(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】重油組成物および重油組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C10L 1/04 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
C10L1/04
(21)【出願番号】P 2019030567
(22)【出願日】2019-02-22
【審査請求日】2021-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 武
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-132796(JP,A)
【文献】特開2020-117593(JP,A)
【文献】特開2018-165365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄分が0.50質量%以下、実在セジメントが1.00質量%以下である直接脱硫重油を10容量%以上35容量%未満、
直接脱硫重油を除く基材であって、CCAIが850~889、硫黄分が0.15質量%~0.75質量%、15℃における密度が0.9600g/cm
3~1.0050g/cm
3である基材Aを10容量%~25容量%、
15℃における密度が0.8300g/cm
3~0.9300g/cm
3でありCCAIが840以下である軽油留分を40容量%~80容量%含み、
硫黄分含有量が0.50質量%以下、
50℃における動粘度が4.00mm
2/秒~80.00mm
2/秒、
CCAIが860以下、
実在セジメントが0.20質量%以下
であることを特徴とする重油組成物。
【請求項2】
50℃における動粘度が20.00mm
2/秒~80.00mm
2/秒である請求項1に記載の重油組成物。
【請求項3】
重油組成物を製造する方法であって、
硫黄分が0.50質量%以下、実在セジメントが1.00質量%以下である直接脱硫重油が10容量%以上35容量%未満、
直接脱硫重油を除く基材であって、CCAIが850~889、硫黄分が0.15質量%~0.75質量%、15℃における密度が0.9600g/cm
3~1.0050g/cm
3である基材Aが10容量%~25容量%、
15℃における密度が0.8300g/cm
3~0.9300g/cm
3でありCCAIが840以下である軽油留分が40容量%~80容量%となるように混合して、
硫黄分含有量が0.50質量%以下、
50℃における動粘度が4.00mm
2/秒~80.00mm
2/秒、
CCAIが860以下、
実在セジメントが0.20質量%以下
である重油組成物を得ることを特徴とする重油組成物の製造方法。
【請求項4】
得られる重油組成物の50℃における動粘度が20.00mm
2/秒~80.00mm
2/秒である請求項3に記載の重油組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重油組成物および重油組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、重油組成物は、各種産業分野において種々の用途に使用されており、JIS K2205において、動粘度により、1種(A重油)、2種(B重油)及び3種(C重油)の3種類に分類されている。
これらの重油組成物のうち、A重油は、一般にハウス加温栽培用暖房機やビル等の暖房機用の燃料油として用いられ、B重油及びC重油は、一般に船舶用大型ディーゼルエンジンの燃料油や、工場、発電所、地域冷暖房などの大規模ボイラーの燃料油として用いられている。
【0003】
このうち、C重油は他の重油と比較して粘性が高いものであることから、基材配合も他の重油と相違し、通常、減圧残渣油に対して軽油留分を若干割合配合してなるものとなっている。
【0004】
近年、環境負荷を低減し煙道腐食を抑制するという観点から、重油基材となる残渣油の低硫黄化が検討されており、このような低硫黄化した基材を用いた重油組成物が求められるようになっている。
特に、船舶用燃料油として使用されるC重油相当の重油組成物については、IMO(国際海事機関)の定める国際条約(MARPOL条約)によって硫黄分の含有量が段階的に規制され、今後、0.50質量%以下に低減することが求められている。
【0005】
加えて、C重油相当の重油組成物、すなわち内燃機関で使用される重油組成物においては、着火性および燃焼性に優れることが求められる。
C重油相当の重油組成物の着火性の指標としては、重油組成物の15℃における密度および50℃における動粘度から算出されるCCAI(Calculated Carbon Aromaticity Index)が知られており、一般的には、CCAIが高い重油組成物ほど着火性が低いとされている。
【0006】
一方、近年の社会情勢として、エネルギー供給構造高度化法(正式名称:「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」)の制定に代表されるように、石油資源の有効活用が着目されるようになっており、かかる観点から、重質な基材を一定量活用した重油組成物が望まれるようになっている。
このような重油組成物として、本出願人は、流動接触分解装置又は残油流動接触分解装置から得られる残渣油であるスラリーオイルに対し軽油留分等を配合してなる燃料油組成物を提案するに至っている(特許文献1(特開2018-165367号公報)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1記載の燃料油組成物によれば、重質なスラリーオイルの有効活用を図りつつ、硫黄分の含有量が低減され、着火性に優れた重油組成物相当の燃料油組成物を提供することができる。
【0009】
しかしながら、一般にC重油を構成する減圧蒸留残渣油は硫黄分が非常に高い基材であることが知られており、上記スラリーオイルも硫黄分の含有割合が比較的高いものであることから、今後益々高まるであろう重油組成物中の硫黄分含有量の低減要請に応えきれない場合が想定される。
また、環境負荷を低減するという観点からは、硫黄分とともに窒素分の含有割合が低減された重油組成物が求められるが、上記減圧蒸留残渣油等の重質基材は、一般に窒素分の含有割合が高い基材であることが知られている。
【0010】
さらに、上述したように、C重油相当の重油組成物は、残渣油の含有割合が高く粘性の高いものであることから、一般に着火性を向上させ難いことに加え、一般に残渣油等の重質基材はセジメントを生じ易いことから、C重油相当の重油組成物を構成する重質基材として、代替する重質基材を見出し難かった。
【0011】
このような状況下、本発明は、重質な基材を所定量含有する場合においても、硫黄分の含有割合を0.50質量%以下に低減し、窒素分の含有割合を低減し得るとともに、セジメントの発生を抑制し、低動粘度にかつCCAIを所望範囲に容易に制御し得る新規な重油組成物を提供するとともに、係る重油組成物の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者は、重質基材に代えて、重質基材に配合する軽油留分の割合を増加させることを着想した。
従来、重質基材に配合する軽油留分の配合割合を増加させると、得られる重油組成物において性状が不安定化し易くなってセジメントを発生させ易くなったり所望の発熱量が得られ難くなることから、これまで殆ど検討されるに至っていなかった。
しかしながら、本発明者が鋭意検討したところ、各々特定性状を有する直接脱硫重油および接触分解残渣油に相当する基材(基材A)を特定性状を有する軽油留分に対して一定割合で配合することにより、硫黄分や窒素分の含有割合を効果的に低減し、セジメントの発生を抑制しつつ、低動粘度にかつCCAIを所望範囲に容易に制御し得る重油組成物を提供し得ることを見出して、本発明を完成するに至ったものである。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1)硫黄分が0.50質量%以下、実在セジメントが1.00質量%以下である直接脱硫重油を10容量%以上35容量%未満、
直接脱硫重油を除く基材であって、CCAIが850~889、硫黄分が0.15質量%~0.75質量%、15℃における密度が0.9600g/cm3~1.0050g/cm3である基材Aを10容量%~25容量%、
15℃における密度が0.8300g/cm3~0.9300g/cm3でありCCAIが840以下である軽油留分を40容量%~80容量%含み、
硫黄分含有量が0.50質量%以下、
50℃における動粘度が4.00mm2/秒~80.00mm2/秒、
CCAIが860以下、
実在セジメントが0.20質量%以下
であることを特徴とする重油組成物、
(2)50℃における動粘度が20.00mm2/秒~80.00mm2/秒である上記(1)に記載の重油組成物、
(3)重油組成物を製造する方法であって、
硫黄分が0.50質量%以下、実在セジメントが1.00質量%以下である直接脱硫重油が10容量%以上35容量%未満、
直接脱硫重油を除く基材であって、CCAIが850~889、硫黄分が0.15質量%~0.75質量%、15℃における密度が0.9600g/cm3~1.0050g/cm3である基材Aが10容量%~25容量%、
15℃における密度が0.8300g/cm3~0.9300g/cm3でありCCAIが840以下である軽油留分が40容量%~80容量%となるように混合して、
硫黄分含有量が0.50質量%以下、
50℃における動粘度が4.00mm2/秒~80.00mm2/秒、
CCAIが860以下、
実在セジメントが0.20質量%以下
である重油組成物を得ることを特徴とする重油組成物の製造方法、
(4)得られる重油組成物の50℃における動粘度が20.00mm2/秒~80.00mm2/秒である上記(3)に記載の重油組成物の製造方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、重質な基材を所定量含有する場合においても、硫黄分の含有割合を0.50質量%以下に低減し、窒素分の含有割合を低減し得るとともに、セジメントの発生を抑制し、低動粘度にかつCCAIを所望範囲に容易に制御し得る新規な重油組成物を提供するとともに、係る重油組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
なお、本明細書中、数値範囲を現す「~」は、その上限及び下限としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、「~」で表される数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も同じ単位であることを意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本明細書において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0016】
本明細書において、下記項目の値は、特に断らない限り、以下の試験法方及び計算を用いて求めた値を意味する。
・「15℃における密度」;
JIS K 2249-1(2011)に規定する「原油製品及び石油製品―密度試験方法」
・「硫黄分」;
測定対象となる試料中に含まれる硫黄分の含有量に応じて、下記測定方法1又は測定方法2のいずれかの方法により測定した。
測定方法1(硫黄分含有量が0.0051質量%以上の場合):
JIS K 2541-7(2003)「原油及び石油製品-硫黄分試験方法」に規定する「波長分散蛍光X線法」
測定方法2(硫黄分含有量が0.0050質量%以下の場合):
JIS K 2541-6(2013)に規定する「原油及び石油製品-硫黄分試験方法」(紫外蛍光法)。
・「窒素分」
JIS K 2609(1998)に規定する「原油及び石油製品-窒素分析試験方法」(化学発光法)。
・「50℃における動粘度」;
JIS K 2283(2000)に規定する「原油及び石油製品―動粘度試験方法」
・「CCAI」;
下記式(α)に示す計算方法で求めた値を意味する。
CCAI=D-140.7log10log10(V+0.85)-80.6 (α)
式(α)中、Dは上記方法により測定した15℃における密度(kg/m3)、Vは上記方法により測定した50℃における動粘度(mm2/s)を示す。
・「実在セジメント」
ISO 10307-1:2009「Petroleum products― Total sediment in residual fuel oils―」によって測定した値を意味する。
【0017】
先ず、本発明の重油組成物について説明する。
本発明の重油組成物は、硫黄分が0.50質量%以下、実在セジメントが1.00質量%以下である直接脱硫重油を10容量%以上35容量%未満、
直接脱硫重油を除く基材であって、CCAIが850~889、硫黄分が0.15質量%~0.75質量%、15℃における密度が0.9600g/cm3~1.0050g/cm3である基材Aを10容量%~25容量%、
15℃における密度が0.8300g/cm3~0.9300g/cm3でありCCAIが840以下である軽油留分を40容量%~80容量%含み、
硫黄分含有量が0.50質量%以下、
50℃における動粘度が4.00mm2/秒~80.00mm2/秒、
CCAIが860以下、
実在セジメントが0.20質量%以下
であることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の重油組成物は、硫黄分が0.50質量%以下、実在セジメントが1.00質量%以下である直接脱硫重油を10容量%以上35容量%未満含むものである。
【0019】
直接脱硫重油は、常圧蒸留残油、減圧蒸留残油またはこれらの混合物を水素化脱硫して得られる重質な留分である。
水素化脱硫に用いる直接脱硫装置としては、特に制限はなく、公知の装置を適用することができる。
【0020】
直接脱硫重油は、重油組成物を構成する重質基材として従来から使用されてきた減圧蒸留残渣油に比較すると、脱硫工程で受けた熱等によりセジメントが発生し易く、係るセジメントは燃焼不良を生じる場合がある。
しかしながら、本発明の重油組成物によれば、特定性状を有する直接脱硫重油に対し、各々特定性状を有する基材Aおよび軽油留分を特定割合で配合することによって、セジメントの発生を好適に抑制することができる。
【0021】
また、直接脱硫重油は、従来の重油組成物の主基材として用いられている減圧蒸留残渣油と比べて硫黄分の含有量が少ないため、重油組成物が直接脱硫重油を含有することで、組成物中の硫黄分の含有量を低減し、かつ、重油組成物に適した動粘度に容易に調整することができる。
【0022】
直接脱硫重油は、硫黄分の含有割合が、0.50質量%以下であり、0.10質量%~0.47質量%であるものが好ましく、0.10質量%~0.45質量%であるものがより好ましい。
直接脱硫重油中の硫黄分はより少ないことが好ましいが、直接脱硫重油中の硫黄分を過度に低減しようとすると、脱硫原料油が制約されたり、過酷な処理条件等が必要になるたり、コストアップに繋がり易くなる。
直接脱硫重油中の硫黄分含有割合が上記範囲内にあることにより、重油組成物の硫黄分含有量を容易に調整することができる。
【0023】
直接脱硫重油は、窒素分の含有割合が、0.05質量%~0.20質量%であるものが好ましく、0.05質量%~0.18質量%であるものがより好ましく、0.05質量%~0.16質量%であるものがさらに好ましい。
直接脱硫重油中の窒素分が上記範囲内にあることにより、重油組成物の窒素分含有量を容易に調整することができる。
【0024】
直接脱硫重油は、15℃における密度が、0.9100g/cm3~0.9370g/cm3であるものが好ましく、0.9100g/cm3~0.9350g/cm3であるものがより好ましく、0.9100g/cm3~0.9330g/cm3であるものがさらに好ましい。
15℃における密度が、上記範囲内にある直接脱硫重油を用いて調製された重油組成物は、容量当りの発熱量を大きくすることができ、かつ燃焼の不均一性や燃焼障害の発生を容易に抑制することができる。
【0025】
直接脱硫重油は、50℃における動粘度が、80.00mm2/s~270.0mm2/sであるものが好ましく、82.00mm2/s~266.0mm2/sであるものがより好ましく、84.00mm2/s~262.0mm2/sであるものがさらに好ましい。
50℃における動粘度が上記範囲内にある直接脱硫重油を用いて調製された重油組成物は、内燃機関で使用した場合の噴霧状態が良好なため、燃焼の不均一性及び失火を抑制することができ、また重油組成物を安定して内燃機関に供給することができる。
【0026】
直接脱硫重油は、CCAIが、810以下であるものが好ましく、790~808であるものがより好ましく、790~806であるものがさらに好ましい。
直接脱硫重油のCCAIが上記範囲内にあることにより、上記範囲内にある直接脱硫重油を用いて調製された重油組成物は、良好な着火性を容易に発揮することができる。
【0027】
直接脱硫重油は、実在セジメント量が、1.00質量%以下(0質量%~1.00質量%)であるものであり、0.95質量%以下(0質量%~0.95質量%)であるものが好ましく、0.90質量%以下(0質量%~0.90質量%)であるものがより好ましい。
本発明の重油組成物は、直接脱硫重油の実在セジメント量が上記範囲内にあるため、セジメントの発生を効果的に抑制することができる。
【0028】
本発明の重油組成物において、直接脱硫重油の含有割合は、10容量%以上35容量%未満であり、12容量%~35容量%であることがより好ましく、14容量%~35容量%であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明の重油組成物は、各々特定性状を有する基材Aおよび軽油留分を所定量含むとともに、上記特定性状を有する直接脱硫重油を上記範囲で含むことにより、硫黄分の含有割合を低減し、セジメントの発生を抑制しつつ、低動粘度にかつCCAIを所望範囲に容易に制御することができる。
【0030】
本発明の重油組成物は、直接脱硫重油を除く基材であって、CCAIが850~889、硫黄分が0.15質量%~0.75質量%、15℃における密度が0.9600g/cm3~1.0050g/cm3である基材Aを10容量%~25容量%含むものである。
【0031】
基材Aとしては、接触分解残渣油のほか、例えば、接触分解重油、スラリーオイル、間接脱硫重油等の重油留分、常圧蒸留残油、エチレンボトム油、溶剤脱れき油等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
接触分解残渣油は、各々流動接触分解装置又は残油流動接触分解装置から得られる、沸点がおよそ200℃~800℃の重質留分、沸点範囲がおよそ200℃~500℃の重質留分である上記接触分解重油および上記スラリーオイルから選ばれる一種または二種以上の混合物である。
流動接触分解装置又は残油流動接触分解装置としては、特に制限はなく、公知の装置を用いることができる。
【0032】
基材Aは、CCAIが、850~889であり、850~887であるものが好ましく、850~885であるものがより好ましい。
基材AのCCAIが上記範囲内にあることにより、重油組成物が所望量の芳香族分等を含むことになり、潜在セジメントを抑制することができる。また、着火性の低下を容易に抑制することができる。
【0033】
基材Aは、硫黄分の含有割合が、0.15質量%~0.75質量%であり、0.15質量%~0.70質量%であるものが好ましく、0.15質量%~0.65質量%であるものがさらに好ましい。
基材Aの硫黄分の含有割合が上記範囲内にあることにより、重油組成物中の硫黄分を0.50質量%以下に容易に調整することができる。
【0034】
基材Aは、窒素分の含有割合が、0.05質量%~0.16質量%であるものが好ましく、0.05質量%~0.15質量%であるものがより好ましく、0.05質量%~0.14質量%であるものがさらに好ましい。
基材A中の窒素分が上記範囲内にあることにより、重油組成物の窒素分含有量を容易に調整することができる。
【0035】
基材Aは、15℃における密度が、0.9600g/cm3~1.0050g/cm3であり、0.9620g/cm3~1.0050g/cm3であるものがより好ましく、0.9640g/cm3~1.0050g/cm3であるものがさらに好ましい。
基材Aの15℃における密度が上記範囲内にあることにより、得られる重油組成物におけるセジメント発生を効率的に抑制し、着火性の低下を抑制することができる。
【0036】
基材Aは、50℃における動粘度が、30.00mm2/s~80.00 mm2/sであるものが好ましく、30.00mm2/s~77.00mm2/sであるものがより好ましく、30.00mm2/s~74.00mm2/sであるものがさらに好ましい。
基材Aの50℃における動粘度が上記範囲内にあることにより、上記範囲内にある直接脱硫重油を用いて調製された重油組成物は、工業炉やボイラー等に対して安定して供給することが可能となり、内燃機関で使用した場合には噴霧状態が良好となるため、燃焼の不均一性及び失火を抑制することができる。
【0037】
基材Aは、実在セジメント量が、0.10質量以下(0.00質量%~0.10質量%)であるものが好ましく、0.08質量%以下(0.00質量%~0.08質量%)であるものがより好ましく、0.06質量%以下(0.00質量%~0.06質量%)であるものがさらに好ましい。
本発明の重油組成物は、実在セジメント量が上記範囲内にある基材Aを含むことにより、セジメントの発生を効果的に抑制することができる。
【0038】
本発明の重油組成物における基材Aの含有割合は、10容量%~25容量%、12容量%~25容量%であることが好ましく、14容量%~25 容量%であることがより好ましい。
【0039】
本発明の重油組成物は、特定性状を有する直接脱硫重油を所定量含むとともに、各々特定性状を有する基材Aおよび後述する軽油留分を所定量含むことにより、硫黄分の含有割合を低減し、セジメントの発生を抑制しつつ、低動粘度にかつCCAIを所望範囲に容易に制御することができる。
【0040】
本発明の重油組成物は、15℃における密度が0.8300g/cm3~0.9300g/cm3でありCCAIが840以下である軽油留分を40容量%~80容量%含む。
【0041】
本出願書類において、軽油留分とは、軽油やA重油の基材、減圧蒸留残渣のカットバックに用いられる基材として通常使用し得る、沸点範囲170~600℃程度のものを意味し、例えば、接触分解軽油、直留軽油、減圧軽油、直接脱硫軽質軽油、直接脱硫重質軽油、水素化脱硫軽油、間接脱硫減圧軽油、熱分解軽油、重質接触分解軽油、脱硫減圧軽油等から選ばれる一種以上を挙げることができる。本出願書類において、軽油留分は、所定の物性を有する二種以上の軽油基材の混合物からなるものであってもよい。
なお、本出願書類において、上記「カットバック」とは、動粘度の低減や硫黄分の低減等を目的として残渣油に軽質基材を混合することを意味し、また、上記軽油留分としては、直接脱硫重油、接触分解残渣油に相当する基材(基材A)、減圧蒸留残渣に軽質基材を混合したカットバック残油(CBR-H)を除くものとする。
【0042】
軽油留分は、硫黄分の含有割合が、0.50質量%以下であるものが好ましく、0.47質量%以下であるものがより好ましく、0.45質量%以下であるものがさらに好ましい。
軽油留分の硫黄分の含有割合が上記範囲内にあることにより、重油組成物中の硫黄分を0.50質量%以下に容易に調整することができる。
【0043】
軽油留分は、窒素分の含有割合が、0.10質量%以下であるものが好ましく、0.09質量%以下であるものがより好ましく、0.08質量%以下であるものがさらに好ましい。
軽油留分中の窒素分が上記範囲内にあることにより、重油組成物の窒素分含有量を容易に調整することができる。
【0044】
軽油留分の15℃における密度は、0.8300g/cm3~0.9300g/cm3であり、0.8320g/cm3~0.9300g/cm3であるものが好ましく、0.8340g/cm3~0.9300g/cm3であるものがより好ましい。
軽油留分の15℃における密度が、上記範囲内にあることにより、重油組成物は、容量当りの発熱量を大きくすることができ、かつ燃焼の不均一性や燃焼障害の発生を容易に抑制することができる。
15℃における密度が上記範囲の上限値よりも高くなると、得られる重油組成物の芳香族性が高くなったり重質化が進行し、燃焼性が低下し易くなる。
【0045】
軽油留分は、50℃における動粘度が、1.40mm2/s~50.00mm2/sであるものが好ましく、1.40mm2/s~46.00mm2/sであるものがより好ましく、1.40mm2/s~42.00mm2/sであるものがさらに好ましい。
軽油留分の50℃における動粘度が上記範囲内にあることにより、本発明に係る重油組成物を、工業炉やボイラー等に対して安定して供給し易くなり、内燃機関で使用した場合には噴霧状態が良好となるため、燃焼の不均一性及び失火を容易に抑制することができる。
【0046】
軽油留分は、CCAIは、840以下であり、780~840であるもいのが好ましく、780~835であるものがより好ましく、780~830であるものがさらに好ましく、782~830であるものが一層好ましく、784~830であるものがより一層好ましい。
軽油留分のCCAIが上記範囲内にあることにより、得られる重油組成物が過度に重質化し着火性が悪化することを容易に抑制し、またセジメントの発生を容易に抑制することができる。
【0047】
本発明の重油組成物において、軽油留分の含有割合は、40容量%~80容量%であり、40容量%~76容量%であることが好ましく、40容量%~72容量%であることがより好ましい。
【0048】
本発明の重油組成物は、上記軽油留分を所定量含むとともに、上述した特定性状を有する直接脱硫重油および基材Aを各々所定量含むことにより、性状の不安定化を抑制してセジメントの発生を抑制しつつ、硫黄分の含有割合を低減し、低動粘度にかつCCAIを所望範囲に容易に制御することができる。
【0049】
本発明の重油組成物は、必要に応じて各種の添加剤を適宜含有するものであってもよい。
添加剤としては、流動性向上剤、流動点降下剤、酸化防止剤、スラッジ分散剤、エマルジョン防止剤、燃焼促進剤、腐食防止剤等公知の燃料添加剤が挙げられる。
添加剤は、1種単独であってもよく、又は2種以上の組み合わせでもよい。
【0050】
本発明の重油組成物は、硫黄分含有量が、0.50質量%以下であり、0.47質量%以下であることが好ましく、0.45質量%以下であることがより好ましい。
【0051】
本発明の重油組成物は、各々特定性状を有する直接脱硫重油、基材Aおよび軽油留分を各々所定量含むことにより、硫黄含有量を容易に0.50質量%以下に制御することができる。
【0052】
本発明の重油組成物は、窒素分の含有割合が、0.12質量%以下であるものが好ましく、0.11質量%以下であるものがより好ましく、0.10質量%以下であるものがさらに好ましい。
【0053】
本発明の重油組成物は、各々特定性状を有する直接脱硫重油、基材Aおよび軽油留分を各々所定量含むことにより、窒素分含有量を容易に所望範囲に制御することができる。
【0054】
本発明の重油組成物は、15℃における密度が、0.8700g/cm3~0.9600g/cm3であることが好ましく、0.8700g/cm3~0.9550g/cm3であることがより好ましく、0.8700g/cm3~0.9500g/cm3であることがさらに好ましい。
【0055】
本発明の重油組成物は、50℃における動粘度が、4.00mm2/秒~80.00mm2/秒であり、12.00mm2/秒~80.00mm2/秒であることが好ましく、20.00mm2/秒~80.00mm2/秒であることがより好ましい。
本発明の重油組成物は、動粘度が上記範囲内にあることにより、工業炉やボイラー等に対して安定して供給することが可能となり、内燃機関で使用した場合には噴霧状態が良好となるため、燃焼の不均一性及び失火を抑制することができる。
また、本発明の重油組成物が低動粘度舶用C重油である場合、動粘度は4.00mm2/秒~20.00mm2/秒であることが好ましく、本発明の重油組成物が高動粘度舶用C重油である場合、動粘度は20.00mm2/秒~80.00mm2/秒であることが好ましい。
【0056】
本発明の重油組成物は、CCAIが、860以下であり、800~859であることが好ましく、800~858であることがより好ましい。
【0057】
本発明の重油組成物は、実在セジメントが、0.20質量%以下(0質量%~0.20質量%)であり、0.18質量%以下(0.00質量%~ 0.18質量%)であることが好ましく、0.16質量%以下(0.00質量%~0.16質量%)であることがより好ましい。
【0058】
本発明の重油組成物は、特定性状を有する軽油留分を所定量含むとともに、特定性状を有する直接脱硫重油および基材Aを各々所定量含むものであることから、硫黄分の含有割合を0.50質量%以下に低減し、窒素分の含有割合を低減し得るとともに、性状の不安定化を抑制してセジメントの発生を抑制し、低動粘度にかつCCAIを所望範囲に容易に制御することができる。
【0059】
本発明の重油組成物は、後述する本発明の製造方法により好適に製造することができる。
【0060】
本発明の重油組成物としては、C重油組成物を挙げることができ、係るC重油組成物は、例えば船舶用燃料等として好適に使用することができる。
【0061】
本発明によれば、重質な基材を多量に含有する場合においても、硫黄分の含有割合を0.50質量%以下に低減し、窒素分の含有割合を低減し得るとともに、セジメントの発生を抑制し、低動粘度にかつCCAIを所望範囲に容易に制御し得る新規な重油組成物を提供することができる。
【0062】
次に、本発明の重油組成物の製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、重油組成物を製造する方法であって、
硫黄分が0.50質量%以下、実在セジメントが1.00質量%以下である直接脱硫重油が10容量%以上35容量%未満、
直接脱硫重油を除く基材であって、CCAIが850~889、硫黄分が0.15質量%~0.75質量%、15℃における密度が0.9600g/cm3~1.0050g/cm3である基材Aが10容量%~25容量%、
15℃における密度が0.8300g/cm3~0.9300g/cm3でありCCAIが840以下である軽油留分が40容量%~80容量%となるように混合して、
硫黄分含有量が0.50質量%以下、
50℃における動粘度が4.00mm2/秒~80.00mm2/秒、
CCAIが860以下、
実在セジメントが0.20質量%以下
である重油組成物を得ることを特徴とするものである。
【0063】
本発明の燃料油組物の製造方法において、上記直接脱硫重油、基材Aおよび軽油留分の詳細は、上述したとおりである。
【0064】
本発明の重油組成物の製造方法においては、直接脱硫重油を、10容量%以上35容量%未満混合し、12容量%~35容量%混合することが好ましく、14容量%~35容量%混合することがより好ましい。
【0065】
本発明の重油組成物の製造方法において、上記特定性状を有する直接脱硫重油の混合割合を上記範囲にするとともに、各々特定性状を有する基材Aおよび軽油留分を所定の混合割合で混合することにより、硫黄分の含有割合を0.50質量%以下に低減し、窒素分の含有割合を低減し得るとともに、セジメントの発生を抑制し、低動粘度にかつCCAIを所望範囲に容易に制御することができる。
【0066】
本発明の重油組成物の製造方法においては、基材Aを、10容量%~25容量%混合し、12容量%~25容量%混合することが好ましく、14容量%~25容量%混合することがより好ましい。
【0067】
本発明の重油組成物の製造方法においては、軽油留分を、40容量%~80容量%混合し、40容量%~76容量%混合することが好ましく、40容量%~72容量%混合することがより好ましい。
【0068】
本発明の重油組成物の製造方法において、上記直接脱硫重油、基材Aおよび軽油留分を、所望性状が得られるように任意の方法によって混合することにより目的とする重油組成物を容易に調製することができる。
【0069】
本発明の重油組成物の製造方法においては、各々特定性状を有する直接脱硫重油、基材Aおよび軽油留分を所定の割合で混合することにより、得られる重油組成物において、硫黄分および窒素分の含有割合を低減し、セジメントの発生を抑制しつつ、低動粘度にかつCCAIを所望範囲に容易に制御することができる。
【0070】
本発明の製造方法で得られる重油組成物の詳細は、上述したとおりである。
本発明の製造方法で得られる重油組成物としては、特にC重油組成物を挙げることができ、係るC重油組成物は、例えば船舶用燃料等として好適に使用することができる。
【0071】
本発明によれば、重質な基材を所定量含有する場合においても、硫黄分の含有割合を0.50質量%以下に低減し、窒素分の含有割合を低減しつつ、セジメントの発生を抑制し、低動粘度にかつCCAIを所望範囲に容易に制御し得る新規な重油組成物の製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。
【0073】
(実施例1~実施例13および比較例1~比較例5)
表1に示す性状を有する、直接脱硫重油1、直接脱硫重油2、直接脱硫重油3、接触分解残渣油1、接触分解残渣油2、接触分解軽油1、接触分解軽油2、間接脱硫軽油、直接脱硫軽油、水素化脱硫軽油、直接脱硫重質軽油、脱硫熱分解重質軽油、上記接触分解軽油2と間接脱硫軽油との混合油(接触分解軽油2および間接脱硫軽油の混合比が体積比で1:3)および市販のC重油を用いて、各々表2および表3に示す割合で配合することにより、実施例1~実施例13および比較例1~比較例5に係るC重油組成物を調製した。
上記接触分解残渣油1および接触分解残渣油2が基材Aに相当する(基材Aの要件を満たす)基材であり、接触分解軽油1、間接脱硫軽油、直接脱硫軽質軽油、水素化脱硫軽油、直接脱硫重質軽油、脱硫熱分解重質軽油、上記接触分解軽油2と間接脱硫軽油との混合油(接触分解軽油2および間接脱硫軽油の混合比が体積比で1:3)が軽油留分に相当する(軽油留分の要件を満たす)基材である。
得られた各重油組成物の性状(硫黄分含有量、15℃における密度、50℃における動粘度、CCAI、実在セジメント)を測定した。結果を表2および表3に示す。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
表2および表3より、実施例1~実施例13で得られた本発明の重油組成物は、各々特定性状を有する直接脱硫重油、接触分解残渣油および軽油留分を特定の割合で配合してなる特定性状を有するものであることから、直接脱硫重油や接触分解残渣油といった重質な基材を所定量含有するものであるにも拘わらず、硫黄分の含有割合を0.50質量%以下に低減し、窒素分の含有割合が低減されるとともに、セジメントの発生を抑制し、低動粘度にかつCCAIを所望範囲に容易に制御し得る着火性に優れるものであることが分かる。
【0078】
これに対して、比較例1~比較例5で得られた本発明の比較重油組成物は、直接脱硫重油の配合割合が所定範囲外であったり(比較例1、比較例2、比較例3)、接触分解残渣油の配合割合が所定範囲外であったり(比較例2、比較例4)、軽油留分の配合割合が所定範囲外であったり(比較例1、比較例4)、所定の基材を所定量含むものでない(比較例5)ことから、実在セジメント量が多かったり(比較例1、比較例2)、CCAIが高く着火性に劣るものであったり(比較例3、比較例4)、硫黄分含有量が多く動粘度が高い(比較例5)ものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、重質な基材を所定量含有する場合においても、硫黄分の含有割合を0.50質量%以下に低減し、窒素分の含有割合を低減し得るとともに、セジメントの発生を抑制し、低動粘度にかつCCAIを所望範囲に容易に制御し得る新規な重油組成物を提供するとともに、係る重油組成物の製造方法を提供することができる。