(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】中性子捕捉療法システム
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
A61N5/10 M
A61N5/10 H
(21)【出願番号】P 2018180610
(22)【出願日】2018-09-26
【審査請求日】2021-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】武川 哲也
【審査官】宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-009393(JP,A)
【文献】特表2002-528168(JP,A)
【文献】特表2015-531289(JP,A)
【文献】国際公開第2006/088104(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子線を患者へ照射する中性子捕捉療法システムであって、
前記患者が載置される載置台と、
前記載置台に載置された前記患者へ前記中性子線を照射する中性子線照射部と、
前記患者の位置を検出する位置検出部と、を備え、
前記位置検出部は、
前記載置台へ向けて第1の電磁波を放出する放出部と、
前記載置台に載置された前記患者に取り付けられ、前記放出部からの前記第1の電磁波を反射、または前記第1の電磁波を受けて当該第1の電磁波と異なる第2の電磁波を放出する第1のマーカー部と、
前記第1のマーカー部からの反射波、または前記第2の電磁波を取得し、三次元座標における前記第1のマーカー部の位置を演算する演算部と、を備え
、
前記位置検出部は、前記中性子線照射部及び載置台の少なくとも一方に取り付けられ、前記放出部からの前記第1の電磁波を反射、または前記第1の電磁波を受けて当該第1の電磁波と異なる第3の電磁波を放出する第2のマーカー部を更に備え、
前記演算部は、前記第2のマーカー部からの反射波、または前記第3の電磁波を取得し、三次元座標における前記第2のマーカー部の位置を演算し、
前記演算部は、前記第1のマーカー部の位置、及び前記第2のマーカー部の位置に基づいて、前記患者と前記中性子線照射部との相対位置関係を演算する中性子捕捉療法システム。
【請求項2】
前記放出部は、前記第1の電磁波として赤外線を放射し、
前記第1のマーカー部は、前記赤外線を反射する、請求項
1に記載の中性子捕捉療法システム。
【請求項3】
前記第2のマーカー部は、前記中性子線照射のうち、前記中性子線を通過させる照射孔、または前記照射孔が形成された壁部の表面に少なくとも2つ設けられる、
請求項1または2に記載の中性子捕捉療法システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子捕捉療法システムに関する。
【背景技術】
【0002】
中性子線を患者へ照射する中性子捕捉療法システムとして、特許文献1に記載されたものが知られている。この中性子捕捉療法システムは、患者が載置される載置台と、載置台に載置された患者へ中性子線を照射する中性子線照射部と、を備える。載置台に設置された患者と中性子線照射部との位置合わせは、レーザーセンサを用いて行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の中性子捕捉療法システムでは、レーザーセンサを用いて患者の位置合わせを行っているため、位置精度を定量化することができない。従って、患者の位置合わせにおいて、改良の余地がある。
【0005】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、中性子線照射部に対する患者の位置精度を向上できる中性子捕捉療法システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る中性子捕捉療法システムは、中性子線を患者へ照射する中性子捕捉療法システムであって、患者が載置される載置台と、載置台に載置された患者へ中性子線を照射する中性子線照射部と、患者の位置を検出する位置検出部と、を備え、位置検出部は、載置台へ向けて第1の電磁波を放出する放出部と、載置台に載置された患者に取り付けられ、放出部からの第1の電磁波を反射、または第1の電磁波を受けて当該第1の電磁波と異なる第2の電磁波を放出する第1のマーカー部と、第1のマーカー部からの反射波、または第2の電磁波を取得し、三次元座標における第1のマーカー部の位置を演算する演算部と、を備える。
【0007】
上記の中性子捕捉療法システムは、患者の位置を検出する位置検出部を備える。位置検出部は、載置台へ向けて第1の電磁波を放出する放出部と、載置台に載置された患者に取り付けられ、放出部からの第1の電磁波を反射、または第1の電磁波を受けて当該第1の電磁波と異なる第2の電磁波を放出する第1のマーカー部と、第1のマーカー部からの反射波、または第2の電磁波を取得し、三次元座標における第1のマーカー部の位置を演算する演算部と、を備える。例えば、載置台に載置されている患者をCT装置で検出しようとする場合、CT装置と中性子線照射部とが干渉してしまうため、当該測定を行うことはできない。これに対し、位置検出部は、電磁波を用いて位置検出を行うため、上述の様な装置間の干渉を回避した状態で、第1のマーカー部の位置を定量的に取得することができる。従って、位置検出部は、第1のマーカー部の位置に基づいて、三次元座標における患者の位置を定量的に取得することができる。これにより、位置検出部は、患者が中性子線照射部に対してずれているかどうかを三次元的に定量的に判定することができ、ずれている場合は、ずれの方向及びずれ量を定量的に取得することができる。以上により、中性子線照射部に対する患者の位置精度を向上できる。
【0008】
位置検出部は、中性子線照射部及び載置台の少なくとも一方に取り付けられ、放出部からの第1の電磁波を反射、または第1の電磁波を受けて当該第1の電磁波と異なる第3の電磁波を放出する第2のマーカー部を更に備え、演算部は、第2のマーカー部からの反射波、または第3の電磁波を取得し、三次元座標における第2のマーカー部の位置を演算してよい。中性子捕捉療法システムの中で、中性子線照射部及び載置台は、治療中に位置が固定されるものである。従って、位置検出部は、第2のマーカー部の位置に基づいて、三次元座標における中性子線照射部の位置を定量的に取得できる。これにより、位置検出部は、中性子線照射部に対する患者のずれを判定し易くなる。
【0009】
演算部は、第1のマーカー部の位置、及び第2のマーカー部の位置に基づいて、患者と中性子線照射部との相対位置関係を演算してよい。これにより、位置検出部は、三次元座標における、患者と中性子線照射部との相対位置関係に基づいて、患者の中性子線照射部に対するずれを判定することができる。
【0010】
放出部は、第1の電磁波として赤外線を放射し、第1のマーカー部は、赤外線を反射してよい。電磁波として赤外線を用いることで、機器に影響を及ぼすこと無く、正確に第1のマーカー部の位置を取得できる。
【0011】
第2のマーカー部は、中性子線照射のうち、中性子線を通過させる照射孔、または照射孔が形成された壁部の表面に少なくとも2つ設けられてよい。この場合、演算部は、中性子線が出射される照射孔付近の少なくとも2つの第2のマーカー部に基づいて、照射孔の中心点を精度良く取得することができる。照射孔の中心点に対する患者のずれを判定することで、患者に対してより正確に中性子線を照射することができる。
【0012】
本発明の一形態に係る中性子捕捉療法システムは、中性子線を患者へ照射する中性子捕捉療法システムであって、患者が載置される載置台と、載置台に載置された患者へ中性子線を照射する中性子線照射部と、患者の位置を検出する位置検出部と、を備え、位置検出部は、モーションキャプチャシステムによって構成される。
【0013】
上記の中性子捕捉療法システムは、患者の位置を検出する位置検出部を備える。位置検出部は、モーションキャプチャシステムによって構成される。例えば、載置台に載置されている患者をCT装置で検出しようとする場合、CT装置と中性子線照射部とが干渉してしまうため、当該測定を行うことはできない。これに対し、モーションキャプチャシステムは、上述の様な装置間の干渉を回避した状態で、三次元座標における患者の位置を定量的に取得することができる。これにより、位置検出部は、患者が中性子線照射部に対してずれているかどうかを三次元的に定量的に判定することができ、ずれている場合は、ずれの方向及びずれ量を定量的に取得することができる。以上により、中性子線照射部に対する患者の位置精度を向上できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、中性子線照射部に対する患者の位置精度を向上できる中性子捕捉療法システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る中性子捕捉療法システムを備えた治療システムのブロック構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る中性子捕捉療法システムの構成を示す図である。
【
図3】
図2の中性子捕捉療法システムにおける中性子線照射部近傍を示す図である。
【
図4】中性子線照射部を照射室側から見た図である。
【
図5】コリメータと患者の位置関係を示す拡大図である。
【
図6】演算部での処理を示すフローチャートである。
【
図7】患者の位置のずれを判定する方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1を参照して、本実施形態に係る中性子捕捉療法システム100を備えた治療システム150の概略構成について説明する。
図1に示すように、治療システム150は、治療計画装置130と、中性子捕捉療法システム100と、を備える。中性子捕捉療法システム100は、中性子線Nを患者Sに照射する中性子捕捉療法による治療を行うシステムである。
【0018】
治療計画装置130は、患者Sに対してどのように中性子線を照射するかの治療計画を予め作成する装置である。治療計画装置130は、CT画像などから患者Sの腫瘍の位置を把握し、当該腫瘍に中性子線を照射するために、患者にどのような姿勢にさせるかなども決める。治療計画装置130は、作成した治療計画を中性子捕捉療法装置110へ送信する。これにより、中性子捕捉療法装置110は、治療計画に基づいて中性子線を照射する。
【0019】
中性子捕捉療法システム100は、中性子捕捉療法装置110と、位置検出システム120(位置検出部)と、を備える。中性子捕捉療法装置110は、治療計画装置130で設定された治療計画に基づいて、中性子捕捉療法による治療を行う装置である。位置検出システム120は、患者Sの位置を検出するシステムである。位置検出システム120は、治療中における患者Sと中性子捕捉療法装置110との相対的な位置関係を検出することができる。
【0020】
図2及び
図3を参照して、中性子捕捉療法システム100の概要を説明する。
図2及び
図3に示すように、ホウ素中性子捕捉療法を用いたがん治療を行う中性子捕捉療法装置は、ホウ素(
10B)を含む薬剤が投与された患者Sのホウ素が集積した部位に中性子線を照射してがん治療を行うシステムである。中性子捕捉療法装置110による治療は、載置台3に拘束された患者Sに中性子線Nを照射する照射室2にて行われる。
【0021】
患者Sを載置台3に拘束する等の準備作業は、照射室2外の準備室(不図示)で実施され、患者Sが拘束された載置台3が準備室から照射室2に移動される。その後、載置台3は、照射室2の出射口の前の所定の位置に設置される。また、中性子捕捉療法装置110は、患者Sが載置される載置台3と、治療用の中性子線Nを発生させる中性子線発生部10と、照射室2内で載置台3に載置されている患者Sに対して中性子線Nを照射する中性子線照射部20と、を備えている。なお、照射室2は遮蔽壁Wに覆われているが、患者や作業者等が通過するために通路および扉41が設けられている。
【0022】
中性子線発生部10は、荷電粒子を加速して荷電粒子線Lを出射する加速器11と、加速器11が出射した荷電粒子線Lを輸送するビーム輸送路12と、荷電粒子線Lを走査してターゲット8に対する荷電粒子線Lの照射位置の制御を行う荷電粒子線走査部13と、荷電粒子線Lが照射されることで核反応を起こして中性子線Nを発生させるターゲット8と、荷電粒子線Lの電流を測定する電流モニタ16と、を備えている。加速器11およびビーム輸送路12は、略長方形状を成す荷電粒子線生成室14の室内に配置されており、この荷電粒子線生成室14は、コンクリート製の遮蔽壁Wで覆われた空間である。なお、荷電粒子線生成室14には、メンテナンスのための作業者が通過するための通路および扉42が設けられている。なお、荷電粒子線生成室14は略長方形状に限定されず、他の形状であってもよい。例えば、加速器からターゲットまでの経路がL字状の場合には、荷電粒子線生成室14もL字状にしてよい。また、荷電粒子線走査部13は例えば荷電粒子線Lのターゲット8に対する照射位置を制御し、電流モニタ16はターゲット8に照射される荷電粒子線Lの電流を測定する。
【0023】
加速器11は、陽子等の荷電粒子を加速して陽子線等の荷電粒子線Lを生成するものである。本実施形態では、加速器11としてサイクロトロンが採用されている。なお、加速器11として、サイクロトロンに代えて、他の円形加速器(例えば、シンクロトロン)、線形加速器、又は静電加速器等の他の加速器を用いてもよい。
【0024】
ビーム輸送路12の一端(上流側の端部)は、加速器11に接続されている。ビーム輸送路12は、荷電粒子線Lを調整するビーム調整部15を備えている。ビーム調整部15は、荷電粒子線Lの軸を調整する水平型ステアリング電磁石および水平垂直型ステアリング電磁石と、荷電粒子線Lの発散を抑制する四重極電磁石と、荷電粒子線Lを整形する四方スリット等を有している。なお、ビーム輸送路12は荷電粒子線Lを輸送する機能を有していればよく、ビーム調整部15は無くてもよい。
【0025】
ビーム輸送路12によって輸送された荷電粒子線Lは、荷電粒子線走査部13によって照射位置を制御されてターゲット8に照射される。なお、荷電粒子線走査部13を省略して、常にターゲット8の同じ箇所に荷電粒子線Lを照射するようにしてもよい。
【0026】
ターゲット8は、荷電粒子線Lが照射されることによって中性子線Nを発生させる。ターゲット8は、例えば、ベリリウム(Be)、リチウム(Li)、タンタル(Ta)又はタングステン(W)で構成されており、板状を成している。ただし、ターゲットは板状に限らず、液状等であってもよい。ターゲット8が発生させた中性子線Nは、中性子線照射部20によって照射室2内の患者Sに向かって照射される。
【0027】
中性子線照射部20は、ターゲット8から出射された中性子線Nを減速させる減速材21と、中性子線Nおよびガンマ線等の放射線が外部に放出されないように遮蔽する遮蔽体22とを備えており、この減速材21と遮蔽体22とでモデレータが構成されている。
【0028】
減速材21は例えば異なる複数の材料から成る積層構造とされており、減速材21の材料は荷電粒子線Lのエネルギー等の諸条件によって適宜選択される。具体的には、例えば加速器11からの出力が30MeVの陽子線でありターゲット8としてベリリウムターゲットを用いる場合には、減速材21の材料は鉛、鉄、アルミニウム又はフッ化カルシウムとすることができる。
【0029】
遮蔽体22は、減速材21を囲むように設けられており、中性子線N、および中性子線Nの発生に伴って生じたガンマ線等の放射線が遮蔽体22の外部に放出されないように遮蔽する機能を有する。遮蔽体22は、荷電粒子線生成室14と照射室2とを隔てる壁W1に少なくともその一部が埋め込まれていてもよく、埋め込まれていなくてもよい。また、照射室2と遮蔽体22との間には、照射室2の側壁面の一部を成す壁部23が設けられている。壁部23には、中性子線Nの出力口となるコリメータ取付部23aが設けられている。このコリメータ取付部23aには、中性子線Nの照射野を規定するためのコリメータ31が固定されている。コリメータ31における開口形状を変更することで、中性子線Nの照射野を規定することができる。なお、コリメータ取付部23aを壁部23に設けずに、載置台3にコリメータ31を取り付けてもよい。
【0030】
以上の中性子線照射部20では、荷電粒子線Lがターゲット8に照射され、これに伴いターゲット8が中性子線Nを発生させる。ターゲット8によって発生した中性子線Nは、減速材21内を通過している際に減速され、減速材21から出射された中性子線Nは、コリメータ31を通過して載置台3に載置されている患者Sに対して照射される。ここで、中性子線Nとしては、比較的エネルギーが低い熱中性子線又は熱外中性子線を用いることができる。
【0031】
位置検出システム120は、演算部121と、検知部122と、放出部123と、第1のマーカー部124と、第2のマーカー部125と、を備える。このような位置検出システム120は、モーションキャプチャシステムによって構成される。モーションキャプチャシステムは、対象物の位置や姿勢を時間連続的にデジタル計測することができる。
【0032】
放出部123は、載置台3へ向けて電磁波(第1の電磁波)を放出する。これにより、放出部123は、載置台3の周辺に存在するマーカー部124,125に第1の電磁波を当てることができる。本実施形態では、放出部123は、電磁波として赤外線を放出する。検知部122は、マーカー部124,125にて反射された赤外線(以降、反射波と称する場合がある)を検知する。検知部122は、検知した反射波の情報を演算部121へ送信する。モーションキャプチャシステムでは、モーションキャプチャカメラ127が検知部122及び放出部123を備えている。モーションキャプチャカメラ127は、撮影で取得したデータを演算部121へ送信する。位置検出システム120は、複数台のモーションキャプチャカメラ127を備えている。すなわち、位置検出システム120は、複数対の検知部122及び放出部123を備えている。なお、モーションキャプチャカメラ127の設置場所については、後述する。
【0033】
第1のマーカー部124は、載置台3に載置された患者Sに取り付けられ、放出部123からの赤外線を反射する部材である。第1のマーカー部124は、患者Sに取り付けられているため、患者Sの位置や姿勢の変化に応じて移動する。従って、第1のマーカー部124は、三次元の空間の中で、患者Sの位置や姿勢に応じた位置にて赤外線を反射する。第1のマーカー部124の設置位置については後述する。
【0034】
第2のマーカー部125は、中性子線照射部20及び載置台3の少なくとも一方に取り付けられ、放出部123からの赤外線を反射する部材である。第2のマーカー部125は、少なくとも治療中には特定の位置に固定された状態にある中性子線照射部20及び治療第3に取り付けられている。従って、第2のマーカー部125は、三次元の空間の中で、少なくとも治療中には固定された位置にて赤外線を反射する。第2のマーカー部125の設置位置については後述する。
【0035】
演算部121は、第1のマーカー部124からの反射波、及び第2のマーカー部125からの反射波を検知部122を介して取得する。演算部121は、取得した反射波に基づいて、三次元座標におけるマーカー部124,125の位置を演算する。演算部121は、第1のマーカー部124の位置、及び第2のマーカー部125の位置に基づいて、患者Sと中性子線照射部20との相対位置関係を演算する。演算部121は、複数の第1のマーカー部124の位置に基づいて、患者代表点(例えば
図5に示すような、複数の第1マーカー部124(124A,124B,124C)の位置、または複数の第1のマーカー部124の重心GP)の位置を演算してよい。また、演算部121は、複数の第2のマーカー部125の位置に基づいて、装置代表点(例えば、
図5に示すコリメータ31の照射孔31aの中心点CP)の位置を演算してよい。演算部121は、患者代表点と装置代表点との3次元座標における相対的な位置関係を把握することで、患者Sと中性子線照射部20との相対位置関係を定量的に(数値化して)把握してよい。
【0036】
演算部121は、患者Sと中性子線照射部20との相対位置関係において、患者Sの位置のずれを判定することができる。例えば、演算部121は、前述の患者代表点と装置代表点との位置関係を参照し、装置代表点に対する患者代表点のX軸方向の距離、Y軸方向の距離、Z軸方向における距離の少なくともいずれかが許容値の範囲からずれたことを把握した場合、患者Sの位置がずれたと判定できる。このような許容値は、治療前に予め設定しておく。例えば、装置代表点に対する患者代表点の基準位置(理想的な位置)を決め、当該基準位置からどの程度のずれであれば許容できるかをX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向について決める。なお、このような基準位置の設定は、治療計画装置130が、3Dモデルを用いてシミュレーションを行うことで行われてよい。または、治療前に、患者Sが中性子線照射部20の前で、治療時における実際の姿勢をとることで、基準位置の設定が行われてもよい。
【0037】
また、演算部121は、患者Sの位置がずれたと判定した場合、報知処理を行う。報知処理は、ディスプレイでの表示や音声での案内によりなされてよい。あるいは、中性子捕捉療法装置110にインターロックをかけることで、報知処理を行ってもよい。このとき、演算部121は、XYZ座標の中で、基準位置または許容範囲からのずれの方向及びずれの量を把握することができる。よって、演算部121は、患者Sをどの方向にどの程度の量だけ動かせば良いかを定量的に情報提供してよい。
【0038】
次に、
図4及び
図5を参照して、マーカー部124,125の具体的な設置例や、具体的な演算例について説明する。第2のマーカー部125は、コリメータ31の照射孔31aの中心点CP(
図5参照)を割り出し易い位置に配置されることが好ましい。中性子線が通過するコリメータ31の照射孔31aの中心点CP自体には設置できないので、第2のマーカー部125は、コリメータ31の照射孔31aの面や、壁部23の表面に配置されることが好ましい。第2のマーカー部125を壁部23に配置する場合、コリメータ31の近傍に配置する事が好ましい。また、中心点CPを割り出すために、第2のマーカー部125は、少なくとも2つ設置されることが好ましい。また、患者Sに阻害されてモーションキャプチャカメラ127で撮影できない第2のマーカー部125が生じることを見越して、第2のマーカー部125は3つ以上設定される事が好ましい。
図4に示す例では、三つの第2のマーカー部125A,125B,125Cが、コリメータ31を囲むように、コリメータ31近傍の壁部23の表面に設けられる。第2のマーカー部125Aは、コリメータ31の上側に設けられ、第2のマーカー部125Bは、コリメータ31の右側に設けられ、第2のマーカー部125Cは、コリメータ31の左側に設けられている。
【0039】
一つの第1のマーカー部124が、少なくとも3台のモーションキャプチャカメラ127で撮影されるような位置関係となることが好ましい。また、一つの第2のマーカー部125が、少なくとも2台、好ましくは3台のモーションキャプチャカメラ127で撮影されるような位置関係となることが好ましい。例えば、一台で3つの第1のマーカー部124及び3つの第2のマーカー部125を撮影できるモーションキャプチャカメラ127を3台設けてよい。ただし、あるモーションキャプチャカメラ127の位置からは患者Sや載置台3で隠されてしまうマーカー部124,125が生じる場合は、他の位置から撮影できるモーションキャプチャカメラ127を増やしてもよい。モーションキャプチャカメラ127は、マーカー部124,125が載置台3や患者Sなどで隠されない位置に配置されることが好ましい。モーションキャプチャカメラ127は、コリメータ31を覗き込むような位置に配置される事が好ましい。従って、モーションキャプチャカメラ127は、コリメータ31の上部や、照射室2の側壁であって壁部23に近接した位置などに配置されることが好ましい。
図4に示す例では、モーションキャプチャカメラ127Aは、壁部23のうち、コリメータ31の上部に設けられている。モーションキャプチャカメラ127Bは、照射室2の側壁のうち、壁部23寄りの位置であって天井付近に設けられている。モーションキャプチャカメラ127Cは、照射室2の側壁のうち、壁部23寄りの位置であって床付近に設けられている。
【0040】
第1のマーカー部124は、患者Sのコリメータ31付近の部位に取り付けられる。例えば、第1のマーカー部124は、耳穴、黒子、鼻頭、目頭などに設けられてよい。第1のマーカー部124は三次元座標中で患者Sの代表点を割り出せるように少なくとも3つ設けられることが好ましい。
図5に示す例では、第1のマーカー部124Aは、耳穴付近に設けられ、第1のマーカー部124Bは、頭部付近に設けられ、第1のマーカー部124Cは、鼻頭に設けられている。
【0041】
ここで、治療中の演算部121の処理の一例について、
図6のフローチャートを参照して説明する。演算部121は、モーションキャプチャカメラ127A,127B,127Cで撮影された第2のマーカー部125A,125B,125Cの位置を取得することで、中性子線照射部20の位置を取得する(ステップS10)。このとき、演算部121は、照射孔31aの中心点CPを装置代表点として割り出す。例えば、治療前から予め、第2のマーカー部125A,125B,125Cと中心点CPとの位置関係を把握しておき、演算部121は、当該位置関係の情報と、S10で取得した第2のマーカー部125A,125B,125Cの位置情報と、を照らし合わせることで、中心点CPを割り出す。
【0042】
ここで、演算部121は、中心点CPの位置に基づいて、患者代表点の基準位置を設定する(ステップS20)。演算部121は、治療前に予め定められていたデータを読み出すことで、基準位置を設定する。次に、演算部121は、モーションキャプチャカメラ127A,127B,127Cで撮影された第1のマーカー部124A,124B,124Cの位置を取得することで、患者Sの位置を取得する(ステップS30)。例えば、重心GPの理想的な位置を基準位置SPとした場合、演算部121は、重心GPを患者代表点として割り出す。あるいは、第1のマーカー部124A,124B,124Cの理想的な位置を基準位置PA,PB,PC(
図5(b)参照)とした場合、演算部121は、第1のマーカー部124A,124B,124Cの位置を患者代表点とする。
【0043】
次に、演算部121は、基準位置SPと患者代表点の位置関係を比べることで、患者Sの位置にずれがあるか否かを判定する(ステップS40)。
図5(a)に示すように、重心GPが基準位置SPと一致している場合、演算部121は患者Sの位置にずれが無いと判定する。一方、
図5(b)に示すように、重心GPが基準位置SPと異なる位置に配置されている場合、演算部121は、ずれ量の大きさを考慮することで、患者Sの位置にずれがあるか否かを判定する。基準位置PA,PB,PCを用いる場合、
図5(b)に示すように、第1のマーカー部124A,124B,124Cが基準位置PA,PB,PCと異なる位置に配置されている場合、演算部121は、各点におけるずれ量の大きさを考慮することで、患者Sの位置にずれがあるか否かを判定する。
【0044】
例えば、
図7(a)に示すように、基準位置SPに対してずれ量の許容範囲をX軸方向、Y軸方向、Z軸方向のそれぞれについて定義しておく。演算部121は、許容範囲によって設定される直方体の外に重心GPが配置される場合、患者Sの位置にずれがあると判定する。また、
図7(b)に示すように、基準位置SPに対してずれ量の許容値を定義しておく。演算部121は、許容値を半径として設定される球体の外に重心GPが配置される場合、患者Sの位置にずれがあると判定する。なお、基準位置PA,PB,PCを用いる場合も同様である。
【0045】
演算部121は、S40において、ずれがないと判定した場合、治療が完了したか否かを判定する(ステップS50)。治療が完了したと判定された場合、
図6に示す処理が終了する。一方、治療が完了していないと判定された場合、S30から処理が繰り返される。これにより、治療中は、患者Sの位置が常時監視される。
【0046】
演算部121は、S40においてずれがあると判定した場合、ずれがある旨の報知処理を行う(ステップS60)このとき、中性子線の照射を停止してもよい。また、演算部121は、ずれが生じている方向と、ずれ量を表示してよい。S60が終了したら、S30から処理が繰り返されるか、
図6に示す処理が一旦終了する。
【0047】
次に、本実施形態に係る中性子捕捉療法システム100の作用・効果について説明する。
【0048】
上記の中性子捕捉療法システム100は、患者Sの位置を検出する位置検出システム120を備える。位置検出システム120は、載置台3へ向けて第1の電磁波を放出する放出部123と、載置台3に載置された患者Sに取り付けられ、放出部123からの第1の電磁波を反射する第1のマーカー部124と、第1のマーカー部124からの反射波を取得し、三次元座標における第1のマーカー部124の位置を演算する演算部121と、を備える。例えば、載置台3に載置されている患者SをCT装置で検出しようとする場合、CT装置と中性子線照射部20とが干渉してしまうため、当該測定を行うことはできない。このような問題は、放射線治療の中でも、患者Sが患部を中性子線照射部20の照射孔31aに近付けた状態で姿勢を固定しなくてはならない、中性子捕捉療法システム特有の問題である。これに対し、位置検出システム120は、電磁波を用いて位置検出を行うため、上述の様な装置間の干渉を回避した状態で、第1のマーカー部124の位置を定量的に取得することができる。従って、位置検出システム120は、第1のマーカー部124の位置に基づいて、三次元座標における患者Sの位置を定量的に取得することができる。これにより、位置検出システム120は、患者Sが中性子線照射部20に対してずれているかどうかを三次元的に定量的に判定することができ、ずれている場合は、ずれの方向及びずれ量を定量的に取得することができる。以上により、中性子線照射部20に対する患者Sの位置精度を向上できる。
【0049】
位置検出システム120は、中性子線照射部20及び載置台3の少なくとも一方に取り付けられ、放出部123からの第1の電磁波を反射する第2のマーカー部125を更に備え、演算部121は、第2のマーカー部125からの反射波を取得し、三次元座標における第2のマーカー部125の位置を演算する。中性子捕捉療法システム100の中で、中性子線照射部20及び載置台3は、治療中に位置が固定されるものである。従って、位置検出システム120は、第2のマーカー部125の位置に基づいて、三次元座標における中性子線照射部20の位置を定量的に取得できる。これにより、位置検出システム120は、中性子線照射部20に対する患者Sのずれを判定し易くなる。
【0050】
演算部121は、第1のマーカー部124の位置、及び第2のマーカー部125の位置に基づいて、患者Sと中性子線照射部20との相対位置関係を演算する。これにより、位置検出システム120、三次元座標における、患者Sと中性子線照射部20との相対位置関係に基づいて、患者Sの中性子線照射部20に対するずれを判定することができる。
【0051】
放出部123は、第1の電磁波として赤外線を放射し、第1のマーカー部124は、赤外線を反射する。電磁波として赤外線を用いることで、機器に影響を及ぼすこと無く、正確に第1のマーカー部124の位置を取得できる。
【0052】
第2のマーカー部125は、中性子線照射部20のうち、中性子線を通過させる照射孔31a、または照射孔31aが形成された壁部23の表面に少なくとも2つ設けられる。この場合、演算部121は、中性子線が出射される照射孔31a付近の少なくとも2つの第2のマーカー部125に基づいて、照射孔31aの中心点CPを精度良く取得することができる。照射孔31aの中心点CPに対する患者Sのずれを判定することで、患者Sに対してより正確に中性子線を照射することができる。
【0053】
本実施形態に係る中性子捕捉療法システム100は、患者Sの位置を検出する位置検出システム120を備える。位置検出システム120は、モーションキャプチャシステムによって構成される。例えば、載置台3に載置されている患者SをCT装置で検出しようとする場合、CT装置と中性子線照射部20とが干渉してしまうため、当該測定を行うことはできない。これに対し、モーションキャプチャシステムは、上述の様な装置間の干渉を回避した状態で、三次元座標における患者Sの位置を定量的に取得することができる。これにより、位置検出システム120は、患者Sが中性子線照射部20に対してずれているかどうかを三次元的に定量的に判定することができ、ずれている場合は、ずれの方向及びずれ量を定量的に取得することができる。以上により、中性子線照射部20に対する患者Sの位置精度を向上できる。
【0054】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0055】
例えば、上述の実施形態では、光学式のモーションキャプチャシステムが用いられていたが、他の方式のモーションキャプチャシステムが用いられてもよい。方式によっては、放出部123と検知部122が一体化されたモーションキャプチャカメラ127が用いられなくともよい。また、Wifiなどの電磁波を用いたモーションキャプチャシステムが用いられてもよい。
【0056】
放出部123が放出する第1の電磁波は赤外線に限られない。例えば、放出部123は、可視光、紫外線などを放出してもよく、超音波などを放出してもよい。また、第1のマーカー部124は第1の電磁波を反射するものに限られず、放出部123からの第1の電磁波を受けて第1の電磁波と異なる第2の電磁波を放出してもよい。第2のマーカー部125も、放出部123からの第1の電磁波を受けて第1の電磁波と異なる第3の電磁波を放出してもよい。例えば、放出部123が電磁界を発生させる外部励磁源であり、マーカー部124,125が電磁界で共振して信号を発する素子であり、検知部122がマーカー部124,125からの信号を検知する測定センサでもよい。また、放出部123が電波を発する電波源であり、マーカー部124,125が電波を反射する反射部材であり、検知部122が反射された電波を検知する測定センサでもよい。
【0057】
上述の実施形態では、患者代表点として重心GPが設定され、当該重心GPの基準位置SPからのずれを用いて患者Sの位置のずれが判定された。あるいは、第1のマーカー部124の位置そのものに対して基準位置が設定されていた。ただし、代表点の取り方や、基準位置の取り方などは特に限定されず、適宜変更してよい。
【符号の説明】
【0058】
3…載置台、20…中性子線照射部、23…壁部、31a…照射孔、100…中性子捕捉療法システム、120…位置検出システム(位置検出部)、121…演算部、123…放出部、124…第1のマーカー部、125…第2のマーカー部。