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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/511 20060101AFI20221104BHJP
   A61F 13/15 20060101ALI20221104BHJP
   A61F 13/53 20060101ALI20221104BHJP
   A61F 13/534 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
A61F13/511 200
A61F13/15 145
A61F13/511 400
A61F13/53 100
A61F13/511 300
A61F13/53 300
A61F13/534 100
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018161633
(22)【出願日】2018-08-30
(65)【公開番号】P2020031922
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松岡 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】山下 有一
【審査官】須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-516778(JP,A)
【文献】特開2004-166832(JP,A)
【文献】特開2014-079284(JP,A)
【文献】特開2017-217325(JP,A)
【文献】特開2018-015078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/15-13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肌側に設けたトップシートと
前記トップシートの裏側に設けた吸収体と、
前記トップシートと前記吸収体の間に設けた、前記吸収体からの排泄液の逆戻りを防止する中間シートと、を有する吸収性物品であって、
前記トップシートは複数の層で構成され、
前記複数の層のうち、肌側に位置する層は酸を含んでおらず、裏側に位置する層は酸を含んでいることを特徴とする吸収性物品。
【請求項2】
前記トップシートの複数の層のうち、肌側に位置する層には親水剤が含まれておらず、裏側に位置する層には親水剤が含まれている請求項1記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記トップシートの裏側に位置する層に前記親水剤とともに含まれる酸は乳酸である請求項2記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記トップシートは不織布であり、
前記トップシートの裏側に位置する層において、前記不織布の原料繊維には水溶性の前記酸および親水剤が塗り込まれている請求項2記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記トップシートの前記複数の層のうち、肌側に位置する酸を含まない層の繊維径が、裏側に位置する酸を含む層の繊維径よりも小さい請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記トップシートの前記複数の層のうち、肌側に位置する酸および親水剤を含まない層の繊維径が、裏側に位置する酸および親水剤を含む層の繊維径よりも小さい請求項5に記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トップシートが複数の層で構成され、前記複数の層のうち、肌側に位置する層は酸を含んでおらず、裏側に位置する層は酸を含んでいる吸収性物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
吸収性物品の着用者が排泄した便や尿は、吸収性物品によって吸収される。便や尿を吸収した部位のpHは、排泄後の経過時間に応じて変化する。例えば尿を排泄した場合、排泄直後の吸収部位のpHは約6.5であることが多い。時間の経過に伴い、尿中の尿素が加水分解酵素(例えばウレアーゼ)によって分解され、アンモニアが生成される。その結果、吸収部位のpHがアルカリ側に傾き、pH11程度になることもある。
【0003】
着用者の肌とアルカリ性の吸収部位との長時間の接触は、肌に負担がかかる。特に、生まれて間もない子供(低月齢時の子供)は皮膚層が薄いため、大人と比較して、肌に負担がかかりやすい。
【0004】
吸収性物品の肌側のシートに酸性の成分を配合し、排尿後に生じたアンモニアによって、排泄物がアルカリ側に傾くことを防ぐ先行技術が存在する(下記特許文献1ないし3)。
【0005】
特許文献1の吸収性物品は、表面シートに凸部を設け、その凸部の頂部及び側壁部に弱酸性化剤を含ませ、側壁部の繊維密度を頂部の繊維密度よりも小さくしている。この吸収性物品によれば、頂部及び側壁部に含まれていた弱酸性化剤が排泄液中に溶出した場合でも、一定量の排出液が繊維密度の小さい側壁部に残留液として残留するため、凸部のpHを弱酸性に維持することができる、としている。
【0006】
特許文献2の吸収性物品は、紙を主材料とするシート基材にフマル酸を含有したフマル酸含有シートを備えたものであり、前記フマル酸含有シートにおけるフマル酸含有率は0.00015質量%~1.5質量%である。この吸収性物品によれば、着用者の皮膚かぶれを予防するとともに、排泄後の雑菌の繁殖ひいては悪臭の発生を抑制する結果、抗菌および消臭効果を長時間維持することができる、としている。
【0007】
特許文献3の吸収性物品は、吸収体の原料として弱酸性パルプを配合し、抗菌性の高吸収性ポリマーを吸収体に混合し、吸収体に粒状体からなるクエン酸を散布し、吸収体の上方にリンゴ酸を含侵させた透液性シートを配置したものである。この吸収性物品によれば、弱酸性パルプ」、「抗菌性高吸収性ポリマー」、「クエン酸」、「リンゴ酸」の相乗効果により、単独または部分的な組み合わせでは得られない長時間装用時における消臭効果を飛躍的に高めることができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第6033981号公報
【文献】特開2017-184962号公報
【文献】特開2014-079284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
吸収性物品の肌側のシートに酸性の成分を配合すると、下記(A)~(C)の問題が生じる。
(A)排泄によって、シートに配合した酸性の成分が流れ落ちると、排泄を繰り返した場合に、酸性成分によるアルカリ化抑止効果を期待できない。
(B)吸収性物品の着用者が排泄していない状態では、酸性の成分(例えばpH3程度)を含むシートが着用者の肌に触れ続けることになり、肌に負担がかかる。
(C)吸収性物品のうち、体圧がかかる部位では、排泄物とともに、まだ反応していない酸性成分が逆戻りして、着用者の肌に触れてしまうおそれがある。
【0010】
さらに前記特許文献1~3には、以下のような問題がある。
特許文献1記載の吸収性物品は、表面シートに凸部を設ける必要があり、弱酸性化剤の配合部位も限定されるため、吸収性物品の構造が限定されるとともに、製造方法を簡略化しづらいという問題がある。
【0011】
特許文献2記載の吸収性物品は、フマル酸を含侵させたシートを用いているが、フマル酸は水に溶解しにくいため、フマル酸を親水剤とともに繊維に塗り込むことが困難であり、製造しづらいという問題がある。
【0012】
特許文献3記載の吸収性物品は、リンゴ酸を含侵させたトップシートを使用しているが、リンゴ酸は皮膚への刺激性が比較的強い傾向があるという問題がある。
【0013】
そこで、本発明の課題は、着用者の肌への負担を軽減することができる吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決したテープタイプ使い捨ておむつの各種態様は以下のとおりである。
<第1の態様>
肌側に設けたトップシートと、前記トップシートの裏側に設けた吸収体を有する吸収性物品であって、
前記トップシートは複数の層で構成され、
前記複数の層のうち、肌側に位置する層は酸を含んでおらず、裏側に位置する層は酸を含んでいることを特徴とする吸収性物品。
【0015】
(作用効果)
第1の態様においては、トップシートに酸が含まれている。このトップシートは、中間シートや包装シートと異なり、着用者の肌に直接触れるという特殊性がある。そのため、トップシートに付着した排泄物がアルカリ側へ傾くことを防止することが特に重要となる。そこで、トップシートに酸を含ませることにより、アルカリ側への傾きを防ぐことができ、着用者の肌への負担を軽減することができる。例えば、着用者が排尿した場合、ウレアーゼによって、尿中に含まれる尿素がアンモニアに分解されるが、トップシートの酸によって、このアンモニアを中和することができる。
【0016】
なお、このトップシートは、着用者の肌に触れるものであるため、トップシートに含まれる酸が着用者の肌に負担をかけてしまうおそれがある。そこで、トップシートを複数の層で構成し、肌側に位置する層に酸を含ませないことにより、酸によって着用者の肌へ負担がかかることを防いでいる。
【0017】
<第2の態様>
前記トップシートに含まれる酸は、水溶性の酸であり、
前記トップシートは、前記水溶性の酸とともに親水剤を含む前記第1の態様に記載の吸収性物品。
【0018】
(作用効果)
トップシートに含まれる酸は、水溶性の酸が好ましい。難溶性の酸は、親水剤との親和性が低く、トップシートを構成する繊維に付着しづらいからである。
【0019】
本態様の吸収性物品の着用者が排泄すると、排泄物がトップシートに含まれる水溶性の酸と接触し、排泄物のアルカリ側への傾きを抑止する。
【0020】
また、トップシートに含まれる親水剤の作用により、トップシートから水溶性の酸が流れ落ちにくくなる。すなわち、水溶性の酸が親水剤と化学結合された状態で、トップシートを構成する繊維間に保持された構造になるため、繰り返し排尿したときであっても、親水剤の作用によって、水溶性の酸が流れ落ちにくくなる。このようなトップシートは、例えば、トップシートを構成する繊維に水溶性の酸と親水剤を塗りこむことにより、製造することができる。
【0021】
本実施態様によれば、着用者が排泄を複数回行ったとしても、トップシートに水溶性の酸が保持されている状態が保たれるため、トップシートの内部に残った排泄物のアルカリ側への傾きを継続的に抑止することができる。なお、親水剤は、排泄によって、トップシートから水溶性の酸が流れ落ちることを防止するものであるため、水溶性の酸と親水剤は、平面視におけるトップシートの同じ位置に設けることが好ましい。
【0022】
また、トップシートが疎水性の繊維からなる場合、その繊維の撥水効果によって、トップシートの肌面上に排泄物が滞留し、排泄物が吸収体まで辿り着きにくいという問題がある。本態様のように、トップシートに親水剤を含ませることにより、このような排泄物の滞留が防止され、排泄物を速やかに吸収体まで辿り着かせることができる。
【0023】
<第3の態様>
前記親水剤は、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリエーテル-ポリエステルブロック共重合体、ポリエーテル変性シリコーンもしくはエチレンオキサイド付加多価アルコールの脂肪酸エステルまたはこれらの組み合わせを含む前記第2の態様に記載の吸収性物品。
【0024】
(作用効果)
トップシートに含ませる親水剤は、水溶性の酸が流れ落ちることを防止する効果が高いものが好ましい。このような効果が高い親水剤として、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリエーテル-ポリエステルブロック共重合体、ポリエーテル変性シリコーンおよびエチレンオキサイド付加多価アルコールの脂肪酸エステルを単体で用いても良いし、これらを組み合わせて用いても良い。また、これらのいずれかの物質と公知の他の物質を組み合わせたものを用いても良い。
【0025】
<第4の態様>
前記水溶性の酸と前記親水剤を含む前記トップシートは、
人工尿の滴下試験において、第1回目の計測結果が10点、第2回目の計測結果が10点、かつ第3回目の計測結果が9点以上である前記第2の態様または第3の態様に記載の吸収性物品。
【0026】
(作用効果)
トップシートが複数の層で構成されており、その複数の層のうち、肌側に位置する層は水溶性の酸を含んでおらず、裏側に位置する層は水溶性の酸を含んでいるトップシートを用意し、このトップシートに対して人工尿の滴下試験を行い、第1回目の計測結果が10点、第2回目の計測結果が10点、かつ第3回目の計測結果が9点以上となるトップシートを吸収性物品に用いると良い。なぜならば、着用者が複数回排泄した場合であっても、このトップシートから水溶性の酸と親水剤が流れ落ちにくいため、長期にわたって着用者の肌への負担を軽減することができるからである。なお、人工尿の滴下試験に用いるトップシートの層の数や層の厚み、トップシートの繊維の素材、製造方法などの条件は、実際に吸収性物品に搭載するトップシートとすべて同一のものにする。
【0027】
人工尿の滴下試験は、下記(1)~(4)の手順に従って行う。
<人工尿の滴下試験>
(1)ろ紙を10枚重ねた上に前記トップシートを置き、前記トップシートの上に10個の穴が開いた金属製の治具を置く。
(2)前記金属製の治具の10個の穴に、マイクロピペットを用いて、それぞれ1mLずつ人工尿を滴下し、滴下した後、2秒以内に、前記トップシートが前記人工尿を吸収したか否かを確認し、吸収された穴を1点、吸収されていない穴を0点とカウントし、10個の穴の合計点数を第1回目の計測結果として記録する。
(3)前記(2)で人工尿を滴下してから3分間経過後、前記金属製の治具の10個の穴に、マイクロピペットを用いて、それぞれ1mLずつ人工尿を滴下し、滴下した後、2秒以内に、前記トップシートが前記人工尿を吸収したか否かを確認し、吸収された穴を1点、吸収されていない穴を0点とカウントし、10個の穴の合計点数を第2回目の計測結果として記録する。
(4)前記(3)で人工尿を滴下してから6分間経過後、前記金属製の治具の10個の穴に、ガラスピペットを用いて、それぞれ500μLずつ人工尿を滴下し、滴下した後、2秒以内に、前記トップシートが前記人工尿を吸収したか否かを確認し、吸収された穴を1点、吸収されていない穴を0点とカウントし、10個の穴の合計点数を第3回目の計測結果として記録する。
【0028】
前記人工尿の滴下試験に用いる人工尿は、尿素を2wt%、塩化ナトリウムを0.8wt%、塩化カルシウム二水和物を0.03wt%、硫酸マグネシウム七水和物を0.08wt%、イオン交換水を97.09wt%混合したものである。
【0029】
前記人工尿の滴下試験に用いる金属製の治具は、幅210mm、長さ50mm、厚さ5mmの長方形であり、各穴は直径15mmの円形であり、幅方向および長さ方向に4mmの間隔を空けながら等間隔に設けられており、重さが400gである。
【0030】
<第5の態様>
前記トップシートと前記吸収体の間に中間シートが設けられ、
前記中間シートが水溶性の酸とともに親水剤を含む前記第1~4の態様のいずれか1つの態様に記載の吸収性物品。
【0031】
(作用効果)
中間シートは着用者の肌に直接触れないが、着用者が排泄したときに、中間シート内に排泄物が残る可能性がある。そして、この中間シート内の排泄物がアルカリ化し、トップシートの肌面側に逆戻りする(中間シート内の排泄物がトップシートの肌面側へ移動する)と、着用者の肌に触れて、着用者の肌に負担がかかる。そこで、この中間シートに水溶性の酸を含ませることで、着用者の肌に負担がかかることを防ぐことができる。
【0032】
また、一般的に、中間シートは、トップシートや包装シートに比べて嵩高であることが多い。そのため、中間シートの内部に残る排泄物の量は、トップシートや包装シートと比べて多くなる傾向がある。そのため、逆戻り現象を考慮した場合、多くの排泄物を含む中間シートに水溶性の酸を含ませることは、包装シートに水溶性の酸を含ませることよりも利点が多い。また、中間シートは包装シートよりも肌側に位置するため、この点からも、肌側に近い中間シートに水溶性の酸を含ませることは、包装シートに水溶性の酸を含ませることよりも利点が高い。
【0033】
<第6の態様>
前記吸収体を包む包装シートが設けられ、
前記包装シートが水溶性の酸とともに親水剤を含む前記第1~5の態様のいずれか1つの態様に記載の吸収性物品。
【0034】
(作用効果)
包装シートは着用者の肌に直接触れないが、着用者が排泄したときに、包装シート内に排泄物が残る可能性がある。そして、この包装シート内の排泄物がアルカリ化し、トップシートの肌面側に逆戻りする(包装シート内の排泄物がトップシートの肌面側へ移動する)と、着用者の肌に触れて、着用者の肌に負担がかかる。そこで、この包装シートに水溶性の酸を含ませることで、着用者の肌に負担がかかることを防ぐことができる。また、一般的に、包装シートは、排泄物を保持する吸収体と接触する機会が多い。すなわち、吸収体が保持する排泄物に対して、包装シートに含まれる水溶性の酸が作用するため、排泄物のアルカリ側への傾きの抑止効果が高い。
【0035】
<第7の態様>
前記トップシートの繊維径が4.0dtex以上である前記第1~6の態様のいずれか1つの態様に記載の吸収性物品。
【0036】
(作用効果)
トップシートの繊維径を太くすることにより、排泄物を迅速に吸収することができる。そのため、着用者の肌に排泄物が接触している時間を減らすことができる。それとともに、トップシートの表面に排泄物が堆積して広範囲に広がることを防ぐことができるため、排泄物が着用者の肌に付着する面積を小さくすることができる。その結果、排泄物のアルカリ側への傾きによる肌への負担を低減することができる。このようなトップシートの繊維径は、4.0dtex以上にすることが好ましく、5.0dtex以上にすることがより好ましい。
【0037】
<第8の態様>
前記トップシートの前記複数の層のうち、肌側に位置する層の繊維径が、裏側に位置する層の繊維径よりも小さい前記第1~7の態様のいずれか1つの態様に記載の吸収性物品。
【0038】
(作用効果)
トップシートを複数の層で構成し、肌側に位置する層の繊維径を小さくすることにより、肌触りが良くなるため、着用者の肌への負担を軽減することができる。また、裏側に位置する層の繊維径を大きくすることで、前記第7の態様と同様の作用効果を得ることもできる。
【0039】
<第9の態様>
前記トップシートの前記複数の層のうち、前記肌側に位置する層の繊維径が2.5dtex以下であり、前記裏側に位置する層の繊維径が4.0dtex以上である前記第8の態様に記載の吸収性物品。
【0040】
(作用効果)
トップシートを複数の層で構成し、肌側に位置する層の繊維径を小さくすることにより、肌触りが良くなるため、着用者の肌への負担を軽減することができる。また、裏側に位置する層の繊維径を大きくすることで、前記第7の態様で記載した内容と同様の作用効果を得ることもできる。
【0041】
具体的には、肌側に位置する層の繊維径を2.5dtex以下にすることが好ましく、1.7dtex以下にすることがより好ましい。また、裏側に位置する層の繊維径を4.0dtex以上にすることが好ましく、5.0dtex以上にすることがより好ましい。繊維径を上記範囲にすることにより、前記第7の態様で記載した内容と同様の作用効果が著しくなる。
【0042】
<第10の態様>
前記トップシートと前記吸収体の間に中間シートが設けられ、
前記中間シートの目付が20gsm以上である請求項1~9のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【0043】
(作用効果)
吸収性物品に着用者の体圧がかかると、吸収体が保持する排泄物が肌側へ移動する逆戻り現象が発生するおそれがある。そこで、中間シートの目付を厚目付にすることで、逆戻りする排泄物の量を減らすことができる。特に、トップシートに含まれる酸の一部が流れ落ちて吸収体に保持されている状態で、逆戻りが生じると、トップシートの酸が着用者の肌に付着して、着用者の肌に負担をかけるおそれがある。中間シートの目付を厚目付にして、逆戻りを防止することによって、このような負担を軽減することができる。中間シートの目付は、20gsm以上にすることが好ましく、30gsm以上にすることがより好ましい。
【0044】
<第11の態様>
前記吸収体を包む包装シートが設けられ、
前記包装シートの目付が20gsm以上である前記第1~10の態様のいずれか1つの態様に記載の吸収性物品。
【0045】
(作用効果)
第9の態様では、中間シートの目付を厚目付にすることで、逆戻りを防止しているが、包装シートを厚目付にすることによっても、同様効果を得ることができる。包装シートの目付は、20gsm以上にすることが好ましく、30gsm以上にすることがより好ましい。
【0046】
<第12の態様>
前記酸はクエン酸である前記第1~10の態様のいずれか1つの態様に記載の吸収性物品。
【0047】
(作用効果)
クエン酸は食品添加物に用いられるほど安全性が高く、アルカリ化を抑止する効果が高いため、好適である。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、着用者の肌への負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】テープタイプ使い捨ておむつの内面を示す、おむつを展開した状態における平面図である。
図2】テープタイプ使い捨ておむつの外面を示す、おむつを展開した状態における平面図である。
図3図1の6-6線断面図である。
図4図1の7-7線断面図である。
図5】(a)図1の8-8線断面図、及び(b)図1の9-9線断面図である。
図6】実験結果を示したグラフである。測定箇所A~C、G~Iに対して、1回100μLの人工尿を3回滴下したときのpHの変化を示す。
図7】実験結果を示したグラフである。測定箇所D~F、J~Lに対して、1回500μLの人工尿を3回滴下したときのpHの変化を示す。
図8】(a)金属製の治具の平面図である。(b)金属製の治具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図1図5は、吸収性物品として、テープタイプ使い捨ておむつを例示しており、図中の符号Xは連結テープを除いたおむつの全幅を示しており、符号Lはおむつの全長を示している。また、図示していないが、トップシート30、中間シート40、包装シート58、吸収体56、液不透過性シート11および外装不織布12の間は、それぞれホットメルト接着剤によって接着されている。ホットメルト接着剤は、スロット塗布、連続線状又は点線状のビード塗布、スパイラル状、Z状等のスプレー塗布、又はパターンコート(凸版方式でのホットメルト接着剤の転写)等、公知の手法により塗布することができる。これに代えて又はこれとともに、弾性部材の固定部分では、ホットメルト接着剤を弾性部材の外周面に塗布し、弾性部材を隣接部材に固定することができる。ホットメルト接着剤としては、例えばEVA系、粘着ゴム系(エラストマー系)、オレフィン系、ポリエステル・ポリアミド系などの種類のものが存在するが、特に限定無く使用できる。各構成部材を接合する接合手段としてはヒートシールや超音波シール等の素材溶着による手段を用いることもできる。
【0051】
このテープタイプ使い捨ておむつは、前後方向LDの中央より前側に延びる腹側部分Fと、前後方向LDの中央より後側に延びる背側部分Bとを有している。また、このテープタイプ使い捨ておむつは、股間部を含む範囲に内蔵された吸収体56と、吸収体56の表側を覆う液透過性のトップシート30と、吸収体56の裏側を覆う液不透過性シート11と、液不透過性シートの裏側を覆い、製品外面を構成する外装不織布12とを有するものである。
【0052】
以下、各部の素材及び特徴部分について順に説明する。
(吸収体)
吸収体56は、排泄液を吸収し、保持する部分であり、繊維の集合体により形成することができる。この繊維集合体としては、綿状パルプや合成繊維等の短繊維を積繊したものの他、セルロースアセテート等の合成繊維のトウ(繊維束)を必要に応じて開繊して得られるフィラメント集合体も使用できる。繊維目付けとしては、綿状パルプや短繊維を積繊する場合は、例えば100~300g/m2程度とすることができ、フィラメント集合体の場合は、例えば30~120g/m2程度とすることができる。合成繊維の場合の繊度は、例えば、1~16dtex、好ましくは1~10dtex、さらに好ましくは1~5dtexである。フィラメント集合体の場合、フィラメントは、非捲縮繊維であってもよいが、捲縮繊維であるのが好ましい。捲縮繊維の捲縮度は、例えば、2.54cm当たり5~75個、好ましくは10~50個、さらに好ましくは15~50個程度とすることができる。また、均一に捲縮した捲縮繊維を用いることができる。
【0053】
(高吸収性ポリマー粒子)
吸収体56には、その一部又は全部に高吸収性ポリマー粒子を含有させることができる。高吸収性ポリマー粒子とは、「粒子」以外に「粉体」も含む。高吸収性ポリマー粒子としては、この種の吸収性物品に使用されるものをそのまま使用できる。高吸収性ポリマー粒子の粒径は特に限定されないが、例えば500μmの標準ふるい(JIS Z8801-1:2006)を用いたふるい分け(5分間の振とう)、及びこのふるい分けでふるい下に落下する粒子について180μmの標準ふるい(JIS Z8801-1:2006)を用いたふるい分け(5分間の振とう)を行ったときに、500μmの標準ふるい上に残る粒子の割合が30重量%以下で、180μmの標準ふるい上に残る粒子の割合が60重量%以上のものが望ましい。
【0054】
高吸収性ポリマー粒子の材料としては、特に限定無く用いることができるが、吸水量が40g/g以上のものが好適である。高吸収性ポリマー粒子としては、でんぷん系、セルロース系や合成ポリマー系などのものがあり、でんぷん-アクリル酸(塩)グラフト共重合体、でんぷん-アクリロニトリル共重合体のケン化物、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの架橋物やアクリル酸(塩)重合体などのものを用いることができる。高吸収性ポリマー粒子の形状としては、通常用いられる粉粒体状のものが好適であるが、他の形状のものも用いることができる。
【0055】
高吸収性ポリマー粒子としては、吸水速度が70秒以下、特に40秒以下のものが好適に用いられる。吸水速度が遅すぎると、吸収体56内に供給された液が吸収体56外に戻り出てしまう所謂逆戻りを発生し易くなる。
【0056】
また、高吸収性ポリマー粒子としては、ゲル強度が1000Pa以上のものが好適に用いられる。これにより、嵩高な吸収体56とした場合であっても、液吸収後のべとつき感を効果的に抑制できる。
【0057】
高吸収性ポリマー粒子の目付け量は、当該吸収体56の用途で要求される吸収量に応じて適宜定めることができる。したがって一概には言えないが、50~350g/m2とすることができる。ポリマーの目付け量が50g/m2未満では、吸収量を確保し難くなる。350g/m2を超えると、効果が飽和するばかりでなく、高吸収性ポリマー粒子の過剰によりジャリジャリした違和感を与えるようになる。
【0058】
(包装シート)
高吸収性ポリマー粒子の抜け出しを防止するため、あるいは吸収体56の形状維持性を高めるために、吸収体56は包装シート58で包んでなる吸収要素50として内蔵させることができる。包装シート58としては、ティッシュペーパ、特にクレープ紙、不織布、ポリラミ不織布、小孔が開いたシート等を用いることができる。ただし、高吸収性ポリマー粒子が抜け出ないシートであるのが望ましい。クレープ紙に換えて不織布を使用する場合、親水性のSMMS(スパンボンド/メルトブローン/メルトブローン/スパンボンド)不織布が特に好適であり、その材質はポリプロピレン、ポリエチレン/ポリプロピレンなどを使用できる。
【0059】
この包装シート58は、図3に示すように、一枚で吸収体56の全体を包む構造とするほか、上下2枚等の複数枚のシートで吸収体56の全体を包むようにしてもよい。包装シート58は省略することもできる。
【0060】
包装シート58の目付は、16gsm以上にすることが好ましく、20gsm以上にすることがより好ましい。包装シート58を厚目付にすることで、吸収体56が保持する排泄物や酸が逆戻りして、着用者の肌に付着し、肌に負担がかかることを防ぐことができる。
【0061】
(トップシート)
トップシート30は液透過性を有するものであり、例えば、有孔又は無孔の不織布や、多孔性プラスチックシートなどを用いることができる。また、このうち不織布は、その原料繊維が何であるかは、特に限定されない。例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維、レーヨンやキュプラ等の再生繊維などや、これらから二種以上が使用された混合繊維、複合繊維などを例示することができる。さらに、不織布は、どのような加工によって製造されたものであってもよい。加工方法としては、公知の方法、例えば、スパンレース法、スパンボンド法、サーマルボンド法、メルトブローン法、ニードルパンチ法、エアスルー法、ポイントボンド法等を例示することができる。例えば、柔軟性、ドレープ性を求めるのであれば、スパンレース法が、嵩高性、ソフト性を求めるのであれば、サーマルボンド法が、好ましい加工方法となる。
【0062】
トップシート30は、前後方向では製品前端から後端まで延び、幅方向WDでは吸収体56よりも側方に延びているが、例えば後述する起き上がりギャザー60の起点が吸収体56の側縁よりも幅方向中央側に位置する場合等、必要に応じて、トップシート30の幅を吸収体56の全幅より短くする等、適宜の変形が可能である。
【0063】
トップシート30の繊維径は、任意に決めることができるが、4.0dtex以上にすることが好ましく、5.0dtex以上にすることがより好ましい。このように、トップシート30の繊維径を太くすることにより、排泄物を迅速に吸収することができる。その結果、着用者の肌に排泄物が接触している時間を減らすことができる。また、トップシート30の表面に排泄物が堆積して広範囲に広がることを防ぐことができるため、排泄物が着用者の肌に付着する面積を小さくすることができる。それにより、トップシート30に付着した排泄物のアルカリ側への傾きによる肌への負担を低減することができる。
【0064】
また、トップシート30を複数の層で構成し、肌側に位置する層の繊維径を、裏側に位置する層の繊維径よりも小さくすることが好ましい。肌側に位置する層の繊維径を小さくすることにより、肌触りが良くなるため、着用者の肌への負担を軽減することができる。また、裏側に位置する層の繊維径を大きくすることで、排泄物の迅速な吸収が可能となる。
【0065】
具体的には、トップシート30の複数の層のうち、肌側に位置する層の繊維径を2.5dtex以下にすることが好ましく、1.7dtex以下にすることがより好ましい。また、裏側に位置する層の繊維径を4.0dtex以上にすることが好ましく、5.0dtex以上にすることがより好ましい。繊維径をこのような範囲にすることで、着用者が肌ざわりが良いと感じやすくなるとともに、排泄物を迅速に吸収することもできる。
【0066】
(中間シート)
トップシート30を透過した液を速やかに吸収体56へ移行させるために、トップシート30より液の透過速度が速い、中間シート(「セカンドシート」とも呼ばれている)40を設けることができる。この中間シート40は、液を速やかに吸収体56へ移行させて吸収体56による吸収性能を高め、吸収した液の吸収体56からの「逆戻り」現象を防止するためのものである。中間シート40は省略することもできる。
【0067】
中間シート40としては、トップシート30と同様の素材や、スパンレース不織布、スパンボンド不織布、SMS不織布、パルプ不織布、パルプとレーヨンとの混合シート、ポイントボンド不織布又はクレープ紙を例示できる。特にエアスルー不織布が嵩高であるため好ましい。エアスルー不織布には芯鞘構造の複合繊維を用いるのが好ましく、この場合芯に用いる樹脂はポリプロピレン(PP)でも良いが剛性の高いポリエステル(PET)が好ましい。不織布の原料繊維の太さは2.0~10dtexであるのが好ましい。不織布を嵩高にするために、原料繊維の全部又は一部の混合繊維として、芯が中央にない偏芯の繊維や中空の繊維、偏芯且つ中空の繊維を用いるのも好ましい。
【0068】
図示例の中間シート40は、吸収体56の幅より短く中央に配置されているが、全幅にわたって設けてもよい。また、中間シート40は、おむつの全長にわたり設けてもよいが、図示例のように排泄位置を含む中間部分にのみ設けてもよい。
【0069】
中間シート40の目付は、20gsm以上にすることが好ましく、30gsm以上にすることがより好ましい。吸収性物品に着用者の体圧がかかると、吸収体56が保持する排泄物が肌側へ移動する逆戻り現象が発生するおそれがある。前述のように、中間シート40の目付を厚目付にすることで、逆戻りする排泄物の量を減らすことができる。特に、トップシート30に含まれる酸の一部が、排泄物とともに流れ落ちて吸収体56に保持されている状態で逆戻りが生じると、トップシート30の酸が着用者の肌に付着して、着用者の肌に負担をかけるおそれがある。そこで、中間シート40の目付を厚目付にして、逆戻りを防止することによって、このような負担を軽減するようにすると良い。
【0070】
(液不透過性シート)
液不透過性シート11は、特に限定されるものではないが、透湿性を有するもが好ましい。液不透過性シート11としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂中に無機充填剤を混練して、シートを成形した後、一軸又は二軸方向に延伸して得られた微多孔性シートを好適に用いることができる。また、液不透過性シート11としては、不織布を基材として防水性を高めたものも用いることができる。
【0071】
液不透過性シート11は、前後方向LD及び幅方向WDにおいて吸収体56と同じか又はより広範囲にわたり延びていることが望ましいが、他の遮水手段が存在する場合等、必要に応じて、前後方向LD及び幅方向WDにおいて吸収体56の端部を覆わない構造とすることもできる。
【0072】
(外装不織布)
外装不織布12は液不透過性シート11の裏側全体を覆い、製品外面を布のような外観とするものである。外装不織布12としては特に限定されず、素材繊維としては、例えばポリエチレン又はポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維の他、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維を用いることができ、加工法としてはスパンレース法、スパンボンド法、サーマルボンド法、エアスルー法、ニードルパンチ法等を用いることができる。ただし、肌触り及び強度を両立できる点でスパンボンド不織布やSMS不織布、SMMS不織布等の長繊維不織布が好適である。不織布は一枚で使用する他、複数枚重ねて使用することもできる。後者の場合、不織布相互をホットメルト接着剤等により接着するのが好ましい。不織布を用いる場合、その繊維目付けは10~50g/m2、特に15~30g/m2のものが望ましい。
【0073】
(起き上がりギャザー)
トップシート30上を伝わって横方向に移動する排泄物を阻止し、いわゆる横漏れを防止するために、表面の幅方向WDの両側には、装着者の肌側に立ち上がる起き上がりギャザー60が設けられていると好ましい。もちろん、起き上がりギャザー60は省略することもできる。
【0074】
起き上がりギャザー60を採用する場合、その構造は特に限定されず、公知のあらゆる構造を採用できる。図示例の起き上がりギャザー60は、実質的に幅方向WDに連続するギャザーシート62と、このギャザーシート62に前後方向LDに沿って伸長状態で固定された細長状のギャザー弾性部材63とにより構成されている。このギャザーシート62としては撥水性不織布を用いることができ、またギャザー弾性部材63としては糸ゴム等を用いることができる。弾性部材は、図1及び図2に示すように各複数本設ける他、各1本設けることができる。
【0075】
ギャザーシート62の内面は、トップシート30の側部上に幅方向WDの接合始端を有し、この接合始端から幅方向外側の部分は各サイドフラップ部SFの内面、つまり図示例では液不透過性シート11の側部及びその幅方向外側に位置する外装不織布12の側部にホットメルト接着剤などにより接合されている。
【0076】
脚周りにおいては、起き上がりギャザー60の接合始端より幅方向内側は、製品前後方向両端部ではトップシート30上に固定されているものの、その間の部分は非固定の自由部分であり、この自由部分が弾性部材63の収縮力により立ち上がり、身体表面に密着するようになる。
【0077】
(エンドフラップ部、サイドフラップ部)
図示例のテープタイプ使い捨ておむつは、吸収体56の前側及び後側にそれぞれ延出する、吸収体56を有しない一対のエンドフラップ部EFと、吸収体56の両方の側縁よりも側方にそれぞれ延出する、吸収体56を有しない一対のサイドフラップ部SFとを有している。サイドフラップ部SFは、図示例のように、吸収体56を有する部分から連続する素材(外装不織布12等)からなるものであっても、他の素材を取り付けて形成してもよい。
【0078】
(平面ギャザー)
各サイドフラップ部SFには、糸ゴム等の細長状弾性部材からなるサイド弾性部材64が前後方向LDに沿って伸長された状態で固定されており、これにより各サイドフラップ部SFの脚周り部分が平面ギャザーとして構成されている。脚周り弾性部材64は、図示例のように、ギャザーシート62の接合部分のうち接合始端近傍の幅方向外側において、ギャザーシート62と液不透過性シート11との間に設けるほか、サイドフラップ部SFにおける液不透過性シート11と外装不織布12との間に設けることもできる。脚周り弾性部材64は、図示例のように各側で複数本設ける他、各側に1本のみ設けることもできる。
【0079】
平面ギャザーは、サイド弾性部材64の収縮力が作用する部分(図中ではサイド弾性部材64が図示された部分)である。よって、平面ギャザーの部位にのみサイド弾性部材64が存在する形態の他、平面ギャザーよりも前側、後側又はその両側にわたりサイド弾性部材64が存在しているが、平面ギャザーの部位以外ではサイド弾性部材が一か所又は多数個所で細かく切断されていたり、サイド弾性部材64を挟むシートに固定されていなかったり、あるいはその両方であったりすることにより、平面ギャザー以外の部位に収縮力が作用せず(実質的には、弾性部材を設けないことに等しい)に、平面ギャザーの部位にのみサイド弾性部材64の収縮力が作用する構造も含まれる。
【0080】
(連結テープ)
背側部分Bにおけるサイドフラップ部SFには、腹側部分Fの外面に対して着脱可能に連結される連結テープ13がそれぞれ設けられている。使い捨ておむつ10の装着に際しては、連結テープ13を腰の両側から腹側部分Fの外面に回して、連結テープ13の連結部13Aを腹側部分F外面の適所に連結する。
【0081】
連結テープ13の構造は特に限定されないが、図示例では、サイドフラップ部SFに固定された基端部13Cと、この基端部13Cから幅方向WD外側へ延在する延在部13Bを有する。延在部13Bは、シート基材と、このシート基材における幅方向中間部に設けられた、腹側外面と連結する連結部13Aを有し、この連結部13Aより先端側が摘み部13Dとなっている。
【0082】
連結部13Aとしては、メカニカルファスナー(面ファスナー)のフック材(雄材)を設ける他、粘着剤層を設けてもよい。フック材は、その連結面に多数の係合突起を有するものであり、係合突起の形状としては、(A)レ字状、(B)J字状、(C)マッシュルーム状、(D)T字状、(E)ダブルJ字状(J字状のものを背合わせに結合した形状のもの)等が存在するが、いずれの形状であっても良い。
【0083】
基端部13Cから延在部13Bまでを形成するシート基材としては、不織布、プラスチックフィルム、ポリラミ不織布、紙やこれらの複合素材を用いることができるが、繊度1.0~3.5dtex、目付け20~100g/m2、厚み1mm以下のスパンボンド不織布、エアスルー不織布、又はスパンレース不織布が好ましい。
【0084】
(ターゲットシート)
腹側部分Fにおける連結テープ13の連結箇所には、ターゲット部を設けることが好ましい。ターゲット部は、図示例のように、連結を容易にするためのターゲットシート20を腹側部分Fの外面に貼り付けることにより設けることができる。ターゲットシート20は、連結部13Aがフック材の場合、フック材の係合突起が絡まるようなループ糸がプラスチックフィルムや不織布からなるシート基材の表面に多数設けられたものを用いることができ、また粘着材層の場合には粘着性に富むような表面が平滑なプラスチックフィルムからなるシート基材の表面に剥離処理を施したものを用いることができる。また、腹側部分Fにおける連結テープ13の連結箇所が不織布からなる場合、例えば図示例のように外装不織布12を有する場合には、ターゲットシート20を省略し、フック材を外装不織布12の繊維に絡ませて連結することもできる。この場合、目印としてのターゲットシート20を外装不織布12と液不透過性シート11との間に設ける他、外装不織布12や液不透過性シート11の外面に目印を印刷してもよい。
【0085】
(ウイング部分)
本テープタイプ使い捨ておむつは、図1図2に示すように、腹側部分Fの前後方向LDの中間から背側部分Bの前後方向LDの中間まで延びる股間部Mを有している。また、腹側部分F及び背側部分Bは、股間部Mよりも幅方向WD外側に延び出たウイング部分WPを有している。腹側部分Fのウイング部分の下縁70は、股間部Mの側縁の前端から前方に向かうにつれて斜め外側に位置するように延びており、背側部分Bのウイング部分の下縁75は、股間部Mの側縁の後端から後方に向かうにつれて斜め外側に位置するように延びている。ウイング部分WPの側縁は図示例では直線状となっているが、これに限定されず、公知の他の形状を採用することもできる。股間部Mの前後方向LDの寸法は適宜定めることができるが、股間部Mの最小幅MXの1.2~1.4倍程度とすることができる。乳幼児用途の場合、股間部Mの前後方向LDの寸法MYは10~30cm程度である。
【0086】
(水溶性の酸および親水剤)
吸収性物品のトップシート30には水溶性の酸が含まれている。このトップシート30には、さらに親水剤を含ませることが好ましい。また、トップシート30だけではなく、中間シート40および包装シート58のどちらか一方に、もしくは中間シート40および包装シート58の両方に、水溶性の酸を含ませることが好ましい。この場合においても、水溶性の酸とともに親水剤を含ませることが好ましい。なお、以下の説明においては、トップシート30に含まれる水溶性の酸(および親水剤)について説明するが、特段の定めがない場合は、中間シート40や包装シート58においても同様である。
【0087】
水溶性の酸としては、特に限定なく用いることができるが、pH2~4のものが好適である。pHの値が2よりも小さい場合は、着用者の肌に酸が付着したときに、肌に負担がかかるという不利益がある。また、pHの値が4よりも大きい場合は、排泄物がアルカリ側へ傾くことを効果的に抑制することが困難であるという不利益がある。水溶性の酸の具体例としては、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸などを挙げることができ、特に、食品添加物として使用される安全性の高いクエン酸、乳酸が好適である。この水溶性の酸は、繰り返し排尿した時にも酸成分が吸収体側に流れ落ちにくいようにするため、トップシート30を構成する繊維に塗り込むことによって固定することが好適であるが、おむつ加工機で、おむつ製造時にインラインでスプレー塗布するなどの他の方法でトップシート30に固定しても良い。なお、一般的に、水溶性の酸は、不織布を構成する繊維間の隙間に、化学結合によらずに固定されている。そのため、排尿によって、尿と共に不織布から流れ落ちてしまう。そこで、水溶性の酸を親水剤と共に不織布繊維に塗りこみ、繰り返し排尿した時でも流れ落ちにくくすると良い。
【0088】
前記の用途に用いる親水剤としては、特に限定なく用いることができるが、例えば各種の界面活性剤(アニオン性、カチオン性、両性イオン性及びノニオン性)が典型的なものとして挙げられる。具体的には、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリエーテル-ポリエステルブロック共重合体、ポリエーテル変性シリコーン、エチレンオキサイド付加多価アルコールの脂肪酸エステル等を用いることができる。この親水剤は、繰り返し排尿したときに酸が吸収体56側に流れ落ちにくいようにするため、トップシート30を構成する繊維に塗り込むことによって固定することが好適であるが、おむつ加工機で、おむつ製造時にインラインでスプレー塗布するなどの他の方法でトップシート30に固定しても良い。
【0089】
以上のようにして製造したトップシート30は、トップシート30を構成する繊維の外面に水溶性の酸が付着した状態になる。それとともに、トップシート30を構成する複数の繊維間の間隙に水溶性の酸が充填された状態にしても良い。さらに、トップシート30を構成する繊維自体の内部に水溶性の酸を浸透させた状態にすると、複数回の排泄によっても水溶性の酸が流れ落ちにくくなるため、好適である。
【0090】
水溶性の酸と親水剤を含むトップシート30に対して、以下の人工尿の滴下試験を行い、第1回目の計測結果が10点、第2回目の計測結果が10点、かつ第3回目の計測結果が9点以上であるトップシート30を吸収性物品に搭載すると良い。
(人工尿の滴下試験方法)
(1)ろ紙を10枚重ねた上に、親水剤を含むトップシート30を置き、前記トップシート30の上に10個の穴が開いた金属製の治具70を置く。なお、本試験は、繰り返し排泄した際に、トップシート30に含まれる親水剤が、流れ落ちにくいものであるか否かを確認するものであるため、この試験に用いるトップシート30に水溶性の酸を含ませる必要はない。
(2)(第1回目の計測)
マイクロピペットを用いて、1個の穴ごとにそれぞれ1mLの人工尿(下記の着色料を添加したもの)を滴下する(すなわち10個の穴に対して合計10mLの人工尿を滴下する)。人工尿を滴下した後、2秒以内に、前記不織布が人工尿を吸収したか否かを確認する。不織布の上に人工尿が残っている時(通常、不織布の上に人工尿が球状になって載っている状態の時)は、不織布が人工尿を吸収していないと記録する。他方、不織布の上に人工尿が残っていない時は、不織布が人工尿を吸収していると記録する。10個の穴のそれぞれについて、この記録作業を行う。すなわち、2秒以内に、不織布を透過した箇所が10か所中何か所であったかを記録する。そして、吸収された穴を1点、吸収されていない穴を0点とカウントし、10個の穴の合計点数を記録する。
(3)(第2回目の計測)
前記(2)で人工尿(下記の着色料を添加したもの)を滴下した後、3分間経過するのを待ち、3分間経過後に、再び、マイクロピペットを用いて、1個の穴ごとにそれぞれ1mLの人工尿を滴下する。そして、前記(2)と同様の要領で、合計点数を記録する。
(4)(第3回目の計測)
前記(3)で人工尿(下記の着色料を添加したもの)を滴下した後、6分間経過するのを待ち、6分間経過後に、ガラスピペットを用いて、1個の穴ごとにそれぞれ500μLの人工尿を滴下する。そして、前記(2)と同様の要領で、合計点数を記録する。
(5)前記(2)~(4)の記録結果において、第1回目の計測結果が10点、かつ第2回目の計測結果が10点、かつ第3回目の計測結果が9点以上となったトップシート30を吸収性物品に搭載すると良い。複数回の排尿があった場合でも、親水剤が流れ落ちにくいと判断できるからである。
(ろ紙)
前記試験に用いるろ紙としては、例えばADVENTEC社のFILTER PAPER 250mm×250mm正方形を用いることができる。
(金属製の治具)
前記金属製の治具70としては、以下のものを用いる。
幅210mm、長さ50mm、厚み5mmの長方形であり、直径15mmの穴71が、幅方向及び長さ方向に4mmの間隔を空けながら、等間隔に10個空いている。重さは400gである。
(人工尿)
前記試験に用いる人工尿としては、以下のものを用いる。
尿素:2wt%、塩化ナトリウム:0.8wt%、塩化カルシウム二水和物:0.03wt%、硫酸マグネシウム七水和物:0.08wt%、及びイオン交換水:97.09wt%を混合したもの
(着色料)
キリヤ社の食用青色1号(Brilliant Blue FCF)(荷姿:紛体)約5gを、上記の人工尿約300mlに溶解して調整する。
(ピペット)
前記人工尿の滴下試験に用いるマイクロピペットとしては、例えば、Biohit Proline Pipette 100~1000μl(型番:720050)を用いることができる。また、前記人工尿の滴下試験に用いるガラスピペットとしては、例えばマルエム KOMA5 5ml(型番:0801-04)を用いることができる。
【0091】
親水剤は、水溶性の酸とともに、トップシート30を構成する繊維の外面に付着した状態となる。トップシート30を構成する複数の繊維間の間隙に、水溶性の酸とともに、親水剤が充填された状態にしても良い。また、トップシート30を構成する繊維自体の内部に水溶性の酸と親水剤を浸透させた状態にすると、複数回の排泄によっても水溶性の酸と親水剤が流れ落ちにくくなるため、排泄物のアルカリ側への傾きを継続的に抑止する効果が高い。
【0092】
吸収性物品の着用者が排泄すると、排泄物がトップシート30に含まれる水溶性の酸と接触し、排泄物のアルカリ側への傾きを抑止する。例えば、着用者が排尿すると、トップシート30に残存した尿中の尿素が、時間の経過に伴って、ウレアーゼによって加水分解されてアンモニアが生成されるが、トップシート30に含まれる水溶性の酸がこのアンモニアと反応して、排泄物のpHがアルカリ側へ傾くことを防ぐ。詳しくは、前記水溶性の酸によって、アンモニアの生成を抑制するとともに、生成されたアンモニアを中和する。このように、水溶性の酸によって、排泄物がアルカリ側へ傾かなくなるため、仮に排泄物が逆戻りして着用者の肌に触れ続けたとしても、肌への負担が少なくなる。
【0093】
なお、トップシート30に含まれる水溶性の酸が、排泄によって吸収体56に流れ落ちてしまうと、2回目以降の排泄の際に、排泄物のアルカリ側への傾きを効果的に防止することができない。特に、就寝時に着用する使いすておむつなどでは、着用時に複数回の排泄が想定されるため、このような不具合の発生を抑止する必要性が高い。そのため、本発明に係るトップシート30には、親水剤を含ませている。この親水剤によって、水溶性の酸がトップシート30を構成する繊維に強固に固定され、複数回の排泄によっても、水溶性の酸が流れ落ちにくくなり、排泄物のアルカリ側への傾きを継続的に抑止することができる。
【0094】
トップシート30に対する水溶性の酸の配合量は、0.02%~0.07%とすることが好ましく、0.03%~0.05%とすることがより好ましい。配合量が0.07%よりも多い場合は、着用者の肌に酸が付着したときに、肌に負担がかかるという不利益がある。また、配合量が0.02%よりも少ない場合は、排泄物がアルカリ側へ傾くことを効果的に抑制することが困難であるという不利益がある。また、トップシート30に対する親水剤の配合量は、0.3%~0.5%とすることが好ましく、0.4%~0.5%とすることがより好ましい。配合量が0.5%よりも多い場合は、薬剤費がかかり、製品原価が高くなり、また、排尿後に着用者の圧がかかった場合に逆戻りしやすくなるという不利益がある。また、配合量が0.3%よりも少ない場合は、水溶性の酸とトップシート30を構成する繊維の間の結合が弱まり、複数回の排泄によって、水溶性の酸が流れ落ちやすくなり、また、尿が不織布を透過せず漏れに繋がるおそれがある。水溶性の酸と親水剤の配合比は、1:7~1:20とすることが好ましく、1:15とすることがより好ましい。この範囲を超えると、不織布の親水性に影響を与えてしまう不利益がある。
【0095】
トップシート30に水溶性の酸を含ませると、着用者の肌への負担を軽減する効果が高い。トップシート30は、着用者の肌(例えば、お尻の皮膚)に直接触れるものであるため、排泄によってトップシート30に付着した排泄物がアルカリ側へ傾くと、肌と排泄物の継続的な接触により、肌に負担がかかる。そこで、トップシート30に水溶性の酸を含ませることで、アルカリ側への傾きを抑止し、着用者の肌への負担を軽減することができる。
【0096】
なお、トップシート30に水溶性の酸を含ませた場合、トップシート30に含まれる酸が着用者の肌に負担をかけてしまうおそれがある。中性に近い酸を用いたり、酸の添加量を減らすことによって、酸による肌への負担を軽減することもできるが、この場合は、排泄物のアルカリ側への傾きを効果的に抑止できないという弊害がある。そこで、このような問題を解決するために、トップシート30を複数の層構造とし、肌側に位置する層には水溶性の酸を含ませず(または、含ませたとしても少量にして)、裏側に位置する層には水溶性の酸および親水剤を含ませることが好ましい。例えば、トップシート30を2層構造として、肌側の層(上層)に水溶性の酸を含ませず、裏側の層(下)に水溶性の酸および親水剤を含ませるようにすると良い。トップシート30を3層以上の構造とした場合は、最も肌側に近い層(最上位層)には水溶性の酸を含ませず、最上位層よりも裏側に位置するいずれかの層またはすべての層に水溶性の酸および親水剤を含ませるようにするとよい。図3において、トップシート30を二層構造にしたものを例示した。肌側の層(上層)を30Uで示し、裏側の層(下層)を30Dで示している。上層30Uは、水溶性の酸と親水剤を含んでおらず、下層30Dは、水溶性の酸と親水剤を含ませている。上述のとおり、上層30Uには、水溶性の酸を含ませないほうが良いが、親水剤は肌への負担にならないため、上層30Uに含ませても良い。上層30Uと下層30Dの両方に親水剤を含ませるほうが、製造工程が簡易になる場合は、上層30Uにも親水剤を含ませると良い。
【0097】
(削除)
【0098】
ただし、トップシート30のうち、特に肌に触れる部分のアルカリ化を防ぎ、アンモニアによる肌への負担を低減することを重視する場合は、トップシート30の肌側に位置する層に水溶性の酸をあえて含ませることも有効である。
【0099】
なお、本発明のように特殊な構造のトップシート30、すなわち、上層30Uに水溶性の酸が含まれておらず、下層30Dに水溶性の酸が含まれているトップシート30は、例えば以下の(1)または(2)の方法により製造することができる。
(1)例えば、まず、原料投入、加熱、溶融、押出という工程を経て、肌側に位置する層の原料となる原綿(原料となる繊維。以下、同じ。)を製造する。また、原料投入、加熱、溶融、押出、冷却後に酸の塗りこみという工程を経て、裏側に位置する層の原料となる原綿を製造する。
そして、不織布製造装置の複数のライン(例えば、2層構造のトップシートを製造する場合、肌側の層を製造するラインと裏側の層を製造するラインの2つのラインがある。)に、肌側に位置する層の原料となる原綿と、裏側に位置する層の原料となる原綿をそれぞれ別々に供給する。その後、各ラインで別々に、各原綿の一次解繊、計量・混綿、二次解繊、タフト形成(二次解繊された原綿をボックス内に均一に貯留する)、ウェブ成形(カード機によって、ボックス内に貯留された原綿をシート状に成形する)の工程を行う。そして、ウェブ成形によって製造した各シートを重ね合わせて複数層とし、熱融着処理によって結合した後、異物混入検査、巻取りという工程を経て製造する。
なお、上記の説明は、エアスルー製法を用いて、複数層の不織布を製造する方法を例示したものであるが、不織布の融着方法が異なる他の製造方法を用いても、同様に製造できる。他の製造方法としては、スパンレース法、スパンボンド法、サーマルボンド法、メルトブローン法、ニードルパンチ法、ポイントボンド法等を例示することができる。
また、上記の説明において、裏側に位置する層の原料となる原綿を製造する際、酸とともに親水剤を塗り込んでも良い。それとともに、肌側に位置する層の原料となる原綿を製造する際にも、前記冷却後のタイミングで親水剤を塗り込んでも良い。
(2)例えば、おむつ加工機でおむつを製造する工程において、おむつ本体に貼り合される前のトップシート30の下層側のみに、スプレー塗布で酸性成分を付与する。
【0100】
中間シート40に水溶性の酸を含ませることもできる。中間シート40は着用者の肌に直接触れないため、この中間シート40に水溶性の酸を含ませることで、酸によって着用者の肌へ負担がかかることを防ぐことができる。また、一般的に中間シート40は嵩高であるため、排泄物が吸収体56まで到達した時に、中間シート40の内部に残存している排泄物の量が、トップシート30や包装シート58の内部に残存している排泄物の量よりも多くなる傾向がある。そのため、中間シート40に水溶性の酸を含ませて、中間シート40に残存する排泄物のアルカリ化を抑止することにより、中間シート40に残存する排泄物が逆戻りしたときの肌への負担を軽減することができる。
【0101】
包装シート58に水溶性の酸を含ませることもできる。包装シート58は着用者の肌に直接触れないため、この包装シート58に水溶性の酸を含ませることで、酸によって着用者の肌に負担がかかることを防ぐことができる。また、包装シート58は、吸収体56を包み込んでいるため、排泄物を保持する吸収体56と接触する機会が多い。そのため、吸収体56が保持する排泄物に対して、包装シート58に含まれる酸が作用する時間をより長くすることができるため、吸収体56が保持する排泄物のアルカリ側への傾きを効果的に抑止することができる。なお、包装シート58は、包装シート58全体に水溶性の酸を含ませても良いが、着用者の肌への負担を軽減するという目的を考慮すると、包装シート58のうち、少なくとも吸収体56よりも肌側の部分に、水溶性の酸を含ませることが好ましい。また、親水剤も同様に、吸収体56よりも肌側の部分に設けることが好ましい。
【0102】
着用者の肌への影響力が高いトップシート30に水溶性の酸を含ませることが重要である。すなわち、トップシート30は肌に直接接触するため、このトップシート30に付着した排泄物のアルカリ化を抑止することが効果的であり、この観点から、少なくともトップシート30に水溶性の酸を含ませることが重要である。しかし、それ以外にも、中間シート40および包装シート58の群から選ばれるいずれか1つのシートに水溶性の酸を含ませるようにしても良いし、これらの群のすべてのシートに水溶性の酸を含ませるようにしても良い。製造原価の観点からは、トップシート30にのみ水溶性の酸を含ませることが好ましく、トップシート30以外のシートとしては、特に中間シート40に水溶性の酸を含ませることが、製造上容易であるため、原価の点で有利である。他方、アルカリ化を抑止する観点からは、より多くのシートに水溶性の酸を含ませることが好ましい。
【0103】
(酸を付する範囲)
トップシート30、中間シート40および包装シート58において、水溶性の酸を含ませる平面範囲は、排泄物の拡散が予測される範囲とすることが好ましい。吸収性物品が図示した使い捨ておむつである場合においては、着用者の排泄口(排尿口、肛門等)の位置を考慮すると、少なくとも股間部Mに酸を付することが好ましい。排泄物の量が多い場合や、複数回の排泄が行われた場合は、排泄物が広範囲に拡散すると予想されるため、望ましくは、トップシート30全体に酸を付することが好ましい。中間シート40や包装シート58においても、トップシート30と同じ位置に、酸を付することが好ましい。親水剤についても、酸と同様の範囲に付することが好ましい。
【0104】
(実験例)
以下の2つの実験材料を用意した。
(1)材料1:目付が20gsmのエアスルー不織布(おむつのトップシート)であり、肌面が2.0dtexであり、裏面が3.3dtexの2層構造である。不織布の素材としては、ポリエチレンとポリエチレンテレフタレートの複合繊維を用いた。このエアスルー不織布には、親水剤としてノニオン性の界面活性剤を含ませている。親水剤の含有量は不織布重量に対し0.4%である。
(2)材料2:目付が20gsmのエアスルー不織布(おむつのトップシート)であり、2.2dtexの1層構造である。不織布の素材としては、ポリエチレンとポリエチレンテレフタレートの複合繊維を用いた。このエアスルー不織布には、親水剤としてノニオン性の界面活性剤を、水溶性の酸としてクエン酸をそれぞれ含ませている。親水剤の含有量は不織布重量に対し0.4%であり、水溶性の酸の含有量は0.05%である。
【0105】
実験は、22.1℃の実験室で行い、まず、ろ紙(ADVENTEC社のFILTER PAPER 250mm×250mm正方形)を10枚重ね、その上にそれぞれ前記材料1を置いた。そして、前記材料1に直径20mmの円をマジックで描き、その円の内部を測定箇所とした。より詳しくは、前記材料1に前記円を6カ所描き、それぞれの円の内部を測定箇所A~Fとした。
【0106】
次に、前記と同様のろ紙10枚の上に材料2を置いた。そして、前記材料2に直径20mmの円をマジックで描き、その円の内部を測定箇所とした。より詳しくは、前記材料2に前記円を6カ所描き、それぞれの円の内部を測定箇所G~Lとした。
【0107】
次に、材料1の測定箇所A~Cに、それぞれ100μLの人工尿を滴下した。なお、前記人工尿の成分は、尿素:2wt%、塩化ナトリウム:0.8wt%、塩化カルシウム二水和物:0.03wt%、硫酸マグネシウム七水和物:0.08wt%、及びイオン交換水:97.09wt%である。そして1分後、接触型pH計(HORIBA社製、型番♯6261-10C)で材料1の測定箇所A~Cの表面のpHをそれぞれ計測した(第1回目の計測)。
【0108】
その後、材料1の測定箇所A~Cに、それぞれ100μLの人工尿を滴下し、1分後に、前記接触型pH計を用いて、材料1の測定箇所A~Cの表面のpHをそれぞれ計測した(第2回目の計測)。さらに、材料1の測定箇所A~Cに、それぞれ100μLの人工尿を滴下し、1分後に、前記接触型pH計を用いて、材料1の測定箇所A~Cの表面のpHをそれぞれ計測した(第3回目の計測)。
【0109】
次に、材料1の測定箇所D~Fについても、前記第1回目の計測~第3回目の計測と同様の条件で計測を行った。なお、測定箇所D~Fについては、1回ごとの人工尿の滴下量を100μLではなく、500μLとした。
【0110】
次に、材料2の測定箇所G~Iについても、前記第1回目の計測~第3回目の計測と同様の条件で計測を行った。なお、測定箇所G~Iについては、1回ごとの人工尿の滴下量を100μLとした。
【0111】
さらに、材料2の測定箇所J~Lについても、前記第1回目の計測~第3回目の計測と同様の条件で計測を行った。なお、測定箇所J~Lについては、1回ごとの人工尿の滴下量を500μLとした。
【0112】
試験結果を下記表1、図6図7に示す。
【表1】
【0113】
(考察)
クエン酸を配合していない測定箇所A~Fと比べて、クエン酸を配合した測定箇所G~Lは、pHの値が低くなる傾向が分かった。また、クエン酸とともに親水剤を配合した測定箇所G~Lにおいては、人工尿を3回滴下した場合であっても、アルカリ化がほとんど進まないことが分かった。親水剤によって、クエン酸がエアスルー不織布の繊維に強く保持されて、複数回の排尿によっても流れ落ちないためと思われる。
【0114】
(従来技術と比較した本発明の効果)
本発明に係る吸収性物品によれば、着用者が複数回排泄した場合であっても、トップシート30に酸が残りやすいため、酸によるアルカリ化抑止効果を維持することができる。また、吸収性物品の着用者が、まだ1回も排泄していない状態において、トップシート30に含まれる水溶性の酸が着用者の肌に触れ続けないようにする(例えば、トップシート30の下層に酸を配合する)ことにより、肌への負担を軽減することができる。さらに、中和シート40、包装シート58の少なくともいずれか1つを厚目付にすることで、体圧がかかる部位であっても、排泄物と酸が逆戻りして、着用者の肌に接触する可能性を低くすることができる。
【0115】
前記特許文献1のように、トップシート30に凸部を設ける必要はないため、吸収性物品の設計の自由度が高い。また、前記特許文献1のように、酸を配合する部位も特に限定されないため、製造も容易である。また、前記特許文献2のように、水に溶解しづらいフマル酸ではなく、水溶性の酸を用いているため、親水剤とともに、シートに塗り込むことが容易であり、製造しやすい。また、前記特許文献3のようにクエン酸よりも皮膚への刺激性の強いリンゴ酸を使っていないという点で利点がある。
【0116】
(その他)
吸収体56の内部の排泄物が逆戻りする可能性もある。この点を考慮すると、吸収体56の内部に存在する排泄物のアルカリ化を防ぐことも有効である。そのため、吸収体56自体(例えば、吸収体のSAP)に水溶性の酸を含ませることも、肌の負担の軽減に有効である。
【0117】
(酸)
以上の説明では、水溶性の酸を例に説明したが、トップシート30に含める酸は水溶性の酸に限定されるものではない。すなわち、親水剤との親和性を考慮に入れないならば、トップシート30にフマル酸などの難溶性の酸を含ませても良い。
【0118】
(排泄物)
本発明における排泄物としては、尿、排便(特に軟便)、経血等を例示することができる。特に、排泄物のうち、固形状の便を除く排泄液のアルカリ化抑止に効果的である。尿においては、ウレアーゼ等の分解酵素が、尿中に含まれる尿素をアンモニアに加水分解し、排泄物をアルカリ化してしまうことを水溶性の酸によって抑止する。軟便においては、ウレアーゼ等の分解酵素が、軟便中に含まれる尿素をアンモニアに加水分解し、排泄物をアルカリ化してしまうことを水溶性の酸によって抑止する。
【0119】
<明細書中の用語の説明>
明細書中の以下の用語は、明細書中に特に記載が無い限り、以下の意味を有するものである。
・「前後方向」とは図中に符号LDで示す方向(縦方向)を意味し、「幅方向」とは図中にWDで示す方向(左右方向)を意味し、前後方向と幅方向とは直交するものである。
【0120】
・「曲線」とは、直線を含まない意味である。
【0121】
・「展開状態」とは、収縮や弛み無く平坦に展開した状態を意味する。
【0122】
・「伸長率」は、自然長を100%としたときの値を意味する。例えば、伸長率が200%とは、伸長倍率が2倍であることと同義である。
【0123】
・「目付け」は次のようにして測定されるものである。試料又は試験片を予備乾燥した後、標準状態(試験場所は、温度23±1℃、相対湿度50±2%)の試験室又は装置内に放置し、恒量になった状態にする。予備乾燥は、試料又は試験片を温度100℃の環境で恒量にすることをいう。なお、公定水分率が0.0%の繊維については、予備乾燥を行わなくてもよい。恒量になった状態の試験片から、試料採取用の型板(100mm×100mm)を使用し、100mm×100mmの寸法の試料を切り取る。試料の重量を測定し、100倍して1平米あたりの重さを算出し、目付けとする。
【0124】
・「厚み」は、自動厚み測定器(KES-G5 ハンディー圧縮試験機)を用い、荷重:0.098N/cm2、及び加圧面積:2cm2の条件下で自動測定する。
【0125】
・「吸水量」は、JIS K7223-1996「高吸水性樹脂の吸水量試験方法」によって測定する。
【0126】
・「吸水速度」は、2gの高吸収性ポリマー及び50gの生理食塩水を使用して、JIS K7224‐1996「高吸水性樹脂の吸水速度試験法」を行ったときの「終点までの時間」とする。
【0127】
・試験や測定における環境条件についての記載が無い場合、その試験や測定は、標準状態(試験場所は、温度23±1℃、相対湿度50±2%)の試験室又は装置内で行う。
【0128】
・各部の寸法は、特に記載が無い限り、自然長状態ではなく展開状態における寸法を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明は、上記例のようなテープタイプ使い捨ておむつのほか、テープタイプ使い捨ておむつ、パッドタイプ使い捨ておむつ、ナプキンなどの吸収性物品に適用できるものである。特に、前記各使い捨ておむつへの適用が好適である。
【符号の説明】
【0130】
11…液不透過性シート、12…外装不織布、13…連結テープ、13A…連結部、13B…延在部、13C…基端部、20…ターゲットシート、30…トップシート、40…中間シート、50…吸収要素、56…吸収体、58…包装シート、60…起き上がりギャザー、62…ギャザーシート、64…サイド弾性部材、70…金属製の治具、71…孔、B…背側部分、F…腹側部分、LD…前後方向、M…股間部、SF…サイドフラップ部、WD…幅方向、WP…ウイング部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8