(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】反芻動物用飼料添加組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23K 50/10 20160101AFI20221104BHJP
A23K 20/142 20160101ALI20221104BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20221104BHJP
A23K 20/174 20160101ALI20221104BHJP
A23K 40/10 20160101ALI20221104BHJP
【FI】
A23K50/10
A23K20/142
A23K20/158
A23K20/174
A23K40/10
(21)【出願番号】P 2018533541
(86)(22)【出願日】2017-08-09
(86)【国際出願番号】 JP2017028971
(87)【国際公開番号】W WO2018030476
(87)【国際公開日】2018-02-15
【審査請求日】2020-05-14
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2016157711
(32)【優先日】2016-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(72)【発明者】
【氏名】柴原 進
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅之
(72)【発明者】
【氏名】春野 篤
【合議体】
【審判長】住田 秀弘
【審判官】奈良田 新一
【審判官】土屋 真理子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/122750(WO,A1)
【文献】特開平10-42795(JP,A)
【文献】特開平9-172979(JP,A)
【文献】特開2000-60440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00-50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油及び硬化動物油から選ばれる少なくとも一つ、(B)レシチン、及び(C)20℃の水100gに対する溶解度が0.001g以上且つ60g以下である生物学的活性物質を含有する溶融混合物を、水中で造粒すること
、並びに、溶融混合物の造粒物を粉砕することを含む、粒径が0.5mm以上且つ2mm以下である反芻動物用飼料添加組成物の製造方法。
【請求項2】
生物学的活性物質の20℃の水100gに対する溶解度が、0.01g以上且つ20g以下である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
反芻動物用飼料添加組成物における生物学的活性物質の含有量が、0.5重量%以上且つ70重量%以下である、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
反芻動物用飼料添加組成物におけるレシチンの含有量が、0.05重量%以上且つ6重量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
溶融混合物の水中での造粒が、溶融混合物を水中に浸漬することによるものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
生物学的活性物質が、アミノ酸及びその塩、並びにビタミンからなる群より選ばれる少なくとも一つである、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
(A)融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油及び硬化動物油から選ばれる少なくとも一つ、(B)レシチン、及び(C)20℃の水100gに対する溶解度が0.001g以上且つ60g以下である生物学的活性物質を含有する水中造粒物
の粉砕物からなり、粒径が0.5mm以上且つ2mm以下である反芻動物用飼料添加組成物。
【請求項8】
生物学的活性物質の20℃の水100gに対する溶解度が、0.01g以上且つ20g以下である、請求項
7記載の組成物。
【請求項9】
反芻動物用飼料添加組成物における生物学的活性物質の含有量が、0.5重量%以上且つ70重量%以下である、請求項
7又は
8記載の組成物。
【請求項10】
反芻動物用飼料添加組成物におけるレシチンの含有量が、0.05重量%以上且つ6重量%以下である、請求項
7~
9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
生物学的活性物質が、アミノ酸及びその塩、並びにビタミンからなる群より選ばれる少なくとも一つである、請求項
7~
10のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反芻動物用飼料添加組成物及びその製造方法に関する。より詳細には、水溶性の低い生物学的活性物質を含有し、ルーメンにおける高い保護性を備え、且つ、下部消化管における溶出性にも優れる反芻動物用飼料添加組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反芻動物に給餌された飼料は、第一胃(ルーメン)内の微生物群によって消化分解され、消化残渣と微生物群が第四胃以降に送られ、反芻動物の腸で消化吸収される。例えば、繊維中のセルロースは微生物によって消化され、反芻動物がエネルギー源として使用できる脂肪酸が生成する。
一方で、生理活性をもつ物質を経口投与しても、第一胃で微生物群に消化されてしまうため、反芻動物に対してその生理活性を発揮させることは困難であった。そこで、反芻動物のルーメンにおいて生物学的活性物質を安定的に保護し、ルーメン通過後の第四胃以降に生物学的活性物質を溶出させて消化管に吸収させる飼料添加組成物が開発されてきた。
【0003】
特許文献1では、リジン塩酸塩よりも溶解度の低いメチオニンと高融点油脂と低融点油脂を溶融混合して水中で冷却固化させる方法が開示されており、水中で徐放性を示すことが実施例に記載されている。
【0004】
特許文献2では、極度硬化植物油とレシチンとリジン塩酸塩を溶融混合し水中にて分散型の製剤を造粒することで、水への溶解度の高いリジン塩酸塩を40~60%と高濃度で含有しつつ、高いルーメン保護性を与えられることが示されている。また、レシチンは特定濃度で添加することでリジン塩酸塩のルーメンへの溶出速度を抑制しルーメン保護性を高めることが開示されている。
【0005】
ルーメン保護製剤を製造する方法として、保護剤として硬化油脂を高温融解させ、これに主剤を略均一分散し粒状に冷却固化させる分散法(マトリックス型)が報告されている。分散法では融解した保護剤に主剤を加えて略均一混合することから、主剤一粒ずつの結晶粒子が完全に保護剤で覆われるため、リジン塩酸塩のような水溶性の高い物質でも十分ルーメン保護性が得られ、また直径2mm以上の造粒物・ペレットにおいても下部消化管で溶出する性能を有する。
【0006】
ここで、非特許文献1には、ルーメン保護メチオニン製剤もルーメン保護リジン製剤も乳牛へ投与した場合に乳量を改善する効果があることが報告されているが、メチオニンよりも溶解度の高いリジンを用いてルーメン保護製剤を開発することは挑戦的であると記載されている。
【0007】
また、先の特許文献1では、高融点油脂のみでルーメン保護メチオニン製剤を製造した場合には、メチオニンが水中に容易に溶出して20%以上含有させることが困難であることが記載され、特許文献2では、特許文献1記載の方法でメチオニンの代わりにリジン塩酸塩を用いた場合にはルーメン保護性が低く、ルーメンにリジンが溶出することが開示されており、物性の異なる生物学的活性物質に対して同じ製造方法を適用することは容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特公昭49-45224号公報
【文献】特許第5040919号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】K. Watanabe et al., Animal Science Journal, 77, p495-502 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、生物学的活性物質の20℃の水100gに対する溶解度が、0.001g以上且つ60g以下である場合は、保護剤等を用いてルーメンでの生物学的活性物質の分解を回避すること、すなわちルーメンにおける保護性を向上させることは比較的容易になし得るが、そのような飼料製剤は、小腸等の下部消化管において生物学的活性物質を効率良く放出することは困難であることを見出した。
【0011】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、水溶性の低い生物学的活性物質を含有し、ルーメンにおける高い保護性を備え、且つ、下部消化管における溶出性にも優れる反芻動物用飼料添加組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、驚くべきことに、(A)融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油及び硬化動物油から選ばれる少なくとも一つ、(B)レシチン及び(C)20℃の水100gに対する溶解度が0.001g以上且つ60g以下である生物学的活性物質を含有する溶融混合物を、水中で造粒し、得られた造粒物の粒径を特定の範囲内とすることにより、ルーメンにおける高い保護性を備え、且つ、下部消化管における溶出性にも優れる反芻動物用飼料添加組成物を製造できることを見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
【0013】
[1](A)融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油及び硬化動物油から選ばれる少なくとも一つ、(B)レシチン、及び(C)20℃の水100gに対する溶解度が0.001g以上且つ60g以下である生物学的活性物質を含有する溶融混合物を、水中で造粒することを含む、粒径が0.5mm以上且つ2mm以下である反芻動物用飼料添加組成物の製造方法。
[2]生物学的活性物質の20℃の水100gに対する溶解度が、0.01g以上且つ20g以下である、[1]記載の製造方法。
[3]反芻動物用飼料添加組成物における生物学的活性物質の含有量が、0.5重量%以上且つ70重量%以下である、[1]又は[2]記載の製造方法。
[4]反芻動物用飼料添加組成物におけるレシチンの含有量が、0.05重量%以上且つ6重量%以下である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の製造方法。
[5]溶融混合物の水中での造粒が、溶融混合物を水中に浸漬することによるものである、[1]~[4]のいずれか一つに記載の製造方法。
[6]生物学的活性物質が、アミノ酸及びその塩、並びにビタミンからなる群より選ばれる少なくとも一つである、[1]~[5]のいずれか一つに記載の製造方法。
[7]溶融混合物の造粒物を粉砕することを含む、[1]~[6]のいずれか一つに記載の製造方法。
[8](A)融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油及び硬化動物油から選ばれる少なくとも一つ、(B)レシチン、及び(C)20℃の水100gに対する溶解度が0.001g以上且つ60g以下である生物学的活性物質を含有する水中造粒物からなり、粒径が0.5mm以上且つ2mm以下である反芻動物用飼料添加組成物。
[9]生物学的活性物質の20℃の水100gに対する溶解度が、0.01g以上且つ20g以下である、[8]記載の組成物。
[10]反芻動物用飼料添加組成物における生物学的活性物質の含有量が、0.5重量%以上且つ70重量%以下である、[8]又は[9]記載の組成物。
[11]反芻動物用飼料添加組成物におけるレシチンの含有量が、0.05重量%以上且つ6重量%以下である、[8]~[10]のいずれか一つに記載の組成物。
[12]生物学的活性物質が、アミノ酸及びその塩、並びにビタミンからなる群より選ばれる少なくとも一つである、[8]~[11]のいずれか一つに記載の組成物。
[13]前記水中造粒物が、水中造粒物の粉砕物である、[8]~[12]のいずれか一つに記載の組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水溶性の低い生物学的活性物質を含有し、ルーメンにおける高い保護性を備え、且つ、下部消化管における溶出性にも優れる反芻動物用飼料添加組成物の製造方法を提供することができる。
以下において、反芻動物用飼料添加組成物のルーメンにおける保護性を、単に「保護性」と称し、反芻動物用飼料添加組成物の下部消化管における溶出性を、単に「溶出性」と称する場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1及び比較例1の組成物の保護率及び溶出率を示すグラフである。
【
図2】実施例2及び比較例2の組成物の保護率及び溶出率を示すグラフである。
【
図3】実施例3、4及び比較例3の組成物の保護率及び溶出率を示すグラフである。
【
図4】実施例5、6及び比較例4の組成物の保護率及び溶出率を示すグラフである。
【
図5】比較例5~8の組成物の保護率及び溶出率を示すグラフである。
【
図6】比較例9~11の組成物の保護率及び溶出率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の反芻動物用飼料添加組成物の製造方法(以下において、「本発明の製造方法」とも称する)は、(A)融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油及び硬化動物油から選ばれる少なくとも一つ(以下において、「成分A」とも称する)、(B)レシチン(以下において、「成分B」とも称する)及び(C)20℃の水100gに対する溶解度が0.001g以上且つ60g以下である生物学的活性物質(以下において、「成分C」とも称する)を含有する溶融混合物を、水中で造粒することを含むことを特徴の一つとする。
本発明において「反芻動物用飼料添加組成物」とは、通常、反芻動物用飼料に添加されて、反芻動物が当該飼料を摂取する際にあわせて摂取される組成物をいう。ただし、反芻動物に摂取されさえすれば必ずしも飼料に添加されなくてもよく、例えば、本発明の組成物は単独で反芻動物に摂取され得る。
【0017】
以下、本発明の製造方法において用いられる溶融混合物に含有される成分A、成分B及び成分Cについて説明する。
【0018】
[成分A]
成分Aとして用いられる硬化植物油及び硬化動物油は、常温(25℃)で液状の植物油又は動物油に水素を添加して固化させたものであり、極度硬化油も包含する概念である。本発明において用いられる硬化植物油及び硬化動物油の融点は、通常50℃より高く、ルーメンでの保護性が向上し得ることから、好ましくは55℃以上であり、より好ましくは60℃以上である。また、当該融点は、通常90℃より低く、溶出性が向上し得ることから、好ましくは80℃以下であり、より好ましくは70℃以下である。
【0019】
硬化植物油の具体例としては、大豆硬化油、パーム硬化油、菜種硬化油、オリーブ硬化油、アーモンド硬化油、アボガド硬化油、落花生硬化油、綿実硬化油、コーン硬化油、サフラワー硬化油、ヒマワリ硬化油、紅花硬化油、米硬化油、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木ロウ、ミツロウ等が挙げられ、産業上容易に入手可能であることから、好ましくは大豆硬化油、パーム硬化油、菜種硬化油である。硬化動物油の具体例としては、牛脂硬化油、豚脂硬化油、鯨ロウ等が挙げられ、産業上容易に入手可能であることから、好ましくは牛脂硬化油、豚脂硬化油である。これらの硬化植物油及び硬化動物油は単独で用いてよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0020】
溶融混合物における成分Aの含有量は、通常23重量%以上であり、ルーメンでの保護性が向上し得ることから、好ましくは30重量%以上であり、より好ましくは35重量%以上である。また当該含有量は、通常60重量%以下であり、生物学的活性物質を溶融混合物中に高濃度で含有させ得ることから、好ましくは55重量%以下であり、より好ましくは50重量%以下である。
【0021】
[成分B]
成分Bとして用いられるレシチンは、界面活性剤として作用し、生物学的活性物質の表面を改質して、当該活性物質を溶融された保護剤中で偏在させずに均一分散させると考えられる。
【0022】
レシチンの具体例としては、大豆レシチン、アブラナレシチン、なたねレシチン、ひまわりレシチン、サフラワーレシチン、綿実レシチン、トウモロコシレシチン、アマニレシチン、ごまレシチン、オリーブレシチン、米レシチン、ヤシレシチン、パームレシチン等の植物性レシチン;卵黄レシチン等が挙げられ、アレルギーの発生をなるべく抑え得ることから、好ましくは植物性レシチンであり、より好ましくは大豆レシチンである。これらのレシチンは、例えば、水素添加物、酵素処理物、酵素分解物、レシチン分別物等であってよい。また、これらのレシチンは単独で用いてよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0023】
溶融混合物における成分Bの含有量は、通常0.05重量%以上であり、ルーメンでの保護性が向上し得ることから、好ましくは0.5重量%以上であり、より好ましくは1重量%以上である。また当該含有量は、通常6重量%以下であり、ルーメンでの保護性が向上し得ることから、好ましくは5重量%以下であり、より好ましくは3重量%以下であり、特に好ましくは2重量%以下である。
【0024】
[成分C]
成分Cとして用いられる生物学的活性物質とは、反芻動物に摂取されたときに、その生体内において生理活性機能を示すことができる物質をいい、例えば、アミノ酸及びその塩、ビタミン、酵素、タンパク、ペプチド、脂肪酸、核酸、ステロイド等が挙げられる。
【0025】
成分Cは、20℃の水100gに対する溶解度が特定の範囲であることが好ましい。本発明によれば、20℃の水100gに対する溶解度が特定の範囲である水溶性の低い生物学的活性物質を用いても、ルーメンにおける高い保護性を備え、且つ、下部消化管における溶出性にも優れる反芻動物用飼料添加組成物の製造方法を提供することができる。
具体的には、成分Cの20℃の水100gに対する溶解度は、好ましくは0.001g以上であり、より好ましくは0.005g以上であり、特に好ましくは0.01g以上である。また当該溶解度は、好ましくは60g以下であり、より好ましくは20g以下である。
【0026】
成分Cの具体例としては、ヒスチジン、バリン、メチオニン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、システイン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、オルニチン、シスチン、シトルリン、スレオニン、セリン、チロシン、ヒドロキシトリプトファン等のアミノ酸又はその塩;ビタミンB12(シアノコバラミン)、葉酸、ナイアシン、チアミン、リボフラビン、パントテン酸、ビオチン等のビタミン(好ましくは、水溶性ビタミン);キサンチン、グアニン等が挙げられる。これらの成分Cは単独で用いてよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0027】
アミノ酸は、L-体、D-体、DL-体のいずれも使用可能である。
【0028】
アミノ酸の塩は、生理学的に許容される塩が好ましく、例えば、無機塩基との塩、無機酸との塩および有機酸との塩等が挙げられる。無機塩基との塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウム塩等が挙げられる。無機酸との塩としては、例えば、ハロゲン化水素酸(塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等)、硫酸、硝酸、リン酸等との塩が挙げられる。有機酸との塩としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸等との塩が挙げられる。
【0029】
成分Cは、天然に存在する動植物等から抽出し精製したもの、或いは、化学合成法、発酵法、酵素法又は遺伝子組換え法によって得られるもののいずれを使用してもよい。また市販品をそのまま又は粉砕して用いてもよい。
【0030】
溶融混合物における成分Cの含有量は、通常40重量%以上であり、溶融混合物中の成分Cを高濃度にする観点から、好ましくは45重量%以上であり、より好ましくは50重量%以上である。また当該含有量は、通常70重量%以下である。
【0031】
本発明の製造方法において用いられる溶融混合物は、成分A~Cに加えて、それら以外の他の成分を含有してもよい。当該他の成分は、本発明の目的を損なわない限り特に制限されないが、例えば、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素等の賦形剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク等の滑沢剤;炭酸水素ナトリウム、クエン酸等のpH調整剤;ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸ナトリウム等の固化防止剤;等が挙げられる。当該他の成分は単独で用いてよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0032】
成分A~Cを含有する溶融混合物の調製方法は特に制限されず、例えば、市販のエクストルーダー(好ましくは、2軸エクストルーダー)等を用いて、成分A~C(所望により他の成分を含んでよい)を加熱する方法等が挙げられる。エクストルーダーのシリンダーに成分A~Cを添加する順序は特に制限されないが、成分Cの表面を成分Bで被覆するために、当該成分B及びCを予めミキサー等で混合してから添加してよく、又は生産効率を上げるために、成分A~Cをほぼ同時に添加してもよい。あるいは、成分A及びCを先に室温付近で混合した後、残りの成分を添加して加熱することによっても、溶融混合物を得ることができる。成分Cは粉砕して用いてよく、例えばパルペライザーを用いて、平均粒径(メジアン径)が好ましくは150μm以下、より好ましくは75μm以下となるまで粉砕し、必要に応じて篩分して用いてよい。
【0033】
成分A~Cを加熱するときの温度は、成分Aの融点以上であれば特に制限されないが、成分Aの融点より5~15℃程度高いことが好ましい。例えば、成分Aとして大豆極度硬化油(融点:67~68℃)を用いる場合は、72~85℃で加熱すればよい。この際、成分A以外の成分は必ずしも溶融しなくてもよく、例えば、成分Cが溶融せずに分散し、溶融混合物はスラリー状態であってもよい。また加熱当初から成分Aの融点以上の温度で加熱する必要はなく、例えば、まず成分Aの融点より5~10℃低い温度で予備加熱を行い、次いで、エクストルーダーのシリンダー内のスクリュウで原料を搬送した後、成分Aの融点以上の所定の温度で加熱すると、効率的に安定した溶融混合物が得られる。
【0034】
尚、溶融混合物の調製に利用可能な機器は、エクストルーダーに限定されず、自然落下させたときに液滴となり得る溶融混合物を調製できるものであれば適宜用いてよい。
【0035】
成分A~Cを含有する溶融混合物を水中で造粒する方法は特に制限されないが、溶融混合物を水中に浸漬させること、具体的には、例えば、溶融混合物を、所定の径の孔(穴)を有する容器に貯留し、当該孔から水中に落下させること等によって行い得る。溶融混合物を所定の径の孔から落下(好ましくは、自然落下)させると、落下中に表面直力の作用で切断されて、個々に独立した液滴となる。当該液滴を、所定の温度の水槽中に落下させると、液滴は水中で瞬間的に冷却されて固化し、所定の形状の固形物(造粒物)が得られる。液滴が固化して固形物となる際、水槽中の水が固形物に取り込まれるが、この水はその後の加熱乾燥処理(後述)で減少させ得る。尚、溶融混合物を水中に浸漬させると、一部の生物学的活性物質が水中に溶出する場合があるが、その量は極僅かである。
【0036】
溶融混合物を貯留する容器が有する孔の直径は、得られる造粒物(溶融混合物の液滴が固化したもの)の大きさ等に応じて適宜選択すればよいが、通常0.1~5mmであり、好ましくは0.5~3mmである。
【0037】
溶融混合物を貯留する容器は、所定の径の孔を有すれば特に制限されないが、生産量を効率的に増加させ得ることから、多孔シューターを用いることが好ましい。ここで「多孔シューター」とは、底に複数(例えば、2~10000個)穿孔された容器であって、溶融混合物を一時的に貯留する設備をいう。また溶融混合物を貯留する容器は、貯留する溶融混合物が冷えないように、加温設備を備えることが好ましい。
【0038】
溶融混合物の落下距離(例えば、多孔シューターの底面から水面までの距離)は特に制限されないが、通常10mm~1.5mであり、好ましくは30mm~1.0mである。溶融混合物の落下距離を調整することによって、得られる造粒物(固形物)の形状を変更できる。例えば、65℃程度に加熱された溶融混合物を水中に落下させる場合、落下距離を50~150mmにすると、球形からラグビーボールに近い形状の造粒物が得られる。また、落下距離をより長くすると、水面との衝突エネルギーが大きくなるため、平坦な押し麦状の造粒物が得られ、例えば、落下距離が0.5m程度であると、周辺が波打つ押し麦状の造粒物が得られる。
【0039】
水中に落下させるときの溶融混合物の温度は特に制限されないが、通常65~90℃であり、融点の観点から、好ましくは70~80℃である。
【0040】
溶融混合物を落下させる水の温度は、溶融混合物が瞬間的に固化すれば特に制限されないが、通常0~30℃である。水温は一定に保つことが好ましく、例えば、所定の温度の水を連続的に補充すること等によって、溶融混合物を落下させる水の温度を一定に保つことができる。
【0041】
水中で固化した混合物(造粒物)を捕集する方法は特に制限されないが、連続的に水を補充することによって水温を一定に保つ場合、固化した混合物(比重:約1.1)は網、網容器等を用いて集めればよい。
【0042】
成分A~Cを含有する溶融混合物を水中で固化させて得られた造粒物(本明細書中、「水中造粒物」とも称する)は、加熱乾燥処理を施されることが好ましい。当該加熱乾燥処理により、造粒物の水分含有量を調節できる。加熱乾燥処理は、例えば、造粒物に含まれる成分Aの融点より低い温度に設定された雰囲気(例えば、熱水、蒸気、熱風等)に、造粒物を概ね数分~数十分曝露すること等によって行い得る。加熱乾燥処理の時間は、加熱乾燥処理の温度、成分Aの種類及び造粒物の量等に基づいて、適宜設定すればよく、例えば、造粒物に含まれる成分Aの融点よりも低い温度に設定された雰囲気に、造粒物を長時間(例えば、0.5~24時間等)曝露してもよい。
【0043】
本発明の反芻動物用飼料添加組成物(以下において、「本発明の組成物」とも称する)は、粒径が特定の範囲内であることが好ましく、本発明は成分A~Cを含有する溶融混合物を水中で固化させて得られた造粒物(即ち、水中造粒物)の粒径を適宜調整し、これを本発明の反芻動物用飼料添加組成物として用いる。本発明の組成物は、粒径が特定の範囲内であることにより、後述の実施例に示されるように、20℃の水100gに対する溶解度が特定の範囲である水溶性の低い生物学的活性物質を含有し、ルーメンにおける高い保護性を備え、且つ、下部消化管における溶出性にも優れ得る。
具体的には、本発明の組成物の粒径は、0.5mm以上且つ2mm以下である。
また、粒径の調整法は特に制限されないが、例えば溶融混合物を貯留する容器の孔を小さくする方法や、上記好ましい粒径以上の組成物を粉砕及び篩分する方法がある。
本発明の組成物の粒径は、日本工業規格のJIS Z 8801にて規定される標準篩によって篩分することで規定される。
【0044】
本発明の組成物の粒径の調整は、自体公知の方法で行えばよく特に制限されないが、例えば、成分A~Cを含有する溶融混合物を水中で造粒して得られた造粒物(即ち、水中造粒物)を粉砕し、篩分すること等により行い得る。造粒物の粉砕は、例えば、カッターミル、ロールミル、ピンミル、ジョークラッシャー、乾式整粒機等を用いて行い得る。また本発明の組成物の粒径の調整は、日本工業規格のJIS Z 8801にて規定される標準篩による篩分等の方法で行い得る。
成分A~Cを含有する溶融混合物を水中で造粒して得られた造粒物(即ち、水中造粒物)の粒径が、もとから上記の特定の範囲内であれば、当該造粒物をそのまま本発明の組成物として用いてよい。
【0045】
本発明の組成物は、成分A~Cを含有する。本発明の組成物における成分Aの含有量は、通常23重量%を超え、ルーメンでの保護性が向上し得ることから、好ましくは30重量%以上であり、より好ましくは35重量%以上である。また当該含有量は、通常60重量%未満であり、生物学的活性物質を高濃度で含有させ得ることから、好ましくは55重量%以下であり、より好ましくは50重量%以下である。
本発明の組成物における成分Bの含有量は、通常0.05重量%以上であり、ルーメンでの保護性が向上し得ることから、好ましくは0.5重量%以上であり、より好ましくは1重量%以上である。また当該含有量は、通常6重量%以下であり、ルーメンでの保護性が向上し得ることから、好ましくは5重量%以下であり、より好ましくは3重量%以下であり、特に好ましくは2重量%以下である。
本発明の組成物における成分Cの含有量は、通常40重量%以上であり、組成物中に高濃度で含有させ得ることから、好ましくは45重量%以上であり、より好ましくは50重量%以上である。また当該含有量は、通常70重量%以下である。
【0046】
本発明の組成物は、成分A~Cに加えて、それら以外の他の成分を含有してよい。当該他の成分は、本発明の目的を損なわない限り特に制限されないが、例えば、本発明の方法において用いられる溶融混合物が含有し得る成分と同様のものが挙げられる。
【0047】
本発明の組成物は、分散型(マトリクス型)であることが望ましい。ここで、「分散型」の組成物とは、各成分が略均一に分散している組成物をいい、具体的には、例えば、保護剤として硬化油脂を高温融解させた後、これに主剤(生物学的活性物質)を略均一に分散させ、粒状に冷却固化させることを含む製造方法によって得られるルーメン保護製剤等が挙げられる。
【0048】
本発明の組成物の、ルーメンにおける保護性および消化管における溶出性は、溶出試験器を用いるin vitro試験により測定される、生物学的活性物質の保護率及び溶出率から評価できる。
【0049】
<保護率算出のための生物学的活性物質の濃度(濃度A)の測定>
溶出試験器(富山産業社製)を用い、反芻動物(例、乳牛等)の体温に相当する温度(例、39℃)に加温した超純水(Milli Q(ミリポア社製)を使用して製造)900mlに製剤サンプル約3gを入れ100rpmで撹拌し、撹拌開始から20時間後に、撹拌中の試験液から保護率測定用に2mlを採取し、生物学的活性物質の濃度を測定する(濃度A、単位:mg/dl)。
<溶出率算出のための生物学的活性物質の濃度(濃度B)の測定>
上記保護率測定用サンプルを採取した直後の試験液に、100rpmで撹拌を続けながら、胆汁末(和光純薬社製)とパンクレアチン(和光純薬社製)の水溶液(胆汁末及びパンクレアチンの濃度は、いずれも23.4g/100ml)8mlを添加して小腸相当試験液とし、当該水溶液の添加から5時間後に、撹拌中の試験液から溶出率測定用に2mlを採取し、生物学的活性物質の濃度を測定する(濃度B、単位:mg/dl)。
上記生物学的活性物質の濃度(濃度A及びB)は、液体クロマトグラフィー(ウォータース社製)により測定する。但し、生物学的活性物質がリジンである場合は、バイオセンサー(王子計測機器社製)を用いて測定する。
<生物学的活性物質の保護率および溶出率の算出>
生物学的活性物質の保護率および溶出率は次の式により算出する。
保護率[%]={1-(濃度A[mg/dl]×9)/(製剤サンプル重量[g]×1000×製剤サンプル中の生物学的活性物質の含有量[重量%]/100)}×100
溶出率[%]={((濃度B[mg/dl]-濃度A[mg/dl])×9)/(製剤サンプル重量[g]×1000×製剤サンプル中の生物学的活性物質の含有量[重量%]/100)}×100
【0050】
本発明の組成物の生物学的活性物質の保護率は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは70%以上であり、特に好ましくは80%以上である。一方、本発明の組成物の保護率の上限は特に制限されないが、通常100%である。
【0051】
本発明の組成物の生物学的活性物質の溶出率は高いほど好ましく、その上限は特に制限されない。
【0052】
本発明の組成物は、その組成を変更せずに粒径のみを変更すると、粒径が小さくなるほど生物学的活性物質の溶出率が高くなる。例えば、本発明の組成物は、これと組成が同様で且つ粒径が2mmを超える飼料組成物よりも、生物的活性物質の溶出率が高い。また、粒径が0.5mm以上且つ1mm以下である本発明の組成物は、これと組成が同様で且つ粒径が1mmを超え2mm以下である本発明の組成物よりも、生物学的活性物質の溶出率が高い。
また、例えば、生物学的活性物質の水への溶解度が低い場合、すなわち20℃の水100gに対する溶解度が0.001g以上且つ60g以下である場合、本発明の組成物及びこれと組成が同様で且つ粒径が2mmを超える飼料組成物の生物学的活性物質の溶出率を比較すると、後者は溶出率が0%の場合もありうるが、粒径が0.5以上且つ2mm以下である前者は、粒径が2mmを超える後者に比べて溶出率が高い。一方、生物学的活性物質の水への溶解度が高い場合、粒径が小さくなるほど生物学的活性物質の溶出率が高くなるとは限らず、むしろ溶出率が低くなることすらある。
【0053】
本発明の組成物が用いられる反芻動物は特に制限されないが、例えば、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ、キリン、ラクダ及びラマ等が挙げられる。
【0054】
本発明の組成物の反芻動物用飼料に対する添加量は特に制限されず、生物学的活性物質の必要量等に応じて適宜調節し得る。本発明の組成物は、通常、飼料に添加されて、当該飼料とともに反芻動物に摂取されるように用いられるが、反芻動物に摂取されさえすれば必ずしも飼料に添加されなくてもよく、例えば、本発明の組成物は単独で反芻動物に摂取され得る。
【0055】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
<試験例1>
[実施例1]
ヒスチジン塩酸塩(味の素社製)の結晶を微粉砕機(Bepex社製)にて微粉砕して、加熱融解した大豆極度硬化油(AGP社製)及び大豆レシチン(ADM社製)と共に表1に示す割合で2軸エクストルーダー(コスモテック社製)に連続的に投入した。その後、シリンダー内で加熱(予備加熱温度:65℃、本加熱温度:85℃、出口設定温度:70℃)、溶融及び混合して、溶融スラリー状態の溶融混合物を得た。得られた溶融混合物を、エクストルーダー出口より排出し、多孔シューター(孔の数:2060個、孔の直径:2mm)に投入した後、当該溶融混合物を、多孔シューターの孔から冷却用水槽(水温:5~15℃)に自然落下させた。多孔シューターから冷却用水槽の水面までの距離は10cmとした。多孔シューターから落下した溶融混合物は、落下中に液滴となり、水中に浸漬後、冷却されて瞬間的に固化した。これに室温送風し付着水を脱水した後、52℃に設定した流動層乾燥機(味の素社製)にて7分間加熱乾燥処理を行い、造粒物を得た。次いでロールミル(ロール間クリアランス:2mm)を用いて、造粒物を粉砕した後、目開き1mmの篩を用いて篩分して、篩上より反芻動物用飼料添加組成物(以下、実施例1の組成物と称する)を得た。
【0057】
【0058】
[比較例1]
造粒物の粉砕及び篩分を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、粒径が2mmを超える反芻動物用飼料添加組成物(以下、比較例1の組成物と称する)を得た。
【0059】
[実施例2]
ビーカーにて大豆極度硬化油(横関油脂工業社製)を加熱融解し、加温したまま大豆レシチン(ADM社製)及びビタミンB12(シアノコバラミン)(DSM社製)を表1に示す割合で投入、混合して、溶融スラリー状態の溶融混合物を得た。得られた溶融混合物を多孔シューター(孔の数:108個、孔の直径:1mm)に投入した後、当該溶融混合物を、多孔シューターの孔から冷却用水槽(水温:0~10℃)に自然落下させた。多孔シューターから冷却用水槽の水面までの距離は10cmとした。多孔シューターから落下した溶融混合物は、落下中に液滴となり、水中に浸漬後、冷却されて瞬間的に固化した。これを脱水してから、室温で風乾して造粒物を得た。
次いで、コーヒーミル(イワタニ社製ミルサーIFM-650D)を用いて造粒物を粉砕した後、目開き500μmの篩を用いて篩分して、篩下より反芻動物用飼料添加組成物(以下、実施例2の組成物と称する)を得た。
【0060】
[比較例2]
造粒物の粉砕及び篩分を行わなかったこと以外は実施例2と同様にして、粒径が2mmを超える反芻動物用飼料添加組成物(以下、比較例2の組成物と称する)を得た。
【0061】
[実施例3及び4]
ナイアシン(DSM社製)を微粉砕機(Retsch社製ZM200)にて微粉砕して、表1に示す割合で大豆レシチン(ADM社製)とカッターミル(Retsch社製GM300)にて混合した後、攪拌造粒機(深江パウテック社製FSGS5JD)にて加熱融解した大豆極度硬化油(横関油脂工業社製)と表1に示す割合で混合し、原料混合物を得た。ラボ用2軸エクストルーダー(日本製鋼所社製)を加熱(予備加熱温度:65℃、本加熱温度:85℃、出口設定温度:70℃)した後、該エクストルーダーのホッパーに接続したフィーダーに原料混合物を入れ、該原料混合物を連続的にフィードし、シリンダー内で加熱、溶融及び混合して、溶融スラリー状態の溶融混合物を得た。得られた溶融混合物を、エクストルーダー出口より排出し、多孔シューター(孔の数:108個、孔の直径:1mm)に投入した後、当該溶融混合物を、多孔シューターの孔から冷却用水槽(水温:10℃)に自然落下させた。多孔シューターから冷却用水槽の水面までの距離は10cmとした。多孔シューターから落下した溶融混合物は、落下中に液滴となり、水中に浸漬後、冷却されて瞬間的に固化した。これを遠心分離機(コクサン社製H-110A)で脱水してから、流動層乾燥機(フロイント産業社製FLO-mini)で室温にて10分間送風処理を行い、造粒物を得た。
次いで、解砕機(畑鉄工所社製HU-RG、1mmスクリーン)を用いて造粒物を粉砕した後、目開き500μm及び1mmの篩を用いて篩分して、目開き1mmの篩上より反芻動物用飼料添加組成物(以下、実施例3の組成物と称する)を得た。また、目開き1mmを通過し、かつ目開き500μmの篩上に滞留した反芻動物用飼料添加組成物(以下、実施例4の組成物と称する)を得た。
【0062】
[比較例3]
造粒物の粉砕及び篩分を行わなかったこと以外は実施例3及び4と同様にして、粒径が2mmを超える反芻動物用飼料添加組成物(以下、比較例3の組成物と称する)を得た。
【0063】
[実施例5及び6]
ビタミンB12(シアノコバラミン)に代えて葉酸(DSM社製)を表1に示す割合で使用し、多孔シューターの孔の直径を1mmから2mmに代えたこと以外は実施例2と同様にして造粒物を得た。
次いで、コーヒーミル(イワタニ社製ミルサーIFM-650D)を用いて造粒物を粉砕した後、目開き500μm及び1mmの篩を用いて篩分して、目開き1mmの篩上より反芻動物用飼料添加組成物(以下、実施例5の組成物と称する)を得た。また、目開き1mmを通過し、かつ目開き500μmの篩上に滞留した反芻動物用飼料添加組成物(以下、実施例6の組成物と称する)を得た。
【0064】
[比較例4]
造粒物の粉砕及び篩分を行わなかったこと以外は実施例5及び6と同様にして、粒径が2mmを超える反芻動物用飼料添加組成物(以下、比較例4の組成物と称する)を得た。
【0065】
[比較例5]
リジン塩酸塩(味の素社製)の結晶を微粉砕機(Bepex社製)にて微粉砕して、加熱融解した大豆極度硬化油(AGP社製)及び大豆レシチン(ADM社製)と共に表1に示す割合で2軸エクストルーダー(コスモテック社製)に連続的に投入した。その後、シリンダー内で加熱(予備加熱温度:65℃、本加熱温度:85℃、出口設定温度:70℃)、溶融及び混合して、溶融スラリー状態の溶融混合物を得た。得られた溶融混合物を、エクストルーダー出口より排出し、多孔シューター(孔の数:2060個、孔の直径:2mm)に投入した後、当該溶融混合物を、多孔シューターの孔から冷却用水槽(水温:5~15℃)に自然落下させた。多孔シューターから冷却用水槽の水面までの距離は10cmとした。多孔シューターから落下した溶融混合物は、落下中に液滴となり、水中に浸漬後、冷却されて瞬間的に固化した。これを捕集し、室温送風し付着水を脱水した後、52℃に設定した流動層乾燥機(味の素社製)で12分間加熱乾燥処理を行い、粒径が2mmを超える反芻動物用飼料添加組成物(以下、比較例5の組成物と称する)を得た。
【0066】
[比較例6~8]
解砕機(畑鉄工所社製HU-RG、1mmスクリーン)を用いて、比較例5の組成物を粉砕した後、目開き250μm、500μm及び1mmの篩を用いて篩分して、目開き1mmの篩上より反芻動物用飼料添加組成物(以下、比較例6の組成物と称する)を得た。また、目開き1mmを通過し、かつ目開き500μmの篩上に滞留した反芻動物用飼料添加組成物(以下、比較例7の組成物と称する)を得た。さらに、目開き500μmを通過し、かつ目開き250μmの篩上に滞留した反芻動物用飼料添加組成物(以下、比較例8の組成物と称する)を得た。
【0067】
実施例1~6及び比較例1~8の組成物の製造に用いた生物学的活性物質(ヒスチジン塩酸塩、ビタミンB12、ナイアシン、葉酸及びリジン塩酸塩)の水100gに対する溶解度を、表2に示す。
【0068】
【0069】
実施例1~6及び比較例1~8の組成物の保護率及び溶出率を、それぞれ以下の手順で測定した。
【0070】
[保護率及び溶出率の測定]
下記の試験液の生物学的活性物質の濃度は液体クロマトグラフィー(ウォータース社製)により測定した。但し、リジンについてはバイオセンサー(王子計測機器社製)を用いて測定した。
<保護率算出のための生物学的活性物質の濃度(濃度A)の測定>
溶出試験器(富山産業社製)を用い、乳牛の体温に相当する39℃に加温した超純水(Milli Q(ミリポア社製)を使用して製造)900mlに製剤サンプル約3gを入れ100rpmで撹拌し、撹拌開始から20時間後に、撹拌中の試験液から保護率測定用に2mlを採取し、生物学的活性物質の濃度を測定した(濃度A、単位:mg/dl)。
<溶出率算出のための生物学的活性物質の濃度(濃度B)の測定>
上記保護率測定用サンプルを採取した直後の試験液に、100rpmで撹拌を続けながら、胆汁末(和光純薬社製)とパンクレアチン(和光純薬社製)の水溶液(胆汁末及びパンクレアチンの濃度は、いずれも23.4g/100ml)8mlを添加して小腸相当試験液とし、当該水溶液の添加から5時間後に、撹拌中の試験液から溶出率測定用に2mlを採取し、生物学的活性物質の濃度を測定した(濃度B、単位:mg/dl)。
<生物学的活性物質の保護率および溶出率の算出>
生物学的活性物質の保護率および溶出率は次の式により算出した。
保護率(%)={1-(濃度A[mg/dl]×9)/(製剤サンプル重量[g]×1000×製剤サンプル中の生物学的活性物質の含有量[重量%]/100)}×100
溶出率(%)={((濃度B[mg/dl]-濃度A[mg/dl])×9)/(製剤サンプル重量[g]×1000×製剤サンプル中の生物学的活性物質の含有量[重量%]/100)}×100
【0071】
【0072】
図1~4に示される結果から明らかなように、20℃の水100gに対する溶解度が0.001g以上且つ60g以下である生物学的活性物質(ヒスチジン塩酸塩、ビタミンB
12、ナイアシン、葉酸)を含有する反芻動物用飼料添加組成物は、粉砕及び篩分して、粒径を0.5~2mmの範囲内とすることにより、粉砕しなかった場合(比較例1~4)に比べて、溶出率が向上した(実施例1~6)。
一方、
図5に示される結果から明らかなように、20℃の水100gに対する溶解度が60gを超える生物学的活性物質(リジン塩酸塩)を含有する反芻動物用飼料添加組成物は、粉砕及び篩分して、粒径を0.5~2mmの範囲内とすると、粉砕しなかった場合(比較例5)に比べて、保護率が大きく低下し、さらに溶出率が低下した(比較例6~8)。
【0073】
<試験例2>
[比較例9~11]
微粉砕機(Retsch社製ZM200)にて微粉砕したナイアシン(DSM社製)と大豆レシチン(ADM社製)とを表1に示す割合で高速撹拌造粒機(深江パウテック社製FSGS5JD)にて混合し、当該混合の際に加熱融解した大豆極度硬化油(横関油脂工業社製)を滴下して、造粒機内でナイアシン、大豆レシチン及び大豆極度硬化油を含む混合物を固化させることで、造粒物を得た。次いで、得られた造粒物を、目開き500μm、1mm及び2000μmの篩を用いて粒度毎に篩分して、粒径が2mmを超える反芻動物用飼料添加組成物(以下、比較例9の組成物と称する)及び粒径が1mmを超え、2mm以下である反芻動物用飼料添加組成物(以下、比較例10の組成物と称する)、粒径が0.5mmを超え、1mm以下である反芻動物用飼料添加組成物(以下、比較例11の組成物と称する)を得た。
【0074】
比較例9~11の組成物の保護率及び溶出率を、それぞれ試験例1と同様の手順で算出した。結果を表3及び
図6に示す。また試験例1において測定した実施例3、4及び比較例3の組成物の保護率及び溶出率も、表3に併記した。
【0075】
【0076】
表3に示される結果から明らかなように、水中で造粒することを含む方法で製造された反芻動物用飼料添加組成物は、粉砕及び篩分して粒径を0.5~2mmの範囲内とすることにより、粉砕しなかった場合(比較例3)に比べて、溶出率が向上した(実施例3及び4)。また、粒径が0.5mm未満の組成物は保護率および溶出率の分析の際に水溶液表面に浮き上がる傾向にあった。
一方、水中で造粒することを含まない方法で製造された反芻動物用飼料添加組成物は、篩分して粒径を0.5~2mmの範囲内としても、水中で造粒することを含む方法(実施例3及び4)に比べて、保護率及び溶出率は向上しなかった(比較例9及び10、11)。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、ルーメンにおける高い保護性を備え、且つ、消化管における溶出性にも優れる反芻動物用飼料添加組成物及びその製造方法を提供することができる。
【0078】
本出願は、日本で出願された特願2016-157711(出願日:2016年8月10日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。