(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】アンテナ装置及びフェーズドアレイアンテナ装置
(51)【国際特許分類】
H01P 1/18 20060101AFI20221104BHJP
H01Q 3/36 20060101ALI20221104BHJP
H01Q 13/08 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
H01P1/18
H01Q3/36
H01Q13/08
(21)【出願番号】P 2019048618
(22)【出願日】2019-03-15
【審査請求日】2022-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大一
(72)【発明者】
【氏名】沖田 光隆
(72)【発明者】
【氏名】日向野 絵美
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-538565(JP,A)
【文献】国際公開第2018/045350(WO,A1)
【文献】DEO,Prafulla,et al.,"Liquid crystal Based Patch Antenna Array for 60 GHz Applications",2013 IEEE Radio and Wireless Symposium,2013年,pp.127-129
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/18
H01Q 3/36
H01Q 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストリップ導体層と、
前記ストリップ導体層から連続する放射導体層と、
前記ストリップ導体層及び前記放射導体層に対向する接地導体層と、
前記ストリップ導体層及び前記放射導体層と、前記接地導体層との間の液晶層と、
前記ストリップ導体層及び前記放射導体層と、前記液晶層との間の配向膜と、を有し、
前記配向膜は、前記ストリップ導体層と重なる第1領域と前記放射導体層と重なる第2領域とで、前記液晶層の液晶分子の配向状態を異ならせることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記液晶層は、誘電率異方性が正の液晶(ポジ型液晶)を含み、
前記ストリップ導体層にバイアス電圧が印加されない状態において、前記第1領域の前記液晶分子は水平に配向し、前記第2領域の前記液晶分子は垂直に配向する、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記液晶層は、誘電率異方性が負の液晶(ネガ型液晶)を含み、
前記ストリップ導体層にバイアス電圧が印加されない状態において、前記第1領域の前記液晶分子は垂直に配向し、前記第2領域の前記液晶分子は水平に配向する、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記液晶層は、誘電率異方性が正の液晶(ポジ型液晶)を含み、
前記配向膜は、前記第1領域に設けられた水平配向膜と、前記第2領域に設けられた垂直配向膜と、を含む、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記液晶層は、誘電率異方性が負の液晶(ネガ型液晶)を含み、
前記配向膜は、前記第1領域に設けられた垂直配向膜と、前記第2領域に設けられた水平配向膜と、を含む、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
ストリップ導体層と、
前記ストリップ導体層から連続する放射導体層と、
前記ストリップ導体層及び前記放射導体層に対向する接地電極層と、
前記ストリップ導体層及び前記放射導体層と前記接地電極層との間の液晶層と、
前記液晶層と接する配向膜と、を有し、
前記配向膜は、前記ストリップ導体層と接する領域で前記液晶層の液晶分子を配向させ、前記放射導体層を露出させることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項7】
前記液晶層は、誘電率異方性が正の液晶(ポジ型液晶)を含み、
前記配向膜は、前記液晶分子を水平に配向する水平配向膜である、請求項6に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記液晶層は、誘電率異方性が負の液晶(ネガ型液晶)を含み、
前記配向膜は、前記液晶分子を垂直に配向する垂直配向膜である、請求項6に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
ストリップ導体層と、
前記ストリップ導体層から連続する放射導体層と、
前記ストリップ導体層及び前記放射導体層に対向する接地導体層と、
前記ストリップ導体層及び前記放射導体層と、前記接地導体層との間の液晶層と、
前記ストリップ導体層及び前記放射導体層と、前記液晶層との間の配向膜と、を有し、
前記配向膜は、前記ストリップ導体層と重なる第1領域で前記液晶層の液晶分子を配向させ、前記放射導体層と重なる第2領域で前記液晶層の液晶分子の配向をランダムに配向させることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項10】
前記液晶層は、誘電率異方性が正の液晶(ポジ型液晶)を含み、
前記ストリップ導体層にバイアス電圧が印加されない状態において、前記第1領域の前記液晶分子は水平に配向し、前記第2領域の前記液晶分子は垂直に配向する、請求項9に記載のアンテナ装置。
【請求項11】
前記液晶層は、誘電率異方性が負の液晶(ネガ型液晶)を含み、
前記ストリップ導体層にバイアス電圧が印加されない状態において、前記第1領域の前記液晶分子は垂直に配向し、前記第2領域の前記液晶分子は水平に配向する、請求項9に記載のアンテナ装置。
【請求項12】
前記液晶層は、誘電率異方性が正の液晶(ポジ型液晶)を含み、
前記配向膜は、前記第1領域に設けられた水平配向膜を含む、請求項9に記載のアンテナ装置。
【請求項13】
前記液晶層は、誘電率異方性が負の液晶(ネガ型液晶)を含み、
前記配向膜は、前記第1領域に設けられた垂直配向膜を含む、請求項9に記載のアンテナ装置。
【請求項14】
前記液晶層は、ネマチック液晶、スメクチック液晶、コレステリック液晶、ディスコティック液晶、強誘電性液晶から選ばれた一種である、請求項1乃至13のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれか一項に記載のアンテナ装置を複数有し、前記放射導体層がマトリクス状に配置された、フェーズドアレイアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、移相器と平面アンテナ素子とを具備するアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フェーズドアレイアンテナ(Phased Array Antenna)装置は、複数のアンテナ素子の一部又は全部にそれぞれ高周波信号を印加するときに、それぞれの高周波信号の振幅と位相を制御することで、アンテナの向きを一方向に固定したままで、アンテナの放射指向性を制御できるという特性を有する。フェーズドアレイアンテナ装置は、アンテナ素子に印加する高周波信号の位相を制御するために移相器が用いられている。
【0003】
移相器の方式としては、伝送線路の長さを物理的に変化させて高周波信号の位相を変化させる方式、伝送線路の途中でインピーダンスを変化させ反射により高周波の位相をさせる方式、位相が異なる2つの信号を増幅する増幅器の利得を制御して合成することで合成することで所望の位相を有する信号を生成する方式など様々な方式が採用されている。また、これら以外にも、移相器の一例として、印加する電圧によって誘電率が変化するという液晶材料特有の性質を利用する方式が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
可変誘電体層として液晶材料を用いた移相器と平面アンテナ素子とを集積した場合、移相器における誘電体層の誘電率を変化させるとパッチアンテナ素子から出力される周波数が変化してしまうことが問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係るアンテナ装置は、ストリップ導体層と、ストリップ導体層から連続する放射導体層と、ストリップ導体層及び放射導体層に対向する接地導体層と、ストリップ導体層及び放射導体層と接地導体層との間の液晶層と、ストリップ導体層及び放射導体層と、液晶層との間の配向膜と、を有する。配向膜は、ストリップ導体層と重なる第1領域と放射導体層と重なる第2領域とで、液晶層の液晶分子の配向状態を異ならせるように設けられる。
【0007】
本発明の一実施形態に係るアンテナ装置は、ストリップ導体層と、ストリップ導体層から連続する放射導体層と、ストリップ導体層及び放射導体層に対向する接地電極層と、ストリップ導体層及び放射導体層と接地電極層との間の液晶層と、液晶層と接する配向膜と、を有する。配向膜は、ストリップ導体層と接し、放射導体層を露出させるように設けられる。
【0008】
本発明の一実施形態に係るアンテナ装置は、ストリップ導体層と、ストリップ導体層から連続する放射導体層と、ストリップ導体層及び放射導体層に対向する接地導体層と、ストリップ導体層及び放射導体層と、接地導体層との間の液晶層と、ストリップ導体層及び放射導体層と、液晶層との間の配向膜と、を有する。配向膜は、ストリップ導体層と重なる第1領域で液晶層の液晶分子を配向させ、放射導体層と重なる第2領域で液晶層の液晶分子の配向をランダムに配向させるように設けられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るアンテナ装置の構成を示し、(A)は平面図を示し、(B)はA3-A4線に対応する断面図を示す。
【
図2】本発明の一実施形態に係るアンテナ装置に用いられる移相器の動作を説明する図であり、(A)は誘電体層としての液晶層に電圧が印加されない状態を示し、(B)は誘電体層としての液晶層に電圧が印加された状態を示す。
【
図3】本発明の一実施形態に係るアンテナ装置における誘電体層としての液晶分子の配向状態を示し、(A)はバイアス電圧が印加されない状態を示し、(B)はバイアス電圧が印加された状態を示す。
【
図4】本発明の一実施形態に係るアンテナ装置における誘電体層としての液晶分子の配向状態を示し、(A)はバイアス電圧が印加されない状態を示し、(B)はバイアス電圧が印加された状態を示す。
【
図5】本発明の一実施形態に係るアンテナ装置の構成を示し、(A)は平面図を示し、(B)はA3-A4線に対応する断面図を示す。
【
図6】本発明の一実施形態に係るアンテナ装置における誘電体層としての液晶分子の配向状態を示し、(A)はバイアス電圧が印加されない状態を示し、(B)はバイアス電圧が印加された状態を示す。
【
図7】本発明の一実施形態に係るアンテナ装置における誘電体層としての液晶分子の配向状態を示し、(A)はバイアス電圧が印加されない状態を示し、(B)はバイアス電圧が印加された状態を示す。
【
図8】本発明の一実施形態に係るアンテナ装置の構成を示し、(A)は平面図を示し、(B)はA5-A6線に対応する断面図を示す。
【
図9】本発明の一実施形態に係るアンテナ装置における誘電体層としての液晶分子の配向状態を示し、(A)はバイアス電圧が印加されない状態を示し、(B)はバイアス電圧が印加された状態を示す。
【
図10】本発明の一実施形態に係るアンテナ装置における誘電体層としての液晶分子の配向状態を示し、(A)はバイアス電圧が印加されない状態を示し、(B)はバイアス電圧が印加された状態を示す。
【
図11】本発明の一実施形態に係るフェーズドアレイアンテナ装置の構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、図面等を参照しながら説明する。但し、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号(又は数字の後にa、bなどを付した符号)を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。さらに各要素に対する「第1」、「第2」と付記された文字は、各要素を区別するために用いられる便宜的な標識であり、特段の説明がない限りそれ以上の意味を有さない。
【0011】
本明細書において、ある部材又は領域が他の部材又は領域の「上に(又は下に)」あるとする場合、特段の限定がない限りこれは他の部材又は領域の直上(又は直下)にある場合のみでなく他の部材又は領域の上方(又は下方)にある場合を含み、すなわち、他の部材又は領域の上方(又は下方)において間に別の構成要素が含まれている場合も含む。なお、以下の説明では、特に断りのない限り、断面視において、ベース部材に対してタッチセンサが設けられる側を「上」又は「上方」といい、「上」又は「上方」から見た面を「上面」又は「上面側」というものとし、その逆を「下」、「下方」、「下面」又は「下面側」というものとする。
[第1実施形態]
【0012】
本実施形態は、可変誘電体層として液晶層を用いた移相器と、その液晶層を誘電体層として用いた平面アンテナ素子とを具備するアンテナ装置の構造について示す。
【0013】
1-1.アンテナ装置の構造
図1(A)は本実施形態に係るアンテナ装置100aの平面模式図を示し、
図1(B)はA1-A2線に沿った断面模式図を示す。アンテナ装置100aは、移相器102と平面アンテナ素子104aを含む。移相器102は入力された高周波信号の位相をシフトさせる機能を有し、平面アンテナ素子104aは高周波信号を電磁波として空中へ放射し又は吸収するアンテナとしての機能を有する。移相器102と平面アンテナ素子104aは、第1基板110及び第2基板112の面内に形成された導電膜と、第1基板110と第2基板112との間に挟持された液晶層とを含んで形成され、一体化された構造を有する。
【0014】
移相器102は、ストリップ導体層114、接地導体層118、可変誘電体層としての液晶層128、及び第1配向膜120を含む。ストリップ導体層114は第1基板110に設けられ、接地導体層118は第2基板112に設けられる。ストリップ導体層114と接地導体層118とは間隙をもって対向配置され、その間隙部に液晶層128が設けられる。第1配向膜120は、ストリップ導体層114と液晶層128との間、及び接地導体層118と液晶層128との間にそれぞれ設けられる。ストリップ導体層114は、高周波を伝搬するマイクロストリップ線路を形成するように、細長い導体パターンで形成される。
【0015】
平面アンテナ素子104aは、放射導体層116、接地導体層118、誘電体層としての液晶層128、及び第2配向膜124を含む。放射導体層116は第1基板110に設けられ、接地導体層118は第2基板112に設けられる。放射導体層116と接地導体層118は間隙をもって対向配置され、その間隙部に液晶層128が設けられる。第2配向膜124は、放射導体層116と液晶層128との間、及び接地導体層118と液晶層128との間にそれぞれ設けられる。放射導体層116は、放射又は吸収する電磁波の波長に応じた矩形の導体パターンにより形成される。
【0016】
図1(B)に示すように、接地導体層118と液晶層128は、移相器102と平面アンテナ素子104aとに共通する部材として設けられる。すなわち、接地導体層118は、第2基板112において移相器102の領域から平面アンテナ素子104aの領域にかけて連続して広がるように設けられれる。液晶層128は、間隙をもって対向配置された第1基板110と第2基板112との間の空間を充填するように設けられる。放射導体層116はストリップ導体層114から連続するように設けられる。ストリップ導体層114と放射導体層116とは、機能及び形状が異なるものの、第1基板110上に形成された同一の導電膜によって形成することができる。
【0017】
ストリップ導体層114、放射導体層116、及び接地導体層118を形成する導電膜として金属膜が用いられる。金属膜としては、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)等の金属材料又はこれらの金属材料を含む合金材料を用いることができる。ストリップ導体層114、放射導体層116、及び接地導体層118は、これらの金属材料で形成される金属膜をコアとして、上層側及び下層側を、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)等の高融点金属膜で被覆された構造を有していてもよい。
【0018】
液晶層128には各種の液晶材料が用いられる。多くの液晶材料は誘電率異方性を有する。液晶材料を誘電率異方性によって分類すると、棒状の液晶分子の誘電率が長軸方向に大きく長軸に垂直な短軸方向に小さいポジ型液晶(誘電率異方性が正の液晶)と、長軸方向に小さく短軸方向に大きいネガ型液晶(誘電率異方性が負の液晶)の双方の液晶を用いることができる。液晶層128は、ポジ型液晶及びネガ型液晶の双方を用いることができる。このような液晶材料として、例えば、ネマチック液晶、スメクチック液晶、コレステリック液晶、ディスコティック液晶を用いることができる。
【0019】
第1配向膜120と第2配向膜124とは異なる種類の配向膜が用いられる。例えば、液晶層128にポジ型液晶が用いられる場合、第1配向膜120として水平配向膜(液晶分子の長軸方向を基板の主面に対し平行に配向させる膜)が適用され、第2配向膜124として垂直配向膜(液晶分子の長軸方向を基板の主面に対し垂直に配向させる膜)が適用される。また、液晶層128にネガ型液晶が用いられる場合、第1配向膜120として垂直配向膜が適用され、第2配向膜として水平配向膜が適用される。
【0020】
このように、第1配向膜120と第2配向膜124とに対し、異なる種類の配向膜を適用することで、移相器102の領域と平面アンテナ素子104aの領域とで液晶分子の配向状態を異ならせることができる。換言すれば、移相器102において液晶層128を可変誘電体層として用い、平面アンテナ素子104aにおいて液晶層128を誘電体層(誘電率が変化しない)として用いることができる。これにより、アンテナ装置100aを動作させたとき、移相器102で液晶層128の液晶分子の配向を制御しつつ、平面アンテナ素子104aでは液晶層128の液晶分子の配向が変動しないようにすることができる。
【0021】
1-2.移相器の構造と動作
図1(A)及び
図1(B)に示すように、移相器102はストリップ導体層114と接地導体層118との間に、水平配向膜122を介して可変誘電体層としての液晶層128が設けられた構造を有する。なお、
図1(B)には示されないが、第1基板110と第2基板112との間には、間隔を一定に保つようにスペーサが設けられていてもよい。また、第1基板110と第2基板112とは、液晶層128を密封するようにシール材で貼り合わされていてもよい。
【0022】
接地導体層118は一定電位に保持される。例えば、接地導体層118は接地された状態に保持される。ストリップ導体層114の一端(入力端側)には高周波信号が印加される。高周波信号は、超短波(VHF:Very High Frequency)帯、極超短波(UHF:Ultra-High Frequency)帯、マイクロ波(SHF:Super High Frequency)帯、ミリ波(EHF:Extra High Frequency)帯の周波数を有する。液晶層128の液晶分子は誘電率異方性を有する。しかし、液晶分子はストリップ導体層114に入力される高周波信号の周波数にほとんど追従しないため、高周波信号が印加されることによって液晶層128の誘電率が変化しない。
【0023】
高周波信号に直流電圧が重畳されると、接地導体層118に対するストリップ導体層114の電位が変化し、それに伴い液晶分子の配向が変化する。液晶分子は極性分子であり誘電率異方性を有するので、配向状態によって誘電率が変化する。
図2(A)は、接地導体層118とストリップ導体層114との間に電圧が印加されない状態(「第1の状態」とする)を示す。液晶分子130は、水平配向膜122により第1基板110及び第2基板112の主面と平行な方向に配向しているものとする。液晶分子130は、ストリップ導体層114を伝搬する高周波信号が形成する電界に対し長軸方向が垂直に配向する状態となる。
図2(A)は、直流電圧がストリップ導体層114に印加されない第1の状態において、液晶層128が第1の誘電率(ε
⊥)を有することを示す。
【0024】
図2(B)は、ストリップ導体層114に電圧が印加された状態(「第2の状態」とする)を示す。第2の状態において、液晶分子130は電界の作用を受けて長軸方向が第1基板110及び第2基板112の主面と垂直な方向に配向する。ストリップ導体層114に高周波信号が印加されると、高周波信号により生成される電界に対し、液晶分子130の長軸方向が平行に配向する状態となる。
図2(B)は、第2の状態において、液晶層128が第2の誘電率(ε
//)を有することを示す。
【0025】
液晶層128の誘電率は、第1の誘電率(ε⊥)に対し第2の誘電率(ε//)の方が大きくなる(ε⊥<ε//)。移相器102は、ストリップ導体層114に印加するバイアス電圧(例えば、直流バイアス電圧)により液晶層128の配向を制御することで誘電率を変化させる機能を有する。移相器102は、液晶の誘電率異方性を利用して可変誘電体層を形成する。
【0026】
ところで、移相器102を伝搬する高周波信号の伝搬位相θは次式で示される。
θ=2πf(εr)1/2・Ls/c (1)
ここで、fは高周波信号の周波数、εrは誘電体(液晶)の誘電率、Lはストリップ導体層の長さ、cは光速である。
【0027】
式(1)から明らかなように、伝搬位相θは誘電率ε
rの1/2乗に比例する。従って、第1の状態における伝搬位相をθ1とし、第2の状態における伝搬位相をθ2とすると、θ2とθ1との差分が移相量となる。移相器102は、液晶分子130の配向を制御して誘電率ε
rを変化させることにより、ストリップ導体層114を流れる高周波信号の位相を制御する。
図2(A)及び
図2(B)は、液晶分子130が水平に配向した状態と垂直に配向した状態の2つの状態を示すが、液晶分子130はこの両者の中間の状態もとり得る。すなわち、移相器102に印加する直流電圧を連続的に変化させることにより、高周波信号の位相シフト量を連続的に変化させることができる。
【0028】
1-3.平面アンテナ素子の構造と動作
図1(A)及び
図1(B)に示すように、本実施形態に係る平面アンテナ素子104aは放射導体層116と接地導体層118との間に、水平配向膜122を介して液晶層128が設けられた構造を有する。放射導体層116はストリップ導体層114と電気的に接続され、高周波信号を空中に放射する。また、放射導体層116は、ストリップ導体層114にバイアス電圧が印加されると、同様にバイアス電圧が印加されることとなる。
【0029】
平面アンテナ素子の共振周波数frは次式で示される。
fr=c/2Le√(εr) (2)
ここで、cは光速、Laは等価的な放射素子長、εrは誘電体(液晶)の比誘電率である。
【0030】
式(2)から明らかなように、平面アンテナ素子104aは、液晶層128の誘電率εrが変化した場合、それに伴って共振周波数frが変化することとなる。すなわち、移相器102にバイアス電圧を印加することによって、平面アンテナ素子104aにおける液晶層128の液晶分子130も同様に配向状態が変化すると、共振周波数frが変化してしまうこととなる。
【0031】
このような好ましくない変化に対し、本実施形態に係るアンテナ装置100aは、種類の異なる2つの配向膜を用いることにより不具合を解消している。以下、アンテナ装置100aの動作を、第1配向膜及び第2配向膜の組み合わせに基づき説明する。
【0032】
1-4.配向膜について
本実施形態に係るアンテナ装置100aは、液晶の配向状態を制御する配向膜として、第1配向膜120及び第2配向膜124の2種類の配向膜が用いられる。以下においては、移相器102のバイアス状態と、移相器102及び平面アンテナ素子104aにおける液晶層128の配向状態との関係について説明する。
【0033】
1-4-1.異なる配向膜の組み合わせ
図3(A)は、移相器102にバイアス電圧が印加されない状態において、移相器102及び平面アンテナ素子104aにおける液晶層128の配向状態を模式的に示す。
図3(A)は、移相器102には水平配向膜122が設けられ、平面アンテナ素子104aには垂直配向膜126が設けられ、液晶層128は移相器102及び平面アンテナ素子104aに亘って広がっている状態を示す。なお、
図3(A)に示す液晶層128は、ポジ型液晶であるものとする。
【0034】
図3(A)に示すように、移相器102の領域における液晶層128は、水平配向膜122の作用により液晶分子130が水平に配向(液晶分子の長軸方向が基板の主面と略平行な方向に配向している状態をいうものとする。以下同じ。)している。他方、平面アンテナ素子104aの領域における液晶層128は、垂直配向膜126の作用により液晶分子130が垂直に配向(液晶分子の長軸方向が基板の主面と略垂直な方向に配向している状態をいうものとする。以下同じ。)している。
【0035】
図3(B)は、
図3(A)に対し、移相器102にバイアス電圧が印加された状態を示す。具体的には、ストリップ導体層114にバイアス電圧が印加された状態を示す。この場合、ストリップ導体層114と放射導体層116は同電位にバイアスされ、接地導体層118との間に直流電界が発生する。そして、この直流電界は液晶層128に作用する。
【0036】
移相器102の領域における液晶層128は、直流電界の作用により液晶分子130が垂直に配向する。前述のように、液晶分子130の配向が変化することにより、液晶層128の誘電率は変化するので(ε⊥からε//への変化)、移相器102はストリップ導体層114を伝搬する高周波信号の位相をシフトさせることが可能となる。一方、平面アンテナ素子104aの領域における液晶層128は、液晶分子130が既に垂直に配向しているため、直流電界が作用しても液晶分子130の配向は変化しない。このため、平面アンテナ素子104aの領域における液晶層128の誘電率は変化せず、平面アンテナ素子104aの共振周波数は変化しない状態が維持される。
【0037】
図3(A)及び
図3(B)に示すように、液晶層128としてポジ型液晶を用い、移相器102においては水平配向膜122を用い、平面アンテナ素子104aにおいては垂直配向膜126を用いることで、移相器102により高周波信号の位相を制御しつつ、平面アンテナ素子104aにおいては共振周波数が変化しないようにすることができる。
【0038】
図4(A)は、液晶層128にネガ型液晶が用いられた場合において、移相器102には垂直配向膜126が設けられ、平面アンテナ素子104aには水平配向膜122が設けられた態様を示す。
図4(A)に示すように、バイアス電圧が印加されない状態において、移相器102の領域における液晶層128は、垂直配向膜126の作用により液晶分子130が垂直に配向している。他方、平面アンテナ素子104aの領域における液晶層128は、水平配向膜122の作用により液晶分子130が水平に配向している。
【0039】
図4(B)は、
図4(A)に対し、移相器102にバイアス電圧が印加された状態を示す。バイアス電圧により、ストリップ導体層114と放射導体層116は同電位にバイアスされ、接地導体層118との間に直流電界が発生する。そして、この直流電界は液晶層128に作用する。
【0040】
移相器102の領域における液晶層128は、直流電界の作用により液晶分子130が水平に配向する。前述のように、液晶分子130の配向が変化することにより、液晶層128の誘電率は変化するので(ε//からε⊥への変化)、移相器102はストリップ導体層114を伝搬する高周波信号の位相をシフトさせることが可能となる。一方、平面アンテナ素子104aの領域における液晶層128は、液晶分子130が既に水平に配向しているため、直流電界が作用しても液晶分子130の配向は変化しない。そのため、平面アンテナ素子104aの領域における液晶層128の誘電率は変化せず、平面アンテナ素子104aにおける共振周波数は変化しない。
【0041】
図4(A)及び
図4(B)に示すように、液晶層128としてネガ型液晶を用い、移相器102においては垂直配向膜126を用い、平面アンテナ素子104aにおいては水平配向膜122を用いることで、移相器102により高周波信号の位相を制御しつつ、平面アンテナ素子104aにおいては共振周波数が変化しないようにすることができる。
【0042】
1-4-2.水平配向膜と垂直配向膜
図1(A)及び
図1(B)に示すアンテナ装置100aの構造において、第1配向膜120と第2配向膜124とを塗り分けることで、異なる特性の配向膜を設けることができる。例えば、第1配向膜120として水平配向膜を形成し、第2配向膜として垂直配向膜を形成することができる。また、第1配向膜120として垂直配向膜を形成し、第2配向膜として水平配向膜を形成することができる。このような配向膜は印刷法を用いることで、同一基板上で作り分けることができる。
【0043】
水平配向膜及び垂直配向膜は、ポリイミド系の液体組成物を塗布し、焼成することで形成することができる。配向膜の配向処理としては、ラビング、光配向処理により行うことができる。この場合、第1配向膜120と第2配向膜124とで異なる配向処理が必要となるので、一方の配向膜の配向処理をするとき、他方の配向膜はマスキングしておくことが好ましい。また、垂直配向膜においては、ポリイミド分子に疎水性基を導入することで配向処理を省略しても液晶分子を垂直配向させることができる。垂直配向膜に疎水性基を導入した場合、ラビングを省略することができるので、製造プロセスを簡略化することができる。
【0044】
1-5.まとめ
本実施形態によれば、移相器102と平面アンテナ素子104bを集積したアンテナ装置100aにおいて、配向特性の異なる複数種の配向膜を用いることで、移相器102で高周波信号の位相を制御し、平面アンテナ素子104aで共振周波数が変化しないようにすることができる。すなわち、本実施形態の構成によれば、移相器102と平面アンテナ素子104aを形成するための誘電体層として液晶層128を共通に用いることができ、アンテナ装置100aの周波数特性が変化しないようにすることができる。
[第2実施形態]
【0045】
本実施形態は、移相器と平面アンテナ素子とを具備するアンテナ装置において、第1実施形態とは異なる構成を示す。以下においては、第1実施形態と相違する部分を中心に説明する。
【0046】
2-1.アンテナ装置の構造
図5(A)は本実施形態に係るアンテナ装置100bの平面模式図を示し、
図5(B)はA3-A4線に沿った断面模式図を示す。第1実施形態との対比において、本実施形態に係るアンテナ装置100bは、平面アンテナ素子104bの構成が異なる。
【0047】
平面アンテナ素子104bは、放射導体層116と接地導体層118が対向配置され、その間に液晶層128が設けられる。すなわち、本実施形態に係る平面アンテナ素子104bは、配向膜が省略され、放射導体層116及び接地導体層118が液晶層128と直接的に接する構成を有する。一方、移相器102は第1実施形態と同様の構成を有する。なお、液晶層128は、移相器102の領域から平面アンテナ素子104bの領域に亘って連続的に広がっている。
【0048】
2-2.移相器と平面アンテナ素子における液晶分子の動き
図6(A)は、アンテナ装置100bにおける、移相器102と平面アンテナ素子104bの構成を示す。液晶層128としては、ポジ型液晶が用いられる。アンテナ装置100bは、移相器102の領域には水平配向膜122が設けられ、平面アンテナ素子104bには配向膜が設けられない構造を有する。
【0049】
図6(A)に示すように、バイアス電圧が印加されない状態において、移相器102の領域における液晶層128は、水平配向膜122の作用により液晶分子130が水平に配向している。他方、平面アンテナ素子104bの領域における液晶層128は、配向膜が無いことにより液晶分子がランダムに配向している。
【0050】
図6(B)は、
図6(A)に対し、移相器102にバイアス電圧が印加された状態を示す。この状態では、ストリップ導体層114と放射導体層116が同電位にバイアスされ、接地導体層118との間に直流電界が発生する。移相器102の領域における液晶層128は、直流電界の作用により液晶分子130が垂直に配向する。また、平面アンテナ素子104bにおいても、ランダムに配向していた液晶分子130が直流電界の作用により液晶分子130が垂直に配向する。
【0051】
移相器102の領域に存在する液晶分子130は、水平配向から垂直配向に配向状態が大きく変化するので、液晶層128の誘電率は大きく変化する。一方、平面アンテナ素子104bの領域に存在する液晶分子130はランダムな状態から垂直配向に変化するものの、液晶層128の誘電率の変化量は小さくなる。そのため、平面アンテナ素子104bにおける共振周波数の変化量も小さく抑えることができる。
【0052】
図7(A)は、液晶層128にネガ型液晶が用いられた場合において、移相器102には垂直配向膜126が設けられ、平面アンテナ素子104bには配向膜が設けられない状態を示す。
図7(A)に示すように、バイアス電圧が印加されない状態では、移相器102の領域における液晶分子130は垂直に配向している。他方、平面アンテナ素子104bの領域における液晶分子130の配向はランダムである。
【0053】
図7(B)は、
図7(A)に対し、移相器102にバイアス電圧が印加された状態を示す。バイアス電圧により、移相器102の領域における液晶分子130は水平に配向する。また、平面アンテナ素子104bにおける液晶分子130も直流電界の作用により水平に配向する。この場合、
図6(B)と同様に、移相器102の領域においては、液晶層128の誘電率が大きく変化するのに対し、平面アンテナ素子104bの領域における液晶層128の誘電率の変化量は小さくなる。そのため、平面アンテナ素子104bにおける共振周波数の変化量も小さく抑えることができる。
【0054】
本実施形態は、平面アンテナ素子104bの領域に配向膜が設けられない態様を示すが、この態様に代えて、水平配向膜122又は垂直配向膜126を移相器102及び平面アンテナ素子104bの領域の全面に設け、放射導体層116の略全面又は少なくとも一部を露出させる開口部を設けるようにしてもよい。
【0055】
2-3.まとめ
本実施形態によれば、移相器102と平面アンテナ素子104bを集積したアンテナ装置100bにおいて、配向特性の異なる複数種の配向膜を用いることで、移相器102で高周波信号の位相を制御し、平面アンテナ素子104bで共振周波数が大きく変化しないようにすることができる。すなわち、本実施形態の構成によれば、移相器102と平面アンテナ素子104bを形成するための誘電体層として液晶層128を共通に用いることができ、アンテナ装置100bの周波数特性を安定化することができる。
[第3実施形態]
【0056】
本実施形態は、移相器と平面アンテナ素子とを具備するアンテナ装置において、第1実施形態及び第2実施形態とは異なる構成を示す。以下においては、第1実施形態と相違する部分を中心に説明する。
【0057】
3-1.アンテナ装置の構造
図8(A)は本実施形態に係るアンテナ装置100cの平面模式図を示し、
図8(B)はA5-A6線に沿った断面模式図を示す。第1実施形態との対比において、本実施形態に係るアンテナ装置100cは、平面アンテナ素子cにおける配向膜の構成が異なる。
【0058】
平面アンテナ素子104cは、放射導体層116と接地導体層118が対向配置され、その間に液晶層128が設けられている。放射導体層116と液晶層128間、及び接地導電層と液晶層128との間には第2配向膜124が設けられている。
図8に示すアンテナ装置100cにおいて、移相器102の領域に設けられる第1配向膜120は、水平配向又は垂直配向のための配向処理がされている。一方、平面アンテナ素子104cの領域に設けられる第2配向膜124は、配向処理がされていない。このため、移相器102にバイアス電圧が印加されない状態においても、移相器102の領域と平面アンテナ素子104cの領域とで液晶分子の配向が異なっている。
【0059】
3-2.移相器と平面アンテナ素子における液晶分子の動き
図9(A)は、アンテナ装置100cにおける、移相器102と平面アンテナ素子104cの構成を示す。アンテナ装置100cは、移相器102の領域に第1配向膜120が設けられ、平面アンテナ素子104cの領域には第2配向膜124が設けられる。第1配向膜120は表面が水平配向処理された水平配向膜であり、第2配向膜124は特段配向処理がされていない膜である。第1配向膜120と第2配向膜124とは同じ材質で形成され、連続する一つの薄膜とみなすことができ、配向処理の有無によって区別される。液晶層128にはポジ型液晶が用いられる。
【0060】
図9(A)に示すように、バイアス電圧が印加されない状態において、移相器102の領域における液晶分子130は、第1配向膜120の作用により水平に配向している。他方、平面アンテナ素子104cの領域における液晶層128は、第2配向膜124が配向処理されていないことにより液晶分子130がランダムに配向している。
【0061】
図9(B)は、
図9(A)に対し、移相器102にバイアス電圧が印加された状態を示す。この状態では、ストリップ導体層114と放射導体層116が同電位にバイアスされ、接地導体層118との間に直流電界が発生する。移相器102の領域における液晶層128は、直流電界の作用により液晶分子130が垂直に配向する。また、平面アンテナ素子104cにおいても、ランダムに配向していた液晶分子130が直流電界の作用により垂直に配向する。移相器102の領域において、液晶層128の誘電率は大きく変化するのに対し、平面アンテナ素子104cの領域において、液晶層128の誘電率の変化量は小さくなる。そのため、移相器102において高周波信号の位相を制御することができ、平面アンテナ素子104cにおいては共振周波数の変化量を小さく抑えることができる。
【0062】
図10(A)は、液晶層128にネガ型液晶が用いられた場合において、移相器102の領域には第1配向膜120として垂直配向処理がされた第1配向膜120が設けられ、平面アンテナ素子104cの領域には配向処置がされていない第2配向膜124が設けられた形態を示す。液晶層128にはネガ型液晶が用いられる。
図10(A)に示すように、バイアス電圧が印加されない状態では、移相器102の領域における液晶分子130は第1配向膜120の作用により垂直に配向している。他方、平面アンテナ素子104cの領域における液晶分子130の配向はランダムである。
【0063】
図10(B)は、
図10(A)に対し、移相器102にバイアス電圧が印加された状態を示す。バイアス電圧により、移相器102の領域における液晶分子130は水平に配向する。また、平面アンテナ素子104cにおける液晶分子130も直流電界の作用により水平に配向する。この場合、
図9(B)と同様に、移相器102の領域においては、液晶層128の誘電率が大きく変化するのに対し、平面アンテナ素子104cの領域における液晶層128の誘電率の変化は僅かである。そのため、平面アンテナ素子104cにおける共振周波数の変動量を小さく抑えることができる。
【0064】
3-3.まとめ
本実施形態によれば、アンテナ装置100cにおいて、移相器102と平面アンテナ素子104cとに同じ配向膜を用いつつ、表面の配向処理の有無により液晶分子130の配向状態を異ならせることで、移相器102で高周波信号の位相を制御し、平面アンテナ素子104cで共振周波数が大きく変化しないようにすることができる。すなわち、本実施形態の構成によれば、移相器102と平面アンテナ素子104cを形成するための誘電体層として液晶層128を共通に用いることができ、アンテナ装置100cの周波数特性を安定化することができる。
[第4実施形態]
【0065】
本実施形態は、第1実施形態乃至第3実施形態で示されるアンテナ装置が用いられるフェーズドアレイアンテナ装置の構成の一例を示す。
【0066】
図11は、本実施形態に係るフェーズドアレイアンテナ装置200の構成を示す。フェーズドアレイアンテナ装置200は、アンテナ装置100、位相制御回路204、分配器206を含む。アンテナ装置100は移相器102と平面アンテナ素子104を含む。アンテナ装置100は複数個がマトリクス状に配列され、平面アンテナ素子アレイ202を形成する。分配器206は発信器210と接続され、高周波信号を個々のアンテナ装置100に分配する。移相器102の位相シフト量は、位相制御回路204により制御される。位相制御回路204は、複数個配置されたアンテナ装置100のそれぞれに対応して、位相を制御する位相制御信号を出力する。位相制御信号は、バイアス回路208を介して高周波信号と共に移相器102に印加される。
【0067】
複数のアンテナ装置100のそれぞれから放射される電磁波はコヒーレント性を有する。そのため、複数のアンテナ装置100のそれぞれから放射される電磁波によって、位相が揃った波面が形成される。平面アンテナ素子104から放射される電磁波の位相は移相器102によって調整される。移相器102は、位相制御回路204によって、電磁波として放射される高周波信号の位相が制御される。
【0068】
フェーズドアレイアンテナ装置200は、位相制御回路204によって複数のアンテナ装置100のそれぞれに供給される高周波信号の位相を、移相器102によって個別に調整する。それにより、複数のアンテナ装置100から放射される電磁波の波面の進行方向を任意の角度に制御することができる。フェーズドアレイアンテナ装置200は、複数のアンテナ装置100のそれぞれの位相を制御することで、放射する電磁波の指向性を制御する。
【0069】
なお、
図11は、フェーズドアレイアンテナ装置200が送信用である場合を示す。一方、フェーズドアレイアンテナ装置200が受信用である場合には、発信器210を高周波増幅器に置き換えることで、平面アンテナ素子アレイ202で受信した電磁波を増幅して復調回路等の後段の回路に信号を出力することが可能となる。
【0070】
平面アンテナ素子アレイ202を構成するアンテナ装置100は、第1実施形態乃至第3実施形態に示すものが適用される。アンテナ装置100は、移相器102と平面アンテナ素子104が集積化されているため、フェーズドアレイアンテナ装置200を小型化することができる。アンテナ装置100は、高周波信号の位相をシフトさせることが可能であると共に、平面アンテナ素子104の共振周波数の変動が小さく抑えられているため、フェーズドアレイアンテナ装置200は指向性の高い送信(又は受信)をすることができる。
【符号の説明】
【0071】
1000・・・アンテナ装置、102・・・移相器、104・・・平面アンテナ素子、110・・・第1基板、112・・・第2基板、114・・・ストリップ導体層、116・・・放射導体層、118・・・接地導体層、120・・・第1配向膜、122・・・水平配向膜、124・・・第2配向膜、126・・・垂直配向膜、128・・・液晶層、130・・・液晶分子、200・・・フェーズドアレイアンテナ装置、202・・・平面アンテナ素子アレイ、204・・・位相制御回路、206・・・分配器、208・・・バイアス回路、210・・・発信器