(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】建物
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20221104BHJP
E04H 6/18 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
E04H9/02 321A
E04H9/02 301
E04H6/18 601Z
(21)【出願番号】P 2019035033
(22)【出願日】2019-02-27
【審査請求日】2021-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 智介
(72)【発明者】
【氏名】團塚 紀祐
(72)【発明者】
【氏名】敦賀谷 俊
(72)【発明者】
【氏名】川岡 千里
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-043988(JP,A)
【文献】特開2004-218239(JP,A)
【文献】特開2005-016242(JP,A)
【文献】特開2006-045933(JP,A)
【文献】特開平07-026786(JP,A)
【文献】特開2005-180089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00-9/16
E04H 6/18
E04H 1/04
E04H 6/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数階を有するコア部と、当該コア部の下部の周囲に設けられた周縁部と、を備える建物であって、
前記コア部の所定階は、設備機器が配置される設備階であり、
前記コア部には、下層階から前記設備階
の直下階まで上下方向に延びて立体駐車場が設置される立体駐車スペースが設けられるとともに、
平面視で前記立体駐車スペースの周囲に配置されてかつ上下方向に延びて前記設備階を貫通する連続耐震壁が設けられることを特徴とする建物。
【請求項2】
前記設備階は、前記立体駐車場の昇降設備、当該設備階の上階のための設備配管、免震装置、および制振装置のうち少なくとも1つが設置されることを特徴とする請求項
1に記載の建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に立体駐車場を備える建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内部に立体駐車場を備えつつ、地震力や風荷重などの水平力に抵抗できる建物が提案されている(特許文献1参照)。
特許文献1には、内部に鉛直方向に延びるボイド空間を有する外部建物と、ボイド空間内に構築されて立体駐車場として利用される内部建物と、外部建物と内部建物との間を連結する制震ダンパーと、を備える制振建物が示されている。
【0003】
また、地震力や風荷重などの水平力に対して耐震壁で抵抗する建物が提案されている(特許文献2、3参照)。
特許文献2には、コア部分に地震力の大部分を負担する連層耐震壁が設けられた建物が示されている。建物の最上階および中間階には、連層耐震壁に剛接合されて連層耐震壁の変形を制御する大梁が設けられている。コア部分とその外周の居室部分との間の廊下部分において、連層耐震壁とこれに隣接する柱との間には、制震梁が設けられている。
特許文献3には、互いに水平方向に離間して配置された2つのコア部を有する建築物が示されている。コア部は、Y方向に沿って配置される一対の第1連層耐震壁と、Y方向と交差するX方向に沿って配置される一対の第2連層耐震壁と、を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-211506号公報
【文献】特開2006-45933号公報
【文献】特開2017-71924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、内部に立体駐車場を備えつつ建物高さを低く抑えることができる建物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、内部に立体駐車場を備えた建物において、立体駐車場の頂部に設備階を配置するとともに、立体駐車場の周囲に連続耐震壁を配置し、この連続耐震壁の一部を設備階の上層階まで設置することで、設備階に、立体駐車場用の昇降設備、建物の設備の横引配管、免震装置や制振装置などを併せて配置可能となり、建物高さを低く抑えることができる点に着眼して、本発明に至った。
第1の発明の建物(例えば、後述の建物1)は、複数階を有するコア部(例えば、後述のコア部20)と、当該コア部の下部の周囲に設けられた周縁部(例えば、後述の周縁部30)と、を備える建物であって、前記コア部の所定階(例えば、後述の10階)は、設備機器が配置される設備階(例えば、後述の設備階21)であり、前記コア部には、下層階から前記設備階まで上下方向に延びて立体駐車場(例えば、後述の立体駐車場47)が設置される立体駐車スペース(例えば、後述の立体駐車スペース46)が設けられるとともに、上下方向に延びて前記設備階を貫通する連続耐震壁(例えば、後述の連続耐震壁22A、22C、22D)が設けられることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、立体駐車スペースの直上に設備階を設けた。よって、この設備階に立体駐車場の昇降設備を設けるとともに、設備階の上階のための設備を設けることで、設備階の上下階のための設備を設備階に集約できるから、建物高さを低く抑えることができる。
また、上下方向に連続する連続耐震壁を、設備階を上下に貫通して設けたので、この連続耐震壁が建物の中間高さに位置する設備階で分断されることなく、建物の下層から上層まで連続する芯材として機能し、建物の耐震性能を高めることができる。
また、建物に作用する地震荷重が大きくなる建物下部にも連続耐震壁を設置すれば、建物の耐震性能をさらに高めることができる。
また、本発明の建物は、コア部とこのコア部の下部の周囲に設けられた周縁部と、を備える複合建物であり、建物の下層では、コア部と周縁部とが一体となって地震力(水平力)に抵抗するので、地震に対する安全性が高い。
【0008】
第2の発明の建物は、前記連続耐震壁(例えば、後述の連続耐震壁22C)の少なくとも一部は、平面視で前記立体駐車スペースを囲んで配置されることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、連続耐震壁の少なくとも一部を、平面視で立体駐車スペースを囲んで配置した。よって、地震時に建物に入力された地震荷重の大部分を連続耐震壁が負担するため、地震時に立体駐車場の柱や梁などの構造体に生じる変形を低減できる。
【0010】
第3の発明の建物は、前記設備階は、前記立体駐車場の昇降設備、当該設備階の上階のための設備配管、免震装置、および制振装置のうち少なくとも1つが設置されることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、設備階の下階に設けられた立体駐車場のための昇降設備、設備階の上階のための設備配管、免震装置、および制振装置のうち少なくとも1つを、設備階に集約して設けたので、建物の高さを抑えることができる。
【0012】
第4の発明の建物は、前記周縁部の外壁は、壁式構造であり、当該周縁部の外壁の最下階では、所定間隔おきに壁柱が設けられることが好ましい。
【0013】
この発明によれば、周縁部の外壁を壁式構造としたので、建物内部に柱型が突出しないから、建物内部の設計自由度を高めることができる。また、周縁部の最下階において所定間隔おきに壁柱を設けたので、外壁上部の荷重を地下躯体に集約して伝達できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、内部に立体駐車場を備えつつ建物高さを低く抑えることができる建物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る建物の縦断面図である。
【
図4】建物の連続耐震壁および外壁を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、内部に立体駐車場を備えた建物において、立体駐車場の頂部に設備階を配置するとともに、立体駐車場の周囲に連続耐震壁を配置し、この連続耐震壁の一部を、設備階を貫通して下層階から上層階まで設置するものである。
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る建物1の縦断面図である。
図2は、
図1の建物1のA-A断面図であり、
図3は、
図1の建物1のB-B断面図である。
図4は、建物1の連続耐震壁および外壁を示す斜視図である。
建物1は、基礎10と、この基礎10の上に構築された建物本体11と、を備える。
建物本体11は、複数階ここでは18階を有するコア部20と、コア部20下部の1階から6階の周囲に設けられた周縁部30と、を備える。この建物本体11は、
図4に示すように、コア部20の周囲に周縁部30が設けられた低層部を、客室を有するホテル(宿泊施設)用途とし、この低層部の上のスレンダーな高層部を、住宅用途としている。
【0017】
コア部20は、鉄筋コンクリート造のラーメン構造である。
周縁部30は、鉄筋コンクリート造の壁式構造であるが、一部鉄骨造となっている。具体的には、この周縁部30は、コア部20から外方に向かって水平方向に延びる鉄骨梁31と、建物1内部に柱型が突出しない壁式構造の外壁32と、を備える。外壁32の最下階では、
図4に示すように、所定間隔おきに壁柱33が設けられて、壁柱33同士の間にアーチ形状の開口部34が形成されている。
【0018】
以下、建物1について、X方向の通り芯として1~7通り、Y方向の通り芯としてA~D通りを設定する。
コア部20の10階は、設備機器が配置される設備階21となっている。
この設備階21の下階は、非居住階で宿泊施設として利用されており、客室40が複数並んで設けられている。設備階21の上階は、居住階で集合住宅として利用されており、住戸41が複数並んで設けられている。
設備階21には、後述の立体駐車場47の昇降設備、および、設備階21の上階の集合住宅の設備配管が設置されている。また、設備階21は、人が生活する居住空間である必要はなく、宿泊施設として利用される非居住階および集合住宅として利用される居住階よりも、階高が低くなっている。
【0019】
1通りとD通りが交差する柱の近傍には、1階から設備階21に至るエレベータ42が設置されている。C通りで1通りと2通りとの間には、1階から設備階21に至る2基のエレベータ43が設置されている。3通りでB通りとC通りとの間には、1階から最上階に至る2基のエレベータ44が設置されている。4通りでB通りとC通りとの間には、避難階段45が設置されている。4通りと5通りとの間でかつC通りとD通りとの間は、立体駐車スペース46であり、この立体駐車スペース46に立体駐車場47が設置されている。
【0020】
コア部20には、上下方向に延びる連続耐震壁22A、22B、22C、22Dが設けられている。
連続耐震壁22Aは、1通りのC通りからD通りにかけて間に配置されており、1階から設備階21を貫通して最上階まで延びている。
連続耐震壁22Bは、2通りのC通りからD通りにかけて配置されており、1階から設備階21まで延びている。
連続耐震壁22Cは、設備階21の下階では、平面視で立体駐車スペース46を囲んで略コの字形状に配置されており、地下1階から設備階21まで延びている。具体的には、連続耐震壁22Cは、設備階21の下階では、4通りのC通りからD通りまでの部分、D通りの4通りから5通りまでの部分、および5通りのC通りからD通りまでの部分に配置されている。
この連続耐震壁22Cの一部は、1階から設備階21を貫通して最上階まで延びている。具体的には、連続耐震壁22Cは、設備階21の上階では、5通りのC通りからD通りまでの部分に配置されている。
連続耐震壁22Dは、エレベータ44および避難階段45を囲んで略コの字形状に配置されており、地下1階から1階から設備階21を貫通して最上階まで延びている。具体的には、連続耐震壁22Dは、3通りのB通りからC通りまでの部分、C通りの3通りから4通りまでの部分、および4通りのB通りからC通りまでの部分に配置されている。
【0021】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)立体駐車スペース46の直上に設備階21を設けた。よって、この設備階21に立体駐車場47の昇降設備を設けるとともに、設備階21の上階のための設備配管を設けることで、設備階21の上下階のための設備を設備階に集約できるから、建物高さを低く抑えることができる。よって、建物1が近隣の環境に与える風や日照などの影響を軽減できる。また、設備配管や立体駐車場47の昇降設備が設備階21に集約されているため、建物1を利用しながら、設備機器や設備配管のメンテナンスが容易となる。
また、上下方向に連続する連続耐震壁22A、22C、22Dを、設備階21を上下に貫通して設けたので、この連続耐震壁22A、22C、22Dが建物1の中間高さに位置する設備階21で分断されることなく、建物1の下層から上層まで連続する芯材として機能し、建物1の耐震性能を高めることができる。
また、建物1に作用する地震荷重が大きくなる建物下部にも、連続耐震壁22Bを設置したので、建物1の耐震性能をさらに高めることができる。
また、建物1は、コア部20とこのコア部20の下部の周囲に設けられた周縁部30と、を備える複合建物であり、建物1の下層では、コア部20と周縁部30とが一体となって地震力(水平力)に抵抗するので、地震に対する安全性が高い。
【0022】
(2)連続耐震壁22Cの一部を、平面視で立体駐車スペース46を囲んで配置した。よって、地震時に建物1に入力された地震荷重の大部分を連続耐震壁22Cが負担するため、地震時に立体駐車場47の柱や梁といった構造体に生じる変形を低減できる。また、立体駐車場47を設備階21より下階に配置することで、立体駐車場47が設備階21の上階に設けた居住階に及ぼす振動を低減できる。
【0023】
(3)周縁部30の外壁32を壁式構造としたので、建物内部に柱型が突出しないから、建物1内部の設計自由度を高めることができる。また、周縁部30の最下階において所定間隔おきに壁柱33を設けたので、外壁32の上部の荷重を地下躯体に集約して伝達できる。また、壁式構造の周縁部30では、上部の外壁32の直下に必ずしも外壁を設ける必要がないため、アーチ形状の開口部34を設けて、建物1に出入りする間口の幅を大きく確保できる。
【0024】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、設備階21に、立体駐車場47のための昇降設備と、設備階21の上階のための設備配管とを設けたが、これに限らず、設備階21の上階の免震装置や制振装置を設けてもよい。
また、本実施形態では、建物1の低層部をホテル用途とし、高層部を住宅用途としたが、これに限らず、本発明が適用される建物の用途は特に限定されない。
【符号の説明】
【0025】
1…建物 10…基礎 11…建物本体
20…コア部 21…設備階 22A、22B、22C、22D…連続耐震壁
30…周縁部 31…鉄骨梁 32…外壁 33…壁柱 34…開口部
40…客室 41…住戸 42、43、44…エレベータ 45…避難階段
46…立体駐車スペース 47…立体駐車場