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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】運転支援装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
G08G1/16 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018245839
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020107115
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】堀 寛己
(72)【発明者】
【氏名】北村 尭之
(72)【発明者】
【氏名】竹内 宏次
(72)【発明者】
【氏名】泉川 巌
(72)【発明者】
【氏名】嶋津 裕己
【審査官】上野 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-147115(JP,A)
【文献】特開2007-148618(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230344(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/194371(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
探査波の反射波を用いて、自車の後方の物体を検知し、前記自車に接近する物体を接近物として認識する物体検知部(22)と、
前記自車の速度と、前記物体検知部が検知した物体の前記自車に対する相対速度および方位を取得する取得部(21)と、
前記接近物が、実際には存在しないゴースト物標であることを判定するゴースト判定部(40)と、
前記ゴースト判定部により前記ゴースト物標であると判定された前記接近物を、前記自車の危険回避のための運転支援を実行する対象物から除外する支援判定部(23)と、を備え、
前記ゴースト判定部は、
前記接近物の前記自車に対する相対速度と、前記自車の速度および前記自車と前記接近物との間の後続物の前記自車に対する相対速度に基づいて算出した前記接近物の前記自車に対する相対速度の算出値との速度差を算出し、
前記後続物の方位と、前記接近物の方位とに基づいて、前記後続物と前記接近物との方位差を算出し、
前記速度差が、所定の速度差閾値未満であることを判定する速度判定部(41)と、
前記方位差が、所定の方位差閾値未満であることを判定する方位判定部(42)と、を備え、前記速度判定部により肯定判定され、かつ、前記方位判定部により肯定判定された場合に、前記接近物が前記ゴースト物標であると判定し、
前記方位判定部は、前記自車の速度が所定の自車速閾値未満である場合に、前記方位差閾値を所定の固定値に設定し、前記自車の速度が所定の自車速閾値以上である場合に、前記自車と前記後続物との距離に応じて前記方位差閾値を前記固定値よりも大きい範囲で変更する、運転支援装置(10)。
【請求項2】
前記方位判定部は、前記自車の速度が所定の自車速閾値以上である場合に、前記自車と前記後続物との距離が大きいほど前記方位差閾値を小さくする請求項に記載の運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の後方の物体検知情報に基づいて、運転支援を実行する運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、自車の前方へ電磁波を送信し、その反射波を受信することにより自車に接近する他車を検知して報知するシステムが記載されている。高架橋下やトンネル等の閉鎖的な空間を自車が走行する際などに、他車からの反射波が路上構造物においてさらに反射することにより、実際には存在しない物体(ゴーストオブジェクト)を検知することがある。特許文献1では、反射波により検知された物体がゴーストオブジェクトであると判定した場合には、その物体を報知対象物から除外する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-71012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、判定が困難なゴーストオブジェクトを確実に除外することを目的とする技術は記載されているが、実際の接近物をゴーストオブジェクトであると誤判定することを抑制する技術については記載されていない。実際の接近物をゴーストオブジェクトであると誤判定して、報知が行われないと、自車の走行安全性を確保できない。
【0005】
上記に鑑み、本発明は、実際の接近物と、ゴーストオブジェクトとを、より高精度に判別できる運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、探査波の反射波を用いて、自車の後方の物体を検知し、前記自車に接近する物体を接近物として認識する物体検知部と、前記自車の速度と、前記物体検知部が検知した物体の前記自車に対する相対速度および方位を取得する取得部と、前記接近物が、実際には存在しないゴースト物標であることを判定するゴースト判定部と、前記ゴースト判定部により前記ゴースト物標であると判定された前記接近物を、前記自車の危険回避のための運転支援を実行する対象物から除外する支援判定部と、を備える。前記ゴースト判定部は、前記接近物の前記自車に対する相対速度と、前記自車の速度および前記自車と前記接近物との間の後続物の前記自車に対する相対速度に基づいて算出した前記接近物の前記自車に対する相対速度の算出値との速度差を算出し、前記後続物の方位と、前記接近物の方位とに基づいて、前記後続物と前記接近物との方位差を算出し、前記速度差と前記方位差とに基づいて、前記接近物が前記ゴースト物標であると判定する。
【0007】
本発明によれば、運転支援装置のゴースト判定部は、接近物の自車に対する相対速度と、自車の速度および後続物の自車に対する相対速度に基づいて算出した接近物の自車に対する相対速度の算出値との速度差を算出する。また、ゴースト判定部は、後続物の方位と、接近物の方位に基づいて、自車に対する後続物と接近物との方位差を算出する。そして、ゴースト判定部は、速度差と方位差との双方に基づいて、接近物がゴースト物標であると判定する。検知された接近物の相対速度および方位と、その接近物がゴースト物標である場合を想定して理論的に求められる接近物の相対速度および方位とについて、速度差と方位差とを算出し、速度差と方位差との双方に基づいて、接近物がゴースト物標であるか否かについて判定するため、実際の接近物と、ゴーストオブジェクトとを、より高精度に判別できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る運転支援システム。
図2】実施形態に係るゴースト判定における速度条件と方位条件とを説明する図。
図3】ゴースト物標の相対速度についての頻度分布図。
図4】自車速度Vs、および、後続車と自車との距離Rに基づく方位差閾値の設定例を示す図。
図5】後続車と自車との距離Rに基づく方位差閾値の設定について説明する図。
図6】後続車と自車との距離Rと、後続車とゴースト物標との方位差との関係を示す図。
図7】実施形態に係る運転支援処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
図1に示すように、実施形態に係る運転支援システム10は、レーダ装置11と、車速センサ12と、ECU20と、警報装置30とを備えている。
【0010】
レーダ装置11は、例えば、ミリ波帯の高周波信号を送信波とする公知のミリ波レーダである。レーダ装置11は、自車に1つのみ設置されていてもよいし、複数設置されていてもよい。レーダ装置11は、例えば、自車の後端部等に設けられ、所定の検知角に入る領域を物体検知可能な検知範囲とし、検知範囲内の物体の位置を検知する。
【0011】
具体的には、所定周期で探査波を送信し、複数のアンテナにより反射波を受信する。この探査波の送信時刻と反射波の受信時刻とにより、物体との距離を算出することができる。
【0012】
また、物体に反射された反射波の、ドップラー効果により変化した周波数により、相対速度を算出する。加えて、複数のアンテナが受信した反射波の位相差により、物体の方位を算出することができる。なお、物体の位置および方位が算出できれば、その物体の、自車に対する相対位置を特定することができる。
【0013】
なお、レーダ装置11は、探査波を送信し、自車の周辺の物体における探査波の反射波を検知して、自車の周辺情報を取得する周辺監視装置の一例である。探査波を用いる周辺監視装置としては、レーダ装置11の他に、超音波センサ、LIDAR(Light Detection and Ranging/Laser Imaging Detection and Ranging)等を備えていてもよい。
【0014】
レーダ装置11等のミリ波レーダ、ソナー、LIDAR等の探査波を送信するセンサは、障害物によって反射された反射波を受信した場合に得られる受信信号に基づく走査結果をセンシング情報としてECU20へ逐次出力する。
【0015】
車速センサ12は、自車の走行速度を検知するセンサであり、限定されないが、例えば、車輪の回転速度を検知可能な車輪速センサを用いることができる。車速センサ12として利用される車輪速センサは、例えば、車輪のホイール部分に取り付けられており、車両の車輪速度に応じた車輪速度信号をECU20に出力する。
【0016】
運転支援システム10は、さらに、撮像装置、操舵角センサ、ヨーレートセンサ、GPS受信装置等のGNSS(Global Navigation Satellite System)受信装置等の各種センサを備えていてもよい。ECU20は、それらセンサの検知信号を取得可能であってもよい。
【0017】
警報装置30は、運転者等に報知するための装置であり、例えば自車の車室内に設置されたスピーカやブザー等の聴覚的に報知する装置、ディスプレイ等の視覚的に報知する装置等を例示できるが、これに限定されない。警報装置30は、ECU20からの制御指令に基づき警報音等を発することにより、例えば、運転者に対し、物体との衝突の危険が及んでいること等を報知する。
【0018】
ECU20は、データ取得部21と、物体検知部22と、支援判定部23と、ゴースト判定部40とを備えている。ECU20は、CPU、ROM、RAM、I/O等を備えた、CPUが、ROMにインストールされているプログラムを実行することでこれら各機能を実現する。これによって、ECU20は、レーダ装置11、車速センサ12等の各種センサから取得した情報に基づいて、警報装置30への制御指令を作成し、出力することにより、自車の運転支援を実行する運転支援装置として機能する。
【0019】
データ取得部21は、レーダ装置11から、物体の自車に対する相対速度および方位を取得する。また、車速センサ12から、自車の走行速度を取得する。
【0020】
物体検知部22は、レーダ装置11が受信する反射波についての検知情報から、自車の後方の物体を検知する。物体の種類については、特に限定されず、車両、自転車、自動二輪車、歩行者、動物、構造物等の全てを含み、移動体であってもよいし、静止体であってもよい。ECU20が撮像装置等のレーダ装置11以外の他の周辺監視装置を備えている場合には、他の周辺監視装置を併用して物体検知を行ってもよい。さらに、物体検知部22は、検知した各物体のうちから、自車に接近する接近物を認識する。接近物であるか否かは、その物体の自車に対する相対速度を用いて判定することができる。
【0021】
ゴースト判定部40は、物体検知部22が自車に接近する物体として検知した接近物が、実際には存在しないゴースト物標であることを判定する。ゴースト判定部40は、速度判定部41と、方位判定部42とを備えている。速度判定部41は、ゴースト物標としての速度条件についての判定を実行する。速度条件は、検知された接近物の相対速度と、その接近物がゴースト物標である場合を想定して理論的に求められる接近物の相対速度とのずれが所定の範囲内であることを条件とするものである。方位判定部42は、ゴースト物標としての方位条件についての判定を実行する。方位条件は、検知された接近物の方位と、その接近物がゴースト物標である場合を想定して理論的に求められる接近物の方位とのずれが所定の範囲内であることを条件とするものである。ゴースト判定部40は、物体検知部22により検知された接近物が、ゴースト物標としての速度条件と方位条件との双方を満たす場合に、その検知された接近物はゴースト物標であると判定する。
【0022】
図2を用いて、ゴースト判定部40が実行する処理について説明する。図2に示すように、道路60上を自車50および後続車51が走行している。道路60の中央には車線61が設けられており、車線61の左側が車線62であり、右側が車線63である。自車50と後続車51との間に、路上構造物57が存在している。路上構造物57は、例えば、道路標識、トンネルの天井等の金属構造物、看板、等の路上に設置された構造物である。図2(a)は自車50等を右側方視した図であり、図2(b)は、自車50に対する上方視した図である。
【0023】
自車50は、車線62において、道路60に対する自車50の速度(対地速度)である自車速度Vsで前方に走行している。自車速度Vsは、車速センサ12により検知され、データ取得部21により取得される。
【0024】
後続車51は、自車50のすぐ後ろを走行する車両であり、自車50の後続物の一例である。後続車51は、自車50の走行車線である車線62において自車50の後方を自車50と同じ方向に走行している。自車50に対する後続車51の相対速度は、Vrvであり、レーダ装置11により検知され、データ取得部21により取得される。
【0025】
自車50の後端位置P50に設置されたレーダ装置11から後方に送信された探査波が、後続車51の前方の検知点P51において反射し、さらに、路上構造物57においても反射すると、その反射波により、自車50の物体検知部22において、接近物55がゴースト物標として検知される。接近物55は、後続車51よりもさらに後方となる位置に検知される。
【0026】
接近物55がゴースト物標であると想定した場合における接近物55の自車50に対する相対速度Vg0(算出値)は、後続車51の自車50に対する相対速度Vrvと、自車速度Vsとを用いて、下記式(1)により算出することができる。
【0027】
Vg0=Vs+2Vrv … (1)
【0028】
一方、物体検知部22により検知された接近物55については、データ取得部21によって、レーダ装置11から、接近物55の自車50に対する相対速度Vgが取得される。速度判定部41は、下記式(2)に基づいて、接近物55の自車に対する相対速度Vg(検知値)と、算出値Vg0との速度差dVgを算出する。
【0029】
dVg=|Vg-Vg0|=|Vg-(Vs+2Vrv)| … (2)
【0030】
dVgが小さいほど、接近物55の自車50に対する相対速度Vgは、算出値Vg0に近い値である。速度判定部41は、所定の速度差閾値Vc1を設定し、速度差dVgが速度差閾値Vc1未満であるか否かを判定する。そして、dVg<Vc1である場合に、接近物55がゴースト物標としての速度条件を満たしていると判定する。また、dVg≧Vc1である場合に、接近物55がゴースト物標としての速度条件を満たしていないと判定する。
【0031】
ゴースト物標の検知し易さと、真の接近物をゴースト物標であると誤判定することを抑制することとは、トレードオフの関係にある。Vc1の値を大きくすれば、ゴースト物標を検知し易いが、真の接近物(実際に存在する接近物)をゴースト物標であると誤判定する確率は高くなる。Vc1の値を小さくすれば、真の接近物をゴースト物標であると誤判定する確率は低くなるが、ゴースト物標を検知しにくくなる。Vc1の値は、例えば、レーダ装置11や車速センサ12等の、自車50に搭載されたセンサ類の検知精度に基づいて、設定してもよい。
【0032】
また、速度差閾値Vc1は、実測値に基づいて設定されてもよい。例えば、レーダ装置11からデータ取得部21が取得した多数の相対速度Vgの集合について、その集合の所定の包含割合が含まれるように、速度差閾値Vc1を設定してもよい。
【0033】
より具体的には、例えば、図3に示すように、横軸を相対速度Vgのばらつきとし、縦軸をその頻度とする頻度分布図を作成する。そして、相対速度Vgの中央値(横軸が零となる位置)を中心に、相対速度Vgの集合全体に対して所定の包含割合(例えば95%)が含まれるように、上限規格値Vguおよび下限規格値Vgbを設定する。この上限規格値Vguと下限規格値Vgbとの差をVc1として設定することで、所定の包含割合(例えば95%)の相対速度Vgが含まれるように速度差閾値Vc1の設定をすることができる。包含割合は、自車50が走行する周辺環境や、自車50の走行状態等に基づいて、変更するようにしてもよい。
【0034】
図2(b)に示すように、自車50の後端位置P50に設置されたレーダ装置11からの探査波が、後続車51の右前端の検知点P51において反射する場合、ゴースト物標として検知された接近物55は、後続車51の後右側方となる検知点P55の位置に検出される。
【0035】
自車50に対する後続車51の方位θrvと、自車50に対する接近物55の方位θgは、データ取得部21によりレーダ装置11から取得される。方位θrvは、自車50の左右方向の中心軸である自車中心軸L1と、後端位置P50と検知点P51とを結ぶ線分とが成す角として検知される。方位θgは、自車中心軸L1と、後端位置P50と検知点P55とを結ぶ線分とが成す角として検知される。
【0036】
方位判定部42は、下記式(3)に基づいて、自車50に対する後続車51の方位θrvと、自車50に対する接近物55の方位θgとの方位差dθgを算出する。
【0037】
dθg=|θrv-θg| … (3)
【0038】
接近物55がゴースト物標である場合には、接近物55の検知点P55は、後端位置P50と検知点P51とを結ぶ線分上に位置するため、dθg=0となる。方位判定部42は、所定の方位差閾値θcを設定し、方位差dθgが方位差閾値θc未満であるか否かを判定する。そして、dθg<θcである場合に、接近物55がゴースト物標としての方位条件を満たしていると判定する。また、dθg≧θcである場合に、接近物55がゴースト物標としての速度条件を満たしていないと判定する。
【0039】
θcの値を大きくすれば、ゴースト物標を検知し易いが、真の接近物をゴースト物標であると誤判定する確率は高くなる。θcの値を小さくすれば、真の接近物をゴースト物標であると誤判定する確率は低くなるが、ゴースト物標を検知しにくくなる。θcの値は、例えば、レーダ装置11や車速センサ12等の、自車50に搭載されたセンサ類の検知精度に基づいて、設定してもよい。
【0040】
方位判定部42は、自車速度Vsや、自車50と後続車51との距離Rに基づいて、方位差閾値θcを変更してもよい。例えば、図4に示すように、方位判定部42は、自車速度Vsが所定の自車速閾値Vc2未満である場合に、方位差閾値θcを所定の固定値θc1に設定する。また、方位判定部42は、自車速度Vsが所定の自車速閾値Vc2以上である場合に、自車50と後続車51との距離Rに応じて方位差閾値θcを変更する。より具体的には、自車50と後続車51との距離Rが大きいほど方位差閾値θcを小さくする。図4において、距離Rに対する距離閾値Rc1~Rc3の大小関係は、Rc1<Rc2<Rc3である。また、方位差閾値θcについての所定の固定値θc1~θc5の大小関係は、θc1<θc5<θc4<θc3<θc2である。
【0041】
なお、距離Rは、例えば、レーダ装置11の検知情報から算出できる。具体的には、所定周期で探査波を送信し、複数のアンテナにより反射波を受信する。この探査波の送信時刻と反射波の受信時刻とにより、物体との距離を算出することができる。
【0042】
図4に示す方位差閾値θcの設定手法は、自車速度Vsを用いて道路60に対する接近物55の速度(対地速度)である接近物速度Vgrを推定し、接近物速度Vgrに基づいて、接近物55がゴースト物標であるか可能性を推察し、方位差閾値θcを設定するものである。上記式(1)より、接近物速度Vgrは、下記式(4)により算出できる。
【0043】
Vgr=Vs+Vg0=2Vs+2Vrv … (4)
【0044】
簡略化のため、後続車51が自車50と同じ対地速度で車線62を走行しており、自車50に対する後続車51の相対速度Vrvが零の場合(Vrv=0)を例示して説明する。上記式(4)より、接近物速度Vgrは、自車速度Vsの2倍の値となる(Vgr=2Vs)。
【0045】
ここで、自車速度Vsが20km,40kmである場合には、接近物速度Vgrは、それぞれ、40km,80kmと算出される。Vgr=40~80km程度の速度は、一般道路を走行する車両の一般的な速度である。言い換えると、40~80kmで走行する接近物55が車両である可能性は、比較的高いと推察できる。
【0046】
これに対し、自車速度Vsが60km,80km,100kmである場合には、接近物速度Vgrは、それぞれ、120km,160km,200kmと算出される。Vgr=120~200km程度の速度は、一般道路を走行する車両の一般的な速度ではない。言い換えると、120~200kmで走行する接近物55が車両である可能性は、比較的低いと推察できる。
【0047】
上記の推察に従い、自車速閾値Vc2を40~60km程度の値に設定する。そして、図4に従い、Vs<Vc2である場合、すなわち、自車速度Vsが20~40km程度と遅い場合には、検知された接近物55が車両等である可能性が比較的高いため、方位差閾値θcを小さく設定する。より具体的には、小さい値に設定された固定値θc1に設定する。これによって、接近物55が真の接近物であるにも関わらずゴースト物標であると誤判定する確率を低くすることを優先させる。Vs<Vc2である場合、特に方位差閾値θcを小さくすることにより、接近物55が、車間をすり抜けながら自車50に接近する自動二輪車等であるにも関わらず、ゴースト物標であると誤判定する確率を特に低くすることができる。
【0048】
また、Vs≧Vc2である場合、すなわち、自車速度Vsが60~100km程度と速い場合には、検知された接近物55が車両等である可能性が比較的低いため、方位差閾値θcをθc1よりも大きく設定する。これによって、ゴースト物標であると判定し易くすることを優先させる。
【0049】
さらに、Vs≧Vc2である場合には、図4に示すように、自車50と後続車51との距離Rが長いほど方位差閾値θcを小さくし、距離Rが短いほど方位差閾値θcを大きくする。
【0050】
図5に示すように、自車50からの距離がR1である後続車51において、自車50に対する後続車51の最大方位θ1は、角A1-O-B1により示される。また、自車50からの距離がR2である後続車52において、自車50に対する後続車52の最大方位θ2は、角A2-O-B2により示される。なお、距離R1はR2より短く(R1<R2)、最大方位θ1は、最大方位θ2よりも大きい(θ1>θ2)。後続車が、自車50からの距離がR1である後続車51であるときは、最大方位θ1以下にゴースト物標が検知される。後続車が、自車50からの距離がR2である後続車52であるときは、最大方位θ2以下にゴースト物標が検知される。図5から明らかなように、距離Rが小さいほど、検出されるゴースト物標は、自車50の側方にずれた位置に検出される。
【0051】
図2を用いて説明すると、自車50と後続車51との距離Rが短い場合には、接近物55は、車線62から右方向に遠ざかり、より車線63側に検知される。このため、方位差閾値θcを大きく設定する。
【0052】
自車50と後続車51との距離Rが長い場合には、接近物55は、車線62に比較的近い位置に検知される。このため、方位差閾値θcを小さく設定し、接近物55が真の接近物であるにも関わらずゴースト物標であると誤判定する確率は低くすることを優先させる。
【0053】
図4に示す自車速閾値Vc2、距離閾値Rc1~Rc3、方位差閾値θcについての所定の固定値θc1~θc5は、車線幅、後続車51の対地速度等によって、適宜変更することができる。
【0054】
距離閾値Rc1~Rc3、方位差閾値θcについての所定の固定値θc1~θc5は、実測値に基づいて設定されてもよい。例えば、レーダ装置11からデータ取得部21が取得した実測値について、図6に示すように、横軸を後続車51の距離Rとし、縦軸を方位差として、後続車51の距離がRであるときに検知されるゴースト物標との方位差の実測値をプロットし、分布図を作成する。この分布図に基づいて、後続車とゴースト物標との方位差の集合全体に対して所定の包含割合(例えば95%)が含まれるように、方位差閾値θcを設定することができる。
【0055】
例えば、図6において、全ての実測値が曲線71と曲線72との間に含まれるような、曲線71,72を求める。そして、曲線71,72に従って、Rが大きくなるほどθcが小さくなるように方位差閾値θcを設定してもよい。または、図6において、所定の包含割合(例えば95%)の実測値がステップ状の矩形線73と矩形線74との間に含まれるように、矩形線73,74を求める。そして、矩形線73,74に従って、Rが大きくなるほどステップ状にθcが小さくなるように方位差閾値θcを設定してもよい。実測値の包含割合は、自車50が走行する周辺環境や、自車50の走行状態等に基づいて、変更するようにしてもよい。
【0056】
上記の各閾値は、閾値そのもの、もしくは、計算式、データテーブル等の形式により、ECU20に記憶されていてもよい。
【0057】
支援判定部23は、ゴースト判定部40によりゴースト物標であると判定された接近物を、自車50の危険回避のための運転支援を実行する対象物から除外する。物体検知部22により接近物55が検知されても、その接近物55がゴースト判定部40によりゴースト物標であると判定された場合には、自車50の走行安全性を阻害しない。このため、支援判定部23は、接近物55についての報知、衝突回避、損害軽減等の運転支援を実行しない。物体検知部22により接近物55が検知され、その接近物55がゴースト判定部40によりゴースト物標ではないと判定された場合には、自車50の走行安全性を阻害する可能性がある。このため、支援判定部23は、接近物55についての報知、衝突回避、損害軽減等の運転支援を実行する。例えば、警報装置30に警報音を発する制御指令を出力する。
【0058】
図7を用いて、ECU20が実行する運転支援処理を説明する。ECU20は、自車の走行中に、所定の周期で繰り返し図7に示す運転支援処理を実行する。
【0059】
まず、ステップS101に示すように、ECU20は、レーダ装置11、車速センサ12等の各種センサから、自車速度Vs、自車の後方の物体の自車に対する相対速度および方位等の検知情報を取得する。その後、ステップS102に進む。
【0060】
ステップS102では、レーダ装置11から取得した検知情報に基づいて、自車の後方に存在する物体を検知する。物体の種類については、特に限定されず、車両、自転車、自動二輪車、歩行者、動物、構造物等の全てを含む。その後、ステップS103に進む。
【0061】
ステップS103では、ステップS102において物体検知された物体のうちに、自車に接近する接近物があるか否かを判定する。具体的には、例えば、物体の自車に対する相対速度が所定の接近速度閾値以上である場合に、その物体は接近物であると判定する。接近物ありの場合(すなわち、接近物が検知された場合)には、ステップS104に進む。接近物なしの場合(すなわち、接近物が検知されなかった場合)には、処理を終了する。
【0062】
ステップS104では、速度条件を満たしているか否かについての判定を実行する。具体的には、レーダ装置11から取得した相対速度Vgおよび相対速度Vrv、車速センサ12から取得した自車速度Vsを用いて、下記式(5)に示す速度条件を満たしているか否かを判定する。なお、速度差閾値Vc1は、図3の頻度分布図を用いる等により、予め設定され、ECU20に記憶されている。速度条件を満たしていると判定した場合には、ステップS105に進む。速度条件を満たしていないと判定した場合には、ステップS110に進む。
【0063】
|Vg-(Vs+2Vrv)|<Vc1 … (5)
【0064】
ステップS105では、方位条件を満たしているか否かについての判定を実行する。具体的には、レーダ装置11から取得した後続車の方位θrvおよび接近物の方位θgに基づいて、下記式(6)に示す方位条件を満たしているか否かを判定する。なお、ECU20には、図4に示すデータテーブルが予め記憶されている。方位差閾値θcは、ステップS101において取得された自車速度Vs、自車と後続車との距離Rを用いて、ECU20に記憶されたデータテーブルから算出される。方位条件を満たしていると判定した場合には、ステップS106に進む。方位条件を満たしていないと判定した場合には、ステップS110に進む。
【0065】
|θrv-θg|<θc … (6)
【0066】
ステップS106では、ステップS103で認識された自車への接近物は、ゴーストであると判定する。ステップS104に示す速度条件と、ステップS105に示す方位条件との双方を満たす場合に、接近物は、ゴーストであると判定する。その結果、ステップS103で認識された接近物は、自車の危険回避のための運転支援を実行する対象物から除外され、警報装置30への報知指令は出力されない。
【0067】
ステップS110では、ステップS103で認識された自車への接近物は、ゴーストではないと判定する。ステップS104に示す速度条件と、ステップS105に示す方位条件との少なくともいずれか一方が満たされなかった場合に、接近物は、ゴーストではないと判定する。その後、ステップS111に進む。
【0068】
ステップS111では、ステップS103で認識された接近物は、自車の危険回避のための運転支援を実行する対象物として認識され、報知を実行するか否かの判定が実行される。報知を実行するか否かの判定は、例えば、自車の後方に設定された報知領域に、接近物が侵入したか否かを判定するものであってもよい。この場合、報知領域に接近物が侵入したと判定された場合には、報知を実行すると判定し、ステップS112に進む。ステップS112では、警報装置30に報知指令が出力され、処理を終了する。他方、ステップS111において、報知を実行しないと判定された場合には、そのまま処理を終了する。
【0069】
上記のとおり、本実施形態によれば、速度条件と、方位条件との双方に基づいて、接近物がゴースト物標であると判定する。このため、実際の接近物と、ゴーストオブジェクトとを、より高精度に判別できる。
【0070】
上記の実施形態によれば、以下の作用効果を得ることができる。
【0071】
ECU20は、物体検知部22と、データ取得部21と、ゴースト判定部40と、支援判定部23とを備えている。物体検知部22は、レーダ装置11等による探査波の反射波を用いて、自車50の後方の物体を検知し、自車50に接近する物体を接近物55として認識する。データ取得部21は、自車速度Vsと、物体検知部22が検知した物体の自車50に対する相対速度および方位を取得する。ゴースト判定部40は、接近物55が、実際には存在しないゴースト物標であることを判定する。支援判定部23は、ゴースト判定部40によりゴースト物標であると判定された接近物55を、自車50の危険回避のための運転支援を実行する対象物から除外する。
【0072】
ゴースト判定部40は、速度判定部41と、方位判定部42とを備えている。速度判定部41は、自車速度Vs、および、自車50と接近物55との間の後続車51の自車50に対する相対速度Vrvに基づいて、接近物55の自車50に対する相対速度の算出値Vg0を算出する。さらに、速度判定部41は、データ取得部21が取得した接近物55の自車50に対する相対速度の検知値Vgと、算出値Vg0との速度差dVgを算出する。方位判定部42は、データ取得部21により取得された、後続車51の方位θrvおよび接近物55の方位θgに基づいて、自車50に対する後続車51と接近物55との方位差dθgを算出する。そして、ゴースト判定部40は、速度差dVgと方位差dθgとの双方に基づいて、接近物55がゴースト物標であるか否かを判定する。ゴースト判定部40によれば、検知された接近物55の相対速度Vgおよび方位θgと、接近物55がゴースト物標である場合を想定して理論的に求められる接近物55の相対速度Vg0および方位θrvとをそれぞれ用いて算出した速度差dVgおよび方位差dθgに基づいて、接近物55がゴースト物標であるか否かについて判定できる。このため、実際の接近物と、ゴーストオブジェクトとを、より高精度に判別できる。
【0073】
ゴースト判定部40は、速度差dVgが速度条件を満たし、かつ、方位差dθgが方位条件を満たすと判定された場合に、接近物55がゴースト物標であると判定してもよい。具体的には、速度判定部41は、速度差dVgが、所定の速度差閾値Vc1未満であることを速度条件として設定するものであってもよい。また、方位判定部42は、方位差dθgが、所定の方位差閾値θc未満であることを方位条件として設定するものであってもよい。そして、ゴースト判定部40は、速度判定部41により速度条件を満たすと肯定判定され、かつ、方位判定部42により方位条件を満たすと肯定判定された場合に、接近物55がゴースト物標であると判定してもよい。自車50や周囲の状況に応じて、速度差閾値Vc1、方位差閾値θcを設定することにより、簡易に精度のよい判定を実行することができる。
【0074】
方位判定部42は、自車速度Vsが所定の自車速閾値Vc2未満である場合に、方位差閾値θcを所定の固定値θc1に設定し、自車速度Vsが所定の自車速閾値Vc2以上である場合に、自車50と後続車51との距離Rに応じて、例えば、図4,6に示すように、方位差閾値θcを所定の固定値θc1よりも大きい範囲で変更してもよい。推定された接近物55の対地速度Vgrや位置に基づいて、速度条件や方位条件を調整できるため、ゴースト物標の検知し易さと、真の接近物をゴースト物標であると誤判定することを抑制することとのトレードオフ関係を良好に調整できる。
【符号の説明】
【0075】
10…運転支援装置、21…データ取得部、22…物体検知部、23…支援判定部、40…ゴースト判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7