化亜鉛粉末は、他の方法によって得られた結晶子サイズが同等な酸化亜鉛粉末と比較して、Al含有量が同じであれば、例えば、軽装かさ密度およびタップ密度がより高くなる(後述する評価2を参照)。明らかなことではあるが、前駆体の熱処理条件が高ければ一次粒子のネッキングによって緻密な二次粒子が形成されることで、軽装かさ密度およびタップ密度がより高くなる。
【0038】
また、本発明の粉末製造方法によって得られる酸化亜鉛粉末を用いることにより、成形体および焼結体の密度が高くなる(後述する評価3および評価4を参照)。
また、本発明の粉末製造方法によって得られる酸化亜鉛粉末を用いた焼結体は、焼結粒子サイズが小さく、そのばらつきが小さく、かつ、高強度である傾向を示す(後述する評価4を参照)。
【0039】
本発明の粉末製造方法により得られる酸化亜鉛粉末は、Alを含有する塩基性炭酸亜鉛(前駆体)を経由する等の理由から、酸化亜鉛粉末の粒子内部にAlが均質に含まれ、これにより、上記のような効果が得られると推測される。
もっとも、酸化亜鉛粉末の個々の粒子は、非常に微小であることから、その内部に含まれるAlの状態を観察し、それを直接特定することは、実質的に不可能である。
また、Alの状態に起因する、その他の構造または特性を特定することは、著しく多くの試行錯誤を重ねることが必要になるため、およそ実際的ではない。
【0040】
本発明の粉末製造方法において、アルミニウム塩、亜鉛塩、炭酸塩およびアルカリは、いずれも、水溶液の態様で用いられることが好ましい。
【0041】
沈殿物生成反応は、具体的には、例えば、亜鉛塩の水溶液およびアルミニウム塩の水溶液(好ましくは、亜鉛塩およびアルミニウム塩の混合水溶液)を、炭酸塩の水溶液に滴下して行なうことが好ましい。この滴下中、炭酸塩の水溶液に、アルカリの水溶液を送液して、炭酸塩の水溶液のpHを一定値(例えば、pH6~8の間の値)に保つことが好ましい。
【0042】
沈殿物生成反応によって、炭酸水和物(塩基性炭酸亜鉛)は、沈殿物の形態で得られる。沈殿物は、撹拌養生することが好ましい。
撹拌養生の時間は、得られる酸化亜鉛粉末の軽装かさ密度およびタップ密度が高くなるという理由から、1時間以上が好ましく、5時間以上がより好ましく、10時間以上が更に好ましい。15時間以上が特に好ましい。
撹拌養生の時間が短い場合、一次粒子が層状水酸化物の特徴であるフレーク状(例えば後述する図2を参照)に連結したものが得られやすいと考えられる。これに対し、撹拌養生の時間が長くなることにより、一次粒子どうしが、撹拌によって衝突を繰り返してフレーク形状が消失し、顆粒状(例えば後述する図1を参照)が得られやすいと考えられる。
なお、撹拌養生の時間は、溶液の濃度や攪拌力によるが、上限は、特に限定されず、例えば、32時間以下であり、24時間以下が好ましい。
【0043】
沈殿物生成反応および攪拌養生の間、炭酸塩の水溶液の温度は、45℃未満に保持することが好ましい。さらに好ましくは25℃以下がのぞましい。
【0044】
アルミニウム塩としては、特に限定されず、例えば、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、これらの水和物などが好適に挙げられる。
亜鉛塩としては、特に限定されず、例えば、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、これらの水和物などが好適に挙げられる。
アルカリとしては、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、あるいはアンモニウム水溶液などが好適に挙げられる。
【0045】
炭酸塩としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム(重曹)などが挙げられるが、なかでも、得られる酸化亜鉛粉末の軽装かさ密度およびタップ密度が高くなるという理由から、炭酸アンモニウムが好ましい。
【0046】
沈殿物生成反応によって生成する炭酸水和物は、アルミニウムを含有する塩基性炭酸亜鉛であることが好ましく、下記式(1)で表される塩基性炭酸亜鉛を含有することがより好ましい。
4~6(CO31~3(OH)6~7・nH2O (1)
ただし、式(1)中、Mは、Zn1-xAlxを表し、xは、2×10-5~0.02の数を表し、nは、0~2の数を表す。
【0047】
上記式(1)で表される塩基性炭酸亜鉛は、ハイドロジンカイト(Zn5(CO32(OH)6・2H2O)の亜鉛の一部をアルミニウムで置き換え、分子サイズで均一にアルミニウムが添加された塩基性炭酸亜鉛であると言える。このような塩基性炭酸亜鉛も、以下では、便宜的に、ハイドロジンカイトと呼ぶ場合がある。
沈殿物生成反応によって生成する炭酸水和物(塩基性炭酸亜鉛)は、このようなハイドロジンカイトを主成分とすることが好ましい。主成分とは、構成物質中最も多い成分をいい、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上の成分をいう。
【0048】
沈殿物生成反応により得られた炭酸水和物(塩基性炭酸亜鉛)は、250℃以上の温度で熱処理されることにより、脱炭酸、脱水され、酸化亜鉛粉末が得られる。
【0049】
熱処理温度が低すぎると、後述する酸化亜鉛焼結体を得る際の焼成時の脱炭酸、脱水が多くなり、焼結が阻害される場合がある。
一方、熱処理温度が高すぎると、一次粒子が結合した連結粒が増えるおそれがある。大きな連結粒は、粒成長が早く、より大きな焼結粒子となることは、オストワルド成長として知られた現象であり、焼結体の粒子サイズが不均一になり得る。
このような観点から、熱処理温度は、350℃~420℃が好ましい。ただし、本発明の酸化亜鉛粒子はナノサイズであることから、熱処理温度の上昇によって、一次粒子の成長とネッキングが進み、密度や強度の異なった二次粒子となり、軽装かさ密度やタップ密度が大きくなるのは容易に推測できる。
【0050】
以上、本発明の酸化亜鉛粉末を製造する方法の好適な態様として、本発明の粉末製造方法を説明した。
ただし、本発明の酸化亜鉛粉末を製造する方法は、上述した本発明の粉末製造方法に限定されず、例えば、他の方法によって製造され、必要に応じて、粉砕、分級、粒度分布調整などを経たものであっても、本発明の範囲内であれば、本発明の酸化亜鉛粉末であるものとする。
【0051】
なお、「他の方法」としては、例えば、亜鉛塩、炭酸塩、およびアルカリとの沈殿物生成反応によって生成する、アルミニウムを含有しない塩基性炭酸亜鉛を熱処理することにより、酸化亜鉛粉末を得て、これにアルミニウム塩水溶液などの態様でAlを添加することにより、Alを含有する酸化亜鉛粉末を得る方法が挙げられる。
【0052】
[酸化亜鉛焼結体]
本発明の酸化亜鉛焼結体は、上述した本発明の酸化亜鉛粉末が焼結した、酸化亜鉛焼結体である。このため、本発明の酸化亜鉛焼結体は、Alを含有する。Alは固溶していることが好ましい。
【0053】
本発明の酸化亜鉛焼結体は、上述した本発明の酸化亜鉛粉末を焼成することにより得られる。具体的には、例えば、上述した本発明の酸化亜鉛粉末を、そのまま、または、ビーズミルによる解砕、もしくは、スプレードライヤーによる造粒などを行なった後、成形し、得られた成形体を、焼成する。こうして、本発明の酸化亜鉛焼結体が得られる。
焼成温度は、例えば、800℃以上、1300℃以下である。またAlを添加した酸化亜鉛の焼成としては、焼成温度は、900℃以上が好ましく、1000℃以上がより好ましい。また、焼成温度は、1150℃以下が好ましく、1100℃以下がより好ましい。
【0054】
本発明の酸化亜鉛焼結体は、セラミックスからなる部材として用いられるが、具体的には、例えば、板状バルク材;厚膜焼成品;緻密さや粒子サイズの均一さが要求されるスパッターターゲット;ガスセンサーやフィルター(大腸菌などの増殖を防止する抗菌性フィルターなど)などのポーラスな部材;等として好適に使用できる。
【0055】
<実施例>
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0056】
<合成例1(実施例Eおよび比較例1)>
(合成)
亜鉛塩として硝酸亜鉛6水和物(キシダ化学社製)、アルミニウム塩として硝酸アルミニウム9水和物(キシダ化学社製)、炭酸塩として炭酸アンモニウム(キシダ化学社製)、および、アルカリとして30質量%水酸化ナトリウム(キシダ化学社製)を用いた。
純水1Lに、硝酸亜鉛および硝酸アルミニウムの合計量が0.5モルとなるように秤量したものを溶解させて、硝酸亜鉛および硝酸アルミニウムの混合水溶液を調製した。
2Lのビーカーに、0.4Mの炭酸アンモニウム水溶液0.5Lを準備した。
炭酸アンモニウム水溶液にはpHコントロール用pH電極を装入し、硝酸亜鉛および硝酸アルミニウムの混合水溶液を、1L/hの速度で、約700rpmに設定した回転速度の回転子によって攪拌されている炭酸アンモニウム水溶液に滴下した。
【0057】
酸性である硝酸亜鉛および硝酸アルミニウムの混合水溶液の滴下によって炭酸アンモニウム水溶液のpHが低下することを防ぐため、pHコントローラー(東興化学研究所社製 TDP-51)によってon/off制御する送液ポンプによって、30質量%水酸化ナトリウムを炭酸アンモニウム水溶液に滴下した。これにより、炭酸アンモニウム水溶液のpHを、硝酸亜鉛および硝酸アルミニウムの混合水溶液の滴下中、pH7.5の一定値に保った。こうして、沈殿物生成反応による沈殿物を生成させた。
送液が終了した後、沈殿反応中と同じ約700rpmに設定した回転子を用いて20時間の攪拌養生を行ない、アルミニウムを含有する塩基性炭酸亜鉛のスラリーを得た。
沈殿物生成反応および攪拌養生の間、冷却装置を用いて、炭酸アンモニウム水溶液の温度は常に30℃未満となるようにした。
【0058】
撹拌養生後のスラリーは、吸引ろ過法にて固液分離し、固形分を得た。得られた固形分については、不用なナトリウムなどを除去するため、洗浄した。具体的には、固形分を適量の純水を用いてリスラリー化した後、得られたスラリーを吸引ろ過法にて固液分離した。この洗浄は4回繰り返した。
洗浄後の固形分について、真空乾燥機を用いて、30℃、20時間の真空乾燥を行なった。こうして、酸化亜鉛粉末の前駆体である、アルミニウムを含有する塩基性炭酸亜鉛の乾燥粉を得た。
【0059】
合成例1(実施例Eおよび比較例1)では、アルミニウムと亜鉛とのモル比(Al/Zn)が0/100~10/90の範囲となるように合成した。
すなわち、上述した式(I)で表されるAl含有量を、実施例Eでは、20モルppm、200モルppm、2000モルppm、および、20000モルppm(2モル%)とし、比較例1では、0モルppm、10モルppm、50000モルppm(5モル%)、および、100000モルppm(10モル%)とした。
【0060】
なお、Al含有量が0モルppmの場合は、硝酸アルミニウム9水和物を使用せずに、硝酸亜鉛水溶液を調製し、これを、炭酸アンモニウム水溶液に滴下した。
【0061】
得られた塩基性炭酸亜鉛については、X線回折装置(ブルッカー社製 D8ADVANCE)による鉱物相の同定、および、シェラー法による結晶子サイズの測定を行なった。
また、TG-DTA装置(日立ハイテクノロジーズ社製 TG/DTA6300)による熱減量の測定、分析装置(LECO CS844)を用いた燃焼法によるカーボン分析、および、ICP発光分析装置(島津製作所製 ICP-9000)によるZn、Naの分析を行なった。
X線回折、および、成分分析の結果から、ハイドロジンカイトを主成分とする塩基性炭酸亜鉛が得られたことが分かった。
【0062】
なお、Al含有量が10モル%である比較例1では、亜鉛およびアルミニウムの炭酸水酸化物水和物(Zinc Aluminum Carbonate Hydroxide Hydrate)として同定された異相が支配的であった。
また、ろ液の分析をしたところ、沈殿物の歩留まりは99%であった。さらに、脱炭酸、脱水による熱減量は、約600℃で終了することが分かった。
【0063】
(熱処理)
得られた塩基性炭酸亜鉛をアルミナるつぼに入れ、360℃、大気雰囲気にて、脱炭酸および脱水のための熱処理を行なった。昇温速度は2℃/min、360℃での保持時間は6時間、冷却は自然冷却とした。こうして、酸化亜鉛粉末を得た。熱処理温度に関しては、250℃以上、350℃~420℃で行うのがのぞましいが、焼結体の要求特性に応じて選ぶことができる。本発明においては、軽装かさ密度やタップ密度への影響を明らかにするため、熱処理温度について鋭意検討を加えた。
【0064】
(成形体の作製)
得られた酸化亜鉛粉末を0.6mmの篩いを通して簡単な解砕を行ない、約60MPaの圧力でプレス成形し、φ20mm×2mmの円板状の成形体、および、40×40×5mmの板状の成形体を作製した。各成形体はn=15で作製した。
このとき、合成条件による酸化亜鉛粉末の粉末特性の差異が成形体および焼結体に及ぼす影響が明確になると考え、スプレードライヤーなどを用いた造粒などは行なわなかった。ただし、実製品の製造に当たっては、この限りではない。
後述するように、円板状のものは、SEM(走査型電子顕微鏡)による観察、密度の測定、および、X線回折に用いるサンプルとし、板状のものは、電気抵抗の測定、および、曲げ強度の測定に用いるサンプルとした。
【0065】
(焼結体の作製)
作製した円板状および板状の成形体を、大気雰囲気中で焼成した。焼成温度は900~1200℃(100℃間隔)、焼成温度での保持時間は6時間、昇温速度は4℃/分、冷却は炉内放置とした。こうして、円板状および板状の焼結体を得た。
【0066】
<評価1>
得られた焼結体を用いて、各種評価を行なった。
円板状の焼結体について、SEMを用いて観察し、焼結粒子サイズ(単位:μm)を測定した。
また、板状の焼結体については、30mm×4mm×4mmの棒状に加工した後、四端子法により体積抵抗率(単位:Ω・cm)の測定を行うとともに、ISO178に準拠して曲げ強度(単位:MPa)を測定した。
焼結粒子サイズ、曲げ強度および体積抵抗率は、それぞれ、15サンプルの平均値とした。焼結粒子サイズおよび曲げ強度については、標準偏差および変動係数(=(標準偏差/平均値)×100)も求めた。変動係数(単位:%)は、ばらつきの指標となる。結果を下記表1、表2および表3に示す。
【0067】
なお、後述する参考例2(合成例2)の酸化亜鉛粉末を用いて、実施例Eおよび比較例1と同様にして、焼結体を作製し、体積抵抗率を測定した。結果を下記表3に併せて記載した。
【0068】
【表1】
【0069】
上記表1に示すように、Al含有量が20モルppm以上、20000モルppm以下(2モル%以下)である実施例E-1~E-4は、いずれの焼成温度においても、Al含有量が20モルppm未満である比較例1-1~1-2と比較して、焼結粒子サイズが小さい(粒界が多い)ことが分かった。このとき、焼成温度が低いほど、焼結粒子サイズが小さくなる傾向が見られた。
また、実施例E-1~E-4は、少なくとも焼成温度が900℃および1000℃である場合において、比較例1-1~1-2と比較して、変動係数の値が小さく、焼結粒子サイズのばらつきが小さかった。
【0070】
【表2】
【0071】
上記表2に示すように、Al含有量が20モルppm以上、20000モルppm以下(2モル%以下)である実施例E-1~E-4は、いずれの焼成温度においても、Al含有量が20000モルppm超である比較例1-3~1-4と比較して、高い曲げ強度を示した。比較例1-3~1-4の曲げ強度が低いのは、異相であるスピネル相(ZnAl24)の形成による膨張が原因であると考えられる。
【0072】
【表3】
【0073】
上記表3に示すように、実施例E-1~E-4は、比較例1-1~1-4と比較して、体積抵抗率が小さく、導電性に優れる傾向が見られた。
特に、焼成温度が900~1000℃である場合、実施例E-1~E-4は、Al無添加である比較例1-1と比較して、体積抵抗率が約2桁も小さくなることが分かった。
【0074】
<合成例2(参考例2)>
合成例1で調製したAl無添加の酸化亜鉛粉末(比較例1-1の酸化亜鉛粉末)を、硝酸アルミニウム水溶液に添加、混合し、200℃で乾燥させることによって、Al含有量が200モルppmおよび20000モルppm(2モル%)である酸化亜鉛粉末を得た。得られた酸化亜鉛粉末においては、粉末粒子の表面にAlが無定形水酸化物として析出し、固定されていると考えられる。
【0075】
<合成例4(参考例4)>
特許文献1に準じて、以下のように、酸化亜鉛粉末を調製した。
亜鉛塩として硝酸亜鉛6水和物(キシダ化学社製)、アルミニウム塩として硝酸アルミニウム9水和物(キシダ化学社製)、炭酸塩として炭酸アンモニウム(キシダ化学社製)、および、アルカリとして30質量%水酸化ナトリウム(キシダ化学社製)を用いた。
【0076】
アルカリ沈殿物の合成方法までは、合成例1と同じである。純水1Lに、硝酸亜鉛および硝酸アルミニウムの合計量が0.5モルとなるように秤量したものを溶解させて、硝酸亜鉛および硝酸アルミニウムの混合水溶液を調製した。
2Lのビーカーに、0.4Mの炭酸アンモニウム水溶液0.5Lを準備した。
硝酸亜鉛および硝酸アルミニウムの混合水溶液を、1L/hの速度で、約50rpmに設定した回転速度の回転子によって攪拌されている炭酸水素ナトリウム水溶液に滴下した。送液およびpHコントロールは合成例1と同様に行ない、30質量%水酸化ナトリウムを炭酸水素ナトリウム水溶液に滴下した。これにより、炭酸水素ナトリウム水溶液のpHを、硝酸亜鉛および硝酸アルミニウムの混合水溶液の滴下中、pH7.5の一定値に保った。こうして、沈殿物生成反応による沈殿物を生成させた。
送液終了後は、沈殿反応中と同じ約50rpmに設定した回転子を用いて、約10分の攪拌養生を行い、その後は直ちに、固液分離、洗浄、真空乾燥を行い、塩基性炭酸亜鉛の乾燥粉を得た。沈殿物生成反応および攪拌養生の間、冷却装置を用いて、炭酸アンモニウム水溶液の温度は常に30℃未満となるようした。
【0077】
合成例1と同様に分析した結果、ハイドロジンカイトを主成分とする塩基性炭酸亜塩が得られたことが分かった。また、ろ液の分析をしたところ、沈殿物の歩留まりはほぼ99%であった。
得られた塩基性炭酸亜塩を用いて、合成例1と同様にして熱処理を行ない、酸化亜鉛粉末を得た。合成例4では、Al含有量を、0モルppm、200モルppm、および、20000モルppm(2モル%)とした。
【0078】
<評価2:酸化亜鉛粉末の評価>
合成例1(比較例1および実施例E)および合成例4(参考例4)の酸化亜鉛粉末について、X線回折装置(ブルッカー社製 D8ADVANCE)を用いてX線回折を行ない、結晶子サイズを求め、また、BET比表面積測定装置(カンタクロム社製 AUTOSORB-MP1)を用いてBET吸着法による比表面積の測定を行ない、BET径を求めた。更に、上述した方法にしたがって、軽装かさ密度およびタップ密度を求めた。結果を下記表4に示す。
【0079】
【表4】
【0080】
上記表4に示すように、合成例1の酸化亜鉛粉末は、合成例4の酸化亜鉛粉末よりも、軽装かさ密度およびタップ密度が高い値を示した。このため、合成例1の酸化亜鉛粉末は、成形して焼結体を得るに当たって、充填密度が高く、粒子どうしの接触点が多くなることによって、収縮が小さくなり、低温(例えば1000℃以下)でも緻密な焼結体が得られることが期待できる。
【0081】
更に、合成例1、合成例4について、塩基性炭酸亜鉛を熱処理する際の温度(熱処理温度)を、360℃だけでなく、350℃~420℃の範囲の温度に変えて、酸化亜鉛粉末を調製し、結晶子サイズおよびタップ密度を求めた。結果を図3のグラフに示す。
図3は、合成例1、合成例4について、酸化亜鉛粉末の結晶子サイズとタップ密度との関係を示すグラフである。
図3のグラフにおいて、Al含有量が20モルppm~2モル%の合成例1(実施例E)は白抜き丸形のプロット、Al無添加の合成例1は黒丸のプロット、Al含有量が20モルppm~2モル%の合成例4は白抜き菱形のプロット、Al無添加の合成例4は黒菱形のプロットで示した。各合成例のプロットは、熱処理温度の違いも含んでいる。
図3のグラフを見ると、合成例1では、合成例4と比較して、結晶子サイズが同程度である場合、約2倍のタップ密度が得られることが分かった。結晶子サイズおよびタップ密度に対するAl含有量の影響はほとんど見られなかった。合成例2では合成例1との違いは見られなかった。
【0082】
ここで、合成例1および合成例4の酸化亜鉛粉末(いずれもAl無添加)を、極低加速SEMを用いて、加速電圧3kVで観察した。
図1は、合成例1の酸化亜鉛粉末を示すSEM写真である。図2は、合成例4の酸化亜鉛粉末を示すSEM写真である。合成例1(図1)では、酸化亜鉛粉末を構成する粒子どうしの凝集および連結が、合成例4(図2)よりも軽微であり、過剰な粒成長が抑制されていることが認められる。
【0083】
より詳細には、合成例4では、沈殿物生成過程および攪拌養生において、攪拌力を弱めたこと、また攪拌養生時間を短くしたことによって、一次粒子が層状水酸化物の特徴であるフレーク状(例えば後述する図2を参照)に連結したものが得られやすいと考えられる。これに対し、撹拌養生の時間が長くなることにより、一次粒子どうしが、撹拌によって衝突を繰り返してフレーク形状が消失し、顆粒状(例えば後述する図1を参照)が得られやすいと考えられる。
【0084】
合成例1の酸化亜鉛粉末のタップ密度が合成例4よりも高くなる(図3参照)ことの理由は、明確ではないが、酸化亜鉛粉末を構成する粒子どうしの凝集および連結が軽微である(図1参照)ことと、適度な凝集によって二次粒子を形成することが一因であると考えられる。
【0085】
<評価3:成形体の評価>
合成例4の酸化亜鉛粉末についても、合成例1と同様にして、プレス成形を行ない、φ20mm×2mmの円板状の成形体(n=15)を得た。
円板状の成形体について、密度(単位:g/cm3)を求めた。
成形体密度は、15サンプルの平均値とし、標準偏差および変動係数(=(標準偏差/平均値)×100)も求めた。変動係数(単位:%)は、ばらつきの指標となる。結果を下記表5に示す。
【0086】
【表5】
【0087】
上記表5に示すように、実施例Eの成形体は、参考例4よりも、Al含有量が同じである場合、高密度でばらつきも小さいことが分かった。このため、実施例Eの酸化亜鉛粉末は、プレス成形に好適である。
【0088】
<評価4:焼結体の評価>
合成例2、4の酸化亜鉛粉末についても、合成例1と同様にして、プレス成形した後に焼成し、円板状の焼結体(n=15)および板状の焼結体(n=15)を得た。
円板状の焼結体について、密度(単位:g/cm3)を求めるとともに、SEMを用いて観察して焼結粒子サイズ(単位:μm)を測定した。
また、板状の焼結体については、30×4×4mmの棒状に加工した後、ISO178に準拠して曲げ強度(単位:MPa)を測定した。
焼結体密度、焼結粒子サイズおよび、曲げ強度、は、それぞれ、15サンプルの平均値とした。いずれも、標準偏差および変動係数(=(標準偏差/平均値)×100)も求めた。変動係数(単位:%)は、ばらつきの指標となる。結果を下記表6、表7および表8に示す。
【0089】
【表6】
【0090】
【表7】
【0091】
【表8】
【0092】
上記表6に示すように、実施例Eの焼結体は、参考例4よりも、Al含有量が同じである場合、高密度でばらつきも小さいことが分かった。
また、上記表7および表8に示すように、実施例Eの焼結体は、参考例4よりも、Al含有量が同じである場合、焼結粒子サイズが小さく、そのばらつきが小さく、かつ、高強度である傾向が見られた。
以上のことから、実施例Eの酸化亜鉛粉末は、上記表3に示した結果も踏まえると、導電性に優れ、かつ、緻密で高強度な焼結体を得るための酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末として好適である。
【0093】
2.酸化亜鉛バリスタ
次に、本発明の実施の形態に係る酸化亜鉛バリスタについて詳細に説明する。
(1)酸化亜鉛バリスタの製造方法
図4は、本実施の形態に係る酸化亜鉛バリスタ(積層バリスタ)の製造工程を時系列で示すフローチャートである。ここでは、酸化亜鉛の原料そのものに着目し、上述した粒子サイズ、タップ密度等で構成される酸化亜鉛粉末を使用する。
【0094】
最初に酸化亜鉛バリスタの原料を作製する。そのため、図4のステップS11で前駆体の合成(1)を行う。具体的には、上述したように硝酸亜鉛6水和物、炭酸アンモニウム、および水酸化ナトリウムを用い、炭酸アンモニウムのpHをpH7.5に制御して、液相法にて前駆体となる塩基性炭酸亜鉛スラリーを作製する。続くステップS13では、前駆体の合成(2)を行う。すなわち、上記ステップS11で得た塩基性炭酸亜鉛スラリーを吸引濾過によって固液分離し、不要なナトリウムを除去する洗浄を行い、洗浄後の固形分を30℃、20時間、真空乾燥して、前駆体である塩基性炭酸亜鉛の乾燥粉を得る。
【0095】
ステップS15では、上記ステップS13で得た塩基性炭酸亜鉛をアルミナるつぼに入れ、例えば360℃で6時間、大気雰囲気で熱処理を行う。これらステップS11~S15の工程により、上述した結晶子サイズ、粒子径、嵩密度、タップ密度等を満たす酸化亜鉛(ZnO)を得る。
【0096】
ステップS17において、酸化亜鉛バリスタの原料を調合、秤量する。ここでは、上記の工程で得た酸化亜鉛100mol%に対して、添加物としてビスマス(Bi)あるいはプラセオジム(Pr)の酸化物、またはBiとPrの双方を含む酸化物を0.5mol%添加する。さらに、遷移金属元素であるコバルト(Co)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)の酸化物を1種類以上、0.5mol%添加する。また、これらの組成物に対してさらに、ドナー元素であるホウ素(B)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)の酸化物を1種類以上、20000ppmあるいは20ppm添加する。ドナー元素は、酸化亜鉛バリスタにおいて酸化亜鉛の低抵抗化を促し、インパルス耐量の向上等に寄与する。なお、上記の添加物については、酸化物以外の形態で添加してもよい。
【0097】
ステップS19では、上記のように秤量したバリスタ原料をボールミル等で粉砕・整粒し、続くステップS21において、可塑剤、分散剤、希釈溶剤等を加えてスラリーを作製する。そして、ステップS23において、上記ステップS21で作製したスラリーをドクターブレードによって成膜し、例えば、10~100μm程度のグリーンシートを作製する。
【0098】
ステップS25では、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、Ag/Pd等の電極ペーストを用いてコンデンサパターンを印刷し、かかる内部電極を形成したグリーンシートを含む複数層の積層体をホットプレス等で熱圧着し、積層する。続くステップS27で、積層グリーンシートを所定の製品サイズに合わせて切削するダイシングを行う。
【0099】
ステップS29において、上記ダイシング後の積層体を、例えば500℃で10時間保持して、脱バインダーを行なう。そして、ステップS31において、例えば900℃で焼成を行う。このような低温焼結による焼結体の断面を、SEM(走査型電子顕微鏡)で観察したところ、酸化亜鉛の粒子が異常粒成長せず、サイズ・形状が均一であり、酸化亜鉛粒子間の空隙が少ない緻密な構造を確認できた。よって、酸化亜鉛の焼結体は曲げ強度が高く(高強度)、高い電気伝導率を有する。
【0100】
ステップS33では、上記の焼成体を例えば700℃でアニール処理する。そして、ステップS35において、例えば、Agペースト、あるいはAg/Pdペーストで端子電極(外部電極)を形成し、所定温度で焼付けする。なお、上記アニール処理の後に研磨剤等を用いた遠心バレルによって素子のR形成(面取り)を行っても良い。
【0101】
ステップS37では、上記のステップS35で形成された外部電極に、例えばNi層、Sn層の順に電解メッキによりメッキを施す。続くステップS39において、バリスタ電圧、サージ電流(インパルス耐量)等の電気的特性を検測し、酸化亜鉛バリスタを完成する。
【0102】
(2)酸化亜鉛バリスタの評価
図5図6は、上記の工程で作製した酸化亜鉛バリスタの評価結果を示している。性能評価には、素子形状が9.8mm×5mm×1.0mm、電極寸法が7.5mm×3.4mmのバルク形状のサンプルを使用した。バリスタ電圧とサージ電流は相関性があるため、ここでは、図5図6に示すように横軸をバリスタ電圧、縦軸をサージ電流、制限電圧として、本実施の形態に係る酸化亜鉛バリスタと従来品1~3とを対比している。従来品1はフランス法で製造されたJISグレード粉を用いた酸化亜鉛バリスタである。また、従来品2は、上述した比較例4(前駆体合成例5)で合成した塩基性炭酸亜鉛の乾燥粉を用いた酸化亜鉛バリスタであり、従来品3は、上述した比較例1(前駆体合成例2)で合成した塩基性炭酸亜鉛の乾燥粉を用いた酸化亜鉛バリスタである。
【0103】
図5図6に示す評価結果から、本実施の形態に係る酸化亜鉛バリスタの特性(図中、●■印を直線で近似した破線で示す。)は、高いサージ性能と低い制限電圧を有しており、いずれのバリスタ電圧においても、従来品1~3より優れたサージ電流耐量および低制限電圧を有していることが分かる。また、本実施の形態に係る酸化亜鉛バリスタは、同一サイズであっても、従来品より最大で3倍以上のサージ性能を得ることができる。これは、素子を1/3に小型化しても従来品と同等のサージ性能を確保することが可能であることを意味している。
【0104】
一方、図5図6に示すように、アルミニウム添加量が酸化亜鉛バリスタのバリスタ電圧に影響をおよぼすことがわかる。すなわち、ドナー元素としてアルミニウム(Al)を添加した酸化亜鉛粉末を使用した酸化亜鉛バリスタにおいて、実施例1はアルミニウム酸化物の添加量20ppm、実施例2はアルミニウム酸化物添加量20000ppmの結果を示すが、アルミニウム酸化物の添加量が増えるにつれ、バリスタ電圧がより高圧側へ調整できることが判明した。ここで、詳細にアルミ添加量と焼成温度、酸化亜鉛バリスタのバリスタ電圧、制限電圧、サージ耐量の結果を表9に示す。
【0105】
【表9】
【0106】
以上説明したように本実施の形態例に係る酸化亜鉛バリスタにおいて、バリスタ材料として、結晶子サイズが20~100nm、比表面積BET法による粒子径が20~110nm、軽装嵩密度が0.60g/cm3以上であり、タップ密度が0.80g/cm3以上である酸化亜鉛とすることで、酸化亜鉛焼結体において異常粒成長がなく、粒子間の空隙も少ないので、焼結粒子サイズが均一で緻密性が高くなり、高強度および高電気伝導率を確保しつつ、サージ耐量が高く、かつ制限電圧の低い酸化亜鉛バリスタを得ることができる。
【0107】
また、焼結温度の低温化、すなわち焼成時における熱収縮挙動による900℃以下の低温焼結によって酸化亜鉛の緻密な焼結体を得ることができるので、Pd,Au,Pt等の希少金属の使用の排除と相俟ってバリスタの低コスト化が可能となる。さらに、従来品と同一サイズであっても3倍あるいはそれ以上のサージ性能を有するので、従来品と同等の性能を確保しながらバリスタの小型化を図ることができる。
【0108】
さらには、酸化亜鉛バリスタに使用する酸化亜鉛(ZnO)粉末に、ドナー元素としてアルミニウム(Al)を、亜鉛(Zn)に対するAlのモル%が5~100000ppmとなるように添加することで、アルミニウム添加量による焼結粒子サイズの制御が可能となる。また、このようなアルミニウム添加酸化亜鉛は、焼成温度を高くする(例えば、1200℃以下)ことで緻密化する場合でも、焼結粒子サイズを抑制し、かつ、サイズのばらつきを小さくすることができる。例えば、焼成温度が950℃以下の場合、アルミニウムの添加量を200ppmとし、焼成温度が1050℃以上の場合には、アルミニウムの添加量を20000ppmとすることで、粒成長の抑制と粒子サイズの均一化が可能となる。
【0109】
なお、上記実施の形態における酸化亜鉛バリスタの原料調合において、粒成長を抑制制御する添加物としてアンチモン(Sb)、クロム(Cr)の酸化物を1種類以上含有させてもよい。さらに、焼結を安定化させるガラス成分として、珪酸ガラス系組成物(SiO2系)を含有させてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6