(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】触媒劣化診断システムおよび触媒劣化診断方法
(51)【国際特許分類】
F01N 3/20 20060101AFI20221104BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20221104BHJP
F01N 11/00 20060101ALI20221104BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20221104BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
F01N3/20 C ZAB
F01N3/24 R
F01N11/00
F02D41/04
F02D45/00
F02D45/00 368F
F02D45/00 376
(21)【出願番号】P 2018177125
(22)【出願日】2018-09-21
【審査請求日】2021-04-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】岡本 拓
(72)【発明者】
【氏名】中曽根 修
【審査官】長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-125937(JP,A)
【文献】特開2010-168923(JP,A)
【文献】特開2012-241652(JP,A)
【文献】特開2004-124870(JP,A)
【文献】特開2010-163885(JP,A)
【文献】特開2016-23617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/20
F01N 3/24
F01N 11/00
F02D 45/00
F02D 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出された排ガスを浄化する触媒の、劣化度合いを診断するシステムであって、
前記内燃機関から排出される前記排ガスの排気経路において、前記触媒から前記内燃機関に向かう側が前記触媒よりも上流側と定義され、前記上流側の反対側が前記触媒よりも下流側と定義され、
前記排気経路において前記触媒よりも前記下流側に設けられた下流側空燃比検出手段と、
前記排気経路において前記触媒よりも前記下流側に設けられたNOx検出手段と、
前記内燃機関に対する吸気および燃料噴射を制御することによって前記内燃機関の運転状態を制御する運転制御手段と、
前記触媒の劣化度合いを診断する診断手段と、
あらかじめ定められた診断閾値が記憶されてなる記憶手段と、
を備え、
前記内燃機関から排出される前記排ガスの空燃比がストイキ値よりも大きいときの前記内燃機関の運転状態をリーン運転状態と称するとともに前記内燃機関から排出される前記排ガスの空燃比がストイキ値よりも小さいときの前記内燃機関の運転状態をリッチ運転状態と称し、かつ、
前記下流側空燃比検出手段における検出結果に基づき特定される前記排気経路の前記触媒よりも前記下流側における前記排ガスの空燃比を下流側空燃比と称する場合において、
前記運転制御手段は、前記内燃機関が前記リーン運転状態にある場合において前記下流側空燃比が所定のリーン側閾値に到達したタイミングで、前記内燃機関を前記リッチ運転状態へと移行させ、前記内燃機関が前記リッチ運転状態にある場合において前記下流側空燃比が所定のリッチ側閾値に到達したタイミングからあらかじめ定めた所定時間が経過したタイミングで、前記内燃機関を前記リーン運転状態へと移行させることを、前記排ガスの温度を600℃以上の所定の診断温度に保ちつつ行う診断運転を、前記内燃機関に実行させ、
前記診断手段は、前記リッチ運転状態にあるときの前記NOx検出手段における検出結果に基づいて特定される、前記排気経路の前記触媒の下流側におけるNOx濃度を、第1の前記診断閾値と比較することにより、前記触媒におけるNOx還元能の劣化の度合いを診断する、
ことを特徴とする触媒劣化診断システム。
【請求項2】
請求項1に記載の触媒劣化診断システムであって、
前記排気経路の前記触媒よりも前記上流側において前記排ガスの空燃比を検出する上流側空燃比検出手段、
をさらに備えるとともに、
前記上流側空燃比検出手段における空燃比検出値に基づいて特定される前記触媒の前記上流側における空燃比を上流側空燃比と称するとし、
前記診断手段はさらに、前記上流側空燃比とストイキ値との差分値を前記上流側空燃比がストイキ値以上となってから前記下流側空燃比が前記リーン側閾値に到達するまでの時間について積分することで算出される前記触媒における一度の吸蔵での酸素吸蔵量と、前記上流側空燃比とストイキ値との差分値を前記上流側空燃比がストイキ値以下となってから前記下流側空燃比が前記リッチ側閾値に到達するまでの時間について積分することで算出される前記触媒における一度の放出での酸素放出量との平均値として算出される前記触媒の平均酸素吸蔵量を、第2の前記診断閾値と比較することにより、前記触媒における酸素吸蔵能の劣化の度合いを診断する、
ことを特徴とする触媒劣化診断システム。
【請求項3】
内燃機関から排出された排ガスを浄化する触媒の、劣化度合いを診断する方法であって、
前記内燃機関から排出される前記排ガスの排気経路において、前記触媒から前記内燃機関に向かう側を前記触媒よりも上流側と定義し、前記上流側の反対側を前記触媒よりも下流側と定義し、
前記内燃機関から排出される前記排ガスの空燃比がストイキ値よりも大きいときの前記内燃機関の運転状態をリーン運転状態と称するとともに前記内燃機関から排出される前記排ガスの空燃比がストイキ値よりも小さいときの前記内燃機関の運転状態をリッチ運転状態と称し、かつ、
前記排気経路の前記触媒よりも前記下流側における前記排ガスの空燃比を下流側空燃比と称する場合において、
前記内燃機関に対する吸気および燃料噴射を所定の制御手段によって制御することにより、前記内燃機関が前記リーン運転状態にある場合において前記下流側空燃比が所定のリーン側閾値に到達したタイミングで、前記内燃機関を前記リッチ運転状態へと移行させ、前記内燃機関が前記リッチ運転状態にある場合において前記下流側空燃比が所定のリッチ側閾値に到達したタイミングからあらかじめ定めた所定時間が経過したタイミングで、前記内燃機関を前記リーン運転状態へと移行させることを、前記排ガスの温度を600℃以上の所定の診断温度に保ちつつ行う、診断運転工程と、
前記触媒の劣化度合いを診断する診断工程と、
を備え、
前記診断工程においては、前記リッチ運転状態にあるときの前記排気経路の前記触媒よりも前記下流側における前記排ガス中のNOxの濃度を、あらかじめ定められて所定の記憶手段に記憶されてなる第1の診断閾値と比較することにより、前記触媒におけるNOx還元能の劣化の度合いを診断する、
ことを特徴とする触媒劣化診断方法。
【請求項4】
請求項3に記載の触媒劣化診断方法であって、
前記診断工程においてはさらに、前記排気経路の前記触媒よりも前記上流側における空燃比である上流側空燃比とストイキ値との差分値を前記上流側空燃比がストイキ値以上となってから前記下流側空燃比が前記リーン側閾値に到達するまでの時間について積分することで算出される前記触媒における一度の吸蔵での酸素吸蔵量と、前記上流側空燃比とストイキ値との差分値を前記上流側空燃比がストイキ値以下となってから前記下流側空燃比が前記リッチ側閾値に到達するまでの時間について積分することで算出される前記触媒における一度の放出での酸素放出量との平均値として算出される前記触媒の平均酸素吸蔵量を、あらかじめ定められて前記記憶手段に記憶されてなる第2の診断閾値と比較することにより、前記触媒における酸素吸蔵能の劣化の度合いを診断する、
ことを特徴とする触媒劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の劣化度合いを診断するシステムおよび方法に関し、特に、内燃機関からの排ガスが導入される触媒のための診断システムおよび診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両(典型的には自動車)に搭載されてなるガソリンエンジンからは、その運転時、有害物質であるNOx(窒素酸化物)、THC(全炭化水素:Total Hydrocarbon)およびCO(一酸化炭素)を含有する排ガスが排出される。それゆえ、多くのガソリンエンジン車両には、これら3つの含有物を一括して除去する(浄化する)触媒、すなわち三元触媒(TWC:Three Way Catalyst)が、搭載されている。
【0003】
三元触媒は、Pd(パラジウム)、Pt(白金)、およびRh(ロジウム)等の貴金属からなり、主たる触媒作用を担う部分と、CeO2(セリア)を主としたセラミックスからなる、助触媒と位置付けられる部分とを有している。PdおよびPtには、排ガス中のHCおよびCOを酸化してCO2(二酸化炭素)およびH2O(水)を生成させる作用がある。また、PdおよびRhには、排ガス中のNOxを還元してN2(窒素)を生成させる作用がある。セリアには、O2(酸素)を吸着・脱離させる作用があり、TWCにおいては、HCおよびCOが酸化される際には必要な酸素がセリアから放出され、NOxが還元される際には生じた酸素がセリアに吸蔵(貯蔵)されるようになっている。
【0004】
ガソリンエンジンは、空燃比(A/F)が理論空燃比に等しいかあるいはその近傍の値となっており、エンジンシリンダ内へ導入される燃料が完全燃焼するストイキオメトリ(ストイキ)状態を中心としつつも、車両の状況によっては、A/Fがストイキ状態よりも高いリーン状態、あるいは、A/Fがストイキ状態よりも低いリッチ状態にも、適宜に移行しつつ運転される。そして、TWCは、このうちのストイキ状態において、HCおよびCOと、NOxとを全て、高い浄化率にて浄化できるようになっている。
【0005】
より具体的には、TWCにおけるNOxについての浄化率は、リッチ運転時(還元雰囲気)およびストイキ運転時では相対的に高く、リーン運転時(酸素過剰雰囲気)では相対的に低い。逆に、TWCにおけるHCおよびCOについての浄化率は、リーン運転時およびストイキ運転時では相対的に高く、リッチ運転時では相対的に低い。これは、リッチ運転時は排ガスの酸素含有量が低いのでNOxを還元させやく、リーン運転時は排ガスの酸素含有量が高いので、HCおよびCOを酸化させやすいからである。
【0006】
TWCは、長期的に使用を継続するうちに劣化していく。劣化の仕方には、さまざまな場合があるが、主たる劣化モードは、リッチおよびリーン時の全体的な浄化効率低下、リーン時の浄化効率低下、リッチ時の浄化効率低下などである。
【0007】
一方で、近年、自動車に関しては、法令上の要請により、OBD(車載故障診断:On-Board Diagnostics)の実施が義務づけられており、TWCもその対象である。
【0008】
TWCのOBDは、例えば、OSC(酸素貯蔵能力:Oxygen Storage Capacity)法によって行われ得る。これは、セリアにおける酸素吸蔵能(酸素貯蔵量)が高いほど、三元触媒の浄化能力が高く、TWCの劣化は、セリアにおける酸素吸蔵能(酸素貯蔵量)の劣化として現れる、という前提に基づいている。
【0009】
OSC法の一態様としてのCmax法がすでに公知である(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2006-17078号公報
【文献】特許第5835478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、Cmax法を初めとするOSC法ではあくまで、TWCに備わるセリアの酸素吸蔵能の劣化度合いを評価しているに過ぎず、浄化に直接に関わる酸化や還元を担う貴金属部分の劣化挙動を直接に把握することはできない。
【0012】
また、TWCに備わるセリアの酸素吸蔵量は、エンジンからの排ガスに含まれるHC、CO、NOx等のガス成分との相関が小さいという問題もある。
【0013】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、TWCの貴金属成分の劣化の度合いを好適に診断することが出来るシステムおよび方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、内燃機関から排出された排ガスを浄化する触媒の、劣化度合いを診断するシステムであって、前記内燃機関から排出される前記排ガスの排気経路において、前記触媒から前記内燃機関に向かう側が前記触媒よりも上流側と定義され、前記上流側の反対側が前記触媒よりも下流側と定義され、前記排気経路において前記触媒よりも前記下流側に設けられた下流側空燃比検出手段と、前記排気経路において前記触媒よりも前記下流側に設けられたNOx検出手段と、前記内燃機関に対する吸気および燃料噴射を制御することによって前記内燃機関の運転状態を制御する運転制御手段と、前記触媒の劣化度合いを診断する診断手段と、あらかじめ定められた診断閾値が記憶されてなる記憶手段と、を備え、前記内燃機関から排出される前記排ガスの空燃比がストイキ値よりも大きいときの前記内燃機関の運転状態をリーン運転状態と称するとともに前記内燃機関から排出される前記排ガスの空燃比がストイキ値よりも小さいときの前記内燃機関の運転状態をリッチ運転状態と称し、かつ、前記下流側空燃比検出手段における検出結果に基づき特定される前記排気経路の前記触媒よりも前記下流側における前記排ガスの空燃比を下流側空燃比と称する場合において、前記運転制御手段は、前記内燃機関が前記リーン運転状態にある場合において前記下流側空燃比が所定のリーン側閾値に到達したタイミングで、前記内燃機関を前記リッチ運転状態へと移行させ、前記内燃機関が前記リッチ運転状態にある場合において前記下流側空燃比が所定のリッチ側閾値に到達したタイミングからあらかじめ定めた所定時間が経過したタイミングで、前記内燃機関を前記リーン運転状態へと移行させることを、前記排ガスの温度を600℃以上の所定の診断温度に保ちつつ行う診断運転を、前記内燃機関に実行させ、前記診断手段は、前記リッチ運転状態にあるときの前記NOx検出手段における検出結果に基づいて特定される、前記排気経路の前記触媒の下流側におけるNOx濃度を、第1の前記診断閾値と比較することにより、前記触媒におけるNOx還元能の劣化の度合いを診断する、ことを特徴とする。
【0015】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係る触媒劣化診断システムであって、前記排気経路の前記触媒よりも前記上流側において前記排ガスの空燃比を検出する上流側空燃比検出手段、をさらに備えるとともに、前記上流側空燃比検出手段における空燃比検出値に基づいて特定される前記触媒の前記上流側における空燃比を上流側空燃比と称するとし、前記診断手段はさらに、前記上流側空燃比とストイキ値との差分値を前記上流側空燃比がストイキ値以上となってから前記下流側空燃比が前記リーン側閾値に到達するまでの時間について積分することで算出される前記触媒における一度の吸蔵での酸素吸蔵量と、前記上流側空燃比とストイキ値との差分値を前記上流側空燃比がストイキ値以下となってから前記下流側空燃比が前記リッチ側閾値に到達するまでの時間について積分することで算出される前記触媒における一度の放出での酸素放出量との平均値として算出される前記触媒の平均酸素吸蔵量を、第2の前記診断閾値と比較することにより、前記触媒における酸素吸蔵能の劣化の度合いを診断する、ことを特徴とする。
【0016】
本発明の第3の態様は、内燃機関から排出された排ガスを浄化する触媒の、劣化度合いを診断する方法であって、前記内燃機関から排出される前記排ガスの排気経路において、前記触媒から前記内燃機関に向かう側を前記触媒よりも上流側と定義し、前記上流側の反対側を前記触媒よりも下流側と定義し、前記内燃機関から排出される前記排ガスの空燃比がストイキ値よりも大きいときの前記内燃機関の運転状態をリーン運転状態と称するとともに前記内燃機関から排出される前記排ガスの空燃比がストイキ値よりも小さいときの前記内燃機関の運転状態をリッチ運転状態と称し、かつ、前記排気経路の前記触媒よりも前記下流側における前記排ガスの空燃比を下流側空燃比と称する場合において、前記内燃機関に対する吸気および燃料噴射を所定の制御手段によって制御することにより、前記内燃機関が前記リーン運転状態にある場合において前記下流側空燃比が所定のリーン側閾値に到達したタイミングで、前記内燃機関を前記リッチ運転状態へと移行させ、前記内燃機関が前記リッチ運転状態にある場合において前記下流側空燃比が所定のリッチ側閾値に到達したタイミングからあらかじめ定めた所定時間が経過したタイミングで、前記内燃機関を前記リーン運転状態へと移行させることを、前記排ガスの温度を600℃以上の所定の診断温度に保ちつつ行う、診断運転工程と、前記触媒の劣化度合いを診断する診断工程と、を備え、前記診断工程においては、前記リッチ運転状態にあるときの前記排気経路の前記触媒よりも前記下流側における前記排ガス中のNOxの濃度を、あらかじめ定められて所定の記憶手段に記憶されてなる第1の診断閾値と比較することにより、前記触媒におけるNOx還元能の劣化の度合いを診断する、ことを特徴とする。
【0017】
本発明の第4の態様は、第3の態様に係る触媒劣化診断方法であって、前記診断工程においてはさらに、前記排気経路の前記触媒よりも前記上流側における空燃比である上流側空燃比とストイキ値との差分値を前記上流側空燃比がストイキ値以上となってから前記下流側空燃比が前記リーン側閾値に到達するまでの時間について積分することで算出される前記触媒における一度の吸蔵での酸素吸蔵量と、前記上流側空燃比とストイキ値との差分値を前記上流側空燃比がストイキ値以下となってから前記下流側空燃比が前記リッチ側閾値に到達するまでの時間について積分することで算出される前記触媒における一度の放出での酸素放出量との平均値として算出される前記触媒の平均酸素吸蔵量を、あらかじめ定められて前記記憶手段に記憶されてなる第2の診断閾値と比較することにより、前記触媒における酸素吸蔵能の劣化の度合いを診断する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1ないし第4の態様によれば、三元触媒の貴金属成分が担うNOx還元能について、劣化の度合いを診断することが出来る。
【0019】
特に、第2および4の態様によれば、三元触媒について、NOx還元能のみならず、酸素吸蔵能についても、劣化の度合いを診断することが出来る。しかも、これらの診断は並行して行うことができ、かつ、両者の劣化の仕方には相関がないので、従来の手法に比べ、三元触媒の劣化の状態を、より詳細に把握することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】車両1000の構成を概略的に示す図である。
【
図2】本実施の形態に係る劣化診断を実行する際の、エンジン500の制御態様を、従来の一般的なCmax法におけるエンジン500の制御態様と対比的に示す図である。
【
図3】劣化状態の程度が異なる4つのTWC601それぞれを車両1000に搭載した場合についての、NOx濃度の時間変化を、排ガス温度ごとにまとめた図である。
【
図4】排ガス温度が600℃および700℃の場合についての、水熱エージング時間と、リッチ運転状態におけるNOx濃度の最大値との関係を示す図である。
【
図5】排ガス温度が600℃および700℃の場合についての、水熱エージング時間と、酸素吸蔵量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<システムの構成>
図1は、本実施の形態における車両(システム)1000の構成を概略的に示す図である。本実施の形態において、車両1000は、運転者DRによって運転される自動車である。
【0022】
車両1000は、内燃機関の一種であって動力源であるガソリンエンジン(以下、単にエンジンと称する)500と、エンジン500の内部(燃焼室)に燃料を噴射する燃料噴射装置501と、エンジン500に対して空気を供給する吸気部401と、エンジン500から排出される排ガスを浄化するTWC(三元触媒)601と、車両1000の各部の動作を制御するECU(電子制御装置)100と、運転者DRに対して車両1000に関する種々の情報を提示するためのインパネ(インストルメントパネル)その他の表示部200と、車両1000を動作させるに際し運転者DRによって操作される種々の操作部の一つであるアクセルペダル300と、を主として備える。なお、操作部としては他に、ハンドルや、トランスミッション用のシフトレバー(セレクトレバー)や、ブレーキペダル(いずれも図示省略)などが例示される。
【0023】
吸気部401とTWC601とはそれぞれ、エンジン500と相異なる配管Pによって接続されてなる。以降においては、吸気部401からエンジン500に至るガスの経路を供給側あるいは吸気経路と称し、エンジン500からTWC601に向かう側のガスの経路を排気側あるいは排気経路と称する。また、エンジン500から排出されてTWC601に導入され、さらにTWC601から排出されるという排ガスの流れに基づき、TWC601からエンジン500に向かう側を上流側と称し、その反対側を下流側と称する。
【0024】
車両1000においては概略、吸気部401を通じて外部から取り込まれた空気(吸気)と燃料噴射装置501から噴射された燃料との混合気を、エンジン500の内部で圧縮し、係る圧縮された混合気をスパークプラグ(図示省略)で点火することで爆発・燃焼させて膨張させ、その際に生じる圧力でピストン(図示省略)を移動させることで、動力を発生させるようになっている。そして係る動力発生後のガスが排ガスとして排気経路に排出され、TWC601により浄化されるようになっている。
【0025】
排ガスには、有害物質であるNOx(窒素酸化物)、THC(全炭化水素:Total Hydrocarbon)およびCO(一酸化炭素)が含まれる。TWC601は、これら3つの含有物を、それぞれに高い浄化率にて一括して浄化する(除去する)能力を有してなる。
【0026】
TWC601は、Pd(パラジウム)、Pt(白金)、およびRh(ロジウム)等の貴金属からなり、主たる触媒作用を担う部分と、CeO2(セリア)を主としたセラミックスからなる、助触媒と位置付けられる部分とを有している。PdおよびPtには、排ガス中のHCおよびCOを酸化してCO2(二酸化炭素)およびH2O(水)を生成させる作用がある。PdおよびRhには、排ガス中のNOxを還元してN2(窒素)を生成させる作用がある。セリアには、O2(酸素)を吸着・脱離させる作用があり、TWC601においては、HCおよびCOが酸化される際には必要な酸素がセリアから放出され、NOxが還元される際には生じた酸素がセリアに吸蔵(貯蔵)されるようになっている。
【0027】
本実施の形態において、TWC601は、劣化していない正常な状態で、エンジン500がストイキ状態(排ガスの空燃比がストイキ値(約14.7)の状態)あるいはリッチ状態(排ガスの空燃比がストイキ値よりも小さい状態)にあるときにNOxを90%以上の高い浄化率にて浄化(N2に還元)し、エンジン500がストイキ状態あるいはリーン状態(排ガスの空燃比がストイキ値よりも大きい状態)にあるときにHCおよびCOを90%以上の高い浄化率にて浄化(H2OやCO2へと酸化)する能力を、有してなるものとする。
【0028】
車両1000はさらに、TWC601よりも上流側であってエンジン500との間を接続する配管Pに設けられた上流側空燃比検出手段701と、TWC601よりも下流側の配管Pに設けられた下流側空燃比検出手段702およびNOx検出手段703とを備える。なお、
図1においては下流側空燃比検出手段702とNOx検出手段703とを別体にて示しているが、両者は一体に構成されていてもよく、さらには一の検出手段が両者
における検出を並行して
行える態様であってもよい。
【0029】
上流側空燃比検出手段701および下流側空燃比検出手段702はそれぞれ、TWC601の上流側および下流側における排ガスの空燃比を測定するために配置されている。NOx検出手段703は、TWC601の下流側における排ガス中のNOxの濃度を測定するために配置されている。これらの検出手段からの出力は、車両1000の運転制御のために用いられるが、本実施の形態においては、これに加えて、TWC601が有する浄化能(触媒能)の劣化の度合いを診断する際にも用いられる。
【0030】
具体的には、本実施の形態においては、これら上流側空燃比検出手段701、下流側空燃比検出手段702、およびNOx検出手段703と、ECU100とを、主たる構成要素として、TWC601の劣化の度合いを診断する触媒劣化診断システムDS1が構成されている。触媒劣化診断システムDS1による診断の詳細については後述する。
【0031】
ECU100は、少なくとも1つのIC(集積回路)を含む電子回路によって構成される。電子回路は少なくとも1つのプロセッサ(図示せず)を含む。ECU100が有する各機能は、プロセッサがソフトウェアを実行することによって実現され得る。ソフトウェアは、プログラムとして記述され、メモリ(図示せず)に格納される。プログラムを格納するためのメモリは、ECU100に含まれていてよく、例えば、不揮発性または揮発性の半導体メモリである。
【0032】
ECU100は、機能的構成要素として、上流側空燃比取得部110Aと、下流側空燃比取得部110Bと、燃料噴射制御部120と、吸気制御部130と、統括制御部140と、診断運転制御部150と、NOx濃度取得部160と、酸素吸蔵量演算部170と、診断部180と、記憶部190とを備える。
【0033】
上流側空燃比取得部110Aと下流側空燃比取得部110Bとはそれぞれ、上流側空燃比検出手段701と下流側空燃比検出手段702からの空燃比信号を取得する。空燃比信号は必ずしも空燃比そのものとして取得される必要はなく、当該空燃比に応じた電圧値や電流値として取得される態様であってもよい。
【0034】
なお、以降においては、上流側空燃比検出手段701における検出結果に基づいて特定されるTWC601の上流側における空燃比を上流側A/Fと称し、下流側空燃比検出手段702における検出結果に基づいて特定されるTWC601の下流側における空燃比を下流側A/Fと称する。
【0035】
燃料噴射制御部120は、運転者DRによるアクセルペダル300の操作状態などに応じた統括制御部140からの制御指示のもと、燃料噴射装置501からの燃料の噴射を制御する。
【0036】
吸気制御部130は、運転者DRによるアクセルペダル300の操作状態などに応じた統括制御部140からの制御指示のもと、吸気部401からの吸気を制御する。
【0037】
統括制御部140は、運転者DRによりなされる、アクセルペダル300その他の操作部に対する操作の状態に応じて、ECU100の各制御部に対し制御指示を与えることにより、車両1000全体の動作を統括的に制御する。
【0038】
診断運転制御部150は、統括制御部140からの実行指示のもと、後述するTWC601の劣化診断を実行する際の、車両1000の運転を制御する。
【0039】
NOx濃度取得部160は、NOx検出手段703からNOx濃度信号を取得する。なお、NOx濃度信号の示す値(NOx濃度信号値)は必ずしも濃度値そのものである必要はなく、当該濃度値に応じた電圧値や電流値であってもよい。なお、以降においては、NOx検出手段703における検出結果に基づいて特定されるTWC601の下流側におけるNOx濃度を単に、(排ガスの)NOx濃度と称する。
【0040】
酸素吸蔵量演算部170は、診断運転制御部150による制御のもと、上流側空燃比検出手段701から与えられる空燃比信号に基づいて、TWC601における酸素の吸蔵量を演算する。
【0041】
診断部180は、診断運転制御部150による制御のもと、NOx濃度取得部160によって取得されるNOx濃度信号と、酸素吸蔵量演算部170において演算されるTWC601における酸素の吸蔵量とに基づいて、TWC601の劣化の度合いについて診断する。
【0042】
記憶部190は、車両1000の運転に際して必要な種々のプログラムやデータ、劣化診断の際の運転条件や診断閾値など、種々の情報を記憶する。
【0043】
車両1000においては、下流側空燃比検出手段702およびNOx検出手段703のさらに下流側に、追加触媒602が設けられていてもよい。追加触媒602は例えば、もう一つのTWC、GPF(ガソリン・パティキュレート・フィルター:Gasoline Particulate Filter)、またはSCR(選択還元触媒:Selective Catalytic Reduction)などである。係る場合、エンジン500からの排ガスが、より好適に浄化される。
【0044】
<TWCの劣化診断>
次に、本実施の形態において行われるTWC601の劣化診断について説明する。
図2は、本実施の形態に係る劣化診断を実行する際の、エンジン500の制御態様を、従来の一般的なCmax法(以下、単にCmax法と称する)におけるエンジン500の制御態様と対比的に示す図である。
【0045】
具体的には、
図2(a)がCmax法の場合における上流側A/Fの制御目標値と、下流側A/Fの実測値と、NOx濃度の実測値との時間変化を示しており、
図2(b)が本実施の形態に係る劣化診断におけるそれらの時間変化を示している。
【0046】
まず、Cmax法について説明する。Cmax法では、
図2(a)に示すように、上流側A/Fの制御目標値がリーン状態における設定値AFaとリッチ状態における設定値AFbとの間で、ステップ状に変化するよう、エンジン500の運転状態を制御する、アクティブ制御が実行される。このとき、排ガス温度は、600℃以上であって、当該アクティブ制御が可能な所定温度とされる(実際の局面では当該温度±30℃程度の温度幅は許容されてよい)。ただし、少なくとも現状では、排ガス温度が900℃を超えるとアクティブ制御が困難となるため、実質的には排ガス温度の上限値は900℃となる。
【0047】
以降においては、上流側A/Fの制御目標値をAFaとするエンジン500の運転状態をリーン運転状態と称し、上流側A/Fの制御目標値をAFbとするエンジン500の運転状態をリッチ運転状態と称する。
【0048】
より詳細には、リーン運転状態とされてからしばらくの間は、エンジン500からの排ガスに含まれる過剰な酸素はTWC601に備わるセリアに吸蔵されるため、下流側A/Fはリッチ状態のまま保たれる。その後、セリアにおける酸素吸蔵量が飽和すると、排ガスに含まれる酸素はセリアによって吸蔵されずにTWC601の下流側へとそのまま流れていくため、下流側A/Fの実測値が徐々に増大する。そして、係る下流側A/Fの実測値がリーン側閾値THaに到達したタイミング(
図2(a)においては実線矢印AR1にて示す時刻ta1、ta2、ta3、・・・)で、上流側A/Fの制御目標値がAFbに設定されて、リッチ運転状態に移行する。
【0049】
すると今度は、エンジン500からの排ガスに含まれる酸素の量がストイキ状態よりも少なくなるため、TWC601においては、セリアに吸蔵されていた酸素が放出される。それゆえ、しばらくの間は、下流側A/Fはリーン状態のまま保たれる。やがて、セリアから全ての酸素が放出されると、いったん増大した下流側A/Fの実測値が徐々に減少する。
【0050】
そして、係る下流側A/Fの実測値がリッチ側閾値THbに到達したタイミング(
図2(a)においては一点鎖線矢印AR2にて示す時刻tb1、tb2、tb3、・・・)で、上流側A/Fの制御目標値が再びAFaに設定されて、リーン運転状態に移行する。
【0051】
なお、
図2(a)においては図示の簡単のため、下流側A/Fの実測値がリーン側閾値THaに到達した後リッチ側閾値THbに到達するまでの時間(tb1-ta1、tb2-ta2、tb3-ta3、・・・)と、係る実測値がリッチ側閾値THbに到達した後リーン側閾値THaに到達するまでの時間(ta2-tb1、ta3-tb2、・・・)とを全て同じとしているが、実際には、これらの時間は相異なることがある。ただし、これらの時間は通常、せいぜい数秒程度である。
【0052】
以降は、リーン運転状態とリッチ運転状態とが必要に応じて繰り返される。そして、係る態様にてリーン運転状態とリッチ運転状態とを所定の回数あるいは時間繰り返した際の上流側A/Fの実測値に基づいて(具体的には所定時間についての時間積分値に基づいて)、TWC601に備わるセリアの酸素吸蔵量が見積もられる。そして、得られた酸素吸蔵量の値に基づいて、TWC601の劣化の度合いが診断される。換言すれば、Cmax法においては、セリアの酸素吸蔵能力が低下していることをもって、TWC601全体としての機能が劣化しているとの診断がなされるようになっている。
【0053】
次に、本実施の形態に係る劣化診断について説明する。本実施の形態に係る劣化診断は、車両1000に備わる触媒劣化診断システムDS1によって実行される。
【0054】
本実施の形態に係る劣化診断は、リーン運転状態とリッチ運転状態とが繰り返される点、および、リーン運転状態からリッチ運転状態への移行の仕方については、従来のCmax法と同様であるが、リッチ運転状態からリーン運転状態への移行に特徴を有する。係る診断の際のエンジン500の制御は、診断運転制御部150により実行される。なお、本実施の形態に係る劣化診断に際しても、排ガス温度は600℃以上の所定温度とされる(実際の局面では当該温度±30℃程度の温度幅は許容されてよい)。係る劣化診断の際の排ガスの温度を、診断温度と称する。ただし、上述したように少なくとも現状では排ガス温度が900℃を超えるとアクティブ制御が困難となるため、係る診断温度についても、実質的には上限値は900℃となる。
【0055】
具体的には、
図2(b)に示すように、リーン運転状態からリッチ運転状態への移行については、従来のCmax法と同様、下流側A/Fの実測値がリーン側閾値THaに到達したタイミング(
図2(b)においては実線矢印AR3にて示す時刻tc1、tc2、・・・)で、上流側A/Fの制御目標値がAFbに設定されて、リッチ運転状態に移行する。
【0056】
なお、下流側A/Fの実測値は、下流側空燃比検出手段702がその検出値から算出した値を下流側空燃比取得部110Bが取得し、診断運転制御部150に与える態様であってもよいし、下流側空燃比検出手段702における検出値を取得した下流側空燃比取得部110Bが算出して診断運転制御部150に与える態様であってもよいし、当該実測値に相当する空燃比信号が下流側空燃比検出手段702から下流側空燃比取得部110Bを通じて診断運転制御部150に与えられ、診断運転制御部150が当該信号値を実測値に相当する値として処理する態様であってもよい。
【0057】
リッチ運転状態が継続されるとやがて、Cmax法の場合と同様、セリアに吸蔵されていた酸素は全て放出され、あるタイミング(
図2(b)において
は時刻td1、td2、・・・)で、下流側A/Fの実測値がリッチ側閾値THbに到達する。しかしながら、本実施の形態に係る劣化診断においては、このタイミングではまだ、リーン運転状態には移行せず(
図2(b)においてはこれをバツ印CRにて示している)、当該タイミングからあらかじめ定めた所定の時間Δt経過したタイミング(
図2(b)においては一点鎖線矢印AR4にて示す時刻te1、te2、・・・)で、リーン運転状態へと移行するようにする。そして、以降は同様に、リーン運転状態とリッチ運転状態とを繰り返すようにする。ここで時間Δtは、あらかじめ実験的に定められる値であり、1秒から5秒程度とされる。
【0058】
このように、リッチ運転状態を従来のCmax法の場合よりも長く継続すると、
図2(b)の最下段に示すように、リッチ運転状態が継続している間におけるNOx濃度の挙動はTWC601の個体によって様々であり、実線にて示すようにほぼゼロを保って推移する場合もあれば、破線、一点鎖線、二点鎖線に
て示すように、時間の経過とともに、NOx濃度が徐々に増大する傾向がみられる場合もある。しかも、一点鎖線や二点鎖線にて示す場合のように、リッチ運転状態に移行後直ちに、NOx濃度値が正の値を取る場合もある。
【0059】
NOx検出手段703によって検出されるNOxは、TWC601において浄化されずに下流側へと排出されたものにほかならない。本発明の発明者が鋭意検討した結果、排ガスの温度が同じであれば、TWC601の劣化が進行しているほど、矢印AR5にて示すように、NOx濃度の値は大きくなる傾向がある、という知見が得られた。これはすなわち、リッチ運転状態におけるNOx濃度と、TWC601のNOx還元能に係る劣化の度合いの間に、相関があることを意味している。
【0060】
一方で、リーン運転状態におけるNOx濃度については、仮に下流側A/Fの実測値がリーン側閾値THaに到達した以降もリーン運転状態を継続したとしても、TWC601の劣化の度合いとの間に特段の相関はみられないことも、確認されている。
【0061】
本実施の形態においては、以上の知見に基づき、車両1000に備わる触媒劣化診断システムDS1によって、リーン運転状態からリッチ運転状態に移行した後、再びリーン運転状態とされるまでの間に検出されるNOxの濃度に基づいて、TWC601の(より詳細には、貴金属成分であるPdおよびRhの)NOx還元能に係る劣化の度合いを診断する。
【0062】
具体的には、触媒劣化診断システムDS1においてはまず、診断運転制御部150による制御のもと、排ガスの温度を600℃~900℃の範囲内の診断温度に保ちつつ、上述のように、下流側A/Fの実測値がリーン側閾値THaに到達したタイミングでのリーン運転状態とからリッチ運転状態への移行と、下流側A/Fの実測値がリッチ側閾値THbに到達したタイミングから所定の時間Δt経過したタイミングでのリッチ運転状態とからリーン運転状態への移行とが、繰り返されるようにする。係る態様でのエンジン500の制御(アクティブ制御)を、診断運転と称する。
【0063】
そして、これに並行して、NOx濃度取得部160は、エンジン500が診断運転の状態にあるとき、少なくともそのうちのリッチ運転状態の間、NOx検出手段703からNOx濃度信号を取得し、その信号値を診断部180に与える。
【0064】
診断部180は、与えられたNOx濃度信号値と記憶部190にあらかじめ記憶されている閾値(第1の閾値)とを比較し、NOx濃度信号値が閾値を超えていれば、TWC601のNOx還元能に許容限度を超えた劣化が生じていると診断し、NOx濃度信号値が閾値以下であれば、TWC601のNOx還元能には許容限度を超えた劣化は生じていないと診断する。当該閾値は、診断部180に与えられるNOx信号値の形式に応じた形式および値にて、記述されている。なお、リッチ運転状態となる都度取得されるNOx濃度信号値の平均値が、閾値と比較される態様であってもよい。あるいは、閾値が段階的に設定され、それぞれの閾値とNOx濃度値とが比較されることで、診断対象たるTWC601におけるNOx還元能の劣化の度合いを、段階的に診断する態様であってもよい。
【0065】
なお、上述の説明からもわかるように、Cmax法と本実施の形態に係る劣化診断との端的な相違の1つは、エンジン500をリッチ運転状態に保つ時間の相違である。それゆえ、TWC601におけるNOx還元能の劣化の度合いが同じであるならば、Cmax法の場合のようにリッチ運転状態の継続時間が短い場合であっても、実際にはTWC601から下流側へのNOxの流出は生じているはずである。従って、一見すると、Cmax法によりエンジン500の運転状態を制御しつつ、NOx濃度を測定して劣化診断を行うことも、可能なようにも見受けられる。
【0066】
しかしながら、リッチ運転状態の時間が短いことや、NOx検出手段703の応答性や検出誤差などを鑑みると、TWC601におけるNOx還元能が相当程度劣化していない限りは、
図2(a)の最下段に示すように、リッチ運転状態におけるNOx濃度は通常、ほぼゼロもしくはそれに近い値となってしまう可能性が高い。それゆえ、Cmax法と同じようにエンジン500の運転状態を制御したとしても、NOx還元能の診断を正確に行うことは難しい。
【0067】
一方で、本実施の形態に係る劣化診断においては、Cmax法と同様、TWC601に備わるセリアの酸素吸蔵量を見積もり、その値に基づいて、セリアの酸素吸蔵能力の劣化の度合いを診断することも可能となっている。
【0068】
具体的には、
図2(b)の最上段において破線にて示す、エンジン500が診断運転の状態にあるときの上流側A/Fの実測値とストイキ値(約14.7)との差分値を、エンジン500がリーン運転状態にある時間、より詳細には、上流側A/Fの制御目標値がリーン側の設定値AFaに移行した後、上流側A/Fの実測値がストイキ値以上となってからリッチ側の設定値AFbに移行するまで(下流側A/Fの実測値がリーン閾値THaに達するまで)の時間について積分することで得られる値が、TWC601に備わるセリアにおける一度の吸蔵での酸素吸蔵量に相当し、当該差分値を、エンジン500がリッチ運転状態にあるうち、上流側A/Fの実測値がストイキ値以下となってから下流側A/Fの実測値がリッチ閾値THbに達するまでの時間について積分することで得られる値の絶対値が、一度の放出での酸素放出量に相当することを利用する。例えば、
図2(b)の斜線部M1の面積が、一度の吸蔵での酸素吸蔵量に該当し、斜線部M2の面積の絶対値が、一度の放出での酸素放出量に該当することになる。
【0069】
そして、それら一度の吸蔵での酸素吸蔵量と一度の放出での酸素放出量に相当する面積値を、診断運転が継続しリーン運転状態とリッチ運転状態との間の反転が繰り返される都度算出し、得られた全ての算出値の平均値である平均酸素吸蔵量を、TWC601に備わるセリアの酸素吸蔵能を示す、酸素吸蔵量であるとする。
【0070】
係る態様にて算出される酸素吸蔵量は、従来のCmax法にて算出される酸素吸蔵能と同等のものである。
【0071】
それゆえ、触媒劣化診断システムDS1においては、診断運転制御部150による制御のもと、エンジン500が診断運転の状態とされると、上述したNOx濃度取得部160によるNOx濃度信号の取得と並行して、酸素吸蔵量演算部170が、上流側空燃比検出手段701からの空燃比信号に基づき、セリアにおける酸素吸蔵量および酸素放出量を上述の態様にて繰り返し算出し、その平均値である平均酸素吸蔵量を算出して診断部180に与える。
【0072】
診断部180は、上述したNOx還元能の診断と並行して、与えられた平均酸素吸蔵量と記憶部190にあらかじめ記憶されている閾値(第2の閾値)とを比較し、平均酸素吸蔵量が閾値を下回っていれば、TWC601の酸素吸蔵能に許容限度を超えた劣化が生じていると診断し、平均酸素吸蔵量が閾値以上であれば、TWC601の酸素吸蔵能には許容限度を超えた劣化は生じていないと診断する。あるいは、閾値が酸素吸蔵能の劣化の度合いに対応させて段階的に設定され、それぞれの閾値と平均酸素吸蔵量とが比較されることで、診断対象たるTWC601における酸素吸蔵能の劣化の度合いを、段階的に診断する態様であってもよい。
【0073】
このように、本実施の形態に係る触媒劣化診断システムDS1においては、TWC601の劣化診断として、NOx還元能の診断と、従来と同様の酸素吸蔵能の診断とを、並行して行うことができる。しかも、本発明の発明者が鋭意検討したところ、両者の診断結果の間には、必ずしも相関はみられないことが確認されている。このことは、本実施の形態に係る触媒劣化診断システムDS1において行う劣化診断の方が、酸素吸蔵能のみを指標とするCmax法による劣化診断よりも、TWC601の劣化状態をより適切に把握できることを意味する。
【0074】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、従来のCmax法と同様に、エンジンにおいてリーン運転状態とリッチ運転状態とを交互に繰り返すとともに、リッチ運転状態からリーン運転状態への移行は、TWCの下流側における空燃比の実測値がリッチ側閾値に到達してから所定時間経過した後に行うようにしたうえで、リッチ運転状態にあるときにTWCの下流側においてNOxを検出し、これに基づいて特定されるNOx濃度値の大きさを所定の閾値と比較することで、TWCのNOx還元能について、劣化の度合いを診断することが出来る。
【0075】
加えて、TWCの上流側における空燃比の実測値を時間積分した値に基づいてTWCの酸素吸蔵量を算出し、その大きさを閾値と比較することで、TWCの酸素吸蔵能についても、劣化の度合いを診断することが出来る。
【0076】
しかも、これらのNOx還元能と酸素吸蔵能の診断は並行して行うことができ、かつ、両者の劣化の仕方には相関がないので、本実施の形態によれば、従来のCmax法に比べ、TWCの劣化の状態を、より詳細に把握することが出来る。
【実施例】
【0077】
(実施例1)
劣化の度合いが異なる4つのTWC601を用意し、それぞれを実際の車両1000に搭載して、エンジン500のアクティブ制御運転を行い、それぞれのTWC601について、下流側でのNOx濃度の挙動を確認した。
【0078】
車両1000としては、エンジン500の排気量が4.6Lのガソリン車(V8気筒ノンターボ)を使用した。TWC601としては、新品(以下、freshもしくはfresh品とも称する)と、程度の異なる劣化状態を模擬的に実現するべく、fresh品に対し1000℃でそれぞれ2時間、4時間、10時間水熱エージングした3つの水熱エージング品とを用意した。水熱エージング時間の長いTWC601ほど、劣化の度合いが顕著なものに相当する。なお、水熱エージングは、O2を2%、H2Oを10%含み、残余がN2である雰囲気で行った。
【0079】
また、上流側空燃比検出手段701および下流側空燃比検出手段702には公知の空燃比センサを用いて、NOx検出手段703としては質量分析計を用いた。
【0080】
アクティブ制御運転は、エンジン500の回転数を2000rpmに保ちつつ、空気過剰率λ=1.04のリーン運転状態とλ=0.96のリッチ運転状態とを30秒ずつ交互に繰り返すことにより行った。すなわち、AFa=1.04×14.7≒15.29とし、AFb=0.96×14.7≒14.11とした。なお、排ガスの温度は、400℃、500℃、600℃、および700℃の4水準に違えた。それぞれの排ガス温度を実現するべく、燃料噴射装置501からの燃料噴射量と、吸気部401からの吸気とは、可変に制御した。
【0081】
図3は、4つのTWC601それぞれを車両1000に搭載した場合についての、NOx濃度の時間変化を、排ガス温度ごとにまとめた図である。
【0082】
図3に示したように、排ガス温度が600℃の場合には、TWCの違いによらずリーン運転状態において高いNOx濃度が検出されるとともに、リッチ運転状態においても、fresh品を除き、NOxが検出された。また、排ガス温度が700℃の場合においても、わずかながら、リッチ運転状態においてNOxが検出された。一方、排ガス温度が400℃および500℃の場合には、水熱エージングしたTWCを用いた場合であっても、リッチ運転状態においてNOxは検出されなかった。
【0083】
図4は、排ガス温度が600℃および700℃の場合についての、水熱エージング時間(
図4では「触媒エージング時間」と記載)と、リッチ運転状態におけるNOx濃度の最大値との関係を示す図である。なお、「触媒エージング時間」が0時間(0hr)のデータは、fresh品のデータである。
【0084】
図4からは、それぞれの場合について、水熱エージング時間が大きくなるほど、NOx濃度が大きくなる傾向があることがわかる。
【0085】
係る結果は、上述の実施の形態のように、リーン運転状態とリッチ運転状態とを交互に繰り返すアクティブ制御におけるリッチ運転状態の時間を、通常のCmax法におけるアクティブ制御においてリッチ運転状態となる時間(せいぜい数秒程度)に比して、十分に長くすることで(本実施例では30秒)、TWCのNOx還元能について診断することが可能であることを示唆している。
【0086】
(実施例2)
実施例1において用いた、(模擬的な)劣化状態の相異なる4種類のTWC601につき、実施例1と同じ車両1000に搭載し、従来のCmax法により、排ガス温度を600℃および700℃とした場合の酸素吸蔵量を測定した。アクティブ制御運転は、エンジン500の回転数を2000rpmに保ちつつ行った。それぞれの排ガス温度を実現するべく、燃料噴射装置501からの燃料噴射量と、吸気部401からの吸気とは、可変に制御した。また、リーン運転状態とリッチ運転状態とは10回ずつ行われるようにし、全20回の酸素吸蔵もしくは酸素放出の際の酸素吸蔵量もしくは酸素放出量の平均値を、それぞれのTWCの酸素吸蔵量とした。それぞれの運転状態の継続時間は、概ね3秒程度であった。
【0087】
図5は、排ガス温度が600℃および700℃の場合についての、水熱エージング時間(
図5では「触媒エージング時間」と記載)と、酸素吸蔵量(
図5においては「OSC」と記載)との関係を示す図である。
【0088】
図5(a)に示す排ガス温度が600℃の場合、および、
図5(b)に示す排ガス温度が700℃の場合のいずれにおいても、fresh品のみ他の3つの水熱エージング品に比して酸素吸蔵量が大きく、3つの水熱エージング品の間においては顕著な差異はみられなかった。係る結果は、TWC601の酸素吸蔵量は、使用を開始後、比較的短時間で低下し、その後はあまり変化しないことを示している。
【0089】
そして、係る酸素吸蔵量の変化は、
図4に示したNOx濃度の変化と、相関を有していないと判断される。このことは、従来行われていた酸素吸蔵能力の評価のみでは、TWC601の劣化の度合いを必ずしも妥当に判断できないこと、および、酸素吸蔵能とNOx還元能とを並行に評価することが可能な、上述の実施の形態の診断手法の方が、TWC601の劣化の状態をより的確に診断できることを指し示している。
【符号の説明】
【0090】
100 ECU
300 アクセルペダル
401 吸気部
500 エンジン
501 燃料噴射装置
601 TWC
701 上流側空燃比検出手段
702 下流側空燃比検出手段
703 NOx検出手段
1000 車両
DS1 触媒劣化診断システム
P 配管
THa (下流側A/Fの)リーン側閾値
THb (下流側A/Fの)リッチ側閾値