(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】移動体監視装置、並びにこれを用いる車両制御システムおよび交通システム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20221104BHJP
G08G 1/09 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
G08G1/16 A
G08G1/09 H
G08G1/09 V
(21)【出願番号】P 2018181318
(22)【出願日】2018-09-27
【審査請求日】2021-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100180747
【氏名又は名称】小森 剛彦
(72)【発明者】
【氏名】崔 亨旭
(72)【発明者】
【氏名】池田 悟
(72)【発明者】
【氏名】宮川 治誉
【審査官】高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-201113(JP,A)
【文献】特開2015-184878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の移動体の移動に関する移動データを受信する移動体監視装置であって、
他の移動体の移動データを取得する取得部と、
他の移動体の実速度または種類により判断される低速移動体について、複数の低速移動体の位置に倣って湾曲する監視曲線を生成する生成部と、
複数の低速移動体の移動を、生成した監視曲線の移動により監視する監視部と、
を有
し、
前記生成部は、
自車の進路を横断可能な位置である横断歩道の傍にいる複数の低速移動体のグループについて監視曲線を生成して、前記監視部により、複数の低速移動体の移動を、前記監視曲線を用いてグループ監視可能とし、
自車の進路を横断可能な位置である横断歩道の傍にいない複数の低速移動体について監視曲線を生成することなく、前記監視部により、複数の低速移動体の移動を、個別に監視可能とし、
前記監視部は、
自車が停車しているまたは停車中であるか否かと、自車が右左折するか否かと、を判断し、
自車が右左折しないために停車しているまたは停車中である場合には、自車の進路を横断可能な位置である横断歩道の傍にいる複数の低速移動体を、前記監視曲線を用いてグループ監視し、
自車が右左折のために停車しているまたは停車中である場合には、または自車が停車しているまたは停車中であるのではない場合には、自車の進路を横断可能な位置である横断歩道の傍にいる複数の低速移動体を、前記監視曲線によらずに個別に監視する、
移動体監視装置。
【請求項2】
前記生成部は、
自車の進路を横断可能な位置である信号がある横断歩道の近くの側道に、最小のものから開始して上限設定以下でサイズを広げるように変更されるエリアを設定して、前記エリア内に含まれる複数の低速移動体をグループ化し、
生成したグループに属するすべての低速移動体の位置を囲う外周枠を生成し、
前記外周枠についての、自車か通過する進路に面した部分を基準として、前記外周枠の外側に離れた位置に、前記外周枠の形状に倣って相似状に湾曲する監視曲線を生成することにより、
自車の進路を横断可能な位置
である信号がある横断歩道の傍にいる複数の低速移動体について、監視曲線を生成する、
請求項1記載の移動体監視装置。
【請求項3】
前記生成部は、
自車の進路を横断するために横断歩道の傍で停止している複数の低速移動体について、監視曲線を生成する、
請求項1または2記載の移動体監視装置。
【請求項4】
前記監視部は、
監視曲線が、監視曲線の近傍にいる複数の低速移動体についての車線方向への最大の移動速度により移動するものとして、監視する、
請求項1から3のいずれか一項記載の移動体監視装置。
【請求項5】
前記監視部は、
監視曲線を超えて移動してくる低速移動体については、監視曲線とは別に監視する、
請求項1から4のいずれか一項記載の移動体監視装置。
【請求項6】
前記生成部は、
生成に用いる低速移動体の組成に応じて、複数の低速移動体の位置から監視曲線の位置までの距離を調整する、
請求項1から5のいずれか一項記載の移動体監視装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項記載の移動体監視装置と、
前記移動体監視装置により監視に基づいて、車両を制御する車両制御装置と、
を有する、車両制御システム。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項記載の移動体監視装置と、
前記移動体監視装置との間で移動体の移動に関する移動データを送受するサーバ装置と、
を有する、交通システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体監視装置、並びにこれを用いる車両制御システムおよび交通システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人が移動の際に乗車する自動車などの車両では、車両の走行や車両で用いる機器の操作を支援または自動制御することが考えられている。そして、移動などにおける車両のたとえば安全性、円滑性、移動コスト、快適性、環境性といった性能を向上させるためには、車両は、それぞれが単独で検出した情報のみに基づいて車両を制御するのではなく、広く自車以外の他の車両や歩行者といった他の移動体の移動に関する情報や走行環境についての情報を取得して収集し、それらの複合的な情報を用いて車両を制御することが望ましい。
このようなことに利用可能な交通システムには、現時点ではたとえばITS(Intelligent Transport System)、協調(Cooperative)ITS、UTMS(Universal Traffic Management Systems)、ART(Advanced Rapid Transit)、PTPS(Public Transportation Priority System)といったものなどがあり、これらの研究開発が推し進められている。また、協調ITSに関して、標準化規格TC204/WG18が策定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-126193号公報
【文献】特開2016-225723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、実際にこのような移動体などの情報が送受可能になる状況を考えると、その情報を収集して処理することになる自動車といった車両では、大量の情報についてのデータを取得して車両の制御に利用することが求められる、と考えられる。
しかしながら、これまでの自動車といった車両では、個別の移動体の移動データではなく、それをまとめて抽象化した渋滞データや経路案内用の部分的な地図データを、自車位置を含むエリアについてのみ受信して処理する程度であった。
これまでの自動車といった車両は、移動体についての情報が広く収集可能な環境になったとしても、その広く収集され得る大量の移動体についての移動データを適切に取得して、取得した移動データに基づいて車両の走行などを制御することができるようにはなっていない。
特許文献1、2は、研究開発的な技術として、歩行者を進行方向によってグルーピングして監視する技術を開示する。これにより、複数の歩行者を個別に監視するよりも、監視負荷が軽減されると考えられる。
しかしながら、歩行者をグルーピングして監視するとしても、たとえば特許文献1のようにそのグループを構成する先頭の人の移動をグループの移動として到達時間を監視しているだけでは、監視タイミングにおいて偶発的に近くにいるためにグループ化される可能性もあり、その後にグループが広がったり他の人が急速に移動し始めたりすることにより、良好な監視ができなくなる可能性が高くなる。そして、監視が適切でないと、その監視結果に基づく車両の走行などの制御も適切になり難くなる。
【0005】
このように自動車といった車両では、交通システムで収集され得る複数の移動体についての移動データに基づいて車両の走行などを良好に制御できることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る移動体監視装置は、他の移動体の移動に関する移動データを受信する移動体監視装置であって、他の移動体の移動データを取得する取得部と、他の移動体の実速度または種類により判断される低速移動体について、複数の低速移動体の位置に倣って湾曲する監視曲線を生成する生成部と、複数の低速移動体の移動を、生成した監視曲線の移動により監視する監視部と、を有し、前記生成部は、自車の進路を横断可能な位置である横断歩道の傍にいる複数の低速移動体のグループについて監視曲線を生成して、前記監視部により、複数の低速移動体の移動を、前記監視曲線を用いてグループ監視可能とし、自車の進路を横断可能な位置である横断歩道の傍にいない複数の低速移動体について監視曲線を生成することなく、前記監視部により、複数の低速移動体の移動を、個別に監視可能とし、前記監視部は、自車が停車しているまたは停車中であるか否かと、自車が右左折するか否かと、を判断し、自車が右左折しないために停車しているまたは停車中である場合には、自車の進路を横断可能な位置である横断歩道の傍にいる複数の低速移動体を、前記監視曲線を用いてグループ監視し、自車が右左折のために停車しているまたは停車中である場合には、または自車が停車しているまたは停車中であるのではない場合には、自車の進路を横断可能な位置である横断歩道の傍にいる複数の低速移動体を、前記監視曲線によらずに個別に監視する。
【0007】
好適には、前記生成部は、自車の進路を横断可能な位置である信号がある横断歩道の近くの側道に、最小のものから開始して上限設定以下でサイズを広げるように変更されるエリアを設定して、前記エリア内に含まれる複数の低速移動体をグループ化し、生成したグループに属するすべての低速移動体の位置を囲う外周枠を生成し、前記外周枠についての、自車か通過する進路に面した部分を基準として、前記外周枠の外側に離れた位置に、前記外周枠の形状に倣って相似状に湾曲する監視曲線を生成することにより、自車の進路を横断可能な位置である信号がある横断歩道の傍にいる複数の低速移動体について、監視曲線を生成する、とよい。
【0008】
好適には、前記生成部は、自車の進路を横断するために横断歩道の傍で停止している複数の低速移動体について、監視曲線を生成する、とよい。
【0009】
好適には、前記監視部は、監視曲線が、監視曲線の近傍にいる複数の低速移動体についての車線方向への最大の移動速度により移動するものとして、監視する、とよい。
【0013】
好適には、前記監視部は、監視曲線を超えて移動してくる低速移動体については、監視曲線とは別に監視する、とよい。
【0014】
好適には、前記生成部は、生成に用いる低速移動体の組成に応じて、複数の低速移動体の位置から監視曲線の位置までの距離を調整する、とよい。
【0015】
本発明に係る車両制御システムは、上述したいずれかの移動体監視装置と、前記移動体監視装置により監視に基づいて、車両を制御する車両制御装置と、を有する。
【0016】
本発明に係る交通システムは、上述したいずれかの移動体監視装置と、前記移動体監視装置との間で移動体の移動に関する移動データを送受するサーバ装置と、を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、生成部は、他の移動体の実速度または種類により判断される低速移動体について、複数の低速移動体の位置に倣って湾曲する監視曲線を生成し、監視部は、複数の低速移動体の移動を、生成した監視曲線の移動により監視する。
たとえば、生成部は、自車の進路を横断可能な位置にいる複数の低速移動体について、監視曲線を生成する。具体的にはたとえば、生成部は、自車の進路を横断する赤信号の横断歩道の傍で停止している複数の低速移動体について、監視曲線を生成する。また、監視部は、たとえば、監視曲線が、監視曲線の近傍にいる複数の低速移動体についての車線方向への最大の移動速度により移動するものとして、監視する。
このように、本発明では、収集され得る複数の低速移動体についての移動データを良好にグループ化して、グループについて生成した監視曲線の移動により複数の低速移動体の移動を監視することができる。また、本発明では、そのグループの監視曲線の監視に基づいて、車両の走行などを良好に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る交通システムの一例の概略説明図である。
【
図2】
図2は、複数の移動体としての車両および歩行者の移動状態の一例の説明図である。
【
図3】
図3は、複数の移動体の移動に関する移動データの生成状況とメモリに蓄積されるデータ量との対応関係の説明図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る車両用の通信装置を備える車両制御システムの一例の説明図である。
【
図5】
図5は、
図4の受信制御部の処理の一例の説明図である。
【
図6】
図6は、
図4の送信制御部の処理の一例の説明図である。
【
図7】
図7は、
図4のグループ生成部の処理の一例の説明図である。
【
図8】
図8は、本発明の第一実施形態における、
図4の移動体監視部の処理の一例の説明図である。
【
図9】
図9は、
図4の車両制御装置としての走行制御部の処理の一例の説明図である。
【
図10】
図10は、本発明の第二実施形態における、
図4の移動体監視部の処理の一例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0020】
[第一実施形態]
図1は、本発明の実施形態に係る交通システム1の一例の概略説明図である。
図1には、複数の移動体としての複数の車両2と、低速移動体としての複数の歩行者3と、が図示されている。人が移動の際に乗車する自動車などの車両2では、車両2の走行や車両2で用いる機器の操作を支援または自動制御するようになってきている。車両2には、たとえば、複数の人が乗車可能な自動車または電気自動車の他にも、モータサイクル、パーソナルモビリティ、カート、電動車椅子、が含まれてれよい。
図1の交通システム1は、自動車などの車両2のそれぞれに設けられる複数の車両用の通信装置、歩行者3などの低速移動体によりそれぞれ所持される複数の歩行者用の通信装置、基地局4、ビーコン装置5、サーバ装置6、を有する。
図1において、車両用の通信装置は車両2により、歩行者用の通信装置は歩行者3により代理して図示されている。交通システム1は、商用無線通信の基地局、高速道路の路肩に設置される通信装置を、基地局4として使用してよい。
【0021】
図1の交通システム1において、車両2および歩行者3の各通信装置は、自身の移動体としての移動に関する移動データを、基地局4またはビーコン装置5を通じて、サーバ装置6へ送信する。サーバ装置6は、複数の移動体の移動に関する移動データを収集し、必要に応じて収集した移動データに基づいて交通情報などについてのデータを生成し、その移動データおよび交通情報のデータを通信装置へ送信する。サーバ装置6は、車両用の通信装置との間で移動体の移動に関する移動データを送受する。
また、
図1の交通システム1において、車両2および歩行者3の各通信装置は、自身の移動体としての移動に関する移動データを、近くにいる他の通信装置へ送信する。
そして、各通信装置は、サーバ装置6または他の移動体の通信装置から移動データなどを受信すると、それを蓄積し、自身の移動の制御に利用する。
【0022】
たとえば、
図1において、右側の車両2は、左方向へ直進する。
図1の左側の車両2は、右方向へ直進する。
図1の右側の車両2と左側の車両2とは、たとえば双方向の道路においてすれ違う。
図1の右下の歩行者3は、上方向へ直進する。しかしながら、右下の歩行者3の移動速度が遅いため、
図1の右側の車両2と左側の車両2とは、右下の歩行者3がそれらの進路と交差する位置に到達する前に、該交差位置を通過している。
これに対し、
図1の左上の歩行者3は、下方向へ直進する。このため、
図1の右側の車両2は、左上の歩行者3が交差位置に到達するタイミングと前後して、該交差位置に到達する可能性がある。
この場合、
図1の右側の車両2に搭載される車両用の通信装置は、予め受信した左上の歩行者3の移動に関する移動データに基づいて交差位置を同時に通過しないように、自車の移動速度を加減速する。
このように、交通システム1が、複数の移動体の移動に関する移動データを複数の移動体の間で送受することにより、複数の移動体は安全に移動できるようになると期待される。
たとえば、車両2は、それ自身で検出した情報のみに基づいて車両2を制御するのではなく、広く自車以外の他の車両や歩行者3といった他の移動体の移動に関する情報や走行環境についての情報を取得して収集し、それらの複合的な情報を用いて車両2を制御することができる。
【0023】
このように交通システム1を用いて複数の移動体の間でそれらの移動データを互いに送受することにより、移動体の移動についての安全性、円滑性、移動コスト、快適性、環境性などが向上し得る。
このようなことに利用可能な交通システム1には、たとえばITS(Intelligent Transport System)、協調(Cooperative)ITS、UTMS(Universal Traffic Management Systems)、ART(Advanced Rapid Transit)、PTPS(Public Transportation Priority System)といったものなどがある。協調ITSは、標準化規格TC204/WG18により標準化されている。
【0024】
図2は、複数の移動体としての車両2および歩行者3の移動状態の一例の説明図である。
図2には、上下方向へ延在する幹線道路7と、幹線道路7から左方向へ延びる路地8と、が図示されている。自動車といった車両2は、幹線道路7および路地8の中央部を移動する。歩行者3は、幹線道路7および路地8の側部を移動する。また、歩行者3は、赤信号の横断歩道9の手前で止まり、信号が青になると横断歩道9において幹線道路7を横断する。
図2には、多数の歩行者3および多数の車両2が図示されている。
上述した交通システム1の目的を達するためには、このような走行環境においてたとえば
図2の下から上へ幹線道路7を走行する車両2は、同一の幹線道路7を走行する対向車などの他の車両2だけでなく、車両2の近くの路側帯を歩行する多数の歩行者3、路地8から出てくる歩行者3および車両2に対して注意し、これらと衝突などの接触を起こさないように進路を微調整して走行することになる。
したがって、車両2は、その周囲に存在している多数の他の移動体の位置および速度といった情報を有する移動データを即時的に取得する必要がある。これにより、車両2は、他の移動体の近くを通過する際に接触しないように進行を調整することができる。
各移動体は、自身の周囲に存在する多数の他の移動体の最新の移動データを常に取得する必要がある。たとえば、路地8の先頭に位置する車両2は、図中の丸破線のエリアに含まれる多数の他の移動体の最新の移動データを常に取得する必要がある。
また、各移動体は、自身の周囲に存在する他の移動体の数を自ら制限することはできない。
【0025】
図3は、複数の移動体の移動に関する移動データの生成状況とメモリ18に蓄積されるデータ量との対応関係の説明図である。
図3(A)は、歩行者Aの複数の移動データである。
図3(B)は、車両Aの複数の移動データである。
図3(C)は、歩行者Bの複数の移動データである。
図3(D)は、車両Bの複数の移動データである。
図3(A)から
図3(D)において、複数の移動データは、左から右へ向かって順番に生成される。
図3(E)は、
図3(A)から
図3(D)による移動データの合計データ量の時間変化グラフである。
図3(E)のグラフに示すように、時間が経過することに応じて移動データの合計データ量は、比例的に増加する。また、合計データ量の増加割合は、移動体の数量が多くなるほど大きくなる。
【0026】
上述した交通システム1の目的を達するために、各移動体は、
図3(A)から
図3(D)に示すように、それぞれの最新の位置および速度といった情報を有する移動データを、可能な限りの微小時間間隔により繰り返し送信する。
その結果、
図3(E)に示すように、複数の移動体の間で送受される移動データの合計データ量は、収集対象の移動体の数および収集を開始してからの経過時間に応じて飛躍的に増加してゆく。各移動体が、他の移動体の移動を監視するためにメモリに蓄積するデータ量についても、同傾向で増加してゆく。
このように、車両2などに設けられて、移動データを取得して収集する各移動体の通信装置は、上述した交通システム1の目的を達しようとする場合には、このように大量の移動データを適切に取得してそれぞれの移動の制御などに利用することが求められる。
このような大量のデータは、自動車などの車両2がこれまでに経験したことがないデータ量である。
【0027】
しかしながら、これまでの自動車といった車両2では、自車で検出したデータを処理したり、個別の移動体の移動をまとめて抽象化した静的な渋滞データや経路案内用の部分的な地図データについて、自車位置を含むエリアについてのみ受信して処理したりする程度のデータ処理能力しか備えていない。
すなわち、現在の自動車では、移動体についての情報が広く収集可能な環境になったとしても、その広く収集され得る大量の移動体についての動的な移動データを適切に取得して、取得した大量の動的な移動データを処理して自動車の走行などを制御することはできない。
また、仮にそのような処理能力を備えたとしても、自動車はいつまでたっても前へ進むことができなくなったり、自動車の移動が不要に過剰的に反応したものになったり、してしまう可能性がある。
そこで、車両2の通信装置では、交通システム1から大量に取得する可能性がある複数の移動体についての移動データを良好に取得でき、取得した移動データに基づいて車両2の走行などを良好に制御できることが望まれている。
以下、本実施形態での対策について説明する。
【0028】
図4は、本発明の実施形態に係る車両用の通信装置を備える車両制御システム10の一例の説明図である。
図4の車両制御システム10は、移動体としての車両2に設けられ、車両2の走行などを制御するものである。
図4の車両制御システム10は、無線通信部11、撮像デバイス12、スキャンデバイス13、GPS受信機14、走行センサ15、環境センサ16、操作部材17、メモリ18、タイマ19、ECU(Electronic Control Unit)20、および、これらを接続する車載ネットワーク21、を有する。なお、メモリ18、タイマ19などは、ECU20とともに、1チップマイクロコンピュータに形成され、この1チップマイクロコンピュータが車載ネットワーク21に接続されてよい。
図4において、車両用の通信装置22は、たとえば無線通信部11、メモリ18、タイマ19、ECU20、で構成されてよい。
【0029】
車載ネットワーク21は、自動車といった車両2において、車両2の各部に設けられる機器同士を接続するネットワークである。車載ネットワーク21は、たとえばCAN(Controller Area Network)、LIN(Local Interconnect Network)、Ethernetでよい。また、車載ネットワーク21は、中継装置と、中継装置に接続される複数の通信ケーブルを有してもよい。この場合、車両2の各部に設けられる機器は、複数の通信ケーブルに分散して接続してよい。車両2の各部に設けられる機器は、車載ネットワーク21を通じて、他の機器との間でデータを送受する。
【0030】
撮像デバイス12は、車両2の内部または周囲を撮像する。交通システム1に対応する車両2は、少なくとも車両2の前方を撮像する撮像デバイス12を備えるとよい。この場合、車両2は、車両2の前方を走行する他の車両などを撮像した画像を得ることができる。
【0031】
スキャンデバイス13は、車両2の周囲に存在する他の移動体や固定設置物をレーダなどによりスキャンする。これにより、車両2は、車両2の周囲に存在する他の移動体や固定設置物までの距離などを検出できる。
【0032】
GPS受信機14は、GPS衛星からの電波を受信して、車両2の現在の位置情報を生成する。GPS受信機14は、地上に固定設置されている基地局4や電波塔からの電波を受信して、車両2の現在の位置情報を生成したり補正したりしてよい。なお、車両2は、GPS受信機14とは別のたとえば無線通信部11が受信する基地局4からの電波に基づいて、または車両2の走行についての検出に基づいて、車両2の現在の位置情報を生成してもよい。
【0033】
走行センサ15は、車両2の実走行に関連する情報を検出する。車両2の実走行に関連する情報には、たとえば車両2の速度、移動方向、がある。車両2の実走行に関連する情報は、この他にもたとえば車両2の駆動源の作動状態、トランスミッションの作動状態、制動装置の作動状態、操舵状態、などを含んでよい。
【0034】
環境センサ16は、車両2が存在する位置での実環境を検出する。実環境の情報としては、たとえば、日照の状態、降雨の状態、路面の種類、気温、湿度、がある。
【0035】
操作部材17は、車両2に乗った乗員が、車両2の走行などを操作するための部材である。操作部材17には、たとえばハンドル、アクセルペダル、ブレーキペダル、シフトレバー、ワイパスイッチ、ウィンカレバー、スタートボタン、運転モード切替ボタン、がある。操作部材17は、乗員による操作部材17の操作があると、その操作の情報を生成して出力する。
【0036】
タイマ19は、時間または時刻を計測して出力する。
【0037】
無線通信部11は、交通システム1の通信データを送受できるものであれはよい。無線通信部11は、交通システム1で用いるたとえば基地局4およびビーコン装置5と通信したり、他の移動体で用いられている通信装置とV2V(Vehicle-to-Vehicle)、V2Xの通信をしたりする。無線通信部11は、交通システム1により指定されたゾーンについて通信する1つの基地局4またはビーコン装置5と通信してよい。この場合、車両2がゾーンを超えて移動すると、交通システム1は新たなゾーンに対応する1つの基地局4またはビーコン装置5を、データの無線通信先として指定する。これにより、無線通信部11は、移動体が移動している場合でも、交通システム1のサーバ装置6との間で移動データなどを送受することができる。
【0038】
ここで、移動データは、たとえば、移動体の識別情報、属性情報、位置情報、位置検出時刻情報、速度情報、進行方向情報、を有する。移動データは、この他にもたとえば、移動データの生成タイミングに対応する時刻情報、などを有してよい。
移動体の識別情報は、移動体を他の移動体から識別するための情報でよい。移動体の識別情報は、たとえば移動体に固有の識別番号でよい。移動体の識別番号には、たとえば、車両2に付された車体番号、製造番号、無線通信部11に割り当てられたMACアドレス、IPアドレス、などが使用できる。
移動体の属性情報は、移動体の種類を示す情報である。移動体の種類には、たとえば自動車、車両2、歩行者3、自転車、犬、子供、老人がある。移動体が車両2である場合、属性情報は、たとえば、車体のメーカ、車種、型番、色の番号、外形状の画像、外装されるオプション装備、タイヤの種類、ホイールの種類、車体ナンバー、などの情報を含んでよい。
移動体の位置情報は、たとえばGPS受信機14にて生成された位置情報でよい。
移動体の位置検出時刻情報は、たとえばGPS受信機14がGPS電波を受信したタイミングにおけるタイマ19の計測時刻、位置情報を生成したタイミングにおけるタイマ19の計測時刻、でよい。
移動体の速度情報は、たとえば走行センサ15により検出される移動体の実速度、でよい。
移動体の進行方向情報は、たとえば走行センサ15により検出される移動体の実移動方向、でよい。
なお、移動データは、これらの一部の情報のみを有するものでもよい。交通システム1における複数の移動体は、異なる情報を含む移動データを送受してよい。
【0039】
メモリ18は、車両2で利用する各種のプログラムおよびプログラムの実行中に使用する各種のデータを記録する。メモリ18に記録されるデータには、上述した車両2の各部において取得したデータが含まれる。たとえば無線通信部11が受信した移動データは、メモリ18に蓄積して記録される。
【0040】
ECU20は、メモリ18に記録されているプログラムを読み込んで実行する。これにより、車両2の制御部が実現される。車両2の制御部は、車両2の上述した各部を制御する。
図4には、ECU20に実現される車両2の制御部の機能として、受信制御部32、グループ生成部33、移動体監視部34、送信制御部35、走行制御部36、経路生成部37、が図示されている。
【0041】
受信制御部32は、無線通信部11から他の移動体の受信データを取得して処理する。受信データがたとえば他の移動体の移動データである場合、受信制御部32は、取得した他の移動体の移動データをメモリ18に記録する。これにより、メモリ18には、取得された複数の移動データが蓄積して記録される。
【0042】
グループ生成部33は、メモリ18に蓄積して記録されている複数の他の移動体についてのグループ情報を生成し、生成したグループ情報をメモリ18に記録する。
【0043】
移動体監視部34は、メモリ18に蓄積して記録されている複数の他の移動体の情報に基づいて、複数の他の移動体の移動を監視する。移動体監視部34は、たとえば他の移動体の移動による自車の進路(走行)への影響を監視する。
移動体監視部34は、たとえば、自車および進路を含む監視エリアに存在する他の移動体の進路を予想し、自車の進路との交差判断により他の移動体ごとの監視レベルを設定する。
他の移動体ごとの監視レベルは、たとえば、他の移動体の進路が交差する場合の高レベル、他の移動体の進路が近接する場合の中レベル、他の移動体の進路が離れている場合の低レベル、で分類されてよい。
【0044】
送信制御部35は、メモリ18に蓄積して記録されている複数の移動体の移動データの全部または一部を、無線通信部11から送信させる。
【0045】
経路生成部37は、移動体が目的地まで移動する移動経路を生成し、生成した移動経路の情報をメモリ18に記録する。
【0046】
走行制御部36は、自動運転または運転支援により、車両2の走行を制御する。走行制御部36は、たとえば乗員による操作部材17の操作、メモリ18に記録されている移動経路、メモリ18に記録されている複数の他の移動体の移動データ、移動体監視部34による監視結果、などに応じて、車両2の進路を調整して走行を制御する。
たとえば、走行制御部36は、操作部材17の操作量や移動経路に基づいて短期的な進路を決定し、その短期的な進路が他の移動体の進路と交差したり接近したりしないように車両2の進路を調整する。また、走行制御部36は、生成した進路に沿って車両2が移動するように、車両2の走行を制御する。
【0047】
図5は、
図4の受信制御部32の処理の一例の説明図である。
受信制御部32は、たとえば新たな移動データが受信された場合、または周期的なタイミングで、
図5の受信処理を繰り返し実施してよい。
【0048】
図5の受信処理のステップST1において、受信制御部32は、無線通信部11が移動データを受信したか否かを判断する。
受信制御部32は、移動体の個別の移動データだけでなく、複数の移動体についてのグループの移動データについても、受信を判断してよい。また、場合によっては、受信制御部32は、個別の移動体の移動データではなく、複数の移動体に対応するグループの移動データのみを受信して判断してよい。
無線通信部11が移動データを受信していない場合、受信制御部32は、
図5の受信処理を終了する。
無線通信部11が移動データを受信している場合、受信制御部32は、ステップST2において移動データを取得してメモリ18に保存する。その後、受信制御部32は、
図5の受信処理を終了する。
以上の処理が繰り返されることにより、メモリ18には、受信制御部32により取得された複数の他の移動体のそれぞれについての、異なる時刻の複数の移動データが蓄積して保存される。
なお、受信制御部32は、メモリ18に新たな移動データを保存する際に、古くなって不要になった移動データをメモリ18から削除してもよい。これにより、メモリ18に蓄積されるデータ量が、時間の経過とともに増加し続けてしまうことを防ぐことができる。有限な記憶容量のメモリ18を用いて、複数の他の移動体の移動データを好適に蓄積することができる。
【0049】
図6は、
図4の送信制御部35の処理の一例の説明図である。
送信制御部35は、たとえば新たな自車の移動データがメモリ18に記録された場合、または周期的なタイミングで、
図6の送信処理を繰り返し実施してよい。
【0050】
図6の送信処理のステップST11において、送信制御部35は、メモリ18に記録されている移動データに、送信するデータが含まれているか否かを判断する。
メモリ18に記録されている移動データに送信データが含まれていない場合、送信制御部35は、
図6の送信処理を終了する。
メモリ18に記録されている移動データに送信データが含まれている場合、送信制御部35は、ステップST12において、メモリ18から送信する移動データを取得して無線通信部11へ出力して送信する。その後、送信制御部35は、
図6の送信処理を終了する。
以上の処理により、メモリ18に蓄積される移動データは、適宜、他の移動体の通信装置または車両制御システム10へ送信される。他の移動体の通信装置または車両制御システム10は、自車から送信された移動データをメモリ18に保存して蓄積し、それぞれの移動の制御に利用する。なお、メモリ18に自車の移動データが記録されている場合、送信制御部35は、自車の移動データを、他の移動体の移動データとともに、他の移動体の通信装置または車両制御システム10へ送信してよい。
【0051】
図7は、
図4のグループ生成部33の処理の一例の説明図である。
グループ生成部33は、たとえば新たな移動データが受信されてメモリ18に追加された場合、または周期的なタイミングで、
図7のグループ処理を繰り返し実施してよい。
【0052】
図7のグループ処理のステップST21において、グループ生成部33は、メモリ18に蓄積されている複数の移動データを読み込んで、低速移動体の有無を判断する。
たとえば、グループ生成部33は、メモリ18に蓄積されている複数の移動データにおいて、属性情報が歩行者3、自転車、犬、子供、老人であるものが含まれる場合、低速移動体ありと判断する。
この他にもたとえば、グループ生成部33は、移動データに含まれる実際の速度情報が所定速度以下である場合、低速移動体ありと判断する。
【0053】
ステップST22において、グループ生成部33は、メモリ18に移動データが蓄積されている複数の低速移動体または移動体についての最新の移動データを読み込んで、自車を含むエリアの地域地図にマッピングする。なお、メモリ18から読み込んだ最新の移動データが時間の経っているものである場合、グループ生成部33は、移動データに基づいて得られる移動速度および移動方向により現時刻での移動体の位置を予想し、その予想した位置にマッピングしてよい。
【0054】
ステップST23において、グループ生成部33は、地域地図にマッピングされた複数の低速移動体の位置に基づいて、複数の低速移動体をグループ化して監視する必要があるか否かを判断する。グループ生成部33は、たとえば横断歩道9の近くで停止している複数の低速移動体がある場合、その複数の低速移動体をグループ化すると判断する。この際、グループ生成部33は、まず、信号がある横断歩道9の近くの側道に最小のエリアを設定し、エリア内に複数の低速移動体が含まれるか否かを判断する。そして、エリア内に複数の低速移動体が含まれる場合、複数の低速移動体をグループ化すると判断すればよい。ここでの最小のエリアは、たとえば各々の横断歩道9の状況に応じてサイズを変更してもよい。
なお、エリアのサイズ変更にあたって、グループ生成部33は、エリアサイズの上限を予め設定し、それ以上にサイズを変更しないようにしてもよい。このようにグループ化すべきエリアを広げ過ぎないように制限することにより、たとえば横断歩道9から離れている個別に監視すべき低速移動体を、グループに含めないようにできる。
また、ステップST22およびステップST23の処理において、グループ生成部33は、たとえば、自車の現在位置および進路に交差するように移動してくる可能性がある低速移動体のみを地図にマッピングし、その地図における複数の低速移動体の相互の位置関係に基づいて近接している複数の低速移動体をグループ化してよい。グループ化が不要である場合、グループ生成部33は、
図7のグループ処理を終了する。この場合、グループの移動データは、生成されず、メモリ18に登録されない。
【0055】
グループ化が必要である場合、グループ生成部33は、処理をステップST24へ進める。ステップST24において、グループ生成部33は、グループ化の対象として選択した複数の低速移動体の移動データを用いて、グループの移動データを生成する。グループ生成部33は、エリア内およびエリアの近傍に停止している複数の低速移動体をグループ化の対象として選択してよい。グループの移動データは、個別の移動体の移動データと同様に、グループの識別情報、属性情報、位置情報、位置検出時刻情報、速度情報、進行方向情報、を有してよい。たとえばグループの移動データが複数の歩行者3についてのものである場合、新たに発行した識別情報、歩行者3の属性情報、グループの中心の位置情報、グループを生成した時刻情報、複数の歩行者3についての速度の情報、複数の歩行者3についての移動方向の情報、を有してよい。グループ生成部33は、グループ化の対象として選択した複数の低速移動体の移動データに含まれる情報などに基づいて、これらのグループの情報を生成する。
【0056】
ステップST25において、グループ生成部33は、生成したグループについての監視に使用する監視曲線を生成する。
たとえば、グループ生成部33は、生成したグループに属するすべての低速移動体の最新の位置をマッピングし、そのすべての低速移動体を囲う外周枠を生成する。
次に、グループ生成部33は、外周枠についての、自車か通過する進路に面した部分を基準とし、外周枠の外側に離れた位置に、外周枠の形状に倣って相似状に湾曲する監視曲線を生成する。これにより、グループ生成部33は、グルーブ化される複数の低速移動体低速移動体について、複数の低速移動体の位置に基づいて、自車が通過する進路寄りの監視曲線を生成する。
ここで、複数の低速移動体を囲う外周枠の位置から監視曲線の位置までの距離は、一定でも、生成に用いる複数の低速移動体の組成に応じて調整してもよい。
たとえば、複数の低速移動体に自転車、犬または子供が含まれる場合、グループ生成部33は、外周枠から監視曲線までの距離を、通常よりも大きな距離にするとよい。グループ生成部33は、複数の低速移動体の高さ位置の情報に基づいて、子供や犬が含まれるか否かを推定してよい。
【0057】
ステップST26において、グループ生成部33は、監視曲線の形状および位置情報を、グループの移動データに追加してメモリ18に保存する。グループの移動データは、それに属する複数の低速移動体と関連付けて、メモリ18に保存される。なお、グループの移動データには、グループに属する複数の移動体の識別情報を追加してよい。
その後、グループ生成部33は、
図7のグループ処理を終了する。
以上の処理により、メモリ18には、メモリ18に蓄積されている複数の低速移動体について、自車の進路を横断する横断歩道の傍において停止している複数の低速移動体ごとに、グループの移動データが保存される。その後、グループ生成部33は、グループに属する低速移動体についての新たな移動データを受信すると、その移動データの情報に基づいて、グループの移動データの情報を更新してよい。また、グループ生成部33は、グループに属する複数の移動体の位置の範囲が一定以上の割合で広がると、メモリ18からそのグループの移動データを削除してよい。
【0058】
図8は、本発明の第一実施形態における、
図4の移動体監視部34の処理の一例の説明図である。
移動体監視部34は、たとえば走行制御部36による1回の一連の移動制御が完了した場合、新たな自車の移動データがメモリ18に記録された場合、または周期的なタイミングで、
図8の監視処理を繰り返し実施してよい。
【0059】
図8の監視処理のステップST31において、移動体監視部34は、メモリ18に記録されている複数の移動データを、個別のものよりもグループを優先して取得する。移動体監視部34は、各移動体または各グループについて時刻が異なる複数の移動データがメモリ18に蓄積されている場合、その複数の移動データを取得する。
ステップST32において、移動体監視部34は、取得した移動データを用いて、その移動データに対応している他の移動体の移動についての自車の移動に対する影響の有無および程度を予測判断し、その予測判断に応じた監視レベルを判定する。
たとえば、グループの移動データを取得している場合、移動体監視部34は、監視曲線の位置を、グループに属する複数の低速移動体についての車線方向への最大の移動速度により移動させる。そして、移動体監視部34は、自車の進路と交差または近接する可能性があるか否かを判断する。
この他にもたとえば、他の移動体についての個別の移動データを取得している場合、移動体監視部34は、移動データから他の移動体の進路を予測し、自車の進路と交差または近接する可能性があるか否かを判断する。また、移動体監視部34は、その交差位置または近接位置への他の移動体の到達時間および自車の到達時間を演算し、時間差を含めて自車の進路と交差または近接する可能性があるか否かを判断してよい。
移動体監視部34は、メモリ18に蓄積されているすべての移動データを使用することにより、他の移動体の動きを精度よく判断することができる。
【0060】
ステップST33において、移動体監視部34は、他の移動体の移動についての自車の移動に対する影響の有無および程度に基づいて、他の移動体に対して監視レベルを付与する。
他の移動体に付与される監視レベルは、たとえば、他の移動体の進路が交差する場合の高レベル、他の移動体の進路が近接する場合の中レベル、他の移動体の進路が交差も近接もしない場合の低レベル、でよい。
以上の処理を繰り返すことにより、移動体監視部34は、刻々と変化する他の移動体の移動状況に応じて該他の移動体を監視し続けることができる。また、移動体監視部34は、複数の他の移動体を、監視レベルで分類することができる。
そして、移動体監視部34は、グループの移動データを取得している場合、そのグループに属する複数の低速移動体の移動を、生成した1つの監視曲線の移動により監視することができる。
また、移動体監視部34は、監視曲線を超えて移動してくる低速移動体がある場合、その低速移動体については監視曲線とは別に個別に監視することができる。
【0061】
図9は、
図4の車両制御装置としての走行制御部36の処理の一例の説明図である。
走行制御部36は、たとえば自身による前回の一連の移動制御が完了した場合、新たな自車の移動データがメモリ18に記録された場合、または周期的なタイミングで、
図9の走行処理を繰り返し実施してよい。
【0062】
図9の走行処理のステップST41において、走行制御部36は、車両2に設けられている各種の自車センサの検出データなどを取得する。
ステップST42において、走行制御部36は、自車センサの検出データに基づいて、自車の走行状態が緊急な状態にあるか否かを判断する。走行制御部36は、たとえば撮像デバイス12による車両2前方の画像において車道への歩行者3または他の車両の飛び出しを検出した場合、自車の走行状態が緊急な状態にあると判断する。
自車の走行状態が緊急な状態にある場合、走行制御部36は、処理をステップST47へ進める。ステップST47において、走行制御部36は、緊急な状況に対応する車両2の走行制御および乗員保護制御を実行する。走行制御部36は、たとえば、即座に車両2を制動して急停車させる回避制御を実行する。また、急停車の制御を開始した後に走行センサ15が大きな加速度を検出した場合、走行制御部36は、シートベルトおよびエアバッグを用いた乗員保護制御を実行する。なお、この緊急な走行制御の際に、走行制御部36は、緊急を告げる自車の移動データを、無線通信部11から他の移動体へ送信してよい。これにより、他の移動体は、自車に追従して必要な緊急な走行制御を開始できる。なお、自車の走行制御部36も、無線通信部11が他の移動体から緊急を告げる移動データを受信していることをステップST42で判断し、受信している場合には処理をステップST47へ進めてよい。
【0063】
自車の走行状態が緊急な状態にない場合、走行制御部36は、処理をステップST43へ進める。ステップST43において、走行制御部36は、移動体監視部34による監視結果を取得する。
ステップST44において、走行制御部36は、移動体監視部34による複数の移動体の移動についての監視結果に応じて、車両2の進路を生成または調整し、進路を更新する。
走行制御部36は、たとえば、経路生成部37により生成された移動経路に基づいて、今回の車両2の移動制御期間での進路を生成する。走行制御部36は、直進する場合にはたとえば現状の車線のそのまま走行する進路を生成し、右左折する場合には右左折用の車線へ変更して走行する進路を生成する。
また、走行制御部36は、監視結果に基づいて、今回の車両2の移動制御に用いる進路に対して、今回の車両2の移動制御期間で交差または近接する可能性がある他の移動体の有無を判断する。走行制御部36は、高レベルおよび中レベルの監視結果を有する移動体についての、今回の車両2の移動制御期間での移動速度および移動方向を予測し、自車の進路との交差または近接を判断する。
今回の車両2の移動制御期間において自車の進路と交差または近接する他の移動体がない場合、走行制御部36は、移動経路に基づいて生成した進路を、今回の制御に使用する進路として、進路を更新する。
今回の車両2の移動制御期間において自車の進路と交差または近接する他の移動体がある場合、走行制御部36は、移動経路に基づいて生成した進路が該他の移動体の進路から離れるように、進路を更新する。または、走行制御部36は、交差位置または近接位置の手前で停止できるように、移動経路に基づいて生成した進路の速度情報を更新する。
ステップST45において、走行制御部36は、更新した新たな進路にしたがって、車両2が安全な走行し得る範囲での制御により、自車の走行を制御する。この間に乗員による操作部材17の操作がある場合、更新した新たな進路に近づくように、操作量に対する制御量を増減して調整してよい。
ステップST46において、走行制御部36は、制御後の自車の新たな位置情報および時刻情報を含む自車の移動データを生成し、メモリ18に保存して蓄積する。
以上の処理を繰り返すことにより、走行制御部36は、刻々と変化する他の移動体の移動状況に応じて自車の移動を制御し続けることができる。
【0064】
以上のように、本実施形態では、他の移動体の実速度または種類により判断される低速移動体について、複数の低速移動体の位置に基づいて自車が通過する進路寄りの監視曲線を生成し、生成した監視曲線の移動により監視する。
たとえば、本実施形態では、自車の進路を横断可能な位置に停止している複数の低速移動体について、自車が通過する進路寄りの監視曲線を生成する。具体的にはたとえば、本実施形態では、自車の進路を横断する赤信号の横断歩道の傍で停止している複数の低速移動体について、自車が通過する進路寄りの監視曲線を生成する。
また、本実施形態では、監視曲線が、監視曲線の近傍にいる複数の低速移動体についての車線方向への最大の移動速度により移動するものとして、監視する。
このように、本実施形態では、交通システム1において収集され得る複数の低速移動体についての移動データを良好にグループ化し、グループについて生成した監視曲線の移動により複数の低速移動体の移動を監視することができる。また、本実施形態では、そのグループの監視曲線の監視に基づいて、車両の走行などを良好に制御できる。
また、本実施形態では、監視曲線を超えて移動してくる低速移動体については、監視曲線とは別に個別に監視する。よって、監視曲線により適切に監視することができない低速移動体についても、個別に適切に監視することができる。
【0065】
本実施形態では、生成に用いる低速移動体の組成に応じて、複数の低速移動体を囲う外周枠の位置から監視曲線の位置までの距離を調整する。具体的にたとえば、グループ化される低速移動体にペットをつれている人、子供、老人などが含まれる場合には、本実施形態では、大人のみで構成される場合よりも、複数の低速移動体の位置から監視曲線の位置までの距離を広げる。これにより、通常の大人とは異なる移動をする可能性がある低速移動体がグループ化して監視されている場合でも、そのような低速移動体の移動に対して大きな安全マージンを確保することができる。
【0066】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係る交通システム1について説明する。本実施形態では、上述した実施形態と同様の構成については同一の符号を使用して図示および説明を省略する。以下の説明では、主に上述した実施形態との相違点について説明する。
【0067】
図10は、本発明の第二実施形態における、
図4の移動体監視部34の処理の一例の説明図である。
図10のステップST31からST33の処理は、上述した実施形態の
図8のステップと同様である。
【0068】
ステップST51において、移動体監視部34は、自車が停車しているまたは停車中であるか否かを判断する。移動体監視部34は、たとえば走行センサ15が検出する車速が0km/hであるか否かに基づいて、自車が停車しているまたは停車中であるか否かを判断してよい。
自車が停車しているまたは停車中である場合、移動体監視部34は、ステップST52において、自車が右左折するか否かを判断する。移動体監視部34は、たとえば操作部材17において右左折のためのウィンカレバーが操作されているか否かに基づいて、自車が右左折するか否かを判断してよい。
自車が右左折しない場合、移動体監視部34は、処理をステップST31へ進める。移動体監視部34は、グループ優先でメモリ18から移動データを取得し(ステップST31)、取得した他の移動体の監視レベルを判定し(ステップST32)、監視レベルを付与する(ステップST33)。移動体監視部34は、停止している複数の低速移動体をグルーブの移動データにより監視する。
【0069】
これに対し、自車が停車しているまたは停車中でない場合、または、自車が停車しているものの右左折する場合、移動体監視部34は、処理をステップST53へ進める。
ステップST53において、移動体監視部34は、個別優先でメモリ18から移動データを取得する。その後、移動体監視部34は、取得した他の移動体の監視レベルを判定し(ステップST32)、監視レベルを付与する(ステップST33)。移動体監視部34は、グループに属する低速移動体についても、個別の移動データを取得する。
その後、移動体監視部34は、
図10の処理を終了する。
【0070】
これにより、移動体監視部34は、複数の低速移動体の移動を、監視曲線を用いた監視と、個別の監視との間で切り替えて監視する。移動体監視部34は、自車が停車している場合には、グループの移動データに含まれる監視曲線を用いて、複数の低速移動体の移動を監視する。これに対し、たとえば自車が右左折のために停車している場合には、移動体監視部34は、複数の低速移動体の移動を、個別の移動データに基づいて監視する。
【0071】
以上のように、本実施形態では、複数の低速移動体の移動を、監視曲線を用いた監視と、個別の監視との間で切り替えて監視する。
たとえば、自車が停車している場合、本実施形態では、監視曲線を用いて、複数の低速移動体の移動を監視する。また、本実施形態では、自車が停車している場合であっても、自車が右左折するときには、複数の低速移動体の移動を個別に監視する。これにより、本実施形態では、グループを構成する人が自車の停車中に異なる方向へ移動する場合でも、右左折のために再発進する際には個別に低速移動体の移動を監視することができる。
【0072】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【0073】
たとえば、上記実施形態では、移動体に設けられる車両制御システム10および通信装置は、メモリ18に蓄積した移動データに基づいて車両2の移動を制御するために、移動体監視部34と走行制御部36とを用いている。
この他にもたとえば、移動体に設けられる車両制御システム10および通信装置は、走行制御部36の処理において移動体監視部34と同様の処理を実施し、移動体監視部34のみを用いてもよい。この場合、移動体監視部34は、たとえば
図9のステップST43において、移動体監視部34と同様の処理を実施すればよい。また、このように走行制御部36に移動体監視部34を統合している場合、走行制御部36は、監視レベルを付与することなく、監視判断結果をそのまま用いて進路を調整するように更新してよい。
【0074】
上記実施形態では、移動体に設けられる車両制御システム10および通信装置は、受信制御部32は、メモリに記録する移動データを管理している。
この他にもたとえば、移動体に設けられる車両制御システム10および通信装置は、受信制御部32とは別に、メモリ管理部を備えてよい。
【0075】
上記実施形態では、移動体に設けられる車両制御システム10および通信装置は、走行制御部36とともに送信制御部35を有する。
この他にもたとえば、移動体に設けられる車両制御システム10および通信装置は、送信制御部35を走行制御部36に統合し、移動データの送信処理を走行制御部36に実施させてもよい。この場合、走行制御部36は、たとえば
図9のステップST46の処理の後に、保存した自車の移動データを無線通信部11により送信してよい。
【0076】
上記実施形態では、車両2に設けられる車両制御システム10は、
図4に示す各部を備えている。この他にもたとえば、車両制御システム10は、
図4の一部の機能のみを備えてもよい。また、車両制御システム10は、独自に備える
図4の一部の機能に対して、たとえば携帯端末などにより
図4の残部の機能が追加されることにより、
図4のすべての機能を備えてもよい。
また、車両制御システム10は、
図4の一部の機能を備え、その状態において上述した各種の処理を実施してもよい。車両用の通信装置22は、たとえば車両2に搭載される自車センサとして
図4の一部のみを備えるものでもよい。特に、車両制御システム10は、車両2において走行以外の制御を実施する場合、
図4のすべての自車センサ、操作部材17、ECU20の経路生成部37、を備えなくてもよい。この場合であっても、車両制御システム10に備えられる車両用の通信装置22は、サーバ装置6との間で移動データなど送受する交通システム1を構成する。
【0077】
上記実施形態では、車両用の通信装置22は、車両制御システム10の一部として説明している。歩行者3、自転車などの低速移動体用の制御システムにおいても、上述した車両用の通信装置22と同様の機能を備えてよい。また、車両2以外の電車などの他の種類の車両2においても、上述した車両制御システム10および車両用の通信装置22を適用してよい。
【符号の説明】
【0078】
1…交通システム、2…車両(車両用の移動体監視装置)、3…歩行者(歩行者用の移動体監視装置)、4…基地局、5…ビーコン装置、6…サーバ装置、7…幹線道路、8…路地、9…横断歩道、10…車両制御システム(車両用の移動体監視装置)、11…無線通信部、12…撮像デバイス、13…スキャンデバイス、14…GPS受信機、15…走行センサ、16…環境センサ、17…操作部材、18…メモリ、19…タイマ、20…ECU、21…車載ネットワーク、22…通信装置(車両用の移動体監視装置)、32…受信制御部、33…グループ生成部、34…移動体監視部、35…送信制御部、36…走行制御部(車両制御装置)、37…経路生成部