(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】吸遮音材とその製造方法
(51)【国際特許分類】
G10K 11/168 20060101AFI20221104BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20221104BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20221104BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20221104BHJP
B29C 39/02 20060101ALI20221104BHJP
B29C 39/26 20060101ALI20221104BHJP
B60R 13/08 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
G10K11/168
B32B5/18
B32B27/40
B29C44/00 A
B29C39/02
B29C39/26
B60R13/08
(21)【出願番号】P 2018135592
(22)【出願日】2018-07-19
【審査請求日】2021-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100098752
【氏名又は名称】吉田 吏規夫
(72)【発明者】
【氏名】小山 利幸
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-527382(JP,A)
【文献】特開2004-294619(JP,A)
【文献】特開2013-246182(JP,A)
【文献】特開2001-138771(JP,A)
【文献】特開2004-359043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/16-11/168
B32B 5/18
B32B 27/40
B29C 44/00
B29C 39/02
B29C 39/26
B60R 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源の外表面の一部または全部に配置されるポリウレタンフォームからなる吸遮音材において、
前記ポリウレタンフォームは表面にスキン層を有し、
前記音源の外表面と対向する前記ポリウレタンフォームの一側表面は、クローズドセル状態のスキン層からなり、
前記ポリウレタンフォームの他側表面は、少なくとも一部がオープンセル状態のスキン層からなり、
前記音源の外表面と前記ポリウレタンフォームの一側表面のクローズドセル状態のスキン層の少なくとも端部の外周縁とが密着することにより、前記音源の外表面と前記ポリウレタンフォームの一側表面のクローズドセル状態のスキン層との間に密閉空間を形成することを特徴とする吸遮音材。
【請求項2】
前記音源の外表面と前記ポリウレタンフォームの一側表面のクローズドセル状態のスキン層の全面が密着することにより、前記音源の外表面と前記ポリウレタンフォームの一側表面のクローズドセル状態のスキン層との間に密閉空間を形成することを特徴とする請求項1に記載の吸遮音材。
【請求項3】
前記クローズドセル状態のスキン層の平均厚みが5μm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の吸遮音材。
【請求項4】
前記クローズドセル状態のスキン層の通気性(JIS K6400-7B法:2012/ISO 7231:2010に基づく)が3ml/cm
2/s未満であり、前記オープンセル状態のスキン層の通気性(JIS K6400-7B法:2012/ISO 7231:2010に基づく)が3~50ml/cm
2/sであることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の吸遮音材。
【請求項5】
前記ポリウレタンフォームの全体密度(JIS K7222:2005/ISO 845:1988に基づく)が70~250kg/m
3であることを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の吸遮音材。
【請求項6】
前記クローズドセル状態のスキン層からなる表面からの音の入射に対する1600Hzでの垂直入射音響透過損失(ASTM E2611-09(2009)準拠)が20dB以上であり、
少なくとも一部がオープンセル状態のスキン層からなる表面からの音の入射に対する1600Hzでの垂直入射吸音率(JIS A1405-2:2007/ISO 10534-2:1998準拠)が、45%以上であることを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の吸遮音材。
【請求項7】
金型の型面に離型剤を塗布した後、前記金型内にポリウレタンフォーム原料を注入し、発泡させることにより、音源の外表面の一部または全部に配置されるポリウレタンフォームからなる吸遮音材を製造する方法において、
前記音源の外表面と対向する前記ポリウレタンフォームの一側表面を形成する型面には、分岐鎖状炭化水素ワックスを含有する離型剤を塗布し、
前記ポリウレタンフォームの前記一側表面の反対にある他側表面を形成する型面には、少なくとも直鎖状炭化水素ワックスを含有する離型剤を塗布し、
前記分岐鎖状炭化ワックスを含有する離型剤を塗布した型面で、クローズドセル状態のスキン層を前記ポリウレタンフォームの一側表面の全面に形成し、
前記直鎖状炭化水素ワックスを含有する離型剤を塗布した型面で、少なくとも一部がオープンセル状態のスキン層を前記ポリウレタンフォームの前記一側表面の反対にある他側表面に形成することを特徴とする吸遮音材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音性と遮音性を有する吸遮音材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両においては、車両のエンジンから発生した音を低減するため、
図6に示すようにエンジEの外周面にエンジンカバー80を配置することが提案されている(特許文献1)。
【0003】
エンジンカバー80は、エンジンE(音源)の外周面と対向する発泡ウレタン樹脂層81と、その反対側のインジェクション成形された樹脂製カバー83との二層構造からなる。エンジンEの外周面と対向する発泡ウレタン樹脂層81は吸音層として機能し、エンジンEから発生した音を吸音する。一方、エンジンEの外周面とは反対側の樹脂製カバー83は、遮音層として機能し、発泡ウレタン樹脂層81を通過してきた音を反射し、外部へ漏れる騒音を減らす。
また、吸音層として繊維体が用いられることもあり、特許文献2のエンジンカバー3は、ポリプロピレン系樹脂シート2とポリプロピレン製不織布1との二層構造からなる。
何れも、樹脂製のカバー部材と吸音部材とが別体となるため、一体化させるための工程が必要なため、製造工程が複雑となりコストが高くなる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-27958号公報
【文献】特開2000-351161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のエンジンカバー80は、エンジンカバー80自体及びその周囲から漏れた音がエンジンルーム内で反射してエンジンカバー80まで戻ってきた際に、外側の樹脂製カバー83で反射されてしまう。そのため、漏れた音が内側の吸音層である発泡ウレタン樹脂層81まで到達することができず、特に、吸音効果が充分ではなかった。また、製造工程も複雑であった。
【0006】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであり、音源側からの音及び音源側とは反対側からの音の何れについても良好な吸音・遮音効果を発揮する吸遮音材とその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、音源の外表面の一部または全部に配置されるポリウレタンフォームからなる吸遮音材において、前記ポリウレタンフォームは表面にスキン層を有し、前記音源の外表面と対向する前記ポリウレタンフォームの一側表面は、クローズドセル状態のスキン層からなり、前記ポリウレタンフォームの他側表面は、少なくとも一部がオープンセル状態のスキン層からなり、前記音源の外表面と前記ポリウレタンフォームの一側表面のクローズドセル状態のスキン層の少なくとも端部の外周縁とが密着することにより、前記音源の外表面と前記ポリウレタンフォームの一側表面のクローズドセル状態のスキン層との間に密閉空間を形成することを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1において、前記音源の外表面と前記ポリウレタンフォームの一側表面のクローズドセル状態のスキン層の全面が密着することにより、前記音源の外表面と前記ポリウレタンフォームの一側表面のクローズドセル状態のスキン層との間に密閉空間を形成することを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または2において、前記クローズドセル状態のスキン層の平均厚みが5μm以上であることを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1から3の何れか一項において、前記クローズドセル状態のスキン層の通気性(JIS K6400-7 B法:2012/ISO 7231:2010に基づく)が3ml/cm2/s未満であり、前記オープンセル状態のスキン層の通気性(JIS K6400-7 B法:2012/ISO 7231:2010に基づく)が3~50ml/cm2/sであることを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1から4の何れか一項において、前記ポリウレタンフォームの全体密度(JIS K7222:2005/ISO 845:1988に基づく)が70~250kg/m3であることを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明は、請求項1から5の何れか一項において、前記クローズドセル状態のスキン層からなる表面側からの音の入射に対する1600Hzでの垂直入射音響透過損失(ASTM E2611-09(2009)準拠)が20dB以上であり、少なくとも一部がオープンセル状態のスキン層からなる表面側からの音の入射に対する1600Hzでの垂直入射吸音率(JIS A1405-2:2007/ISO 10534-2:1998準拠)が、45%以上であることを特徴とする。
【0013】
請求項7の発明は、金型の型面に離型剤を塗布した後、前記金型内にポリウレタンフォーム原料を注入し、発泡させることにより、音源の外表面の一部または全部に配置されるポリウレタンフォームからなる吸遮音材を製造する方法において、前記音源の外表面と対向する前記ポリウレタンフォームの一側表面を形成する型面には、分岐鎖状炭化水素ワックスを含有する離型剤を塗布し、前記ポリウレタンフォームの他側表面を形成する型面には、少なくとも直鎖状炭化水素ワックスを含有する離型剤を塗布し、前記分岐鎖状炭化ワックスを含有する離型剤を塗布した型面で、クローズドセル状態のスキン層を前記ポリウレタンフォームの一側表面の全面に形成し、前記直鎖状炭化水素ワックスを含有する離型剤を塗布した型面で、少なくとも一部がオープンセル状態のスキン層を前記ポリウレタンフォームの前記他側表面に形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
ポリウレタンフォーム表面のスキン層は、コア部(内部)よりも密度が高くなった層状の部分である。
クローズドセル状態のスキン層は、貫通した気泡(セル)少ない状態からなるため、音を反射、あるいは音の入射を妨げる遮音効果を有し、一方、オープンセル状態のスキン層は、貫通した気泡(セル)が多い状態からなるため、クローズドセル状態のスキン層に比べて音が入射し易く、スキン層よりも内側のコア部と共に吸音効果を有する。
【0015】
請求項1から6の発明の吸遮音材は、音源の外表面と対向するポリウレタンフォームの一側表面がクローズドセル状態のスキン層からなるために遮音効果を有し、一方、ポリウレタンフォームの他側表面は、少なくとも一部がオープンセル状態のスキン層からなるために、音がコア部へ進入し易く、ポリウレタンフォームの内側のコア部と共に吸音効果を有する。
【0016】
請求項1から6の発明の吸遮音材によれば、音源の外表面と対向する一側表面に音源から直接的に入射する音に対して、音源の外表面と対向する一側表面のクローズドセル状態のスキン層でその一部を遮音することができる。また、クローズド状態のスキン層を通過してコア部に進入した音については、該コア部でその一部を吸音することができる。一方、音源からの音がクローズドセル状態のスキン層、コア部及びオープンセル状態のスキン層を透過し、周囲の壁面などで反射して、吸遮音材へ戻ってくる音については、吸遮音材において音源と対向する一側とは異なる他側表面の少なくとも一部に形成されているオープンセル状態のスキン層から、コア部内へ進入するため、再びコア部で吸音することができ、特に良好な遮音効果を得ることができる。
【0017】
請求項7の発明の吸遮音材の製造方法によれば、音源から直接的に入射する音、及び音源の周囲から入射する音の何れについても吸音性・遮音性が良好な吸遮音材を、容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】吸遮音材の製造方法の一例において離型剤を塗布する工程を示す断面図である。
【
図3】吸遮音材の製造方法の一例においてポリウレタンフォーム原料の注入工程を示す断面図である。
【
図4】吸遮音材の製造方法の一例において発泡工程を示す断面図である。
【
図5】実施例と比較例の配合及び測定結果を示す表である。
【
図6】従来のエンジンカバーの例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の吸遮音材の実施形態について図面を用いて説明する。
図1に示す吸遮音材10は、音源Sの外表面S1の一部または全部に配置されるポリウレタンフォーム11からなるものである。音源Sは、特に限定されるものではない。例えば音源Sが車両のエンジンの場合、吸遮音材10はエンジンカバーを構成する。
なお、吸遮音材10は、音源Sの外表面S1において、特に音が大きい部分を覆うように配置されるのが好ましく、さらに全面を覆うように配置することにより、吸音性・遮音性を一層高めることができる。
【0020】
吸遮音材10を構成するポリウレタンフォーム11は、モールド成形によって形成されるものであり、モールド成形によって形成されるスキン層12を表面に有する。スキン層12は、音源Sの外表面S1と対向する一側表面(すなわち音源側表面)が、クローズドセル状態のスキン層12Aからなり、他側表面(すなわち非音源側表面)の少なくとも一部がオープンセル状態のスキン層12Bからなる。
ここで、一側表面とは、吸遮音材10を構成するポリウレタンフォーム11の内、音源Sの外表面S1と対向する領域のことである。
【0021】
ポリウレタンフォームの表面のスキン層12(クローズドセル状態のスキン層12Aとオープンセル状態のスキン層12Bを含む)は、コア部(内部)11aよりも密度が高く形成された層状部分であり、モールド成形による発泡成形時に金型の型面と接触して形成される部分である。
【0022】
クローズドセル状態のスキン層12Aの平均厚みは、5μm以上であり、より好ましくは10μm以上である。クローズドセル状態のスキン層12Aの厚みを5μm以上とすることにより、より高い遮音効果が得られる。スキン層の厚みは、ポリウレタンフォームの発泡成形時における金型温度や金型への充填量(パック率)で制御することができる。金型温度が低温になる程、また金型へのパック率が大きくなる程、スキン層の厚みが大になる。
【0023】
ポリウレタンフォーム11の通気性(JIS K6400-7 B法:2012/ISO 7231:2010準拠)は、クローズドセル状態のスキン層12Aが3ml/cm2/s以下、より好ましくは1.5ml/cm2/s以下であり、オープンセル状態のスキン層12Bが3~50ml/cm2/sであり、コア部11aが3~50ml/cm2/sである。各部の通気性の大小の関係は、[コア部>オープンセル状態のスキン層≫クローズドセル状態のスキン層]である。
【0024】
クローズドセル状態のスキン層12Aの通気性は、音を極力遮断する(入射する音の反射量を大とする)ため、小さい方が好ましい
一方、オープンセル状態のスキン層12Bの通気性とコア部11aの通気性は、[オープンセル状態のスキン層の通気性/コア部の通気性]の値が0.3~1.0であるのが好ましく、より好ましくは0.4~1.0である。オープンセル状態のスキン層12Bの通気性を、コア部11aの通気性に対して一定以上確保し、音を入射し易くするのが好ましい。
【0025】
ポリウレタンフォーム11は、全体密度(JIS K7222:2005/ISO 845:1988に基づく)が70~250kg/m3が好ましく、80~200kg/m3がより好ましい。全体密度が、70kg/m3以下の場合、遮音性が低下するおそれがあり、250kg/m3以上の場合、軽量化の求められる自動車などの用途にあっては好ましくない。
【0026】
ポリウレタンフォーム11における各部の密度(JIS K7222:2005/ISO 845:1988に基づく)の関係は、[クローズドセル状態のスキン層>オープンセル状態のスキン層≧コア部]である。
また、オープンセル状態のスキン層12Bの密度とコア部11aの密度の関係は、[オープンセル状態のスキン層の密度/コア部の密度]の値が1.00~1.03であるのが好ましい。オープンセル状態のスキン層12Bの密度をコア部11aの密度に対して、密度の増加を3%以下として軽量性を確保するのが好ましい。
【0027】
ポリウレタンフォーム11の厚みは適宜決定されるが、例として2~100mm程度を挙げる。
【0028】
吸遮音材10は、音源Sの外表面S1と、該外表面S1に対向するポリウレタンフォーム11の一側表面のクローズドセル状態のスキン層12Aの少なくとも端部の外周縁121Aが密着し、該密着部分で包囲された密閉空間を、音源Sの外表面S1と、該外表面S1と対向するポリウレタンフォーム11の一側表面のクローズドセル状態のスキン層12Aとの間に形成する。これにより、音源Sから音源Sの外表面S1に対向するポリウレタンフォーム11の一側表面のクローズドセル状態のスキン層12Aに入射する音が、音源Sの外表面S1とポリウレタンフォーム11の一側表面のクローズドセル状態のスキン層12Aの端部との間から外部へ漏れるのを低減し、遮音性を高めることができる。
【0029】
吸遮音材10は、音源Sの外表面S1と、該外表面S1に対向するポリウレタンフォーム11の一側表面のクローズドセル状態のスキン層12Aの略全面を密着させて、音源Sの外表面S1と、該外表面S1に対向するポリウレタンフォーム11の一側表面のクローズドセル状態のスキン層12A間の空間(隙間)を小さくするように密閉空間を形成するのが好ましい。全面密着の場合、前記クローズドセル状態のスキン層12Aの端部の外周縁121Aのみが密着する場合に比べ、音源Sの音が外部へ漏れるのをさらに低減でき、遮音性を高めることができる。
ここで、全面を密着させるとは、音源Sの外表面S1と、該外表面S1に対向するポリウレタンフォーム11の一側表面のクローズドセル状態のスキン層12Aの形状が完全に一致し、隙間無く密着している状態だけでなく、該外表面S1とクローズドセル状態のスキン層12Aの形状が概ね一致しており、若干の隙間を有して密着している状態も含まれる。ただし、クローズドセル状態のスキン層12Aの端部の外周縁121Aは、音源Sの外表面S1と隙間無く密着している。
【0030】
また、吸遮音材10は、クローズドセル状態のスキン層12Aを透過してコア部11aに進入した音については、コア部11aで吸音することができる。一方、クローズドセル状態のスキン層12A、コア部11a及びオープンセル状態のスキン層12Bを透過し音源Sの周囲の壁面などで反射して、吸遮音材10の表面へ戻ってくる音については、吸遮音材10の表面におけるオープンセル状態のスキン層12Bからコア部11a内へ進入し、再びコア部11aで吸音することができる。
【0031】
吸遮音材10を構成するポリウレタンフォーム11の縁の側面11bの部分は、クローズドセル状態のスキン層12Aあるいはオープンセル状態のスキン層12Bのいずれでもよい。
【0032】
また、音源Sとは反対側のポリウレタンフォーム11の他側表面のオープンセル状態のスキン層12Bの一部やポリウレタンフォーム11の縁の側面11bの少なくとも一部について、切断や研磨等によってスキン層12を除去してコア部11aを露出させれば、音源Sの周囲の壁面などで反射し戻ってくる音がコア部11a内へ入射し易くなり、吸音性を向上させることができる。
【0033】
前記吸遮音材10の製造方法は、金型にポリウレタンフォーム原料を注入して発泡させる公知のモールド成形方法を利用して行われる。
図2~
図4を用いて前記吸遮音材10の製造方法について説明する。
【0034】
図2~
図4に示す金型60は、下型61と上型65とからなる。下型61の型面62は、本実施形態では、前記吸遮音材10を構成するポリウレタンフォーム11において音源の外周面と対向しない他側表面(非音源側表面)を形成する型面である。一方、上型65の型面66は、前記吸遮音材10を構成するポリウレタンフォーム11において音源Sの外表面S1と対向する一側表面(音源側表面)を形成する型面である。金型60は、公知の加熱方法で40~80℃に加熱される、成形性を考慮すると50~80℃とすることがより好ましい。加熱方法は、金型60を加熱炉に収容して行う方法や下型61及び上型65の外面や内部に加熱媒体が循環する配管を設けて行う方法などがあり、限定されない。
【0035】
図2に示すように、ポリウレタンフォームの非音源側の表面を形成する下型61の型面62に、直鎖状炭化水素ワックスを含有する離型剤W1を塗布し、一方、ポリウレタンフォームの音源側の表面を形成する上型65の型面66に、分岐鎖状炭化水素ワックスを含有する離型剤W2を塗布する。
直鎖状炭化水素ワックスとしては、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、サゾールワックス等が挙げられ、有機溶剤に分散させた溶剤系離型剤、乳化剤を用いて水に分散させた水系離型剤等が使用できる。
分岐鎖状炭化水素ワックスとしては、マイクロクリスタリンワックス、変性ポリエチレンワックス等が挙げられ、溶剤系離型剤や水系離型剤等が使用できる。
【0036】
直鎖状炭化水素ワックスは、主に直鎖状の炭化水素からなる主鎖から構成されるため、分岐鎖状炭化水素ワックスに比べ、末端メチル基の比率が低く、極性が強くなる傾向となる。一方、分岐鎖状炭化水素ワックスは、主に分岐鎖状の炭化水素から構成されるため、末端メチル基の比率が高く、極性が弱くなる傾向となる。
このため、ポリウレタンフォーム原料と直鎖状炭化水素ワックスとの極性の差(溶解性)は、ポリウレタンフォーム原料と分岐鎖状炭化水素ワックスとの極性の差(溶解性)よりも相対的に小さく、直鎖状炭化水素ワックスを含有する離型剤W1を用いた場合、分岐鎖状炭化水素ワックスを含有する離型剤W2を用いる場合と比べてポリウレタンフォーム表面にスキン層が形成され難く、形成されるスキン層は薄くオープンセル状態となり易い。一方、分岐鎖状炭化水素ワックスを含有する離型剤W2を用いた場合、ポリウレタンフォーム表面にスキン層が形成され易く、形成されるスキン層は厚くクローズドセル状態となり易い。
なお、離型剤の塗布は、スプレー又は刷毛等、公知の方法で行い、離型剤の塗布量は、10~300g/m2である。
【0037】
下型61の型面62と上型65の型面66に前記離型剤を塗布した後、
図3に示すように金型60内にポリウレタンフォーム原料Fを注入する。
ポリウレタンフォーム原料Fはポリオール、イソシアネート、発泡剤、触媒、適宜の添加剤を含む。
【0038】
ポリオールは、ポリウレタンフォームの製造に用いられる公知のエーテル系ポリオール、エステル系ポリオール、エーテルエステル系ポリオール、ポリマーポリオール等を単独であるいは複数組み合わせて使用することができる。
【0039】
エーテル系ポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、シュークロース等の多価アルコール、またはその多価アルコールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加したポリエーテルポリオールを挙げることができる。また、エステル系ポリオールとしては、マロン酸、コハク酸、アジピン酸等の脂肪族カルボン酸やフタル酸等の芳香族カルボン酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等の脂肪族グリコール等とから重縮合して得られたポリエステルポリオールを挙げることできる。さらにポリオール中にエーテル基とエステル基の両方を含むエーテルエステル系ポリオールやエーテル系ポリオール中でエチレン性不飽和化合物等を重合させて得られるポリマーポリオールを使用することもできる。
【0040】
イソシアネートとしては、芳香族系、脂環式、脂肪族系の何れでもよく、また、1分子中に2個のイソシアネート基を有する2官能のイソシアネートであっても、あるいは1分子中に3個以上のイソシアネート基を有する3官能以上のイソシアネートであってもよく、それらを単独であるいは複数組み合わせて使用してもよい。
【0041】
例えば、2官能のイソシアネートとしては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネートなどの芳香族系のもの、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環式のもの、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、リジンイソシアネートなどの脂肪族系のものを挙げることができる。
【0042】
また、3官能以上のイソシアネートとしては、1-メチルベンゾール-2,4,6-トリイソシアネート、1,3,5-トリメチルベンゾール-2,4,6-トリイソシアネート、ビフェニル-2,4,4’-トリイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4,4’-トリイソシアネート、メチルジフェニルメタン-4,6,4’-トリイソシアネート、4,4’-ジメチルジフェニルメタン-2,2’,5,5’テトライソシアネート、トリフェニルメタン-4,4’,4”-トリイソシアネート、ポリメリックMDI等を挙げることができる。なお、その他ウレタンプレポリマーも使用することができる。また、イソシアネートは、それぞれ一種類に限られず一種類以上であってもよい。例えば、脂肪族系イソシアネートの一種類と芳香族系イソシアネートの二種類を併用してもよい。イソシアネートインデックスは、90~115が好ましく、95~110がより好ましい。イソシアネートインデックスは、ポリウレタンの分野で使用される指数であって、原料中の活性水素基(例えばポリオール類の水酸基及び発泡剤としての水等の活性水素基等に含まれる活性水素基)に対するイソシアネートのイソシアネート基の当量比を百分率で表した数値である。
【0043】
発泡剤は、特に限定されないが、水が好適である。また、二酸化炭素ガスやペンタン、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)等を発泡助剤として、発泡剤である水と併用してもよい。なお、HFOは、オゾン層破壊係数(ODP)が0であり、地球温暖化係数(GWP)が小さい、化合物である。発泡剤としての水の量は、ポリオール100重量部に対して0.3~3重量部が好適である。
【0044】
触媒は、ポリウレタンフォーム用として公知のものを用いることができる。例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ジエタノールアミン、ビス(2-ジメチルアミノ-エチル)エーテル、テトラメチルグアニジン、イミダゾール系化合物等のアミン触媒や、スタナスオクトエート等の錫触媒やフェニル水銀プロピオン酸塩あるいはオクテン酸鉛等の金属触媒(有機金属触媒とも称される。)を挙げることができる。触媒の一般的な量は、ポリオール100重量部に対して0.2~6重量部が好適である。
【0045】
適宜配合される添加剤としては、整泡剤、着色剤、架橋剤、充填材(フィラー)、難燃剤、酸化防止剤等の合成樹脂安定剤などを挙げることができる。整泡剤は、ポリウレタンフォームに用いられるものであればよく、シリコーン系整泡剤、含フッ素化合物系整泡剤及び公知の界面活性剤を挙げることができる。着色剤は、顔料や染料等、求められる色に応じたものが用いられる。
【0046】
ポリウレタンフォーム原料Fを金型60に注入後、
図4に示すように閉型し、ポリウレタンフォーム原料Fの発泡反応が行われる。なお、図示の例では、金型60を開いた状態で注入する例を示したが、上型65に注入口(図示せず)を設け、金型60を閉じた状態で注入口からポリウレタンフォーム原料Fを金型60内に注入してもよい。
【0047】
ポリウレタンフォーム原料Fの発泡反応によって金型60内に、前記ポリウレタンフォーム11からなる吸遮音材10が形成される。ポリウレタンフォーム11は、下型61の型面62及び上型65の型面66によって表面にスキン層12が形成される。また、前記スキン層12のうち、発泡成形時に上型65の型面66で形成される表面のスキン層12A、すなわち音源Sの外表面S1と対向する一側の表面に形成されるスキン層12Aは、上型65の型面66に塗布されている分岐鎖状炭化水素ワックスを含有する離型剤W2によって、クローズドセル状態のスキン層12Aとなる。一方、発泡成形時に下型61の型面62で形成される表面のスキン層12B、すなわち音源とは反対側の表面に形成されるスキン層12Bは、下型61の型面62に塗布されている直鎖状炭化水素ワックスを含有する離型剤W1によって、オープンセル状態のスキン層12Bとなる。
【0048】
その後、金型60を開け、前記ポリウレタンフォーム11からなる吸遮音材10が取り出される。前記金型60から取り出された吸遮音材10は、
図1に示したように、音源Sの外表面S1と対向する面とされるポリウレタンフォーム11の一側の表面に、クローズドセル状態のスキン層12Aを有し、反対側の表面にはオープンセル状態のスキン層12Bを有する。
【0049】
また、金型60から吸遮音材10を取り出した後、音源Sとは反対側となるポリウレタンフォーム11の他側表面のオープンセル状態のスキン層12Bの一部やポリウレタンフォーム11の縁の側面11bの少なくとも一部について、切断や研磨等によってスキン層12を除去してコア部11aを露出させてもよい。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。
図5の配合からなるポリウレタンフォーム原料を用いて、モールド成形方法により500mm角×厚み30mmと、500mm角×厚み10mmのポリウレタンフォームからなる吸遮音材のテストピースを作製した。なお、各実施例及び各比較例の配合は、同一とした。また、
図5の配合における各成分の数値は重量部を示す。使用した金型は、金型を開けて注入するタイプであり、温度調節は温水により行った。
【0051】
・ポリオール:ポリエーテルポリオール、官能基数3、重量平均分子量5000、水酸基価35mgKOH/g
・発泡剤:水
・アミン触媒1:エアープロダクツジャパン社製、「DABCO33LSI」 ・アミン触媒2:エアープロダクツジャパン社製、「DABCOBL-19」
・整泡剤:東レ・ダウコーニング社製、「SZ-1346E」、シリコーン整泡剤
・イソシアネート:ポリメリックMDI、イソシアネート基含有率(NCO%)31.5%
・離型剤W1:コニシ社製、「URM-520」、直鎖状炭化水素ワックス
・離型剤W2:中京油脂社製、「N-915」、分岐鎖状炭化水素ワックス
【0052】
得られた各実施例及び各比較例について、スキン層の表面状態を判断し、吸音率、音響透過損失、通気性、密度について測定した。
【0053】
表面状態は、音源側表面(音源側の表面形成用型面で形成された表面)と、非音源側表面(非音源側の表面形成用型面で形成された表面)について、スキン層がクローズドセル状態かオープンセル状態かを目視にて判断し、また、平均厚みを測定した。スキン層の平均厚みは、走査電子顕微鏡(日本電子社製:JSM-IT100)を用いて行った。具体的には、所定形状にカットしたスキン層を有するポリウレタンフォームに、プラチナ蒸着装置(日本電子社製:JEC-3000FC)によりプラチナを蒸着させて走査電子顕微鏡による観察をし易くした後、スキン層付近を300倍に拡大して写真を撮影し、スキン層の表面(最外面)とセルの最上部との距離を測定した。スキン層の厚みは、撮影した写真における1~3番目に厚い箇所と、1~3番目に薄い箇所との6点を測定し、その平均値をスキン層の平均厚みとした。
【0054】
吸音率は、500mm角×厚み10mmのテストピースから29φ×厚み10mmに打ち抜いてサンプル(上下面にスキン層付き)を作製し、JIS A1405-2:2007/ISO 10534-2:1998に準拠して非音源側から音を入射し、非音源側で測定した。
【0055】
音響透過損失は、500mm角×厚み10mmのテストピースから29φ×厚み10mmに打ち抜いてサンプル(上下面にスキン層付き)を作製し、ASTM E2611-09(2009)に準拠して音源側から音を入射し、非音源側で測定した。
【0056】
通気性は、500mm角×厚み30mmのテストピースを、厚みが3分割となるように、200mm角×10mmにスライスし、音源側(スキン層付)、非音源側(スキン層付)、コア部(スキン層無)のサンプルを作製し、JIS K6400-7 B法:2012/ISO 7231:2010に基づいて測定した。
【0057】
密度は、500mm角×厚み30mmのテストピースを、厚みが3分割となるように400mm角×10mmにスライスし、音源側(スキン層付)、非音源側(スキン層付)、コア部(スキン層無)のサンプルを作製し、JIS K7222:2005/ISO 845:1988に基づいて測定した。また、400mm角×厚み30mmのテストピース(上下面にスキン層付)に対して全体密度を、JIS K7222:2005/ISO 845:1988に基づいて測定した。
【0058】
実施例1~3は、非音源側の表面形成用型面(下型61の型面62)に離型剤W1(直鎖状)を塗布し、音源側の表面形成用型面(上型65の型面66)に離型剤W2(分岐鎖状)を塗布し、パック率を一定(100%)にし、金型温度を変化させることにより、ポリウレタンフォームのスキン層の厚みを変化させた例である。
【0059】
実施例1は、金型温度70℃の例であり、表面状態は音源側がクローズドセル状態のスキン層、平均厚み12μm、非音源側がオープンセル状態のスキン層、平均厚み測定不可であり、吸音率は56%、音響透過損失は23.4dB、通気性は音源側スキン層が1.2ml/cm2/s、コア部が26.3ml/cm2/s、非音源側スキン層が15.3ml/cm2/s、[非音源側スキン層/コア部通]の比率が0.58であり、密度は、音源側スキン層が131kg/m3、コア部が130kg/m3、非音源側スキン層が130kg/m3、[非音源側スキン層/コア部通]の比率が1.00、全体密度が130kg/m3であった。実施例1は、吸音率及び音響透過損失が大であり、吸音性・遮音性が高い。
【0060】
実施例2は、金型温度60℃の例であり、表面状態は音源側がクローズドセル状態のスキン層、平均厚み14μm、非音源側がオープンセル状態のスキン層、平均厚み測定不可、吸音率は55%、音響透過損失は24.8dB、通気性は音源側スキン層が0.8ml/cm2/s、コア部が24.1ml/cm2/s、非音源側スキン層が14.6ml/cm2/s、[非音源側スキン層/コア部通]の比率が0.61であり、密度は、音源側スキン層が131kg/m3、コア部が130kg/m3、非音源側スキン層が130kg/m3、[非音源側スキン層/コア部通]の比率が1.00、全体密度が130kg/m3であった。実施例2は、実施例1よりも金型温度が低いため、音源側のクローズドセル状態のスキン層の平均厚みが大になり、吸音率については僅かに低下したが、音響透過損失は大になった。
【0061】
実施例3は、金型温度45℃の例であり、表面状態は音源側がクローズドセル状態のスキン層、平均厚み18μm、非音源側がオープンセル状態のスキン層、平均厚み測定不可、吸音率は51%、音響透過損失は27.9dB、通気性は音源側スキン層が0.5ml/cm2/s、コア部が20.9ml/cm2/s、非音源側スキン層が8.7ml/cm2/s、[非音源側スキン層/コア部通]の比率が0.42であり、密度は、音源側スキン層が132kg/m3、コア部が130kg/m3、非音源側スキン層が130kg/m3、[非音源側スキン層/コア部通]の比率が1.00、全体密度が131kg/m3であった。実施例3は、実施例2よりも金型温度が低いため、音源側のクローズドセル状態のスキン層の平均厚みが大になり、吸音率については僅かに低下したが、音響透過損失は大になった。
【0062】
実施例4~6は、音源側の表面形成用型面(下型61の型面62)に離型剤W1(直鎖状)を塗布し、非音源側表面形成用型面(上型65の型面66)に離型剤W2(分岐鎖状)を塗布し、金型温度を一定(60℃)にし、パック率を変化させることにより、ポリウレタンフォームの密度を変化させた例である。
【0063】
実施例4は、パック率62%の例であり、表面状態は音源側がクローズドセル状態のスキン層、平均厚み7μm、非音源側がオープンセル状態のスキン層、平均厚み測定不可であり、吸音率は58%、音響透過損失は21.0dB、通気性は音源側スキン層が2.9ml/cm2/s、コア部が30.3ml/cm2/s、非音源側スキン層が28.5ml/cm2/s、[非音源側スキン層/コア部通]の比率が0.94であり、密度は、音源側スキン層が81kg/m3、コア部が80kg/m3、非音源側スキン層が80kg/m3、[非音源側スキン層/コア部通]の比率が1.00、全体密度が80kg/m3であった。実施例4は、実施例2に比べてパック率を小にしたことにより密度が小になり、音源側のクローズドセル状態のスキン層の平均厚みが小になり、その結果、吸音率は大になったが、音響透過損失は僅かに低下した。
【0064】
実施例5は、パック率115%の例であり、表面状態は音源側がクローズドセル状態のスキン層、平均厚み17μm、非音源側がオープンセル状態のスキン層、平均厚み測定不可であり、吸音率は53%、音響透過損失は25.9dB、通気性は音源側スキン層が0.6ml/cm2/s、コア部が21.7ml/cm2/s、非音源側スキン層が11.5ml/cm2/s、[非音源側スキン層/コア部通]の比率が0.53であり、密度は、音源側スキン層が152kg/m3、コア部が150kg/m3、非音源側スキン層が150kg/m3、[非音源側スキン層/コア部通]の比率が1.00、全体密度が151kg/m3であった。実施例5は、実施例2に比べてパック率を大にしたことにより密度が大になり、音源側のクローズドセル状態のスキン層の平均厚みが大になり、その結果、吸音率は僅かに低下したが、音響透過損失は大になった。
【0065】
実施例6は、パック率154%の例であり、表面状態は音源側がクローズドセル状態のスキン層、平均厚み22μm、非音源側がオープンセル状態のスキン層、平均厚み測定不可であり、吸音率は48%、音響透過損失は29.5dB、通気性は音源側スキン層が0.2ml/cm2/s、コア部が8.1ml/cm2/s、非音源側スキン層が3.1ml/cm2/s、[非音源側スキン層/コア部通]の比率が0.38であり、密度は、音源側スキン層が202kg/m3、コア部が200kg/m3、非音源側スキン層が200kg/m3、[非音源側スキン層/コア部通]の比率が1.00、全体密度が201kg/m3であった。実施例6は、実施例2に比べてパック率を更に大にしたことにより密度が大になり、音源側のクローズドセル状態のスキン層の平均厚みが大になり、その結果、吸音率は僅かに低下したが、音響透過損失は大になった。
【0066】
実施例1~6は、下型61の型面62の全面に離型剤W1(直鎖状)を使用し、上型65の型面66の全面に離型剤W2(分岐鎖状)を使用して吸遮音材10を作製したが、下型61の型面62の全面に離型剤W2を使用し、上型65の型面66の全面に離型剤W1を使用してもよい。この場合であっても、離型剤W2を使用することにより形成されるクローズドセル状態のスキン層12A(ポリウレタンフォーム11の一側表面)が、音源Sの外表面S1と密着するように配置させて吸遮音材10を使用することで、好適な吸音・遮音効果が得られる。
【0067】
また、上型65の型面66の全面に離型剤W2を使用し、下型61の型面62の全面に離型剤W1と離型剤W2とを併用して吸遮音材10を作製してもよい。何れの場合であっても、離型剤W2を使用することにより形成されるクローズドセル状態のスキン層12Aを音源の外表面S1と密着させ、離型剤W1を使用することにより形成されるオープンセル状態のスキン層12B(ポリウレタンフォーム11の他側表面)が、音源と反対側を向くように吸遮音材10を使用することで、好適な吸音・遮音効果が得られる。
【0068】
比較例1は、非音源側の表面形成用型面及び音源側の表面形成用型面の両方共に離型剤W2(分岐鎖状)を塗布し、他の要件を実施例2と同様にした例である。比較例1は、表面状態は音源側がクローズドセル状態のスキン層、平均厚み15μm、非音源側がクローズドセル状態のスキン層、平均厚み14μmであり、吸音率は16%、音響透過損失は25.2dB、通気性は音源側スキン層が0.7ml/cm2/s、コア部が21.4ml/cm2/s、非音源側スキン層が0.8ml/cm2/s、[非音源側スキン層/コア部通]の比率が0.04であり、密度は、音源側スキン層が131kg/m3、コア部が130kg/m3、非音源側スキン層が131kg/m3、[非音源側スキン層/コア部通]の比率が1.01、全体密度が131kg/m3であった。比較例1は、音源側及び非音源側の両方共クローズドセル状態のスキン層となったため、吸音率が極端に低くなった。
【0069】
比較例2は、非音源側の表面形成用型面及び音源側の表面形成用型面の両方共に離型剤W1(直鎖状)を塗布し、他の要件を実施例2と同様にした例である。比較例2は、表面状態は音源側がオープンセル状態のスキン層、平均厚み測定不可、非音源側がオープンセル状態のスキン層、平均厚み測定不可であり、吸音率は57%、音響透過損失は13.2dB、通気性は音源側スキン層が14.4ml/cm2/s、コア部が23.6ml/cm2/s、非音源側スキン層が15.2ml/cm2/s、[非音源側スキン層/コア部通]の比率が0.64であり、密度は、音源側スキン層が130kg/m3、コア部が130kg/m3、非音源側スキン層が130kg/m3、[非音源側スキン層/コア部通]の比率が1.00、全体密度が130kg/m3であった。比較例2は、音源側及び非音源側の両方共オープンセル状態のスキン層となったため、音響透過損失が極端に低くなった。
【0070】
比較例3は、非音源側の表面形成用型面に離型剤W2(分岐鎖状)を塗布し、音源側の表面形成用型面に離型剤W1(直鎖状)を塗布し、他の要件を実施例2と同様にした例である。比較例3は、表面状態は音源側がオープンセル状態のスキン層、平均厚み測定不可、非音源側がクローズドセル状態のスキン層、平均厚み14μmであり、吸音率は17%、音響透過損失は24.7dB、通気性は音源側スキン層が15.1ml/cm2/s、コア部が22.3ml/cm2/s、非音源側スキン層が0.7ml/cm2/s、[非音源側スキン層/コア部通]の比率が0.03であり、密度は、音源側スキン層が130kg/m3、コア部が130kg/m3、非音源側スキン層が131kg/m3、[非音源側スキン層/コア部通]の比率が1.01、全体密度が130kg/m3であった。比較例3は、実施例2と反対に音源側がオープンセル状態のスキン層、非音源側がクローズドセル状態のスキン層となったため、吸音率が極端に低くなった。
【0071】
比較例4は、ポリプロピレン樹脂板(厚み1mm)を単独で使用した例である。比較例4は、吸音率は3%、音響透過損失は19.8dB、通気性は0ml/cm2/s、全体密度が900kg/m3であった。比較例4は、実施例1~6に比べ、吸音率が極端に悪かった。
【0072】
比較例5は、雑フェルト(目付1000g/m2、厚み約15mm)を単独で使用した例である。比較例5は、吸音率は44%、音響透過損失は6.8dB、通気性は39.5ml/cm2/s、全体密度が70kg/m3であった。比較例5は、実施例1~6に比べ、音響透過損失が極端に悪かった。
【0073】
比較例1~5を単独で使用した場合、実施例1~6に比べて音響透過損失又は吸音率が極端に劣っており、音響透過損失及び吸音率を両立させるためには、別素材と組合せて使用する必要があった。一方、実施例1~6は単独で使用しても、音響透過損失及び吸音率に優れていた。実施例1~6の音響透過損失は、比較例4のポリプロピレン樹脂板の19.8dBに比べて何れも優れており、実施例1~6の吸音率は、比較例5の雑フェルトの44%に比べて何れも優れていた。
本発明の吸遮音材は、1600Hzでの音響透過損失(ASTM E2611-09(2009)準拠)が20dB以上であり、1600Hzでの垂直入射吸音率(JIS A1405-2:2007/ISO 10534-2:1998準拠)が45%以上であり、良好な吸音性・遮音性を有している。また、本発明の吸遮音材の製造方法は、モールド成形のみからなるため、製造が容易である。
【0074】
このように、本発明の吸遮音材は、音源側からの音及び音源側とは反対側からの音の何れについても良好な吸音・遮音効果(特に、吸音効果)を発揮することができ、エンジンカバーなどに好適である。
【符号の説明】
【0075】
10:吸遮音材
11:ポリウレタンフォーム
11a:コア部
12:スキン層
12A:クローズドセル状態のスキン層
12B:オープンセル状態のスキン層
60:金型
61:下型
62:下型の型面
65:上型
66:上型の型面
S:音源
W1:直鎖状炭化水素ワックスを含有する離型剤
W2:分岐鎖状炭化水素ワックスを含有する離型剤