(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】筆記具用水性インク組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20221104BHJP
【FI】
C09D11/16
(21)【出願番号】P 2018188325
(22)【出願日】2018-10-03
【審査請求日】2021-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】羽賀 久人
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-331151(JP,A)
【文献】特開2013-124333(JP,A)
【文献】国際公開第2009/084494(WO,A1)
【文献】特開2017-81852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/16
A01N 1/00
A01P 3/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、下記一般式(I)で表される
構造を繰り返し単位中に有するポリマー成分が50質量%以上で構成される粒子を有効成分として含有し、その含有量が0.1~30質量%であることを特徴とする筆記具用水性インク組成物。
【化1】
〔上記式(I)中、Rは炭素数2~8のアルキル基である。〕
【請求項2】
前記粒子の平均粒子径が10~800nmであることを特徴とする請求項1記載の筆記具用水性インク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性、筆記性能を損なうことなく、防腐効果(防菌性・防かび性)に優れた筆記具用水性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、筆記具用水性インク組成物に用いられる防腐剤等としては、幾つかの材料が知られている。
例えば、1)(顔料及び顔料分散剤)および/または樹脂エマルジョン着色体からなる着色料、水溶性有機溶剤、擬塑性付与剤および水からなる水性インキ基本組成物及び水性インキ基本組成物重量の0.05~0.5重量%の架橋型アクリル酸重合物の塩を含み、更に1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンなどの防腐剤を含む水性ボールペン用インキ組成物(例えば、特許文献1参照)、
2)水不溶性色材及び微粒子状樹脂組成物を水系媒体に微分散してなる水性インク組成物であって、前記微粒子状樹脂組成物が油溶性防菌防黴剤及び水不溶性高分子からなることを特徴とする水性インク組成物(例えば、特許文献2参照)
3)水と、水溶性有機溶剤と、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変色性組成物を内包させた可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と、側鎖にカルボキシル基を有する櫛型高分子分散剤と、水溶性樹脂と、炭素数3以上の糖アルコールと、カチオン性を有する防腐剤とからなる可逆熱変色性水性インキ組成物(例えば、特許文献3参照)、
4)着色剤と、水と、多価アルコールと、防腐防かび剤と、から少なくともなる水性インキにおいて、前記防腐防かび剤が3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメートを含有することを特徴とする水性インキ(例えば、特許文献4参照)、
などが知られている。
【0003】
しかしながら、上記特許文献1~4に記載の防腐剤などは、安全性の問題で使用量が制限されているものや、他のインク材料へ何らかの悪影響を与えるもの、または、特定の汚染源への効果が十分でないものがあるなどの課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-48929号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【文献】特開2002-138231号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【文献】特開2015-10125号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【文献】特開2015-196745号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の課題等に鑑み、これを解消しようとするものであり、保存安定性、筆記性能を損なうことなく、防腐効果(防菌性・防かび性)に優れた筆記具用水性インク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、少なくとも、特定物性となるポリマーを主体として構成される粒子を特定量含有せしめることにより、上記目的の筆記具用水性インク組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0007】
すなわち、本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、下記一般式(I)で表されるポリマーを主体として構成される粒子を有効成分として含有し、その含有量が0.1~30質量%であることを特徴とする。
【化1】
〔上記式(I)中、Rは炭素数2~8のアルキル基である。〕
前記粒子の平均粒子径は10~800nmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、保存安定性、筆記性能を損なうことなく、防腐効果(防菌性・防かび性)に優れた筆記具用水性インク組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、下記一般式(I)で表されるポリマーを主体として構成される粒子を有効成分として含有し、その含有量が0.1~30質量%であることを特徴とするものである。
【化1】
〔上記式(I)中、Rは炭素数2~8のアルキル基である。〕
【0010】
本発明に用いられる粒子としては、上記一般式(I)で表されるポリマーを主体として構成されるものであり、例えば、1)上記一般式(I)で表される構造を繰り返し単位中に有するポリマー粒子、2)上記一般式(I)で表されるポリマーに防腐剤や抗菌剤を内包する粒子などが挙げられる。
上記一般式(I)で表されるポリマーを「主体」として構成とは、上記一般式(I)で表されるポリマー成分を50質量%以上、好ましくは70質量%以上で構成することを意味する。
上記一般式(I)中におけるRの炭素数2~8のアルキル基としては、エチル基、プロピル基(直鎖、分岐)、ブチル基(直鎖、分岐)、ペンチル基(直鎖、分岐)、ヘキシル基(直鎖、分岐)、ヘプチル基(直鎖、分岐)、オクチル基(直鎖、分岐)が挙げられ、好ましくは、外科領域において傷口の縫合のための接着剤にとして用いられている、炭素数4のアルキル基及び炭素数8のオクチル基が望ましく、特に好ましくは、イソブチル基、n-オクチル基及び2-オクチル基である。
【0011】
本発明において、上記1)の一般式(I)で表される構造を繰り返し単位中に有するポリマー粒子は、細菌の細胞壁に接着し細胞壁合成を妨害し溶菌を生じさせ、細菌(かび類も含む)の発育を阻止することにより、単独で、抗菌効果(防菌性・防かび性)を有する粒子となるものである。
この粒子の製造は、例えば、上記一般式(I)で表される構造単位(モノマー)をアニオン重合により重合することにより得られる。その際の重合開始及び重合の安定化のため重合薬剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、水酸基を有する単糖類及び二糖類から成る群より選ばれる少なくとも1種の糖が挙げられる。
【0012】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えば、ラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、パルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどが挙げられる。
【0013】
また、上記ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとは別に、重合薬剤として糖を用いることで、さらにその効果を高めることができる。
用いる糖としては、水酸基を有する単糖又は二糖であればいずれの糖でもよく、好ましい例として、グルコース、マンノース、リボース、フルクトース、マルトース、トレハロース、ラクトース及びスクロースを挙げることができる。これらの糖は、環状、鎖状のいずれの形態であってもよく、また、環状の場合、ピラノース型やフラノース型等のいずれであってもよい。また、糖には種々の異性体が存在するがそれらのいずれでもよい。通常、単糖は、ピラノース型又はフラノース型の形態で存在し、二糖は、それらがα結合又はβ結合したものであり、このような通常の形態にある糖をそのまま用いることができる。単糖及び二糖は、単独で用いることもできるし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0014】
重合反応の溶媒は、通常、水(蒸溜水、精製水、純水など)が用いられる。アニオン重合は、水酸イオンにより開始されるので、反応液のpHは、重合速度に影響する。反応液のpHが高い場合には、水酸イオンの濃度が高くなるので重合が速く、pHが低い場合には重合が遅くなる。通常、pHが2~4程度の酸性下で適度な重合速度が得られる。反応液を酸性にするために添加する酸としては、特に限定されないが、反応に悪影響を与えない、リン酸、塩酸、酢酸、フタル酸、クエン酸などを好ましく用いることができる。
【0015】
反応開始時の重合反応液中の上記式(I)で表される構造単位の濃度は、特に限定されないが、通常、0.1~10質量%程度、好ましくは、1~5質量%程度である。また、反応開始時の重合反応液中の重合薬剤の濃度(複数種類用いる場合はその合計濃度)は、特に限定されないが、通常、1~30質量%、好ましくは、5~20質量%程度である。また、反応温度は、特に限定されないが、室温で行なうことが簡便で好ましい。反応時間は、特に限定されないが、通常、0.5時間~4時間程度である。重合反応は、撹拌下に行なうことが好ましい。なお、粒子は、通常、中性の粒子として用いられるので、反応終了後、必要に応じて、水酸化ナトリウム水溶液等の塩基を反応液に添加して中和することが好ましい。
【0016】
上記の重合反応により、上記式(I)で表される構造単位がアニオン重合し、一般式(I)で表される構造を繰り返し単位中に有するポリマー粒子が生成する。上記方法により得られる粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、筆記具用水性インクに用いる点、分散安定性の点、表面積の点から、1000nm未満とすることが好ましく、より好ましくは、10~800nm、特に好ましくは、10~200nmであるものが望ましい。
この平均粒子径の調整は、反応液中の上記式(I)で表される構造単位の濃度、用いる重合薬剤種及びその量、反応時間などを調節することにより行うことができる。生成した粒子は、必要に応じて、遠心式限外ろ過等の常法により回収することもできる。
なお、本発明で規定する「平均粒子径」は、散乱光強度分布によるヒストグラム平均粒子径であり、本発明(後述する実施例を含む)では、粒度分布測定装置〔FPAR1000(大塚電子社製)〕にて、測定したD50の値である。
【0017】
本発明における上記一般式(I)で表される構造を繰り返し単位中に有するポリマー粒子は、上述に如く、防腐効果(防菌性・防かび性)を有する粒子となるものである。
また、上記一般式(I)で表される構造を繰り返し単位中に有するポリマー粒子は、粒子内部に筆記具用インク組成物に用いる防腐剤や抗菌剤を内包(抱合)させて上記2)の粒子を得ることができる。
上記2)の粒子の製造としては、例えば、上記1)の製造の際に、所望の防腐剤や抗菌剤を添加して、上記1)の方法により粒子の形成と同時に、粒子の内部に所望の筆記具用インク組成物に用いる防腐剤や抗菌剤を内包(抱合)させることができる。
【0018】
用いることができる防腐剤や抗菌剤としては、例えば、ペンタクロロフェノールナトリウム、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、2,3,5,6-テトラクロロ-4(メチルスルフォニル)ピリジン、パラオキシ安息香酸エステル、フェノール、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、モルホリン、クレゾール、メチルイソチアゾリノン、クロロメチルイソチアゾリノン、オクチルイソチアゾリノン、ジクロロオクチルイソチアゾリノン、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリス(2-ヒドロキシエチル)-1,3,5-トリアジン、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、2-ピリジンチオール-1-オキシドナトリウム、ピリチオンナトリウム、2-(4-チオゾリル)ベンズイミダゾールなどの少なくとも1種が挙げられる。
【0019】
これらの防腐剤や抗菌剤は、単独では、安全性の問題で使用量が制限されているものや、他のインク材料へ何らかの悪影響を与えるもの、または、特定の汚染源への効果が十分でないものがある場合でも、上記一般式(I)で表される構造を繰り返し単位中に有するポリマー粒子に上述の防腐剤や抗菌剤を内包(抱合)させることにより、粒子単独での抗菌・防かび効果との一体作用で使用量の制限を回避でき、使用量も極力少なくすることができるものとなり、また、筆記具用インク組成物に用いる防腐剤や抗菌剤が特定の汚染源への効果が十分でないものでも、粒子単独での抗菌作用等の一体作用により、優れた防菌性、防カビ効果を発揮できるものとなる。
【0020】
より好ましくは、上記2)の内包させる防腐剤や抗菌剤としては、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、メチルイソチアゾリノン、クロロメチルイソチアゾリノン、オクチルイソチアゾリノン、ジクロロオクチルイソチアゾリノン、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリス(2-ヒドロキシエチル)-1,3,5-トリアジンが望ましい。
防腐剤や抗菌剤を内包(抱合)させる量は、該防腐剤や抗菌剤の性質、使用時に必要な用量等に応じて適宜設定することができる。例えば、粒子全量に対して、0.1~35質量%程度であるが、これらの範囲に限定されるものではない。
この防腐剤や抗菌剤を内包(抱合)させた粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、上記1)の粒子と同様に、1000nm未満、好ましくは、10~800nmであるものが望ましい。
【0021】
上記特性の粒子〔上記1)~2)の各粒子〕は、各単独で、または2種以上を併用することができ、その有効成分の(合計)含有量は、インク組成物全量に対して、0.1~30質量%、好ましくは、0.1~10質量%とすることが望ましい。
本発明において、「有効成分」とは、防腐効果(防菌性・防かび性)を発揮する成分のみをいい、例えば、上記1)~2)の場合は、重合に用いる重合薬剤(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルや糖)、水などの各成分を含まないものである。上記1)の場合は、重合薬剤等の各成分を含まない粒子そのものが有効成分となり、上記2)の場合は、重合薬剤等を含まない粒子そのものと、該粒子に内包する防腐剤成分や抗菌剤成分とが有効成分となるものである。
この有効成分の含有量が0.1質量%未満であると、本発明の効果を発揮することができず、一方、30質量%超過であると、分散安定性が損なわれやすくなり、好ましくない。
【0022】
本発明の筆記具用水性インク組成物には、上記特性の粒子〔上記1)~2)〕の各粒子の他、筆記具用水性インクに汎用の着色剤、水溶性溶剤が含有される。
用いることができる着色剤としては、水溶性染料、顔料、例えば、無機顔料、有機顔料、プラスチックピグメント、粒子内部に空隙のある中空樹脂粒子は白色顔料として、または、発色性、分散性に優れる染料で染色した樹脂粒子(擬似顔料)等も使用できる。
水溶性染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料のいずれも本発明の効果を損なわない範囲で適宜量用いることができる。
【0023】
用いることができる水溶性溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3-ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類を単独或いは混合して使用することができる。この水溶性溶剤の含有量は、筆記具用水性インク組成物全量中、5~40質量%とすることが望ましい。
【0024】
本発明の筆記具用水性インク組成物には、上記特性の粒子、着色剤、水溶性溶剤の他、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)の他、本発明の効果を損なわない範囲で、分散剤、潤滑剤、pH調整剤、防錆剤、増粘剤、蒸発抑制剤、界面活性剤などを適宜含有することができる。
【0025】
用いることができる分散剤としては、ノニオン、アニオン界面活性剤や水溶性樹脂が用いられる。好ましくは水溶性高分子が用いられる。
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステルなどのノニオン系や、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。
【0026】
pH調整剤としては、アンモニア、尿素、モノエタノーアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンや、トリポリリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなとの炭酸やリン酸のアルカリ金属塩、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水和物などが挙げられる。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類などが挙げられる。
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、発酵セルロース、結晶セルロース、多糖類などが挙げられる。用いることができる多糖類としては、例えば、キサンタンガム、グアーガム、ヒドロキシプロピル化グアーガム、カゼイン、アラビアガム、ゼラチン、アミロース、アガロース、アガロペクチン、アラビナン、カードラン、カロース、カルボキシメチルデンプン、キチン、キトサン、クインスシード、グルコマンナン、ジェランガム、タマリンドシードガム、デキストラン、ニゲラン、ヒアルロン酸、プスツラン、フノラン、HMペクチン、ポルフィラン、ラミナラン、リケナン、カラギーナン、アルギン酸、トラガカントガム、アルカシーガム、サクシノグリカン、ローカストビーンガム、タラガムなどが挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの市販品があればそれを使用することができる。
蒸発抑制剤としては、例えば、ペンタエリスリトール、p―キシレングリコール、トリメチロールプロパン、トリエチロールプロパン、デキストリンなどが挙げられる。
界面活性剤としては、例えば、フッ素系、シリコーン系、アセチレングリコール系などが挙げられる。
【0027】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、上記特性の粒子、水溶性溶剤、その他の各成分を筆記具用(ボールペン用、マーキングペン用等)インクの用途に応じて適宜組み合わせて、ホモミキサー、ホモジナイザーもしくはディスパー等の攪拌機により攪拌混合することにより、更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去すること等によって筆記具用水性インク組成物を調製することができる。
【0028】
また、本発明の筆記具用水性インク組成物のpH(25℃)は、使用性、安全性、インク自身の安定性、インク収容体とのマッチング性の点からpH調整剤などにより5~10に調整されることが好ましく、更に好ましくは、6~9.5とすることが望ましい。
【0029】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、ボールペンチップ、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップなどのペン先部を備えたボールペン、マーキングペン等に搭載される。
ボールペンとしては、上記組成の筆記具用水性インク組成物を直径が0.18~2.0mmのボールを備えたボールペン用インク収容体(リフィール)に収容すると共に、該インク収容体内に収容された水性インク組成物とは相溶性がなく、かつ、該水性インク組成物に対して比重が小さい物質、例えば、ポリブテン、シリコーンオイル、鉱油等がインク追従体として収容されるものが挙げられる。
なお、ボールペン、マーキングペンの構造は、特に限定されず、例えば、軸筒自体をインク収容体として該軸筒内に上記構成の筆記具用水性インク組成物を充填したコレクター構造(インク保持機構)を備えた直液式のボールペン、マーキングペンであってもよいものである。
【0030】
このように構成される本発明の筆記具用水性インク組成物にあっては、用いる上記特性の粒子が筆記具用水性インク組成物中に配合されているため、インク組成物中で防腐効果(防菌性・防かび性)を発揮することができ、その持続効果を長期間に亘り、しかも、これらの粒子は保存安定性、筆記性能を損なわないため、ボールペン、マーキングペンなどの筆記具に好適な筆記具用水性インク組成物が得られることとなる。
【実施例】
【0031】
次に、製造例、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0032】
〔製造例1~8:粒子A~Hの製造〕
下記製造例1~8により、各粒子を製造した。なお、以下の「部」は質量部を表す。
【0033】
(製造例1:粒子Aの製造)
2リットルのフラスコに、撹拌機、還流冷却器、温度計を取り付け、水槽にセットし、蒸留水93.8部、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O)2部、リン酸0.2部、式(I)中のRがiso-ブチルのモノマー4部を仕込んで、約15分撹拌してアニオン重合を終了し、粒子の分散液(粒子A)を得た。なお、粒子の平均粒子径は、108nmであった。
【0034】
(製造例2~8:粒子B~Hの製造)
下記表1に示す配合組成で、上記製造例1と同様にして各粒子の分散液(粒子B~H)を得た。なお、各粒子の平均粒子径は、下記表1に示す。
【0035】
(実施例1~10及び比較例1)
上記で得た各粒子を用いて、下記表2に示す配合組成(粒子A~H、着色樹脂微粒子、トリエタノールアミン、エチレングリコール、蒸留水)で、常法により筆記具用水性インク組成物を得た。粒子A~Hは、各粒子の分散液を有効成分25質量%となるまで濃縮して得た各分散液(粒子)を用いた。
【0036】
着色樹脂微粒子は、下記製造法により得た着色樹脂微粒子分散液を用いた。
(着色樹脂微粒子の製造)
2リットルのフラスコに、撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管、モノマー投入用1000ml分液漏斗を取り付け、温水槽にセットし、蒸留水500g、重合性界面活性剤〔アデカ社製“アデカリアソープSE-10N”〕50gおよび過硫酸アンモニウム3gを仕込んで、窒素ガスを導入しながら、内温を50℃まで昇温した。
一方、モノマーとして、フタル酸-2-メタクリロイルオキシエチル〔三菱レイヨン(株)製、アクリルエステルPA)300gと、他のモノマーとして、メタクリル酸n-ブチル200gとからなる混合モノマー500gに、水溶性塩基性染料〔保土谷化学工業(株)製、「AIZEN CATHILON RED BLH 200%」〕40gを混合した液を調製した。
この調製液を上記分液漏斗から温度50℃付近に保った上記フラスコ内に撹拌下で3時間にわたって添加し、乳化重合を行った。さらに5時間熟成して重合を終了し、水性インク用着色樹脂微粒子の分散液(粒子)を得た。この着色樹脂微粒子の平均粒子径は80nmであり、樹脂固形分は30質量%であった。
得られた各筆記具用水性インク組成物(全量100質量%)について、下記評価方法により、抗菌性について評価した。
これらの結果を下記表2に示す。
【0037】
〔防腐効果(防菌性・防かび性)の試験方法〕
ISO 11930:2012(保存効力試験または微生物学的リスク評価、またはその両方によって生成されたデータの解釈のための手順)に準拠した下記の微生物試験方法で行った。
下記細菌群、酵母、糸状菌の三群でチャレンジテストを実施した。
細菌群: Stapylococcus aureus NBRC13276、 Escherichia coli NBRC3972
酵母: Candida albicans NBRC1594
糸状菌: Aspergillus brasiliensis
〈接種菌液の調製〉
接種菌液の調製:ISO 11930:2012に従って菌液を調製した。
細菌群:各菌種毎にISO 11930:2012に従って菌液を調製した。菌種毎に1×107~1×108cfu/mlに調整した菌液を二種等量混合し接種菌液とした。
酵母:ISO 11930:2012に従い、1×106~1×107cfu/mlになるように菌液を調製した。
糸状菌:ISO 11930:2012に従い、1×106~ 1×107cfu/mlになるように菌液を調製した。
〈接種〉
筆記具用インク組成物に対し、1質量%の量の菌液を接種した。
〈保管〉
接種した筆記具用インク組成物は、温度22.5±2.5℃に保管し指定された期間ごとに検出培養を行った。
〈検出培養〉
細菌群はSCD寒天培地で、酵母はSD寒天培地で、糸状菌はPD寒天培地でそれぞれ10枚に合計1g塗抹し、細菌群と酵母は32.5℃、2日間、糸状菌は22.5℃、5日間培養した。
〈評価基準〉
A:7日目の時点でコロニーが出現しない。
B:21日目の時点でコロニーが出現しない。
C:28日目の時点で数個から数十個のコロニーが出現している。
D:28日の時点で明らかに増えている。
【0038】
【0039】
【0040】
上記表1及び表2を考察すると、本発明範囲となる実施例1~10は、本発明の範囲外となる比較例1に較べ、防腐効果(防菌性・防かび性)に優れていることが判った。
また、実施例1~10の各筆記具用水性インク組成物について、常温(25℃)下で3ヶ月保存した後、目視により凝集物等を官能評価したところ、全く粒子等の凝集はなく、保存安定性も問題ないことが判った。
【0041】
更に、上記保存安定性評価後の実施例1~10の各筆記具用インク組成物を用いて水性マーキングペンを作製した。具体的には、マーキングペン〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:プロパス・ウインドウ PUS-102T、ペン先、太:PE樹脂、細:PET繊維〕に上記各水性インクを充填し、マーキングペンを作製した。得られた各マーキングペンを用いて、PPC用紙へ直径2cm程度の円を連続して描くように10周螺旋筆記したところ、カスレが無く良好に筆記でき、筆記性能にも問題ないことが判った。
【産業上の利用可能性】
【0042】
サインペンやマーキングペン、ボールペンなどの筆記具に好適な筆記具用水性インク組成物が得られる。