(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】セパレータ
(51)【国際特許分類】
H01M 50/489 20210101AFI20221104BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20221104BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20221104BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20221104BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20221104BHJP
H01M 50/423 20210101ALI20221104BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20221104BHJP
C08J 9/38 20060101ALI20221104BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20221104BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20221104BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
H01M50/489
H01M50/417
H01M50/451
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/423
H01G11/52
C08J9/38
B32B27/32 Z
B32B5/18
B32B9/00 A
(21)【出願番号】P 2019042057
(22)【出願日】2019-03-07
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】519079636
【氏名又は名称】宇部マクセル京都株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(72)【発明者】
【氏名】田中 憲司
【審査官】式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/104127(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/046126(WO,A1)
【文献】特開2018-181546(JP,A)
【文献】特開2009-283273(JP,A)
【文献】特開2018-200786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01G 11/52
C08J 9/38
B32B 27/32
B32B 5/18
B32B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン微多孔フィルムと、その一方の面に形成された無機粒子を含有する無機粒子層とを有するセパレータであって、
軸方向に延びる略円錐台形を、直径2mmの上面の縁部を頂点として前記軸方向に対して45°の角度で切断した切断面が先端に形成されている端子を、前記ポリオレフィン微多孔フィルム表面の面方向に対して前記軸方向を垂直方向にして前記先端から、420℃の温度および2mm/秒の速度で押し当て、前記先端が接してから1秒後に形成された前記セパレータの開孔面積が0.04mm
2以下であり、
前記ポリオレフィン微多孔フィルムの厚みが13μm以下であり、
前記無機粒子層の厚みをx(μm)とし、前記ポリオレフィン微多孔フィルムの厚みをy(μm)としたときに、x/y≧0.3であり、
前記セパレータの透気度をs(sec/100ml)とし、前記ポリオレフィン微多孔フィルムの透気度をt(sec/100ml)としたときに、s-t≦25であることを特徴とするセパレータ。
【請求項2】
前記無機粒子層が、ポリN-ビニルアセトアミドを含有し、その含有量が3質量%以下である請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
前記無機粒子の平均粒子径が、0.6μm以上である請求項1または請求項2に記載のセパレータ。
【請求項4】
前記無機粒子層中の前記無機粒子の含有量が90質量%以上である請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のセパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子に適用可能なセパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン電池やポリマーリチウム電池、電気二重層キャパシタなどの電気化学素子がある。電気化学素子の正極と負極とを隔離するためのセパレータとしては、一般的に、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂多孔質膜が用いられている。特に、ポリオレフィンを主成分とする樹脂多孔質膜からなるセパレータは、リチウムイオン電池などの過酷な酸化還元雰囲気に対して安定であり、かつ構成樹脂の融点付近で空孔が閉塞し、いわゆるシャットダウン特性を確保できるため、広く用いられている。
【0003】
しかしながら、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂多孔質膜からなるセパレータは、熱可塑性樹脂の融点以上の温度では膜を維持する能力が不足しているため、破膜が起こりやすい。電気化学素子内でセパレータの破膜が発生すると、正極と負極とが直接接触する短絡現象が生じる虞がある。
このため、セパレータとして、樹脂多孔質膜と、その表面に形成された耐熱層とを有する積層膜が用いられている。耐熱層は、無機粒子などの耐熱性の高い材料を含む。
【0004】
例えば、特許文献1には、樹脂多孔質膜の表面に、耐熱性微粒子を70体積%以上含有する耐熱多孔質層を有するセパレータが記載されている。
特許文献2には、ポリオレフィン樹脂多孔膜の少なくとも片面の濡れ指数(樹脂多孔質膜の表面張力)が40mN/m以上であり、当該面に無機フィラーと樹脂製バインダからなる多孔層を備えたセパレータが記載されている。
特許文献3には、濡れ性が40mN/m以上である表面が耐熱層に被覆されたセパレータが記載されている。
特許文献4には、ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムに、フィラーと樹脂バインダとを含む被覆層を積層した積層多孔フィルムの製造方法が記載されている。
【0005】
セパレータの耐熱性を評価する方法として、以下に示す「ハンダ試験」がある(例えば、特許文献5参照)。まず、セパレータから採取した試験体を枠に固定し、試験体の上方に試験体に垂直になるように、直径1mmのハンダコテを設置する。次に、ハンダコテを300℃または400℃に昇温し、10mm/secの速度で下降させて、試験体に突き刺す。試験体に突き刺した状態でハンダコテを3秒間保持した後、上昇させる。その後、試験体に形成された穴を光学顕微鏡で観察し、画像処理により試験体の穴の面積を求め、評価する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-123996号公報
【文献】特開2008-186722号公報
【文献】特開2010-21033号公報
【文献】特開2013-116966号公報
【文献】国際公開第2010/104077号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、セパレータを用いた電気化学素子では、急激に温度が上昇すると、セパレータのシャットダウン特性によって温度上昇が抑制される前に、セパレータが破膜する場合があった。このため、セパレータにおいて、急激な温度上昇に対する耐熱性を向上させることが要求されている。
【0008】
しかしながら、従来のセパレータの耐熱性の評価方法では、急激な温度上昇に対する耐熱性が十分であるか否かを判断できない。
このため、急激な温度上昇に対する耐熱性に優れるセパレータを開発することは容易ではなかった。
【0009】
具体的には、セパレータの耐熱性を評価する方法として、ハンダ試験を用いることが考えられる。ハンダ試験では、試験体に突き刺した状態でハンダコテを3秒間保持することにより、試験体に形成された穴の面積を求め、評価する。しかし、ハンダ試験で形成された穴の面積では、急激な温度上昇に対するセパレータの耐熱性が十分であるか否かを判断することはできなかった。
より詳細には、本発明者が検討した結果、セパレータに、高温の端子を一定時間押し当てて形成された開孔面積が同じであっても、急激な温度上昇に対するセパレータの耐熱性に差異が生じる場合があった。
【0010】
また、電気化学素子のさらなる高容量化に対応すべく、厚みの薄いセパレータが要求されている。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、厚みが薄く、かつ急激な温度上昇に対する耐熱性に優れるセパレータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために、急激な温度上昇に対する耐熱性が十分であるか否かを判断できるセパレータ評価方法について、鋭意研究を重ねた。
その結果、軸方向に延びる略円錐台形を、直径2mmの上面の縁部を頂点として前記軸方向に対して45°の角度で切断した切断面が先端に形成されている端子を、セパレータ表面の面方向に対して前記軸方向を垂直方向にして前記先端から、420℃の温度および2mm/秒の速度で押し当て、セパレータに先端が接してから1秒後に形成されたセパレータの開孔面積を用いることで、急激な温度上昇に対するセパレータの耐熱性を評価できることが分かった。さらに、本発明者らは鋭意研究を重ね、上記の開孔面積が0.04mm2以下のセパレータであれば、急激な温度上昇に対する十分な耐熱性が得られることを見出した。
【0012】
また、ポリオレフィン微多孔フィルム上に無機粒子層が形成されたセパレータでは、厚みの薄いセパレータとすべく、ポリオレフィン微多孔フィルムの厚みを13μm以下とすることが好ましい。ポリオレフィン微多孔フィルム上に無機粒子層が形成されたセパレータでは、無機粒子層の厚みを厚くすることにより、セパレータの耐熱性を向上させることができる。しかし、厚みの薄いセパレータとするためには、無機粒子層の厚みは薄いほど好ましい。
【0013】
そこで、本発明者らは、ポリオレフィン微多孔フィルム上に無機粒子層が形成されたセパレータにおける無機粒子層の厚みについて鋭意検討した。
その結果、ポリオレフィン微多孔フィルムの厚みy(μm)が13μm以下である場合、y(μm)に対する無機粒子層の厚みx(μm)の割合(x/y)を0.3以上にすることで、十分な耐熱性が得られることが分かった。
【0014】
また、ポリオレフィン微多孔フィルム上に無機粒子層が形成されたセパレータでは、無機粒子層の厚みx(μm)を厚くするほど、セパレータの透気度が大きくなる。その結果、ポリオレフィン微多孔フィルム上に無機粒子層を形成しない場合と比較して、これをセパレータとして用いた電気化学素子の放電特性が低下する。
【0015】
そこで、本発明者らは、さらに検討を重ね、ポリオレフィン微多孔フィルム上に無機粒子層が形成されたセパレータにおいて、セパレータの透気度s(sec/100ml)と、ポリオレフィン微多孔フィルムの透気度t(sec/100ml)との差(s-t)を25(sec/100ml)以下とすればよいことを見出した。上記差(s-t)が25(sec/100ml)以下であるセパレータとすることで、無機粒子層の厚みx(μm)の増大が抑制されるとともに、無機粒子層を設けることによる電気化学素子の放電特性の低下を十分に抑制できる。
本発明者は、これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の構成を採用する。
【0016】
(1)ポリオレフィン微多孔フィルムと、その一方の面に形成された無機粒子を含有する無機粒子層とを有するセパレータであって、
軸方向に延びる略円錐台形を、直径2mmの上面の縁部を頂点として前記軸方向に対して45°の角度で切断した切断面が先端に形成されている端子を、前記ポリオレフィン微多孔フィルム表面の面方向に対して前記軸方向を垂直方向にして前記先端から、420℃の温度および2mm/秒の速度で押し当て、前記先端が接してから1秒後に形成された前記セパレータの開孔面積が0.04mm2以下であり、
前記ポリオレフィン微多孔フィルムの厚みが13μm以下であり、
前記無機粒子層の厚みをx(μm)とし、前記ポリオレフィン微多孔フィルムの厚みをy(μm)としたときに、x/y≧0.3であり、
前記セパレータの透気度をs(sec/100ml)とし、前記ポリオレフィン微多孔フィルムの透気度をt(sec/100ml)としたときに、s-t≦25であることを特徴とするセパレータ。
【0017】
(2)前記無機粒子層が、ポリN-ビニルアセトアミドを含有し、その含有量が3質量%以下である(1)に記載のセパレータ。
(3)前記無機粒子の平均粒子径が、0.6μm以上である(1)または(2)に記載のセパレータ。
(4)前記無機粒子層中の前記無機粒子の含有量が90質量%以上である(1)~(3)のいずれかに記載のセパレータ。
【発明の効果】
【0018】
本発明のセパレータは、ポリオレフィン微多孔フィルムと、その一方の面に形成された無機粒子を含有する無機粒子層とを有するセパレータであって、軸方向に延びる略円錐台形を、直径2mmの上面の縁部を頂点として前記軸方向に対して45°の角度で切断した切断面が先端に形成されている端子を、前記ポリオレフィン微多孔フィルム表面の面方向に対して前記軸方向を垂直方向にして前記先端から、420℃の温度および2mm/秒の速度で押し当て、前記先端が接してから1秒後に形成されたセパレータの開孔面積が0.04mm2以下であるので、急激な温度上昇に対する耐熱性に優れる。
【0019】
しかも、本発明のセパレータは、ポリオレフィン微多孔フィルムと、その一方の面に形成された無機粒子を含有する無機粒子層とを有するセパレータであって、ポリオレフィン微多孔フィルムの厚みが13μm以下であり、無機粒子層の厚みをx(μm)とし、前記ポリオレフィン微多孔フィルムの厚みをy(μm)としたときに、x/y≧0.3であり、セパレータの透気度をs(sec/100ml)とし、ポリオレフィン微多孔フィルムの透気度をt(sec/100ml)としたときに、s-t≦25であるので、厚みが薄いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態のセパレータの一例を説明するための断面模式図である。
【
図2】本実施形態のセパレータに押し当てられる端子と、セパレータとの配置を説明するための斜視図である。
【
図3】
図2に示す端子4の先端形状を説明するための斜視図である。
【
図4】端子の形状の他の一例を説明するための側面模式図である。
【
図5】端子の先端が試験片に接してから1秒後に撮影したセパレータLの試験片の画像である。
【
図6】端子の先端が試験片に接してから1秒後に撮影したセパレータKの試験片の画像である。
【
図7】端子の先端が試験片に接してから1秒後に撮影したセパレータDの試験片の画像である。
【
図8】セパレータJおよびPにおいて、端子の先端が試験片に接してからの時間(試験開始からの時間)と、試験片の開孔面積との関係を示したグラフである。
【
図9】セパレータA~Oにおいて、端子の先端が試験片に接してから1秒後の開孔面積と、PNVAの含有量(含有割合)との関係を示したグラフである。
【
図10】セパレータA~Oにおいて、透気度の差(s-t)と、PNVAの含有量(含有割合)との関係を示したグラフである。
【
図11】セパレータH、M、P~Uにおいて、端子の先端が試験片に接してから1秒後の開孔面積と、無機粒子の平均粒子径との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のセパレータを、例を挙げて詳細に説明する。
「セパレータ」
図1は、本実施形態のセパレータの一例を説明するための断面模式図である。
図1に示すセパレータ2は、ポリオレフィン微多孔フィルム20と、ポリオレフィン微多孔フィルム20の一方の面(
図1においては上面)に形成された無機粒子層3とを有している。
【0022】
セパレータ2の厚み(総厚み)は、電気化学素子のセパレータとして要求される機能(正極と負極とを隔離する機能)を確保するために、6μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。また、セパレータ2の厚みは、セパレータ2を電気化学素子のセパレータとして使用した場合に、電気化学素子のエネルギー密度の低下を抑える観点から、18μm以下であることが好ましく、16μm以下であることがより好ましい。
【0023】
本実施形態のセパレータ2は、無機粒子層3の厚みをx(μm)とし、ポリオレフィン微多孔フィルム20の厚みをy(μm)としたときに、x/y≧0.3であり、好ましくはx/y≧0.4である。上記のx/yが0.3以上であると、ポリオレフィン微多孔フィルム20の厚みに対する無機粒子層3の厚みの割合が十分に大きいため、ポリオレフィン微多孔フィルム20の収縮応力によるセパレータ2の収縮を抑制することが可能となり、十分な耐熱性を有するセパレータ2となる。
【0024】
また、上記のx/yは、0.5以下であることが好ましく、0.45以下であることがより好ましい。上記のx/yが0.5以下であると、無機粒子層3の厚みによってセパレータ2の厚みが厚くなりすぎることを抑制できる。
なお、セパレータ2に無機粒子層3が複数層形成されている場合、無機粒子層3の厚みxは無機粒子層3の総厚み(合計の厚み)である。
【0025】
セパレータ2の透気度sは、30sec/100ml以上であることが好ましく、100sec/100ml以上であることがより好ましい。また、セパレータ2の透気度sは、300sec/100ml以下であることが好ましく、250sec/100ml以下であることがより好ましい。セパレータ2の透気度sが30sec/100ml以上であると、これを用いた電気化学素子において、リチウムデンドライトが形成されることなどによる内部短絡の発生を抑制しやすくなる。セパレータ2の透気度sが300sec/100ml以下であると、これを用いた電気化学素子の内部抵抗が低いものとなり、好ましい。
【0026】
本実施形態のセパレータ2は、セパレータ2の透気度をs(sec/100ml)とし、ポリオレフィン微多孔フィルム20の透気度をt(sec/100ml)としたときのs-tが、25sec/100ml以下であり、22sec/100ml以下であることが好ましい。上記のs-tが25sec/100ml以下であると、無機粒子層3を設けることによる電気化学素子の放電特性の低下を十分に抑制できる。
【0027】
本実施形態のセパレータ2は、以下に示す条件で所定の端子を押し当てて形成される開孔面積が、0.04mm
2以下のものである。
図2は、本実施形態のセパレータ2に押し当てられる端子4と、セパレータ2との配置を説明するための斜視図である。
図3は、
図2に示す端子4の先端形状を説明するための斜視図である。
【0028】
図3に示すように、本実施形態のセパレータ2に押し当てられる端子4は、軸方向に延びる略円錐台形100を切断した形状の先端を有する。本明細書において、略円錐台形100とは、軸方向に直交にする方向(底面102と並行な方向)の断面形状が円形であって、底面102側から上面101側に向かって徐々に直径が小さくなる形であることを意味する。略円錐台形100は、例えば、
図3に示すように、上面101の端部上の任意の点と、底面102の端部とを最短で結ぶ線が直線である、いわゆる「円錐台」の形状とすることができる。
図3に示す略円錐台形100は、上面101の直径が2mmであり、底面102の直径が例えば2.5~7mmであり、高さhが例えば10~20mmであるものである。
【0029】
図3に示す端子4には、略円錐台形100を、上面101の縁部を頂点として軸方向に対して(底面102に対して)45°の角度θで切断した切断面が先端に形成されている。言い換えると、
図3に示す端子4は、端子4の形状の元になっている略円錐台形100の上面101を、その端部から略円錐台形100の高さh方向に対して45°の角度θで切断した形状の先端を有する。
図3において符号41は、略円錐台形100を切断してなる切断面であり、端子4の先端に形成されている端面41である。
図3に示すように、端面41と、略円錐台形100の高さ方向とのなす角度θは(略円錐台形100の軸方向とのなす角度)は45°である。
【0030】
図2に示す端子4の形状は、
図3に示す形状にのみに限定されない。
図4は、端子の形状の他の一例を説明するための側面模式図である。
図4に示す端子44の先端には、
図3に示す端子4と同様に、略円錐台形110を切断した切断面が形成されている。しかし、
図4に示す端子44と
図3に示す端子4とでは、略円錐台形の形状が異なっている。
図4に示す略円錐台形110は、
図3に示す略円錐台形100と異なり、上面101の端部の任意の点と、底面102の端部とを最短で結ぶ線が、内側に向かって湾曲する曲線Lである形状を有する。
【0031】
図2に示すように、端子4は、セパレータ2のポリオレフィン微多孔フィルム20側の面(無機粒子層3と反対側の面)と対向して配置される。本実施形態のセパレータ2では、ポリオレフィン微多孔フィルム20側から端子4を押し当てた場合と、無機粒子層3側から端子4を押し当てた場合とでは、同じ条件で端子4を押し当ててもセパレータ2に形成される開孔面積が異なる場合がある。具体的には、ポリオレフィン微多孔フィルム20側から端子4を押し当てた場合、無機粒子層3側から端子4を押し当てた場合よりも、開孔面積が大きくなる傾向がある。このことから、ポリオレフィン微多孔フィルム20側から端子4を押し当てた場合の開孔面積を耐熱性の指標として用いることによって、正確にセパレータ2の耐熱性を判断できる。
【0032】
図2に示すように、端子4は、セパレータ2のポリオレフィン微多孔フィルム20表面の面方向に対して、端子4の先端42の軸方向を垂直方向にして先端42から押し当てられる。また、端子4は、420℃の温度および2mm/秒の速度で、ポリオレフィン微多孔フィルム20に押し当てる。
【0033】
本実施形態のセパレータ2は、
図2に示す端子4を420℃の温度および2mm/秒の速度でポリオレフィン微多孔フィルム20側から押し当て、端子4の先端42がセパレータ2に接してから1秒後に形成されたセパレータ2の開孔面積が0.04mm
2以下のものである。上記開口面積は、0.03mm
2以下であることが好ましい。上記開孔面積が0.04mm
2以下であるセパレータ2は、急激な温度上昇に対する耐熱性に優れる。
【0034】
(ポリオレフィン微多孔フィルム)
本実施形態のセパレータ2を形成しているポリオレフィン微多孔フィルム20は、ポリオレフィンからなるものであり、ポリプロピレンとポリエチレンのうちの少なくとも一方を含むことが好ましい。
ポリオレフィン微多孔フィルム20は、単層のポリエチレン微多孔フィルムであってもよいし、単層のポリプロピレン微多孔フィルムであってもよいし、ポリプロピレン層とポリエチレン層とを含む多層構造であってもよい。
【0035】
ポリオレフィン微多孔フィルム20は、セパレータ2を用いた電気化学素子にシャットダウン特性を付与する点から、ポリエチレンを含むことが好ましい。ポリオレフィン微多孔フィルム20がポリエチレンを含む場合、ポリエチレンの融点(およそ135℃)付近の温度でシャットダウン特性が得られる。
一方、ポリオレフィン微多孔フィルム20がポリプロピレンを含む場合、ポリプロピレンの融点(およそ170℃)が、電気化学素子の通常使用温度範囲(およそ120℃以下)よりも充分に高いことから、熱収縮しにくいセパレータ2が得られる。
【0036】
多層構造のポリオレフィン微多孔フィルム20は、
図1に示すように、ポリエチレン層21を中間層とし、ポリプロピレン層22、22を外層とした三層構造であることが好ましい。ポリエチレン層21およびポリプロピレン層22、22の厚みは、積層微多孔フィルム20の厚みに応じて適宜決定できる。
図1に示す三層構造の積層微多孔フィルム20に含まれる2つのポリプロピレン層22、22は、同じ厚みであってもよいし、異なる厚みであってもよい。
【0037】
ポリオレフィン微多孔フィルム20が
図1に示す三層構造の積層微多孔フィルムである場合、耐熱性および機械的強度に優れるセパレータ2となる。さらに、
図1に示す三層構造のポリオレフィン微多孔膜20は、シャットダウン温度における熱収縮が比較的小さい。このため、
図1に示す三層構造のポリオレフィン微多孔膜20を含むセパレータ2を用いた電気化学素子は、安全性および信頼性のより高いものとなる。
【0038】
ポリオレフィン微多孔フィルム20は、厚みが13μm以下であり、12μm以下であることが好ましい。ポリオレフィン微多孔フィルム20の厚みが薄いほど、無機粒子層3の厚みを薄くしても熱収縮が少ないセパレータ2となるとともに、電気化学素子のさらなる高容量化に対応でき、好ましい。ポリオレフィン微多孔フィルム20の厚みは、これを用いた電気化学素子における短絡をより確実に防止でき、より良好なシャットダウン特性が得られるセパレータ2とするために、5μm以上とすることが好ましく、10μm以上とすることがより好ましい。
【0039】
ポリオレフィン微多孔フィルム20の透気度tは、30sec/100ml以上であることが好ましく、100sec/100ml以上であることがより好ましい。ポリオレフィン微多孔フィルム20の透気度tが30sec/100ml以上であると、セパレータ2のシャットダウン特性がより良好なものとなる。ポリオレフィン微多孔フィルム20の透気度tは、300sec/100ml以下であることが好ましい。ポリオレフィン微多孔フィルム20の透気度tが300sec/100ml以下であると、これを用いたセパレータ2を有する電気化学素子の内部抵抗が低いものとなる。
【0040】
(無機粒子層)
本実施形態のセパレータ2を形成している無機粒子層3は、無機粒子を含有するものであり、セパレータ2の耐熱性を高める。無機粒子層3は、
図1に示すように、1層の無機粒子層で形成されていてもよいし、種類の異なる複数の無機粒子層が積層された積層体であってもよい。
【0041】
無機粒子層3に含まれる無機粒子としては、例えば、酸化鉄、シリカ、アルミナ、TiO2、BaTiO3、MgOなどの酸化物粒子;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物粒子;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結合性粒子;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性粒子;モンモリロナイトなどの粘土粒子;などが挙げられる。また、無機粒子は、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、マイカなどの鉱物資源由来物質またはこれらの人造物であってもよい。無機粒子は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。無機粒子層3に含まれる無機粒子としては、上記の中でも特に、アルミナ、シリカ、ベーマイトから選ばれるいずれか1種または2種以上であることが好ましい。
【0042】
無機粒子層に含まれる無機粒子の平均粒子径は、0.6μm以上であることが好ましく、0.7μm以上であることがより好ましい。無機粒子の平均粒子径が0.6μm以上であると、セパレータの急激な温度上昇に対する耐熱性をより一層向上させることができる。また、無機粒子の平均粒径は、厚みの薄い無機粒子層3とするために、3μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。
【0043】
無機粒子の平均粒径は、例えば、レーザー散乱粒度分布計(例えば、HORIBA社製「LA-920」)を用い、無機粒子を溶解しない媒体に分散させて測定した数平均粒子径として規定できる。
【0044】
無機粒子の形態としては、例えば、球状に近い形状を有していてもよく、板状の形状を有していてもよい。短絡防止の点から無機粒子の形態は、板状の粒子、または一次粒子が凝集した二次粒子であることが好ましい。板状の粒子の代表的なものとしては、板状のアルミナ、板状のベーマイトなどが挙げられる。二次粒子の代表的なものとしては、二次粒子状のアルミナ、二次粒子状のベーマイトなどが挙げられる。
【0045】
板状粒子のアスペクト比(板状粒子中の最大長さと板状粒子の厚みの比)は、2以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることが特に好ましい。また、板状粒子のアスペクト比は、100以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましい。
板状粒子のアスペクト比は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した画像を画像解析することにより求めることができる。
【0046】
無機粒子層3中の無機粒子の割合は、90質量%以上であることが好ましく、92質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。無機粒子層3中の無機粒子の割合が90質量%以上であると、ポリオレフィン微多孔フィルム20の表面に無機粒子層3が形成されていることによるセパレータ2の耐熱性向上効果および熱収縮抑制効果が顕著となる。
【0047】
「バインダ」
無機粒子層3は、無機粒子の他にバインダを含有していてもよい。無機粒子層3中のバインダは、無機粒子層3に含まれる無機粒子同士の接着、無機粒子と他の成分との接着、無機粒子層3とポリオレフィン微多孔フィルム20との接着に寄与する。
無機粒子層3に含まれるバインダとしては、従来公知のものを用いることができ、電気化学素子の内部での電気化学的な安定性が良好で、電気化学素子の電解液に対する安定性が良好なものを用いることが好ましい。
【0048】
無機粒子層3に含まれるバインダとしては、具体的には、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル由来の構造単位が20~35モル%のもの)、エチレン-エチルアクリレート共重合体などのエチレン-アクリル酸共重合体、フッ素樹脂[ポリフッ化ビニリデン(PVDF)など]、フッ素系ゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリN-ビニルアセトアミド、アクリル樹脂、ポリウレタン、ナイロン、ポリエステル、ポリビニルアセタール、エポキシ樹脂などの有機バインダが好ましく用いられる。バインダは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用しても構わない。
【0049】
バインダとしては、(メタ)アクリル酸エステル類をモノマーの主成分とし、これを重合した構造を有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体が好ましく用いられる。本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の少なくとも一方を意味している。
【0050】
バインダとしては、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の中でも、ガラス転移温度(Tg)が-20℃以下のものが好ましく、より好ましくは-25℃以下である。上記Tgが-20℃以下の(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、側鎖エステル基の末端が、炭素数2以上10以下のアルキル基であるものが好ましく、より具体的には、側鎖エステル基の末端の主体が、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、n-ヘキシル基である上記共重合体がより好ましい。側鎖エステル基の末端アルキル基の炭素数が少なすぎると、バインダのTgがより高くなって柔軟性が低下してしまう。また、側鎖エステル基の末端アルキル基の炭素数が多すぎると、側鎖同士が結晶化して、バインダの柔軟性が却って低下してしまう。
【0051】
無機粒子層3中のバインダの含有量は、バインダの使用による作用をより有効に発揮させる観点から、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることが特に好ましい。また、無機粒子層3中のバインダの含有量が多すぎると、無機粒子層3の空孔がバインダによって埋められてイオンの透過性が低下し、電気化学素子の特性に悪影響が出る虞がある。このことから、無機粒子層3中のバインダの含有量は、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。
【0052】
「増粘剤」
無機粒子層3は、無機粒子の他に増粘剤を含有していてもよい。増粘剤は、無機粒子層3を形成する際に用いられる無機粒子を含む塗液の増粘性を向上させる。
増粘剤としては、塗液に使用する媒体(分散媒)に対して良好に溶解または分散し得るものが好ましく用いられる。また、増粘剤としては、少量の含有量で高い増粘作用を有するものを用いることが好ましい。
【0053】
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体;キサンタンガム、ウェランガム、ジェランガム、グアーガム、カラギーナンなどの天然多糖類;デキストリン、アルファー化でんぷんなどのでんぷん類;ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリN-ビニルアセトアミド、ビニルメチルエーテル-無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。これらの増粘剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0054】
上記の増粘剤の中でも、特に、セルロース誘導体、天然多糖類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、およびポリN-ビニルアセトアミドから選ばれる1種または2種以上が好ましく用いられ、特に、ポリN-ビニルアセトアミドが好ましく用いられる。これらの増粘剤は、水に対する溶解性が高く、少量で高い増粘効果が得られるため、好ましい。
上記の増粘剤のうち、バインダとしての機能も有する化合物については、増粘剤を兼ねるバインダとして用いることができる。
【0055】
塗液中の増粘剤の含有量は、無機粒子層3を形成する際に用いる無機粒子を含む塗液に設定しようとする粘度に応じて決定する。例えば、無機粒子層3中の増粘剤の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。また、塗液中に増粘剤を含有させることにより、充分な増粘効果を発揮させるためには、無機粒子層3中の増粘剤の含有量が、0.5質量%以上となるようにすることが好ましく、より好ましくは1質量%以上となるようにする。
【0056】
セパレータを形成している無機粒子層3は、無機粒子の他に、増粘剤を兼ねるバインダであるポリN-ビニルアセトアミドを含有することが好ましい。
無機粒子層3中にポリN-ビニルアセトアミドが含まれていると、ポリオレフィン微多孔フィルム20の収縮応力によるセパレータ2の収縮が抑制されやすくなるとともに、セパレータ2の急激な温度上昇に対する耐熱性がより一層向上する。無機粒子層3がポリN-ビニルアセトアミドを含有することによる効果を十分に発揮させるためには、無機粒子層3中のポリN-ビニルアセトアミドの含有量は1.5質量%以上であることが好ましく、1.8質量%以上であることがより好ましい。
【0057】
無機粒子層3が、ポリN-ビニルアセトアミドを含有する場合、その含有量は3質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以下であることがより好ましい。無機粒子層3中のポリN-ビニルアセトアミドの含有量が3質量%以下であると、無機粒子層3の透気度が大きくなりすぎて、セパレータ2の透気度sと、ポリオレフィン微多孔フィルム20の透気度tとの差が25sec/100mlを超えることを防止できる。また、無機粒子層3中のポリN-ビニルアセトアミドの含有量が3質量%以下であると、ポリN-ビニルアセトアミドを含むセパレータ2を用いることによる電気化学素子の放電特性の低下が抑制される。
【0058】
無機粒子層3の厚み(セパレータ2に無機粒子層3が複数積層されている場合には、複数の無機粒子層の合計厚み)は、2μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。無機粒子層3の厚みが厚いほど、セパレータ2全体の熱収縮を抑制する効果が顕著になるとともに、セパレータ2の耐熱性が向上する。また、上記の無機粒子層3の厚みは、5μm以下であることが好ましく、4.5μm以下であることがより好ましい。無機粒子層3の厚みが薄いほど、セパレータ2全体の厚みを増大させることがなく好ましい。
【0059】
「セパレータの製造方法」
次に、本実施形態のセパレータの製造方法の一例として、
図1に示すセパレータ2の製造方法を例に挙げて説明する。
セパレータ2を製造するには、ポリオレフィン微多孔フィルム20の一方の面(
図1においては上面)に、無機粒子層3を形成する。ポリオレフィン微多孔フィルム20としては、例えば、ポリエチレン層21を中間層とし、ポリプロピレン層22、22を外層とした
図1に示す三層構造を有し、従来公知の製造方法により製造したものを用いることができる。
【0060】
無機粒子層3は、ポリオレフィン微多孔フィルム20上に、無機粒子を含有する塗液を塗布し、乾燥させることに形成する。このことにより、セパレータ2が形成される。
ポリオレフィン微多孔フィルム20上に塗布する無機粒子を含有する塗液としては、例えば、無機粒子を水系あるいは有機溶媒系の媒体(分散媒)に分散または溶解させたものを用いることができる。
無機粒子層3を形成する際に用いる無機粒子を含有する塗液は、公知の方法を用いて、無機粒子と、必要に応じて含有される上記のバインダ、上記の増粘剤、下記の界面活性剤などとを、分散媒に分散または溶解させることにより得られる。
【0061】
(分散媒)
分散媒としては、水、有機溶媒(トルエンなどの芳香族炭化水素;テトラヒドロフランなどのフラン類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;など)、水と有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。分散媒は、水を70質量%以上含有していることが好ましく、90質量%以上含有していることがより好ましく、実質的に水のみであることが特に好ましい。
【0062】
(界面活性剤)
界面活性剤は、塗液の表面張力を調整するために用いられる。界面活性剤としては、炭化水素系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤などが挙げられる。界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0063】
炭化水素系界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、コール酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤;テトラアルキルアンモニウム塩などのカチオン性界面活性剤;分子内にアニオン性部位とカチオン性部位の両者を有する両性界面活性剤;アルキルグルコシドなどのノニオン性界面活性剤;などが挙げられる。
【0064】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、疎水基に直鎖アルキル基、パーフルオロアルケニル基などを配したもの(パーフルオロオクタンスルフォン酸、パーフルオロカルボン酸など)などが挙げられる。
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリメチルアルキルシロキサンなどが挙げられる。
【0065】
塗液中の界面活性剤の含有量は、塗液の表面張力がポリオレフィン微多孔フィルム20の表面張力(濡れ指数)と同程度か、それよりも小さくなる含有量であることが好ましい。具体的には、界面活性剤の含有量は、媒体100質量部に対して、0.05質量部以上とすることが好ましく、0.07質量部以上とすることがより好ましく、0.1質量部以上とすることが特に好ましい。
【0066】
塗液中の界面活性剤の含有量が多すぎると、セパレータ2におけるポリオレフィン微多孔フィルム20と無機粒子層3との密着性が低下する。ポリオレフィン微多孔フィルム20と無機粒子層3との密着性が低下すると、無機粒子層3によるセパレータ2の熱収縮を抑制する作用が不十分となる虞がある。よって、塗液中の界面活性剤の含有量は、媒体100質量部に対して、1.5質量部以下とすることが好ましく、1質量部以下とすることがより好ましく、0.5質量部以下とすることが更に好ましい。
【0067】
無機粒子層3を形成する際に用いる無機粒子を含有する塗液を、ポリオレフィン微多孔フィルム20上に塗布する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、グラビアコーター、ナイフコーター、リバースロールコーター、ダイコーターなどの塗工装置を用いる方法が挙げられる。
【0068】
塗布した塗液を乾燥させる乾燥条件は、ポリオレフィン微多孔フィルム20の樹脂を形成しているポリオレフィンの融点よりも低い温度であればよい。例えば、乾燥温度は、乾燥時のポリオレフィン微多孔フィルム20の収縮を防ぐために、150℃以下とすることが好ましく、145℃以下とすることがより好ましい。一方、乾燥温度は、乾燥効率を高め、乾燥時間を短くするために、60℃以上とすることが好ましく、80℃以上とすることがより好ましい。
【0069】
本実施形態のセパレータ2は、厚みが薄く、かつ急激な温度上昇に対する耐熱性に優れる。したがって、本実施形態のセパレータ2は、電気化学素子のセパレータとして好適に用いることができる。セパレータ2を適用可能な電気化学素子としては、特に制限はない。例えば、セパレータ2を適用可能な電気化学素子として、非水電解液を有する各種電気化学素子が挙げられる。具体的には、リチウムイオン電池(一次電池および二次電池)、ポリマーリチウム電池、電気二重層キャパシタなどが挙げられる。これらの中でも、特に、セパレータ2は、高温での安全性が要求される用途に適用される電気化学素子のセパレータとして好適である。
【0070】
ここで、セパレータ2における上記開孔面積が0.04mm
2以下である場合には、電気化学素子の急激な温度上昇に対する耐熱性に優れ、これを用いた電気化学素子の高温での安全性向上に寄与すると評価できる理由について説明する。
本発明者は、セパレータ2に
図2に示す端子4を押し当てる条件を変化させて、セパレータ2の開孔状態を観察した。その結果、セパレータ2の開孔は、以下に示す〔1〕~〔3〕の段階を経て形成され拡大することが分かった。
【0071】
〔1〕セパレータ2と端子4の先端42との接点を起点として、セパレータ2に放射状のひび割れが発生する段階
〔2〕ひび割れが成長するとともに、増加する段階
〔3〕ひび割れとひび割れの間の部分が欠落し、一気に開孔面積が増加する段階
【0072】
電気化学素子に備えられたセパレータ2の開孔状態が、上記の〔2〕の段階であるときは、瞬時に〔3〕の段階に変化する可能性がある。また、電気化学素子に備えられたセパレータ2が〔3〕の段階の開孔状態であるときは、短絡が生じるおそれがある。
【0073】
本発明者が検討した結果、上記開孔面積が0.04mm2であるセパレータ2に形成されている開孔は、上記〔1〕の段階から〔2〕の段階に移行している状態であることが分かった。したがって、電気化学素子に備えられたセパレータ2の上記開孔面積が0.04mm2以下であるときは、セパレータ2の開孔が短絡の原因となることはない。よって、上記開孔面積が0.04mm2以下であるセパレータ2は、電気化学素子が急激に温度上昇しても、短時間での形状変化が生じ難く、開孔が進行して短絡に至る前に、保護回路の作動やセパレータのシャットダウンなど電気化学素子の反応を停止させる機能が発現しやすい。このため、耐熱性に優れると評価できる。
【0074】
本実施形態のセパレータ2は、電気化学素子の温度情報を検知する保護回路を備えた電気化学素子のセパレータとして用いることが好ましい。このような電気化学素子では、電気化学素子の温度が急激に上昇した場合、温度上昇を検知して保護回路が作動するまでに、通常1秒間程度のタイムラグが存在する。したがって、電気化学素子の温度上昇開始から1秒後に、面積の大きい開孔が形成されてしまうセパレータを用いると、保護回路が備えられていても、保護回路が作動する前にセパレータの開孔による短絡が生じるおそれがある。
【0075】
これに対し、本実施形態のセパレータ2は、
図2に示す形状の先端42を有する端子4を、セパレータ2のポリオレフィン微多孔フィルム20表面の面方向に対して端子4の先端42の軸方向を垂直方向にして先端42から、420℃の温度および2mm/秒の速度で押し当て、先端42が接してから1秒後に形成されたセパレータ2の開孔面積が0.04mm
2以下である。このため、電気化学素子の温度上昇開始から保護回路が作動するまでの間(1秒間程度)に形成されるセパレータ2の開孔面積は十分に小さい。よって、セパレータ2の開孔による短絡が生じる前に、保護回路の作動によって電気化学素子の機能を安全に停止させることができる。したがって、上記保護回路を備えた電気化学素子のセパレータとして本実施形態のセパレータ2を用いた場合、高温下における安全性がより優れるものとなる。
また、保護回路がない電気化学素子のセパレータとして本実施形態のセパレータ2を用いた場合、セパレータ2の開孔による短絡が生じる前に、ポリオレフィン微多孔フィルムによるシャットダウンが生じて電気化学素子の機能を安全に停止させることができる。したがって、この場合にも、高温下における安全性の良好な優れる電気化学素子となる。
【0076】
「セパレータ評価方法」
次に、本実施形態のセパレータを評価する方法の一例として、
図1に示すセパレータ2を評価する場合を例に挙げて、詳細に説明する。
本実施形態のセパレータを評価する方法は、
図2に示す形状の先端42を有する端子4を、
図1に示すセパレータ2のポリオレフィン微多孔フィルム20表面の面方向に対して、端子4の先端42の軸方向を(端子4の形状の元になっている略円錐台形の高さ方向)を垂直方向にして先端42から、420℃の温度および2mm/秒の速度で押し当てる加熱工程と、セパレータ2に端子4の先端42が接してから1秒後に形成されたセパレータの開孔面積を測定する開孔面積測定工程とを有する。
【0077】
(加熱工程)
本実施形態の加熱工程では、
図2に示す形状の先端42を有する端子4を、
図1に示すセパレータ2のポリオレフィン微多孔フィルム20表面の面方向に対して、端子4の先端42の軸方向を垂直方向にして先端42から押し当てて、セパレータを加熱する。このため、後述する開孔面積の測定結果の再現性が良好であり、精度よく評価できる。
また、本実施形態の加熱工程では、
図2に示す形状の先端42を有する端子4を、セパレータ2のポリオレフィン微多孔フィルム20表面の面方向に対して、端子4の先端42の軸方向を垂直方向にして先端42から、420℃の温度および2mm/秒の速度で押し当てる。このため、端子4に接したセパレータ2を、電気化学素子が急激に温度上昇した状態に近づけることができる。したがって、急激な温度上昇に対する耐熱性を精度よく評価できる。
【0078】
セパレータ2に押し当てる端子4の温度が高すぎると、端子4からセパレータ2への伝熱量が多くなり過ぎる。また、セパレータ2に押し当てる端子4の温度が低すぎると、端子4からセパレータ2への伝熱量が少なくなり過ぎる。したがって、セパレータ2に押し当てる端子4の温度が420℃超であっても420℃未満であっても、セパレータ2の評価結果の精度が不十分となる。
また、端子4をセパレータ2に押し当てる速度が速すぎると、端子4がセパレータ2を押す力による開孔面積の増大の影響が大きくなり過ぎて、セパレータ2の評価結果の精度が不十分となる。端子4をセパレータ2に押し当てる速度が遅すぎると、セパレータ2と端子4との接触面積が確保されにくくなり、セパレータ2の評価結果の精度が不十分となる。
【0079】
(開孔面積測定工程)
開孔面積測定工程では、セパレータ2に端子4の先端42が接してから1秒後に形成されたセパレータ2の開孔面積を測定する。セパレータ2に端子4の先端42が接していた時間が短すぎると、セパレータの種類に関わらず測定した開孔面積に差が生じ難くなる。一方、セパレータ2に端子4の先端42が接していた時間が長すぎると、端子4からセパレータ2への伝熱量が多くなりすぎて、セパレータの種類に関わらず開孔面積が広くなり、セパレータの種類による相対差が生じ難くなる。このことから、開孔面積を測定するセパレータ2における端子4の先端42が接してからの経過時間は、1秒間が最適であり、1秒間超であっても1秒間未満であっても、急激な温度上昇に対する耐熱性の評価結果の精度が低下する。
【0080】
開孔面積の測定方法としては、例えば、以下に示す方法を用いることができる。
図2に示す端子4の先端42が試験片に接してから1秒間以上経過するまでの間、試験片の端子4が押し当てられる側と反対側の面を撮影し、映像を得る。次に、1秒間以上撮影した映像から1秒間後の静止画像を取り出して二値化処理を行い、開孔面積測定用の画像を得る。具体的には、例えば、256階調(0:黒、255:白)のモノクロの静止画像について、スレッショルドレベル4段階(25、50、75、100)でそれぞれ二値化し、目視で二値化処理前の静止画像と比較して、元の静止画像に最も近いものを開孔面積測定用の画像として用いる。その後、開孔面積測定用の画像について、黒い部分の画素数を算出して面積に換算し、開孔面積とする。
【0081】
前記開孔面積測定工程において求められた開孔面積が0.04mm2以下であるセパレータ2は、電気化学素子が温度上昇しても開孔が短時間では進行し難いため、電気化学素子の急激な温度上昇に対する耐熱性に優れている。また、開孔面積が0.04mm2以下であるセパレータ2は、例えば、電気化学素子の温度情報を検知する保護回路を備えた電気化学素子のセパレータとして用いた場合、短絡による熱暴走が生じる前に、保護回路が作動して電気化学素子の機能が停止する可能性が十分に高く、安全性に優れる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0083】
(セパレータA)
以下に示すポリオレフィン微多孔フィルムの片面に、ダイコーターを用いて以下に示す無機粒子を含有する塗液を塗布し、130℃で乾燥させて、表1に示す厚みの無機粒子層を形成し、セパレータAを得た。
【0084】
「ポリオレフィン微多孔フィルム」
厚み4μmのポリエチレンよりなる中間層と、中間層の両側にそれぞれ積層された厚み4μmのポリプロピレンよりなる外層とからなる総厚み12μmのポリオレフィン微多孔フィルムを用いた。
【0085】
「無機粒子を含有する塗液」
以下に示す無機粒子と、バインダと増粘剤を兼ねるバインダと、界面活性剤とを、以下に示す割合で、以下に示す分散媒に分散または溶解させることにより、無機粒子を含有する塗液を得た。
【0086】
(無機粒子)ベーマイト粉末(板状、平均粒径2.0μm、アスペクト比4.8)、無機粒子層3中の無機粒子の割合:95.75質量%
(バインダ)アクリル酸ブチル-アクリル酸共重合体(Tg:-30℃)、無機粒子層3中のバインダの割合:3質量%
(増粘剤を兼ねるバインダ)ポリN-ビニルアセトアミド(PNVA)、無機粒子層3中の増粘剤を兼ねるバインダの割合:1.25質量%
(界面活性剤)パーフルオロオクタンスルフォン酸、水100質量部に対して0.1質量部
(分散媒)水
【0087】
(セパレータB~O)
増粘剤を兼ねるバインダの含有量および無機粒子層の厚みを、表1に示すように変化させたこと以外は、セパレータAと同様にしてセパレータB~Oを得た。
【0088】
(セパレータP)
以下に示すポリオレフィン微多孔フィルムおよび無機粒子を用い、増粘剤を兼ねるバインダの含有量、無機粒子層の厚みを、表1に示すように変化させたこと以外は、セパレータAと同様にしてセパレータPを得た。
「ポリオレフィン微多孔フィルム」
厚み4μmのポリエチレンよりなる中間層と、中間層の両側にそれぞれ積層された厚み5μmのポリプロピレンよりなる外層とからなる総厚み14μmのポリオレフィン微多孔フィルムを用いた。
(無機粒子)ベーマイト粉末(板状、平均粒径0.8μm、アスペクト比1.0)
【0089】
(セパレータQ)
セパレータPと同じポリオレフィン微多孔フィルムを用い、増粘剤を兼ねるバインダの含有量、無機粒子層の厚みを、表1に示すように変化させたこと以外は、セパレータAと同様にしてセパレータQを得た。
【0090】
(セパレータR~U)
以下に示す無機粒子を用い、増粘剤を兼ねるバインダの含有量、無機粒子層の厚みを、表1に示すように変化させたこと以外は、セパレータAと同様にしてセパレータR~Uを得た。
「無機粒子」
(セパレータR)ベーマイト粉末(板状、平均粒径0.5μm、アスペクト比1.2)
(セパレータS)ベーマイト粉末(板状、平均粒径0.3μm、アスペクト比1.2)
(セパレータT)ベーマイト粉末(板状、平均粒径0.5μm、アスペクト比1.2)
(セパレータU)ベーマイト粉末(板状、平均粒径0.8μm、アスペクト比1.0)
【0091】
【0092】
表1に、セパレータA~Uの有する無機粒子層中の増粘剤を兼ねるバインダであるポリN-ビニルアセトアミド(PNVA)の含有量、無機粒子層中のバインダであるアクリル酸ブチル-アクリル酸共重合体(アクリル)の含有量を示す。なお、表1に示すPNVAおよびアクリルの数値は、それぞれ無機粒子との合計を100(質量%)としたときの割合である。
【0093】
また、以下に示す方法により、セパレータA~Uに使用した無機粒子の平均粒径、セパレータA~Uの有する無機粒子層の厚みx、ポリオレフィン微多孔フィルムの厚みyを測定した。その結果を表1に示す。
さらに、セパレータA~Uにおける無機粒子層の厚みをx(μm)、ポリオレフィン微多孔フィルムの厚みをy(μm)としたときの厚みの比であるx/yの値を算出した。その結果を表1に示す。
【0094】
「無機粒子の平均粒径」
レーザー散乱粒度分布計を用いて測定された数平均粒子径である。
「厚みの測定方法」
ポリオレフィン微多孔フィルムおよびセパレータの厚みを、それぞれ以下に示す方法により測定した。測定試料を10枚積層し、デジマチックシックネスゲージで25ヶ所の厚みを測定し、その平均値を10で除した値を用いた。
無機粒子層の厚みとしては、前記のようにして求めたセパレータの厚みからポリオレフィン微多孔フィルムの厚みを引いた値を用いた。
【0095】
また、以下に示す方法により、セパレータA~Uの透気度およびセパレータA~Uに用いたポリオレフィン微多孔フィルムの透気度を測定した。そして、得られた測定値を用いて、セパレータの透気度をs(sec/100ml)、ポリオレフィン微多孔フィルムの透気度をt(sec/100ml)としたときの透気度の差であるs-tの値を算出した。その結果を表1に示す。
【0096】
「セパレータの透気度およびポリオレフィン微多孔フィルムの透気度」
JIS P 8117に規定されたガーレー法により測定した。
その結果、セパレータA~Uのセパレータ全体の透気度sは、149~219(sec/100ml)の範囲内であった。また、セパレータA~Uに用いたポリオレフィン微多孔フィルムの透気度tは、145~198(sec/100ml)の範囲内であった。
【0097】
また、セパレータA~Uからそれぞれ、MD方向の長さが200mm、MD方向と直交する方向の長さが20mmの試験片を採取した。各試験片について、以下に示すセパレータの耐熱性試験を行った。
【0098】
「セパレータの耐熱性試験」
セパレータの耐熱性試験では、試験片のMD方向の一方の端部を固定し、もう一方の端部に10gの張力を印加した状態で、試験片の中央部を、ポリオレフィン微多孔フィルム側の面を上に向けて略水平に設置した。
【0099】
その後、温度制御はんだこて(商品名:FX-600型、白光株式会社製)と、軸方向に延びる略円錐台形を、直径2mmの上面の縁部を頂点として前記軸方向に対して45°の角度で切断した切断面が、先端に形成されている端子(交換こて先、商品名:T18-C2型、白光株式会社製)を用意した。次いで、前記温度制御はんだこてに前記端子を取り付けて昇温し、試験片の面方向に対して端子の先端の軸方向を垂直方向にして、先端から420℃の温度および2mm/秒の速度で、試験片に端子を3秒間押し当てた。
そして、端子の先端が試験片に接してから3秒後に形成された試験片の開孔面積を、以下に示す方法により調べた。
【0100】
(開孔面積の測定方法)
端子の先端が試験片に接してから3秒間経過するまでの間、試験片の中央部における無機粒子層側の面をカメラ(商品名:Dino-Lite Plus、AnMo Electronics社製)で撮影し、映像を得た。次に、3秒間撮影した映像から0.2秒間隔で静止画像を取り出し、以下に示すように、各静止画像について二値化処理を行い、開孔面積測定用の画像を得た。すなわち、256階調(0:黒、255:白)のモノクロの静止画像について、スレッショルドレベル4段階(25、50、75、100)でそれぞれ二値化し、目視で二値化処理前の静止画像と比較して、元の静止画像に最も近いものを開孔面積測定用の画像とした。このようにして得た開孔面積測定用の各画像について、黒い部分の画素数を算出して面積に換算し、開孔面積とした。
【0101】
急激な温度上昇に対するセパレータの耐熱性を評価するため、端子の先端が試験片に接してから1秒後に形成された試験片の開孔面積を表1に示す。
また、端子の先端が試験片に接してから1秒後に撮影したセパレータL、セパレータKおよびセパレータDの各試験片の画像を
図5~
図7に示す。
図5はセパレータLの試験片の画像であり、
図6はセパレータKの試験片の画像であり、
図7はセパレータDの試験片の画像である。
【0102】
表1に示すように、ポリオレフィン微多孔フィルムの厚みが13μm以下であり、x/yが0.3以上であり、s-tが25sec/100ml以下であるセパレータH、L、S~Uは、開孔面積が0.04mm2以下であり、急激な温度上昇に対する十分な耐熱性を有することが確認できた。
【0103】
また、
図5に示すように、開孔面積が0.04mm
2以下であるセパレータLでは、熱によるセパレータの変色が認められるものの、短絡の原因となるような大きな開孔は見られなかった。
この結果から、開孔面積が0.04mm
2以下であるセパレータは、急激な温度上昇に対する耐熱性に優れると評価できる。
【0104】
これに対し、
図6に示すように、開孔面積が0.06mm
2であり、開孔面積が0.04mm
2を超えたセパレータKでは、放射状に大きなひび割れが形成されているのが認められた。セパレータKの状態では、セパレータの機械的な強度が損なわれており、短絡が生じやすい。
また、
図7に示すように、開孔面積が1.75mm
2であるセパレータDでは、ひび割れとひび割れの間の部分が欠落して、大きな開孔が形成されているのが認められた。セパレータDの状態は、セパレータKの状態よりも、更に短絡が生じやすい。
【0105】
ここで、端子の先端が試験片に接してから3秒後に形成された試験片の開孔面積は、急激な温度上昇に対するセパレータの耐熱性を評価する条件として十分ではないことを説明する。
図8は、セパレータJおよびPにおいて、端子の先端が試験片に接してからの時間(試験開始からの時間)と、試験片の開孔面積との関係を示したグラフである。
【0106】
図8に示すように、セパレータJでは、端子の先端が試験片に接してから2秒後までの間における開孔面積の増大が緩やかであり、1秒後の開孔面積は0.04mm
2以下である。これに対し、セパレータPでは、端子の先端が試験片に接してから0.8秒後~1秒後までの間に開孔面積が急激に大きくなっており、1秒後の開孔面積は0.04mm
2を超えている。
【0107】
保護回路を備えた電気化学素子において、保護回路が電気化学素子の温度上昇を検知して作動するまでのタイムラグは、通常1秒間程度である。したがって、例えば、セパレータPを、保護回路を備えた電気化学素子のセパレータとして用いた場合、前述した様に、保護回路が作動する前に、セパレータの開孔による短絡が生じてしまい、電気化学素子の熱暴走が生じる可能性が高い。一方、セパレータJを、保護回路を備えた電気化学素子のセパレータとして用いた場合、セパレータの開孔面積が大きくなる前に、保護回路が作動するため、電気化学素子の熱暴走を防止できる。
【0108】
しかし、
図8に示すように、端子の先端が試験片に接してから略2.5秒後には、セパレータJとPの開孔面積が同じになっており、3秒後には、セパレータPの開孔面積がセパレータJの開孔面積よりも小さくなっている。したがって、端子の先端が試験片に接してから1秒後の開孔面積の大小関係と、3秒後の開孔面積の大小関係とは異なっている。
また、
図8に示すように、セパレータJとPでは、端子の先端が試験片に接してから0.8秒後までの間の開孔面積の変化には大きな違いがみられない。
【0109】
このように、セパレータから採取した試験片では、端子の先端が試験片に接してから3秒後までの開孔面積の変化の割合は一定ではない。また、端子の先端が試験片に接してから3秒後までの開孔面積の変化は、セパレータの種類によって異なる。このことにより、端子の先端が試験片に接してから1秒後の開孔面積の大小関係と、3秒後の開孔面積の大小関係とは、同じになるとは限らない。
したがって、端子の先端がセパレータに接してから1秒後に形成されたセパレータの開孔面積を指標とする本実施形態のセパレータ評価方法を用いることにより、より正確にセパレータの耐熱性を判断できる。
【0110】
図9は、セパレータA~Oにおいて、端子の先端が試験片に接してから1秒後の開孔面積と、PNVAの含有量(含有割合)との関係を示したグラフである。
図9に示すように、セパレータA~Oの結果から、無機粒子層の厚みに関わらず、PNVAの含有量(含有割合)を多くすると、端子の先端が試験片に接してから1秒後の開孔面積が小さくなる傾向があることが確認できた。
また、無機粒子層の厚みが大きいほど、端子の先端が試験片に接してから1秒後の開孔面積が小さくなる傾向があることが確認できた。
【0111】
図10は、セパレータA~Oにおいて、透気度の差(s-t)と、PNVAの含有量(含有割合)との関係を示したグラフである。
図10に示すように、セパレータA~Oの結果から、無機粒子層の厚みに関わらず、PNVAの含有量(含有割合)を多くすると、無機粒子層の透気度が大きくなって、透気度の差(s-t)が大きくなる傾向があることが確認できた。
また、PNVAの含有量(含有割合)が同じ場合には、無機粒子層の厚みが大きいほど、透気度の差(s-t)が大きくなる傾向があることが確認できた。
【0112】
図11は、セパレータH、M、P~Uにおいて、端子の先端が試験片に接してから1秒後の開孔面積と、無機粒子の平均粒子径との関係を示したグラフである。
図11に示すように、セパレータH、M、P~Uの結果から、x/yの値が0.3以下である場合、無機粒子の平均粒子径を小さくすると、端子の先端が試験片に接してから1秒後の開孔面積が小さくなることが確認できた。一方、x/yの値が0.3を超える場合、無機粒子の平均粒子径を0.6μm以上にすると、端子の先端が試験片に接してから1秒後の開孔面積を小さくできることが明らかになった。
【符号の説明】
【0113】
2・・・積層膜、3・・・無機粒子層、4・・・端子、20・・・ポリオレフィン微多孔フィルム、21・・・ポリエチレン層、22・・・ポリプロピレン層、41・・・端面、42・・・先端。